説明

一液型エポキシ樹脂系接着剤

【課題】
引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方が高いレベルでバランスよく優れており、かつ高耐熱性であり、信頼性が高い構造用接着剤として優れた一液型エポキシ樹脂系接着剤を提供する。
【解決手段】
(A)エポキシ樹脂100質量部、(B)潜在性硬化剤5〜30質量部、(C)平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子3〜15質量部、(D)硬化促進剤1〜5質量部、(E)平均粒径0.5〜5μmの揺変性付与剤10〜40質量部とからなる一液性エポキシ樹脂組成物であり、(A)のエポキシ樹脂が(A−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂75〜50質量%と、(A−2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂25〜50質量%の二成分系混合エポキシ樹脂であることを特徴とする一液型エポキシ樹脂系接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な一液型エポキシ樹脂系接着剤、さらに詳しくは、自動車、船舶、航空、宇宙、土木、建築分野等の広範な分野において金属部材等の接合剤として広く使用されている構造用接着剤として好適に用いられ、熱硬化させた場合に、特に引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方が優れた硬化物が得られる一液型エポキシ樹脂系接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、構造用接着剤は、自動車、船舶、航空、宇宙、土木、建築分野等の広範な分野において金属部材等の接合剤として広く使用されている。その中でも近年、自動車分野においては車両組み立て時に、溶接、ボルトとナット、及びリベット等の従来の接合技術に代わって、またはそれを補強するために、一般的にウェルドボンド工法と称される工法の中で構造用接着剤が広く使用されるようになってきている。
【0003】
従来、構造用接着剤として一液型エポキシ樹脂系接着剤の出現が望まれ、潜在性硬化剤としてイミダゾール系化合物等を使用したものが提供されてきた。
【0004】
しかしながら、それら従来の一液型エポキシ樹脂系接着剤は、その潜在性がなお不十分であり室温において徐々に硬化反応が進行し、保存安定性が満足できるものではなかった。また硬化物もエポキシ樹脂として各種の可撓性エポキシ樹脂、例えばNBR変性エポキシ樹脂やウレタン変性エポキシ樹脂を使用しても十分な可撓性、ひいては高いはく離接着強さを得ることはできなかった。
【0005】
さらに従来の一液型エポキシ樹脂系接着剤は、硬化させる際、高温・長時間を必要とし、例えば150〜200℃で数時間硬化させなければ満足できる物性の硬化物が得られず、比較的低い温度・短時間で硬化させた場合には、特にはく離接着強さが著しく劣るという欠点があった。
【0006】
そこでそのような欠点を改善した新しい一液型エポキシ樹脂系接着剤の出現が要望されていた。上記の問題点の改善案として、主剤に可撓性エポキシ樹脂を使用し、硬化剤としてイソホロンジアミンにエポキシ樹脂をアダクトし、さらにフェノール樹脂でマスキングした潜在性硬化剤を使用した一液型エポキシ樹脂系接着剤が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このエポキシ樹脂系接着剤は従来の一液型エポキシ樹脂系接着剤と比べ、保存安定性、並びに比較的低い温度での短時間硬化性は改良されているが、特に低温領域で可撓性が不足しそのためにはく離接着強さが満足できるものではなかった。
【0007】
また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤として使用し、ビフェニル型エポキシ樹脂と混合し、さらに、可撓性を付与することを目的にカルボキシル基含有ブタジエン・アクリロニトリル液状ゴムと硬化剤からなる一液型エポキシ樹脂系接着剤が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、このエポキシ樹脂系接着剤は高温に晒される構造部材の接着に用いる接着剤として耐熱接着性には優れるもののその他の特性においては満足できるものではなかった。
【0008】
また、ジエン系液状ゴムで変性した変性エポキシ化合物を含むエポキシプレポリマーとウレタンプレポリマーを反応させて得られる変性エポキシ樹脂を主剤とし、さらに飽和ポリエステル樹脂と潜在性硬化剤からなる一液型エポキシ樹脂系接着剤が提案されている(特許文献3参照)。構造用接着剤としては、優れた接合強度と耐久性が要求されており、特に最近では引張せん断接着強さとはく離接着強さのいずれにおいても優れた強度を発揮し得る接着剤が求められている。これは、油面鋼板接着性に優れ、かつ引張せん断接着強さとはく離接着強さのバランスがとれているとされているが、しかし高度でかつバランスの取れた性能を示すという最近の要望を満たすものとは言えない。
【0009】
またエポキシ樹脂とリン化合物からなる縮合物とヒドロキシ化合物(I)と有機ポリイソシアネート化合物からなるウレタンプレポリマー(II)を反応させて得られるウレタン変性プレポリマーが提案されている(特許文献4参照)。しかしながら引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方をバランスよく向上させることは可能だが、その強さはまだ不十分であり、構造用接着剤として使用するには信頼性に欠けるものであった。
【0010】
さらに、エポキシ樹脂とウレタン変性エポキシ樹脂及び/またはジエン系エラストマーとポリカーボネート系樹脂と硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物を接着剤として用いることにより、優れた引張せん断接着強さとはく離接着強さを兼ね備えた熱硬化性構造用接着剤組成物が得られることが開示されている(特許文献5参照)。しかしこれも特許文献4同様にその強さはまだ不十分であり、構造用接着剤として使用するには信頼性に欠けるものであった。
【0011】
加えて、エポキシ樹脂とウレタン変性エポキシ樹脂とを混合し、それにジシアンジアミド系硬化剤、硬化促進剤、アクリルゴムと充填剤とを加えた引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方をバランス良く強くする車両組み立て時にも適用できる構造用接着剤が提案されている(特許文献6参照)。これは確かに引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方を高いレベルでバランスよく向上させることは可能だが耐熱性が低いという欠点を有している。従って、これらの欠点が改善された、引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方がさらに高いレベルでバランスよく優れており、耐熱性の面でも信頼できる汎用性の高い構造用接着剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭62−265323号公報
【特許文献2】特開平5−163474号公報
【特許文献3】特開平5−271640号公報
【特許文献4】特開平8−143639号公報
【特許文献5】特開平10−72575号公報
【特許文献6】特開平2006−299134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような状況下で、その問題を解決し、引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方がさらに高いレベルでバランスよく優れており、かつ高耐熱性であり、信頼性が高い構造用接着剤として優れた一液型エポキシ樹脂系接着剤を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の二成分系混合エポキシ樹脂を使用し、それに潜在性硬化剤、平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子、硬化促進剤、平均粒径0.5〜5μmの充填剤とを添加した一液型エポキシ樹脂系接着剤は、引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方が非常に高いレベルでバランスよく優れており、かつ高耐熱性であり、その結果、信頼性が高い構造用接着剤を提供できることを知り上記の課題を解決できた。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0015】
[1](A)エポキシ樹脂100質量部、(B)潜在性硬化剤5〜30質量部、(C)平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子3〜15質量部、(D)硬化促進剤1〜5質量部、(E)平均粒径0.5〜5μmの充填剤10〜40質量部とからなる一液型エポキシ樹脂系接着剤であり、(A)のエポキシ樹脂が(A−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂75〜50質量%と、(A−2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂25〜50質量%の二成分系混合エポキシ樹脂であることを特徴とする一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【0016】
[2](B)潜在性硬化剤がジシアンジアミドである[1]に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【0017】
[3](C)平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子がアクリロニトリルーブタジエン共重合ゴムの架橋物からなる微粒子である[1]または[2]に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【0018】
[4](D)硬化促進剤が尿素系化合物である[1]〜[3]に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【0019】

[5]予め(A−2)成分中に(C)成分を分散させて海島構造を形成した状態で、他の成分と混合することによって製造することを特徴とする[1]〜[4]に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明の一液型エポキシ樹脂系接着剤を用いる場合、引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方が非常に高いレベルでバランスよく優れており、かつその硬化物は耐熱性が高いものが得られる。
【0021】
よって本発明の一液型エポキシ樹脂系接着剤は上記のような効果を有するために、自動車、船舶、航空、宇宙、土木、建築分野等の広範な分野において金属部材等の接合剤として広く使用されている構造用接着剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の一液型エポキシ樹脂系接着剤を実施するための形態について説明する。
(1)エポキシ樹脂
本発明のエポキシ樹脂としては、(A−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、(A−2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂の二成分系混合エポキシ樹脂でなければならない。
【0023】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂はビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの重縮合化合物であり、分子量に応じて液状のものから固形のものまである。本発明においては常温で液状のものが好ましい。このエポキシ樹脂のビスフェノールA骨格は耐熱性を高め、さらに強靭性、その中でも引張せん断接着強さを高くするという特徴を発揮する。さらにその中のエーテル基は耐薬品性に、メチレン鎖は可撓性に特徴を発揮している。ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jer825、jer827、jer828、jer834(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)、YD127、YD128、YD128G、YD128S、YD128CA(以上、東都化成株式会社製、商品名)、エピクロン840、エピクロン840−S、エピクロン850、エピクロン850−S(以上、DIC株式会社製、商品名)を挙げることができる。
【0024】
もう一つの成分であるビスフェノールF型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAの代わりにビスフェノールFを用いてエピクロルヒドリンと重縮合させ得られる化合物である。その分子構造骨格が柔軟なためビスフェノールF型エポキシ樹脂は低粘度であり、また相溶性に優れるために、本発明の一成分である平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子を均一に分散させ、その結果、本発明の一液型エポキシ樹脂組成物の硬化物は強靭性となり、特にはく離接着強さを向上させる。例えば、jer806、jer807(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)、YDF170(以上、東都化成株式会社製、商品名)、エピクロン830、エピクロン830−S、エピクロン835(以上、DIC株式会社製、商品名)を挙げることができる。
【0025】
このように、本発明において、エポキシ樹脂は(A−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、(A−2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂の二成分系混合エポキシ樹脂でなければならず、その配合割合は、(A−1)成分75〜50質量%に対し(A−2)成分は25〜50質量%であり、より好ましくは、(A−1)成分70〜55質量%に対し(A−2)成分は30〜45質量%である。この範囲より(A−1)成分が多く(A−2)成分が少ないと、架橋ゴム微粒子の分散状態が不均一になりはく離接着強さが低くなる。反対に、この範囲より(A−1)成分が少なく(A−2)が多いと、引張せん断接着強さが低くなり、耐熱性も低下する。
【0026】
(2)潜在性硬化剤
本発明の潜在性硬化剤としては、従来公知のもの、例えばジシアンジアミド、尿素系化合物、有機酸ヒドラジド系化合物、ポリアミン塩系化合物、アミンアダクト系化合物などの中から状況に応じて適宜選択し単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、硬化物の接着強さ及び接着剤のポットライフなどの点から、ジシアンジアミドが好適である。
【0027】
この潜在性硬化剤は、平均粒径が3〜14μmの範囲にある固体粒子を用いることが必要であり、この平均粒径が3μm未満では組成物の保存安定性が低下するし、14μmを超えると硬化速度が遅くなり、実用的でない。
【0028】
その配合量は、(A)エポキシ樹脂100質量部当り、5〜30質量部の範囲であることが必要である。この量が5質量部未満では接着剤の硬化速度が遅く、かつ硬化物の接着強さが不十分であるし、30質量部を超えると硬化物のガラス転移温度が著しく低下し、耐熱性が悪くなる。硬化速度、硬化物の接着強さや耐熱性などを考慮すると、この潜在性硬化剤の好ましい配合量は7〜25質量部の範囲である。
【0029】
(3)平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子
本発明の架橋ゴム微粒子としては、例えばアクリルゴム、ブタジエンゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどの架橋ゴムを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいが、エポキシ樹脂に対する分散性や硬化物の耐ヒートサイクル性などの点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴムの架橋物からなる微粒子が好適である。
【0030】
この架橋ゴム微粒子の平均粒径は0.05〜0.5μmの範囲にあることが必要である。この平均粒径が0.05μm未満ではこの一液型エポキシ樹脂組成物を構造用接着剤として用いる場合、粘度が高くなり取り扱い性が悪い。またこの平均粒径が0.5μmを超えると十分な靭性を有する硬化物が得られずはく離接着強さが低くなる。接着剤の粘度及び硬化物のはく離接着強さなどを考慮すると、この平均粒径の好ましい範囲は0.05〜0.2μmである。
【0031】
その配合量は、(A)エポキシ樹脂100質量部当り、3〜15質量部の範囲であることが必要である。この量が3質量部未満では十分な靭性を有する硬化物が得られずはく離接着強さが低くなり、15質量部を超えると接着剤の粘度が高くなりすぎ、エポキシ樹脂への分散が困難になる。硬化物のはく離接着強さ及びエポキシ樹脂への分散性などを考慮すると、この架橋ゴム微粒子の好ましい配合量は4~13質量部の範囲である。
【0032】
(4)硬化促進剤
硬化促進剤としては、例えば尿素系化合物、ホスフィン系化合物、イミダゾール系化合物などが挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、ガラス転移温度の低下がなく、ポットライフが長いなどの点から、ジクロロフェニルジメチルウレア、メチレンジフェニルビスジメチルウレア、トルエンビスジメチルウレアが好適であり、特にジクロロフェニルジメチルウレアが好適である。
【0033】
その配合量は、(A)エポキシ樹脂100質量部当り、1〜5質量部の範囲であることが必要である。この量が1質量部未満では接着剤の硬化速度が遅いし、5質量部を超えると硬化物のガラス転移温度が下がり耐熱性が低下する。硬化速度及び硬化物の耐熱性などを考慮すると、この硬化促進剤の好ましい配合量は1.5〜4質量部の範囲である。
【0034】
(5)平均粒径0.5〜5μmの充填剤
本発明においては、粘性を調整し、かつ機械特性を向上させる目的で平均粒径0.5〜5μmの充填剤を配合する必要がある。この平均粒径0.5〜5μmの充填剤としては、例えば超微粒子状炭酸カルシウム、超微粒子状シリカ、超微粒子状アルミナなどが挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、接着剤への分散性などの点から平均粒径0.5〜5μmの超微粒子状炭酸カルシウムが好適である。この平均粒径が0.5μm未満では、この一液型エポキシ樹脂組成物を構造用接着剤として用いる場合、粘度が高くなり取り扱い性が悪く、5μmを超えると充填剤が沈降しやすく均一性が低下する。
【0035】
この充填剤の配合量は、(A)エポキシ樹脂100質量部当り、10〜40質量部の範囲であることが必要である。この量が10質量部未満では粘度が低く、40質量部を超えるとこの一液型エポキシ樹脂系接着剤を構造用接着剤として用いる場合、粘度が高くなり取り扱い性が悪い。液だれ防止性や接着剤の粘度などを考慮すると、この平均粒径0.5〜5μmの充填剤の好ましい配合量は15~30質量部の範囲である。
【0036】
さらに、本発明の一液型エポキシ樹脂系接着剤には、本発明の目的がそこなわれない範囲で、必要に応じ、従来慣用されている各種添加剤、例えば、反応性希釈剤、難燃剤、消泡剤、界面活性剤、着色剤などを配合することができる。
【0037】
本発明の一液型エポキシ樹脂系接着剤の調製方法としては特に制限はなく、例えば必須成分である(A)〜(E)成分及び所望成分である各種添加剤を均質に混合することにより調製することができるが、作業性及び均質性などの点から、前記したように予め(C)成分を、低粘度でありまた相溶性に優れる(A−2)成分中に分散させて海島構造の状態にしてから他の成分と混合するのが有利である。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいて具対的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例の一液型エポキシ樹脂系接着剤はゲル化時間、引張せん断接着強さ、はく離接着強さ、ガラス転移温度の各項目について評価したので、それらの評価方法について以下に説明する。
【0039】
(1)ゲル化時間
JIS C−2104に依拠したゲル板を150℃に保ち、その板上に0.4mlの試料を載置し、載置後かきまぜ棒でかきまぜ、糸がひかなくなるまでの時間、すなわちゲル化までの時間(s)を測定した。200秒未満のものを○、200秒以上のものを×とした。
【0040】
(2)引張せん断接着強さ
JIS K−6850に依拠し、100mm×25mm×1.6mmのSPCC−SD鋼板を#240研磨布で研磨したのち、脱脂したものに調整した1液型エポキシ樹脂系接着剤を12.5mmのシングルオーバーラップになるように塗布し、その上に同寸法のSPCC−SD鋼板を圧着した。150℃で30分の条件で熱硬化させ、常温に放置し、25℃の雰囲気中、荷重速度5mm/minの条件下、引張せん断接着強さを測定し、試料5個の測定値の平均値で示した。その平均値が20MPa以上のものを○、20MPa未満のものを×とした。
【0041】
(3)はく離接着強さ
JIS K−6854に依拠し、150mm×25mm×0.5mmのSPCC−SD鋼板を長さ100mmのところで90度に折り曲げた。その外側を#240研磨布で研磨したのち、脱脂したものに調整した1液型エポキシ樹脂系接着剤を塗布し、その上に同様に研磨し脱脂した同寸法のSPCC−SD鋼板を圧着した。150℃で30分硬化させてテストピースを作成した。このテストピース5個について、温度25℃、荷重速度100mm/minの条件下で試験し、はく離接着強さを測定し、得られた測定値の平均値で示した。その平均値が120N/25mm以上のものを○、120N/25mm未満のものを×とした。
【0042】
(4)ガラス転移温度
示差走査熱量測定(DSC)によりガラス転移温度を測定した。115℃以上のものを○、115℃未満のものを×とした。
【0043】
(実施例1)
(A−2)成分としてのビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jer807」、エポキシ当量167)30質量部に(C)成分として、架橋アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム微粒子(JSR株式会社製、商品名「FX−501」、平均粒径0.07μm)6質量部を加えて樹脂成分を調製した。次に、この樹脂成分に、(A−1)成分として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jer828」、エポキシ当量186)70質量部を混合し次なる樹脂成分を調製した。その後、この樹脂成分に、(B)成分として、ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jerキュアDICY15」)12質量部、(D)成分として、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−N−ジメチルウレア(保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名「DCMU−99」)3質量部、(E)成分として、超微粒子状炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製、商品名「ソフトン1200」、平均粒径1.8μm)21質量部を加えて混合し、一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0044】
(実施例2)
(C)成分としての架橋アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム微粒子(JSR株式会社製、商品名「FX−501」、平均粒径0.07μm)の量を4質量部とした以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0045】
(実施例3)
(D)成分としての3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−N−ジメチルウレア(保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名「DCMU−99」)の量を2質量部とした以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0046】
(実施例4)
(B)成分としてのジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jerキュアDICY15」)の量を18質量部とした以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0047】
(実施例5)
(C)成分としてのアクリルゴム微粒子(三菱レーヨン株式会社製、商品名「メタブレンW−5500」、平均粒径0.4μm)10質量部を用いた以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
(A)成分として、(A−1)成分である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jer828」、エポキシ当量186)100質量部のみを使用し、(A−2)成分としてのビスフェノールF型エポキシ樹脂を使用しなかったこと以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0049】
(比較例2)
(A)成分として、(A−2)成分である、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jer807」、エポキシ当量167)100質量部のみを使用し、(A−1)成分としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用しなかったこと以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0050】
(比較例3)
(C)成分を使用しなかったこと以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0051】
(比較例4)
(B)成分としてのジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jerキュアDICY15」)の量を4質量部とした以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0052】
(比較例5)
(D)成分としての3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,−N−ジメチルウレア(保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名「DCMU−99」)の量を0.5質量部とした以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0053】
(比較例6)
(B)成分としてのジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jerキュアDICY15」)の量を35質量部とした以外は、実施例1と全く同様の方法で一液型エポキシ樹脂系接着剤を調製した。そのものについて物性を評価した結果を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
(評価)
表1に示したように、実施例1〜5の一液型エポキシ樹脂系接着剤は全て、引張せん断接着強さが20MPa以上であり、かつはく離接着強さが120N/25mm以上であった。これは構造用接着剤に求められる引張せん断接着強さ及び、はく離接着強さとしては十分な強さであり、両方が非常に高いレベルでバランスよく優れていることを示している。これは、比較例1と比較例2から分かるように、エポキシ樹脂が、(A−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、(A−2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂の二成分系混合エポキシ樹脂であることによって達成できたものであり、本発明の重要なポイントである。
【0057】
加えて、実施例1〜5の一液型エポキシ樹脂系接着剤は全て、ゲル化時間が200秒未満であり反応性が高く、取扱い性にも優れていることを示している。さらには、ガラス転移温度が115℃以上であり、耐熱性も高いので、構造用接着剤として広い分野に適用可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の一液型エポキシ樹脂系接着剤は、引張せん断接着強さが20MPa以上、かつはく離接着強さが120N/25mm以上であり、引張せん断接着強さとはく離接着強さの両方が非常に高いレベルでバランスよく優れている。さらに、ガラス転移温度が115℃以上であり、その硬化物は耐熱性が高い。しかも、ゲル化時間が200秒未満であり、本発明の一液型エポキシ樹脂系接着剤は反応性が高いので、接着剤として用いる場合、短時間硬化が可能なので取扱い性にも優れている。よって、自動車、船舶、航空、宇宙、土木、建築分野等の広範な分野において金属部材等の接合剤として広く使用されている構造用接着剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

(A)エポキシ樹脂100質量部、(B)潜在性硬化剤5〜30質量部、(C)平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子3〜15質量部、(D)硬化促進剤1〜5質量部、(E)平均粒径0.5〜5μmの充填剤10〜40質量部とからなる一液型エポキシ樹脂系接着剤であり、(A)のエポキシ樹脂が(A−1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂75〜50質量%と、(A−2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂25〜50質量%の二成分系混合エポキシ樹脂であることを特徴とする一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【請求項2】
(B)潜在性硬化剤がジシアンジアミドである請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【請求項3】
(C)平均粒径0.05〜0.5μmの架橋ゴム微粒子がアクリロニトリルーブタジエン共重合ゴムの架橋物からなる微粒子である請求項1または2に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【請求項4】
(D)硬化促進剤が尿素系化合物である請求項1〜3に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。
【請求項5】

予め(A−2)成分中に(C)成分を分散させて海島構造を形成した状態で、他の成分と混合することによって製造することを特徴とする請求項1〜4に記載の一液型エポキシ樹脂系接着剤。

【公開番号】特開2011−148867(P2011−148867A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9548(P2010−9548)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000108454)ソマール株式会社 (81)
【Fターム(参考)】