説明

ワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法

【課題】このワイヤ自動供給方法は,ワイヤ電極の断線時に,供給側のワイヤ電極をソースボビンに巻き上げた長さ以上になるまで,該ワイヤ電極の切断廃棄を繰り返し,再度のワイヤ電極のワイヤ送り系への供給を確実に迅速にスムーズに達成する。
【解決手段】 このワイヤ自動供給方法は,ワイヤ電極5の断線時に,ソースボビン7に供給側のワイヤ電極5を巻き上げ,巻き上げた以上の長さになるまでワイヤ電極を繰り出してワイヤ電極を1回の所定量の切断長さで切断して廃棄することを繰り返して供給に寄与するワイヤ電極5の先端部を真直状態にするものであって,ワイヤ電極5の切断廃棄回数は,ワイヤ電極5の巻き上げた量Xを予め決められたワイヤ電極5の切断長さLで除した値(X/L)の整数回数Nに1回を加えた合計の回数(N+1)に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギによって工作物を放電加工するため,ワイヤ電極を工作物に自動的に供給するワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,ワイヤ放電加工機は,例えば,機械本体3における本体ヘッド1には,図1及び図2を参照すると,上ヘッド2が設けられ,機械本体における下アーム3には下ヘッド4が設けられている。ワイヤ供給動作において,上ヘッド2は,ワイヤ電極5を工作物6へ供給する際のガイド機能を果たし,下ヘッド4は,上ヘッド2の下方に対向して工作物6を通過したワイヤ電極5を受け取り,下ヘッド4の下流に配設された複数のガイドローラ等のガイド部材を介して,ワイヤ電極5を送り出す機能を果たす。その後,送られたワイヤ電極5は,ワイヤガイドパイプ37を通過し,ワイヤガイドパイプ37の出口に近接して設けられたワイヤ電極5を巻き取るための巻き取りローラ35を通じて,廃棄される廃ワイヤを収容する廃ワイヤホッパ36へ送り出される。また,放電加工痕の消耗したワイヤ電極5もワイヤ供給時と同様に,下ヘッド4を通過し,ガイドローラ等のガイド部材を介して,ワイヤガイドパイプ37を通過し,巻き取りローラ35を通じて,廃ワイヤホッパ36へ送り出される。
【0003】
従来,ワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給装置は,機械本体3に取り付けられ且つワイヤ電極5を巻き上げているソースボビン7,ソースボビン7から送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極5の方向を転換する複数の方向転換ローラ8,ワイヤ電極5が良好に繰り出されるようにワイヤ電極5にブレーキをかけるブレーキローラ9,送り出されるワイヤ電極5にテンションを付与するテンションローラ12,ワイヤ電極5を供給パイプ13へとガイドするガイドローラ32等を備えている。ワイヤ供給系における方向転換ローラ8を通過したワイヤ電極5は,ヘッド1に設けられた一対のアニールローラであるワイヤ供給ローラ10,供給パイプホルダ19に支持された供給パイプ13内を通って一対のコモンローラ11を通過し,そこで,ワイヤ電極5は,一対のワイヤ供給ローラ10と一対のコモンローラ11とで挟持され,それらの間で給電子(図示せず)を通じて加工電源からの電流がワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5,及びコモンローラ11に通電され,そこで,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間のワイヤ電極5がアニールされる。次いで,アニールされたワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の送り出しに従って供給パイプホルダ19に支持された供給パイプ13の降下に従って供給パイプ13にガイドされて上ヘッド2へと達して挿通され,次いで,上ヘッド2から工作物6のスタートホール,加工軌跡等の孔26へ挿通されて下ヘッド4へ供給される。供給されたワイヤ電極5又は,放電加工して消耗したワイヤ電極5は,ワイヤガイドパイプ37を通って,巻き取りローラ35で引き出され,廃ワイヤホッパ36に廃棄される。
【0004】
また,アニールローラ10とコモンローラ11との間には,ワイヤ電極5の先端を良好な真直状態にする場合,ワイヤ電極5が断線した場合,アニール処理する場合等に,ワイヤ電極5の先端部を予め決められた所定の長さを切断するためカッタ14が設けられていると共に,カッタ14で切断されたワイヤ電極5を廃棄するための廃ワイヤクランプ15が設けられている。カッタ14は,カッタユニットを作動することによってワイヤ電極5を切断するように構成されている。上ヘッド2を通過したワイヤ電極5は,結線時は上ヘッド2を通過し,工作物6の孔26を通った後に,上ヘッド2の下方に対向した下ヘッド3に受け取られ,次いで,下ヘッド3から繰り出された消耗したワイヤ電極5は,ガイドローラを経てワイヤガイドパイプ37へと送り込まれる。更に,ワイヤ電極5は,ワイヤガイドパイプ37の後流に設けた巻き取りローラ35及び巻き取りローラローラ35の後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパ36に回収される。
【0005】
また,ワイヤカット放電加工装置におけるワイヤ電極挿通方法として,ワイヤ電極の加工開始への挿通不能状態と挿通不能状態の解消とを正確に検知,判別し,挿通不能状態に対するより的確な,確実な解消,及び挿通動作に移行させて挿通を実現するものが知られている。該ワイヤ電極挿通方法は,ワイヤ電極を送り出すローラ装置とワイヤ電極案内体の入口端に座屈センサによりワイヤ電極の座屈の有無を検出し,座屈が検出されないときはワイヤ電極先端が捕捉回収機構に至るまで送出し,座屈が検出されたときはローラを停止してワイヤ電極案内体と被加工体間に挿通孔サーチの所定パターンの相対移動を座屈解消までの間所定回数繰返し,座屈が解消したときは,ローラによるワイヤ電極の再送出に移行させ,他方座屈するか座屈が解消しないときは,ワイヤ電極を巻き戻して,以上の所定回数の再挿通操作に移行させる(例えば,特許文献1参照)。
【0006】
また,ワイヤ送り方法として,ワイヤ電極が障害物に当接した状態でワイヤ電極送りローラのワイヤ電極の挟持状態を解放してワイヤ電極の弾性力でワイヤ電極を真直にし,ワイヤ自動供給を繰り返し実行して供給時間の短縮を図るものが知られている。該ワイヤ送り方法は,ワイヤ電極の先端が上ヘッド,工作物及び下ヘッドのいずれかの障害物に当接したことを当接センサが検出することに応答して,ワイヤ電極送りローラのワイヤ電極の挟持を解放してワイヤ電極の障害物への当接状態を開放し,引き続いてワイヤ電極送りローラでワイヤ電極を挟持してワイヤ電極送りローラを駆動してワイヤ電極のワイヤ自動供給を行い,この処理を予め決められた回数だけ実行する(例えば,特許文献2参照)。
【0007】
また,ワイヤ放電加工機の自動ワイヤ供給方法として,供給側のワイヤ電極に対してアニール動作を行ってワイヤ電極を伸長させる工程が開示されているものが知られている。該自動ワイヤ供給方法は,給電ピンよりワイヤ電極に電流を流して供給側ワイヤ電極に対してアニール動作を行ってワイヤ電極を伸長させたので,ワイヤ電極の供給パイプを上ワイヤヘッドまで降下させ,ワイヤ供給ローラを駆動して工作物のワイヤ断線点における加工形状の加工孔にワイヤ電極を貫通させることができ,しかも,ワイヤ電極が真直に伸長しているので,工作物の断線点における加工スリット即ち加工孔が小さくても,該加工孔にワイヤ電極を確実に且つ迅速に貫通させることができる。また,上記自動ワイヤ供給方法は,ワイヤヘッドのワイヤ送出口をワイヤ断線点の加工孔から加工軌跡に沿って僅かに後退させ,上記のようにワイヤ供給ローラを駆動して加工形状の加工孔にワイヤ電極を貫通させたので,ワイヤ電極の先端が断線点縁部の工作物に障害されることなく,ワイヤ電極を加工孔即ち加工スリットにスムースに挿入することができ,ワイヤ供給或いは結線の成功率を大幅に向上させることができる(例えば,特許文献3参照)。
【0008】
また,ワイヤ電極の断線時に排除するワイヤ電極の長さを最小限に止めることができ,ワイヤ電極の切断排除部分を確実に廃ワイヤ収容ケースに収容できるワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法が知られている。該自動ワイヤ供給方法は,ワイヤ電極が断線した時に,ワイヤ先端検出センサーがワイヤ電極の先端部を検出するまでワイヤ電極を巻き上げ,次いで,巻き上げたワイヤ電極を設定した所定の長さだけ繰り出し,ワイヤ電極の所定部位をカッタによって切断し,ワイヤ電極の損傷した先端部分を排除する。従って,ワイヤ電極の切断排除される部分の長さを予め設定した所定の長さにすることができる(例えば,特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−108950号公報
【特許文献2】特開2009−50926号公報
【特許文献3】特開平2−145215号公報
【特許文献4】特開平7−276145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで,従来のワイヤ放電加工機については,ワイヤ電極5が断線した時に,ワイヤ電極5をワイヤ供給系に供給しなければならないが,ワイヤ電極5の供給が失敗した場合に,繰り出されているワイヤ電極5を一旦ソースボビン7に巻き上げている。その時に,ワイヤ電極5には,その先端部のみに潰れや,曲がり等のダメージ即ち損傷があると想定して,ワイヤ電極5を無駄にしないためワイヤ電極5の先端部のみを切断して廃棄していた。しかしながら,一旦繰り出されたワイヤ電極5をソースボビン7に巻き上げる時に,巻き上げられるワイヤ電極5の途中で曲がり,潰れ等の損傷が発生する場合があり,そのワイヤ電極5の損傷が原因でワイヤ電極5の供給のリトライ時に,ワイヤ電極5の供給がスムーズにできず失敗してしまうことがあり,ワイヤ電極5の迅速にスムーズなワイヤ送り系に供給することができない現象が発生していた。
【0011】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,ワイヤ電極のアニール処理をアニールローラであるワイヤ供給ローラとコモンローラとを用いて行うと共に,ワイヤ電極の断線時にはワイヤ電極をソースボビンに巻き上げるが,ワイヤ電極の供給のリトライ時に,ワイヤ電極の先端部の切断長さが予め決められているので,ワイヤ電極を繰り出して数回にわたってカッタで切断して廃棄し,トータルとしてソースボビンに巻き上げた長さ以上のワイヤ電極を切断廃棄し,次いでワイヤ電極をアニール処理し,アニール処理したワイヤ電極の予め決められた所定の長さを切断廃棄して,ワイヤ電極の先端部を真直状態にしてワイヤ電極のワイヤ送り系に供給を行って,ワイヤ電極の供給を的確に迅速にスムーズに達成することを特徴とするワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は,ソースボビンから繰り出されるワイヤ電極を,本体ヘッド上を往復移動する保持パイプホルダに設けられた供給パイプを通って工作物に形成されたスタートホール,加工スリット等の孔に挿通して前記工作物を前記ワイヤ電極で放電加工することから成るワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法において,
前記ソースボビンから供給される前記ワイヤ電極の断線の検出に応答して前記工作物と前記ワイヤ電極との相対移動を停止させると共に,断線した側の前記ワイヤ電極を排除すると共に,繰り出された供給側の前記ワイヤ電極の先端部を前記本体ヘッドに設けられたコモンローラを支持する支持体に設置されたセンサで検出するまで,前記ワイヤ電極を前記ソースボビンに巻き上げ,次いで,前記ワイヤ供給ローラを作動して前記ソースボビンへ巻き上げられた供給側の前記ワイヤ電極の巻き上げた長さより長い量の前記ワイヤ電極を繰り出すまで,予め決められた切断長さLの前記ワイヤ電極をカッタで切断廃棄することを繰り返し,次いで,供給側の前記ワイヤ電極に対してアニール処理を行って前記ワイヤ電極の曲がり,撓み,内部歪みのくせを取って前記ワイヤ電極を真直状態にし,アニール処理された前記ワイヤ電極の前記予め決められた切断長さを前記カッタで切断して廃棄し,次いで,アニールされた前記ワイヤ電極を上ヘッドから前記工作物の孔に挿通させて前記ワイヤ電極の供給を行うことを特徴とするワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法に関する。
【0013】
このワイヤ自動供給方法において,繰り出されて廃棄された前記ワイヤ電極の切断回数は,前記ワイヤ電極の巻き上げた量を予め決められた前記ワイヤ電極の1回の切断長さで除した値の整数回数に1回を加えた合計の回数に設定されている。即ち,前記ワイヤ電極の巻き上げた量をX,前記ワイヤ電極の1回の切断長さをLとすると,X/Lの値の少数を切り捨てた整数を回数Nとして,その回数Nに1回をプラスしたN+1の回数を切断回数に設定されているものである。
【0014】
また,このワイヤ自動供給方法において,前記ワイヤ電極の巻き上げ長さは,前記ソースボビンの下流に配設されているブレーキローラに設けられた前記ブレーキローラの回転数を検出するエンコーダで検出できるものである。
【0015】
また,このワイヤ自動供給方法において,前記ワイヤ電極のアニール処理は,前記ワイヤ供給ローラと前記供給パイプの下方に配設されたコモンローラとで前記ワイヤ電極を挟持し,前記ワイヤ供給ローラ,前記ワイヤ電極,及び前記コモンローラに通電して前記ワイヤ供給ローラと前記コモンローラとの間に位置する前記ワイヤ電極をアニールするものである。
【0016】
また,このワイヤ自動供給方法において,前記ワイヤ電極の断線は,例えば,前記ソースボビンの下流に設けたブレーキローラの回転数を検出するエンコーダによって検出されるものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法は,上記のように構成したので,ワイヤ電極が断線した時に,断線側のワイヤ電極を廃棄すると共に,供給側のワイヤ電極を先端が供給パイプに達するまでソースボビンに巻き上げ,少なくとも巻き上げたワイヤ電極の長さ以上になるまでワイヤ電極の切断を繰り返して廃棄するので,必ずソースボビンから一旦繰り出されたワイヤ電極を全て切断廃棄することになり,ソースボビンから初めて繰り出される新しいワイヤ電極が供給に寄与する状態となり,即ち,ワイヤ電極をアニールローラとコモンローラとで挟持してワイヤ電極に引っ張り力を与えながらアニール処理してワイヤ電極のくせを取るが,その時,カッタより下流のコモンローラで挟持してワイヤ電極の先端部に当たる部分がアニール処理されていないので,アニール処理の後にワイヤ電極を予め決められた切断長さだけ繰り出して切断廃棄するものであって,ワイヤ電極の巻き上げ長さXをエンコーダで測定し,その測定量を予め決められた所定量の切断長さLで除した値の整数即ち少数以下を切り捨てた整数の回数に1回をプラスすれば,ソースボビンから初めて繰り出される新しいワイヤ電極が供給のための先端部になる。その先端部を持つワイヤ電極をワイヤ送り系に供給すれば,ワイヤ電極の供給が的確に迅速にスムーズに行うことができ,ワイヤ電極を上ヘッド,工作物,下ヘッド,最後に巻き取りローラまで挿通してワイヤ電極の供給をスムーズに達成でき,ワイヤ電極による工作物の放電加工を行うことができ,結局は,ワイヤ電極の断線時のワイヤ電極の供給に失敗が無くなり,それによってワイヤ電極の自動供給時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】このワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を達成するためのワイヤ自動供給装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を達成するためのワイヤ自動供給装置の要部を示す概略斜視図である。
【図3】図1の一部を示し,ワイヤ電極のアニール処理とワイヤ電極の供給工程を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下,図1〜図3を参照して,この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法を達成するためのワイヤ放電加工機を説明する。このワイヤ放電加工機は,例えば,機械本体3に取り付けられたソースボビン7から繰り出されるワイヤ電極5を,ワイヤ電極5の走行速度を調整するブレーキローラ9,ワイヤ電極5にテンションを付与するテンションローラ12,ワイヤ電極5を方向転換してガイドするガイドローラ8,32等の案内手段を通って上ヘッド2,上ヘッド2の下方に取り付けられた工作物6,工作物6の下方で上ヘッド2に対向し且つ工作物6を加工した後のワイヤ電極5を受け取ったり結線時には消耗していないワイヤ電極5を受け取ったりする機能を持つ下ヘッド4,工作物6とワイヤ電極5との間に加工電圧をかけるため工作物6の上下流に配置され且つワイヤ電極5に加工電源からの放電電流を供給するため上ヘッド2と下ヘッド4とに設けられた給電ブラシである給電子(図示せず),及び下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極5を収容する絶縁状態に構成されている廃ワイヤホッパ36を有する。また,給電子(図示せず)は,ワイヤ供給ローラ10等を設けたワイヤ電極送りユニット24と本体ヘッド1に設けられたカッタユニットとにそれぞれ設けられている。ワイヤ放電加工機のワイヤ送り系におけるワイヤ電極5は,床,本体ヘッド1等の物体に対して絶縁されているものであり,例えば,ワイヤ電極5を絶縁する物体は,合成樹脂,ガイシ等の絶縁材料で作られている。このワイヤ自動供給装置では,ソースボビン7から送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極5に送り速度を調整するブレーキローラ9には,その回転数を検出するためのエンコーダ16が設けられている。
【0020】
ワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極送りユニット24には,ワイヤ電極5を挟持して供給する一対の開閉自在なアニールローラ機能を持つワイヤ供給ローラ10で,ワイヤ供給ローラ10を駆動する駆動モータ,ワイヤ電極5の挿通を助ける糸道サポート,供給パイプ13を支持する供給パイプホルダ19,供給パイプ13にエアを吹き込むエア給入口,ワイヤ供給ローラ10に給電する給電子(図示せず),ワイヤ供給ローラ10を開閉させてワイヤ電極5を挟持したり解放する開閉シリンダ,歯車機構等が設けられている。また,このワイヤ放電加工機では,供給パイプ13を通ったワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の低速回転によって,まず,上ヘッド2に供給され,上ヘッド2から工作物6の孔26,次いで下ヘッド4へと供給される。ワイヤ電極5が下ヘッド4を通過した後には,ワイヤ供給ローラ10は高速回転に切り換えられ,下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極5は,方向転換部に設けた方向転換ローラからワイヤガイドパイプ37,ワイヤガイドパイプ37の出口に設けた巻き取りローラ35を順次通過して,巻き取りローラ35で引き出されて廃ワイヤホッパ36に回収される。本体ヘッド1の下端に設けた支持体31には,ワイヤ電極5を切断するカッタ14を備えたカッタユニット,該カッタユニットの下流側でワイヤ電極5を挟持してガイドするコモンローラ11,コモンローラ11に給電する給電子(図示せず),及びコモンローラ11の下方には廃ワイヤクランプ15が出入可能なスペース33が形成されている。廃ワイヤクランプ15は,主として,機械本体3に取り付けられたガイドレール18に沿って移動するスライダ28,スライダ28に固定されたクランプ支持体29,クランプ支持体29で揺動可能に取り付けられた一対の揺動レバー27,揺動レバー27の作動でワイヤ電極5を挟持するワイヤ挟持部30から構成されている。ワイヤ供給ローラ10は,本体ヘッド1に固定されたロールホルダに回転可能に支持され,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11には,給電子(図示せず)がそれぞれ当接しており,それらの給電子(図示せず)がワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11に電流を供給する機能を有している。
【0021】
このワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法は,特に,ソースボビン7から供給されているワイヤ電極5の断線の検出に応答して,工作物6とワイヤ電極5との相対移動を停止させると共に,断線した下ヘッド4側のワイヤ電極5は巻き取りローラ35によって巻き取り,また,繰り出された供給側のワイヤ電極5の先端部を本体ヘッド1に設けられたコモンローラ11を支持する支持体に設置されたセンサ22で検出するまで,ワイヤ電極5をソースボビン7へ巻き上げ,次いで,ソースボビン7へ巻き上げられた供給側のワイヤ電極5の巻き上げた長さXより長い量のワイヤ電極5をワイヤ供給ローラ10を作動して繰り出すまで,1回の切断長さである予め決められた1回の切断長さLのワイヤ電極5をカッタ14で切断することを繰り返し,切断されたワイヤ電極5を繰り返し廃ワイヤクランプ15で廃棄する。即ち,ワイヤ電極5の巻き上げた量をXとし,ワイヤ電極5の1回の切断長さをLとすると,X/Lの値の少数を切り捨てた整数を回数Nとして,その回数Nに1回をプラスしたN+1の回数を切断回数に設定されている。次いで,供給側のワイヤ電極5に対して,ワイヤ電極5をワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11とで挟持してワイヤ電極5に引っ張り力を与えながらワイヤ電極5にアニール処理を行ってワイヤ電極5の曲がり,撓み,内部歪み,残留応力等のくせを取って真直状態にし,アニール処理されたワイヤ電極5の予め決められた所定の切断長さLをカッタ14で切断して廃棄し,次いで,アニールされ且つ先端が真直状態になっているワイヤ電極5を上ヘッド2から工作物6の孔26に挿通させ,ワイヤ送り系に供給を行うものである。
【0022】
このワイヤ自動供給方法において,繰り出されて廃棄されたワイヤ電極5の切断回数は,ワイヤ電極5の巻き上げた量Xを予め決められたワイヤ電極5の切断長さLで除した値の整数回数に1回を加えた合計の回数に設定されている。即ち,X/Lの値の少数を切り捨てた整数を回数として,その整数回数に1回をプラスした合計の回数を切断回数に設定されたものである。また,ワイヤ電極5の巻き上げ長さXは,ソースボビン7の下流に配設されているブレーキローラ9に設けられたブレーキローラ9の回転数を検出するエンコーダ16で検出することができる。即ち,ブレーキローラ9の回転数から巻き上げられたワイヤ電極5の長さを計算することができる。更に,ワイヤ電極5のアニール処理は,ワイヤ供給ローラ10と供給パイプ13の下方に配設されたコモンローラ11とでワイヤ電極5を挟持してワイヤ電極5に引っ張り力を与え,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5,及びコモンローラ11に通電して,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間に位置するワイヤ電極5をアニール処理し,ワイヤ電極5の曲がり,撓み.残留応力等のくせ取りをして真直状態にするものである。
【0023】
また,このワイヤ自動供給方法において,ワイヤ電極5のアニール処理は,図3に示すように,工作物6の加工位置へワイヤ電極5を相対的に移動させると共に,ワイヤ供給ローラ10を作動してワイヤ電極5を送り出し,ワイヤ供給ローラ10の下方に配設されているコモンローラ11でワイヤ電極5の先端側を挟持し,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5及びコモンローラ11に通電して,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間のワイヤ電極5をアニール処理する(図3のA)。ワイヤ供給ローラ10を作動してアニールされたワイヤ電極5を繰り出して,ワイヤ電極5の予め決められた所定の切断位置をカッタ14で切断し(図3のB),切断されたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15で挟持してAWF廃ワイヤホッパ38へ移動させ,廃ワイヤクランプ15を開放してワイヤ電極5を解放してAWF廃ワイヤホッパ38へと廃棄し,次いで,コモンローラ11を開放してワイヤ供給ローラ10を作動してワイヤ電極5を下降させると共に供給パイプ13を上ヘッド2へと下降させる(図3のC)。そこで,真直状態のワイヤ電極5を,上ヘッド2,工作物6,及び下ヘッド4へ供給してワイヤ電極5を挿通し,供給パイプ13を上昇させてワイヤ電極5のワイヤ送り系への供給が達成される(図3のD)。
【0024】
また,このワイヤ放電加工機は,ワイヤ電極5が上ヘッド2の挿通孔,工作物6のスタートホール等の孔26,下ヘッド4の挿通孔の順で挿通する過程で,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2,工作物6又は下ヘッド4のいずれかに当接して孔に挿通しない当接状態が発生すると,例えば,駆動しているワイヤ供給ローラ10と供給パイプホルダ19のホルダ上部との間で,ワイヤ電極5が座屈で曲がって供給パイプホルダ19のホルダ上部に接触することになり,ワイヤ電極5がホルダ上部で接触すると,ワイヤ供給ローラ10がワイヤ電極5の挟持を解放し,ワイヤ供給ローラ10によるワイヤ電極5の供給が停止する。ワイヤ供給ローラ10とワイヤ電極5は所定の電位,即ち,ほぼ同電位又は僅かな電位差の状態にあり,ワイヤ電極5の座屈によりワイヤ電極5が供給パイプホルダ19のホルダ上部と接触すると,ワイヤ供給ローラ10とホルダ上部との間の所定の電位に変化,即ち,ほぼ同電位に電位差が発生又は僅かな電位差に変化が発生することになり,ワイヤ電極5がホルダ上部に接触したこと即ちワイヤ電極5が障害物に当接したことをセンサ17で検出できる。ワイヤ供給ローラ10がワイヤ電極5を解放することで,上ヘッド2,工作物6又は下ヘッド4のいずれかに当接し屈折されたワイヤ電極5の先端の当接が開放される。ワイヤ供給ローラ10が開いたことによって,当接し屈折したワイヤ電極5がワイヤ電極5の弾性力により上方に逃げ,ワイヤ電極5の先端の当接が開放される。ワイヤ電極5の上ヘッド2,工作物6又は下ヘッド4への当接が開放されると,供給パイプ13内を供給パイプ13の上部から下部にエアブローを行う。その後,ワイヤ供給ローラ10が閉じてワイヤ電極5を挟持し,再びワイヤ供給ローラ10を駆動させ,ワイヤ電極5のワイヤ自動供給を実行する。
【0025】
このワイヤ放電加工機は,ソースボビン7からのワイヤ電極5の供給指令を発して動作させられる。まず,ワイヤ供給ローラ10の開閉シリンダを作動して,ワイヤ供給ローラ10によってワイヤ電極5を挟持すると共に,コモンローラ11によってワイヤ電極5を挟持する。ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間で挟持されている供給パイプ13内のワイヤ電極5に電流を流し,ワイヤ電極5をアニールする。ワイヤ電極5のアニール時には,ワイヤ供給ローラ10をワイヤ電極送りとは逆方向に回転させてワイヤ電極5にテンションを与えながらワイヤ電極5をアニールする。ワイヤ電極5をアニールした後に,供給パイプ13内にエア給入口からエアブローしてワイヤ電極5を冷却する。ワイヤ電極5は適正なアニール電流値,アニール時間及びエアブローによって,ワイヤ電極5の巻き癖を矯正してワイヤ電極5の真直性を確保する。ワイヤ電極5の径に応じてアニール電流値,アニール時間及びエアブロー時間はそれぞれ適正に設定されている。ワイヤ電極5のアニール及びエアブローの回数は,所定回数,例えば,2回行われる。
【0026】
次いで,ワイヤ供給ローラ10の開閉シリンダを作動して,ワイヤ供給ローラ10によってワイヤ電極5を挟持し,ワイヤ電極5をワイヤ供給ローラ10で挟持した状態で,供給パイプ13と共に供給パイプ13の先端を上ヘッド2まで下降させる。ワイヤ供給ローラ10を低速回転させ,ワイヤ電極5を供給し,ワイヤ電極5を上ヘッド2から工作物6のスタートホール等の孔26を通して下ヘッド4へと挿通させる。センサ17は,本体ヘッド1の下部の支持体31に取り付けられ,ワイヤ電極5の撓み,曲がり,挿通状態等を検出することができる。また,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2から工作物6を通って下ヘッド4へと順次挿通する途中で,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2,工作物6,下ヘッド4等の何らかの障害物に当接し,ワイヤ電極5が撓んだり屈折して曲がると,センサ17がその状態を検出することができる。ワイヤ電極5の撓みの検出は,ワイヤ供給ローラ10と供給パイプホルダ19のホルダ上部,即ち,センサ17との間に電圧が印加されているので,ワイヤ電極5の撓みはセンサ17に接触することによって検出される。ワイヤ供給ローラ10には,給電子(図示せず)を通して給電され,ワイヤ供給ローラ10が閉じてワイヤ電極5を挟持した状態で,ワイヤ電極5に電圧が印加されるので,センサ17によってワイヤ電極5の当接状態が検出されることになる。
【0027】
この発明によるワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法は,次のようにして行うことができる。このワイヤ自動供給装置は,アニールローラであるワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11とでワイヤ電極5を挟持し,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間に通電してワイヤ電極5をアニール処理するものである。即ち,このワイヤ自動供給方法では,ワイヤ放電加工機をスタートさせると,本体ヘッド1は,工作物8のスタートホール等の孔26の加工すべき位置へ相対移動し,ワイヤ自動供給装置が作動してワイヤ電極5が供給される。そこで,アニールローラであるワイヤ供給ローラ10は,作動してワイヤ電極5を供給すると,ワイヤ電極5は.ワイヤ供給ローラ10から供給パイプ13を通ってコモンローラ11に挟持される。そこで,ワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5及びコモンローラ11に通電し,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間のワイヤ電極5をアニールする。次いで,アニールされたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15が挟持している状態であるので,カッタユニットを作動してカッタ14によってワイヤ電極5の先端部を切断し,切断されたワイヤ電極5を廃ワイヤクランプ15がAWF廃ワイヤホッパ38へ移動させ,切断されたワイヤ電極5をAWF廃ワイヤホッパ38に廃棄される。次いで,ワイヤ供給ローラ10のワイヤ電極5の送り出しに従って供給パイプ13が下降し,ワイヤ電極5が上ヘッド2,工作物6の孔26,次いで下ヘッド4に挿通され,更に,下ヘッド4から繰り出された消耗したワイヤ電極5は,ガイドローラを経てワイヤガイドパイプ37へと送り込まれ,ワイヤガイドパイプ37の後流に設けた巻き取りローラ35,及び巻き取りローラ35の後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパ36に回収される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
このワイヤ自動供給方法は,例えば,ワイヤ電極と工作物との間に加工電圧を印加して発生する放電エネルギで工作物を放電加工するワイヤ放電加工機に適用して使用される。
【符号の説明】
【0029】
1 本体ヘッド
5 ワイヤ電極
6 工作物
7 ソースボビン
9 ブレーキローラ
10 ワイヤ供給ローラ
11 コモンローラ
13 供給パイプ
14 カッタ
15 廃ワイヤクランプ
16 エンコーダ
19 供給パイプホルダ
22 センサ
26 孔
31 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースボビンから繰り出されるワイヤ電極を,本体ヘッド上を往復移動する保持パイプホルダに設けられた供給パイプを通って工作物に形成されたスタートホール,加工スリット等の孔に挿通して前記工作物を前記ワイヤ電極で放電加工することから成るワイヤ放電加工機におけるワイヤ自動供給方法において,
前記ソースボビンから供給される前記ワイヤ電極の断線の検出に応答して前記工作物と前記ワイヤ電極との相対移動を停止させると共に,断線した側の前記ワイヤ電極を排除すると共に,繰り出された供給側の前記ワイヤ電極の先端部を前記本体ヘッドに設けられたコモンローラを支持する支持体に設置されたセンサで検出するまで,前記ワイヤ電極を前記ソースボビンに巻き上げ,次いで,前記ワイヤ供給ローラを作動して前記ソースボビンへ巻き上げられた供給側の前記ワイヤ電極の巻き上げた長さより長い量の前記ワイヤ電極を繰り出すまで,予め決められた切断長さLの前記ワイヤ電極をカッタで切断廃棄することを繰り返し,次いで,供給側の前記ワイヤ電極に対してアニール処理を行って前記ワイヤ電極の曲がり,撓み,内部歪みのくせを取って前記ワイヤ電極を真直状態にし,アニール処理された前記ワイヤ電極の前記予め決められた切断長さを前記カッタで切断して廃棄し,次いで,アニールされた前記ワイヤ電極を上ヘッドから前記工作物の孔に挿通させて前記ワイヤ電極の供給を行うことを特徴とするワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法。
【請求項2】
繰り出されて廃棄された前記ワイヤ電極の切断回数は,前記ワイヤ電極の巻き上げた量を予め決められた前記ワイヤ電極の1回の切断長さで除した値の整数回数に1回を加えた合計の回数に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法。
【請求項3】
前記ワイヤ電極の巻き上げ長さは,前記ソースボビンの下流に配設されているブレーキローラに設けられた前記ブレーキローラの回転数を検出するエンコーダで検出できることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法。
【請求項4】
前記ワイヤ電極のアニール処理は,前記ワイヤ供給ローラと前記供給パイプの下方に配設されたコモンローラとで前記ワイヤ電極を挟持し,前記ワイヤ供給ローラ,前記ワイヤ電極,及び前記コモンローラに通電して前記ワイヤ供給ローラと前記コモンローラとの間に位置する前記ワイヤ電極をアニールすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法。
【請求項5】
前記ワイヤ電極の断線は,前記ソースボビンの下流に配設されているブレーキローラの回転数を検出するエンコーダによって検出されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工機における自動ワイヤ供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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