説明

一時保護膜付基体、エアゾール製品、及び一時保護膜形成用樹脂組成物

【課題】、水蒸気等からの保護が可能であり、併せて膜が形成された基体表面の脱脂を行うことができる一時保護膜が形成された一時保護膜付基体、及びその一時保護膜を形成するための一時保護膜形成用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂とを溶解可能な溶剤と、を含む一時保護膜形成用樹脂組成物を、基体の表面の少なくとも一部に膜形成する。一時保護膜の形成にあたっては、環状オレフィン系樹脂と噴射剤とを耐圧容器中に含有するエアゾール製品を使用することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一時保護膜付基体、エアゾール製品、及び一時保護膜形成用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、部材や製品等の基体に対して一時的に形成される一時保護膜が知られている。この一時的に形成される膜の用途としては、金属加工時の表面保護用途、ゴム部材の加硫時の保護用途、樹脂製品の表面保護用途、輸送中又は保存中の金属の錆を抑えるための防錆用途等が知られている。このように、一時的に形成される膜の用途としては、物理的劣化、化学的劣化から部材や製品を保護する保護用途が主である(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、上記のような一時的に形成される膜は、取り除くことが前提となっているため、容易に除去できるものが求められる。しかしながら、部材や製品から上記膜を除去した後に、部材や製品の表面に残存する油が問題となり、脱脂洗浄が行われる場合がある。例えば、防錆用途の膜の場合、膜の除去に加えて、脱脂洗浄が必要である。脱脂洗浄する工程を省略することができれば、膜の除去がさらに容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−317800号公報
【特許文献2】特開2007−162032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、水蒸気等からの保護が可能であり、併せて膜が形成された基体表面の脱脂を行うことができる一時保護膜が形成された一時保護膜付基体、及びその一時保護膜を形成するための一時保護膜形成用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、水蒸気等からの保護が可能であり、併せて膜が形成された基体表面の脱脂を行うことができる一時保護膜の原料として、環状オレフィン系樹脂を用いることが好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) 環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂とを溶解可能な溶剤と、を含む一時保護膜形成用樹脂組成物を、基体の表面の少なくとも一部に膜形成してなる一時保護膜付基体。
【0008】
(2) 前記基体は、表面に油を有する(1)に記載の一時保護膜付基体。
【0009】
(3) 前記一時保護膜形成用樹脂組成物は、防錆剤を含有する(1)又は(2)に記載の一時保護膜付基体。
【0010】
(4) 前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が、30℃以上140℃以下である(1)から(3)のいずれかに記載の一時保護膜付基体。
【0011】
(5) 前記基体の表面が金属表面である(1)から(4)のいずれかに記載の一時保護膜付基体。
【0012】
(6) 環状オレフィン系樹脂と噴射剤とを耐圧容器中に含有するエアゾール製品。
【0013】
(7) 前記噴射剤が、n−ブタン、イソブタン、及びプロパンからなる溶剤から選択される少なくとも一種である(6)に記載のエアゾール製品。
【0014】
(8) 環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂とを溶解可能な溶剤と、を含む一時保護膜形成用樹脂組成物。
【0015】
(9) 環状オレフィン系樹脂を、表面に油を有する基体上に膜形成することにより前記油を膜中に吸収し、その後に膜を剥離することにより前記油を基体から除去する油分除去方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基体の表面が環状オレフィン系樹脂を含む一時保護膜で覆われるため、基体が保護される。例えば、水蒸気により生じる基体の錆の発生を抑えることができる。また、環状オレフィン系樹脂は油を吸収するため、一時保護膜を除去する際に脱脂を行う必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
本発明は、一時保護膜付基体、エアゾール製品、及び一時保護膜形成用組成物である。先ず、一時保護膜付基体、エアゾール製品、及び一時保護膜形成用樹脂組成物の関係について説明する。
【0019】
本発明の一時保護膜付基体は、環状オレフィン系樹脂を含む一時保護膜と、基体とを備える。基体に一時保護膜を形成するために、本発明のエアゾール製品は使用される。そして、本発明の一時保護膜形成用組成物は、基体上に形成する一時保護膜の原料であり、このエアゾール製品に充填することができる。なお、後述する通り、基体表面に一時保護膜を形成する方法は、エアゾール製品を用いる方法に限定されない。
【0020】
以下、本発明について、一時保護膜形成用樹脂組成物、基体、一時保護膜付基体の製造方法、一時保護膜付基体の順で説明する。
【0021】
<一時保護膜形成用組成物>
本発明の一時保護膜形成用樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂を溶解可能な溶剤を含む。以下、環状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂を溶解可能な溶剤について説明する。
【0022】
[環状オレフィン系樹脂]
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。
【0023】
また、環状オレフィン系樹脂としては、上記重合体に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0024】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0025】
環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物が好ましい。
【0026】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0027】
環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体として、特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕下記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0028】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分〕
炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0029】
〔〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分〕
一般式(I)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0030】
一般式(I)におけるR〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0031】
〜Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0032】
また、R〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、通りル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アン通りル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0033】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0034】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0035】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0036】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0037】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と〔2〕一般式(I)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0038】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により環状オレフィン系樹脂を得ることができる。
【0039】
〔その他共重合成分〕
環状オレフィン系樹脂は、上記の〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0040】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0041】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移点は、特に限定されないが30℃以上140℃以下が好ましく、特に60℃以上140℃以下が好ましい。環状オレフィン系樹脂のガラス転移点は、環状オレフィン系樹脂中の環状オレフィン成分の含有量が少なくなれば低くなり、環状オレフィン成分の含有量が多くなると高くなる傾向にある。環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が30℃以上であれば、樹脂中の環状オレフィン成分による防錆等の保護効果が充分に得られるため好ましい。環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が140℃以下であれば、環状オレフィン系樹脂中の環状オレフィン成分が多くなることに起因する一時保護膜の柔軟性低下による保護膜の膜割れ等の問題が生じにくいため好ましい。ガラス転移点(Tg)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。
【0042】
本発明の一時保護膜形成用組成物中の環状オレフィン系樹脂の含有量は、特に限定されないが、80質量%以上であることが好ましい。一時保護膜形成用組成物中の環状オレフィン系樹脂の含有量が、80質量%以上であれば、保護膜の被保護体に対する接着性が確保でき好ましい。通常、一時保護膜形成用組成物中の環状オレフィン系樹脂含有量は100質量%でもかまわない。
【0043】
[溶剤]
本発明の一時保護膜形成用組成物に含まれる溶剤は、一時保護膜を基体上に形成しやすいように、一時保護膜形成用組成物を液状にするための成分である。環状オレフィン系樹脂を溶解可能であれば、その種類は特に限定されない。例えば、n−ブタン、イソブタン、プロパン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族系溶剤を挙げることができる。
【0044】
[その他の成分]
本発明の一時保護膜形成用組成物は、本発明の効果を害さない範囲で、その他の樹脂、防錆剤、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。他の成分としては、基体の錆を抑えるために、防錆剤を使用することが好ましい。以下、防錆剤について説明する。
【0045】
防錆剤は、基体の錆を抑えるための添加剤である。一時保護膜に含まれる環状オレフィン系樹脂は、水蒸気バリア性が高い。このため水分が原因となる錆は、防錆剤を含有させなくても抑えることができる。しかし、酸素が原因となる錆は防錆剤を含有させて抑えることが効果的である。
【0046】
防錆剤は、酸素が原因となる錆を効果的に抑えることができ、且つ上記環状オレフィン系樹脂及び上記溶剤と組み合わせても問題が生じないものが好ましい。例えば、有機カルボン酸アミン塩、亜硝酸アミン塩、リン酸アミン塩、炭酸アミンベンゾトリアゾール誘導体、複素環式アミン等の防錆剤が挙げられる。
【0047】
<基体>
次いで、上記一時保護膜が形成される基体について説明する。基体の形状、材質は特に限定されず、一時保護の必要があればどのような基体に対しても一時保護膜を形成させて、本発明の一時保護膜付基体にすることができる。
【0048】
基体は、上記の通り限定されないが、本発明における一時保護膜は、基体表面の脱脂を、基体表面の保護と併せて行える。また、本発明における一時保護膜は、水蒸気バリア性が高いため、水蒸気が原因となって生じる錆等の不具合を抑制できる。したがって、基体として、一時保護膜の剥離後に脱脂が必要になるものや、水蒸気による錆が問題になるものであれば、本発明の一時保護膜付基体にすることの効果が大きい。そこで、以下、保護膜の剥離後に脱脂が必要になる基体、水蒸気による錆等が問題になりやすい基体について説明する。
【0049】
一時保護膜の剥離後に基体表面の脱脂が必要であり、且つ水蒸気による錆が問題となりやすい基体としては、例えば、大工道具、包丁、ナイフ等の刃物が挙げられる。刃の表面を錆から守るために防錆油が塗られる場合があり、また、金属は水分で酸化しやすいからである。このような刃物の刃を基体として、本発明の一時保護膜付基体とすれば、一時保護膜は、刃物の刃の保護に加えて、一時保護膜剥離後の基体表面の脱脂を不要にする。また、一時保護膜は水蒸気による刃の錆も抑える。
【0050】
また、一時保護膜の剥離後に脱脂が必要な基体としては、脱脂工程前の半導体、塗装前の金属表面、油汚れのある光学レンズ等が挙げられる。これらの用途においては、基体表面の油が問題となるが、本発明の一時保護膜付基体とすれば、基体表面が傷付けられたり、汚されたりすることを抑えられるとともに、基体表面の脱脂をすることができる。
【0051】
光学レンズの油汚れを取り除くために、光学レンズを基体として、本発明の一時保護膜付基体とすれば、光学レンズの油汚れを、光学レンズの表面を擦らずに落とすことができる。光学レンズの表面は、擦ることにより傷つくおそれがあり、光学レンズの表面が僅かでも傷つくと、光学レンズの品質に大きな影響を与える。このため、光学レンズを基体として、本発明の一時保護膜付基体にして、光学レンズ表面の油汚れを除去することで、光学レンズ表面の油汚れを落とす際に、光学レンズが傷つく危険を抑えることができる。
【0052】
一時保護膜が吸収可能な油の量は、単位面積(cm)あたりおよそ0.1g以下である。およそ0.1gより多くなると、保護膜が定着しないという不具合が生じるため好ましくない。
【0053】
なお、ほとんどの基体に対して、本発明の有する一時保護膜は、高い密着性を有さないため、容易に一時保護膜を剥離することができる。したがって、上記の基体(刃物、半導体、塗装前の金属表面、光学レンズ)と一時保護膜との密着性も小さいため、基体上に形成された一時保護膜は容易に剥離することができる。
【0054】
<一時保護膜付基体の製造方法>
一時保護膜付基体の製造方法は特に限定されない。上記の一時保護膜形成用組成物を用いて、上記の基体上に一時保護膜を形成できる方法であればよい。例えば、スピンコート法、リップコート法、コンマコート法、ロールコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ディップコート法、バーコート法、流延成膜法、グラビアコート法、プリント法等が挙げられる。なお、溶剤を蒸発させるための乾燥条件は、使用する溶剤の種類等に応じて適宜変更する。
【0055】
また、本発明の一時保護膜付基体の製造方法としては、エアゾール製品のようなスプレーを用いて、基体表面に一時保護膜を形成する方法が好ましい。複雑な形状の基体であっても、基体表面への一時保護膜形成用組成物の塗布が困難になりにくいからである。以下、エアゾール製品を用いた一時保護膜付基体の製造方法について説明する。
【0056】
エアゾール製品は、環状オレフィン系樹脂を溶剤に溶解させたものと噴射剤とを含むエアゾール用組成物が耐圧容器に収容されたものを指す。環状オレフィン系樹脂を溶解できる溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤が挙げられる。
【0057】
噴射剤は、耐圧容器に入れてその圧力を利用して環状オレフィン系樹脂を噴霧させる作用をもつ薬剤をいい、プロパン、n−ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、フロンF134a等の液化ガス、窒素ガス、炭酸ガス、笑気ガス、空気、ヘリウム等の圧縮ガス、を例示することができる。n−ブタン、イソブタン、及びプロパンは、環状オレフィン系樹脂を溶解するため、環状オレフィン系樹脂を溶解させるための溶剤を用いる必要が無くなる。
【0058】
エアゾール製品は、耐圧容器にエアゾール用組成物を収容することで製造できる。エアゾール用組成物を耐圧容器に収容する方法は、特に限定されず従来公知の方法を採用することができる。
【0059】
<一時保護膜付基体>
本発明の一時保護膜付基体は、環状オレフィン系樹脂を含む一時保護膜で基体が保護されるため、基体の表面が傷付いたり、汚れたりすることが抑えられることに加え、水蒸気による錆等も抑えることができる。また、一時保護膜の剥離後に脱脂が必要な場合であっても、本発明の一時保護膜付基体にすることで、一時保護膜に基体表面の脱脂をする働きがあることから、脱脂工程が不要になる。また、環状オレフィン系樹脂を含む一時保護膜は、基体との密着性があまり強くないため、使用時には容易に基体から剥がすことができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
環状オレフィン系樹脂(TOPAS Advanced Polymers社製、「TOPAS9506−F04」、ガラス転移点65℃)を15質量%、キシレンを8.5質量%からなる一時保護膜形成用樹脂組成物を作製した。バーコーターを用いて、表面を研磨した基体(冷間圧延鋼板(25×50×2mm))上に上記組成物を塗布した後、60℃で2時間乾燥し、厚み300μmの一時保護膜を基体上に形成させた。
【0062】
<比較例1>
特殊ビニール(大京化学株式会社製、「プラスティコート♯100」)を80質量%、トルエンを20質量%からなる一時保護膜形成用樹脂組成物を作製した。バーコーターを用いて、表面を研磨した基体(冷間圧延鋼板(25×50×2mm))上に上記組成物を塗布した後、60℃で2時間乾燥し、厚み300μmの一時保護膜を基体上に形成させた。
【0063】
<評価1>
実施例1及び比較例1の一時保護膜付基体を温度49℃、湿度95%の環境下で240時間放置した。その後、一時保護膜を剥がし基体の表面を観察した。実施例1の基体の表面に変色、発錆は見られなかった。一方、比較例1の基体の表面には、錆が観察された。
【0064】
<実施例2>
指紋を押し付けることによって、基体の表面に油汚れを付着させた後に、一時保護膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法で、一時保護膜付基体を製造した。
【0065】
<評価2>
実施例2の一時保護膜付基体を温度49℃、湿度95%の環境下で240時間放置した。その後、一時保護膜を剥がし基体の表面を観察した。基体の表面を観察すると、変色、発錆は観察されなかった。そして、油汚れが除去されていることが確認された。
【0066】
<実施例3>
環状オレフィン系樹脂(TOPAS Advanced Polymers社製、「TOPAS9506−F04」、ガラス転移点65℃)を12質量%、イソブタン(沸点−11.7℃)を88質量%からなるエアゾール用組成物を耐圧容器に収容してエアゾール製品を製造した。表面を研磨した基体(冷間圧延鋼板(25×50×2mm))上に、このエアゾールを噴霧したところ、厚み5mmの一時保護膜(発泡被覆膜)が基体上に形成された。
【0067】
<実施例4>
環状オレフィン系樹脂(TOPAS Advanced Polymers社製、「TOPAS6013−F04」、ガラス転移点135℃)を6質量%、イソブタン(沸点−11.7℃)を94質量%からなるエアゾール用組成物を耐圧容器に収容してエアゾール製品を製造した。表面を研磨した基体(冷間圧延鋼板(25×50×2mm))上に、このエアゾールを噴霧したところ、厚み200μmの一時保護膜(柚子肌状の塗膜)が基体上に形成された。
【0068】
実施例3、4の一時保護膜付基体を温度49℃、湿度95%の環境下で240時間放置した。その後、一時保護膜を剥がし基体の表面を観察した。基体の表面を観察すると、変色、発錆は観察されなかった。また、ガラス転移点の低い環状オレフィン系樹脂を用いた実施例3で形成された一時保護膜は柔軟性が高いものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂とを溶解可能な溶剤と、を含む一時保護膜形成用樹脂組成物を、基体の表面の少なくとも一部に膜形成してなる一時保護膜付基体。
【請求項2】
前記基体は、表面に油を有する請求項1に記載の一時保護膜付基体。
【請求項3】
前記一時保護膜形成用樹脂組成物は、防錆剤を含有する請求項1又は2に記載の一時保護膜付基体。
【請求項4】
前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が、30℃以上140℃以下である請求項1から3のいずれかに記載の一時保護膜付基体。
【請求項5】
前記基体の表面が金属表面である請求項1から4のいずれかに記載の一時保護膜付基体。
【請求項6】
環状オレフィン系樹脂と噴射剤とを耐圧容器中に含有するエアゾール製品。
【請求項7】
前記噴射剤が、n−ブタン、イソブタン、及びプロパンからなる溶剤から選択される少なくとも一種である請求項6に記載のエアゾール製品。
【請求項8】
環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂とを溶解可能な溶剤と、を含む一時保護膜形成用樹脂組成物。
【請求項9】
環状オレフィン系樹脂を、表面に油を有する基体上に膜形成することにより前記油を膜中に吸収し、その後に膜を剥離することにより前記油を基体から除去する油分除去方法。

【公開番号】特開2012−6305(P2012−6305A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145304(P2010−145304)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】