説明

ワーク固定装置、および同ワーク固定装置を備えた性能試験装置

【課題】バルブボデーなどの被固定物を押圧して固定するワーク固定装置を備えた性能試験装置において、油室内に簡単かつ短時間に作動油を供給することができるワーク固定装置を備えた性能試験装置を提供する。
【解決手段】性能試験装置100は、バルブボデーVBを支持するためのワークパレット120を備えている。ワークパレット120の上面には、バルブボデーVBの押圧位置Pa〜Pkに対応して縦孔121が形成されているとともに、同縦穴121上に押圧ピン140a〜140kが進退自在な状態で配置されている。縦穴121は、横孔122によって互いに連通している。ワークパレット120には、横孔122に供給する作動油WOを貯留するシリンダ131が横孔122に連通した状態で形成されている。シリンダ131内にはピストン134が摺動可能な状態で設けられている。このピストン134を前進させることによりシリンダ131内の作動油WOを横孔122に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧によりそれぞれ進退自在に組み付けられた複数の押圧ピンを被固定物に押圧することにより、同被固定物を固定するワーク固定装置、および同ワーク固定装置を備えた性能試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動変速機を備えた自走式車両、例えば四輪自動車においては、バルブボデーが搭載されている。バルブボデーは、例えば、図7(A)(B)に示すような外観で形成されており、その内部には複数のバルブを備えてオートマティックオイル(所謂、ATオイル)の圧力を用いて自動変速機のギアなどを切り替える装置である。このバルブボデーを自走式車両に搭載するに際しては、通常、バルブボデーの各ポートの性能試験が予め行われている。具体的には、バルブボデーの各ポートに試験用の油を充填して、各ポートが期待される油圧を発生するか否かなどを確認する。
【0003】
バルブボデーの性能試験においては、試験対象となるバルブボデーを固定した状態で各ポートに試験用の油を供給して、同各ポートに生じる油圧を測定する性能試験装置が用いられる。この性能試験装置内にバルブボデーを固定する場合、一般に、図8(A),(B)に示すようなワークパレット11が用いられる。ワークパレット11は、方形状に形成された厚板材の表面に(または厚板材の内部から)、図示上下方向に進退自在な状態で組み付けられた11個の押圧ピン12を備えている。これらの各押圧ピン12は、ワークパレット11の内部に液密的に形成された油室14に充填された作動油WOの油圧によって進退自在となっている。したがって、作業者は、このワークパレット11の押圧ピン12上にバルブボデーVB(図において二点鎖線で示す)を載置した後、同バルブボデーVBを方形厚板状に形成されたマニホールド13に押し当てることによりバルブボデーVBを固定している。この場合、各押圧ピン12は、油室14に充填された作動油WOの油圧によってバルブボデーVBの表面の高さに応じた突出量に変化しながらバルブボデーVBを均等な圧力で押圧する。
【0004】
しかしながら、上記したようなワークパレット11においては、油室14内の作動油WOが減少することがある。具体的には、例えば、押圧ピン12を構成するピン12aと同ピン12aを進退自在に支持するホルダ12bとの間から油室14内の作動油WOが少しずつ漏れる。これは、ピン12aとホルダ12bとの間に設けられているパッキン12cでは、作動油WOの漏れを長期間に亘って完全に防止することはできないことによる。また、固定するバルブボデーVBの種類によっては押圧ピン12の変位可能量(ストローク量)が不足する場合もある。これらの場合、油室14内に作動油WOを補給する必要があるが、この作動油WOの補給作業は極めて煩雑な作業である。すなわち、作業者は、ワークパレット11を性能試験装置から一旦外した後、油室14内を閉塞するメクラ栓15を外した給油口から押圧ピン12のストローク量および油室14内の油量を加味しながら作動油WOを補給するとともに、同油室14内に浸入した空気を油室14外に排出(所謂、エア抜き)しなければならない。このため、バルブボデーVBの試験作業の効率が悪いという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、例えば、下記特許文献1には、油圧に代えてバネの弾性力によって押圧ピンをバルブボデーに押圧する性能試験装置が開示されている。しかしながら、一般に、バネの弾性力には個体差および経時変化によるバラツキが存在する。このため、バネの弾性力を用いた押圧ピンによってバルブボデーを押圧する性能試験装置においては、バルブボデーをそれぞれ均等な圧力で押圧することが困難であり、試験精度が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平07−294383号公報
【発明の開示】
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、油圧を用いて進退自在に組み付けられた複数の押圧ピンでバルブボデーなどの被固定物を押圧して固定するワーク固定装置および同固定装置を備えた性能試験装置において、油室内に簡単な作業で短時間に作動油を供給することができるワーク固定装置、および同ワーク固定装置を備えた性能試験装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、作動油で満たされた油室を有し、複数の押圧ピンが油室に満たされた作動油の圧力によって進退自在な状態で組み付けられたワークパレットを備え、ワークパレットにおける前記複数の押圧ピンを被固定物に押圧することにより、同被固定物を固定するワーク固定装置において、油室に連通する状態で設けられ、油室に供給するための作動油を貯留する貯留手段と、貯留手段に貯留された作動油を油室に送るための油送手段とから構成された作動油供給手段を備えたことにある。
【0008】
この場合、前記ワーク固定装置において、前記貯留手段を、例えば、筒状に形成されたシリンダとし、前記油送手段を、シリンダ内にて摺動可能な状態で設けられ、同シリンダ内に貯留された作動油を油室に送るためのピストンにするとよい。
【0009】
また、この場合、前記固定装置において、前記油送手段における前記ピストンは、例えば、シリンダ内に作動油を供給することによる油圧によってシリンダ内を変位するようにしてもよいし、これに代えて、前記油送手段における前記ピストンは、例えば、送りねじ機構によりシリンダ内を変位するようにしてもよい。
【0010】
このように構成した本発明の特徴によれば、ワーク固定装置は、作動油を貯留する貯留手段を油室に連通した状態で設けるとともに、同貯留手段に貯留した作動油を油室内に供給する油送手段を備えている。このため、ワークパレットの油室内に作動油を供給する場合、作業者は、油送手段を操作することにより貯留手段に貯留されている作動油を油室内に供給することができる。すなわち、従来に比して簡単かつ短時間に油室内に作動油を供給することができる。
【0011】
また、前記ワーク固定装置において、前記作動油供給手段は、油室に供給する作動油の量を見知するための油量見知手段を備えるとよい。これによれば、作業者は、油室内に作動油を供給する際、供給する作動油の量を容易に認識することができる。この結果、油室内への給油作業をより正確かつ迅速に行うことができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、自走式車両に搭載されるバルブボデー、ウォータポンプ、またはオイルポンプの性能を試験する性能試験装置において、試験の対象となるバルブボデー、ウォータポンプ、またはオイルポンプを着脱自在に固定するために、上記ワーク固定装置を用いたことにある。これによれば、従来のような煩雑な作業を経ることなく簡単な作業によって短時間に油室内に作動油を供給することができる。この結果、従来に比してバルブボデー、ウォータポンプ、またはオイルポンプの試験作業の効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るワーク固定装置を備えた性能試験装置100の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1(A),(B)は、本発明に係る性能試験装置100の外観を概略的に示しており、(A)は一部破断正面図であり、(B)は一部破断側面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。この性能試験装置100は、四輪自動車に搭載されるバルブボデーVB(図において二点鎖線で示す)の各ポートに試験用の油を充填して、各ポートが期待される油圧を発生するか否かを試験する装置である。
【0014】
本実施形態において試験対象となるバルブボデーVBの外観を図7(A),(B)に示す。このバルブボデーVBは、バルブボデーVBの表面上に予め設定された押圧位置Pa〜Pkを押圧することにより性能試験装置100に固定されて試験が行われる。これらの押圧位置Pa〜Pbは、平面状に形成されたバルブボデーVBの底面BLからそれぞれ所定の高さの位置に設けられている。なお、図7(A),(B)に示すバルブボデーVBは一例であって、同図7(A),(B)に示す形状のバルブボデーVBに限定するものではなく、他の形状のバルブボデーVBを試験対象とすることができることは当然である。
【0015】
(性能試験装置100の構成)
性能試験装置100は、高さ約2m、幅約2m、奥行約1.6mの略箱状に形成されている。性能試験装置100の前部側には、作業者が位置する側(前方)に向かって水平状態に張り出して形成されたワーク載置テーブル101が設けられている。この性能試験装置100は、正面中央部を境に右側および左側が互いに同様な構成で形成されており、バルブボデーVBをそれぞれ試験することができる。したがって、本実施形態においては、図示右側の試験領域Z1を形成する構成部材について説明し、図示左側の試験領域Z2を形成する構成部材については試験領域Z1を形成する構成部材と同様の符号を付してその説明は省略する。
【0016】
ワーク載置テーブル101の上方における性能試験装置100の前面は、図示上下方向にスライドするシャッター102によって開閉するように構成されている。シャッター102は、鋼製の枠体の中央部に透明な樹脂の板材を備えて形成されており、図示しないエアシリンダによって性能試験装置100の前面上を図示上下方向にスライドするように組み付けられている。ワーク載置テーブル101上には、ワーク搬送テーブル103が設けられている。ワーク搬送テーブル103は、ワーク載置テーブル101の張り出した部分から性能試験装置100の内部に向かって形成されている。このワーク搬送テーブル103の上面における左右両側には、複数の円筒状のローラによって構成されたローラコンベア104が性能試験装置100の内部に向かって形成されている。ローラコンベア104の上面には、詳しくは後述するワークパレット120がスライド可能な状態で載置されている。
【0017】
性能試験装置100の内部に位置するワーク搬送テーブル103の上面中央部には、方形状に貫通する貫通孔103aが形成されている。この貫通孔103aの上方には、マニホールド105が側板106a,106bによって支持されている。マニホールド105は、厚さ約80mmの鋼製の方形板材で構成されており、試験対象となるバルブボデーVBが押し付けられることにより同バルブボデーVBの各ポートに連通する図示しない配管を備えている。側板106a,106bは、略L字状に形成されており、性能試験装置100の内部に位置するワーク搬送テーブル103に備えられたローラコンベア104の外側に起立した状態でそれぞれ固定されている。すなわち、マニホールド105は、側板106aと側板106bとの間に架設された状態で支持されている。
【0018】
一方、ワーク搬送テーブル103の貫通孔103aの下方には、ワーク載置テーブル101を貫通した状態で押圧シリンダ107が配置されている。押圧シリンダ107は、油圧によりロッド107aを図示上下方向に変位させるアクチュエータである。ロッド107aの先端部には板状の押圧板107bが水平な状態で取り付けられている。押圧シリンダ107の下方には、バルブボデーVBの試験に用いる作動油WOを貯留する油槽108および同油槽108から作動油WOを吸引して各所に供給するオイルポンプ109がそれぞれ設けられている。なお、油槽108は、試験領域Z1,Z2において共通に用いられる。
【0019】
性能試験装置100の前面における図示右側端部には、手元操作ボックス110が設けられている。手元操作ボックス110は、作業者が性能試験装置100を操作するための入力装置である。また、性能試験装置100の前面における図示上側中央部には、性能試験装置100の動作状態を表示するための3つの表示灯で構成される表示ボックス111が設けられている。
【0020】
ワークパレット120は、詳しくは図2(A),(B)に示すように、厚さ約50mmの鋼製の方形板材で構成されている。ワークパレット120の上面には、図7(A)に示すバルブボデーVBの押圧位置Pa〜Pkに対応する配置で11個の縦穴121が所定の深さでそれぞれ形成されている。なお、図2(A),(B)においては、図7(A)に示すバルブボデーVBを180度反転させた状態でワークパレット120上に載置した際のバルブボデーVBを二点鎖線で示している。
【0021】
これらの縦穴121は、ワークパレット120の内部にて水平方向に設けられた複数の横孔122によって互いに連通している。これらの横孔122は、少なくとも一方の端部がワークパレット120の側面に開口している。ワークパレット120の側面において開口する横孔122の複数の開口部122aの1つには、縦穴121を含む横孔122内に作動油WOを導くための配管123の一端が手動バルブ124を介して接続されている。配管123の他端は、前記オイルポンプ109に接続されている。一方、横孔122の他の開口部122aには、メクラ栓125がそれぞれ嵌め込まれ縦穴121および横孔122を液密状態としている。これらの縦穴121および横孔122が、本発明に係る油室に相当する。
【0022】
ワークパレット120の内部には、横孔122に連通した状態で作動油供給部130が形成されている。作動油供給部130は、シリンダ部131、同シリンダ131内を摺動するピストン134、および同シリンダ131を閉塞する閉塞栓135を備えている。シリンダ部131は、ワークパレット120における図示左側側面に開口する円筒状の横穴である。このシリンダ部131の底部は横孔122に連通している。また、シリンダ131内における底部側の側面上部には、シリンダ131内を摺動するピストン134の前方の空間である前方貯留部FC内の作動油WOを排出するための排油孔131aが形成されている。排油孔131aには、一端部が手動バルブ132を介して油槽108に接続された配管133の他端部が接続されている。
【0023】
ピストン134は、略円柱状に形成されており、シリンダ131内を摺動可能な状態で配置されている。ピストン134の先端面中央部には、ピストン134の外周面によって排油孔131aを塞ぐことを防止するための円柱状の凸部134aが形成されている。一方、ピストン134の他端面中央部には、シリンダ131の開口部に向かって延びる棒状のピストンロッド134bが形成されている。このピストンロッド134bの外周面には、シリンダ131内でのピストン134の位置を示してシリンダ131から横孔122(縦穴121を含む)に供給した作動油WOの量を見知するための目盛り134cが付されている。また、ピストン134の外周面には、凹状の溝が形成されており、同溝にOリング134dが嵌め込まれている。このOリング134dは、シリンダ131内の前方貯留部FC内の液密性を確保するために設けられる。
【0024】
シリンダ131の開口部には、シリンダ131内を密閉するための閉塞栓135が嵌め込まれている。閉塞栓135の中心部には、前記ピストン134のピストンロッド134bが同ピストンロッド134bの軸線方向に摺動可能な状態で貫通している。シリンダ131の内周面に接する閉塞栓135の外周面、およびピストンロッド134bの外周面に接する閉塞栓135の内周面には、それぞれ凹状の溝が形成されており、同各溝にOリング135a,135bがそれぞれ嵌め込まれている。これらのOリング135a,135bは、シリンダ131内を摺動するピストン134の後方の空間である後方貯留部RC内の液密性を確保するために設けられる。また、閉塞栓135には、シリンダ131の後方貯留部RC内に作動油WOを供給するための供給孔135cおよび同後方貯留部RC内の作動油WOを排出するための排油孔135dがそれぞれ設けられている。供給孔135cには、一端部が手動バルブ136を介してオイルポンプ109に接続された配管137の他端部が接続されている。また、排油孔135dには、一端部が手動バルブ138を介して油槽108に接続された配管139の他端部が接続されている。
【0025】
ワークパレット120における11個の縦穴121上には、押圧ピン140a〜140kが起立した状態で設けられている。押圧ピン140a〜140kは、バルブボデーVBの押圧位置Pa〜Pkを押圧するための部品であり、棒状に形成されたピン141と、フランジ状に形成されたホルダ142とから構成されている。これらのうち、ピン141は、ワークパレット120の縦穴121内およびホルダ142内を図示上下方向に摺動可能な状態で挿入されて組み付けられている。また、ピン141の外周面中央部には、凹状に2つの溝が形成されており、同各溝にそれぞれOリング143がそれぞれ嵌め込まれている。なお、押圧ピン140aおよび押圧ピン140iを構成するピン141の先端部は、押圧ピン140a〜140k上に載置されるバルブボデーVBを位置決めするために尖った形状に形成されている。一方、ホルダ142は、縦穴121の外側に嵌め込まれたOリング144を介してワークパレット120の上面に2本のボルト145によって固定されている。これらのOリング143,144により、縦穴121、横孔122、およびシリンダ131の前方貯留部FC内の液密性が確保される。
【0026】
この性能試験装置100は、図示しない制御装置によって作動が制御される。制御装置は、マイクロコンピュータによって構成されており、作業者による操作に応じてバルブボデーVBを固定するとともに各ポートに試験用の油を充填して、各ポートが期待される油圧を発生するか否かを判定する。なお、性能試験装置100における他の構成については、本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。
【0027】
次に、このように構成された性能試験装置100の作動について説明する。まず、作業者は、性能試験装置100の制御装置の図示しない電源を投入して性能試験装置100を可動可能な待機状態とする。次に、作業者は、ワークパレット120の縦穴121、横孔122、およびシリンダ131内に作動油を充填することにより、ワークパレット120をバルブボデーVBの試験可能な状態とする。なお、本作動説明にて参照する図3(A)〜(D)においては、油槽108およびオイルポンプ109の図示を省略している。
【0028】
(作動油の充填)
まず、作業者は、図3(A)に示すように、手動バルブ132,138を開いてシリンダ131における前方貯留部FCおよび後方貯留部RCをそれぞれ開放する。そして、作業者は、ピストンロッド134bを押すことによりピストン134を前進させてシリンダ131の底面に押し当てる。すなわち、ピストン134をシリンダ131内における上死点位置に位置させる。
【0029】
次に、作業者は、図3(B)に示すように、手動バルブ124,132,136,138をそれぞれ閉じてワークパレット120の縦穴121、横孔122、およびシリンダ131内を液密状態とした後、ワークパレット120の押圧ピン140a〜140k上にダミーワークDWを載置する。ダミーワークDWは、押圧ピン140a〜140kの各ピン141の底部を横孔122内まで押し下げるための厚板状の治具である。作業者は、ダミーワークDWを載置したワークパレット120をワーク搬送テーブル103のローラコンベア104上を滑らせて移動させることにより、同ワークパレット120を性能試験装置100内における押圧シリンダ107の押圧板107b上に位置させる。
【0030】
そして、作業者は、性能試験装置100の手元操作ボックス110を操作することにより押圧シリンダ107を作動させて押圧板107bを上昇させる。この場合、性能試験装置100の図示しない制御装置は、オイルポンプ109を作動させることにより押圧シリンダ107内に油槽108に貯留されている作動油WOを供給する。これにより、押圧シリンダ107の押圧板107bがバルブボデーVBを載置するワークパレット120を上昇させ、同バルブボデーVBをマニホールド105の下面に押し当てて固定する。この場合、押圧ピン140a〜140kは、縦穴121、横孔122内の空気圧に抗しながら押し下げられ、同各ピン141の底部が横孔122内に突出した状態となる。
【0031】
次に、作業者は、図3(C)に示すように、性能試験装置100の手元操作ボックス110を操作することによりオイルポンプ109を配管123,137に接続して、同配管123,137内に作動油WOを供給する。そして、作業者は、手動バルブ138を開いてシリンダ131における後方貯留部RCを開放するとともに、手動バルブ124を開いて横孔122に作動油WOを供給する。これにより、横孔122内に作動油WOが供給されるとともに、同横孔122を介してシリンダ131の前方貯留部FC内に作動油WOが導入される。そして、前方貯留部FC内に充満した作動油WOは、シリンダ131内のピストン134を下死点位置に向けて後退させる。
【0032】
作業者は、ピストンロッド134bの目盛り134cを目視で確認しながらシリンダ131内のピストン134が下死点位置に近づいたとき、手動バルブ132を開いて前方貯留部FCを開放することにより、横孔122および前方貯留部FC内の空気を排気、すなわち、エア抜きを行う。この場合、押圧ピン140a〜140kの各ピン141の底部は横孔122内に突出した状態であるため、縦穴121内に残留する空気はない。
【0033】
次に、作業者は、手動バルブ124,132,138を閉じた後、性能試験装置100の手元操作ボックス110を操作することにより押圧シリンダ107を作動させて押圧板107bを下降させる。これにより、バルブボデーVBを載置したワークパレット120が下降し、バルブボデーVBの押圧状態が解除される。
【0034】
次に、作業者は、図3(D)に示すように、手動バルブ136を少しずつ開いてシリンダ131の後方貯留部RC内に作動油WOを供給する。これにより、シリンダ131内のピストン134は、上死点に向けて前進するとともに、シリンダ131の前方貯留部FC内の作動油WOが横孔122内に供給される。このため、横孔122に連通する縦穴121に挿入されている押圧ピン140a〜140kの各ピン141は、横孔122に供給された油量に応じて上昇する。作業者は、ピストンロッド134bの目盛り134cを目視で確認しながら、ピストン134がシリンダ131内の中央部付近に位置したとき、手動バルブ136を閉じて作動油WOの供給を停止させる。これにより、縦穴121、横孔122およびシリンダ131内が作動油WOで満たされた状態となる。この場合、シリンダ131内は、ピストン134がシリンダ131内の中央部付近に位置することにより、押圧ピン141のストローク余裕を確保しつつ、横孔122への後述する作動油WOの補給に充分な油量を確保することができる。
【0035】
次に、作業者は、バルブボデーVBが載置されたワークパレット120をワーク搬送テーブル103のローラコンベア104上を滑らせて移動させることにより手元まで引き寄せる。これにより、ワークパレット120は、バルブボデーVBの試験可能な状態となる。なお、試験領域Z2におけるワークパレット120についても同様に縦穴121、横孔122、およびシリンダ131内に作動油WOを充填する。
【0036】
(バルブボデーVBの試験)
次に、作業者は、バルブボデーVBの性能試験を行う。具体的には、作業者は、試験領域Z1におけるワーク載置テーブル101の張り出した部分に位置するワークパレット120の押圧ピン140a〜140k上に試験対象となるバルブボデーVBをセット(載置)するとともに(図1参照)、同バルブボデーVBをセットしたワークパレット120をローラコンベア104上を滑らせて押圧シリンダ107の押圧板107b上に位置させる。そして、作業者は、性能試験装置100の手元操作ボックス110を操作して制御装置に対してバルブボデーVBの性能試験の開始を指示する。
【0037】
この指示に応答して性能試験装置100の制御装置は、予め記憶されているプログラムに従ってバルブボデーVBの性能試験を開始する。具体的には、制御装置は、性能試験装置100の前面のシャッター102を下降させて試験領域Z1を閉じた後、押圧シリンダ107を作動させることによりワークパレット120を上昇させてバルブボデーVBをマニホールド105の下面に押し当てる(図1(B)において破線で示す)。この場合、各押圧ピン140a〜140kは、液密的に形成された縦穴121、横孔122およびシリンダ131(前方貯留部FC)内に充填された作動油WOの油圧によって進退自在であるため、バルブボデーVBの表面の高さに応じた突出量に変化しながらバルブボデーVBを均等な圧力で押圧する。
【0038】
そして、制御装置は、バルブボデーVBの各ポートに試験用の油を充填して、各ポートが期待される油圧を発生するか否かを判定し、同判定結果を表示ボックス111に表示させる。この試験領域Z1でのバルブボデーVBの性能試験中において作業者は、試験領域Z2におけるワークパレット120上に次の試験対象となるバルブボデーVBをセットする。すなわち、この性能試験装置100においては、試験領域Z1および試験領域Z2にて交互にバルブボデーVBの性能試験が行われる。
【0039】
試験領域Z1でのバルブボデーVBの試験が終了した場合には、制御装置は、押圧シリンダ107を作動させることによりバルブボデーVBがセットされたワークパレット120を下降させてバルブボデーVBの押圧状態を解除した後、性能試験装置100の前面のシャッター102を上昇させて試験領域Z1を開く。作業者は、表示ボックス111に表示されたバルブボデーVBの判定結果を確認した後、ワーク搬送テーブル103上に載置されたワークパレット120をローラコンベア104上を滑らせて手元まで引き寄せ、バルブボデーVBをワークパレット120上から取り外す。これにより、バルブボデーVBの試験作業が終了する。
【0040】
一方、作業者は、試験領域Z1でのバルブボデーVBの試験が終了した場合には、試験領域Z2の手元操作ボックス110を操作して同試験領域Z2のワークパレット120上にセットしたバルブボデーVBの試験開始を制御装置に指示する。これにより、試験領域Z2において、試験領域Z1と同様な手順でバルブボデーVBの性能試験が開始される。また、新たなバルブボデーVBについて性能試験を行う場合には、前記と同様の手順で新たなバルブボデーVBをワークパレット120上にセットした後、試験領域Z2でのバルブボデーVBの試験の終了を待って新たなバルブボデーVBの性能試験を開始させる。
【0041】
(作動油の補給)
このようにバルブボデーVBの性能試験を行う過程において押圧ピン140a〜140kなどから縦穴121内の作動油WOが漏れて、縦穴121および横孔122内の作動油WOの総量が減少した場合や、形状の異なるバルブボデーVBを試験するために押圧ピン140a〜140kの変位可能量(ストローク量)が不足する場合など、縦穴121および横孔122内の作動油WOが不足する場合には、作業者は、不足する量に相当する量の作動油WOを横孔122内に補給する。具体的には、作業者は、図4に示すように、オイルポンプ109を作動させるとともに同オイルポンプ109を配管139に接続した状態で、手動バルブ136を少しずつ開く。これにより、シリンダ131の後方貯留部RC内に作動油WOが供給されてピストン134が上死点に向かって前進する。このため、前方貯留部FC内に貯留されている作動油WOが横孔122内に供給される。すなわち、シリンダ131における前方貯留部FCが本発明に係る貯留手段に相当し、ピストン134が本発明に係る油送手段に相当する。
【0042】
この場合、作業者は、ピストンロッド134bの目盛り134cを監視することにより横孔122内に供給する作動油WOの量を見知することができる。横孔122内に必要な量の作動油WOを補給した場合には、作業者は、手動バルブ136を閉じて後方貯留部RC内への作動油WOの供給を停止する。これにより、作動油WOの補給作業が終了する。なお、シリンダ131内のピストン134が上死点に達した場合、換言すれば、前方貯留部FC内の作動油WOを全て使い果たした場合には、前記したワークパレット120の縦穴121、横孔122、およびシリンダ131内への作動油WOの充填作業と同様の手順で、シリンダ131の前方貯留部FC内に作動油WOを充填することができる。
【0043】
また、横孔122内に作動油WOを供給し過ぎた場合や、押圧ピン140a〜140kの変位可能量(ストローク量)を減じたい場合など、横孔122(縦穴121を含む)内の作動油WOの量を減じたい場合には、手動バルブ136を閉じた状態で手動バルブ138を少しずつ開くことによりシリンダ131の後方貯留部RCを開放する。これにより、横孔122およびシリンダ131の前方貯留部FC内の作動油WOの油圧によってピストン134が下死点側に向けて変位する。この結果、横孔122内の作動油WOが前方貯留部FC内に流動して同横孔122内の作動油WOが減少し、横孔122内の作動油WOの量を減じることができる。
【0044】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、性能試験装置100は、ワークパレット120に作動油WOを貯留するシリンダ131を横孔122に連通した状態で設けるとともに、同シリンダ131に貯留した作動油WOを横孔122内に供給するピストン134を備えている。このため、ワークパレット120の横孔122内に作動油WOを供給する場合、作業者は、シリンダ131内のピストン134を変位させることによってピストン131内に貯留されている作動油WOを横孔122内に供給することができる。したがって、従来のような煩雑な作業を経ることなく簡単な作業によって短時間に横孔122および縦穴121内に作動油WOを供給することができる。この結果、従来に比してバルブボデーVBの試験作業の効率を向上させることができる。
【0045】
また、上記実施形態によれば、シリンダ131内を変位するピストン134のピストンロッド134bに目盛り134cを設けている。これによれば、横孔122に作動油WOを供給する際、横孔122内に供給する作動油WOの量および前方貯留部FCに貯留されている作動油WOの残量を容易に把握することができる。この結果、横孔122内への給油作業をより正確かつ迅速に行うことができる。
【0046】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0047】
上記実施形態においては、横孔122に作動油WOを供給するための作動油供給部130をシリンダ131、ピストン134および閉塞栓135によって構成した。しかし、作動油供給部130は、横孔122(縦穴121を含む)に作動油WOを供給することができる構成であれば、これに限定されるものではない。例えば、図5に示すように、横孔122に手動バルブ124を介してオイルポンプ109を接続するとともに、ワークパレット120の上面に横孔122に連通するエア抜き穴126を形成する。この場合、油槽108が本発明に係る貯留手段に相当し、オイルポンプ109が本発明に係る油送手段に相当する。横孔122に作動油WOを供給するに際しては、エア抜き穴126を開放した状態でオイルポンプ109を作動させるとともに、手動バルブ124を少しずつ開く。これにより、横孔122内のエアを抜きつつ横孔122内に作動油WOを供給することができる。横孔122内に作動油WOを供給し終えた場合には、エア抜き穴126をメクラ栓125で閉塞するとともに、手動バルブ124を閉める。これによれば、上記実施形態における作動油供給部130に比して作動油供給部130の構成を簡単にすることができる。
【0048】
また、上記実施形態においては、横孔122に作動油WOを供給する際、シリンダ131の後方貯留部RC内に供給した作動油WOの油圧によりピストン134を変位させるように構成した。しかし、シリンダ131の前方貯留部FC内の作動油WOの油圧に抗してピストン134を変位させることができれば、これに限定されるものではない。例えば、図6に示すように、ピストン134のピストンロッド134bの外周面に雄ねじ134eを形成するとともに、閉塞栓135の内周面に雌ねじ135eを形成した送りねじ機構によってピストン134を変位させることができる。この場合、ピストンロッド134は、作業者による手動操作のほか、電動モータなどの各種アクチュエータを用いて駆動することができる。これによっても、上記実施形態と同様な効果が期待できる。
【0049】
また、上記実施形態においては、横孔122に供給する作動油WOの量を把握するためにピストンロッド134bに目盛り134cを設けた。しかし、横孔122に供給する作動油WOの量を見知できるものであれば、これに限定されるものではない。例えば、配管137を介して後方貯留部RCに供給される作動油WOの流量を測定して横孔122に供給する作動油WOの量を把握するようにしてもよい。また、横孔122内への作動油WOの供給時における押圧ピン140a〜140kの各ピン141の変位量を検出して横孔122に供給する作動油WOの量を把握するようにしてもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。なお、これらの油量見知手段は、横孔122に供給する作動油WOの量を見知するためのものであるため、同油量を見知する必要がない場合(例えば、定期的に定量の作動油WOを供給する場合など)には、必ずしも必要ではない。
【0050】
また、上記実施形態においては、手動バルブ124,132,136,138を作業者による手動操作によって開閉するように構成した。しかし、これらの各手動バルブ124,132,136,138を制御装置によって開閉するように構成してもよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0051】
また、上記実施形態においては、四輪自動車に搭載されるバルブボデーVBの試験装置に用いられるワークパレット120に本発明を適用した。しかし、本発明は、油圧を用いて進退自在に組み付けられた複数の押圧ピンによって被固定物を押圧して固定するワーク固定装置に広く適用できるものである。例えば、四輪自動車などの自走式車両に搭載されるウォータポンプやオイルポンプなどの性能試験機に用いられるワーク固定装置に適用することができる。また、性能試験機のほかに、被固定物を加工する加工機に用いられるワーク固定装置などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(A),(B)は本発明の一実施形態に係るワーク固定装置を備えた性能試験装置の外観を概略的に示し、(A)は一部破断正面図であり、(B)は一部破断側面図である。
【図2】(A),(B)は図1に示すワークパレットを示し、(A)は平面図であり、(B)は(A)におけるA−A線から見た断面図である。
【図3】(A)〜(D)はワークパレット内に作動油を供給する工程を説明するための図であり、図2(A)におけるA−A線から見た断面図である。
【図4】ワークパレット内においてシリンダ内から横孔に作動油を供給する工程を説明するための図であり、図2(A)(A)におけるA−A線から見た断面図である。
【図5】本発明の変形例に係るワークパレットを示す断面図である。
【図6】本発明の他の変形例に係るワークパレットを示す断面図である。
【図7】(A),(B)は図1に示す性能試験装置において試験対象となるバルブボデーの外観を概略的に示し、(A)は平面図であり、(B)は側面図である。
【図8】(A),(B)は従来例に係るワークパレットを示し、(A)は平面図であり、(B)は(A)におけるA−A線から見た断面図である。
【符号の説明】
【0053】
VB…バルブボデー、WO…作動油、FC…前方貯留部、RC…後方貯留部、Pa〜Pk…押圧位置、BL…底面、DW…ダミーワーク、100…性能試験装置、101…ワーク載置テーブル、102…シャッター、103…ワーク搬送テーブル、104…ローラコンベア、105…マニホールド、106a,106b…側板、107…押圧シリンダ、107c…押圧板、108…油槽、109…オイルポンプ、110…手元操作ボックス、111…表示ボックス、120…ワーク搬送パレット、121…縦穴、122…横孔、123,133,137,139…配管、124,132,136,138…手動バルブ、125…メクラ栓、126…エア抜き穴、130…作動油供給部、131…シリンダ、134…シリンダ、134d…Oリング、134e…雄ねじ、135…閉塞栓、135e…雌ねじ、140a〜140k…押圧ピン、141…ピン、142…ホルダ、143,144…Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油で満たされた油室を有し、複数の押圧ピンが前記油室に満たされた作動油の圧力によって進退自在な状態で組み付けられたワークパレットを備え、
前記ワークパレットにおける前記複数の押圧ピンを被固定物に押圧することにより、同被固定物を固定するワーク固定装置において、
前記油室に連通する状態で設けられ、前記油室に供給するための作動油を貯留する貯留手段と、前記貯留手段に貯留された前記作動油を前記油室に送るための油送手段とから構成された作動油供給手段を備えたことを特徴とするワーク固定装置。
【請求項2】
請求項1に記載したワーク固定装置において、
前記貯留手段は、筒状に形成されたシリンダであり、
前記油送手段は、前記シリンダ内にて摺動可能な状態で設けられ、同シリンダ内に貯留された前記作動油を前記油室に送るためのピストンであるワーク固定装置。
【請求項3】
請求項2に記載したワーク固定装置において、
前記油送手段における前記ピストンは、前記シリンダ内に作動油を供給することによる油圧によって前記シリンダ内を変位するワーク固定装置。
【請求項4】
請求項2に記載したワーク固定装置において、
前記油送手段における前記ピストンは、送りねじ機構により前記シリンダ内を変位するワーク固定装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したワーク固定装置において、
前記作動油供給手段は、前記油室に供給する作動油の量を見知するための油量見知手段を備えるワーク固定装置。
【請求項6】
自走式車両に搭載されるバルブボデー、ウォータポンプ、またはオイルポンプの性能を試験する性能試験装置において、
前記試験の対象となる前記バルブボデー、ウォータポンプ、またはオイルポンプを着脱自在に固定するために、前記請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載したワーク固定装置を備えたことを特徴とする性能試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図3(C)】
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【図3(D)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−85906(P2009−85906A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259498(P2007−259498)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(594139366)新日本特機株式会社 (4)
【Fターム(参考)】