説明

一液性エポキシ樹脂組成物及びその利用

【課題】多くの種類の硬化剤を用いることができ、数十μm程度の隙間であっても、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を実現する。
【解決手段】本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、電子部品又は電気部品を気密封止する一液性エポキシ樹脂組成物であって、液状エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、フィラーと、を含み、上記フィラーの平均粒子径が0.1〜1μmの範囲内であり、上記フィラーにおける粒子径5μm以上の粒子の割合が20重量%以下であり、上記フィラーの含有量が、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5〜60重量部の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液性エポキシ樹脂組成物及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御用小型電子部品では実装時におけるハンダ耐熱性及び気密性が強く要求される。このため、制御用小型電子部品では封止材料が必要とされ、このような封止材料としては、エポキシ樹脂組成物が多く用いられている。
【0003】
エポキシ樹脂組成物としては、取扱いの容易さや貯蔵安定性の高さから、潜在性硬化剤を予め含有した一液性エポキシ樹脂組成物が用いられる。
【0004】
このようなエポキシ樹脂組成物として、エポキシ樹脂、硬化剤(ジシアンジアミドを除く)を必須成分として含有する、全芳香族ポリエステル樹脂を構成材料の一部として用いた、小型電子部品又は電気部品を気密封止又は絶縁封止する一液性エポキシ樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1には、上記構成によって、LCPを構成部材の一部とするリレーにおいて、気密性、特に半田リフロー処理における高温下でもLCP及び金属端子との密着性に優れた一液性液状エポキシ樹脂組成物を実現できることが記載されている。
【0006】
また、エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、ジヒドラジド化合物と、ジシアンジアミド及びジヒドラジド化合物以外の潜在性硬化剤とを所定の割合で含有する、小型電子部品又は電気部品を気密封止又は絶縁封止する一液性エポキシ樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献2には、上記組成物によって、PBTあるいはLCPを構成部材の一部とするリレーにおいて、120℃以下の温度で硬化可能で、高温多湿環境下でPBTあるいはLCP及び金属端子との間に優れた密着性を有し、更に半田リフロー処理における高温下での金属端子への密着性について改善された一液性液状エポキシ樹脂組成物を実現できることが記載されている。
【0008】
しかしながら、近年、電気、電子部品の小型化、高密度化に伴い、制御用小型電子部品の接着部分や封止部分における隙間の間隔が非常に狭くなり、その間隔は数十μm程度となっており、上述した一液性エポキシ樹脂では、数十μm程度の隙間において、液状エポキシ樹脂と固体状の硬化剤との分離が発生する場合がある。このような分離が生じると、硬化しない液状エポキシ樹脂が可動部や接点部等の付着してはならない場所に移動して特性不良を引き起こし得る。
【0009】
このような問題を解決する観点から、一液性エポキシ樹脂組成物に、コアシェル型アクリルゴム微粒子を含有させることによって、エポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生を抑制することが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
また、一液性エポキシ樹脂組成物の硬化剤に固体エポキシアミンアダクトと固体芳香族系尿素化合物を用いることにより、狭い隙間でもシール剤が流入し、完全硬化が可能である技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−207029号公報(2001年7月31日公開)
【特許文献2】特開2007−39543号公報(2007年2月17日公開)
【特許文献3】特開2007−31526号公報(2007年2月8日公開)
【特許文献4】特開2001−220429号公報(2001年8月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献3に記載の構成よりも、エポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生を抑制することができる一液性エポキシ樹脂組成物が要望されている。また、上記特許文献4に記載の構成では、用いることができる硬化剤の種類が限られてしまう。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期保存安定性及び接着性に優れることに加えて、多くの種類の硬化剤を用いることができ、数十μm程度の隙間であっても、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決するために、エポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生を抑制することについて鋭意検討を行った。
【0015】
ここで、本発明者は、上記特許文献3上記評価方法では、スライドガラスに組成物を滴下し、もう一枚のスライドガラスを重ね合わせ固定した後、組成物を硬化させることによってエポキシ樹脂と硬化剤との分離の評価を行っており、一液性液状エポキシ樹脂組成物の実際の使用態様とは異なっているため、上記評価方法で良好な結果が得られたとしても、実際の使用においてエポキシ樹脂と硬化剤との分離が生じてしまうことがあると考えた。
【0016】
そこで、本発明者は、まず、実際の使用態様に近い方法によってエポキシ樹脂と硬化剤との分離を評価することによって、当該分離のメカニズムの解析を行った。
【0017】
具体的には、2枚のガラス板を、互いの面が対向するように所定の間隔で固定し、ガラス板の面方向が重力方向となるようにこれら一組のガラス板を設置し、エポキシ樹脂組成物を当該ガラス板2枚の隙間に滴下後、エポキシ樹脂組成物を硬化させ、当該隙間におけるエポキシ樹脂組成物の硬化状態を観察した。
【0018】
上記解析の結果、エポキシ樹脂の分離は、エポキシ樹脂組成物中のフィラーが隙間に詰まってしまい、その結果、硬化剤が隙間へ侵入することが妨げられるために生じることが主な原因であることが判明した。
【0019】
そして、上記知見に基づいて、本発明者が検討を重ねた結果、フィラーの粒子径、並びにフィラーの含有量を所定の範囲内にすることによって、エポキシ樹脂と硬化剤との分離を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、上記課題を解決するために、電子部品又は電気部品を気密封止する一液性エポキシ樹脂組成物であって、液状エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、フィラーと、を含み、上記フィラーの平均粒子径が0.1〜1μmの範囲内であり、上記フィラーにおける粒子径5μm以上の粒子の割合が20重量%以下であり、上記フィラーの含有量が、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5〜60重量部の範囲内であることを特徴としている。
【0021】
上記構成によれば、上記エポキシ樹脂を数十μm程度の隙間を封止することに使用した際に、エポキシ樹脂組成物中のフィラーが当該隙間に詰まり難く、硬化剤の隙間への侵入が妨げられ難くなり、その結果、隙間に流れ込む硬化剤等の粉体の量が増加すると考えられる。
【0022】
このため、上記構成によれば、長期保存安定性及び接着性に優れることに加えて、多くの種類の硬化剤を用いることができ、数十μm程度の隙間であっても、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する。
【0023】
また、上記構成によれば、ジシアンジアミドを含むため、得られる硬化膜に靭性を付与することができる。更には、ジシアンジアミドは金属との接着性に優れるため、接着性により優れたエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0024】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、上記ジシアンジアミドの平均粒子径が10μm以下であることが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生がより抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0026】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、更に、熱潜在性硬化促進剤を含むことが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、エポキシ樹脂の硬化温度をより低くすることができ、エポキシ樹脂をより速く硬化させることができる。
【0028】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、上記フィラーが無機フィラーであることが好ましい。
【0029】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、上記フィラーとして、更に熱膨張性フィラーを含むことが好ましい。
【0030】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、上記フィラーが熱膨張性フィラーであることが好ましい。
【0031】
これらの熱膨張性フィラーを含む構成によれば、エポキシ樹脂組成物を加熱硬化させる際に、隙間に入り込んだ熱膨張性フィラーが膨張することによって隙間を塞ぐため、加熱硬化時に隙間において粉体成分が凝集して海島構造が形成されることを妨げると考えられる。そして、その結果、隙間におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制されると考えられる。よって、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生がより抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0032】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、上記熱膨張性フィラーの含有量が、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5重量部以上60重量部未満であることが好ましい。
【0033】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、100℃〜150℃における上記熱膨張性フィラーの粒子径が、20℃〜40℃における上記熱膨張性フィラーの粒子径と比較して2倍以上であることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、エポキシ樹脂組成物を加熱硬化させる際に、隙間に入り込んだ熱膨張性フィラーが大きく膨張するため、隙間におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生がより確実に抑制される。よって、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生がより抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0035】
本発明に係る部品は、上記課題を解決するために、電子部品又は電気部品であって、上述した本発明に係るエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されていることを特徴としている。
【0036】
上記構成によれば、本発明に係るエポキシ樹脂組成物によって接着されているため、長期保存安定性及び接着性に優れた部品を提供することができる。
【0037】
また、本発明に係る封止方法は、上記課題を解決するために、上述した本発明に係るエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材を接着させることにより、電子部品又は電気部品を封止する工程を含むことを特徴としている。
【0038】
上記方法によれば、本発明に係るエポキシ樹脂組成物によって封止する工程を含むため、長期保存安定性及び接着性に優れることに加えて、多くの種類の硬化剤を用いることができ、数十μm程度の隙間であっても、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制されるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、以上のように、上記フィラーの平均粒子径が0.1〜1μmの範囲内であり、上記フィラーにおける粒子径5μm以上の粒子の割合が20重量%以下であり、上記フィラーの含有量が、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5〜60重量部の範囲内であることを特徴としている。
【0040】
このため、長期保存安定性及び接着性に優れることに加えて、多くの種類の硬化剤を用いることができ、数十μm程度の隙間であっても、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する。また、熱潜在性硬化剤としてジシアンジアミドを配合しているため、保存安定性が確保される。
【0041】
また、本発明に係る部品は、電子部品又は電気部品であって、上述した本発明に係るエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されていることを特徴としている。
【0042】
このため、長期保存安定性及び接着性に優れた部品を提供することができる。
【0043】
更には、本発明に係る封止方法は、上述した本発明に係るエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材を接着させることにより、電子部品又は電気部品を封止する工程を含むことを特徴としている。
【0044】
このため、長期保存安定性及び接着性に優れることに加えて、多くの種類の硬化剤を用いることができ、数十μm程度の隙間であっても、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制されるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0046】
尚、本明細書で挙げられている各成分の粒子径については、特に断りのない限り、レーザー回折散乱法(D50)を原理とした粒度分布測定装置(製品名:LA920、堀場製作所製)によって測定した値を意味する。また、その他の各種物性については、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法によって測定した値を意味する。また、本明細書では、範囲を示す「A〜B」は、特に断りのない限り、A以上B以下であることを示す。
【0047】
(I)エポキシ樹脂組成物
本実施の形態に係るエポキシ樹脂組成物は、電子部品又は電気部品を気密封止する一液性エポキシ樹脂組成物であって、液状エポキシ樹脂と、ジシアンジアミドと、フィラーとを含む。そして、本実施の形態に係るエポキシ樹脂組成物は、上記フィラーの平均粒子径が0.1〜1μmの範囲内であり、上記フィラーにおける粒子径5μm以上の粒子の割合が20重量%以下であり、上記フィラーの含有量が、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5〜60重量部の範囲内である。
【0048】
このような構成によって、長期保存安定性及び接着性に優れることに加えて、数十μm程度の隙間であっても、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生が抑制された一液性液状エポキシ樹脂組成物を実現し得る。
【0049】
尚、上記保存安定性とは、エポキシ樹脂組成物を温度及び湿度等の様々な環境下で一定期間保管する際の、その成分や特性の安定性を意味する。特に、一液性エポキシ樹脂組成物では、一般的に、保存中に、硬化反応が進むことによって粘度が増加することが懸念される。
【0050】
また、上記接着性とは、上記エポキシ樹脂組成物を媒介とし、化学的若しくは物理的な力又はその両者によって2つの面が結合させることができる性能を意味する。
【0051】
本実施の形態では、上記電子部品又は電気部品として、リレー、スイッチ、センサ等が挙げられ、好ましくは数十μmの隙間、より好ましくは10〜50μmの隙間、更に好ましくは10〜20μmの隙間を封止する用途に用いることができる。
【0052】
また、本実施の形態に係るエポキシ樹脂組成物では、熱潜在性硬化促進剤を含むことが好ましい。
【0053】
以下、各成分について説明する。
【0054】
〔1〕液状エポキシ樹脂
液状エポキシ樹脂は、室温付近(例えば、25℃)において液状であるエポキシ樹脂である。このようなエポキシ樹脂としては、従来公知の一液性エポキシ樹脂組成物において使用される各種エポキシ樹脂を用いることができ、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、水添ベンゼン環のような芳香族環又は水添芳香族環に、2個以上のエポキシ基が末端に結合した化合物が挙げられる。
【0055】
ここで、上記芳香族環及び水添芳香族環には、アルキル、ハロゲン等の置換基が結合していてもよい。また、上記エポキシ基と、上記芳香族環及び/又は水添芳香族環とは、オキシアルキレン、ポリ(オキシアルキレン)、カルボオキシアルキレン、カルボポリ(オキシアルキレン)、アミノアルキレン等を介して結合されていてもよい。
【0056】
更には、上記芳香族環及び/又は上記水添芳香族環を複数有する場合には、これら芳香族環及び/又は水添芳香族環同士は、直接結合されていてもよいし、アルキレン基、オキシアルキレン基、又はポリ(オキシアルキレン)基等を介して結合されていてもよい。
【0057】
上記液状エポキシ樹脂として具体的には、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−1,2−プロピレンオキサイド2モル付加物ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロイソフタル酸ジグリシジルエステル、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N−ジグリシジルアニリン−3−グリシジルエーテル、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリジルアミノメチレン)シクロヘキサン、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは1種単独でも2種類以上組み合わせても使用することができる。
【0058】
本実施の形態に係るエポキシ樹脂組成物では、硬化した際の耐熱性に優れる観点から、上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテルが好ましい。
【0059】
エポキシ樹脂組成物における、上記エポキシ樹脂の含有量は、用途に応じて適宜変更し得るが、例えば、50〜85重量%の範囲で用いることができる。
【0060】
〔2〕熱潜在性硬化剤
本実施の形態に係るエポキシ樹脂組成物では、ジシアンジアミドを熱潜在性硬化剤として含む。ジシアンジアミドは、得られる硬化膜に靭性を付与することができ、また、電気部品の構成要素である金属との結合力を高めることができる。
【0061】
その他の熱潜在性硬化剤としては、室温付近(例えば、25℃)で固体状態である、エポキシ樹脂と反応することによって硬化する性質を有する従来公知の硬化剤が挙げられる。
【0062】
その他の上記熱潜在性硬化剤として具体的には、例えば、特開2001−220429号公報に記載されている、ジカルボン酸無水物、トリカルボン酸無水物、テトラカルボン酸無水物が挙げられる。
【0063】
尚、靭性とは材料の粘り強さであり、材料の中で亀裂が発生し難く、且つ伝播し難い性質を意味する。
【0064】
ジシアンジアミドの平均粒子径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。また、その下限は0.1μmであることが好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であれば、チクソトロピー性が増加することを抑制することができ、その結果、増粘してハンドリング性が低下することを防ぐことができる。
【0065】
エポキシ樹脂組成物における、上記ジシアンジアミドの含有量は、用途に応じて適宜変更し得るが、例えば、エポキシ樹脂100重量部に対して5〜20重量%の範囲で用いることができる。
【0066】
〔3〕熱潜在性硬化促進剤
熱潜在性硬化促進剤は、エポキシ樹脂との混合系中で安定な硬化剤であり、室温でエポキシ樹脂を硬化する活性を持たず、加熱することにより溶解、分解、転移反応等により活性化し、エポキシ樹脂に対して硬化を促進する機能を有する化合物である。つまり、熱潜在性硬化促進剤とは、エポキシ樹脂の硬化温度をより低くし、エポキシ樹脂をより速く硬化させるための薬剤である。
【0067】
特に、本実施の形態では、融点が高い(融点約180〜200℃)ジシアンジアミドを用いるため、制御用小型電子部品等の電子部品の作製時に求められる120℃以下という低い硬化温度を実現するために、熱潜在性硬化促進剤を併用することができる。
【0068】
尚、本実施の形態に係るエポキシ樹脂組成物は、80℃から120℃で加熱を行なうことにより硬化するように調製することが好ましい。
【0069】
上記熱潜在性硬化促進剤としては、例えば、特開2001−220429号公報に記載されている従来公知の各種熱潜在性硬化促進剤を用いることができ、具体的には、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物、変性脂肪族アミン化合物、イミダゾール化合物、尿素誘導体、三級アミン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0070】
上記熱潜在性硬化促進剤は基本的には硬化温度以下で融解するため、その平均粒子径は特には限定されないが、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0071】
エポキシ樹脂組成物における、上記熱潜在性硬化促進剤の含有量は、用途に応じて適宜変更し得るが、例えば、2〜30重量%の範囲で用いることができる。
【0072】
〔4〕フィラー
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、本発明者が検討した結果、数十μm程度の隙間で、液体のエポキシ樹脂と固体の硬化剤とが分離するのは、隙間へのフィラーや硬化剤等の固体の流入量が少ないことが原因であるという知見に基づいて成されたものである。
【0073】
つまり、本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、上記フィラーの平均粒子径を0.1〜1μmの範囲内とすることによって、使用時におけるエポキシ樹脂と硬化剤との分離の発生を抑制している。
【0074】
尚、上記「フィラーの平均粒子径が0.1〜1μmの範囲内」とは、エポキシ樹脂組成物中のフィラーの粒度分布において、ピークが1つである場合には、そのピークにおける平均粒子径を意味し、ピークが2以上ある場合には、その含有割合が最も高いピークの平均粒子径を意味する。
【0075】
ここで、フィラーの平均粒子径が1μmを超えると、フィラー粒子が隙間へ侵入し難くなる。また、平均粒子径が0.1μm未満であると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり、ニードルからの塗布量が低下し、塗布スピードが遅くなり、生産性が悪くなる場合があるため、実用的でない。
【0076】
上記フィラーの平均粒子径は、0.1〜1μmの範囲であり、0.5〜0.9μmの範囲がより好ましい。また、上記フィラーにおける粒子径5μm以上の粒子の割合が20重量%以下である。
【0077】
また、上記平均粒子径を決定する、含有割合が最も高いピークの当該含有割合は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、最も好ましくは100重量%、つまり、ピークが1つである場合である。
【0078】
フィラーにおける粒子径5μm以上の粒子の割合が20重量%を超えると、フィラー粒子が狭い隙間に浸入し難くなり、フィラー粒子が当該隙間に詰まってしまい、当該隙間への硬化剤の浸入が妨げられると考えられる。その結果、フィラー粒子及び硬化剤が当該隙間へ流れ込まなくなり、エポキシ樹脂のみが流れ込むために、未硬化分離が発生してしまう。
【0079】
上記フィラーとして、具体的には、無機フィラー及び熱膨張性フィラーが挙げられ、無機フィラーのみを用いてもよいし、熱膨張性フィラーのみを用いてもよいし、これらを併用してもよい。
【0080】
無機フィラーの具体例として、例えば、炭酸カルシウム、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、酸化チタン、シリカチタニア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、マグネシア、マグネシウムシリケート、タルク、マイカ等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、これらの中でもシリカ、アルミナ及びタルクを単独又は2種類以上併用して用いることが好ましい。
【0081】
熱膨張性フィラーとして具体的には、アクリル−エポキシ共重合体(アクリル酸と、エポキシ基及び不飽和基を有する単量体との共重合体)、コアシェル型アクリル樹脂(例えば、「ゼフィアックF351」(商品名、ガンツ化成製)等)、メタアクリル樹脂(例えば、「JF001」(商品名、三菱レーヨン製)、「JF003」(商品名、三菱レーヨン製)等)、有機ベントナイト(例えば、「エスベンNZ」(商品名、ホージュン製)、「エスベンNX」(商品名、ホージュン製)等)、アクリルニトリル系プラスチックバルーン(熱可塑性樹脂がシェルとして、コアである低沸点の炭化水素を包み込んだコアシェル型粒子)(例えば、「マツモトマイクロスフェアーF」(商品名、松本油脂製)等)等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0082】
尚、上記熱膨張性フィラーとは、ある一定の温度を加えた時に体積が膨張するフィラーを意味する。上記熱膨張性フィラーを用いることによって、加熱時における熱膨張性フィラー粒子の膨張に伴って、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇し、未硬化状態のエポキシ樹脂が入り込んだ隙間から流出することが抑制されると考えられる。そして、その結果、エポキシ樹脂と硬化剤との分離が抑制される。
【0083】
上記熱膨張性フィラーは、100℃〜150℃におけるフィラーの粒子径が20℃〜40℃の粒子径と比較して2倍以上となるフィラーであることが好ましく、このようなフィラーとしては、アクリル−エポキシ共重合体等が挙げられる。上記熱膨張性フィラー粒子の膨張率が上記範囲内であれば、体積が大きく変化するため、未硬化のエポキシ樹脂が隙間から流出することを充分に抑制することができる。
【0084】
上記フィラーの全含有量は、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5〜60重量部の範囲内である。
【0085】
上記フィラーとして、無機フィラー及び熱膨張性フィラーを併用する場合、無機フィラーと熱膨張性フィラーとの合計の含有量は、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5〜60重量部の範囲内であり、熱膨張性フィラーは、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5重量部以上60重量部未満の範囲内で用いることが好ましい。
【0086】
〔5〕その他の成分
本実施の形態に係るエポキシ樹脂組成物では、上述した成分の他に、例えば、チクソ性付与剤、難燃剤、光安定剤、粘度調製剤、着色剤等の従来公知のエポキシ樹脂組成物に用い得る各種添加剤が混合されていてもよい。
【0087】
上記チクソ性付与剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ等の無機フィラーが挙げられ、本明細書において上記チクソ性付与剤としては、粒子径が0.01〜0.09μmの範囲内、更に好ましくは0.02〜0.05μmの範囲内のものが意図される。
【0088】
(II)部品
本実施の形態に係る部品は、電子部品又は電気部品であって、上述したエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されている。
【0089】
上記「電子部品又は電気部品」としては、気密封止や絶縁封止を行うことに有用性があるものであれば特に限定されるものではなく、通常「電気部品」と称されるものであってもよい。例えば、リレー、スイッチ、センサー等が挙げられ、リレーであることが好ましい。
【0090】
また、「エポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されている」とは、少なくとも2つの部材の間に一液性エポキシ樹脂組成物が介在し、一液性エポキシ樹脂組成物の接着力によって少なくとも2つの部材が結合していることをいう。
【0091】
接着の対象となる部材としては特に限定されるものではない。例えば、一液性エポキシ樹脂組成物によって、リレーの成形材と金属端子とを接着する場合が挙げられる。
【0092】
(III)封止方法
本実施の形態に係る封止方法は、上述したエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材を接着させることにより、電子部品又は電気部品を封止する工程を含む。
【0093】
上記工程は、上述したエポキシ樹脂組成物を用いること以外は、従来公知の方法に従って行うことができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
〔平均粒子径の測定方法〕
フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法(D50)を原理とした粒度分布測定装置(製品名:LA920、堀場製作所社製)によって測定した値に基づいて算出した。具体的には、上記測定した粒径分布における各ピークについて平均粒子径を求め、その含有割合が最も高いピークの平均粒子径を「フィラーの平均粒子径」とした。
【0096】
尚、各ピークの含有割合は、頻度分布比の面積によって判断した。ここで、複数のピークが重なっている場合には、適切な関数(ローレンツ型関数やガウス関数)により各ピークをそれぞれの関数でフィッティングし、最適な比率で差分する方法を用いることができる。より具体的には、粒度分布測定装置の付属ソフトや一般的な表計算ソフト(Excel、IGOR、Mathmatica等(何れも商品名))で計算をすることが可能である。
【0097】
〔粒子径が5μm以上の粒子の割合〕
粒子径が5μm以上の粒子の割合は、レーザー回折散乱法(D50)を原理とした粒度分布測定装置(製品名:LA920、堀場製作所社製)によって測定した値に基づいて算出した。
【0098】
〔未硬化成分の分離確認〕
作製したエポキシ樹脂組成物の未硬化分離確認試験は、2枚のガラス板を、互いの面が対向するように所定の間隔で固定し、ガラス板の面方向が重力方向となるようにこれら一組のガラス板を設置し、エポキシ樹脂組成物を当該ガラス板2枚の隙間に滴下後、常温で放置し、2枚のガラス板に挟まれた領域におけるエポキシ樹脂組成物の挙動を目視で観察することにより、未硬化エポキシ樹脂の存在の有無により判断した。
【0099】
目視での上記観察は、具体的には、まず、2枚のガラス板に挟まれた領域におけるエポキシ樹脂組成物において透明な部分が分離しているか否かを観察した。そして、透明な部分が分離していない場合には、未硬化成分の分離が発生していないとして◎と判断した。
【0100】
一方、透明な部分が分離していた場合には、2枚のガラス板を引き離し、当該透明な部分をピンセットで触り硬化の有無を確認し、当該部分が硬化している場合には未硬化成分の分離が発生していないとして◎と判断し、ゲル状である場合には○と判断し、液状の場合には、未硬化成分の分離が発生しているとして×と判断した。
【0101】
尚、2枚のガラス基板の隙間は、厚さが表5の隙間距離であるシックネスゲージを挟み込み調製した。
【0102】
〔実施例1〕
液状ビスフェノールAジグリシジルエーテル100重量部と、硬化剤としてジシアンジアミド7重量部と、熱潜在性硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールのエポキシ樹脂アダクト化合物(商品名:PN−23、味の素ファインテクノ社製)10重量部と、無機フィラーとして粒径0.9μmの炭酸カルシウム(商品名:カルテックス5、丸尾カルシウム社製)50重量部と、チクソトロピー性付与剤(チクソ性付与剤)として炭酸カルシウム微粒子(商品名:商品名:K−N−40、丸尾カルシウム社製)1重量部と、着色剤としてカーボンブラック(商品名:♯40、三菱化学社製)1重量部とを混合した後、ミキシングロールを使って混練し、一液性エポキシ樹脂組成物を調製した。得られた一液性エポキシ樹脂組成物について、未硬化成分の分離確認をした結果をその条件と共に表5に示す。
【0103】
〔実施例2〜15〕
表1及び表2に記載された成分及び仕込み量で混合を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、一液性エポキシ樹脂組成物をそれぞれ調製した。得られた一液性エポキシ樹脂組成物について、未硬化成分の分離確認をした結果をその条件と共に表5に示す。
【0104】
尚、本実施例及び後述する比較例で用いた膨張製フィラーであるアクリル−エポキシ共重合体(商品名:F351、ガンツ化成社製)は、100℃〜150℃における粒子径が、20℃〜40℃における粒子径と比較して2倍以上である。このことは、電子顕微鏡や金属顕微鏡等の観察により、確認することができる。
【0105】
また、本実施例及び後述する比較例で用いた無機フィラーとしては、粒径0.05μm、0.15μm、2μm、11μmの炭酸カルシウムは、それぞれ、カルファイン200(商品名、丸尾カルシウム社製)、MSK−PO(商品名、丸尾カルシウム社製)、NS−100(商品名、日東粉化社製)、重炭(商品名、丸尾カルシウム社製)を用いた。また、アルミナは、AKP−3000(商品名、住友化学社製)を用い、シリカは、SPM−30M(商品名、電気化学工業社製)を用いた。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
〔比較例1〜13〕
表3及び表4に記載された成分及び仕込み量で混合を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、一液性エポキシ樹脂組成物をそれぞれ調製した。得られた一液性エポキシ樹脂組成物について、未硬化成分の分離確認をした結果をその条件と共に表5に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
※1)含有量は、エポキシ樹脂に対する重量%を意味する。
※2)実施例15については、ガラス板の代わりに液晶ポリマー(商品名:スミカスーパー、住友化学社製)(表中、LCPと記載)を用いて未硬化成分の分離確認を行った。
【0113】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、リレー、スイッチ、センサ等の各種電子部品若しくは電気部品における隙間を気密封止若しくは絶縁封止することに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品又は電気部品を気密封止する一液性エポキシ樹脂組成物であって、
液状エポキシ樹脂と、
ジシアンジアミドと、
フィラーと、
を含み、
上記フィラーの平均粒子径が0.1〜1μmの範囲内であり、
上記フィラーにおける粒子径5μm以上の粒子の割合が20重量%以下であり、
上記フィラーの含有量が、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5〜60重量部の範囲内であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
上記ジシアンジアミドの平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
更に、熱潜在性硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
上記フィラーが、無機フィラーであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
上記フィラーが、熱膨張性フィラーであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
上記フィラーとして、更に熱膨張性フィラーを含むことを特徴とする請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
上記熱膨張性フィラーの含有量が、上記エポキシ樹脂100重量部に対して5重量部以上60重量部未満であることを特徴とする請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
100℃〜150℃における上記熱膨張性フィラーの粒子径が、20℃〜40℃における上記熱膨張性フィラーの粒子径と比較して2倍以上であることを特徴とする請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
電子部品又は電気部品であって、
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材が接着されていることを特徴とする部品。
【請求項10】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物によって、少なくとも2つの部材を接着させることにより、電子部品又は電気部品を封止する工程を含むことを特徴とする封止方法。

【公開番号】特開2011−111570(P2011−111570A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270782(P2009−270782)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】