説明

ワクチン剤

【課題】多機能性粘膜免疫賦活剤を創製し、粘膜免疫により疾病を予防でき、特に病原体
が侵入してきた場所で該病原体を迎え撃つ免疫系が常時待ち迎えて、直ちに反応して排斥
することを可能とするようなワクチン剤を提供すること。
【解決手段】ヘキサグリセロール又はペンタエリスリトールの骨格分子の側鎖の水酸基に
ポリオキシエチレン(ポリエチレングリコール;PEG)がO−エーテル結合を介して結合し
、その末端に複数のアミノプロピル基又は活性エステル基を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一分子中に2種類以上の抗原が結合していることを特徴とする抗原(ワクチ
ン剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫とは、ヒトや動物などが持つ、体内に入り込んだ「自分とは異なる異物」(非自己
)を排除する生体の恒常性維持機構の一つである。免疫は体内に侵入した病原体を排除す
るための機構として働き、特に病原体による感染から身を守るための感染防御機構として
重要である。バクテリアやウイルスなどは生体の上皮組織のような物理的障壁、自然免疫
、獲得免疫系の感染防御機構で体内への侵入が妨害されている。物理的障壁や自然免疫を
乗り越えてきた病原体は獲得免疫系で撃破する必要がある。獲得免疫系を常時活性化し、
病原微生物の侵入に備える必要がある。
【0003】
現在のワクチンは単一疾病に対する単一抗原(ワクチン)であり、1つの感染症の流行を
予測し、その前にワクチネーションして感染を予防する手段を取ってきている。この手段
は感染自体を防御するものではい。生体は病原性生物に一度は感染しないと、獲得免疫系
は成立しない。それゆえに、弱毒化病原性生物やその抗原の一部をワクチンとして生体に
投与して偽の感染を作りだし、獲得免疫系を成立させ、真の感染に備えているのがワクチ
ネーションである。このワクチネーションには数週間から数ヶ月の時間が必要であり、免
疫が見かけ上、消滅すると、その免疫は記憶細胞に記憶される。前もってワクチネーショ
ンをしたおかげで、病原性生物の侵入・感染が起こると、ワクチネーションをしない場合
に較べ、迅速に初感染から1〜2日で獲得免疫系が活性化し、病原体を排斥し、病気が軽
く済むか、あるいは疾病には陥らないことが経験上知られている。この方法は病原体が免
疫担当細胞系以外の細胞に感染する場合には極めて有効である。例えば、インフルエンザ
ウイルスは呼吸器上皮細胞に感染し、そこで増殖し、ヒトを苦しめるが、免疫担当細胞は
健全であるので、暫くすると、免疫系が活動し始めウイルスを撃破し、風邪から回復する
。しかし、エイズの原因ウイルスHIV-1は免疫担当細胞の中枢細胞に極く短時間(30〜60分
)でとりつき、6〜24時間でヒトの遺伝子に潜り込み、感染が成立する。ウイルスは生体の
免疫系が活動して、ウイルスを排斥するいとまを与えていない。エイズに対する免疫系が
活動し始めるころには、ウイルスは免疫担当細胞で増殖し、リザーバ細胞の中に隠れ、自
己は変異しながら免疫系からの攻撃を巧みにかわし、免疫細胞を破壊しながら、感染固体
が生き続けるまで、生きながらえ、他に伝播し、種を保存している。よって、エイズワク
チンの開発の原理原則は侵入の場である粘膜(性器粘膜)の水辺で完全に撃退することが肝
要である。細胞性免疫を利用したエイズのCTL-ワクチンがサルの実験で注目を集めている
が、このワクチンも初感染を防止するのではなく、1度感染を許し、感染した細胞が活動
をはじめると、感染した細胞とともにウイルスを死滅させる方法で、リザーバ細胞を殺す
ことはできず、根元を断つことは出来ない。しばらくすると必ず、耐性ウイルスが出現し
、終局的にエイズを発症する。エイズのワクチンの開発のポイントは、エイズワクチンに
より獲得免疫が成立し、その免疫が記憶細胞に記憶され、HIV-1が生体に侵入し、獲得免
疫を発動するまでの時間(12〜24時間、デスタイム)の間を「どのような手段で如何に守る
か」である。エイズワクチンの鍵は、HIV-1が侵入してきた場所にウイルスを迎え撃つHI
V-1の免疫系が常時、待ち迎えて、直ちに反応して排斥することである。一度でも感染を
許せば2度とHIV-1を生体外にたたき出すことは不可能である、このことが従来の免疫学
では達成できないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記の問題点を解決できるワクチンを提供することである。即ち、本
発明は、多機能性粘膜免疫賦活剤を創製し、粘膜免疫により疾病を予防でき、特に病原体
が侵入してきた場所で該病原体を迎え撃つ免疫系が常時待ち迎えて、直ちに反応して排斥
することを可能とするようなワクチン剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、異種抗原を別々に、さらに
粘膜免疫の場合はM細胞標的分子を用いて、ポリエチレングリコール(PEG)を介して化学的
に共有結合させたSenju-Hub-抗原を用いることによって、上記課題を解決できることを見
出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明によれば、ヘキサグリセロール又はペンタエリスリトールの骨格分子の側
鎖の水酸基にポリオキシエチレン(ポリエチレングリコール;PEG)がO−エーテル結合を
介して結合し、その末端に複数のアミノプロピル基又は活性エステル基を有する化合物が
提供される。
【0007】
好ましくは、本発明の化合物は、ヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポリオ
キシエチレンとヘキサグリセロールオクタ(4−ニトロフェノキシカルボニル)ポリオキ
シエチレンとを5〜8:1のモル比で混合して反応させることによって得られる化合物で
ある。
【0008】
好ましくは、本発明の化合物は、ヘキサグリセロールオクタ(4−ニトロフェノキシカ
ルボニル)ポリオキシエチレンとヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポリオキ
シエチレンとを、5〜8:1のモル比で混合して反応させることによって得られる化合物
である。
【0009】
本発明によればさらに、上記の化合物における複数のアミノプロピル基あるいはアミノ
エチル基等のアミノアシル基、又は活性エステル基に、2種類以上の抗原が結合している
ことを特徴とするワクチン剤が提供される。
本発明によればさらに、上記の化合物における複数のアミノプロピル基あるいはアミノ
エチル基等のアミノアシル基、又は活性エステル基に、2-[N-α, N-ε-ビス(N-α, N-ε
-ジガロイルリシニル)リシニル]アミノエチルアミンが結合していることを特徴とする、
上記のワクチン剤が提供される。
好ましくは、上記2種類以上の抗原は、腫瘍抗原、病原体抗原、又はアレルゲン抗原か
ら選択される抗原であり、さらに好ましくは、エイズ(HIV)抗原、インフルエンザ抗
原、又は花粉症抗原から選択される抗原である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多機能性粘膜免疫賦活剤(Senju-Hub-Mucosal抗原)においては、2種類以上の
異種抗原がポリエチレングリコールを介して共有結合していることにより、1抗原による
免疫応答が異種免疫応答に高められ、多くの疾病の予防に有用である。本発明のSenju-H
ub-Mucosal抗原は、ヘキサグリセロール骨格分子に八方にPEGのO-エーテル結合を介し、
末端に数十から数百個の官能基(プロピルアミノ基あるいは活性エステル基4-nitrophen
oxy carbonyl)を有する巨大分子で、用いる抗原の種類によって官能基の数・種を自由に
使い分けることができる。いずれの場合も、異種抗原、M細胞標的分子、アジュバンドが
容易にカルバメート・酸アミド結合を介して容易に結合することができる。例えば、イン
フルエンザワクチンと花粉症抗原を本発明のSenju-Hub-抗原と結合させ、ワクチネーショ
ンすると、インフルエンザにかかると花粉症にはかからない、その逆も可能である。この
ように、種々様々な可能性を有するSenju-Hub-抗原は、異種抗原を共有結合で化学的に一
体化することにより、生体の免疫応答を個々の抗原特異的免疫応答から異種抗原の免疫応
答としてカスケード反応的に発現・増幅させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、ヘキサグリセロール又はペンタエリスリトールの骨格分子の側鎖の水酸基に
ポリオキシエチレン(ポリエチレングリコール;PEG)がO−エーテル結合を介して結合し
、その末端に複数のアミノプロピル基又は活性エステル基を有する化合物(本明細書中に
おいて、Senju-Hub-抗原とも言う)に関するものである。
【0012】
本発明のSenju-Hub-抗原は、ヘキサグリセロール又はPEG骨格分子に骨格と同じ分子が
八方にPEGを介してつながり、その末端に数十から数百個の官能基(プロピルアミノ基あ
るいは活性エステル基4-nitrophenoxy carbonyl)を有する巨大分子であり、用いる抗原
の種類によって官能基の数・種を自由に使い分けることができる。いずれの場合も、異種
抗原、M細胞標的分子(例えば、2-[N-α, N-ε-ビス(N-α, N-ε-ジガロイルリシニル)リ
シニル]アミノエチルアミンなど)、アジュバンドなどをカルバメート・酸アミド結合を
介して容易に結合することができる。特に粘膜免疫を目指す場合は、M細胞標的分子TGD
Kが結合したSenju-Hub-Mucosal抗原を用いることができる。
【0013】
例えば、インフルエンザワクチンおよびHIV-1のgp140タンパク質、HIV-1の第2受容体
CCR5を守る抗原、M細胞標的分子、アジュバンド等を多く存在する反応の手を持つSenju-
Hub-抗原に結合させ、生体に投与するとそれぞれの抗原に対する免疫の認識連関 Linked
recognition(近年、1つの抗原刺激で複数の認識連関 Linked recognitionがありうると
考えられている。)が起こりと考えられ始めている。インフルエンザが流行し、このイン
フルエンザウイルスに感染するとインフルエンザに対する免疫系が活動し始めると同時に
HIV-1のgp140タンパク質、CCR5受容体を守るための免疫系が活動始め、インフルエンザと
エイズに対する防衛網が完全に完成する。生体はHIV-1 には全く接触しないのに、風邪に
かかるとエイズに対する防衛網が成立する、このようなときに、性器粘膜においてもHIV
-1に対する分泌型IgA, IgGが準備され、侵入してきてHIV-1は抗HIV抗体と瞬時に反応し、
洗い出され、不活化することができ、HIV-1の侵入が水辺で完全にブロックされ、感染は
成立しないことが考えられる。また、結核予防のBCGワクチンとHIV-1のgp140タンパク質
をSenju-Hub-Antigenと結合させ、ワクチネーションすると、幼少の時期から壮年期、す
なわちBCGワクチンが消滅するまでの時期まで抗エイズワクチン作用が期待できる。同様
に、多剤耐性HIV-1ウイルスを個々に完全に死滅させ、同様にBCGワクチンとSenju-Hub-A
ntigenに結合させ、ワクチンとして用いると、多剤耐性HIV-1ウイルスに対して有効とな
りうる。
【0014】
本発明のSenju-Hub-抗原は、ヘキサグリセロール又はペンタエリスリトールの骨格分子
の側鎖の水酸基にポリエチレングリコール(PEG)がO-エーテル結合を介して結合し、その
末端に多くのプロピルアミンあるいは活性エステル基(p-ニトロフェノキシカルボニル、
スクシンイミジルオキシカルボニル、スクシンイミジル)を有する化合物(図1から3を
参照)である。本発明の化合物と、付加する抗原との反応は、アミノ基と活性エステルと
の脱水縮合反応である。異種官能基をもつ同種骨格分子、異種官能基をもつ異種骨格分子
がお互いにどちらかの一方の化合物を大過剰に用いることにより、反応が調節され、同種
骨格分子および異種骨格分子並びにPEGからなる分子表面に多くの1級アミノ基あるいは
多活性エステル基のみを持つ巨大分子化合物を合成できる。両化合物1分子の表面に数分
子のM細胞標的分子TGDKをカルバメート結合を介して結合させ、TGDKの結合した多1
級アミノ基あるいは多活性エステル基を持つ化合物を得ることができる。前者をSenju-P
oly-Amino-PEG-Hub-Mucosal抗原(Senju-A-Hub-MuA)、後者をSenju-Poly-Activated Es
ter-PEG-Hub-Mucosal抗原(Senju-E-Hub-MuA)と呼ぶ。付加する抗原の反応基の種類によ
り、使い分けることができる。
【0015】
本発明のSenju-Hub-抗原は、例えば、ヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポ
リオキシエチレンとヘキサグリセロールオクタ(4−ニトロフェノキシカルボニル)ポリ
オキシエチレンとを5〜8:1のモル比で混合して反応させることによって得られるもの
でもよいし、ヘキサグリセロールオクタ(4−ニトロフェノキシカルボニル)ポリオキシ
エチレンとヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポリオキシエチレンとを、5〜
8:1のモル比で混合して反応させることによって得られるものでもよい。
【0016】
本発明の化合物における複数のアミノプロピル基又は活性エステル基には、2-[N-α,
N-ε-ビス(N-α, N-ε-ジガロイルリシニル)リシニル]アミノエチルアミン(TGDK-CH2-C
H2-NH2)を結合させることができる。TGDK-CH2-CH2-NH2は、本明細書の実施例にも記載の通り、4Fmoc-4DK-NH-Resinを脱保護(脱Fmoc)し、Trimethoxybenzoyl chloride(TMBC)でTrimethoxy Benzoyl化を行い、さらに三臭化ホウ素で脱methoxy化することにより合成することができる。
【0017】
具体的には、先ず、2-[N-α, N-ε-bis(N-α, N-ε-difluorenylmethyloxycarbonylly
sinyl)lysinyl]- aminoethylaminotrityl resin(4Fmoc-4DK-NH-Resin)に20%ピペリジ
ン(脱水DMF中)を添加し、室温で超音波処理することによって、Fmocを除去することが
できる。
【0018】
次いで、得られた2-[N-α, N-ε-(dilysinyl)lysinyl]aminoethylaminotrityl resin
(4DK-NH-Resin) を脱水DMF(ジメチルホルムアミド)で洗浄し(超音波処理)する。洗浄
した4DK-NH-Resinに、脱水DMF及びTEAを添加し、さらにTrimethoxybenzoyl chlorideを添
加し、反応混合物を40℃で撹拌することによって、Trimethoxy Benzoyl化を行う。得られ
た4MTBDK-NH-Resinを、1%トリエチルアミン(TEA)を含む脱水DMFで洗浄して過剰のTMB
Cを除去し、さらに、脱水DMFで5回洗浄して、TEAを除去し、洗浄済みの4MTBDK-NH-Resin
を調製することができる。
【0019】
次いで、4MTBDK-NH-Resinに、三臭化ホウ素のジクロロメタン溶液を撹拌しながら添加
し、添加終了後、ドライヤーで加温しながら、DMF及び塩化メチレンを除く。反応混合物
に水を撹拌しながら加える。反応混合物を遠心分離し、樹脂層と上清を分離し、それぞれ
凍結乾燥する。樹脂層を「Ppt Resin」とし、上清を「凍結乾燥上清S」とする。「Ppt
Resin」を脱水DMFに懸濁し、樹脂を分離し、さらに、樹脂に脱水DMFを加え、合わせて抽
出液とする。この抽出液にトリエチルアミン溶液を加え、アルカリ性にし、生じた沈殿を
除き、上清にエーテルを加え、生じた沈殿を風乾し、脱水DMFを加え、不溶性沈殿を除き
、さらに、エーテルを加えて生じた沈殿を試料(TGDK-CH2-CH2-NH2)とすることができ
る。また、「凍結乾燥上清S」には脱イオン水を加え、トリエチルアミンでアルカリ性に
し、凍結乾燥する。得られた乾燥品に脱水DMFを加え、不溶性残渣を除き、可溶性画分に
エーテルを滴下し、生じた沈殿を試料とすることができる(TGDK-CH2-CH2-NH2)。TGD
K-CH2-CH2-NH2は、ペプチド結合又はシッフベースなどを介して、ペプチド、タンパク質、脂質又は糖と結合することにより、腸管免疫賦活剤として使用することができる。
【0020】
本発明で用いることができる抗原としては、腫瘍抗原、病原体抗原およびアレルゲン抗
原などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ここで言う病原体抗
原とは、病原体に特有の抗原を意味し、ウイルス、細菌、寄生生物または菌類から得られ
る抗原である。
【0021】
病原体の具体例としては、コレラ菌、毒素原性大腸菌、ロタウイルス、クロストリジウ
ム・ディフィシレ、赤痢菌、サルモネラ・チフィ、パラインフルエンザウイルス、インフ
ルエンザウイルス、ストレプトコッカス・ミュータンス、熱帯熱マラリア原虫、黄色ブド
ウ球菌、狂犬病ウイルスおよびエプスタイン‐バーウイルスなどが挙げられるが、これら
に限定されるものではない。また、アレルゲン抗原としては、ハプテン、または花粉、ほ
こり、カビ、胞子、鱗屑、昆虫および食品由来の抗原などを挙げることができる。
【0022】
本発明のワクチン剤は、薬学的に許容される担体と一緒に適当な製剤にすることができ
る。担体として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤などを用いることができる。また、酸
化防止剤のような添加剤を配合してもよい。製剤の形態は特に限定されず、液剤、錠剤、
丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の任意の形態とすることができる。
【0023】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖又はブドウ糖等の糖類;バレイショデンプン又
はコムギデンプン等のデンプン類、;結晶セルロース等のセルロース類;無水リン酸水素
カルシウム又は炭酸カルシウム等の無機塩類等を使用することができる。結合剤としては
、例えば、結晶セルロース、プルラン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、又はポリ
ビニルピロリドン等を使用することができる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチ
ルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース
、ヒドロキシプロピルスターチ、又はアルギン酸ナトリウム等を使用することができる。
潤沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油などを使用するこ
とができる。ナノ粒子化剤としてはコレステロールプルラン(日本油脂KK)等を使用す
ることができる。
【0024】
本発明のワクチン剤の投与経路は特に限定されず、経口投与でも非経口投与(例えば、
直腸投与、皮下投与、筋肉内投与、鼻腔投与および静脈内投与など)でもよいが、好まし
くは経口投与である。
【0025】
本発明のワクチン剤の投与量は、投与対象又は患者の年齢、体重、症状等に応じて適宜
設定することができるが、例えば、1μg〜1000mg/kg/回、好ましくは10μ
g〜100mg/kg/回とすることができる。
【0026】
本発明のワクチン剤は、アジュバントと一緒に投与してもよい。アジュバントとしては
、ワクチン(抗原)の投与に先立って投与しておくことにより免疫応答を増強できる物質
であれば、任意の物質を使用することができる。殺菌微生物のように抗原性をもつものの
ほか,alum(硫酸アルミニウム・カリウムなど)や鉱物油のように非抗原性のものでもよ
い。Freundは1947年抗原水溶液を等量の油(鉱物油85%,界面活性剤15%)と混ぜ,乳剤
の状態で注射すると抗体の産生量が増大することを見出した。これは不完全フロインドア
ジュバントincomplete Freund's adjuvant(IFA)と呼ばれ,これに結核菌の菌体成分を
加えたものが完全アジュバントcomplete F's. a.(CFA)である。このほか、水酸化アル
ミニウム,リン酸アルミニウムなどの鉱酸塩はアジュバント効果を示す。また、細菌内毒
素、特にグラム陰性菌のリポ多糖類は抗体産生を著明に促進することができ、有効成分は
lipid Aにある。本発明では、上記したものをアジュバントとして使用することができる
。アジュバントの投与経路は特に限定されず、経口投与でも非経口投与でもよい。
【0027】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定さ
れるものではない。
【実施例】
【0028】
1.Polyethylene glycol(PEG)誘導体
種々のPolyethylene glycol(PEG)誘導体は日本油脂株式会社)より購入した。
【0029】
2.M細胞標的分子
粘膜免疫賦活剤、M細胞標的分子、Tetragalloyl D-Trilysinyldiethylamine(TGDK,Mr.
1053)は、PCT/JP2006/321720に記載の方法に従って合成した。具体的には、以下の通りで
ある。
【0030】
(材料)
3,4,5-Trimethoxy Benzoyl Chloride(TMBC) は東京化成から購入し、2-[N-α, N-ε-b
is(N-α, N-ε-difluorenylmethyloxycarbonyllysinyl)lysinyl]- aminoethylaminotrit
yl resin(略記名4Fmoc-4DK-NH-Resin)は渡辺化学より購入した。Disuccinimidyl sube
rate(DSS)はPIERCE社、fluoroisothiocyanate(FITC)は和光純薬、Tetramethylrhodamine
-5-(and-6)-isothiocyanate(TRITC)-conjugated donkey anti-mouse IgG(H+L) antibody
はJackson Immuno Research(U.S.A)から入手した。
【0031】
(方法)
(1)4Fmoc-4DK-NH-Resinの脱保護による4DK-NH-Resinの調製
2-[N-α, N-ε-bis(N-α, N-ε-difluorenylmethyloxycarbonyllysinyl)lysinyl]- am
inoethylaminotrityl resin(4Fmoc-4DK-NH-Resin、1g、0.5m mole Fmoc/g resin)に、
20%ピペリジン(脱水DMF中)(20 ml)を添加し、室温で20分間、超音波処理(各5秒)
し、Fmocを完全に除いた。上記の操作を2回繰り返して、2-[N-α, N-ε-(dilysinyl)ly
sinyl]aminoethylaminotrityl resin (略記名4DK-NH-Resin)を得た。
【0032】
【化1】

【0033】
【化2】

【0034】
(2)4DK-NH-Resin のTrimethoxy Benzoyl化による4MTBDK-NH-Resinの調製
4DK-NH-Resinを脱水DMF(15 ml)を用いて6回洗浄した(超音波処理、各5sec)。各行程
では、遠心分離した。洗浄した4DK-NH-Resinに、脱水DMF(5 ml)及びTEA (7 mmole)
(1 ml)を添加し、さらに脱水DMF(1 ml)中にTrimethoxybenzoyl chloride 1 mmole(TMBC、
230 mg) を含む溶液を、0.1ml ずつ上下に激しく撹拌しながら添加した。Resinの反応混
合物(全量10 ml)を40℃で120 分間撹拌した。得られた4MTBDK-NH-Resinを、1%TEAを含
む脱水DMF(15 ml)で5回洗浄してTMBCを除去した。さらに、脱水DMF(15 ml)で5回洗浄して
、TEAを除去して、洗浄済みの4MTBDK-NH-Resinを調製した。
【0035】
【化3】

【0036】
(3)4MTBDK-NH-Resin の脱メトキシ化によるTGDK-CH2-CH2-NH2の合成
100mgの4MTBDK-NH-Resin(500 μLのDMF中)に、三臭化ホウ素(BBr3、1mol/Lin ジ
クロロメタン)10 ml(DMF容積の20当量容積)を激しく撹拌しながら約1〜2分かけて添加
した。激しく発煙、発熱する。途中で反応の色が赤褐色から白く変わり、さらに褐色にな
る。添加終了後、ドライヤーで加温しながら、DMF及び塩化メチレンを除いた。固化し、
赤褐色に着色した。水10mlを撹拌しながら加える。発煙、発泡する。反応混合物を3500r
pm で5分間遠心分離し、樹脂層と上清を分離し、それぞれ凍結乾燥した。樹脂層を「Ppt
Resin」とし、上清を「凍結乾燥上清S」とした。
【0037】
(i)「Ppt Resin」からTGDK-CH2-CH2-NH2の精製
「Ppt Resin」100mgを脱水DMF1000μLに懸濁し、樹脂を分離し、さらに、樹脂に脱水D
MF1000μL加え、合わせて抽出液とした。この抽出液にトリエチルアミン溶液を加え、ア
ルカリ性にし、生じた沈殿を除き、上清にエーテル20mlを加えた。生じた沈殿を風乾し、
脱水DMF500μLを加え、不溶性沈殿を除き、さらに、エーテル10mlを加えて生じた沈殿を
試料とした。MS分析を行い、純度不良の場合、脱水DMFに溶解し、不純物を除き、エーテ
ル沈殿を行い、この操作を数回して精製した。
【0038】
(ii)「凍結乾燥上清S」からTGDK-CH2-CH2-NH2の精製
100 mg4MTBDK-NH-Resinから得られた「凍結乾燥上清S」に脱イオン水5.0 mlを加え、
トリエチルアミン0.6mlでアルカリ性にし、凍結乾燥した。得られた乾燥品に脱水DMF100
0μLを加え、不溶性残渣を除き、可溶性画分にエーテル15mlを滴下し、生じた沈殿を試料
とした。MS分析を行い、純度不良の場合、脱水DMFに溶解し、不純物を除き、エーテル沈
殿を行い、この操作を数回して精製した。
【0039】
「Ppt Resin」及び「凍結乾燥上清S」からの合わせた収率は80%で、4Fmoc-4DK-NH-R
esin(0.5m molof Fmoc/1gresin)から、MS分析上均質なTGDK-CH2-CH2-NH2(100mg)
が得られた。上記の方法で得られた2-[N-α, N-ε-bis(N-α, N-ε-digalloyllysinyl)l
ysinyl]aminoethylamine(TGDK-CH2-CH2-NH2)のMALDI TOF MSで求めた質量数は1053.38
であった。TGDK-CH2-CH2-NH2(McDS)のMALDI TOF MSを図7に示す。
【0040】
【化4】

【0041】
3.HIV-1の第2受容体CCR5を守る抗原
HIV-1の第2受容体CCR5の特異抗原(undecapeptidyl arch, UPA, cDDR5)は下記の論文
に従って合成した。
Misumi S, Nakayama D, Kusaba M, Iiboshi T, Mukai R, Tachibana K, Nakasone T,
Umeda M, Shibata H, Endo M, Takamune N, Shoji SEffects of Immunization with CC
R5-Based Cycloimmunogen on Simian/Human Immunodeficiency Virus SF162P3 Challeng
e.J Immunol176 463-471 2006
【0042】
4.アジュバンド
CpG-ODN:5'-5tcg tcg ttt tgt cgt ttt gtc gtt-3'(配列番号1)は株式会社日本
バイオサービスより購入した。本化合物は5’末端が6−アミノヘキサノールによって誘
導化されている。
【0043】
5.Senju-Hub-AntigenとSenju-Hub-Mucosal Antigenの違い
Senju-Hub-Antigen に粘膜免疫標的化合物、TGDKが結合し、粘膜免疫に特化した抗
原をSenju-Hub-Mucosal Antigenとし、例として推定構造式を図1に示す。なお、PEGは-
(o-CH2-CH2)n-の不均一体として存在するので、あくまでも推定構造として表した。
【0044】
6. 合成の方法:
(1)Senju-Poly-Amino -PEG-Hub-Antigen(Senju-A-Hub)の合成
Hexaglycerol octa(aminopropyl) polyoxyethylene(SUNBRIGHT HGEO-200PA(登録商標
))154mg(7.2 μmole)をDMF(脱水)14 mlに溶かし、Hexaglycerol octa(4-nitrophenoxy
carbonyl) polyoxyethylene(SUNBRIGHT HGEO-200NP(登録商標))21 mg(1μmole)/1 ml
DMF(脱水)を激しく、撹拌しながらすばやく加えた。室温で1夜撹拌し、反応液を水に対
して3日間透析して凍結乾燥した。収量86.4 mgで収率は50%であった。図2に推定構造
を示した。なお、PEGは-(o-CH2-CH2)n-の不均一体として存在するので、あくまでも推定構造として表した。
【0045】
(2) Senju-Poly-Activated Ester -PEG-Hub-Antigen(Senju-E-Hub) の合成
Hexaglycerol octa(4-nitrophenoxy carbonyl) polyoxyethylene(SUNBRIGHT HGEO-200
NP(登録商標)) 238mg(11.2μmole)をDMF(脱水)14 mlに溶かし、Hexaglycerol octa(am
inopropyl) polyoxyethylene(SUNBRIGHT HGEO-200PA(登録商標))21 mg(1μmole)/1 ml
DMF(脱水)を激しく、撹拌しながらすばやく加えた。室温で1夜撹拌し、反応液にTGDK(
2μmole)を加え、3時間反応させ、エーテルを加え生じた沈殿を凍結乾燥した。収量140
mgで収率は80%であった。図3に推定構造を示した。
【0046】
(3)付加抗原(Appendix Antigen)の合成
精製Antigen (12μmole、Free base)をDMF(脱水)600μlに溶かし、活性エステルPEG 6
μmole をDMF(脱水)300μlに別々に溶かし、活性エステルPEG溶液とした。この活性エス
テルPEG溶液に精製抗原溶液600μlを加え、室温で3〜6時間反応させた。反応終了後、4℃
で保存した。活性エステルPEGと反応した抗原の生成物はPNP4(10)−抗原名、 PNP4(20)−
抗原名、PNP8(20)−抗原名として表し、これら化合物の活性エステル基は4℃で長時間(
1週間以上)安定であった。
【0047】
1)Pentaerthritoltetra(4-nitrophenoxy carbonyl) polyoxyethyleneを原料に用いる場
合。(SUNBRIGHT PTE-100NPTM, PNP4(10)と略記:SUNBRIGHT PTE-200NPTM 、PNP4(20)と略記)
上記の方法に従い、下記のAppendix antigensを調製した。構造式は図4に示した
(A)PNP4(10)-UPA , PNP4(20)-UPA , PNP8(20)-UPA
(B)PNP4(10)-TGDK , PNP4(20)-TGDK, PNP8(20)-TGDK
(C)PNP4(10)-NTA, PNP4(20)-NTA, PNP8(20)-NTA
【0048】
2)Hexaglycerol octa(4-nitrophenoxy carbonyl) polyoxyethyleneを用いる場合(SUNB
RIGHT HGEO-200NPTM、PNP8(20) と略記)
構造式は、図5に示す。
【0049】
7.Senju-Hub-Antigenを用いてパイライン合成
合成したSenju-Hub-Antigen抗原168mgに、活性化した付加抗原(Appendix Antigen)を
次のように加えて合成した。まず、はじめに、PNP4(10)-UPA溶液を加え室温で2分間撹
拌し、次に調製した活性化PNP4(10)-TGDK溶液を加え、さらに室温で2分間撹拌した。そ
こへ活性化PNP4(10)-NTA溶液を加えて室温で12時間反応させた。12時間の反応後、1.1
当量の精製CpG-ODN溶液を加え、室温で48時間反応させた。反応終了後、反応溶液に等
量の2次精製水を加え、外液を二次精製水に対して48時間透析した。透析内溶液を凍結
乾燥した。これら4つのAppendix抗原を加水分解後、アミノ酸分析計でHub抗原へのUPA
、TGDK、NTAの結合量を求めた。UPAの結合量はその配列に含まれるチロシンを指標とし
、TGDKは構造の中に含んでいるリシンを指標とし、NTAはNTAの溶出時間に基づき、CpG
-ODNは加水分解により分解してくる6-アミノヘキサノールの溶出時間に基づいて定量を
行った。この定量の結果を表1に示した。なお、図6にパイプライン合成法の概略を示
した。なお、結合量を求めない場合は、透析せず、10倍量のエーテルを加え、生じた
沈殿を乾燥して、次の実験に用いた。本化合物は4℃で長期間(1週間)安定であった。
【0050】
表1:各付加抗原(Appendeix Antigen)の結合量
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、Senju-Hub-AntigenとSenju-Hub-Mucosal Antigenの構造の違いを示す。
【図2】図2は、Senju-Poly-Amino -PEG-Hub-Antigen(Senju-A-Hub)の合成法の概略と構造を示す。
【図3】図3は、Senju-Poly-Activated Ester-PEG-Hub-Antigen(Senju-A-Hub)の合成法の概略と構造を示す。
【図4】図4は、付加抗原(Appendeix Antigen)の合成原料と合成の概略-1を示す。
【図5】図5は、付加抗原(Appendeix Antigen)の合成原料と合成の概略-2を示す。
【図6】図6は、パイプライン合成法の概略を示す。
【図7】図7はTGDK-CH2-CH2-NH2MALDI TOF MSを示す。TGDK-CH2-CH2-NH2の質量数は1053.38で、実測値1053.03(安定同位体を含む質量数)及び理論値1052.40(安定同位体を含まない質量数)と良く一致した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサグリセロール又はペンタエリスリトールの骨格分子の側鎖の水酸
基にポリオキシエチレン(ポリエチレングリコール;PEG)がO−エーテル結合を介して結
合し、その末端に複数のアミノプロピル基又は活性エステル基を有する化合物。
【請求項2】
ヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポリオキシエチレンとヘ
キサグリセロールオクタ(4−ニトロフェノキシカルボニル)ポリオキシエチレンとを5
〜12:1のモル比で混合して反応させることによって得られる、請求項1に記載の化合
物。
【請求項3】
ヘキサグリセロールオクタ(4−ニトロフェノキシカルボニル)ポリオ
キシエチレンとヘキサグリセロールオクタ(アミノプロピル)ポリオキシエチレンとを5
〜12:1のモル比で混合して反応させることによって得られる、請求項1に記載の化合
物。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の化合物における複数のアミノアシル基
又は活性エステル基に、2種類以上の抗原が結合していることを特徴とするワクチン剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の化合物における複数のアミノアシル基又は活性
エステル基に、2-[N-α, N-ε-ビス(N-α, N-ε-ジガロイルリシニル)リシニル]アミノエ
チルアミンが結合していることを特徴とする、請求項4に記載のワクチン剤。
【請求項6】
上記2種類以上の抗原が、腫瘍抗原、病原体抗原、又はアレルゲン抗原
から選択される抗原である、請求項4又は5に記載のワクチン剤。
【請求項7】
上記2種類以上の抗原が、エイズ(HIV)抗原、インフルエンザ抗原
、又は花粉症抗原から選択される抗原である、請求項4から6の何れかに記載のワクチン
剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231343(P2008−231343A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76165(P2007−76165)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】