説明

ワニス、プリプレグ、樹脂付きフィルム、金属箔張積層板、プリント配線板

【課題】常温での貯蔵安定性が高く、使用時の作業性に優れたワニス、及びこれを用いてなるプリプレグ、樹脂付きフィルム、金属箔張積層板及びプリント配線板を提供する。
【解決手段】アミノ基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の少なくとも一部と、アミノ基を有する化合物の該アミノ基とを溶媒中で反応させて得られるワニス、フェノール性水酸基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の少なくとも一部と、フェノール性水酸基を有する化合物の該フェノール性水酸基とを溶媒中で反応させて得られるワニスである。また、これらいずれかのワニスを用いて得られる、プリプレグ、樹脂付きフィルム、金属箔張積層板及びプリント配線板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に用いられる積層板及びプリント配線板等を作製する際に使用するワニス、及び当該ワニスを用いて作製したプリプレグ、樹脂付きフィルム、金属箔張積層板、プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は小型化、軽量化が進行し、それに用いるプリント配線基板には、薄型多層化や微細配線化等による高密度配線が要求されている。高密度配線を実現するため、プリント配線基板には、基板上の微細配線の信頼性向上を目的として、低熱膨張率化が要求されている。特に、半導体チップ等の半導体デバイスを実装する高密度プリント配線基板であるパッケージ基板用途では、要求される特性はコア基板等と比較しさらに厳しい。
【0003】
また、実装方法としては、従来のワイヤボンディング方式に替わり、フリップチップ接続方式が広く用いられている。フリップチップ接続方式は、ワイヤボンディング方式に用いるワイヤの替わりに、はんだボールによって配線板と半導体デバイスを接続し、実装する方法である。この実装方法を用いる半導体パッケージとしては、CSP(chip scale package)、PoP(Package on Package)及びSiP(System in Package)等が挙げられる。
【0004】
このはんだボールによる接続を行う場合、はんだリフロー時にはんだボール及び配線板を約300℃まで加熱する。配線板は、樹脂組成物と繊維基材または支持体からなるプリプレグや樹脂付きフィルムと金属箔を積層した積層板とからなり、金属箔から配線を形成し作製されることが一般的である。このため、配線板が熱によって膨張し、実装した電子部品(特に半導体デバイス)と配線板の樹脂の熱膨張率の差から、反りと呼ばれる基板の歪みを生じ、特に半導体デバイスと配線板の接続部にあたる、はんだボールに応力が集中し、クラックを生じ接続不良を起こす問題があった。
【0005】
PoP構造の半導体パッケージの反りについて、図1を用いて具体的に説明する。まず、半導体パッケージはスルーホール20が形成された半導体パッケージ基板16上にボンディングワイヤ14で電気的に接続されてなる半導体チップ10が搭載されてなり、その上に封止剤12で封止がされている配線板が、基板18上のはんだボール22を介して設けられている。この状態で配線板に熱が加わると、封止材12とチップ10と半導体パッケージ基板16の熱膨張率の差によって反りが発生し、クラックCが生じる。
【0006】
このような状況を背景として、反りの生じにくい、低い熱膨張率の積層板が求められている。従来の積層板としては、エポキシ樹脂を主剤とした樹脂組成物をガラス織布又は不織布に含浸し乾燥したプリプレグを複数枚重ね、さらに片面又は両面に金属箔を設けて加熱加圧したものが一般的である。エポキシ樹脂は絶縁性や耐熱性、コストなどのバランスが優れるが、熱膨張率が大きい。このため、例えば特許文献1に開示されているようにシリカなどの無機充填材を添加して樹脂組成物の熱膨張率を低下させるのが一般的である。
【0007】
無機充填材を高充填することにより、さらなる低熱膨張率化が可能である。しかし、無機充填材による吸湿、絶縁信頼性の低下や樹脂−配線層の接着不良、またドリル加工性の悪化などから、多層配線板やパッケージ基板用途における高充填化には限界がある。
【0008】
また、特許文献2及び3には、樹脂組成物の架橋密度を高め、高Tg化し、熱膨張率を低減する手法が開示されている。しかし、架橋密度を高めることは架橋間の分子鎖を短くすることであり、反応性や樹脂構造の点で限界があった。
【0009】
一方、特許文献4には、熱膨張率を低減させる有効な手段として、架橋点間分子量を適正化した、多環式構造を有するエポキシ樹脂を用いる方法が開示されている。しかし、従来の多環式構造を有するエポキシ樹脂は、多環式構造部分の分子間力の引き合いによる結晶化のため、溶媒への溶解性が低く、加熱によって有機溶媒に溶解しても常温に戻ると再結晶化していた。
【0010】
さらに特許文献5には、低反り性を達成する有効な手段として、多環式構造を含む樹脂を用いる方法が開示されている。特許文献5には多環式構造を含む樹脂が封止材用途において有効である旨記載されている。封止材用途の場合はワニス化する必要が無く、有機溶媒に溶解した場合の再結晶化の問題はない。
しかし、積層板用途への展開を検討した場合、上述した通り、多環式構造を含む樹脂は有機溶媒に非常に難溶であり、ワニス化した状態での常温での貯蔵安定性が悪いという問題があり、積層板の製造直前に溶媒に溶解させ、ワニス化する必要があった。
そのため、多環式構造を含む樹脂の常温における貯蔵安定性を向上させることができればワニスを使用する際の作業性が向上し工業的に非常に意義のあるものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−182851号公報
【特許文献2】特開2000−243864号公報
【特許文献3】特開2000−114727号公報
【特許文献4】特開2007−314782号公報
【特許文献5】特開2007−002110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、常温での貯蔵安定性が高く、使用時の作業性に優れたワニス、及びこれを用いてなるプリプレグ、樹脂付きフィルム、金属箔張積層板及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到した。本発明は、下記の通りである。
【0014】
[1] アミノ基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の一部と、アミノ基を有する化合物の該アミノ基とを溶媒中で反応させて得られるワニス。
[2] フェノール性水酸基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の一部と、フェノール性水酸基を有する化合物の該フェノール性水酸基とを前記溶媒中で反応させる[1]に記載のワニス。
[3] 前記アミノ基を有する化合物が、グアナミン、ジシアンジアミド、及びアミノトリアジンノボラックのいずれかである[1]又は[2]に記載のワニス。
[4] フェノール性水酸基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の一部と、フェノール性水酸基を有する化合物の該フェノール性水酸基とを溶媒中で反応させて得られるワニス。
[5] 前記フェノール性水酸基を有する化合物が、フェノールノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂である[2]又は[4]に記載のワニス。
[6] 前記樹脂が前記官能基としてのエポキシ基を少なくとも1つ含むことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載のワニス。
[7] 前記樹脂がビフェニル構造、ナフタレン構造、ビフェニルノボラック構造、アントラセン構造、ジヒドロアントラセン構造からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する[1]〜[6]のいずれかに記載のワニス。
[8] 下記式(1)で表される構造を有する樹脂成分を含むワニス。
【0015】
【化1】

(上記式中、R1はアミノ基を有する化合物の残基である。)
[9] 前記式(1)で表される構造及び下記式(2)で表される構造のそれぞれの存在比率の合計に対する、前記式(1)で表される構造の存在比率が40%以下である[8]に記載のワニス。
【0016】
【化2】

【0017】
[10] [1]〜[9]のいずれかに記載のワニスを基材に塗布し、加熱乾燥してなるプリプレグ。
[11] 前記基材がガラス織布、ガラス不織布、アラミド織布、又はアラミド不織布である[10]に記載のプリプレグ。
[12] [1]〜[9]のいずれかに記載のワニスをフィルムに塗布し、加熱乾燥してなる樹脂付きフィルム。
[13] [10]又は[11]に記載のプリプレグの少なくとも一方の面に導体層を有する金属箔張積層板。
[14] [12]に記載の樹脂付きフィルムの少なくとも一方の面に導体層を有する金属箔張積層板。
[15] [13]又は[14]に記載の金属箔張積層板の少なくとも一方の面に備わる前記導体層を配線形成してなるプリント配線板。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、常温での貯蔵安定性が高く、使用時の作業性に優れたワニス、及びこれを用いてなるプリプレグ、樹脂付きフィルム、金属箔張積層板及びプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】PoP構造の半導体パッケージの反りの状態を示す説明図である。
【図2】YX-8800とジシアンジアミドを当量比1:1で行ったDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1]ワニス:
本発明の第1のワニスは、アミノ基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の官能基の少なくとも一部と、アミノ基を有する化合物の該アミノ基とを溶媒中で反応させて得られる。
本発明の第1のワニスは、構造的には、下記式(1)で表される構造を有する樹脂成分を含むワニスともいえる。
【0021】
【化3】

上記式中、R1はアミノ基を有する化合物の残基である。アミノ基を有する化合物については後述する。
【0022】
また、本発明の第2のワニスは、フェノール性水酸基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の官能基の少なくとも一部と、フェノール性水酸基を有する化合物の該フェノール性水酸基とを溶媒中で反応させて得られるワニスである。フェノール性水酸基を有する化合物については後述する。
なお、本明細書において、「アミノ基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂」及び「フェノール性水酸基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂」を適宜、「多環式構造を含む樹脂」という。
【0023】
本発明の第1のワニス及び第2のワニス(以下、これらのワニスをまとめて、単に「本発明のワニス」ということがある)は、多環式構造を含む樹脂とアミノ基を有する化合物又はフェノール性水酸基を有する化合物とを溶媒に分散した後加熱等して反応を行い、多環式構造を含む樹脂の溶媒溶解性を向上させ、長期保存を可能としたものである。また、溶解性を上げるための添加剤等を含有させる必要がないため、樹脂の特性の低下が少なく、特性維持に優れる。
以下、本発明のワニスについて詳細に説明する。
【0024】
(多環式構造を含む樹脂)
本発明に係る多環式構造を含む樹脂の「多環式構造」とは、芳香環同士が単結合を介して結合した構造や、芳香環が縮合した構造をいう。
芳香環同士が単結合を介して結合した構造としては、例えばビフェニル構造、ビフェニルノボラック構造、ターフェニル構造等が挙げられる。
また、芳香環が縮合した構造としては、例えばナフタレン構造、ナフタレンノボラック構造、アントラセン構造、ジヒドロアントラセン構造、フェナントレン構造、テトラセン構造、クリセン構造、トリフェニレン構造、テトラフェン構造、ピレン構造、ピセン構造及びペリレン構造等が挙げられる。
上記のような構造は、いずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。本発明のワニスを用いてなる積層板やプリント配線板、実装基板等の特性(熱膨張性、耐熱性等)の点から、ビフェニル構造、ビフェニルノボラック構造、ナフタレン構造、ナフタレンノボラック構造、アントラセン構造及びジヒドロアントラセン構造などが好ましく、ビフェニル構造、ビフェニルノボラック構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、ジヒドロアントラセン構造がより好ましい。これらは、立体構造が固定されているため、スタッキングを容易に発現することが可能であるといった特徴を有するため好ましい。
【0025】
多環式構造を含む樹脂は、加熱時の流動性が高く、硬化後の耐熱性や寸法安定性の点から、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂等が挙げられるが、生産性及び取り扱い性の点からエポキシ樹脂が好ましい。
なお、エポキシ樹脂の場合、アミノ基と反応する官能基及びフェノール性水酸基と反応する官能基は、エポキシ基となる。
【0026】
上記エポキシ樹脂の中でも、成型性の点でナフタレンノボラック型エポキシ樹脂や、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、低熱膨張性の点でナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂が好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、これらの性能を発揮するためには、エポキシ樹脂全量に対して、これらを合計で30質量%以上使用することが好ましく、50質量%以上使用することがより好ましい。
以下、好ましいエポキシ樹脂の具体例を示す。
【0027】
ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂としては、下記式(3)で表されるエポキシ樹脂が好ましい。式(3)で表される構造を有するエポキシ樹脂としては例えば、NC−3000(日本化薬株式会社製)が市販品として入手可能である。
【0028】
【化4】

上記式中、R4〜R7は同一又は互いに異なり、水素又はアルキル基を表す。また、nはn>0を満たす数であり、好ましくは、1.5≦n≦4.0である。
【0029】
ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂としては、下記式(4)で表される構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。式(4)で表される構造を有するエポキシ樹脂としては例えば、ESN−175(東都化成株式会社製)が市販品として入手可能である。
【0030】
【化5】

上記式中のmは、m>0を満たす数であり、好ましくは、2≦m≦7である。
【0031】
ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂としては、下記式(5)で表される構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。式(5)で表される構造を有するエポキシ樹脂としては例えば、YX−8800(ジャパンエポキシレジン株式会社製)が市販品として入手可能である。
【0032】
【化6】

上記式中、R8及びR9は同一又は互いに異なり炭素数4以下のアルキル基を表す。xは0〜4の整数を表し、yは0〜6の整数を表す。)
【0033】
アントラセン型エポキシ樹脂としては、下記式(6)で表される構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0034】
【化7】

式中、R14〜R17は式(3)におけるR4〜R7と同様である。
【0035】
(アミノ基を有する化合物)
本発明に係るアミノ基を有する化合物は、分子内に少なくとも1つ以上のアミノ基を有していればよく、例えば、「アミノ基を有する化合物の反応基当量」:「多環式構造を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量」=1:1としたときの発熱開始温度が60℃以上200℃以下であることが好ましく、70℃以上190℃以下であることがさらに好ましく、80℃以上180℃以下であることが特に好ましい。この発熱開始温度の範囲内であれば、常温での硬化反応が急速には進行しないため、貯蔵安定性(保存安定性)が向上する。
【0036】
発熱開始温度の測定は、DSC(Differential scanning calorimetry)測定により計測することが可能である。具体的には、図2(YX-8800とジシアンジアミドを当量比1:1で行ったDSC曲線)中、曲線の立ち上がる点(図2の点A)から求めることができる。
【0037】
アミノ基を有する化合物としては、例えばベンゾグアナミン、アセトグアナミン系、スピログアナミン等のグアナミン又はこれらから誘導されるグアナミン樹脂、ジシアンジアミド、メラミン又はこれから誘導されるメラミン樹脂、トリエチレンテトラミン、アミノトリアジンノボラック樹脂などが挙げられる。これらの化合物の分子量は60以上であることが好ましく、80以上であることがさらに好ましい。このような分子量であることにより、アミノ基を有する化合物が、多環式構造を含む樹脂と反応し結合した場合、多環式構造を含む樹脂が整列し結晶化するのを防ぐのに十分な嵩高さとなる。また数種のアミノ基を有する化合物を併用することもできる。これらの中でも、積層板成形後の熱膨張性、耐熱性、信頼性等の点からベンゾグアナミン、ジシアンジアミド、アミノトリアジンノボラック樹脂が好ましい。
また、式(1)中のR1であるアミノ基を有する化合物の残基としては、上記例示した樹脂もしくは化合物の残基が挙げられる。
【0038】
(フェノール性水酸基を有する化合物)
本発明で用いるフェノール性水酸基を有する化合物は、分子内に1個以上の水酸基を有していれば良く、架橋の点から、2個以上有していることがさらに好ましい。例えばナフタレンジオール、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂、ビスマレイミド含有アミノトリアジンノボラック樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。なかでも、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂が好ましい。これらの化合物の分子量は特に制限はなく、何種類かを併用することもできる。
【0039】
ここで、「フェノール性水酸基を有する化合物の反応基当量」:「多環式構造を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量」=1:1としたときの発熱開始温度は、60℃以上200℃以下であることが好ましく、70℃以上190℃以下であることがさらに好ましく、80℃以上180℃以下であることが特に好ましい。この発熱開始温度の範囲内であれば、常温での硬化反応が急速には進行しないため、貯蔵安定性(保存安定性)が向上する。
なお、フェノール性水酸基を有する化合物を使用する場合は、後述する硬化促進剤を併用する。
【0040】
また、フェノール性水酸基を有する化合物は、溶媒中の反応においてアミノ基を有する化合物と併用することができる。この場合のフェノール性水酸基を有する化合物は、アミノ基を有する化合物1当量に対し、0.01〜100当量とすることが好ましく、0.03〜30当量とすることがより好ましい。0.05〜20当量とすることで、フェノール性水酸基を有する化合物と、アミノ基を有する化合物と熱硬化性樹脂とを効率よく反応させることができる。
ここで、「フェノール性水酸基を有する化合物及びアミノ基を有する化合物の反応基当量」:「多環式構造を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量」=1:1としたときの発熱開始温度は、60℃以上200℃以下であることが好ましく、70℃以上190℃以下であることがさらに好ましく、80℃以上180℃以下であることが特に好ましい。この発熱開始温度の範囲内であれば、常温での硬化反応が急速には進行しないため、貯蔵安定性(保存安定性)が向上する。
【0041】
(式(1)で表される構造を有する樹脂成分)
本発明に係る式(1)で表される構造を有する樹脂成分は、上述した多環式構造を有するエポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物とを溶媒中で反応させて得ることができる。具体的には、エポキシ樹脂のエポキシ基の少なくとも一部と、アミノ基を有する化合物のアミノ基が反応し、式(1)で表される構造を有する樹脂成分を得ることができる。
【0042】
本発明の式(1)で表される構造の例を以下に示す。
まず、式(3)に表されるビフェニルノボラック型エポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物から得られる樹脂成分は下記式(7)に表される構造を有する。
【0043】
【化8】

上記式中、R1は式(1)と同様である(以下、同様)。oはo>0を満たす数であり、pはp>0を満たす数である。
【0044】
また、式(4)に表されるナフタレンノボラック型エポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物から得られる樹脂成分は下記式(8)に表される構造を有する。
【0045】
【化9】

上記式中、qはq>0を満たす数であり、rはr>0を満たす数である。
【0046】
式(5)に表されるジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物から得られる樹脂成分は下記式(9)に表される構造を有するものを含む。
【0047】
【化10】

上記式中、R8及びR9、x及びyは、式(5)におけるR8及びR9、x及びyと同様である。
【0048】
本発明のワニスは、式(1)で表される構造及び下記式(2)で表される構造のそれぞれの存在比率の合計に対する、前記式(1)で表される樹脂成分の存在比率は40%以下であること好ましく、5%以上40%以下であることがより好ましい。そして、8%以上40%以下であることがさらに好ましく、10%以上35%以下であることが特に好ましい。
40%以下であることにより、変性により付加したアミノ基を有する化合物が、多環式構造を有するエポキシ樹脂の分子が整列して結晶化するのを防ぐので、再結晶化せずに保存安定性の良好なワニスが得られる。
なお、40%を超えると、硬化反応が進み保存安定性が十分ではなくなる可能性がある。
【0049】
【化11】

【0050】
本発明で多環式化合物を有するエポキシ樹脂と、アミノ基を有する化合物及び/又はフェノール性水酸基を有する化合物との反応時の比率は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対して、アミノ基を有する化合物のアミノ基当量及び/又はフェノール性水酸基の水酸基当量が0.05から20の範囲が好ましく、0.10から10の範囲がより好ましく、0.20から5が特に好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量に対して0.05〜20であれば多環式化合物を有するエポキシ樹脂の溶解効果が乏しくなることがなく取り扱い性が良好である。また、上記範囲にあり、式(1)と式(2)の存在比率が既述の範囲にあることによって、合成時間の短縮、保存安定性の向上が可能である。
【0051】
さらに、本発明のワニスは下記式(10)の構造を樹脂成分中に含んでいてもよい。
【化12】

【0052】
上記式(10)で表される構造を含んでいる場合、樹脂成分中の式(1)で表される構造の存在比率、式(2)で表される構造の存在比率、式(10)で表される構造の存在比率の合計に対する、式(1)及び式(10)で表される構造の存在比率の合計が40%以下であること好ましく、1%以上40%以下であることがより好ましい。そして、5%以上35%以下であることがさらに好ましく、10%以上30%以下であることが特に好ましい。
40%以下であることにより、変性により付加したアミノ基を有する化合物が、多環式構造を有するエポキシ樹脂の分子が整列して結晶化するのを防ぎ、再結晶化せず保存安定性の良好なワニスが得られる。
なお、40%を超えると、硬化反応が進み保存安定性が十分ではなくなる可能性がある。
また、エポキシ基:硬化剤の反応基の当量比を0.8〜1.2と調整し、ワニスとすることによって、硬化後の特性が向上する。
【0053】
本発明の多環式化合物を有するエポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物及び/又はフェノール性水酸基を有する化合物とを混合するため、溶媒を加えることが好ましい。
溶媒は、多環式化合物を有するエポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物およびフェノール性水酸基を有する化合物を反応させ溶媒を含まない樹脂組成物が溶解できればどのようなものでもよいが、特にアセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が溶解性に優れ好ましい。特に結晶性の高い樹脂を溶解可能である点から、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0054】
これらの溶媒の配合量は、多環式化合物を有するエポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物およびフェノール性水酸基を有する化合物を反応させた溶媒を含まない樹脂組成物が溶解できればどのような量でもよいが、多環式化合物を有するエポキシ樹脂とアミノ基を有する化合物およびフェノール性水酸基を有する化合物を反応させた樹脂成分の総量100質量部に対して、5〜300質量部の範囲が好ましく、30〜200質量部の範囲がより好ましい。また、上記の溶媒は、組み合わせて用いても構わない。
【0055】
本発明に係る反応後の樹脂成分の重量平均分子量は、800以上4000以下であることが好ましく、900以上3500以下であることがより好ましく、950以上〜3000以下であることがさらに好ましい。ワニス中の化合物の重量平均分子量は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによる標準ポリスチレンの検量線を用いての測定)から測定することができる。ワニス中の化合物の重量平均分子量が上記範囲であることにより、結晶析出を生じず、多環式構造を含む樹脂の溶解性の向上した、取り扱い性の良いワニスとなる。
【0056】
本発明のワニスは、前記成分に必要に応じ樹脂や硬化剤を含有してもよい。硬化剤は熱硬化性樹脂の硬化作用があれば特に限定されるものではないが、例としては、無水マレイン酸、無水マレイン酸共重合体等の酸無水物、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、アミノトリアジンノボラック樹脂等のフェノール化合物などが挙げられる。硬化剤はいずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明のワニスには、積層板製造時に硬化促進剤を含有してもよい。硬化促進剤の例としては、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類及び第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0058】
さらに、本発明のワニスには、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて他の成分を配合してもよい。
他の成分としては、例えば、有機リン系難燃剤、有機系窒素含有リン化合物、窒素化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物等の難燃剤、シリコンパウダー、ナイロンパウダー、フッ素パウダー等の有機充填材、オルベン、ベントン等の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系の消泡剤又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シラン系カップリング剤等の密着性付与剤、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系やスチレン化フェノール等の酸化防止剤、ベンゾフェノン類、ベンジルケタール類、チオキサントン系等の光重合開始剤、スチルベン誘導体等の蛍光増白剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、カーボンブラック等の着色剤等を挙げることができる。
【0059】
また、低熱膨張率化や難燃性の付与のため、本発明の効果を阻害しない範囲で無機充填材や添加剤を添加してもよい。無機充填材としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、クレイ、タルク、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ストロンチウム等を使用することができる。この配合量としては、本発明の溶媒を含まない樹脂成分の総量100質量部に対して、300質量部以下とすることが、好ましくは200質量部以下にすることが本発明の多層配線板用材料が均一でかつ良好な取扱性を得るために好ましい。
特に、本発明に係る多環式構造を含む樹脂を使用する場合、無機充填材は結晶化を促す「結晶核」となるため、多量に配合する場合は注意が必要である。添加剤としては、各種シランカップリング剤、硬化促進剤、消泡剤等を使用できる。この配合量としては溶媒を含まない樹脂成分の総量100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、3質量部以下にすることが樹脂組成物の特性を維持する上でより好ましい。無機充填材を均一に分散させるため、らいかい機、ホモジナイザー等を用いることが有効である。
【0060】
本発明に係る多環式構造を含む樹脂とアミノ基を有する化合物及び/又はフェノール性水酸基を有する化合物との反応は、80℃以上250℃以下で行うことが好ましく、85℃以上245℃以下がより好ましく、90℃以上240℃以下がさらに好ましい。
また、反応時間は、10分以上30時間以下で行うことが好ましく、30分以上20時間以下がより好ましく、1時間以上15時間以下がさらに好ましい。
これらの範囲で反応を行うことで、ワニス中の式(1)で表される樹脂成分の存在比率及び、式(1)で表される樹脂成分及び式(9)で表される構造の存在比率が調整可能となる。
【0061】
本発明のワニスは、多層プリント配線板及びパッケージ基板の製造において、有機絶縁層を形成するために好適に使用することができる。本発明のワニスは、回路基板に塗布して絶縁層を形成することもできるが、工業的には接着フィルム、プリプレグ等のシート状積層材料の形態で用いるのが好ましい。
【0062】
[2]プリプレグ、樹脂付きフィルム、金属箔張積層板、プリント配線板:
本発明の樹脂付きフィルムは、本発明のワニスを、支持体フィルムに塗布(塗工)し、乾燥によってワニス中の溶媒を揮発させ、半硬化(Bステージ化)させて樹脂組成物層を形成したものである。また、樹脂組成物層上に適宜保護フィルムを設けてもよい。
なお、半硬化の状態は、ワニスを硬化する際に、樹脂組成物層と導体配線を形成した基板の接着力が確保される範囲で、また、導体配線を形成した基板の埋めこみ性(流動性)が確保される範囲であることが好ましい。
塗工方法(塗工機)としては、ダイコーター、コンマコータ、バーコータ、キスコータ、ロールコーター等が利用でき、樹脂付きフィルムの厚みによって適宜使用される。乾燥方法としては、加熱、あるいは熱風吹きつけなどを用いることができる。
【0063】
乾燥条件は特に限定されないが、樹脂組成物層の有機溶媒の含有量が通常の10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。ワニス中の有機溶媒量、有機溶媒の沸点によっても異なるが、例えば30〜60質量%の有機溶媒を含むワニスを50〜150℃で3〜10分程度乾燥させることにより、樹脂組成物層が形成される。乾燥条件は、予め簡単な実験により適宜、好適な乾燥条件を設定することが好ましい。
【0064】
樹脂付きフィルムにおいて形成される樹脂組成物層の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とする。回路基板が有する導体層の厚さは5〜70μmであることが好ましく、プリント配線板の軽薄短小化のために、3〜50μmであることがより好ましく、最も好ましくは、5〜30μmである。従って、樹脂組成物層の厚さは、このような導体層の厚さよりも5%以上厚いことが好ましい。
【0065】
本発明における支持体フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドなどからなるフィルム、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。
なお、支持体フィルム及び後述する保護フィルムには、マッド処理、コロナ処理の他、離型処理が施してあってもよい。
【0066】
支持体フィルムの厚さは特に限定されないが、10〜150μmが好ましく、より好ましくは25〜50μmである樹脂組成物層の支持フィルムが密着していない面には、支持体フィルムに準じた保護フィルムをさらに積層することができる。
保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば1〜40μmである。保護フィルムを積層することにより、異物混入を防止することができる。樹脂付きフィルムは、ロール状に巻き取って貯蔵することもできる。
【0067】
本発明の樹脂付きフィルムを用いて本発明のプリント配線板(多層プリント配線板)を製造する方法の形態としては、例えば、樹脂付きフィルムを、真空ラミネーターを用いて回路基板の片面又は両面にラミネートすればよい。
回路基板に用いられる基板としては、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等が挙げられる。
【0068】
なお、ここで回路基板とは、上記のような基板の片面又は両面に導体配線(回路)が形成されたものをいう。また導体層と樹脂組成物層とを交互に積層してなる多層プリント配線板において、多層プリント配線板の最外層の片面又は両面が導体配線(回路)となっているものも、ここでいう回路基板に含まれる。導体配線層表面には、黒化処理等により予め粗化処理が施されていてもよい。
また、樹脂付きフィルムの少なくとも一方の面に導体層が形成されてなる場合は、金属箔張積層板となる。
【0069】
上記ラミネートにおいて、樹脂付きフィルムが保護フィルムを有している場合には前記保護フィルムを除去した後、必要に応じて樹脂付きフィルム及び回路基板をプレヒートし、樹脂付きフィルムを加圧及び加熱しながら回路基板に圧着する。本発明においては、真空ラミネート法により減圧下で回路基板にラミネートする方法が好適に用いられる。
ラミネート条件は、特に限定されるものではないが、例えば、圧着温度(ラミネート温度)を好ましくは70〜140℃、圧着圧力を好ましくは0.1〜1.1MPaとし、空気圧20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下でラミネートするのが好ましい。また、ラミネートの方法は、バッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。
【0070】
樹脂付きフィルムを回路基板にラミネートした後、室温付近に冷却してから、支持フィルムを剥離する場合は剥離し、熱硬化することにより回路基板に樹脂組成物層を形成することができる。熱硬化の条件は、樹脂組成物中の樹脂成分の種類、含有量などに応じて適宜選択すればよいが、好ましくは150℃〜220℃で20分〜180分、より好ましくは160℃〜200℃で30〜120分の範囲で選択される。
【0071】
樹脂組成物層を形成した後、硬化前に支持フィルムを剥離しなかった場合は、ここで剥離する。次いで必要により、回路基板上に形成された樹脂組成物層に穴開けを行ってビアホール、スルーホールを形成する。穴あけは、例えば、ドリル、レーザー、プラズマ等の公知の方法により、また必要によりこれらの方法を組み合わせて行うことができるが、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー等のレーザーによる穴あけが最も一般的な方法である。
【0072】
次いで、乾式メッキ又は湿式メッキにより樹脂組成物層上に導体層を形成する。乾式メッキとしては、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の公知の方法を使用することができる。湿式メッキの場合は、まず、硬化した樹脂組成物層の表面を、過マンガン酸塩(過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等)、重クロム酸塩、オゾン、過酸化水素/硫酸、硝酸等の酸化剤で粗化処理し、凸凹のアンカーを形成する。酸化剤としては、特に過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性過マンガン酸水溶液)が好ましく用いられる。次いで、無電解メッキと電解メッキとを組み合わせた方法で導体層を形成する。また導体層とは逆パターンのメッキレジストを形成し、無電解メッキのみで導体層を形成することもできる。その後の導体配線形成の方法として、例えば、公知のサブトラクティブ法、セミアディティブ法などを用いることができる。
【0073】
本発明のプリプレグは、本発明のワニスを繊維からなるシート状補強基材にソルベント法などにより含浸した後、加熱してBステージ化することによる製造される。すなわち、本発明のワニスが繊維からなるシート状補強基材に含浸したプリプレグとすることができる。
【0074】
繊維からなるシート状補強基材としては、例えば、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている周知のものが使用できる。その材質の例としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス及びQガラス等の無機物繊維、ポリイミド、ポリエステル及びポリテトラフルオロエチレン等の有機繊維、並びにそれらの混合物等が挙げられる。
これらの基材は、例えば、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット及びサーフェシングマット等の形状を有するが、材質及び形状は、目的とする成形物の用途や性能により選択され、必要により、単独又は2種類以上の材質及び形状を組み合わせることができる。基材の厚さは、特に制限されず、例えば、約0.03〜0.5mmを使用することができ、シランカップリング剤等で表面処理したもの又は機械的に開繊処理を施したものが、耐熱性や耐湿性、加工性の面から好適である。
【0075】
ソルベント法は、本発明のワニスにシート状補強基材を浸漬し、ワニスをシート状補強基材に含浸させ、その後乾燥させる方法である。
【0076】
次に、上記のようにして製造したプリプレグを用いて多層プリント配線板を製造する方法として、例えば、回路基板に本発明のプリプレグを1枚あるいは必要により数枚重ね、離型フィルムを介して金属プレートで挟み、加圧・加熱条件下でプレス積層する。加圧・加熱条件は、好ましくは、圧力が0.5〜4Mpa、温度が120〜200℃で20〜100分である。また樹脂付きフィルムと同様に、プリプレグを真空ラミネート法により回路基板にラミネートした後、加熱硬化することも可能である。その後、上記で記載した方法と同様にして、硬化したプリプレグ表面を粗化した後、導体層をメッキにより形成して多層プリント配線板を製造することができる。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
実施例1
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂(商品名:YX−8800、ジャパンエポキシレジン株式会社製 エポキシ当量:174〜183)200g、アミノ基を有する化合物としてのベンゾグアナミン(日本触媒株式会社製)13.8g、フェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製 水酸基当量:119)13.2g、溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)170.2gを投入し、140℃で加熱攪拌した。材料の溶解を確認した後さらに10分間加熱してからワニス1gを取り、高速液体クロマトグラフィー(カラム:東ソー株式会社製TSK−gel G−3000H)を用いてポリスチレン換算の反応前の重量平均分子量を求めた。140℃を保持したまま5時間反応させた後、ワニス1gを取り、高速液体クロマトグラフィーを用いてポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた。その後、クレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)92.0gを加え、100℃で30分間加熱溶解してワニスを作製した。
【0079】
作製したワニスを1ml取り、粒ゲージを用いて粒径5μm以上の粒子がないことを確認した後5℃で保管し、ワニスから材料が析出してくる時間を目視で確認した。材料の析出を確認した場合ワニスを1ml取り、粒ゲージを用いて粒径5μm以上の粒子の有無を調べ、5μm以上の粒子が確認されるまでの時間を保管時間として求めた。
【0080】
実施例2
ベンゾグアナミン(日本触媒株式会社製)を27.6gとし、クレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を22.6g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を162.8g、反応後に追加するクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を56.3gに代えた以外は実施例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0081】
実施例3
アミノ基を有する化合物としてのメラミン(関東化学株式会社製)を4.6gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を26.2g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を172.2g、反応後に追加するクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を46.0gとした以外は実施例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0082】
実施例4
アミノ基を有する化合物としてのジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を11.6g、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を118.8g、反応後に追加するクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を65.8gに、140℃の反応時間を3時間に代えた以外は実施例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0083】
実施例5
ジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を2.4g、クレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を26.2g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)137.4g、反応後に追加するクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)46.0gに代えた以外は実施例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0084】
実施例6
エポキシ樹脂としてナフタレンノボラック型エポキシ樹脂(商品名:ESN−175、東都化成製 エポキシ当量:254)200g、ジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を3.3gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのフェノールノボラック樹脂(商品名:TD−2090、大日本インキ化学工業株式会社製 水酸基当量:105)を24.8g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)115.5g、反応後に追加するフェノールノボラック樹脂(TD−2090、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)41.3g、140℃の保管時間を3時間に代えた以外は実施例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0085】
実施例7
エポキシ樹脂としてジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂以外にビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(商品名:NC−3000−H 日本化薬株式会社製、エポキシ当量:284〜294)を76.8g、アミノ基を有する化合物としてのアミノトリアジンノボラック(商品名:LA3018−50P、DIC株式会社製、50%溶液)を62.6gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を14.8g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を230.5g、反応後に追加するクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を124.9gとし、反応温度を120℃、保持時間を14時間とした以外は実施例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0086】
実施例8
エポキシ樹脂としてジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂以外にビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(商品名:NC−3000−H 日本化薬株式会社製、エポキシ当量:284〜294)を76.8g、アミノ基を有する化合物としてのジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を3.8gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を18.1g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を113.0g、反応後に追加するクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を124.9g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を115.1gとした以外は実施例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0087】
実施例9
エポキシ樹脂としてジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂以外にビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(商品名:NC-3000-H日本化薬株式会社製、エポキシ当量:284〜294)を200.5g、アミノ基を有する化合物としてのジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を3.9gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を197.2g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を161.6g、反応後に追加するプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を164.7gとした以外は実施例1と同様にしてワニスを作製した。作製し、保管時間を求めた。
【0088】
比較例1
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂(商品名:YX−8800、ジャパンエポキシレジン株式会社製)200g、アミノ基を有する化合物としてのベンゾグアナミン(日本触媒株式会社製)13.8gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)105.2g、溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)170.2gを投入し、140℃で加熱溶解してワニスを作製した。
【0089】
作製したワニスを1ml取り、粒ゲージを用いて粒径5μm以上の粒子がないことを確認した後5℃で保管し、ワニスから材料が析出してくる時間を目視で確認した。材料の析出を確認した場合ワニスを1ml取り、粒ゲージを用いて粒径5μm以上の粒子の有無を調べ、5μm以上の粒子が確認されるまでの時間を保管時間として求めた。
【0090】
比較例2
ベンゾグアナミン(日本触媒株式会社製)を27.6gとクレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を78.9g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を162.8gに代えた以外は比較例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0091】
比較例3
アミノ基を有する化合物としてのメラミン(関東化学株式会社製)を4.6g、クレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)72.2g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)172.2gに代えた以外は比較例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0092】
比較例4
ジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を11.6g、クレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)65.8g、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)118.8g、に代えた以外は比較例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0093】
比較例5
アミノ基を有する化合物としてのジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を2.4g、クレゾールノボラック樹脂(KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)72.2g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)137.4gに代えた以外は比較例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0094】
比較例6
エポキシ樹脂としてナフタレンノボラック型エポキシ樹脂(ESN−175、東都化成製商品名)200g、アミノ基を有する化合物としてのジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を3.3g、フェノール性水酸基を有する化合物としてのフェノールノボラック樹脂(TD−2090、大日本インキ化学工業株式会社製商品名)を65.0g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を115.5gに代えた以外は比較例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0095】
比較例7
エポキシ樹脂としてジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂以外にビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(商品名:NC-3000-H日本化薬株式会社製、エポキシ当量:284〜294)を76.8g、アミノ基を有する化合物としてのアミノトリアジンノボラック(商品名:LA3018−50P、DIC株式会社製、50%溶液)を62.6gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を139.7g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を230.5gとした以外は比較例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0096】
比較例8
エポキシ樹脂としてジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂以外にビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(商品名:NC-3000-H日本化薬株式会社製、エポキシ当量:284〜294)を76.8g、アミノ基を有する化合物としてのジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を3.8gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を143.0g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を228.1gとした以外は比較例1と同様にしてワニスを作製し、保管時間を求めた。
【0097】
比較例9
エポキシ樹脂としてジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂以外にビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(商品名:NC−3000−H 日本化薬株式会社製、エポキシ当量:284〜294)を200.5g、アミノ基を有する化合物としてのジシアンジアミド(関東化学株式会社製)を3.9gとフェノール性水酸基を有する化合物としてのクレゾールノボラック樹脂(商品名:KA−1165、大日本インキ化学工業株式会社製)を197.2g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(関東化学株式会社製)を326.3gとした以外は比較例1と同様にしてワニスを作製した。作製し、保管時間を求めた。
【0098】
実施例で作製したワニスの重量平均分子量と保管時間測定結果を下記表1に示す。また、比較例で作製したワニスの保管時間測定結果を下記表2に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
表1の実施例1〜6の保管時間は168時間以上、すなわち1週間以上の保管時間を有しているのに対し、表2の比較例1〜6の保管時間は2〜5時間と短い。実施例及び比較例に示した多環式構造を含むエポキシ樹脂は結晶性エポキシ樹脂と呼ばれ、溶媒に対する溶解性は低い。このため、エポキシ樹脂の融点以上にワニスの温度を上げて溶融させても室温に戻った場合、短時間で析出してくる。これに対し、実施例1〜6ではエポキシ樹脂の一部の官能基を反応させることにより、5℃の保管条件でも比較例の30倍以上の保管時間を達成することが可能となる。従って、多環式構造を含むエポキシ樹脂の一部の官能基を反応させることが保管時間を確保する上で重要なことがわかる。そして、本実施例のワニスは、従来とは異なり溶解性を向上でき、ワニスの安定化を達成し、ワニスの長期保存が可能となるため、作業性に優れ保存安定性が高いものである。
また、実施例のワニスを使用して作製された銅張積層板は熱膨張率も低いため、プリント配線板とした場合でも従来問題とされた反りの発生を抑えることができるといえる。
【符号の説明】
【0102】
10:半導体チップ
12:封止材(半導体パッケージ)
14:ボンディングワイヤ
16:半導体パッケージ基板
18:基板
20:スルーホール
22:はんだボール
C:反りによって発生したクラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の一部と、アミノ基を有する化合物の該アミノ基とを溶媒中で反応させて得られるワニス。
【請求項2】
フェノール性水酸基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の一部と、フェノール性水酸基を有する化合物の該フェノール性水酸基とを前記溶媒中で反応させる請求項1に記載のワニス。
【請求項3】
前記アミノ基を有する化合物が、グアナミン、ジシアンジアミド、及びアミノトリアジンノボラックのいずれかである請求項1又は2に記載のワニス。
【請求項4】
フェノール性水酸基と反応する官能基を有し、かつ多環式構造を含む樹脂の前記官能基の一部と、フェノール性水酸基を有する化合物の該フェノール性水酸基とを溶媒中で反応させて得られるワニス。
【請求項5】
前記フェノール性水酸基を有する化合物が、フェノールノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂である請求項2又は4に記載のワニス。
【請求項6】
前記樹脂が前記官能基としてのエポキシ基を少なくとも1つ含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のワニス。
【請求項7】
前記樹脂がビフェニル構造、ナフタレン構造、ビフェニルノボラック構造、アントラセン構造、ジヒドロアントラセン構造からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のワニス。
【請求項8】
下記式(1)で表される構造を有する樹脂成分を含むワニス。
【化1】

(上記式中、R1はアミノ基を有する化合物の残基である。)
【請求項9】
前記式(1)で表される構造及び下記式(2)で表される構造のそれぞれの存在比率の合計に対する、前記式(1)で表される構造の存在比率が40%以下である請求項8に記載のワニス。
【化2】

【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のワニスを基材に塗布し、加熱乾燥してなるプリプレグ。
【請求項11】
前記基材がガラス織布、ガラス不織布、アラミド織布、又はアラミド不織布である請求項10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のワニスをフィルムに塗布し、加熱乾燥してなる樹脂付きフィルム。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のプリプレグの少なくとも一方の面に導体層を有する金属箔張積層板。
【請求項14】
請求項12に記載の樹脂付きフィルムの少なくとも一方の面に導体層を有する金属箔張積層板。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の金属箔張積層板の少なくとも一方の面に備わる前記導体層を配線形成してなるプリント配線板。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−36041(P2013−36041A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200926(P2012−200926)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【分割の表示】特願2010−39388(P2010−39388)の分割
【原出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】