説明

一方向掘削用カッタビット

【課題】カッタビットの交換頻度の低減により掘削性能や施工性が向上され、地中障害物撤去工事や岩盤施工等が要求される全旋回ボーリングマシンに最適な一方向掘削用カッタビットを提供する。
【解決手段】一方向に旋回するケーシングチューブの下端周縁にホルダを介して着脱自在に取り付けられる一方向掘削用カッタビット10において、切削方向に複数のチップ装着部11cを有するビット本体11と、前記各チップ装着部にそれぞれ装着される複数のチップ12a,12bと、を備え、前記各チップは塊状に形成されて少なくとも切削方向最前方のチップ12aの高さより切削方向後方のチップ12bの高さが高くなるように段差dを設けて配置されると共に最前方のチップに鈍角のすくい角を持たせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング工法で使用される全旋回ボーリングマシンに用いて好適な一方向掘削用カッタビット(ケーシングビット)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ケーシング工法で使用される全旋回ボーリングマシンにおいては、図6に示すように、ケーシングチューブ100におけるファーストチューブ101の下端周縁には、周方向へ所定間隔離間して、各種のカッタビット102がホルダ103を介して着脱自在に取り付けられることは良く知られている(特許文献1参照)。
【0003】
前記ホルダ103は、図7に示すように、ファーストチューブ101の下端にホルダ本体103aが溶接され、このホルダ本体103aの中央下部(取付状態において)の内外面が四角形に切除されてカッタ取付部103bが形成されてなる。カッタ取付部103bの中央にはボルト挿通孔103cが形成されている。
【0004】
前記カッタビット102は、図8に示すように、ビット本体104とチップ105とからなり、ビット本体104は下部(取付状態において)に位置してチップ105を保持するチップ保持部104aを有すると共に、上部(取付状態において)に位置して前記ホルダ103のカッタ取付部103bに嵌合してボルト結合される二股状取付部104bを有する。二股状取付部104bにはボルト結合のためのテーパ孔104cが一方に、またねじ孔104dが他方に形成されている。
【0005】
また、前記カッタビット102は、図8の(a)のように、カッタ部先端の水平断面形状が台形型で刃先部がチューブ外周寄りに位置される外刃として、また、図8の(b)のように、カッタ部先端の水平断面形状が台形型で刃先部がチューブ内周寄りに位置される内刃として、さらにまた、図8の(c)のように、カッタ部先端の水平断面形状がナイフ型で刃先部がチューブ中央に位置されるセンター刃として用いられる各種のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−29979号公報
【特許文献2】特許第4485706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前述した従来のカッタビット102は、チップ105は板状のものが一つであると共に鋭角のすくい角が設けられているため、耐摩耗性、耐衝撃性に優れた超硬合金等で形成されたとしても、ケーシング工法において、近年、特に要求が多い地中障害物撤去工事や岩盤施工等においては、チップ105の摩耗が早いと共に欠損し易いことによりカッタビットの交換頻度が増大して掘削能率や施工性が低下するという問題点があった。
【0008】
また、特許文献2では、複数個の棒状チップを植設したケーシングビットが開示されているが、このケーシングビットにおいても、棒状であることに加えて両方向掘削ビット(使用されるチップ数が制限される)であるため、摩耗や欠損によりカッタビットの交換頻度が増大することには変わりはなく、地中障害物撤去工事や岩盤施工等には到底適さない。
【0009】
そこで、本発明は、カッタビットの交換頻度の低減により掘削能率や施工性が向上され、地中障害物撤去工事や岩盤施工等が要求される全旋回ボーリングマシンに用いて最適な一方向掘削用カッタビットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる目的を達成するための本発明に係る一方向掘削用カッタビットは、
一方向に旋回するケーシングチューブの下端周縁にホルダを介して着脱自在に取り付けられる一方向掘削用カッタビットにおいて、
切削方向に複数のチップ装着部を有するビット本体と、
前記各チップ装着部にそれぞれ装着される複数のチップと、
を備え、
前記各チップは塊状に形成されて少なくとも切削方向最前方のチップの高さより切削方向後方のチップの高さが高くなるように段差を設けて配置されると共に最前方のチップに鈍角のすくい角を持たせたことを特徴とする。
【0011】
また、
前記カッタビットは、カッタ部の水平断面形状がナイフ型でセンター刃として用いられることを特徴とする。
【0012】
また、
前記カッタビットは、カッタ部の水平断面形状が台形型で外刃又は内刃として用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る一方向掘削用カッタビットによれば、チップの長寿命化と複数化によりカッタビットの掘削性能の長時間維持が図れるので、掘削能率や施工性が向上され、地中障害物撤去工事や岩盤施工等が要求される全旋回ボーリングマシンに用いて最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1を示すセンター刃として用いられるカッタビットの構造説明図で、同図(a)は側面図、同図(b)は平面図、同図(c)は背面図である。
【図2】本発明の実施例2を示す外刃として用いられるカッタビットの構造説明図で、同図(a)は側面図、同図(b)は平面図、同図(c)は背面図である。
【図3】同じく内刃として用いられるカッタビットの構造説明図で、同図(a)は側面図、同図(b)は平面図、同図(c)は背面図である。
【図4】センター刃の使用例を示すカッタビットの配置図である。
【図5】外刃及び内刃の使用例を示すカッタビットの配置図である。
【図6】従来のカッタビットのケーシングチューブへの取付状態を示す説明図である。
【図7】ホルダの構造説明図である。
【図8】各種カッタビットの説明図で、同図(a)は外刃として用いられるカッタビット、同図(b)は内刃として用いられるカッタビット、同図(c)はセンター刃として用いられるカッタビットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る一方向掘削用カッタビットを実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の実施例1を示すセンター刃として用いられるカッタビットの構造説明図で、同図(a)は側面図、同図(b)は平面図、同図(c)は背面図、図4はセンター刃の使用例を示すカッタビットの配置図である。
【0017】
図1中10は、ケーシング工法で使用される全旋回ボーリングマシンのケーシングチューブ100(図6参照)におけるファーストチューブ101(図6参照)の下端周縁にホルダ103(図6参照)を介して取り付けられる一方向掘削用カッタビットである。
【0018】
このカッタビット10は、ビット本体11と比較的大きな塊状の2つのチップ12a,12bとからなり、ビット本体11は、上部(取付状態において)に位置して前記ホルダ103のカッタ取付部103b(図7参照)に嵌合してボルト結合される二股状取付部11aと、下部(取付状態において)に位置してチップ12a,12bを保持するチップ保持部11bを有する。
【0019】
前記チップ保持部11bには切削方向に沿って溝状のチップ装着部11cが二つ形成され、これらのチップ装着部11cに前記2つのチップ12a,12bがそれぞれロー付けで装着されている。そして、2つのチップ12a,12bは、切削方向最前方のチップ12aの高さより切削方向後方のチップ12bの高さが高くなるように段差dを設けて配置されると共に最前方のチップ12aに鈍角のすくい角を持たせている。
【0020】
前記二股状取付部11aにはボルト結合のためのテーパ孔11dが一方に、またねじ孔11eが他方に形成されている。
【0021】
尚、前記カッタビット10は、図1の(b)のように、カッタ部の水平断面形状がナイフ型で刃先部がチューブ中央に位置されるセンター刃として用いられる。また、図1中のハッチングは硬化肉盛処理を示す。
【0022】
このように構成されるため、一方向掘削に加えて、長さや厚みにおいて比較的大きな塊状のチップ12a,12bを複数用いると共に、複数のチップ12a,12bにおいて切削方向最前方のチップ12aの高さより切削方向後方のチップ12bの高さが高くなるように段差dを設けて配置し、かつ最前方のチップ12aに鈍角のすくい角を持たせたので、チップの長寿命化と複数化によりカッタビットの掘削性能の長時間維持が図れる。
【0023】
これにより、カッタビットの交換頻度の低減により掘削能率や施工性が向上され、地中障害物撤去工事や岩盤施工等が要求される全旋回ボーリングマシンに用いて最適となる。
【0024】
図4は本実施例のカッタビット10の使用例を示す。これは、所定間隔離間して複数(図示例では11個)配置したセンター刃としての本実施例のカッタビット10間に、従来の外刃としてのカッタビット102と内刃としてのカッタビット102を一個宛て配置して一方向掘削する例である。図4中103はホルダである。
【実施例2】
【0025】
図2は本発明の実施例2を示す外刃として用いられるカッタビットの構造説明図で、同図(a)は側面図、同図(b)は平面図、同図(c)は背面図、図3は同じく内刃として用いられるカッタビットの構造説明図で、同図(a)は側面図、同図(b)は平面図、同図(c)は背面図、図5は外刃及び内刃の使用例を示すカッタビットの配置図である。
【0026】
図2中20は、ケーシング工法で使用される全旋回ボーリングマシンのケーシングチューブ100(図6参照)におけるファーストチューブ101(図6参照)の下端周縁にホルダ103(図6参照)を介して取り付けられる一方向掘削用カッタビットである。
【0027】
このカッタビット20は、ビット本体21と比較的大きな塊状の3つのチップ22a,22b,22cとからなり、ビット本体21は、上部(取付状態において)に位置して前記ホルダ103のカッタ取付部103b(図7参照)に嵌合してボルト結合される二股状取付部21aと、下部(取付状態において)に位置してチップ22a,22b,22cを保持するチップ保持部21bを有する。
【0028】
前記チップ保持部21bには切削方向に沿って溝状のチップ装着部21cが三つ形成され、これらのチップ装着部21cに前記3つのチップ22a,22b,22cがそれぞれロー付けで装着されている。そして、3つのチップ22a,22b,22cは、切削方向最前方のチップ22aの高さより少なくともその直ぐ後方のチップ22bの高さが高くなるように段差dを設けて配置されると共に最前方のチップ22aに鈍角のすくい角を持たせている。尚、図示例では、切削方向最前方のチップ22aの直ぐ後方のチップ22bと該チップ22bの後方のチップ22cとは同一高さであるが、これらにおいても段差を設けて配置しても良いことは言うまでもない。
【0029】
前記二股状取付部21aにはボルト結合のためのテーパ孔21dが一方に、またねじ孔21eが他方に形成されている。
【0030】
尚、前記カッタビット20は、図2の(b)のように、カッタ部の水平断面形状が台形型で刃先部がチューブ外周側に位置される外刃として用いられる。また、図2中のハッチングは硬化肉盛処理を示す。
【0031】
一方、図3中30は、ケーシング工法で使用される全旋回ボーリングマシンのケーシングチューブ100(図6参照)におけるファーストチューブ101(図6参照)の下端周縁にホルダ103(図6参照)を介して取り付けられる一方向掘削用カッタビットである。
【0032】
このカッタビット30は、ビット本体31と比較的大きな塊状の3つのチップ32a,32b,32cとからなり、ビット本体31は、上部(取付状態において)に位置して前記ホルダ103のカッタ取付部103b(図7参照)に嵌合してボルト結合される二股状取付部31aと、下部(取付状態において)に位置してチップ32a,32b,32cを保持するチップ保持部31bを有する。
【0033】
前記チップ保持部31bには切削方向に沿って溝状のチップ装着部31cが三つ形成され、これらのチップ装着部31cに前記3つのチップ32a,32b,32cがそれぞれロー付けで装着されている。そして、3つのチップ32a,32b,32cは、切削方向最前方のチップ32aの高さより少なくともその直ぐ後方のチップ32bの高さが高くなるように段差dを設けて配置されると共に最前方のチップ32aに鈍角のすくい角を持たせている。尚、図示例では、切削方向最前方のチップ32aの直ぐ後方のチップ32bと該チップ32bの後方のチップ32cとは同一高さであるが、これらにおいても段差を設けて配置しても良いことは言うまでもない。
【0034】
前記二股状取付部31aにはボルト結合のためのテーパ孔31dが一方に、またねじ孔31eが他方に形成されている。
【0035】
尚、前記カッタビット30は、図3の(b)のように、カッタ部の水平断面形状が台形型で刃先部がチューブ内周側に位置される内刃として用いられる。また、図3中のハッチングは硬化肉盛処理を示す。
【0036】
これらのカッタビット20,30においても、チップの長寿命化と複数化によりカッタビットの掘削性能の長時間維持が図れ、カッタビットの交換頻度の低減により実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0037】
図5は本実施例のカッタビット20,30の使用例を示す。これは、所定間隔離間して複数(図示例では11個)配置した内刃としてのカッタビット30間に、外刃としてのカッタビット20を二個宛て配置して一方向掘削する例である。図5中103はホルダである。
【0038】
尚、本発明は上記各実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、チップの数や形状を変更する等各種変更が可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る一方向掘削用カッタビットは、地中障害物撤去工事や岩盤施工等が要求される全旋回ボーリングマシンのケーシングビットに有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 センター刃として用いられるカッタビット
11 ビット本体
11c ビット装着部
12a,12b チップ
20 外刃として用いられるカッタビット
21 ビット本体
21c ビット装着部
22a,22b,22c チップ
30 内刃として用いられるカッタビット
31 ビット本体
31c ビット装着部
32a,32b,32c チップ
100 ケーシングチューブ
103 ホルダ
d 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に旋回するケーシングチューブの下端周縁にホルダを介して着脱自在に取り付けられる一方向掘削用カッタビットにおいて、
切削方向に複数のチップ装着部を有するビット本体と、
前記各チップ装着部にそれぞれ装着される複数のチップと、
を備え、
前記各チップは塊状に形成されて少なくとも切削方向最前方のチップの高さより切削方向後方のチップの高さが高くなるように段差を設けて配置されると共に最前方のチップに鈍角のすくい角を持たせたことを特徴とする一方向掘削用カッタビット。
【請求項2】
前記カッタビットは、カッタ部の水平断面形状がナイフ型でセンター刃として用いられることを特徴とする請求項1に記載の一方向掘削用カッタビット。
【請求項3】
前記カッタビットは、カッタ部の水平断面形状が台形型で外刃又は内刃として用いられることを特徴とする請求項1に記載の一方向掘削用カッタビット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−241459(P2012−241459A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114307(P2011−114307)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(309036221)三菱重工メカトロシステムズ株式会社 (57)
【出願人】(599021837)杉崎基礎株式会社 (2)
【出願人】(502138304)株式会社スターロイ (6)
【Fターム(参考)】