説明

一枚膜リポソームを用いた酵素進化法の開発

【課題】分子進化工学(例えば、酵素進化法)におけるスクリーニングの効率を向上させることを、本発明の課題とする。
【解決手段】上記課題は、核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームであって、以下:
(a)プロモーター配列、翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むDNA;
(b)RNAポリメラーゼ;
(c)リボヌクレオチド;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、一枚膜リポソーム、あるいは、核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームであって、以下:
(a)翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むRNA;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、一枚膜リポソームを提供することによって解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子進化工学に利用するための、新規の一枚膜リポソームの分野に関連する。また、本発明は、一枚膜リポソームを用いた、新規の分子進化工学、特に、酵素進化工学に関連する。
【背景技術】
【0002】
酵素を進化工学的に改良する方法として、遺伝子ライブラリーと無細胞蛋白質合成系を封入したリポソームとセルソータを用いた方法が利用されている。この方法では、酵素遺伝子にランダム変異を導入した遺伝子ライブラリーと無細胞蛋白質合成系をリポソームに封入し、内部で酵素を発現させる。そして、セルソータにより、より高機能の酵素を含むリポソームを選択することにより、より高機能の酵素をコードする遺伝子を選択することができる。この選択を繰り返すことによって、酵素をコードする遺伝子を進化させることができる(非特許文献1)。
【0003】
スクリーニング効率を向上させることによって、より少ない作業量で、より高い機能を有する酵素をコードする遺伝子が可能になると予測される。それゆえ、酵素進化法におけるスクリーニング効率の向上が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sunami,T.,Sato,K.,Matsuura,T.,Tsukada,K.,Urabe,I., and Yomo,T.(2006)Analytical biochemistry 357,128−136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分子進化工学(例えば、酵素進化法)におけるスクリーニングの効率を向上させることを、本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下を提供することによって解決された。
(項目1)
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームであって、以下:
(a)プロモーター配列、翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むDNA;
(b)RNAポリメラーゼ;
(c)リボヌクレオチド;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、一枚膜リポソーム。
(項目2)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、項目1に記載の一枚膜リポソーム。
(項目3)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、項目1に記載の一枚膜リポソーム。
(項目4)
核酸分解酵素によって処理された複数の一枚膜リポソームを含むライブラリーであって、該複数の一枚膜リポソームの各々は、以下:
(a)プロモーター配列、翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むDNA;
(b)RNAポリメラーゼ;
(c)リボヌクレオチド;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、ライブラリー。
(項目5)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、項目4に記載のライブラリー。
(項目6)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、項目4に記載のライブラリー。
(項目7)
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームであって、以下:
(a)翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むRNA;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、一枚膜リポソーム。
(項目8)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、項目7に記載の一枚膜リポソーム。
(項目9)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、項目7に記載の一枚膜リポソーム。
(項目10)
核酸分解酵素によって処理された複数の一枚膜リポソームを含むライブラリーであって、該複数の一枚膜リポソームの各々は、以下:
(a)翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むRNA;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、ライブラリー。
(項目11)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、項目10に記載のライブラリー。
(項目12)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、項目10に記載のライブラリー。
(項目13)
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームの製造方法であって、以下:
(1)以下:
(a)プロモーター配列、翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むDNA;
(b)RNAポリメラーゼ;
(c)リボヌクレオチド;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を封入した一枚膜リポソームを調製する工程;ならびに、
(2)工程(1)で調製された一枚膜リポソームを、核酸分解酵素によって処理する工程、
を包含する、方法。
(項目14)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、項目13に記載の方法。
(項目16)
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームの製造方法であって、以下:
(1)以下:
(a)翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むRNA;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を封入した一枚膜リポソームを調製する工程;ならびに、
(2)工程(1)で調製された一枚膜リポソームを、核酸分解酵素によって処理する工程、
を包含する、方法。
(項目17)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、項目16に記載の方法。
(項目19)
一枚膜リポソームのライブラリーを用いたスクリーニング方法であって、以下:
(i)項目4に記載のライブラリーを提供する工程;
(ii)該ライブラリーから、所望の特徴を有する一枚膜リポソームを選択する工程;
(iii)該一枚膜リポソームに含まれるDNAを増幅する工程;および、
(iv)該増幅したDNAを単離する工程、
を包含する方法。
(項目20)
一枚膜リポソームのライブラリーを用いたスクリーニング方法であって、以下:
(i)項目10に記載のライブラリーを提供する工程;
(ii)該ライブラリーから、所望の特徴を有する一枚膜リポソームを選択する工程;
(iii)該一枚膜リポソームに含まれるRNAに逆転写酵素を作用させて、DNAを生成する工程;
(iv)該生成したDNAを増幅する工程;および、
(v)該増幅したDNAを単離する工程、
を包含する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームを用いることによって、スクリーニング効率が向上した。理論に拘束されることは望まないが、本発明が優れた効果を奏する理由としては、以下が挙げられる。
【0008】
従来用いられていたリポソームは、凍結乾燥法により調製された多重膜リポソームであり、内部に多重構造をもつため、反応容器の体積を制御することができなかった。リポソームの体積は内部の酵素反応速度に影響をあたえるため、効率よく酵素を改良するためには、多重構造をもたない一枚膜リポソームを使うことが望ましい。しかし、これまでの方法では、遠心沈降法でつくった一枚膜リポソームを反応容器として用いた場合、セルソーターでより反応したリポソームを選択しても、高い機能をもつ酵素をコードした遺伝子を選択して回収することができなかった。
【0009】
これに対して、本発明では、一枚膜リポソームを核酸分解酵素で処理したところ、従来法において使用されていた多重膜リポソームや、酵素処理をしていない一枚膜リポソームと比較して、より高効率のスクリーニングが可能となり、高機能の酵素をコードした遺伝子を選択して回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】左から順番に、従来法の多重膜リポソーム、核酸分解酵素で処理していない一枚膜リポソーム、RNA分解酵素で処理した一枚膜リポソーム、および、DNA分解酵素で処理した一枚膜リポソームを用いて、より高い活性を有する(すなわち、より強い蛍光を発する)リポソームをスクリーニングした際の選択効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0012】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0013】
(定義)
本明細書において使用する場合、用語「微小区画」とは、脂質層、および、その内部の水層から構成される閉じられた微小な空間をいう。「微小区画」としては、例えば、リポソームが挙げられるがこれに限定されない。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「リポソーム」とは、通常、膜状に集合した脂質層および内部の水層から構成される閉鎖小胞を意味する。代表的に使用されるリン脂質のほか、コレステロール、糖脂質などを組み込ませることも可能である。本発明において、リポソームは、修飾基を付するために、エステル結合を付与する官能基を有する構成単位(例えば、糖脂質、ガングリオシド、ホスファチジルグリセロールなど)またはペプチド結合を付与する官能基を有する構成単位(例えば、ホスファチジルエタノールアミン)を有してもよい。本発明において使用するリポソームは、脂質二重層からなる膜が一枚のみからなる「一枚膜リポソーム」である。一枚膜リポソームの調製法としては、種々の周知の方法が利用可能である。
【0015】
本明細書において使用する場合、用語「プロモーター配列」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。プロモーターは、誘導性であっても、構成的であっても、部位特異的であっても、時期特異的であってもよい。プロモーターとしては、例えば、哺乳動物細胞、大腸菌、酵母などの宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。代表的なプロモーター配列としては、T7プロモーター配列、T5プロモーター配列、Sp6プロモーター配列、および、T3プロモーター配列が挙げられるがこれらに限定されない。
【0016】
本明細書において使用する「RNAポリメラーゼ」は、使用するプロモーター配列に適合する、すなわち、その使用するプロモーターからの転写を行なうRNAポリメラーゼであれば、いかなるRNAポリメラーゼを用いてもよい。好ましくは、プロモーター配列とRNAポリメラーゼとが、同じ、あるいは、近接する生物種に由来する。例えば、原核生物由来のプロモーター配列を使用する場合、使用するRNAポリメラーゼもまた、原核生物由来であることが好ましい。あるいは、バクテリオファージ由来のプロモーター配列を使用する場合、使用するRNAポリメラーゼもまた、同一または類似のバクテリオファージ由来であることが好ましい。
【0017】
本明細書において使用する場合、用語「翻訳開始配列」とは、機能的なリボソーム進入部位を提供できる任意の配列を意味する。バクテリアのシステムにおいては、この領域は、シャイン-ダルガルノ(Shine-Dalgarno)配列ともいわれる。
【0018】
本明細書において使用される用語「無細胞蛋白質合成系」とは、細胞を処理することによって自律複製能を失った細胞由来の成分であって、蛋白質の合成が可能な成分をいう。無細胞蛋白質合成系としては、例えば、市販のPURESYSTEM(登録商標)(バイオコゥマー株式会社 東京都文京区)を利用することも可能である。あるいは、無細胞蛋白質合成系に必要とされる成分を精製および/または組換え発現して、作製することも可能である。
【0019】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0020】
(一枚膜リポソームの製造)
本発明において使用する一枚膜リポソームは、実施例に記載する遠心沈降法を用いて調製することができるが、調製法は、これに限定されない。例えば、遠心沈降法の他にも、静置水和法(P.Mueller and T.F.Chien,Biophys.J.,1983,44,375−381)、および、エレクトロフォーメーション法(Miglena I.Angelove and Dimiter S.Dimitrov,Faraday Discuss.Chem.Soc.,1986,81,303−311)を利用することが可能である。
【0021】
静置水和法は、代表的には、以下の工程を包含する方法である:(1)脂質を溶媒に溶かしフラスコ中で自然乾燥することにより、フラスコ表面に脂質膜を形成させる工程;および、(2)水溶液を添加し、脂質膜を膨潤させる工程。この第2工程によって、脂質膜が水溶液を取り込んだリポソームが浮き上がってくる。
【0022】
エレクトロフォーメーション法は、代表的には、以下の工程を包含する方法である:(1)導電性電極上に脂質溶液を塗布し、乾燥させて脂質フィルムを形成させる工程;(2)絶縁性スペーサーを介した反対側にも導電性電極を設置し、その間を水溶液で満たす工程;および、(3)二つの電極間に電界を印加することにより、脂質膜を電極から剥がして巨大薄膜リポソームを作製する工程。
【0023】
(核酸分解酵素)
本発明において使用する核酸分解酵素としては、例えば、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素が挙げられるがこれらに限定されない。使用する核酸分解酵素の供給源は、特に限定されることはない。核酸分解酵素としてDNaseを使用する場合、使用する酵素活性は、100μLのリポソーム溶液あたり、1U〜20U、より好ましくは、5U〜15U、もっとも好ましくは、約12.5Uである。核酸分解酵素としてRNaseを使用する場合、使用する酵素活性は、100μLのリポソーム溶液あたり、1μg〜20μg、より好ましくは、5μg〜15μg、もっとも好ましくは、約10μgである。当業者は、使用する酵素量を容易に決定することができる。
【0024】
(使用するDNAまたはRNA)
例えば、リポソームに含ませる遺伝情報がDNAである場合、そのDNAに、タンパク質のコード配列、ならびに、このコード配列に作動可能に連結された翻訳調節配列、および、このコード配列に作動可能に連結された転写翻訳調節配列を含ませる。
【0025】
翻訳調節配列としては、例えば、翻訳開始配列が挙げられるがこれらに限定されない。必要に応じて、翻訳終止コドンを含ませてもよい。連結される翻訳調節配列は、使用する無細胞蛋白質合成系と適合することが好ましい。例えば、E.coli由来の無細胞蛋白質合成系を利用する場合、連結される翻訳調節配列は、好ましくは、E.coliの翻訳開始配列である。使用する翻訳調節配列と無細胞蛋白質合成系とは、必ずしも同一種由来である必要はなく、両者が適合可能、すなわち、無細胞蛋白質合成系が翻訳調節配列からの翻訳を開始できる限り、いかなる種由来であってもよい。
【0026】
転写翻訳調節配列としては、例えば、プロモーター配列が挙げられるがこれに限定されない。必要に応じて、エンハンサー配列、サプレッサー配列、オペレーター配列、および、転写終結部位を含んでもよい。連結される転写翻訳調節配列は、使用するRNAポリメラーゼと適合することが好ましい。例えば、E.coli由来のRNAポリメラーゼを利用する場合、連結される転写翻訳調節配列は、好ましくは、E.coliの転写翻訳調節配列である。使用する転写翻訳調節配列とRNAポリメラーゼとは、必ずしも同一種由来である必要はなく、両者が適合可能、すなわち、RNAポリメラーゼが転写翻訳調節配列からの転写を開始(あるいは、制御)できる限り、いかなる種由来であってもよい。
【0027】
例えば、リポソームに含ませる遺伝情報がRNAである場合、そのRNAに、タンパク質のコード配列、および、このコード配列に作動可能に連結された翻訳調節配列を含ませる。翻訳調節配列としては、例えば、翻訳開始配列が挙げられるがこれらに限定されない。必要に応じて、翻訳終止コドンを含ませてもよい。連結される翻訳調節配列は、使用する無細胞蛋白質合成系と適合することが好ましい。例えば、E.coli由来の無細胞蛋白質合成系を利用する場合、連結される翻訳調節配列は、好ましくは、E.coliの翻訳開始配列である。使用する翻訳調節配列と無細胞蛋白質合成系とは、必ずしも同一種由来である必要はなく、両者が適合可能、すなわち、無細胞蛋白質合成系が翻訳調節配列からの翻訳を開始できる限り、いかなる種由来であってもよい。
【0028】
(本発明のリポソームの分子進化工学への応用)
本発明のリポソームを分子進化工学に利用することができる。
【0029】
例えば、核酸分解酵素処理をした一枚膜リポソームを、その内部のDNAまたはRNAがタンパク質産物を生成する条件下にインキュベートし、生成されたタンパク質の活性を測定し、この活性を指標として、高機能性の遺伝情報を含む一枚膜リポソームを選択(スクリーニング)する。利用する活性は、代表的には、一枚膜リポソーム内のDNAまたはRNAがコードするタンパク質の活性である。例えば、一枚膜リポソーム内のDNAまたはRNAがβ−ガラクトシダーゼをコードする場合、利用する活性は、5−クロロメチルフルオレセイン ジ−β−D−ガラクロピラノシド(CMFDG)の分解によって生じる蛍光である。例えば、一枚膜リポソーム内のDNAまたはRNAがGFPをコードする場合、利用する活性は、GFPによる発光である。
【0030】
タンパク質のリン酸化や他の他のタンパク質との結合を検出するためには、例えば、以下の方法を用いる:ターゲットとなるタンパク質の端をFRETを起こすような蛍光色素でラベルする工程;リン酸化や他のタンパク質との結合によってコンフォメーションが変化し、FRETの程度が変化した場合、その蛍光変化を指標として選択する工程。あるいは、GFP遺伝子を例えばT3RNAポリメラーゼプロモーターの下流に配置し、同時にT3RNAポリメラーゼRNAを用いることにより、よりRNA合成活性の高いT3RNAポリメラーゼを得ることも可能である。
【0031】
また、タンパク質のコード配列以外の配列(例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、リボソーム結合配列、翻訳開始部位などの遺伝子発現の制御に関連する配列)に変異を導入し、選択することにより、高い活性(例えば、高いプロモーター活性、エンハンサー活性、翻訳活性など)を有するように配列を進化させることができる。
【0032】
スクリーニングの結果得られた一枚膜リポソームは、その中にDNAないしRNAとして含まれる遺伝情報を単離するために使用される。遺伝情報がDNAである場合、DNAを特異的に増幅するプライマーを用いて、PCRによって遺伝情報を増幅して、単離することができる。あるいは、DNAが、宿主細胞内で自律複製するために必要な配列を含む場合、DNAを適切な宿主細胞に導入して増幅後に単離してもよい。
【0033】
遺伝情報がRNAである場合、(1)逆転写酵素を用いて、RNAをDNAに変換し、その後、耐熱性DNAポリメラーゼ酵素を用いてPCRによってDNAを増幅するか、あるいは、(2)耐熱性逆転写酵素を用いて、一段階で、RNAの遺伝情報を増幅してもよい。RNAが宿主細胞内で自律複製するために必要な配列を含む場合、RNAを適切な宿主細胞に導入して増幅後に単離してもよい。
【0034】
第1ラウンドのスクリーニング後に、必ずしも、遺伝情報を単離(純化)する必要はない。例えば、第1ラウンドのスクリーニングによって、単一クローンのDNAないしRNAを得るのではなく、DNAないしRNAの集団を取得し、その集団を出発材料として、第2ラウンドのスクリーニングを行なってもよい。第2ラウンドのスクリーニングまたはそれ以降のラウンドのスクリーニングによって得られたDNAないしRNAの集団を、次のラウンドのスクリーニングの出発材料としてもよい。
【0035】
あるいは、スクリーニング後に得られたクローン(純化されたクローン)について、変異誘発を行い、異なる複数のクローンを含む集団を作製し、次のラウンドのスクリーニングの出発材料としてもよい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1:一枚膜リポソームの調製)
以下に記載の遠心沈降法により、一枚膜リポソームを調製した。
・10mgの脂質(ホスファチジルコリン:コレステロール=9:1)を100μlクロロホルムに溶解し、2mlの流動パラフィンと混合した。
・80℃で30分インキュベーションした。
・リポソーム外液(333mM グルコース、無細胞蛋白質合成系から翻訳タンパク質群とtRNAを除いたもの)、内液(330mM スクロース、1μM Transferrin Alexa 647、無細胞蛋白質合成系、40U/μl RNaseインヒビター(Promega)、0.4μM リボソームS1サブユニット、50μM 5−クロロメチルフルオレセイン ジ−β−D−ガラクロピラノシド(CMFDG)、50pM 鋳型DNA(pUCMDV(+)(−NH)−β(+)Gal(−)とpUCMDV(+)(−NH)−dS−β(+)Gal(−)の1:1混合物)を調製した。
・脂質を溶解した流動パラフィン400μlにリポソーム内液20μlを入れ、氷上に1分置いた。
・ボルテックスミキサーの最大強度で40秒攪拌しエマルションを調整後、氷上で10分置いた。
・新しいチューブにリポソーム外液150μlをいれ、その上に調製したエマルションを積層し、氷上で10分置いた。
・14k×g、4℃で30分遠心した。
・チューブの底に穴を開け、底に溜まったリポソーム懸濁液80μlを回収した。
・リポソーム懸濁液に2μlの5U/μl DNase、または、4mg/ml RNaseを添加した。
・リポソーム懸濁液を37℃で3時間インキュベーションした。
・希釈液(50mM Hepes−KOH(pH 7.6)、13mM 酢酸マグネシウム、100mM グルタミン酸カリウム)で20倍に希釈し、セルソーター(FACS Aria)にかけた。
・セルソーターにより、より強い蛍光を持つリポソームを選択した。
・選択されたリポソームから反応中に生じたRNAをRNeasy(QIGEN)により精製した。
・得られたRNAを0.2μM プライマー1(配列番号1:GCAAGTGACTCAGGATTCGTACATAATATCGTCTCCGTAAACAGTG)、各1mM dNTPと混合し、65℃で5分熱処理後直ちに氷冷した。
・10U/μl PrimeScript Reverse Transcriptase(TAKARA)、PrimeScript buffer、1U/μl RNaseインヒビター(Promega)を加え、50℃で60分、70℃で15分インキュベーションした。
・反応液を水で5倍希釈した。
・pUCMDV(+)(−NH)−β(+)Gal(−)(配列番号5)を測定する場合には0.4μMのプライマー2(配列番号2:GGTAGTGTTGTTACCTACGAGAAG)およびプライマー3(配列番号3:GCAAGTGACTCAGGATTCGTAC)を用いた。pUCMDV(+)(−NH)−dS−β(+)Gal(−)(配列番号6)を測定する場合には0.4μMのプライマー3(配列番号3:GCAAGTGACTCAGGATTCGTAC)とプライマー4(配列番号4:CCCTCTGTGAGCTCGAGTC)を加え、SYBR Premis Ex TaqIIと混合した。
・SYBR蛍光を指標に定量PCRを行ない、回収されたRNA量を測定した。PCRのサイクルは以下のとおり。95℃10秒の後、(95℃5秒、63℃10秒、72℃15秒)を50サイクル。
【0038】
使用した無細胞蛋白質合成系の組成は、以下のとおりである。
各0.3mM アミノ酸(アラニン、グリシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、セリン、スレオニン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、チロシン)、3.6μg/μl tRNA、2mM ATP、2mM GTP、1mM CTP、1mM UTP、14mM 酢酸マグネシウム、50mM Hepes−KOH (pH7.8)、100mM グルタミン酸カリウム、2mM スペルミジン、20mM クレアチンリン酸、2mM ジチオスレイトール、10ng/μl 10−ホルミル−5.6.7.8.−テトラヒドロ葉酸、翻訳タンパク質群(2500nM IF1、411nM IF2、728nM IF3、247nM RF1、484nM RF2、168nM RF3、485nM RRF、727nM AlaRS、99nM ArgRS、420nM AsnRS、121nM AspRS、100nM CysRS、101nM GlnRS、232nM GluRS、86nM GlyRS、85nM HisRS、365nM IleRS、99nM LeuRS、115nM LysRS、109nM MetRS、134nM PheRS、166nM ProRS、99nM SerRS、84nM ThrRS、102nM TrpRS、101nM TyrRS、100nM ValRS、588nM MTF、926nM MK、465nM CK、1307nM NDK、621nM Ppiase2、1290nM EF−G、2315nM EF−Tu、3300nM EF−Ts、529nM Tig、22nM HrpA、1440nM TrxC)。
【0039】
(実施例2:ライブラリーの作製およびスクリーニングの結果)
活性のある野生型のガラクトシダーゼ遺伝子と活性のない変異型のガラクトシダーゼ遺伝子とを1:1で混合し、実施例1に記載の方法で作製したリポソームに封入した。蛍光を発したリポソームを回収し、リポソーム内のDNAの種類(野生型か変異型か)を決定した。その結果を、図1に示す。
【0040】
野生型のガラクトシダーゼ遺伝子を封入したリポソームは蛍光を発するが、変異型のガラクトシダーゼ遺伝子を封入したリポソームは蛍光を生じない。そのため、蛍光を指標として回収されたリポソーム中、変異型遺伝子を含むリポソームは、スクリーニングおけるノイズである。変異型遺伝子を含むリポソームが多いということは、「選択効率」が低いことを示す。そこで、図1の縦軸を、回収された野生型遺伝子の数を、回収された変異型遺伝子の数で割った商とした(「より活性の高い酵素の選択効率」として表す)。
【0041】
図1の結果は、核酸分解酵素で処理しない一枚膜リポソームを用いた場合、多重膜リポソームを用いた場合よりも選択効率が低かったことを示す。これに対して、核酸分解酵素処理をした一枚膜リポソームを用いた場合は、多重膜リポソームを用いた場合よりも選択効率が高かった。特にRNA分解酵素を用いた場合に、選択効率が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
核酸分解酵素処理をした一枚膜リポソームを用いることによって、より高効率のスクリーニングが可能となり、高機能の酵素をコードした遺伝子を選択して回収することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0043】
配列番号1:プライマー1(逆転写酵素反応用プライマー)
配列番号2:プライマー2(PCR用プライマー)
配列番号3:プライマー3(PCR用プライマー)
配列番号4:プライマー4(PCR用プライマー)
配列番号5:プラスミド pUCMDV(+)(−NH)−β(+)Gal(−)
配列番号6:プラスミド pUCMDV(+)(−NH)−dS−β(+)Gal(−)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームであって、以下:
(a)プロモーター配列、翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むDNA;
(b)RNAポリメラーゼ;
(c)リボヌクレオチド;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、一枚膜リポソーム。
【請求項2】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、請求項1に記載の一枚膜リポソーム。
【請求項3】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、請求項1に記載の一枚膜リポソーム。
【請求項4】
核酸分解酵素によって処理された複数の一枚膜リポソームを含むライブラリーであって、該複数の一枚膜リポソームの各々は、以下:
(a)プロモーター配列、翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むDNA;
(b)RNAポリメラーゼ;
(c)リボヌクレオチド;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、ライブラリー。
【請求項5】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、請求項4に記載のライブラリー。
【請求項6】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、請求項4に記載のライブラリー。
【請求項7】
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームであって、以下:
(a)翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むRNA;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、一枚膜リポソーム。
【請求項8】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、請求項7に記載の一枚膜リポソーム。
【請求項9】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、請求項7に記載の一枚膜リポソーム。
【請求項10】
核酸分解酵素によって処理された複数の一枚膜リポソームを含むライブラリーであって、該複数の一枚膜リポソームの各々は、以下:
(a)翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むRNA;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を含む、ライブラリー。
【請求項11】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、請求項10に記載のライブラリー。
【請求項12】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、請求項10に記載のライブラリー。
【請求項13】
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームの製造方法であって、以下:
(1)以下:
(a)プロモーター配列、翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むDNA;
(b)RNAポリメラーゼ;
(c)リボヌクレオチド;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を封入した一枚膜リポソームを調製する工程;ならびに、
(2)工程(1)で調製された一枚膜リポソームを、核酸分解酵素によって処理する工程、
を包含する、方法。
【請求項14】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
核酸分解酵素によって処理された一枚膜リポソームの製造方法であって、以下:
(1)以下:
(a)翻訳開始配列、および、ポリペプチドコード配列を含むRNA;ならびに、
(d)無細胞蛋白質合成系、
を封入した一枚膜リポソームを調製する工程;ならびに、
(2)工程(1)で調製された一枚膜リポソームを、核酸分解酵素によって処理する工程、
を包含する、方法。
【請求項17】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素、および、DNA分解酵素からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記核酸分解酵素が、RNA分解酵素である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
一枚膜リポソームのライブラリーを用いたスクリーニング方法であって、以下:
(i)請求項4に記載のライブラリーを提供する工程;
(ii)該ライブラリーから、所望の特徴を有する一枚膜リポソームを選択する工程;
(iii)該一枚膜リポソームに含まれるDNAを増幅する工程;および、
(iv)該増幅したDNAを単離する工程、
を包含する方法。
【請求項20】
一枚膜リポソームのライブラリーを用いたスクリーニング方法であって、以下:
(i)請求項10に記載のライブラリーを提供する工程;
(ii)該ライブラリーから、所望の特徴を有する一枚膜リポソームを選択する工程;
(iii)該一枚膜リポソームに含まれるRNAに逆転写酵素を作用させて、DNAを生成する工程;
(iv)該生成したDNAを増幅する工程;および、
(v)該増幅したDNAを単離する工程、
を包含する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−210170(P2012−210170A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76727(P2011−76727)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】