説明

一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物および複合塗膜

【課題】一液型であって塗膜形成の生産性に優れ、十分な耐擦傷性と耐湿性を備えたケイ素系塗膜を形成できる、一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物と、該塗料組成物からなる上塗り塗膜を備えた複合塗膜の提供。
【解決手段】特定の3種類のケイ素化合物を含むプラスチック基材用の一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物である。好適には、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートを含む塗料組成物から形成された下塗り塗膜上に、この一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物から上塗り塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材への保護被膜の形成に好適に使用される一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物と、該塗料組成物からなる上塗り塗膜を備えた複合塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート等からなるプラスチック基材には、耐擦傷性を高めることなどを目的として、保護被膜が形成されることが一般的である。このような保護被膜として、例えば特許文献1には、ケイ素化合物を含有する塗料から形成されるケイ素系塗膜が開示されている。特許文献1に記載された塗料は、ケイ素化合物と、活性エネルギー線感応性酸発生剤とからなり、活性エネルギー線の照射により活性エネルギー線感応性酸発生剤から発生した酸(ルイス酸)を触媒として、ケイ素化合物がカチオン重合によりシロキサン結合を形成し、塗膜化するものである。
このようにして形成されるケイ素系塗膜は、プラスチック基材との密着性が不十分であるため、プラスチック基材上には、まずプライマーとしての下塗り塗膜が形成され、その上に、ケイ素系塗膜が上塗り塗膜として形成されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−188035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された塗料は、酸を触媒としたカチオン重合により塗膜化するものであるため、水分の影響により不安定になりやすい。このような不安定な塗料を一液型塗料とすることは困難であり、通常は二液型塗料とせざるを得ない。二液型塗料は、塗装時に二液を混合する作業が必要であり、塗膜形成の生産性に劣る。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、一液型であって塗膜形成の生産性に優れ、十分な耐擦傷性と耐湿性を備えたケイ素系塗膜を形成できる、一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物と、該塗料組成物からなる上塗り塗膜を備えた複合塗膜の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、ケイ素系塗膜を形成するための塗料として、特定のケイ素化合物を3種類組み合わせて用いることにより、ラジカル重合により塗膜化する一液型の塗料組成物であり、かつ、十分な耐擦傷性と耐湿性を備えたケイ素系塗膜を形成可能な塗料組成物を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明のプラスチック基材用の一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物は、下記式(1)〜(3)で表されるケイ素化合物を含む。
【化1】

(式(1)中、Rは(メタ)アクリロイル基、nは2〜4の整数をそれぞれ示す。)
【化2】

(式(2)中、Rはメチル基またはエチル基、nは1〜3の整数をそれぞれ示す。)
【化3】

(式(3)中、nは1〜3の整数をそれぞれ示す。)
前記式(1)〜(3)で表されるケイ素化合物の合計100質量%中に、前記式(1)で表されるケイ素化合物が30〜75質量%含まれ、前記式(2)で表されるケイ素化合物と前記式(3)で表されるケイ素化合物とが合計で25〜70質量%含まれることが好ましい。
本発明の複合塗膜は、前記一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物から形成された上塗り塗膜と、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートを含む塗料組成物から形成された下塗り塗膜とを備えたことを特徴とする。
本発明の塗膜形成方法は、前記一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射した後、温度20〜30℃、湿度50〜80%の条件で24時間保持する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、一液型であって塗膜形成の生産性に優れ、十分な耐擦傷性と耐湿性を備えたケイ素系塗膜を形成できる、一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物と、該塗料組成物からなる上塗り塗膜を備えた複合塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物(以下、塗料組成物(A)という場合もある。)は、プラスチック基材の保護被覆を形成するために使用され、好適には、下塗り塗膜上に設けられる上塗り塗膜形成用の塗料として用いられる。
[塗料組成物(A)]
塗料組成物(A)は、下記式(1)で表されるケイ素化合物(i)と、下記式(2)で表されるケイ素化合物(ii)と、下記式(3)で表されるケイ素化合物(iii)とを含有する。
【0009】
【化4】

式(1)中、Rは(メタ)アクリロイル基、nは2〜4の整数をそれぞれ示す。
【0010】
【化5】

式(2)中、Rはメチル基またはエチル基、nは1〜3の整数をそれぞれ示す。4つのRは、すべて同じでも、一部がメチル基で残りがエチル基であってもよい。
【0011】
【化6】

式(3)中、nは1〜3の整数をそれぞれ示す。
【0012】
式(1)のケイ素化合物(i)は、Rとして(メタ)アクリロイル基を有するため、活性エネルギー線が照射されるとラジカル重合により硬化する。よって、ケイ素化合物(i)を用いることにより、塗料組成物(A)を活性エネルギー線硬化性とすることができる。また、ケイ素化合物(i)は塗料安定性(貯蔵安定性)に優れるため、これを用いることにより、塗料組成物(A)としての塗料安定性も高まり、塗料組成物(A)を一液型とすることが可能となる。
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基とメタクリロイル基との両方を意味し、(メタ)アクリレートとは、メタアクリレートとアクリレートとの両方を意味する。
【0013】
ケイ素化合物(i)は、上記式(1)中のnが2〜4である。このようにnが2以上であると、ケイ素化合物(i)は(メタ)アクリロイル基を2以上有する多官能となり、活性エネルギー線硬化性の観点から好適である、一方、nが大きすぎると、単位質量あたりのアルコキシ基の数が少なくなり、湿度による架橋反応には寄与しにくくなる。よってその点から、nは4以下が好適である。
このようなケイ素化合物(i)としては、例えば、Rがアクリロイル基、nが2および3の混合物である信越化学社製「KR−513」、Rがメタクリロイル基、nが2および3の混合物である信越化学社製「X−40−2655A」などが挙げられる。ケイ素化合物(i)としては、上記式(1)を満足する化合物を1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0014】
ケイ素化合物(i)は、式(1)〜(3)で表されるケイ素化合物(i)〜(iii)の合計100質量%中に、30〜75質量%含まれることが好ましく、50〜75質量%含まれることがより好ましい。この範囲未満では、塗料組成物(A)の塗料安定性が低下し、また、塗料組成物(A)により形成された塗膜にはタックが認められる。一方、この範囲を超えると、塗料組成物(A)により形成された塗膜の耐擦傷性、耐湿性が劣る。
【0015】
式(2)のケイ素化合物(ii)は、側鎖としてアルコキシ基のみを有するものであるため、架橋点が多く反応性に富む。よって、ケイ素化合物(ii)を用いることによって、塗料組成物(A)から形成された塗膜は架橋密度が高まって高硬度となり、耐擦傷性に非常に優れる。
【0016】
ケイ素化合物(ii)は、上記式(2)中のnが1〜3である。このようにnが3以下であると、単位質量あたりの官能基数が多くなるために、架橋点間分子量が小さくなり、高硬度塗膜が得られやすい。また、粘度が低くなり、塗装性に優れる。
このようなケイ素化合物(ii)としては、例えばRがメチル基、nが2および3の混合物である信越化学社製「X−40−2308」、Rがエチル基、nが2および3の混合物である信越化学社製「X−40−9238」などが挙げられる。ケイ素化合物(ii)としては、上記式(2)を満足する化合物を1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0017】
ケイ素化合物(ii)を用いることによって、上述のとおり、塗料組成物(A)から形成される塗膜の架橋密度は高まるが、架橋密度が高まりすぎると、塗膜の耐擦傷性は優れるものの、耐湿性が低下し、クラックが発生する傾向にある。よって、次に説明するケイ素化合物(iii)を併用することが必要である。
【0018】
ケイ素化合物(iii)は、塗料組成物(A)から形成される塗膜の架橋密度を調整し、塗膜の耐湿性を高め、クラックの発生を抑制するものであって、nが1〜3である。このようにnが3以下であると、十分な塗膜硬度が得られる。
このようなケイ素化合物(iii)としては、例えばnが2および3の混合物である信越化学社製「X−40−2327」などが挙げられる。ケイ素化合物(iii)としては、上記式(3)を満足する化合物を1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0019】
ケイ素化合物(ii)およびケイ素化合物(iii)は、式(1)〜(3)で表されるケイ素化合物(i)〜(iii)の合計100質量%中に、合計で25〜70質量%含まれることが好ましい。ケイ素化合物(ii)とケイ素化合物(iii)の合計量がこの範囲未満では、塗料組成物(A)から形成された塗膜の耐擦傷性、耐湿性が劣る。一方、この範囲を超えると、塗料組成物(A)の塗料安定性が低下し、また、塗膜にはタックが認められるようになる。
【0020】
ケイ素化合物(ii)とケイ素化合物(iii)との質量比率は、ケイ素化合物(ii):ケイ素化合物(iii)=1:1〜3の範囲が好ましい。ケイ素化合物(iii)の質量比率がこの範囲未満では、塗料組成物(A)から形成された塗膜の耐湿性が低下する傾向があり、この範囲を超えると耐擦傷性が低下する傾向がある。
【0021】
塗料組成物(A)には、通常、上記ケイ素化合物(i)〜(iii)の他に、光重合開始剤と、アルコキシシリル基を空気中の水分により加水分解、縮合するための触媒とが含まれる。
光重合開始剤としては、ラジカル重合用開始剤であれば特に限定されないが、例えば市販品として、BASFジャパン社製のイルガキュア184、イルガキュア149、イルガキュア651、イルガキュア907、イルガキュア754、イルガキュア819、イルガキュア500、イルガキュア1000、イルガキュア1800、イルガキュア754が挙げられる。その他には、ルシリンTPO(BASF製)、日本化薬社製のカヤキュアDETX−S、カヤキュアEPA、カヤキュアDMBI等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組合せて使用することができる。このうち、イルガキュア184が好ましい。また、光重合開始剤とともに、光増感剤や光促進剤を使用してもよい。
【0022】
光重合開始剤の使用量としては、通常用いられる量でよく、例えばケイ素化合物(i)〜(iii)の合計100質量部に対して0.5〜5.0質量部である。
また、塗料組成物(A)は、希釈溶剤を含んでも含まなくてもよく、必要に応じて、塗料用の公知の希釈溶剤を用いてもよい。
【0023】
触媒としては、例えばHCl、HSO、HPO、CHSOHのような酸触媒;NaOH、KOH、CHONa、CH30K、CHCOONa、CHCOOKのようなアルカリ金属化合物;NH;EtNH、EtNH、EtN、DBU、HNCSi(OMe)のアミン系化合物;Al(acac)、Al(O−i−Pr)、Al(ClO、Ti(O−i−Pr)、Ti(O−i−Bu)、BuSn(acac)、BuSn(C15COO)のようなアルミニウム系、チタン系、スズ系の金属触媒など、公知のものが挙げられる。これらの中でも、得られる塗膜の耐擦傷性の観点から、アルミニウム系触媒が好適である。
これら触媒の塗料組成物(A)中の含有量は、ケイ素化合物(i)〜(iii)の合計100質量部に対して5.0〜30.0質量部が好ましい。
【0024】
塗料組成物(A)は、ケイ素化合物(i)〜(iii)と上述の光重合開始剤および触媒を混合することにより調製できる。この塗料組成物(A)をプラスチック基材に塗装するに際しては、プラスチック基材にあらかじめプライマーとしての下塗り塗膜を形成しておき、この下塗り塗膜の上に、塗料組成物(A)を塗装して、上塗り塗膜を形成することが、付着性の点で好ましい。特に、次に説明する一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物(以下、塗料組成物(B)という場合もある。)を用いて形成された下塗り塗膜であれば、上塗り塗膜との付着性が特に優れる。
【0025】
[塗料組成物(B)]
塗料組成物(B)は、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートと、二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂とを含む。
脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えばポリオールとポリイソシアネートとを反応させたウレタンプレポリマーと、水酸基を含有する(メタ)アクリレートとを反応させる公知の製造方法で得られたものを使用できる。
ポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオールなどの多価アルコール、多価アルコールとアジピン酸などの多塩基酸との反応によって得られるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、さらには、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられ、これらを単独又は2種以上組合せて使用できる。特に、プラスチック基材に対する付着性、耐擦傷性の観点から、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、及び、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンが好ましい。
【0026】
ポリイソシアネート化合物としては、上記塗料組成物(A)から形成される上塗り塗膜との付着性、耐擦傷性の観点から、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン等の脂環構造を有するポリイソシアネートが挙げられ、これらを単独又は2種以上組合せて使用できる。
脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートを製造するためには、ポリイソシアネート化合物として、脂環構造を有する化合物を使用すればよい。
【0027】
水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリルレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらを単独又は2種以上組合せて使用できる。
【0028】
上述したポリオールとポリイソシアネートを反応させ、得られたウレタンプレポリマーに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させることによって、ウレタン(メタ)アクリレートが得られる。この際、ポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとの当量比は1:1.1〜2.0:0.1〜2.2程度とすることが好適である。また、反応には公知の反応触媒を使用できる。
【0029】
脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートは、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートと二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂との合計100質量%中、30〜90質量%含まれることが好ましい。この範囲未満では、塗料組成物(B)から形成される下塗り塗膜と、塗料組成物(A)から形成される上塗り塗膜との付着性が低下する傾向がある。一方、この範囲を超えると、塗料組成物(B)から形成される下塗り塗膜のプラスチック基材に対する付着性が低下する傾向がある。
【0030】
二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられ、これら単独または2種以上使用できる。
【0031】
二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂は、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートと二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂との合計100質量%中、10〜70質量%含まれることが好ましい。この範囲未満では、塗料組成物(B)から形成される下塗り塗膜のプラスチック基材に対する付着性、特にプラスチック基材がポリカーボネートである場合の付着性が低下する傾向がある。一方、この範囲を超えると、塗料組成物(B)から形成される下塗り塗膜と、塗料組成物(A)から形成される上塗り塗膜との付着性が低下する傾向がある。
【0032】
塗料組成物(B)は、通常、光重合開始剤を含む。光重合開始剤としてはラジカル重合用開始剤であれば特に制限がなく、先に塗料組成物(A)が含有可能なものとして例示した光重合開始剤を同様に含むことができ、単独又は2種以上組合せて使用することができる。このうち、イルガキュア184が好ましい。また、光重合開始剤とともに、光増感剤や光促進剤を使用してもよい。
【0033】
光重合開始剤の使用量としては、通常用いられる量でよく、例えば脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートと二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂との合計100質量部に対して、0.5〜5.0質量部である。
また、塗料組成物(B)は、希釈溶剤を含んでも含まなくてもよく、必要に応じて、塗料用の公知の希釈溶剤を用いてもよい。
【0034】
また、塗料組成物(B)は、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調整剤、可塑剤、顔料沈降防止剤など、通常の塗料に用いられる添加剤を本発明の効果が損なわれない範囲で含んでもよい。塗料組成物(B)は、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレート、二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂、光重合開始剤の他、溶剤、各種添加剤などを混合することにより調製できる。
【0035】
[複合塗膜および塗膜形成方法]
本発明の複合塗膜は、プラスチック基材上に、上述の塗料組成物(A)から形成された上塗り塗膜と、該上塗り塗膜のプライマーとして、上述の塗料組成物(B)から形成された下塗り塗膜とを備える。
プラスチック基材の材質としては、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、アクリル樹脂(AC)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。
また、プラスチック基材の用途としては、例えば自動車のフロントガラス、リヤガラス、サイドガラス、ルーフガラス等の車両窓ガラス用の板材、高速道路の防音壁材、校舎の窓ガラス用の板材などが挙げられる。
【0036】
複合塗膜は次のようにして形成することができる。
まず、プラスチック基材上に下塗り塗膜用として塗料組成物(B)を塗布する。具体的には、例えば、塗膜厚さが15〜20μm程度となるように、スプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法等で塗布する。ついで、活性エネルギー線として、例えば100〜3000mJ程度(日本電池(株)製「UVR−N1」による測定値)の紫外線をヒュージョンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を用いて1〜10分間程度照射することにより、塗膜を形成する。なお、活性エネルギー線としては、紫外線の他、電子線、ガンマ線なども使用できる。
【0037】
ついで、こうして形成された下塗り塗膜の上に、塗料組成物(B)について例示した塗装方法などを採用して、塗料組成物(A)を塗布し、活性エネルギー線を照射することにより、上塗り塗膜を形成することができる。上塗り塗膜の塗膜厚さは3〜6μm程度が好ましく、より好ましくは3μmである。よって、このような塗膜厚さとなるように、塗料組成物(A)を塗布する。
また、上塗り塗膜の形成においては、活性エネルギー線照射により塗膜を硬化した後、温度20〜30℃、湿度50〜80%の条件で24時間以上放置する工程を行うことが好ましい。このような工程を行うと、塗料組成物(A)中のケイ素化合物(ii)および(iii)による硬化反応が良好に進行し、塗膜特性(特に耐擦傷性など。)が向上する傾向があるため好ましい。
【0038】
以上説明したように、塗料組成物(A)は、特定のケイ素化合物(i)〜(iii)を組み合わせて用いたものであるため、ラジカル重合により塗膜化する一液型の塗料組成物とすることができ、かつ、十分な耐擦傷性と耐湿性を備えたケイ素系塗膜を形成できる。
また、プラスチック基材上に塗料組成物(A)で塗膜を形成する際には、予め、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートと二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂とを含有する塗料組成物(B)から下塗り塗膜を形成しておくことが好ましい。このような下塗り塗膜は、基材との付着性、塗料組成物(A)から形成される塗膜との付着性に優れ、プライマーとして好適である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[塗料組成物(A1〜A11)の製造]
表1に示す配合部数(質量部数)で、各ケイ素化合物(i)〜(iii)と、光重合開始剤と、アルミニウム系硬化触媒とを配合して均一に混合し、上塗り塗膜用の塗料組成物(A1)〜(A11)を製造した。なお、光重合開始剤としては「イルガキュア184」(BASFジャパン社製)を用い、アルミニウム系硬化触媒としては「X−9740」(信越化学社製)を用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1中の略号は下記化合物を示す。
KR−513:信越化学(株)製「KR−513」
X−40−2655A:信越化学(株)製「X−40−2655A」
X−40−2308:信越化学(株)製「X−40−2308」
X−40−9238:信越化学(株)製「X−40−9238」
X−40−2327:信越化学(株)製「X−40−2327」
【0042】
[塗料組成物(B1〜B11)の製造]
(1)脂環構造を有するウレタンアクリレート(U1)の製造
1,6−ヘキサンジオール(宇部興産製)59質量部、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(住友バイエルウレタン社製)262質量部を、攪拌機、温度計を備えた500mlのフラスコに仕込み、窒素気流下において70℃で4時間反応させウレタンプレポリマーを得た。ついで、このフラスコ中にさらに2−ヒドロキシエチルアクリレート(共栄化学工業製)116質量部、ハイドロキノン0.6質量部、ジブチルスズジラウレート0.3質量部を加え、フラスコ内の内容物に窒素をバブリングしながら、70℃でさらに5時間反応させ、脂環構造を有するウレタンアクリレート(U1)を得た。
(2)脂環構造を有するウレタンアクリレート(U2)の製造
4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(住友バイエルウレタン社製)262質量部を1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(三井武田ケミカル製)194質量部に変更した以外は、上記ウレタンアクリレート(U1)の製造法と同様にして、脂環構造を有するウレタンアクリレート(U2)を得た。
(3)表2に示す配合部数(質量部数)で、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレート(U1)、(U2)と、二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂と、光重合開始剤とを配合して均一に混合し、下塗り塗膜用の塗料組成物(B1)〜(B11)を製造した。なお、光重合開始剤として「イルガキュア184」(BASFジャパン社製)を用いた。
【0043】
【表2】

【0044】
表2中の略号は下記化合物を示す。
SR399:サートマー社製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
EB1290K:ダイセルUCB社製、脂肪族系イソシアネートのウレタンアクリレート
1,9−NDA:共栄社化学社製、ノナンジオールジアクリレート
3EGA:共栄社化学社製、トリエチレングリコールジアクリレート
【0045】
[実施例1]
プラスチック基材として、板状のポリカーボネート基材、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂基材、アクリル樹脂基材の3種類を用意した。そして、各プラスチック基材上に、塗料組成物(B1)をバーコーター#30で塗布し、5分間室温にて放置してから約500mJ/cmのエネルギー量の紫外線を照射して硬化させ、下塗り塗膜(厚さ15μm)を形成し、試験片1とした。
試験片1の下塗り塗膜の上に、塗料組成物(A1)をバーコーター#4で塗布し、5分間室温にて放置してから約500mJ/cmのエネルギー量の紫外線を照射して硬化させ、上塗り塗膜(厚さ3μm)を形成し、複合塗膜を備えた試験片2とした。
試験片1および試験片2を用いて、以下の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0046】
(1)各基材と下塗り塗膜との初期付着性
試験片1の下塗り塗膜に対して、1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(登録商標)を使用した。
○:剥離を認めず
×:剥離あり
【0047】
(2)上塗り塗膜の活性エネルギー線硬化性
試験片2の複合塗膜に指で触れ、タックの有無により評価した。
○:タックフリー
×:タックあり
【0048】
(3)下塗り塗膜と上塗り塗膜との初期付着性
試験片2の複合塗膜に対して、1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(登録商標)を使用した。
○:剥離を認めず
×:剥離あり
【0049】
(4)耐擦傷性
試験片2を用いて、(i)初期(活性エネルギー線照射のみ)、(ii)20℃、湿度50%にて24時間放置後、(iii)30℃、湿度80%にて24時間放置後のそれぞれの複合塗膜について、耐擦傷性を評価した。
具体的には、試験片2の複合塗膜をテーバー磨耗装置(テスター産業社製「AB−101 Taber Type Abrasion Tester」)により、加重500g、1000回転の条件で磨耗させ、摩耗させた後のΔヘイズ値により評価した。
◎:Δヘイズ<5.0
○:5.0≦Δヘイズ≦10.0
×:10.0<Δヘイズ、
【0050】
(5)耐湿性
試験片2を50℃、湿度90%の条件下で10日間放置した後、試験片2の複合塗膜に対して、1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(登録商標)を使用した。
○:剥離を認めず
×:剥離なし
【0051】
[実施例2〜14]
表3〜4に示す塗料組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、試験片1、試験片2を得て、同様の評価を行った。評価結果を表3〜表4に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
[比較例1]
X−40−2308(信越化学社製)100質量部、カチオン重合系硬化剤UVACURE1590(ダイセルサイテック社製)1質量部を混合し、上塗り塗膜用の一液型塗料組成物を調製しようとしたが、混合の直後に白濁が認められ、一液型とすることができなかった。
【0055】
[比較例2〜4]
表5に示す塗料組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして試験片2を得て、(2)上塗り塗膜の活性エネルギー線硬化性の評価を行った。そして、良好であったものについては、表5に示す評価を行った。評価結果を表5に示す。
表5中、「−」は評価していないことを示す。
【0056】
【表5】

【0057】
[参考例1]
各プラスチック基材上に、直接、塗料組成物(A1)をバーコーター#4により塗布し、5分間室温にて放置してから約500mJ/cmのエネルギー量の紫外線を照射して硬化させ塗膜を得た。しかし、この塗膜は、いずれの各プラスチック基材にも付着しなかった。
【0058】
[参考例2〜5]
表6に示す塗料組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、試験片1、試験片2を得て、表6に示す評価を行った。評価結果を表6に示す。
表6中、「−」は評価していないことを示す。
表6に示すように、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートおよび二官能以上の活性エネルギー線硬化型樹脂のうち、一方を含まない塗料組成物(B8)〜(B11)から形成された下塗り塗膜は、初期付着性が十分ではない傾向が認められた。
【0059】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)〜(3)で表されるケイ素化合物を含むことを特徴とするプラスチック基材用の一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは(メタ)アクリロイル基、nは2〜4の整数をそれぞれ示す。)
【化2】

(式(2)中、Rはメチル基またはエチル基、nは1〜3の整数をそれぞれ示す。)
【化3】

(式(3)中、nは1〜3の整数をそれぞれ示す。)
【請求項2】
前記式(1)〜(3)で表されるケイ素化合物の合計100質量%中に、前記式(1)で表されるケイ素化合物が30〜75質量%含まれ、前記式(2)で表されるケイ素化合物と前記式(3)で表されるケイ素化合物とが合計で25〜70質量%含まれることを特徴とする請求項1の一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物から形成された上塗り塗膜と、脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートを含む塗料組成物から形成された下塗り塗膜とを備えたことを特徴とする複合塗膜。
【請求項4】
請求項1または2に記載の一液型活性エネルギー線硬化性塗料組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射した後、温度20〜30℃、湿度50〜80%の条件で24時間以上保持する工程を有することを特徴とする塗膜形成方法。

【公開番号】特開2012−92264(P2012−92264A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242416(P2010−242416)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】