説明

ワイヤ絶縁のための高性能、耐熱性および軽量のフィルム、テープまたはシース

薄く、軽量である絶縁ワイヤは、電気絶縁を付与するようにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の内層(12)と、擦り切れおよび切断に対する抵抗力のような優れた機械的特性を有する、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような、芳香環および複素環を含むポリマーの中間層(14)と、電気抵抗および耐薬品性を有するPTFEの外層(16)と、を含み、構造体全体を焼結できる。中間層は、焼結の間、いくらか流れおよび合金化されてよく、該焼結は付加的な驚くべき利益をもたらす。それぞれのフィルムの好ましい厚さは、25μm〜50μmである。このような薄いフィルムの使用は、小型で薄く軽量な絶縁体を製造可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、軽量、高性能、耐熱性および耐火性のフィルムまたはテープ、とりわけ、掘削または採鉱、商業用または軍事用航空宇宙用途および海洋用途、ならびに自動車、鉄道および大量輸送機関等における厳しい条件を含む多種多様な環境で使用されるワイヤおよびケーブル用の絶縁体として使用するためのフィルムまたはテープに関する。このようなケーブルは、高温もしくは低温、腐食性の物質もしくは雰囲気または火に暴露される可能性がある。高性能ワイヤは、導電体または光ファイバーのような機能性コアと、1つまたはそれより多くの絶縁および/または保護コーティングと、を一般的に含む。多くの場合において、ワイヤは、軽量および小さな直径を要求されるため、これらのコーティングは、可撓性を有し、かつ分厚すぎない必要がある。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような、ワイヤおよびケーブルのシースに使用するための多様な種類のポリマーが既知である。PTFEは、非常に丈夫であるだけでなく化学的に不活性であり、高い軟化点、低い摩擦係数および良好な電気絶縁特性も有するという利点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PEEKは、良好な耐燃性(flame resistance)を有し、非常に少ない煙を伴い自己消化するため、PEEKは、ワイヤおよびケーブルの被覆における使用が増えている。PEEKは、良好な伸び、フィルムのような薄片での良好な可撓性、および動力学的な切断および部分的な磨耗(scrap abrasion)に対する高い機械的な抵抗力も有する。しかしながら、PEEKは、アークトラッキング(arc tracking)を被ることがあり、アセトンおよび強酸による攻撃を受けることもある。
【0004】
欧州特許公開公報第572177号は、多孔質PTFEおよびPEEKの電気絶縁ラミネート(laminate)を開示している。この出願の目的は、高い機械的強度、耐熱性および耐薬品性ならびに減少させた誘電率を有する軽量な、機体のワイヤ絶縁のための可撓性を有する電気絶縁材料を提供することである。
【0005】
しかしながら、高温だけでなく、火に対する耐性も有し、さらに他の厳しい条件に抵抗する絶縁体を備えた薄く軽量なワイヤおよびケーブルに対する要求が残っている。このような耐燃性を付与する1つの方法は、ポリマーマトリックスに分散させたマイカ粒子、一般的にはマイカプレートレットを含んで成るコーティングを適用することである。例えば、日本国特許公開公報第2003100149号は、耐火性ケーブルを被覆するために、シリコーン樹脂への微細なマイカ粉末およびガラスフリットの分散の使用を開示している。しかしながら、マイカは、コストを上げ、その結果、マイカ含有量を減少させ、または避ける必要がある。
【0006】
2008年6月5日出願の同時係属出願のイギリス特許出願第081029.4号は、コアとポリマーシースとを含むワイヤまたはケーブルを開示および特許請求の範囲に記載しており、該ポリマーシースは、5μm〜150μmの厚さを有する、PEEKの巻き付けフィルム、または少なくとも30重量%のPEEKと別のポリマーとを含むPEEKのポリマーブレンドもしくはアロイの巻き付けフィルムを含む。このPEEK層は、その内部にマイカ粒子が配置されているポリマーマトリックスの耐火層と組み合わされてよく、また、保護外層、例えば、PTFEのようなフルオロポリマーを有してもよい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、それぞれの層の厚さが12μm〜100μmの範囲である、PTFEの内層と、芳香環および/または複素環を含むポリマーフィルムの中間層と、PTFEの焼結された外層とを含む、ワイヤのための高性能で耐熱性を有するシースを提供する。
【0008】
この絶縁体は、ワイヤの周囲に巻き付けられる層状テープを含んでよく、またはワイヤ上に直接押出されてよく、PTFEの少なくとも外層が、その場焼結されてよい。この絶縁層は、好適には、25%〜65%、より好適には、40%〜55%重なって、コアの周囲に好ましくは螺旋状に巻き付けられる。該層は、個々に付与され、または2もしくは3つの層のラミネートを用いて付与されてよい。好ましい重なり角は、45°〜55°である。
【0009】
中間層は、例えば、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、または窒素、硫黄および/または酸素含有複素環を含むポリマーを含んでよい。好ましい複素環ポリマーは、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾールおよびポリベンゾチアゾールのような五員環と縮合した六員環を含む複素環ポリマーと、これらの化合物のブレンドまたはアロイとを含む。
【0010】
好ましいPAEKは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であるが、他のPAEKが、単独で用いられ、または例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)およびポリエーテルケトンケトン(PEKK)等のブレンドもくしはアロイに用いられてよい。
【0011】
外側のPTFE層の焼結は、複合材全体を密閉構造内で一体に融着(fusion-bond)させ、PAEK層によって付与される高い機械的特性に加えて、良好な耐薬品性を付与する。焼結は、好ましくは、350℃〜420℃の温度範囲で実施する。3つの絶縁層全ては、焼結されてよい。PEEKは、一般的には343℃付近で溶融する。焼結は、PTFEを収縮させ、かなり小型の絶縁材料のシースを与える。焼結するための滞留時間は、好ましくは、30秒〜2分であり、より好ましくは60秒〜90秒である。
【0012】
本願発明の更なる態様によれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の第1の層と、中間に位置する、芳香環および/または複素環を含むポリマーの第2の層と、PTFEの第3の層とを含む3層の複合絶縁フィルムまたはテープ構造体が備えられる。
【0013】
それぞれの層の好ましい厚さは、25μm〜75μmである。従って、本願発明によって、優れた機械的特性、耐熱性および化学薬品の攻撃に対する耐性を有するだけでなく、比較的安価な材料から作られた非常に薄く、非常に軽量であるワイヤであり得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面は、本願発明に係る3層シースを有する絶縁ワイヤの拡大断面図である。絶縁ワイヤは、単一の導電性金属のコアまたはマルチフィラメントの導電性金属のコア(例えば、銅、アルミニウム、銀または鋼)であってよいコア導電体10を含む。別の目的のため、代わりに、このコアは、ポリマー、炭素繊維またはセラミックのコアであってよい。
【0015】
コアの周囲は、PTFEの内層12であり、好ましくは、25μm〜75μmの厚さを有する。導電性金属のコアの場合、内層12は、電気的な絶縁を付与するのを支援する。非常に丈夫で低い摩擦係数を有する内層は、ワイヤが他の材料の絶縁層を破損させる可能性のある応力を受ける場合でさえ、コアを保護するのに頼りにされている。この層によって付与される電気的保護は、ドライ/ウェットな状態におけるアークトラッキングに対する耐性を含む。
【0016】
内側のPTFE層の周囲は、ポリアリールエーテルケトン、好ましくはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような、アリール基または複素環含有ポリマーの中間層14である。この層は、12μm〜100μm、好ましくは、25μm〜75μmの範囲の厚さを有する。この層は、擦り切れ(scrape)および動力学的な切断に対する耐性のような、優れた機械的特性を付与する。
【0017】
PEEK層の周囲は、焼結されたPTFEの最外層16である。この層は、電気抵抗および耐薬品性の両方を付与する。PTFE外層を有することは、構造体全体を焼結することを可能にする。このPEEK層は、焼結の間に流れ、アロイ化し、3つの層全ての特性を向上できる。
【0018】
本願発明に係る絶縁ワイヤを作るように薄いフィルムを付与することは、小型で薄く軽量な絶縁体を製造することを可能にする。
【0019】
図示されたワイヤは、個々の層を巻き付け、または2もしくは3つの層の層状複合フィルムを巻き付け、その後に焼結することによって、または3つの保護層の押出し、その後に焼結することによって製造できる。この焼結は、個々の層の特性の驚くべき相乗的な向上をもたらす。
【0020】
以下の実施例は、本願発明に係る高性能で耐熱性を有する軽量ワイヤの製造を示す。
【0021】
3つの連続する層は、22AWG銅を含むニッケルをコーティングした銅ワイヤに、テープにより螺旋状に巻き付けられた。まず、PTFEの内層は、4.0mmの幅および48μmの厚さを有するLenzingのLD−PTFEテープが巻き付けられ、45°〜55°の重なり角で螺旋状に巻き付けられた。
【0022】
中間層を形成するように、6.0mmの幅および45μmの厚さを有するPEEKテープ(APTIV 1,000)が、45°〜55°の重なり角で、内層と反対方向に巻き付けられた。
【0023】
最後に、外層は、内層と同じ巻き付け方向に、再び45°〜55°の重なり角で、6.5mmの幅および50μmの厚さを有する3P500グレードのPTFEテープにより、中間層上に巻き付けられた。
【0024】
それから、形成された3つの層は、軽量、高性能および耐熱性を有するワイヤを形成するように温度400℃で60秒〜90秒の滞留時間で焼結された。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと絶縁ポリマーシースとを含むワイヤまたはケーブルであって、該シースが、
12μm〜100μmの厚さを有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の内層と、
前記内層の周囲に位置し、芳香環および/または複素環を含むポリマーを含む12μm〜100μmの厚さを有する中間層と、
12μm〜100μmの厚さを有する焼結されたPTFEの外層と、
を含むワイヤまたはケーブル。
【請求項2】
前記中間層が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)またはそのブレンドもしくはアロイを含むことを特徴とする請求項1に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項3】
前記PAEKの中間層が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはそのブレンドもしくはアロイを含むことを特徴とする請求項2に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項4】
前記中間層が、5員環と縮合した6員環を含む複素環単位のポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項5】
前記中間層が、ポリベンゼミダゾール、ポリベンゾザゾールおよび/またはポリベンゾチアゾールの単位を含むことを特徴とする請求項4に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項6】
前記中間層が、25μm〜75μmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項7】
前記コアの周囲の前記3つの層のそれぞれが、25μm〜75μmの厚さを有することを特徴とする請求項6に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項8】
前記シースの前記中間層および/または前記内層が、焼結されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項9】
前記コアが導電性金属のコアであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項10】
前記コアが、銅、アルミニウム、銀または鋼であることを特徴とする請求項9に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項11】
前記コアが、ポリマー、カーボンファイバーまたはセラミックのコアであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項12】
前記3つの層のそれぞれが、個々に巻き付けられた層であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項13】
2または3つの前記絶縁層が、層状複合フィルムの形態で付与されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項14】
前記絶縁層および/または前記層状複合フィルムが、25%〜60%重なって前記コア上に螺旋状に巻き付けられていることを特徴とする請求項12または13に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項15】
前記絶縁層が押出しによって形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のワイヤまたはケーブル。
【請求項16】
12μm〜100μmの厚さを有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の内層と、
12μm〜100μmの厚さを有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の中間層と、
12μm〜100μmの厚さを有するPTFEの外層と、
を細長いコア上に螺旋状に巻き付け、少なくとも前記外層を焼結する工程を含む、絶縁されたワイヤまたはケーブルの製造方法。
【請求項17】
前記焼結が、350℃〜420℃の温度範囲で実施されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の第1の層と、芳香環および/または複素環を含むポリマーの中間の第2の層と、PTFEの第3の層と、を含む複合絶縁フィルムまたはテープ構造体。

【公表番号】特表2012−531024(P2012−531024A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516857(P2012−516857)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051000
【国際公開番号】WO2010/149994
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(501106735)タイコ・エレクトロニクス・ユーケイ・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】TYCO ELECTRONICS UK LIMITED
【Fターム(参考)】