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ワクチンに使用するためのHBV抗原の精製
説明

ワクチンに使用するためのHBV抗原の精製

【課題】チオメルサールフリーのワクチンの提供。
【解決手段】痕跡量のチオメルサールも含まない安定な免疫原性B型肝炎ワクチンの製造方法であって、(a)サッカロミセス・セレビシエ中で組換えタンパク質としてB型肝炎表面抗原を発現させる;(b)該サッカロミセス・セレビシエ細胞を処理して粗製の抗原調製物を産生する;(c)該粗製の抗原調製物をゲル浸透クロマトグラフィーに供することによって抗原含有溶離液を産生する。ここで使用する溶離バッファーはチオメルサールを含有しない;(d)ステップ(c)後に得られた該抗原含有溶離液をアニオン交換クロマトグラフィーに供する。;(e)ステップ(d)後に得られた該抗原含有溶離液にシステインを添加する;(f)ステップ(e)からの調製物をCsCl密度勾配遠心分離に供することによって、精製されたB型肝炎表面抗原を得る、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス(HBV)感染の治療または予防に使用するためのB型肝炎ワクチンの新規な製造方法に関する。さらに本発明は、本発明の新規方法によって得られるHBVワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性のB型肝炎ウイルス(HBV)感染症は、現状ではその治療法に限界があるので、きわめて大きい世界的な公衆衛生上の問題となっている。その数が世界中に3億人を超えると推定される慢性HBVキャリアには、慢性活動性肝炎、肝硬変および原発性肝細胞癌の発症のリスクがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在入手可能な多くのワクチンは、変質を防止するための保存剤を必要とする。使用されることが多い保存剤は水銀含有化合物のチオメルサールである。ワクチンにおいて水銀を使用することについては、いくつかの懸念が持ち上がっているが、論評者たちはチオメルサール含有ワクチンの潜在的有害性を誇張すべきでないと強調している(Offit;P.A. JAMA Vol.283;No:16)。そうであったとしても、製造方法でのチオメルサールの使用に代わる、より安全でありうるワクチンの新しい製造方法を見出すことは有益であるだろう。かくして、特にB型肝炎ワクチンにおいて、チオメルサールフリーのワクチンを開発することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、遊離SH基をもつ還元剤の存在下でB型肝炎抗原を精製することを含んでなる、ワクチンに使用するためのB型肝炎抗原の調製方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】Engerix B(商標)についてのチオメルサールフリーの調製工程を示した図である。
【図2】バルク抗原ロットのSDS-PAGE分析を示した図である。
【図3】チオメルサールフリーの方法で調製したバルク抗原ロット中の残留酵母タンパク質を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、好ましくは、遊離SH基をもつ還元剤の存在下でB型肝炎抗原を精製することを含んでなる、痕跡量のチオメルサールも含まない安定なB型肝炎抗原の調製方法を提供する。
【0007】
抗原調製物は、本明細書に記載するような水銀の吸光分光分析法を使用して、精製抗原中にチオメルサールが検出されないとき、一般に痕跡量のチオメルサールも含まないものとする。
【0008】
肝炎抗原調製物は、適切には吸光分光分析法によって測定したとき、タンパク質20μgにつき0.025μg未満の水銀を含むことが好ましい。
【0009】
好ましくは、精製をチオメルサールの不在下で実施して、精製された抗原を完全にチオメルサールフリーとする。
【0010】
好ましくは、抗原は安定であり、例えば本明細書の実施例1に記載するような、チオメルサールの存在下で精製された肝炎抗原と実質的に同程度の安定性があることが好適である。
【0011】
肝炎抗原は免疫原性があることが好ましい。
【0012】
還元剤は抗原の精製プロセスの間に添加することが好ましく、有利には肝炎抗原を発現する細胞を増殖させた後に添加する。
【0013】
好ましくは、還元剤はシステイン、ジチオトレイトール、βメルカプトエタノールもしくはグルタチオンであり、システインが最も好ましい。
【0014】
したがって、本発明は好ましくは、システインの存在下でB型肝炎抗原を精製することを含む、痕跡量のチオメルサールも含有しない、安定な免疫原性B型肝炎抗原の調製方法を提供する。
【0015】
好ましくは、精製をシステイン溶液の存在下で実施する。
【0016】
好ましくは、精製プロセスの間に溶液もしくは粉末形態のシステインを1〜10 mM、好ましくは1〜5 mMの最終濃度で添加する。さらに好ましくは、システインを約2 mMの最終濃度で添加する。
【0017】
好ましくは、システインはL-システインである。
【0018】
本発明はさらに、粗製の抗原をゲル浸透クロマトグラフィーにかけ、イオン交換クロマトグラフィーにかけ、そして遊離SH基をもつ還元剤と混合することを含んでなる、痕跡量のチオメルサールも含有しない、安定な免疫原性B型肝炎抗原の調製方法を提供する。
【0019】
好ましくは、イオン交換クロマトグラフィーはアニオン交換クロマトグラフィーである。
【0020】
本発明はさらに、本発明の調製方法によって得られるチオメルサールフリーのB型肝炎抗原であって、チオメルサールの存在下で調製されたものと少なくとも同程度に免疫原性および抗原性がある上記抗原を提供する。
【0021】
本発明はさらに、平均ELISAタンパク質比が1.5より大きく、チオメルサールの存在下で調製されたB型肝炎表面抗原よりも少なくとも3倍低いIC50値をもつRF1含有量である、免疫原性B型肝炎抗原を提供する。
【0022】
別の態様においては、本発明は、ワクチンに使用するためのB型肝炎抗原を調製する方法であって、チオメルサールの存在下で該抗原を精製し、続いて遊離SH基を含む還元剤の存在下で該抗原を処理することを含んでなる上記方法に関する。
【0023】
上記処理を行った後、チオメルサールを除去するための透析工程などの精製工程を実施するのが好適である。
【0024】
好ましくは、還元剤はシステイン、DTT、グルタチオンもしくは2-メルカプトエタノールである。
【0025】
本発明のB型肝炎抗原はB型肝炎感染症の治療または予防に使用することができ、特に、例えば慢性のB型肝炎感染症の治療または予防に使用される。
【0026】
本発明はさらに、本発明のB型肝炎抗原をアジュバントと共に含むワクチン製剤を提供する。好ましくは、アジュバントはアルミニウム塩またはTh1細胞応答の選択的刺激因子である。
【0027】
好ましくは、抗原はB型肝炎表面抗原である。
【0028】
B型肝炎表面抗原の調製については十分な報告がある。例えば、Harfordら、Develop. Biol. Standard 54, p.125(1983)、Greggら、Biotechnology, 5, p.479(1987)、EP-A-0 226 846、EP-A-0 299 108およびそこに引用された文献を参照されたい。
【0029】
本明細書で使用する「B型肝炎表面抗原」または「HBsAg」という表現には、あらゆるHBsAg抗原またはHBV表面抗原の抗原性を提示するそれらの断片が含まれる。HBsAg S抗原の226アミノ酸配列(Tiollaisら、Nature, 317, 489(1985)およびそこに引用された文献を参照)に加えて、本明細書に記載するHBsAgは、所望により、上記の文献およびEP-A-0 278 940に記載されるようなプレS配列の全部もしくは一部を含んでいてもよい。本明細書に記載するHBsAgは、例えばWO 91/14703に記載される「エスケープ突然変異体」(escape mutant)などの変異体をも意味することがある。
【0030】
HBsAgはまた、EP 0 198 474またはEP 0 304 578に記載されるポリペプチドを指すこともある。
【0031】
通常、HBsAgは粒状形態をしている。特に好ましい実施形態では、HBsAgは本質的に上記のHBsAg S抗原からなるものである。
【0032】
ワクチンは、有利には、適切なアジュバントなどの製薬上許容される添加剤を含有する。好適なアジュバントが市販されており、例えば以下のものがある:フロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, MI);Merck Adjuvant 65(Merck and Company, Inc., Rahway, NJ);AS-2(SmithKline Beecham, Philadelphia, PA);水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)もしくはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;カルシウム、鉄もしくは亜鉛の塩;アシル化チロシンの不溶性懸濁液;アシル化糖類;カチオンもしくはアニオン性誘導体化多糖類;ポリホスファゼン;生分解性ミクロスフェア;モノホスホリルリピドAおよびquil A。GM-CSFまたはインターロイキン-2、-7もしくは-12などのサイトカインもアジュバントとして使用することができる。
【0033】
本発明の製剤においては、アジュバント組成物が主としてTh1タイプの免疫応答を誘発することが好ましい。高レベルのTh1タイプのサイトカイン(例えばIFN-γ、TNFα、IL-2およびIL-12)は、投与された抗原に対する細胞性免疫応答の誘発を導く傾向がある。応答が主としてTh1タイプである好ましい実施形態においては、Th1タイプのサイトカインのレベルがTh2タイプのサイトカインのレベルよりも大幅に増加する。これらのサイトカインのレベルは標準的アッセイを使用して容易に評価することができる。サイトカインのファミリーの総説については、MosmannおよびCoffman, Ann. Rev. Immnol. 7:145-173, 1989を参照されたい。
【0034】
したがって、主としてTh1タイプの応答を引き出す際に使用するのに好適なアジュバントとしては、例えばアルミニウム塩と組み合わせたモノホスホリルリピドA、好ましくは3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)が挙げられる。主としてTh1タイプの免疫応答を引き出すその他の公知のアジュバントとしては、CpG含有オリゴヌクレオチドがある。このオリゴヌクレオチドは、CpGジヌクレオチドがメチル化されていない点に特徴がある。こうしたオリゴヌクレオチドは周知であり、例えばWO 96/02555に記載されている。また、免疫刺激性DNA配列も、例えばSatoら、Science 273:352, 1996に記載されている。その他の好適なアジュバントはサポニン、好ましくはQS21(Aquila Biopharmaceuticals Inc., Framingham, MA)であり、これは単独で使用しても、他のアジュバンドと組み合わせて使用してもよい。例えば、ある促進系は、モノホスホリルリピドAとサポニン誘導体の組合せ(例えば、WO 94/00153に記載されるQS21と3D-MPLの組合せ)、またはWO 96/33739に記載されるような、QS21がコレステロールで抑制されている、あまり反応原性でない組成物を含む。その他の好ましい製剤は水中油型乳剤およびトコフェロールを含む。水中油型乳剤中にQS21、3D-MPLおよびトコフェロールを含む特に強力なアジュバント製剤がWO 95/17210に記載されている。
【0035】
水中油型乳剤中にQS21、3D-MPLおよびトコフェロールを含む特に強力なアジュバント製剤がWO 95/17210に記載されており、これは好ましい製剤である。
【0036】
したがって、本発明の1つの実施形態では、本発明のB型肝炎表面抗原を含み、さらにTh1誘発性アジュバントを含むワクチンが提供される。好ましい実施形態は、Th1誘発性アジュバントが3D-MPL、QS21、QS21とコレステロールの混合物、およびCpGオリゴヌクレオチドを含むアジュバントの群から選択されるワクチンである。別の好ましい実施形態は、水中油型乳剤中のモノホスホリルリピドAもしくはその誘導体、QS21およびトコフェロールをアジュバントとして添加したB型肝炎表面抗原を含むワクチンである。
【0037】
好ましくは、ワクチンはさらにサポニン、より好ましくはQS21を含む。CpGおよびサポニンを含む特定の好適なアジュバント製剤がWO 00/09159に記載されており、これは好ましい製剤である。最も好ましくは、この特定の製剤中のサポニンがQS21である。好ましくは、その製剤はさらに水中油型乳剤およびトコフェロールを含む。
【0038】
本発明はさらに、本発明のB型肝炎表面抗原をアジュバントと共に含み、さらに次の群:ジフテリアトキソイド(D)、破傷風トキソイド(T)、無細胞百日咳抗原(Pa)、不活化ポリオウイルス(IPV)、インフルエンザ菌(haemophilus influenza)抗原(Hib)、A型肝炎抗原、単純ヘルペスウイルス(HSV)、クラミジア、GSB、HPV、肺炎連鎖球菌(streptococcus pneumoniae)およびナイセリア抗原から選択される1種以上の抗原を含むワクチン製剤を提供する。その他の疾病からの保護を与える抗原も本発明のワクチン製剤に含めることができる。
【0039】
特定の実施形態において、ワクチン製剤は、本発明の調製方法によって得られるB型肝炎抗原を、アジュバントと不活化ポリオウイルスと共に含有する。
【0040】
本発明はまた、B型肝炎ウイルス感染の治療および/または予防方法であって、B型肝炎ウイルス感染にかかっているかまたはかかりやすいヒトもしくは動物被験者に、B型肝炎感染を予防および/または治療するのに有効かつ安全な量の本発明のワクチンを投与することを含んでなる上記方法を提供する。
【0041】
さらに本発明は、慢性B型肝炎ウイルス感染などのB型肝炎ウイルス感染にかかっている患者を治療するための医薬の製造における、本発明のB型肝炎表面抗原の使用を提供する。
【0042】
本発明のワクチンは、免疫防御量の抗原を含有するもので、慣用方法によって調製することができる。
【0043】
ワクチンの調製については、PowellおよびNewman編, Pharmaceutical Biotechnology, Vol.61 Vaccine Design-the subunit and adjuvant approach, Plenum Press, 1995、Vollerら編、New Trends and Developments in Vaccines, University Park Press, Baltimore, Maryland, U.S.A. 1978に全般的に記載されている。リポソーム内への封入は、例えばFullertonの米国特許第4,235,877号に記載されている。タンパク質の巨大分子へのコンジュゲーションは、例えばLikhiteの米国特許第4,372,945号およびArmorらの米国特許第4,474,757号に開示されている。Quil Aの使用は、Dalsgaardら、Acta Vet Scand, 18:349(1977)に開示されている。3D-MPLは、Ribi immunochem, USAから入手可能であり、英国特許出願第2220211号および米国特許第4912094号に開示されている。QS21は米国特許第5057540号に開示されている。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施例1
チオメルサールの存在下でのB型肝炎表面抗原の調製方法
SB Biologicals社のB型肝炎1価ワクチン(Engerix B(商標))のB型肝炎表面抗原(HBsAg)をSaccharomyces cerevisiae中で組換えタンパク質として発現させる(Harfordら、上記引用文献参照)。24 kDタンパク質を細胞内で産生させ、組換え酵母細胞中に蓄積させる。発酵の終わりに酵母細胞を回収し、Tween 20などの温和な界面活性剤の存在下で破壊して、所望のタンパク質を遊離させる。次に、可溶性の表面抗原粒子を含有している細胞ホモジネートを一連の沈殿で予備精製し、その後限外濾過によって濃縮する。
【0046】
その後のクロマトグラフィーによる分離によって、組換え抗原のさらなる精製を実施する。第1工程では、粗製の抗原濃縮物をセファロース4B媒体によるゲル浸透クロマトグラフィーにかける。4Bゲル浸透クロマトグラフィー工程での溶離バッファー中にチオメルサールを存在させる。溶離バッファーは以下の組成からなる:10 mM Tris、5%エチレングリコール、pH7.0、50 mg/L チオメルサール。このバッファー中にチオメルサールを含ませて、バイオバーデン(bioburden:微生物負荷)を防止する。このチオメルサールの大部分はイオン交換クロマトグラフィー、超遠心分離および脱塩(ゲル浸透)を含む後続の精製工程において除かれ、結果として、当初の方法で調製された精製バルク抗原調製物はタンパク質20μgにつき約1.2μgおよび2μg未満のチオメルサールを含有するようになる。
【0047】
DEAEマトリックスを使用してイオン交換クロマトグラフィー工程を実施し、次にこのプールを、事前に設定した塩化セシウム濃度が異なる4層上でのセシウム勾配超遠心分離にかける。混在する細胞成分から抗原粒子をそれらの勾配中での密度にしたがって分離し、遠心分離工程の最後に溶離させる。次にセファロースゲル上での2回目のゲル浸透クロマトグラフィーによって、このプールから塩化セシウムを除去する。
【0048】
4Bゲル浸透バッファー中にチオメルサールを含む方法によってHBsAgを調製する場合、CsCl勾配からプールされたHBsAg含有画分中に30 mg/mlを超えるタンパク質濃度が回収され、この濃度はAbbott LaboratoriesからのAUSZYMEキットでアッセイしたときのHBsAgの同等の濃度に対応する。
【0049】
CsCl超遠心分離工程では、HBsAg調製物から残留脂質、DNAおよびマイナーなタンパク質混入物が効果的に除去される。これはBeckman Instruments (Fullerton, California)製のTi 15ローターで速度 30,000 rpm、約40〜60時間のゾーン遠心分離によって実施する。精製しようとするサンプルを、最終濃度が0.75、1.5、2.5および3.25 MのCsCl溶液の層にアプライする。遠心分離の最後に、その勾配を画分へと溶離させる。HBsAg含有画分は、280 nmでのUV吸収によるか、またはAUSZYMEキットで画分の希釈物を試験することによって、確認することができる。HBsAgバンドは1.17〜1.23 g/cm3の密度の部分に存在する。
【0050】
ワクチン製剤の調製に使用する前に、精製したHBsAgを含有する溶液を滅菌濾過する。
【0051】
酵母細胞溶解物からの精製は複雑である。なんとなれば、抗原が細胞内で産生され、純粋なバルク抗原を取得するためには、様々なタイプの(酵母)混入物を排除するように設計された一連の分離技法が必要となるからである。精製すべき産物が表面抗原ポリペプチドの複数のコピーを含有するリポタンパク質粒子であり、この構造を精製プロセス全体を通して維持しなければならないので、精製の各工程は重要である。この方法の特殊性は、免疫原性を増強するためのさらなる化学的処置を施す必要のない、十分に免疫原性のある表面抗原粒子をもたらすことにある(EP0135435と比較されたい)。
この調製方法の詳細は欧州特許第0199698号にさらに記載されている。
【0052】
実施例2
チオメルサールフリーの方法による酵母由来のHBsAgの調製および特性決定
1.酵母由来のHBsAgの調製および精製
1.1 調製方法の概要
B型肝炎表面抗原は、例えばHarfordら(上記引用文献)に記載されるような、適切なSaccharomyces cerevisiae株の発酵によって生産することができる。
【0053】
組換え酵母株の大規模発酵の終了時に、細胞を回収し、Tween 20などの温和な界面活性剤の存在下で破壊する。次に、上記実施例1の記載に正確に従って、セファロース 4Bでの最初のゲル浸透工程までの多工程抽出・精製手順によって表面抗原を単離する。
【0054】
1.2 チオメルサールフリーの精製法
チオメルサールフリーの方法では、実施例1に記載した方法に対して以下の2つの変更を導入した。
1. 4Bゲル浸透クロマトグラフィー工程の溶離バッファーがここではチオメルサールを含まない。
2. アニオン交換クロマトグラフィー工程からの溶離液プールにシステイン(最終濃度 2 mM)を添加する。
【0055】
4Bゲル浸透バッファーからチオメルサールを取り除くと、CsCl密度勾配遠心分離工程においてHBsAg粒子の沈殿が生じ、産物の損失および回収抗原の集合もしくは凝集をもたらすことがわかった。
【0056】
前工程のアニオン交換クロマトグラフィーからの溶離液プールに最終濃度2 mMのシステインを添加すると、CsCl密度勾配遠心分離中の抗原の沈殿および損失が防止される。
【0057】
システインはこの処理にとって好ましい物質である。なぜなら、システインは天然に存在するアミノ酸であり、カラムマトリックスとしてセファロース 4BCLFFを用いたゲル浸透カラムによる後続の脱塩工程で除去できるからである。
実施例1に記載した方法に対して、その他に調製方法の変更はない。
【0058】
このチオメルサールフリーの方法からは、実施例1の方法で得られる抗原に匹敵する純度と性質をもつバルク抗原が得られる。
【0059】
1.2a
4Bバッファーに50μg/mlで添加されたチオメルサールは分解すると考えられ、生成するエチル水銀がタンパク質のシステイン残基上の遊離スルフヒドリル基に共有結合することがある。このタンパク質は14個のシステイン残基を含有し、そのうち7個が101位と150位の間に位置している。
【0060】
このタンパク質領域は、粒子の表面に在って、免疫優性領域およびRF1モノクローナル抗体のための認識部位を含むHBsAgの主要抗原領域を含有していると考えられる(Waters Jら、Postgrad. Med. J., 1987:63(Suppl. 2):51-56、およびAshton-RickardtおよびMurray, J. Med. Virology, 1989:29:196)。4Bゲル浸透バッファー中にチオメルサールを存在させて精製した抗原は、精製プロセスの最後に約0.5〜0.6μgの水銀を含んでいる。この水銀は単純な透析では完全には除去されない。
【0061】
ある実験において、バルク抗原調製物に対して、タンパク質20μgにつき水銀0.56μgが測定された。この調製物を150 mM NaCl、10 mM NaPO4バッファー pH6.9に対して室温で16時間透析した。透析の終了時、タンパク質20μgにつき0.33μgの水銀濃度が測定された。
【0062】
これに対して、0.1〜5.0 mg/mlのL-システイン、50 mMのDTTもしくは0.5 Mの2-メルカプトエタノールなどの還元剤の存在下で透析し、続いて還元剤を除去するための2回目の透析を行うと、抗原調製物の水銀含量はタンパク質20μgにつき水銀0.025μg未満に低下する。この数値はこの方法の検出下限にあたる。
【0063】
水銀含量は吸光光度分析法によって測定した。0.01%w/vの重クロム酸カリウム(K2Cr2O7)および5%v/vの硝酸を含有する溶液中に抗原を希釈する。水銀源としてチオメルサールを用いて標準溶液を調製する。サンプルおよび標準溶液の原子吸光を、蒸気発生器中で気化させた後、水銀特異的カソードによって253.7 nmで測定する。ブランクとして希釈用液体の原子吸光を測定する。標準溶液から作成した検量線からサンプルの水銀含量を算出する。結果はタンパク質20μgあたりの水銀μgで表す。
【0064】
1.3 チオメルサールフリーのバルク抗原の調製
バルク抗原を精製するためのプロセス工程を図1に示す。
【0065】
1.4 チオメルサールを使用しないで製剤化したワクチンの組成
チオメルサールフリーの方法によって調製した抗原から製剤化された、保存剤を含まないB型肝炎ワクチンの典型的な量的組成を表1に示す。
【0066】
【表1】

3D-MPLおよび/またはその他のアジュバントの添加によって、この組成を変更してもよい。
【0067】
2.チオメルサールフリーの方法によって調製したバルク抗原およびワクチンの特性決定
2.1 精製したバルク抗原の試験およびアッセイ
2.1.1 比較の基準
この実施例(実施例1.2)に従うチオメルサールフリーの方法によって3ロットのバルク抗原を調製した。これをHEF001、HEF002およびHEF003と命名する。これらを、チオメルサールの存在下で従来の方法(実施例1に記載)によって調製した1ロットのバルク抗原(HEP2055)と比較した。
【0068】
2.1.2 バルク抗原の試験およびアッセイ
チオメルサールフリーの方法によって調製した3ロットのバルク抗原を試験した。その結果を表2に要約する。
タンパク質含量はLowryらの方法(J. Biol. Chem. 1951:193:265)によって測定した。
エンドトキシン含量は、Cape Cod Associates(704 Main St., Falmouth, MA 02540, USA)から市販されているキットを使用し、リムルス(Limulus)ゲル凝固法によって測定した。試薬は米国薬局方エンドトキシン標準品(US Pharm. Endotoxin Reference Standard)に対して標準化する。
【0069】
Tween20は、HuddlestonおよびAllredの方法(J. Amer. Oil Chemist Soc., 1965:42:983)によって測定した。
HBsAg含量は、Abbot Laboratories(One Abbott Park Road, Abbott Park, IL 60064, USA)から市販されているAusZYMEキットによって測定した。製造元のアッセイ手順Bを採用した。用量応答曲線を確立するための標準として、チオメルサールを使用する方法で精製したバルク抗原のバッチを使用した。
【0070】
多糖類はDuboisらの方法(Anal. Chem. 1956:28:350)によって測定した。
脂質はE.Merck(B.P.4119, Darmstad D-6100, Germany)の市販キット(Merkotest Total Lipids 3321)を使用して測定した。
DNA含量は、Molecular Devices Corp.(Gutenbergstrasse 10, Ismaning, Munich, Germany)から入手し得る装置および試薬を使用してThreshold法によって測定した。
【0071】
これらの試験およびアッセイで得られた数値は、ELISAによる抗原活性を除いて、セファロース4Bゲル浸透工程の溶離バッファー中にチオメルサールを使用して調製したバルク抗原ロットについて見られる範囲内に存在する。3つのHEF調製物についてのこの例外の測定値は、バルク抗原ロットHEP2055について見られるもの(ELISA/タンパク質比が1.13)よりも高い(1.63〜2.25)。チオメルサールを含有するバルク抗原のバッチについてAUSZYMEキットで測定したELISA/タンパク質比は一般的に約1.0であり、0.8〜1.2の範囲内であって、1.4を超えることは非常に稀である。
【0072】
2.1.3 SDS-PAGEゲル分析
還元条件でのSDS-PAGE分析およびクーマシーブルー(Coomassie blue)染色によってバルク抗原調製物をアッセイした。全サンプルが24 Kに主要バンドを示し、痕跡量の二量体タンパク質が存在した。混在タンパク質の目視できるバンドの消失によって評価して、サンプルは高純度(純度>99%)であると判定した。
【0073】
還元および非還元条件でのSDS-PAGEならびに銀染色によって、バルク抗原調製物のサンプル(1μg)をアッセイした(図2)。還元条件ではサンプルは24 Kに泳動する強いバンドを示し、痕跡量の二量体および多量体が存在した。ゲルパターンは比較物としてのHEP2055のものと区別できない。サンプルを非還元条件でも分析した。これらの条件では24 Kに泳動する物質は少なくなり、二量体および多量体の位置に泳動するポリペプチドの量が増加する。チオメルサールフリーのバルク抗原ロットは比較物のHEP2055ロットよりも重合の度合いがやや高いようである。
【0074】
クーマシーブルーまたは銀染色によって明らかになった24 Kポリペプチドの正体(アイデンティティー)を、血漿HBsAgに対するウサギポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットによって確認した。バルク抗原調製物は24 Kに主要バンドを示すとともに二量体および三量体も示す。この技法からは表面抗原タンパク質の分解産物がごくわずかに見られる。チオメルサールフリーの方法によって調製したバルク抗原とHEP2055ロットとの間に差異はない。
【0075】
残留酵母タンパク質の存在は、還元条件でのSDS-PAGE分析および酵母タンパク質に対するウサギポリクローナル抗血清を用いたウエスタンブロットによってアッセイした(図3)。この技法は定性的なものであって、不純物の定量はできない。
【0076】
1つを除外して、チオメルサールフリーの方法によって調製した3つのバルク抗原ロットおよびHEP2055ロットについて、一定のバンドパターンが示される。
【0077】
HEP2055バルク抗原に存在する強く染色した±23 Kのバンドは、3つのHEF調製物には肉眼では存在しない。ウエスタンブロットは、チオメルサールフリーの精製法の結果、より純粋な抗原産物が得られることを示している。
【0078】
【表2】

【0079】
2.1.4 その他の生化学的試験およびアッセイ
2.1.4.1 DNA含量
Threshold法(Molecular Devices Corp)によって、3つのバルク抗原ロットのDNA含量を測定した。測定した量はタンパク質20μgにつきDNA 10 pg未満であり、現在承認されている方法によって調製されたバルク抗原で見られるDNA含量と同レベルであった。
【0080】
2.1.4.2 アミノ酸組成
3つのHEFバルク抗原ロットのアミノ酸組成は、6N HClでの酸加水分解後、イオン交換カラムによるアミノ酸のクロマトグラフィーおよびカラム後のニンヒドリン検出によって測定した。プロリンとトリプトファンは測定しなかった。結果を表3に示す。
【0081】
見出された組成はHEP2055について測定したものおよびDNA配列から予測された組成と良好に一致する。HEP2055について測定したグリシン残基の数は予測組成に近似するが、バルク抗原調製物については16〜17残基数がより普通に測定される。見出されたシステイン残基の平均数は予測された14であり、CsCl勾配工程での処理の結果、粒子に余分のシステインが結合していないことを示している。
【0082】
2.1.4.3 遊離システインの定量
記載した方法に従って取得したバルク抗原調製物中に存在する遊離システインの量を、事前の酸加水分解をせずに過ギ酸による粒子の酸化後に測定した。酸化した遊離システイン残基をイオン交換カラムで分離し、カラム後にニンヒドリンによって検出した。この方法によるシステインの検出限界は1μg/mlである。
【0083】
表2に示す初期タンパク質濃度で試験したとき、3つのHEF抗原調製物では遊離のシステインを測定することはできなかった。
この技法では、バッファー中に存在する遊離システイン残基と、ジスルフィド結合によってHBsAgタンパク質に結合しているがポリペプチド配列の一部を構成するものではないシステイン残基の両方が測定される。
【0084】
2.1.4.4 N-末端配列分析
改変方法によって調製された3つのバルク抗原ロット中の混在タンパク質および分解産物の存在を、エドマン分解を基礎とするN-末端配列分析によって評価した。HBsAgタンパク質のN-末端配列 MENITS...は、他の配列に干渉されることなく検出された。通常の方法によって調製されたHBsAgポリペプチドについて以前に観察されたように、N-末端メチオニンがアセチル化によって60〜75%ブロックされることも確認された。
【0085】
【表3】

【0086】
2.1.4.5 レーザー光散乱分析
改変方法を使用して調製したHBsAg粒子とHEP2055参照ロットとの間で、レーザー光散乱によって粒子サイズの比較を実施した(表4)。
測定された平均分子量は両調製物間で良好な一致を示す。
【0087】
【表4】

【0088】
2.1.4.6 電子顕微鏡検査
バルク抗原調製物を、固定および酢酸ウラニルによる染色後、電子顕微鏡検査で試験した。
観察された粒子は全サンプルにおいて類似しており、HBsAgに典型的な±20 nmの不完全球形または玉石様粒子であった。3つのHEFロットにおいて観察された粒子はHEP2055のものと区別できなかった。
【0089】
2.1.5 免疫学的分析
2.1.5.1 RF1モノクローナル抗体との反応性
ELISA阻害アッセイによって、3つのバルク抗原調製物をそれらのRF1モノクローナル抗体との反応性について試験した。RF1モノクローナル抗体は、HBVチャレンジからチンパンジーを防御することがわかっており、このことからHBsAg粒子上の防御性立体配座エピトープを認識すると考えられる(Iwarson Sら、1985, J. Med, Virol., 16:89-96)。
【0090】
Balb/Cマウスの腹腔内または組織培養下でRF1ハイブリドーマを増殖させることができる。
飽和バッファー(1% BSA、0.1% Tween 20を含有するPBS)で1/50000に希釈した腹水を、試験するHBsAgサンプルのPBS中の各種希釈物(100μg〜0.05μg/mlの範囲の最終濃度)と1:1に混合した。
【0091】
混合物をNunc Immunoplates(96U)中37℃で1時間インキュベートした後、HBsAgの標準調製品をコートしたプレートに37℃で1時間移した。標準HBsAg調製品はチオメルサール含有方法によって精製したバルク抗原のロット(Hep 286)とした。0.1%のTween 20を含有するPBSで洗浄した後、飽和バッファーで1/1000に希釈したビオチン結合ヒツジ抗マウスIgGを添加して、37℃で1時間インキュベートした。洗浄工程後、飽和バッファーで1/1000に希釈したストレプトアビジン-ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体を同ウェルに添加し、37℃で30分インキュベートした。プレートを洗浄し、0.1M クエン酸バッファー pH4.5中のOPDA 0.04%、H2O2 0.03%の溶液とともに室温で20分インキュベートした。2N H2SO4で反応を停止させ、490/630nmで光学密度(O.D.)を測定し、グラフにプロットした。
【0092】
コートしたHBsAgへの抗体結合を50%阻害する抗原の濃度(インヒビター濃度)として定義されるIC50は、4パラメーター式を使用して算出し、ng/mlで表した。
【0093】
HEP2055を含む一連のHEP抗原ロットも、陰性対照としての単純ヘルペスgD抗原とともに試験した。このアッセイでは、マイクロタイタープレートに結合させた標準抗原調製品(HEP286)へのRF1の結合を阻害する各試験抗原の能力を測定する。
【0094】
表5に、固定抗原へのRF1結合を50%阻害することがわかった各抗原の濃度を示す。
【0095】
【表5】

【0096】
結果は、RF1結合を阻害するために必要とされるHEF抗原は4〜7倍少ないことを示している(表5)。このことから、改変方法で調製した抗原はHEPバルク抗原に比較してRF1エピトープの提示が増大していることがわかる。
【0097】
RF1 mAbの代わりにEngerix B(商標)ワクチンからのヒト血清を使用して同様の阻害アッセイを実施したが、HEP抗原ロットとHEF抗原の間に差異は見られなかった。
【0098】
2.1.5.2. モノクローナルRF1への結合親和性
3つのHEF抗原ロットおよびHEP2055へのRF1モノクローナル抗体結合の速度論的パラメーターは、Amersham Pharmacia Biotech (Amersham Place, Little Chalfont, Bucks, UK) 製のBiacore 2000装置を使用して、表面プラズモン共鳴により測定した。測定した速度論的パラメーターは以下のものである:
ka:会合速度定数(M-1S-1
kd:解離速度定数(S-1
Ka:平衡もしくは親和定数(M-1
ここで、Ka=ka/kd
得られた数値を表6に示す。
【0099】
【表6】

【0100】
3つのHEF抗原ロットは同様の会合/解離定数および結合親和性の数値を示した。対照的に、HEP2055はRF1への結合親和性が比較的低かった。これは、チオメルサールフリーの方法で調製した抗原はRF1エピトープの提示が増大していたことを示すELISA阻害アッセイの結果と一致している。
【0101】
2.2. 改変方法で調製した抗原を用いて製剤化したワクチンについての試験およびアッセイ
3つのHEF抗原ロットを水酸化アルミニウムに吸着させ、表1に示した組成に従ってワクチンとして製剤化した。この表示はバイアル中の成人用量である(1ml中に抗原タンパク質 20μg)。これらのロットをDENS001A4、DENS002A4およびDENS003A4として識別する。
【0102】
ワクチンの効力は、Abbott Laboratories製のAUSZYME ELISAキットおよび標準品として従来のワクチンロット(50μg/mlのチオメルサールを用いて製剤化したもの)を使用して、in vitro抗原含量アッセイにより測定した。PharmaEuropa Special Issue Bio97(1997年12月)に記載されている方法Bを使用して、ワクチン効力を測定した。3つのHEFロットは抗原含量について高い数値を示し、20μg抗原タンパク質の所定含量のほぼ2倍である。
【0103】
2.2.1 DENSワクチンとRF1モノクローナル抗体との反応性
吸着させたワクチンの抗原性を、RF1モノクローナル抗体による阻害アッセイにおいてさらに試験した。このアッセイでは、固定したバルク抗原(HEP286)へのRF1結合を阻害するワクチンサンプルの能力を測定する。
飽和バッファー(1% BSA、0.1% Tween 20を含有するPBS)で1/50000に希釈した腹水を、試験するワクチンサンプルのPBS中の各種希釈物(20μg〜0.05μg/mlの範囲の最終濃度)と1:1に混合した。
【0104】
混合物をNunc Immunoplates(96U)において37℃で2時間振盪させながらインキュベートした後、HBsAgをコートしたプレートに移した。コーティングのために使用したHBsAg調製品はチオメルサール含有方法で精製したバルク抗原ロット(Hep286)とした。その後これらのプレートを振盪させながら37℃で2時間インキュベートした。0.1% Tween 20を含有するPBSで洗浄した後、飽和バッファーで1/1000に希釈したビオチン結合ヒツジ抗マウスIgGを添加して、37℃で1時間インキュベートした。洗浄工程後、飽和バッファーで1/1000に希釈したストレプトアビジン-ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体をそのウェルに添加し、37℃で30分インキュベートした。プレートを洗浄し、0.1M クエン酸バッファー pH4.5中にOPDA 0.04%、H2O2 0.03%を含有する溶液とともに室温で20分インキュベートした。2N H2SO4で反応を停止させ、490/630 nmで光学密度(O.D.)を測定し、グラフにプロットした。
【0105】
コートしたHBsAgへの抗体結合を50%阻害する抗原の濃度(インヒビター濃度)として定義されるIC50は、4パラメーター式を使用して算出し、ng/mlで表した。
【0106】
改変方法で調製したバルク抗原から製剤化したワクチンを、従来のHEPバルク抗原から製剤化し、保存剤としてチオメルサールを含まないEngerix B(商標)ワクチンと比較した。アッセイを3回繰り返して実施した。
【0107】
結果を表7に示すが、これらの結果から、RF1結合を50%阻害するために必要
とされるDENSワクチンの量は、保存剤を含まないEngerix B(商標)ワクチンに比較して、約半量であることがわかる。これはHEF/DENS抗原上のRF1エピトープ提示の増加を反映しており、精製バルク抗原についてRF1抗体を用いて実施した試験と一致している。
【0108】
【表7】

【0109】
2.2.2 マウスにおけるDENSワクチンの免疫原性
Balb/Cマウスにおいて、3つのDENSコンシステンシーロットの免疫原性を、現在の抗原調製法に従って調製しチオメルサールを用いて製剤化したEngerix B(商標)の免疫原性と比較するための研究を実施した。
【0110】
以下のロットを試験した:
#DENS001A4
#DENS002A4
#DENS003A4
#ENG2953A4/Q(参照)
簡単に述べると、12匹/群のマウスを免疫するために、成人用量の1/10(2μg)または1/50(0.4μg)に相当するワクチン用量を2週間おきに2回筋内注射した。28日目に採取した血清から、HBsAgに対する抗体応答およびワクチン接種によって誘発されたアイソタイププロファイルをモニターした。
【0111】
実験計画
以下のワクチン用量を0日目および15日目に12匹/群のマウスの両足に筋内注射(2x50μl)した。
【0112】
【表8】

【0113】
15日目(1回目の2週間後)および28日目(2回目の2週間後)に、眼窩後洞から血液を採取した。
この実験の計画(12匹/群のマウスを用いて4製剤×2用量)のために、PASS統計プログラムによって演繹的に効力を概算した。PASS(Power and Sample Size)統計プログラムはNCSS (329 North 1000 East, Kaysville, Utah 84037)から入手した。二元分散分析については、α誤差5%を有する製剤間の2.5倍のGMTの差はpower>90%で検出すべきである。
【0114】
結果
血清学:
抗HBs抗体の結合を明らかにするため、コーティング抗原としてのHBsAg(Hep286)およびビオチン結合抗マウス抗体を使用するELISAアッセイによって、体液性応答(総Igおよびアイソタイプ)を測定した。2回目後の血清のみを分析した。
表9は、2回目の2週間後の各血清について測定した、平均およびGMT抗HBs Ig抗体応答を示す。
匹敵する抗体応答がDENSおよび従来のB型肝炎製剤によって誘発される。すなわち、2μg用量では、SB Biologicals社のB型肝炎1価ワクチン(Engerix BTM)が2882 EU/mlであるのに対して、DENSロットは2304〜3976 EU/mlの範囲のGMTであり、0.4μg用量では、SB Biologicals社のB型肝炎1価ワクチン(Engerix BTM)が627 EU/mlであるのに対して、DENSロットは696〜1182 EU/mlの範囲のGMTである。
【0115】
・予想されたように、2μgおよび0.4μg用量の全製剤について、明らかな抗原用量範囲の効果が認められ、3〜6倍のGMTの差がある。
・注射に使用した抗原用量またはロットとは明確な関連なしに、4匹の非応答マウス(力価<50 EU/ml)が観察された(1、2、3および8群;各群に1匹)。統計的分析(Grubbs検定)に基づいて、これらのマウスを以後の分析から除外した。
【0116】
【表9】

【0117】
統計的分析:
ワクチン(4ロット)および抗原の用量(2μgおよび0.4μg)を要因として使用して、2回目後のデータのlog変換後の抗HBs力価について二元分散分析を実施した。この分析により、2つの抗原用量間で統計的有意差が認められた(p値<0.001)が、ワクチンロット間では有意差が認められなかった(p値=0.2674)。先に記載したように、効力は演繹的に概算され、実験の設計は、α誤差5%を有する2.5倍のGMTの差がpower>90%で製剤間に検出されるようにした。
【0118】
アイソタイプのプロファイル:
表10は、2回目後にプールした血清の分析から算出したアイソタイプ再分割(IgG1、IgG2aおよびIgG2b)を示す。
【0119】
・予想されたように、主としてIgG1抗体が観察されるので、明らかなTh2応答がこれらミョウバンベースのワクチンによって誘発される。
【0120】
アイソタイププロファイルの見地からは、DENSロットまたはSB Biologicals社のB型肝炎1価ワクチン間で差異は認められなかった。
【0121】
【表10】

【0122】
実施例3
複合ワクチン製剤
本発明のバルク抗原はIPVを含む複合ワクチン製剤に特に好適である。
【0123】
複合DTPa-HBV-IPVワクチンの初期ロットについて実施した安定性の研究では、in vitroイムノアッセイ(ELISAによるD抗原含量の測定)およびin vivoラット効力試験を使用したとき、IPV成分、特に1型ポリオ抗原の効力の低下が示された。3型については効力の低下がまったく観察されなかった。2型については、効力の低下は予測された範囲内(貯蔵1年につき10%以下の低下)であった。
【0124】
複合DTPa-HBV-IPVワクチンにおけるこの効力低下の原因を調べるための研究を開始した。SB Biologicals社のDTPa-IPVワクチンに含まれるIPVの安定性が満足すべきもの(貯蔵1年につき10%以下の抗原含量低下)であるという観察から、DTPa-HBV-IPVワクチン中ではHBV成分がIPVの不安定性の原因となるらしいと結論づけた。
【0125】
初期のDTPa-HBV-IPV製剤で使用したHBV成分は、SB Biologicals社のB型肝炎1価ワクチンの製造にも使用される、実施例1の記載のとおりに調製した、精製されたr-DNA、酵母由来HBsAgである。
【0126】
HBV成分中のどの要素がIPVに有害であるかを判定するための最初の試験として、HBsAgバルクをチオメルサールの存在について分析した。DTPワクチンの保存剤として使用したチオメルサールはDTP-IPV複合剤中の「ポリオウイルスにとって有害である」ことがすでにわかっている(Davissonら、1956, J. Lab. Clin. Med 47:8-19)。この観察を配慮して、ワクチン製造業者はIPV含有ワクチンを製剤化するにあたってチオメルサールを別の保存剤と取り替えている。さらに最近になって、+4℃での長期貯蔵条件下でチオメルサールがIPVの効力に及ぼす影響を再試験した。4〜6ヵ月後に1型ポリオウイルス抗原の効力の検出不能レベルまでの低下が報告された(Sawyer,L.A.ら、1994, Vaccine 12:851-856)。
【0127】
原子吸光分光分析を使用して、実施例1に従って精製した抗原中に、HBsAg 20μgあたり水銀(Hg)約0.5μgが検出された。
【0128】
37℃で7日間インキュベートしたIPVバルク濃縮物において、この量の(チオメルサールおよびチオメルサールの分解産物である塩化エチル水銀としての)水銀は、1型D抗原含量に対するELISA応答を検出不能レベルにまで低下させることが可能である。
【0129】
HBsAgバルク中に存在する水銀を放出させるための方法が確立された。水銀はHBsAg粒子上のチオール基に結合しており、したがって還元剤の存在下で放出させることができるものと仮定した。他の還元剤を用いた実験の後、HBsAg粒子から水銀を放出させるための薬剤として、L-システインが選択された。5.7mM L-システインを含有する生理食塩水に対してHBsAgバルクを透析した後、保持物質中に水銀はまったく検出されなかった(この試験法の検出限界:25ng Hg/20μg HBsAg)。透析した抗原をIPVバルク濃縮物と混合し、37℃で7日間インキュベートした後のD抗原含量を測定することによって1型ウイルスの安定性を評価した。対照として、HBsAgと混合しないIPVバルク濃縮物、およびシステインで処理してないHBsAgと混合したIPVバルク濃縮物を使用した。+2℃〜+8℃で7日間貯蔵したサンプルについて参照ELISA力価を取得した。
【0130】
結果を表11にまとめてある。
【0131】
【表11】

【0132】
これらの実験調製物から得られたデータは、IPVとの混合前にHBsAgをシステインで処理して残留水銀を除去すると、1型ポリオウイルスの安定性が顕著に改善されることを明確に証明している。
【0133】
上に示したデータはまた、37℃で7日間のインキュベーション後、参照IPV調製物ではD抗原含量が23%低下することも示している。これは、既報(Sawyer,L.A.ら、1994, Vaccine 12:851-856)の1型Mahoneyポリオウイルスの固有の不安定性を確証するものである。
【0134】
DTPa-HBV-IPVおよびDTPa-HBV-IPV/Hibワクチンの市販のロットは、残留水銀を除去し、またIPVの安定性を保持するため、5.7mM L-システインを用いる透析法を使用して調製されたものであるが、この透析法は大規模生産には適さず、チオメルサールもしくは水銀フリーのHBsAgを調製するための一連の補助工程が必要となる。これに対して、チオメルサールを使用しないで調製された本発明のHBsAgは、特にIPVを含む複合ワクチンの製剤化に直接使用することができる。
【0135】
4.総括
酵母由来の表面抗原を精製するためにこれまで使用されてきた方法は、ゲル浸透工程を含むが、この工程ではバイオバーデンを防ぐために水銀含有抗微生物化合物のチオメルサールが溶離バッファー中に添加される。このチオメルサールは精製法の後続の工程で完全には除去されず、タンパク質20μgにつき約1.2μgのチオメルサールが精製バルク抗原中に存在する。完全にチオメルサール(水銀)フリーのバルク抗原を調製するため、この精製法は2工程が変更された:
・4Bゲル浸透工程の溶離バッファーからチオメルサールを排除する。
・アニオン交換クロマトグラフィー工程からの溶離液プールにシステイン(最終濃度 2 mM)を添加する。これはCsCl密度勾配遠心分離中の抗原の沈殿を防止する。
調製方法にその他の変更はない。
【0136】
改変方法によって調製したバルク抗原の特性を決定した。物理化学的試験およびアッセイにより、チオメルサールフリーの抗原は、その性質の点で、従来使用された方法によって調製された抗原と区別できないことが示された。抗原粒子はその構成成分がまったく同じである。
【0137】
HBsAgポリペプチドの正体および完全性は、SDS-PAGE分析、ポリクローナル抗HBsAg抗体を使用するウエスタンブロッティング、N-末端配列解析およびアミノ酸組成で判定して、この改変方法によって影響を受けない。電子顕微鏡検査およびレーザー光散乱解析は、これらの粒子が酵母由来のHBsAgに予測される典型的な形態およびサイズであることを示している。抗酵母タンパク質血清を用いたウエスタンブロッティングによる分析によれば、チオメルサールフリーの方法で調製した抗原は混在酵母タンパク質の同様のパターンを示した。しかし、23Kに泳動する混在タンパク質のバンドの量は、改変方法を用いて調製した3つのHBsAgロットにおいて著しく減少していた。
【0138】
免疫学的分析は、チオメルサールフリーの粒子はその抗原性が増加することを示している。これらの粒子はAbbott AUSZYMEキット(モノクローナル抗体の混合物を含有)との反応性がより高く、ELISA/タンパク質比が1.6〜2.25である。この増大した抗原性は防御RF1モノクローナル抗体によっても示される。標準固定化抗体へのRF1の結合を阻害するために必要な、チオメルサールフリーの抗原は約4〜7倍少なくてよい。チオメルサールフリー抗原および従来の抗原による結合曲線の阻害は、2つの明確に区別されるファミリーに区分される。この差異は、表面プラズモン共鳴を用いてRF1に対する結合親和定数を測定することによっても示される。チオメルサールフリーの調製物の結合親和性は、従来のバルク抗原のロットに比較して3〜4倍高い。
【0139】
バルク抗原調製物は、保存剤を使用しないで、水酸化アルミニウムに吸着させることによってワクチンとして製剤化した。
【0140】
Abbott AUSZYME ELISAキットおよび標準品としてのSB Biologicals社のチオメルサール含有B型肝炎1価ワクチンを使用するin vitro効力についての試験は、高いin vitro効力値が得られたことを示した。この試験によって測定された抗原含量は、20μgタンパク質/mlの規定値のほぼ2倍であった。
【0141】
チオメルサールフリーの抗原から調製したワクチンの反応性の増加は、固定した抗原への結合についてのRF1モノクローナル抗体による阻害アッセイにおいても見られた。従来の方法で精製して、保存剤を使用しないで製剤化した抗原に比較して、固定した抗原へのRF1結合の50%阻害を与えるために必要とされるチオメルサールフリーのワクチンの量は、約半分であった。
【0142】
チオメルサールフリーのワクチンのRF1に対するこの増加した抗原性は、バルク抗原調製物について実施したin vitro効力試験(抗原含量)の結果およびRF1抗体試験と一致している。
【0143】
初回および追加ワクチン接種を2週間間隔で2および0.4μgの抗原を使用して、マウス免疫原性試験を実施した。28日目(追加ワクチン接種の14日後)にマウスから採血した。血清の抗体力価およびアイソタイプ組成を分析した。2つの投与量について明確な抗原用量効果が認められたが、チオメルサールフリーおよび保存剤フリーのワクチン間で、抗体力価(GMT)から見た応答には統計的有意差が見られなかった。アイソタイプのプロファイルについては実質的な差異が認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
痕跡量のチオメルサールも含まない安定な免疫原性B型肝炎ワクチンの製造方法であって、
(a)サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)中で組換えタンパク質としてB型肝炎表面抗原を発現させること、
(b)該サッカロミセス・セレビシエ細胞を処理して粗製の抗原調製物を産生すること、
(c)該粗製の抗原調製物をゲル浸透クロマトグラフィーに供することによって抗原含有溶離液を産生すること、ここで該ゲル浸透クロマトグラフィーに使用する溶離バッファーはチオメルサールを含有しない、
(d)ステップ(c)後に得られた該抗原含有溶離液をアニオン交換クロマトグラフィーに供すること、
(e)ステップ(d)後に得られた該抗原含有溶離液にシステインを添加すること、
(f)ステップ(e)からの調製物をCsCl密度勾配遠心分離に供することによって、精製されたB型肝炎表面抗原を得ること、及び、
(g)該精製されたB型肝炎表面抗原を製薬上許容される添加剤と組み合わせて、安定な免疫原性B型肝炎ワクチンを製造すること、
を含み、
該B型肝炎表面抗原はステップ(a)〜(g)の間、可溶性形態で維持され、且つ該ワクチンはチオメルサール保存剤を含まない、前記方法。
【請求項2】
システインを1〜10mMの最終濃度で添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
システインを2mMの最終濃度で添加する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ワクチンがアジュバントを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アジュバントがアルミニウム塩である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アルミニウム塩が水酸化アルミニウムである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記肝炎抗原が水酸化アルミニウムに吸着されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アジュバントがTH-1誘発性アジュバントである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
TH-1誘発性アジュバントが3-DMPL、QS21、3-DMPL及びQS21、並びにCpGオリゴヌクレオチドを含む群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ワクチンが、ジフテリアトキソイド(D)、破傷風トキソイド(T)、無細胞百日咳抗原(Pa)、不活化ポリオウイルス(IPV)、インフルエンザ菌(haemophilus influenzae)抗原(Hib)、A型肝炎抗原、単純ヘルペスウイルス(HSV)、クラミジア、GSB、HPV、肺炎連鎖球菌(streptococcus pneumoniae)及びナイセリア抗原から成る群から選択される抗原1種以上をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255015(P2012−255015A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180462(P2012−180462)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【分割の表示】特願2002−518258(P2002−518258)の分割
【原出願日】平成13年8月7日(2001.8.7)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【Fターム(参考)】