説明

ワークを選択的に覆う取付具およびその加工方法

【課題】ワーク10を選択的に覆う非付着性取付具50,60およびその加工方法を提供する。
【解決手段】
非付着性の取付具50,60は、ワーク用コーティングを塗布する際、ワーク10の部分を選択的に覆う。取付具50,60の所定の表面は、約25Raもしくはそれ以下の平均表面粗さ、および約65Rcもしくはそれ以上のロックウェル硬さを有する。これにより、取付具50,60が、ワーク用コーティングに対し非付着性になる。ロックウェル硬さにより、取付具50,60の反復使用中、所望の平均表面粗さが維持される。取付具50,60により、取付具50,60とワーク10との間に生じるワーク用コーティングのブリッジングおよび、ワーク10に生じるスプレーしずく量が減少する。そのため、コーティング後に必要な手作業および再加工が最小限になり、プロセスのサイクル時間および生産量が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスキング取付具に関する。より詳細には、本発明は、ワークにワーク用コーティングを塗布する際、ワークの選択された部分を覆うのに有用な非付着性取付具および上記目的のための取付具加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンは、燃料の形態をした化学的なエネルギーを熱エネルギーに変え、次いで、航空機の推進、電力発電、流体供給などに使われる力学的エネルギーに変えるために長い間用いられてきた。ガスタービンエンジンの効率は、運転温度の上昇とともに向上する。したがって、ガスタービンエンジンの燃焼ガスおよび排出ガス温度を上昇させる必要がある。しかし、上記エンジンの高温部の構成部品に現在用いられている金属材料は、その材料の熱的安定性を保つ温度の上限に極めて近い温度下で作動している。実際に、現在のガスタービンエンジンの高温部では、金属材料が高温ガス経路において、その材料の
融点以上の温度条件下で用いられている。これらの金属材料を、上記の温度条件下でも用いることができるのは、これらの金属材料を空気冷却するか、あるいは構成部品の熱伝導率を低くするセラミックコーティングを施しているためである。このコーティングにより、あまり冷却空気を利用せずに、構成部品が高温下でも作動することが可能となる。上記のセラミックコーティングは、付加的あるいは代替の環境保護を金属部品に提供し、部品中を通るか、またはその近くを通る高温ガスによる酸化および腐食作用から部品を保護する。
【0003】
エンジン運転中、タービンベーンのエアフォイルおよび内側バットレスの表面は、高温ガスに直接さらされており、そのため、酸化や腐食しやすい。したがって、ベーンのエアフォイルおよび内側バットレスの表面にセラミックコーティングを塗布することが一般的である。一方、ベーンの表面の残りの部分は、高温ガスに直接さらされないため、この部分をコーティングしてしまうと、取付機構および非常に圧力のかかる他の領域の疲労寿命に弊害をもたらし、かつ低下させることになる。そのため、これらの表面の残りの部分は、通常コーティングされない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コーティングされないようにベーンの選択された部分を覆うために取付具を利用することが多い。しかし、上記取付具を用いると、ベーンに塗布したセラミックコーティングのブリッジング(架橋)が、ベーンと取付具との間に生じてしまうことが多い。このブリッジングにより、ベーンを取付具から取り除く際、ベーンからセラミックコーティングがはがれてしまい、あるいはベーンに余分なセラミックコーティングが付着してしまう恐れがある。双方の場合において、ガスタービンエンジンに用いるベーンを加工するため、かなりの量の手作業および再加工が必要となる。
【0005】
タービンベーンまたは他のワークをコーティングする前に、一部を選択的に覆う取付具を有することが望ましい。さらに望ましいことは、ワーク用コーティングを施す際、取付具とワークとの間にワーク用コーティングのブリッチングが生じないようにワークをコーティングすることを可能にする取付具を有することである。手作業および再加工が現在ほど必要とならないように、ワークに塗布されるワーク用コーティングに対して上記取付具が非付着性であることが特に望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施例により、前述した従来のマスキング取付具の欠点が克服される。本発明は、マスキング取付具に配置されたワークに塗布するワーク用コーティングに対して非付着性であるマスキング取付具に関する。本発明の非付着性マスキング取付具により、取付具とワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングが生じにくくなり、ワークをコーティングした後に必要な手作業および再加工が最小限になる。これらの取付具では、ワーク用コーティングが取付具に付着しないようにする管理された平均表面粗さと、管理されたロックウェル硬さとが利用される。この管理されたロックウェル硬さにより、取付具が用いられる磨耗が生じやすい厳しいコーティング環境において、所定の時間に亘り所望の表面粗さを維持することができる。
【0007】
本発明の実施例は、取付具内に配置されたワークを選択的に覆う取付具に関する。この取付具は、取付具に配置された種々のワークにワーク用コーティングを繰り返し塗布する間、取付具の所定の表面に約25Raあるいはそれ以下の平均表面粗さを維持するのに十分な硬さを有する。
【0008】
本発明の実施例は、また、この取付具の所定の表面が、約25Raあるいはそれ以下の平均表面粗さおよび約65Rcあるいはそれ以上のロックウェル硬さを有するとともに、取付具内に配置されたワークを選択的に覆う取付具に関する。
【0009】
さらに本発明の実施例は、ワーク用コーティングを塗布する間、ワークを選択的に覆う取付具の加工方法に関する。上記方法は、取付具の所定の表面を約25Raあるいはそれ以下の平均表面粗さに加工するステップと、ワーク用コーティングを繰り返し塗布する間、この平均表面粗さを維持するように、所定の表面を十分な硬さとすることを確実にするステップとからなる。上記の加工するステップは、所定の表面を研磨するステップを含んでいてもよい。上記の確実にするステップは、以下の(a)〜(c)のステップを含んでいてもよい。(a)少なくとも約65Rcのロックウェル硬さを有する材料から少なくとも取付具の所定の表面を形成するステップと、(b)少なくとも約65Rcのロックウェル硬さにまで取付具の所定の表面を硬くするように少なくとも取付具の所定の表面を取付具用コーティングでコーティングするステップと、(c)少なくとも約65Rcのロックウェル硬さにまで少なくとも取付具の所定の表面を硬くするように少なくとも取付具の所定の表面を処理するステップ。上記のコーティングするステップは、物理蒸着法、化学蒸着法、あるいは適切な他の取付具用コーティング工程により取付具用コーティングを塗布することを含んでいてもよい。上記の処理するステップは、窒化工程、めっき工程、あるいは適切な他の表面処理工程で、少なくとも取付具の所定の表面を硬化することを含んでいてもよい。取付具用コーティングは、TiN、TiAlN、あるいは適切な他の材料を含んでもよい。
【0010】
取付具とワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングが生じやすい取付具表面の少なくとも一部を、所定の表面は含んでいてもよい。所定の表面は、ワークをコーティングする際にワーク用コーティングにさらされる少なくともあらゆる取付具表面を含んでいてもよい。溶射工程において、これらの取付具を用いることができる。少なくとも部分的にTiNまたはTiAlNでコーティングされたA2工具鋼でこれらの取付具を製造してもよい。ワークには、ガスタービンエンジン構成部品が含まれていてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の理解を促すため、図1,2に図示する本発明の好ましい実施形態およびそれを説明するために用いられる特定の用語について言及する。本明細書における専門用語は、本発明を説明するために用いており、限定するためではない。本明細書で説明する特定の構造的、機能的詳細は、限定するものとしてでなく、単に特許請求の範囲の基本原理として、本発明をさまざまに使用する当業者に教示するための代表的な基本原理として解釈されるものである。通常、当業者であれば気がつかれるであろう図示した構造や方法の変更例または改良例、ならびに本明細書において説明される本発明の原理のさらなる応用例は、
本発明の精神および範囲内にあるものとみなされる。
【0012】
本発明は、ワークにワーク用コーティングを塗布する間、ワークの選択された部分を覆うのに有用である取付具、および上記目的のため取付具を加工する方法に関する。これらの取付具は、取付具内に配置されたワークに塗布するワーク用コーティングに対して取付具が非付着性になるようにする管理された平均表面粗さを利用する。これにより、取付具とワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングが生じにくくなり、ワークをコーティングした後に必要な手作業および再加工の量が最小限になる。これらの取付具は、また、管理されたロックウェル硬さを利用しており、これにより、取付具を用いる厳しいコーティング環境において取付具が所望の表面粗さを確実に維持することができる。
【0013】
図1を参照すると、本発明の例示的な非付着性マスキング取付具内にある状態でコーティングされたタービンベーン10の概略図が示されている。この例示的なタービンベーン10は、エアフォイル12と、内面22および結合面24を有する内側バットレス20と、内面32および結合面34を有する外側バットレス30と、を備える。
【0014】
通常は、エアフォイル12および内面22,32だけがコーティングされ(例えば、7YSZで)、タービンベーンのその他の表面は、コーティングされない。コーティングを必要としないベーンの部分(すなわち、結合部24,34など)は、コーティング装置内に設置される前に、通常、選択的に覆われる。この工程は、マスキング取付具を用いることによりなし得る。前述のように、従来のマスキング取付具は、決して最良ではない。しかし、本発明の取付具により、タービンベーンをコーティングする際にタービンベーンの選択された部分を覆う、費用対効果が高く、省力性の手段が提供される。本発明の非付着性マスキング取付具により、ガスタービンエンジンに使用されるベーンの加工に必要な手作業および再加工の量が減少し、タービンベーンの処理にかかる時間が大幅に減少する。
【0015】
取付具内に配置されたベーン10や他のワークの選択された部分がコーティングされないように適切に妨ぐ取付具であれば、本発明の非付着性マスキング取付具は、適切なあらゆる形状または形式を含んでもよい。具体的な一実施例では、図2のように、取付具は、2つの部分、つまり頂部取付具50と底部取付具60を含む。
【0016】
頂部取付具50は、従来の金属コーティングボックスからなる。このボックスは、端板51およびこれから延びている4つの壁部52を有する5面からなる筐体をなし、端板51の反対側に部分的な開口端部53を備えている。部分的な開口端部53は、開口部を備える。開口部は、内側バットレス20と嵌合し、開口部の外面と内側バットレス20の内面22とが実質的に同一面となるように上記開口部は設計されている。ベーン10の内側バットレス20が頂部取付具50に嵌めこまれると、止めねじ58など適切な方法で頂部取付具50が所定の位置に固定される。
【0017】
底部取付具60も、また、従来型の金属コーティングボックスからなる。このボックスは、端板61およびこれから延びている4つの壁部62を有する5面からなる筐体をなし、端板61の反対側に部分的な開口端部63を備えている。部分的な開口端部63は、開口部を備える。開口部は、外側バットレス30と嵌合し、開口部の外面と外側バットレス30の内面32とが実質的に同一面となるように上記開口部は設計されている。実施例において,底部取付具60は、底部取付具60から取り外すことができる着脱可能部分64を備え、それによりベーン10の外側バットレス30を底部取付具60に容易に嵌めこむことが可能となる。ベーン10の外側バットレス30を底部取付具60に嵌めこんだ後、着脱可能部分64を元の位置に取り付け、ナット・ボルト65および定着具66などの適切な方法で所定の場所に固定する。
【0018】
実施例において、本発明の取付具の所定の表面は、約25Raまたはそれ以下の平均表面粗さ、および約65〜85Rcまたはそれ以上のロックウェル硬さを有する。この滑らかな表面により、取付具内に配置されたワークをコーティングする際に取付具に付着し堆積するワーク用コーティングの量が最小限になる。そして、上記硬さにより、ワーク用コーティング環境で取付具を繰り返し使用する間、所望の表面粗さ/滑らかさが確実に維持される。これらの取付具は、ワーク用コーティングに対して非付着性であるため、取付具により、取付具とワークとの間に生じるワーク用コーティングのブリッジングが防止されるか、少なくとも最小限になる。
【0019】
これらの所定の表面には、少なくとも、ワーク用コーティングのブリッジングが取付具とワークとの間に生じる可能性がある部分が含まれる。実施例では、これらの表面部分として、取付具内に配置されたベーン10に最も近い部分的な開口端部53,63の表面部分を少なくとも含む。これらの所定の表面の管理された平均表面粗さおよびロックウェル硬さにより、取付具と取付具に配置されたワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングが生じにくくなる。外面のいくつかまたは全て(すなわち、ワークをコーティングする際、ワーク用コーティングにさらされる表面、壁部52,62、端板51,61など)もまた、より多くの取付具の部分をワーク用コーティングに対して非付着性にするように、管理された平均表面粗さおよびロックウェル硬さを有する。必要に応じて、取付具の内面であっても、上記の表面粗さおよびロックウェル硬さを備えていてもよい。しかし、ワーク用コーティングのブリッジングが生じる可能性のある表面を管理することが最重要である。
【0020】
いくつかの実施例においては、部分的な開口端部53,63の外面だけが、管理された表面粗さおよびロックウェル硬さを有する。他の実施例では、部分的な開口端部53,63の外面だけでなく、壁部52,62の外面も、管理された表面粗さおよびロックウェル硬さを有する。さらに別の実施例においては、ワーク用コーティングにさらされる可能性のある取付具の全ての外面が、管理された表面粗さおよびロックウェル硬さを有する。多くの他の実施例が可能であり、本発明の精神および範囲内にある。
【0021】
といし車、フラップホイールまたは紙やすりを用いて表面を手動で研磨する方法、あるいは他の適切な方法など、種々の方法で約25Raまたはそれ以下の平均表面粗さに取付具の所定の表面を加工することができる。
【0022】
所望の平均表面粗さが達成されると、種々の方法で約65〜85Rcまたはそれ以上のロックウェル硬さを少なくとも所定の表面において達成することができる。取付具の所定の表面が約65Rcのロックウェル硬さを有する場合、その表面は十分に機能するが、80〜85Rcに近いロックウェル硬さを有する表面ほど長く持続しない。実施例においては、取付具の所定の表面に取付具用コーティングを塗布することにより所望の硬さを達成することができる。他の実施例では,取付具の所定の表面を処理することにより所望の硬さを達成することができる。さらに別の実施例では,取付具の表面を硬化するのに取付具用コーティングや表面処理を必要とせず、約65Rcまたはそれ以上のロックウェル硬さを有する材料から取付具を製造することにより所望の硬さを達成することが可能である。前述のように、少なくとも取付具の所定の表面の硬さを管理することにより、取付具を繰り返し使用する間、所望の表面粗さを確実に維持することができ、それにより、取付具の非付着特性が維持される。
【0023】
少なくとも取付具の所定の表面に取付具用コーティングを塗布し、表面を約65〜85Rcまたはそれ以上のロックウェル硬さに硬化してもよい。取付具用コーティングを使用する際、取付具用コーティングに十分な構造的支持を提供する適切な硬い材料から取付具自体を製造してもよく、それにより取付具用コーティングは、亀裂、欠け落ち、または他の早期故障が生じにくくなる。実施例においては、A2工具鋼など硬化した工具鋼からこれらの取付具を製造してもよい。コーティングされていない取付具材料は、最小でも約45Rcのロックウェル硬さを有することが好ましい。取付具用コーティングには、取付具の所望の表面粗さを十分に維持するように取付具表面を硬化する適切なあらゆる材料が含まれていてもよい。実施例において、取付具用コーティングには、TiNまたはTiAlNが含まれる。取付具用コーティングは、適切ないかなる厚さであってもよく、実施例においては、厚さ約3〜5μmである。物理蒸着法(PVD)や化学蒸着法(CVD)などあらゆる適切な方法で取付具用コーティングを塗布してもよい。
【0024】
取付具上の所定の表面の硬さ、および取付具自体を作る基礎材料の硬さは、双方とも重要である。取付具用コーティングを塗布する際、取付具の寿命を最大限にするため可能な限り硬い表面に塗布することが最も望ましい。
【0025】
少なくとも取付具の所定の表面が約65Rcまたはそれ以上のロックウェル硬さまで硬化するように表面処理を用いてもよい。表面処理を施す場合、表面処理により約65Rcまたはそれ以上のロックウェル硬さになるほど十分に硬い適切な材料で、取付具自体を製造してもよい。実施例においては、A2工具鋼など硬化した工具鋼あるいは約45Rcの最小ロックウェル硬さを有する他の材料からこれらの取付具を製造してもよい。上記表面処理には、窒化やめっきを含むことができる。
【0026】
本発明の取付具を用いるには、ワークの選択された部分が取付具に覆われるように、コーティングされていないワークを取付具内に取りつける。ワーク用コーティングを塗布する際、取付具内のワークの部分は、実質的にコーティングされない。
【0027】
従来の取付具では、ワーク用コーティングのブリッジングが生じにくくなるように、取付具と取付具に配置されたワークとの間に大きな隙間(0.060インチ(約1.524mm)程度の幅を有する場合もある)を保持する必要がある。しかし、これらの大きな隙間により、かなりの量のスプレーしぶきが、コーティングされないはずのワークの部分(すなわち結合部24,34)にかかってしまう。そのため、取付具にワークを挿入する前に、コーティングしないワークの表面に高温テープを貼ることで、スプレーしぶきを防ぐ場合もある。必要に応じて、コーティングされたワークからスプレーしぶきを取り除くため、ワークに手作業(といし車、ハンドグラインダなど)を施すことによりスプレーしぶきを除去する場合もある。しかし、そのような手作業により、欠け落ちおよびブレンディングの問題がさらに生じる場合が多く、そのためさらに再加工(すなわち、ワークからワーク用コーティングをはがし、ワークを再コーティングする)することが必要となる。スプレーしぶきの問題に対するこれらの双方の処置により、集約的な手作業が必要となり、ワークのサイクル時間が増す。
【0028】
従来の取付具とは対照的に、本発明の取付具により、取付具と取付具内に配置されるワークとの間の隙間が、非常に小さくなる(約0.020インチ(約0.508mm))。これにより、コーティングされているワーク上にスプレーしぶきが生じなくなるか、あるいは実質的に最小限になる。そのため、所望の目的に使用する前に、コーティングされたワークに施さなければならない手作業および再加工の量が著しく減少する。さらに、本発明により、本発明の取付具内でコーティングされるワークの生産量が向上するとともに、処理量が増加し、さらにサイクル時間が減少する。
【0029】
さらに本発明は、溶射工程(例えば、空気プラズマ溶射(APS))などあらゆる適切なワーク用コーティング工程において用いられる取付具を加工する方法を含む。まず、取付具と取付具内に配置されたワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングを生じさせる可能性のある表面を約25Raまたはそれ以下の平均表面粗さに加工する。必要に応じて、付加的な取付具表面または全ての取付具表面をこの平均表面粗さに加工してもよい。その後、少なくとも約65Rc、好ましくは約80〜85Rcのロックウェル硬さに取付具の重要表面を硬化させる。望む限りの取付具表面を上記の硬さにしてもよいし、全ての取付具表面であってもよい。この重要表面には、取付具と取付具内に配置されたワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングを生じさせる可能性のある表面の部分が少なくとも含まれる。この方法で、表面を加工および硬化することにより、取付具が使用される厳しいワーク用コーティング環境において所望の表面粗さを維持することができる。
【0030】
複数のマスキング取付具のサンプルが製造され、溶射環境で試験された。第1実施例では340ステンレス鋼で、第2実施例ではA2工具鋼でこれらの取付具を製造した。バフ研磨および研磨を用いて、取付具の所定の表面(すなわち、部分的な開口端部53,63および壁部52,62の部分)を約25Raまたはそれ以下の平均表面粗さに加工した。
その後、真空中において、850°F(約454℃)で、約1.5時間にわたりPVDによりTiNからなる取付具用コーティングを340ステンレス鋼およびA2工具鋼上に蒸着させた。これらの取付具用コーティングは、厚さ約3〜5μmであった。取付具用コーティングを塗布した後、上記取付具の双方の所定の表面は、約83Rcのロックウェル硬さを備えた。7YSZワーク用コーティングの空気プラズマ溶射中に、これらの取付具をタービンベーンの選択された部分を覆うために用いた。ベーン上に生じるスプレーしずく量を実質的に減少させるとともに、ベーンと取付具との間のワーク用コーティングのブリッジングを実質的に排除する従来の取付具より優れた顕著な改善をこれらの取付具は示した。その結果、ガスタービンエンジンに用いるこれらのベーンを加工するのに必要な手作業および再加工の量が実質的に減少した。さらに、これらの取付具を約250回繰り返し用いたが、十分に機能した。このことにより、従来の取付具と比べ、耐用年数の実質的な改善が示された。
【0031】
前述のように、ワーク用コーティングがワークの特定の表面上だけに付着するように、ワークの選択された部分を覆うために用いる取付具を、本発明は提供する。有利には、これらの取付具により、取付具と取付具内に配置されるワークとの間に生じるワーク用コーティングのブリッジングの量が最小限になる。さらに、これらの取付具により、ワークに生じるスプレーしずくの量が最小限になる。そのため、コーティングされたワークに必要な手作業および再加工の量が著しく減少する。その結果、プロセス生産量が向上し、サイクル時間が減少する。さらに、これらの取付具は、従来の取付具と比べ、より耐久性に富んでいる。これらの全ての利点により、本発明の取付具が非常に望ましいものとなっている。当業者であれば、多くの他の利点が明らかであろう。
【0032】
本発明のさまざまな必要性を満たす種々の実施例の説明がなされた。上記実施例は、本発明のさまざまな実施例の原理を単に例示しているということを理解されたい。本発明の精神と範囲内にある上記実施例の変更形態および適応形態の多くが、当業者であれば明らかあろう。例えば、本明細書において説明された実施例はタービンベーンを選択的に覆うとともに、コーティングする取付具に関するが、他の多くのガスタービンエンジン部品(ブレード外側エアシールなど)および他の多くの用途に用いられる部品を覆うとともに、コーティングするためにこれらの取付具を容易に用いることができる。本発明は、ガスタービンエンジン部品を覆い、かつコーティングするための取付具に限定されない。主に機械的にワークに接着されるワーク用コーティングを塗布する適切なコーティング工程においてこれらの取付具を用いてもよい。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれに相当する物の範囲内にある全ての適切な変更形態および改良形態に及ぶことを目的とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の例示的なマスキング取付具内にある状態でコーティングされたタービンベーンを示す概略図。
【図2】本発明の例示的なマスキング取付具に部分的に覆われた図1のタービンベーンを示す分解図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの一部を選択的に覆う取付具であって、取付具の所定の表面に約25Raまたはそれ以下の平均表面粗さを維持するのに十分な硬さを有する取付具。
【請求項2】
上記取付具内に配置された種々のワークにワーク用コーティングを繰り返し塗布する間、上記取付具が、上記所定の表面の上記平均表面粗さを維持するのに十分なように硬いことを特徴とする請求項1に記載の取付具。
【請求項3】
上記所定の表面が、上記取付具と上記ワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングが生じる可能性のある取付具表面の部分を少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の取付具。
【請求項4】
上記ワークをコーティングするときに、ワーク用コーティングにさらされる取付具表面を上記所定の表面が少なくとも含むことを特徴とする請求項1に記載の取付具。
【請求項5】
溶射工程において上記取付具を用いることができることを特徴とする請求項1に記載の取付具。
【請求項6】
上記取付具が、TiNまたはTiAlNで少なくとも部分的にコーティングされたA2工具鋼から製造されることを特徴とする請求項1に記載の取付具。
【請求項7】
上記ワークが、ガスタービンエンジン構成部品を含むことを特徴とする請求項1に記載の取付具。
【請求項8】
ワークの一部を選択的に覆う取付具であって、取付具の所定の表面が、約25Raまたはそれ以下の平均表面粗さ、および約65Rcまたはそれ以上のロックウェル硬さを備えることを特徴とする取付具。
【請求項9】
上記取付具と上記ワークとの間にワーク用コーティングのブリッジングが生じる可能性のある取付具表面の部分を上記取付具の上記所定の表面が少なくとも含むことを特徴とする請求項8に記載の取付具。
【請求項10】
上記ワークをコーティングするときに、ワーク用コーティングにさらされる取付具表面を上記取付具の上記所定の表面が少なくとも含むことを特徴とする請求項8に記載の取付具。
【請求項11】
溶射工程において上記取付具を用いることができることを特徴とする請求項8に記載の取付具。
【請求項12】
上記取付具が、TiNまたはTiAlNで少なくとも部分的にコーティングされたA2工具鋼から製造されることを特徴とする請求項8に記載の取付具。
【請求項13】
上記ワークが、ガスタービンエンジン構成部品を含むことを特徴とする請求項8に記載の取付具。
【請求項14】
ワーク用コーティングを塗布する間、ワークを選択的に覆う取付具を加工する方法であって、
約25Raまたはそれ以下の平均表面粗さに上記取付具の所定の表面を加工するステップと、
ワーク用コーティングを繰り返し塗布する間、上記所定の表面が上記平均表面粗さを維持するほど十分に硬いことを確実にするステップと、
を備える取付具加工方法。
【請求項15】
上記の加工するステップが、上記の所定の表面を研磨することを含むことを特徴とする請求項14に記載の加工方法。
【請求項16】
(a)少なくとも約65Rcのロックウェル硬さを有する材料から上記取付具の少なくとも上記所定の表面を製造するステップ、
(b)上記取付具の少なくとも上記所定の表面を少なくとも約65Rcのロックウェル硬さまで硬化するように、少なくとも上記所定の表面を取付具用コーティングでコーティングするステップ、 (c)上記取付具の少なくとも上記所定の表面を少なくとも約65Rcのロックウェル硬さにまで硬化するように、少なくとも上記所定の表面を処理するステップ、
のうち少なくとも1つのステップを上記の確実にするステップが含むことを特徴とする請求項14に記載の加工方法。
【請求項17】
ワーク用コーティングのブリッジングが上記取付具と上記ワークとの間に生じる可能性のある取付具表面の部分を、上記の所定の表面が少なくとも含むことを特徴とする請求項14に記載の加工方法。
【請求項18】
上記ワークをコーティングするとき、ワーク用コーティングにさらされる取付具表面を上記の所定の表面が少なくとも含むことを特徴とする請求項14に記載の加工方法。
【請求項19】
上記のコーティングするステップが、物理蒸着法および化学蒸着法の少なくとも一方で上記取付具用コーティングを塗布することを含むことを特徴とする請求項16に記載の加工方法。
【請求項20】
上記取付具用コーティングが、TiNおよびTiAlNの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項16に記載の加工方法。
【請求項21】
上記の処理するステップが、窒化工程およびめっき工程の少なくとも一方で少なくとも上記取付具の上記所定の表面を硬化することを含むことを特徴とする請求項16に記載の加工方法。
【請求項22】
溶射工程において上記取付具を用いることができることを特徴とする請求項14に記載の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−46333(P2006−46333A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210700(P2005−210700)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】