説明

一体型SERS測定のための導波路一体型プラズモン共鳴装置

【課題】表面増強ラマン散乱(SERS)セットアップと結びついた(一体型の)表面プラズモンポラリトン、及びそこでの導波路一体型共振器に使用可能である共振器構造を提供する。
【解決手段】共振器構造100は、2つの金属層110,130と、該2つの金属層110,130の間に挟持された絶縁層120とを有する金属−絶縁体−金属導波路を備える。共振器構造100はまた、絶縁層120内の少なくとも一部に配置され且つ絶縁層120内に共振キャビティの少なくとも1つのミラーを形成する、少なくとも1つのナノスケール金属反射体160a,160bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光共振器、特に、高い品質係数及びナノスケールサイズの寸法を有する導波路一体型共振器に関する。本発明はまた、表面増強ラマン散乱(SERS)セットアップと結びついた(一体型の)表面プラズモンポラリトン、及びそこでの導波路一体型共振器の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
導波路一体型の受動素子を使用して、導波路、例えば金属スロット導波路の透過スペクトルを修正することができる。例えば、高Q値バンドパスフィルタは、さまざまなスペクトルバンドへの送信信号にフィルタをかけて波長分割多重化を実現するのに非常に有用である可能性がある。パッシブフィルタは、導波路回路を通じてSPPを送信することにも使用可能である。パッシブフィルタは、センシング・アプリケーションにも重要な役割を果たすことができ、例えばシャープなプラズモンノッチフィルタは、チップ上の表面増強ラマン散乱の将来の発展にとって有用である。
【0003】
共振器は、金属−絶縁体−金属プラズモン導波路内に製造可能であり、強い共振を示す。かかる強い共振を得るために、ブラッグ反射器又はブラッグミラーが現在欠くことのできないコンポーネントである。共振器は、金属−絶縁体−金属(MIM)プラズモン導波路内部のブラッグ反射器に共振キャビティを導入することによって製造する。近年、MIM導波路をベースとしたブラッグ反射器が実験的に実証されている。
【0004】
変調は、誘電体の厚さを変化させることによって達成し、これを数値的に検討することができる。これらの導波路において、厚さを変化させることは、物理的にモード屈折率の周期的な変調につながる。例えば、2つの半無限金クラッド層に対称的に包囲された厚さ100nmのSiOコアの場合、モード屈折率は、800nmの自由空間波長で1.84に等しい。コアの厚さが60nmまで減少した場合、モード屈折率は2.06まで増大する。このモード屈折率の差は、MIM導波路内部のこれらのブラッグ反射器を設計するためのキーポイントである。
【0005】
ブラッグ反射器内にキャビティを導入することによって、ブラッグ反射器のストップバンドにシャープな共振が現われる。シリコンフォトニクスでは、フォトニックバンドギャップマイクロキャビティは、最大10となる高い品質係数での共振を有することが知られている。しかしながら、非常に低い損失の誘電体導波路から高閉じ込め金属導波路へこの概念を移行させる場合、金属層内部への電場の侵入に起因して損失が飛躍的に増加し、高オーム損失を引き起こす。金属導波路内のシャープなプラズモンバンドパスフィルタ及びノッチフィルタは、既に開発されている能動プラズモン素子と組み合わせることにより、マイクロスケールの蛍光バイオセンサ又は表面増強ラマン散乱の一体型検出につながる可能性がある。パッシブフィルタは、優れた電場閉じ込めに起因してMIM導波路内に集積される。
【0006】
特に、表面プラズモンポラリトンを用いる場合、ブラッグ反射器の使用は、ミクロンサイズのブラッグ反射器の比較的大きい長さに起因していくつかの欠点を有し、その結果、閉じ込められた表面プラズモンポラリトンは長い伝播長を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光共振器、特に、高い品質係数及びナノスケールサイズの寸法を有する導波路一体型共振器を提供することが、好ましい実施形態の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高閉じ込め表面プラズモンポラリトンが移動する必要がある移動距離を短縮できることは、本発明の実施形態の利点であり、これは通常短いポラリトンの伝播長の観点から好都合である。ナノメータスケールの反射器を使用し、結果として光共振器中の表面プラズモンポラリトンに対する移動長が最小化することは、本発明の実施形態の利点である。
【0009】
導波路一体型プラズモン共振器を使用して、表面増強ラマン散乱(SERS)の完全に一体となったセットアップをチップ上に作成できることは、本発明の実施形態の利点である。
【0010】
導波路一体型共振器内でラマン散乱したフォトンを表面プラズモンに非常に効率的に結合させ、共振条件では出力導波路に実効的に結合させる共振器を提供することが、本発明の少なくともいくつかの実施形態の利点である。一旦出力導波路に捕捉されると、ラマン散乱プラズモンは、例えばプラズモンを自由空間放射線に結合出射させ、続いてスペクトル分析することによって、或いは、一体型分散光学系を使用することによってスペクトル分析することができる。ラマン散乱したフォトンをプラズモン励起と結合させた場合に生じうる無放射減衰の問題は、以上を基礎として問題ではない。
【0011】
上記の目的は、本発明による方法及びデバイスに従って達成される。
【0012】
本発明は、2つの金属層、及び該2つの金属層の間に挟持された絶縁層を有する金属−絶縁体−金属導波路と、絶縁層内の少なくとも一部に配置され、該絶縁層内の共振キャビティで少なくとも1つのミラーを形成する、少なくとも1つのナノスケール金属反射体とを備えた、共振キャビティ内で放射線を維持するための共振器構造に関する。共振キャビティの少なくとも一面でコンパクトなミラーが得られることは、本発明の利点である。
【0013】
少なくとも1つのナノスケール金属反射体は、2つのナノスケール金属反射体でもよく、該2つのナノスケール金属反射体は、絶縁層内で共振キャビティのミラーを形成する。コンパクトな共振キャビティを得られることは、本発明の実施形態の利点である。三次元でナノスケールを有するナノスケールの共振器構造が得られることは、本発明による実施形態の利点である。
【0014】
少なくとも1つのナノスケール金属反射体は、金属層に対して実質的に垂直な障壁でもよい。
【0015】
該障壁の厚さは、1nm〜100nmでもよい。
【0016】
少なくとも1つのナノスケール金属反射体は、金障壁でもよい。
【0017】
共振器構造はさらに、一体となった分散光学計を備えてもよい。
【0018】
共振器構造はさらに、放射線を高屈折率差誘電体導波路に結合するためのカプラを含んでもよい。
【0019】
本発明はまた、上記のような共振器構造を備えた表面増強ラマン散乱システムに関する。
【0020】
該表面増強ラマン散乱システムは、少なくとも一体型検出器及び/又は一体型放射線源を備えてもよい。
【0021】
該表面増強ラマン散乱システムは、ラボオンチップシステムでもよい。
【0022】
本発明はまた、センシング目的のための、上記のような表面増強ラマン散乱システムの使用に関する。
【0023】
本発明の特定かつ好ましい態様は、添付する独立請求項及び従属請求項において詳説する。従属請求項の特徴は、独立請求項の特徴及び他の従属請求項の特徴と、適切に且つ単に請求項に明記されただけでないものとして組み合わせてもよい。
【0024】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、下記の実施形態から明らかとなり、またそれに関連して明確となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】本発明の実施形態による金属製反射共振フィルタの概略図を示す。
【図1B】キャビティ長500nmについての正規化透過電力を、本発明の実施形態による高い品質係数についての正規化電場プロファイルと一緒に示す。
【図2】本発明の実施形態による高い品質係数を有する共振器のキャビティフィルタの透過電力のプロットを、励起周波数及びキャビティ長の関数として示す。
【図3A】本発明の実施形態による高い品質係数を有する共振器で生じるQ値を、金障壁反射体の障壁厚さの関数として示す。
【図3B】本発明の実施形態による高い品質係数を有する共振器で生じるQ値を、障壁の厚さ、したがって反射率が大きくなりすぎて伝播プラズモンモードが共振キャビティに実効的に結合入射できない場合について示しており、厚さが40nmより大きい場合、品質係数は飽和し、最終的に減少する。
【図4】本発明の実施形態による金属製反射共振フィルタの概略図を示す。
【図5】キャビティ長500nmについての正規化透過電力を、正規化電場プロファイルと一緒に示す。これは、本発明の実施形態の特徴を示す。
【図6】本発明の実施形態で使用可能なように、金障壁の厚さの関数としてピーク値で正規化した透過電力を示す。
【0026】
記載した図面は概略的なものに過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントのサイズは、説明目的のため誇張し、また、スケールどおり描いていないことがある。
【0027】
請求項での任意の符号は、技術的範囲を限定するものとして解釈するべきではない。
【0028】
異なる図面で、同一の参照符号は同一又は類似のエレメントを指す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、特定の実施形態について特定の図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらに限定されず、請求項によってのみ限定される。記載した図面は概略的なものに過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントのサイズは、説明目的のため誇張し、また、スケールどおり描いていないことがある。寸法及び相対寸法は、本発明の実際の実施化と対応していない。
【0030】
さらに、説明及び請求項での用語「第1」「第2」等は、類似のエレメントを区別するための使用しており、必ずしもシーケンスを時間的、空間的に、序列で、又は他のどの様式で表したものでもない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であり、本発明の実施形態は、本明細書で説明したり図示したものとは別の順番で動作可能であると理解すべきである。
【0031】
さらに、説明及び請求項での用語「上(top)」「下(under)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を記述するためのものでない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であって、本明細書で説明した本発明の実施形態が、本明細書で説明又は図示した以外の他の向きで動作可能であると理解すべきである。
【0032】
請求項で使用する用語「備える、含む(comprising)」は、それ以降に列挙された手段に限定されるものと解釈すべきでなく、他のエレメント又は工程を除外していない。記述した特徴、整数、工程又はコンポーネントの存在を、参照したように特定するように解釈する必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程又はコンポーネント、或いはこれらのグループの存在又は追加を除外していない。したがって、「手段A及びBを備えるデバイス」という表現の技術的範囲は、コンポーネントA及びBだけからなるデバイスに限定すべきでない。本発明に関して、関連するデバイスのコンポーネントが、ただA及びBであることを意味するだけである。
【0033】
この明細書を通じて「一実施形態(one embodiment又はan embodiment)」の参照が意味するのは、該実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造又は特性は、本発明の少なくとも一実施形態に含まれるということである。したがって、この明細書を通じてさまざまな場所で現れるフレーズ「一実施形態(one embodiment又はan embodiment)」は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではないが、参照してもよい。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、この開示から当業者にとって明らかなように、一以上の実施形態において、好適な方法で組み合わせることができる。
【0034】
同様に、本発明の例示の実施形態の説明において、本発明の種々の特徴は、開示を効率化し、一以上のさまざまな発明の態様を理解することを助ける目的で、時には単一の実施形態、図面、又はその説明の中に一緒にグループ化されることを認識するべきである。しかしながら、この開示の方法は、請求項記載の発明が、各請求項に明確に記載されたものより多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、以下の請求項が示すように、発明の態様は、先に開示された単一の実施形態のすべての特徴より少なくなる。したがって、詳細な説明に続く請求の範囲は、これにより詳細な説明中に明確に包含され、各請求項は、この発明の別々の実施形態としてそれ自身で成立する。
【0035】
さらに、本明細書に記載したいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴は含むが、他の特徴は含まない。一方、当業者が理解することになるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の請求の範囲において、請求項記載の実施形態のいずれもが、任意の組み合わせで使用可能である。
【0036】
本明細書で行う説明において、多くの具体的詳細が明記される。しかしながら、本発明の実施形態はこれらの具体的詳細なしに実践してもよいことが理解される。他の例では、周知の方法、構造、及び技術は、この説明の理解を不明瞭にしないために詳細には示さない。
【0037】
本発明の実施形態で、用語「ナノスケール」は、少なくとも1つのプラズモン波長より小さい寸法を有する物体を指すことができる。本発明のいくつかの実施形態では、用語「ナノスケール」は、少なくとも一方向で、1000nm〜1nmの範囲、好ましくは100nm〜1nmの範囲、さらに好ましくは50nm〜1nmの範囲にある少なくとも1つの寸法を有する物体を指すことができる。
【0038】
本発明の実施形態で、金属−絶縁体−金属導波路、又は、MIM導波路、は2つの金属層(M)、及び2つの金属層の間に挟持される絶縁層(I)が形成する導波路を指す。
【0039】
本発明の実施形態で、共振器構造、は少なくとも1つの共振キャビティを備えた構造を指し、そこでは特有の性質を有する放射線が共振可能である。これにより、特定のフィルタリング効果又は放射線増強効果を有する構造が得られる。
【0040】
本発明の実施形態で、高屈折率差誘電体導波路(high index contrast dielectric waveguide)、は高屈折率差を提供するようないずれかの系、例えばSOI材料系、又はIII−V材料系で作成した導波路を指す。シリコンオンインシュレータ層材料系の利点は、高度な集積型フォトニック回路を可能にすることである。高屈折率差は、さまざまな機能をチップ上に集積可能となるように、フォトニック導波路及びサブミクロン寸法を有する導波路コンポーネントが光を非常に小さいスケールで誘導、屈曲及び制御することを可能にする。シリコンオンインシュレータを使用することはまた、いくつかの技術的利点を有する。CMOS産業により、シリコン技術は、性能、再現性及びスループットの面で、他の平面チップ製造技術を数段凌ぐ成熟度レベルに達している。ナノフォトニックICは、ウエハスケールプロセスを用いて製造することが可能であり、これは、ウエハがフォトニック集積回路を大量に含有可能であることを意味する。またこれは、比較的低価格の大口径ウエハが商業的に手に入ることと組み合わせることで、フォトニック集積回路当たりの価格を非常に低くすることが可能であることを意味する。
【0041】
第1の態様で、本発明は、共振キャビティ内で放射線を維持するための共振器構造に関する。該共振器構造は、金属−絶縁体−金属導波路を備える。概して、かかる金属−絶縁体−金属導波路は、2つの金属層と、該2つの金属層の間に挟持された絶縁層を含む。共振器構造はまた、絶縁層内に少なくとも部分的に配置され、共振キャビティの少なくとも1つのミラーを形成するナノスケール金属反射体を備える。ここで、共振キャビティは、絶縁層の内部に位置する。例として、本発明の少なくともいくつかの実施形態による共振器構造の特徴及び利点のより詳細な説明を、図1Aの例示的な共振器構造に関連して示すが、本発明の実施形態はそれに限定されない。図1Aでは、本発明の実施形態の、高い品質係数を有する共振器の可能な実装の概略図を示す。図1Aは、2つの金属層110,130と、それらの間に挟持された絶縁層と、で構築された金属−絶縁体−金属導波路を備えた共振器構造100を示す。この例では、約100nmの絶縁体コアを有する金−SiO−金のMIM導波路を使用することができる。概して、共振器構造100はまた、放射線を該構造へ誘導するための放射線入口140と、放射線を導波路から外へ誘導するための放射線出口150とを備えることできる。共振器構造はさらに、少なくとも1つの、本例では2つの金属反射体160a,160bによって形成されるキャビティ構造を備える。
【0042】
これらの金属反射体160a,160bは、本実施例では、0〜60nmの厚さを有する垂直な金障壁である。2つの薄い金障壁で発生する部分的な光透過及び反射に起因して、共振は、下記の式[1]によって形作ることができる。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、Lcavはキャビティ長であり、KSPPはSPP波ベクトル、Φは反射時の位相シフト、nは整数である。
【0045】
実施形態によれば、高い品質係数を有する共振器構造は、金属反射体をMIM導波路内に組み込むことによって達成される。こうして得られた導波路一体型透過フィルタは、三次元でナノスケールを有する一体型ファブリペロ共振器をベースとし、MIM導波路内に2つの薄い金属の障壁、例えば2つの金障壁を導入することによって設計可能である。このように、ミクロンサイズのブラッググレーティングの必要性を除去することが可能であり、それゆえ三次元的にナノスケールの共振器を作成することが可能となる。また、最先端のプラズモン結晶共振器と比較してのその小さい寸法に起因して、抵抗加熱に起因する損失は大きく減少し、共振時のより大きい透過電力につながる。
【0046】
本発明の一実施形態による高い品質係数を有する共振器をオフ共振波長で動作させる場合、キャビティとの実効的な結合はいずれも可能でなく、その結果、2つの金属障壁の反射率が高いため、透過度は非常に低くなるであろう。これは、ブラッググレーティングをベースとするキャビティと比較して非常に好都合である。なぜなら、オフ共振波長は全スペクトルに渡って非常に小さく、一方、プラズモン結晶キャビティに対して、ゼロ透過領域のスペクトル領域は、ブラッググレーティングのストップバンドが決定する限られたスペクトル範囲を有するのみだからである。
【0047】
本発明の実施形態による、高い品質係数を有する共振器のキャビティフィルタのスペクトル透過を調べるために、二次元FDTDシミュレーションを実施した。導波路内部でのSPPの生成は、ダイポール励起、及びフィルタを監視した後の透過電圧によって達成した。フィルタを透過した場合の絶対値を得るために、導波路内部のSPP減衰を考慮に入れる必要がある。それゆえ、フィルタ後のパワースペクトルを、フィルタが存在しない場合のパワースペクトルに正規化する。20nm幅の金属反射体を有する500nm幅のキャビティの正規化透過スペクトルを図1Bに示す。この幅の場合、500nm〜2200nmの間の自由空間波長について、3つの第1共振モード(n=1,2,3)が適合するのが観察される。図1Bの下側パネルで、キャビティ内の正規化電場プロファイルを、透過スペクトルに矢印で示すさまざまな波長について示している。共振波長(ライン1,2及び3)については、キャビティ内部に明確に1、2及び3のノードが見られ、SPP透過はキャビティ後に観察される。4番目の正規化電場プロファイルにおいて、透過スペクトルでのライン4に対応して、1.15μmのオフ共振波長についての正規化電場プロファイルを示す。この場合、SPP透過は観察されず、第1、第2金障壁で強い反射が観察されただけであった。
【0048】
共振の中心波長を調整する方法は所定の共振条件によって決定する。プラズモン結晶共振器及び他の多くの共振器のように、共振のスペクトル位置は、キャビティ長を変更することで変化させることができる。図2Aは、励起周波数及びキャビティ長の関数として、フィルタの透過電力のカラープロットを示す。標準のファブリペロモードのプロットを得ることもできる。バンド間変移がクラッド層での損失の増加につながるスペクトル領域は、プロットの右側で明確に見ることができる。最低次モード(n=1)は、キャビティ長150nmの場合に現れる。
【0049】
キャビティ長を増加させる場合、より高次の共振モードがスペクトル透過で現われる。キャビティ長の関数として所定のスペクトルが明確に観察される。高い品質係数のモードを示すシャープな共振が、すべてのナノキャビティについて観測できる。ナノキャビティ共振についての品質係数は、主に導波路クラッド層及び金属ミラーの両方からの固有の損失によって決定する。
【0050】
品質係数を調査するために、2つの金障壁反射体の効率を変更した場合の品質係数への影響を検討することができる。金障壁からの反射率及び金障壁の透過度は、それらの厚さによって容易に変更することができる。スペクトル幅を狭くする結果、障壁の厚さの増加、したがって反射体の効率が増加するに伴って、より大きい共振が得られる。図3Aに、n=1、2及び3について得られるQ値を障壁の厚さの関数としてプロットしている。キャビティ幅は、3つのモードについて約1000nmの共振波長を有するように、それぞれ250nm、500nm及び700nmとする。品質係数は、障壁厚さの増加関数であることがわかった。しかし、障壁の厚さが大きくなりすぎた場合は、反射率が大きくなりすぎ、伝播プラズモンモードが共振キャビティに実効的に結合入射できない。したがって、厚さが40nmより大きい場合、品質係数は飽和し、最終的には減少する。もちろん、この影響は、フィルタの透過電力で現われる。図3Bに、これを再度3つの最低モードについて図示している。反射体の厚さが増加するにつれて、Q値は増加する一方、低い結合入射効率に起因して、フィルタの透過度は低減する。40nmより大きい場合、電力は共振キャビティをほとんど透過しない。
【0051】
上記シミュレーションは二次元FDTDシミュレーションであるが、この種の共振器は横方向にサブ波長の寸法を有する導波路にも適用可能であることを、三次元シミュレーションは証明している。
【0052】
本発明の実施形態によれば、共振システムはまた、分散光学系を含んでもよい。かかる分散光学系は、追加のフィルタを一体とすることによってプラズモン導波路に実装可能な一体型分散光学系でもよい。或いは、かかる分散光学系は、表面プラズモンがSiN、Si又はGaNで製造した低損失の高屈折率差誘電体導波路に実効的に結合するのを可能にしてもよい。これらの誘電体導波路では、例えばフォトニック結晶又はアレイ導波路回折格子を使用して、一体型スペクトル分析を実施することができる。これを一体型検出器及び一体型レーザ源と結びつけることにより、完全に一体となったSERSセンサを得ることができる。
【0053】
一態様において、本発明はまた、第1の態様による共振器構造(100)を備えた表面増強ラマン散乱システム、例えば、SERSセンサに関する。その特徴及び利点は、当該箇所で説明している。MIM絶縁体層の厚さが充分小さい場合、高品質の共振キャビティ内で非常に大きい電場増強を得ることができる。ナノスリット内の高電場増強に起因して、該スリットのキャビティを、表面増強ラマン散乱(SERS)に使用することができる。共振の強度は、金属反射体の厚さを変更することで調整可能である。これは、最大100の品質係数につながる。
【0054】
有利な実施形態では、必要となるラマンシステム(レーザ光源、分光器及びCCDカメラを含む大きなシステム)をチップ上に集積する。提案している一体型共振器は、分子を共振キャビティ内部に導入し、ラマン散乱プラズモンをキャビティの外側に伝導する完全な一体型SERSデバイスを製造するのに理想的である。ラマン散乱したプラズモンを誘導して、ラマン散乱信号のスペクトル分析のために使用することができる。チップ上で完全にシステムを集積するためには、それを能動プラズモン源及び検出器と組み合わせることができる。このデバイスの利点は、完全にチップ上に集積できること、ナノスケールの寸法を有すること、多重化のために大きいアレイ内に製造できること、大きい電場増強、したがって大きいSERS強度につながるQ値共振を有することである。
【0055】
さらに別の態様では、本発明は、第1の態様による共振器構造、又はセンシング目的のための第2の態様によるSERSシステムの使用に関する。
【0056】
例として、本発明の実施形態はこれに限定されないが、本発明の一実施形態による導波路一体型キャビティ構造が該導波路内に金属反射体を組み込むことによってどのように実現するかについての数値例を示す。このように、ミクロンサイズのブラッググレーティングの必要性を除去し、三次元でナノスケールの好適な共振器を得ることができる。例えばプラズモン結晶共振器と比較した小さい寸法に起因して、抵抗加熱に起因する損失は大きく低減し、共振時の大きい透過電力につながることとなる。
【0057】
図4に検討対象の構造の概略図を示す。厚さ100nmの絶縁体コアを有する金―SiO−金の標準MIM導波路を用いた。キャビティ構造955は、縦方向の2つの金障壁によって形成した。実際、この構造であれば、絶縁体層内部の集束イオンビームミリング、そしてそれに続く金の蒸着又は電気メッキによって製造することができる。2つの薄い金障壁で生じる部分的な光透過及び反射に起因して、共振は、下記の式を満たす場合に形成される。
【0058】
【数2】

【0059】
ここで、Lcavはキャビティ長、KsppはSPP波ベクトル、φは反射の際の位相シフト及びnは整数である。オフ共振波長については、キャビティと実効的に共振結合するのは不可能であり、結果として、2つの金属障壁の反射率が非常に高いため、透過度は非常に小さくなるであろう。これは、プラズモン結晶キャビティと比較して非常に好都合である。なぜなら、オフ共振波長に対する透過度は、全スペクトルに渡って非常に低いからである。プラズモン結晶キャビティの場合、ゼロ透過度領域のスペクトル範囲は、ブラッググレーティングのストップバンドが決定する限られたスペクトル範囲のみを有する。
【0060】
キャビティフィルタのスペクトル透過度を検討するために、二次元FDTDシミュレーションを実施した。SPPの導波路内での発生は、ダイポール励起によって達成した。フィルタ後の透過電力を監視した。フィルタの透過についての絶対値を得るために、導波路内部のSPP減衰を考慮した。それゆえ、フィルタ後のパワースペクトルをフィルタが存在しない場合のパワースペクトルに対して正規化した。20nm幅の金属反射体を有する500nm幅のキャビティの正規化透過スペクトルを図5の上側パネルに示している。この幅の場合、キャビティ内では3つの共振モード(n=1,2,3)が500nm〜2200nmの自由空間波長に適していることが観察された。図5の下側パネルでは、キャビティ内部の正規化電場プロファイルを、透過スペクトル内に縦線で指すさまざまな波長について示している。共振波長(ライン961,962及び963)について、1、2及び3のノードをキャビティ内で明確に発見し、キャビティ後にSPP透過度を観察した。4番目の正規化電場プロファイルで、透過スペクトルのライン964に対応して、1.15μmのオフ共振波長についての正規化電場プロファイルを示した。この場合、SPP透過は観察されず、第1、第2金障壁で強い反射が観察されただけであった。
【0061】
一体となった金属反射体を備えた共振器の共振波長の調整原理は、プラズモン結晶導波路共振器の調整に類似しているだろう。共振のスペクトル位置は、キャビティ長を変化させることによって変更可能である。図2は、フィルタを透過した電力のプロットを、励起周波数及びキャビティ長の関数として示す。標準的なファブリペロモードのプロットが得られた。バンド間変移がクラッド層の増加した損失につながるスペクトル領域を、プロットの右側で明確に見ることができる。最低次モード(n=1)は、150nmのキャビティ長について現れる。キャビティ長を増加させた場合、高次共振モードがスペクトル透過に現われる。キャビティ長の関数として予想したスペクトルシフトが明確に観察された。高い品質係数モードを示すシャープな共振が、すべてのナノキャビティについて観察された。ナノキャビティ共振についての品質係数は、導波路クラッド層及び金属ミラーの両方からの固有の金属損失によって主に決定した。同じ励起周波数では、一次モードより二次モードの方が品質係数が大きいことがプロットからわかる。品質係数を調査するために、2つの金障壁反射体の効率を変化させることの品質係数に対する影響を検討した。金障壁からの反射率、及び金障壁の透過度は、その厚さを変えることで容易に変更することができる。図6で、長さ250nmのキャビティ共振器の透過度を一次モードについて計算した。金障壁反射体の厚さは10nm〜60nmで変化させた。さまざまな共振器幅の場合の共振器の透過電力を数桁に渡って変化させたので、透過スペクトルをピーク値で正規化した。障壁の厚さ、したがって反射体の効率を増加させるに伴って、より強い共振が得られ、その結果スペクトル幅が狭くなるのが観察された。n=1、2及び3の場合のQ値を、障壁厚さの関数として図3Aにプロットした。キャビティ幅は、3つのモードについて約1000nmの共振波長を有するように、それぞれ250nm、500nm及び700nmとした。品質係数は、障壁厚さの増加関数であることがわかった。しかし、障壁の厚さが大きくなりすぎた場合は、反射率が大きくなりすぎ、伝播プラズモンモードが共振キャビティに実効的に結合入射することができない。したがって、厚さが40nmより大きい場合、品質係数は飽和し、最終的には減少する。もちろん、この影響は、フィルタの透過電力に現われる。図3Bに、これを再度3つの最低モードについて図示している。反射体の厚さが増加するにつれて、Q値は増加する一方、低い結合入射効率に起因して、フィルタの透過度は低減する。
【0062】
40nmより大きい場合、電力は共振キャビティをほとんど通過しない。この例で示すシミュレーションは二次元FDTDシミュレーションであるが、この種の共振器は横方向にサブ波長の寸法を有する導波路にも適用可能であることを、三次元シミュレーションは証明している。
【0063】
結論として、三次元でナノスケールサイズを有する一体型ファブリペロ共振器をベースとした導波路一体型透過フィルタは、MIM導波路内に2つの金障壁を導入することによって設計可能である。共振器の強度は、金属反射体の厚さを変えることによって調整可能であり、これにより、品質係数が最大80に至る。
【0064】
金属反射体を備えた共振器を、三次元でナノスケールサイズを有する導波路一体型共振器として使用可能であることは、本発明の実施形態の1つの利点である。サブ波長の横方向寸法を有するナノスケール金属導波路内部にこの種の高Q値共振器を一体化可能であることはまた、本発明の実施形態の1つの利点である。この共振器とモード結合することによって、新規な実効ノッチフィルタを設計することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの金属層(110,130)、及び該2つの金属層(110,130)の間に挟持された絶縁層(120)を有する金属−絶縁体−金属導波路と、
絶縁層(120)内の少なくとも一部に配置され、該絶縁層(120)内の共振キャビティの少なくとも1つのミラーを形成する、少なくとも1つのナノスケール金属反射体(160a,160b)とを備えた、共振キャビティ(170)内で放射線を維持するための共振器構造(100)。
【請求項2】
少なくとも1つのナノスケール金属反射体(160a,160b)は、2つのナノスケール金属反射体(160a,160b)であり、
該2つのナノスケール金属反射体(160a,160b)は、絶縁層(120)内に共振キャビティのミラーを形成する、請求項1に記載の共振器構造(100)。
【請求項3】
少なくとも1つのナノスケール金属反射体(160a,160b)は、金属層(110,130)に対して実質的に垂直な障壁である、請求項1又は2に記載の共振器構造(100)。
【請求項4】
障壁の厚さは、1nm以上100nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の共振器構造(100)。
【請求項5】
少なくとも1つのナノスケール金属反射体(160a,160b)は、金障壁である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の共振器構造(100)。
【請求項6】
一体型分散光学系をさらに備えた、請求項1〜5のいずれか1項に記載の共振器構造(100)。
【請求項7】
高屈折率差誘電体導波路に放射線を結合させるためのカプラをさらに備えた、請求項1〜6のいずれか1項に記載の共振器構造(100)。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の共振器構造(100)を含む、表面増強ラマン散乱システム。
【請求項9】
少なくとも一体型検出器及び/又は一体型放射線源を備えた、請求項8に記載の表面増強ラマン散乱システム。
【請求項10】
ラボオンチップシステムである、表面増強ラマン散乱システム。
【請求項11】
センシングを目的とする、請求項8又は9に記載の表面増強ラマン散乱システムの使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242387(P2012−242387A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−110881(P2012−110881)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【出願人】(599098493)カトリーケ・ウニフェルジテイト・ルーベン・カー・イュー・ルーベン・アール・アンド・ディ (83)
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven,K.U.Leuven R&D
【Fターム(参考)】