説明

一塩基多型を用いた炎症性疾患の判定方法

【課題】心筋梗塞等の炎症性疾患の発症進展に関与する新規な一塩基多型(SNP)を同定すること。
【解決手段】TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基におけるA/Gの多型を検出し、上記塩基がGである場合には、心筋梗塞が発症している、あるいは発症の可能性が高いと判定し、上記塩基がAである場合には、心筋梗塞の発症の可能性が低いと判定する、心筋梗塞の罹患危険性の予想方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、及びWAP遺伝子に存在する遺伝子多型を検出することを含む炎症性疾患の診断方法、該方法に使用されるオリゴヌクレオチド、該オリゴヌクレオチドを含む炎症性疾患診断用キット、並びにそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
共通の遺伝変異が、遺伝子産物の発現量及び/又は機能に強い影響をもたらす場合がある。この共通の変異は、疾患への感受性及び/又は薬理学的応答に関連している場合がある(Dean M, 他、 (1996) Genetic restriction of HIV-1 infection and progression to AIDS by a deletion allele of the CKR5 structural gene. Hemophilia Growth and Development Study, Multicenter AIDS Cohort Study, Multicenter Hemophilia Cohort Study, San Francisco City Cohort, ALIVE Study. Science 273:1856-1862; Risch N, 他、(1996) The future of genetic studies of complex human diseases. Science 273:1516-1517;及びKruglyak L (1997) The use of a genetic map of biallelic markers in linkage studies. Nat Genet 17:21-24)。
【0003】
SNPはDNA多型の最も簡単かつ最もありふれたものである。SNPはゲノム上に平均して数百塩基毎に存在し、遺伝子型を特定してデータを分析することが比較的容易である。近年、共通する変異が一般の疾患及び薬理学的体質に寄与しているという仮説が提唱されており、これは「一般の疾患−共通変異」仮説と称されている (Risch N, 他、(1996) The future of genetic studies of complex human diseases. Science 273:1516-1517)。この点から見て、SNPは、一般の疾患に関連のある遺伝子を同定するための有用なマーカーである(Kruglyak L (1999) Prospects for whole-genome linkage disequilibrium mapping of common disease genes. Nat Genet 22:139-144)。
【0004】
心筋梗塞は日本において多く見られる疾患の一つである。肥満、喫煙、糖尿病、高血圧及び高脂血症は、心筋梗塞の危険因子としてよく知られている。しかし、様々な集団では家系が心筋梗塞の独立した危険因子であった(Andresdottir MB, 他、(2002) Fifteen percent of myocardial infarctions and coronary revascularizations explained by family history unrelated to conventional risk factors. The Reykjavik Cohort Study. Eur Heart J 23: 1637-1638; Piegas LS, 他、AFIRMAR Study Investigators. (2003) Risk factors for myocardial infarction in Brazil. Am Heart J 146: 331-338;及びYarnell J, 他、(2003) Family history, longevity, and risk of coronary heart disease: the PRIME Study. Int J Epidemiol 32: 71-77)。心筋梗塞の感受性遺伝子を同定するために、多くの候補遺伝子アプローチがなされた(Topol EJ, 他、(2001) Single nucleotide polymorphisms in multiple novel thrombospondin genes may be associated with familial premature myocardial infarction. Circulation 104:2641-2644; Fumeron F, 他、(2002) Serotonin transporter gene polymorphism and myocardial infarction: Etude Cas-Temoins de l'Infarctus du Myocarde (ECTIM). Circulation 105:2943-2945;及びYamada Y, 他、(2002) Prediction of the risk of myocardial infarction from polymorphisms in candidate genes. N Engl J Med 347:1916-1923)。しかし、心筋梗塞の関連遺伝子を同定するための体系的調査の報告はほとんどない。
【0005】
本発明者らは、170,000以上の遺伝子に基づいたSNPを含む大SNPデータベースを構築した(Haga H, 他 (2002) Gene-based SNP discovery as part of the Japanese Millennium Genome Project: identification of 190,562 genetic variations in the human genome. Single-nucleotide polymorphism. J Hum Genet 47:605-610)。本発明者らはまた、ハイスループットの遺伝子タイピングシステムを開発し、これにより1日に450,000の遺伝子タイピングを行った(Ohnishi Y, 他 (2001) A high-throughput SNP typing system for genome-wide association studies. J Hum Genet 46:471-477)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Dean M, 他、 (1996) Genetic restriction of HIV-1 infection and progression to AIDS by a deletion allele of the CKR5 structural gene. Hemophilia Growth and Development Study, Multicenter AIDS Cohort Study, Multicenter Hemophilia Cohort Study, San Francisco City Cohort, ALIVE Study. Science 273:1856-1862
【非特許文献2】Risch N, 他、(1996) The future of genetic studies of complex human diseases. Science 273:1516-1517
【非特許文献3】Kruglyak L (1997) The use of a genetic map of biallelic markers in linkage studies. Nat Genet 17:21-24
【非特許文献4】Kruglyak L (1999) Prospects for whole-genome linkage disequilibrium mapping of common disease genes. Nat Genet 22:139-144
【非特許文献5】Andresdottir MB, 他、(2002) Fifteen percent of myocardial infarctions and coronary revascularizations explained by family history unrelated to conventional risk factors. The Reykjavik Cohort Study. Eur Heart J 23: 1637-1638
【非特許文献6】Piegas LS, 他、AFIRMAR Study Investigators. (2003) Risk factors for myocardial infarction in Brazil. Am Heart J 146: 331-338
【非特許文献7】Yarnell J, 他、(2003) Family history, longevity, and risk of coronary heart disease: the PRIME Study. Int J Epidemiol 32: 71-77
【非特許文献8】Topol EJ, 他、(2001) Single nucleotide polymorphisms in multiple novel thrombospondin genes may be associated with familial premature myocardial infarction. Circulation 104:2641-2644
【非特許文献9】Fumeron F, 他、(2002) Serotonin transporter gene polymorphism and myocardial infarction: Etude Cas-Temoins de l'Infarctus du Myocarde (ECTIM). Circulation 105:2943-2945
【非特許文献10】Yamada Y, 他、(2002) Prediction of the risk of myocardial infarction from polymorphisms in candidate genes. N Engl J Med 347:1916-1923
【非特許文献11】Haga H, 他 (2002) Gene-based SNP discovery as part of the Japanese Millennium Genome Project: identification of 190,562 genetic variations in the human genome. Single-nucleotide polymorphism. J Hum Genet 47:605-610
【非特許文献12】Ohnishi Y, 他 (2001) A high-throughput SNP typing system for genome-wide association studies. J Hum Genet 46:471-477
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、心筋梗塞等の炎症性疾患の発症進展に関与する新規な一塩基多型(SNP)を同定することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、同定したSNPを利用して、心筋梗塞等の炎症性疾患の診断法、又は炎症性疾患の治療薬の開発法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、及びWAP遺伝子中に存在する一塩基多型(SNP)が心筋梗塞の発症進展に関連していることを同定することにより本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、及びWAP遺伝子より成る群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型を検出することを含む、炎症性疾患の判定方法が提供される。
【0010】
好ましくは、本発明によれば、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、及びWAP遺伝子より成る群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子に存在する少なくとも一種の一塩基多型を検出することを含む、炎症性疾患の判定方法が提供される。
【0011】
好ましくは、本発明によれば、下記の(1)から(3)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の一塩基多型を検出することを含む、炎症性疾患の判定方法が提供される。
(1)LBP−32遺伝子のイントロン1の塩基配列の151番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基におけるA/Gの多型
(3)WAP12遺伝子の3’フランキング領域の塩基配列の1264番目の塩基におけるG/Aの多型
【0012】
好ましくは、炎症性疾患は心筋梗塞である。
【0013】
本発明の別の側面によれば、下記の(1)から(3)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む連続する少なくとも10塩基の配列、又はその相補配列にハイブリダイズすることができ、上記した本発明の方法においてプローブとして用いるオリゴヌクレオチドが提供される。
(1)LBP−32遺伝子のイントロン1の塩基配列の151番目の塩基
(2)TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基
(3)WAP12遺伝子の3’フランキング領域の塩基配列の1264番目
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、下記の(1)から(3)よりなる群から選ばれる少なくとも1つの部位を含む連続する少なくとも10塩基の配列、及び/又はその相補配列を増幅することができ、上記した本発明の方法においてプライマーとして用いるオリゴヌクレオチドが提供される。
(1)LBP−32遺伝子のイントロン1の塩基配列の151番目の塩基
(2)TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基
(3)WAP12遺伝子の3’フランキング領域の塩基配列の1264番目
【0015】
好ましくは、プライマーはフォワードプライマー及び/又はリバースプライマーである。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のオリゴヌクレチドの1種以上を含む、炎症性疾患診断用キットが提供される。好ましくは、炎症性疾患は心筋梗塞である。
【0017】
本発明のさらに別の側面によれば、下記の(1)から(3)よりなる群から選ばれる少なくとも一種の一塩基多型を検出することを含む、LBP-32、TSBP、又はWAPの発現状態の分析方法が提供される。
(1)LBP−32遺伝子のイントロン1の塩基配列の151番目の塩基におけるG/Aの多型
(2)TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基におけるA/Gの多型
(3)WAP12遺伝子の3’フランキング領域の塩基配列の1264番目の塩基におけるG/Aの多型
【0018】
本発明のさらに別の側面によれば、候補物質の存在下で細胞内のLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の発現量を分析し、その発現量を変化させる物質を選択する工程を含む、炎症性疾患の治療薬のスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1はLBP-32の結果を示す。(a)は、TAF1B及びLBP-32を含むゲノム領域におけるD'で測定した、SNP間の一対の連鎖不均衡を示す。11個の共通するSNPの遺伝子型を決定した。これらのSNPのアレル頻度は30%以上であった。LBP-32は1個の連鎖不均衡ブロックに局在した。黒の領域は強い連鎖不均衡を示し、白の領域はD'<0.5を示す。(b)は、LBP-32のイントロン1への未知の核因子の結合を示す。矢印は、GアレルではなくAアレルへの核因子の結合を示すバンドを示す。(c)は、相対ルシフェラーゼ活性に対するLBP-32のイントロン中のSNPの影響を示す。アレルAによる相対ルシフェラーゼ活性は、アレルGによるものより有意に低い。*P=0.0001(Studentのt-検定により、アレルGとアレルAの間の比較について)
【図2】図2は、TSBPの結果を示す。(a)は、BTNL2, TSBP及びNOTCH4を含むゲノム領域中におけるD'で測定した、SNP間の一対の連鎖不均衡を示す。22個の共通するSNPの遺伝子型を決定した。これらのSNPのアレル頻度は30%以上であった。TSBP遺伝子は1個の連鎖不均衡ブロックに局在した。黒の領域は強い連鎖不均衡を示し、白の領域はD'<0.5を示す。(b)は、ハプロタイプブロック及びP値の分布を示す。ハプロタイプブロックは、exon25 306A>Gを含む11個の共通するSNPを含んでいた。最も有意な相関はTSBPの最後のエクソンに見られた(exon25 306A>G) (矢印)。
【図3】図3は、WAP遺伝子領域の結果を示す。(a)は、WAP7-13及びTNNC2を含むゲノム領域中におけるD'で測定した、SNP間の一対の連鎖不均衡を示す。15個の共通するSNPの遺伝子型を決定した。これらのSNPのアレル頻度は30%以上であった。WAP8-13遺伝子は1つの連鎖不均衡ブロック中に存在した。黒い領域は強い連鎖不均衡を示し、白の領域はD'<0.5を示す。(b)は、ハプロタイプブロック及びP値の分布を示す。ハプロタイプブロックは、WAP12 3'フランキング+1264G>Aを含む18個の共通するSNPを含んでいた。WAP12 3'フランキング+1264G>Aを含む複数のSNPにおいて、最も有意な相関が認められた。
【図4】図4は、発現及び局在の分析を示す。(a)LBP-32は、ヒト心臓組織、HCASMC及びHCAECで発現させた。TSBPは、ヒト心臓組織、及びHCAECで発現させた。(b)TSBPは、HCASMCでは細胞質に局在した。LBP-32は、HCASMCでは核に局在した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、及びWAP遺伝子内の一塩基多型(SNP)を同定し、それぞれ心筋梗塞患者群とコントロール群について遺伝子型のタイピングを行い、相関解析を行った結果、この新規SNPの遺伝子型は、心筋梗塞患者群とコントロール群との間で統計学的に有意な差があることを見出した。
【0021】
上記の通り、本発明では、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子内のSNPが心筋梗塞等の疾患に関連することを同定した。従って、本発明により同定されたLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子内のSNPを利用することにより、心筋梗塞等の炎症性疾患の新たな診断、予防法、治療薬の開発が可能になる。以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
【0022】
[1] 炎症性疾患の判定方法
本発明の方法は、炎症性疾患と関連性を示すLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子に存在する遺伝子多型、特には一塩基多型(SNPs)を検出することによって、炎症性疾患の発症の有無、あるいは炎症性疾患の発症の可能性を判定する方法である。
【0023】
本発明において「LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、及びWAP遺伝子より成る群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子に存在する少なくとも一種の遺伝子多型(一塩基多型など)を検出する」とは、(i)当該遺伝子多型(遺伝子側多型と称する)を直接検出すること、及び(ii)前記遺伝子の相補配列側に存在する遺伝子多型(相補側多型と称する)を検出し、その検出結果から遺伝子側多型を推定することの双方を指すものとする。ただし、遺伝子側の塩基と相補配列側の塩基とが完全に相補的な関係にあるとは限らないという理由から、遺伝子側多型を直接検出することがより好ましい。
【0024】
LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、及びWAP遺伝子に存在する遺伝子多型の好ましい具体例としては、
(1)LBP−32遺伝子のイントロン1(その塩基配列を配列番号1に示す)の塩基配列の151番目の塩基におけるG/Aの多型;
(2)TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列(その塩基配列を配列番号2に示す)の306番目の塩基におけるA/Gの多型;
(3)WAP12遺伝子の3’フランキング領域の塩基配列(その塩基配列を配列番号3に示す)の1264番目の塩基におけるG/Aの多型;
を挙げることができる。
【0025】
例えば、後記表2に示すように、LBP−32遺伝子のイントロン1の塩基配列の151番目の塩基がAである場合には、炎症性疾患が発症している、あるいは発症の可能性が高いと判定できる。同様に、TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基がGである場合には、炎症性疾患が発症している、あるいは発症の可能性が高いと判定できる。さらに、WAP12遺伝子の3’フランキング領域の塩基配列の1264番目の塩基がAである場合には炎症性疾患が発症している、あるいは発症の可能性が高いと判定できる。
【0026】
反対に、LBP−32遺伝子のイントロン1の塩基配列の151番目の塩基がGである場合、TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基がAである場合、そしてWAP12遺伝子の3’フランキング領域の塩基配列の1264番目の塩基がGである場合には、炎症性疾患の発症の可能性が低いと判定できる。
【0027】
本明細書において、疾患の「判定」とは疾患発症の有無の判断、疾患発症の可能性の判断(罹患危険性の予想)、疾患の遺伝的要因の解明などをいう。
【0028】
また、疾患の「判定」は、上記の一塩基多型の検出法による結果と、所望により他の多型分析(VNTRやRFLP)及び/又は他の検査結果と合わせて行うこともできる。
【0029】
また、本明細書において、「炎症性疾患」とは、炎症性病態との相関が知られている細胞接着因子やサイトカインの誘導が認められる疾患であれば特に限定はされないが、例えば慢性関節リウマチ、全身性エリマトーデス、炎症性腸炎、種々のアレルギー反応、細菌性ショック、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患などが挙げられ、特には心筋梗塞が挙げられる。
【0030】
(検出対象)
遺伝子多型の検出の対象は、ゲノムDNAが好ましいが、場合によっては(つまり多型部位及びその隣接領域の配列がゲノムと同一または完全相補的になっている場合)cDNA、又はmRNAを使用することもできる。また、上記対象を採取する試料としては、任意の生物学的試料、例えば血液、骨髄液、精液、腹腔液、尿等の体液;肝臓等の組織細胞;毛髪等の体毛等が挙げられる。ゲノムDNA等は、これらの試料より常法に従い抽出、精製し、調製することができる。
【0031】
(増幅)
遺伝子多型を検出するにあたっては、まず遺伝子多型を含む部分を増幅する。増幅は、例えばPCR法によって行われるが、他の公知の増幅方法、例えばNASBA法、LCR法、SDA法、LAMP法等で行ってもよい。
【0032】
プライマーの選択は、例えば、前記した本発明の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは10〜100塩基、より好ましくは10〜50塩基の配列、及び/又はその相補配列を増幅するように行う。
プライマーは、前記の一塩基多型部位を含む所定塩基数の配列を増幅するためのプライマーとして機能し得る限り、その配列において1又はそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。
【0033】
増幅のために用いるプライマーは、試料が一の対立遺伝子型の場合にのみ増幅されるようにフォワードプライマー又はリバースプライマーの一方が一塩基多型部位にハイブリダイズするように選択してもよい。プライマーは必要に応じて蛍光物質や放射性物質等により標識することができる。
【0034】
(遺伝子多型の検出)
遺伝子多型の検出は、一の対立遺伝子型に特異的なプローブとのハイブリダイゼーションにより行うことができる。プローブは、必要に応じて、蛍光物質や放射性物質等の適当な手段により標識してもよい。プローブは、前記の一塩基多型部位を含み、被検試料とハイブリダイズし、採用する検出条件下に検出可能な程度の特異性を与えるものである限り何等限定はない。プローブとしては、例えば前記の一塩基多型部位を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは10〜100塩基の配列、より好ましくは10〜50塩基の配列、又はそれらの相補配列にハイブリダイズすることのできるオリゴヌクレオチドを用いることができる。例えばインベーダー法、TaqMan−PCR法を用いることができる。また、一塩基多型部位がプローブのほぼ中心部に存在するようにオリゴヌクレオチドを選択するのが好ましい。該オリゴヌクレオチドは、プローブとして機能し得る限り、即ち、目的の対立遺伝子型の配列とハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の配列とはハイブリダイズしない条件下でハイブリダイズする限り、その配列において1又はそれ以上の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。また、プローブには、RCA(rolling circle amplification)法による増幅に用いられる一本鎖プローブ(パドロックプローブ)のように、ゲノムDNAとアニールし、環状になることによって上記のブロープの条件を満たすプローブが含まれる。
【0035】
本発明に用いるハイブリダイゼーション条件は、対立遺伝子型を区別するのに十分な条件である。例えば、試料が一の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズするが、他の対立遺伝子型の場合にはハイブリダイズしないような条件、例えばストリンジェントな条件である。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Sambrook et al., 1989)に記載の条件等が挙げられる。具体的には、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mlニシン精子DNAを含む溶液中プローブとともに65℃で一晩保温するという条件等が挙げられる。
【0036】
プローブは、一端を基板に固定してDNAチップとして用いることもできる。この場合、DNAチップには、一の対立遺伝子型に対応するプローブのみが固定されていても、両方の対立遺伝子型に対応するプローブが固定されていてもよい。
【0037】
遺伝子多型の検出は、制限酵素断片長多型分析法(RFLP:Restriction fragment length polymorphism)により行うこともできる。この方法では、一塩基多型部位がいずれの遺伝子型をとるかによって制限酵素により切断されるか否かが異なってくる制限酵素で試料核酸を消化し、消化物の断片の大きさを調べることにより、該制限酵素で試料核酸が切断されたか否かを調べ、それによって試料の多型を分析する。
【0038】
遺伝子多型の検出は、増幅産物を直接配列決定することによって行ってもよい(ダイレクトシークエンシング法)。配列決定は、例えばジデオキシ法、Maxam−Gilbert法等の公知の方法により行うことができる。
【0039】
遺伝子多型の検出はまた、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE:denaturing gradient gel electrophoresis)、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP:single strand conformation polymorphism)、対立遺伝子特異的PCR(allele- specific PCR)、ASO(allele-specific oligonucleotide)によるハイブリダイーゼーション法、ミスマッチ部位の化学的切断(CCM:chemical cleavage of mismatches)、HET(heteroduplex method)法、PEX(primer extension)法、RCA(rolling circle amplification)法等を用いることができる。
【0040】
[2] 炎症性疾患診断用キット
前記のプライマー又はプローブとしてのオリゴヌクレオチドは、これを含む炎症疾患診断用キットとして提供できる、キットは、上記遺伝子多型の分析法に使用される制限酵素、ポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、標識、緩衝液等を含んでいてもよい。
【0041】
[3]LBP-32、TSBP、及びWAPの発現状態の分析方法
本発明によればまた、前記した一塩基多型を検出することによって、LBP-32、TSBP、又はWAPの発現状態を分析することができる。
例えば、LBP−32遺伝子のイントロン1の塩基配列の151番目の塩基におけるG/Aの多型において、当該塩基がAである場合は、LBP−32の発現量が低いと判断でき、当該塩基がGである場合は、LBP−32の発現量は高いと判断できる。
【0042】
[4] 炎症性疾患の治療薬のスクリーニング方法
本発明によれば、候補物質の存在下で細胞内のLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の発現量を分析し、その発現量を変化させる物質を選択することによって、炎症性疾患の治療薬をスクリーニングすることができる。例えば、候補物質の存在下で細胞内のLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の発現量を分析し、その発現量を増大又は減少させる物質を選択することができ、特に好ましくはその発現量を増大させる物質を選択することができる。
【0043】
上記スクリーニングの一例としては、細胞と候補物質とを接触させる工程、細胞内におけるLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の発現量を分析する工程、及び候補物質の非存在下の条件と比較して当該遺伝子の発現量を変化させる候補物質を炎症性疾患の治療薬として選択する工程により行うことができる。
【0044】
候補物質としては任意の物質を使用することができる。候補物質の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、あるいは化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー、コンビナトリアルライブラリーでもよい。候補物質は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0045】
[5] LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性の測定方法
本発明によればまた、前記した一塩基多型を含むLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の断片を細胞に導入し、該細胞を培養し、該遺伝子の発現を分析することによってLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性を測定することができる。
本発明の好ましい態様によれば、前記LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の断片の下流にリポーター遺伝子を結合させた転写ユニットを細胞に導入し、該細胞を培養し、リポーター活性を測定することによって該遺伝子の発現を分析する。
【0046】
例えば、一塩基多型がプロモーター部位に存在する場合は、その一塩基多型を含む遺伝子の下流にレポーター遺伝子を挿入した系を導入した細胞を培養し、レポーター活性を測定すれば、一塩基多型による転写効率に違いを測定することができる。
【0047】
ここでリポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコール、アセチルトランスフェラーゼ、ガラクトシダーゼなどの遺伝子が用いられる。
【0048】
[6] LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性を阻害又は促進する物質のスクリーニング方法
本発明においては、前記した一塩基多型を含むLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の断片を細胞に導入し、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性を阻害又は促進する候補物質の存在下で該細胞を培養し、該遺伝子の発現を分析することによってLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性を阻害又は促進する物質をスクリーニングすることできる。
本発明の好ましい態様によれば、前記LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の断片の下流にリポーター遺伝子を結合させた転写ユニットを細胞に導入し、該細胞を培養し、リポーター活性を測定することによって該遺伝子の発現を分析する。
【0049】
例えば、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の発現量が有意に高いことが認められる一塩基多型を有する遺伝子の下流にレポーター遺伝子を挿入した系を導入した細胞を候補物質の存在下又は非存在下の両方の場合について培養し、候補物質の存在下で培養を行った場合にレポーター活性が下がれば、その候補物質はLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性阻害物質として選択することができる。
【0050】
ここでリポーター遺伝子としては、上記に挙げた遺伝子が用いられる。
候補物質としては任意の物質を使用することができる。候補物質の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、あるいは化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリー、コンビナトリアルライブラリーでもよい。候補物質は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
【0051】
上記のスクリーニング法により得られるLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性を阻害又は促進する物質もまた本発明の範囲内である。このようなLBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写活性を阻害又は促進する物質は、心筋梗塞治療剤、抗炎症剤、免疫抑制剤などの各種薬剤の候補物質として有用である。
【0052】
[7]LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写制御因子のスクリーニング方法
本発明においてはまた、前記した一塩基多型を含む遺伝子断片と、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写制御因子の存在が予想される試料を接触させ、上記断片と転写制御因子との結合を検出することによって、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写制御因子をスクリーニングすることもできる。前記の一塩基多型を含む遺伝子断片と、LBP-32遺伝子、TSBP遺伝子、又はWAP遺伝子の転写制御因子の存在が予想される物質との結合の検出は、ゲルシフト法(電気泳動移動度シフト解析:electrophoretic mobility shift assay, EMSA)、DNase I フットプリント法等によって行うことがきるが、ゲルシフト法が好ましい。ゲルシフト法では、タンパク質(転写制御因子)が結合すると、分子サイズが大きくなり電気泳動におけるDNAの移動度が低下するので、32Pで標識した遺伝子断片と転写制御因子を混ぜ、ゲル電気泳動にかける。オートラジオグラフィーでDNAの位置を見ると、因子の結合したDNAはゆっくり動くので、通常のバンドよりも遅れて移動するバンドとして検出される。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(A)材料と方法
(1)被験者
心筋梗塞の日本人患者を用いた。明確な心筋梗塞の診断には以下の3つの基準のうちの2つが必要である(i)30分以上持続する中心位の圧迫、痛み又は苦しさの病歴、(ii)少なくとも1つの基準又は2つの胸部誘導における0.1mV以上のST−セグメントの上昇、又は(iii)通常の実験値より2倍以上への血清クレアチンキナーゼ濃度の上昇。コントロール群は日本人の通常者から構成した。全ての患者からは本実験への参加の同意を得た。
【0054】
(2)SNPの遺伝子タイピング
大規模相関分析のために、本発明者自身のSNPデータベース (Haga H, 他 (2002) Gene-based SNP discovery as part of the Japanese Millennium Genome Project: identification of 190,562 genetic variations in the human genome. Single-nucleotide polymorphism. J Hum Genet 47:605-610) を使用して、既報の通りSNPのスクリーニングを行った(Ohnishi Y, 他、(2001) A high-throughput SNP typing system for genome-wide association studies. J Hum Genet 46:471-477)。重要な領域にSNPマップを構築するために、参照配列としてLBP-32用にAC010969.11を組み立てることによって参照配列を作成した。Z84814.1, AL034394.2, AL035445.4, AF044083.1及びU89335.1をTSBP用に使用し、AL031663.2, AL121778.12, AL031671.12, AL109656.10 及びAL050348.21をWAP領域用に使用した。次に、SNPを参照配列中に預けた。強い連鎖不均衡を評価するために、SNP部位の190名の心筋梗塞患者と190名のコントロール被験者の遺伝子型を決定した。
【0055】
(3)SNPの同定
重要領域中の遺伝子に基づいた変異を全て同定するために、重要領域に位置することが知られている全ての遺伝子をスクリーニングした。PCRプライマーの設計、PCR実験、DNA抽出、DNAシークエンス、及びSNP同定のプロトコールは既報の通りである(Iida et al. 2001)。重要領域のSNPの遺伝子型は、既報の通り、インベーダーアッセイ又はキャピラリーシークエンサー(ABI3700, Applied Biosystems, CA)を用いたPCR産物の直接シークエンスにより決定した(Iida A, 他、(2001) Catalog of 258 single-nucleotide polymorphisms (SNPs) in genes encoding three organic anion transporters, three organic anion-transporting polypeptides, and three NADH:ubiquinone oxidoreductase flavoproteins. J Hum Genet 46:668-683;及び Ohnishi Y, 他、(2001) A high-throughput SNP typing system for genome-wide association studies. J Hum Genet 46:471-477)。
【0056】
(4)ハプロタイプ構造の解析
EM−アルゴリズム(Excoffier L, 他、(1995) Maximum-likelihood estimation of molecular haplotype frequencies in a diploid population. Mol Biol Evol 12: 921-927)によりハプロタイプフェージングを見積もった。ハプロタイプブロックを、以下の改良を除き既報の通り構築した(Daly MJ, 他、(2001) High-resolution haplotype structure in the human genome. Nat Genet 29: 229-232)。先ず、次の解析を簡単にするために、単一の代表的なSNPに絶対的にリンクしている隣接するSNPをクラスター化した。次に、maxN+1,20.5N(式中、Nはブロック中のSNPの数を示す)の共通のハプロタイプのセットが集団の90%以上をカバーするという制約を加えた。曖昧さをなくすために、SNP部位のいずれもがハロタイプ頻度の計算から遺伝子タイピングできなかった試料は除いた。
【0057】
(5)統計解析
既報の通り(Yamada R, 他、(2001) Association between a single-nucleotide polymorphism in the promoter of the human interleukin-3 gene and rheumatoid arthritis in Japanese patients, and maximum-likelihood estimation of combinatorial effect that two genetic loci have on susceptibility to the disease. Am J Hum Genet 68:674-685)、相関研究、Hardy-Weinberg均衡、及び連鎖不均衡係数(D')の計算について統計解析を行った。
【0058】
(6)ルシフェラーゼ活性
LBP-32のイントロン1の+5 から+350に対応するDNA断片を、HindIII及びNcoI配列を用いてゲノムDNAを鋳型として使用してPCRによる増幅し、5'-3'方向にpGL3-プロモーターベクターのHindIII 及びNcoI部位にクローニングした。10%牛胎児血清を添加したDMEM培地でHeLa細胞を生育した。次いで、細胞(3X105) に0.5μgの野生型構築物又は変異体構築物及び0.5μgのpRL-TKベクター(トランスフェクション効率用の内部コントロールとして)をFuGeneトランスフェクション試薬(Roche, IN)を用いてトランスフェクションした。24時間後、細胞を回収し、Dual-Luciferase Reporter Assay System (Promega, WI)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。
【0059】
(7)ゲル−シフトアッセイ
既報の通り(Andrews and Faller 1991)、HeLa細胞から核抽出物を調製し、32Pで標識した28bpのオリゴヌクレオチド5'-TCCACGCCGCCACGGCCTTTGCCCCTTA-3' (アレルG)(配列番号4); 5'-TCCACGCCGCCACGACCTTTGCCCCTTA-3' (アレルA) (配列番号5)と一緒にインキュベートした。競合実験のために、32P-標識したオリゴヌクレオチドの添加前に、未標識のオリゴヌクレオチド(100倍過剰)と一緒に、抽出した核をプレインキュベートした。タンパク質−DNA複合体は、0.5×Tris-ホウ酸-EDTA緩衝液中で未変性8%ポリアクリルアミドゲル上で分離した。シグナルはオートラジオグラフィーで検出した。
【0060】
(8)RT-PCRを用いた発現解析
TRIZOL試薬 (GibcoBRL)を用いてHCASMC(BioWhittaker)及びHCAEC(BioWhittaker)から全RNAを単離した。HCASMC及びHCAECの全RNA、及びヒト心臓組織のポリA RNA(Clontech)から、オリゴdTプライマーとSuperscript II逆転写酵素 (Invitrogen)を用いて一本鎖cDNAを調製した。これらのcDNAを鋳型とし、プライマーとして5'-ACTTTGGCTGTCATCCTGAC-3' (配列番号6)及び 5'-CTTGATAGGTCCTGTAGCTC-3' (配列番号7) (TSBP用), 5'-AGCGCGATGACACAGGAGTA-3' (配列番号8)及び5'-CGTTGCTATGGAGACAGTGA-3' (配列番号9)(LBP-32用), 5'-TGGTATCGTGGAAGGACTCAT-3' (配列番号10)及び 5'-GTGGGTGTCGCTGTTGAAGTC-3' (配列番号11) (内部参照としてのGAPDH )を用いて、PCR増幅を行った。
【0061】
(9)発現ベクターの構築
ヒト全長TSBP及びLBP-32 cDNAを以下のPCRプライマーセットを用いてRT-PCRにより作製した。
5'-ATAGCGGCCGCAATGACAGTCTTGGAAATAAC-3' (配列番号12)及び
5'- AGACTCGAGTTACTCTTCCACTTTTTTGTTGTAC-3' (配列番号13);
5'- GAGGCGGCCGCGATGACACAGGAGTACGACAAC-3' (配列番号14)及び
5'- AGAGTCGACGATCTCCGTCAGGGTGAGC-3' (配列番号15);
pTSBP-mycは、NotI-XhoIで切断したTSBP cDNA をpCMV-myc (Clontech, Palo Alto, CA)に挿入することによって構築した。pLBP32-Flagは、NotI-SalIで切断したLBP-32 cDNAをpFLAG-CMV5a (Sigma)に挿入することによって構築した。
【0062】
(10)免疫蛍光分析
HCASMC細胞(5X105)にヒトAoSMC Nucleofector Kit (amaxa biosystems)を用いて5μgのpTSBP-myc又はpLBP32-Flagをトランスフェクションし、コラーゲンコートしたガラススライドに接種した。24時間後、細胞を固定し、抗体で処理した。核をDAPI(Sigma)で染色した。
【0063】
(B)結果
(1)SNP相関研究
先ず、65,671個のSNPについて、94名の心筋梗塞患者の遺伝子型の頻度と658名の健常人の遺伝子型の頻度とを比較し、その後、0.01未満のP値を有するSNPについてより大きな複製パネルでさらに遺伝子タイピングを行った。表1に示す通り、LTA部位を含む4個のSNP部位が心筋梗塞と有意な相関を示した(P<0.0001)。他の3個の部位は、染色体2p25.1上のLBP-32遺伝子内、染色体6p21上のTSBP遺伝子内、及び染色体20q13上のWAP12遺伝子内にそれぞれ位置した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
(2)連鎖不均衡の解析
これらの重要領域における強い連鎖不均衡(LD)の伸長を見積もるために、これらのSNPについて95名の心筋梗塞患者と95名のコントロール被験者について遺伝子型を決定した。
【0068】
LBP-32領域:
TAF1B及びLBP-32を含む染色体2p25.1上の157kbに及ぶ11個のSNPの遺伝子型を決定した。LBP-32を含む強い連鎖不均衡の伸長したブロック(図1a)
【0069】
TSBP領域:
BTNL2、TSBP及びNOTCH4を含む染色体6p21上の250kbに及ぶ22個のSNPの遺伝子型を決定した。これらのSNPのアレル頻度は30%以上であった。各対のSNPのD’値をプロットして標識した(図1a)。有意なSNPは強い連鎖不均衡の一つのブロック内に存在し、D’はTSBPの上流及び下流で低下している(図2a)。
【0070】
WAP領域:
WAP7-13及びTNNC2を含む染色体20q13 上の376kbに及ぶ15個のSNPの遺伝子型を決定した。WAP8-13を含む強い連鎖不均衡の伸長したブロック(図3a)
【0071】
(3)高密度SNPマッピング及びハロタイプブロック解析
LBP−32中の遺伝子の変異を全て同定するために、LBP−32のエクソンの全てを包含する約52kbをスクリーニングした。この領域中に全部で40個の多型を同定し、190名の心筋梗塞患者と190名の健常被験者の遺伝子型を決定した。この遺伝子タイピングの結果、LBP-32イントロン1 +151G>A以外には、有意な相関は認められなかった。
【0072】
TSBPについては、そのエクソンの全てを包含する約80kbをスクリーニングした。この領域中に全部で216個の多型を同定した。ハロタイプブロックを見積もるために、アレル頻度が20%以上である上記で見つけたSNPを用いて、95名の心筋梗塞患者と95名の健常被験者の遺伝子型を決定した。この遺伝子タイピングの結果、有意な相関が認められるTSBPエクソン25 306A>Gを含むハロタイプブロックを見出した(図2b)。
【0073】
WAP遺伝子領域については、WAP7-13及びTNNC2をスクリーニングした。この領域中に全部で54個の多型を同定し、95名の心筋梗塞患者と95名の健常被験者の遺伝子型を決定した。この遺伝子タイピングの結果、WAP12遺伝子の3’フランキング領域中のSNPを含むハロタイプブロックを見出した。このハロタイプブロックは約100kbに及ぶ18個のSNPから構成される。これら18個のSNPについて、別の475名の心筋梗塞患者と別の475名の健常被験者についてさらに遺伝子型を決定した。その結果、WAP12遺伝子の3’フランキング領域+1264G>Aを含む複数のSNPにおいて最も有意な相関が認められた(図3b)。
【0074】
(4)ヒト心臓におけるTSBP及びLBP-32遺伝子の発現と局在
RT-PCRを用いてTSBP及びLBP-32の遺伝子発現を解析した。TSBP転写物は、冠動脈内皮細胞(HCAEC)及び冠動脈平滑筋細胞(HCASMC)で検出された(図4a)。LBP-32転写物はヒト心臓組織及びHCAECで検出された(図4a)。
【0075】
TSBP及びLBP-32の細胞局在を調べるために、Mycで標識したTSBP又はFlagで標識したLBP-32をHACSMCにトランスフェクションした。その結果、TSBPは細胞質に局在し、LBP-32は核に局在していた(図4b及びc)。
【0076】
(5)SNP部位への核因子の結合
LBP-32中のSNP(イントロン1 +151G>A)に核因子が結合するかどうかを調べるために、SNP部位を含むオリゴヌクレオチドを用いてゲルシフトアッセイを行った。アレルAを含むオリゴヌクレオチドを用いた場合にのみ、印をつけたシフトのバンドが見られた(図1b)。
【0077】
(6)SNPにより影響を受ける転写調節活性
LBP-32のイントロン1 +151G>AのSNPがその発現量に影響を及ぼすかどうかを決定するために、ルシフェラーゼ遺伝子転写ユニットの上流の各アレルに対応するゲノムDNA断片を用いて2つのプラスミドを構築した。Aアレルに対応するクローンの相対ルシフェラーゼ活性は、Gアレルに対応するクローンの約半分であった(図1c)。
【0078】
(C)考察
92,788個のSNPを用いて心筋梗塞について大規模相関研究を行った。65,671個のSNP(70.7%)において94名の心筋梗塞患者の遺伝子型を決定した。これらのSNPは、13,738個の遺伝子をカバーする。これは、今回のスクリーニングが全遺伝子の約43%をカバーしていることを意味する。一次スクリーニングについて0.01未満のp値が得られたスクリーニングしたSNPの96%以上が、他の試料では有意な相関を維持できなかった。この結果は、少数の試料を用いた相関研究は一般の疾患については無意味であることを示している。
【0079】
本実施例の大規模相関研究の結果、4個のSNPにおいて心筋梗塞の危険の増大と有意な相関を認めた。これらの4個のSNPのうち、1個のSNPはLTA上に位置し、これは既報のものである(Ozaki K, 他、(2002) Functional SNPs in the lymphotoxin-alpha gene that are associated with susceptibility to myocardial infarction. Nat Genet 32:650-654.)。その他の2個のSNPはTSBP及びLBP-32上に位置した。最後のSNPは染色体20q13上のWAP遺伝子座に存在した。
【0080】
LBP-32はチトクロムP450scc のプロモーター領域に結合するタンパク質としてクローニングされた(Huang N, 他、(2000) Cloning of factors related to HIV-inducible LBP proteins that regulate steroidogenic factor-1-independent human placental transcription of the cholesterol side-chain cleavage enzyme, P450scc. J Biol Chem 275:2852-2858.)。これはヒトp70 MGRと同一であり、 マウスMGRと94%同一である(Wilanowski T, 他、(2002) A highly conserved novel family of mammalian developmental transcription factors related to Drosophila grainyhead. Mech Dev 114:37-50.)。Wilanowski他は、p70 MGR がショウジョウバエドーパデカルボキシラーゼ、ショウジョウバエPCNA及びヒトEn-1のプロモーター領域に結合することを報告している。Flagで標識したLBP-32を用いた過剰発現研究の結果、LBP-32は、マウスMGRと同様、核に局在していた。LBP-32イントロン1 +151G>Aの置換により、核因子の結合モチーフに変化が生じる。即ち、Gアレルはモチーフを持たないが、AアレルはCOUP/HNF−4ヘテロダイマー結合モチーフを有している。ルシフェラーゼアッセイの結果、LBP-32イントロン1 +151G>Aの少数アレルがLBP-32の発現レベルを抑制し、その結果、その下流の遺伝子の発現レベルが変化するという可能性が示された。P450sccはエストロゲンシンテターゼとも称される。エストロゲンは心臓に対して重要な役割を担っているので、P450sccの発現レベルの変化が心筋梗塞の発症に関連している可能性がある。発現レベルに影響する機構は少数Aアレルへの核因子の結合であると考えられる(図1b)。
【0081】
TSBPは精巣cDNAから最初に同定された(Liang ZG, 他、(1994) Human testis cDNAs identified by sera from infertile patients: a molecular biological approach to immunocontraceptive development. Reprod Fertil Dev 6:297-305)。しかしながら、TSBP cDNAはヒト心臓組織及びHCAECで検出された (図3)。HCASMCでは、TSBPの局在は細胞質である。TSBPにおける重要なSNP(エクソン25 306A>G)はコード領域に存在し、アミノ酸置換(I306V)を生じる。TSBPは、LTAも位置する6p21にマッピングされる。2つの遺伝子は、約700 kbの間隔で位置し、互いに異なる連鎖不均衡ブロックに位置する。このことはTSBPとLTAの重要なSNP間のD' は0.4である。TSBPと心筋梗塞との有意な相関はLTAとは独立していることを示す。
【0082】
染色体20q13上の遺伝子座は、乳清酸性タンパク質(WAP)とホモロジーを有するタンパク質をコードする多数の遺伝子を含んでいる。WAPの機能は、微生物に対する宿主応答に存在する可能性がある (Clauss A, 他、(2002) A locus on human chromosome 20 contains several genes expressing protease inhibitor domains with homology to whey acidic protein. Biochem J 368:233-242)。有意な相関が見られたSNPを含む連鎖不均衡ブロックは約300kbまで伸びた。ハプロタイプブロック解析のために、標的領域は100kbに限定された。この限定された標的領域内には4個のWAP遺伝子が存在する。これらの遺伝子は重複する領域を含んでいるので、心筋梗塞関連遺伝子に焦点を合わせることは困難である。
【0083】
上記の通り、本実施例の大規模相関研究により、心筋梗塞の発症に感受性のある2つの候補遺伝子と1つの候補遺伝子座が同定された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、心筋梗塞等の炎症性疾患の発症進展に関与する新規な一塩基多型(SNP)が新たに同定された。本発明で同定されたSNPを利用することにより、心筋梗塞等の炎症性疾患の診断法、又は炎症性疾患の治療薬の開発法を提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TSBP遺伝子のエキソン25の塩基配列の306番目の塩基におけるA/Gの多型を検出し、上記塩基がGである場合には、心筋梗塞が発症している、あるいは発症の可能性が高いと判定し、上記塩基がAである場合には、心筋梗塞の発症の可能性が低いと判定する、心筋梗塞の罹患危険性の予想方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−139243(P2012−139243A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−99411(P2012−99411)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【分割の表示】特願2006−550908(P2006−550908)の分割
【原出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(507213444)
【出願人】(507213455)
【出願人】(507213178)
【Fターム(参考)】