説明

一軸アクチュエータ

【課題】案内レールの上側全体がカバーで覆われ、カバーの上方に配置された案内対象部材をスライダに固定するための取付部材を有し、案内レールの側面の上端とカバーの側面の下端とで形成される開口部が上下に分割された帯状のシール部材で塞がれている一軸アクチュエータにおいて、前記シール部材の切れを防止する。
【解決手段】取付部材14は、スライダの上面に固定される本体14aと、案内レールの幅方向外側に配置されてカバーより上側まで延び、案内対象部材を取り付ける取付部14bと、これらを連結する連結部14cとからなる。本体14aと連結部14cは主部材14Eとして、一体に加工されたものである。取付部14bが主部材14Eに、ダウエルピン4で位置決めされ、ボルト5で固定されている。連結部14cは、前記開口部に配置されて、上下のシール部材を押し開いて移動する。連結部14cのシール部材が接触する部分に、摩擦係数を低減させるコーティングを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ねじ式送り装置と直動案内装置が一体化された一軸アクチュエータ(断面凹状の案内レールと、前記案内レールの幅方向中心部に配設されたねじ軸と、前記ねじ軸に螺合されたナット部を含むスライダと、複数の転動体とを備え、前記ねじ軸の回転により前記スライダが前記案内レールに沿って移動可能とされた装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ式送り装置と直動案内装置が一体化された一軸アクチュエータは、相対する内側面に軸方向に延びる転動体転動面を有する断面凹状の案内レールと、前記案内レールの幅方向中心部に配設され外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、前記ねじ軸に螺合されたナット部を含むスライダと、複数の転動体とを備えている。
前記スライダには、前記案内レールの転動体転動面に相対した転動体転動面が両側面に形成されるとともに、前記転動体の戻し通路と、この戻し通路と前記転動体転動面を連結する方向転換路が形成されている。前記相対する両転動体転動面からなる転動通路と、前記戻し通路と、前記方向転換路とで構成される循環経路内に、前記転動体が介装されている。
【0003】
前記ねじ軸を回転することで、その回転力が前記ナット部に伝達されて、前記転動体が前記転動通路を負荷状態で転動しながら前記循環経路内を循環することにより、前記スライダが前記案内レールに沿って移動可能とされている。
このような一軸アクチュエータの従来例として、特許文献1には、図5〜図8に示す構造の防塵型案内装置が記載されている。図5はこの装置の斜視図であり、図6はその構成を説明するための分解斜視図であり、図7は図5の長手方向に沿った断面図であり、図8は図7のA−A断面図である。
【0004】
図5〜8において、符号21が案内レール、22がスライダ、23がねじ軸、28がナット部、27が直動装置用のボール(転動体)、29がボールねじ(ねじ式送り装置)用のボールに相当する。案内レール21の軸方向両端開口部が軸端部材26a,26bで塞がれている。軸端部材26a,26bはねじ軸23の両端を回転自在に支持する。案内レール21の両内側面(突堤24a,24bの内側面)に、ボール転動溝(転動体転動面)が形成されている。軸端部材26a,26bとカバー12との間にスペーサーブロック32が配置されている。カバー12の幅方向両側が折り曲げられて側面部12aとなっている。
【0005】
この防塵型案内装置では、断面が凹状の案内レール(ガイドレール)21の上側全体をカバー(外装カバー)12で覆うとともに、案内レール21の側面の上端とカバー12の側面の下端とで形成される開口部13を、上下に分割された帯状のシール部材15a,15bで覆っている。そのため、取付部材(可動体)140を使用して、カバー12の上方に配置された案内対象部材をスライダ(スライド部材)22に固定している。上側のシール部材15aは、カバー12の側面部12aの外側にシール押え34で固定されている。下側シール部材15bは、案内レール21の外側面にシール押え33で固定されている。
【0006】
取付部材140は、スライダ22の上面に固定される本体14aと、案内レール21の外側に配置されてカバー12より上側まで延び、案内対象部材を取り付ける取付部(耳部)14bと、これらを連結する連結部14cとからなる。
連結部14cの形状は、上下方向および移動方向(図7の左右方向)で対称の略流線形状であり、移動方向両端が鋭角の凸に形成されている。この凸を形成する一対の対辺は移動方向中央に向かう途中で一度折り曲げられ、傾斜が緩くなるように形成されている。
【0007】
上側のシール部材15aの下端と下側のシール部材15bの上端は、互いに重ね合わされているが、連結部14cが存在する位置では、連結部14cの上面と下面に沿うようそれぞれ外側に折り曲げられた状態となる。そして、取付部材140の連結部14cは、上下のシール部材15a,15bを外側に押し開き、掻き分けるように移動する。連結部14cが通過した後は、上下のシール部材15a,15bは自らの弾性によって直ちに復元し、再び内部がシールされる。つまり、上下のシール部材15a,15bは往復動する取付部材140の通過部分のみが開かれる。
このように、特許文献1の防塵型案内装置は、スライダ22の往復動に伴う取付部材14の作動を許容しつつ装置内の略気密状態を保持する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−230618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の防塵型案内装置には、前記取付部材の連結部と前記シール部材が直接接触するため、シール部材が摩耗して切れが生じ易く、シール部材による防塵性が低下する問題点がある。また、前記取付部材が一体構造であるため、先端面と外周面が刃になっているエンドミルを使用して前記連結部の流線形状面を加工する際に、干渉の問題から周速の高い外周面の刃が使用できない。よって、上述の防塵型案内装置には、取付部材(可動体)の加工効率と連結部の流線形状面の面精度の点で改善の余地がある。
【0010】
この発明の課題は、案内レールの上側全体がカバーで覆われ、前記取付部材とシール部材を有し、取付部材の作動を許容しつつ装置内の略気密状態を保持する構成となっている一軸アクチュエータにおいて、シール部材に切れが生じにくくすることと、取付部材の加工効率と面精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明は、下記の構成(1) 〜(11)を有する一軸アクチ ュエータを提供する。
(1) 相対する内側面に軸方向に延びる転動体転動面を有する断面凹状の案内レールと、前記案内レールの幅方向中心部に配設され外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、前記ねじ軸に螺合されたナット部を含むスライダと、複数の転動体とを備える。
(2) 前記スライダには、前記案内レールの転動体転動面に相対した転動体転動面が両側面に形成されるとともに、前記転動体の戻し通路と、この戻し通路と前記転動体転動面を連結する方向転換路が形成されている。
【0012】
(3) 前記相対する両転動体転動面からなる転動通路と、前記戻し通路と、前記方向転換路とで構成される循環経路内に、前記転動体が介装されている。
(4) 前記ねじ軸を回転することで、その回転力が前記ナット部に伝達されて、前記転動体が前記転動通路を負荷状態で転動しながら前記循環経路内を循環することにより、前記スライダが前記案内レールに沿って移動可能とされている。
(5) 前記案内レールの上側全体がカバーで覆われている。
(6) 前記カバーの上方に配置された案内対象部材を前記スライダに固定するための取付部材を有する。
【0013】
(7) 前記取付部材は、スライダの上面に固定される本体と、案内レールの幅方向外側に配置されてカバーより上側まで延び、案内対象部材を取り付ける取付部と、これらを連結する連結部とからなる。ここで、本体と連結部は一体構造である本体連結部を形成し、その両側面に取付部が螺合結合されている。すなわち、前記本体と前記連結部は主部材(本体連結部)として一体に加工され、前記取付部材は前記取付部が前記主部材に固定された組立体である。
(8) 前記案内レールの側面の上端と前記カバーの側面の下端とで形成される開口部が、上下に分割された帯状のシール部材で覆われている。
【0014】
(9) 前記連結部は、前記開口部に前記上下のシール部材に接触状態で配置され、前記上下のシール部材を押し開いて移動可能な形状である。
(10)前記上下のシール部材は、相互の先端部が重なり合い、前記連結部が通過する部分のみが開かれることで前記取付部材の作動を許容しつつ装置内の略気密状態を保持する。
(11)前記連結部の前記シール部材が接触する部分に、摩擦係数を低減させるコーティングが施されている。
【発明の効果】
【0015】
この発明の一軸アクチュエータによれば、コーティングにより前記連結部とシール部材との摩擦係数が低減されることでシール部材の摩耗が低減されるため、シール部材に切れが生じにくくすることができる。また、取付部材が主部材と取付部との組立体であることで、前記連結部の流線形状面をエンドミルの外周面の刃を使用して切削加工できるため、取付部材の加工効率と連結部の流線形状面の面精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施形態に相当する一軸アクチュエータを示す正面図である。
【図2】この発明の実施形態に相当する一軸アクチュエータを示す平面図である。
【図3】実施形態の一軸アクチュエータを構成する取付部材を示す平面図(a)と、そのA−A断面図(b)である。
【図4】図3の取付部材を主部材と取付部に分離した状態を示す斜視図である。
【図5】特許文献1の一軸アクチュエータを示す斜視図である。
【図6】図5の一軸アクチュエータの構成を説明するための分解斜視図である。
【図7】図5の長手方向に沿った断面図である。
【図8】図7のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態について説明する。
この実施形態の一軸アクチュエータを図1〜4に示す。
この実施形態の一軸アクチュエータは、図5〜8に示す上述の特許文献1に記載された防塵型案内装置と、以下の点を除いて同じ構造である。
スペーサーブロック32は、カバー12の上面部12bの内側全体に嵌まる板状部材であって、軸端部材26a,26bの上方だけでなく、カバー12の長さ方向全体に配置されている。カバー12の上面部12bの長さ方向両端が、スペーサーブロック32を介して案内レール21の軸端部材26a,26bに、止めねじ16により固定されている。上側のシール部材15aの上部が、カバー12の側面部12aとスペーサーブロック32の側面との間に配置され、側面部12aから止めねじ17で、スペーサーブロック32の側面に固定されている。
【0018】
この実施形態では、特許文献1の取付部材140に代えて、図3に示す形状の取付部材14を備えている。この取付部材14は、図4に示すように、主部材14Eと取付部14bとに分離できる。取付部14bと連結部14cは、主部材14Eとして一体に加工されたものである。
取付部14bには、厚さ方向に貫通する二対の貫通穴41,42が形成されている。取付部14bの外側面には、一対の貫通穴41の外側に同心円状の凹部41aが形成されている。主部材14Eを構成する連結部14cには、取付部14bの一対の貫通穴41に対応する一対の雌ねじ43と、取付部14bの一対の貫通穴42に対応する一対の貫通穴44が形成されている。
【0019】
取付部材14は、主部材14Eを構成する連結部14cの各側面に取付部14bを配置して、取付部14bの貫通穴42から連結部14cの貫通穴44にダウエルピン4を通すことにより位置決めした後、取付部14bの貫通穴41からボルト5を通して、連結部14cの雌ねじ43に螺合することで組み立てられる。ボルト5の頭部は取付部14bの凹部41aに配置される。すなわち、この取付部材14は、取付部14bが主部材14Eの両側面にダウエルピン4とボルト5で固定された組立体である。
【0020】
また、取付部材14の両連結部14cの上下両面にフッ素樹脂コーティングが施されている。取付部材14は金属製であり、通常の金属製部材に対するフッ素樹脂コーティングと同様に、脱脂、表面処理、コーティング剤の塗布、乾燥、焼成をこの順に行うことで、フッ素樹脂コーティングが施されている。
この実施形態の一軸アクチュエータによれば、取付部材14の両連結部14cの上下両面にフッ素樹脂コーティングが施されているため、連結部14cが上下のシール部材15a,15bを押し開いて移動する際に、連結部14cとシール部材15a,15bとの摩擦係数が低減される。これにより、シール部材15a,15bの摩耗が低減されるため、シール部材15a,15bに切れが生じにくくすることができる。
【0021】
また、取付部材14が主部材14Eと取付部14bとの組立体であるため、連結部14cの流線形状面を、エンドミルの外周面の刃を使用して切削加工することができる。よって、特許文献1の取付部材140と比較して加工効率が高くなり、連結部14cの流線形状面の面精度も向上できる。そして、連結部14cの流線形状面の面精度が向上することによる摩擦抵抗の低減効果も得られる。
【0022】
なお、フッ素樹脂コーティングは、両連結部14cの上下両面だけでなく、主部材14Eの全面に施されていてもよい。
フッ素樹脂コーティングの膜厚は30μm以上にすることが好ましい。フッ素樹脂コーティングの膜厚が30μm未満であるとピンホールが存在する恐れがある。フッ素樹脂コーティングの膜厚が50μm以上200μm以下にすると、耐摩耗性が良好になるため、さらに好ましい。
【0023】
フッ素樹脂コーティングの主材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(パーフルオロアルコオキシ)等の、低摩擦で耐摩耗性に優れたものを使用することが好ましい。
フッ素樹脂コーティングに代えて、窒化クロムコーティングまたはセラミックコーティングを施してもよい。
【符号の説明】
【0024】
12 カバー
12a 側面部
13 開口部
15a,15b シール部材
14 取付部材
14a 本体
14b 取付部
14c 連結部
14E 主部材
16 止めネジ
17 止めネジ
21 案内レール
22 スライダ
23 ねじ軸
26a,26b 軸端部材
28 ナット部
27 直動装置用のボール
29 ボールねじ(ねじ式送り装置)用のボール
32 スペーサーブロック
33 シール押え
34 シール押え
4 ダウエルピン
5 ボルト
41 貫通穴
41a 凹部
42 貫通穴
43 雌ねじ
44 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する内側面に軸方向に延びる転動体転動面を有する断面凹状の案内レールと、前記案内レールの幅方向中心部に配設され外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、前記ねじ軸に螺合されたナット部を含むスライダと、複数の転動体とを備え、
前記スライダには、前記案内レールの転動体転動面に相対した転動体転動面が両側面に形成されるとともに、前記転動体の戻し通路と、この戻し通路と前記転動体転動面を連結する方向転換路が形成され、
前記相対する両転動体転動面からなる転動通路と、前記戻し通路と、前記方向転換路とで構成される循環経路内に、前記転動体が介装され、
前記ねじ軸を回転することで、その回転力が前記ナット部に伝達されて、前記転動体が前記転動通路を負荷状態で転動しながら前記循環経路内を循環することにより、前記スライダが前記案内レールに沿って移動可能とされた一軸アクチュエータであって、
前記案内レールの上側全体がカバーで覆われ、
前記カバーの上方に配置された案内対象部材を前記スライダに固定するための取付部材を有し、
前記取付部材は、スライダの上面に固定される本体と、案内レールの幅方向外側に配置されてカバーより上側まで延び、案内対象部材を取り付ける取付部と、これらを連結する連結部とからなり、
前記本体と前記連結部は主部材として一体に加工され、前記取付部材は前記取付部が前記主部材に固定された組立体である。
前記案内レールの側面の上端と前記カバーの側面の下端とで形成される開口部が、上下に分割された帯状のシール部材で覆われ、
前記連結部は、前記開口部に前記上下のシール部材に接触状態で配置され、前記上下のシール部材を押し開いて移動可能な形状であり、
前記上下のシール部材は、相互の先端部が重なり合い、前記連結部が通過する部分のみが開かれることで、前記取付部材の作動を許容しつつ装置内の略気密状態を保持し、
前記連結部の前記シール部材が接触する部分に、摩擦係数を低減させるコーティングが施されていることを特徴とする一軸アクチュエータ。
【請求項2】
前記連結部の前記シール部材が接触する部分にフッ素樹脂コーティングが施されている請求項1記載の一軸アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−100897(P2013−100897A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−185784(P2012−185784)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】