説明

一液型下塗り塗料組成物およびそれを用いた塗装方法

【課題】複層塗膜の下塗りとして用いた時に、上塗りにメタリックや青系塗色のように光線透過率の高い塗膜を塗り重ねた時でも経年による上層塗膜のハガレが起こらず、優れた耐久性、美観維持性を与える一液型下塗り用塗料を提供する。
【解決手段】1.(A)エポキシ樹脂および/又は変性エポキシ樹脂、(B)紫外線吸収剤および光安定化剤、(C)防錆顔料および(D)溶剤を必須成分とする一液型下塗り塗料組成物。
2.さらに(E)シランカップリング剤を含む1項に記載の塗料組成物。
3.(A)エポキシ樹脂および変性エポキシ樹脂の樹脂固形分の合計100質量部に対し(B)紫外線吸収剤の配合量が0.1〜10質量部であり、かつ光安定化剤の配合量が0.2〜20質量部である1項または2項に記載の塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鉄部の防錆作用に優れた一液型下塗り塗料組成物に関するものであり、この塗料組成物は多層塗膜の下塗りとして用いた時に経年による上層塗膜のハガレが起こらず優れた耐久性、美観維持性を与える。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂をバインダーとし、防錆顔料を配合した一液型下塗り用塗料は素材種を選ばない汎用プライマーとして市場に流通している(参考:日本ペイント株式会社、“Nippe Show-Biz商品情報”、[on line]、[平成18年10月6日検索]、インターネット<URL:http://www.nippe-showbiz.com/function/power_b.html>)。特許文献1にはエポキシ樹脂およびアミノアルコキシシランおよびモノエポキシ化合物を組み合わせた一液プライマー組成物が開示されており、その請求項4にはモノエポキシ化合物としてエポキシ基を末端に持つシランカップリング剤が開示されている。これらシラン化合物を配合する目的は鋼材下地への接着性の改良であり、エポキシとアミノシランを組み合わせた従来の塗料との比較によりエポキシ基を末端に持つシランカップリング剤が鋼材に対する付着性を改良する効果が有る事を開示している。また本文中には酸化防止剤と組み合わせても良いとの記述もある。しかし上塗りとの接着性については効果の記述が無い。
【0003】
また特許文献2にはシリル基を有するビニル系ポリマーとエポキシ樹脂、防錆顔料からなる水系防錆塗料組成物が開示されており、その本文中に紫外線吸収剤、酸化防止剤などを含有しても良い事が述べられている。しかし実施例の防錆塗料組成物には紫外線吸収剤、酸化防止剤は配合されておらず、これら紫外線吸収剤、酸化防止剤の使用による効果について言及されていない。また評価は単層塗膜で行われており上塗りの塗り重ねについても言及されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平01−92775号公報
【特許文献2】特開平06−41471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、(A)エポキシ樹脂および/又は変性エポキシ樹脂、(B)紫外線吸収剤および光安定化剤、(C)防錆顔料および(D)溶剤を必須成分とする下塗り塗料組成物に関するものである。
【0006】
エポキシ樹脂をバインダーとし、防錆顔料を配合した一液型下塗り用塗料は二層塗膜の下塗りとして用いた時に上塗りにメタリックや青系塗色のように光線透過率の高い塗膜を塗り重ねた時には経年による上層塗膜のハガレが起こりやすい問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
紫外線吸収剤、光安定化剤および防錆顔料を配合してなる一液型エポキシ系下塗り塗料により従来あった課題を解決できる。すなわち、本発明の特徴は以下の通りである。
【0008】
1.(A)エポキシ樹脂および/又は変性エポキシ樹脂、(B)紫外線吸収剤および光安定化剤、(C)防錆顔料および(D)溶剤を必須成分とする一液型下塗り塗料組成物。
【0009】
2.さらに(E)シランカップリング剤を含む上記項1に記載の塗料組成物。
【0010】
3.(A)エポキシ樹脂および変性エポキシ樹脂の樹脂固形分の合計100質量部に対し(B)紫外線吸収剤の配合量が0.1〜10質量部であり、かつ光安定化剤の配合量が0.2〜20質量部である上記項1または2に記載の塗料組成物。
【0011】
4.光安定化剤がヒンダードアミン化合物である上記項1〜3のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【0012】
5.さらに(F)タルクを必須成分として含有する上記項1〜4のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【0013】
6.上記項1〜5のいずれか一項に記載の塗料組成物を下塗り塗料として塗装し、未硬化で又は硬化させた後にその上に上塗り塗料を塗り重ねる塗装方法。
【0014】
7.上塗り塗料としてアミノアルキド塗料またはアミノアクリル塗料を用いる上記項6に記載の塗装方法。
【0015】
8.上塗り塗料として2液型常温硬化塗料を用いる上記項6に記載の塗装方法。
【0016】
9.上記項6〜8のいずれか一項に記載の塗装方法で塗装した物品。
【発明の効果】
【0017】
下塗り塗料として防錆性、素材密着性に優れるとともに光線透過率の高い塗膜を塗り重ねた時にも経年による上層塗膜のハガレが起こりにくくなる。このことにより塗装の塗り替え間隔を長くとることができるので経済性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は下塗り塗料組成物に関するものである。通常、下塗り塗料であっても光線透過率の高い上塗りと組み合わせた場合は上塗りを透過してきた紫外線によって下塗り塗膜表面が劣化し、上塗りの耐候ハガレを引き起こしてしまう。特に下塗りが光劣化しやすいエポキシ樹脂をバインダーとする場合問題が顕著であった。それを解決するためには下塗り塗膜の光劣化を抑えることが必要となる。一般的に光劣化を抑止するためには添加剤として紫外線吸収剤および/又は光安定剤を用いる事は公知の方法である。しかしながら本発明の下塗り塗料組成物が想定している用途である屋外での使用においては添加剤の雨水等による流出により高い効果持続性が得られない場合があった。一般的にπ電子共役構造をもち分子構造中に芳香環や複素環が多く疎水性で比較的分子量も高い紫外線吸収剤よりも、一般的に極性化合物であり分子量も低いものが多い光安定化剤の流出が主に問題であると考えられた。また光劣化の抑止と同時に下塗りに求められる本来の性能である素地付着性、防食性も損なってはならない。
【0019】
発明者らは鋭意検討の結果その条件を満足するものとして本発明の下塗り塗料組成物を発明するに至った。以下順を追ってその構成要素を説明する。

(A)エポキシ樹脂または変性エポキシ樹脂
本発明の下塗り塗料組成物はそのバインダーとしてエポキシ樹脂を用いる。従来からエポキシ樹脂は金属素材に対する付着性が優れることが知られており下塗り塗料用バインダーとして最も採用されてきた樹脂である。特に一液型ラッカー塗料として用いられた時には他のタイプの樹脂に対し明らかに付着性面で優位にあることは広く知られている(参考:大和塗料株式会社 Nプロ事業部、“ペイントジョイ通信 2回目 シーラー(下塗り塗料)の基礎知識”、[on line]、[平成18年10月6日検索]、インターネット<URL: https://www.diyna.com/webshop/paintjoy/pjm-2.html>)。
【0020】
本発明に用いる事の出来るエポキシ樹脂の例としては、多価アルコール、多価フェノールなどと過剰のエピクロルヒドリン又はアルキレンオキシドとを反応させて得られる エポキシ樹脂を挙げることができる。多価アルコールの例としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ソルビトール等があり、多価フェノールの例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、ハロゲン化ビスフェノールA、4,4−ジヒドロキシフェニルメタン[ビスフェノールF]、トリス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、レゾルシン、テトラヒドロキシフェニルエタン、ノボラック形多価フェノール、クレゾール形多価フェノールなどが挙げられる。
【0021】
これらエポキシ樹脂は市販されており、たとえばjER-1001、jER−1004、jER−1007H、jER−404P、jER−1256、jER−154、jER−872など(以上はジャパンエポキシレジン株式会社製品)、AER−6003、AER−6071、AER−6072、AER−6097、AER−ECN1273など(以上は旭化成ケミカルズ株式会社製品)、EPICLON−N−740−80M、EPICLON−FQ−065−Pなど(以上は大日本インキ化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0022】
変性エポキシ樹脂とはエポキシ樹脂に何らかの化合物を反応させた樹脂であり、本発明では一液型塗料に従来から用いられているウレタン変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂などを好適に用いる事が出来る。これらのうちウレタン変性エポキシ樹脂を用いる事が特に好ましい。
ウレタン変性エポキシ樹脂とは、例えばエポキシ樹脂にアミン類を反応させてなるアミン付加エポキシ樹脂にポリイソシアネート化合物あるいはモノイソシアネート化合物を反応せしめたものが挙げられる。エポキシ樹脂としては前記エポキシ樹脂と同様のものが使用でき、アミン類としては、アルカノールアミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、脂環族アミン類などが使用できる。ポリイソシアネート化合物としては従来公知の脂肪族、芳香族または脂環族のポリイソシアネート化合物などが使用でき、モノイソシアネート化合物としては、脂肪族モノアミンまたは芳香族モノアミンにホスゲンを反応させたものや、ジイソシアネート化合物の一方のイソシアネート基に水酸基含有化合物を反応させたものなどが使用できる。
【0023】
同様にアミン変性エポキシ樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂は、夫々エポキシ樹脂にエポキシ基と反応しうる官能基、たとえばアミノ基、ヒドロキシル基、酸基などを含有する(ポリ)アミン、アクリルポリマー、ポリエステルを反応せしめたものである。またダイマー酸変性エポキシ樹脂はオレイン酸二つを結合させた分枝を持つ長鎖の二塩基酸であるダイマー酸をエポキシ樹脂に反応せいめたものである。
【0024】
これら変性エポキシ樹脂も市販されており、例えばアラキード9205、アラキード9208など(以上は荒川化学工業製品)、EPICLON H−405−40、EPICLON FK753など(以上は大日本インキ化学工業製品)エポキー803、エポキー813、エポキー820−40CX、エポキー833−40SCなど(以上は三井化学製品)、jER872X75(ジャパンエポキシレジン製品)などが挙げられる。
【0025】
本発明に用いられるエポキシ樹脂および/又は変性エポキシ樹脂は付着性、耐水性、塗装作業性、貯蔵安定性等のバランスを考慮すると、数平均分子量が1000〜300,000であるのが好ましく、より好ましくは2000〜150,000、さらに好ましくは5000〜100,000の範囲とするのが好適である。
【0026】
なお、本明細書における樹脂の数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。使用したゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)であり、カラムは、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で測定を行った。
【0027】
以降本発明で(A)成分として用いるエポキシ樹脂および/又は変性エポキシ樹脂を総称してエポキシ系樹脂と記述する事とする。
【0028】
また、顔料分散等の必要に応じて少量の他の樹脂、硬化剤等を添加してもよい。ここでいう少量とはエポキシ系樹脂の固形分合計質量を100部とした場合に10部以下の量である。この範囲を越えるとエポキシ系樹脂の特徴である金属素材付着性が阻害される場合がある。

(B)紫外線吸収剤および光安定化剤
紫外線吸収剤は自然光に含まれる有機物の劣化を促進する波長成分(360nmよりも短波長の紫外線)を効率良く吸収することによって他の有機成分(塗料の場合はバインダーとして用いている有機樹脂)の紫外線劣化を防止する目的で用いられる。多くの市販品がありそれらを化学構造で分類すると、ベンゾトリアゾール系:TINUVIN P、TINUVIN 234、TINUVIN 326、TINUVIN 900など、トリアジン系:TINUVIN 1577FFなど、ベンゾフェノン系:CHIMASORB 81など、ベンゾエート系:TINUVIN 120などが知られている。(例としてあげた商品名の吸収剤は全てチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社の製品である。)
本発明では紫外線吸収剤の化学構造は問わず、添加量として、エポキシ系樹脂の固形分合計質量を100とした時に0.1部〜10部であるのが充分な紫外線吸収効果を得られるために好ましい。またこれよりも多いと上塗りを塗装した時に上塗りと下塗りの界面にブリードして付着を阻害してしまうことがある。
【0029】
光安定化剤は有機物が光吸収によって劣化する過程で生じるラジカルを安定化することにより樹脂の劣化の進行を止める作用を持つものであり、上述の紫外線吸収剤と併用することにより相乗的な劣化防止効果を発現する。その作用は主としてラジカルの捕捉、無害化であり有機物の光劣化の主たる様態は空気中の酸素が介在する酸化劣化であることから酸化防止剤と呼称される事もある。多くの市販品がありそれらを化学構造で分類するとヒンダードアミン系:CHIMASORB 944、TINUVIN 144、TINUVIN 292、TINUVIN 770など、ヒンダードフェノール系:IRGANOX 1010、IRGANOX1098などが知られている。(例としてあげた商品名の光安定化剤は全てチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社の製品である。)
本発明では光安定剤は相乗的な劣化防止効果を得るため紫外線吸収剤と併用される。それにより高価な紫外線吸収剤および光安定剤の添加量を少なくする事が出来る。光安定剤の添加量としては、エポキシ系樹脂の固形分合計質量を100とした時に0.2部〜20部であるのが充分な光安定化効果(酸化防止効果)を得られるために好ましい。またこれよりも多いと上塗りを塗装した時に上塗りと下塗りの界面にブリードして付着を阻害してしまうことがある。
【0030】
光安定化剤としてヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、それ以外の構造のもの、の何れであっても好適に使用することが出来るが、ヒンダードアミン系を用いた時には劣化防止効果の持続性が高く、特に好ましい。その結果として他の構造の光安定剤よりも少量の添加で同等の効果持続性を得ることが出来る。これはヒンダードアミンと塗料のバインダーとして用いているエポキシ樹脂および/又は変性エポキシ樹脂が化学反応も含む強い相互作用を持つため、ヒンダードアミン系光安定剤の塗膜からの流出を抑制する効果が発現しているためと考えている。

(C)防錆顔料
本発明に用いられる防錆顔料は従来一般に用いられているものを使用することが出来るが、環境汚染防止の観点から従来多用されてきた鉛やクロム等の有害金属を含有しないものが好ましい。かかる顔料としては例えばリン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛・酸化亜鉛複合体、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムのようなリン酸塩系、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛のようなモリブデン酸塩系が挙げられる。防錆顔料の添加量はエポキシ系樹脂の固形分合計質量を100とした時に10部〜200部の範囲にするのが好ましい。10部よりも少ないと充分な防錆効果が得られない場合があり、また200部をこえると塗料の塗装作業性および形成された塗膜の耐水性が損なわれる場合がある。
【0031】
本発明の下塗り塗料組成物では所望の塗色を得るために防錆顔料に組み合わせて通常塗料に用いられる着色顔料、体質顔料、光輝性顔料(金属薄片顔料)を用いる事が出来る。

(D)溶剤
本発明に用いられる溶剤はバインダーであるエポキシ系樹脂の良溶媒となるものである。例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、2−メトキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類、トルエン、キシレン(o−,m−,p−)等の芳香族類及びこれらの2種以上の混合溶剤等が挙げられる。 また、適宜水を併用しても良い。
【0032】
本発明の下塗り塗料組成物は、塗装方法に応じて適宜な粘度となるように溶剤によって希釈して塗装される。

(E)シランカップリング剤
本発明の下塗り塗料組成物はシランカップリング剤を含むことが出来る。シランカップリング剤は無機物(金属)と有機化合物との密着性を向上させる作用を有することが知られており、下塗り塗料に配合することにより素地金属との密着性を一層高めることが可能である。
【0033】
本発明の塗料組成物はエポキシ系樹脂をバインダーとすることでそのままでも高い密着性を発現するが、素材形状、塗装方法によっては塗装膜厚が設定値から変動する場合がある。例えば膜厚50μmを設定していても角部内側や凹み部位等では塗装方法によっては溜りにより200μmをこえる膜厚がついてしまう事がある。このように異常膜厚部があると乾燥時の溶剤の揮散に伴い発生する塗膜ひずみが集中し塗膜ハガレが起こる場合がある。シランカップリング剤を配合して塗膜密着性をより高める事によりその様なハガレを未然に防ぐ効果がある。
【0034】
また、逆に角部外側や凸部では塗装膜厚が設定膜厚より薄くなってしまう場合がある。この場合は例えば耐水負荷が加わった際に薄膜部は水が素材との界面に集まり易く、ハガレや発錆が起こる場合がある。これに対してもシランカップリング剤を配合して塗膜密着性をより高める事によりその様なハガレ、発錆を未然に防ぐ効果がある。
【0035】
以上述べたようにシランカップリング剤の配合により素地に対する塗膜密着性を高めて耐素地ハガレ性の一層の向上ができる。
【0036】
本発明で用いる事が出来るシランカップリング剤としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ −メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ −アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジルアミン)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
この中でもエポキシ系樹脂との混和性にすぐれたβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジルアミン)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが好ましい。
【0038】
上述したようにシランカップリング剤の添加は塗装膜厚変動に起因するハガレ不具合を防止する効果があるので、本発明の下塗り塗料組成物を常乾ラッカーとして用いる場合、特にハケ塗りのような膜厚変動が起こりやすい塗装方法で塗装する場合に効果が大きい。
【0039】
シランカップリング剤を配合する場合には、エポキシ系樹脂の固形分合計質量を100とした時に0.3部〜10部の範囲にするのが充分な密着性増強効果が得られるために好ましく、1部〜5部の範囲がより好ましい。また10部をこえると過剰のカップリング剤のブリードにより上塗り塗料の塗装性低下および上塗り塗膜との間の密着性が損なわれる場合がある。

(F)タルク
本発明の下塗り塗料組成物は体質顔料としてタルクを配合することができる。タルクは鱗片状の顔料であり酸性を示す。タルクは塗膜中で素材面と並行に、かつ層状に存在すると考えられ、これによって塗膜内の物質透過性、特に水の透過性を低減する効果が得られる。水は素地ハガレの引き金となり、また腐食因子でもあるのでタルクの配合によりハガレ、腐食の抑制が出来、下塗り塗膜としての防食性の一層の向上が期待できる。
【0040】
また光安定剤としてヒンダードアミン系光安定剤を用いている場合は、層状に存在するタルク粒子は酸−塩基相互作用によりヒンダードアミン系光安定剤の塗膜からの流出を抑制する効果が発現していると考えている。そのためエポキシ系樹脂とヒンダードアミンとタルクが組み合わされた系は相互作用効果が重なり合うので、より高い光劣化防止効果持続性、つまりその結果としてのハガレ防止効果持続性を示す事が出来る。
【0041】
優れた光劣化防止効果持続性および素地付着性、防食性を得るためにはタルクの配合量はエポキシ系樹脂の固形分合計質量を100とした時に10部〜50部の範囲にするのが好ましい。

塗料化および塗装方法
本発明の下塗り塗料組成物はここまで述べてきた原料以外に一般的に塗料に用いられる表面調整剤、色別れ防止剤、タレ止め剤などの添加剤を問題なく配合することが出来る。
【0042】
本発明の塗料の製造法は特に制限されるものではないが、通常、ディスパー、ボールミル、サンドミル等の分散機により顔料および顔料分散樹脂および必要に応じて顔料分散剤、溶剤を定法により分散してミルベースを製造し、そこに残りの原料を加えて製造される。このとき顔料分散樹脂はバインダーであるエポキシ系樹脂を用いるが少量の他の樹脂、硬化剤等でもよい。またミルベース方式ではなく初めから全ての原料を全量分散して塗料化しても良い。製造された塗料は通常、溶剤または水を用いて所望の塗装方法に応じた粘度に希釈して被塗物に塗装される。塗装方法としては従来公知の方法、例えばローラー塗り、スプレー塗装、刷毛塗装などの方法によって直接1回又は2回以上塗装して仕上げることができる。
【0043】
下塗り塗料を塗装した後に常温乾燥又は焼付け乾燥により塗膜表面が乾燥した状態で所望の上塗り塗料を塗り重ね、常温乾燥でもよく焼付け乾燥でもよく目的とする複層塗膜を塗装した物品を得る。上塗り塗料の塗装は下塗り塗料の塗装直後でもよく、下塗り塗料の塗装後相当の期間が空いてもよい。
【0044】
上記上塗り塗料としてはその種類を問わず使用することが出来るが、焼付型上塗り塗料としてはアミノアルキド塗料またはアミノアクリル塗料をもちいると塗膜外観、物性、耐久性および下塗りとの付着性に優れた塗膜を得ることが出来る。この時焼付け条件は雰囲気温度60℃から160℃で5分間〜100分間が好ましい。また常乾上塗り塗料としては二液型常温硬化塗料をもちいるとやはり塗膜外観、物性、耐久性および下塗りとの付着性に優れた塗膜を得ることが出来る。このときの乾燥温度は室温〜80℃(強制乾燥)で、乾燥時間は3分〜7日間程度が好ましい。
【0045】
本発明の下塗り塗料を塗装する被塗物素材は特に限定しないが鋼材、アルミニウム材、合金素材などの金属素材が適しており、鋼構造物、建機、工作機械、自動車車体、自動車部品、フェンス、門扉、ガーデニング用品、家具、建具などの塗装に好適に用いる事が出来る。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に記す。但し本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例の記述中の「部」および「%」は夫々質量部および質量%を示すものである。

顔料分散ペーストの製造例
回転翼を備えた攪拌容器中にエポキー813(注1):640部、ディスパロン6900−20X(注2):36部、BYK−P104S(注3):3部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以降PMAと略称する):300部、キシレン400部、ブタノール:150部、TITANIX JR−605(注4):420部、三菱カーボンブラックMA−100(注5):2部、LF防錆ZP−50S(注6):300部、ミクロエースL−1(注7):120部、沈降性硫酸バリウム100(注8):240部、タンカル85(注9):450部を仕込み、約1000rpmで20分間撹拌前練した後、内容物を全量サンドミルに仕込み、サンドミル分散を行って粒度20μm以下(注10)の顔料分散ペーストを得た。得られたペーストの固形分は約60%、顔料/樹脂比(質量)は5.3/1であった。

注1:三井化学株式会社製 変性エポキシ樹脂ワニス、固形分45%。
注2:楠本化成株式会社製 沈降防止剤、固形分20%。
注3:BYKへミー社製 表面調整剤、固形分50%。
注4:テイカ株式会社製 二酸化チタン顔料。
注5:三菱化学製 黒鉛顔料。
注6:キクチカラー株式会社製 リン酸亜鉛系防錆顔料。
注7:日本タルク株式会社製 含水ケイ酸マグネシウム(タルク)。
注8:堺化学工業株式会社製 硫酸バリウム。
注9:竹原化学工業株式会社製 炭酸カルシウム。
注10:JIS K−5400分散度A法による。

塗料製造例1
回転翼を備えた攪拌容器中に上記で得た顔料分散ペースト:300部、エポキー803(注11):76.4部、1%BYK−240S(注12):0.3部、シリコーンKBM−403(注13):1.8部、TINUVIN900(注14):1.6部、TINUVIN144(注15):3.4部、PMA:9.8部、メチルイソブチルケトン:6.9部、ブタノール:7.8部、キシレン11.8部を仕込み充分に撹拌混合して塗料1を製造した。塗料の固形分は約53%、紫外線吸収剤の配合量は2.7PHR(PHRとは樹脂100質量部に対する配合物の質量部の意で用いる)、光安定剤の配合量は5.8PHR、シランカップリング剤の配合量は3.1PHRである。

注11:三井化学株式会社製 ウレタン変性エポキシ樹脂ワニス、固形分40%。
注12:BYKへミー社製 色別れ防止剤、市販品は固形分52%であるがキシレンで固
形分1%に希釈して使用。
注13:信越化学工業株式会社製 シランカップリング剤。
注14:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製 ベンゾトリアゾール系紫外線吸
収剤。
注15:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製 ヒンダードアミン系光安定化剤。

塗料製造例2〜8
表1に示した配合に従って塗料製造例1と同様にして塗料2〜8を製造した。また、表1には製造した塗料の固形分、紫外線吸収剤、光安定化剤およびシランカップリング剤の配合量も併せて示した。
【0047】
なお、塗料製造例3、5で用いたjER−1007Hはジャパンエポキシレジン株式会社製ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂をメチルイソブチルケトンとキシレンの1:1(質量)混合溶媒で固形分40%に希釈したものである。また、製造例8で用いたIRGANOX 1010はチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製 ヒンダードフェノール系光安定化剤である。











































表1

【0048】

実施例1
幅70mm×長さ150mm×厚さ0.8mmの研き軟鋼板の表面を脱脂した後、塗料製造例1で得た塗料1を乾燥膜厚20μmとなるようにスプレー塗装し、50℃で20分間強制乾燥して下塗り塗板を得た。その上にアスカベークNEO Gメタリック(関西ペイント製 シルバーメタリック色のアミノアクリル塗料)を乾燥膜厚がそれぞれ5μm、10μmおよび15μmとなるようスプレー塗装し、3分間セッティングした後熱風乾燥器により140℃で30分間焼付けを行い実施例1の試験塗板3種類を得た。このように上塗りの膜厚が異なる(上塗り塗膜の光線透過率を変動させた)試験板を用い、促進試験により性能評価を行った。

実施例2
塗料製造例1で得た塗料1を用い、実施例1と同様にして下塗り塗板を得た。その上にセラMレタン ブルー(関西ペイント製 アクリル/イソシアネート二液型常温硬化塗料 塗色は青色)を乾燥膜厚が夫々10、20、30μmとなるようにハケ塗りし常温で7日間静置し硬化させ実施例2の試験塗板3種類を得た。このように上塗りの膜厚が異なる(上塗り塗膜の光線透過率を変動させた)試験板を用い、促進試験により性能評価を行った。

実施例3〜10および比較例1〜6
下塗りおよび上塗り塗料の種類をかえて実施例3〜10および比較例1〜6の試験塗板を作成し促進試験による性能評価を行った。塗料の組み合わせおよび性能評価結果を表2a、bに示した。
【0049】
ここで下塗り塗板の製作過程は実施例1と同じであり、上塗りにアスカベークNEO Gメタリックを塗装する場合は実施例1の条件で試験板を作成した。又、表2では上塗りの欄に「焼付け」と表示した。上塗りにセラMレタン ブルーを塗装する場合は実施例2の条件で試験板を作成した。又、表2では上塗りの欄に「常乾」と表示した。表2中の上塗り膜厚1の欄は最も上塗り膜厚が薄い試験板、即ち焼付タイプのアスカベークNEO Gメタリックでは5μm、常乾タイプのセラMレタン ブルーでは10μmの試験板の、上塗り膜厚2の欄では焼付で10μmおよび常乾で20μmの、上塗り膜厚3の欄では夫々焼付で15μmおよび常乾で30μmの試験板の性能評価結果を示す。

促進試験による性能評価
下塗り/上塗り間の屋外での経年ハガレ性を評価するため促進暴露による付着性試験を行った。促進試験は以下に示す複合サイクル試験をおこない、下塗りと上塗りの間で塗膜の剥離が起こるまでのサイクル数で経年ハガレ性の良し悪しを評価した。
複合サイクル試験
1.JIS K5600−7−5の条件で運転したサンシャインカーボンアーク試験機で
60時間の光負荷を与える。
2.次に40℃の温水に24時間浸漬する。
3.水中から引き上げ表面の水をJIS P3801に規定する定性分析用ろ紙でふき取
り、一般状態で30分間乾燥した後、JIS K5628の6.10に記載の方法で
付着性試験を行う。
【0050】
以上1.〜3.を1サイクルとして、試験板表面につけた30度の角度で交差する切り傷に沿って幅1mm以上の塗膜間ハガレが認めらるまでのサイクル数をその試験板の評点とした。よって評点の数値が大きいほどその試験片は経年ハガレ性が優れている。(性能が高い)

表2a 実施例試験結果

【0051】

表2b


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂および/又は変性エポキシ樹脂、(B)紫外線吸収剤および光安定化剤、(C)防錆顔料および(D)溶剤を必須成分とする一液型下塗り塗料組成物。
【請求項2】
さらに(E)シランカップリング剤を含む請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
(A)エポキシ樹脂および変性エポキシ樹脂の樹脂固形分の合計100質量部に対し(B)紫外線吸収剤の配合量が0.1〜10質量部であり、かつ光安定化剤の配合量が0.2〜20質量部である請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
光安定化剤がヒンダードアミン化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
さらに(F)タルクを必須成分として含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗料組成物を下塗り塗料として塗装し、未硬化で又は硬化させた後にその上に上塗り塗料を塗り重ねる塗装方法。
【請求項7】
上塗り塗料としてアミノアルキド塗料またはアミノアクリル塗料を用いる請求項6に記載の塗装方法。
【請求項8】
上塗り塗料として2液型常温硬化塗料を用いる請求項6に記載の塗装方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載の塗装方法で塗装した物品。


【公開番号】特開2008−106177(P2008−106177A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291384(P2006−291384)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】