説明

一本鎖DNA結合タンパク質を用いる向上した核酸増幅

一本鎖DNA結合タンパク質を含めることにより、環状DNA分子および線状DNA分子の混合物中で環状DNA分子が優先的に増幅される方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される方法は、より高い純度を有する望ましい産物を提供するためのDNA増幅の向上した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の増幅を可能にするいくつかの有用な方法が開発されてきた。ほとんどは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、自家持続配列複製(3SR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、鎖置換増幅(strand displacement amplification)(SDA)、およびQβレプリカーゼによる増幅を含む選択されたDNA標的および/またはプローブの増幅を中心にして設計された(Birkenmeyer and Mushahwar, J Virological Methods, 35:117-126 (1991);Landegren, Trends Genetics, 9:199-202 (1993))。加えて、いくつかの方法が、環状DNA分子、例えばプラスミドまたはM13のようなバクテリオファージからのDNAを増幅するために用いられてきた。ある適用は、適切な宿主細菌、例えばE.coliの株中でのこれらの分子の増殖、続いて十分に確立されたプロトコルによるそのDNAの単離であった(Sambrook, J., Fritsch, E. F. , and Maniatis, T. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.)。PCRも、DNA標的、例えばプラスミドおよびM13のようなバクテリオファージからのDNA中の定められた配列を増幅するために頻繁に用いられてきた方法である。これらの方法のいくつかは、忍耐を要すること、費用がかかること、時間がかかること、非効率的であること、および感度が足りないことで悩まされる。それらは増幅される配列についての特定の知識を必要とする可能性もある。
【0003】
これらの方法における向上として、線形ローリングサークル増幅(linear rolling circle amplification)(LRCA)は、環状の標的DNA分子にアニールしたプライマーを用い、DNAポリメラーゼを添加する。増幅標的の環(ATC)が鋳型を形成し、その上で新しいDNAが作られ、それによりプライマー配列をその環に相補的な繰り返し配列の連続した配列として伸長するが、1時間あたり約数千コピーしか生成しない。LRCAにおけるある向上は、複製された相補的配列にアニールして新しい増幅の中心を与え、それにより指数的速度論および増大した増幅をもたらす追加のプライマーを用いる指数的RCA(ERCA)の使用である。指数的ローリングサークル増幅(ERCA)は鎖置換反応のカスケードを用い、HRCAとも呼ばれる(Lizardi, P. M. et al. Nature Genetics, 19, 225-231 (1998))。
【0004】
米国特許第6,323,009号において、標的DNA分子を増幅する手段が紹介されている。この方法は、その増幅されたDNAが、DNA配列決定、クローニング、マッピング、遺伝子型同定、ハイブリダイゼーション実験のためのプローブの生成、および診断的同定を含むその後の方法において頻繁に用いられるため、価値がある。
【0005】
米国特許第6,323,009号の方法(本明細書において、多重開始増幅(Multiple Primed Amplification)−MPAと呼ぶ)は、線形ローリングサークル増幅の感度を、個々の標的環の増幅のために多数のプライマーを用いることにより向上させる。MPA法は、それぞれの環状標的DNA分子から多数のタンデム配列DNA(TS−DNA)コピーを生成する利点を有する。加えて、MPAは、ある場合において、環状標的DNA分子の配列が未知であってよく、一方で環状標的DNA分子が一本鎖(ssDNA)または二本鎖(dsDNAもしくは二重鎖DNA)であってよい利点を有する。MPA法の別の利点は、一本鎖または二本鎖の環状標的DNA分子の増幅が等温で、および/または周囲温度で実行されてよいことである。他の利点には、ローリングサークル増幅の新しい適用において非常に有用であること、コストが低いこと、低濃度の標的環に対する感度、特に検出試薬の使用における柔軟性、および混入の危険性が低いことが含まれる。
【0006】
MPA法は、増幅された産物DNAの収量において、その反応中に存在する可能性があるエキソヌクレアーゼ活性による分解に耐性がある複数のプライマーを用いることにより向上することができる。これはエキソヌクレアーゼ活性を含む反応においてそれらのプライマーが残存することを可能にし、それを長いインキュベート期間の間実行することができる利点を有する。プライマーの残存は反応のインキュベート時間全体で新しいプライミング事象が起こることを可能にし、それはERCAの特質の1つであり、増幅されたDNAの収量を増大する利点を有する。
【0007】
MPA法は環の中に封入された既知または未知の標的DNAの”インビトロクローニング”を初めて可能にし、すなわち生物の中にクローニングする必要が無い。パッドロック(padlock)プローブを用いて標的配列をコピーしてギャップ補充法(fill−in method)により環にすることができる(Lizardi, P. M. et al. Nature Genetics, 19,225-231 (1998))。あるいは、多くの他の一般的に用いられる方法により標的配列を環状ssDNAまたはdsDNAの中にコピーまたは挿入することができる。MPA増幅は、細菌宿主細胞のような生物におけるクローニングにより増幅された収量のDNAを生成する必要性を克服する。
【0008】
MPA法は、増大された合成速度および収量を可能にする点でLRCAを超える向上である。これは、DNAポリメラーゼによる伸長のための複数のプライマー部位の結果としてもたらされる。ランダムプライマーMPAは、二本鎖の産物を生成するという利益も有する。これは、環状の鋳型のコピーにより生成された線状ssDNA産物がそれ自体DNA合成のランダムプライミングにより二重鎖の形に変換されると考えられるためである。二本鎖DNA産物は、どちらの鎖のDNA配列決定も可能になる点ならびに制限エンドヌクレアーゼによる消化ならびにクローニング、標識、および検出において用いられる他の方法が可能になる点で好都合である。
【0009】
鎖置換DNA合成がMPA法の間に起こり、結果として指数的増幅がもたらされる可能性があることも期待される。これは非常に大きい線状または環状DNA標的を指数的に増幅する能力を可能にする点で従来のERCAを超える向上であり、HRCAとも呼ばれる(Lizardi et al. (1998))。バクテリア人工染色体(BAC)などの大きい環状DNAの増幅は、MPA法を用いることで具体化されてきた。
【0010】
縮重プライマー(Cheung, V. G. and Nelson, S. F. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 14676-14679 (1996)およびランダムプライマー(Zhang, L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5847-5851 (1992)を用いる全ゲノム増幅に関する方法が公開されており、そこでは標的の複雑な混合物、例えばゲノムDNAのサブセットが増幅される。複雑さの低減がこれらの方法の目的である。MPA法のさらなる利点は、それがDNA標的の”サブセッティング”またはその複雑さの低減を必要とすること無くDNA標的分子を増幅することである。
【0011】
MPA法はそれと共に用いられるDNAの試料内の全ての配列を迅速に増幅し、その二本鎖の産物は元の試料と同じ全ての配列を有する。それが非常に多くの開始(プライミング)部位を有するDNAのタンデムに繰り返されたコピーを含むという事実を除き、産物DNAの物理的特性は開始時の鋳型の物理的特性と非常によく似ている。
【0012】
長い、線状および環状DNAの混合物がMPAのために与えられた場合、両方の形の内部の配列が増幅されることが分かっている。しかし、細菌および他の宿主内で増殖したクローン化されたDNAの大部分は、プラスミド、バクテリア人工染色体(BAC)、フォスミド(fosmids)、コスミド(cosmids)、特定のバクテリオファージクローン、例えばM13クローンおよび他のものにおいて見られるDNAのように環状である。さらなる分析のために、宿主細胞の配列から分離したクローン配列を単離しようとするのが一般的である。宿主細胞の染色体はBACクローンよりも遥かに大きく、ほぼ常に環状染色体の壊れた線状断片として単離されることを特筆すべきである。
【0013】
従って、PCRの制限が無く、長い線状の形よりも環状の形のDNAの増幅に有利に働く増幅法の必要性がある。これらの関心事に下記でより詳細に取り組む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,323,009号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Birkenmeyer and Mushahwar, J Virological Methods, 35:117-126 (1991)
【非特許文献2】Landegren, Trends Genetics, 9:199-202 (1993)
【非特許文献3】Sambrook, J., Fritsch, E. F. , and Maniatis, T. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y.
【非特許文献4】Lizardi, P. M. et al. Nature Genetics, 19, 225-231 (1998)
【非特許文献5】Cheung, V. G. and Nelson, S. F. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 14676-14679 (1996)
【非特許文献6】Zhang, L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 5847-5851 (1992)
【発明の概要】
【0016】
発明の概要
一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の存在が所望の増幅産物の純度および収量を向上させる、核酸増幅の新規の方法を開示する。その方法は、特に環状DNA分子、特にミトコンドリアDNAに適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
Phi29DNAポリメラーゼはいくつかの増幅法において有用であることが示されている。これらはローリングサークル増幅(RCA)および多置換増幅(Multiple Displacement Amplification)(MDA)を含む。RCAは環状DNA分子、例えばプラスミドを増幅するのに特に有用であり、MDAは線状DNA、特にゲノムDNAを増幅するために用いることができる。しかし、出発物質が環状DNAおよび線状DNA分子の両方を含む場合、RCAおよびMDAは、一方がより低い程度までである可能性があるとしても、共に両方のタイプの分子を増幅するであろう。いずれにせよ、増幅反応の終了時には、産物は環状および線状DNA分子の両方で構成されるであろう。
【0018】
驚いたことに、環状および線状DNA分子の両方を含む反応混合物中にSSBを含めることが、RCAを用いた環状DNA増幅産物の収量の大きな増大につながることが分かった。これは、ゲノムの染色体のDNAも含む試料中の環状ミトコンドリアDNAの増幅に特に有用であった。この試料は細胞抽出物から得ることができる。他の環状DNA分子、例えばウイルスのDNAが、SSBが増幅反応混合物中に存在する場合にゲノムの染色体のDNAよりも選択的に増幅されている。環状ミトコンドリアDNAおよび線状ゲノムDNA両方を含むDNAの出発試料を、Phi29DNAポリメラーゼ、ランダムヘキサマープライマー、dNTP類および緩衝液を含むGEHC TempliPhiキットを用いて、SSBを添加せずに増幅した場合、ミトコンドリアDNAの富化(enrichment)は無かったことが分かった。しかし、100ngのE.coli SSBまたはサーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)からのTth255−SSBのどちらかが反応混合物中に存在した場合、ミトコンドリアDNAの含有量はゲノムの染色体のDNAと比較して70〜80倍も増大した。T7からのSSB結合タンパク質(T7 Gp2 3:1)も、増幅された産物中のミトコンドリアの環状DNAの含有量を増大するのを特異的に助けることが示された。SSBを反応混合物あたり50〜1000ngの範囲で用いた場合に、増幅された産物中に増大したミトコンドリアの環状DNAが存在していた。反応物は30℃で16時間インキュベートした。好ましくは、環状DNAにニックが入るのを減らすため、出発DNA試料は熱変性するべきでは無く、それは環状標的DNAのRCAのために重要である。
【0019】
増幅反応の産物は、ミトコンドリアDNAに関する特異的な順方向および逆方向プライマーを用いて直接配列決定することができる。単一の容器(tub)の試料調製物中でミトコンドリアDNAをより容易に生成する能力は、癌、先天性および代謝性疾患に関してミトコンドリアゲノム中の変異に基づいてバイオマーカーを決定するために重要である。
【0020】
増幅反応がSSBおよびランダムヘキサマーの代わりにミトコンドリア配列特異的プライマーの存在下で行われた場合、ミトコンドリアDNAの1500倍までの富化も観察された。Tth255−SSBは最高の富化を与えたが、一方でE.coliのSSBはその富化の約半分しかもたらさなかった。
【0021】
増幅プロトコル:おおよそ10〜20pgのmtDNA(0.1〜0.2%)を含む10ngのヒトgDNAを、20mM Tris−HCl pH8.0および3μMのそれぞれの特異的なプライマーを含む9μlの試料緩衝液と混合した。それに9μlの TempliPhi 100反応緩衝液および10ngのPhi29 DNAポリメラーゼおよび100ngのE.coli SSBまたは175ngのTth−225 SSBを添加した。増幅は30℃で8時間(E.coli SSBが用いられる場合)または16時間(Tth−225 SSBが用いられる場合)実施した。65℃で20分間の酵素の熱不活性化により増幅を停止した。それが適切である場合、その特定のプライマーは適切な量のランダムヘキサマープライマーで置き換えることができる。
【0022】
報告した結果はPhi29 DNAポリメラーゼを用いているが、関連するDNAポリメラーゼ、例えばPhi15 DNAポリメラーゼ(WO 2006/073892)を用いても類似の結果が期待できるであろう。これらの酵素はPhi29型DNAポリメラーゼとして定義されている。そのDNAポリメラーゼは長い増幅産物を産生する特性を有しており、鎖置換活性を有する。これらの特性を有するあらゆるDNAポリメラーゼは開示した方法において用いることができ、この開示内に含まれることを意図する。
【0023】
記述した方法は、環状ウイルスゲノムの研究に適用することもできる。これはそれに関する一部の配列、例えばそのファミリーに関する保存されたモチーフが既知である可能性がある新規DNAウイルスの発見を含むことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Phi29型DNAポリメラーゼおよび一本鎖DNA結合タンパク質を含む、核酸増幅の方法。
【請求項2】
核酸増幅がローリングサークル増幅である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Phi29型DNAポリメラーゼがPhi29 DNAポリメラーゼである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一本鎖DNA結合タンパク質がE.coli、サーマス・サーモフィルスまたはT7から得たものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
核酸がミトコンドリアDNAである、請求項2に記載の方法。

【公表番号】特表2011−520460(P2011−520460A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509994(P2011−509994)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056235
【国際公開番号】WO2009/141430
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(598041463)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション (43)
【住所又は居所原語表記】800 Centennial Avenue, P.O.Box 1327,Piscataway,New Jersey 08855−1327,United States of America
【Fターム(参考)】