説明

一次進行型多発性硬化症の治療のためのキノン誘導体2,3−ジメトキシ−5−メチル−6−(10−ヒドロキシデシル)−1,4−ベンゾキノン

本発明は、活性薬剤として2,3−ジメトキシ−5−メチル−6−(10−ヒドロキシデシル)−1,4−ベンゾキノン(イデベノン)を用いる、一次進行型多発性硬化症(PP-MS)の治癒的な治療または予防のための医薬およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性薬剤として2,3−ジメトキシ−5−メチル−6−(10−ヒドロキシデシル)−1,4−ベンゾキノン(イデベノン)を用いる、一次進行型多発性硬化症(PP-MS)の治癒的な治療または予防のためのアプローチ、方法、医薬、および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
イデベノンは、生細胞膜の抗酸化物質でありアデノシン三リン酸(ATP)産生性ミトコンドリア電子伝達鎖(ETC)の必須要素であるコエンザイムQ10(CoQ10)の合成低分子アナログである。イデベノンは、低酸素圧状況下でも機能する能力を有している。イデベノンは、脂質の過酸化を阻害することで、細胞膜およびミトコンドリアを酸化的損傷から保護する(Zs.-Nagy I (1990) Chemistry, toxicology, pharmacology and pharmacokinetics of idebenone: a review. Arch. Gerontol. Geriatr. 11: 177-186(非特許文献1))。その抗酸化能は、中枢神経系において脳虚血および神経損傷に対する保護を与える。より重要なのは、イデベノンはETCとも相互作用し、虚血状況下でATP形成を維持することである。この化合物はすでに向知性薬として使用されており、かつ、神経成長因子を刺激するという、アルツハイマー病およびその他の神経変性疾患の治療に重要であり得る特性も示されている。イデベノンは、武田薬品工業株式会社により出願された特公昭62-3134号明細書に記載されている。さらに、イデベノンが鉄過剰症、特にフリードライヒ失調症に関連する疾患の治療に適用できることも示されている(米国特許第6,133,322号(特許文献1))。
【0003】
イデベノンは、親油性化合物であり、従来通りの経口投与により胃腸管でよく吸収されるため、これがこの化合物の一般的な投与経路となっている。錠剤またはカプセル剤等の剤形が臨床試験において使用され、市販品でも用いられている。WO2008/019769(特許文献2)には、従来法により投与されたイデベノンの薬理学的プロフィールが記載されており、同著者はイデベノンを経粘膜製剤で使用することを示唆している。
【0004】
多発性硬化症(MS)は、ミエリン、乏突起膠細胞、軸索、および神経細胞を破壊する中枢神経系(CNS)の炎症性・脱髄性障害である(Noseworthy, J. H., C. Lucchinetti, et al. (2000). Multiple sclerosis. N Engl J Med 343(13): 938-52(非特許文献2))。新たに診断されたMS患者の大部分はこの疾患の再発寛解型(RR-MS)を発症しており、少なくともその疾患プロセスの初期段階において、神経学的増悪期の後に自然寛解期がある。患者の約10〜15%は、重ねて起こる(superimposed)再増悪化(すなわち再発)や改善(寛解)がみられなることなく疾患発症時から神経学的能力障害が持続的に蓄積していくことにより特徴付けられる、一次進行型MS(PP-MS)を発症する(Miller, D. H., S. M. Leary (2007). Primary progressive multiple sclerosis. Lancet Neurol 6(10): 903-12(非特許文献3))。
【0005】
一次進行型MS(PP-MS)患者は、いくつかの重要な点でRR-MS患者と相違する:疾患発症時に高齢である傾向があり(平均40歳対平均30歳);男女等しく発症する傾向があり;臨床的には、衰弱の進行および痙縮により特徴付けられる皮質脊髄機能障害の有病率が高く;患者は顕著な脊髄病変を伴い(Bieniek, M., D. R. Altmann, et al. (2006). Cord atrophy separates early primary progressive and relapsing remitting multiple sclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 77(9): 1036-9(非特許文献4))、概ね脳内に明白な白質病巣(すなわちプラーク)が少なく、かつ脳の炎症活性の痕跡が少なく(Lucchinetti, C. and W. Bruck (2004). The pathology of primary progressive multiple sclerosis. Mult Scler 10 Suppl 1: S23-30(非特許文献5))、そして、これが最も重要なことであるが、PP-MS患者はRR-MSに有効であることが実証されている免疫調節療法に応答しない(Leary, S. M. and A. J. Thompson (2005). Primary progressive multiple sclerosis: current and future treatment options. CNS Drugs 19(5): 369-76(非特許文献6))。
【0006】
新しい画像診断法および病理学的データはどちらも、PP-MSにおけるCNSの病変はびまん性が高く(Filippi, M., M. A. Rocca, et al. (2002). Correlations between structural CNS damage and functional MRI changes in primary progressive MS. Neuroimage 15(3): 537-46(非特許文献7); Rovaris, M., E. Judica, et al. (2008). Large-scale, multicentre, quantitative MRI study of brain and cord damage in primary progressive multiple sclerosis. Mult Scler. 14(4): 455-64(非特許文献8))、巣状病変にある程度非依存的に発生する(Sastre-Garriga, J., G. T. Ingle, et al. (2004). Grey and white matter atrophy in early clinical stages of primary progressive multiple sclerosis. Neuroimage 22(1): 353-9(非特許文献9); Kutzelnigg, A., C. F. Lucchinetti, et al. (2005). Cortical demyelination and diffuse white matter injury in multiple sclerosis. Brain 128(Pt 11): 2705-12(非特許文献10); Rovaris, M., A. Gallo, et al. (2005). Axonal injury and overall tissue loss are not related in primary progressive multiple sclerosis. Arch Neurol 62(6): 898-902(非特許文献11))ことを示唆している。頚髄は、PP-MSにおける疾患プロセスの主要な標的であり、これが大部分の臨床的能力障害の原因となっている。PP-MSにおけるびまん性のCNSプロセスは、白質におけるミクログリア活性化およびびまん性軸索損傷、ならびに灰白質における皮質脱髄および神経細胞脱落により特徴付けられる。さらに、低レベルであるが持続的である内皮の異常および血液脳関門(BBB)の漏出が、正常に見える(normal appearing)白質および灰白質の両方において観察されている。
【0007】
現時点で、PP-MSに対する治療効果が実証されている治療法は存在しない(Leary, S. M. and A. J. Thompson (2005). Primary progressive multiple sclerosis: current and future treatment options. CNS Drugs 19(5): 369-76(非特許文献6))。インターフェロンβ製剤(Leary, S. M., D. H. Miller, et al. (2003). Interferon beta-1a in primary progressive MS: an exploratory, randomized, controlled trial. Neurology 60(1): 44-51(非特許文献12); Montalban, X. (2004). Overview of European pilot study of interferon beta-1b in primary progressive multiple sclerosis. Mult Scler 10 Suppl 1: S62; discussion 62-4(非特許文献13))もグラチラマーアセテート(Wolinsky, J. S., P. A. Narayama, et al. (2007). Glatiramer acetate in primary progressive multiple sclerosis: results of a multinational, multicenter, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Neurol 61(1): 14-24(非特許文献14))もPP-MSにおける能力障害の蓄積を鈍化させることはできなかった。PP-MSに対するミトキサントロンの第II相試験がいくつか開始されたが、前向きな結果が報告されたものはなかった。最近報告された、PP-MSに対するリツキシマブの大規模な多施設、プラセボ対照形式の第II相試験もまた、当該患者集団にける能力障害の蓄積に対する効果を実証するに至らなかった(http://www.nationalmssociety.org/news/news-detail/index.aspx?nid=221(非特許文献15)を参照のこと)。
【0008】
これらのデータは、合わせて見ると、免疫系を標的とする、特にGd増強MS病変の形成を標的とする治療はPP-MSに対して有益な効果を示さないことを表している。PP-MSの病態生理は免疫介在性のCNS組織破壊メカニズムよりも神経変性性のメカニズムに対する依存度が高いのではないかという仮説の見直しに沿うように、神経保護剤リルゾールのパイロット試験はPP-MS群における頚髄萎縮の進展を阻止する上で小さな効果を示した(Kalkers, N. F., F. Barkhof, et al. (2002). The effect of the neuroprotective agent riluzole on MRI parameters in primary progressive multiple sclerosis: a pilot study. Mult Scler 8(6): 532-3(非特許文献16))。しかし、これも統計学的有意性には到達しなかった。PP-MSとは臨床的に区別されている慢性進行型MSに罹患した患者を対象とした別の研究(A. Bosco, G. Cazzato, et al., Nuova Rivista di Neurologia, 7(1997), 90-94(非特許文献17))では、イデベノンが(90mg/日の用量で)メチルプレドニゾロンと組み合わせて240日間投与されたが、臨床的効果も神経生理学的効果も示さなかった。
【0009】
したがって、当技術分野では、一次進行型多発性硬化症に関連するいくつか症状を治療および/または予防するためのさらなる手段を提供することが強く求められている。
【0010】
この目的は、一次進行型多発性硬化症の治癒的な治療または予防のための医薬を製造するためにイデベノンを提供することによって果たされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,133,322号
【特許文献2】WO2008/019769
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Zs.-Nagy I (1990) Chemistry, toxicology, pharmacology and pharmacokinetics of idebenone: a review. Arch. Gerontol. Geriatr. 11: 177-186
【非特許文献2】Noseworthy, J. H., C. Lucchinetti, et al. (2000). Multiple sclerosis. N Engl J Med 343(13): 938-52
【非特許文献3】Miller, D. H., S. M. Leary (2007). Primary progressive multiple sclerosis. Lancet Neurol 6(10): 903-12
【非特許文献4】Bieniek, M., D. R. Altmann, et al. (2006). Cord atrophy separates early primary progressive and relapsing remitting multiple sclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 77(9): 1036-9
【非特許文献5】Lucchinetti, C. and W. Bruck (2004). The pathology of primary progressive multiple sclerosis. Mult Scler 10 Suppl 1: S23-30
【非特許文献6】Leary, S. M. and A. J. Thompson (2005). Primary progressive multiple sclerosis: current and future treatment options. CNS Drugs 19(5): 369-76
【非特許文献7】Filippi, M., M. A. Rocca, et al. (2002). Correlations between structural CNS damage and functional MRI changes in primary progressive MS. Neuroimage 15(3): 537-46
【非特許文献8】Rovaris, M., E. Judica, et al. (2008). Large-scale, multicentre, quantitative MRI study of brain and cord damage in primary progressive multiple sclerosis. Mult Scler. 14(4): 455-64
【非特許文献9】Sastre-Garriga, J., G. T. Ingle, et al. (2004). Grey and white matter atrophy in early clinical stages of primary progressive multiple sclerosis. Neuroimage 22(1): 353-9
【非特許文献10】Kutzelnigg, A., C. F. Lucchinetti, et al. (2005). Cortical demyelination and diffuse white matter injury in multiple sclerosis. Brain 128(Pt 11): 2705-12
【非特許文献11】Rovaris, M., A. Gallo, et al. (2005). Axonal injury and overall tissue loss are not related in primary progressive multiple sclerosis. Arch Neurol 62(6): 898-902
【非特許文献12】Leary, S. M., D. H. Miller, et al. (2003). Interferon beta-1a in primary progressive MS: an exploratory, randomized, controlled trial. Neurology 60(1): 44-51
【非特許文献13】Montalban, X. (2004). Overview of European pilot study of interferon beta-1b in primary progressive multiple sclerosis. Mult Scler 10 Suppl 1: S62; discussion 62-4
【非特許文献14】Wolinsky, J. S., P. A. Narayama, et al. (2007). Glatiramer acetate in primary progressive multiple sclerosis: results of a multinational, multicenter, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Neurol 61(1): 14-24
【非特許文献15】http://www.nationalmssociety.org/news/news-detail/index.aspx?nid=221
【非特許文献16】Kalkers, N. F., F. Barkhof, et al. (2002). The effect of the neuroprotective agent riluzole on MRI parameters in primary progressive multiple sclerosis: a pilot study. Mult Scler 8(6): 532-3
【非特許文献17】A. Bosco, G. Cazzato, et al., Nuova Rivista di Neurologia, 7(1997), 90-94
【発明の概要】
【0013】
発明の説明
具体的には、本発明は、PP-MS患者に対するイデベノン(2,3−ジメトキシ−5−メチル−6−(10−ヒドロキシデシル)−1,4−ベンゾキノン)の投与に関する。
【0014】
本願以前、イデベノンは、フリードライヒ失調症に関連する肥大型心筋症(FRDA;US 6'133'322; Rustin, 1999)、またはDMD、BMD、およびXLDCM患者における拡張型心筋症(WO2006/100017)の治療に使用できることが報告されていたにすぎず、したがってこれは驚くべきことである。PP-MSの治療におけるイデベノンの使用はこれまで企図されていなかった。
【0015】
多くの医薬が承認されそれが日常の臨床現場で使用されているRR-MSの場合と異なり、PP-MSの経過を改善できることが証明された治療法はこれまでなく、したがってPP-MSは医療ニーズの高い重病の一つとなっていた。
【0016】
本発明のイデベノンは、驚くべきことに、新しい効果的かつ安全なPP-MS治療を提供する。本発明によれば、イデベノンは、PP-MSの症状を軽減し、PP-MS患者における神経変性および/またはCNS組織破壊を軽減、遅延、治癒、予防、および/または阻止する。さらに、本発明によれば、イデベノンは、豊富な安全性および忍容性データに基づく治療法である。
【0017】
本発明の第一の局面は、PP-MSを治療または予防するための医薬の製造のためのイデベノンの使用に関する。
【0018】
この局面では、十分量のイデベノンを投与することによりPP-MSを治療または予防する方法も企図されている。疾患、例えばPP-MSを「治療する」または疾患の「治療」は、その疾患の治癒的な治療、その疾患の一つもしくはそれ以上の症状の治療、その疾患に関連する一つもしくはそれ以上の機能異常または一つもしくはそれ以上の破壊の治癒的な治療、またはその疾患に関連する症状もしくは疼痛の除去もしくは軽減を包含する。PP-MSにおける「治療する」または「治療」は、好ましくは、神経変性および/またはCNS組織破壊の治癒的な治療、軽減、または除去を指す。
【0019】
疾患、例えばPP-MSを「予防する」または疾患の「予防」は、その疾患の遅延、発症の遅延もしくは阻止、その疾患に関連する一つもしくはそれ以上の症状、一つもしくはそれ以上の機能異常または一つもしくはそれ以上の破壊の遅延、発症の遅延もしくは阻止、またはその疾患に関連する症状もしくは疼痛の阻止を包含する。PP-MSにおける「予防する」または「予防」は、好ましくは、患者における神経変性またはCNS組織破壊の予防または阻止を指す。
【0020】
好ましい態様において、イデベノンは、5mg/kg体重/日〜60mg/kg/日、より好ましくは10mg/kg/日〜60mg/kg/日、最も好ましくは30mg/kg/日〜50mg/kg/日の用量で経口投与される。好ましい経口投与用量は、450mg/日〜2250mg/日、より好ましくは900mg/日〜2250mg/日の用量である。一つの態様において、イデベノンの経口投与は錠剤の形態で行われる。
【0021】
本発明の他の態様において、イデベノンの投与形式は、経口、i.p.、i.v.、i.m.、i.c.、非経口、経鼻、経粘膜、舌下、および経皮から選択される。
【0022】
好ましい態様において、イデベノンは、経粘膜投与を通じて投与される。好ましい経粘膜投与用量は、0.01mg/kg/日〜60mg/kg/日、より好ましくは0.01mg/kg/日〜20mg/kg/日の範囲である。一つの態様において、イデベノンの経粘膜投与は、坐剤、ドロップ剤、チューインガム剤、速溶錠、または噴霧剤の形態で行われる。
【0023】
さらなる態様において、イデベノンは、疾患発症以降少なくとも3ヶ月にわたって、好ましくは少なくとも6ヶ月にわたって、より好ましくは約6〜約12ヶ月の間、最も好ましくは生涯にわたって、一日一回またはそれ以上投与される。
【0024】
別の態様において、イデベノンは、第二の治療剤と組み合わせて投与される。イデベノンは、第二の治療剤と同時に、連続して、またはそれより前に投与され得る。イデベノンはまた、第二の治療剤と同一または異なるタイムスケジュールで投与され得る。イデベノンはまた、第二の治療剤と同一または異なる投与経路で投与され得る。好ましくは、イデベノンは経口または経粘膜投与され、かつ第二の治療剤は経口またはi.v.、i.p.、i.m.、i.c.投与される。
【0025】
第二の治療剤は、メチルプレドニゾロン、コルチコステロイド、インターフェロン、グラチラマーアセテート、ミトキサントロン、リツキシマブ、ダクリズマブ、およびナタリズマブから選択され得る。
【0026】
好ましくは、第二の治療剤は、メチルプレドニゾロンおよびリツキシマブから選択される。
【0027】
より好ましくは、イデベノンは、臨床試験において実行された治療計画にある通り、メチルプレドニゾロンと一緒には投与されない(A. Bosco, G. Cazzato, et al., Nuova Rivista di Neurologia, 7(1997), 90-94)。さらにより好ましくは、200mg/日未満のイデベノンの経口投与は、メチルプレドニゾロンのi.v.投与と一緒には行われない。さらにより好ましくは、100mg/日未満のイデベノンの経口投与は、メチルプレドニゾロンのi.v.投与と一緒には行われない。
【0028】
本発明の第二の局面において、キット、薬剤の組み合わせ、または薬学的組成物などの薬学的製造物が提供される。
【0029】
一つの態様において、(a)イデベノンと(b)メチルプレドニゾロン、コルチコステロイド、インターフェロン、グラチラマーアセテート、ミトキサントロン、リツキシマブ、ダクリズマブ、またはナタリズマブから選択される薬剤とを含むキットが企図される。
【0030】
別の態様において、(a)イデベノンと(b)メチルプレドニゾロン、コルチコステロイド、インターフェロン、グラチラマーアセテート、ミトキサントロン、リツキシマブ、またはナタリズマブとの組み合わせが提供される。
【0031】
さらに別の態様において、(a)イデベノンと(b)メチルプレドニゾロン、コルチコステロイド、インターフェロン、グラチラマーアセテート、ミトキサントロン、リツキシマブ、ダクリズマブ、またはナタリズマブとを共に含む薬学的組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】PP-MS臨床試験デザインにおけるイデベノン:1年間の治療前ベースライン期間の後、プラセボとイデベノンとに1:1で無作為割付し、750mg tid(一日用量2250mg)を2年間与えた。すべての評価項目を、示されているように6〜12ヶ月毎に収集した。
【図2】PP-MSにおけるCNS組織破壊の個別進展率に応じて調節した有効性評価:(A)本試験は3つの仮定に基づくものであり、これらはいずれも文献(Ingle, G.T., V.L. Stevenson, et al. (2003). Primary progressive multiple sclerosis: a 5-year clinical and MR study. Brain 126(Pt 11): 2528-36)によって支持されている。1.CNS組織破壊の勾配はPP-MS患者の大部分において直線的である。したがって、各バイオマーカーについてベースライン期間の間に2、3の時点で収集を行えば、CNS組織破壊の個別勾配を推定することができる。2.CNS組織破壊の勾配は個々のPP-MS患者で異なる。3.横断的データ(すなわち、バイオマーカーの単一、最初の測定値)はCNS組織破壊の勾配/変化率を予測するものではない。(B)本試験および提案される分析は、統計検出力を高めるために上記の仮定を使用する。各患者について、6ヶ月毎に測定されたバイオマーカーの曲線下面積(AUC)を算出し、ベースライン期間のAUCを治療2年目のAUCと比較することでこれらの2つの測定値の差異を計算する。次いでこれらの個別の差異を能動的治療群とプラセボ治療群との間でグループレベルで比較する。12ヶ月毎に収集されたバイオマーカーについても、同様の手法で、ベースラインの2時点(-1年目および0年目)の平均値を治療期間の2時点(1年目および2年目)の平均値と比較する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
イデベノン
イデベノンは、生細胞膜の抗酸化物質でありアデノシン三リン酸(ATP)産生性ミトコンドリア電子伝達鎖(ETC)の必須要素であるコエンザイムQ10(CoQ10)の合成アナログである。イデベノンは、低酸素圧状況下でも機能する能力を有している。イデベノンは、脂質の過酸化を阻害することで、細胞膜およびミトコンドリアを酸化的損傷から保護する(Zs.-Nagy I (1990) Chemistry, toxicology, pharmacology and pharmacokinetics of idebenone: a review. Arch. Gerontol. Geriatr. 11: 177-186)。その抗酸化能は、中枢神経系において脳虚血および神経損傷に対する保護を与える。イデベノンはETCとも相互作用し、虚血状況下でATP形成を維持する。この化合物はすでに向知性薬として使用されており、かつ、神経成長因子を刺激するという、アルツハイマー病およびその他の神経変性疾患の治療に重要であり得る特性も示されている。イデベノンは、武田薬品工業株式会社により出願された特公昭62-3134号明細書に記載されている。
【0034】
イデベノンは以下の式を有する:

式1:2,3−ジメトキシ−5−メチル−6−(10−ヒドロキシデシル)−1,4−ベンゾキノン、イデベノン。
【0035】
イデベノンは安全かつ高い忍容性があり、このことはイデベノンを医薬における薬学的活性薬剤として使用できることを意味している。
【0036】
一つの態様において、本発明のイデベノンは結晶状であるか、粉末状であるか、ゼラチンカプセル内に入れられるか、錠剤として調製されるか、チュアブル錠として調製されるか、液剤に調製されるか、または口腔粘膜、経粘膜、もしくは舌下製剤に調製される。
【0037】
イデベノンの投与形式
イデベノンの好ましい投与形式は、経口、i.p.、i.v.、i.m.、i.c.、非経口、経鼻、経皮、および経粘膜であり、経口および経粘膜投与が最も好ましい投与形式である。
【0038】
本発明の一つの態様において、イデベノンは、450mg/日〜2250mg/日、より好ましくは900mg/日〜2250mg/日の範囲の一日用量で経口投与される。一つの態様において、イデベノンは、患者の体重1kgあたりの一日用量5mg/kg/日〜60mg/kg体重/日、より好ましくは10mg/kg体重/日〜60mg/kg体重/日の用量範囲、最も好ましくは30mg/kg/日〜50mg/kg/日の用量範囲で経口投与される。一つの態様において、経口投与は錠剤の形態で行われる。
【0039】
本発明の別の態様において、イデベノンは経粘膜経路を通じて投与される。経粘膜投与の好ましい用量は、0.01mg/kg/日〜60mg/kg/日、より好ましくは0.01mg/kg/日〜20mg/kg/日の範囲である。一つの態様において、イデベノンの経粘膜投与は坐剤、ドロップ剤、チューインガム剤、速溶錠、または噴霧剤の形態で行われる。
【0040】
別の態様において、イデベノンは、疾患発症以降少なくとも1週間にわたって、好ましくは少なくとも3週間にわたって、好ましくは少なくとも1ヶ月にわたって、好ましくは少なくとも2ヶ月にわたって、好ましくは少なくとも3ヶ月にわたって、好ましくは少なくとも6ヶ月にわたって、好ましくは約6〜約12ヶ月の間、最も好ましくは生涯にわたって、一日一回またはそれ以上投与される。
【0041】
哺乳動物、特にヒトに有効量のイデベノンを提供するために、イデベノンの任意の適当な投与経路が使用されてよい。さらなる投与形式には、直腸、局所、眼内、肺内、または鼻腔内投与が含まれる。剤形には、例えば、錠剤、トローチ剤、分散剤、懸濁剤、液剤、カプセル剤、クリーム剤、軟膏剤、およびエアゾール剤が含まれ、錠剤または速溶錠が最も好ましい。
【0042】
使用する活性成分の有効量は、使用する具体的な化合物、投与形式、治療対象となる状態および治療対象となる状態の重篤度に依存して変更してよい。本明細書では好ましい用量について上述されているが、そのような用量は当業者にとって容易に確認できるものである。本発明の文脈で使用されるイデベノンは、好ましくは投与前に何らかの剤形に調製される。したがって、イデベノンまたはその変形は、任意の適当な薬学的担体と組み合わされ得る。本発明に従って使用される薬学的製剤は周知かつ容易に入手可能な材料を用いて常法により製造され得る。製剤の製造時、イデベノンは通常担体と混合されるかもしくは担体により希釈されるか、または担体で包み込まれる(この場合、担体はカプセル、カシェ、紙、または他の入れ物であり得る)。担体が希釈剤である場合、それは固体状、半固体状、または液体状の物質であり、それは活性成分の媒体、賦形剤、または媒質ともなる。この組成物は、錠剤、丸剤、散剤、舐剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアゾール剤(固体状または液体媒質中)、軟および硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌注射液剤、滅菌包装散剤、坐剤、ドロップ剤、チューインガム剤、速溶錠、または噴霧剤の形態であり得る。
【0043】
適当な担体、賦形剤および希釈剤のいくつかの例として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水シロップ(water syrup)、メチルセルロース、メチルおよびプロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ならびに鉱油が挙げられる。製剤はさらに、滑沢剤、湿潤剤、乳化・懸濁剤、保存剤、甘味剤、および/または香味剤を含み得る。本発明の組成物は、患者への投与後に活性成分の速放、徐放、または遅延放出を提供するよう調製され得る。
【0044】
イデベノンは、賦形剤、増量剤、溶媒、希釈剤、染料、および/または結合剤と組み合わされ得る。使用する補助物質およびその量の選択はその医薬が経口投与されるのか、経粘膜投与されるのか、静脈内投与されるのか、腹腔内投与されるのか、皮内投与されるのか、筋内投与されるのか、経鼻投与されるのか、口腔内投与されるのか、または局所投与されるのかに依存する。経口適用に適した製剤は、錠剤、糖衣丸剤、カプセル剤、顆粒散剤、ドロップ剤、ジュース剤、およびシロップ剤の形態であり、非経口、局所、および吸入適用に適した形態は、液剤、懸濁剤、再構成が簡単な乾燥製剤および噴霧剤である。イデベノンは、徐放物質に添加して、溶解させた形態で、または貼付剤に添加して(必要に応じて皮膚への浸透を促進する薬剤が追加される)投与され得、これらは経皮適用製剤として適している。経口的または経皮的に使用できる製剤の形態では、当該化合物を遅延放出させる場合がある。イデベノン製剤は、例えば、武田薬品工業株式会社のいくつかの特許、例えばWO9907355および特開平11-116470号に記載されている。他の好ましいイデベノン製剤、特に経粘膜製剤は、WO2008/019769に記載されている。
【0045】
本発明に従って使用するのに好ましい経口製剤は、ラクトース一水和物、微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウムポビドン、ステアリン酸マグネシウム、二酸化ケイ素を含有するフィルムコート錠に150mgのイデベノンを含む。
【0046】
さらに好ましい態様において、イデベノンは第二の治療剤と組みわせて投与され得る。第二の治療剤は、好ましくはメチルプレドニゾロン、一つもしくはそれ以上のコルチコステロイド、一つもしくはそれ以上のインターフェロン、例えばインターフェロンβ−1a(商品名Avonex、CinnoVex、ReciGen、およびRebif)もしくはインターフェロンβ−1bの一つ(米国における商品名Betaseron、欧州および日本におけるBetaferon)、グラチラマーアセテート(Copaxone)、ミトキサントロン、リツキシマブ、ダクリズマブ、またはナタリズマブから選択される。
【0047】
イデベノンおよび追加の活性薬剤は、疾患の症状を治療または予防するため、同時に、別々にまたは連続して使用され得る。2つの活性薬剤は単一の剤形としてまたは各々が2つの活性薬剤のうちの少なくとも一方を含有する別々の製剤として提供され得る。2つの活性薬剤の一方または両方をボーラス用に調製してもよい。
【実施例】
【0048】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。
【0049】
実施例1:PP-MSに対するイデベノンの有効性を評価するための臨床試験デザインの全体像
いかなる理論にも拘束されるものではないが、イデベノンは、酸化ストレスを軽減しミトコンドリアの呼吸鎖機能を改善することによって、PP-MS患者において治療効果を発揮する。PP-MSに対するイデベノンの有効性は適応型治験デザイン(adaptive trial design)を用いる臨床試験により決定することができる。この試験デザインは、12ヶ月間の治療前ベースライン期間から始まり、この間に磁気共鳴画像(MRI)測定、臨床測定、およびバイオマーカー測定が行われ、その後に24ヶ月間の無作為二重盲検プラセボ対照期間が設けられ、この間にイデベノンの有効性がプラセボと比較される。
【0050】
本試験デザインは以下のようなものである:
(1)無作為割付前に未治療のPP-MS患者における定量MRI、臨床、および電気生理学的な縦断的データを得ること。これらを最も感度の高い主要評価項目の選択に使用する。
(2)収集した評価項目すべてについて患者特異的な無作為割付前ベースラインを得ること。これによって、連続性のある評価項目を用いる無作為割付試験の統計検出力が向上することが期待される(Murray, G. D., D. Barer, et al. (2005). Design and analysis of phase III trials with ordered outcome scales: the concept of the sliding dichotomy. J Neurotrauma 22(5): 511-7: Young, F. B., K. R. Lees, et al. (2005). Improving trial power through use of prognosis-adjusted end points. Stroke 36(3): 597-601; Frost, C., M. G. Kenward, et al. (2008). Optimizing the design of clinical trials where the outcome is a rate. Can estimating a baseline rate in a run-in period increase efficiency? Stat Med 27(19): 3717-31)。類似の、しかしおそらく感度の低いCNS組織破壊のバイオマーカー(例えば、1.5T MRIで収集される脳室萎縮、断層頚髄萎縮を用いる報告されている縦断的試験(Ingle, G. T., V. L. Stevenson, et al. (2003). Primary progressive multiple sclerosis: a 5-year clinical and MR study. Brain 126(Pt 11): 2528-36)に基づき、2つの仮定がなされる(図2A):(i)CNS組織の破壊は、大部分のPP-MS患者において、3〜5年の時間枠の中で直線的な様式で進展すること、および(ii)CNS組織破壊の直線的進展の勾配は個々の患者ごとに異なること。これらの2つの仮定の下、本試験デザインはCNS組織破壊の個別進展率に基づく調整を許容し(図2B)、それがプラセボ群とイデベノン治療群との間の治療に関連する差異を検出する力を高めるものと期待される(Murray, G. D., D. Barer, et al. (2005). Design and analysis of phase III trials with ordered outcome scales: the concept of the sliding dichotomy. J Neurotrauma 22(5): 511-7: Young, F. B., K. R. Lees, et al. (2005). Improving trial power through use of prognosis-adjusted end points. Stroke 36(3): 597-601; Frost, C., M. G. Kenward, et al. (2008). Optimizing the design of clinical trials where the outcome is a rate. Can estimating a baseline rate in a run-in period increase efficiency? Stat Med 27(19): 3717-31))。
【0051】
本試験の無作為割付部では、2250mg/日(5x150mg錠を1日3回)の用量のイデベノンをプラセボと比較する。
【0052】
PP-MSは通常40代前半/後半で診断されるので、あらゆる治療効果を高感度で検出するため、本試験における患者の上限年齢を55歳に設定する。この年齢制限は、CNS萎縮の進展に対する加齢の影響を最小限に抑え、かつ加齢がCNSの修復機構を制限しないことを確実にする。
【0053】
実施例2:PP-MSに対するイデベノンの有効性を評価するための臨床試験
患者:
本試験集団は、PP-MSが臨床的に明確で、正常(none)から比較的高度障害(moderately severe)までの範囲(EDSS 0〜7、上下限値含む)の能力障害を有する18歳から55歳まで(上下限年齢を含む)の66人の患者(一部門33人)からなる。子供が排除された理由は、子供に対してはPP-MSの診断が実質的になされないからであり、参加者の年齢を55歳に制限した理由は、再髄鞘形成および修復戦略が高齢患者では有効ではない可能性があるからである。
【0054】
参加基準:
1.2005年改訂版のMcDonaldの診断基準(Polman, C. H., S. C. Reingold, et al. (2005). Diagnostic criteria for multiple sclerosis: 2005 revisions to the "McDonald Criteria". Ann Neurol 58(6): 840-846)によりPP-MSと診断されること。
2.年齢が18〜55歳であること(上下限年齢を含む)。
3.神経学的能力障害のEDSS判定が1(能力障害なし、臨床症状のみ)〜7(両側補助具により歩行可能)であること(Kurtzke, J. F. (1983). Rating neurologic impairment in multiple sclerosis: an expanded disability status scale (EDSS). Neurology 33(11): 1444-52)。
4.インフォームドコンセントを提供できること。
5.試験デザインおよびフォローアップのすべての局面に参加を希望すること。
6.本試験に参加する前少なくとも3ヶ月の期間、いかなる免疫調節/免疫抑制治療も受けていないこと。
【0055】
除外基準:
1.神経学的能力障害およびMRIの所見を説明し得る別の診断がなされたこと。
2.CNS組織の損傷を引き起こすかもしくはその修復を制限する可能性のある、または被害を与える過度の危険に患者をさらすもしくは患者が本試験を完遂するのを妨げるおそれのある、臨床的に有意な医学的障害があると調査者が判断した場合。
3.異常なスクリーニング/ベースライン血液試験。
4.何らかの免疫抑制治療(細胞増殖抑制薬を含む)を受けている患者。これらの薬物が神経変性に寄与するまたはCNS修復を制限するおそれのあるため。
【0056】
試験の実施:
概要
最大80人と見積もられる現在のサンプルサイズに基づき、PP-MS患者をスクリーニングし、本試験の治療段階を完遂できるであろう患者少なくとも66人を得る。患者は能動的治療(イデベノン750mg po tid;一日用量2250mg、150mg量の錠剤を投与)またはプラセボのいずれかを受けるよう1:1に無作為割付される。本試験の治療段階の前に、1年間の治療前ベースライン期間を設ける。この期間は2つの目的を果たす:(i)CNS組織損傷のバイオマーカーについての個別のデータを収集すること、および(ii)これらの縦断的データを主要評価項目の選択およびより正確なサンプルサイズの見積もりのために使用すること。
【0057】
ベースライン期間の間の12ヶ月間(44週間)、すべての適性患者を対象に、神経学的評価、神経画像評価、および調査バイオマーカー/免疫学的評価の組み合わせを行う。完全な評価には、44週間の間に合計6回の来院が必要となる。
【0058】
12ヶ月間のベースライン期間を完遂した患者は、単一の条件:年齢(50歳未満および50歳以上)を用いる層別ブロック化により能動的治療またはプラセボに無作為割付される。疫学的データは年齢がCNS修復効果の主要な決定因子であることを示しているので、この無作為割付方針により、プラセボ群およびイデベノン治療群の双方がこの点で均等となるようにする。
【0059】
無作為割付後、患者は、さらに24ヶ月間の神経学的評価、神経画像評価、および調査バイオマーカー/免疫学的評価の組み合わせにより、9回の来院を通じて追跡調査される。
【0060】
有効性評価:
(A)6ヶ月毎に行う臨床および機能評価
1.総合的な神経学的評価
2.神経症状評価尺度(Expanded Disability Status Scale; EDSS)
3.スクリプス神経症状評価尺度(Scripps Neurological Rating Scale; NRS)(Sharrack, B. and R. A. Hughes (1996). Clinical scales for multiple sclerosis. J Neurol Sci 135(1): 1-9)
4.MS機能評価尺度(MS Functional Composite Scale; MSFC)(Cutter, G. R., M. L. Baier, et al. (1999). Development of a multiple sclerosis functional composite as a clinical trial outcome measure. Brain 122 (Pt 5): 871-82)、これは以下の3つの機能検査から構成されている:
a.定速聴覚連続付加検査(Paced Auditory Single Digit Addition Test; PASAT)−認知能力の測定
b.25フィート歩行時間検査(Timed 25 foot walk)−歩行運動の測定
c.9穴ペグ検査(9-hole peg test)−指移動運動の測定
5.視覚的アナログ尺度(Visual Analogue Scale; VAS)
6.符号数字照合検査(Symbol Digit Modality Test)(Sepulcre, J., S. Vanotti, et al. (2006). Cognitive impairment in patients with multiple sclerosis using the Brief Repeatable Battery Neuropsychology test. Mult Scler 12(2): 187-95)。
【0061】
(B)神経画像評価
MRI画像診断は、以下から構成される:
(1)6ヶ月毎に行う脳の3T MRI。このMRIは容量分析(すなわち、全脳の萎縮、白質および灰白質の萎縮、皮質外套の厚み);定量磁化移動率(MTR)、磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)、およびT1緩和時間による脳構造の完全性の評価に着目する。PP-MSではRR-MSと比較して炎症活性が非常に小さく、そのため、PP-MS患者の大部分で、血液脳関門(BBB)破壊の巨視的証拠がコントラスト増強病変(CEL)により確認されないことから、3T MRIスキャンのためのガドリニウム(Gd)投与は制限されるべきであり、かつこれはベースライン(0週および44週)で行い、次いで治療1年目(96週)および2年目(140週)に再度行うべきである。
(2)頚髄萎縮の容量分析および脊髄構造の完全性の評価、例えばT1緩和時間およびMTRの実現性およびその価値に着目した脊髄の3T MRI。このスキャンは12ヶ月毎に実施し、Gd投与は含まれない。
(3)月1回・合計3回の脳の簡易版1.5T MRI。この月1回・合計3回のMRIは、本試験期間を通じて2度:スクリーニング時および治療段階の開始時のみ行う。PP-MS患者はCELによってBBB破壊が測定されることが少ないので、本試験では治療開始時に安全性評価のためのみに月1回・合計3回のMRIを使用し:治療前ベースライン期間と比較して治療段階の開始によってイデベノンが免疫の活性化を誘導してCELを増加させないことを確認する。
【0062】
(C)光干渉断層撮影(OCT)を12ヶ月毎に行う
OCTは、網膜神経線維層(RNFL)の厚みを測定する新しい非侵襲的で高解像度の方法である。OCTは、眼内の異なる構造物からのエコー時間の遅延および光の後方反射の強度を測定することにより機能する。最近の研究により、OCTが、視神経炎病歴に関係なく、MS患者の網膜内の、おそらく軸索変性に起因するRNFLの菲薄化を検出できることが示された(Kallenbach, K. and J. Frederiksen (2007). Optical coherence tomography in optic neuritis and multiple sclerosis: a review. Eur J Neurol 14(8): 841-9)。さらに、RNFL厚は、全脳萎縮に関係するようである(CSF量の増加によって明らかになる)(Gordon-Lipkin, E., B. Chodkowski, et al. (2007). Retinal nerve fiber layer is associated with brain atrophy in multiple sclerosis. Neurology 69(16): 1603-9)。
【0063】
(D)経頭蓋磁気刺激(TMS)および中枢運動伝導時間(CMCT)の算出を12ヶ月毎に行う
神経生理学的検査は、長索路、例えば皮質脊髄路(CST)を通じた伝導の無損傷性を評価することができる。CSTはPP-MSの影響を常に受けることから、運動誘発電位(MEP)を皮質脊髄機能の定量的評価手段として利用することを、新しい評価項目の候補として試験する。TMSは、中枢運動路の機能を評価するための非侵襲的な技術である。単パルスTMSは、運動誘発電位(MEP)(これは皮質神経細胞の興奮により発生し、標的筋肉で記録される反応である)を測定するのに使用され、かつ中枢運動伝導時間(CMCT)を算出するのに使用される。MS患者においてCNSの機能障害は、皮質脊髄路の脱髄部分を通る低速の伝導の形態、または軸索の損失もしくは重度の脱髄の結果としてより重度の伝導性破壊の形態で顕在化する。これにより、CMCTの長時間化またはMEP反応のばらつき、例えばMEP振幅の減少を伴う伝導遮断が引き起こされる(Hess, C. W., K. R. Mills, et al. (1987). Magnetic brain stimulation: central motor conduction studies in multiple sclerosis. Ann Neurol 22(6): 744-52; Schriefer, T. N., C. W. Hess, et al. (1989). Central motor conduction studies in motor neurone disease using magnetic brain stimulation. Electroencephalogr Clin Neurophysiol 74(6): 431-7)。
【0064】
評価項目
以下の評価項目が、PP-MSに対するイデベノンの有効性を判断するのに有用である。
・脳萎縮の進展の阻害:個別脳萎縮進行率をイデベノンとプラセボとの間で比較
・個別脳萎縮進展率の阻害:個別脳萎縮進展率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・脳灰白質萎縮の進展の阻害:セグメント化された灰白質萎縮の進行をイデベノンとプラセボとの間で比較
・個別脳灰白質萎縮進展率の阻害:セグメント化された灰白質萎縮の個別進展率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・脳室容積拡大の阻害:セグメント化された第三脳室容積をイデベノンとプラセボとの間で比較
・個別脳室容積拡大率の阻害:セグメント化された第三脳室容積の個別拡大率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・頚髄(SC)萎縮の進展の阻害:SC萎縮の進行をイデベノンとプラセボとの間で比較
・個別頚部SC萎縮進展率の阻害:個別SC萎縮進展率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・スラブMRSにおけるNAA/Cr比により評価される神経軸索破壊の阻害(正常に見える白質および深灰白質におけるROI):イデベノンとプラセボとの間で(NAA/Cr比により検出される)NAA喪失の進行を比較
・スラブMRSにおけるNAA/Cr比により評価される個別神経軸索破壊率の阻害(正常に見える白質および深灰白質におけるROI):個別神経軸索破壊率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・脳におけるT1緩和時間により評価される神経軸索破壊の阻害(正常に見える白質および深灰白質におけるROI):イデベノンとプラセボとの間で比較
・脳におけるT1緩和時間により評価される個別神経軸索破壊率の阻害(正常に見える白質および深灰白質におけるROI):個別神経軸索破壊率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・頚髄におけるT1緩和時間により評価される神経軸索破壊の阻害:イデベノンとプラセボとの間で比較
・頚髄におけるT1緩和時間により評価される個別神経軸索破壊率の阻害:個別神経軸索破壊率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・脳における磁化移動比(MTR)により評価される神経軸索破壊の阻害(正常に見える白質および深灰白質におけるROI):イデベノンとプラセボとの間で比較
・脳における磁化移動比(MTR)により評価される個別神経軸索破壊率の阻害(正常に見える白質および深灰白質におけるROI):神経軸索破壊に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・脳DTI画像における軸方向拡散率により評価される軸索完全性における変化および放射方向拡散率により評価されるミエリン完全性における変化の阻害:イデベノンとプラセボとの間で比較
・脳DTI画像における軸方向拡散率により評価される軸索完全性における個別変化および放射方向拡散率により評価されるミエリン完全性における変化の阻害:個別神経軸索破壊率に対するイデベノンの効果対プラセボの効果
・イデベノンとプラセボとを比較するMSFCの25フィート歩行部門により評価される下肢能力障害の進行
・イデベノンとプラセボとを比較するMSFCの9穴ペグ検査部門により評価される上肢/微細運動能力障害の進行
・イデベノンとプラセボとを比較するMSFCにより評価される神経学的能力障害の進行
・イデベノンとプラセボとを比較するスクリプスNRS AUCにより評価される神経学的能力障害の進行
・イデベノンとプラセボとを比較するEDSS AUCにより評価される神経学的能力障害の進行
・TMSにより評価されるCMCTの延長(イデベノンとプラセボとを比較し、個別CMCT延長率に対するイデベノンの阻害効果とプラセボの阻害効果とを比較する)
・イデベノンとプラセボとを比較するMSFC AUCのPASAT部門により評価される認識機能障害の進行
・イデベノンとプラセボとを比較する符号数字照合検査 AUCにより評価される認識機能障害の進行
【0065】
評価項目の統計分析
1.収集した神経画像、臨床、および生物学的データにおける差異を、2年間の治療期間の最後に、ノンパラメトリックな順位和検定により、または可能であれば、各評価項目についてのパラメトリックなt検定により、プラセボ群とイデベノン群との間で比較する。
2.1年間の治療前ベースライン期間から決定される個別疾患進行率を用いて統計検出力を向上させるため、第二の分析において、治療前ベースライン期間に得られたデータと治療期間中に得られたデータを比較することによって、定量化可能なパラメータにおける個別変化を分析する(図2B)。統計学的分析は、以下で概説されるようにこれらの個別変化をプラセボ小群とイデベノン小群との間で比較することによって行う。
a.2つの時点でのみ収集されるデータ(すなわち、治療前ベースライン時に1回収集、および治療1年目に1回収集)については、ベースライン時点と治療時点との間の%変化を各個人ごとに算出する。
b.4つの時点で収集されるデータ(すなわち、治療前ベースライン時に2回、および治療段階の期間中に2回)については、2つのベースラインサンプルの平均と2つの治療サンプルの平均との間の%変化を各個人ごとに算出する。これまでの研究で、この工程が、生物学的ノイズを制限することによって統計検出力を大きく向上させることが確認されている(Bielekova, B., M. Catalfamo, et al. (2006). Regulatory CD56bright natural killer cells mediate immunomodulatory effects of IL-2Ralpha-targeted therapy (daclizumab) in multiple sclerosis. PNAS 103(15): 5941-5946)。
c.6ヶ月毎に収集されるデータ(すなわち、臨床データおよび脳の定量MRIデータ)については、治療前ベースライン期間中(0〜44週)に得られた3つのデータ点の曲線下面積(AUC)を算出し、これを治療2年目(92〜140週;図2B)に得られた3つのデータ点のAUCと比較する。
【0066】
これらの新たに採用された各パラメータにおけるプラセボ小群とイデベノン小群との間の差異を、ノンパラメトリックな順位和検定により、または可能であれば、パラメトリックなt検定により分析する。本発明者らは、統計学的有意性の決定因子としてP値0.05を使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次進行型多発性硬化症(PP-MS)を治療および/または予防するための医薬の製造のためのイデベノンの使用。
【請求項2】
イデベノンが5mg/kg体重/日〜60mg/kg/日、より好ましくは10mg/kg/日〜60mg/kg/日、最も好ましくは30mg/kg/日〜50mg/kg/日の用量で経口投与により投与される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
イデベノンが、450〜2250mg/日、より好ましくは900〜2250mg/日の固定用量で経口投与により投与される、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
イデベノンが、0.01mg/kg/日〜60mg/kg/日、より好ましくは0.01mg/kg/日〜20mg/kg/日の用量で経粘膜投与により投与される、請求項1記載の使用。
【請求項5】
イデベノンが、疾患発症以降少なくとも3ヶ月にわたって、好ましくは少なくとも6ヶ月にわたって、より好ましくは約6〜約12ヶ月の間、最も好ましくは生涯にわたって、一日一回またはそれ以上投与される、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
イデベノンの投与形式が経口、i.p.、i.v.、i.m.、i.c.、非経口、経鼻、経皮、および経粘膜から選択され、経口および経粘膜が最も好ましい投与である、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
イデベノンが、錠剤または坐剤、ドロップ剤、チューインガム剤、速溶錠、または噴霧剤の形態で投与される、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
イデベノンが第二の治療剤と組み合わせて投与される、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
第二の治療剤が、メチルプレドニゾロン、コルチコステロイド、インターフェロン、グラチラマーアセテート、ミトキサントロン、リツキシマブ、ダクリズマブ、およびナタリズマブから選択される、請求項8記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−525341(P2012−525341A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507605(P2012−507605)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/009148
【国際公開番号】WO2010/124713
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(505336024)サンセラ ファーマシューティカルズ (シュバイツ) アーゲー (21)
【出願人】(502161346)アメリカ合衆国 (1)
【氏名又は名称原語表記】THE GOVERNMENT OF THE UNITED STATES OF AMERICA, as represented by THE SECRETARY OF THE DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES
【Fターム(参考)】