説明

一方向性分散型すだれ状電極変換器を用いた弾性表面波機能素子

【課題】広帯域・低損失・超角型で、位相特性に優れた弾性表面波機能素子を実現する。
【解決手段】圧電性基板1または/或いは圧電性薄膜基板表面上に、弾性表面波を励振または受信するすだれ状電極を有する弾性表面波機能素子において、伝搬方向に向かって徐々に電極幅及び周期が短くなる正負の電極を交互に配置した、ダウン方向に一方向性をもつ分散型すだれ状電極、あるいは伝搬方向に向かって徐々に電極幅及び周期が長くなる正負の電極を交互に配置した、アップ方向に一方向性をもつ分散型すだれ状電極を構成し、これらを相互に組み合わせることにより、その方向性を向かい合わせ、周波数の変化に対して遅延時間が変化しない非分散型遅延線及びフィルター、又は周波数の増加ともに遅延時間が長く/短かくなるアップ/ダウン型分散型遅延線及びフィルターを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伝搬方向に周期の異なる分散型すだれ状電極一方向性変換器を用いた、低損失・広帯域・帯域内フラットな特性をもつ弾性表面波機能素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の圧電基板上にすだれ状電極を設けた弾性表面波変換器では、伝搬方向に周期が一定の同周期構造のため、帯域幅が狭く、また帯域内フラットな特性とするためには、Sin X/X(Xは電極の位置)の関数などの幅方向重み付けが必要であり、逆位相で励振、受信するを電極を分布させる必要があり、低損失特性は得られない。一方、分散型遅延線や弾性表面波コンボルバーに用いられている、伝搬方向に周期の異なる分散型すだれ状電極変換器を用いた変換器では、広帯域特性と帯域内でフラットな特性をもつことが知られている。更に、この変換器は、Yカット・X伝搬のLiNbO基板では、電極の反射を用いて、ダウン方向に一方向性をもつことが、山之内らにより、文献(K.Yamanouchi,J.Ogata,N.Mihota and S.Kato,“Unidirectional Transducer and Application to High Efficient Elastic Convolvers”,1991 Ultrasonics Symposium Proccedings,Vol.1、pp.251−254)で発表されている。しかし、この構造の変換器では、一方向性特性がダウン方向のみであり、低損失フィルタは、分散型特性のみしか得られない。本特許は、これらの欠陥を取り除くために考案されたものである。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
分散型すだれ状電極を用いたダウン方向に一方向性をもつ分散型フィルタでは、遅延時間周波数特性が周波数に対して大きく変化するため、通信用には、一部でしか応用できない。本特許は、新たな構造のアップ方向及びダウン方向に一方向性をもつ分散型すだれ状電極を開発し、この電極を用いた弾性表面波機能素子を得ることを目的としている。
【発明が解決するための手段】
【0004】
本特許は、分散型すだれ状電極を用いたダウン方向、及びアップ方向に一方向性特性をもつ変換器において、電極幅を変化させることにより、ダウン方向とアップ方向に一方向性をもつ構造の分散型すだれ状電極を考案しあたことを基に、これらの電極を組み合せた、位相直線・低損失・角形の特性をもつフィルタ、弾性表面波機能素子が得られることを示している。
【実施例】
【0005】
【実施例1】
実施例の1は、圧電性基板または電歪性基板或いは圧電・電歪性薄膜基板表面上に、弾性表面波を励振または受信するすだれ状電極を有する弾性表面波機能素子において、上記第1の入力すだれ状電極は、上記第2の出力すだれ状電極に向かって徐々に電極幅及び周期が短くなる正負の電極を交互に配置したダウン方向分散型すだれ状電極であり、かつ第1のすだれ状電極がダウン方向に一方向性特性をもつ電極であり、かつ電極の構造として、図1のように、空隙の正電極間の中心間距離をλ(弾性表面波の波長λに対応する)として、電極幅がλ/8の正負電極からなり、正負電極間の中心にλ/8の浮き電極を挿入した構造であり、かつ電極膜厚 H/λがH/λ=0.005〜0.1の間にある構造の分散型すだれ状電極、及びλ/8の電極幅及びλ/8の浮き電極の幅が、±20%の範囲にある分散型すだれ状、及びこの電極上に一様な誘電体薄膜を付着させた構造、及び電極上にグレーティング誘電体薄膜を付着させた分散型すだれ状電極、及びこのすだれ状電極を用いた弾性表面波機能素子が、実施例の1である。
【実施例2】
実施例の2は、圧電性基板または電歪性基板或いは圧電・電歪性薄膜基板表面上に、弾性表面波を励振または受信するすだれ状電極を有する弾性表面波機能素子において、上記第3の入力すだれ状電極は、上記第4の出力すだれ状電極に向かって徐々に電極幅及び周期が長くなる正負の電極を交互に配置したアップ方向分散型すだれ状電極であり、かつ第3のすだれ状電極がアップ方向に一方向性特性をもつ電極であり、かつ電極の構造として、図2のように、電極幅が3λ/8の正負電極からなり、かつ電極膜厚H/λがH/λ=0.01〜0.1の間にある構造の分散型すだれ状電極、及び電極幅がλ/4から5λ/12の範囲にある分散型すだれ状、及びこの電極上に一様な誘電体薄膜を付着させた構造、及び電極上にグレーティング誘電体薄膜を付着させた分散型すだれ状電極、及びこのすだれ状電極を用いた弾性表面波機能素子が、実施例の2である。
【実施例3】
実施例の3は、特許請求の範囲の請求項1、2において、上記の第1の電極を入力電極、第3の電極を出力電極とし、その方向性を向かい合わせた周波数の変化に対して、遅延時間が変化しない非分散型遅延線及びフィルター、及び上記の第1の電極を入力電極、上記の第1の電極を出力電極とし、その方向性を向かい合わせた周波数の増加とともに、遅延時間が短くなるダウン型分散型遅延線及びフィルター、及び上記の第3の電極を入力電極、及び上記の第3の電極を出力電極とし、その方向性を向かい合わせた周波数の増加とともに遅延時間が長くなるアップ型分散型遅延線及びフィルター、及びこれらの電極を用いた弾性表面波機能素子が実施例の3である。
【実施例4】
実施例の4は、特許請求の範囲の請求項1、2、3において、上記の第1の電極、及び第3電極が電極の幅方向に重み付けされた構造の電極、或いは上記の第1の電極との間、及び第3の電極との間、或いは第1の電極と第3の電極との間で伝搬方向に距離重み付けを行った構造の電極からなる弾性表面波機能素子が実施例の4である。
【実施例5】
実施例の5は、上記のダウン方向の一方向性分散型すだれ状と上記のアップ方向の一方向性分散型すだれ状電極とを用いた弾性表面波機能素子において、送受の分散型電極の膜厚が同一の構造、及び送受の動作中心周波数が同一になるように電極膜厚が異なる構造からなる弾性表面波機能素子、或いは送受の誘電体薄膜の膜厚が同じ膜厚及び動作中心周波数が同一になるように膜厚が異なる構造からなる弾性表面波機能素子が実施例の5である。
【実施例6】
実施例の6は、特許請求の範囲の請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5において、圧電性基板として、128°Y−X LiNbOの基板、或いはカット角が128°を中心として±15°の範囲であり、伝搬方向が±5°の範囲にあるLiNbOの基板、或いは−10°〜70°Y−X LiNbO、Y−Z LiNbO、25°〜45°Y−X LiTaO、X−112°Y LiTaO、回転Y−X伝搬KNbOである基板、或いはそれぞれのカット角が±10°の範囲でありかつ伝搬方向が±5°の範囲の基板、ランガサイト、リチュウムテトラボレート、水晶、BGO、BSO、ZnO/基板、AlN/基板でからなる弾性表面波基板、また、一様な膜及びグレーティング反射膜として、TeO薄膜及びTe薄膜、SiO薄膜及びSi薄膜、BGO薄膜,BGS薄膜、LiNbO薄膜、LiTaO薄膜、Ta薄膜、ZnO薄膜、AlN薄膜からなる構造、また電極膜としてAl薄膜、Cu薄膜、AlとCuの合金からなる金属薄膜、Au,Ag、Mo,W,Ru,Pt及びAlとCuを含むこれらの合金からなる金属薄膜及び構造の弾性表面波機能素子が実施例の6である。
【発明の効果】
【0006】
分散型すだれ状電極の方向性は、すだれ状電極の反射係数が正の場合は、ダウン方向に一方向性をもつすだれ状電極、またすだれ状電極の反射係数が負の場合は、アップ方向に一方向性をもつすだれ状電極が得られる。図3は、電極幅に対する、Al電極膜厚をパラメーターとした電極一周期当たりの反射係数r(電極の周期:p,電極幅:w)を示す。図から、ショートの場合、電極幅がλ/8電極は、一波長あたりの反射係数は正であり、ダウン方向の一方向性となる。一方、図からショート電極の場合、Al膜厚H/λ=0.06、電極幅w/λ=0.6では、反射係数はr=−0.035と負であり、アップ方向の一方向性をもつことが判る。
上記の一方向性分散型すだれ状電極の一例として、基板に128°Y−X LiNbOを用い、上記第1の電極の電極幅がλ/8の場合の一方向特性の一例を図4に示す。図は、ダウン方向の一方向性をもち、H/λ=0.06、であり、短絡電極の反射係数rは、一波長当たり、r=0.035である。
上記の一方向性分散型すだれ状電極の一例として、基板に128°Y−X LiNbOを用い、上記第3の電極の一方向特性の一例を図5に示す。図は、アップ方向の一方向性をもち、H/λ=0.06、であり、短絡電極の反射係数rは、一波長当たり、r=−0.035である。ダウン方向とアップ方向の一方向性は、反射係数の符号の差から得られる。また、電極膜厚は、同一であり、一回のリソグラフィーでフィルターが作成できる。
上記第1の電極と上記第3の電極を用い、一方向特性の方向を向かい合わせ、かつ電極間に距離重み付けを行った順方向特性をの一例を図6に示す。図は、ダウン方向とアップ方向の電極の膜厚は、H/λ=0.06,H/λ=0.06、であり、短絡電極の反射係数rは、一波長当たり、ダウン方向がr=+0.035、アップ方向のが、r=−0.035である。挿入損失は、約0.5dBと良好な特性が得られている。
また、図7は、電極幅に対する、Cu電極膜厚をパラメーターとした一周期当たりの反射係数を示す。図から、Cu電極の場合は、Al電極に比較して、薄い膜厚で大きな反射係数が得られており、Al電極より薄い電極膜厚で大きな方向性が得られることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】λ/8電極幅構造の浮き電極一方向性分散型すだれ状電極を用いたすだれ状電極の断面図(a)と平面図(b)
【図2】3λ/8電極幅構造の一方向性分散型すだれ状電極を用いたすだれ状電極の断面図(a)と平面図(b)
【図3】128°Y−X LiNbO基板、Al電極を用いた場合の電極膜厚をパラメーターとした電極幅に対する反射係数
【図4】ダウン型一方向性分散型すれば状電極の方向性の計算結果
【図5】アップ型一方向性分散型すれば状電極の方向性の計算結果
【図6】ダウン型とアップ型一方向性電極を用いた構造の非分散型構造のフィルタの実験結果
【図7】128°Y−X LiNbO基板、Cu電極を用いた場合の電極膜厚をパラメーターとした電極幅に対する反射係数
【符号の説明】
1−圧電性基板、2−分散型すだれ状電極、3−一方向性の方向、4−ブスバー、5−浮き電極、6−正電極すだれ状電極、7−負電極すだれ状電極、8−規格化周波数、9−挿入損失、10−順方向特性、11−逆方向特性、12−1波長当たりの反射係数、13−1周期当たりの電極幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性基板または電歪性基板或いは圧電・電歪性薄膜基板表面上に、弾性表面波を励振または受信するすだれ状電極を有する弾性表面波機能素子において、上記第1の入力すだれ状電極は、上記第2の出力すだれ状電極に向かって徐々に電極幅及び周期が短くなる正負の電極を交互に配置したダウン方向分散型すだれ状電極であり、かつ第1のすだれ状電極がダウン方向に一方向性特性をもつ電極であり、かつ電極の構造として、図1のように、空隙の正電極間の中心間距離をλ(弾性表面波の波長λに対応する)として、電極幅がλ/8の正負電極からなり、正負電極間の中心にλ/8の浮き電極を挿入した構造であり、かつ電極膜厚 H/λがH/λ=0.005〜0.1の間にある構造の分散型すだれ状電極、及びλ/8の電極幅及びλ/8の浮き電極の幅が、±20%の範囲にある分散型すだれ状、及びこの電極上に一様な誘電体薄膜を付着させた構造、及び電極上にグレーティング誘電体薄膜を付着させた分散型すだれ状電極、及びこのすだれ状電極を用いた弾性表面波機能素子。
【請求項2】
圧電性基板または電歪性基板或いは圧電・電歪性薄膜基板表面上に、弾性表向波を励振または受信するすだれ状電極を有する弾性表面波機能素子において、上記第3の入力すだれ状電極は、上記第4の出力すだれ状電極に向かって徐々に電極幅及び周期が長くなる正負の電極を交互に配置したアップ方向分散型すだれ状電極であり、かつ第3のすだれ状電極がアップ方向に一方向性特性をもつ電極であり、かつ電極の構造として、図2のように、電極幅が3λ/8の正負電極からなり、かつ電極膜厚H/λがH/λ=0.01〜0.1の間にある構造の分散型すだれ状電極、及び電極幅がλ/4から5λ/12の範囲にある分散型すだれ状、及びこの電極上に一様な誘電体薄膜を付着させた構造、及び電極上にグレーティング誘電体薄膜を付着させた分散型すだれ状電極、及びこのすだれ状電極を用いた弾性表面波機能素子。
【請求項3】
特許請求の範囲の請求項1、2において、上記の第1の電極を入力電極、第3の電極を出力電極とし、その方向性を向かい合わせた周波数の変化に対して、遅延時間が変化しない非分散型遅延線及びフィルター、及び上記の第1の電極を入力電極、上記の第1の電極を出力電極とし、その方向性を向かい合わせた周波数の増加とともに、遅延時間が短くなるダウン型分散型遅延線及びフィルター、及び上記の第3の電極を入力電極、及び上記の第3の電極を出力電極とし、その方向性を向かい合わせた周波数の増加とともに遅延時間が長くなるアップ型分散型遅延線及びフィルター、及びこれらの電極を用いた弾性表面波機能素子。
【請求項4】
特許請求の範囲の請求項1、2、3において、上記の第1の電極、及び第3電極が電極の幅方向に重み付けされた構造の電極、或いは上記の第1の電極との間、及び第3の電極との間、或いは第1の電極と第3の電極との間で伝搬方向に距離重み付けを行った構造の電極からなる弾性表面波機能素子。
【請求項5】
上記のダウン方向の一方向性分散型すだれ状と上記のアップ方向の一方向性分散型すだれ状電極とを用いた弾性表面波機能素子において、送受の分散型電極の膜厚が同一の構造、及び送受の動作中心周波数が同一になるように電極膜厚が異なる構造からなる弾性表面波機能素子、或いは送受の誘電体薄膜の膜厚が同じ膜厚及び動作中心周波数が同一になるように膜厚が異なる構造からなる弾性表面波機能素子。
【請求項6】
特許請求の範囲の請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5において、圧電性基板として、128°Y−X LiNbOの基板、或いはカット角が128°を中心として±15°の範囲であり、伝搬方向が±5°の範囲にあるLiNbOの基板、或いは−10°〜70°Y−X LiNbO、Y−Z LiNbO、25°〜45°Y−X LiTaO、X−112°Y LiTaO、回転Y−X伝搬KNbOである基板、或いはそれぞれのカット角が±10°の範囲でありかつ伝搬方向が±5°の範囲の基板、ランガサイト、リチュウムテトラボレート、水晶、BGO、BSO、ZnO/基板、AlN/基板でからなる弾性表面波基板、また、一様な膜及びグレーティング反射膜として、TeO薄膜及びTe薄膜、SiO薄膜及びSi薄膜、BGO薄膜,BGS薄膜、LiNbO薄膜、LiTaO薄膜、Ta薄膜、ZnO薄膜、AlN薄膜からなる構造、また電極膜としてAl薄膜、Cu薄膜、AlとCuの合金からなる金属薄膜、Au,Ag、Mo,W,Ru,Pt及びAlとCuを含むこれらの合金からなる金属薄膜及び構造の弾性表面波機能素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−78072(P2011−78072A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251312(P2009−251312)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月8日 社団法人日本音響学会発行の「2009年秋季研究発表会 講演論文集CD−ROM」に発表
【出願人】(000179454)
【Fターム(参考)】