説明

ワイヤ挿入用ガイド部材及びワイヤ挿入方法

【課題】ワイヤをチューブに挿入する際の、チューブの位置ずれや変形を防止する。
【解決手段】ワイヤ30をチューブ20内に挿入するためのワイヤ挿入用ガイド部材において、一方の端部から内部に向けて設けられたチューブ把持部13と、他方の端部から内部に向けてチューブ把持部13と同軸状に設けられ、かつチューブ把持部13と連通するワイヤ導入部16、17と、チューブ把持部13に把持したチューブ20の外周側に負圧を発生させる負圧発生部14、15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤをチューブに挿入するための装置及び挿入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤをチューブに挿入する作業を機械的に行うための装置が、特許文献1に開示されている。この装置には、チューブ挿入用ガイド部とワイヤ挿入用ガイド部の挿入軸が同一直線上に設けられたガイド部材が備えられている。そして、チューブ挿入用ガイド部にチューブを把持した状態で、ワイヤ挿入用ガイド部からワイヤを挿入する。これにより、ワイヤ挿入用ガイド部を通過したワイヤがチューブに挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−148197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された装置では、チューブ挿入用ガイド部とチューブとの表面摩擦力によって、チューブをチューブ挿入用ガイド部に把持している。このため、軟材で形成したチューブにワイヤを挿入する際には、ワイヤとチューブとの間に作用する力が表面摩擦力を超えるとチューブの位置ずれや変形が生じ、その結果、ワイヤの挿入が困難になる場合がある。
【0005】
そこで、本発明では、ワイヤをチューブに挿入する際のチューブの位置ずれや変形を防止して、ワイヤの挿入を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のワイヤ挿入用ガイド部材は、チューブにワイヤを挿入する際に使用するものである。そして、一方の端部から内部に向けて設けられたチューブ把持部と、他方の端部から内部に向けてチューブ把持部と同軸状に設けられ、チューブ把持部と連通するワイヤ導入部と、チューブ把持部に把持したチューブの外周側に負圧を発生させる負圧発生部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、チューブの外周側に負圧を発生させるのでチューブがチューブ把持部に密着する。これにより、チューブとチューブ把持部との間の表面摩擦力だけの場合に比べてチューブを把持する力が大きくなるので、ワイヤをチューブに挿入する際のチューブの位置ずれや変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤ挿入用装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るチューブ挿入用ガイドの構成図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】(a)−(e)はワイヤ挿入動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態によるワイヤ挿入装置10の全体構成図である。このワイヤ挿入装置10は、例えば、電動モータの製造工程において、マグネットワイヤ又はマグネットワイヤ束30(以下、単に「ワイヤ30」という)をガラスチューブ20に挿入する際等に使用する。
【0011】
ワイヤ挿入用ガイド1とワイヤ把持部2は対向するよう配置される。
【0012】
ワイヤ挿入用ガイド1でのチューブ20の把持と解放は、チューブ把持用アクチュエータ3により切り替えられる。この把持及び解放のメカニズムについては後述する。そして、ワイヤ挿入用ガイド1はチューブ把持用アクチュエータ3と共にワイヤ把持部進退用アクチュエータ5のボディ部5aに取り付けられている。
【0013】
一方、ワイヤ把持部2でのワイヤ30の把持と解放は、ワイヤ把持用アクチュエータ4により切り替えられる。この把持と解放のメカニズムについては後述する。そして、ワイヤ把持部2はワイヤ把持用アクチュエータ4と共にワイヤ把持部進退用アクチュエータ5のシャフト部5bに取り付けられている。
【0014】
ワイヤ把持部進退用アクチュエータ5は、ボディ部5aに対して相対的にシャフト部5bが進退する機構を有する。そして、ワイヤ把持部進退用アクチュエータ5は、ガイドシャフト6に沿って摺動可能な状態で、スライダ7を介してガイドシャフト6に支持されている。
【0015】
チューブ把持用アクチュエータ3、ワイヤ把持用アクチュエータ4、及びワイヤ把持部進退用アクチュエータ5は、いずれも空気圧により作動する。
【0016】
図2はワイヤ挿入用ガイド1の構成を示す図である。図3はワイヤ挿入用ガイド1のIII−III線に沿った断面図である。
【0017】
ワイヤ挿入用ガイド1は第1半割体11と第2半割体12からなり、これらの合わせ面11a、12aは後述する形状に加工されている。これらを組み合わせた状態(以下、閉状態という)でチューブ20を把持する。以下、第1半割体11と第2半割体12を組み合わせた状態について説明する。
【0018】
ワイヤ挿入用ガイド1のチューブ挿入側端面1aから、これと対向するワイヤ挿入側端面1b方向の所定範囲にわたって、チューブ20の外径とほぼ同等でチューブ20との間でガタが生じない程度の内径を有するチューブ把持部13が設けられている。そして、チューブ把持部13の壁面には、負圧発生溝14が設けられている。この負圧発生溝14は、チューブ把持部13を拡径したように環状に形成されている。
【0019】
ワイヤ挿入用ガイド1には、負圧発生溝14とワイヤ挿入用ガイド1の外部とを連通する負圧ポート15が複数設けられている。これらの負圧ポート15は負圧ポンプ等に連結される。
【0020】
一方、ワイヤ挿入用ガイド1のワイヤ挿入側端面1bからチューブ挿入側端面1a方向の所定範囲にわたって、ワイヤ挿入側端面1b側から徐々に径が小さくなる円錐台状のワーク誘い部17が設けられている。このワーク誘い部17とチューブ把持部13とは、円筒状のワイヤガイド16を介して連通している。
【0021】
ワイヤ挿入側端面1bのワーク誘い部17開口部の径は、チューブ20に挿入するワイヤ30の径より十分に大きい。ワイヤガイド16の径は、チューブ20に挿入するワイヤ30の径とほぼ同等で、ワイヤ30との間にガタが生じない程度とする。
【0022】
また、ワイヤガイド16の径はチューブ把持部13の径よりも小さく、チューブ把持部13のワイヤガイド16側端部では、ワイヤガイド16との間に段差が生じている。この段差部分にチューブ20の挿入側先端部が突き当たる。そして、ワーク誘い部17、ワイヤガイド16、及びチューブ把持部13は同軸になるよう配置されている。
【0023】
上記のような構成のワイヤ挿入用ガイド1は、チューブ把持用アクチュエータ3によって第1半割体11と第2半割体12の距離が制御され、両者が離れた状態(以下、開状態という)でチューブ20がチューブ把持部13に挿入される。
【0024】
チューブ把持部13のワイヤガイド16側端部までチューブ20を挿入されたら閉状態にして、負圧ポート15を負圧にする。これにより、軟材であるチューブ20は拡径した状態でチューブ把持部13の壁面に密着し、さらに、負圧発生溝14では溝形状に変形して密着する。すなわち、チューブ20とチューブ把持部13との表面摩擦力に加え、さらに負圧による吸引力も働くため、チューブ20はより強固に把持される。
【0025】
このため、後述するメカニズムによりワーク誘い部17からワイヤガイド16を介してワイヤが挿入される場合に、ワイヤ30との間で作用する力によるチューブ20の位置ずれや変形を防止できる。その結果、ワイヤ30とチューブ20との接触抵抗が小さくなり、ワイヤ30をチューブ20に容易かつ正確に挿入することができる。なお、ワイヤガイド16がチューブ把持部13と同軸になっているので、ワイヤ30はチューブ20と同軸の状態で挿入されることとなり、接触抵抗を低減することができる。
【0026】
次に、ワイヤ30を挿入するメカニズムについて説明する。図4(a)−図4(e)は、ワイヤ30を挿入するための動作を連続的に示した図である。
【0027】
ワイヤ把持部2は、ワイヤ挿入用ガイド1と同様に2つの部材からなり、2つの部材の互いに対向する部位には、それぞれ切り欠き2a、2bが設けられている。2つの部材が離間した開状態ではワイヤ30は把持されず、接近した閉状態で切り欠き2a、2bでワイヤ30を把持する。なお、切り欠き2a、2bは、閉状態でワイヤ30を把持でき、かつワイヤ30の断線を招かない程度の大きさ、形状であればよい。
【0028】
まず、図4(a)に示すように、ワイヤ把持部進退用アクチュエータ5のシャフト部5bがボディ部5aから突出した状態で、上述したようにワイヤ挿入用ガイド1にチューブ20を把持させる。一方、ワイヤ把持部2にワイヤ30を把持させる。
【0029】
そして、図4(b)に示すようにワイヤ把持部2をワイヤ挿入用ガイド1方向に移動させる。これによりワイヤ30先端はワーク誘い部17に挿入され、そのまま移動し続ければワイヤガイド16を介してチューブ20に挿入される。なお、ワーク誘い部17は、ワイヤ30を挿入する側がワイヤ径よりも大径で、ワイヤガイド16に近づくにつれてワイヤガイド16の径に近づく円錐台状なので調芯機能を発揮する。つまり、ワイヤ30先端がワーク誘い部17の開口部に入りさえすれば、その後、ワイヤ30はワーク誘い部17の壁面に沿ってワイヤガイド16に導かれ、そのままチューブ開口部へと進む。
【0030】
ワイヤ把持部2がワイヤ挿入用ガイド1に近づいたら、例えば、ワイヤ把持部進退用アクチュエータ5のストロークの限界まで近づいたら、図4(c)に示すようにワイヤ把持部2を開状態にし、その後、図4(d)に示すようにワイヤ把持部2をワイヤ挿入用ガイド1から遠ざける。そして、図4(e)に示すようにワイヤ把持部2を再び閉状態にしてワイヤ30を把持する。
【0031】
以降、図4(b)−図4(e)を繰り返し実行すれば、連続的にワイヤ30をチューブ20に挿入することができる。
【0032】
なお、上記図4(a)−図4(e)についての説明では、ワイヤ挿入用ガイド1に対してワイヤ把持部2を接近させることによってワイヤ30をチューブ20に挿入する旨の説明をしたが、これはあくまでもワイヤ挿入用ガイド1とワイヤ把持部2の相対的な位置関係を説明したものである。したがって、ワイヤ把持部2を固定してワイヤ挿入用ガイド1を移動させてもよい。
【0033】
例えば、モータ製作において、コイルから引き出されたマグネットワイヤをチューブ20に挿入する場合のように、ワイヤ30の移動可能範囲が制限される場合もある。この場合、図1の構成では、シャフト5bがボディ部5aから突出した状態でワイヤ把持部2がワイヤ30を把持したときに、ワイヤ30がそれ以上ワイヤ挿入用ガイド1方向へ移動できない。したがって、ワイヤ把持部進退用アクチュエータ5を、シャフト5bがボディ部5aに収納される方向へ作動させても、ワイヤ把持部2は移動しない。しかし、ワイヤ把持部進退用アクチュエータ5がガイドシャフト6に沿って移動可能に支持されているので、ワイヤ挿入用ガイド1がワイヤ把持部2方向へ移動することになる。
【0034】
以上により本実施形態では、次の効果が得られる。
【0035】
(1)一方の端部から内部に向けて設けられたチューブ把持部13と、他方の端部から内部に向けてチューブ把持部13と同軸状に設けられ、チューブ把持部13と連通するワーク誘い部17及びワイヤガイド16と、負圧発生溝14及び負圧ポート15とを備える。これにより、負圧でチューブ20がチューブ把持部13に密着する分だけ、チューブ把持部13とチューブ20との表面摩擦力のみの場合より強い把持力を発生させることができ、その結果、チューブの位置ずれや変形を防止することができる。
【0036】
(2)負圧発生溝14を備えることにより、負圧発生時にチューブ20が負圧発生溝14の形状に沿うように変形するので、より強い把持力を発生させることができる。
【0037】
(3)ワーク誘い部17は、ワイヤ挿入側端部から内部に向けて内径が徐々に絞られる円錐台形状なので、調芯機能を発揮する。したがって、ワーク誘い部17に導入されたワイヤ30は確実にチューブ把持部13へと導かれる。
【0038】
(4)ワーク誘い部17の、チューブ把持部13との境界部から所定範囲が円筒形状のワイヤガイド16となっているので、ワイヤ30はチューブ20と同軸の状態でチューブ20に挿入される。したがって、挿入時の抵抗をより小さくすることができる。
【0039】
(5)ワイヤ挿入用ガイド1は半割体なので、チューブを把持するための作業が容易である。
【0040】
(6)チューブ把持部13にチューブ20を把持するチューブ把持段階と、保持したチューブ20の周囲に負圧を発生させる負圧発生段階と、負圧を発生させた状態でチューブ20にワイヤ30を挿入するワイヤ挿入段階と、を経てワイヤを挿入する。これにより、チューブ20をより大きな把持力で把持した状態でワイヤ20をチューブ30に挿入することができるので、ワイヤ挿入時におけるチューブ20の位置ずれや変形を防止することができる。
【0041】
上記説明中において、ワーク誘い部17及びワイヤガイド16はワイヤ導入部、負圧ポート15及び負圧発生溝14は負圧発生部、チューブ把持部13とワイヤガイド16との境界部は段差部、ワイヤガイド16はワイヤ導入部のチューブ把持部13側に設けた円筒形状に形成された部分に、それぞれに相当する。
【0042】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 ワイヤ挿入用ガイド
2 ワイヤ把持部
3 チューブ把持用アクチュエータ
4 ワイヤ把持用アクチュエータ
5 ワイヤ把持部進退用アクチュエータ5
6 ガイドシャフト
7 スライダ
10 ワイヤ挿入装置
11 第1半割体
12 第2半割体
13 チューブ把持部
14 負圧発生溝
15 負圧ポート
16 ワイヤガイド
17 ワーク誘い部
20 チューブ
30 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤをチューブ内に挿入するためのワイヤ挿入用ガイド部材において、
一方の端部から内部に向けて設けられたチューブ把持部と、
他方の端部から内部に向けて前記チューブ把持部と同軸状に設けられ、前記チューブ把持部と連通するワイヤ導入部と、
前記チューブ把持部に把持したチューブの外周側に負圧を発生させる負圧発生部と、
を備えることを特徴とするワイヤ挿入用ガイド部材。
【請求項2】
前記負圧発生部は、前記チューブ把持部の内壁に設けられた溝を備える請求項1に記載のワイヤ挿入用ガイド部材。
【請求項3】
前記チューブ把持部と前記ワイヤ導入部との境界部に、挿入したチューブの先端が突き当たる段差部を有する請求項1または2に記載のワイヤ挿入用ガイド部材。
【請求項4】
前記ワイヤ導入部は、前記他方の端部から内部に向けて内径が徐々に絞られる円錐台形状である請求項1から3のいずれか一つに記載のワイヤ挿入用ガイド部材。
【請求項5】
前記ワイヤ導入部の、前記チューブ把持部との境界部から所定範囲が円筒形状に形成されている請求項1から4のいずれか一つに記載のワイヤ挿入用ガイド部材。
【請求項6】
少なくとも前記ワイヤ把持部が半割体である請求項1から5のいずれか一つに記載のワイヤ挿入用ガイド部材。
【請求項7】
ワイヤ挿入用ガイド部材の一方の端部から内部に向けて設けられたチューブ把持部にチューブを把持するチューブ把持段階と、
保持した前記チューブの周囲に負圧を発生させる負圧発生段階と、
負圧を発生させた状態で前記チューブにワイヤを挿入するワイヤ挿入段階と、
を有することを特徴とするワイヤ挿入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255451(P2011−255451A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131274(P2010−131274)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000204240)株式会社TAIYO (63)
【Fターム(参考)】