説明

一体成形体の製造方法及び一体成形体

【課題】結晶性熱可塑性樹脂と添加剤とを含む溶融樹脂組成物から構成される成形体の表面に、添加剤を含有しない結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層を、充分に密着させることができ、且つ、結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層のもととなる立体シートを、真空成形法で成形する技術を提供する。
【解決手段】結晶化度が20%以下のPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)から構成される立体シートを、射出成形用金型内に配置し、PPS樹脂の溶融温度以上の溶融樹脂組成物を前記射出成形用金型内に射出し、一体成形体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体成形体の製造方法及び一体成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性樹脂は、高い耐熱性、機械的物性、耐薬品性、寸法安定性、難燃性等の物性を有していることから、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。
【0003】
また、結晶性熱可塑性樹脂は、結晶性熱可塑性樹脂に無機充填剤等の添加剤を添加した樹脂組成物として使用されることが多い。添加剤を配合することにより、機械物性をはじめとする各種物性が向上する。
【0004】
上記の通り、結晶性熱可塑性樹脂と添加剤とを含む樹脂組成物を成形してなる成形体は、優れた物性を有することから、様々な用途に使用されている。しかし、成形体と接触する気体の種類、液体の種類等によっては、添加剤を含有することが問題となる場合がある。このような場合に、添加剤で物性が向上されていない結晶性熱可塑性樹脂を用いても、機械的強度等の物性が充分でないことがあり、結晶性熱可塑性樹脂を使用することを困難にする場合がある。
【0005】
結晶性熱可塑樹脂と添加剤とを含む樹脂組成物から構成される成形体の表面に、添加剤を含有しない結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層を形成する方法も考えられる。しかし、結晶性熱可塑性樹脂は、結晶化度が高いことが特徴であり、結晶性熱可塑性樹脂が結晶化した状態で含まれるシートを金型内に配置し、溶融樹脂組成物を流し込み、溶融樹脂組成物の固化の際に、溶融樹脂組成物により形成される成形体と上記シートと密着させることは困難である。
【0006】
また、仮に、上記溶融樹脂組成物が固化する際に、結晶性熱可塑性樹脂が結晶化した状態で含まれるシートと成形体とを、密着させることができたとしても、結晶性熱可塑性樹脂を含むシートを立体的に成形することが困難である。具体的には、結晶性熱可塑性樹脂を含む立体シートを成形するためには、真空成形を行う必要があるが、結晶性熱可塑性樹脂の場合はその特異な結晶化挙動のため、通常の真空成形では不均一な結晶化を生じ、正確な形状の結晶性樹脂層を安定して成形することが困難である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−269830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の通り、結晶性熱可塑性樹脂を用いることが好適な成形体において、結晶性熱可塑性樹脂と添加剤とを含む樹脂組成物から構成される成形体の使用が問題となる場合に、その成形体の表面を、上記の問題の無い結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層で保護することは困難である。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、結晶性熱可塑性樹脂と添加剤とを含む溶融樹脂組成物から構成される成形体の表面に、添加剤を含有しない結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層を、充分に密着させることができ、且つ、結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層のもととなる立体シートを、真空成形法で成形する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、結晶化度が20%以下のPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)から構成される立体シートを、射出成形用金型内に配置し、PPS樹脂の溶融温度以上の溶融樹脂組成物を前記射出成形用金型内に射出し、一体成形体を製造することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 結晶化度が20%以下のPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)から構成される立体シートを、射出成形用金型内に配置し、PPS樹脂の溶融温度以上の溶融樹脂組成物を前記射出成形用金型内に射出し、一体成形体を製造する一体化工程、を備える一体成形体の製造方法。
【0012】
(2) 低結晶化PPS樹脂から構成される低結晶化樹脂シートを、PPS樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度に予熱する予熱ステップと、予熱ステップ後の前記低結晶化樹脂シートを、前記PPS樹脂の冷結晶化温度(Tcc)以下に設定した真空成形用金型内に配置して、真空成形することにより、立体シートを製造する立体シート製造ステップと、を経て、前記立体シートが得られることを特徴とする、(1)記載の一体成形体の製造方法。
【0013】
(3) 結晶化PPS樹脂から構成される結晶化樹脂シートを、PPS樹脂の融点(Tm)−40℃以上、前記融点(Tm)−20℃以下の温度に予熱する予熱ステップと、予熱ステップ後の前記結晶化樹脂シートを、前記PPS樹脂の冷結晶化温度(Tcc)以下に設定した真空成形用金型内に配置して、真空成形することにより、立体シートを製造する立体シート製造ステップと、を経て前記立体シートが得られることを特徴とする、(1)記載の一体成形体の製造方法。
【0014】
(4) 前記射出成形用金型温度が、少なくとも立体シートを射出成形用金型内に配置し前記溶融樹脂組成物が該金型に射出されるまでの間、前記結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上であることを特徴とする、(1)から(3)のいずれかに記載の一体成形体の製造方法。
【0015】
(5) 前記立体シートが、前記射出成形用金型内のキャビティ面との間に空気層が形成されるように配置される(1)から(4)のいずれかに記載の一体成形体の製造方法。
【0016】
(6) 前記溶融樹脂組成物が、無機充填剤を含むPPS樹脂組成物であることを特徴とする、(1)から(5)のいずれかに記載の一体成形体の製造方法。
【0017】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の方法で製造された、ウエルドや皺や繋ぎ目の無い結晶性樹脂層が立体表面に設けられている一体成形体。
【0018】
(8) 輸送物と接触する部分がPPS樹脂層で構成されるポンプ部品である(7)に記載の一体成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、結晶性熱可塑性樹脂と添加剤とを含む樹脂組成物から構成される成形体の表面に、問題となる添加剤をほとんど含有しない結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層を、充分に密着させることができ、且つ、結晶性熱可塑性樹脂から構成される結晶性樹脂層を、真空成形法で成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例で製造した立体シートを模式的に示す斜視図である。
【図2】実施例で製造した一体成形体を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0022】
本発明の一体成形体の製造方法は、一体化工程を備える。なお、本発明は、以下の一体化工程を備えるものであればよく、他の工程が含まれることを排除しない。
【0023】
一体化工程とは、結晶化度が20%以下のPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)から構成される立体シートを、射出成形用金型内に配置し、PPS樹脂の溶融温度以上の溶融樹脂組成物を上記射出成形用金型内に射出し、一体成形体を製造する工程である。
【0024】
一体化工程に使用される立体シートは、結晶化度が20%以下のPPS樹脂から構成される。このように立体シートは、主としてPPS樹脂を含むが、本発明は、立体シートに他の成分が含まれることを排除しない。例えば、PPS樹脂の特徴を阻害しない限りにおいて他の樹脂を配合することが可能である。他の樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、液晶性樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂等を例示することができる。また、PPS樹脂の特徴を害さない範囲で、酸化防止剤等の安定剤、難燃剤、染・顔料等の着色剤、潤滑剤、結晶化促進剤、及び結晶核剤等の添加剤を配合することが可能である。
【0025】
上記の通り、立体シートは、PPS樹脂以外のその他の成分を含有してもよい。ところで、立体シートは、本発明の方法で製造された一体成形体において、表面の少なくとも一部に形成される結晶性樹脂層になる部分である。したがって、その他の成分として、問題となる添加剤を含有しないことが好ましい。ここで、問題となる添加剤とは、用途等によって異なる。したがって、上記に例示されるような添加剤は、問題となる添加剤になる可能性があるが、用途等に応じて問題とならない種類の添加剤や、問題とならない程度の量の添加剤であれば含有していてもよい。
【0026】
続いて、上記立体シートの製造方法について説明する。立体シートの製造方法は特に限定されないが、樹脂シートから立体シートを製造することができる。樹脂シートは、上記PPS樹脂やPPS樹脂とその他の成分とからなる樹脂組成物を原料として、押出成形法、射出成形法等の一般的な成形法を採用して製造することができる。
【0027】
樹脂シートの結晶状態は特に限定されず、樹脂シートは結晶化樹脂シートであっても低結晶化樹脂シートであってもよい。ここで、なお、低結晶化とは、樹脂シートに含まれる結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度が本来の結晶化度未満の状態を指す。より具体的には、結晶化樹脂シートとは、比重法で測定した結晶化度が20%以上である樹脂シートを指し、低結晶化樹脂シートとは、同様の方法で測定した結晶化度が20%未満である樹脂シートを指す。
【0028】
通常の押出成形法、射出成形法を採用して一般的な条件で樹脂シートを成形する場合、結晶性樹脂の特性が発揮出来るような条件で加工されることから、十分に結晶化した結晶化樹脂シートが得られる。
【0029】
低結晶化樹脂シートは、原料となる樹脂又は樹脂組成物を、原料に含まれる結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に設定された冷却部材に、溶融状態で接触させ、冷却部材の温度まで急速に冷却することで、結晶性樹脂本来の結晶化度未満の低結晶化度に調整された低結晶化樹脂シートを製造することができる。低結晶化樹脂シートの厚みが大きすぎると、樹脂シートの内部まで急冷されず、結晶化する場合があるが、樹脂シートの厚みを適切な範囲内に設定すれば、樹脂シートの内部まで低結晶状態になりやすい。なお、上記結晶化度は冷却条件を変更することで調整可能である。
【0030】
なお、樹脂シートの結晶化状態は、樹脂シートを保持する温度、保持時間等により変化することから、結晶化樹脂シートを製造時の状態に維持するためには、製造時の温度以下で、結晶化樹脂シート及び低結晶化樹脂シートを管理することが望ましい。
【0031】
上記のような樹脂又は樹脂組成物を原料として用い、上記の製造方法で得られる樹脂シートの形状は特に限定されない。用途に応じて、適宜好ましい厚みに設定することができる。ただし、本発明においては、後述する通り、樹脂シートを予熱した後、真空成形するが、予熱や真空成形が行われることを考慮する必要がある。樹脂シートの厚みが適切であれば、予熱において、加熱ムラ等が起こり難く、真空成形に非常に適した状態にすることができる。また、立体シートの厚みの調整もしやすい。
【0032】
上記樹脂シートを真空成形することで、立体シートが得られる。本発明においては、以下の方法で立体シートを製造すれば、一体成形体としたときの、成形体と結晶性樹脂層との密着力を充分に高めることができる。また、結晶性熱可塑性樹脂を原料とするにもかかわらず、厚みムラ等の形状不安定の問題をほとんど起こすことなく立体シートを製造することができる。
【0033】
具体的には、立体シート製造方法は、予熱ステップと、立体シート製造ステップとを有する。
【0034】
予熱ステップは、樹脂シートが結晶化樹脂シーとである場合と、樹脂シートが低結晶化樹脂シートである場合とで異なる。
【0035】
低結晶化樹脂シートの場合、予熱ステップは、結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度に樹脂シートを予熱することが好ましい。予熱の温度が上記下限値以上であると、特に寸法精度良く立体シートを得ることができる。また、予熱温度が上記上限値以下であると、成形時のドローダウンが充分に防止される。なお、ガラス転移点(Tg)及び冷結晶化温度(Tcc)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。予熱の温度は、Tg+25℃以上、Tcc+5℃以下の温度範囲で設定されることが好ましい。
【0036】
結晶化樹脂シートの場合、予熱ステップは、結晶性熱可塑性樹脂の融点(Tm)−40℃以上、上記融点(Tm)−20℃以下の温度に、樹脂シートを予熱することが好ましい。上記予熱温度範囲内であれば、加工に適した状態に軟化しやすいという理由で好ましい。
【0037】
上記予熱ステップは、いずれの場合であっても、次工程で使用する成形機(真空成形機等)により行うことができる。なお、予熱時間は、例えば、シートが上記温度範囲になるまでの時間である。
【0038】
立体シート製造ステップでは、上記予熱ステップ後の樹脂シートを、上記結晶性熱可塑性樹脂の冷結晶化温度(Tcc)以下に設定した真空成形用金型内に配置して、真空成形することにより、立体シートを製造する。
【0039】
上記の通り、樹脂シートを真空成形する際に、真空成形用金型の金型温度を、樹脂シートに含まれる結晶性熱可塑性樹脂の冷結晶化温度(Tcc)以下に設定する。上記金型温度を上記Tcc以下に設定することで、立体シートの結晶化度が高まることを抑えることができる。立体シートの結晶化度は、20%以下にする必要がある。好ましくは6%以下である。立体シートの結晶化度が20%以下であれば、本発明の製法により得られる一体成形体において、立体シートから構成される結晶性樹脂層と成形体との密着力が高くなる。ここで、立体シートの結晶化度とは、立体シートに含まれる結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度である。また、立体シートに複数の結晶性熱可塑性樹脂が含まれる場合には、最も含有量の多い結晶性熱可塑性樹脂の結晶化度を指す。なお、立体シートの結晶化度を調製する方法としては、金型温度等による冷却条件の調整という方法が知られている。
【0040】
なお、上記の通り、立体シートの主成分はPPS樹脂であるため、金型温度は10℃以上150℃以下に設定することが好ましい。より好ましくは40℃以上70℃以下である。
【0041】
金型温度以外の成形条件については、特に限定されず、適宜好ましい条件を設定することができる。
【0042】
上記の方法で製造された立体シートの形状は、特に限定されないが、立体シートの厚みが50μm以上1000μm以下であることが好ましい。50μm以上であれば一体成形体を製造する場合において十分効果的な被覆が可能という理由で好ましく、1000μm以下であれば真空成形の特長を活かし一体成形体を製造しうるという理由で好ましい。
【0043】
一体化工程では、上記立体シートを射出成形用金型内に配置し、溶融樹脂組成物を射出成形用金型内に射出し、一体成形体を製造する工程である。
【0044】
一体化工程に使用される溶融樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含む溶融樹脂組成物である。熱可塑性樹脂としては、結晶性熱可塑性樹脂の使用が好ましい。結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂等を例示することができる。
【0045】
上記の結晶性熱可塑性樹脂の中でもポリアリーレンサルファイド樹脂が、特に好ましい。本発明の製造方法は、上述の通り、ポリアリーレンサルファイド樹脂を採用する場合に特に適しているため、ポリアリーレンサルファイド樹脂を採用すると、得られる一体成形体において、溶融樹脂組成物により形成される成形体と、立体シートにより形成される結晶性樹脂層との密着力が特に高まる。最も好ましい熱可塑性樹脂はPPS樹脂である。立体シートの主成分であるPPS樹脂と同様の樹脂を使用することで、一体成形体における上記密着力をさらに高めることができるからである。
【0046】
また、溶融樹脂組成物には、複数の熱可塑性樹脂を含有してもよい。また、溶融樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、ガラス繊維等の無機充填剤、酸化防止剤等の安定剤、難燃剤、染・顔料等の着色剤、潤滑剤、結晶化促進剤、及び結晶核剤等の添加剤も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0047】
上記の添加剤の中でも、無機充填剤は、成形体の耐熱水性を低下させたり、外観を損ねたりすることのある添加剤であるが、成形体全体の強度等を高める等の目的で、様々な場合で必須成分として使用される。無機充填剤としては、繊維状充填剤、粉粒状充填剤、板状充填剤が知られている。
【0048】
繊維状充填剤として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。また、粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0049】
これらの無機充填剤は、必要に応じて、次亜燐酸又はその塩を表面に付着させたものを用いてもよく、収束剤を用いて収束したものを用いてもよく、表面処理剤(エポキシ系化合物、イソシアナート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物)を用いて表面処理したものを用いてもよい。
【0050】
なお、溶融樹脂組成物中の、無機充填剤等の添加剤の含有量は、用途や添加剤の種類等によって異なるが、一体成形体を製造するに障害とならない範囲で配合しうる。
【0051】
一体成形体の具体的な製造方法について説明する。先ず、立体シートを射出成形用金型内に配置する。配置する方法は、特に限定されず、従来公知の一般的なフィルムインモールド成形と同様の方法を採用することができる。
【0052】
上記の通り、配置方法は特に限定されないが、立体シートと射出成形用金型のキャビティ面との間に空気層(空間)が形成されるように、立体シートが射出成形用金型内に配置されることが好ましい。このように立体シートが配置されることで、金型に立体シートをセットする際に、金型からの熱の移動が妨げられ、特に、高い金型温度における低結晶化立体シートの金型内での結晶化の進行を抑制するという効果がある。
【0053】
次いで、溶融樹脂組成物を金型内に射出する。金型内に射出する溶融樹脂組成物の温度は、立体シートに含まれるPPS樹脂の溶融温度以上に調整する。溶融樹脂組成物の温度を、このように調整することで、立体シートにおける溶融樹脂組成物と接触した面は溶融するため、一体成形体における成形体と結晶性樹脂層との密着力が非常に高まる。
【0054】
金型温度は、溶融樹脂組成物と接触する際に立体シートに含まれる結晶性熱可塑性樹脂の軟化を妨げない温度(軟化温度以上)に調整することで、一体成形体において、成形体と結晶性樹脂層との密着力が強くなる。
【0055】
また、上記金型温度は、少なくとも溶融樹脂組成物が金型に射出され、一体成形体を製造した後取り出されるまでの間、上記結晶性熱可塑性樹脂(樹脂シートに含まれる結晶性樹脂)のガラス転移温度(Tg)以上の温度に調整することが好ましい。金型温度を上記ガラス転移温度以上に調整することで、結晶性に優れる一体成形体を得るという効果が得られる。
【0056】
溶融樹脂組成物を金型内に射出する際の成形条件は、特に限定されず、適宜好ましい条件を設定することができる。
【0057】
<一体成形体>
本発明の製造方法により製造された一体成形体は、結晶性樹脂層と成形体とを有する。結晶性樹脂層は、立体シートに由来の部分であり、成形体は溶融樹脂組成物に由来の部分である。結晶性樹脂層と成形体との接合部分には、一定の厚みのある溶着跡が形成されている。本発明の製造方法によれば、結晶性樹脂層と成形体とは充分な密着力で接合されている。
【0058】
一体成形体の表面に存在する結晶性樹脂層は、成形体に含まれる添加剤等により低下する物性を補強する役割を有する。具体的には、添加剤等を有する成形体の表面が、特定の液体や気体に曝されることで問題を生じる場合に、結晶性樹脂層で成形体の表面を覆って成形体を保護する。また、一体成形体の内部の成形体は、優れた機械的強度等の物性を一体成形体に付与する。結果として、本発明の一体成形体は、添加剤を含む成形体の欠点を補うことができるとともに、添加剤を含む成形体の特徴も充分に活かすことができる。
【0059】
また、添加剤を含む成形体の表面の外観が、添加剤の含有等が原因で損なわれている場合に、結晶性樹脂層は成形体の表面を覆うことで、一体成形体としての外観を改善する役割も有する。
【0060】
結晶性樹脂層の厚みは特に限定されないが、結晶性樹脂層の厚みは50μm以上であることが好ましい。50μm以上であれば、成形体の表面を充分に保護等することができる。より好ましくは50μm以上1000μm以下である。
【0061】
結晶性樹脂層には、物性の低下や外観が損なわれること抑えるために、ウエルドや皺や繋ぎ目の無いことが好ましい。ところで、樹脂シートは、押出成形等により得られるため、樹脂シートにウエルドや繋ぎ目を作らないようにすることは容易である。また、押出成形等の場合には、樹脂シートを引張りながら押し出すため、樹脂シートはほとんど弛むことなく製造できる。したがって、皺のない樹脂シートも容易に製造できる。また、立体シートは、繋ぎ目やウエルドや皺の無い樹脂シートを、真空成形することにより製造するから、ウエルドや繋ぎ目や皺を作らないようにすることは容易である。溶融樹脂組成物を射出する際にも、もともとウエルドや繋ぎ目や皺の無い立体シートを用いるため、結果として、結晶性樹脂層にもウエルドや繋ぎ目や皺は存在しない。
【0062】
一体成形体の好ましい用途としては、内部に輸送物を通すためのポンプを挙げることができる。
【0063】
ポンプの内部を通過する気体や液体等の輸送物が、添加剤等を含む成形体の表面に悪影響を与える場合がある。このような場合に本発明を好ましく適用することができる。例えば、無機充填剤を含む成形体であり、輸送物が熱水の場合に特に好ましい。
【0064】
無機充填剤を含む成形体の表面は耐熱水性が低い。このため、無機充填剤を含む樹脂組成物から熱水用のポンプを製造することはできない。しかし、熱水ポンプとして使用するためには、充分な機械的強度が求められ、充分な機械的強度を実現するためには、無機充填剤の添加が求められる。
【0065】
したがって、立体シートがポンプの内層になるように真空成形し、その立体シートの外側に溶融樹脂組成物を射出することで、耐熱水性が低いことによる問題が生じず、機械的強度等も充分な樹脂製のポンプを得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<材料>
PPS樹脂1(フォートロン(登録商標)0220A9);Tg(85℃)、Tcc(120℃)
PPS樹脂2(フォートロン(登録商標)1140A6)
【0068】
<樹脂シートの製造>
本実施例では、結晶化PPS樹脂シート、低結晶化PPS樹脂シートを製造した。具体的な製造方法は、以下の通りである。
【0069】
シリンダー温度320℃に設定したTダイ押出機から吐出したPPS樹脂(PPS1)を50℃に温調した冷却ロールで冷却することにより、厚み0.4mmの低結晶性PPS樹脂シートを得た。
【0070】
シリンダー温度320℃に設定したTダイ押出機から吐出したPPS樹脂(PPS1)を150℃に温調した冷却ロールで冷却することにより、厚み0.4mmの結晶性PPS樹脂シートを得た。
【0071】
<立体シートの製造>
表1及び表2に示す樹脂シートを真空成形機の金型内に配置し、表1及び表2に記載の予熱温度で予熱する。予熱後、金型温度を表1及び表2に記載の温度に調整し、真空成形して立体シートを製造した。また、得られた立体シートの結晶化度を、比重法により測定した。測定結果を表1及び表2に示した。
【0072】
また、製造した立体シートの模式図を図1に示した。実施例及び比較例の全ての立体シートにおいて、その厚みは0.3mmであった。
【0073】
<立体シートの評価>
立体シートについて成形性の評価を行った。成形性の評価は、立体シートの厚みムラに着目し、以下の基準で行った。評価結果については表1及び表2に示した。なお、評価は目視で行った。
○:厚みムラが少ない
△:部分的に厚みにばらつきがある
×:厚みが不均一である
【0074】
<一体成形体の製造>
各立体シートを125℃に温調した射出成形用金型キャビティにセット後、320℃以上の溶融PPS(PPS2)を金型キャビティ内に射出充填することにより一体成形体を得た。
【0075】
図2には、一体成形体の模式図を示した。一体成形体は上面が開放された直方体状容器であり、容器の厚みが1.8mm、上面の開口の内側の寸法が縦50mm、横70mmであり、容器の深さが20mmであった。
【0076】
<一体成形体の評価>
成形体と結晶性樹脂層との密着力の評価を、以下の基準に沿って行った。評価結果は表1及び表2に示した。なお、評価は目視での剥離観察で行った。
◎:成形体と結晶性樹脂層との間が剥離できない程度に一体化
○:成形体と結晶性樹脂層との接合部分において、端部に一部密着不良が見られる
×:一体化していない
【0077】
続いて、実施例及び比較例の一体成形体について、厚みの均一性、一体性という点に着目して、実用上使用可能かについて総合評価を、以下の基準に沿って行った。評価結果は表1及び表2に示した。また、評価は実用性を基準に行った。
◎:良好
○:実用上問題なし
△:実用上制約あり(例えば、シート部厚みのばらつきを無視できる用途に限定されるという制約あり)
×:不良
【0078】
【表1】

【表2】

【0079】
実施例1〜4と比較例1との比較、実施例5及び6と比較例2及び3との比較から、立体シートの結晶化度が20%以下であれば、成形体と結晶性樹脂層との密着力が強いことが確認された。
【0080】
実施例から、結晶化度が低いほど成形体と結晶性樹脂層との密着力が強くなることが確認された。
【0081】
実施例1〜4から、低結晶化PPS樹脂シートを使用する場合、予熱ステップが、結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度で行われることで、厚みムラの小さい立体シートが得られることが確認された。
【0082】
実施例5及び6から、結晶化PPS樹脂シートを使用する場合、予熱ステップが、結晶性熱可塑性樹脂の融点(Tm)−40℃以上、上記融点(Tm)−20℃以下の温度で行われることで、厚みムラの小さい立体シートが得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度が20%以下のPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)から構成される立体シートを、射出成形用金型内に配置し、PPS樹脂の溶融温度以上の溶融樹脂組成物を前記射出成形用金型内に射出し、一体成形体を製造する一体化工程、を備える一体成形体の製造方法。
【請求項2】
低結晶化PPS樹脂から構成される低結晶化樹脂シートを、PPS樹脂のガラス転移温度(Tg)+20℃以上、冷結晶化温度(Tcc)+10℃以下の温度に予熱する予熱ステップと、
予熱ステップ後の前記低結晶化樹脂シートを、前記PPS樹脂の冷結晶化温度(Tcc)以下に設定した真空成形用金型内に配置して、真空成形することにより、立体シートを製造する立体シート製造ステップと、を経て、前記立体シートが得られることを特徴とする、請求項1記載の一体成形体の製造方法。
【請求項3】
結晶化PPS樹脂から構成される結晶化樹脂シートを、PPS樹脂の融点(Tm)−40℃以上、前記融点(Tm)−20℃以下の温度に予熱する予熱ステップと、
予熱ステップ後の前記結晶化樹脂シートを、前記PPS樹脂の冷結晶化温度(Tcc)以下に設定した真空成形用金型内に配置して、真空成形することにより、立体シートを製造する立体シート製造ステップと、を経て前記立体シートが得られることを特徴とする、請求項1記載の一体成形体の製造方法。
【請求項4】
前記射出成形用金型温度が、少なくとも立体シートを射出成形用金型内に配置し前記溶融樹脂組成物が該金型に射出されるまでの間、前記PPS樹脂のガラス転移温度(Tg)以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の一体成形体の製造方法。
【請求項5】
前記立体シートが、前記射出成形用金型内のキャビティ面との間に空気層が形成されるように配置される請求項1から4のいずれかに記載の一体成形体の製造方法。
【請求項6】
前記溶融樹脂組成物が、無機充填剤を含むPPS樹脂組成物であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の一体成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法で製造された、ウエルドや皺や繋ぎ目の無い結晶性樹脂層が立体表面に設けられている一体成形体。
【請求項8】
輸送物と接触する部分がPPS樹脂層で構成されるポンプ部品である請求項7に記載の一体成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−18226(P2013−18226A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154676(P2011−154676)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(501073426)ダイセルパックシステムズ株式会社 (20)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【出願人】(500031423)ダイプラ・システム・テクノロジー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】