ワクチン組成物
【課題】新規ワクチン組成物の提供。
【解決手段】本発明は免疫防御作用のある、無害の、小児用に適したグラム陰性菌ブレブワクチンに関連する。ブレブ製造材料となるグラム陰性菌株の例はN. meningitidis、M. catarrhalis及びH. influenzaeなどである。本発明のブレブは、細菌染色体に対する1以上の遺伝子操作、たとえば防御抗原の発現増進、免疫支配的非防御抗原の発現抑制、LPSのリピドA部分の無害化などによる改善を図っている。
【解決手段】本発明は免疫防御作用のある、無害の、小児用に適したグラム陰性菌ブレブワクチンに関連する。ブレブ製造材料となるグラム陰性菌株の例はN. meningitidis、M. catarrhalis及びH. influenzaeなどである。本発明のブレブは、細菌染色体に対する1以上の遺伝子操作、たとえば防御抗原の発現増進、免疫支配的非防御抗原の発現抑制、LPSのリピドA部分の無害化などによる改善を図っている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はグラム陰性菌ワクチン組成物、その製造、及びかかる組成物の医薬への使用という分野に関連する。本発明は特に、新規の外膜小胞(又はブレブ)ワクチン類、並びにこのワクチン類の有効性と安全性を高める有利な方法という分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
グラム陰性菌は2つの連続した膜構造層により外部媒質と隔てられている。これらの膜構造は細胞膜と外膜(OM)といい、構造的にも機能的にも異なる。外膜は病原菌の宿主との相互作用で重要な役目を果たす。従って、表面を露出したこの細菌分子は宿主免疫応答の重要な標的であり、外膜成分はワクチンや診断用及び治療用試薬を提供するうえでの有力候補となる。
【0003】
全菌ワクチン(不活化又は弱毒化処理したもの)には複数の抗原を本来のミクロ環境に収めたまま供給するという長所がある。この方式の短所は内毒素やペプチドグリカン断片などのような細菌成分により誘起される副作用にある。他方、精製外膜成分を含む非細胞サブユニットワクチンは限られた感染防御をもたらすだけであるか、又は宿主の免疫系に対し抗原を適正に提示しないであろう。
【0004】
あらゆるグラム陰性菌の外膜に認められる三大成分は、タンパク質、リン脂質及びリポ多糖である。これらは次のように不斉分布している: 膜リン脂質(ほとんどが内小葉に)、リポオリゴ糖 (外小葉だけに)、タンパク質(内小葉及び外小葉リポタンパク質、内在性又はポリトピック型の膜タンパク質)。ヒトの健康に影響を及ぼす多数の病原菌では、リポ多糖と外膜タンパク質が免疫原性であり、また免疫による対応疾患への感染防御の付与になじみやすいことが証明されている。
【0005】
グラム陰性菌のOMはダイナミックであり、環境条件次第で激しい形態変換を遂げる場合がある。そうした現れのうち、外膜小胞又は「ブレブ」の形成は多数のグラム陰性菌で研究、記録されてきた(Zhou, L et al. 1998. FEMS Microbiol. Lett. 163: 223-228)。ブレブの産生が報告されているそうした細菌の例は百日咳菌Bordetella pertussis、Borrelia burgdorferi、マルタ熱菌Brucella melitensis、Brucella ovis、オウム病クラミジアChlamydia psittaci、トラコーマ・クラミジアChlamydia trachomatis、大腸菌Escherichia coli、インフルエンザ菌Haemophilus influenzae、レジオネラ菌Legionella pneumophila、淋菌Neisseria gonorrhoeae、髄膜炎菌Neisseria meningitidis、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaおよび腸炎エルシニアYersinia enterocoliticaなどである。OMブレブは産生の生化学機構が理解し尽くされているわけではないが、外膜タンパク質調製品を本来のコンホーメーションのまま分離するための強力な方法をもたらすため、広く研究されてきた。その意味で、外膜材料の使用はナイセリアNeisseria属、Moraxella catarrhalis、インフルエンザ菌、緑膿菌及びクラミジアChlamydia属に対するワクチンの開発では特に重要である。しかも外膜ブレブは、種内変種に対する長期の感染防御を付与しそうな複数のタンパク質及び非タンパク質抗原の混合物である。
【0006】
本発明者は、外膜ブレブワクチンが(何らかの方法で変性処理されれば)他のもっと広く使用されている種類の(全菌及び精製サブユニット)ワクチンと比べて、理想の折衷ワクチンとなることを示すであろう。
【0007】
細菌サブユニットワクチンの普及は、ワクチン用途に有効であると判明した細菌表面タンパク質(たとえばB. pertussisのペルタクチン)の徹底的な研究に負っている。これらのタンパク質は細菌外膜とゆるく会合しているため、培養液上清から精製することが、あるいは細菌細胞から楽に抽出することができる。しかし、構造的な内在性外膜タンパク質もまた防御抗原であることがすでに証明されている。たとえばN. meningitidis血清群BのPorA、H. influenzaeのD15、M. catarrhalisのOMP CD、P. aeruginosaのOMP Fなどである。ところがこれらのタンパク質はかなり特異な構造的特徴、特に多両親媒性βシートをもち、それが精製(組換え)サブユニットワクチンとしての直接的な使用を困難にしている。
【0008】
さらに、相当レベルの感染防御を付与するには(細菌表面タンパク質と内在性膜タンパク質などのような形の)多成分ワクチンが求められることも明らかになってきた。たとえばB. pertussisサブユニットワクチンの場合、多成分ワクチンのほうが単成分又は二成分ワクチンに優る。
【0009】
その種のサブユニットワクチンに内在性外膜タンパク質を組み込む場合、有効な免疫効果をもたせるには本来の(又はほぼ本来の)三次元折りたたみ性能を存続させなければならない。分泌外膜小胞又はブレブの使用は、免疫原性の内在性膜タンパク質をサブユニットワクチンに組み込むと同時にそれらが確実に正しく折りたたまれるようにするという問題に対するエレガントな解答であろう。
【0010】
N. meningitidis血清群B (menB) はワクチンの工業生産を可能にするに足る量の外膜ブレブを分泌する。天然に存在するmenB株に由来するその種の多成分外膜タンパク質ワクチンは十代の若者をmenB性疾患から感染防御するうえで有効であると判明しており、中南米ではすでに登録済みである。外膜小胞を調製するもう1つの方法として細菌細胞の洗剤抽出がある(EP 11243)。
【0011】
次に、ブレブワクチンの製造を可能にする細菌種の例を示す。
【0012】
髄膜炎菌Neisseria meningitidis:
Neisseria meningitidisはヒト上気道から単離されることが多いグラム陰性菌であり、菌血症や髄膜炎などのような侵襲性の細菌性疾患を引き起こすことがある。髄膜炎菌感染症の発生率には地域差、季節差、年差が見られる[Schwartz, B., Moore, P.S., Broome, C.V.; Clin. Microbiol. Rev. 2 (Supplement), S18-S24, 1989] 。温帯諸国の疾患はほとんどが血清群B株に起因し、また発生率は人口1万人当たり1〜10人/年であるが、もっと高発生率の国もある[Kaczmarski, E.B. (1997), Commun. Dis. Rep. Rev. 7: R55-9, 1995; Scholten, R.J.P.M., Bijlmer, H.A., Poolman, J.T. et al. Clin. Infect. Dis. 16: 237-246, 1993; Cruz, C., Pavez, G., Aguilar, E., et al. Epidemiol. Infect. 105: 119-126, 1990]。幼児と十代の若者という2つの高リスク年齢層では発生率がもっと高くなる。
【0013】
血清群A髄膜炎菌による感染症はほとんどが中央アフリカで発生しており、その発生率は1万人当たり1,000人に達するときもある[Schwartz, B., Moore, P.S., Broome, C.V.; Clin. Microbiol. Rev. 2 (Supplement), S18-S24, 1989] 。髄膜炎菌感染症はほぼすべての症例が血清群A、B、C、W-135およびY髄膜炎菌に起因する。4価のA、C、W-15、Y莢膜多糖ワクチンが市販されている(Armand, J., Arminjon, F., Mynard, M.C., Lafaix, C., J. Biol. Stand. 10: 335-339, 1982)。
【0014】
多糖ワクチンは目下、担体タンパク質に化学結合させる方向で改善が図られている(Lieberman, J.M., Chiu, S.S., Wong, V.K. et al. JAMA 275: 1499-1503, 1996) 。血清群Bワクチンはまだない。B莢膜多糖が非免疫原性であるためだが、そのわけはおそらく宿主細胞との構造的類似性にあろう(Wyle, F.A., Artenstein, M.S., Brandt, M.L. et al. J. Infect. Dis. 126: 514-522, 1972; Finne, J.M., Leinonen, M., Maekelae, P.M. Lancet ii: 355-357, 1983) 。
【0015】
長年にわたり、脳膜炎菌外膜系ワクチンの開発努力が行われてきた(de Moraes, J.C., Perkins, B., Camargo, M.C. et al. Lancet 340: 1074-1078, 1992; Bjune, G., Hoiby, E.A., Gronnesby, J.K. et al. 338: 1093-1096; 1991) 。そうしたワクチンの有効率は小児(>4歳)と成人では57〜85%となっている。これらの治験はほとんどが、野生型N. meningitidis B株由来のOMV(外膜小胞。ブレブからLPSを除去したもの)を用いて行われた。
【0016】
このワクチンには多数の細菌外膜成分たとえばPorA、PorB、Rmp、Opc、Opa、FrpBが含まれており、観察された感染防御に対するこれらの成分の寄与度をさらに明確にする必要がある。他の細菌外膜成分たとえばTbpBやNspAもまた、防御免疫の誘発に関連している可能性があるとされる(Martin, D., Cadieux, N., Hamel, J., Brodeux, B.R., J. Exp. Med. 185: 1173-1183, 1997; Lissolo, L., Maaetre-Wilmotte、C., Dumas, P. et al. Inf. Immun. 63: 884-890, 1995)。この免疫機構には抗体依存性の殺菌作用及びオプソニアン食菌作用が関連しよう。
【0017】
Neisseria meningitidis感染症の発生率はここ数十年間に劇的に上昇してきた。これは多数の抗生物質耐性株が出現したり、社会的活動の場(プールや映画館・劇場など)が多様化しそこに出入りする機会が多くなったりしていることに起因する。標準抗生物質の一部又はすべてに対して耐性をもつN. meningitidisが単離されるのはもはや珍しくない。この細菌を対象とした新しい抗菌薬、ワクチン、ドラッグスクリーニング法、及び診断試験法に対する医療面の未充足ニーズはこうした事情から生まれている。
【0018】
Moraxella catarrhalis:
Moraxella catarrhalis (別名Branhamella catarrhalis)もヒト上気道から単離されることが多いグラム陰性菌であり、いくつかの病理を引き起こすが、主なものは幼・小児の滲出性中耳炎と老人の肺炎である。また副鼻腔炎、院内感染症、またまれには侵襲性疾患の原因ともなる。
【0019】
ほとんどの成人被験者で殺菌性抗体が同定されている[Chapman, AJ et al. (1985) J. Infect. Dis. 151: 878] 。M. catarrhalis株には血清殺菌活性に対する抵抗性をもつ変種が存在するが、一般に患者からの分離株は単にコロニーが形成されているだけの個人からの分離株よりも抵抗性が強い [Hol, C et al. (1993) Lancet 341: 1281; Jordan, KL et al. (1990) Am. J. Med. 88 (suppl. 5A): 28S]。従って、血清抵抗性はこの細菌の病原性要因とみなすことができよう。滲出性中耳炎からの回復期にある小児の血清ではオプソニン作用が観察されている。
【0020】
これらの様々なヒト免疫応答の標的となる抗原はまだ同定されていないが、84 kDaのタンパク質であるOMP B1は例外である。これは肺炎患者の血清により認識され、鉄による発現調節を受ける(Sethi, S, et al. (1995) Infect. Immun. 63: 1516)。また、UspA1とUspA2も例外である[Chen, D et al. (1999) Infect. Immun. 67: 1310]。
【0021】
生化学的方法による解明によれば、M. catarrhalisの表面に存在する他の少数の膜タンパク質は防御免疫と関わっている可能性がある。[Murphy, TF (1996) Microbiol. Rev. 60:267の概説を参照] 。マウス肺炎モデルでは、そうした膜タンパク質のうちのいくつか(UspA、CopB)に対抗してつくられた抗体の存在は肺感染のクリアランスを速める効果がある。もう1つのポリペプチド(OMP CD)はM. catarrhalis株の間では保存性が高く、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaのポーリンとの相同性を示すが、該ポーリンはこの菌に対して有効であることが動物実験ですでに証明されている。
【0022】
M. catarrhalisは外膜小胞(ブレブ)を産生する。これらのブレブは種々の方法を用いてすでに分離又は抽出されている[Murphy, T.F., Loeb, M.R. (1989) Microb. Pathog. 6: 159-174; Unhanand, M., Maciver, I., Ramillo, O., Arencibia-Mireles, O., Argyle, J.C., McCracken, G.H. Jr., Hansen, E.J. (1992) J. Infect. Dis. 165: 644-650]。その種のブレブ調製品の感染防御能はすでにマウス・モデルでM. catarrhalisの肺クリアランスに関して試験されている。同モデルでは、ブレブワクチンによる能動免疫法または抗ブレブ抗体の受動移入は著しい感染防御を誘発することが証明された[Maciver, I.,Unhanand, M., McCracken, G.H. Jr., Hansen, E.J. (1993) J. Infect. Dis. 168: 469-472]。
【0023】
インフルエンザ菌Haemophilus influenzae:
Haemophilus influenzaeは非運動性のグラム陰性菌である。ヒトがその唯一の宿主である。H. influenzae分離株は通常、その多糖莢膜に応じて分類される。a〜fという6種類の莢膜型が特定されている。これら6種類の血清型のうちの1種類に対抗してつくられた抗血清で凝集しない分離株は類型化不能に分類され、また莢膜を発現しない。
【0024】
H. influenzae b型(Hib)は細菌性髄膜炎や全身性疾患の主因になるという点で他の型とは明らかに異なる。類型化不能H. influenzae株(NTHi)は全身性疾患患者の血液から時折単離されるにすぎない。NTHiは肺炎、慢性気管支炎の増悪、副鼻腔炎および滲出性中耳炎の共通原因である。NTHi株はクローン解析で解明されているように大きな可変性を示すが、Hib株は概してもっと均一である。
【0025】
種々のH. influenzaeタンパク質は病因に関わっていることが、又はワクチン投与後の動物モデルに感染防御を付与することが証明されてきた。
【0026】
NTHiはヒト鼻咽喉上皮細胞に接着すると報告されている[Read, RC et al. (1991) J. Infect. Dis. 163: 549] 。NTHiでは普通線毛や性線毛とは別に [Briton C.C., et al. (1989) Pediatr. Infect. Dis. J. 8: S54; Kar, S. et al. (1990) Infect. Immun. 58: 903; Gildorf, J.R. et al. (1992) Infect. Immun. 60: 374; St. Geme, J.W. et al. (1991) Infect. Immun. 59: 3366; St. Geme, J.W. et al. (1993) Infect. Immun. 61: 2233]、多数の接着因子が同定されている。なかでも、HMW1とHMW2という2つの表面露出高分子タンパク質は上皮細胞に対するNTHiの接着を媒介することがすでに証明されている[St. Geme, J.W. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2875]。HMW1/HMW2ファミリーのタンパク質を欠くNTHi株で、もう1つの高分子量タンパク質ファミリーが同定された。115 kDaのこのNTHi Hiaタンパク質[Barenkamp, S.J., St. Geme, S.W. (1996) Mol. Microbiol. In press]はH. influenzae b型株が発現するHsf接着因子との類似性が高い[St. Geme, J.W. et al. (1996) J. Bact. 178: 6281]。もう1つのタンパク質であるHapタンパク質はIgA1セリンプロテアーゼとの類似性を示し、また接着と細胞侵入の両方に関わっていることが証明された[St. Geme, J.W. et al. (1994) Mol. Microbiol. 14: 217]。
【0027】
5つの主要な外膜タンパク質(OMP)がすでに同定され、数字で番号付けされている。H. influenzae b型株を使用した当初の研究で、OMP P1およびP2に対する特異抗体は幼若ラットを後の攻撃から防御すると証明された [Loeb, M.R. et al. (1987) Infect. Immun. 55:2612; Musson, R.S. Jr. et al. (1983) J. Clin. Invest. 72: 677]。内在性OMP P2は殺菌性およびオプソニン抗体を誘発する力があると判明したが、これらの抗体はP2の表面露出ループ構造内に存在する可変部へと誘導される [Haase, E.M. et al. (1994) Infect. Immun. 62:3712; Troestra, A. et al. (1994) Infect. Immun. 62: 779] 。リポタンパク質P4もまた、殺菌性抗体を誘発する可能性がある[Green, B.A. et al. (1991) Infect. Immun. 59: 3191]。
【0028】
OMP P6は保存型のペプチドグリカン結合リポタンパク質であり外膜の1〜5%を構成する[Nelson,M.B. et al. (1991) Infect. Immun. 59: 2658]。後に、ほぼ同じ分子量のリポタンパク質が識別され、PCP(P6交差反応性タンパク質)と名づけられた[Deich, R.M. et al. (1990) Infect. Immun. 58: 3388]。保存型リポタンパク質P4、P6およびPCPの混合物はチンチラ滲出性中耳炎モデルで測定しても感染防御を示さなかった[Green, B.A. et al. (1993) Infect. Immun. 61: 1950] 。チンチラ・モデルではP6単独だと感染防御を誘発するように見受けられる[Demaria, T.F. et al. (1996) Infect. Immun. 64: 5187]。
【0029】
タンパク質フィブリンもまたOMP P5との相同性がすでに指摘されているが[Miyamoto, N., Bkaletz, L.O. (1996) Microb. Pathog. 21: 343] 、OMP P5自体はE. coliの内在性OmpAと配列相同性がある[Miyamoto, N., Bkaletz, L.O. (1996) Microb. Pathog. 21: 343; Munson, R.S. Jr. et al. (1993) Infect. Immun. 61: 1017] 。NTHiは線毛によって粘膜に接着するように見受けられる。
【0030】
淋菌や髄膜炎菌で観察されたのと同様に、NTHiはFe制限下で増殖させるとTbpAとTbpBからなる二重ヒト・トランスフェリン受容体を発現する。抗TbpB抗体は幼若ラットを感染から防御した[Loosmore, S.M. et al. (1996) Mol. Microbiol. 19: 575]。NTHiではヘモグロビン/ハプトグロビン受容体の存在も明らかにされた[Maciver, I. et al. (1996) Infect. Immun. 64: 3703]。ヘム:ヘモペキシン受容体も特定されている[Cope, L.D. et al. (1994) Mol Microbiol. 13: 868]。NTHiにはラクトフェリン受容体も存在するが、その特性はまだ解明されていない。Neisseria FrpBタンパク質に類似するタンパク質の存在はNTHiではまだ明らかにされていない。
【0031】
80 kDaのOMPであるD15表面抗原はマウス攻撃モデルではNTHiに対する感染防御をもたらしている[Flack, F.S. et al. (1995) Gene 156:97]。42 kDaの外膜リポタンパク質であるLPDはH. influenzaeに共通して保存されており、また殺菌性抗体を誘発する[Akkoyunlu, M. et al. (1996) Infect. Immun. 64: 4586] 。98 kDaの小OMP [Kimura, A. et al. (1985) Infect. Immun. 47: 253] は防御抗原であることが判明したが、これはFe制限下で誘発されるOMSのうちの1つであるか、又はその後に特性が解明された高分子量接着因子である可能性が十分にある。H. influenzaeはIgA1プロテアーゼ活性を生み出す[Mulks, M.H., Shoberg, R.J. (1994) Meth. Enzymol. 235: 543]。NTHiのIgA1プロテアーゼは高度の抗原可変性をもつ[Lombolt, H., van Alphen, L., Kilian, M. (1993) Infect. Immun. 61: 4575]。
【0032】
NTHiのもう1つのOMP、OMP26は26 kDaタンパク質であるが、ラット・モデルで肺クリアランスを高めることが判明した[Kyd, J.M., Cripps, A.W. (1998) Infect. Immun. 66: 2272]。NTHi HtrAもまた防御抗原であることが証明された。実際、このタンパク質はチンチラを滲出性中耳炎から、また幼若ラットをH. influenzae b型菌血症から、それぞれ感染防御した[Loosmore, S.M. et al. (1998) Infect. Immun. 66: 899]。
【0033】
H. influenzaeからは外膜小胞(ブレブ)がすでに分離されている[Loeb, M.R., Zachary, A.L., Smith, D.H. (1981) J. Bacteriol. 145: 569-604; Stull, T.L., Mack, K., Haas, J.E., Smit, J., Smith, A.L. (1985) Anal. Biochem, 150: 471-480]。これらの小胞は血液脳関門透過性の誘発[Wiwpelwey, B., Hansen, E.J., Scheld, W.M. (1989) Infect. Immun. 57: 2559-2560]、髄膜炎症の誘発[Mustafa, M.M, Ramilo, O., Syrogiannopoulos, G.A., Olsen, K.D., McCraken, G.H. Jr., Hansen, E.J. (1989) J. Infect. Dis. 159: 917-922]及びDNAの取込み[Concino, M.F., Goodgal, S.H. (1982) J. Bacteriol. 152: 441-450]に関連付けられてきた。これらの小胞は鼻粘膜上皮組織に結合しそこで吸収されるが[Harada, T., Shimizu, T., Nishimoto, K., Sakakura, Y. (1989) Acta Otorhinolaryngol. 246: 218-221]、そのことは小胞中に接着因子/コロニー形成因子が存在する可能性を示す。外膜小胞中に存在するタンパク質に対する免疫応答は、種々のH. influenzae疾患患者で観察されてきた[Sakakura, Y., Harada, T., Hamaguchi, Y., Jin, C.S. (1988) Acta Otorhinolaryngol. Suppl. (Stockh.) 454: 222-226; Harada, T., Sakakura, Y., Miyoshi, Y. (1986) Rhinology 24: 61-66]。
【0034】
緑膿菌Pseudomonas aeruginosa:
Pseudomonas属はグラム陰性好気性の、極性鞭毛をもち胞子を形成しない直及び微曲桿菌類からなる。Pseudomonas spp.は所要代謝量が少ないため、至るところに存在し、土壌、大気、下水、植物中に広く分布する。Pseudomonas属にはP. aeruginosa、P. pseudomallei、P. mallei、P. maltophilia、P. cepaciaなど、ヒトに対し病原性であることが判明している種も多い。そのなかでも緑膿菌P. aeruginosaは免疫力低下宿主に日和見感染を起こし、入院患者で高死亡率の原因となっているため、重大なヒト病原菌と考えられている。緑膿菌による院内感染は主に、治療が長引いている患者や免疫抑制剤、コルチコステロイド、代謝拮抗物質、抗生物質又は放射線照射を受けている患者に起こる。
【0035】
Pseudomonas属、特に緑膿菌はこれらの細菌の病原性を強める種々の毒素(溶血素、フィブリノリジン、エステラーゼ、コアグラーゼ、ホスホリパーゼ、内毒素及び外毒素)を産生する。さらに、多剤排出ポンプを備えるため抗生物質に対する固有抵抗性が高い。この後者の性質は病気の経過をしばしば複雑にする。
【0036】
抗菌化学療法剤の安易な使用のために、緑膿菌による院内感染はここ30年で大幅に増加した。たとえば米国では緑膿菌院内感染の経済的負担は年間45億米ドルと推定される。したがって、緑膿菌に対する能動又は受動免疫ワクチンの開発がぜひとも求められている[概説については、Stanislavsky et al. (1997) FEMS Microbiol. Lett. 21: 243-277を参照]。
【0037】
緑膿菌の様々な細胞会合及び細胞分泌抗原がワクチン開発の対象とされてきた。そうした抗原のなかでも、アルギン酸塩を主成分とする細胞外粘液である粘液状物質は大きさや免疫原性の点で不均一であると判明した。高分子量アルギン酸成分(30〜300 kDa)は保存型エピトープを含むように見えるが、低分子量アルギン酸成分は(10〜30 kDa)は固有エピトープの他に保存型エピトープを含む。表面会合タンパク質のうち、III 型分泌−移動機構の一部をなすPcrVもまたワクチン接種の興味深い標的であることが示された[Sewa et al. (1999) Nature Medicine 5: 392-398]。
【0038】
O抗原(LPSのO特異的多糖)またはH抗原(鞭毛抗原)を含む表面露出抗原は、その高度の免疫原性ゆえに血清型の類型化に使用されてきた。O特異的多糖の反復単位の化学構造はすでに解明されており、それらのデータから緑膿菌の化学型31種の特定が可能になった。緑膿菌のすべての血清型に共通する保存型エピトープはLPSのコアオリゴ糖とリピドA領域中に位置し、またこれらのエピトープを含有する免疫原はマウスでは種々の緑膿菌免疫型に対する交差防御免疫を誘発する。LPSのアウターコアは、緑膿菌が動物の気道及び眼上皮細胞に結合するためのリガンドであると示唆されたことがある。しかし、このアウターコア領域には異なる血清型間の不均一性が存在する。インナーコア中のエピトープは保存性が高く、また表面はアクセス可能でありO特異的多糖に覆われていないことがすでに証明されている。
【0039】
OMタンパク質の感染防御特性を調べるために、分子量20〜100 kDaの緑膿菌OMタンパク質を含有するワクチンを前臨床及び臨床試験に使用した。このワクチンは動物モデルでは緑膿菌の攻撃に対して有効であったし、また治験志願者では高度の特異抗体を誘発した。治験志願者に由来する抗緑膿菌抗体を含む血漿は受動免疫を与え、また重度の緑膿菌感染症患者の87%で回復に寄与した。もっと最近では、緑膿菌に由来する外膜タンパク質OprF(アミノ酸数190〜342)およびOprI(アミノ酸数21〜83)の部分をグルタチオンSトランスフェラーゼに結合させたハイブリッドタンパク質は975倍の緑膿菌LD50からマウスを防御することが証明された[Knapp et al. (1999) Vaccine 17: 1663-1669]。
【0040】
以上の野生型ブレブワクチンには(天然型、化学合成型のいずれであれ)多くの欠点がある。
【0041】
そうした問題の例を次に列挙する。
− ブレブ上に免疫支配的(ただし可変的)タンパク質が存在(PorA; TbpB、Opa[N. meningitidis B]; P2、P5[NTHi])−この種のブレブは限られた特定の細菌種にしか有効でない。細菌性抗体応答の型特異性はこの種ワクチンの幼児への使用を不可能にする。
− ブレブ上に非防御(不適切)抗原(Rmp、H8、…)―免疫系に対するおとりの抗原―が存在。
− 条件に応じて産生される重要分子[たとえばFe調節を受ける外膜タンパク質(IROMPs)、生体内調節を受ける発現機構]の存在−そうした条件はブレブの産生に際して表面抗原の量を最適化するための制御が困難である。
− 防御(特に保存)抗原(NspA、P6)の発現レベルが低い。
− ブレブ表面上に残存するLPSの毒性。
− 宿主との同一機構に起因する自己免疫応答の潜在的誘発(たとえばN. meningitidis血清群Bの莢膜多糖、Neisseria LPSのラクト-N-ネオテトラオース、NTHi LPS内の多糖構造、線毛内の多糖構造)。
【0042】
こうした問題があると、ブレブワクチンはヒト・ワクチン試薬として使用しにくいであろう。それは特に、ブレブワクチンに対する反応原性が特に重要である小児(<4歳)への使用の場合、及びブレブワクチン(たとえば前述の市販MenBブレブワクチン)が免疫防御に無効であると判明しているような場合である。そこで本発明は、遺伝子組換え細菌株の使用によって以上の諸問題を緩和し、もってブレブワクチンの改良を図るという方法を提供する。かかる方法は、Neisseria meningitidids、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosaなどの病原菌に対する新ワクチンの生成に特に有効であろう。
【0043】
本発明のブレブワクチンは少数の防御(好ましくは保存)抗原又はエピトープに対する免疫応答に焦点を合わせて設計し、多成分ワクチンとして調製する。かかる抗原が内在性OMPsである場合には、ブレブワクチンの外膜小胞は該抗原の適正な折りたたみを確実にしよう。本発明はOMV(ブレブ)ワクチンのOMP及びLPS組成を最適化する方法を提供するが、かかる最適化に用いる手段は免疫支配的可変及び非防御OMPsの欠失、可変領域の欠失による保存OMPsの創出、防御OMPsの発現の上方調節、及び防御OMPsの発現制御機構(Fe制限など)の除去などである。また本発明は、リピド部分の修飾による、又はホスホリル組成の(アジュバント作用を維持した状態での)改変による、又は該アジュバント作用の遮蔽によるリピドAの弱毒化の方法を提供する。これらの新規改良方法はそれぞれ個別にブレブワクチンを改良する効果があるものの、複数の方法を組み合わせると協同的に働くため、免疫防御作用のある、無害の、特に小児用に好適な、最適化された遺伝子組換えブレブワクチンの製造に好都合である。
【発明の概要】
【0044】
発明の要約
本発明は、下記群から選択される1以上の方法の採用によって得られることを特徴とするグラム陰性菌株由来の遺伝子組換えブレブ調製品を提供する:
a) ブレブ調製品中の免疫支配的可変又は非防御抗原を減らす方法であって、該抗原を同定するステップ、該抗原の産生を少なくする又は無くするように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
b) ブレブ調製品中の防御・内在(かつ好ましくは保存)OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
c) ブレブ調製品中の条件発現防御(かつ好ましくは保存)OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該発現の抑制的調節機構(Fe制限など)が除去されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
d) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
e) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の弱毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
f) ブレブ調製品中のリピドAの毒性を低下させかつ防御抗原のレベルを高める方法であって、防御抗原に融合されたポリミキシンAペプチド又はその誘導体又は類似体をコードする遺伝子の組み込みを目的に菌株を染色体組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
g) ブレブ調製品上に保存OMP抗原をつくる方法であって、該抗原を特定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の可変領域が欠失するように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
h) ヒト構造と構造的類似性をもち、かつヒトにおいて自己免疫応答を誘発する力をもつ可能性のある(N. meningitidis B莢膜多糖などのような)抗原の、ブレブ調製品中の発現を低下させる方法であって、該抗原の生合成に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法; または
i) ブレブ調製品中の防御・内在(かつ好ましくは保存)OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、より強い異種プロモーター配列支配下にあって該抗原をコードする遺伝子の1以上のコピーがさらに染色体に導入されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法。
【0045】
本発明のさらなる態様には、ブレブ中の抗原の発現を上方調節するための強いプロモーターの最適位置の決定などを含む上記ブレブ調製品を得るための好ましい方法、種々の細菌株でワクチンへの使用に特に適したブレブ調製品を得るための上方調節又は下方調節の対象として好ましい抗原が包含される。本発明のブレブを含有する好ましい製剤もまた提供されるが、それはある種の疾患状態に対するグローバルワクチンに特に好適である。本発明のブレブを産生するためのベクター、及び本発明のブレブを産生する遺伝子組換え菌株もまた本発明のさらなる態様である。
【0046】
本発明は、4歳未満の小児に投与した場合に免疫防御作用を及ぼししかも毒性がないブレブワクチンを初めて提供する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】種々のコロニー上での735 mAbの反応度。
【図2】ホールセルElisa法による特異的モノクローナル抗体の反応度。
【図3】Neisseria meningitidisゲノムに遺伝子、オペロン及び/又は発現カセットを導入するために用いたpCMKベクターの図解。
【図4】組換えN. meningitidis血清群B(H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のPorA発現の分析。全タンパク質はcps-(レーン3及び4)、cps-PorA::pCMK+(レーン2及び5)及びcps-porA::nspA (レーン1及び6)組換えN. meningitidis血清群B株から回収し、12%ポリアクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分析した。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(レーン1〜3)、またはニトロセルロースフィルターに転写させてから抗PorAモノクローナル抗体で免疫染色した。
【図5】組換えN. meningitidis血清群B株(H44/76派生体)のタンパク質抽出物中のNspA発現の分析。タンパク質は全菌から(レーン1〜3)又は外膜ブレブ調製品から(レーン4〜6)抽出し、12%アクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分離し、抗NspAポリクローナル血清を用いた免疫ブロット法で分析した。cps-(レーン1及び6)、cps-PorA::pCMK+(レーン3及び4)及びcps-porA::nspA (レーン2及び5)に対応する試料を分析した。2種類のNspAが検出された。組換え精製NspAと同時移動する成熟種(18kDa)とそれよりも短い種(15kDa)である。
【図6】組換えN. meningitidis血清群B株(H44/76派生体)のタンパク質抽出物中のD15/omp85発現の分析。タンパク質は外膜ブレブ調製品から抽出し、12%アクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分離し、抗omp85ポリクローナル血清を用いた免疫ブロット法で分析した。cps-(レーン2)、及びcps-、PorA+、pCMK+ Omp85/D15(レーン1) 組換えN. meningitidis血清群B株に対応する試料を分析した。
【図7】プロモーターの導入による遺伝子発現調節のための一般戦略(RSは制限部位)。
【図8】組換えN. meningitidis血清群B cps-株(H44/76派生体)によって産生された外膜ブレブの分析。タンパク質は外膜ブレブ調製品から抽出し、4〜20%濃度勾配ポリアクリルアミドゲルSDS-PAGE法により低減条件下で分離した。ゲルはCoomassieブリリアントブルーR250で染色した。レーン2、4及び6は5μgの全タンパク質に対応し、レーン3、5及び7は10μgの全タンパク質に対応する。
【図9】N. meningitidis H44/76でのOmp85/D15発現/産生の上方調節に使用されたプロモーター置換用プラスミドの構築。
【図10】組換えNmB(H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のOMP85発現の分析。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(A)、又はニトロセルロースフィルターに転写後、ウサギ抗OMP85 (N. gono)モノクローナル抗体で免疫染色した(B)。
【図11】組換えNmB(H44/76派生体)に由来するOMV調製品中のOMP85発現の分析。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(A)、又はニトロセルロースフィルターに転写後、ウサギ抗OMP85ポリクローナル抗体で免疫染色した(B)。
【図12】キメラporA/lacOプロモーター中のlacOを欠失させるために使用した組換えPCR戦略の図解。
【図13】組換えN. meningitidis血清群B(H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のHsf発現の分析。全タンパク質はCps-PorA+(レーン1)、及びCps-PorA +/Hsf(レーン2)組換えN. meningitidis血清群B株から回収し、12%ポリアクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分析した。ゲルはCoomassieブルーで染色した。
【図14】組換えN. meningitidis (H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のGFP発現の分析。全タンパク質はCps-、PorA+(レーン1)、Cps-、PorA-GFP+ (レーン2及び3)組換え株から回収した。タンパク質は12%ポリアクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分離してからCoomassieブルーで染色した。
【図15】種々の組換えブレブ調製品の表面における大タンパク質の分布パターン(SDS-PAGEで分析、Coomassieで染色)。
【図16】精製組換えHsfタンパク質を使用した、種々のブレブ及び組換えブレブ調製品に関する特異的抗Hsf応答。
【図17】組換えNmB(血清群B派生体)の全タンパク質抽出物中のNspA発現の分析。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(A)、又はニトロセルロースフィルターに転写後、マウス抗PorAモノクローナル抗体で免疫染色するか(B)、又はマウス抗NspAポリクローナル抗体で染色した(C)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
発明の説明
本発明はグラム陰性細菌株から改良型の遺伝子組換えブレブをつくるために使用しうる一般的な手段と方法に関連する。本発明は、ヒト及び/又は動物ワクチン用組換えブレブの免疫原性を高め、毒性を弱め、安全性を高めるために使用される方法を包摂する。さらに、本発明は種々のグラム陰性菌からワクチン用、治療用及び/又は診断用の組換えブレブを構築し、生産し、獲得し、また使用するために必要となる具体的方法を説明する。本発明の方法によれば、細菌外膜ブレブ(外膜タンパク質又はOMPs)中に存在する、又は細菌外膜ブレブと会合した生成物をコードする細菌遺伝子の発現に影響を及ぼし/変更を加えることにより、細菌ブレブの生化学組成を操作することができる。外膜成分をコードする1以上の遺伝子の発現を強め、弱め、又は条件次第にするための遺伝子組換え法を用いたブレブの生産もまた本発明の範囲に包含される。
【0049】
用語の意味を明快にしておくと、「発現カセット」は本書では、ある遺伝子又はオペロンを発現させ、対応する目的タンパク質を産生させ外膜ブレブに局在化させるために必要となる、任意の細菌宿主に由来する諸々の遺伝子要素をいう。かかる要素にはたとえば(転写及び/又は翻訳)調節要素、タンパク質コード領域及びターゲティングシグナル配列、及びそれらの間に適宜介在する間隔などが含まれる。プロモーター配列の挿入とは本発明では、少なくともプロモーター機能を備えた配列、好ましくは発現カセット内に含まれる1以上の他の遺伝子調節要素の挿入をいう。さらに、「組込み型カセット」はDNA断片を任意の細菌宿主に組み込むために必要とされる諸々の遺伝子要素をいう。これらの要素にはたとえば組換え遺伝子を収めた導入手段(ベクター)、選択及び対抗選択マーカーなどが含まれる。
【0050】
やはり明快を期して付け加えると、用語「該抗原の産生を少なくする・・・ように菌株を遺伝子組換えする」は、目的とする抗原の発現を、非組換え(すなわち天然型)ブレブのそれと比較して、10%以上好ましくは50%以上少なくするような任意の手段をいう。「より強いプロモーター配列」は目的とする抗原をコードする遺伝子の転写を強めるような調節要素をいう。「発現を上方調節する」は目的とする抗原の発現を、非組換え(すなわち天然型)ブレブのそれと比較して、増進するための任意の手段をいう。「上方調節」の幅は目的とする特定の抗原に応じて異なるが、ブレブの膜完全性を損なうような幅を超えることはないものとする。抗原の発現の上方調節は非組換えブレブのそれを10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは100%(2倍)以上上回る発現をいう。
【0051】
本発明の諸態様は改良型の組換えブレブをつくる個別の方法、そうした方法の組合せ、及びそれらの方法の結果としてつくられるブレブ組成物に関連する。本発明の別の態様は、選択された菌株を遺伝子組換えして該菌株より改良型の組換えブレブを抽出しうるようにするための遺伝子工学的手段に関連する。
【0052】
本発明の方法の遺伝子工学的ステップは技術上周知の多様なやり方で行うことができる。たとえば、配列(プロモーター又は読取り枠など)の挿入が可能であり、またトランスポゾン挿入法によるプロモーター/遺伝子の妨害も可能である。たとえば、遺伝子の発現を上方調節するためには、より強いプロモーターを該遺伝子の開始コドンの最大2 kb上流に(もっと好ましくは200〜600 bp上流に、最も好ましくは約400 bp上流に)挿入することができよう。点突然変異又は欠失を(特に遺伝子発現の下方調節を目的とする場合には)用いてもよい。
【0053】
しかし、かかる方法はきわめて不安定又は不確実であるおそれがあるため、遺伝子組換えステップ[特に後述の方法a)、b)、c)、d)、e)、h)およびi)に関するステップ]は相同的組換え事象を介して行うのが好ましい。好ましくは、該事象は細菌染色体上の少なくとも30ヌクレオチドの配列(組換え誘発領域)と菌株に導入されたベクター上の少なくとも30ヌクレオチド以上の配列(第2組換え誘発領域)との間で起こるようにする。これらの領域の大きさは好ましくは40〜1000ヌクレオチド、もっと好ましくは100〜800ヌクレオチド、最も好ましくは500ヌクレオチドである。これらの組換え誘発領域は高度に厳格な条件(定義については後述)の下で互いにハイブリダイズしうるだけの類似性をもたければならない。
【0054】
組換え事象は染色体及びベクター上の単一組換え誘発領域を用いて、又は(染色体及びベクター上の2領域を用いた)二重乗換え事象を介して起こるようにしてもよい。単一組換え事象の場合には、ベクターは環状DNA分子であるのがよい。二重組換え事象の場合には、ベクターは環状又は線状DNA分子とすることができよう(図7を参照)。二重組換え事象を採用し、使用するベクターは線状とするのが好ましい。というのは、そうして生み出される遺伝子組換え細菌のほうが組換え前状態への復帰という点でより安定性が高いからである。二重乗換えを起こしやすくする意味で、染色体上の(またベクター上の)2組換え誘発領域は好ましくは類似の(最も好ましくは同じ)長さとする。この二重乗換えは、染色体上の(ヌクレオチド配列Xで隔てられた)2組換え誘発領域とベクター上の(ヌクレオチド配列Yで隔てられた)2組換え誘発領域が組み換わって結果的に(XとYが入れ替わる点を除けば)染色体を無変化のままにしておくように機能する。組換え誘発領域の位置は、目的とする読取り枠の上流又は下流に、もしくは上流と下流の両方に配置することができる。これらの領域はコード、非コード又はコード/非コード混合配列からなることができる。XとYの一致率は所望の組換え効果次第であろう。Xが読取り枠の全部又は一部をなしYが無ヌクレオチドであるという場合もあろうが、その結果は染色体からXが欠失した配列が生じよう。あるいは、Yが読取り枠の上流に挿入するための強いプロモーターであり、従ってXが無ヌクレオチドになるという場合もあろう。
【0055】
好適なベクターはどのようなタイプの組換え事象を起こすかによって、また組換え事象の最終目的が何であるかによって、組成が異なろう。領域Yの導入に使用される組込み型ベクターは条件次第で複製型又は自殺型プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、または制限加水分解又はPCR増幅によって得られる線状DNA断片とすることができる。組換え事象の選択は選択遺伝子マーカーたとえば抗生物質(カナマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシンなど)耐性を付与する遺伝子、重金属及び/又は毒物耐性を付与する遺伝子、又は栄養要求性変異を補完する遺伝子(pur、leu、met、aroなど)などを用いて行う。
【0056】
方法a)及びf)−可変的及び非防御的な免疫支配抗原の下方調節/除去:
多数の表面抗原は菌株間で可変的であり、その結果として密接に関連し合う少数の菌株に対してしか防御的でない。本発明の一態様は、可変表面抗原をコードする遺伝子の発現の下方調節、又は好ましくは該遺伝子自体の欠失をカバーするが、そうした操作の結果として作られる菌株が産生するブレブでは、ワクチンとして投与されたときに、該ワクチンの免疫系に対して (外膜上に保持される) 保存タンパク質が及ぼす影響力の増大ゆえに種々の菌株に対して交差反応性を示す可能性が強まる。そうした可変抗原の例はNeisseriaでは抗原変異をこうむる線毛(PilC)、PorA、Opa、TbpB、FrpBであり、H. influenzaeではP2、P5、ピリン、IgA1プロテアーゼであり、またMoraxellaではCopB、OMP106である。
【0057】
下方調節し又は休止させることができる他タイプの遺伝子は、in vivo作動(発現)又は休止が細菌により容易に行われる遺伝子である。かかる遺伝子がコードする外膜タンパク質は菌体上に常に存在するとは限らないので、ブレブ調製品にそうしたタンパク質が存在すると前述の理由からワクチンの有効性を損なう可能性がある。下方調節又は欠失の対象として好ましい例はNeisseria Opcタンパク質である。Opc含有ブレブワクチンにより誘発される抗Opc免疫は、感染菌が容易にOpcになってしまうため限られた防御能しかもたないであろう。H. influenzae HgpA及びHgpBもまたそうしたタンパク質の例である。
【0058】
方法a)では、これらの可変又は非防御遺伝子は発現を下方調節するか又は終末的に作動を休止させる。これには、ブレブ外表面に少量存在するより優れた抗原に対して免疫系を集中させるという前述のような驚くべき利点がある。
【0059】
菌株の遺伝子操作にはこのように、遺伝子のコード領域又はプロモーター領域の妨害を目的としたトランスポゾンの挿入や同様の結果を実現するための点変異又は欠失などを含む多数の戦略が可能である。また相同的組換えを利用して染色体から遺伝子を欠失させることもできる[ヌクレオチド配列Xが目的遺伝子のコード配列の一部 (好ましくは全部)を含む場合)。相同的組換えはまた、強いプロモーターを弱い(無)プロモーターへと取り替えるためにも利用できる[ヌクレオチド配列Xが遺伝子のプロモーター配列の一部(好ましくは全部)を含み、かつヌクレオチド配列Yがより弱いプロモーター領域含む(結果的には、目的とする遺伝子/オペロンの発現が弱まる)か又は無プロモーター領域を含む場合]。この場合には、組換え事象は目的遺伝子の1000 bp上流の染色体領域で起こるようにするのが好ましい。
【0060】
あるいは、Yが条件付き転写活性を付与し、その結果として目的の遺伝子/オペロンの条件付き発現(下方調節)がもたらされるようにすることもできよう。これは細菌宿主に対して毒性のある、又は細菌宿主による十分な支援を受けない分子の発現に有効である。
【0061】
以上例示したタンパク質はほとんどが内在性OMPであり、その可変性はその表面露出ループのうちの1個または数個だけに限られよう。本発明の別の態様[方法g)]はこれらの表面露出ループに対応するDNA領域の欠失をカバーするとしており、保存性の表面露出ループを収めた内在性OMPの発現を招く。H. influenzae P2およびP5の表面露出ループは、かかる方法を用いることによって交差反応性抗原へと変化させることができるタンパク質の例である。この場合もまた、相同的組換えがこの遺伝子組換え方法を実行するための好ましい方法である。
【0062】
方法b)−プロモーターの導入及び調節:
本発明のさらなる態様は、目的とする遺伝子/オペロンの発現を調節する調節領域のin situ変更によるブレブ組成の改変に関連する。この変更は目的遺伝子の発現を調節する内在性プロモーターの、識別可能な転写活性を付与するプロモーターへの部分的又は全面的置換を含む。この識別可能な転写活性は、内在性調節領域の変異形(点変異、欠失及び/又は挿入)により、天然型プロモーター又は遺伝子組換えによる異種プロモーターにより、又は両方の組合せにより、付与することができる。好ましくは、かかる変更では (強いプロモーターの導入により)内在性転写活性よりも強い転写活性を付与し、結果的に目的遺伝子及び/又はオペロンの発現が増進(上方調節)されるようにする。かかる方法は、外膜タンパク質及びリポタンパク質などのような免疫学的に関連のあるブレブ成分(好ましくは通常ブレブ中に低濃度で存在する保存OMPs)の産生を増進させるうえで特に有効である。
【0063】
Neisseriaに組み込んでもよい代表的な強いプロモーターはporA [SEQ ID NO: 24]、porB [SEQ ID NO: 26]、lgtF、Opa、p110、lst及びhpuABである。PorAとPoaBは構成的な強いプロモーターとして好ましい。PorBプロモーター活性はporBの開始コドンの−1〜−250上流のヌクレオチドに対応する断片中に含まれることがすでに立証されている(実施例9)。Moraxellaでは、ompH、ompG、ompE、ompB1、ompB2、ompA、OMPCDおよびomp106プロモーターを使用するのが好ましいし、またH. influenzaeではP2、P4、P1、P5およびP6プロモーターを組み込むのが好ましい。
【0064】
好ましい二重乗換え相同的組換え技術を用いて1000 bp上流領域にプロモーターを導入すれば、上方調節の対象とする遺伝子の開始コドンの30〜970 bp上流のどこかにプロモーターを配置することができる。遺伝子の最適発現を実現するにはプロモーター領域は読取り枠の比較的近くにあるのがよいと便宜的には考えられているものの、本発明者は意外にも、開始コドンからさらに離してプロモーターを配置すると発現レベルが大幅に上昇する結果となることを発見した。よって、プロモーターは遺伝子の開始コドンから200〜600 bpに、もっと好ましくは300〜500 bpに、最も好ましくは開始ATGから約400 bpに挿入するのが好ましい。
【0065】
方法c)−条件に応じて産生されるブレブ組成物
ある種のブレブ成分をコードする若干の遺伝子の発現は慎重に調節される。そうした成分の産生は条件に応じて調節され、また種々の代謝及び/又は環境シグナルに依存する。かかるシグナルにはたとえばFe制限、酸化還元電位の調節、pH及び温度の変動、栄養変化などがある。条件に応じて産生されることが判明しているブレブ成分の例は、Neisseria及びMoraxellaに由来する、Fe調節を受ける外膜タンパク質(TbpB、LbpBなど)、及び基質誘導性の外膜ポーリンなどである。本発明は、かかる分子の発現を構成的にするための前述の遺伝子組換え法[方法a)またはc)]の使用をカバーする。こうして、目的遺伝子に対する環境シグナルの影響は該遺伝子の対応する調節領域を改変/置換する[たとえば抑制的調節配列−オペレーター領域など−の一部(好ましくは全部)を欠失させる]ことにより、または構成的な、より強いプロモーターを導入することにより、それが構成的活性をもつようにすることで克服することができる。Fe調節を受ける遺伝子では、furオペレーターを除去することができよう。あるいは、方法i)を使用して目的遺伝子/オペロンの追加コピーを染色体に導入し、構成的プロモーターの制御下に人為的に置くようにしてもよい。
【0066】
方法d)およびe)−LPSの無害化
ブレブワクチンの毒性はブレブのワクチンへの使用における最大の問題である。本発明のさらなる態様はブレブ中のLPSを遺伝子的に無害化する方法に関連する。リピドAは細胞活性化を引き起こすLPSの主成分である。この経路に関わる遺伝子の突然変異はきわめて重要な表現型をもたらすものが多い。しかし、末端修飾ステップを担う遺伝子の突然変異は温度感受性 (htrB)または許容性 (msbB) 表現型をもたらす。これらの遺伝子の発現を低下させる(又はゼロにする)結果となる突然変異は結果的に、リピドAの毒性を変化させる。実際、非ラウロリル化(htrB突然変体)または非ミリストイル化(msbB突然変体)リピドAは野生型リピドAよりも毒性が低い。リピドA 4’-キナーゼをコードする遺伝子(lpxK)の突然変異もまたリピドAの毒性を低下させる。
【0067】
こうして、方法d)は1以上の前記読取り枠又はプロモーターの一部(又は好ましくは全部)の欠失に関わる。あるいは、プロモーターをより弱いプロモーターで置換することもできる。好ましくは、この方法の実行には前述の相同的組換え手法を用いる。
【0068】
この目的のためには、Neisseria meningitidis B、Moraxella catarralis及びHaemophilus influenzaeに由来するhtrB及びmsbB遺伝子の配列が追加的に提供される。
【0069】
LPS毒性はまた、ポリミキシンB耐性(かかる耐性はリピドAの4’リン酸塩へのアミノアラビノースの付加と関連付けられてきた)に関わる遺伝子/遺伝子座への突然変異の導入によっても弱めることができる。これらの遺伝子/遺伝子座はUDPグルコース・デヒドロゲナーゼをコードするpmrEでも、またはアミノアラビノースの合成と輸送に関与している可能性がある多数の腸内細菌に共通する抗菌ペプチド耐性遺伝子の領域でもよい。この領域に存在する遺伝子pmrFはドリコールリン酸マノシル・トランスフェラーゼをコードする[Gunn, J.S., Kheng, B.L., Krueger, J., Kim, K. Guo, L., Hackett, M., Miller, S.I. (1998) Mol. Microbiol. 27: 1171-1182]。
【0070】
リン酸リレー二成分調節系(PhoP構成的表現型PhoPcなど)であるPhoP-PhoQ調節系の突然変異、または(PhoP-PhoQ調節系を活性化する)低Mg++環境又は培地条件は、4’リン酸塩へのアミノアラビノースの付加及びミリスチン酸塩の2-ヒドロキシミリスチン酸塩への置換(ミリスチン酸塩のヒドロキル化)を招く。この修飾リピドAはヒト内皮細胞によるE-セレクチン分泌及びヒト単球からのTNF-α分泌を刺激する能力の低下を示す。
【0071】
方法e)は前述の戦略 (好ましくは相同的組換え手法を用いてこの方法を行うことによる強いプロモーターの組み込み) によるこれらの遺伝子の上方調節に関連する。
【0072】
あるいは、こうした突然変異を起こさせるのではなく、ポリミキシンB耐性株を(本発明の他の1以上の方法と併せて)ワクチン生産株として利用することもできる。その種の菌株に由来するブレブもまた (たとえば髄膜炎菌で証明されているように) LPS毒性を低下させているからである[van der Ley, P., Hamstra, H.J., Kramer, M., Steeghs, L., Petrov, A., Poolman, J.T. (1994) In: Proceddings of the 9th International Pathogenic Neisseria Conference. The Guildhall, Winchester, England]。
【0073】
さらなる選択肢(そして本発明のさらなる態様)として、グラム陰性菌株を培地リットル当り0.1mg〜100gのアミノアラビノースを混ぜた増殖培地で培養するステップを含む、該菌株を無害化する方法が提供される。
【0074】
さらに別の選択肢として、ポリミキシンBに類似した結合活性を備える合成ペプチド(後述)をブレブ調製品に加えてLPSの毒性を低下させてもよい[Rustici, A., Velucchi, M., Faggioni, R., Sironi, M., Chezzi, P., Quataert, S., Green, B., Porro, M. (1993) Science 259: 361-365; Velucchi, M., Rustici, A., Maezza, C., Villa, P., Ghezzi, P., Porro, M. (1997) J. Endotox. Res. 4:]。
【0075】
方法f)−同種又は異種タンパク質の外膜ブレブへの固定とLPSの毒性低減:
本発明のさらなる態様は、複合タンパク質を外膜に局在化させる手段としての、ポリミキシンBペプチド(又はその類縁物質)をコードする遺伝子配列の使用をカバーする。ポリミキシンBは、外膜に存在するLPSのリピドA部分と非常に強く結合する (グラム陰性放線菌類により産生される)非tRNAコード化アミノ酸からなる環状ペプチドである。この結合はLPSの固有毒性(内毒素活性)を低下させる。ポリミキシンBと構造が類似し、標準的な(tRNAコード化)アミノ酸からなるペプチドはすでに開発されているが、やはりリピドAと強い親和力で結合する。これらのペプチドはLPSの無害化にすでに使用されている。これらのペプチドのうちSAPE-2 (N末端-Lys-Thr-Lys-Cys-Lys-Phe-Leu-Lys-Lys-Cys-C末端)として知られるものはその点できわめて有望であることが証明された[分子マッピングと合成ペプチドによるリピドA結合部位の無害化(1993)。Rustici, A., Velucchi, M., Faggioni, R., Sironi, M., Chezzi, P., Quataert, S., Green, B., Porro, M. (1993) Science 259: 361-365]。
【0076】
本発明の方法f)はこの使用を改善する。SEPA-2ペプチド(又はその誘導体)をコードするDNA配列を(たとえば、通常は毒素として、又は細胞質タンパク質又はペリプラズムタンパク質として分泌されるT細胞抗原又は防御抗原をコードする)目的遺伝子へと遺伝子的に融合させて使用すると、対応する組換えタンパク質を好ましい細菌宿主の外膜へと局在化させる(と同時にLPSの毒性を低下させる)手段になることが判明している。
【0077】
この方式は、ブレブ外に直接露出させられないような不安定タンパク質に好適である。この場合、ブレブは搬送手段として、T細胞にひとたび取り込まれると該タンパク質を免疫系に対して露出させる働きをしよう。あるいは、遺伝子的融合体にシグナルペプチド又は膜貫通領域をも含めることにより、組換えタンパク質が外膜を通過して宿主免疫系へと露出するようにしてもよい。
【0078】
この局在化戦略は、通常は外膜へと局在化しないようなタンパク質をコードする遺伝子では特に重要であるかもしれない。この方法を用いると、目的とするタンパク質が濃縮された組換えブレブの分離もまた可能になる。好ましくは、かかるペプチド局在化シグナルにより、自然状態ではそうした特定の亜細胞に局在化することのないような1種又は数種のタンパク質が外膜ブレブ中で濃縮されるようにする。かかる組換えブレブ産生のための受容宿主として使用できる細菌の例はNeisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia trachomatis及びChlamydia pneumoniaeなどである。
【0079】
前記融合体用の遺伝子は細菌染色体に[方法i)を用いて]遺伝子工学的に組み込むのが好ましいが、別の好ましい態様ではSAPE-2標識付け組換えタンパク質を別々につくり、後段でブレブ調製品に結合させる。
【0080】
さらなる態様はこうした融合体のタンパク質精製法への使用である。この方式は組換えタンパク質一般を産生するための発現系の一部として使用することができよう。SAPE-2ペプチド標識はその結合対象であるタンパク質のアフィニティー精製に用いることができるが、このアフィニティー精製には固定化リピドA分子を詰めたカラムを使用する。
【0081】
方法h)−交差反応性の多糖
莢膜をもつグラム陰性菌に由来する細菌外膜ブレブを分離するとしばしば莢膜多糖が同時精製される結果となる。場合により、この「汚染」物質は有用となるかもしれない。というのは、多糖は他ブレブ成分によって付与される免疫応答を増進することもあるからである。しかし他面、細菌ブレブ調製品に混じった不純物の存在はブレブのワクチンへの使用には不利かもしれない。たとえば、少なくともN. meningitidisの場合にはすでに証明されているように、血清群B莢膜多糖は防御免疫を付与しないし、ヒトでは不都合な自己免疫応答を誘発しやすい。そこで、本発明の方法h)は莢膜多糖をまったく含まないブレブを産生するための菌株の遺伝子組換えに関連する。産生されるブレブはヒトへの使用に適したものになる。かかるブレブ調製品の特に好ましい例は莢膜多糖をまったく含まないN. meningitidis血清群B由来の調製品である。
【0082】
これは、莢膜の生合成及び/又は輸送に必要な遺伝子を阻害しておいた遺伝子組換えブレブ産生菌株を使用して実現されよう。莢膜多糖の生合成又は輸送をコードする遺伝子の阻害は、調節領域、コード領域、又はそれらの両方に(好ましくは前述の相同的組換え手法を用いて)突然変異(点変異、欠失又は挿入)を起こさせることにより実現することができる。さらに、莢膜生合成遺伝子の阻害はアンチセンス過剰発現又はトランスポゾン突然変異誘発によって実現してもよい。好ましい方法は多糖生合成及び輸送に必要とされるN. meningitidis cps遺伝子の一部又は全部の欠失である。この目的のためには、[Frosh et al. (1990) Mol. Microbiol. 4: 1215-1218で説明されている]置換用プラスミドpMF121を使用してcpsCAD (+galE)遺伝子群を欠失させる突然変異を導入することができる。あるいは、siaD遺伝子を欠失させるか、発現を下方調節することも可能である(siaDは髄膜炎菌遺伝子であり、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ、すなわち莢膜多糖とLOSの生合成に必要とされる酵素をコードする)。かかる突然変異は細菌LPSの多糖部分に見られる宿主類似構造を除去することにもなろう。
【0083】
方法i)−遺伝子及び/又はオペロンの1以上のさらなるコピーの宿主染色体への導入、又は異種遺伝子及び/又はオペロンの宿主染色体への導入:
ブレブ調製品の組成を調節する場合、発現カセットを収めたDNA断片の1以上のコピーをグラム陰性菌ゲノムに導入するのが効率的な戦略である。かかるカセットの受容体として使用することができる好ましい細菌種の例は、Neisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia trachomatis、Chlamydia pneumoniaeなどである。発現カセットに収める遺伝子は同種(または内在)遺伝子(すなわち、遺伝子組換え細菌のゲノムに本来存在する遺伝子)でも、異種遺伝子(すなわち、遺伝子組換え細菌のゲノムには本来存在しない遺伝子)でもよい。この再導入発現カセットは非組換え「天然」プロモーター/遺伝子/オペロン配列から、又はプロモーター領域及び/又はコード領域あるいはその両方がすでに変更されている組換え発現カセットからなろう。発現への使用が可能な好ましいプロモーターの例は、N. meningitidisまたはN. gonorrhoeae由来のプロモーターporA、porB、lbpB、tbpB、p110、lst、hpuAB、H. influenzae由来のプロモーターp2、p5、p4、ompF、p1、ompH、p6、hin47、M. catarrhalis由来のプロモーターompH、ompG、ompCD、ompE、ompB1、ompB2、ompB2、ompA、Escherichia coli由来のプロモーターλpL、lac、tac、araBまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼたとえばE. coliバクテリオファージT7によって特異的に認識されるプロモーターなどである。かかる系で発現させることができる遺伝子の例はNeisseria NspA、Omp85、PilQ、TbpA/B複合体、Hsf、PldA、HasR; Chlamydia MOMP、HMWP; Moraxella OMP106、HasR、PilQ、OMP85、PldA; Bordetella pertussis FHA、PRT、PTなどである。
【0084】
本発明の好ましい実施態様では、相同的及び/又は部位特異的組換えにより発現カセットを細菌染色体に導入し組み込む。かかる遺伝子及び/又はオペロンの導入に使用される組込み型カセットは条件次第で複製型又は自殺型プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、または制限加水分解又はPCR増幅によって得られる線状DNA断片とすることができる。組込みの標的は好ましくは、in vitro増殖に可欠の染色体領域とする。DNA組込みの標的として使用できる好ましい遺伝子座の例は、N. meningitidisおよびN. gonorrheaeのporA、porB、opa、opc、rmp、omp26、lecA、cps、lgtB遺伝子; NTHiのP1、P5、hmw1/2、IgA-protease、fimE遺伝子; M. catarrhalisのlecA1、lecA2、omp106、uspA1、uspA2遺伝子などである。あるいは、ブレブ成分の発現の調節に使用する発現カセットを特定の細菌に、エピソームベクターたとえば環状/線状複製型プラスミド、コスミド、ファスミド、溶原性バクテリオファージ、又は細菌人工染色体などの手段で組み込むこともできる。組換え事象の選択は選択遺伝子マーカー、たとえば抗生物質(カナマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシンなど)耐性を付与する遺伝子、重金属及び/又は毒物耐性を付与する遺伝子、又は栄養要求性変異を補完する遺伝子(pur、leu、met、aroなど)などを用いて行う。
【0085】
異種遺伝子−外膜ブレブ中の異種タンパク質の発現:
細菌外膜ブレブは、ワクチン用、治療用及び/又は診断用組換えタンパク質を生産し、分離し、供給するためのきわめて魅力的な系となる。本発明のさらなる態様は外来の異種タンパク質の発現、産生、及び外膜への局在化、並びに組換えブレブを生産するための細菌の使用に関連する。
【0086】
これを実現するには、異種遺伝子(随意に強いプロモーター配列の調節を受ける)を相同的組換えによりグラム陰性菌の染色体に導入するステップを含む方法を用いるのが好ましい。ブレブは、この方法に由来する組換え菌株からつくられよう。
【0087】
組換えブレブ生産用の受容宿主として使用できる細菌はNeisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia trachomatis、Chlamydia pneumoniaeなどである。かかる系において発現させる遺伝子はウィルス、細菌、真菌、寄生虫又は高等真核生物に由来することができる。
【0088】
本発明の好ましい適用分野は、Neisseria meningitidis組換えブレブ中でMoraxella、Haemophilus及び/又はPseudomonas外膜タンパク質(内在性、ポリトピック型及び/又はリポタンパク質)を発現させる方法を包含する。組込みの標的として好ましい遺伝子座は前述のとおりであり、また導入するのが好ましい遺伝子はその出自に当たる細菌に対する防御を付与する遺伝子である。各細菌の好ましい防御遺伝子は後述のとおりである。
【0089】
さらなる好ましい適用分野は次のとおりである: 異種遺伝子をM. catarrhalis由来の防御OMPとする組換えH. influenzae株から産生されるブレブ; 及び異種遺伝子をH. influenzae由来の防御OMPとする組換えM. catarrhalis株から産生されるブレブ(遺伝子挿入のための好ましい遺伝子座は前述のとおりであり、好ましい防御抗原は後述のとおりである)。
【0090】
この実施態様の特に好ましい適用分野は性感染症(STDs)の予防又は治療の分野である。STDの主因が淋菌、Chlamydia trachomatisいずれの感染にあるのかは医師にもしばしば見極めにくい。これら2種類の細菌は卵管炎(宿主に不妊症をもたらすおそれのある疾患)の主因である。C. trachomatisの大外膜タンパク質(MOMP)は防御抗体の標的であるとすでに証明されている。しかし、かかる抗体の誘発ではこの内在性膜タンパク質の構造的完全性が重要である。さらに、これらの抗体により認識されるエピトープは可変的であり、その血清型亜型は10余りにのぼる。本発明の前述の態様は外膜ブレブ調製品内での1以上の膜タンパク質の適正な折りたたみを可能にする。外膜中で多数のC. trachomatis MOMP血清型亜型を発現する組換え淋菌株の作製と該菌株からのブレブ産生は、正しく折りたたまれる膜タンパク質、広範囲の血清型亜型から防御するに足る十分な数のMOMPの提示、及び淋菌感染の同時的な予防/治療といった複数の問題を一発で解決(し、もってどの細菌が特定の臨床症状を引き起こしているかを医師が最初に見極める必要をなくし、両細菌に対し同時にワクチンを接種することでSTDのごく初期段階での治療を可能に)するものである。淋菌染色体への遺伝子組込みのための好ましい遺伝子座は前述のとおりである。組込みが可能な他の好ましい防御C. trachomatis遺伝子はHMWP、PmpGおよびWO 99/28475で開示されているOMP類である。
【0091】
異種タンパク質の外膜ブレブへの局在化:
細菌ブレブ中でのある種の異種タンパク質の発現では外膜ターゲティングシグナルの追加が必要になろう。この問題を解決する好ましい方法は、組換えタンパク質をブレブへと局在化させるための具体的なアプローチとして異種遺伝子と内在OMPをコードする遺伝子との遺伝子融合体を創り出すことである。最も好ましくは、異種遺伝子をそうしたOMPのシグナルペプチド配列へと融合する。
【0092】
Neisseriaブレブ調製品
方法b)及び/又は方法i)による上方調節には、これらの方法を淋菌や髄膜炎菌(特にN. meningitidis B)を含むNeisseria菌株で実施する場合には、次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: NspA (WO 96/29412), Hsf-like (WO 99/31132), Hap (PCT/ EP99/02766), PorA, PorB, OMP85 (WO 00/23595), PilQ (PCT/ EP99/03603), PldA (PCT/EP99/06718), FrpB (WO 96/31618), TbpA (US 5,912,336), TbpB, FrpA/FrpC (WO 92/01460), LbpA/ LbpB (PCT/EP98/05117), FhaB (WO 98/02547), HasR (PCT/ EP99/05989), lipo02 (PCT/EP99/08315), Tbp2 (WO 99/57280), MltA (WO 99/57280)およびcrtA (PCT/EP00/00135)。以上は、他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0093】
方法a)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: PorA, PorB, PilC, TbpA, TbpB, LbpA, LbpB, OpaおよびOpc。
【0094】
方法d)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: htrB, msbB及びlpxK。
【0095】
方法e)による上方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: pmrA, pmrB, pmrE及びpmrF。
【0096】
方法c)のための好ましい抑制的調節配列は (特にTbpB又はLbpB遺伝子のいずれか又は両方に関わる) furオペレーター領域、およびDtxRオペレーター領域である。
【0097】
方法h)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: galE, siaA, siaB, siaC, ciaD, ctrA, ctrB, ctrC及びctrD。
【0098】
Pseudomonas aeruginosaブレブ調製品
方法b)及び/又はi)による上方調節には次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: PcrV, OprF, OprI。以上は他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0099】
Moraxella catarrhalisブレブ調製品
方法b)及び/又はi)による上方調節には次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: OMP106 (WO 97/41731 & WO 96/ 34960), HasR (PCT/EP99/03824), PilQ (PCT/EP99/03823), OMP85 (PCT/EP00/01468), lipo06 (GB 9917977.2), lipo01 (GB 9918208.1), lipo11 (GB 9918302.2), lipo18 (GB 9918038.2), P6 (PCT/EP99/03038), ompCD, CopB (Helminnen ME, et al (1993) Infect. Immun. 61: 2003-2010), D15 (PCT/EP99/03822), OmplA1 (PCT/EP99/06781), Hly3 (PCT/EP99/03257), LbpA & LbpB (WO 98/55606), TbpA & TbpB (WO 97/13785 & WO 97/32980), OmpE, UspA1 & UspA2 (WO 93/03761)及びOmp21。以上は他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0100】
方法a)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: CopB, OMP106, OmpB1, TbpA, TbpB, LbpA及びLbpB。
【0101】
方法d)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: htrB, msbB及びlpxK。
【0102】
方法e)による上方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: pmrA, pmrB, pmrEおよびpmrF。
【0103】
Haemophilus influenzaeブレブ調製品
方法b)及び/又はi)による上方調節には次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: D15 (WO 94/12641), P6 (EP 281673), TbpA, TbpB, P2, P5 (WO 94/26304), OMP26 (WO 97/ 01638), HMW1, HMW2, HMW3, HMW4, Hia, Hsf, Hap, Hin47及びHif (ピリンの発現を上方調節するためにはこのオペロン内の遺伝子をすべて上方調節する必要があろう)。以上は他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0104】
方法a)による下方調節には次のうち1以上の遺伝子が好ましい: P2, P5, Hif, IgA1-protease, HgpA, HgpB, HMW1, HMW2, Hxu, TbpA及びTbpB。
【0105】
方法d)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: htrB, msbB及びlpxK。
【0106】
方法e)による上方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: pmrA, pmrB, pmrEおよびpmrF。
【0107】
ワクチン製剤
本発明の好ましい実施態様は、本発明のブレブ調製品によるワクチンの製造であり、製造されるワクチンは製薬上許容しうる賦形剤を含んでもよい。
【0108】
前述の遺伝子組換え菌株のうちの任意の菌株からのブレブ調製品の製造は技術上周知の任意の方法によって行ってよい。好ましくはEP 301992、US 5,597,572、EP 11243またはUS 4,271,147で開示されている方法を用いる。最も好ましくは実施例8で説明している方法を用いる。
【0109】
ワクチン製剤についてはVaccine Design [“The subunit and adjuvant approach” (eds Powell M.F. & Newman M.J.) (1995) Plenum Press New York]で概説されている。
【0110】
本発明のワクチンの製造では本発明のブレブ調製品にアジュバントを用いてもよい。好適なアジュバントはアルミニウム塩たとえば水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウムなどであるが、カルシウム、鉄又は亜鉛の塩(特に炭酸カルシウム)でもよいし、又はアシル化チロシンの不溶性懸濁液、又はアシル化糖、陽イオン又は陰イオン誘導多糖類、又はポリホスファゼンでもよい。
【0111】
使用に好適なTh1アジュバント系はモノホスホリルリピドA、特に3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA、及びモノホスホリルリピドA、特に3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA (3D-MPL)とアルミニウム塩との混合物である。増進系はモノホスホリルリピドAとサポニン誘導体との混合物、特にWO 94/00153で開示されているQS21と3D-MPLとの混合物、又はWO96/33739で開示されているような、QS21をコレステロールで抑制している低反応原性の混合物を含む。QS21 3D-MPLとトコフェノールとの水中油乳剤を含む特に有効なアジュバントはWO95/17210で開示されており、好ましいアジュバントである。
【0112】
ワクチンはサポニン、より好ましくはQS21を含んでもよい。又水中油乳剤とトコフェノールを含んでもよい。オリゴヌクレオチドを含有する非メチル化CpG (WO96/02555)もまたTH1応答誘発剤として好ましく、本発明への使用に好適である。
【0113】
本発明のワクチン製剤は感染症にかかりやすい哺乳動物の防御または治療を目的とした、全身系又は粘膜経路での該ワクチンの投与に使用することができる。投与法には筋内、腹腔内、皮内又は皮下注射、もしくは口道/消化管、気道、尿生殖路への経粘膜投与が含まれよう。こうして、本発明の一態様はヒト宿主をグラム陰性菌感染症に対して免疫にする方法であり、その方法は本発明のブレブ調製品を宿主に免疫防御量投与することを含む。
【0114】
各ワクチン投与量中の抗原量は代表的なワクチン被投与者に著しい副作用を及ぼすことなく免疫防御応答を誘発する量として定められる。かかる量は使用する個別免疫原の種類及び提示方法に応じて異なろう。一般に、各投与量はタンパク質抗原を1〜100μg、好ましくは5〜50μg、最も一般的には5〜25μgの範囲で含むことになると見込まれる。
【0115】
個別ワクチンの適量は、患者特有の免疫応答の観察を伴う標準研究法により確定することができる。患者は初期投与に続いて、十分な間を置いて1回又は数回のブースター投与を受けてもよい。
【0116】
ゴースト又は不活化全菌ワクチン
ブレブ調製品及びワクチンに対する前記の改良はゴースト又は不活化全菌調製品及びワクチンにも(同じ利点を維持したまま)容易に拡大適用することができるものと見込まれる。ブレブ調製品の製造原料となる本発明の遺伝子組換えグラム陰性菌はゴースト及び不活化全菌調製品の製造にも使用することができる。グラム陰性菌からゴースト調製品(外膜だけを元のまま残した空の菌細胞)を製造する方法は技術上周知である(たとえばWO92/01791を参照)。全菌を死滅させてワクチン用の不活化調製品を製造する方法もまた周知である。したがって本発明では、用語「ブレブ調製品」及び「ブレブワクチン」、それに本書全体で説明している諸方法は用語「ゴースト調製品」及び「ゴーストワクチン」、それに「不活化全菌調製品」及び「不活化全菌ワクチン」にもそれぞれ適用可能である。
【0117】
方法a)〜i)の組合せ
当然ながら、1以上の前記方法を使用して、本発明の改良ブレブ調製品の製造原料となる遺伝子組換え菌株を作製するようにしてもよい。好ましくはかかる方法のうちの1つを使用して、もっと好ましくは2つ以上(2、3、4、5、6、7、8または9)を使用してブレブワクチンを製造するようにする。ブレブワクチンの製造に使用する方法を1つ追加するたびに、それぞれの改良が最適の組換えブレブ調製品の製造に向けて他の方法と相乗的に作用するようになる。
【0118】
好ましい髄膜炎菌(特にN. meningitidis B)ブレブ調製品の製造は方法a)、b)、d)及び/又はe)の使用を含む。かかるブレブ調製品は安全であり(宿主構造に類似する構造がない)、無害であり、又宿主の免疫応答が高レベルの防御(好ましくは保存)抗原に集中するような構造になっている。以上の要素はすべて、最適ブレブワクチンの提供に向けて相乗的に働く。
【0119】
M. catarrhalisや類型化不能H. influenzaeの場合も同様に、好ましいブレブ調製品の製造は方法a)、b)、d)及び/又はe)の使用を含む。
【0120】
したがって、本発明のさらなる態様は小児用の、免疫防御作用のある、無害のグラム陰性菌ブレブ、ゴースト、又は不活化全菌ワクチンである。
【0121】
小児用とは、4歳未満の乳幼児への使用を意味する。
【0122】
「免疫防御作用のある」とは、少なくとも40%の(また、好ましくは50、60、70、80、90及び100%の)乳幼児が、既知の主要クローン群から選択される一組の異種菌株に対して血清変換を起こす[殺菌活性(50%の細菌が死滅する抗血清希釈度−PCT/EP98/05117などを参照)の4倍増]ことをいう。髄膜炎菌Bでは、これらの菌株はブレブ産生菌とは異なるタイプのPorAをもつ必要があり、又H44/76、M97/252078、BZ10、NGP165およびCU385のうちの好ましくは2つ、3つ、4つ、又は最も好ましくは5つすべてである。類型化不能H. influenzaeでは、菌株はATCC 43617、14、358、216及び2926のうちの好ましくは2つ、3つ、4つ、又は最も好ましくは5つすべてである。
【0123】
無害のとは、周知のLALおよび発熱試験法で測定した場合に、内毒素活性の顕著な(2〜4倍、好ましくは10倍の)低下が見られることを意味する。
【0124】
複合ワクチン
本発明のさらなる態様は本発明のブレブ調製品と他抗原とを含む複合ワクチンであり、該複合ワクチンはある種の病状に使用すると有利である。ブレブは混合相手の抗原にアジュバント効果を有利に及ぼすので、他抗原との調合に特に好適であると判明している。
【0125】
好ましい一実施態様では、本発明の髄膜炎菌Bブレブ調製品を次の髄膜炎菌莢膜多糖(これは単体でも、又はタンパク質担体との複合体でもよい)のうちの1つ、2つ、3つ、又は好ましくは4つすべてと調合する: A、C、Y又はW。かかるワクチンはグローバル髄膜炎ワクチンとして有利に使用されよう。本発明の髄膜炎菌Bブレブ調製品を使用するのではなく、代わりに、いくつかの(たとえばP1.15、P1.7、16、P1.4及びP.1.2から選択される)血清型亜型/血清型に属する2以上の(好ましくは数種の)菌株に由来する野生型の髄膜炎菌Bブレブ調製品を使用する製剤も可能であると見込まれる。
【0126】
別の好ましい実施態様では、本発明の髄膜炎菌Bブレブ調製品(又は前述の、2以上の野生型髄膜炎Bブレブ調製品のミックス)を、好ましくは単体又は複合体の髄膜炎菌莢膜多糖A、C、Y又はWのうちの1つ、2つ、3つ又は4つすべてと調合したうえで、複合体のH. influenzae b莢膜多糖及び1以上の単体又は複合体の肺炎菌莢膜多糖と調合する。随意に、肺炎連鎖球菌Streptococcus pneumoniae感染から宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原をこのワクチンに含めてもよい。かかるワクチンはグローバル髄膜炎ワクチンとして有利に使用されよう。
【0127】
肺炎菌莢膜多糖抗原は好ましくは血清型1, 2, 3, 4, 5, 6B, 7F, 8, 9N, 9V, 10A, 11A, 12F, 14, 15B, 17F, 18C, 19A, 19F, 20, 22F, 23F及び33Fから (最も好ましくは血清型1, 3, 4, 5, 6B, 7F, 9V, 14, 18C, 19F及び23Fから)選択する。
【0128】
好ましい肺炎菌タンパク質抗原は肺炎菌の外表面に露出している (肺炎菌の生活環の少なくとも一時期に宿主免疫系による認識が可能な) 肺炎菌タンパク質、又は肺炎菌により分泌又は放出されるタンパク質である。最も好ましくは、該タンパク質は肺炎連鎖球菌の毒素、接着因子、2-成分シグナル伝達物質、又はリポタンパク質、又はその断片である。特に好ましいタンパク質には次のものが含まれるが、それだけに限らない: ニューモリシン(好ましくは化学処理又は突然変異により無害化されたもの)[Mitchell et al. Nucleic Acids Res. 1990 Jul 11; 18(13): 4010「肺炎連鎖球菌1及び2型に由来するニューモリシン遺伝子及びタンパク質の比較」、Mitchell et al. Biochem Biophys Acta 1989 Jan 23; 1007(1) 67-72「大腸菌におけるニューモリシン遺伝子の発現:急速精製と生物学的特性」、WO 96/05859 (A, Cyanamid)、WO 90/06951 (Paton et al.)、WO 99/03884 (NAVA)]; PspAとその膜貫通欠失変異体(US 5804193 - Briles et al.); PspCとその膜貫通欠失変異体(WO 97/09994 - Briles et al.); PsaAとその膜貫通欠失変異体[Berry & Paton, Infect Immun 1996 Dec; 64(12) 5255-62「肺炎連鎖球菌の病原性に不可欠の35 kDa推定接着因子PsaAの配列不均一性」]; 肺炎菌塩素結合タンパク質とその膜貫通欠失変異体; CbpAとその膜貫通欠失変異体(WO 97/41151; WO 99/51266); グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Infect. Immun. 1996 64: 3544); HSP70 (WO 96/40928); PcpA (Sanchez-Beato et al. FEMS Microbiol Lett 1998, 164: 207-14); M-様タンパク質、SB特許出願No. EP 0837130; 接着因子18627、SB特許出願No. EP 0834568。さらなる好ましい肺炎菌タンパク質抗原はWO 98/18931で開示されているもの、特にWO 98/ 18930及びPCT/US99/30390で選択されているものである。
【0129】
さらなる好ましい実施態様では、本発明のMoraxella catarrhalisブレブ調製品を1以上の単体又は複合体肺炎菌莢膜多糖、および類型化不能H. influenzae感染から宿主を防御することができる1以上の抗原と調合する。この場合のワクチン製剤はまた随意に、肺炎連鎖球菌感染から宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原を含んでもよい。該ワクチンはまた随意に、RSV感染から宿主を防御することができる1以上の抗原及び/又はインフルエンザウィルス感染から宿主を防御することができる1以上の抗原を含んでもよい。かかるワクチンはグローバル滲出性中耳炎ワクチンとして有利に使用されよう。
【0130】
好ましい類型化不能H. influenzaeタンパク質抗原には線毛タンパク質(US 5766608)及びそれに由来するペプチドを含む融合体(たとえばLB1)(US 5843464 - Ohio State Research Foundation)、OMP26、P6、プロテインD、TbpA、TbpB、Hia、Hmw1、Hmw2、Hap及びD15などがある。
【0131】
好ましいインフルエンザウィルス抗原には全粒、生又は不活化ウィルス、鶏卵又はMDCK細胞又はベロ細胞中で増殖させた成分インフルエンザウィルス、又は(R. Gluck, Vaccine, 1992, 10, 915-920で説明されている)全粒インフルエンザウィルスのウィロソーム、又はそれらの精製又は組換えタンパク質たとえばHA、NP、NA又はMタンパク質、もしくはそれらの組合せなどがある。
【0132】
好ましいRSV(RSウィルス)抗原にはF糖タンパク質、G糖タンパク質、HNタンパク質、又はそれらの誘導体などがある。
【0133】
さらに別の好ましい実施態様では、類型化不能H. influenzaeブレブ調製品を1以上の単体又は複合体肺炎菌莢膜多糖、およびM. catarrhalis感染から宿主を防御することができる1以上の抗原と調合する。この場合のワクチン製剤はまた随意に、肺炎連鎖球菌感染から宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原を含んでもよい。該ワクチンはまた随意に、RSV感染から宿主を防御することができる1以上の抗原及び/又はインフルエンザウィルス感染から宿主を防御することができる1以上の抗原を含んでもよい。かかるワクチンはグローバル滲出性中耳炎ワクチンとして有利に使用されよう。
【0134】
本発明のヌクレオチド配列
本発明のさらなる態様は、本発明の方法に使用することができる新しいヌクレオチド配列の提供に関連する。種々の菌株に由来する種々の遺伝子から、たとえば方法a)、b)、d)及びh)に使用することができる特定の上流領域が提供される。さらに、方法d)を実行するためのコード領域も提供される。
【0135】
細菌遺伝子の上下流非コード領域の分析、およびブレブ中の遺伝子発現調節への該領域の利用
特定遺伝子の非コード上下流領域には該遺伝子の発現に重要な調節要素が収められている。この調節は転写、翻訳の両レベルで行われる。遺伝子の読取り枠の上流又は下流に当たるこれらの領域の配列情報はDNA塩基配列決定法によって得られる。この配列情報は潜在的な調節モチーフ、たとえば種々のプロモーター要素、ターミネーター配列、誘導的配列要素、リプレッサー、相変異を引き起こす要素、Shine-Dalgarno配列、調節に関与する潜在的二次構造を備えた領域、及び他タイプの調節モチーフ又は配列の決定を可能にする。
【0136】
この配列情報は問題の遺伝子の自然な発現を調節できるようにする。遺伝子発現の上方調節は、プロモーター、Shine-Dalgarno配列、潜在的リプレッサー又はオペレーター要素、又は他の任意の関連要素に変更を加えることにより実現されよう。同様に、発現の下方調節もまた似たような変更を加えることにより実現することができよう。あるいは、相変異配列を変化させることにより、遺伝子の発現が相変異調節を受けるように、又は受けないようにすることができる。別のアプローチとして、遺伝子の発現を1以上の誘発要素の制御下に置いて、発現が調節されるようにすることもできる。そうした調節の例には、温度シフト、特定炭水化物又はその誘導体などのような誘導物質基質の添加、微量元素、ビタミン、金属イオンなどによる誘導が含まれる。
【0137】
前述のような変更は種々の手段により導入することができる。遺伝子発現にかかわる配列の変更はランダム突然変異誘発とそれに続く所望表現型の選択によりin vivoで行うことができる。別のアプローチは、標的とする領域を取り出し、ランダム突然変異誘発、又は部位指定置換、挿入又は欠失突然変異誘発によって変更を加えた後に、相同的組換えにより細菌ゲノムに再導入し、遺伝子発現への効果を評価するというものである。さらに別のアプローチとして、標的とする領域についての配列情報を用いて元の調節配列の全部又は一部を置換又は欠失させることもできる。この場合には、標的とする調節領域を取り出し、それに変更を加えてもう1つの遺伝子からの調節要素、種々の遺伝子に由来する調節要素の組合せ、人工調節領域、又は他の任意の調節領域を組み込むようにし、又は野生型調節配列の特定部分を欠失させるようにしてから、相同的組換えにより細菌ゲノムへと再導入する。
【0138】
たとえば方法b)では、遺伝子のプロモーターをより強いプロモーターへと置換する(具体的には、遺伝子の上流配列を取り出し、この配列のin vitro修正を行い、相同的組換えによりゲノム中に再導入する)ことにより発現を調節することができる。発現の上方調節は細菌でも、細菌から放出(又は製造)される外膜小胞でも実現することができる。
【0139】
別の好ましい実施例では、前述の様々なアプローチを用いて、前述のようなワクチン用としての性質を改良した組換え菌株を作り出すことができる。そうした菌株としては弱毒株、特定抗原の発現増進株、免疫応答を妨げる遺伝子をノックアウト(又は発現抑制)した株、及び免疫支配的タンパク質の発現を調節した株などがある。
【0140】
SEQ ID NO: 2-23, 25, 27-38はいずれもNeisseria上流配列(種々の好ましい遺伝子の開始コドンの上流)であり、それぞれ1000 bpである。SEQ ID NO: 39-62はいずれもM. catarrhalis上流配列(種々の好ましい遺伝子の開始コドンの上流)であり、それぞれ1000 bpである。SEQ ID NO: 63-75はいずれもH. influenzae上流配列(種々の好ましい遺伝子の開始コドンの上流)であり、それぞれ1000 bpである。これらはみな、(前述のような)それらの配列が関連する読取り枠を上方調節又は下方調節するための遺伝子的方法(特に相同的組換え)に使用することができる。SEQ ID NO: 76-81はNeisseria、M. catarrhalisおよびH. influenzaeに由来するHtrB及びMsbB遺伝子のコード領域である。これらは上記遺伝子の一部(好ましくは全部)を下方調節する(特に欠失させる)ための遺伝子的方法(特に相同的組換え)に使用することができる[方法d)]。
【0141】
こうして本発明の別の態様は、SEQ ID NO: 2-23, 25, 27-81又はその相補鎖のヌクレオチドのうちの少なくとも30ヌクレオチド部分と、高度に厳格な条件の下でハイブリダイズするような単離ポリヌクレオチド配列である。好ましくは、単離配列はそれが適当なベクターの一部である場合には染色体配列との相同的組換えを実行するに足る長さ、すなわち少なくとも30ヌクレオチド(好ましくは少なくとも40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500ヌクレオチド)とする。もっと好ましくは、単離ポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 2-23, 25, 27-81又はその相補鎖の少なくとも30ヌクレオチド(好ましくは少なくとも40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500ヌクレオチド)とする。
【0142】
本書でいう高度に厳格なハイブリダイゼーション条件には、たとえば6X SSC、5X Denhardt、0.5% SDS、及び100 μg/mL断片化・変性処理サケ精子DNAの一晩65℃でのハイブリダイゼーションと2X SSC、0.1% SDSによる室温での10分間の洗浄1回、それに続く65℃での約15分間の洗浄1回、それに続く0.2X SCC、0.1% SDSによる室温での少なくとも3〜5分間の洗浄少なくとも1回などが含まれる。
【0143】
さらなる態様は、グラム陰性菌染色体遺伝子の上流1000 bp領域内で、該遺伝子の発現を増進又は低減させることを目的に実行される遺伝子工学的事象(トランスポゾンの挿入、または部位指定突然変異誘発又は欠失などであるが、好ましくは相同的組換え事象)への、本発明の単離ポリヌクレオチドの使用である。好ましくは、組換え事象が起こる場となる菌株は、そこから本発明の上流配列が得られる菌株と同じとする。ただし、髄膜炎菌A、B、C、Y及びWと淋菌ゲノムは十分に類似するので、これらの菌株のいずれに由来する上流配列も他菌株でかかる事象を実行するためのベクターの設計に好適であろう。これは、Haemophilus influenzaeと類型化不能のHaemophilus influenzaeの場合についても当てはまる。
【実施例】
【0144】
実施例
以下の実施例は別段の詳細な説明がない限り、周知、慣用の標準手法を用いて実施している。実施例は本発明の例証となるが、本発明を限定するものではない。
【0145】
実施例1: 莢膜多糖を欠くNeisseria meningitidis血清群B株の構築
プラスミドpMF121(Frosch et al., 1990)を用いて、莢膜多糖を欠くN. meningitidis血清群B株を構築した。このプラスミドは群B多糖(B PS)の生合成経路をコードする遺伝子座の上下流領域とエリスロマイシン耐性遺伝子とを含む。B PSの欠失は群B莢膜多糖の発現の消失及びgalEの活性コピーの欠失を結果的にもたらし、ひいてはガラクトース欠損LPSの合成を招いた。
【0146】
菌株の形質変換:
形質転換にはN. meningitidis B H44/76株(B:15:P.17, 16; Los 3,7,9)を選んだ。MH (Mueller-Hinton)プレート(エリスロマイシン不存)上で一晩CO2培養後、細胞を10 mM MgCl2 (MHプレート当たり2 mlを使用)入り液体MH中に回収し、0.1 OD (550 nm)まで希釈した。この2 ml溶液に4 μlのプラスミドpMF121ストック溶液(0.5 μg/ml)を加えてから、37℃で6時間(振とう)インキュベートした。コントロール群は同量のN. meningitidis B菌株を用いて、ただしプラスミドを添加せずに行った。インキュベーション後、培養液をそのまま1/10、1/100及び1/1000に希釈し、5、10、20、40又は80 μg-エリスロマイシン/ml含有MHプレートにまき、37℃で48時間培養した。
【0147】
コロニーブロッティング:
プレート培養により、10および20 μg-エリスロマイシン/ml含有MHプレートから20コロニーが形成され、選択されたが、プラスミドを導入しないコントロール群ではコロニーの形成はみられなかった。H44/76野生型株は特定エリスロマイシンプレート(10〜80 μg-エリスロマイシン/ml)中で増殖できなかった。翌日、目に見えるコロニーをすべてエリスロマイシン不含の新しいMHプレートに移し、増殖させた。その後、コロニーをニトロセルロースシートに転写し(コロニーブロッティング)、B多糖の有無を調べた。要するにコロニーをニトロセルロースシート上にブロットし、PBS-0.05% Tween 20で直接すすいでから、PBS-0.05% Tween 20(希釈緩衝液)中で56℃、1時間の細胞不活化処理をした。その後、室温で1時間、希釈緩衝液中に浸した。次いで、シートを再び希釈緩衝液で5分間ずつ3回洗った後、希釈緩衝液で1/3000に希釈した抗B PS 735 Mab (Boerhinger)と室温で2時間インキュベートした。新たな洗浄ステップ(3×5分間)を経てから、希釈緩衝液で500倍に薄めたビオチニル化抗マウスIg (RPN 1001; Amersham)でモノクローナル抗体を検出(室温で1時間)後に、次の(前述と同様の)洗浄ステップに移った。その後、シートを、希釈緩衝液で1/1000に希釈したストレプタビジン−ペルオキシダーゼ複合体の溶液により、室温で1時間インキュベートした。最後の(前と同じ要領による)洗浄ステップの後、レベレーション液(30 mgの4-クロロ-1-ナフトールを10 mlメタノール+40 ml PBS+30 mclのH2O2 37%に溶かしたもの; Merck)を用いてニトロセルロースシートを暗所で15分間インキュベートした。この反応は蒸留水洗浄ステップをもって停止させた。
【0148】
ホールセルELISA:
2つの形質転換コロニー(DとR)及び被覆細菌としての野生型株(H44/76)(20 μg-タンパク質/ml)を用いてホールセルELISAも実施し、また種々のモノクローナル抗体一組を用いてN. meningitidis株の特性を解明した。次のMabを試験した: 抗B PS Mab(735; Dr Frosch)、及びNIBSC由来の他Mab: 抗B PS (Ref 95/750)、抗P1.7 (A-PorA, Ref 4025)、抗P1.16 (A-PorA, Ref 95/720)、抗Los 3,7,9 (A-LPS, Ref 4047)、抗Los 8 (A-LPS, Ref 4048)、抗P1.2 (A-PorA, Ref 95/696)。
【0149】
マイクロタイタープレート(Maxisorp; Nunc)を組換え髄膜炎菌B細胞のPBS溶液(約20 μg/ml) 100 μlで、37℃で一晩かけて被覆した。その後、プレートを300 μlの150 mM NaCl - 0.05% Tween 20で3回洗ってから、100 μlのPBS-0.3%カゼインで覆い、振とうしながら室温で30分間インキュベートした。プレートを再び同じ要領で洗ってから、抗体とインキュベートした。モノクローナル抗体(100 μl)をPBS-0.3%カゼイン-0.05% Tween 20で種々の濃度に希釈して(図2参照)マイクロプレート上にまき、室温で30分間振とうしながらインキュベートしてから、次の洗浄(要領は前と同じ)ステップに移った。ビオチンに結合させPBS-0.3%カゼイン-0.05% Tween 20で1/2000に希釈した100 μlウサギ由来抗マウスIg (Dakopatts E0413)をウェルに加えて、結合モノクローナル抗体を検出できるようにした。洗浄ステップ(要領は前と同じ)後、同じ作業液で1/4000に希釈したストレプタビジン−ペルオキシダーゼ複合体の溶液100 μl (Amersham PRN 1051)を用いてプレートを室温で30分間、振とうしながらインキュベートした。このインキュベーションと最終洗浄ステップの後、プレートを色原体溶液[4 mgオルトフェニルジアミン(OPD)を10 ml 0.1 Mクエン酸緩衝液pH4.5+5 μl H2O2に溶かしたもの] 100 μlで、15分間暗所でインキュベートする。次いで、分光光度計を用いて490/620 nmでプレートを読み取る。
【0150】
結果:
図1に示すように、エリスロマイシン含有の特定媒地上で増殖することができた20個の分離コロニーのうち、B多糖の存在が陰性を示したのは2個のコロニー(DとR)だけであった。他のコロニーのうち16個はB PSの存在が明らかに陽性であり、しかもエリスロマイシン耐性を維持していた。これは、それらがプラスミドをゲノム中に組み込んだものの、方向が間違っていたため、B PSおよびLPS遺伝子を無傷のままに保った(交差乗換えが起こらなかった)ことを示す。プレートではポジティブ及びネガティブ・コントロールも試験した。H44/76野生型NmB株はB多糖に関して明らかに陽性、髄膜炎菌A(A1)及び髄膜炎菌C(C11)株はこの抗B PS 735 Mabでは明らかに陰性との結果が出た。これらの結果は、選び出されたコロニーのうち約10%が二重乗換えによりゲノム中にプラスミドを正しく組み込んだものの、他の菌株/コロニーは単純乗換え後に収穫されたため、B PSおよびLPS遺伝子を無傷のままにし、引き続き発現させる結果になったことを示唆する。
【0151】
ホールセルELISA試験の結果(図2及び次表)は、2つの形質転換体D及びR (コロニーD及びRに由来)が抗B PS Mab (735及び95/750)によっても、また抗Los 3,7,9 Mab及び抗Los 8 Mabによってももはや認識できなくなったことを明示している。しかし、特異的抗PorA Mabを使用すると、野生型株でも観察されるように、細胞上で抗P1.7 Mabおよび抗P1.16 Mabとの明らかな反応が見られる。非特異的抗PorA Mab (抗P1.2 Mab)では反応が観察されなかった。これらの結果からは、B多糖とLos 3,7,9およびLos 8エピトープ(LPS)は存在しなくなるものの、PorAタンパク質、特にP1.7及びP1.16エピトープは形質転換後もなお存在することが確認される。
【0152】
【表1】
【0153】
実施例2: N. meningitidisのporA遺伝子座への組込みを狙いとした多能型遺伝子導入ベクター(pCMK系列)の構築
相同的組換えと異種DNAのN. meningitidisのporA遺伝子座への安定的組込みを可能にするプラスミドを構築した。この(遺伝子、オペロン及び/又は発現カセット)導入ベクターは組換え型の改良ブレブを産生するN. meningitidis菌株の作製に有用である。一般にかかるベクターは少なくとも次のものを含む: (1)E. coli中で複製的であるがN. meningitidis中ではそうでない(自殺プラスミド)プラスミドバックボーン、(2) porAなどのような遺伝子座への組込みを狙いとした少なくとも1つの、好ましくは2つの相同領域、(3)N. meningitidisで機能する効率的な転写シグナル(プロモーター、調節領域及びターミネーター)と翻訳シグナル(最適化リボソーム結合部位と開始コドン)、(4)マルチプルクローニング部位、及び(5)E. coli内プラスミドの維持とN. meningitidis内構成要素の選択を可能にする選択遺伝子。追加要素としては、異種DNAのN. meningitidisへの進入を容易にする取込み配列、及び二重乗換え事象の頻度を高めるためのsacB、rpsL、gltSなどのような対抗選択マーカーなどがある。
【0154】
本実施例で構築されpCMKと命名されたベクターの図解を図3に示す。それに対応する完全なヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1に示す。pCMKは、E. coli中で複製的でありbla遺伝子を収めている(従ってアンピシリン耐性を付与する)高コピー数プラスミドのpSL1180バックボーン(Pharmacia Biotech、スウェーデン)に由来する。pCMKはこれに加えて、相同的組換えに必要なporA上下流領域(porA5’と転写ターミネーターを収めたPorA3’)、カナマイシン耐性を付与する選択マーカー、2つの取込み配列、lacIqを発現するE. coli宿主内では抑圧されているがN. meningitidis内では転写活性をもつporA/lacOキメラプロモーター、及びpCMKへの異種DNAの挿入に必要なマルチクローニング部位(NdeI、KpnI、NheI、PinAI及びSphIの5部位が存在)を機能的に収めている。
【0155】
pCMKは次のようにして構築した。次表に掲げるオリゴヌクレオチドを使用してporA5’及びPorA3’組換え誘発領域、porA/lacOプロモーターをPCR増幅し、pTOPOにクローニングし、配列決定をした。これらのDNA断片をpTOPOから順次切り出し、pSL1180にリクローニングした。pUC4K (PharmaciaBiotech、スウェーデン) からカナマイシン耐性カセットを切り出し、porA5’領域とporA/lacOプロモーターの間に導入した。
【0156】
【表2】
【0157】
実施例3: 莢膜多糖と大免疫支配抗原PorAの両方を欠くN. meningitidis血清群B株の構築
外膜ブレブの抗原含量の調節はそのワクチン、診断又は治療用途におけるその安全性と有効性を高めるうえで有利であろう。自己免疫を誘発する危険を無くするにはN. meningitidis血清群B株莢膜多糖などのような成分を除去するべきであろう(実施例1を参照)。同様に、菌株特異的な抗菌性抗体を誘発するものの交差防御を付与しないPorAなどのような大外膜抗原の免疫支配は抑圧するのが有利である。こうしたアプローチを容易にするために、pCMK(+)ベクターを用いて、莢膜多糖と免疫支配的なPorA外膜タンパク質抗原の両方を欠くN. meningitidis血清群B株を構築することにした。この目的のために、相同的組換えにより実施例1で述べたH44/76 cps-株にporA遺伝子の欠失を導入した。
【0158】
前述と同様の要領で、H44/76 cps-株をコンピテントにし、2 μgのスーパーコイルpCMK(+)プラスミドDNAで形質転換した。形質転換混合液の画分(100 μl)を、カナマイシン(200 μg/ml)含有MHプレートに塗り広げ37℃で24〜48時間培養した。カナマイシン耐性コロニーを選び出し、MH-Kn上に再び塗り広げ、37℃でさらに24時間増殖させた。その段階で細菌培地の半分を使用してグリセロールストック(15% v/v)を調製し−70℃で冷凍保存した。別の画分(推定細菌数108)を15 μlの蒸留水に再懸濁させ、10分間煮沸し、PCRスクリーニング用の鋳型として使用した。2つのporA内側プライマーPPA1及びPPA2を合成し、サプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)指定の条件による煮沸溶菌上でのPCR増幅に用いた。使用したサーマルサイクリングは次のとおり: 25サイクル(94℃1分、52℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。pCMK DNAと染色体porA遺伝子座との二重乗換えは#1及び#2アニーリングに必要とされる領域を欠失させるため、1170 bp PCR増幅断片を欠くクローンをporA欠失変異体として選んだ。これらのPCR結果は、対応する細菌タンパク質抽出物中のPorAの存在を並行的に分析することによりさらに確認した。その目的のために、もう1つの分取量の細菌(推定5.108個)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液(SDS 5%、グリセロール30%、β-メルカプトエタノール15%、ブロモフェノールブルー0.3 mg/ml、Tris-HCl 250 mM pH6.8)に再懸濁させ、煮沸(100℃)/冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写し、Maniatis et al.に記載してある要領により抗PorAモノクローナル抗体で検査した。図4に示すようにCoomassie染色、免疫ブロット染色のどちらでも、porA DNA陰性クローンは検出可能量のPorAを産生しないことが確認された。この結果から、pCMKベクターは機能すること、これを使用すればporA遺伝子に狙いどおりDNAを挿入し、同時にPorA外膜タンパク質抗原が産生されないようにしうることが確認される。
【0159】
実施例4: 機能的porA及びcps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株で実現されるブレブ中NspA外膜タンパク質産生の上方調節
ブレブ小胞の防御抗原濃度を高めれば、外膜タンパク質系ワクチンの有効性と適用範囲を拡大するのに有利である。そこで、機能的porA及びcps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis株をつくり、外膜タンパク質NspAの発現レベルが上方調節されるようにした。その目的のために、N01-full-NdeI及びNdeI-3’オリゴヌクレオチドプライマー(実施例2の表を参照)を用いてNspAをコードする遺伝子をPCR増幅した。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)の指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、52℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。対応するアンプリコンはNdeIで消化し、pCMK(+)導入ベクターのNdeI制限部位に挿入した。挿入方向をチェックし、pCMK(+)-NspAと命名された組換えプラスミドをQIAGEN Maxiprepキットで大量精製し、この材料2 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株(実施例1で説明した菌株)を形質転換させた。pCMK (+)-NspAベクターと染色体porA遺伝子座の間の二重乗換えに由来する形質転換体のスクリーニングには、実施例3で説明したPCRとウェスタンブロット法の組合せを用いた。
【0160】
分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写し、抗NspAポリクローナル血清で検査した。Coomassie染色(データ非表示)、免疫ブロット染色(図4参照)のどちらでも、porA DNA陰性クローンは検出可能量のPorAを産生しないことが確認された。NspAの発現はNmB [cps-、porA-]かNmB [cps-、porA-、Nspa+]に由来するホールセル溶菌(WCBL) 又は外膜ブレブ調製品で調べた。Coomassie染色法では差が観察されなかったが、抗NspAポリクローナル血清を用いた免疫ブロット法ではWCBLと外膜ブレブ調製品のどちらでも(内在NspAレベル比で) NspA発現の3〜5倍増を検出した(図5参照)。この結果から、pCMK(+)-NspAベクターは機能すること、これを使用すればNspAなどのような外膜タンパク質の発現を上方調節し、同時にPorA外膜タンパク質抗原が産生されないようにしうることが確認される。
【0161】
実施例5: 機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する組換えN. meningitidis血清群B株で実現されるブレブ中D15/Omp85外膜タンパク質抗原産生の上方調節
地理的に孤立したある種の地域(キューバなど)の住民は、大体1又は少数の外膜タンパク質血清型に属する限られた数のN. meningitidis分離株に感染する。PorAは防御的、菌株特異的抗菌性抗体を誘発する大外膜タンパク質抗原であるため、少数のporA血清型をワクチンに使用してワクチン防御を付与することが可能になる。その場合は、外膜ブレブにPorAが存在するほうが有利であり、組換え改良ブレブのワクチン効能を高めることになろう。しかし、そうしたPorA含有ワクチンは他の交差反応性OMPたとえばomp85/D15などの含量を高めることでさらにいっそうの改善を図ることができる。
【0162】
以下の実施例ではpCMK(+)ベクターを使用して、機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する菌株におけるOmp85/D15外膜タンパク質抗原の発現を上方調節する。その目的のために、D15-NdeI及びD15-NotIオリゴヌクレオチドプライマーを用いてOmp85/D15をコードする遺伝子をPCR増幅した。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、52℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。対応するアンプリコンはメーカーの説明書に従ってpTOPOクローニングベクターに挿入し、また確認のための配列決定を行った。このOmp85/D15 DNA断片をpTOPOから制限酵素NdeI/NsiIを用いて切り出し、pCMK(+)導入ベクターの対応する制限部位にクローニングした。これによって得られた組換えプラスミドpCMK(+)-D15をQIAGEN Maxiprepキットで大量精製し、この材料2 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株(実施例1で説明した菌株)を形質転換させた。porAの発現を保つようにするために、(Omp85/D15か又はporAでの)単一乗換えに由来する形質転換体を、PCRとウェスタンブロット法の組合せによってスクリーニングした。porA特異的PCR及びウェスタンブロット法で陽性と判明したカナマイシン耐性クローンをグリセロールストックとして−70℃で保存し、さらなる研究に使用した。
【0163】
分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写し、抗porAモノクローナル抗体で検査した。図6に示すように、Coomassie染色、免疫ブロット染色のどちらでも、porA DNA陽性クローンはPorAを産生することが確認された。
【0164】
D15の発現はNmB [cps-、porA-]かNmB [cps-、porA+、D15+]に由来する外膜ブレブ調製品で調べた。Coomassie染色法では(内在D15レベル比で)D15発現の著増を検出した(図6参照)。この結果から、pCMK(+)-D15ベクターは機能すること、これを使用すればD15などのような外膜タンパク質の発現を上方調節しうるうえに、大PorA外膜タンパク質抗原の産生を廃止せずに済むことが確認される。
【0165】
実施例6: 多能型プロモーター導入ベクターの構築
原理: 本アプローチの原理は図7に図解してあり、7つの必須ステップに要約することができる。以下では、NspA及びD15/Omp85の発現を上方調節するためのベクターの構築を例にして、これらのステップのうちのいくつかを説明する。
【0166】
NspA遺伝子の発現を上方調節するためのベクター:
ステップ1 N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、NspA遺伝子の上流に位置するDNA領域(997bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:2)。この配列を使用してPNS1及びPNS2という2つのオリゴヌクレオチドプライマー(実施例2の表を参照)を設計し、合成した。これらのプライマーを用いて、H44/76株から抽出したゲノムDNAのPCR増幅を行った。
【0167】
ステップ2 対応するアンプリコンをWizard PCRキット(Promega、米国)でクリーンアップし、制限酵素EcoRI/XbaIにより24時間かけて、サプライヤー指定(Boehringer Mannheim、ドイツ)の条件に従って消化した。対応するDNA断片をゲル精製し、pUC18クローニングベクターの対応部位に挿入した。
【0168】
ステップ3 組換えプラスミドを大量に調製し、その分取量を逆PCR増幅用の鋳型として使用した。逆PCRはPNS4及びPNS5オリゴヌクレオチドを用いて、次のサーマルサイクリング条件で行った: 25サイクル(94℃1分、50℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。NspA上流領域の挿入部に欠失をもつ線状pUC18ベクターが得られた。
【0169】
D15/omp85遺伝子の発現を上方調節するためのベクター:
ステップ1 N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、D15/omp85遺伝子の上流に位置するDNA領域(1000bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:3)。この配列を使用してPromD15-51X及びPromD15-S2という2つのオリゴヌクレオチドプライマー(実施例2の表を参照)を設計し、合成した。これらのプライマーを用いて、H44/76株から抽出したゲノムDNAのPCR増幅を行った。
【0170】
ステップ2 対応するアンプリコンをWizard PCRキット(Promega、米国)でクリーンアップし、制限酵素EcoRI/XbaIにより24時間かけて、サプライヤー指定(Boehringer Mannheim、ドイツ)の条件に従って消化した。対応するDNA断片をゲル精製し、pUC18クローニングベクターの対応部位に挿入した。
【0171】
ステップ3 組換えプラスミドを大量に調製し、その分取量を逆PCR増幅用の鋳型として使用した。逆PCRはPromD15-51X及びPromD15-S2オリゴヌクレオチドを用いて、次のサーマルサイクリング条件で行った: 25サイクル(94℃1分、50℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。D15/omp85上流領域の挿入部に欠失をもつ線状pUC18ベクターが得られた。
【0172】
実施例7: 組換えブレブ製造のための発酵法
以下の実施例では、莢膜多糖又は莢膜多糖とPorAとを欠く組換えブレブを製造するための方法について説明する。かかる方法は広範囲のN. meningitidis組換え株に使用されるであろうし、また広範囲の生産規模に適応できよう。
【0173】
培地: N. meningitidis血清群B株を固形培地(FNE 004 AA、FNE 010 AA)又は液体培地(FNE 008 AA)で増殖させた。これらの髄膜炎菌増殖用新培地は好都合にも動物性成分をまったく含まず、また本発明のさらなる態様とみなされる。
【0174】
【表3】
【0175】
cps-組換えブレブ産生N. meningitidis血清群Bのフラスコ培養:
これは固形培地上での予備培養とそれに続く液体培養の2ステップで実施した。固形予備培養 ガラス瓶入りの菌液をフリーザー(−80℃)から取り出し、室温に解凍して、0.1 mLをFNE004AA(前掲表を参照)15 mL入りペトリ皿に塗り広げた。ペトリ皿を37℃で18±2時間培養した。表面培養菌をエリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AA(前掲表を参照) 8 mLに再懸濁させた。フラスコ培養 固形培養した再懸濁菌2 mLを、エリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AAを400 mL入れた2リットル・フラスコに加えた。フラスコを振とう機(200 rpm)に載せ、37℃で16±2時間培養した。細胞は5000 g、4℃、15分の遠心で培養液から分離した。
【0176】
cps-組換えブレブ産生N. meningitidis血清群Bのバッチ式培養:
これは固形培地上での予備培養、液体培養及びバッチ式培養の3ステップで実施した。固形予備培養 ガラス瓶入りの菌液をフリーザー(−80℃)から取り出し、室温に解凍して、0.1 mLをFNE004AA(前掲表を参照)15 mL入りペトリ皿に塗り広げた。ペトリ皿を37℃で18±2時間培養した。表面培養菌をエリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AA(前掲表を参照) 8 mLに再懸濁させた。液体培養 固形培養した再懸濁菌2 mLを、エリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AAを400 mL入れた2リットル・フラスコに加えた。フラスコを振とう機(200 rpm)に載せ、37℃で16±2時間培養した。フラスコの内容物は20リットル・ファーメンターへの接種に用いた。ファーメンターによるバッチ式培養 接種材料(400 mL)を、15 mg/Lエリスロマイシン添加FNE008AAを10 L入れた滅菌処理済みの20リットル・ファーメンター(総容積)に加えた。pHは NaOH (25% w/v)とH3PO4 (25% v/v)の自動添加により7.0に調節、維持した。温度は37℃に調節した。通気量は20 L-air毎分に維持し、また溶存酸素量は撹拌速度の調節により飽和濃度の20%に維持した。ファーメンター内の過圧は300 g/cm2に維持した。9±1時間後、培養液は定常期に移った。5000 g、4℃、15分の遠心で細胞を培養液から分離した。
【0177】
cps-、porA-組換えブレブ産生N. meningitidis血清群Bのフラスコ培養:
これは固形培地上での予備培養とそれに続く液体培養の2ステップで実施した。固形予備培養 ガラス瓶入りの菌液をフリーザー(−80℃)から取り出し、室温に解凍して、0.1 mLをFNE010AA(前掲表を参照)15 mL入りペトリ皿に塗り広げた。ペトリ皿を37℃で18±2時間培養した。表面培養菌をカナマイシン200 mg/L添加FNE008AA(前掲表を参照) 8 mLに再懸濁させた。フラスコ培養 固形培養した再懸濁菌2 mLを、カナマイシン200 mg/L添加FNE008AAを400 mL入れた2リットル・フラスコに加えた。フラスコを振とう機(200 rpm)に載せ、37℃で16±2時間培養した。細胞は5000 g、4℃、15分の遠心で培養液から分離した。
【0178】
実施例8: 莢膜多糖を欠く髄膜炎菌由来ブレブの分離精製
組換えブレブを次のようにして精製した。10 mM EDTAと0.5%デオキシコール酸ナトリウム(DOC)を含む0.1M Tris-Cl緩衝液(pH 8.6) 211 ml中に細胞ペースト(42 g)を懸濁させた。緩衝液/バイオマス比は5/1(v/w)であった。バイオマスを室温で30分間の磁気撹拌により抽出した。次いで、全抽出物を20,000 g、30分、4℃ (JA-20ローター、Beckman J2-HS遠心機で13,000 rpm) で遠心分離した。ペレットを廃棄し、上清を125,000 g、2時間、4℃(50.2Tiローター、Beckman L8-70M超遠心機で40,000 rpm)で超遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを2 mM EDTA、1.2% DOC及び20%スクロースを含む50 mM Tris-Cl緩衝液(pH 8.6) 25 ml中に静かに懸濁させた。2回目の超遠心ステップ(125,000 g、2時間、4℃)後、小胞を3%スクロース44 ml中に静かに懸濁させ、4℃で保存した。ブレブの分離精製に使用した溶液はすべて0.01%のチオメルサレートを含んでいた。図8に示すように、この方法ではPorAやPorBなどのような外膜タンパク質を高濃縮したタンパク質調製品が得られる。
【0179】
実施例9: 抗原遺伝子発現の上方調節に好適な細菌プロモーターの同定
強い細菌プロモーター要素の使用は、外膜タンパク質をコードする遺伝子の上方調節を実現するうえで不可欠である。それとの関連では、porAプロモーターの使用によるN. meningitidis nspA、hsf及びomp85遺伝子の上方調節により、対応するHspA、Hsf及びOmp85タンパク質に富む組換えブレブの分離を可能にすることをすでに証明した。種々のレベルの上方調節の実現、潜在的なporA相変異の克服及び/又は条件に応じた遺伝子の発現(Fe調節を受けるプロモーター)には、porAプロモーターとは別のプロモーターが有効であろう。ここでは、細菌に高レベルの発現を付与しそうな強いプロモーター要素の正確な転写開始部位の特定を可能にする方法について説明する。プロモーター調節要素は一般に+1部位の上流200 bp以内、及び下流50 bp以内に包摂されるため(Collado-Vides J, Magasanik B, Gralla JD, 1991, Microbiol Rev 55(3): 371-94)、そうした実験の結果は強いプロモーター活性を帯びる約250 bpのDNA断片の同定を可能にする。大外膜タンパク質たとえばN. meningitidis PorA、PorB及びRmp、H. influenzae P1、P2、P5及びP6、M. catarrhalis OmpCD、OmpE、それにこれらの細菌の若干の細胞質及び/又はFe調節型タンパク質などは強いプロモーター要素をもつ。この一般的な方法論の妥当性を確認するものとして、5’ RACE (rapid amplification of cDNA elements)を用いて強いN. meningitidis porA及びporBプロモーターの転写開始部位をマッピングした。
【0180】
5’ RACEの原理は次のとおりである: 1) QIAGEN “RNeasy” Kitの使用による全長RNAの抽出。DNase処理とそれに続くQIAGEN精製法によるゲノムDNAの除去; 2) porA特異的3’末端プライマー(porA3と命名)によるmRNA逆転写。予想cDNAサイズ: 307 nt. アルカリ加水分解によるRNAの除去; 3) T4 RNAリガーゼの使用による1本鎖DNAオリゴアンカー(DT88と命名)のcDNA 3’末端への結合。予想サイズ: 335 nt. hemi-nested PCR(とホットスタートPCRと)の組合せを用いるアンカー結合cDNAの増幅; 4) 5’プライマーとしての相補的配列アンカープライマー(DT89と命名)及び3’末端RTプライマーporA3の内側プライマーである3’末端プライマー(p1-2と命名)の使用によるアンカー結合cDNAの増幅。予想サイズ: 292 bp; 5) 5’末端プライマーとしてのDT89及び3’末端プライマーとしてのp1-1(p1-2の内側プライマー)の使用による以前のPCR産物の増幅。予想サイズ: 211 bp; 及び6) p1-1プライマーによる配列決定(予想サイズが計算できるのは、porA転写開始部位が“ATG”翻訳開始部位の59 nt前と判明しているからである)。
【0181】
実験方法
全長RNAはN. meningitidis B cps- porA+株細胞約109個から抽出した。適正な光学密度(OD600=1)の培養液1 mlの抽出はQIAGEN “RNeasy"キットを用いて、メーカーの説明書に従って行った。30 μlの溶出RNAに10UのRNase-free DNase (Roche Diagnostic, ドイツ/マンハイム)を添加することにより染色体DNAを除去し、37℃で15分間インキュベートした。このDNA不含RNAを同じQIAGENキットにより、説明書に従って精製した。
【0182】
逆転写反応はプライマーporA3と200UのSUPERSCRIPTII逆転写酵素(Life Technologies)を用いて行った。このRT反応には50 μlの反応液(5 μlの2 mM dNTP、20 pmolのporA3プライマー、5 μlの10X SUPERSCRIPTII緩衝液、9 μlの25 mM MgCl2、4 μlの0.1 M DTT、40Uの組換えリボヌクレアーゼインヒビター及び1 μgの全長RNAを含む)を使用した。porA3プライマーの段階的アニーリング (70℃2分間、65℃1分間、60℃1分間、55℃1分間、50℃1分間、45℃1分間)の後にSUPERSCRIPTIIを添加した。RT反応は42℃で30分間行い、次に5サイクル(50℃1分間、53℃1分間、56℃1分間)の処理でRNAの二次構造を安定させた。2つの平行反応を、1つの反応はネガティブ・コントロールとして逆転写酵素抜きで、実施した。
【0183】
1 μlの0.5 M EDTAとそれに続く12.5 μlの0.2 M NaOHの添加によるアルカリ加水分解でRNAを除去してから、68℃で5分間インキュベートした。12.5 μlの1 M Tris-HCl (pH 7.4)を加えて反応液を中和し、20 μgのグリコーゲン(Roche Molecular Biochemicals、ドイツ/マンハイム)、5 μlの3 M酢酸ナトリウム及び60 μlのイソプロパノールを加えて沈殿させた。両試料を20 μlの10:1 TE (10 mM Tris-HCl, pH 7.4; 1 mM EDTA, pH 8)に懸濁させた。
【0184】
T4 RNAリガーゼを、5’リン酸化し3’末端ddCTPでブロッックしたアンカーオリゴヌクレオチドDT88 (次表を参照)の結合に使用した。2つの平行結合反応を一晩、室温で行ったが、それぞれの反応液は1.3 μlの10X RNAリガーゼ緩衝液(Roche Molecular Biochemicals)、0.4 μMのDT88、10 μlのcDNA又はRTコントロール試料、及び3UのT4 RNAリガーゼを含んでいた。ネガティブ・コントロールとしてもう1組の結合反応を、T4 RNAリガーゼを使用せずに行った。得られた結合反応混合液は精製せずにそのまま次のPCRに使用した。
【0185】
アンカー結合cDNAはhemi-nested PCRとホットスタートPCRの組合せを用いて増幅し、特異性と産物収量の向上を図った。4つの第1次PCRをRT/リガーゼ反応混合液とコントロールを対象に30 μlの反応液中で行ったが、各PCR反応液は3 μlの10X Taq Platinium緩衝液、3 μlの25 mM MgCl2、1 μlの10 mM dNTP、10 pmolの各プライマー、及び1 μlの対応するRNA結合反応混合液を含んでいた。PCRはTaq Platinium (Life Technologies) DNAポリメラーゼ(2U添加)を使用してホットスタートさせた。この最初のアンカー結合PCR (LA-PCR)にはアンカー特異的プライマーDT89と転写産物特異的プライマーp1-2 (次表参照。これは3’末端RTプライマーporA3の内側プライマーである)をそれぞれ10 pmol使用した。PCRの実施には、95℃5分間の初期処理(DNAポリメラーゼの活性化)ステップ、それに続く10サイクル(95℃10秒間、70℃1分間)(サイクルごとに1℃ずつ引き下げる)と15サイクル(95℃10秒間、60℃1分間)を用いた。第2次のhemi-nested LA-PCRは前と同じ条件の下で、DT89プライマーと内側p1-2プライマーのほかに、10 pmolのp1-1(次表参照)と1 μlの第1次PCR産物も加えて実施した。増幅産物はQIAGEN “QIAquick" PCR精製キットを用いて、メーカーの説明書に従って精製処理し、次の配列決定にまわした。
【0186】
10 pmolプライマーp1-1使用のRACE PCR産物の配列決定にはCEQTM Dye Terminator Cycle Sequencingキット(Beckman、フランス)を用いた。配列決定反応は添付説明書に従って実施し、配列決定用産物の解析はCeq2000 DNA Analysis System (Beckman-Coulter)によって行った。
【0187】
【表4】
【0188】
N. meningitidis porAプロモーターに関する結果
前述の5’RACE法を用いてN. meningitidis血清群B (H44/76株) porA-mRNAの転写開始部位をATG開始コドンの59 bp上流にマップした。この結果はプライマー伸長法で実施され、van der Ende et al (1995)により発表されたマッピングを確認するものである。この結果はporA ATGの−9〜−259に当たるヌクレオチドを含むDNA断片がN. meningitidisで、またおそらくは他の細菌株たとえばHaemophilus、Moraxella、Pseudomonasなどでも、強い遺伝子を促すのに好適であることを裏付ける。
【0189】
N. meningitidis porBプロモーターに関する結果
同じ実験方法をN. meningitidis血清群B (H44/76株) porBの転写開始部位マッピングにも適用した。次表に掲げるプライマーは、3’末端RTプライマー(porB3)、porB3の内側プライマーである転写産物特異的プライマー(porB2)、及びporB2の内側プライマーである転写産物特異的プライマー(porB1)である。porB3、porB2及びporB1はそれぞれATG開始部位の265 bp、195 bp及び150 bp下流に位置する。
【0190】
【表5】
【0191】
porB1及びDT89プライマーを用いて5’-RACEマッピングを実施して〜200 bpのPCRアンプリコンを得た。porB1はporB AGT開始コドンの150 bp下流に位置するため、この結果は転写開始部位がporB ATGの約50 bp (+/-30 bp)上流に位置することを裏付けている。
【0192】
転写開始に対応する正確なヌクレオチドは目下DNA配列決定法による決定を進めている。以上のPCR結果はporA ATGの−1〜−250に当たるヌクレオチドを含むDNA断片がN. meningitidisで、またおそらくは他の細菌株たとえばHaemophilus、Moraxella、Pseudomonasなどでも、強い遺伝子を促すのに好適であることを裏付ける。
【0193】
実施例10: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B Omp85遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはD15/Omp85遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、D15/Omp85抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、D15/omp85遺伝子の上流に位置するDNA領域(1000 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:3)。本実施例の主要ステップは図9に図解してある。要するに、D15/omp85遺伝子の開始コドン(ATG)から−48〜−983のヌクレオチドを含むDNA断片(1000 bp)を、オリゴヌクレオチドProD15-51X (5’-GGG CGA ATT CGC GGC CGC CGT CAA CGG CAC ACC GTT G-3’)及びProD15-52 (5’-GCT CTA GAG CGG AAT GCG GTT TCA GAC G-3’)を用いて増幅した。これらのオリゴヌクレオチドはそれぞれ制限部位EcoRI及びXbaIを含でいる(下線部)。この断片を制限酵素で切断し、同じ酵素で切断してあるpUC18プラスミドに挿入した。得られたコンストラクトに、(pGPS2ドナープラスミド使用の) Genome Primingシステム(New England Biolabs 、米国マサチューセッツ州)を使用してin vitro突然変異を誘発させた。ミニトランスポゾン(Tn7に由来し、クロラムフェニコール耐性遺伝子を収めてある)が挿入されているクローンを選別した。EcoRIの401 bp下流のD15/Omp85 5’隣接領域にトランスポゾンが挿入されているクローンを単離し、さらなる研究に使用した。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発[Jones & Winistofer (1992), Biotechniques 12: 528-534]にかけた。その目的は(i)上記の転位法で生成された反復DNA配列を欠失させ、(ii)形質転換に必要とされる髄膜炎菌取込み配列を挿入し、また(iii)異種DNA要素たとえばプロモーターなどのクローニングを可能にする適当な制限部位を挿入することにあった。サークルPCR法はオリゴヌクレオチドTnRD15-KpnI/XbaI+US (5’-CGC CGG TAC CTC TAG AGC CGT CTG AAC CAC TCG TGG ACA ACC C-3’)及びTnR03Cam (KpnI) (5’-CGC CGG TAC CGC CGC TAA CTA TAA CGG TC-3’)を使用して実施した。これらのオリゴヌクレオチドは取込み配列と下線を付した適当な制限部位(KpnIとXbaI)を含んでいる。得られたPCR断片はゲル精製後、Asp718(KpnIのアイソシゾマー)で切断し、184 bp DNA断片に結合させた。このDNA断片はporAプロモーターを含み、KpnI制限部位を収めたオリゴヌクレオチドPorA-01(5’-CGC CGG TAC CGA GGT CTG CGC TTG AAT TGT G-3’)及びPorA-02(5’-CGC CGG TAC CTC TAG ACA TCG GGC AAA CAC CCG-3’)使用のPCR法で生成させている。正しい方向に挿入された(転写がEcoRI→XbaI方向に進行する)porAプロモーターをもつ組換えクローンを選別し、莢膜多糖と大外膜タンパク質のうちの1つ(PorA)を欠くN. meningitidis血清群B株(cps-、porA-)の形質転換に使用した。二重乗換え事象に由来する組換えN. meningitidisクローン[オリゴヌクレオチドCam-05 (5’-GTA CTG CGA TGA GTG GCA GG-3’)及びproD15-52の使用によるPCRスクリーニングで選別]を5 μg/mlのクロラムフェニコール含有GC培地上で選別し、D15/Omp85の発現を分析した。図10に示すように、プロモーターの置換によりNm株の全タンパク質抽出物中のD15/Omp85産生は親株(cps-)に比して著しく増加した。この結果は同じ株から調製した外膜ブレブの分析でも観察された(図17参照)。これらの結果は内在D15プロモーターが強いporAプロモーターへと置換されたことに起因させることができる。さらに、意外なことに、porAプロモーターを開始コドンの約400 bp上流に導入すると約100 bp上流に導入した場合と比べて約50倍も発現が強まることも判明した。結局これらの実験結果は、このプロモーター置換戦略が有効であり、外膜ブレブ中の内在性外膜タンパク質の合成を上方調節することを可能にすることを裏付けている。
【0194】
地理的に孤立したある種の地域(キューバなど)の住民は、大体1又は少数の外膜タンパク質血清型に属する限られた数のN. meningitidis分離株に感染する。PorAは防御的、菌株特異的抗菌性抗体を誘発する大外膜タンパク質抗原であるため、少数のporA血清型をワクチンに使用してワクチン防御を付与することが可能になる。そのうえ、PorAはいくつかの他外膜タンパク質と相互作用し、又はそれらのタンパク質を安定化させる可能性もある。その場合は、外膜ブレブにPorAが存在するほうが有利であり、組換え改良ブレブのワクチン効能を高めることになろう。
【0195】
こうした理由から、機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現するN. meningitidis血清群B株のD15/Omp85外膜タンパク質の発現を上方調節するのが望ましいであろう。QIAGEN Genomic Tips 100-Gキットを用いて組換えN. meningitidis血清群B cps-、porA-、D15/Omp85+株からゲノムDNAを抽出した。この試料のうち10 μgを直線状にし、古典的な形質転換プロトコールによるN. meningitidis血清群B cps-の形質転換に用いた。組換え菌は5 μg/mlのクロラムフェニコール含有GC培地上で得た。
【0196】
D15遺伝子の上流での二重乗換えに由来する組込みを、前述の要領によるPCR法でスクリーニングした。染色体では至る所で相同的組換えが起こりうるので、組換え菌株におけるporA遺伝子座の完全性を調節するために第2次PCRスクリーニングを実施した。この目的のために、PCRスクリーニング実験には内側porAプライマーPPA1 (5’-GCG GCC GTT GCC GAT GTC AGC C-3’)及びPPA2 (5’-GGC ATA GCT GAT GCG TGG AAC TGC-3’)を用いた。1170 bp断片の増幅により、組換え細菌中にporA遺伝子が存在することが確認される。
【0197】
組換え細菌(約5.108個に対応)は50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離することができる。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写して、抗porAモノクローナル抗体で、又はウサギ抗D15/Omp85ポリクローナル抗体で検査することができる。同じ菌株に由来する外膜ブレブの分析も同様にして行うことができる。
【0198】
実施例11: 機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する組換えN. meningitidis血清群B株でのHsfタンパク質抗原発現の上方調節
前述のように国によっては、外膜ブレブ中のPorAの存在は有利であり、組換え型の改良ブレブのワクチン効能を高めうる場合もある。以下の実施例では、改良型pCMK(+)ベクターを使用して、機能的csp遺伝子を欠くがPorAを発現する菌株においてHsfタンパク質抗原の発現を上方調節する。原pCMK(+)ベクターは、lacIqを発現するE. coliでは抑制されるがN. meningitidisでは転写活性をもつキメラporA/lacOプロモーターを収めている。改良型pCMK(+)ベクターでは本来のporAプロモーターを用いてhsf遺伝子の転写を促進させる。Hsfをコードこの遺伝子を、次表に掲げるHSF 01-NdeI及びHSF 02-NheIオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR増幅した。HSF 01-NdeIプライマーの配列ゆえに、発現するHsfタンパク質は5’末端に2つのメチオニン残基を含むであろう。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)の指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、48℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。対応するアンプリコンはpCMK(+)導入ベクターの対応する制限部位に挿入した。pCMK(+)-Hsfと命名されたこの組換えプラスミドでは、キメラporA/lacOプロモーターに存在したlacOを組換えPCR法で欠失させてある(図12参照)。pCMK(+)-Hsfを鋳型として次の2つのDNA断片をPCR増幅した:
−断片1。これはporA 5’組換え誘発領域、カナマイシン耐性遺伝子及びporAプロモーターを収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP1 (SacII)及びRP2は次表に示す。RP1プライマーはlacオペレーターのすぐ上流の配列と相同的である。
−断片2。これはporA遺伝子由来のShine-Dalgarno配列、hsf遺伝子及びporA 3’組換え誘発領域を収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP3及びRP4(ApaI)は次表に示す。RP3プライマーはlacオペレーターのすぐ下流の配列と相同的である。
【0199】
断片1の3’末端と断片2の5’末端は48塩基重複している。各PCR産物(1及び2) 500 ngを使用して、RP1とRP4をプライマーとする最終PCRを実施した。得られた最終アンプリコンをSacIIとApaIで切断したpSL1180ベクターにサブクローニングした。改良型プラスミドpCMK(+)-HsfはQIAGEN Maxiprepキットで大量精製し、この材料2 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株(実施例1で説明した菌株)を形質転換させた。porAの発現を保持するために、単一乗換えに由来する組込みを、PCR/ウェスタンブロット混合スクリーニング法で選別した。porA特異的PCR及びウェスタンブロット法で陽性と判明したカナマイシン耐性クローンをグリセロールストックとして−70℃で保存し、後の研究に使用した。分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。Hsfの発現はNmB [Cps-、PorA+]かNmB [Cps-、PorA+、Hsf+]に由来するホールセル溶菌(WCBL)で調べた。Coomassie染色法によりHsf発現の(内在Hsfレベル比での)著増が検出された (図13参照)。この結果から、pCMK(+)-Hsfベクターは機能すること、これを使用すれば外膜タンパク質の発現を上方調節し、同時にPorA大外膜タンパク質抗原が産生されないようにしうることが確認される。
【0200】
【表6】
【0201】
実施例12: 機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する組換えN. meningitidis血清群B株でのグリーン蛍光タンパク質の発現
以下の実施例では、pCMKベクターを用いてN. meningitidisにおける細胞質異種タンパク質の発現を調べる。pKen-Gfpmut2プラスミドからGFK-Asn-mut2及びGFP-Speプライマー(実施例11の表を参照)を用いてグリーン蛍光タンパク質を増幅した。AnsIはNdeIと相補的な付着末端を与え、またSpeIはNheIと相補的な付着末端を与える。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)の指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、48℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。次いで、対応するアンプリコンをNdeI及びNheI制限酵素で切断済みのpCMK(+)導入ベクターに挿入した。pCMK(+)-GFPと命名されたこの組換えプラスミドでは、キメラporA/lacOプロモーターに存在したlacOを組換えPCR法で欠失させてある。pCMK(+)-GFPを鋳型として次の2つのDNA断片をPCR増幅した:
−断片1。これはporA 5’組換え誘発領域、カナマイシン耐性遺伝子及びporAプロモーターを収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP1 (SacII)及びRP2は実施例11の表に示すとおりである。RP1プライマーはlacオペレーターのすぐ上流の配列と相同的である。
−断片2。これはporA遺伝子由来のShine-Dalgarno配列、gfp遺伝子及びporA 3’組換え誘発領域を収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP3及びRP4(ApaI)は実施例11の表に示すとおりである。RP3プライマーはlacオペレーターのすぐ下流の配列と相同的である。
【0202】
断片1の3’末端と断片2の5’末端は48塩基重複している。各PCR産物(1及び2) 500 ngを使用して、RP1とRP4をプライマーとする最終PCRを実施した。このPCR断片20 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠くN. meningitidis血清群B株を形質転換させた。
【0203】
線状DNAによる形質転換は環状DNAプラスミドによるよりも低効率であるが、得られた組換え体はどれも二重乗換えを起こしていた(PCR/ウェスタンブロット混合スクリーニング法で確認)。カナマイシン耐性クローンをグリセロールストックとして−70℃で保存し、後の研究に使用した。分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。
【0204】
GFPの発現はNmB [Cps-、PorA+]かNmB [Cps-、PorA-、GFP+]に由来するホールセル溶菌(WCBL)で調べた。Coomassie染色法により、受容N. meningitidis菌株には見られないGFP発現が検出された (図14参照)。
【0205】
実施例13: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B NspA遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはNspA遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、NspA抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、NspA遺伝子の上流に位置するDNA領域(924 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:7)。NspA遺伝子の開始コドン(ATG)から−115〜−790のヌクレオチドを含むDNA断片(675 bp)を、オリゴヌクレオチドPNS1’ (5’-CCG CGA ATT CGA CGA AGC CGC CCT CGA C-3’)及びPNS2 (5’-CGT CTA GAC GTA GCG GTA TCC GGC TGC -3’)を用いてPCR増幅した。これらのオリゴヌクレオチドはそれぞれ制限部位EcoRI及びXbaIを含む(下線部)。このPCR断片を制限酵素EcoRI及びXbaIで切断し、pUC18プラスミドに挿入した。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992), Biotechniques 12: 528- 534]にかけて、形質転換に必要とされる髄膜炎菌取込み配列及び適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにした。サークルPCR法はオリゴヌクレオチドBAD01-2 (5’-GGC GCC CGG GCT CGA GCT TAT CGA TGG AAA ACG CAG C-3’)及びBAD02-2 (5’-GGC GCC CGG GCT CGA GTT CAG ACG GCG CGC TTA TAT AGT GGA TTA AC-3’)を使用して実施した。これらのオリゴヌクレオチドは取込み配列と下線を付した適当な制限部位(XmaIとXhoI)を含んでいる。得られたPCR断片はゲル精製後、XhoIで切断した。このCmR/PorAプロモーターカセットは前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、下線で示した適当な制限部位(XmaI、XbaI、SpeI及びXhoI)を含むオリゴヌクレオチドBAD 15-2(5’-GGC GCC CGG GCT CGA GTC TAG ACA TCG GGC AAA CAC CCG-3’)及びBAD 03-2(5’-GGC GCC CGG GCT CGA GCA CTA GTA TTA CCC TGT TAT CCC-3’)である。得られたPCR断片は部分消化し、対応する酵素で切断しておいたサークルプラスミドに挿入した。この組換えプラスミド10 μgを線状にし、莢膜多糖と大外膜タンパク質のうちの1つ(PorA)を欠くN. meningitidis血清群B株(cps-、porA-)の形質転換に使用した。二重乗換え事象に由来する組換えN. meningitidisクローン[オリゴヌクレオチドBAD 25 (5’-GAG CGA AGC CGT CGA ACG C-3’)及びBAD08 (5’-CTT AAG CGT CGG ACA TTT CC-3’)の使用によるPCRスクリーニングで選別]を5 μg/mlのクロラムフェニコール含有GC培地上で選別し、NspAの発現を分析した。組換え細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写して、抗PorAモノクローナル抗体で、又は抗NspAポリクローナル抗体で、検査することができる (図17参照)。意外なことに、Omp85の場合と同様にプロモーターを開始コドンの約400 bp上流に導入すると約100 bp上流に導入した場合と比べて約50倍も発現が強まることも判明した。
【0206】
同じ組換えpUCプラスミドは、機能的cps遺伝子を欠くがPorAをなお発現するN. meningitidis血清群B株におけるNspA発現の上方調節にも使用できる。
【0207】
実施例14: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B pldA(omplA)遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはpldA(omplA)遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、PldA (OmplA1)抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、pldA遺伝子の上流に位置するDNA領域(373 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:18)。このDNAは推定rpsT遺伝子をコードする配列を含んでいる。rpsTの終止コドンはpldA ATGの169 bp上流に位置する。この潜在的に重要な遺伝子の破壊を防ぐために、pldA ATGのすぐ上流にCmR/PorAプロモーターカセットを挿入することにした。その目的のために、rpsT遺伝子、169 bp遺伝子間配列及びpldA遺伝子の最初の499ヌクレオチドに対応する992 bpのDNA断片を、N. meningitidis血清群BゲノムDNAから、取込み配列(下線部)を含むオリゴヌクレオチドPLA1 Amo5 (5’-GCC GTC TGA ATT TAA AAT TGC GCG TTT ACA G-3’)及びPLA1 Amo3 (5’-GTA GTC TAG ATT CAG ACG GCG CAA TTT GGT TTC CGC AC-3’)を用いてPCR増幅した。PLA1 Amo3はXbaI制限部位をも含んでいる。このPCR断片をHigh Pure Kit (Roche、ドイツ/マンハイム)でクリーニングし、pGemTベクター(Promega、米国)に直接クローニングした。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992)]にかけて、適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにした。サークルPCR法はオリゴヌクレオチドCIRC1-Bgl (5’-CCT AGA TCT CTC CGC CCC CCA TTG TCG-3’)及びCIRC1-XH-RBS/2 (5’-CCG CTC GAG TAC AAA AGG AAG CCG ATA TGA ATA TAC GGA ATA TGC G-3’)か又はCIRC2-XHO/2 (5’-CCG CTC GAG ATG AAT ATA CGG AAT-3’)を使用して実施した。これらのオリゴヌクレオチドは下線を付した適当な制限部位(BglIIとXhoI)を含んでいる。このCmR/PorAプロモーターカセットは前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、下線で示した適当な制限部位(BglIIとXhoI)を含むオリゴヌクレオチドBAD 20 (5’-TCC CCC GGG AGA TCT CAC TAG TAT TAC CCT GTT ATC CC-3’)及びCM-PORA-3 (5’-CCG CTC GAG ATA AAA ACC TAA AAA CAT CGG GC-3’)である。このPCR断片は、プライマーCIRC1-Bgl及びCIRC1-XH-RBS/2で得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはmeningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-]株の形質転換に使用することができる。pldAの上流領域での二重乗換えによる組込みは、pldA ATGのすぐ上流へのporAプロモーターの挿入を誘導することになろう。
【0208】
プロモーターを置換したD15/Omp85過剰発現型の組換えN. meningitidis血清群B株[cps-、porA-、D15/Omp85+]のゲノムDNAからもう1つのカセットを増幅した。このカセットはcmR遺伝子、porAプロモーター、及びD15/Omp85遺伝子の5’隣接領域に対応する400 bpを収める。この配列はNeisseriaにおけるD15/ Omp85発現の上方調節に有効であることが立証済みであり、他Neisseria抗原の発現の上方調節も試験されることになろう。増幅に使用されたプライマーはBAD 20及びXhoI制限部位(下線部)を含むCM-PORA-D15/3 (5’-CGG CTC GAG TGT GAG TTC CTT GTG GTG C-3’)であった。このPCR断片を、プライマーCIRC1-Bgl及びCIRC2-XHO/2で得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはN. meningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-] 株の形質転換に使用されることになろう。pldAの上流領域における二重乗換えによる組込みはpldA ATGの400 bp上流へのporAプロモーターの挿入を誘導しよう。
【0209】
実施例15: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B tbpA遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはtbpA遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、TbpA抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、tbpA遺伝子の上流に位置するDNA領域(731 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:17)。このDNAはTbpB抗原をコードする配列を含んでいる。これらの遺伝子は1つのオペロンに編成されている。tbpB遺伝子は削除され、CmR/porAプロモーターカセットへと置換されることになろう。その目的のために、tbpB遺伝子の509 bp 5’隣接領域、2139 bp tbpBコード配列、87 bp遺伝子間配列及びtbpAコード配列の最初の483ヌクレオチドに対応する3218 bpのDNA断片を、N. meningitidis血清群BゲノムDNAから、取込み配列とNheI及びHindIII 制限部位(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD16 (5’-GGC CTA GCT AGC CGT CTG AAG CGA TTA GAG TTT CAA AAT TTA TTC-3’)及びBAD17 (5’-GGC CAA GCT TCA GAC CGC GTT CGA AGT TTG AGC CTT TGC-3’)を用いてPCR増幅した。このPCR断片をHigh Pure Kit (Roche、ドイツ/マンハイム)でクリーニングし、pGemTベクター(Promega、米国)に直接クローニングした。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992)]にかけ、(i) 適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにし、また(ii) tbpBの5’隣接配列のうちの209 bpとtbpBコード配列を削除するようにした。サークルPCR法は、適当な制限部位XmaI、BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD 18 (5’-TCC CCC GGG AAG ATC TGG ACG AAA AAT CTC AAG AAA CCG-3’)及びBAD 19 (5’-GGA AGA TCT CCG CTC GAG CAA ATT TAC AAA AGG AAG CCG ATA TGC AAC AGC AAC ATT TGT TCC G-3’)を使用して実施した。このCmR/PorAプロモーターカセットを前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、適当な制限部位XmaI、SpeI、BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD 21 (5’-GGA AGA TCT CCG CTC GAG ACT TCG GGC AAA CAC CCG-3’) 及びBAD 20 (5’-TCC CCC GGG AGA TCT CAC TAG TAT TAC CCT GTT ATC CC-3’)である。このPCR断片はサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはmeningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-]株の形質転換に使用されよう。tbpAの上流領域での二重乗換えによる組込みは、tbpA ATGのすぐ上流へのporAプロモーターの挿入を誘導することになろう。
【0210】
実施例16: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B pilQ遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはpilQ遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、PilQ抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、pilQ遺伝子の上流に位置するDNA領域(772 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:12)。このDNAはTbpB抗原をコードする配列を含んでいる。ピリンはこの細菌の必須要素であるため、pilQ遺伝子は破壊を防ぎたいオペロンの一部である。pldA遺伝子発現の上方調節に関して述べたのと同じ方式によって、pilQ遺伝子の上流にCmR/porAプロモーターカセットを導入した。その目的のために、pilQコード配列の3’側部分、18 bpの遺伝子間配列、及びpilQ遺伝子の最初の392ヌクレオチドに対応する866 bpのDNA断片を、N. meningitidis血清群BゲノムDNAから、取込み配列と制限部位(NheI及びHindIII 、下線部)とを含むオリゴヌクレオチドPQ-rec5-Nhe (5’-CTA GCT AGC GCC GTC TGA ACG ACG CGA AGC CAA AGC -3’)及びPQ-rec3-Hin (5’-GCC AAG CTT TTC AGA CGG CAC GGT ATC GTC CGA TTC G-3’)を用いてPCR増幅した。このPCR断片をpGemTベクター(Promega、米国)に直接クローニングした。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992)]にかけて、適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにした。サークルPCR法は、適当な制限部位BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドCIRC1-PQ-Bgl (5’-GGA AGA TCT AAT GGA GTA ATC CTC TTC TTA -3’)及びCIRC1-PQ-XHO (5’-CCG CTC GAG TAC AAA AGG AAG CCG ATA TGA TTA CCA AAC TGA CAA AAA TC -3’)か又はCIRC2-PQ-X (5’-CCG CTC GAG ATG AAT ACC AAA CTG ACA AAA ATC-3’)を使用して実施した。このCmR/PorAプロモーターカセットを前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、適当な制限部位BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD 20 (5’-TCC CCC GGG AGA TCT CAC TAG TAT TAC CCT GTT ATC CC-3’) 及びCM-PORA-3 (5’-CCG CTC GAG ATA AAA ACC TAA AAA CAT CGG GCA AAC ACC C-3’)である。このPCR断片は、プライマーCIRC1-PQ-Blg及びCIRC1-PQ-XHOの使用によって得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはmeningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-]株の形質転換に使用することができる。pilQの上流領域での二重乗換えによる組込みは、pilQ ATGのすぐ上流へのporAプロモーターの挿入を誘導することになろう。
【0211】
プロモーターを置換したD15/Omp85過剰発現型の組換えN. meningitidis血清群B株[cps-、porA-、D15/Omp85+]のゲノムDNAからもう1つのカセットを増幅した。このカセットはcmR遺伝子、porAプロモーター、及びD15/Omp85遺伝子の5’隣接領域に対応する400 bpを収める。この配列はNeisseriaにおけるD15/ Omp85発現の上方調節に有効であることが立証済みであり、他Neisseria抗原の発現の上方調節も試験されることになろう。増幅に使用されたプライマーはBAD 20及びXhoI制限部位(下線部)を含むCM-PORA-D153 (5’-GGG CTC GAG TGT CAG TTC CTT GTG GTG C-3’)であった。このPCR断片を、プライマーCIRC1-PQ-Bgl及びCIRC2-PQ-Xで得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはN. meningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-] 株の形質転換に使用することができる。pilQの上流領域における二重乗換えによる組込みはpilQ ATGの400 bp上流へのporAプロモーターの挿入を誘導しよう。
【0212】
実施例17: N. meningitidis染色体に「クリーンな」、無傷の突然変異を導入するためのkanR/sacBカセットの構築
本実施例の狙いは、N. meningitidis染色体組換えの陽性スクリーニング用選択マーカー(すなわちkanR遺伝子)と組み換え後に染色体からカセットを削除するための対抗選択マーカー(すなわちsacB遺伝子)とを収めた多能型DNAカセットを構築することである。この方法では、相同的組換え時に導入される異種DNAはすべてNeisseria染色体から除去されることになろう。
【0213】
独自のプロモーターの支配下に発現するneoR遺伝子とsacB遺伝子とを含むDNA断片を、pIB 279プラスミド[Blomfield IC, Vaughn V, Rest RF, Eisenstein BI (1991), Mol Microbiol 5: 1447-57]のBamHI制限酵素による切断で得た。受容ベクターは前述のプラスミドpCMKに由来した。pCMKのkanR遺伝子を酵素NruI及びEcoRVによる切断で削除した。このプラスミドをpCMKsと命名した。neoR/sacBカセットをpCMKsの、BamHI切断末端と相補的なBglII制限部位に挿入した。
【0214】
このプラスミドを入れたE. coliは2%スクロースの存在下では培地中で増殖することができないので、sacBプロモーターの機能性が確認される。このプラスミドは、N. meningitidis血清群B染色体中のporA遺伝子座へのカセットの挿入を可能にする組換え誘発領域を含んでいる。組換えNeisseriaは200 μg/mlカナマイシン含有GC寒天プレート上で得られた。あいにく、2%スクロース含有GC寒天プレート上では増殖に差が観察されず、N. meningitidisではsacBプロモーターは機能しなかった。
【0215】
kanRプロモーターの支配を受けるようにしたsacB遺伝子を収めた新しいカセットを構築した。プラスミドpUC4K (Amersham Pharmacia Biotech、米国)を鋳型として使用し、NcoI及びXbaI制限部位(下線部)を含むオリゴヌクレオチドCIRC-Kan-Nco (5’-CAT GCC ATG GTT AGA AAA ACT CAT CGA GCA TC-3’)及びCIRC-Kan-Xba (5’-CTA GTC TAG ATC AGA ATT GGT TAA TTG GTT G-3’)をプライマーとしてサークルPCR法を実施した。得られたPCR断片はゲル精製し、NcoIで切断し、pIB279プラスミドからのPCRで生成したsacB遺伝子に結合した。このPCRにはNcoI制限部位(下線部)とRBS(太字)とを含むオリゴヌクレオチドSAC/NCO/NEW5 (5’-CAT GCC ATG GGA GGA TGA ACG ATG AAC ATC AAA AAG TTT GCA A-3’)及びNcoI制限部位(下線部)を含むオリゴヌクレオチドSAC/NCO/NEW3 (5’-GAT CCC ATG GTT ATT TGT TAA CTG TTA ATT GTC-3’)を使用した。組換えE. coliクローンは2%スクロース含有寒天プレート上でそのスクロース感受性を試験することができる。この新しいkanR/sacBカセットはpCMKsにサブクローニングすることができるし、またN. meningitidis血清群B cps-株の形質転換に使用することができる。Neisseriaでは獲得されたスクロース感受性が確認されることになろう。pMCKsプラスミドは組換えkanR/sacB Neisseriaに導入して、その染色体porA遺伝子座に挿入されたカセットを完全に削除するために使用することができる。クリーンな組換えNeisseriaが2%スクロース含有GC寒天プレート上で得られよう。
【0216】
実施例18: N. meningitidis染色体の相同的組換えを可能にする小組換え誘発配列(43bp)の使用
本実施例の狙いはNeisseria染色体の挿入、修飾又は欠失の促進を目的とした小組換え誘発配列(43bp)の使用である。この実施例の成果は、E. coliの相同配列のサブクローニングステップの省略という点で将来の作業を大いにやり易くしよう(43 bpの組換え誘発配列はPCRプライマーに容易に付加することができる)。NmB porA遺伝子の5’隣接配列に対して相同的な43 bp(太字)と取込み配列(下線部)とを含むオリゴヌクレオチドKan-PorA-5 (5’-GCC GTC TGA ACC CGT CAT TCC CGC GCA GGC GGG AAT CCA GTC CGT TCA GTT TCG GGA AAG CCA CGT TGT GTC-3’)及びNmB porA遺伝子の3’隣接配列に対して相同的な43 bp(太字)と取込み配列(下線部)とを含むオリゴヌクレオチドKan-PorA-3 (5’-TTC AGA CGG CGC AGC AGG AAT TTA TCG GAA ATA ACT GAA ACC GAA CAG ACT AGG CTG AGG TCT GCC TCG-3’)を使用してプラスミドpUC4KからkanR遺伝子をPCR増幅した。得られた1300 bpのDNA断片をpGemTベクター(Promega、米国)にクローニングした。このプラスミドはN. meningitidis血清群B cps-株の形質転換に使用することができる。組換えNeisseiraは200 μg/mlカナマイシン含有GCプレート上で得られよう。porA遺伝子座での二重乗換えに由来する組込みは、前述のようなPPA1及びPPA2プライマー使用のPCR法でスクリーニングすることになろう。
【0217】
実施例19: 野生型及び組換えN. meningitidisブレブ接種マウスの能動防御
Al(OH)3に吸着させた種々のOMV 5 μgを0日目、14日目、28日目の3回にわたり動物に(IP経路で)接種した。28日目(第2回接種の14日後)と35日目(第3回接種の7日後)に採血し、また35日目に(IP経路で)病原体を投与した。病原体投与量は20 x LD50 (〜107 CFU/マウス)であった。病原体投与後7日間について死亡率をモニターした。
【0218】
投与したOMVは次のとおりであった。
【0219】
群1: Cps-、PorA+ ブレブ
群2: Cps-、PorA- ブレブ
群3: Cps-、PorA-、NspA+ ブレブ
群4: Cps-、PorA-、Omp85+ ブレブ
群5: Cps-、PorA-、Hsf+ ブレブ
図15はSDS-PAGEで分析したこれらのOMVのパターンを示す(Coomassie染色)。
【0220】
病原体投与の24時間後には、ネガティブ・コントロール群(Al(OH)3だけを接種)は100% (8/8)死亡したが、5種類のOMVを接種したマウス群はなお生存していた(7~8/8のマウスが生き残った)。病原体投与後7日間には病状もモニターしたが、NspA過剰発現ブレブを接種したマウスは他群よりも症状が軽いように見受けられた。PorA+ブレブ中のPorAの存在は同種菌株による感染に対し幅広い防御を与えそうである。ただし、PorA-上方調節ブレブによって誘発される防御は、少なくともある程度までは、NspA、Omp85またはHsf含量の増加にも負うようである。
【0221】
実施例20: ホールセル及び特異的ELISA法で測定した組換えブレブの免疫原性
MenB細胞表面に存在する抗原に対する抗体の認識能力を測定するために、(テトラサイクリン不活化細胞を使用して)ホールセルELISA法で(実施例19に由来する)マウス血清プールを検査し、力価を中間力価で表示した。どの種類のブレブ抗体も高いホールセルAb力価を誘発するが、ネガティブ・コントロール群は明らかに陰性であった。
【0222】
【表7】
【0223】
組換えHSFタンパク質に対する特異的Ab応答を調べた。マイクロプレートに1 μg/mlの完全長HSF分子を塗った。
【0224】
図16に掲げた結果は、(精製した組換えHSFをプレートに使用した場合)HSF過剰発現OMVをマウスの免疫に使用したときに高い特異的HSF応答が現れたことを示している。HSF過剰発現ブレブは十分なレベルの特異抗体を誘発する。
【0225】
【表8】
【0226】
【表9】
【0227】
【表10】
【0228】
【表11】
【0229】
【表12】
【0230】
【表13】
【0231】
【表14】
【0232】
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【表16】
【0234】
【表17】
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【表18】
【0236】
【表19】
【0237】
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【0238】
【表21】
【0239】
【表22】
【0240】
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【0245】
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【0246】
【表29】
【0247】
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【0248】
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【0250】
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【0251】
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【0287】
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【表71】
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【表72】
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【表77】
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【表78】
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【表79】
【0297】
【表80】
【0298】
【表81】
【0299】
【表82】
【0300】
【表83】
【0301】
【表84】
【0302】
【表85】
【0303】
【表86】
【0304】
【表87】
【0305】
【表88】
【0306】
【表89】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はグラム陰性菌ワクチン組成物、その製造、及びかかる組成物の医薬への使用という分野に関連する。本発明は特に、新規の外膜小胞(又はブレブ)ワクチン類、並びにこのワクチン類の有効性と安全性を高める有利な方法という分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
グラム陰性菌は2つの連続した膜構造層により外部媒質と隔てられている。これらの膜構造は細胞膜と外膜(OM)といい、構造的にも機能的にも異なる。外膜は病原菌の宿主との相互作用で重要な役目を果たす。従って、表面を露出したこの細菌分子は宿主免疫応答の重要な標的であり、外膜成分はワクチンや診断用及び治療用試薬を提供するうえでの有力候補となる。
【0003】
全菌ワクチン(不活化又は弱毒化処理したもの)には複数の抗原を本来のミクロ環境に収めたまま供給するという長所がある。この方式の短所は内毒素やペプチドグリカン断片などのような細菌成分により誘起される副作用にある。他方、精製外膜成分を含む非細胞サブユニットワクチンは限られた感染防御をもたらすだけであるか、又は宿主の免疫系に対し抗原を適正に提示しないであろう。
【0004】
あらゆるグラム陰性菌の外膜に認められる三大成分は、タンパク質、リン脂質及びリポ多糖である。これらは次のように不斉分布している: 膜リン脂質(ほとんどが内小葉に)、リポオリゴ糖 (外小葉だけに)、タンパク質(内小葉及び外小葉リポタンパク質、内在性又はポリトピック型の膜タンパク質)。ヒトの健康に影響を及ぼす多数の病原菌では、リポ多糖と外膜タンパク質が免疫原性であり、また免疫による対応疾患への感染防御の付与になじみやすいことが証明されている。
【0005】
グラム陰性菌のOMはダイナミックであり、環境条件次第で激しい形態変換を遂げる場合がある。そうした現れのうち、外膜小胞又は「ブレブ」の形成は多数のグラム陰性菌で研究、記録されてきた(Zhou, L et al. 1998. FEMS Microbiol. Lett. 163: 223-228)。ブレブの産生が報告されているそうした細菌の例は百日咳菌Bordetella pertussis、Borrelia burgdorferi、マルタ熱菌Brucella melitensis、Brucella ovis、オウム病クラミジアChlamydia psittaci、トラコーマ・クラミジアChlamydia trachomatis、大腸菌Escherichia coli、インフルエンザ菌Haemophilus influenzae、レジオネラ菌Legionella pneumophila、淋菌Neisseria gonorrhoeae、髄膜炎菌Neisseria meningitidis、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaおよび腸炎エルシニアYersinia enterocoliticaなどである。OMブレブは産生の生化学機構が理解し尽くされているわけではないが、外膜タンパク質調製品を本来のコンホーメーションのまま分離するための強力な方法をもたらすため、広く研究されてきた。その意味で、外膜材料の使用はナイセリアNeisseria属、Moraxella catarrhalis、インフルエンザ菌、緑膿菌及びクラミジアChlamydia属に対するワクチンの開発では特に重要である。しかも外膜ブレブは、種内変種に対する長期の感染防御を付与しそうな複数のタンパク質及び非タンパク質抗原の混合物である。
【0006】
本発明者は、外膜ブレブワクチンが(何らかの方法で変性処理されれば)他のもっと広く使用されている種類の(全菌及び精製サブユニット)ワクチンと比べて、理想の折衷ワクチンとなることを示すであろう。
【0007】
細菌サブユニットワクチンの普及は、ワクチン用途に有効であると判明した細菌表面タンパク質(たとえばB. pertussisのペルタクチン)の徹底的な研究に負っている。これらのタンパク質は細菌外膜とゆるく会合しているため、培養液上清から精製することが、あるいは細菌細胞から楽に抽出することができる。しかし、構造的な内在性外膜タンパク質もまた防御抗原であることがすでに証明されている。たとえばN. meningitidis血清群BのPorA、H. influenzaeのD15、M. catarrhalisのOMP CD、P. aeruginosaのOMP Fなどである。ところがこれらのタンパク質はかなり特異な構造的特徴、特に多両親媒性βシートをもち、それが精製(組換え)サブユニットワクチンとしての直接的な使用を困難にしている。
【0008】
さらに、相当レベルの感染防御を付与するには(細菌表面タンパク質と内在性膜タンパク質などのような形の)多成分ワクチンが求められることも明らかになってきた。たとえばB. pertussisサブユニットワクチンの場合、多成分ワクチンのほうが単成分又は二成分ワクチンに優る。
【0009】
その種のサブユニットワクチンに内在性外膜タンパク質を組み込む場合、有効な免疫効果をもたせるには本来の(又はほぼ本来の)三次元折りたたみ性能を存続させなければならない。分泌外膜小胞又はブレブの使用は、免疫原性の内在性膜タンパク質をサブユニットワクチンに組み込むと同時にそれらが確実に正しく折りたたまれるようにするという問題に対するエレガントな解答であろう。
【0010】
N. meningitidis血清群B (menB) はワクチンの工業生産を可能にするに足る量の外膜ブレブを分泌する。天然に存在するmenB株に由来するその種の多成分外膜タンパク質ワクチンは十代の若者をmenB性疾患から感染防御するうえで有効であると判明しており、中南米ではすでに登録済みである。外膜小胞を調製するもう1つの方法として細菌細胞の洗剤抽出がある(EP 11243)。
【0011】
次に、ブレブワクチンの製造を可能にする細菌種の例を示す。
【0012】
髄膜炎菌Neisseria meningitidis:
Neisseria meningitidisはヒト上気道から単離されることが多いグラム陰性菌であり、菌血症や髄膜炎などのような侵襲性の細菌性疾患を引き起こすことがある。髄膜炎菌感染症の発生率には地域差、季節差、年差が見られる[Schwartz, B., Moore, P.S., Broome, C.V.; Clin. Microbiol. Rev. 2 (Supplement), S18-S24, 1989] 。温帯諸国の疾患はほとんどが血清群B株に起因し、また発生率は人口1万人当たり1〜10人/年であるが、もっと高発生率の国もある[Kaczmarski, E.B. (1997), Commun. Dis. Rep. Rev. 7: R55-9, 1995; Scholten, R.J.P.M., Bijlmer, H.A., Poolman, J.T. et al. Clin. Infect. Dis. 16: 237-246, 1993; Cruz, C., Pavez, G., Aguilar, E., et al. Epidemiol. Infect. 105: 119-126, 1990]。幼児と十代の若者という2つの高リスク年齢層では発生率がもっと高くなる。
【0013】
血清群A髄膜炎菌による感染症はほとんどが中央アフリカで発生しており、その発生率は1万人当たり1,000人に達するときもある[Schwartz, B., Moore, P.S., Broome, C.V.; Clin. Microbiol. Rev. 2 (Supplement), S18-S24, 1989] 。髄膜炎菌感染症はほぼすべての症例が血清群A、B、C、W-135およびY髄膜炎菌に起因する。4価のA、C、W-15、Y莢膜多糖ワクチンが市販されている(Armand, J., Arminjon, F., Mynard, M.C., Lafaix, C., J. Biol. Stand. 10: 335-339, 1982)。
【0014】
多糖ワクチンは目下、担体タンパク質に化学結合させる方向で改善が図られている(Lieberman, J.M., Chiu, S.S., Wong, V.K. et al. JAMA 275: 1499-1503, 1996) 。血清群Bワクチンはまだない。B莢膜多糖が非免疫原性であるためだが、そのわけはおそらく宿主細胞との構造的類似性にあろう(Wyle, F.A., Artenstein, M.S., Brandt, M.L. et al. J. Infect. Dis. 126: 514-522, 1972; Finne, J.M., Leinonen, M., Maekelae, P.M. Lancet ii: 355-357, 1983) 。
【0015】
長年にわたり、脳膜炎菌外膜系ワクチンの開発努力が行われてきた(de Moraes, J.C., Perkins, B., Camargo, M.C. et al. Lancet 340: 1074-1078, 1992; Bjune, G., Hoiby, E.A., Gronnesby, J.K. et al. 338: 1093-1096; 1991) 。そうしたワクチンの有効率は小児(>4歳)と成人では57〜85%となっている。これらの治験はほとんどが、野生型N. meningitidis B株由来のOMV(外膜小胞。ブレブからLPSを除去したもの)を用いて行われた。
【0016】
このワクチンには多数の細菌外膜成分たとえばPorA、PorB、Rmp、Opc、Opa、FrpBが含まれており、観察された感染防御に対するこれらの成分の寄与度をさらに明確にする必要がある。他の細菌外膜成分たとえばTbpBやNspAもまた、防御免疫の誘発に関連している可能性があるとされる(Martin, D., Cadieux, N., Hamel, J., Brodeux, B.R., J. Exp. Med. 185: 1173-1183, 1997; Lissolo, L., Maaetre-Wilmotte、C., Dumas, P. et al. Inf. Immun. 63: 884-890, 1995)。この免疫機構には抗体依存性の殺菌作用及びオプソニアン食菌作用が関連しよう。
【0017】
Neisseria meningitidis感染症の発生率はここ数十年間に劇的に上昇してきた。これは多数の抗生物質耐性株が出現したり、社会的活動の場(プールや映画館・劇場など)が多様化しそこに出入りする機会が多くなったりしていることに起因する。標準抗生物質の一部又はすべてに対して耐性をもつN. meningitidisが単離されるのはもはや珍しくない。この細菌を対象とした新しい抗菌薬、ワクチン、ドラッグスクリーニング法、及び診断試験法に対する医療面の未充足ニーズはこうした事情から生まれている。
【0018】
Moraxella catarrhalis:
Moraxella catarrhalis (別名Branhamella catarrhalis)もヒト上気道から単離されることが多いグラム陰性菌であり、いくつかの病理を引き起こすが、主なものは幼・小児の滲出性中耳炎と老人の肺炎である。また副鼻腔炎、院内感染症、またまれには侵襲性疾患の原因ともなる。
【0019】
ほとんどの成人被験者で殺菌性抗体が同定されている[Chapman, AJ et al. (1985) J. Infect. Dis. 151: 878] 。M. catarrhalis株には血清殺菌活性に対する抵抗性をもつ変種が存在するが、一般に患者からの分離株は単にコロニーが形成されているだけの個人からの分離株よりも抵抗性が強い [Hol, C et al. (1993) Lancet 341: 1281; Jordan, KL et al. (1990) Am. J. Med. 88 (suppl. 5A): 28S]。従って、血清抵抗性はこの細菌の病原性要因とみなすことができよう。滲出性中耳炎からの回復期にある小児の血清ではオプソニン作用が観察されている。
【0020】
これらの様々なヒト免疫応答の標的となる抗原はまだ同定されていないが、84 kDaのタンパク質であるOMP B1は例外である。これは肺炎患者の血清により認識され、鉄による発現調節を受ける(Sethi, S, et al. (1995) Infect. Immun. 63: 1516)。また、UspA1とUspA2も例外である[Chen, D et al. (1999) Infect. Immun. 67: 1310]。
【0021】
生化学的方法による解明によれば、M. catarrhalisの表面に存在する他の少数の膜タンパク質は防御免疫と関わっている可能性がある。[Murphy, TF (1996) Microbiol. Rev. 60:267の概説を参照] 。マウス肺炎モデルでは、そうした膜タンパク質のうちのいくつか(UspA、CopB)に対抗してつくられた抗体の存在は肺感染のクリアランスを速める効果がある。もう1つのポリペプチド(OMP CD)はM. catarrhalis株の間では保存性が高く、緑膿菌Pseudomonas aeruginosaのポーリンとの相同性を示すが、該ポーリンはこの菌に対して有効であることが動物実験ですでに証明されている。
【0022】
M. catarrhalisは外膜小胞(ブレブ)を産生する。これらのブレブは種々の方法を用いてすでに分離又は抽出されている[Murphy, T.F., Loeb, M.R. (1989) Microb. Pathog. 6: 159-174; Unhanand, M., Maciver, I., Ramillo, O., Arencibia-Mireles, O., Argyle, J.C., McCracken, G.H. Jr., Hansen, E.J. (1992) J. Infect. Dis. 165: 644-650]。その種のブレブ調製品の感染防御能はすでにマウス・モデルでM. catarrhalisの肺クリアランスに関して試験されている。同モデルでは、ブレブワクチンによる能動免疫法または抗ブレブ抗体の受動移入は著しい感染防御を誘発することが証明された[Maciver, I.,Unhanand, M., McCracken, G.H. Jr., Hansen, E.J. (1993) J. Infect. Dis. 168: 469-472]。
【0023】
インフルエンザ菌Haemophilus influenzae:
Haemophilus influenzaeは非運動性のグラム陰性菌である。ヒトがその唯一の宿主である。H. influenzae分離株は通常、その多糖莢膜に応じて分類される。a〜fという6種類の莢膜型が特定されている。これら6種類の血清型のうちの1種類に対抗してつくられた抗血清で凝集しない分離株は類型化不能に分類され、また莢膜を発現しない。
【0024】
H. influenzae b型(Hib)は細菌性髄膜炎や全身性疾患の主因になるという点で他の型とは明らかに異なる。類型化不能H. influenzae株(NTHi)は全身性疾患患者の血液から時折単離されるにすぎない。NTHiは肺炎、慢性気管支炎の増悪、副鼻腔炎および滲出性中耳炎の共通原因である。NTHi株はクローン解析で解明されているように大きな可変性を示すが、Hib株は概してもっと均一である。
【0025】
種々のH. influenzaeタンパク質は病因に関わっていることが、又はワクチン投与後の動物モデルに感染防御を付与することが証明されてきた。
【0026】
NTHiはヒト鼻咽喉上皮細胞に接着すると報告されている[Read, RC et al. (1991) J. Infect. Dis. 163: 549] 。NTHiでは普通線毛や性線毛とは別に [Briton C.C., et al. (1989) Pediatr. Infect. Dis. J. 8: S54; Kar, S. et al. (1990) Infect. Immun. 58: 903; Gildorf, J.R. et al. (1992) Infect. Immun. 60: 374; St. Geme, J.W. et al. (1991) Infect. Immun. 59: 3366; St. Geme, J.W. et al. (1993) Infect. Immun. 61: 2233]、多数の接着因子が同定されている。なかでも、HMW1とHMW2という2つの表面露出高分子タンパク質は上皮細胞に対するNTHiの接着を媒介することがすでに証明されている[St. Geme, J.W. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2875]。HMW1/HMW2ファミリーのタンパク質を欠くNTHi株で、もう1つの高分子量タンパク質ファミリーが同定された。115 kDaのこのNTHi Hiaタンパク質[Barenkamp, S.J., St. Geme, S.W. (1996) Mol. Microbiol. In press]はH. influenzae b型株が発現するHsf接着因子との類似性が高い[St. Geme, J.W. et al. (1996) J. Bact. 178: 6281]。もう1つのタンパク質であるHapタンパク質はIgA1セリンプロテアーゼとの類似性を示し、また接着と細胞侵入の両方に関わっていることが証明された[St. Geme, J.W. et al. (1994) Mol. Microbiol. 14: 217]。
【0027】
5つの主要な外膜タンパク質(OMP)がすでに同定され、数字で番号付けされている。H. influenzae b型株を使用した当初の研究で、OMP P1およびP2に対する特異抗体は幼若ラットを後の攻撃から防御すると証明された [Loeb, M.R. et al. (1987) Infect. Immun. 55:2612; Musson, R.S. Jr. et al. (1983) J. Clin. Invest. 72: 677]。内在性OMP P2は殺菌性およびオプソニン抗体を誘発する力があると判明したが、これらの抗体はP2の表面露出ループ構造内に存在する可変部へと誘導される [Haase, E.M. et al. (1994) Infect. Immun. 62:3712; Troestra, A. et al. (1994) Infect. Immun. 62: 779] 。リポタンパク質P4もまた、殺菌性抗体を誘発する可能性がある[Green, B.A. et al. (1991) Infect. Immun. 59: 3191]。
【0028】
OMP P6は保存型のペプチドグリカン結合リポタンパク質であり外膜の1〜5%を構成する[Nelson,M.B. et al. (1991) Infect. Immun. 59: 2658]。後に、ほぼ同じ分子量のリポタンパク質が識別され、PCP(P6交差反応性タンパク質)と名づけられた[Deich, R.M. et al. (1990) Infect. Immun. 58: 3388]。保存型リポタンパク質P4、P6およびPCPの混合物はチンチラ滲出性中耳炎モデルで測定しても感染防御を示さなかった[Green, B.A. et al. (1993) Infect. Immun. 61: 1950] 。チンチラ・モデルではP6単独だと感染防御を誘発するように見受けられる[Demaria, T.F. et al. (1996) Infect. Immun. 64: 5187]。
【0029】
タンパク質フィブリンもまたOMP P5との相同性がすでに指摘されているが[Miyamoto, N., Bkaletz, L.O. (1996) Microb. Pathog. 21: 343] 、OMP P5自体はE. coliの内在性OmpAと配列相同性がある[Miyamoto, N., Bkaletz, L.O. (1996) Microb. Pathog. 21: 343; Munson, R.S. Jr. et al. (1993) Infect. Immun. 61: 1017] 。NTHiは線毛によって粘膜に接着するように見受けられる。
【0030】
淋菌や髄膜炎菌で観察されたのと同様に、NTHiはFe制限下で増殖させるとTbpAとTbpBからなる二重ヒト・トランスフェリン受容体を発現する。抗TbpB抗体は幼若ラットを感染から防御した[Loosmore, S.M. et al. (1996) Mol. Microbiol. 19: 575]。NTHiではヘモグロビン/ハプトグロビン受容体の存在も明らかにされた[Maciver, I. et al. (1996) Infect. Immun. 64: 3703]。ヘム:ヘモペキシン受容体も特定されている[Cope, L.D. et al. (1994) Mol Microbiol. 13: 868]。NTHiにはラクトフェリン受容体も存在するが、その特性はまだ解明されていない。Neisseria FrpBタンパク質に類似するタンパク質の存在はNTHiではまだ明らかにされていない。
【0031】
80 kDaのOMPであるD15表面抗原はマウス攻撃モデルではNTHiに対する感染防御をもたらしている[Flack, F.S. et al. (1995) Gene 156:97]。42 kDaの外膜リポタンパク質であるLPDはH. influenzaeに共通して保存されており、また殺菌性抗体を誘発する[Akkoyunlu, M. et al. (1996) Infect. Immun. 64: 4586] 。98 kDaの小OMP [Kimura, A. et al. (1985) Infect. Immun. 47: 253] は防御抗原であることが判明したが、これはFe制限下で誘発されるOMSのうちの1つであるか、又はその後に特性が解明された高分子量接着因子である可能性が十分にある。H. influenzaeはIgA1プロテアーゼ活性を生み出す[Mulks, M.H., Shoberg, R.J. (1994) Meth. Enzymol. 235: 543]。NTHiのIgA1プロテアーゼは高度の抗原可変性をもつ[Lombolt, H., van Alphen, L., Kilian, M. (1993) Infect. Immun. 61: 4575]。
【0032】
NTHiのもう1つのOMP、OMP26は26 kDaタンパク質であるが、ラット・モデルで肺クリアランスを高めることが判明した[Kyd, J.M., Cripps, A.W. (1998) Infect. Immun. 66: 2272]。NTHi HtrAもまた防御抗原であることが証明された。実際、このタンパク質はチンチラを滲出性中耳炎から、また幼若ラットをH. influenzae b型菌血症から、それぞれ感染防御した[Loosmore, S.M. et al. (1998) Infect. Immun. 66: 899]。
【0033】
H. influenzaeからは外膜小胞(ブレブ)がすでに分離されている[Loeb, M.R., Zachary, A.L., Smith, D.H. (1981) J. Bacteriol. 145: 569-604; Stull, T.L., Mack, K., Haas, J.E., Smit, J., Smith, A.L. (1985) Anal. Biochem, 150: 471-480]。これらの小胞は血液脳関門透過性の誘発[Wiwpelwey, B., Hansen, E.J., Scheld, W.M. (1989) Infect. Immun. 57: 2559-2560]、髄膜炎症の誘発[Mustafa, M.M, Ramilo, O., Syrogiannopoulos, G.A., Olsen, K.D., McCraken, G.H. Jr., Hansen, E.J. (1989) J. Infect. Dis. 159: 917-922]及びDNAの取込み[Concino, M.F., Goodgal, S.H. (1982) J. Bacteriol. 152: 441-450]に関連付けられてきた。これらの小胞は鼻粘膜上皮組織に結合しそこで吸収されるが[Harada, T., Shimizu, T., Nishimoto, K., Sakakura, Y. (1989) Acta Otorhinolaryngol. 246: 218-221]、そのことは小胞中に接着因子/コロニー形成因子が存在する可能性を示す。外膜小胞中に存在するタンパク質に対する免疫応答は、種々のH. influenzae疾患患者で観察されてきた[Sakakura, Y., Harada, T., Hamaguchi, Y., Jin, C.S. (1988) Acta Otorhinolaryngol. Suppl. (Stockh.) 454: 222-226; Harada, T., Sakakura, Y., Miyoshi, Y. (1986) Rhinology 24: 61-66]。
【0034】
緑膿菌Pseudomonas aeruginosa:
Pseudomonas属はグラム陰性好気性の、極性鞭毛をもち胞子を形成しない直及び微曲桿菌類からなる。Pseudomonas spp.は所要代謝量が少ないため、至るところに存在し、土壌、大気、下水、植物中に広く分布する。Pseudomonas属にはP. aeruginosa、P. pseudomallei、P. mallei、P. maltophilia、P. cepaciaなど、ヒトに対し病原性であることが判明している種も多い。そのなかでも緑膿菌P. aeruginosaは免疫力低下宿主に日和見感染を起こし、入院患者で高死亡率の原因となっているため、重大なヒト病原菌と考えられている。緑膿菌による院内感染は主に、治療が長引いている患者や免疫抑制剤、コルチコステロイド、代謝拮抗物質、抗生物質又は放射線照射を受けている患者に起こる。
【0035】
Pseudomonas属、特に緑膿菌はこれらの細菌の病原性を強める種々の毒素(溶血素、フィブリノリジン、エステラーゼ、コアグラーゼ、ホスホリパーゼ、内毒素及び外毒素)を産生する。さらに、多剤排出ポンプを備えるため抗生物質に対する固有抵抗性が高い。この後者の性質は病気の経過をしばしば複雑にする。
【0036】
抗菌化学療法剤の安易な使用のために、緑膿菌による院内感染はここ30年で大幅に増加した。たとえば米国では緑膿菌院内感染の経済的負担は年間45億米ドルと推定される。したがって、緑膿菌に対する能動又は受動免疫ワクチンの開発がぜひとも求められている[概説については、Stanislavsky et al. (1997) FEMS Microbiol. Lett. 21: 243-277を参照]。
【0037】
緑膿菌の様々な細胞会合及び細胞分泌抗原がワクチン開発の対象とされてきた。そうした抗原のなかでも、アルギン酸塩を主成分とする細胞外粘液である粘液状物質は大きさや免疫原性の点で不均一であると判明した。高分子量アルギン酸成分(30〜300 kDa)は保存型エピトープを含むように見えるが、低分子量アルギン酸成分は(10〜30 kDa)は固有エピトープの他に保存型エピトープを含む。表面会合タンパク質のうち、III 型分泌−移動機構の一部をなすPcrVもまたワクチン接種の興味深い標的であることが示された[Sewa et al. (1999) Nature Medicine 5: 392-398]。
【0038】
O抗原(LPSのO特異的多糖)またはH抗原(鞭毛抗原)を含む表面露出抗原は、その高度の免疫原性ゆえに血清型の類型化に使用されてきた。O特異的多糖の反復単位の化学構造はすでに解明されており、それらのデータから緑膿菌の化学型31種の特定が可能になった。緑膿菌のすべての血清型に共通する保存型エピトープはLPSのコアオリゴ糖とリピドA領域中に位置し、またこれらのエピトープを含有する免疫原はマウスでは種々の緑膿菌免疫型に対する交差防御免疫を誘発する。LPSのアウターコアは、緑膿菌が動物の気道及び眼上皮細胞に結合するためのリガンドであると示唆されたことがある。しかし、このアウターコア領域には異なる血清型間の不均一性が存在する。インナーコア中のエピトープは保存性が高く、また表面はアクセス可能でありO特異的多糖に覆われていないことがすでに証明されている。
【0039】
OMタンパク質の感染防御特性を調べるために、分子量20〜100 kDaの緑膿菌OMタンパク質を含有するワクチンを前臨床及び臨床試験に使用した。このワクチンは動物モデルでは緑膿菌の攻撃に対して有効であったし、また治験志願者では高度の特異抗体を誘発した。治験志願者に由来する抗緑膿菌抗体を含む血漿は受動免疫を与え、また重度の緑膿菌感染症患者の87%で回復に寄与した。もっと最近では、緑膿菌に由来する外膜タンパク質OprF(アミノ酸数190〜342)およびOprI(アミノ酸数21〜83)の部分をグルタチオンSトランスフェラーゼに結合させたハイブリッドタンパク質は975倍の緑膿菌LD50からマウスを防御することが証明された[Knapp et al. (1999) Vaccine 17: 1663-1669]。
【0040】
以上の野生型ブレブワクチンには(天然型、化学合成型のいずれであれ)多くの欠点がある。
【0041】
そうした問題の例を次に列挙する。
− ブレブ上に免疫支配的(ただし可変的)タンパク質が存在(PorA; TbpB、Opa[N. meningitidis B]; P2、P5[NTHi])−この種のブレブは限られた特定の細菌種にしか有効でない。細菌性抗体応答の型特異性はこの種ワクチンの幼児への使用を不可能にする。
− ブレブ上に非防御(不適切)抗原(Rmp、H8、…)―免疫系に対するおとりの抗原―が存在。
− 条件に応じて産生される重要分子[たとえばFe調節を受ける外膜タンパク質(IROMPs)、生体内調節を受ける発現機構]の存在−そうした条件はブレブの産生に際して表面抗原の量を最適化するための制御が困難である。
− 防御(特に保存)抗原(NspA、P6)の発現レベルが低い。
− ブレブ表面上に残存するLPSの毒性。
− 宿主との同一機構に起因する自己免疫応答の潜在的誘発(たとえばN. meningitidis血清群Bの莢膜多糖、Neisseria LPSのラクト-N-ネオテトラオース、NTHi LPS内の多糖構造、線毛内の多糖構造)。
【0042】
こうした問題があると、ブレブワクチンはヒト・ワクチン試薬として使用しにくいであろう。それは特に、ブレブワクチンに対する反応原性が特に重要である小児(<4歳)への使用の場合、及びブレブワクチン(たとえば前述の市販MenBブレブワクチン)が免疫防御に無効であると判明しているような場合である。そこで本発明は、遺伝子組換え細菌株の使用によって以上の諸問題を緩和し、もってブレブワクチンの改良を図るという方法を提供する。かかる方法は、Neisseria meningitidids、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosaなどの病原菌に対する新ワクチンの生成に特に有効であろう。
【0043】
本発明のブレブワクチンは少数の防御(好ましくは保存)抗原又はエピトープに対する免疫応答に焦点を合わせて設計し、多成分ワクチンとして調製する。かかる抗原が内在性OMPsである場合には、ブレブワクチンの外膜小胞は該抗原の適正な折りたたみを確実にしよう。本発明はOMV(ブレブ)ワクチンのOMP及びLPS組成を最適化する方法を提供するが、かかる最適化に用いる手段は免疫支配的可変及び非防御OMPsの欠失、可変領域の欠失による保存OMPsの創出、防御OMPsの発現の上方調節、及び防御OMPsの発現制御機構(Fe制限など)の除去などである。また本発明は、リピド部分の修飾による、又はホスホリル組成の(アジュバント作用を維持した状態での)改変による、又は該アジュバント作用の遮蔽によるリピドAの弱毒化の方法を提供する。これらの新規改良方法はそれぞれ個別にブレブワクチンを改良する効果があるものの、複数の方法を組み合わせると協同的に働くため、免疫防御作用のある、無害の、特に小児用に好適な、最適化された遺伝子組換えブレブワクチンの製造に好都合である。
【発明の概要】
【0044】
発明の要約
本発明は、下記群から選択される1以上の方法の採用によって得られることを特徴とするグラム陰性菌株由来の遺伝子組換えブレブ調製品を提供する:
a) ブレブ調製品中の免疫支配的可変又は非防御抗原を減らす方法であって、該抗原を同定するステップ、該抗原の産生を少なくする又は無くするように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
b) ブレブ調製品中の防御・内在(かつ好ましくは保存)OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
c) ブレブ調製品中の条件発現防御(かつ好ましくは保存)OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該発現の抑制的調節機構(Fe制限など)が除去されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
d) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
e) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の弱毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
f) ブレブ調製品中のリピドAの毒性を低下させかつ防御抗原のレベルを高める方法であって、防御抗原に融合されたポリミキシンAペプチド又はその誘導体又は類似体をコードする遺伝子の組み込みを目的に菌株を染色体組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
g) ブレブ調製品上に保存OMP抗原をつくる方法であって、該抗原を特定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の可変領域が欠失するように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
h) ヒト構造と構造的類似性をもち、かつヒトにおいて自己免疫応答を誘発する力をもつ可能性のある(N. meningitidis B莢膜多糖などのような)抗原の、ブレブ調製品中の発現を低下させる方法であって、該抗原の生合成に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法; または
i) ブレブ調製品中の防御・内在(かつ好ましくは保存)OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、より強い異種プロモーター配列支配下にあって該抗原をコードする遺伝子の1以上のコピーがさらに染色体に導入されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法。
【0045】
本発明のさらなる態様には、ブレブ中の抗原の発現を上方調節するための強いプロモーターの最適位置の決定などを含む上記ブレブ調製品を得るための好ましい方法、種々の細菌株でワクチンへの使用に特に適したブレブ調製品を得るための上方調節又は下方調節の対象として好ましい抗原が包含される。本発明のブレブを含有する好ましい製剤もまた提供されるが、それはある種の疾患状態に対するグローバルワクチンに特に好適である。本発明のブレブを産生するためのベクター、及び本発明のブレブを産生する遺伝子組換え菌株もまた本発明のさらなる態様である。
【0046】
本発明は、4歳未満の小児に投与した場合に免疫防御作用を及ぼししかも毒性がないブレブワクチンを初めて提供する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】種々のコロニー上での735 mAbの反応度。
【図2】ホールセルElisa法による特異的モノクローナル抗体の反応度。
【図3】Neisseria meningitidisゲノムに遺伝子、オペロン及び/又は発現カセットを導入するために用いたpCMKベクターの図解。
【図4】組換えN. meningitidis血清群B(H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のPorA発現の分析。全タンパク質はcps-(レーン3及び4)、cps-PorA::pCMK+(レーン2及び5)及びcps-porA::nspA (レーン1及び6)組換えN. meningitidis血清群B株から回収し、12%ポリアクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分析した。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(レーン1〜3)、またはニトロセルロースフィルターに転写させてから抗PorAモノクローナル抗体で免疫染色した。
【図5】組換えN. meningitidis血清群B株(H44/76派生体)のタンパク質抽出物中のNspA発現の分析。タンパク質は全菌から(レーン1〜3)又は外膜ブレブ調製品から(レーン4〜6)抽出し、12%アクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分離し、抗NspAポリクローナル血清を用いた免疫ブロット法で分析した。cps-(レーン1及び6)、cps-PorA::pCMK+(レーン3及び4)及びcps-porA::nspA (レーン2及び5)に対応する試料を分析した。2種類のNspAが検出された。組換え精製NspAと同時移動する成熟種(18kDa)とそれよりも短い種(15kDa)である。
【図6】組換えN. meningitidis血清群B株(H44/76派生体)のタンパク質抽出物中のD15/omp85発現の分析。タンパク質は外膜ブレブ調製品から抽出し、12%アクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分離し、抗omp85ポリクローナル血清を用いた免疫ブロット法で分析した。cps-(レーン2)、及びcps-、PorA+、pCMK+ Omp85/D15(レーン1) 組換えN. meningitidis血清群B株に対応する試料を分析した。
【図7】プロモーターの導入による遺伝子発現調節のための一般戦略(RSは制限部位)。
【図8】組換えN. meningitidis血清群B cps-株(H44/76派生体)によって産生された外膜ブレブの分析。タンパク質は外膜ブレブ調製品から抽出し、4〜20%濃度勾配ポリアクリルアミドゲルSDS-PAGE法により低減条件下で分離した。ゲルはCoomassieブリリアントブルーR250で染色した。レーン2、4及び6は5μgの全タンパク質に対応し、レーン3、5及び7は10μgの全タンパク質に対応する。
【図9】N. meningitidis H44/76でのOmp85/D15発現/産生の上方調節に使用されたプロモーター置換用プラスミドの構築。
【図10】組換えNmB(H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のOMP85発現の分析。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(A)、又はニトロセルロースフィルターに転写後、ウサギ抗OMP85 (N. gono)モノクローナル抗体で免疫染色した(B)。
【図11】組換えNmB(H44/76派生体)に由来するOMV調製品中のOMP85発現の分析。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(A)、又はニトロセルロースフィルターに転写後、ウサギ抗OMP85ポリクローナル抗体で免疫染色した(B)。
【図12】キメラporA/lacOプロモーター中のlacOを欠失させるために使用した組換えPCR戦略の図解。
【図13】組換えN. meningitidis血清群B(H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のHsf発現の分析。全タンパク質はCps-PorA+(レーン1)、及びCps-PorA +/Hsf(レーン2)組換えN. meningitidis血清群B株から回収し、12%ポリアクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分析した。ゲルはCoomassieブルーで染色した。
【図14】組換えN. meningitidis (H44/76派生体)の全タンパク質抽出物中のGFP発現の分析。全タンパク質はCps-、PorA+(レーン1)、Cps-、PorA-GFP+ (レーン2及び3)組換え株から回収した。タンパク質は12%ポリアクリルアミドゲルによるSDS-PAGEで分離してからCoomassieブルーで染色した。
【図15】種々の組換えブレブ調製品の表面における大タンパク質の分布パターン(SDS-PAGEで分析、Coomassieで染色)。
【図16】精製組換えHsfタンパク質を使用した、種々のブレブ及び組換えブレブ調製品に関する特異的抗Hsf応答。
【図17】組換えNmB(血清群B派生体)の全タンパク質抽出物中のNspA発現の分析。ゲルはCoomassieブルーで染色するか(A)、又はニトロセルロースフィルターに転写後、マウス抗PorAモノクローナル抗体で免疫染色するか(B)、又はマウス抗NspAポリクローナル抗体で染色した(C)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
発明の説明
本発明はグラム陰性細菌株から改良型の遺伝子組換えブレブをつくるために使用しうる一般的な手段と方法に関連する。本発明は、ヒト及び/又は動物ワクチン用組換えブレブの免疫原性を高め、毒性を弱め、安全性を高めるために使用される方法を包摂する。さらに、本発明は種々のグラム陰性菌からワクチン用、治療用及び/又は診断用の組換えブレブを構築し、生産し、獲得し、また使用するために必要となる具体的方法を説明する。本発明の方法によれば、細菌外膜ブレブ(外膜タンパク質又はOMPs)中に存在する、又は細菌外膜ブレブと会合した生成物をコードする細菌遺伝子の発現に影響を及ぼし/変更を加えることにより、細菌ブレブの生化学組成を操作することができる。外膜成分をコードする1以上の遺伝子の発現を強め、弱め、又は条件次第にするための遺伝子組換え法を用いたブレブの生産もまた本発明の範囲に包含される。
【0049】
用語の意味を明快にしておくと、「発現カセット」は本書では、ある遺伝子又はオペロンを発現させ、対応する目的タンパク質を産生させ外膜ブレブに局在化させるために必要となる、任意の細菌宿主に由来する諸々の遺伝子要素をいう。かかる要素にはたとえば(転写及び/又は翻訳)調節要素、タンパク質コード領域及びターゲティングシグナル配列、及びそれらの間に適宜介在する間隔などが含まれる。プロモーター配列の挿入とは本発明では、少なくともプロモーター機能を備えた配列、好ましくは発現カセット内に含まれる1以上の他の遺伝子調節要素の挿入をいう。さらに、「組込み型カセット」はDNA断片を任意の細菌宿主に組み込むために必要とされる諸々の遺伝子要素をいう。これらの要素にはたとえば組換え遺伝子を収めた導入手段(ベクター)、選択及び対抗選択マーカーなどが含まれる。
【0050】
やはり明快を期して付け加えると、用語「該抗原の産生を少なくする・・・ように菌株を遺伝子組換えする」は、目的とする抗原の発現を、非組換え(すなわち天然型)ブレブのそれと比較して、10%以上好ましくは50%以上少なくするような任意の手段をいう。「より強いプロモーター配列」は目的とする抗原をコードする遺伝子の転写を強めるような調節要素をいう。「発現を上方調節する」は目的とする抗原の発現を、非組換え(すなわち天然型)ブレブのそれと比較して、増進するための任意の手段をいう。「上方調節」の幅は目的とする特定の抗原に応じて異なるが、ブレブの膜完全性を損なうような幅を超えることはないものとする。抗原の発現の上方調節は非組換えブレブのそれを10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは100%(2倍)以上上回る発現をいう。
【0051】
本発明の諸態様は改良型の組換えブレブをつくる個別の方法、そうした方法の組合せ、及びそれらの方法の結果としてつくられるブレブ組成物に関連する。本発明の別の態様は、選択された菌株を遺伝子組換えして該菌株より改良型の組換えブレブを抽出しうるようにするための遺伝子工学的手段に関連する。
【0052】
本発明の方法の遺伝子工学的ステップは技術上周知の多様なやり方で行うことができる。たとえば、配列(プロモーター又は読取り枠など)の挿入が可能であり、またトランスポゾン挿入法によるプロモーター/遺伝子の妨害も可能である。たとえば、遺伝子の発現を上方調節するためには、より強いプロモーターを該遺伝子の開始コドンの最大2 kb上流に(もっと好ましくは200〜600 bp上流に、最も好ましくは約400 bp上流に)挿入することができよう。点突然変異又は欠失を(特に遺伝子発現の下方調節を目的とする場合には)用いてもよい。
【0053】
しかし、かかる方法はきわめて不安定又は不確実であるおそれがあるため、遺伝子組換えステップ[特に後述の方法a)、b)、c)、d)、e)、h)およびi)に関するステップ]は相同的組換え事象を介して行うのが好ましい。好ましくは、該事象は細菌染色体上の少なくとも30ヌクレオチドの配列(組換え誘発領域)と菌株に導入されたベクター上の少なくとも30ヌクレオチド以上の配列(第2組換え誘発領域)との間で起こるようにする。これらの領域の大きさは好ましくは40〜1000ヌクレオチド、もっと好ましくは100〜800ヌクレオチド、最も好ましくは500ヌクレオチドである。これらの組換え誘発領域は高度に厳格な条件(定義については後述)の下で互いにハイブリダイズしうるだけの類似性をもたければならない。
【0054】
組換え事象は染色体及びベクター上の単一組換え誘発領域を用いて、又は(染色体及びベクター上の2領域を用いた)二重乗換え事象を介して起こるようにしてもよい。単一組換え事象の場合には、ベクターは環状DNA分子であるのがよい。二重組換え事象の場合には、ベクターは環状又は線状DNA分子とすることができよう(図7を参照)。二重組換え事象を採用し、使用するベクターは線状とするのが好ましい。というのは、そうして生み出される遺伝子組換え細菌のほうが組換え前状態への復帰という点でより安定性が高いからである。二重乗換えを起こしやすくする意味で、染色体上の(またベクター上の)2組換え誘発領域は好ましくは類似の(最も好ましくは同じ)長さとする。この二重乗換えは、染色体上の(ヌクレオチド配列Xで隔てられた)2組換え誘発領域とベクター上の(ヌクレオチド配列Yで隔てられた)2組換え誘発領域が組み換わって結果的に(XとYが入れ替わる点を除けば)染色体を無変化のままにしておくように機能する。組換え誘発領域の位置は、目的とする読取り枠の上流又は下流に、もしくは上流と下流の両方に配置することができる。これらの領域はコード、非コード又はコード/非コード混合配列からなることができる。XとYの一致率は所望の組換え効果次第であろう。Xが読取り枠の全部又は一部をなしYが無ヌクレオチドであるという場合もあろうが、その結果は染色体からXが欠失した配列が生じよう。あるいは、Yが読取り枠の上流に挿入するための強いプロモーターであり、従ってXが無ヌクレオチドになるという場合もあろう。
【0055】
好適なベクターはどのようなタイプの組換え事象を起こすかによって、また組換え事象の最終目的が何であるかによって、組成が異なろう。領域Yの導入に使用される組込み型ベクターは条件次第で複製型又は自殺型プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、または制限加水分解又はPCR増幅によって得られる線状DNA断片とすることができる。組換え事象の選択は選択遺伝子マーカーたとえば抗生物質(カナマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシンなど)耐性を付与する遺伝子、重金属及び/又は毒物耐性を付与する遺伝子、又は栄養要求性変異を補完する遺伝子(pur、leu、met、aroなど)などを用いて行う。
【0056】
方法a)及びf)−可変的及び非防御的な免疫支配抗原の下方調節/除去:
多数の表面抗原は菌株間で可変的であり、その結果として密接に関連し合う少数の菌株に対してしか防御的でない。本発明の一態様は、可変表面抗原をコードする遺伝子の発現の下方調節、又は好ましくは該遺伝子自体の欠失をカバーするが、そうした操作の結果として作られる菌株が産生するブレブでは、ワクチンとして投与されたときに、該ワクチンの免疫系に対して (外膜上に保持される) 保存タンパク質が及ぼす影響力の増大ゆえに種々の菌株に対して交差反応性を示す可能性が強まる。そうした可変抗原の例はNeisseriaでは抗原変異をこうむる線毛(PilC)、PorA、Opa、TbpB、FrpBであり、H. influenzaeではP2、P5、ピリン、IgA1プロテアーゼであり、またMoraxellaではCopB、OMP106である。
【0057】
下方調節し又は休止させることができる他タイプの遺伝子は、in vivo作動(発現)又は休止が細菌により容易に行われる遺伝子である。かかる遺伝子がコードする外膜タンパク質は菌体上に常に存在するとは限らないので、ブレブ調製品にそうしたタンパク質が存在すると前述の理由からワクチンの有効性を損なう可能性がある。下方調節又は欠失の対象として好ましい例はNeisseria Opcタンパク質である。Opc含有ブレブワクチンにより誘発される抗Opc免疫は、感染菌が容易にOpcになってしまうため限られた防御能しかもたないであろう。H. influenzae HgpA及びHgpBもまたそうしたタンパク質の例である。
【0058】
方法a)では、これらの可変又は非防御遺伝子は発現を下方調節するか又は終末的に作動を休止させる。これには、ブレブ外表面に少量存在するより優れた抗原に対して免疫系を集中させるという前述のような驚くべき利点がある。
【0059】
菌株の遺伝子操作にはこのように、遺伝子のコード領域又はプロモーター領域の妨害を目的としたトランスポゾンの挿入や同様の結果を実現するための点変異又は欠失などを含む多数の戦略が可能である。また相同的組換えを利用して染色体から遺伝子を欠失させることもできる[ヌクレオチド配列Xが目的遺伝子のコード配列の一部 (好ましくは全部)を含む場合)。相同的組換えはまた、強いプロモーターを弱い(無)プロモーターへと取り替えるためにも利用できる[ヌクレオチド配列Xが遺伝子のプロモーター配列の一部(好ましくは全部)を含み、かつヌクレオチド配列Yがより弱いプロモーター領域含む(結果的には、目的とする遺伝子/オペロンの発現が弱まる)か又は無プロモーター領域を含む場合]。この場合には、組換え事象は目的遺伝子の1000 bp上流の染色体領域で起こるようにするのが好ましい。
【0060】
あるいは、Yが条件付き転写活性を付与し、その結果として目的の遺伝子/オペロンの条件付き発現(下方調節)がもたらされるようにすることもできよう。これは細菌宿主に対して毒性のある、又は細菌宿主による十分な支援を受けない分子の発現に有効である。
【0061】
以上例示したタンパク質はほとんどが内在性OMPであり、その可変性はその表面露出ループのうちの1個または数個だけに限られよう。本発明の別の態様[方法g)]はこれらの表面露出ループに対応するDNA領域の欠失をカバーするとしており、保存性の表面露出ループを収めた内在性OMPの発現を招く。H. influenzae P2およびP5の表面露出ループは、かかる方法を用いることによって交差反応性抗原へと変化させることができるタンパク質の例である。この場合もまた、相同的組換えがこの遺伝子組換え方法を実行するための好ましい方法である。
【0062】
方法b)−プロモーターの導入及び調節:
本発明のさらなる態様は、目的とする遺伝子/オペロンの発現を調節する調節領域のin situ変更によるブレブ組成の改変に関連する。この変更は目的遺伝子の発現を調節する内在性プロモーターの、識別可能な転写活性を付与するプロモーターへの部分的又は全面的置換を含む。この識別可能な転写活性は、内在性調節領域の変異形(点変異、欠失及び/又は挿入)により、天然型プロモーター又は遺伝子組換えによる異種プロモーターにより、又は両方の組合せにより、付与することができる。好ましくは、かかる変更では (強いプロモーターの導入により)内在性転写活性よりも強い転写活性を付与し、結果的に目的遺伝子及び/又はオペロンの発現が増進(上方調節)されるようにする。かかる方法は、外膜タンパク質及びリポタンパク質などのような免疫学的に関連のあるブレブ成分(好ましくは通常ブレブ中に低濃度で存在する保存OMPs)の産生を増進させるうえで特に有効である。
【0063】
Neisseriaに組み込んでもよい代表的な強いプロモーターはporA [SEQ ID NO: 24]、porB [SEQ ID NO: 26]、lgtF、Opa、p110、lst及びhpuABである。PorAとPoaBは構成的な強いプロモーターとして好ましい。PorBプロモーター活性はporBの開始コドンの−1〜−250上流のヌクレオチドに対応する断片中に含まれることがすでに立証されている(実施例9)。Moraxellaでは、ompH、ompG、ompE、ompB1、ompB2、ompA、OMPCDおよびomp106プロモーターを使用するのが好ましいし、またH. influenzaeではP2、P4、P1、P5およびP6プロモーターを組み込むのが好ましい。
【0064】
好ましい二重乗換え相同的組換え技術を用いて1000 bp上流領域にプロモーターを導入すれば、上方調節の対象とする遺伝子の開始コドンの30〜970 bp上流のどこかにプロモーターを配置することができる。遺伝子の最適発現を実現するにはプロモーター領域は読取り枠の比較的近くにあるのがよいと便宜的には考えられているものの、本発明者は意外にも、開始コドンからさらに離してプロモーターを配置すると発現レベルが大幅に上昇する結果となることを発見した。よって、プロモーターは遺伝子の開始コドンから200〜600 bpに、もっと好ましくは300〜500 bpに、最も好ましくは開始ATGから約400 bpに挿入するのが好ましい。
【0065】
方法c)−条件に応じて産生されるブレブ組成物
ある種のブレブ成分をコードする若干の遺伝子の発現は慎重に調節される。そうした成分の産生は条件に応じて調節され、また種々の代謝及び/又は環境シグナルに依存する。かかるシグナルにはたとえばFe制限、酸化還元電位の調節、pH及び温度の変動、栄養変化などがある。条件に応じて産生されることが判明しているブレブ成分の例は、Neisseria及びMoraxellaに由来する、Fe調節を受ける外膜タンパク質(TbpB、LbpBなど)、及び基質誘導性の外膜ポーリンなどである。本発明は、かかる分子の発現を構成的にするための前述の遺伝子組換え法[方法a)またはc)]の使用をカバーする。こうして、目的遺伝子に対する環境シグナルの影響は該遺伝子の対応する調節領域を改変/置換する[たとえば抑制的調節配列−オペレーター領域など−の一部(好ましくは全部)を欠失させる]ことにより、または構成的な、より強いプロモーターを導入することにより、それが構成的活性をもつようにすることで克服することができる。Fe調節を受ける遺伝子では、furオペレーターを除去することができよう。あるいは、方法i)を使用して目的遺伝子/オペロンの追加コピーを染色体に導入し、構成的プロモーターの制御下に人為的に置くようにしてもよい。
【0066】
方法d)およびe)−LPSの無害化
ブレブワクチンの毒性はブレブのワクチンへの使用における最大の問題である。本発明のさらなる態様はブレブ中のLPSを遺伝子的に無害化する方法に関連する。リピドAは細胞活性化を引き起こすLPSの主成分である。この経路に関わる遺伝子の突然変異はきわめて重要な表現型をもたらすものが多い。しかし、末端修飾ステップを担う遺伝子の突然変異は温度感受性 (htrB)または許容性 (msbB) 表現型をもたらす。これらの遺伝子の発現を低下させる(又はゼロにする)結果となる突然変異は結果的に、リピドAの毒性を変化させる。実際、非ラウロリル化(htrB突然変体)または非ミリストイル化(msbB突然変体)リピドAは野生型リピドAよりも毒性が低い。リピドA 4’-キナーゼをコードする遺伝子(lpxK)の突然変異もまたリピドAの毒性を低下させる。
【0067】
こうして、方法d)は1以上の前記読取り枠又はプロモーターの一部(又は好ましくは全部)の欠失に関わる。あるいは、プロモーターをより弱いプロモーターで置換することもできる。好ましくは、この方法の実行には前述の相同的組換え手法を用いる。
【0068】
この目的のためには、Neisseria meningitidis B、Moraxella catarralis及びHaemophilus influenzaeに由来するhtrB及びmsbB遺伝子の配列が追加的に提供される。
【0069】
LPS毒性はまた、ポリミキシンB耐性(かかる耐性はリピドAの4’リン酸塩へのアミノアラビノースの付加と関連付けられてきた)に関わる遺伝子/遺伝子座への突然変異の導入によっても弱めることができる。これらの遺伝子/遺伝子座はUDPグルコース・デヒドロゲナーゼをコードするpmrEでも、またはアミノアラビノースの合成と輸送に関与している可能性がある多数の腸内細菌に共通する抗菌ペプチド耐性遺伝子の領域でもよい。この領域に存在する遺伝子pmrFはドリコールリン酸マノシル・トランスフェラーゼをコードする[Gunn, J.S., Kheng, B.L., Krueger, J., Kim, K. Guo, L., Hackett, M., Miller, S.I. (1998) Mol. Microbiol. 27: 1171-1182]。
【0070】
リン酸リレー二成分調節系(PhoP構成的表現型PhoPcなど)であるPhoP-PhoQ調節系の突然変異、または(PhoP-PhoQ調節系を活性化する)低Mg++環境又は培地条件は、4’リン酸塩へのアミノアラビノースの付加及びミリスチン酸塩の2-ヒドロキシミリスチン酸塩への置換(ミリスチン酸塩のヒドロキル化)を招く。この修飾リピドAはヒト内皮細胞によるE-セレクチン分泌及びヒト単球からのTNF-α分泌を刺激する能力の低下を示す。
【0071】
方法e)は前述の戦略 (好ましくは相同的組換え手法を用いてこの方法を行うことによる強いプロモーターの組み込み) によるこれらの遺伝子の上方調節に関連する。
【0072】
あるいは、こうした突然変異を起こさせるのではなく、ポリミキシンB耐性株を(本発明の他の1以上の方法と併せて)ワクチン生産株として利用することもできる。その種の菌株に由来するブレブもまた (たとえば髄膜炎菌で証明されているように) LPS毒性を低下させているからである[van der Ley, P., Hamstra, H.J., Kramer, M., Steeghs, L., Petrov, A., Poolman, J.T. (1994) In: Proceddings of the 9th International Pathogenic Neisseria Conference. The Guildhall, Winchester, England]。
【0073】
さらなる選択肢(そして本発明のさらなる態様)として、グラム陰性菌株を培地リットル当り0.1mg〜100gのアミノアラビノースを混ぜた増殖培地で培養するステップを含む、該菌株を無害化する方法が提供される。
【0074】
さらに別の選択肢として、ポリミキシンBに類似した結合活性を備える合成ペプチド(後述)をブレブ調製品に加えてLPSの毒性を低下させてもよい[Rustici, A., Velucchi, M., Faggioni, R., Sironi, M., Chezzi, P., Quataert, S., Green, B., Porro, M. (1993) Science 259: 361-365; Velucchi, M., Rustici, A., Maezza, C., Villa, P., Ghezzi, P., Porro, M. (1997) J. Endotox. Res. 4:]。
【0075】
方法f)−同種又は異種タンパク質の外膜ブレブへの固定とLPSの毒性低減:
本発明のさらなる態様は、複合タンパク質を外膜に局在化させる手段としての、ポリミキシンBペプチド(又はその類縁物質)をコードする遺伝子配列の使用をカバーする。ポリミキシンBは、外膜に存在するLPSのリピドA部分と非常に強く結合する (グラム陰性放線菌類により産生される)非tRNAコード化アミノ酸からなる環状ペプチドである。この結合はLPSの固有毒性(内毒素活性)を低下させる。ポリミキシンBと構造が類似し、標準的な(tRNAコード化)アミノ酸からなるペプチドはすでに開発されているが、やはりリピドAと強い親和力で結合する。これらのペプチドはLPSの無害化にすでに使用されている。これらのペプチドのうちSAPE-2 (N末端-Lys-Thr-Lys-Cys-Lys-Phe-Leu-Lys-Lys-Cys-C末端)として知られるものはその点できわめて有望であることが証明された[分子マッピングと合成ペプチドによるリピドA結合部位の無害化(1993)。Rustici, A., Velucchi, M., Faggioni, R., Sironi, M., Chezzi, P., Quataert, S., Green, B., Porro, M. (1993) Science 259: 361-365]。
【0076】
本発明の方法f)はこの使用を改善する。SEPA-2ペプチド(又はその誘導体)をコードするDNA配列を(たとえば、通常は毒素として、又は細胞質タンパク質又はペリプラズムタンパク質として分泌されるT細胞抗原又は防御抗原をコードする)目的遺伝子へと遺伝子的に融合させて使用すると、対応する組換えタンパク質を好ましい細菌宿主の外膜へと局在化させる(と同時にLPSの毒性を低下させる)手段になることが判明している。
【0077】
この方式は、ブレブ外に直接露出させられないような不安定タンパク質に好適である。この場合、ブレブは搬送手段として、T細胞にひとたび取り込まれると該タンパク質を免疫系に対して露出させる働きをしよう。あるいは、遺伝子的融合体にシグナルペプチド又は膜貫通領域をも含めることにより、組換えタンパク質が外膜を通過して宿主免疫系へと露出するようにしてもよい。
【0078】
この局在化戦略は、通常は外膜へと局在化しないようなタンパク質をコードする遺伝子では特に重要であるかもしれない。この方法を用いると、目的とするタンパク質が濃縮された組換えブレブの分離もまた可能になる。好ましくは、かかるペプチド局在化シグナルにより、自然状態ではそうした特定の亜細胞に局在化することのないような1種又は数種のタンパク質が外膜ブレブ中で濃縮されるようにする。かかる組換えブレブ産生のための受容宿主として使用できる細菌の例はNeisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia trachomatis及びChlamydia pneumoniaeなどである。
【0079】
前記融合体用の遺伝子は細菌染色体に[方法i)を用いて]遺伝子工学的に組み込むのが好ましいが、別の好ましい態様ではSAPE-2標識付け組換えタンパク質を別々につくり、後段でブレブ調製品に結合させる。
【0080】
さらなる態様はこうした融合体のタンパク質精製法への使用である。この方式は組換えタンパク質一般を産生するための発現系の一部として使用することができよう。SAPE-2ペプチド標識はその結合対象であるタンパク質のアフィニティー精製に用いることができるが、このアフィニティー精製には固定化リピドA分子を詰めたカラムを使用する。
【0081】
方法h)−交差反応性の多糖
莢膜をもつグラム陰性菌に由来する細菌外膜ブレブを分離するとしばしば莢膜多糖が同時精製される結果となる。場合により、この「汚染」物質は有用となるかもしれない。というのは、多糖は他ブレブ成分によって付与される免疫応答を増進することもあるからである。しかし他面、細菌ブレブ調製品に混じった不純物の存在はブレブのワクチンへの使用には不利かもしれない。たとえば、少なくともN. meningitidisの場合にはすでに証明されているように、血清群B莢膜多糖は防御免疫を付与しないし、ヒトでは不都合な自己免疫応答を誘発しやすい。そこで、本発明の方法h)は莢膜多糖をまったく含まないブレブを産生するための菌株の遺伝子組換えに関連する。産生されるブレブはヒトへの使用に適したものになる。かかるブレブ調製品の特に好ましい例は莢膜多糖をまったく含まないN. meningitidis血清群B由来の調製品である。
【0082】
これは、莢膜の生合成及び/又は輸送に必要な遺伝子を阻害しておいた遺伝子組換えブレブ産生菌株を使用して実現されよう。莢膜多糖の生合成又は輸送をコードする遺伝子の阻害は、調節領域、コード領域、又はそれらの両方に(好ましくは前述の相同的組換え手法を用いて)突然変異(点変異、欠失又は挿入)を起こさせることにより実現することができる。さらに、莢膜生合成遺伝子の阻害はアンチセンス過剰発現又はトランスポゾン突然変異誘発によって実現してもよい。好ましい方法は多糖生合成及び輸送に必要とされるN. meningitidis cps遺伝子の一部又は全部の欠失である。この目的のためには、[Frosh et al. (1990) Mol. Microbiol. 4: 1215-1218で説明されている]置換用プラスミドpMF121を使用してcpsCAD (+galE)遺伝子群を欠失させる突然変異を導入することができる。あるいは、siaD遺伝子を欠失させるか、発現を下方調節することも可能である(siaDは髄膜炎菌遺伝子であり、α-2,3-シアリルトランスフェラーゼ、すなわち莢膜多糖とLOSの生合成に必要とされる酵素をコードする)。かかる突然変異は細菌LPSの多糖部分に見られる宿主類似構造を除去することにもなろう。
【0083】
方法i)−遺伝子及び/又はオペロンの1以上のさらなるコピーの宿主染色体への導入、又は異種遺伝子及び/又はオペロンの宿主染色体への導入:
ブレブ調製品の組成を調節する場合、発現カセットを収めたDNA断片の1以上のコピーをグラム陰性菌ゲノムに導入するのが効率的な戦略である。かかるカセットの受容体として使用することができる好ましい細菌種の例は、Neisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia trachomatis、Chlamydia pneumoniaeなどである。発現カセットに収める遺伝子は同種(または内在)遺伝子(すなわち、遺伝子組換え細菌のゲノムに本来存在する遺伝子)でも、異種遺伝子(すなわち、遺伝子組換え細菌のゲノムには本来存在しない遺伝子)でもよい。この再導入発現カセットは非組換え「天然」プロモーター/遺伝子/オペロン配列から、又はプロモーター領域及び/又はコード領域あるいはその両方がすでに変更されている組換え発現カセットからなろう。発現への使用が可能な好ましいプロモーターの例は、N. meningitidisまたはN. gonorrhoeae由来のプロモーターporA、porB、lbpB、tbpB、p110、lst、hpuAB、H. influenzae由来のプロモーターp2、p5、p4、ompF、p1、ompH、p6、hin47、M. catarrhalis由来のプロモーターompH、ompG、ompCD、ompE、ompB1、ompB2、ompB2、ompA、Escherichia coli由来のプロモーターλpL、lac、tac、araBまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼたとえばE. coliバクテリオファージT7によって特異的に認識されるプロモーターなどである。かかる系で発現させることができる遺伝子の例はNeisseria NspA、Omp85、PilQ、TbpA/B複合体、Hsf、PldA、HasR; Chlamydia MOMP、HMWP; Moraxella OMP106、HasR、PilQ、OMP85、PldA; Bordetella pertussis FHA、PRT、PTなどである。
【0084】
本発明の好ましい実施態様では、相同的及び/又は部位特異的組換えにより発現カセットを細菌染色体に導入し組み込む。かかる遺伝子及び/又はオペロンの導入に使用される組込み型カセットは条件次第で複製型又は自殺型プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、または制限加水分解又はPCR増幅によって得られる線状DNA断片とすることができる。組込みの標的は好ましくは、in vitro増殖に可欠の染色体領域とする。DNA組込みの標的として使用できる好ましい遺伝子座の例は、N. meningitidisおよびN. gonorrheaeのporA、porB、opa、opc、rmp、omp26、lecA、cps、lgtB遺伝子; NTHiのP1、P5、hmw1/2、IgA-protease、fimE遺伝子; M. catarrhalisのlecA1、lecA2、omp106、uspA1、uspA2遺伝子などである。あるいは、ブレブ成分の発現の調節に使用する発現カセットを特定の細菌に、エピソームベクターたとえば環状/線状複製型プラスミド、コスミド、ファスミド、溶原性バクテリオファージ、又は細菌人工染色体などの手段で組み込むこともできる。組換え事象の選択は選択遺伝子マーカー、たとえば抗生物質(カナマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ゲンタマイシンなど)耐性を付与する遺伝子、重金属及び/又は毒物耐性を付与する遺伝子、又は栄養要求性変異を補完する遺伝子(pur、leu、met、aroなど)などを用いて行う。
【0085】
異種遺伝子−外膜ブレブ中の異種タンパク質の発現:
細菌外膜ブレブは、ワクチン用、治療用及び/又は診断用組換えタンパク質を生産し、分離し、供給するためのきわめて魅力的な系となる。本発明のさらなる態様は外来の異種タンパク質の発現、産生、及び外膜への局在化、並びに組換えブレブを生産するための細菌の使用に関連する。
【0086】
これを実現するには、異種遺伝子(随意に強いプロモーター配列の調節を受ける)を相同的組換えによりグラム陰性菌の染色体に導入するステップを含む方法を用いるのが好ましい。ブレブは、この方法に由来する組換え菌株からつくられよう。
【0087】
組換えブレブ生産用の受容宿主として使用できる細菌はNeisseria meningitidis、Neisseria gonorrhoeae、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia trachomatis、Chlamydia pneumoniaeなどである。かかる系において発現させる遺伝子はウィルス、細菌、真菌、寄生虫又は高等真核生物に由来することができる。
【0088】
本発明の好ましい適用分野は、Neisseria meningitidis組換えブレブ中でMoraxella、Haemophilus及び/又はPseudomonas外膜タンパク質(内在性、ポリトピック型及び/又はリポタンパク質)を発現させる方法を包含する。組込みの標的として好ましい遺伝子座は前述のとおりであり、また導入するのが好ましい遺伝子はその出自に当たる細菌に対する防御を付与する遺伝子である。各細菌の好ましい防御遺伝子は後述のとおりである。
【0089】
さらなる好ましい適用分野は次のとおりである: 異種遺伝子をM. catarrhalis由来の防御OMPとする組換えH. influenzae株から産生されるブレブ; 及び異種遺伝子をH. influenzae由来の防御OMPとする組換えM. catarrhalis株から産生されるブレブ(遺伝子挿入のための好ましい遺伝子座は前述のとおりであり、好ましい防御抗原は後述のとおりである)。
【0090】
この実施態様の特に好ましい適用分野は性感染症(STDs)の予防又は治療の分野である。STDの主因が淋菌、Chlamydia trachomatisいずれの感染にあるのかは医師にもしばしば見極めにくい。これら2種類の細菌は卵管炎(宿主に不妊症をもたらすおそれのある疾患)の主因である。C. trachomatisの大外膜タンパク質(MOMP)は防御抗体の標的であるとすでに証明されている。しかし、かかる抗体の誘発ではこの内在性膜タンパク質の構造的完全性が重要である。さらに、これらの抗体により認識されるエピトープは可変的であり、その血清型亜型は10余りにのぼる。本発明の前述の態様は外膜ブレブ調製品内での1以上の膜タンパク質の適正な折りたたみを可能にする。外膜中で多数のC. trachomatis MOMP血清型亜型を発現する組換え淋菌株の作製と該菌株からのブレブ産生は、正しく折りたたまれる膜タンパク質、広範囲の血清型亜型から防御するに足る十分な数のMOMPの提示、及び淋菌感染の同時的な予防/治療といった複数の問題を一発で解決(し、もってどの細菌が特定の臨床症状を引き起こしているかを医師が最初に見極める必要をなくし、両細菌に対し同時にワクチンを接種することでSTDのごく初期段階での治療を可能に)するものである。淋菌染色体への遺伝子組込みのための好ましい遺伝子座は前述のとおりである。組込みが可能な他の好ましい防御C. trachomatis遺伝子はHMWP、PmpGおよびWO 99/28475で開示されているOMP類である。
【0091】
異種タンパク質の外膜ブレブへの局在化:
細菌ブレブ中でのある種の異種タンパク質の発現では外膜ターゲティングシグナルの追加が必要になろう。この問題を解決する好ましい方法は、組換えタンパク質をブレブへと局在化させるための具体的なアプローチとして異種遺伝子と内在OMPをコードする遺伝子との遺伝子融合体を創り出すことである。最も好ましくは、異種遺伝子をそうしたOMPのシグナルペプチド配列へと融合する。
【0092】
Neisseriaブレブ調製品
方法b)及び/又は方法i)による上方調節には、これらの方法を淋菌や髄膜炎菌(特にN. meningitidis B)を含むNeisseria菌株で実施する場合には、次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: NspA (WO 96/29412), Hsf-like (WO 99/31132), Hap (PCT/ EP99/02766), PorA, PorB, OMP85 (WO 00/23595), PilQ (PCT/ EP99/03603), PldA (PCT/EP99/06718), FrpB (WO 96/31618), TbpA (US 5,912,336), TbpB, FrpA/FrpC (WO 92/01460), LbpA/ LbpB (PCT/EP98/05117), FhaB (WO 98/02547), HasR (PCT/ EP99/05989), lipo02 (PCT/EP99/08315), Tbp2 (WO 99/57280), MltA (WO 99/57280)およびcrtA (PCT/EP00/00135)。以上は、他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0093】
方法a)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: PorA, PorB, PilC, TbpA, TbpB, LbpA, LbpB, OpaおよびOpc。
【0094】
方法d)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: htrB, msbB及びlpxK。
【0095】
方法e)による上方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: pmrA, pmrB, pmrE及びpmrF。
【0096】
方法c)のための好ましい抑制的調節配列は (特にTbpB又はLbpB遺伝子のいずれか又は両方に関わる) furオペレーター領域、およびDtxRオペレーター領域である。
【0097】
方法h)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: galE, siaA, siaB, siaC, ciaD, ctrA, ctrB, ctrC及びctrD。
【0098】
Pseudomonas aeruginosaブレブ調製品
方法b)及び/又はi)による上方調節には次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: PcrV, OprF, OprI。以上は他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0099】
Moraxella catarrhalisブレブ調製品
方法b)及び/又はi)による上方調節には次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: OMP106 (WO 97/41731 & WO 96/ 34960), HasR (PCT/EP99/03824), PilQ (PCT/EP99/03823), OMP85 (PCT/EP00/01468), lipo06 (GB 9917977.2), lipo01 (GB 9918208.1), lipo11 (GB 9918302.2), lipo18 (GB 9918038.2), P6 (PCT/EP99/03038), ompCD, CopB (Helminnen ME, et al (1993) Infect. Immun. 61: 2003-2010), D15 (PCT/EP99/03822), OmplA1 (PCT/EP99/06781), Hly3 (PCT/EP99/03257), LbpA & LbpB (WO 98/55606), TbpA & TbpB (WO 97/13785 & WO 97/32980), OmpE, UspA1 & UspA2 (WO 93/03761)及びOmp21。以上は他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0100】
方法a)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: CopB, OMP106, OmpB1, TbpA, TbpB, LbpA及びLbpB。
【0101】
方法d)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: htrB, msbB及びlpxK。
【0102】
方法e)による上方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: pmrA, pmrB, pmrEおよびpmrF。
【0103】
Haemophilus influenzaeブレブ調製品
方法b)及び/又はi)による上方調節には次の1以上の(防御抗原をコードする)遺伝子が好ましい: D15 (WO 94/12641), P6 (EP 281673), TbpA, TbpB, P2, P5 (WO 94/26304), OMP26 (WO 97/ 01638), HMW1, HMW2, HMW3, HMW4, Hia, Hsf, Hap, Hin47及びHif (ピリンの発現を上方調節するためにはこのオペロン内の遺伝子をすべて上方調節する必要があろう)。以上は他のグラム陰性菌に異種導入される遺伝子としても好ましい。
【0104】
方法a)による下方調節には次のうち1以上の遺伝子が好ましい: P2, P5, Hif, IgA1-protease, HgpA, HgpB, HMW1, HMW2, Hxu, TbpA及びTbpB。
【0105】
方法d)による下方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: htrB, msbB及びlpxK。
【0106】
方法e)による上方調節には次の1以上の遺伝子が好ましい: pmrA, pmrB, pmrEおよびpmrF。
【0107】
ワクチン製剤
本発明の好ましい実施態様は、本発明のブレブ調製品によるワクチンの製造であり、製造されるワクチンは製薬上許容しうる賦形剤を含んでもよい。
【0108】
前述の遺伝子組換え菌株のうちの任意の菌株からのブレブ調製品の製造は技術上周知の任意の方法によって行ってよい。好ましくはEP 301992、US 5,597,572、EP 11243またはUS 4,271,147で開示されている方法を用いる。最も好ましくは実施例8で説明している方法を用いる。
【0109】
ワクチン製剤についてはVaccine Design [“The subunit and adjuvant approach” (eds Powell M.F. & Newman M.J.) (1995) Plenum Press New York]で概説されている。
【0110】
本発明のワクチンの製造では本発明のブレブ調製品にアジュバントを用いてもよい。好適なアジュバントはアルミニウム塩たとえば水酸化アルミニウムゲル(ミョウバン)またはリン酸アルミニウムなどであるが、カルシウム、鉄又は亜鉛の塩(特に炭酸カルシウム)でもよいし、又はアシル化チロシンの不溶性懸濁液、又はアシル化糖、陽イオン又は陰イオン誘導多糖類、又はポリホスファゼンでもよい。
【0111】
使用に好適なTh1アジュバント系はモノホスホリルリピドA、特に3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA、及びモノホスホリルリピドA、特に3-デ-O-アシル化モノホスホリルリピドA (3D-MPL)とアルミニウム塩との混合物である。増進系はモノホスホリルリピドAとサポニン誘導体との混合物、特にWO 94/00153で開示されているQS21と3D-MPLとの混合物、又はWO96/33739で開示されているような、QS21をコレステロールで抑制している低反応原性の混合物を含む。QS21 3D-MPLとトコフェノールとの水中油乳剤を含む特に有効なアジュバントはWO95/17210で開示されており、好ましいアジュバントである。
【0112】
ワクチンはサポニン、より好ましくはQS21を含んでもよい。又水中油乳剤とトコフェノールを含んでもよい。オリゴヌクレオチドを含有する非メチル化CpG (WO96/02555)もまたTH1応答誘発剤として好ましく、本発明への使用に好適である。
【0113】
本発明のワクチン製剤は感染症にかかりやすい哺乳動物の防御または治療を目的とした、全身系又は粘膜経路での該ワクチンの投与に使用することができる。投与法には筋内、腹腔内、皮内又は皮下注射、もしくは口道/消化管、気道、尿生殖路への経粘膜投与が含まれよう。こうして、本発明の一態様はヒト宿主をグラム陰性菌感染症に対して免疫にする方法であり、その方法は本発明のブレブ調製品を宿主に免疫防御量投与することを含む。
【0114】
各ワクチン投与量中の抗原量は代表的なワクチン被投与者に著しい副作用を及ぼすことなく免疫防御応答を誘発する量として定められる。かかる量は使用する個別免疫原の種類及び提示方法に応じて異なろう。一般に、各投与量はタンパク質抗原を1〜100μg、好ましくは5〜50μg、最も一般的には5〜25μgの範囲で含むことになると見込まれる。
【0115】
個別ワクチンの適量は、患者特有の免疫応答の観察を伴う標準研究法により確定することができる。患者は初期投与に続いて、十分な間を置いて1回又は数回のブースター投与を受けてもよい。
【0116】
ゴースト又は不活化全菌ワクチン
ブレブ調製品及びワクチンに対する前記の改良はゴースト又は不活化全菌調製品及びワクチンにも(同じ利点を維持したまま)容易に拡大適用することができるものと見込まれる。ブレブ調製品の製造原料となる本発明の遺伝子組換えグラム陰性菌はゴースト及び不活化全菌調製品の製造にも使用することができる。グラム陰性菌からゴースト調製品(外膜だけを元のまま残した空の菌細胞)を製造する方法は技術上周知である(たとえばWO92/01791を参照)。全菌を死滅させてワクチン用の不活化調製品を製造する方法もまた周知である。したがって本発明では、用語「ブレブ調製品」及び「ブレブワクチン」、それに本書全体で説明している諸方法は用語「ゴースト調製品」及び「ゴーストワクチン」、それに「不活化全菌調製品」及び「不活化全菌ワクチン」にもそれぞれ適用可能である。
【0117】
方法a)〜i)の組合せ
当然ながら、1以上の前記方法を使用して、本発明の改良ブレブ調製品の製造原料となる遺伝子組換え菌株を作製するようにしてもよい。好ましくはかかる方法のうちの1つを使用して、もっと好ましくは2つ以上(2、3、4、5、6、7、8または9)を使用してブレブワクチンを製造するようにする。ブレブワクチンの製造に使用する方法を1つ追加するたびに、それぞれの改良が最適の組換えブレブ調製品の製造に向けて他の方法と相乗的に作用するようになる。
【0118】
好ましい髄膜炎菌(特にN. meningitidis B)ブレブ調製品の製造は方法a)、b)、d)及び/又はe)の使用を含む。かかるブレブ調製品は安全であり(宿主構造に類似する構造がない)、無害であり、又宿主の免疫応答が高レベルの防御(好ましくは保存)抗原に集中するような構造になっている。以上の要素はすべて、最適ブレブワクチンの提供に向けて相乗的に働く。
【0119】
M. catarrhalisや類型化不能H. influenzaeの場合も同様に、好ましいブレブ調製品の製造は方法a)、b)、d)及び/又はe)の使用を含む。
【0120】
したがって、本発明のさらなる態様は小児用の、免疫防御作用のある、無害のグラム陰性菌ブレブ、ゴースト、又は不活化全菌ワクチンである。
【0121】
小児用とは、4歳未満の乳幼児への使用を意味する。
【0122】
「免疫防御作用のある」とは、少なくとも40%の(また、好ましくは50、60、70、80、90及び100%の)乳幼児が、既知の主要クローン群から選択される一組の異種菌株に対して血清変換を起こす[殺菌活性(50%の細菌が死滅する抗血清希釈度−PCT/EP98/05117などを参照)の4倍増]ことをいう。髄膜炎菌Bでは、これらの菌株はブレブ産生菌とは異なるタイプのPorAをもつ必要があり、又H44/76、M97/252078、BZ10、NGP165およびCU385のうちの好ましくは2つ、3つ、4つ、又は最も好ましくは5つすべてである。類型化不能H. influenzaeでは、菌株はATCC 43617、14、358、216及び2926のうちの好ましくは2つ、3つ、4つ、又は最も好ましくは5つすべてである。
【0123】
無害のとは、周知のLALおよび発熱試験法で測定した場合に、内毒素活性の顕著な(2〜4倍、好ましくは10倍の)低下が見られることを意味する。
【0124】
複合ワクチン
本発明のさらなる態様は本発明のブレブ調製品と他抗原とを含む複合ワクチンであり、該複合ワクチンはある種の病状に使用すると有利である。ブレブは混合相手の抗原にアジュバント効果を有利に及ぼすので、他抗原との調合に特に好適であると判明している。
【0125】
好ましい一実施態様では、本発明の髄膜炎菌Bブレブ調製品を次の髄膜炎菌莢膜多糖(これは単体でも、又はタンパク質担体との複合体でもよい)のうちの1つ、2つ、3つ、又は好ましくは4つすべてと調合する: A、C、Y又はW。かかるワクチンはグローバル髄膜炎ワクチンとして有利に使用されよう。本発明の髄膜炎菌Bブレブ調製品を使用するのではなく、代わりに、いくつかの(たとえばP1.15、P1.7、16、P1.4及びP.1.2から選択される)血清型亜型/血清型に属する2以上の(好ましくは数種の)菌株に由来する野生型の髄膜炎菌Bブレブ調製品を使用する製剤も可能であると見込まれる。
【0126】
別の好ましい実施態様では、本発明の髄膜炎菌Bブレブ調製品(又は前述の、2以上の野生型髄膜炎Bブレブ調製品のミックス)を、好ましくは単体又は複合体の髄膜炎菌莢膜多糖A、C、Y又はWのうちの1つ、2つ、3つ又は4つすべてと調合したうえで、複合体のH. influenzae b莢膜多糖及び1以上の単体又は複合体の肺炎菌莢膜多糖と調合する。随意に、肺炎連鎖球菌Streptococcus pneumoniae感染から宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原をこのワクチンに含めてもよい。かかるワクチンはグローバル髄膜炎ワクチンとして有利に使用されよう。
【0127】
肺炎菌莢膜多糖抗原は好ましくは血清型1, 2, 3, 4, 5, 6B, 7F, 8, 9N, 9V, 10A, 11A, 12F, 14, 15B, 17F, 18C, 19A, 19F, 20, 22F, 23F及び33Fから (最も好ましくは血清型1, 3, 4, 5, 6B, 7F, 9V, 14, 18C, 19F及び23Fから)選択する。
【0128】
好ましい肺炎菌タンパク質抗原は肺炎菌の外表面に露出している (肺炎菌の生活環の少なくとも一時期に宿主免疫系による認識が可能な) 肺炎菌タンパク質、又は肺炎菌により分泌又は放出されるタンパク質である。最も好ましくは、該タンパク質は肺炎連鎖球菌の毒素、接着因子、2-成分シグナル伝達物質、又はリポタンパク質、又はその断片である。特に好ましいタンパク質には次のものが含まれるが、それだけに限らない: ニューモリシン(好ましくは化学処理又は突然変異により無害化されたもの)[Mitchell et al. Nucleic Acids Res. 1990 Jul 11; 18(13): 4010「肺炎連鎖球菌1及び2型に由来するニューモリシン遺伝子及びタンパク質の比較」、Mitchell et al. Biochem Biophys Acta 1989 Jan 23; 1007(1) 67-72「大腸菌におけるニューモリシン遺伝子の発現:急速精製と生物学的特性」、WO 96/05859 (A, Cyanamid)、WO 90/06951 (Paton et al.)、WO 99/03884 (NAVA)]; PspAとその膜貫通欠失変異体(US 5804193 - Briles et al.); PspCとその膜貫通欠失変異体(WO 97/09994 - Briles et al.); PsaAとその膜貫通欠失変異体[Berry & Paton, Infect Immun 1996 Dec; 64(12) 5255-62「肺炎連鎖球菌の病原性に不可欠の35 kDa推定接着因子PsaAの配列不均一性」]; 肺炎菌塩素結合タンパク質とその膜貫通欠失変異体; CbpAとその膜貫通欠失変異体(WO 97/41151; WO 99/51266); グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Infect. Immun. 1996 64: 3544); HSP70 (WO 96/40928); PcpA (Sanchez-Beato et al. FEMS Microbiol Lett 1998, 164: 207-14); M-様タンパク質、SB特許出願No. EP 0837130; 接着因子18627、SB特許出願No. EP 0834568。さらなる好ましい肺炎菌タンパク質抗原はWO 98/18931で開示されているもの、特にWO 98/ 18930及びPCT/US99/30390で選択されているものである。
【0129】
さらなる好ましい実施態様では、本発明のMoraxella catarrhalisブレブ調製品を1以上の単体又は複合体肺炎菌莢膜多糖、および類型化不能H. influenzae感染から宿主を防御することができる1以上の抗原と調合する。この場合のワクチン製剤はまた随意に、肺炎連鎖球菌感染から宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原を含んでもよい。該ワクチンはまた随意に、RSV感染から宿主を防御することができる1以上の抗原及び/又はインフルエンザウィルス感染から宿主を防御することができる1以上の抗原を含んでもよい。かかるワクチンはグローバル滲出性中耳炎ワクチンとして有利に使用されよう。
【0130】
好ましい類型化不能H. influenzaeタンパク質抗原には線毛タンパク質(US 5766608)及びそれに由来するペプチドを含む融合体(たとえばLB1)(US 5843464 - Ohio State Research Foundation)、OMP26、P6、プロテインD、TbpA、TbpB、Hia、Hmw1、Hmw2、Hap及びD15などがある。
【0131】
好ましいインフルエンザウィルス抗原には全粒、生又は不活化ウィルス、鶏卵又はMDCK細胞又はベロ細胞中で増殖させた成分インフルエンザウィルス、又は(R. Gluck, Vaccine, 1992, 10, 915-920で説明されている)全粒インフルエンザウィルスのウィロソーム、又はそれらの精製又は組換えタンパク質たとえばHA、NP、NA又はMタンパク質、もしくはそれらの組合せなどがある。
【0132】
好ましいRSV(RSウィルス)抗原にはF糖タンパク質、G糖タンパク質、HNタンパク質、又はそれらの誘導体などがある。
【0133】
さらに別の好ましい実施態様では、類型化不能H. influenzaeブレブ調製品を1以上の単体又は複合体肺炎菌莢膜多糖、およびM. catarrhalis感染から宿主を防御することができる1以上の抗原と調合する。この場合のワクチン製剤はまた随意に、肺炎連鎖球菌感染から宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原を含んでもよい。該ワクチンはまた随意に、RSV感染から宿主を防御することができる1以上の抗原及び/又はインフルエンザウィルス感染から宿主を防御することができる1以上の抗原を含んでもよい。かかるワクチンはグローバル滲出性中耳炎ワクチンとして有利に使用されよう。
【0134】
本発明のヌクレオチド配列
本発明のさらなる態様は、本発明の方法に使用することができる新しいヌクレオチド配列の提供に関連する。種々の菌株に由来する種々の遺伝子から、たとえば方法a)、b)、d)及びh)に使用することができる特定の上流領域が提供される。さらに、方法d)を実行するためのコード領域も提供される。
【0135】
細菌遺伝子の上下流非コード領域の分析、およびブレブ中の遺伝子発現調節への該領域の利用
特定遺伝子の非コード上下流領域には該遺伝子の発現に重要な調節要素が収められている。この調節は転写、翻訳の両レベルで行われる。遺伝子の読取り枠の上流又は下流に当たるこれらの領域の配列情報はDNA塩基配列決定法によって得られる。この配列情報は潜在的な調節モチーフ、たとえば種々のプロモーター要素、ターミネーター配列、誘導的配列要素、リプレッサー、相変異を引き起こす要素、Shine-Dalgarno配列、調節に関与する潜在的二次構造を備えた領域、及び他タイプの調節モチーフ又は配列の決定を可能にする。
【0136】
この配列情報は問題の遺伝子の自然な発現を調節できるようにする。遺伝子発現の上方調節は、プロモーター、Shine-Dalgarno配列、潜在的リプレッサー又はオペレーター要素、又は他の任意の関連要素に変更を加えることにより実現されよう。同様に、発現の下方調節もまた似たような変更を加えることにより実現することができよう。あるいは、相変異配列を変化させることにより、遺伝子の発現が相変異調節を受けるように、又は受けないようにすることができる。別のアプローチとして、遺伝子の発現を1以上の誘発要素の制御下に置いて、発現が調節されるようにすることもできる。そうした調節の例には、温度シフト、特定炭水化物又はその誘導体などのような誘導物質基質の添加、微量元素、ビタミン、金属イオンなどによる誘導が含まれる。
【0137】
前述のような変更は種々の手段により導入することができる。遺伝子発現にかかわる配列の変更はランダム突然変異誘発とそれに続く所望表現型の選択によりin vivoで行うことができる。別のアプローチは、標的とする領域を取り出し、ランダム突然変異誘発、又は部位指定置換、挿入又は欠失突然変異誘発によって変更を加えた後に、相同的組換えにより細菌ゲノムに再導入し、遺伝子発現への効果を評価するというものである。さらに別のアプローチとして、標的とする領域についての配列情報を用いて元の調節配列の全部又は一部を置換又は欠失させることもできる。この場合には、標的とする調節領域を取り出し、それに変更を加えてもう1つの遺伝子からの調節要素、種々の遺伝子に由来する調節要素の組合せ、人工調節領域、又は他の任意の調節領域を組み込むようにし、又は野生型調節配列の特定部分を欠失させるようにしてから、相同的組換えにより細菌ゲノムへと再導入する。
【0138】
たとえば方法b)では、遺伝子のプロモーターをより強いプロモーターへと置換する(具体的には、遺伝子の上流配列を取り出し、この配列のin vitro修正を行い、相同的組換えによりゲノム中に再導入する)ことにより発現を調節することができる。発現の上方調節は細菌でも、細菌から放出(又は製造)される外膜小胞でも実現することができる。
【0139】
別の好ましい実施例では、前述の様々なアプローチを用いて、前述のようなワクチン用としての性質を改良した組換え菌株を作り出すことができる。そうした菌株としては弱毒株、特定抗原の発現増進株、免疫応答を妨げる遺伝子をノックアウト(又は発現抑制)した株、及び免疫支配的タンパク質の発現を調節した株などがある。
【0140】
SEQ ID NO: 2-23, 25, 27-38はいずれもNeisseria上流配列(種々の好ましい遺伝子の開始コドンの上流)であり、それぞれ1000 bpである。SEQ ID NO: 39-62はいずれもM. catarrhalis上流配列(種々の好ましい遺伝子の開始コドンの上流)であり、それぞれ1000 bpである。SEQ ID NO: 63-75はいずれもH. influenzae上流配列(種々の好ましい遺伝子の開始コドンの上流)であり、それぞれ1000 bpである。これらはみな、(前述のような)それらの配列が関連する読取り枠を上方調節又は下方調節するための遺伝子的方法(特に相同的組換え)に使用することができる。SEQ ID NO: 76-81はNeisseria、M. catarrhalisおよびH. influenzaeに由来するHtrB及びMsbB遺伝子のコード領域である。これらは上記遺伝子の一部(好ましくは全部)を下方調節する(特に欠失させる)ための遺伝子的方法(特に相同的組換え)に使用することができる[方法d)]。
【0141】
こうして本発明の別の態様は、SEQ ID NO: 2-23, 25, 27-81又はその相補鎖のヌクレオチドのうちの少なくとも30ヌクレオチド部分と、高度に厳格な条件の下でハイブリダイズするような単離ポリヌクレオチド配列である。好ましくは、単離配列はそれが適当なベクターの一部である場合には染色体配列との相同的組換えを実行するに足る長さ、すなわち少なくとも30ヌクレオチド(好ましくは少なくとも40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500ヌクレオチド)とする。もっと好ましくは、単離ポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 2-23, 25, 27-81又はその相補鎖の少なくとも30ヌクレオチド(好ましくは少なくとも40、50、60、70、80、90、100、200、300、400または500ヌクレオチド)とする。
【0142】
本書でいう高度に厳格なハイブリダイゼーション条件には、たとえば6X SSC、5X Denhardt、0.5% SDS、及び100 μg/mL断片化・変性処理サケ精子DNAの一晩65℃でのハイブリダイゼーションと2X SSC、0.1% SDSによる室温での10分間の洗浄1回、それに続く65℃での約15分間の洗浄1回、それに続く0.2X SCC、0.1% SDSによる室温での少なくとも3〜5分間の洗浄少なくとも1回などが含まれる。
【0143】
さらなる態様は、グラム陰性菌染色体遺伝子の上流1000 bp領域内で、該遺伝子の発現を増進又は低減させることを目的に実行される遺伝子工学的事象(トランスポゾンの挿入、または部位指定突然変異誘発又は欠失などであるが、好ましくは相同的組換え事象)への、本発明の単離ポリヌクレオチドの使用である。好ましくは、組換え事象が起こる場となる菌株は、そこから本発明の上流配列が得られる菌株と同じとする。ただし、髄膜炎菌A、B、C、Y及びWと淋菌ゲノムは十分に類似するので、これらの菌株のいずれに由来する上流配列も他菌株でかかる事象を実行するためのベクターの設計に好適であろう。これは、Haemophilus influenzaeと類型化不能のHaemophilus influenzaeの場合についても当てはまる。
【実施例】
【0144】
実施例
以下の実施例は別段の詳細な説明がない限り、周知、慣用の標準手法を用いて実施している。実施例は本発明の例証となるが、本発明を限定するものではない。
【0145】
実施例1: 莢膜多糖を欠くNeisseria meningitidis血清群B株の構築
プラスミドpMF121(Frosch et al., 1990)を用いて、莢膜多糖を欠くN. meningitidis血清群B株を構築した。このプラスミドは群B多糖(B PS)の生合成経路をコードする遺伝子座の上下流領域とエリスロマイシン耐性遺伝子とを含む。B PSの欠失は群B莢膜多糖の発現の消失及びgalEの活性コピーの欠失を結果的にもたらし、ひいてはガラクトース欠損LPSの合成を招いた。
【0146】
菌株の形質変換:
形質転換にはN. meningitidis B H44/76株(B:15:P.17, 16; Los 3,7,9)を選んだ。MH (Mueller-Hinton)プレート(エリスロマイシン不存)上で一晩CO2培養後、細胞を10 mM MgCl2 (MHプレート当たり2 mlを使用)入り液体MH中に回収し、0.1 OD (550 nm)まで希釈した。この2 ml溶液に4 μlのプラスミドpMF121ストック溶液(0.5 μg/ml)を加えてから、37℃で6時間(振とう)インキュベートした。コントロール群は同量のN. meningitidis B菌株を用いて、ただしプラスミドを添加せずに行った。インキュベーション後、培養液をそのまま1/10、1/100及び1/1000に希釈し、5、10、20、40又は80 μg-エリスロマイシン/ml含有MHプレートにまき、37℃で48時間培養した。
【0147】
コロニーブロッティング:
プレート培養により、10および20 μg-エリスロマイシン/ml含有MHプレートから20コロニーが形成され、選択されたが、プラスミドを導入しないコントロール群ではコロニーの形成はみられなかった。H44/76野生型株は特定エリスロマイシンプレート(10〜80 μg-エリスロマイシン/ml)中で増殖できなかった。翌日、目に見えるコロニーをすべてエリスロマイシン不含の新しいMHプレートに移し、増殖させた。その後、コロニーをニトロセルロースシートに転写し(コロニーブロッティング)、B多糖の有無を調べた。要するにコロニーをニトロセルロースシート上にブロットし、PBS-0.05% Tween 20で直接すすいでから、PBS-0.05% Tween 20(希釈緩衝液)中で56℃、1時間の細胞不活化処理をした。その後、室温で1時間、希釈緩衝液中に浸した。次いで、シートを再び希釈緩衝液で5分間ずつ3回洗った後、希釈緩衝液で1/3000に希釈した抗B PS 735 Mab (Boerhinger)と室温で2時間インキュベートした。新たな洗浄ステップ(3×5分間)を経てから、希釈緩衝液で500倍に薄めたビオチニル化抗マウスIg (RPN 1001; Amersham)でモノクローナル抗体を検出(室温で1時間)後に、次の(前述と同様の)洗浄ステップに移った。その後、シートを、希釈緩衝液で1/1000に希釈したストレプタビジン−ペルオキシダーゼ複合体の溶液により、室温で1時間インキュベートした。最後の(前と同じ要領による)洗浄ステップの後、レベレーション液(30 mgの4-クロロ-1-ナフトールを10 mlメタノール+40 ml PBS+30 mclのH2O2 37%に溶かしたもの; Merck)を用いてニトロセルロースシートを暗所で15分間インキュベートした。この反応は蒸留水洗浄ステップをもって停止させた。
【0148】
ホールセルELISA:
2つの形質転換コロニー(DとR)及び被覆細菌としての野生型株(H44/76)(20 μg-タンパク質/ml)を用いてホールセルELISAも実施し、また種々のモノクローナル抗体一組を用いてN. meningitidis株の特性を解明した。次のMabを試験した: 抗B PS Mab(735; Dr Frosch)、及びNIBSC由来の他Mab: 抗B PS (Ref 95/750)、抗P1.7 (A-PorA, Ref 4025)、抗P1.16 (A-PorA, Ref 95/720)、抗Los 3,7,9 (A-LPS, Ref 4047)、抗Los 8 (A-LPS, Ref 4048)、抗P1.2 (A-PorA, Ref 95/696)。
【0149】
マイクロタイタープレート(Maxisorp; Nunc)を組換え髄膜炎菌B細胞のPBS溶液(約20 μg/ml) 100 μlで、37℃で一晩かけて被覆した。その後、プレートを300 μlの150 mM NaCl - 0.05% Tween 20で3回洗ってから、100 μlのPBS-0.3%カゼインで覆い、振とうしながら室温で30分間インキュベートした。プレートを再び同じ要領で洗ってから、抗体とインキュベートした。モノクローナル抗体(100 μl)をPBS-0.3%カゼイン-0.05% Tween 20で種々の濃度に希釈して(図2参照)マイクロプレート上にまき、室温で30分間振とうしながらインキュベートしてから、次の洗浄(要領は前と同じ)ステップに移った。ビオチンに結合させPBS-0.3%カゼイン-0.05% Tween 20で1/2000に希釈した100 μlウサギ由来抗マウスIg (Dakopatts E0413)をウェルに加えて、結合モノクローナル抗体を検出できるようにした。洗浄ステップ(要領は前と同じ)後、同じ作業液で1/4000に希釈したストレプタビジン−ペルオキシダーゼ複合体の溶液100 μl (Amersham PRN 1051)を用いてプレートを室温で30分間、振とうしながらインキュベートした。このインキュベーションと最終洗浄ステップの後、プレートを色原体溶液[4 mgオルトフェニルジアミン(OPD)を10 ml 0.1 Mクエン酸緩衝液pH4.5+5 μl H2O2に溶かしたもの] 100 μlで、15分間暗所でインキュベートする。次いで、分光光度計を用いて490/620 nmでプレートを読み取る。
【0150】
結果:
図1に示すように、エリスロマイシン含有の特定媒地上で増殖することができた20個の分離コロニーのうち、B多糖の存在が陰性を示したのは2個のコロニー(DとR)だけであった。他のコロニーのうち16個はB PSの存在が明らかに陽性であり、しかもエリスロマイシン耐性を維持していた。これは、それらがプラスミドをゲノム中に組み込んだものの、方向が間違っていたため、B PSおよびLPS遺伝子を無傷のままに保った(交差乗換えが起こらなかった)ことを示す。プレートではポジティブ及びネガティブ・コントロールも試験した。H44/76野生型NmB株はB多糖に関して明らかに陽性、髄膜炎菌A(A1)及び髄膜炎菌C(C11)株はこの抗B PS 735 Mabでは明らかに陰性との結果が出た。これらの結果は、選び出されたコロニーのうち約10%が二重乗換えによりゲノム中にプラスミドを正しく組み込んだものの、他の菌株/コロニーは単純乗換え後に収穫されたため、B PSおよびLPS遺伝子を無傷のままにし、引き続き発現させる結果になったことを示唆する。
【0151】
ホールセルELISA試験の結果(図2及び次表)は、2つの形質転換体D及びR (コロニーD及びRに由来)が抗B PS Mab (735及び95/750)によっても、また抗Los 3,7,9 Mab及び抗Los 8 Mabによってももはや認識できなくなったことを明示している。しかし、特異的抗PorA Mabを使用すると、野生型株でも観察されるように、細胞上で抗P1.7 Mabおよび抗P1.16 Mabとの明らかな反応が見られる。非特異的抗PorA Mab (抗P1.2 Mab)では反応が観察されなかった。これらの結果からは、B多糖とLos 3,7,9およびLos 8エピトープ(LPS)は存在しなくなるものの、PorAタンパク質、特にP1.7及びP1.16エピトープは形質転換後もなお存在することが確認される。
【0152】
【表1】
【0153】
実施例2: N. meningitidisのporA遺伝子座への組込みを狙いとした多能型遺伝子導入ベクター(pCMK系列)の構築
相同的組換えと異種DNAのN. meningitidisのporA遺伝子座への安定的組込みを可能にするプラスミドを構築した。この(遺伝子、オペロン及び/又は発現カセット)導入ベクターは組換え型の改良ブレブを産生するN. meningitidis菌株の作製に有用である。一般にかかるベクターは少なくとも次のものを含む: (1)E. coli中で複製的であるがN. meningitidis中ではそうでない(自殺プラスミド)プラスミドバックボーン、(2) porAなどのような遺伝子座への組込みを狙いとした少なくとも1つの、好ましくは2つの相同領域、(3)N. meningitidisで機能する効率的な転写シグナル(プロモーター、調節領域及びターミネーター)と翻訳シグナル(最適化リボソーム結合部位と開始コドン)、(4)マルチプルクローニング部位、及び(5)E. coli内プラスミドの維持とN. meningitidis内構成要素の選択を可能にする選択遺伝子。追加要素としては、異種DNAのN. meningitidisへの進入を容易にする取込み配列、及び二重乗換え事象の頻度を高めるためのsacB、rpsL、gltSなどのような対抗選択マーカーなどがある。
【0154】
本実施例で構築されpCMKと命名されたベクターの図解を図3に示す。それに対応する完全なヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1に示す。pCMKは、E. coli中で複製的でありbla遺伝子を収めている(従ってアンピシリン耐性を付与する)高コピー数プラスミドのpSL1180バックボーン(Pharmacia Biotech、スウェーデン)に由来する。pCMKはこれに加えて、相同的組換えに必要なporA上下流領域(porA5’と転写ターミネーターを収めたPorA3’)、カナマイシン耐性を付与する選択マーカー、2つの取込み配列、lacIqを発現するE. coli宿主内では抑圧されているがN. meningitidis内では転写活性をもつporA/lacOキメラプロモーター、及びpCMKへの異種DNAの挿入に必要なマルチクローニング部位(NdeI、KpnI、NheI、PinAI及びSphIの5部位が存在)を機能的に収めている。
【0155】
pCMKは次のようにして構築した。次表に掲げるオリゴヌクレオチドを使用してporA5’及びPorA3’組換え誘発領域、porA/lacOプロモーターをPCR増幅し、pTOPOにクローニングし、配列決定をした。これらのDNA断片をpTOPOから順次切り出し、pSL1180にリクローニングした。pUC4K (PharmaciaBiotech、スウェーデン) からカナマイシン耐性カセットを切り出し、porA5’領域とporA/lacOプロモーターの間に導入した。
【0156】
【表2】
【0157】
実施例3: 莢膜多糖と大免疫支配抗原PorAの両方を欠くN. meningitidis血清群B株の構築
外膜ブレブの抗原含量の調節はそのワクチン、診断又は治療用途におけるその安全性と有効性を高めるうえで有利であろう。自己免疫を誘発する危険を無くするにはN. meningitidis血清群B株莢膜多糖などのような成分を除去するべきであろう(実施例1を参照)。同様に、菌株特異的な抗菌性抗体を誘発するものの交差防御を付与しないPorAなどのような大外膜抗原の免疫支配は抑圧するのが有利である。こうしたアプローチを容易にするために、pCMK(+)ベクターを用いて、莢膜多糖と免疫支配的なPorA外膜タンパク質抗原の両方を欠くN. meningitidis血清群B株を構築することにした。この目的のために、相同的組換えにより実施例1で述べたH44/76 cps-株にporA遺伝子の欠失を導入した。
【0158】
前述と同様の要領で、H44/76 cps-株をコンピテントにし、2 μgのスーパーコイルpCMK(+)プラスミドDNAで形質転換した。形質転換混合液の画分(100 μl)を、カナマイシン(200 μg/ml)含有MHプレートに塗り広げ37℃で24〜48時間培養した。カナマイシン耐性コロニーを選び出し、MH-Kn上に再び塗り広げ、37℃でさらに24時間増殖させた。その段階で細菌培地の半分を使用してグリセロールストック(15% v/v)を調製し−70℃で冷凍保存した。別の画分(推定細菌数108)を15 μlの蒸留水に再懸濁させ、10分間煮沸し、PCRスクリーニング用の鋳型として使用した。2つのporA内側プライマーPPA1及びPPA2を合成し、サプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)指定の条件による煮沸溶菌上でのPCR増幅に用いた。使用したサーマルサイクリングは次のとおり: 25サイクル(94℃1分、52℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。pCMK DNAと染色体porA遺伝子座との二重乗換えは#1及び#2アニーリングに必要とされる領域を欠失させるため、1170 bp PCR増幅断片を欠くクローンをporA欠失変異体として選んだ。これらのPCR結果は、対応する細菌タンパク質抽出物中のPorAの存在を並行的に分析することによりさらに確認した。その目的のために、もう1つの分取量の細菌(推定5.108個)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液(SDS 5%、グリセロール30%、β-メルカプトエタノール15%、ブロモフェノールブルー0.3 mg/ml、Tris-HCl 250 mM pH6.8)に再懸濁させ、煮沸(100℃)/冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写し、Maniatis et al.に記載してある要領により抗PorAモノクローナル抗体で検査した。図4に示すようにCoomassie染色、免疫ブロット染色のどちらでも、porA DNA陰性クローンは検出可能量のPorAを産生しないことが確認された。この結果から、pCMKベクターは機能すること、これを使用すればporA遺伝子に狙いどおりDNAを挿入し、同時にPorA外膜タンパク質抗原が産生されないようにしうることが確認される。
【0159】
実施例4: 機能的porA及びcps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株で実現されるブレブ中NspA外膜タンパク質産生の上方調節
ブレブ小胞の防御抗原濃度を高めれば、外膜タンパク質系ワクチンの有効性と適用範囲を拡大するのに有利である。そこで、機能的porA及びcps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis株をつくり、外膜タンパク質NspAの発現レベルが上方調節されるようにした。その目的のために、N01-full-NdeI及びNdeI-3’オリゴヌクレオチドプライマー(実施例2の表を参照)を用いてNspAをコードする遺伝子をPCR増幅した。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)の指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、52℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。対応するアンプリコンはNdeIで消化し、pCMK(+)導入ベクターのNdeI制限部位に挿入した。挿入方向をチェックし、pCMK(+)-NspAと命名された組換えプラスミドをQIAGEN Maxiprepキットで大量精製し、この材料2 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株(実施例1で説明した菌株)を形質転換させた。pCMK (+)-NspAベクターと染色体porA遺伝子座の間の二重乗換えに由来する形質転換体のスクリーニングには、実施例3で説明したPCRとウェスタンブロット法の組合せを用いた。
【0160】
分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写し、抗NspAポリクローナル血清で検査した。Coomassie染色(データ非表示)、免疫ブロット染色(図4参照)のどちらでも、porA DNA陰性クローンは検出可能量のPorAを産生しないことが確認された。NspAの発現はNmB [cps-、porA-]かNmB [cps-、porA-、Nspa+]に由来するホールセル溶菌(WCBL) 又は外膜ブレブ調製品で調べた。Coomassie染色法では差が観察されなかったが、抗NspAポリクローナル血清を用いた免疫ブロット法ではWCBLと外膜ブレブ調製品のどちらでも(内在NspAレベル比で) NspA発現の3〜5倍増を検出した(図5参照)。この結果から、pCMK(+)-NspAベクターは機能すること、これを使用すればNspAなどのような外膜タンパク質の発現を上方調節し、同時にPorA外膜タンパク質抗原が産生されないようにしうることが確認される。
【0161】
実施例5: 機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する組換えN. meningitidis血清群B株で実現されるブレブ中D15/Omp85外膜タンパク質抗原産生の上方調節
地理的に孤立したある種の地域(キューバなど)の住民は、大体1又は少数の外膜タンパク質血清型に属する限られた数のN. meningitidis分離株に感染する。PorAは防御的、菌株特異的抗菌性抗体を誘発する大外膜タンパク質抗原であるため、少数のporA血清型をワクチンに使用してワクチン防御を付与することが可能になる。その場合は、外膜ブレブにPorAが存在するほうが有利であり、組換え改良ブレブのワクチン効能を高めることになろう。しかし、そうしたPorA含有ワクチンは他の交差反応性OMPたとえばomp85/D15などの含量を高めることでさらにいっそうの改善を図ることができる。
【0162】
以下の実施例ではpCMK(+)ベクターを使用して、機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する菌株におけるOmp85/D15外膜タンパク質抗原の発現を上方調節する。その目的のために、D15-NdeI及びD15-NotIオリゴヌクレオチドプライマーを用いてOmp85/D15をコードする遺伝子をPCR増幅した。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、52℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。対応するアンプリコンはメーカーの説明書に従ってpTOPOクローニングベクターに挿入し、また確認のための配列決定を行った。このOmp85/D15 DNA断片をpTOPOから制限酵素NdeI/NsiIを用いて切り出し、pCMK(+)導入ベクターの対応する制限部位にクローニングした。これによって得られた組換えプラスミドpCMK(+)-D15をQIAGEN Maxiprepキットで大量精製し、この材料2 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株(実施例1で説明した菌株)を形質転換させた。porAの発現を保つようにするために、(Omp85/D15か又はporAでの)単一乗換えに由来する形質転換体を、PCRとウェスタンブロット法の組合せによってスクリーニングした。porA特異的PCR及びウェスタンブロット法で陽性と判明したカナマイシン耐性クローンをグリセロールストックとして−70℃で保存し、さらなる研究に使用した。
【0163】
分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写し、抗porAモノクローナル抗体で検査した。図6に示すように、Coomassie染色、免疫ブロット染色のどちらでも、porA DNA陽性クローンはPorAを産生することが確認された。
【0164】
D15の発現はNmB [cps-、porA-]かNmB [cps-、porA+、D15+]に由来する外膜ブレブ調製品で調べた。Coomassie染色法では(内在D15レベル比で)D15発現の著増を検出した(図6参照)。この結果から、pCMK(+)-D15ベクターは機能すること、これを使用すればD15などのような外膜タンパク質の発現を上方調節しうるうえに、大PorA外膜タンパク質抗原の産生を廃止せずに済むことが確認される。
【0165】
実施例6: 多能型プロモーター導入ベクターの構築
原理: 本アプローチの原理は図7に図解してあり、7つの必須ステップに要約することができる。以下では、NspA及びD15/Omp85の発現を上方調節するためのベクターの構築を例にして、これらのステップのうちのいくつかを説明する。
【0166】
NspA遺伝子の発現を上方調節するためのベクター:
ステップ1 N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、NspA遺伝子の上流に位置するDNA領域(997bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:2)。この配列を使用してPNS1及びPNS2という2つのオリゴヌクレオチドプライマー(実施例2の表を参照)を設計し、合成した。これらのプライマーを用いて、H44/76株から抽出したゲノムDNAのPCR増幅を行った。
【0167】
ステップ2 対応するアンプリコンをWizard PCRキット(Promega、米国)でクリーンアップし、制限酵素EcoRI/XbaIにより24時間かけて、サプライヤー指定(Boehringer Mannheim、ドイツ)の条件に従って消化した。対応するDNA断片をゲル精製し、pUC18クローニングベクターの対応部位に挿入した。
【0168】
ステップ3 組換えプラスミドを大量に調製し、その分取量を逆PCR増幅用の鋳型として使用した。逆PCRはPNS4及びPNS5オリゴヌクレオチドを用いて、次のサーマルサイクリング条件で行った: 25サイクル(94℃1分、50℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。NspA上流領域の挿入部に欠失をもつ線状pUC18ベクターが得られた。
【0169】
D15/omp85遺伝子の発現を上方調節するためのベクター:
ステップ1 N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、D15/omp85遺伝子の上流に位置するDNA領域(1000bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:3)。この配列を使用してPromD15-51X及びPromD15-S2という2つのオリゴヌクレオチドプライマー(実施例2の表を参照)を設計し、合成した。これらのプライマーを用いて、H44/76株から抽出したゲノムDNAのPCR増幅を行った。
【0170】
ステップ2 対応するアンプリコンをWizard PCRキット(Promega、米国)でクリーンアップし、制限酵素EcoRI/XbaIにより24時間かけて、サプライヤー指定(Boehringer Mannheim、ドイツ)の条件に従って消化した。対応するDNA断片をゲル精製し、pUC18クローニングベクターの対応部位に挿入した。
【0171】
ステップ3 組換えプラスミドを大量に調製し、その分取量を逆PCR増幅用の鋳型として使用した。逆PCRはPromD15-51X及びPromD15-S2オリゴヌクレオチドを用いて、次のサーマルサイクリング条件で行った: 25サイクル(94℃1分、50℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。D15/omp85上流領域の挿入部に欠失をもつ線状pUC18ベクターが得られた。
【0172】
実施例7: 組換えブレブ製造のための発酵法
以下の実施例では、莢膜多糖又は莢膜多糖とPorAとを欠く組換えブレブを製造するための方法について説明する。かかる方法は広範囲のN. meningitidis組換え株に使用されるであろうし、また広範囲の生産規模に適応できよう。
【0173】
培地: N. meningitidis血清群B株を固形培地(FNE 004 AA、FNE 010 AA)又は液体培地(FNE 008 AA)で増殖させた。これらの髄膜炎菌増殖用新培地は好都合にも動物性成分をまったく含まず、また本発明のさらなる態様とみなされる。
【0174】
【表3】
【0175】
cps-組換えブレブ産生N. meningitidis血清群Bのフラスコ培養:
これは固形培地上での予備培養とそれに続く液体培養の2ステップで実施した。固形予備培養 ガラス瓶入りの菌液をフリーザー(−80℃)から取り出し、室温に解凍して、0.1 mLをFNE004AA(前掲表を参照)15 mL入りペトリ皿に塗り広げた。ペトリ皿を37℃で18±2時間培養した。表面培養菌をエリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AA(前掲表を参照) 8 mLに再懸濁させた。フラスコ培養 固形培養した再懸濁菌2 mLを、エリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AAを400 mL入れた2リットル・フラスコに加えた。フラスコを振とう機(200 rpm)に載せ、37℃で16±2時間培養した。細胞は5000 g、4℃、15分の遠心で培養液から分離した。
【0176】
cps-組換えブレブ産生N. meningitidis血清群Bのバッチ式培養:
これは固形培地上での予備培養、液体培養及びバッチ式培養の3ステップで実施した。固形予備培養 ガラス瓶入りの菌液をフリーザー(−80℃)から取り出し、室温に解凍して、0.1 mLをFNE004AA(前掲表を参照)15 mL入りペトリ皿に塗り広げた。ペトリ皿を37℃で18±2時間培養した。表面培養菌をエリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AA(前掲表を参照) 8 mLに再懸濁させた。液体培養 固形培養した再懸濁菌2 mLを、エリスロマイシン15 mg/L添加FNE008AAを400 mL入れた2リットル・フラスコに加えた。フラスコを振とう機(200 rpm)に載せ、37℃で16±2時間培養した。フラスコの内容物は20リットル・ファーメンターへの接種に用いた。ファーメンターによるバッチ式培養 接種材料(400 mL)を、15 mg/Lエリスロマイシン添加FNE008AAを10 L入れた滅菌処理済みの20リットル・ファーメンター(総容積)に加えた。pHは NaOH (25% w/v)とH3PO4 (25% v/v)の自動添加により7.0に調節、維持した。温度は37℃に調節した。通気量は20 L-air毎分に維持し、また溶存酸素量は撹拌速度の調節により飽和濃度の20%に維持した。ファーメンター内の過圧は300 g/cm2に維持した。9±1時間後、培養液は定常期に移った。5000 g、4℃、15分の遠心で細胞を培養液から分離した。
【0177】
cps-、porA-組換えブレブ産生N. meningitidis血清群Bのフラスコ培養:
これは固形培地上での予備培養とそれに続く液体培養の2ステップで実施した。固形予備培養 ガラス瓶入りの菌液をフリーザー(−80℃)から取り出し、室温に解凍して、0.1 mLをFNE010AA(前掲表を参照)15 mL入りペトリ皿に塗り広げた。ペトリ皿を37℃で18±2時間培養した。表面培養菌をカナマイシン200 mg/L添加FNE008AA(前掲表を参照) 8 mLに再懸濁させた。フラスコ培養 固形培養した再懸濁菌2 mLを、カナマイシン200 mg/L添加FNE008AAを400 mL入れた2リットル・フラスコに加えた。フラスコを振とう機(200 rpm)に載せ、37℃で16±2時間培養した。細胞は5000 g、4℃、15分の遠心で培養液から分離した。
【0178】
実施例8: 莢膜多糖を欠く髄膜炎菌由来ブレブの分離精製
組換えブレブを次のようにして精製した。10 mM EDTAと0.5%デオキシコール酸ナトリウム(DOC)を含む0.1M Tris-Cl緩衝液(pH 8.6) 211 ml中に細胞ペースト(42 g)を懸濁させた。緩衝液/バイオマス比は5/1(v/w)であった。バイオマスを室温で30分間の磁気撹拌により抽出した。次いで、全抽出物を20,000 g、30分、4℃ (JA-20ローター、Beckman J2-HS遠心機で13,000 rpm) で遠心分離した。ペレットを廃棄し、上清を125,000 g、2時間、4℃(50.2Tiローター、Beckman L8-70M超遠心機で40,000 rpm)で超遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを2 mM EDTA、1.2% DOC及び20%スクロースを含む50 mM Tris-Cl緩衝液(pH 8.6) 25 ml中に静かに懸濁させた。2回目の超遠心ステップ(125,000 g、2時間、4℃)後、小胞を3%スクロース44 ml中に静かに懸濁させ、4℃で保存した。ブレブの分離精製に使用した溶液はすべて0.01%のチオメルサレートを含んでいた。図8に示すように、この方法ではPorAやPorBなどのような外膜タンパク質を高濃縮したタンパク質調製品が得られる。
【0179】
実施例9: 抗原遺伝子発現の上方調節に好適な細菌プロモーターの同定
強い細菌プロモーター要素の使用は、外膜タンパク質をコードする遺伝子の上方調節を実現するうえで不可欠である。それとの関連では、porAプロモーターの使用によるN. meningitidis nspA、hsf及びomp85遺伝子の上方調節により、対応するHspA、Hsf及びOmp85タンパク質に富む組換えブレブの分離を可能にすることをすでに証明した。種々のレベルの上方調節の実現、潜在的なporA相変異の克服及び/又は条件に応じた遺伝子の発現(Fe調節を受けるプロモーター)には、porAプロモーターとは別のプロモーターが有効であろう。ここでは、細菌に高レベルの発現を付与しそうな強いプロモーター要素の正確な転写開始部位の特定を可能にする方法について説明する。プロモーター調節要素は一般に+1部位の上流200 bp以内、及び下流50 bp以内に包摂されるため(Collado-Vides J, Magasanik B, Gralla JD, 1991, Microbiol Rev 55(3): 371-94)、そうした実験の結果は強いプロモーター活性を帯びる約250 bpのDNA断片の同定を可能にする。大外膜タンパク質たとえばN. meningitidis PorA、PorB及びRmp、H. influenzae P1、P2、P5及びP6、M. catarrhalis OmpCD、OmpE、それにこれらの細菌の若干の細胞質及び/又はFe調節型タンパク質などは強いプロモーター要素をもつ。この一般的な方法論の妥当性を確認するものとして、5’ RACE (rapid amplification of cDNA elements)を用いて強いN. meningitidis porA及びporBプロモーターの転写開始部位をマッピングした。
【0180】
5’ RACEの原理は次のとおりである: 1) QIAGEN “RNeasy” Kitの使用による全長RNAの抽出。DNase処理とそれに続くQIAGEN精製法によるゲノムDNAの除去; 2) porA特異的3’末端プライマー(porA3と命名)によるmRNA逆転写。予想cDNAサイズ: 307 nt. アルカリ加水分解によるRNAの除去; 3) T4 RNAリガーゼの使用による1本鎖DNAオリゴアンカー(DT88と命名)のcDNA 3’末端への結合。予想サイズ: 335 nt. hemi-nested PCR(とホットスタートPCRと)の組合せを用いるアンカー結合cDNAの増幅; 4) 5’プライマーとしての相補的配列アンカープライマー(DT89と命名)及び3’末端RTプライマーporA3の内側プライマーである3’末端プライマー(p1-2と命名)の使用によるアンカー結合cDNAの増幅。予想サイズ: 292 bp; 5) 5’末端プライマーとしてのDT89及び3’末端プライマーとしてのp1-1(p1-2の内側プライマー)の使用による以前のPCR産物の増幅。予想サイズ: 211 bp; 及び6) p1-1プライマーによる配列決定(予想サイズが計算できるのは、porA転写開始部位が“ATG”翻訳開始部位の59 nt前と判明しているからである)。
【0181】
実験方法
全長RNAはN. meningitidis B cps- porA+株細胞約109個から抽出した。適正な光学密度(OD600=1)の培養液1 mlの抽出はQIAGEN “RNeasy"キットを用いて、メーカーの説明書に従って行った。30 μlの溶出RNAに10UのRNase-free DNase (Roche Diagnostic, ドイツ/マンハイム)を添加することにより染色体DNAを除去し、37℃で15分間インキュベートした。このDNA不含RNAを同じQIAGENキットにより、説明書に従って精製した。
【0182】
逆転写反応はプライマーporA3と200UのSUPERSCRIPTII逆転写酵素(Life Technologies)を用いて行った。このRT反応には50 μlの反応液(5 μlの2 mM dNTP、20 pmolのporA3プライマー、5 μlの10X SUPERSCRIPTII緩衝液、9 μlの25 mM MgCl2、4 μlの0.1 M DTT、40Uの組換えリボヌクレアーゼインヒビター及び1 μgの全長RNAを含む)を使用した。porA3プライマーの段階的アニーリング (70℃2分間、65℃1分間、60℃1分間、55℃1分間、50℃1分間、45℃1分間)の後にSUPERSCRIPTIIを添加した。RT反応は42℃で30分間行い、次に5サイクル(50℃1分間、53℃1分間、56℃1分間)の処理でRNAの二次構造を安定させた。2つの平行反応を、1つの反応はネガティブ・コントロールとして逆転写酵素抜きで、実施した。
【0183】
1 μlの0.5 M EDTAとそれに続く12.5 μlの0.2 M NaOHの添加によるアルカリ加水分解でRNAを除去してから、68℃で5分間インキュベートした。12.5 μlの1 M Tris-HCl (pH 7.4)を加えて反応液を中和し、20 μgのグリコーゲン(Roche Molecular Biochemicals、ドイツ/マンハイム)、5 μlの3 M酢酸ナトリウム及び60 μlのイソプロパノールを加えて沈殿させた。両試料を20 μlの10:1 TE (10 mM Tris-HCl, pH 7.4; 1 mM EDTA, pH 8)に懸濁させた。
【0184】
T4 RNAリガーゼを、5’リン酸化し3’末端ddCTPでブロッックしたアンカーオリゴヌクレオチドDT88 (次表を参照)の結合に使用した。2つの平行結合反応を一晩、室温で行ったが、それぞれの反応液は1.3 μlの10X RNAリガーゼ緩衝液(Roche Molecular Biochemicals)、0.4 μMのDT88、10 μlのcDNA又はRTコントロール試料、及び3UのT4 RNAリガーゼを含んでいた。ネガティブ・コントロールとしてもう1組の結合反応を、T4 RNAリガーゼを使用せずに行った。得られた結合反応混合液は精製せずにそのまま次のPCRに使用した。
【0185】
アンカー結合cDNAはhemi-nested PCRとホットスタートPCRの組合せを用いて増幅し、特異性と産物収量の向上を図った。4つの第1次PCRをRT/リガーゼ反応混合液とコントロールを対象に30 μlの反応液中で行ったが、各PCR反応液は3 μlの10X Taq Platinium緩衝液、3 μlの25 mM MgCl2、1 μlの10 mM dNTP、10 pmolの各プライマー、及び1 μlの対応するRNA結合反応混合液を含んでいた。PCRはTaq Platinium (Life Technologies) DNAポリメラーゼ(2U添加)を使用してホットスタートさせた。この最初のアンカー結合PCR (LA-PCR)にはアンカー特異的プライマーDT89と転写産物特異的プライマーp1-2 (次表参照。これは3’末端RTプライマーporA3の内側プライマーである)をそれぞれ10 pmol使用した。PCRの実施には、95℃5分間の初期処理(DNAポリメラーゼの活性化)ステップ、それに続く10サイクル(95℃10秒間、70℃1分間)(サイクルごとに1℃ずつ引き下げる)と15サイクル(95℃10秒間、60℃1分間)を用いた。第2次のhemi-nested LA-PCRは前と同じ条件の下で、DT89プライマーと内側p1-2プライマーのほかに、10 pmolのp1-1(次表参照)と1 μlの第1次PCR産物も加えて実施した。増幅産物はQIAGEN “QIAquick" PCR精製キットを用いて、メーカーの説明書に従って精製処理し、次の配列決定にまわした。
【0186】
10 pmolプライマーp1-1使用のRACE PCR産物の配列決定にはCEQTM Dye Terminator Cycle Sequencingキット(Beckman、フランス)を用いた。配列決定反応は添付説明書に従って実施し、配列決定用産物の解析はCeq2000 DNA Analysis System (Beckman-Coulter)によって行った。
【0187】
【表4】
【0188】
N. meningitidis porAプロモーターに関する結果
前述の5’RACE法を用いてN. meningitidis血清群B (H44/76株) porA-mRNAの転写開始部位をATG開始コドンの59 bp上流にマップした。この結果はプライマー伸長法で実施され、van der Ende et al (1995)により発表されたマッピングを確認するものである。この結果はporA ATGの−9〜−259に当たるヌクレオチドを含むDNA断片がN. meningitidisで、またおそらくは他の細菌株たとえばHaemophilus、Moraxella、Pseudomonasなどでも、強い遺伝子を促すのに好適であることを裏付ける。
【0189】
N. meningitidis porBプロモーターに関する結果
同じ実験方法をN. meningitidis血清群B (H44/76株) porBの転写開始部位マッピングにも適用した。次表に掲げるプライマーは、3’末端RTプライマー(porB3)、porB3の内側プライマーである転写産物特異的プライマー(porB2)、及びporB2の内側プライマーである転写産物特異的プライマー(porB1)である。porB3、porB2及びporB1はそれぞれATG開始部位の265 bp、195 bp及び150 bp下流に位置する。
【0190】
【表5】
【0191】
porB1及びDT89プライマーを用いて5’-RACEマッピングを実施して〜200 bpのPCRアンプリコンを得た。porB1はporB AGT開始コドンの150 bp下流に位置するため、この結果は転写開始部位がporB ATGの約50 bp (+/-30 bp)上流に位置することを裏付けている。
【0192】
転写開始に対応する正確なヌクレオチドは目下DNA配列決定法による決定を進めている。以上のPCR結果はporA ATGの−1〜−250に当たるヌクレオチドを含むDNA断片がN. meningitidisで、またおそらくは他の細菌株たとえばHaemophilus、Moraxella、Pseudomonasなどでも、強い遺伝子を促すのに好適であることを裏付ける。
【0193】
実施例10: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B Omp85遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはD15/Omp85遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、D15/Omp85抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、D15/omp85遺伝子の上流に位置するDNA領域(1000 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:3)。本実施例の主要ステップは図9に図解してある。要するに、D15/omp85遺伝子の開始コドン(ATG)から−48〜−983のヌクレオチドを含むDNA断片(1000 bp)を、オリゴヌクレオチドProD15-51X (5’-GGG CGA ATT CGC GGC CGC CGT CAA CGG CAC ACC GTT G-3’)及びProD15-52 (5’-GCT CTA GAG CGG AAT GCG GTT TCA GAC G-3’)を用いて増幅した。これらのオリゴヌクレオチドはそれぞれ制限部位EcoRI及びXbaIを含でいる(下線部)。この断片を制限酵素で切断し、同じ酵素で切断してあるpUC18プラスミドに挿入した。得られたコンストラクトに、(pGPS2ドナープラスミド使用の) Genome Primingシステム(New England Biolabs 、米国マサチューセッツ州)を使用してin vitro突然変異を誘発させた。ミニトランスポゾン(Tn7に由来し、クロラムフェニコール耐性遺伝子を収めてある)が挿入されているクローンを選別した。EcoRIの401 bp下流のD15/Omp85 5’隣接領域にトランスポゾンが挿入されているクローンを単離し、さらなる研究に使用した。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発[Jones & Winistofer (1992), Biotechniques 12: 528-534]にかけた。その目的は(i)上記の転位法で生成された反復DNA配列を欠失させ、(ii)形質転換に必要とされる髄膜炎菌取込み配列を挿入し、また(iii)異種DNA要素たとえばプロモーターなどのクローニングを可能にする適当な制限部位を挿入することにあった。サークルPCR法はオリゴヌクレオチドTnRD15-KpnI/XbaI+US (5’-CGC CGG TAC CTC TAG AGC CGT CTG AAC CAC TCG TGG ACA ACC C-3’)及びTnR03Cam (KpnI) (5’-CGC CGG TAC CGC CGC TAA CTA TAA CGG TC-3’)を使用して実施した。これらのオリゴヌクレオチドは取込み配列と下線を付した適当な制限部位(KpnIとXbaI)を含んでいる。得られたPCR断片はゲル精製後、Asp718(KpnIのアイソシゾマー)で切断し、184 bp DNA断片に結合させた。このDNA断片はporAプロモーターを含み、KpnI制限部位を収めたオリゴヌクレオチドPorA-01(5’-CGC CGG TAC CGA GGT CTG CGC TTG AAT TGT G-3’)及びPorA-02(5’-CGC CGG TAC CTC TAG ACA TCG GGC AAA CAC CCG-3’)使用のPCR法で生成させている。正しい方向に挿入された(転写がEcoRI→XbaI方向に進行する)porAプロモーターをもつ組換えクローンを選別し、莢膜多糖と大外膜タンパク質のうちの1つ(PorA)を欠くN. meningitidis血清群B株(cps-、porA-)の形質転換に使用した。二重乗換え事象に由来する組換えN. meningitidisクローン[オリゴヌクレオチドCam-05 (5’-GTA CTG CGA TGA GTG GCA GG-3’)及びproD15-52の使用によるPCRスクリーニングで選別]を5 μg/mlのクロラムフェニコール含有GC培地上で選別し、D15/Omp85の発現を分析した。図10に示すように、プロモーターの置換によりNm株の全タンパク質抽出物中のD15/Omp85産生は親株(cps-)に比して著しく増加した。この結果は同じ株から調製した外膜ブレブの分析でも観察された(図17参照)。これらの結果は内在D15プロモーターが強いporAプロモーターへと置換されたことに起因させることができる。さらに、意外なことに、porAプロモーターを開始コドンの約400 bp上流に導入すると約100 bp上流に導入した場合と比べて約50倍も発現が強まることも判明した。結局これらの実験結果は、このプロモーター置換戦略が有効であり、外膜ブレブ中の内在性外膜タンパク質の合成を上方調節することを可能にすることを裏付けている。
【0194】
地理的に孤立したある種の地域(キューバなど)の住民は、大体1又は少数の外膜タンパク質血清型に属する限られた数のN. meningitidis分離株に感染する。PorAは防御的、菌株特異的抗菌性抗体を誘発する大外膜タンパク質抗原であるため、少数のporA血清型をワクチンに使用してワクチン防御を付与することが可能になる。そのうえ、PorAはいくつかの他外膜タンパク質と相互作用し、又はそれらのタンパク質を安定化させる可能性もある。その場合は、外膜ブレブにPorAが存在するほうが有利であり、組換え改良ブレブのワクチン効能を高めることになろう。
【0195】
こうした理由から、機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現するN. meningitidis血清群B株のD15/Omp85外膜タンパク質の発現を上方調節するのが望ましいであろう。QIAGEN Genomic Tips 100-Gキットを用いて組換えN. meningitidis血清群B cps-、porA-、D15/Omp85+株からゲノムDNAを抽出した。この試料のうち10 μgを直線状にし、古典的な形質転換プロトコールによるN. meningitidis血清群B cps-の形質転換に用いた。組換え菌は5 μg/mlのクロラムフェニコール含有GC培地上で得た。
【0196】
D15遺伝子の上流での二重乗換えに由来する組込みを、前述の要領によるPCR法でスクリーニングした。染色体では至る所で相同的組換えが起こりうるので、組換え菌株におけるporA遺伝子座の完全性を調節するために第2次PCRスクリーニングを実施した。この目的のために、PCRスクリーニング実験には内側porAプライマーPPA1 (5’-GCG GCC GTT GCC GAT GTC AGC C-3’)及びPPA2 (5’-GGC ATA GCT GAT GCG TGG AAC TGC-3’)を用いた。1170 bp断片の増幅により、組換え細菌中にporA遺伝子が存在することが確認される。
【0197】
組換え細菌(約5.108個に対応)は50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離することができる。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写して、抗porAモノクローナル抗体で、又はウサギ抗D15/Omp85ポリクローナル抗体で検査することができる。同じ菌株に由来する外膜ブレブの分析も同様にして行うことができる。
【0198】
実施例11: 機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する組換えN. meningitidis血清群B株でのHsfタンパク質抗原発現の上方調節
前述のように国によっては、外膜ブレブ中のPorAの存在は有利であり、組換え型の改良ブレブのワクチン効能を高めうる場合もある。以下の実施例では、改良型pCMK(+)ベクターを使用して、機能的csp遺伝子を欠くがPorAを発現する菌株においてHsfタンパク質抗原の発現を上方調節する。原pCMK(+)ベクターは、lacIqを発現するE. coliでは抑制されるがN. meningitidisでは転写活性をもつキメラporA/lacOプロモーターを収めている。改良型pCMK(+)ベクターでは本来のporAプロモーターを用いてhsf遺伝子の転写を促進させる。Hsfをコードこの遺伝子を、次表に掲げるHSF 01-NdeI及びHSF 02-NheIオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR増幅した。HSF 01-NdeIプライマーの配列ゆえに、発現するHsfタンパク質は5’末端に2つのメチオニン残基を含むであろう。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)の指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、48℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。対応するアンプリコンはpCMK(+)導入ベクターの対応する制限部位に挿入した。pCMK(+)-Hsfと命名されたこの組換えプラスミドでは、キメラporA/lacOプロモーターに存在したlacOを組換えPCR法で欠失させてある(図12参照)。pCMK(+)-Hsfを鋳型として次の2つのDNA断片をPCR増幅した:
−断片1。これはporA 5’組換え誘発領域、カナマイシン耐性遺伝子及びporAプロモーターを収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP1 (SacII)及びRP2は次表に示す。RP1プライマーはlacオペレーターのすぐ上流の配列と相同的である。
−断片2。これはporA遺伝子由来のShine-Dalgarno配列、hsf遺伝子及びporA 3’組換え誘発領域を収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP3及びRP4(ApaI)は次表に示す。RP3プライマーはlacオペレーターのすぐ下流の配列と相同的である。
【0199】
断片1の3’末端と断片2の5’末端は48塩基重複している。各PCR産物(1及び2) 500 ngを使用して、RP1とRP4をプライマーとする最終PCRを実施した。得られた最終アンプリコンをSacIIとApaIで切断したpSL1180ベクターにサブクローニングした。改良型プラスミドpCMK(+)-HsfはQIAGEN Maxiprepキットで大量精製し、この材料2 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠く組換えN. meningitidis血清群B株(実施例1で説明した菌株)を形質転換させた。porAの発現を保持するために、単一乗換えに由来する組込みを、PCR/ウェスタンブロット混合スクリーニング法で選別した。porA特異的PCR及びウェスタンブロット法で陽性と判明したカナマイシン耐性クローンをグリセロールストックとして−70℃で保存し、後の研究に使用した。分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。Hsfの発現はNmB [Cps-、PorA+]かNmB [Cps-、PorA+、Hsf+]に由来するホールセル溶菌(WCBL)で調べた。Coomassie染色法によりHsf発現の(内在Hsfレベル比での)著増が検出された (図13参照)。この結果から、pCMK(+)-Hsfベクターは機能すること、これを使用すれば外膜タンパク質の発現を上方調節し、同時にPorA大外膜タンパク質抗原が産生されないようにしうることが確認される。
【0200】
【表6】
【0201】
実施例12: 機能的cps遺伝子を欠くがPorAを発現する組換えN. meningitidis血清群B株でのグリーン蛍光タンパク質の発現
以下の実施例では、pCMKベクターを用いてN. meningitidisにおける細胞質異種タンパク質の発現を調べる。pKen-Gfpmut2プラスミドからGFK-Asn-mut2及びGFP-Speプライマー(実施例11の表を参照)を用いてグリーン蛍光タンパク質を増幅した。AnsIはNdeIと相補的な付着末端を与え、またSpeIはNheIと相補的な付着末端を与える。PCR増幅に用いた条件はサプライヤー(HiFi DNA Polymerase, Boehringer Mannheim GmbH)の指定に従った。サーマルサイクリングは次のとおりとした: 25サイクル(94℃1分、48℃1分、72℃3分)及び1サイクル(72℃10分、4℃回収まで)。次いで、対応するアンプリコンをNdeI及びNheI制限酵素で切断済みのpCMK(+)導入ベクターに挿入した。pCMK(+)-GFPと命名されたこの組換えプラスミドでは、キメラporA/lacOプロモーターに存在したlacOを組換えPCR法で欠失させてある。pCMK(+)-GFPを鋳型として次の2つのDNA断片をPCR増幅した:
−断片1。これはporA 5’組換え誘発領域、カナマイシン耐性遺伝子及びporAプロモーターを収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP1 (SacII)及びRP2は実施例11の表に示すとおりである。RP1プライマーはlacオペレーターのすぐ上流の配列と相同的である。
−断片2。これはporA遺伝子由来のShine-Dalgarno配列、gfp遺伝子及びporA 3’組換え誘発領域を収めている。使用したオリゴヌクレオチドプライマーRP3及びRP4(ApaI)は実施例11の表に示すとおりである。RP3プライマーはlacオペレーターのすぐ下流の配列と相同的である。
【0202】
断片1の3’末端と断片2の5’末端は48塩基重複している。各PCR産物(1及び2) 500 ngを使用して、RP1とRP4をプライマーとする最終PCRを実施した。このPCR断片20 μgを用いて機能的cps遺伝子を欠くN. meningitidis血清群B株を形質転換させた。
【0203】
線状DNAによる形質転換は環状DNAプラスミドによるよりも低効率であるが、得られた組換え体はどれも二重乗換えを起こしていた(PCR/ウェスタンブロット混合スクリーニング法で確認)。カナマイシン耐性クローンをグリセロールストックとして−70℃で保存し、後の研究に使用した。分取量の細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。
【0204】
GFPの発現はNmB [Cps-、PorA+]かNmB [Cps-、PorA-、GFP+]に由来するホールセル溶菌(WCBL)で調べた。Coomassie染色法により、受容N. meningitidis菌株には見られないGFP発現が検出された (図14参照)。
【0205】
実施例13: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B NspA遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはNspA遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、NspA抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、NspA遺伝子の上流に位置するDNA領域(924 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:7)。NspA遺伝子の開始コドン(ATG)から−115〜−790のヌクレオチドを含むDNA断片(675 bp)を、オリゴヌクレオチドPNS1’ (5’-CCG CGA ATT CGA CGA AGC CGC CCT CGA C-3’)及びPNS2 (5’-CGT CTA GAC GTA GCG GTA TCC GGC TGC -3’)を用いてPCR増幅した。これらのオリゴヌクレオチドはそれぞれ制限部位EcoRI及びXbaIを含む(下線部)。このPCR断片を制限酵素EcoRI及びXbaIで切断し、pUC18プラスミドに挿入した。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992), Biotechniques 12: 528- 534]にかけて、形質転換に必要とされる髄膜炎菌取込み配列及び適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにした。サークルPCR法はオリゴヌクレオチドBAD01-2 (5’-GGC GCC CGG GCT CGA GCT TAT CGA TGG AAA ACG CAG C-3’)及びBAD02-2 (5’-GGC GCC CGG GCT CGA GTT CAG ACG GCG CGC TTA TAT AGT GGA TTA AC-3’)を使用して実施した。これらのオリゴヌクレオチドは取込み配列と下線を付した適当な制限部位(XmaIとXhoI)を含んでいる。得られたPCR断片はゲル精製後、XhoIで切断した。このCmR/PorAプロモーターカセットは前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、下線で示した適当な制限部位(XmaI、XbaI、SpeI及びXhoI)を含むオリゴヌクレオチドBAD 15-2(5’-GGC GCC CGG GCT CGA GTC TAG ACA TCG GGC AAA CAC CCG-3’)及びBAD 03-2(5’-GGC GCC CGG GCT CGA GCA CTA GTA TTA CCC TGT TAT CCC-3’)である。得られたPCR断片は部分消化し、対応する酵素で切断しておいたサークルプラスミドに挿入した。この組換えプラスミド10 μgを線状にし、莢膜多糖と大外膜タンパク質のうちの1つ(PorA)を欠くN. meningitidis血清群B株(cps-、porA-)の形質転換に使用した。二重乗換え事象に由来する組換えN. meningitidisクローン[オリゴヌクレオチドBAD 25 (5’-GAG CGA AGC CGT CGA ACG C-3’)及びBAD08 (5’-CTT AAG CGT CGG ACA TTT CC-3’)の使用によるPCRスクリーニングで選別]を5 μg/mlのクロラムフェニコール含有GC培地上で選別し、NspAの発現を分析した。組換え細菌(約5.108個に対応)を50 μlのPAGE-SDS緩衝液に再懸濁させ、冷凍(−20℃)/煮沸(100℃)を3回繰り返し、12.5%ゲルPAGE-SDS電気泳動で分離した。次いでゲルをCoomassieブリリアントブルーR250で染色し、またはニトロセルロースフィルターに転写して、抗PorAモノクローナル抗体で、又は抗NspAポリクローナル抗体で、検査することができる (図17参照)。意外なことに、Omp85の場合と同様にプロモーターを開始コドンの約400 bp上流に導入すると約100 bp上流に導入した場合と比べて約50倍も発現が強まることも判明した。
【0206】
同じ組換えpUCプラスミドは、機能的cps遺伝子を欠くがPorAをなお発現するN. meningitidis血清群B株におけるNspA発現の上方調節にも使用できる。
【0207】
実施例14: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B pldA(omplA)遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはpldA(omplA)遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、PldA (OmplA1)抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、pldA遺伝子の上流に位置するDNA領域(373 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:18)。このDNAは推定rpsT遺伝子をコードする配列を含んでいる。rpsTの終止コドンはpldA ATGの169 bp上流に位置する。この潜在的に重要な遺伝子の破壊を防ぐために、pldA ATGのすぐ上流にCmR/PorAプロモーターカセットを挿入することにした。その目的のために、rpsT遺伝子、169 bp遺伝子間配列及びpldA遺伝子の最初の499ヌクレオチドに対応する992 bpのDNA断片を、N. meningitidis血清群BゲノムDNAから、取込み配列(下線部)を含むオリゴヌクレオチドPLA1 Amo5 (5’-GCC GTC TGA ATT TAA AAT TGC GCG TTT ACA G-3’)及びPLA1 Amo3 (5’-GTA GTC TAG ATT CAG ACG GCG CAA TTT GGT TTC CGC AC-3’)を用いてPCR増幅した。PLA1 Amo3はXbaI制限部位をも含んでいる。このPCR断片をHigh Pure Kit (Roche、ドイツ/マンハイム)でクリーニングし、pGemTベクター(Promega、米国)に直接クローニングした。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992)]にかけて、適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにした。サークルPCR法はオリゴヌクレオチドCIRC1-Bgl (5’-CCT AGA TCT CTC CGC CCC CCA TTG TCG-3’)及びCIRC1-XH-RBS/2 (5’-CCG CTC GAG TAC AAA AGG AAG CCG ATA TGA ATA TAC GGA ATA TGC G-3’)か又はCIRC2-XHO/2 (5’-CCG CTC GAG ATG AAT ATA CGG AAT-3’)を使用して実施した。これらのオリゴヌクレオチドは下線を付した適当な制限部位(BglIIとXhoI)を含んでいる。このCmR/PorAプロモーターカセットは前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、下線で示した適当な制限部位(BglIIとXhoI)を含むオリゴヌクレオチドBAD 20 (5’-TCC CCC GGG AGA TCT CAC TAG TAT TAC CCT GTT ATC CC-3’)及びCM-PORA-3 (5’-CCG CTC GAG ATA AAA ACC TAA AAA CAT CGG GC-3’)である。このPCR断片は、プライマーCIRC1-Bgl及びCIRC1-XH-RBS/2で得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはmeningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-]株の形質転換に使用することができる。pldAの上流領域での二重乗換えによる組込みは、pldA ATGのすぐ上流へのporAプロモーターの挿入を誘導することになろう。
【0208】
プロモーターを置換したD15/Omp85過剰発現型の組換えN. meningitidis血清群B株[cps-、porA-、D15/Omp85+]のゲノムDNAからもう1つのカセットを増幅した。このカセットはcmR遺伝子、porAプロモーター、及びD15/Omp85遺伝子の5’隣接領域に対応する400 bpを収める。この配列はNeisseriaにおけるD15/ Omp85発現の上方調節に有効であることが立証済みであり、他Neisseria抗原の発現の上方調節も試験されることになろう。増幅に使用されたプライマーはBAD 20及びXhoI制限部位(下線部)を含むCM-PORA-D15/3 (5’-CGG CTC GAG TGT GAG TTC CTT GTG GTG C-3’)であった。このPCR断片を、プライマーCIRC1-Bgl及びCIRC2-XHO/2で得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはN. meningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-] 株の形質転換に使用されることになろう。pldAの上流領域における二重乗換えによる組込みはpldA ATGの400 bp上流へのporAプロモーターの挿入を誘導しよう。
【0209】
実施例15: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B tbpA遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはtbpA遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、TbpA抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、tbpA遺伝子の上流に位置するDNA領域(731 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:17)。このDNAはTbpB抗原をコードする配列を含んでいる。これらの遺伝子は1つのオペロンに編成されている。tbpB遺伝子は削除され、CmR/porAプロモーターカセットへと置換されることになろう。その目的のために、tbpB遺伝子の509 bp 5’隣接領域、2139 bp tbpBコード配列、87 bp遺伝子間配列及びtbpAコード配列の最初の483ヌクレオチドに対応する3218 bpのDNA断片を、N. meningitidis血清群BゲノムDNAから、取込み配列とNheI及びHindIII 制限部位(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD16 (5’-GGC CTA GCT AGC CGT CTG AAG CGA TTA GAG TTT CAA AAT TTA TTC-3’)及びBAD17 (5’-GGC CAA GCT TCA GAC CGC GTT CGA AGT TTG AGC CTT TGC-3’)を用いてPCR増幅した。このPCR断片をHigh Pure Kit (Roche、ドイツ/マンハイム)でクリーニングし、pGemTベクター(Promega、米国)に直接クローニングした。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992)]にかけ、(i) 適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにし、また(ii) tbpBの5’隣接配列のうちの209 bpとtbpBコード配列を削除するようにした。サークルPCR法は、適当な制限部位XmaI、BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD 18 (5’-TCC CCC GGG AAG ATC TGG ACG AAA AAT CTC AAG AAA CCG-3’)及びBAD 19 (5’-GGA AGA TCT CCG CTC GAG CAA ATT TAC AAA AGG AAG CCG ATA TGC AAC AGC AAC ATT TGT TCC G-3’)を使用して実施した。このCmR/PorAプロモーターカセットを前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、適当な制限部位XmaI、SpeI、BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD 21 (5’-GGA AGA TCT CCG CTC GAG ACT TCG GGC AAA CAC CCG-3’) 及びBAD 20 (5’-TCC CCC GGG AGA TCT CAC TAG TAT TAC CCT GTT ATC CC-3’)である。このPCR断片はサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはmeningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-]株の形質転換に使用されよう。tbpAの上流領域での二重乗換えによる組込みは、tbpA ATGのすぐ上流へのporAプロモーターの挿入を誘導することになろう。
【0210】
実施例16: プロモーターの置換によるN. meningitidis血清群B pilQ遺伝子発現の上方調節
本実施例の狙いはpilQ遺伝子の内在プロモーター領域を強いporAプロモーターで置換して、PilQ抗原の産生が上方調節されるようにすることにある。その目的のために、E. coliクローニング技術を用いてプロモーター置換用プラスミドを構築した。N. meningitidis株ATCC 13090の未解明ゲノムDNA配列を収めた民間のIncyte PathoSeqデータベースから、pilQ遺伝子の上流に位置するDNA領域(772 bp)を見つけ出した(SEQ ID NO:12)。このDNAはTbpB抗原をコードする配列を含んでいる。ピリンはこの細菌の必須要素であるため、pilQ遺伝子は破壊を防ぎたいオペロンの一部である。pldA遺伝子発現の上方調節に関して述べたのと同じ方式によって、pilQ遺伝子の上流にCmR/porAプロモーターカセットを導入した。その目的のために、pilQコード配列の3’側部分、18 bpの遺伝子間配列、及びpilQ遺伝子の最初の392ヌクレオチドに対応する866 bpのDNA断片を、N. meningitidis血清群BゲノムDNAから、取込み配列と制限部位(NheI及びHindIII 、下線部)とを含むオリゴヌクレオチドPQ-rec5-Nhe (5’-CTA GCT AGC GCC GTC TGA ACG ACG CGA AGC CAA AGC -3’)及びPQ-rec3-Hin (5’-GCC AAG CTT TTC AGA CGG CAC GGT ATC GTC CGA TTC G-3’)を用いてPCR増幅した。このPCR断片をpGemTベクター(Promega、米国)に直接クローニングした。このプラスミドをサークルPCR突然変異誘発 [Jones & Winistofer (1992)]にかけて、適当な制限部位を挿入しCmR/PorAプロモーターカセットのクローニングができるようにした。サークルPCR法は、適当な制限部位BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドCIRC1-PQ-Bgl (5’-GGA AGA TCT AAT GGA GTA ATC CTC TTC TTA -3’)及びCIRC1-PQ-XHO (5’-CCG CTC GAG TAC AAA AGG AAG CCG ATA TGA TTA CCA AAC TGA CAA AAA TC -3’)か又はCIRC2-PQ-X (5’-CCG CTC GAG ATG AAT ACC AAA CTG ACA AAA ATC-3’)を使用して実施した。このCmR/PorAプロモーターカセットを前述のpUC D15/Omp85プラスミドから増幅させた。増幅に使用したプライマーは、適当な制限部位BglII及びXhoI(下線部)を含むオリゴヌクレオチドBAD 20 (5’-TCC CCC GGG AGA TCT CAC TAG TAT TAC CCT GTT ATC CC-3’) 及びCM-PORA-3 (5’-CCG CTC GAG ATA AAA ACC TAA AAA CAT CGG GCA AAC ACC C-3’)である。このPCR断片は、プライマーCIRC1-PQ-Blg及びCIRC1-PQ-XHOの使用によって得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはmeningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-]株の形質転換に使用することができる。pilQの上流領域での二重乗換えによる組込みは、pilQ ATGのすぐ上流へのporAプロモーターの挿入を誘導することになろう。
【0211】
プロモーターを置換したD15/Omp85過剰発現型の組換えN. meningitidis血清群B株[cps-、porA-、D15/Omp85+]のゲノムDNAからもう1つのカセットを増幅した。このカセットはcmR遺伝子、porAプロモーター、及びD15/Omp85遺伝子の5’隣接領域に対応する400 bpを収める。この配列はNeisseriaにおけるD15/ Omp85発現の上方調節に有効であることが立証済みであり、他Neisseria抗原の発現の上方調節も試験されることになろう。増幅に使用されたプライマーはBAD 20及びXhoI制限部位(下線部)を含むCM-PORA-D153 (5’-GGG CTC GAG TGT CAG TTC CTT GTG GTG C-3’)であった。このPCR断片を、プライマーCIRC1-PQ-Bgl及びCIRC2-PQ-Xで得られたサークルPCRプラスミドにクローニングした。このプラスミドはN. meningitidis血清群B [cps-]及び[cps-、porA-] 株の形質転換に使用することができる。pilQの上流領域における二重乗換えによる組込みはpilQ ATGの400 bp上流へのporAプロモーターの挿入を誘導しよう。
【0212】
実施例17: N. meningitidis染色体に「クリーンな」、無傷の突然変異を導入するためのkanR/sacBカセットの構築
本実施例の狙いは、N. meningitidis染色体組換えの陽性スクリーニング用選択マーカー(すなわちkanR遺伝子)と組み換え後に染色体からカセットを削除するための対抗選択マーカー(すなわちsacB遺伝子)とを収めた多能型DNAカセットを構築することである。この方法では、相同的組換え時に導入される異種DNAはすべてNeisseria染色体から除去されることになろう。
【0213】
独自のプロモーターの支配下に発現するneoR遺伝子とsacB遺伝子とを含むDNA断片を、pIB 279プラスミド[Blomfield IC, Vaughn V, Rest RF, Eisenstein BI (1991), Mol Microbiol 5: 1447-57]のBamHI制限酵素による切断で得た。受容ベクターは前述のプラスミドpCMKに由来した。pCMKのkanR遺伝子を酵素NruI及びEcoRVによる切断で削除した。このプラスミドをpCMKsと命名した。neoR/sacBカセットをpCMKsの、BamHI切断末端と相補的なBglII制限部位に挿入した。
【0214】
このプラスミドを入れたE. coliは2%スクロースの存在下では培地中で増殖することができないので、sacBプロモーターの機能性が確認される。このプラスミドは、N. meningitidis血清群B染色体中のporA遺伝子座へのカセットの挿入を可能にする組換え誘発領域を含んでいる。組換えNeisseriaは200 μg/mlカナマイシン含有GC寒天プレート上で得られた。あいにく、2%スクロース含有GC寒天プレート上では増殖に差が観察されず、N. meningitidisではsacBプロモーターは機能しなかった。
【0215】
kanRプロモーターの支配を受けるようにしたsacB遺伝子を収めた新しいカセットを構築した。プラスミドpUC4K (Amersham Pharmacia Biotech、米国)を鋳型として使用し、NcoI及びXbaI制限部位(下線部)を含むオリゴヌクレオチドCIRC-Kan-Nco (5’-CAT GCC ATG GTT AGA AAA ACT CAT CGA GCA TC-3’)及びCIRC-Kan-Xba (5’-CTA GTC TAG ATC AGA ATT GGT TAA TTG GTT G-3’)をプライマーとしてサークルPCR法を実施した。得られたPCR断片はゲル精製し、NcoIで切断し、pIB279プラスミドからのPCRで生成したsacB遺伝子に結合した。このPCRにはNcoI制限部位(下線部)とRBS(太字)とを含むオリゴヌクレオチドSAC/NCO/NEW5 (5’-CAT GCC ATG GGA GGA TGA ACG ATG AAC ATC AAA AAG TTT GCA A-3’)及びNcoI制限部位(下線部)を含むオリゴヌクレオチドSAC/NCO/NEW3 (5’-GAT CCC ATG GTT ATT TGT TAA CTG TTA ATT GTC-3’)を使用した。組換えE. coliクローンは2%スクロース含有寒天プレート上でそのスクロース感受性を試験することができる。この新しいkanR/sacBカセットはpCMKsにサブクローニングすることができるし、またN. meningitidis血清群B cps-株の形質転換に使用することができる。Neisseriaでは獲得されたスクロース感受性が確認されることになろう。pMCKsプラスミドは組換えkanR/sacB Neisseriaに導入して、その染色体porA遺伝子座に挿入されたカセットを完全に削除するために使用することができる。クリーンな組換えNeisseriaが2%スクロース含有GC寒天プレート上で得られよう。
【0216】
実施例18: N. meningitidis染色体の相同的組換えを可能にする小組換え誘発配列(43bp)の使用
本実施例の狙いはNeisseria染色体の挿入、修飾又は欠失の促進を目的とした小組換え誘発配列(43bp)の使用である。この実施例の成果は、E. coliの相同配列のサブクローニングステップの省略という点で将来の作業を大いにやり易くしよう(43 bpの組換え誘発配列はPCRプライマーに容易に付加することができる)。NmB porA遺伝子の5’隣接配列に対して相同的な43 bp(太字)と取込み配列(下線部)とを含むオリゴヌクレオチドKan-PorA-5 (5’-GCC GTC TGA ACC CGT CAT TCC CGC GCA GGC GGG AAT CCA GTC CGT TCA GTT TCG GGA AAG CCA CGT TGT GTC-3’)及びNmB porA遺伝子の3’隣接配列に対して相同的な43 bp(太字)と取込み配列(下線部)とを含むオリゴヌクレオチドKan-PorA-3 (5’-TTC AGA CGG CGC AGC AGG AAT TTA TCG GAA ATA ACT GAA ACC GAA CAG ACT AGG CTG AGG TCT GCC TCG-3’)を使用してプラスミドpUC4KからkanR遺伝子をPCR増幅した。得られた1300 bpのDNA断片をpGemTベクター(Promega、米国)にクローニングした。このプラスミドはN. meningitidis血清群B cps-株の形質転換に使用することができる。組換えNeisseiraは200 μg/mlカナマイシン含有GCプレート上で得られよう。porA遺伝子座での二重乗換えに由来する組込みは、前述のようなPPA1及びPPA2プライマー使用のPCR法でスクリーニングすることになろう。
【0217】
実施例19: 野生型及び組換えN. meningitidisブレブ接種マウスの能動防御
Al(OH)3に吸着させた種々のOMV 5 μgを0日目、14日目、28日目の3回にわたり動物に(IP経路で)接種した。28日目(第2回接種の14日後)と35日目(第3回接種の7日後)に採血し、また35日目に(IP経路で)病原体を投与した。病原体投与量は20 x LD50 (〜107 CFU/マウス)であった。病原体投与後7日間について死亡率をモニターした。
【0218】
投与したOMVは次のとおりであった。
【0219】
群1: Cps-、PorA+ ブレブ
群2: Cps-、PorA- ブレブ
群3: Cps-、PorA-、NspA+ ブレブ
群4: Cps-、PorA-、Omp85+ ブレブ
群5: Cps-、PorA-、Hsf+ ブレブ
図15はSDS-PAGEで分析したこれらのOMVのパターンを示す(Coomassie染色)。
【0220】
病原体投与の24時間後には、ネガティブ・コントロール群(Al(OH)3だけを接種)は100% (8/8)死亡したが、5種類のOMVを接種したマウス群はなお生存していた(7~8/8のマウスが生き残った)。病原体投与後7日間には病状もモニターしたが、NspA過剰発現ブレブを接種したマウスは他群よりも症状が軽いように見受けられた。PorA+ブレブ中のPorAの存在は同種菌株による感染に対し幅広い防御を与えそうである。ただし、PorA-上方調節ブレブによって誘発される防御は、少なくともある程度までは、NspA、Omp85またはHsf含量の増加にも負うようである。
【0221】
実施例20: ホールセル及び特異的ELISA法で測定した組換えブレブの免疫原性
MenB細胞表面に存在する抗原に対する抗体の認識能力を測定するために、(テトラサイクリン不活化細胞を使用して)ホールセルELISA法で(実施例19に由来する)マウス血清プールを検査し、力価を中間力価で表示した。どの種類のブレブ抗体も高いホールセルAb力価を誘発するが、ネガティブ・コントロール群は明らかに陰性であった。
【0222】
【表7】
【0223】
組換えHSFタンパク質に対する特異的Ab応答を調べた。マイクロプレートに1 μg/mlの完全長HSF分子を塗った。
【0224】
図16に掲げた結果は、(精製した組換えHSFをプレートに使用した場合)HSF過剰発現OMVをマウスの免疫に使用したときに高い特異的HSF応答が現れたことを示している。HSF過剰発現ブレブは十分なレベルの特異抗体を誘発する。
【0225】
【表8】
【0226】
【表9】
【0227】
【表10】
【0228】
【表11】
【0229】
【表12】
【0230】
【表13】
【0231】
【表14】
【0232】
【表15】
【0233】
【表16】
【0234】
【表17】
【0235】
【表18】
【0236】
【表19】
【0237】
【表20】
【0238】
【表21】
【0239】
【表22】
【0240】
【表23】
【0241】
【表24】
【0242】
【表25】
【0243】
【表26】
【0244】
【表27】
【0245】
【表28】
【0246】
【表29】
【0247】
【表30】
【0248】
【表31】
【0249】
【表32】
【0250】
【表33】
【0251】
【表34】
【0252】
【表35】
【0253】
【表36】
【0254】
【表37】
【0255】
【表38】
【0256】
【表39】
【0257】
【表40】
【0258】
【表41】
【0259】
【表42】
【0260】
【表43】
【0261】
【表44】
【0262】
【表45】
【0263】
【表46】
【0264】
【表47】
【0265】
【表48】
【0266】
【表49】
【0267】
【表50】
【0268】
【表51】
【0269】
【表52】
【0270】
【表53】
【0271】
【表54】
【0272】
【表55】
【0273】
【表56】
【0274】
【表57】
【0275】
【表58】
【0276】
【表59】
【0277】
【表60】
【0278】
【表61】
【0279】
【表62】
【0280】
【表63】
【0281】
【表64】
【0282】
【表65】
【0283】
【表66】
【0284】
【表67】
【0285】
【表68】
【0286】
【表69】
【0287】
【表70】
【0288】
【表71】
【0289】
【表72】
【0290】
【表73】
【0291】
【表74】
【0292】
【表75】
【0293】
【表76】
【0294】
【表77】
【0295】
【表78】
【0296】
【表79】
【0297】
【表80】
【0298】
【表81】
【0299】
【表82】
【0300】
【表83】
【0301】
【表84】
【0302】
【表85】
【0303】
【表86】
【0304】
【表87】
【0305】
【表88】
【0306】
【表89】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾されたモラクセラ・カタラリス(Moraxella catarrhalis)株から単離された遺伝子組換えブレブ調製品であって、以下の方法:
a) ブレブ調製品中の免疫支配的可変又は非防御抗原を減らす方法であって、そのような抗原を同定し、該抗原の産生を少なくする又は無くするように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株からブレブを作るステップを含む方法;
を使用することにより得られ、そして該抗原の内の1以上が、CopB、OMP106、OmpB1、TbpB、LbpA、及びLbpBから成る群から選ばれる、前記ブレブ調製品。
【請求項2】
修飾されたヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)株から単離された遺伝子組換えブレブ調製品であって、以下の方法:
a) ブレブ調製品中の免疫支配的可変又は非防御抗原を減らす方法であって、そのような抗原を同定し、該抗原の産生を少なくする又は無くするように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株からブレブを作るステップを含む方法;
を使用することにより得られ、そして該抗原の内の1以上が、P2、P5、Hif、IgA1-プロテアーゼ、HgpA、HgpB、HMW1、HMW2、Hxu、TbpA、及びTbpBから成る群から選ばれる、前記ブレブ調製品。
【請求項3】
前記調製品が、下記群から選択される1以上のさらなる方法:
b) ブレブ調製品中の防御OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
c) ブレブ調製品中の条件発現防御OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該発現の抑制的調節機構が除去されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
d) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
e) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の弱毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
f) ブレブ調製品中のリピドAの毒性を低下させかつ防御抗原のレベルを高める方法であって、防御抗原に融合されたポリミキシンAペプチド又はその誘導体又は類似体をコードする遺伝子の組み込みを目的に菌株を染色体組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
g) ブレブ調製品上に保存OMP抗原をつくる方法であって、該抗原を特定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の可変領域が欠失するように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
h) ヒト構造と構造的類似性をもち、かつヒトにおいて自己免疫応答を誘発する力をもつ可能性のある抗原のブレブ調製品中の発現を低下させる方法であって、該抗原の生合成に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法; または
i) ブレブ調製品中の防御OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、より強い異種プロモーター配列支配下にあって該抗原をコードする遺伝子の1以上のコピーがさらに染色体に導入されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
の採用によって得られうる、請求項1又は2に記載の遺伝子組換えブレブ調製品。
【請求項4】
方法a)、b)、c)、d)、e)、h)及びi)の遺伝子操作ステップが細菌染色体上の少なくとも30ヌクレオチドの配列と菌株内導入ベクター上の少なくとも30ヌクレオチドの配列との間の相同的組換え事象によって行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレブ調製品。
【請求項5】
前記遺伝子操作ステップが、ヌクレオチド配列Xによって分離される細菌染色体上の少なくとも30ヌクレオチドの二配列とヌクレオチド配列Yによって分離される菌株内導入ベクター上の少なくとも30ヌクレオチドの二配列との間の二重乗換え型相同的組換え事象によって行われ、組換え事象中にXとYが入れ替わる、請求項4に記載のブレブ調製品。
【請求項6】
前記二ヌクレオチド配列がほぼ同じ長さであり、また前記ベクターが線状DNA分子である、請求項5に記載のブレブ調製品。
【請求項7】
方法a)、b)、c)、d)、e)及びh)の組換え事象が目的遺伝子の開始コドンの上流1000 bpの染色体領域内で行われる、請求項5又は6に記載のブレブ調製品。
【請求項8】
方法a)、d)又はh)に関して、ヌクレオチド配列Xが遺伝子のプロモーター領域の一部を含み、またヌクレオチド配列Yが弱いプロモーター領域か又は無プロモーター領域を含む、請求項7に記載のブレブ調製品。
【請求項9】
方法a)、d)及びh)の組換え事象はヌクレオチド配列Xが目的遺伝子のコード配列の一部を含むように行われる、請求項5又は6に記載のブレブ調製品。
【請求項10】
方法i)の組換え事象はヌクレオチド配列Yが発現カセット内のさらなる遺伝子コピーを含むように行われる、請求項5又は6に記載のブレブ調製品。
【請求項11】
方法b)及び/又はi)を用いて、OMP106、HasR、PilQ、OMP85、lipo06、lipo10、lipo11、lipo18、P6、ompCD、CopB、D15、OmplA1、Hly3、LbpA、LbpB、TbpA、TbpB、OmpE、UspA1、UspA2、及びOmp21からなる群からの1以上の遺伝子を上方調節することによって得られうる、請求項3に記載のモラクセラ・カタラリス(Moraxella catarrhalis)ブレブ調製品。
【請求項12】
方法b)及び/又はi)を用いて、D15、P6、TbpA、TbpB、P2、P5、OMP26、HMW1、HMW2、HMW3、HMW4、Hia、Hsf、Hap、Hin47、及びHifからなる群からの1以上の遺伝子を上方調節することによって得られうる、請求項3に記載のヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)ブレブ調製品。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のブレブ調製品と製薬上許容しうる賦形剤とを含むワクチン。
【請求項14】
請求項1、3又は11に記載のブレブ調製品、及び1以上の単体又は複合体の肺炎球菌莢膜多糖、及び類型化不能H. influenzae感染症から宿主を防御することができる1以上の抗原を含む滲出性中耳炎ワクチン。
【請求項15】
請求項2、3又は12に記載のブレブ調製品、及び1以上の単体又は複合体の肺炎球菌莢膜多糖、及びM. catarrhalis感染症から宿主を防御することができる1以上の抗原を含む滲出性中耳炎ワクチン。
【請求項16】
肺炎連鎖球菌Streptococcus pneumoniaeから宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原及び/又はRSVから宿主を防御することができる1以上の抗原及び/又はインフルエンザウィルスから宿主を防御することができる1以上の抗原を追加的に含む、請求項14又は15に記載の滲出性中耳炎ワクチン。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のブレブ調製品の製造材料となる修飾されたグラム陰性菌株。
【請求項18】
請求項17に記載の修飾されたグラム陰性菌株からワクチンを生産するステップを含むワクチンの製造方法。
【請求項19】
Moraxella catarrhalisの感染症に対する免疫をヒト宿主に与えるための薬剤の製造における、請求項1又は11に記載のブレブ調製品の使用。
【請求項20】
Haemophilus influenzaeの感染症に対する免疫をヒト宿主に与えるための薬剤の製造における、請求項2又は12に記載のブレブ調製品の使用。
【請求項1】
修飾されたモラクセラ・カタラリス(Moraxella catarrhalis)株から単離された遺伝子組換えブレブ調製品であって、以下の方法:
a) ブレブ調製品中の免疫支配的可変又は非防御抗原を減らす方法であって、そのような抗原を同定し、該抗原の産生を少なくする又は無くするように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株からブレブを作るステップを含む方法;
を使用することにより得られ、そして該抗原の内の1以上が、CopB、OMP106、OmpB1、TbpB、LbpA、及びLbpBから成る群から選ばれる、前記ブレブ調製品。
【請求項2】
修飾されたヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)株から単離された遺伝子組換えブレブ調製品であって、以下の方法:
a) ブレブ調製品中の免疫支配的可変又は非防御抗原を減らす方法であって、そのような抗原を同定し、該抗原の産生を少なくする又は無くするように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株からブレブを作るステップを含む方法;
を使用することにより得られ、そして該抗原の内の1以上が、P2、P5、Hif、IgA1-プロテアーゼ、HgpA、HgpB、HMW1、HMW2、Hxu、TbpA、及びTbpBから成る群から選ばれる、前記ブレブ調製品。
【請求項3】
前記調製品が、下記群から選択される1以上のさらなる方法:
b) ブレブ調製品中の防御OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
c) ブレブ調製品中の条件発現防御OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、該発現の抑制的調節機構が除去されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
d) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
e) ブレブ調製品中の細菌LPSのリピドA部分を改変する方法であって、該LPSリピドA部分の弱毒化に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の上流により強いプロモーター配列を導入して該遺伝子の発現レベルが非組換えブレブ中での発現レベルを上回るように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
f) ブレブ調製品中のリピドAの毒性を低下させかつ防御抗原のレベルを高める方法であって、防御抗原に融合されたポリミキシンAペプチド又はその誘導体又は類似体をコードする遺伝子の組み込みを目的に菌株を染色体組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
g) ブレブ調製品上に保存OMP抗原をつくる方法であって、該抗原を特定するステップ、該抗原をコードする遺伝子の可変領域が欠失するように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
h) ヒト構造と構造的類似性をもち、かつヒトにおいて自己免疫応答を誘発する力をもつ可能性のある抗原のブレブ調製品中の発現を低下させる方法であって、該抗原の生合成に関与する遺伝子を特定するステップ、該遺伝子の発現を抑える又は休止させるように菌株を遺伝子組換えするステップ、および該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法; または
i) ブレブ調製品中の防御OMP抗原の発現を上方調節する方法であって、該抗原を同定するステップ、より強い異種プロモーター配列支配下にあって該抗原をコードする遺伝子の1以上のコピーがさらに染色体に導入されるように菌株を遺伝子組換えするステップ、及び該菌株よりブレブをつくるステップを含む方法;
の採用によって得られうる、請求項1又は2に記載の遺伝子組換えブレブ調製品。
【請求項4】
方法a)、b)、c)、d)、e)、h)及びi)の遺伝子操作ステップが細菌染色体上の少なくとも30ヌクレオチドの配列と菌株内導入ベクター上の少なくとも30ヌクレオチドの配列との間の相同的組換え事象によって行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレブ調製品。
【請求項5】
前記遺伝子操作ステップが、ヌクレオチド配列Xによって分離される細菌染色体上の少なくとも30ヌクレオチドの二配列とヌクレオチド配列Yによって分離される菌株内導入ベクター上の少なくとも30ヌクレオチドの二配列との間の二重乗換え型相同的組換え事象によって行われ、組換え事象中にXとYが入れ替わる、請求項4に記載のブレブ調製品。
【請求項6】
前記二ヌクレオチド配列がほぼ同じ長さであり、また前記ベクターが線状DNA分子である、請求項5に記載のブレブ調製品。
【請求項7】
方法a)、b)、c)、d)、e)及びh)の組換え事象が目的遺伝子の開始コドンの上流1000 bpの染色体領域内で行われる、請求項5又は6に記載のブレブ調製品。
【請求項8】
方法a)、d)又はh)に関して、ヌクレオチド配列Xが遺伝子のプロモーター領域の一部を含み、またヌクレオチド配列Yが弱いプロモーター領域か又は無プロモーター領域を含む、請求項7に記載のブレブ調製品。
【請求項9】
方法a)、d)及びh)の組換え事象はヌクレオチド配列Xが目的遺伝子のコード配列の一部を含むように行われる、請求項5又は6に記載のブレブ調製品。
【請求項10】
方法i)の組換え事象はヌクレオチド配列Yが発現カセット内のさらなる遺伝子コピーを含むように行われる、請求項5又は6に記載のブレブ調製品。
【請求項11】
方法b)及び/又はi)を用いて、OMP106、HasR、PilQ、OMP85、lipo06、lipo10、lipo11、lipo18、P6、ompCD、CopB、D15、OmplA1、Hly3、LbpA、LbpB、TbpA、TbpB、OmpE、UspA1、UspA2、及びOmp21からなる群からの1以上の遺伝子を上方調節することによって得られうる、請求項3に記載のモラクセラ・カタラリス(Moraxella catarrhalis)ブレブ調製品。
【請求項12】
方法b)及び/又はi)を用いて、D15、P6、TbpA、TbpB、P2、P5、OMP26、HMW1、HMW2、HMW3、HMW4、Hia、Hsf、Hap、Hin47、及びHifからなる群からの1以上の遺伝子を上方調節することによって得られうる、請求項3に記載のヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)ブレブ調製品。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のブレブ調製品と製薬上許容しうる賦形剤とを含むワクチン。
【請求項14】
請求項1、3又は11に記載のブレブ調製品、及び1以上の単体又は複合体の肺炎球菌莢膜多糖、及び類型化不能H. influenzae感染症から宿主を防御することができる1以上の抗原を含む滲出性中耳炎ワクチン。
【請求項15】
請求項2、3又は12に記載のブレブ調製品、及び1以上の単体又は複合体の肺炎球菌莢膜多糖、及びM. catarrhalis感染症から宿主を防御することができる1以上の抗原を含む滲出性中耳炎ワクチン。
【請求項16】
肺炎連鎖球菌Streptococcus pneumoniaeから宿主を防御することができる1以上のタンパク質抗原及び/又はRSVから宿主を防御することができる1以上の抗原及び/又はインフルエンザウィルスから宿主を防御することができる1以上の抗原を追加的に含む、請求項14又は15に記載の滲出性中耳炎ワクチン。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のブレブ調製品の製造材料となる修飾されたグラム陰性菌株。
【請求項18】
請求項17に記載の修飾されたグラム陰性菌株からワクチンを生産するステップを含むワクチンの製造方法。
【請求項19】
Moraxella catarrhalisの感染症に対する免疫をヒト宿主に与えるための薬剤の製造における、請求項1又は11に記載のブレブ調製品の使用。
【請求項20】
Haemophilus influenzaeの感染症に対する免疫をヒト宿主に与えるための薬剤の製造における、請求項2又は12に記載のブレブ調製品の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−17487(P2013−17487A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221310(P2012−221310)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2009−209628(P2009−209628)の分割
【原出願日】平成12年7月31日(2000.7.31)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2009−209628(P2009−209628)の分割
【原出願日】平成12年7月31日(2000.7.31)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【Fターム(参考)】
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