説明

ワクチン用担体タンパク質

本発明は、特に、多糖体ワクチンを含む抗原ワクチン用の改良された担体タンパク質を提供する。本発明の一態様は、破傷風毒素断片Cを有利に使用するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖体ワクチンを含む抗原ワクチン用の改良された担体タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖体を担体タンパク質に結合(conjugation)すると、その多糖体の免疫原性を効果的により強くすることができる。破傷風トキソイドは、この担体としての能力から、何十年間も使用されており、少なくとも過去の使用に関してはその安全プロフィールが確立されている。
【0003】
破傷風毒素の構造遺伝子は、クローン化され、配列決定がなされている。Fairweather et al., J.Bacteriol.165: 21-27 (1986);Fairweather et al., Nuci.Acid Res. 14: 7809-7812 (1986).これらの研究では、破傷風毒素の構造が1315個のアミノ酸を含む150kDのタンパク質であることが確認されている。自然型破傷風毒素の結合タンパク質を構成する断片Cは、この毒素がパパインで切断されて生じる52kDのポリペプチドであり、C末端の451アミノ酸に相当する。図1を参照されたい。
【0004】
破傷風トキソイドは、2〜3箇所の万能T細胞エピトープを含むことが発見されている。Demotz et al., J. Immunol 142: 394-402 (1989).この特徴のために、破傷風トキソイドはヒトにおいて非常に有効である。このトキソイドの断片Cは、毒性でないことが示されている。この断片も、初回免疫刺激を受けたドナーによって認識される万能免疫原性T細胞エピトープのうちの少なくとも1箇所を含む。Valmori et al., J. Immunol 149:717-21 (1992);Panina-Bordignon et al., Eur. J. Immunol. 19: 2237(1989).
【0005】
様々な細菌感染をターゲットとする莢膜多糖体(CP)結合型ワクチン(conjugate vaccin)が現在開発及び臨床評価の最中にある。多数のCP血清型を合体させて単一の注射に含めることが、現在研究中である。しかし、CP結合型ワクチンを合体させて単一の多価注射にすることは、異なる成分間での競合をもたらし、個々のコンジュゲートの免疫原性に有害な影響を及ぼす。Fattom et al., Vaccine 17:126-33 (1999).
【0006】
破傷風トキソイドの多糖体ワクチンへの使用は増加している。そこで、ワクチン接種を受けた集団が、破傷風に過度に曝され、集団全体に耐性及び/又は過敏性を引き起こす危険が伴うという懸念が浮上している。たとえば、免疫原性用量の担体を注射した後、ハプテン−担体コンジュゲートで免疫感作すると、抗ハプテン抗体応答が選択的に抑制される。担体によって誘発されるこのエピトープ抑制は、担体特異的T細胞の誘導と関連付けることができ、この誘導が、抗ハプテン応答を選択的に抑制し得るはずである。エピトープ抑制は、担体エピトープに特異的なクローンの増殖及びハプテンと担体エピトープとの抗原競合によって誘発され得る。Schutze et al., J. Immunol. 37:2635-40 (1989).ヒトでは、担体タンパク質に対する事前の免疫が、合成結合型ワクチンに対する血清学的応答をモジュレートすることが実証されている。Di John et al., Lancet 2 (8677):1415-8 (1989). Barrington et al., (Infect. & Immun. 61: 432-8, 1993)は、ワクチン成分での予備免疫による、b型インフルエンザ菌結合型ワクチンに対する抗体応答のエピトープ抑制を認めたことを示している。より最近では、Burrage et al., (Infect. & Immun. 70: 4946-54, 2002)が、破傷風担体タンパク質での予備免疫による、髄膜炎菌C結合型ワクチンに対する抗体応答のある種のエピトープ抑制を示している。マウスでは、破傷風トキソイドでの高用量の担体初回抗原刺激後に、肺炎球菌及び髄膜炎菌多糖体−破傷風コンジュゲートの抗体応答に対するエピトープ抑制が認められている(Peeters et al. Infect & Immun 59: 3504-10, 1991).これらの潜在的な有害な成果のために、破傷風トキソイドは、もはやこれまでのように投与すべきではなく、したがって改良された担体が求められている。
【非特許文献1】Fairweather et al., J.Bacteriol.165: 21-27 (1986)
【非特許文献2】Fairweather et al., Nuci.Acid Res. 14: 7809-7812 (1986).
【非特許文献3】Demotz et al., J. Immunol 142: 394-402 (1989).
【非特許文献4】Valmori et al., J. Immunol 149:717-21 (1992)
【非特許文献5】Panina-Bordignon et al., Eur. J. Immunol. 19: 2237(1989).
【非特許文献6】Fattom et al., Vaccine 17:126-33 (1999).
【非特許文献7】Schutze et al., J. Immunol. 37:2635-40 (1989).
【非特許文献8】Di John et al., Lancet 2 (8677):1415-8 (1989).
【非特許文献9】Barrington et al., (Infect. & Immun. 61: 432-8, 1993)
【非特許文献10】Burrage et al., (Infect. & Immun. 70: 4946-54, 2002)
【非特許文献11】Peeters et al. Infect & Immun 59: 3504-10, 1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在の慣行に伴う有害な成果の多くを回避するために、本発明は、破傷風トキソイドの断片Cを主体とした担体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、破傷風トキソイドの断片Cを利用する免疫原性結合型ワクチンの製造法が提供される。
【0009】
本発明の別の態様によれば、破傷風トキソイド断片Cタンパク質部分に共有結合した、少なくとも1種の目標病原体由来の1箇所又は複数の多糖体部分を含むコンジュゲート抗原が提供される。本明細書では、「目標病原体」とは、細菌又は真菌の病原体など、哺乳動物又は鳥の免疫系によって認識される多糖体エピトープを含む外来病原体を指す。
【0010】
本発明のさらに別の態様によれば、破傷風トキソイド断片Cタンパク質部分に共有結合した、少なくとも1種の目標病原体由来の1箇所又は複数の多糖体部分を含むコンジュゲート抗原を含むワクチンが提供される。
【0011】
本発明のさらに別の態様によれば、哺乳動物又は鳥において目標病原体に対する免疫応答を惹起させる方法であって、哺乳動物又は鳥に、破傷風トキソイド断片Cタンパク質部分に共有結合した、少なくとも1種の目標病原体由来の1箇所又は複数の多糖体部分を含むコンジュゲート抗原を含む有効量のワクチンを接種するステップを含む方法が提供される。この方法は、ニワトリ、シチメンチョウ、エミュー、ダチョウ、及び他の商業上重要な鳥などの鳥類で実施することができる。この方法は、げっ歯類、ウマ、ウシ、他の商業上重要な群れをなす哺乳動物、イヌ、ネコ、他の伴侶動物、ヒトなどの哺乳動物で実施することが好ましい。特に、この方法は、ヒトで実施することができる。
【0012】
本発明のさらに別の態様では、目標病原体による哺乳動物又は鳥の後続の感染を予防する方法であって、哺乳動物又は鳥に、破傷風トキソイド断片Cタンパク質部分に共有結合した、少なくとも1種の目標病原体由来の1箇所又は複数の多糖体部分を含むコンジュゲート抗原を含む有効量のワクチンを接種するステップを含む方法が提供される。この方法は、ニワトリ、シチメンチョウ、エミュー、ダチョウ、及び他の商業上重要な鳥などの鳥類で実施することができる。この方法は、げっ歯類、ウマ、ウシ、他の商業上重要な群れをなす哺乳動物、イヌ、ネコ、他の伴侶動物、ヒトなどの哺乳動物で実施することが好ましい。特に、この方法は、ヒトで実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
「TTc」と呼ばれることの多い破傷風毒素の断片Cは、本明細書で初めて開示するが、細菌又は真菌感染に対する防御のために、莢膜多糖体ワクチンなどの多糖体の担体タンパク質として使用することができる。断片Cは、抗原に結合させると、その抗原の免疫原性を増大させることができるが、これは、断片Cへの結合によって、抗原が免疫応答を惹起する能力が増強されるということである。この増強はしばしば、担体効果と呼ばれており、その本質は、多糖体をT非依存性抗原からT依存性抗原に変換することにある。多糖体TTcコンジュゲートで免疫感作した哺乳動物では破傷風毒素抗体が明らかに中和されなくなり、その結果その自然型破傷風トキソイドの認識が縮小化され、さらに担体能力は明らかに保たれるために、TTcは、破傷風トキソイドの魅力的な代替物となる。
【0014】
本明細書で示すデータは、TTc及び組換え型TTc(rTTc)が、多糖体の担体として使用でき、多糖体に特異的なIgG抗体に関して破傷風トキソイドと等価な免疫応答を惹起し得ることを実証している。図2を参照されたい。これらの抗体は、細菌を死滅させる能力を尺度とする機能活性が高くなっている。
【0015】
断片C(TTc)は、図1に示すように、アミノ酸位置がほぼ865〜1315のカルボキシル末端部分を指す。したがって、本発明においては、断片Cは、その領域を破傷風トキソイド分子全体の残りの少なくとも一部分から分離することと関係があり、これは、トキソイドをパパイン又は他のプロテアーゼで消化して、又は断片の組換え発現によって行うことができる。断片Cの組換え発現は、米国特許第5443966号で開示されている。したがって、断片Cに結合させた抗原を含むワクチンは、非断片C(すなわち、図1のB断片)領域の少なくとも1部分を欠くことになる。
【0016】
当然、TTc配列に対して様々な付加、除去、及び置換を行って、分子の担体能力に有害な影響を与えることなく変異体を得ることができる。たとえば、保存的及び半保存的なアミノ酸置換を行うことができる。好例となる保存的アミノ酸置換には、アラニンからセリンへ、アルギニンからリシンへ、アスパラギンからグルタミン若しくはヒスチジンへ、アスパラギン酸からグルタミン酸へ、システインからセリンへ、グルタミンからアスパラギンへ、グルタミン酸からアスパラギン酸へ、グリシンからプロリンへ、ヒスチジンからアスパラギン若しくはグルタミンへ、イソロイシンからロイシン若しくはバリンへ、ロイシンからバリン若しくはイソロイシンへ;ロイシンからアルギニン、グルタミン、若しくはグルタミン酸へ;メチオニンからロイシン若しくはイソロイシンへ;フェニルアラニンからチロシン、ロイシン、若しくはメチオニンへ;セリンからスレオニンへ、スレオニンからセリンへ、トリプトファンからチロシンへ、チロシンからトリプトファン若しくはフェニルアラニンへ、バリンからイソロイシン若しくはロイシンへの変更が含まれるがこの限りでない。タンパク質工学分野の技術者ならば承知されていようが、本明細書で言及する保存的及び半保存的突然変異は、TTcの認識された抗原性/免疫原性領域の外側の領域に対して行うことが好ましい。様々な目的のための突然変異(たとえば、タンパク質の精製を容易にするためのポリペプチド「タグ」の付加)に適する領域には、C末端領域及びN末端領域が含まれる。
【0017】
変異体は、ゲノム若しくはcDNAクローニング法を使用する組換え技術によって生成することができる。部位特異的及び領域指向性突然変異誘発技術を使用することができる。CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY vol. 1, ch. 8 (Ausubel et al., eds., J. Wiley & Sons 1989 & Supp. 1990-93); PROTEIN ENGINEERING (Oxender & Fox eds., A. Liss, Inc. 1987)を参照されたい。さらに、リンカースキャニング法及びPCR法を突然変異誘発に使用することができる。PCR TECHNOLOGY (Erlich ed., Stockton Press 1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, vols. 1 & 2(上掲)を参照されたい。上記技術のいずれかと共に使用するためのタンパク質の配列決定、構造モデリングの各手法は、PROTEIN ENGINEERING, loc. cit.及びCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, vols. 1 & 2上掲で開示されている。所望であれば、コンビナトリアル化学、バイオパニング、及び/又はファージディスプレイの使用によって、断片Cに対する他の変化を添えることができる。
【0018】
断片Cのペプチド模倣物は、Saragovi et al., Science 253: 792-95 (1991)及び他の論文に概略が述べられている手法によって生成することができる。模倣物は、タンパク質の二次構造の要素を模倣するペプチド含有分子である。たとえば、BIOTECHNOLOGY AND PHARMACY, Pezzuto et al., Eds., (Chapman and Hall, New York, 1993)中のJohnson et al., "Peptide Turn Mimetics"を参照されたい。ペプチド模倣物の使用の基礎をなす原理は、タンパク質のペプチド主鎖が、抗体及び抗原のもののように、主としてアミノ酸側鎖を分子の相互作用が促進される向きに配向させるために存在することである。本発明によるペプチド模倣物担体は、宿主に投与されたとき、免疫応答を惹起する助けとなるはずである。
【0019】
断片Cは、現在実践されている方法によって、細菌や真菌の莢膜多糖体などの多糖体に結合させることができる。たとえば、多糖体は、弱塩基性条件下での処理によって脱アシル化し、次いで、シアノ水素化ホウ素アニオンなどの還元剤を用いる還元アミノ化によって断片Cに結合させることができる。EP0658118B1を参照されたい。以下で述べる実施例にあるもの、及びWO0010599A2、米国特許出願公開第2001/0014332A1号で開示されているものなど、他の結合手法も当業者に利用可能である。別の結合手法は、二遺伝子(bigenic)スペーサーを使用するMarburg et al., (J.Am.Chem.Soc., 108, 5282 1986)に記載されており、米国特許第4695624号、同第4830852号、同第4882317号、及び最後の3特許の方法を改良したものである米国特許第5623057号でも開示されている。
【0020】
ワクチンの型及び特異性を規定することになる多糖体供給源は、細菌及び真菌を含む広範な種類の供給源から得ることができる。好例となる細菌には、A、B、C、Y、W135、及びXの各群を含む髄膜炎菌;A、B、及びCの各群を含む連鎖球菌;1、2、3、4、6A、6B、9、14、18F、19F、及び23の各型を含む肺炎球菌;5型及び8型を含む黄色ブドウ球菌;b型を含むインフルエンザ菌;結核菌;カンピロバクター種;腸管組織侵入性大腸菌分離株;チフス菌;コレラ菌;フレクスナー赤痢菌;ブルセラ種;野兎病菌;及びペスト菌が含まれる。特に、髄膜炎菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、及び黄色ブドウ球菌の抗原を、TTcとの結合に利用することができる。好例となる真菌には、特に、カンジダ・アルビカンス、クリプトコックス・ネオフォルマンス、及び黒色アスペルギルスが含まれる。標準の炭水化物化学を使用すると、自然型CPの1つ又は複数の特性を有する合成多糖体がワクチンとして使用できる。
【0021】
変異体を含めて、断片Cは、現在の破傷風トキソイドとほぼ同じ方法で担体として使用することができる。コンジュゲート用の薬剤として許容される製剤は、UNITED STATES PHARMACOPEIA AND NATIONAL FORMULARY (USP 24 NF 19); REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES; HANDBOOK ON PHARMACEUTICAL EXCIPIENTS (2d ed., Wade and Weller eds., 1994)に記載されているように、水溶液、塩類を含む非毒性の医薬添加剤、保存剤、緩衝剤などを含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性溶媒には、水、アルコール/水溶液、生理食塩水、塩化ナトリウムやリンガーデキストロースなどの非経口賦形剤などが含まれる。静脈内賦形剤には、液体及び栄養の補給剤が含まれる。保存剤には、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性気体が含まれる。結合組成物の種々の成分のpH及び正確な濃度は、当業界の定型的な技術に従って調節する。GOODMAN AND GILMAN'S THE PHARMACOLOGICAL BASIS FOR THERAPEUTICS (9th ed.)を参照されたい。さらに、1種又は複数のアジュバントをワクチン組成物に加えることができる。ミョウバン(水酸化アルミニウム)が、使用が一般に受け入れられているアジュバントの一例であるが、ワクチン業界の技術者には他のアジュバントも知られている。
【0022】
多糖体結合型ワクチンの部分としての断片Cは、通常、1回量で(幼児及び成人)、又は一次免疫感作のため(乳児の投与計画)及び一定期間にわたる複数回の追加免疫として多数回に分けて投与される。ある特定の患者のための特定の用量レベル、したがって治療有効量は、年齢、体重、及び性別に応じて変わり得る。ほとんどのワクチンでそうであるとはいえ、標準化した値を定めて、一集団の集まり又は亜集団全体に有効な一般化された投与量を明らかにすることができる。一般に、約5〜約100μg、好ましくは約10〜50μgを含有するワクチンが、若い哺乳動物において病原性のグラム陰性若しくはグラム陽性生物の莢膜多糖体に対して有効なレベルの抗体を誘発するのに適し、力価決定などによってさらに規定することができる。連続的に与えられる数回の少ない用量は、1回の注射として与えられる同量のコンジュゲートに優るはずであることが予想される。
【0023】
本発明を以下の実施例によってさらに述べていくが、実施例は本発明を例示するものであり、本発明をいかようにも限定しない。
【実施例1】
【0024】
rTTcコンジュゲートの調製
髄膜炎菌C(GCMP)、Y(GYMP)、及びW(GWMP)の各多糖体の調製:
髄膜炎菌C、Y、及びWの各多糖体を、グルコース及び酵母抽出物を含有する発酵ブロスから精製した。
【0025】
脱O−アセチル化(dOA)GCMPは、米国特許第5425946号に記載のとおりに調製した。
【0026】
脱O−アセチル化GYMPは、以下のように調製した。
【0027】
300kDaのMWCO膜を用いるUFによる多糖体の捕捉:
精密濾過にかけた、細胞を含まない発酵透過物約13Lを、Biomax300K Pellicon膜(0.5m)を使用するUFによって約1リットルに濃縮する。濃縮された未透過物を、1M NaClに対して12回、次いで脱イオン水に対して10回ダイアフィルター(Diafilter)にかける。これをさらに濃縮して約0.2Lにし、収集する。
【0028】
多糖体の塩基による加水分解:
300K未透過物の溶液(約5mgPS/mL)のNaOH最終濃度を2Nに調整し、80℃にセットしたオーブンに16〜18時間入れておいた。反応混合物が冷めて50℃を下回った後、10Lの脱イオン水に希釈した。30kDaのMWCO Pellicon膜によって濃縮した後、濃縮された未透過物水を、1M NaClに対して12回、次いで脱イオン水に対して10回ダイアフィルターにかけた。これをさらに濃縮して約0.2Lにし、収集した。
【0029】
dOA GYMPの酸による加水分解:
未透過物の溶液をテフロン製反応器に移し、酢酸ナトリウム(NaOAc)を加えて、最終濃度を0.1Nとした。6N HClを使用して反応混合物をpH5に調整し、70℃にセットした水浴に入れた。Superose 12(Pharmacia)カラムを使用するSEC MALLSによって測定した多糖体の分子量が目標の約10〜20kDaに到達するまで、これを65rpmで振盪した。
【0030】
断片化されたdOA多糖体の再Nアセチル化:
6N HCl溶液を用いて溶液のpHを8に調整し、次いで室温で無水酢酸を滴下して、無水酢酸の最終濃度を0.8Mとした。SN NaOHを使用して、反応混合物のpHを7〜9の間に保った。反応が完了した後、反応混合物のpHを13まで上げ、混合物をさらに1.5時間攪拌した。次いで、反応pHを、6N HCl溶液を用いてpH8に調整した。反応混合物を4Lの1M NaCl中に注ぎ、Biomax100K Pellicon膜(0.5m)を使用して約1Lに濃縮し、透過物を収集した。100K最終透過物を、Biomax5K PelIlicon膜(0.5m)を使用するUFによって約1リットルに濃縮する。濃縮された未透過物を、脱イオン水に対して10回ダイアフィルターにかけ、約0.2Lに濃縮し、収集する。次いで、断片化された多糖体を過ヨウ素酸ナトリウムで活性化して、そのシアル酸残基中にアルデヒド基を生成した。
【0031】
次いで、酸化させた多糖体を、シアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用する還元アミノ化によって、破傷風トキソイド(Serum Statens Institute、デンマーク国コペンハーゲン)又は組換え型(大腸菌)の破傷風毒素C断片(rTTc)(Roche Molecular Biochemicals、米インディアナ州インディアナポリス)に結合させた。Rocheの組換え型の破傷風毒素C断片と、パパインでの消化後に後破傷風毒素から単離されたC断片(TTc)(List Biological Laboratories, Inc.、米カリフォルニア州Campbell)とを生化学的に比較すると、両方のタンパク質が同一であったことが示された(同じアミノ酸組成、MALDI−TOFFによる測定で同じMW、且つ同じHPLCによる溶離プロフィール)。図2を参照されたい。
【0032】
これらコンジュゲートの物理化学的性質の一部を以下の表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
B群連鎖球菌(GBS)の臨床上最も重要な3種の血清型(Ia、III、及びV)の多糖体を、還元アミノ化によって破傷風トキソイド及びrTTcに結合させた。米国特許第5993825号を参照されたい。表2でその特性の一部を述べる。
【0035】
【表2】

【0036】
上記多糖体を破傷風C断片に結合させる、還元アミノ化以外の別の方法は、特許出願WO0010599A2に記載されている。この方法は、まず、部分的又は完全に脱N−アセチル化された多糖体を再N−アクリロイル化した後、活性化された多糖体を、担体タンパク質にpH9〜10で直接に結合させるものである。この化学現象は、タンパク質上の第一級アミノ基(リシニル残基のu−NH2)の多糖体上の不飽和N−アクリロイル基へのMichael付加である。
【実施例2】
【0037】
rTTcコンジュゲートの前臨床評価
髄膜炎菌コンジュゲートの効力−免疫感作スケジュール:0日目、28日目、及び42日目に、4〜6週齢のSwiss Webster雌性マウスを、TT(破傷風トキソイド)若しくはrTTcに結合させてある多糖体2μgで皮下から免疫感作した。0日目、28日目、及び52日目に動物から採血した。破傷風結合型ワクチンと同様にして調製した、C、Y、又はWそれぞれの多糖体のヒト血清アルブミンコンジュゲートをコート用抗体として使用するELISAによって、多糖体に特異的なIgGを測定した。破傷風トキソイドをコート用抗体として用いるELISAによって、コンジュゲートに対して産生された破傷風毒素抗体を測定した。抗体−補体が関与する抗血清の死滅作用は、補体供給源として乳飲みウサギ血清を使用する血清殺菌アッセイ(SBA)によって測定した。
【0038】
これらコンジュゲートに対する効力(多糖体特異的なIgG及び血清の殺菌活性)は、GCMPのTTc、rTTc、及びTTコンジュゲート間の比較を図3に、TT又はrTTcに結合したGYMP、GWMP、及びGCMPの各コンジュゲートに対する対応する免疫応答を図4に示す。
【0039】
図3及び図4に示すように、髄膜炎菌rTTcコンジュゲートは、その対応するTT構築物と比較しても有意な効力の差を示さない。さらに、一連のELISAによって抗破傷風応答及び抗破傷風C断片(TTc)の測定も行った。GCMP−TTコンジュゲートに対する抗血清での有意な抗破傷風応答は、TTc及びrTTcのGCMPコンジュゲートで産生された血清では、表3に示すように基本的に消滅した。
【0040】
【表3】

【0041】
(a)破傷風についての二重抗原ELISA、(b)間接破傷風IgG ELISA(Rristiansen et al., APMIS 105:843-53 (1997))、(c)間接組換え型破傷風毒素断片C IgG ELISAの3種の検定を使用した。分析物を、4〜8℃で終夜インキュベートした。検定a及びbのプレートは、炭酸緩衝液pH9.6で1:10000に希釈した破傷風トキソイド−ロット57SSIでコートし、4〜8℃で終夜インキュベートした。検定cのプレートでは、再形成した0.1M NaHCO中組換え型破傷風毒素断片C(rTTc)−ロット85161832、Roche−を炭酸緩衝液pH9.6で1μg/mlに希釈したもので行い、室温で2時間インキュベートした。各コートの1枚のプレートに、サンプル及び基準物質の同じ前希釈物を適用した。インキュベートは、4〜8℃で終夜行った。
【0042】
検出に向け、検定a)ではビオチン−TT/HRP−ストレプトアビジン系を使用し、検定b)及びc)ではHRP−ヤギ抗マウスIgG(Fc)1:5000を使用した。色素原O−フェニレンジアミン(OPD)を1mg/mLの濃度で基質として使用し、2M HSOで反応を停止させた。492nmのOD(光学密度)を読み取った。基準線法を使用してデータの分析を行った。
【0043】
二重抗原ELISAのデータに基づき、抗−rTTc MAbを使用して、IgG ELISAデータを標準化した。rTTcに対するMAbは、可溶性トキソイドだけでなく、コートされた自然型破傷風トキソイド及び断片Cを同程度に認識する。このことは、rTTcに対して産生された抗体が3つの型のELISAによって測定できることを示唆している。
【0044】
表3に示したデータは、GCMP−TTコンジュゲートに対する抗血清では非常に有意な抗破傷風IgG応答が測定されたが、TTc及びrTTcのGCMPコンジュゲートに対して産生された血清では、この応答が事実上存在しなかったことを示している。
【0045】
TT又はrTTcを担体タンパク質として使用するGBSコンジュゲートの、防御免疫応答を惹起する能力を試験した。本明細書に記載のとおりに調製した一価のIa、III、及びV型コンジュゲートの有効性を、Madoff et al. Infec. & Immun.60:4989-94 (1992)の新生マウスモデルで評価した。動物(CD1雌性マウス)に混合3価ワクチンミックスを接種した。0日目及び21日目に、各動物に、それぞれのコンジュゲート型多糖体を1pg与えた。ワクチンは、水酸化アルミニウム(Superfos、デンマーク)に吸着させた。21日目にマウスを受精させた。生後48時間の新生マウスに、Ia型GBS(090)、III型GBS(M781)、又はV型GBS(CJ111)を負荷した。個々の各コンジュゲートによって誘発された、GBSの型に特異的な多糖体IgGを図5に示す。このデータは、Ia型及びIII型のrTTcコンジュゲートは、同様に誘発されるにしても、多糖体特異的なIgGの力価がその対応するTT対象物よりも良好とまではいかず、とはいえV型rTTcコンジュゲートは、その対応するTTよりも有意に高くV型特異的なIgGを誘発することを示している。
【0046】
新生マウス負荷の結果として生じる有効性は、抗体代用物のレベルとかなりの相関があり、すなわち、V−TT(約65%)よりもV−rTTcコンジュゲート(約85%の有効性)によって与えられたV型負荷に対する防御の方が有意に良好であるが、Ia型及びIII型のGBS生物体による負荷に対しては同様の防御が提供され、対応するrTTc又はTTコンジュゲートのどちらでも、Iaに対してはほぼ100%、IIIに対しては90〜95%の有効性であった。図6を参照されたい。マウスのモデルでは、V型の負荷は、多糖体コンジュゲートによる以下の免疫感作を克服するのが最も難しく、したがって、V型多糖体用の担体タンパク質としての破傷風断片Cが、完全破傷風分子よりも明らかに適切な担体タンパク質であることは意義深く、特筆すべきである。
【0047】
GBSのTT及びrTTcコンジュゲートによって生じた抗破傷風応答、並びに(凝集を測定する)Lf単位で測定した残りのTT活性を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
この研究は、タンパク質濃度が10μg/mLであり、期待濃度が、TTについては4Lf/mL、rTTcについては10Lf/mLに設定されているという仮定に基づく。
【0050】
表4のデータは、rTTcコンジュゲートによって誘発された血清での抗破傷風IgG応答が、対応するTTコンジュゲートによって誘発された応答と比べて劇的に低減していることを示している。さらに、C断片のGBS多糖体への結合後に保持される破傷風毒素B細胞エピトープの数が、対応するTTコンジュゲートで保持される同じB細胞エピトープと比べると実質的に0まで低減している。したがって、表3及び表4に示したデータは、破傷風を担体タンパク質として含有する多糖体結合型ワクチンに対する抗体応答の、担体によって誘発される潜在的なエピトープ抑制を克服する本発明の別の利点を裏づけ、実証している。
【0051】
説明部分、特定の実施例、及びデータは、好例となる実施形態を示すものであるが、実例として示しており、本発明を限定するものではないことを理解されたい。本発明の範囲内の様々な変更及び修正は、本明細書に含まれる議論、開示、及びデータから当業者に明らかとなり、したがって本発明の一部であると考える。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】破傷風毒素の略図である。
【図2】自然型TTc及び組換え型TTcのプロフィール及び分子量を示す図である。
【図3】GCMPコンジュゲートでの断片C、組換え型断片C、及び破傷風トキソイドの比較を示すグラフである。
【図4】髄膜炎菌コンジュゲートでの組換え型断片Cと破傷風トキソイドの比較を示すグラフである。
【図5】破傷風トキソイド又は組換え型断片CとのGBSPコンジュゲートによって誘発される、型に特異的なIgGを示すグラフである。
【図6】新生マウスモデルにおけるGBSPコンジュゲートの有効性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物抗原の免疫原性を増大させる方法であって、
前記抗原を破傷風毒素断片Cに結合させて、結合型ワクチンを得るステップを含み、前記結合型ワクチンを患者に投与して、前記断片Cが前記抗原の効力を増大させる方法。
【請求項2】
抗原が細菌由来の莢膜多糖体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細菌が、髄膜炎菌のA、B、C、Y、W135、及びX群;連鎖球菌のA、B、及びC群;肺炎球菌の1、2、3、4、6A、6B、9、14、18F、19F、及び23型;黄色ブドウ球菌の5型及び8型;b型インフルエンザ菌からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抗原が真菌由来の莢膜多糖体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
真菌が、カンジダ・アルビカンス及びクリプトコックス・ネオフォルマンスからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
感染に対して患者を免疫感作する方法であって、前記患者に、断片Cに結合させてある抗原を含むワクチンを有効量投与するステップを含む方法。
【請求項7】
抗原が細菌由来の莢膜多糖体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細菌が、髄膜炎菌のA、B、C、Y、W135、及びX群;連鎖球菌のA、B、及びC群;肺炎球菌の1、2、3、4、6A、6B、9、14、18F、19F、及び23型;黄色ブドウ球菌の5型及び8型;b型インフルエンザ菌からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗原が真菌由来の莢膜多糖体である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
真菌が、カンジダ・アルビカンス及びクリプトコックス・ネオフォルマンスからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
断片Cに結合させてある抗原を含む結合型ワクチン。
【請求項12】
抗原が細菌由来の莢膜多糖体である、請求項11に記載の結合型ワクチン。
【請求項13】
細菌が、髄膜炎菌のA、B、C、Y、W135、及びX群;連鎖球菌のA、B、及びC群;肺炎球菌の1、2、3、4、6A、6B、9、14、18F、19F、及び23型;黄色ブドウ球菌の5型及び8型;b型インフルエンザ菌からなる群から選択される、請求項12に記載の結合型ワクチン。
【請求項14】
抗原が真菌由来の莢膜多糖体である、請求項11に記載の結合型ワクチン。
【請求項15】
真菌が、カンジダ・アルビカンス及びクリプトコックス・ネオフォルマンスからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−524621(P2007−524621A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517551(P2006−517551)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/020026
【国際公開番号】WO2005/000346
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(505474924)バクスター ヘルスケア エス.エイ. (2)
【Fターム(参考)】