説明

一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を予測する装置および方法

【課題】 一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を簡素な構成で予測できる循環型ナノろ過試験装置を得る。
【解決手段】 循環型ナノろ過試験装置である循環型装置2は、一過型多段ナノろ過実施設の任意の箇所の少なくとも1つの膜エレメント周りの水量収支を再現したものである。循環型装置2は、一過型多段ナノろ過実施設のものと同じ例えば2つの膜エレメント21、21を備えている。上流側の膜エレメント21には供給水が供給水管25と供給ポンプ26を介して流入する。膜エレメント21、21で生じた濃縮水の一部または全部は、循環水管31を介して供給ポンプ26の上流側の供給水管25に循環する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば浄水場に設置しようとする一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を予測する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水道の原水には富栄養化、病原性微生物などの自然発生的な物質の他に、農薬、中性洗剤などの人為的な物質が含まれている。過去には、病原性微生物であるクリプトスポリジウムによる集団感染が発生したこともある。この対策として、浄水場には原水をろ過膜によってろ過する膜ろ過施設が導入され、原水から懸濁物質ばかりでなく細菌類、藻類、原虫類などが確実に除去されている。このような膜ろ過施設に使用されている膜として、サイズの大きな方から順に精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、および逆浸透膜が知られている。これらの膜のうち、精密ろ過膜および限外ろ過膜は細菌類を極めて高度に除去できるが、農薬や臭気物質などは十分に除去できないものとなっている。このため、精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いて処理したろ過水は、オゾンや活性炭によって更に処理することが必要となっている。
【0003】
これに対し、ナノろ過膜を用いた膜ろ過施設はオゾンや活性炭による処理が不要とされ、オゾン・活性炭処理の代替として位置付けられている。このようなナノろ過膜を用いた膜ろ過施設の多くは、小規模な施設を除いて、供給水を循環させない所謂一過型多段ナノろ過施設とされている。この種の一過型多段ナノろ過施設では、複数の膜モジュールがバンク式またはツリー式に一過型として配置され、第1バンクの膜モジュールで生成された濃縮水が第2バンクの膜モジュールに供給され、回収率の向上が図られている。そして、より高い回収率を目指す場合には第2バンクの膜モジュールの濃縮水が第3バンクの膜モジュールに供給され、更なる高い回収率を目指す場合には更なるバンクが追加されて同様に処理されている。
【0004】
なお、上記先行技術は当業者一般に知られた技術であって、文献公知発明に係るものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の一過型多段ナノろ過施設の処理機能は運転圧力、供給水濃度、供給水温度などの処理機能影響因子によって異なるので、一過型多段ナノろ過施設の処理機能を予測するためには、一過型多段ナノろ過施設と同じ試験施設を用意する必要があり、研究開発コスト、施設コスト、運転管理コストなどが極めて高くなっている。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、第1の目的は、簡素な構成で一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を予測できる循環型ナノろ過試験装置を得るものである。
また、第2の目的は、簡素な構成の循環型ナノろ過試験装置によって一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を予測できる処理機能予測方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る循環型ナノろ過試験装置は、一過型多段ナノろ過実施設の任意の箇所における少なくとも1つの膜エレメントの処理機能に影響を及ぼすと認められる因子を再現したものである。
【0008】
この発明に係る処理機能予測方法は、一過型多段ナノろ過実施設の任意の箇所における少なくとも1つの膜エレメントの処理機能に影響を及ぼすと認められる因子を再現した循環型ナノろ過試験装置によって前記処理機能を予測することである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、一過型多段ナノろ過実施設の任意の箇所の少なくとも1つの膜エレメントの処理機能影響因子を循環型ナノろ過試験装置によって再現して水回収率と物質除去率を求めることにより、一過型多段ナノろ過実施設の濃度を理論的に算出できるので、一過型多段ナノろ過実施設またはそれに相当する装置を用意することなく、一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を予測できる。そして、一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を予測するために一過型多段ナノろ過実施設またはそれに相当する装置を用意する必要がないので、研究開発コスト、設備コスト、運転管理コストなどを大幅に削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、例えば浄水場の一過型(ツリー型)多段ナノろ過実施設の処理機能(処理性または性能)を実証実験するために用意した一過型多段ナノろ過装置1(以降、多段型装置1という)を示すものである。図2は、多段型装置1の処理機能を予測(評価)するための循環型ナノろ過試験装置2(以降、循環型装置2という)を示すものである。浄水場は、基本的に一過型多段ナノろ過実施設と消毒施設から構成され、必要に応じて前処理施設、後処理施設、排水処理施設などが追加される。この実施の形態1における多段型装置1と循環型装置2に供給する供給水は、前処理施設で精密ろ過膜によって前処理したものとするのが好ましい。
【0011】
なお、この実施の形態1でいう「一過型多段ナノろ過実施設」という言葉は浄水場に設置しようとする実際の一過型多段ナノろ過施設のことを意味し、一般に「施設」という言葉を「設備」と表現することもある。また、以降においては多段型装置1を大型ナノろ過装置とよぶこともあり、循環型装置2を小型ナノろ過装置とよぶこともある。
【0012】
図1に示すように、多段型装置1は一過型多段ナノろ過実施設と同様なものとしてあり、バンク構成を直列4段とし、ベッセル構成を8−4−2−1としてある。すなわち、多段型装置1は第1(1st)バンク11、第2(2nd)バンク12、第3(3rd)バンク13、および第4(4th)バンク14から構成してある。第1バンク11では、ナノろ過膜を構成する5つの同様な膜エレメント15をベッセル(ハウジングまたはケーシング)16に収容してなる8つの膜モジュール17を並列配置してある。第2バンク12では同様な膜モジュール17を4列に並列配置し、第3バンク13では同様な膜モジュール17を2列に並列配置し、第4バンク14では同様な膜モジュール17を1つだけ配置してある。
【0013】
他方、循環型装置2は、多段型装置1の処理機能に影響を及ぼすと認められる因子(処理機能影響因子)を再現するものとしてある。この処理機能影響因子には、水量収支、運転圧力、供給水水質、供給水温度、浸透圧、溶質濃度などを含めることができる。
【0014】
図2に示すように、循環型装置2は、多段型装置1の任意の箇所(例えば図1において楕円で囲んだ4つの箇所のうちの1つ)における少なくとも1つの膜エレメント15(例えば第1バンク11の第1、第2の膜エレメント15、15)に相当する2つの膜エレメント21、21を備えている。なお、図1において楕円で囲んだ4つの箇所は、後述する実施例2において対象となる膜エレメント15を指しており、循環型装置2に用いる膜エレメント21は、多段型装置1の膜エレメント15の位置や数に限定されるものではない。
【0015】
循環型装置2の膜エレメント21はベッセル22に収容し、膜モジュール23としてある。循環型装置2には、例えば前処理施設からの原水を貯留して膜エレメント21に供給するための供給水槽24を用意してある。この供給水槽24内の供給水は、供給水管25と供給ポンプ26によって上流側の膜エレメント21に流入させるようにしてある。双方の膜エレメント21、21でろ過したろ過水は、ろ過水管27を介してろ過水槽28に導くようにしてある。上流側の膜エレメント21で生じた濃縮水は濃縮水管29によって後流側の膜エレメント21に導くようにし、後流側の膜エレメント21で生じた濃縮水は濃縮水管30を介して系外に排出するようにしてある。そして、後流側の膜エレメント21の濃縮水の一部または全部は、循環水管31を介して供給ポンプ26の上流側の供給水管25に循環させるようにしてある。
【0016】
なお、上述の供給水槽24およびろ過水槽28は循環型装置2に必須のものではなく、多段型装置1の供給水源やろ過水槽でそれぞれ代用させることができる。
【0017】
ここで、多段型装置1の任意の膜エレメント15における水回収率、物質除去率などは図3を参照して以下のように定義する。
n番目の膜エレメント15におけるエレメント水回収率rn
n=Qpn/Qfn ・・・(式1)
n番目の膜エレメント15におけるエレメント物質除去率Rn
n=1−Cpn/{(Cfn+Cbn)/2} ・・・(式2)
n番目の膜エレメント15のろ過水量Qpn
pn=Qfn・rn ・・・(式3)
n番目の膜エレメント15における濃縮水量Qbn
bn=Qfn・(1−rn) ・・・(式4)
n番目の膜エレメント15までの累積システム水回収率rsys
sys=1/Qf1・ΣQpn(n=1〜n) ・・・(式5)
n番目の膜エレメント15における濃縮水濃度Cbn
bn=Cfn・{rn(1−rn)−2}/{rn(1+Rn)−2} ・・・(式6)
n番目の膜エレメント15におけるろ過水濃度Cpn
pn=Cfn・(rn−2)(1−Rn)/{rn(1+Rn)−2} ・・・(式7)
ただし、Cfnは供給水濃度とする。
【0018】
そして、循環型装置2の循環水量比、エレメント水回収率、エレメント物質除去率などは図4を参照して以下のように定義する。
循環水量比a;
a=Qr/Q0 ・・・(式8)
エレメント水回収率r;
r=Qp/Qf ・・・(式9)
エレメント物質除去率R;
R=1−Cp/{(Cf+Cb)/2} ・・・(式10)
膜供給水量Qf
f=Q0・(1+a) ・・・(式11)
濃縮水量Qb
b=Q0・(1+a)(1−r) ・・・(式12)
ろ過水量Qp
p=Q0・(1+a)r ・・・(式13)
濃縮排水量Qd
d=Q0−Q0・(1+a)r ・・・(式14)
循環水量Qr
r=a・Q0 ・・・(式15)
水回収率rsys
sys=1−(1+a)r ・・・(式16)
膜供給水濃度Cf
f=C0・{r(1+R)−2}/{r(1+(1+2a)R)−2}・・・(式17)
濃縮水濃度Cb
b=C0・{r(1−R)−2}/{r(1+(1+2a)R)−2} ・・・(式18)
ろ過水濃度Cp
p=C0・(r−2)(1−R)/{r(1+(1+2a)R)−2}・・・(式19)
【0019】
以上により、多段型装置1と循環型装置2では、エレメント水回収率とエレメント物質除去率が決まれば、濃縮水濃度、ろ過水濃度などを求めることができる。具体的な数値で例えれば、多段型装置1の例えば第2バンク12の第1の膜エレメント15に流入する供給水量を100とし、そのエレメント水回収率を10%と仮定すると、第2バンク12の第1〜第5の膜エレメント15でのろ過水量はそれぞれ10、9、約8、約7.3、約6.5となり、次位の膜エレメント15に流入する濃縮水量は順次に90、81、約73、約65、約59となる。したがって、第1〜第5の膜エレメント15のろ過水量の累積(合計)は約41となり、そのうちの第4、第5の膜エレメント15のろ過水量の累積は約13.8となる。
【0020】
他方、循環型装置2において多段型装置1の第2バンク12の第4、第5の膜エレメント15、15の水量収支を再現する場合には、循環型装置2に流入する(循環水量を含む)供給水量は約73となる。多段型装置1の第1〜第5の膜エレメント15の累積ろ過水量は約41であり、第4、第5の膜エレメント15、15(膜エレメント21、21)のろ過水量の累積は約13.8であるので、循環型装置2の系外からの供給水量は(約13.8/約41)・100=約33.6となる。したがって、循環水量は約73−約33.6=約39.4となる。そして、循環型装置2から系外に流出するろ過水量は約33.6−約13.8=約19.2となる。
【0021】
次に、多段型装置1の処理機能を循環型装置2によって実証実験するための全般的な手順を説明する。先ず、多段型装置1の任意の膜エレメント15における水量収支を上記式1〜7によって算出する。次に、その算出結果に基づいた水量収支を用いて循環型装置2を運転する。次に、多段型装置1の同じ膜エレメント15における水量収支を実測すると共に、供給水水質、ろ過水水質、および濃縮水水質を実測する。次に、多段型装置1の同じ膜エレメント15における水量収支を再現した循環型装置2の水量収支を実測すると共に、供給水水質、ろ過水水質、および濃縮水水質の物質濃度を実測する。次に、循環型装置2で得た水量および水質の実測値から物質除去率を上記式8〜19によって算出する。次に、算出した物質除去率を用いて多段型装置1の供給水水質、ろ過水水質、および濃縮水水質の物質濃度を算出する。そして、この多段型装置1の物質濃度と上記循環型装置2の物質濃度とがほぼ一致することを確認する。
【0022】
実施の形態2.
なお、上述の実施の形態1では1基の循環型装置2によって多段型装置1の処理機能を予測したが、多段型装置1の任意の膜エレメント15における処理機能影響因子を再現できる2基以上の循環型装置2を用意し、この循環装置2に前記処理機能影響因子を再現してそれを運転することによっても、多段型装置1の処理機能を予測できる。この場合には、循環型装置2から物質除去率を算出し、この物質除去率を用いることにより、多段型装置1で得られるであろう濃度を算出する。
【実施例1】
【0023】
多段型装置1の流量予測式の確認を次のように行なった。ただし、以下の表1にも示すように、多段型装置1はバンクの構成を直列3段とし、ベッセル16の構成を6−3−1とし、各ベッセル16には5つの膜エレメント15を収容した。表1において、3つのバンクは第1(1st)バンク、第2(2nd)バンク、第3(3rd)バンクと表し、5つの膜エレメント15は、上流側から順次に1エレメント〜5エレメントと表してある。このような多段型装置1の構成で次の手順を進めた。
(1)各バンクのフラックスとバンク毎のエレメント水回収率とをそれぞれ一定と仮定し、多段型装置1のろ過水量の予測値を上記式3から得た。
(2)多段型装置1を表1に示す条件で運転し、多段型装置1のろ過水量の実測値を得た。
(3)多段型装置1のろ過水量の予測値と実測値の関係は図5に示すようになった。
(4)図5から明らかなように、多段型装置1のろ過水量を実用上問題のない程度に予測することが可能となり、流量予測式の妥当性を確認できた。なお、実際には膜エレメント15の圧力損失によって膜ろ過圧力が膜エレメント15毎に変化するので、エレメント水回収率は同一ベッセル16内であっても異なり、ベッセル16の上流側で高く、下流側で低くなる。しかし、エレメント水回収率が同一ベッセル16内で一定であると仮定すれば、多段型装置1のろ過水量を実用上問題のない程度に予測することが可能となる。
【0024】
【表1】

【実施例2】
【0025】
多段型装置1および循環型装置2の濃度予測式の確認を次のように行なった。
(1)以下の表2に示す条件(フラックスおよびエレメント水回収率を一定)の下で多段型装置1の濃度の予測値を上記式6および式7から算出した。
(2)表2に示す条件(図1に4つの楕円で示す箇所の水量収支の再現、すなわち第1バンク11の第1、第2の膜エレメント15の水量収支または第2〜第4バンク12〜14のそれぞれの第3、第4の膜エレメント15の水量収支の再現)の下で循環型装置2の物質濃度(供給水濃度、濃縮水濃度、およびろ過水濃度)の予測値を上記式17〜式19から得た。
(3)多段型装置1と循環型装置2を表2に示す条件で運転した。
(4)例として有機物質の一指標であるTOC(全有機性炭素)濃度の実測値を得た。
(5)濃度予測式による多段型装置1のTOC濃度の予測値と実測値の関係は図6に示すようになり、濃度予測式による循環型装置2のTOC濃度の予測値と実測値の関係は図7に示すようになった。
(6)図6および図7から明らかなように、多段型装置1と循環型装置2の双方において濃度の予測値と実測値に優れた一致が見られ、濃度予測式の妥当性を確認できた。なお、多段型装置1の濃度の実測値と循環型装置2の濃度の実測値とを比較すると、高濃縮域になるにつれて前者が後者よりも大きかった。
【0026】
【表2】

【実施例3】
【0027】
多段型装置1の流量予測式と濃度予測式では、膜エレメント15毎の水回収率と物質除去率が求まれば、多段型装置1の全体の水量分布と濃度分布を算出することができる。一過型多段ナノろ過実施設を設計する際には、エレメント水回収率は初期条件(ろ過水量とシステム水回収率=供給水量)によって算出できるので、膜エレメント15毎のエレメント物質除去率を与えることができれば、一過型多段ナノろ過実施設の濃度分布の予測が可能となる。ここでは、循環型装置2で得た水回収率と物質除去率の関係を多段型装置1の濃度予測式に適用することにより、循環型装置2による多段型装置1の水質予測を行ない、得られた水質の予測値と多段型装置1の水質の実測値から循環型装置2による多段型装置1の水質予測を次の手順で行なった。
(1)多段型装置1は、図1に示す構成とし、そのフラックス(流束)を各バンク当たり0.6m/dとし、回収率を95%として運転した。循環型装置2は、多段型装置1の第1バンク11の第1、第2エレメント15または第2〜第4バンク12〜14の第4、第5エレメント15の水量収支を再現して運転した。
(2)循環型装置2で得た水回収率と物質除去率の関係を上記式6および式7に適用して多段型装置1の濃度の予測値を算出した。
(3)多段型装置1の濃度の実測値を得た。
(4)多段型装置1と循環型装置2のシステム水回収率と物質除去率の関係について、TOCでの比較結果は図8のようになった。
(5)循環型装置2による多段型装置1の濃度の予測値と実測値の関係について、TOCでの比較結果は図9のようになった。ただし、縦軸は供給水濃度に対するろ過水濃度および濃縮水濃度の比としてある。
(6)循環型装置2による多段型装置1の濃度の予測値と実測値の関係について、多段型装置1のバンク11〜14の各々および全体のTOCでのろ過水水質の比較結果は図10のようになった。ただし、縦軸は供給水濃度に対するろ過水濃度の比としてある。
(7)図8から明らかなように、多段型装置1と循環型装置2の双方において、システム水回収率に対する物質除去率の変化が同程度となった。したがって、図9および図10から明らかなように、システム水回収率に対する供給水濃度を1とした場合に、ろ過水の濃度比と濃縮水の濃度比も予測値と実測値でほぼ等しくなった。これにより、多段型装置1の水質予測が実用上極めて有効であることが分かった。
【0028】
以上のように、多段型装置1の流量予測式と濃度予測式から算出した流量と濃度の予測値が実測値とほぼ一致し、かつ循環型装置2の濃度予測式から算出した濃度の予測値と実測値もほぼ一致し、各予測式の妥当性を確認した。また、循環型装置2で得た水回収率と物質除去率の関係を用いて算出した多段型装置1のろ過水と濃縮水の濃度の予測値と実測値はほぼ一致し、循環型装置2による多段型装置1の濃度予測が可能であることを明らかにした。
【0029】
したがって、多段型装置1の機能評価が必要な場合には、多段型装置1の任意の箇所の少なくとも1つの膜エレメント15の周りの処理機能影響因子を循環型装置2で再現して物質除去率を求めることにより、多段型装置1の物質濃度を理論的に算出できる。この多段型装置1は一過型多段ナノろ過実施設に他ならないので、一過型多段ナノろ過実施設の研究開発にあたっては一過型多段ナノろ過実施設を必要とせず、循環型装置2のみによって一過型多段ナノろ過実施設の処理機能を予測できる。よって、一過型多段ナノろ過実施設の研究開発コスト、設備コスト、運転管理コストなどを大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施の形態1における多段型装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における循環型装置の構成図である。
【図3】多段型装置のエレメント周りの収支を説明する図である。
【図4】循環型装置のエレメント周りの収支を説明する図である。
【図5】ろ過水量の予測値と実測値の関係を示すグラフ図である。
【図6】濃度予測式による多段型装置のTOC濃度の予測値と実測値の関係を示すグラフ図である。
【図7】濃度予測式による循環型装置のTOC濃度の予測値と実測値の関係を示すグラフ図である。
【図8】システム水回収率とTOC除去率の関係を示すグラフ図である。
【図9】循環型装置による多段型装置のTOC濃度の予測値と実測値の関係を示すグラフ図である。
【図10】循環型装置による多段型装置のTOC濃度の予測値と実測値の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0031】
1 多段型装置(一過型多段ナノろ過実施設)
2 循環型装置(循環型ナノろ過試験装置)
11〜14 バンク
15、21 膜エレメント
16、22 ベッセル
25 供給水管
27 ろ過水管
31 循環水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一過型多段ナノろ過実施設の任意の箇所における少なくとも1つの膜エレメントの処理機能に影響を及ぼすと認められる因子を再現した循環型ナノろ過試験装置。
【請求項2】
前記因子は前記膜エレメント周りの水量収支、運転圧力、供給水水質、または供給水温度であることを特徴とする請求項1に記載の循環型ナノろ過試験装置。
【請求項3】
一過型多段ナノろ過実施設の任意の箇所における少なくとも1つの膜エレメントの処理機能に影響を及ぼすと認められる因子を再現した循環型ナノろ過試験装置によって前記処理機能を予測することを特徴とする処理機能予測方法。
【請求項4】
前記循環型ナノろ過試験装置における供給水濃度、水回収率、および物質除去率の関係を前記一過型多段ナノろ過実施設の濃度予測式に適用することによって前記処理機能を予測することを特徴とする請求項3に記載の処理機能予測方法。
【請求項5】
前記供給水濃度をCfn、前記水回収率をrn、前記物質除去率をRnとした場合に、前記一過型多段ナノろ過実施設のn番目の膜エレメントにおける濃縮水濃度Cbnの予測式は、
bn=Cfn・{rn(1−rn)−2}/{rn(1+Rn)−2}
であり、ろ過水濃度Cpnの予測式は
pn=Cfn・(rn−2)(1−Rn)/{rn(1+Rn)−2}
であることを特徴とする請求項4に記載の処理機能予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−21440(P2007−21440A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210378(P2005−210378)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000147408)株式会社西原環境テクノロジー (44)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】