説明

一液性の歯科用接着性組成物

【課題】 本発明は、歯科用セラミックスまたは、無機化合物を含む有機質複合体のいずれの材料に対しても優れた接着性を発現させることができ、さらに、保存安定性に優れた一液性の歯科用接着性組成物を提供することをその目的とする。
【解決手段】 (a)シランカップリング剤:1.0−40.0重量部、
(b)有機酸、ホウ酸、およびケイ酸の内1つ以上の水溶液系で酸解離指数pKaが3以上の弱酸性化合物:0.01−0.4重量部、
(c)HF、HCl、HBr、HI、HNO、HClO、HClO、HBrO、HMnO、HSO、およびHPOの内1つ以上の酸解離指数pKaが3未満の強酸性化合物:0.01−0.4重量部、
(d)水:0.1−5.0重量部、および
(e)揮発性有機溶媒:20.0−99.0重量部を、
含むことを特徴とする一液性の歯科用接着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体(以下、複合材料と呼ぶ場合がある)のいずれの材料に対しても優れた接着性を発現させることができ、さらに、保存安定性に優れた一液性の歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用修復材料には、歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体が用いられていることが多い。代表的なものに、歯科用陶材(二酸化ケイ素が主成分)、アルミナ、ジルコニア、複合材料などがある。
【0003】
これらの接着において、シランカップリング剤を主成分とする組成物によって、接着の向上を試みることが知られている。また、接着の向上には、シランカップリング剤と共に酸性化合物が必要であり、シランカップリング剤と酸性化合物の両方が配合された組成物が販売されている。
【0004】
しかし、通常シランカップリング剤と酸性化合物を同一溶媒に長期保存することができないために、2種類の材料を使用直前に混合して使用しなければならなかった。従って、使用前に混合などの手間が必要でなく、貯蔵安定性に優れた材料が求められていた。
【0005】
特許第2730677号から、シランカップリング剤、酸、水、および溶媒を含む組成物が公知であるが、該組成物は、シランカップリング剤の配合量が少なく、十分な接着強度が得られない。
【特許文献1】特許第2730677号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体のいずれの材料に対しても優れた接着性を発現させることである。さらに、作業時間の短縮、テクニカルエラーの軽減等の目的で、使用者からの要望の多数を占める操作性の良好な歯科用接着性組成物を提供することであり、つまり、一液性の歯科用接着性組成物を提供することにある。
【0007】
本発明では、シランカップリング剤および、酸性化合物、水を同じ溶液として調製された一液型歯科用接着性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、(a)シランカップリング剤:1.0−40.0重量部、(b)有機酸、ホウ酸、およびケイ酸の内1つ以上の水溶液系で酸解離指数pKaが3以上の弱酸性化合物:0.01−0.4重量部、(c)HF、HCl、HBr、HI、HNO、HClO、HClO、HBrO、HMnO、HSO、およびHPOの内1つ以上の酸解離指数pKaが3未満の強酸性化合物:0.01−0.4重量部、(d)水:0.1−5.0重量部、および(e)揮発性有機溶媒:20.0−99.0重量部を含むことを特徴とする一液性の歯科用プライマー組成物である。
【0009】
このような構成を採用することにより、本発明は、歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体のそれぞれに対して従来見られない優れた接着性とその耐久性をもたらし、操作性も簡便で、かつ貯蔵安定性に優れることを特徴とする。
【0010】
また、(a)シランカップリング剤としては、下記一般式[1]で表されることを特徴とする。
【0011】
【化1】

(上式において、R1は(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、メルカプト基、およびエポキシ基よりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1個有する有機残基を表わし、R2は水酸基、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表わし、およびR3およびR4はそれぞれ水酸基または炭素数1〜5のアルコキシ基を表わす。)
【0012】
好ましい(a)シランカップリング剤としては、上記一般式[1]において、R1が(メタ)アクリロイル基およびビニル基よりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1個有する有機残基であり、R2が水酸基、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のアルコキシ基であり、およびR3およびR4がそれぞれ水酸基または炭素数1〜5のアルコキシ基である化合物である。
【0013】
(b)弱酸性化合物としては、水溶液系で酸解離指数pKaが3以上のもので、有機酸、ホウ酸、ケイ酸などである。具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、フェノール、炭酸などが挙げられる。
【0014】
(c)強酸性化合物としては、水溶液系で酸解離指数pKaが3未満のものである。具体的には、HF、HCl、HBr、HI、HNO、HClO、HClO、HBrO、HMnO、HSO、HPOなどが挙げられる。
【0015】
また、(e)揮発性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル、さらに(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニルエステル等のラジカル重合可能なモノマーなどであることが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の歯科用接着性組成物を使用することにより、歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体のいずれの材料に対しても優れた接着性と耐久性を発現させることができ、さらに、保存安定性に優れており、操作が簡便である。
【0017】
本発明の歯科用接着性組成物の具体的用途としては、歯科修復物・歯科修復材・歯科装置のいずれかの相互間の接着において、歯科修復物・歯科修復材・歯科装置のいずれかが、歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体である時にレジン系材料との接着に用いる。
【0018】
本発明の歯科用接着性組成物は一液型接着性組成物であるために、操作が簡便である。従来、二液混合型の商品形態であるために、使用時に混合操作が必要であり、操作が煩雑であり、作業時間において損失であり、さらに、二液の適切な混合比率を確保し、十分な混合操作がなされているかどうか不明な点も多く、テクニカルエラーを生じやすいため、損失である。本発明は、プライマーとして用いることもできるものであり、他の接着剤と同時に使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の歯科用接着性組成物における具体的な実施の形態例は、一液型歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体接着性プライマー、歯科用接着剤、接着性コンポジットレジン、レジンセメントである。
【0020】
特に、歯科用セラミックスまたは無機化合物を含む有機質複合体接着性一液型プライマーとしての使用において、きわめて簡単な処理で高い接着性を発現させることができる。本発明の接着性組成物は、その態様として歯科用のボンディング剤、接着性コンポジットレジン、歯列矯正用接着剤、レジンセメント、デユアルキュアー型レジンセメント、オペーク剤、コンポマー、レジンコア、前装冠材料等に使用できる。
【0021】
本発明において用いられる(a)シランカップリング剤としては、セラミック材料に対する良好な接着を得るために接着性組成物および/または被着体材料中の重合性単量体成分と共重合あるいは化学結合の形成が可能な官能基を有するシランカップリング剤を用いることが重要である。
【0022】
本発明では、この条件を満たすシランカップリング剤として、上記一般式(1)で表わされるシラン化合物が用いられる。R1が有する上記の官能基のうち、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、およびスチリル基は(メタ)アクリル酸エステルモノマーとの共重合により、メルカプト基は連鎖移動・停止反応に由来する化学結合の形成により、エポキシ基はこれと反応が可能なアミノ基、カルボキシル基などを有するモノマーと化学結合を形成することにより、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合体に連結される。シランカップリング剤と被着体表面のシラノール基の縮合を迅速ならしめるには、R2、R3およびR4はそれぞれ炭素数1〜5の低級アルコキシ基または水酸基であることが好ましい。ただし、R2については炭素数1〜5のアルキル基であってもよい。上記の条件を満足するシランカップリング剤の具体例としては、下記のものが例示される。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
【化15】

【0037】
好ましい(a)シランカップリング剤としては、上記一般式[1]において、R1が(メタ)アクリロイル基、およびビニル基よりなる群から選ばれた官能基を少なくとも1個有する有機残基であり、R2が水酸基、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜5のアルコキシ基であり、およびR3およびR4はそれぞれ水酸基または炭素数1〜5のアルコキシ基である化合物である。
【0038】
特に好ましい(a)シランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランおよび3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0039】
(a)シランカップリング剤の配合割合は、当該組成物の使用目的により適宜変化させることができ、好ましくは1.0−40.0重量部の範囲である。
【0040】
また、(b)弱酸性化合物としては、水溶液系で酸解離指数pKaが3以上のもので、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、フェノール、炭酸などが挙げられる。
【0041】
(b)弱酸性化合物の配合割合は、当該組成物の使用目的により適宜変化させることができ、好ましくは0.01−0.4重量部の範囲である。
【0042】
また、(c)強酸性化合物としては、水溶液系で酸解離指数pKaが3未満のもので、HF、HCl、HBr、HI、HNO、HClO、HClO、HBrO、HMnO、HSO、HPOなどが挙げられる。
【0043】
(c)強酸性化合物の配合割合は、当該組成物の使用目的により適宜変化させることができ、好ましくは0.01−0.4重量部の範囲である。
【0044】
本発明における(e)揮発性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、酢酸エチル、イソプロピルエーテル、さらに(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニルエステル等のラジカル重合可能なモノマーなどが挙げられる。
【0045】
好ましくは、エタノールおよびアセトンであり、(e)揮発性有機溶媒の配合割合は、当該組成物の使用目的により適宜に変化させることができ、20.0−99.0重量部の範囲内である。
【0046】
本発明の歯科用接着性組成物は、上記の(a)シランカップリング剤、(b)弱酸性化合物、(c)強酸性化合物、(d)水、および(e)揮発性有機溶媒を必須として、その他成分を適宜選択して加えることができるが、その用途に応じて添加成分、即ち、ラジカル重合性単量体、光重合開始材、光重合促進材、熱重合開始材、重合触媒、無機及び有機充填材、重合抑制材、顔料などが適宜配合されても良い。
【0047】
本発明における歯科用接着性組成物にはラジカル重合性単量体を添加できる。ラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートおよび水酸基やハロゲンによるそのアルキル側鎖置換体、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス{4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル}プロパン、2,2'−ビス{4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル}プロパン、2,2'−ビス{4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル}プロパン、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、エポキシ−(メタ)アクリレート、有機ジイソシアネートと(メタ)アクリル酸オキシアルキルとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレート類、ウレタンプレポリマー(有機ジイソシアネートとジオールの反応生成物)と少なくとも2個の炭素原子を有するオキシアルカノールの(メタ)アクリル酸エステルとの反応生成物で少なくとも2個の重合性エチレン性不飽和基を含む重合性プレポリマー、エチレン性不飽和基を有する二塩基性カルボン酸と二価のアルコールとの反応生成物(すなわち、一般的にエチレン性不飽和基を有するポリエステル)などが挙げられる。
【0048】
これらのラジカル重合性単量体は、単独でまたは、適宜組み合せて使用されるが、中でも、ジ(メタ)アクリレート等の重合性単量体のビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレートとトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートとの組合せが好ましい。
【0049】
本発明で用いられる重合開始材は、一般に歯科用組成物で用いられている公知の化合物が何等制限無く使用される。重合開始材は、一般に、熱重合開始材と光重合開始材に分類される。
【0050】
光重合開始材としては、光照射によりラジカルを発生する光増感材を用いることができる。紫外線に対する光増感材の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン化合物系、アセトインベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、等のチオキサントン系化合物が挙げられる。また、可視光線で重合を開始する光増感材は、人体に有害な紫外線を必要としないために好適に使用される。これらの例としては、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類が挙げられる。好ましくは、カンファーキノンが用いられる。
【0051】
また、上記光増感材に光重合促進材を組み合わせて用いることも好ましい。特に第三級アミン類を光重合促進材として用いる場合には、芳香族基に直接窒素原子が置換した化合物を用いることがより好ましい。かかる光重合促進材としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、また、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類及び、そのナトリウム塩、カルシウム塩などの金属塩類、さらに、ジブチル−錫−ジアセテート、ジブチル−錫−ジマレエート、ジオクチル−錫−ジマレエート、ジオクチル−錫−ジラウレート、ジブチル−錫−ジラウレート、ジオクチル−錫−ジバーサテート、ジオクチル−錫−S,S’−ビス−イソオクチルメルカプトアセテート、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等の錫化合物類等も使用できる。これらの光重合促進材のうち少なくとも一種を選んで用いることができ、さらに二種以上を混合して用いることもできる。上記開始材および促進材の添加量は適宜決定することができる。
【0052】
さらに、光重合促進能の向上のために、第三級アミンに加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
【0053】
熱重合開始材として具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物類が好適に使用される。
【0054】
また、上記有機過酸化物とアミン化合物とを組み合わせて用いることにより、重合を常温で行うこともできる。このようなアミン化合物としては、アミン基がアリール基に結合した第二級または第三級アミンが、硬化促進の観点より好適に用いられる。例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N−メチル−アニリン、N−メチル−p−トルイジンが好ましい。
【0055】
上記有機過酸化物とアミン化合物との組合せに、さらにスルフィン酸塩またはボライドを組み合わせることも好適である。かかるスルフィン酸塩類としては、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。ボライドとしてはトリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。また、酸素や水との反応によりラジカルを発生するトリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類は有機金属型の重合開始材としても使用することができる。
【0056】
本発明の歯科用接着性組成物には、必要に応じて、公知の各種添加材を配合することができる。かかる添加材の例としては、重合禁止材、着色材、変色防止材、蛍光材、紫外線吸収材、抗菌材等が挙げられる。
【0057】
無機および有機充填材としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体、ポリスチレン等の有機ポリマー粉末、熱硬化性樹脂硬化物または無機充填材を含む熱硬化性樹脂硬化物等を粉砕した有機充填材、または無機充填材(カオリン、タルク、石英、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミノシリケート、窒化けい素、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス粉など)、無機充填材と有機充填材との複合充填材等が挙げられ、当該組成物を粉/液タイプ、ペースト状、スラリー状で用いるのに適している。これらは、シラノール基を含むカップリング材(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなど)で表面を被覆されていてもよい。
【0058】
重合抑制材としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられ、当該組成物の棚寿命の安定化に適している。
【実施例】
【0059】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例に示した略称(化学名)〕
1)シランカップリング剤
3−MPTES:3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン
2)ラジカル重合性単量体
Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
3)光重合開始材、光重合促進材
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−ジメチルアミノ安息香酸エチル
4)充填材
R-972:微粒子ケイ酸〔日本アエロジル(株)製〕
【0060】
(実験に使用した材料および装置)
レジンセメント:「レジセム」〔株式会社松風製〕
陶材料円盤状平板:直径15.0×5.0mm〔歯科用金属焼付用陶材[商品名「ヴィンテージハロー」 (株式会社松風製)]〕
金合金平板:約15×15×2mm〔商品名「スーパーゴールドタイプ4」 (株式会社松風製)〕
インストロン万能試験機〔インストロン社製〕
【0061】
歯科用プライマーまたは歯科用接着材の例
(接着性組成物の調製)
(a)シランカップリング剤:3MPTES、(b)弱酸性化合物:酢酸、(d)水を、表1と表2に示す配合割合で5分間振とう混合し、混合溶液の発熱を確認した。ここで、該混合溶液を23度で密封条件下、24時間保管後、混合溶液A1と混合溶液A2とした。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
次に、37重量部のリン水溶液を、表1の混合溶液Aに表3に示した配合割合で添加し、5分間振とう混合し、混合溶液の発熱を確認した。ここで、該混合溶液を混合溶液B1とした。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に示した配合割合で添加すべき表1の混合溶液を表2の混合溶液に換えて作製した混合溶液をB2とした。
【0067】
次に、エタノールを、混合溶液B1に表4に示した配合割合で添加し、5分間振とう混合して接着性組成物を調製した。
【0068】
【表4】

【0069】
表4に示した配合割合で添加すべき混合溶液B1を混合溶液B2に換えて接着性組成物を調製した。表5にその接着性組成物を記載した。
【0070】
【表5】

【0071】
(引張接着試験)
歯科用セラミックス材料の例として歯科用金属焼付用陶材[商品名「ヴィンテージハロー」(株式会社松風製)]を使用し、円盤状(直径15.0×5.0mm)の焼成物を陶材焼成用真空電気炉[商品名「ツインマット」(株式会社松風製)]を使用して作製し、引張接着強度試験を実施した。
【0072】
円盤状(直径15.0×5.0mm)の焼成物の平坦面を240番、次いで、600番のシリコンカーバイド紙〔三共理化学(株)製〕を用いて流水下で研磨し、平滑面を得たその後、超音波洗浄およびエアー乾燥を行い被着体とした。被着体の接着面に接着性組成物をミニブラシで塗布し、そのまま30秒間放置した後、エアーシリンジで接着性組成物の流動性が無くなる程度まで乾燥させた。一方、直径5mm×高さ10mmの円筒形コバルタン(コバルトクロム合金:松風社製)棒の接着面をエアーアブレーション(50μmアルミナビーズ、5kgf/cm圧)し、その後、超音波洗浄およびエアー乾燥を行い接着強さ測定治具とした。均一なペースト状に練和した「レジセム」を被着体の接着面とステンレス棒の接着面に介在させ接着を行った。この際、余剰セメントをミニブラシで除去し、セメントマージンに「松風グリップライトII」を用いて10秒間光重合した。全試験片7個を37℃水中に浸漬し、37℃水中24時間浸漬後に引張接着強さを測定した。接着強さの測定には、万能試験機(インストロン社製)を用い、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で引張接着強さを測定した。なお、接着試験は全て23℃±1℃の室温で実施した。
【0073】
ここで、接着性組成物作製後、密閉状態とし23℃貯蔵環境で24時間以内に使用した場合の引張接着強さを、「初期」引張接着強さとした。また、接着性組成物作製後、密閉状態とし50℃貯蔵環境で1、2、3ヶ月間貯蔵後に使用した場合の引張接着強さを、それぞれ「50℃1、2、3ヶ月間貯蔵後」引張接着強さとした。結果を表6に示す。
【0074】
【表6】

【0075】
表6より、本発明の接着性組成物は、経時的にも優れた接着性を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シランカップリング剤:1.0−40.0重量部、
(b)有機酸、ホウ酸、およびケイ酸の内1つ以上の水溶液系で酸解離指数pKaが3以上の弱酸性化合物:0.01−0.4重量部、
(c)HF、HCl、HBr、HI、HNO、HClO、HClO、HBrO、HMnO、HSO、およびHPOの内1つ以上の酸解離指数pKaが3未満の強酸性化合物:0.01−0.4重量部、
(d)水:0.1−5.0重量部、および
(e)揮発性有機溶媒:20.0−99.0重量部を、
含むことを特徴とする一液性の歯科用接着性組成物。

【公開番号】特開2010−100560(P2010−100560A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272887(P2008−272887)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】