説明

一酸化炭素の治療的供給

少なくとも、置換された、シクロペンタジエニル、インデニル若しくはフルオレニル配位子及び2又はそれ以上のカルボニル配位子を有する遷移金属錯体を用いる、人間及びその他の哺乳動物に対する一酸化炭素の治療的供給のための化合物、薬剤組成物、並びに方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間及びその他の哺乳動物に対する一酸化炭素の治療的供給(therapeutic delivery) のための化合物、薬剤組成物、並びに方法に関するものである。それらの組成物及び化合物は、その他、臓器潅流(organ perfusion) に用いられる。特に、本発明は、また、人間及び他の哺乳動物の、体外の及び離隔された器官に対する、一酸化炭素の供給のための方法、化合物、並びに薬剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)は、一般的な定義によると、無色、無臭、無味、非腐食性の、空気とほぼ同じ密度を有する気体であって、我々を取り巻く環境において、最も一般的に遭遇する浸透力のある毒物である。曝露の度合いと時間により、COは、生物に対して、無数の衰弱及び有害な後遺の影響を招来する(参考文献1)。それらの影響のうち、最も即時的な且つ恐らく最も悪評の高いものは、血流中のヘモグロビンとの結合であり、それによって、心臓血管系の酸素運搬能力は急速に低下する。
【0003】
逆説的には、半世紀以上前には、人間において、少量ずつ絶え間なく形成されることが見出され(参考文献2)、また、ある病態生理学的条件の下においては、この内因性のCOの生産がかなり増加する場合があることが見出された(参考文献3〜5)。ヘモグロビン、即ちヘム依存性のたんぱく質が、生体内でのCOの産生のための基質として必要とされることの発見(参考文献6、7)、及びヘムオキシナーゼ酵素が、哺乳動物における、そのガス状の分子の発生にとっての重要な経路であるとの判別(参考文献8)は、血管系におけるCOの予期せぬ且つ未確認の役割についての初期の調査の基礎となった(参考文献9)。
【0004】
かかる領域において為された背景的な研究についての議論が、刊行物:WO 02/092075に報告されており、それは、本願発明者のうちの幾人かの業績に源を発している。また、一酸化炭素(CO)の有益な生理学的効果は、多くの他の刊行物においても認められ、報告されている。それら有益な生理学的効果の結果として、望ましい生理学的なサイトに対して、適当な割合で一酸化炭素の治療的な量を供給することにおいて用いられる方法や化合物を提供する多くの提案や研究を含む文献が存在する。
【0005】
WO 2003/000114(Beth Israel Deaconess Medical Center)は、一酸化炭素−酸素(O2 )気体混合物を器官に投与することを含む方法を記述しており、それは、移植処置のための器官のダメージを阻止することを助けている。
【0006】
同様に、WO 03/094932(Yale University) は、一酸化炭素ガスの発生のための幾つかの方法や各種の傷害の処置のために、患者に対して、かかるガスを後に投与する方法を開示している。
【0007】
WO 02/078684(Sangstat Medical Corporation)は、一酸化炭素発生化合物として、塩化メチレンを用いることにより、血管系の疾病を処置したり、炎症性及び免疫性の作用を調節するための方法や薬剤組成物を開示している。
【0008】
WO 02/092075やWO 2004/045598は、本願発明者の幾人かによるものであるが、それらは、生体内で若しくは生体外で、生理学的な目標サイトに対してCOを治療的に供給するための、一酸化炭素放出化合物(CORMs)である金属カルボニルを開示している。それらの刊行物に開示された遷移金属のカルボニル化合物のいくらかは、水に可溶性であり、薬剤組成物を処方するために望ましいものである。シクロペンタジエニル鉄−カルボニル化合物[CpFe(CO)3 ]PF6 の如き、それら刊行物に開示の化合物の全てが、水に可溶性であるものではない。この特定の化合物は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶性であり、そして、COの放出の間、沈殿物を生成する。生体システムにおける沈殿物の生成は、生理学的ターゲット(physiological target)に対するCOの放出の前であっても、後であっても、望ましくないものであり、また、生体に対して有毒である場合があり、或いは生理学的サイトに有害な影響をもたらす結果となる場合がある。
【0009】
WO 98/029115(University of British Columbia)は、高血圧症、狭心症及びうっ血性の心臓疾患を処置するための遷移金属ニトロシル錯体を開示している。この刊行物に開示の化合物は、金属に配位した少なくとも一つのニトロシル配位子の存在を要求している。この文献に例示されているシクロペンタジエニル金属カルボニル化合物は、CpM(CO)2 NOやCp* M(CO)2 NO(但し、M=Cr、Mo、W;Cpは、シクロペンタジエニル配位子であり、Cp* は、ペンタメチルシクロペンタジエニル配位子である)の形態を有している。
【0010】
US 2004/0116448(Schmalz, H. -G. et al) は、高度に増殖している細胞、例えば腫瘍細胞によって惹起される疾患の処置のために、鉄カルボニル錯体を使用することを開示している。この活性な化合物は、ブタジエン成分を含んでおり、それは、η4 方法(η4 manner)において、鉄トリカルボニル単位に結合せしめられている。このブタジエン成分は、5員環の環状リングの部分を形成することが出来る。シクロペンタジエニル基の生成及びその後のη5 方法(η5 manner)における遷移金属への配位は、開示されていない。
【0011】
WO 03/066067(Haas, W. et al)は、疾患の処置及び/又は予防に用いるために、「CO含有有機金属錯体」を、一つのクラスの化合物として提案している。そのクラス内に入る有機金属遷移金属−カルボニル化合物の一般的な例が、記載されている。それら例の中で、以下の有機金属化合物についての一般式が、示されている:
[(η5−CpR)M(CO)3](M=Mn、Re);
[(η5−CpR)M(CO)2](M=Co、Rh);
[(η5−CpR)M(CO)2X](M=Fe、Ru);
[(η5−CpR)M(CO)3X](M=Cr、Mo、W);
[η5−IndM(CO)2X](M=Fe、Ru);
[η5−IndM(CO)3X](M=Cr、Mo、W);
[(η5−CpR)M(CO)2L]+- (M=Fe、Ru);及び
[(η5−CpR)M(CO)3L]+- (Cr、Mo、W);
但し、Cpは、シクロペンタジエニル配位子であり、Indは、インデニル配位子であり、Rは、H、アルキル、アシル、ホルミル、カルボキシレート、糖、ペプチド又はハライドであり、Xは、アルキル、アリール、ハライド、OR’、SR’、O2CR’、S2CNR’2、S2P(OR’)2 であり、Lは、CO、オレフィン、アルキン又はO、S、N若しくはPの単座2電子供与体であり、そしてYは、ハライド若しくは弱い配位アニオンである。
【0012】
カルボキシル誘導体をシクロペンタジエニル環に付けることが、また、生体適合性や溶解度を修飾するために提案されている。以下のMn錯体が、可能な修飾化合物の一例として示されている:
[化6]

但し、R(X)は、H、アルキル、アリール、ホルミル、アシル、カルボキシレート又は縮合したC6芳香環(インデニル配位子)であり、そしてR’は、H、アルキル、ペプチド又は糖である。
【0013】
WO 03/066067(Haas, W. et al)は、上記の化合物の何れの合成についても記述しておらず、また、それらの準備のための手法に関して、如何なる文献の参照も明らかにしていない。更に、この文献には、生体内で、若しくは生体外のCOの供給のためのそれらの化合物を使用することを支持する上において、生体テストデータの如き証明が何等為されていないことに注目される。
【0014】
【特許文献1】WO 02/092075
【特許文献2】WO 2003/000114
【特許文献3】WO 03/094932
【特許文献4】WO 02/078684
【特許文献5】WO 2004/045598
【特許文献6】WO 98/029115
【特許文献7】US 2004/0116448
【特許文献8】WO 03/066067
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以下に提供されたデータによって例示されている如く、本発明者等は、本発明に従う薬剤組成物や化合物が、生理学的ターゲットに対してCOを供給乃至は放出するために用いられ得て、CO放出の後に水性の生理学的流体に溶解し得る副生成物若しくは生成物を形成することになることを見出し、本発明に到達したのである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明の第一の態様は、以下の式(I)又は式(II)にて示される化合物を、活性成分(active ingredient) として含有する、CO供給のための薬剤組成物を提供することにある:
[CpM(CO)Xp+Z(Y-qz/q ・・・ (I)
但し、Mは、周期表の第6、7、8又は9族から選ばれた遷移金属であり;Yは、対アニオンであり;qは、Yの電荷であって、1、2又は3から選ばれたものであり;xは、2、3又は4であり;zは、0又は1であり、そしてx、z及びpは、次式:13−g=2x−z+p(ここで、gは、周期表におけるMの族番号であり、且つgが6のとき、pは0若しくは1であり;或いはgが7、8若しくは9のとき、pは0である)を満たし;Lは、H、ハライド、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ、C6-14のアリールオキシ、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、アシロキシ(−OC(=O)R5) 、アミド(−C(=O)NR56)、アシルアミド(−NR5C(=O)R6)、アミノカルボニルオキシ(−OC(=O)NR56)及びアミノチオカルボニルチオール(−SC(=S)NR56)から選ばれた配位子である;
[CpM'(CO)2L']+Z(Y-qz/q ・・・ (II)
但し、M’は、Fe又はRuであり;Yは、対アニオンであり;qは、Yの電荷であり且つ1、2若しくは3から選ばれたものであり;L’は、第1のグループ又は第2のグループの何れかから選ばれた配位子であって、
かかる第1のグループは、H、ハライド、−NO2 、−ONO、−ONO2 、−OH、−SCN、−NCS、−OCN、−NCO、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ、C6-14のアリールオキシ、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、アシロキシ(−OC(=O)R7)、アミド(−C(=O)NR78 )、アシルアミド(−NR7C(=O)R8)、アミノカルボニルオキシ(−OC(=O)NR78)、(SC(=O)R7)、−SC(S)R7、−SC(S)OR7 、−SC(O)NR78、−SC(O)OR7 、アミノチオカルボニルチオール(−SC(=S)NR78)、−OC(=S)R7、−N(C(=O)R72 、及び−C(O)(OR7);−O−PR789、−O−PR73-n(OR8n(但し、nは1、2若しくは3である)、−O−PR7(3-n)(NR89n (但し、nは1、2若しくは3である)から構成され;
また、前記第2のグループは、OR78、O=CR78、O=C(NR78)R9 、O=C(OR7)R8、O=SR78、O=S(O)R78、SR78、S(O)R78、S=CR78、S=C(NR78)R9、S=C(OR7)R8、NR789、NCR7、N*(但し、Nは、N*で示される芳香環における芳香族の窒素原子である)、PR789、PR7(3-n)(OR8n (但し、nは、1、2若しくは3である)、PR7(3-n)(NR89n(但し、nは、1、2若しくは3である)、O=PR789、O=PR7(3-n)(OR8n (但し、nは、1、2若しくは3である)、O=PR7(3-n)(NR89n (但し、nは、1、2若しくは3である)からなるものであり;
7 、R8 及びR9 は、水素、任意に置換されたC1-7 のアルキル、及び任意に置換されたC6-20のアリールから独立して選択されるが、R7 、R8 及びR9 の何れか二つは、同一のO、N若しくはS原子に結合して、そのような原子と共に、5、6若しくは7つの環原子(ring atom )を有する、任意に置換された複素環を形成することが出来るものであり;L’が、前記第1のグループからのものであるときには、zは0であり、またL’が、前記第2のグループからのものであるときには、zは1であり;
そして、前記式(I)及び式(II)において、Cpは、
[化7]

から選ばれ(そこで、r、s及びtは、1、2、3若しくは4から、各々独立して選択される);また、
1 は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 、−[Alk]n −NR4 −C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−NQ12 の何れかであり(ここで、nは、0若しくは1であり;Alkは、C1-28のアルキレン基であり;Q1 及びQ2 は、H、任意に置換されたC1-22のアルキル基及び任意に置換されたC6-25のアリール基から、各々独立して選択される);
各R2 は、R1 、H、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ハライド、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル及びC6-20のアリールアシルから独立して選択され;
4 は、H、C1-22のアルキル、及びC5-25のアリールから選択され;
各R3 は、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、スルフヒドリル、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル、C6-20のアリールアシル、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、カルボン酸(−C(=O)OH)、エステル(−C(=O)OR5 )、アシロキシ(−OC(=O)R5)、アミド(−C(=O)NR56)、 アシルアミド(−NR5C(=O)R6)及びアミノ(−NR56)から独立して選択され;及び
5 及びR6 は、H、C1-7 のアルキル及びC6-20のアリールから、独立して選択される。
【0017】
本発明の第一の態様に従う薬剤組成物における遷移金属カルボニル化合物は、η5 方法(η5 manner)において、遷移金属の中心に共有結合されたカルボニル配位子とシクロペンタジエニル、インデニル(indenyl )、若しくはフルオレニル(fluorenyl )配位子を含んでいる。それら有機金属化合物は、18電子ルール(18 electron rule)として、当該技術分野においてよく知られていることを、満足している。
【0018】
配位子の配位から電子の寄与を考慮する前に、本発明の薬剤組成物又は化合物における遷移金属は、既に、その原子価殻において、いくつかの電子を有している。既に存在する電子の数は、周期表における遷移金属の族番号によって与えられる。この明細書においては、周期表の族は、IUPAC命名法に従い、1〜18までの番号がつけられている。シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニル配位子は、η5 方法において、そのπ軌道によって遷移金属に結合しており、金属の原子価殻に5個の電子を与えている。各々のカルボニル配位子は、形式上、遷移金属の原子価殻に対して、2個の電子を供与する。配位子Lは、上記の式(I)に記載されているように、かかる金属に配位され得るものである。Lは、I- の如きアニオン性の配位子を表しており、そして、形式上、かかる金属の原子価殻に1個の電子を与えている。該金属に配位するカルボニル配位子とL配位子の総数は、18電子ルールによって決定される。
【0019】
もし、遷移金属が電子の偶数、即ち、g=6若しくは8を有し、そして、該金属に配位した如何なるL配位子(一つの電子アニオン性配位子)も存在せず、更に、18電子ルールを満足するように、周期表における族から選択されるならば、有機金属錯体は、一つの電子を喪失しなければならないために、+1の正式な電荷を有することとなる。或いはまた、gが6であるとき、一つのカルボニル配位子(二つの電子供与体)は、一つのL配位子(一つの電子供与体)と置き換えられ得る。そのような化合物においては、有機金属錯体は荷電されていない。
【0020】
本発明の化合物において、周期表の第6若しくは8族からの遷移金属の酸化状態は、+2である。しかるに、本発明に従う化合物において、周期表の第7若しくは9族からの遷移金属の酸化状態は、+1である。
【0021】
同様な原理が、前記式(II)の化合物に対して適用される。Fe又はRuの酸化状態は+2である。
【0022】
遷移金属錯体のシクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニル環に対する置換基の取付けは、分子の電子的性質を微妙に変え得る。それ故に、置換基の特定のタイプのものの導入は、一酸化炭素放出分子(CORM)から生理学的なターゲット(対象物)に対するCO放出の速度を調節することを許容する。置換基の化学的性質は、水性の生理学的流体におけるCORMの溶解度を付加的に増大させるかもしれない。
【0023】
WO 03/066067(Haas, W. et al)は、有機金属化合物のいくつかの部類が、CORMとして用いられ得ることを示唆している。しかしながら、このWO 03/066067は、有機金属化合物のそれらの部類の多くのものに対して、実施可能な開示を含んではいない。更に、この文献は、CORMであるとして、それら分子を支持する如何なるデータも提供しておらず、むしろ、当該分野における熟達者にとって知られていることとして、それら化合物の部類が、潜在的なCORM候補であると考えている。本発明者等は、採用したテスト条件の下で、WO 03/066067において、CORMとしての使用が提案された有機金属化合物のいくつかの部類が、生理学的なターゲットに対して、現実にCOを放出しないことを見出した。
【0024】
驚くべきことに、本発明者等は、本発明に従う化合物が、COの放出の後、水性の生理学的流体中に沈殿物を生成しないことを見い出したのである。シクロペンタジエニル環上の置換基(R1 )の存在が、溶解度を増大させ、及び/又は生じるCORM副生成物を安定化して、それによって、不溶性種への分解を阻止するものと信じられている。生体系内での不溶性副生成物若しくは生成物の形成は、望ましくない生理学的影響を惹起するかもしれないのである。
【0025】
もし、遷移金属が、周期表の第6又は8族から選択されるならば、18電子ルールを満足させるために、本発明に従う有機金属化合物は、+2酸化状態にある遷移金属を有している。L配位子が何等存在しないようなp=0のとき、化合物は、荷電され、即ち、前記式(I)においてz=1となる。生成するイオン性化合物は、有機金属カチオンと前記式(I)においてYとして表される対アニオンからなるものとなる。
【0026】
+2酸化状態(即ち、g=6又は8)にある遷移金属を有する式(I)の化合物や式(II)の化合物のCORM副生成物が、+1酸化状態にある金属を有する化合物のCORM副生成物よりも、水性の生理学的流体中において、より大きな溶解度を有しているであろうことが予測されている。好ましくは、遷移金属の酸化状態は、+2である。特に、水性の生理学的流体中における溶解度は、遷移金属が+2酸化状態にあり、且つ+1(z=1)の形式上の荷電を有する化合物に対して、より大きくなりそうである。
【0027】
有機金属錯体が、正規の電荷を有しているとき、それは、対アニオンと結びついている。先の式(I)及び式(II)において、Yにて示される対アニオンは、「q」にて示されるように、1に等しいか、それよりも大きな負の電荷を有している。本発明に従えば、有機金属カチオンの電荷は、+1を超えることが出来ない(例えば、配位子又は構成要素が第4級の窒素を含んでいない限り)。対アニオンの電荷が−1を超えるときには、化合物全体の電荷をバランスするために、一つの有機金属カチオンよりも多く存在させなければならない。例えば、仮に、対アニオンがサルフェート(SO42- )であり、且つカチオンが[CpFe(CO)3+1であるならば、かかる化合物の式は、[CpFe(CO)32 (SO4 )として記載され得、また、それは、単一の有機金属カチオンに換算して、先の式(I)において、[CpFe(CO)3 ](SO41/2 として表される。
【0028】
対アニオンは、以下のものから選択されることが望ましい:ハライド(例えば、F- 、Cl- 、Br- 若しくはI- );スルホネート(例えば、TsO-、MsO-、TfO- 、BsO-);ボレート(例えば、BF4-、BPh4- );ヘキサフルオロホスフェート(PF6-);パーハレート(perhalate、例えば、ClO4-);サルフェート(SO42-);ホスフェート(PO43-); 有機酸のカルボキシレート・アニオン、例えば、2−アセトキシ安息香酸、酢酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、ケイ皮酸、クエン酸、エデト酸(edetic acid )、エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフタレンカルボン酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、フェニルスルホン酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファニル酸、酒石酸、トルエンスルホン酸及び吉草酸のアニオン;又はアミノ酸のアニオン、例えば、グリシネート等、或いは当業者に公知の他の薬剤的に許容され得るアニオン、例えば、S Berge et al 「Journal of Pharmaceutical Science」 (1977), 66 (1) 1-19 や P Gould「International Journal of Pharmaceutics」 (1986), 33, 201-217に記載されたもの。最も好ましい対アニオンは、有機カルボン酸又はアミノ酸のカルボキシレート・アニオンである。
【0029】
遷移金属が第6族からのものであるとき、金属は、生成する有機金属化合物が+1の電荷を有するカチオン性であるように、4つのカルボニル配位子に対して配位され得る。或いはまた、第6族の遷移金属は、それが、3つのカルボニル基とLにて示されるアニオン性配位子に対して配位されるならば、中性となる。遷移金属が第6族からであるとき、遷移金属が1つのL配位子に配位されるように、pは、1であり、且つxは、3であることが好ましい。Lは、H、ハライド、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ、C6-14のアリールオキシ、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、アシロキシ(−OC(=O)R5)、アミド(−C(=O)NR56)、 アシルアミド(−NR5C(=O)R6)、アミノカルボニルオキシ(−OC(=O)NR56)及びアミノチオカルボニルチオール(−SC(=S)NR56)から選ばれる。特に、Lは、H、ハライド、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ及びC6-14のアリールオキシから選択される。より好ましくは、Lは、H、ハライド、C1-7 のアルキル、C6-14のアリールである。そして、Lが、Cl、Br若しくはIであるときは、最も好ましいのである。
【0030】
第6〜9族の遷移金属のいくつかは、望ましくない生理学的副作用を惹起し、或いはそれに結びつくかもしれない。好ましくは、遷移金属Mは、Fe、Ru、Mn及びMoから選択される。MがFe及びMoのうちの一つである化合物が、最も好ましい。特に、Feが好ましいのである。
【0031】
式(II)の化合物において、M’は、好ましくはFeである。L’はアニオン性(一つの電子供与体)配位子の第1のグループから選択されるか、或いは中性の(二つの電子供与体)配位子の第2のグループから選択される。
【0032】
かかる第1のグループの配位子の中でも、H、ハライド、−NO2 、−ONO−、−ONO2 、−OH、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ及びC6-14のアリールオキシが、好ましい。かかる第1のグループのより好ましいL’は、ハライド、−NO2 、−ONO−、−ONO2 、−OH、C1-7 のアルキル若しくはC6-14のアリールである。最も好ましいものは、Cl、Br、I及び−ONO2 である。
【0033】
前記第2のグループの配位子は、O、S、N若しくはPを通じて配位する。この第2のグループの配位子のリストの各項目において、配位原子は、最初に位置せしめられている。この第2のグループの配位子の特別の例は、以下の通りである:
OH2 (水)
OHR7 、例えば、C25OH
OR78、例えば、テトラヒドロフラン
O=CR78、例えば、(CH32CO
O=C(NR78)R9、例えば、CH3CON(CH32
O=C(OR7)R8、例えば、CH3COOCH3
O=SR78、例えば、DMSO
O=S(O)R78、例えば、(CH32SO2
SH2
HSR7
SR78
S(O)R78、例えば、Sを通じて配位するDMSO
S=CR78、例えば、(CH32CS
S=C(NR78)R9、例えば、CH3C(S)N(CH32
S=C(OR7)R8、例えば、CH3C(S)OCH3
NH3
NH27
NHR78
NR789
芳香環、例えば、ピリジン、ヒスチジン、若しくはアデミン(ademine) におけ るsp2 Nを通じて配位するN* 型の配位子
【0034】
本発明に従う薬剤組成物において、式(I)或いは式(II)にて示される化合物は、シクロペンタジエニル、インデニル若しくはフルオレニル環についた置換基R1 において、エステル若しくはアミド基を有している。ここに、選択された化合物が、生態系に対してCOを放出することが、そして出発化合物が水性の生理学的流体に可溶性であることが、示されている。本発明者等は、驚くべきことに、シクロペンタジエニル、インデニル若しくはフルオレニル環を、エステル若しくはアミド基に結合させると、CO放出後に形成される一つ若しくは複数の副生成物に対して、追加的な溶解性及び/又は安定性を与えることを、見出した。
【0035】
Cp基に付いたR1 置換基は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−O−Q1 にて示されるエステル基、又は−[Alk]n −NR4 −C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−NQ12 にて示されるようなアミド基を有している。好ましくは、R1 は、エステル基−[Alk]n −O−C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−O−Q1 である。
【0036】
本発明の、この態様の具体例において、R1 は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 単位であり、そこで、該エステル単位は、Cp基に対して、その「アルコキシ」酸素原子によって、直接的に付いているか、或いは「Alk」にて示されるアルキレンスペーサ単位によって付いている。この具体例において、好ましくは、一つのアルキレンスペーサ単位が存在すること、即ちnが1である。CO放出後に形成される副生成物若しくは生成物の溶解性は、該エステル基が、その酸素を介して、一つのアルキレンスペーサに、そしてCp基に付いているとき、更に可溶性であり、及び/又は安定であると信じられている。更に、一つのアルキレンスペーサ基によって、Cp環に付いたエステル基を有する化合物は、合成的により手に入れやすいものである。
【0037】
この格別の具体例において、アルキレンスペーサ単位「Alk」は、C1-28のアルキレン基である。好ましくは、「Alk」は、線状の若しくは分岐した飽和C1-10のアルキレン基であり、下位(subclass)のアルケニレン、アルキニレン及びシクロアルキレンを除外する。特に、「Alk」は、未分岐乃至は線状の飽和C1-6 のアルキレン基であることが好ましい。更に好ましくは、「Alk」は、枝分かれのない且つ置換基のないC2-5 のアルキレン基である。
【0038】
代わりの具体例においては、R1 は、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、そこで、かかるエステル基は、Cp基に対して、そのカルボニル炭素原子によって、場合によりアルキレンスペーサ単位を介して付けられている。かかるエステル基が、その形態においてCp基に付けられているとき、随意のアルキレンスペーサは、CORMからの副生成物若しくは生成物の溶解度に影響をもたらすものではない。しかしながら、この具体例や先の具体例において、アルキレンスペーサの長さは、CORM分子のCO放出特性において調節作用を有する可能性があり、また、CORM副生成物若しくは生成物に関して、安定化作用を有している。nが1であるとき、「Alk」は、好ましくは、線状の若しくは分岐した飽和C1-10のアルキレン基であり、下位のアルケニレン、アルキニレン及びシクロアルキレンを除外する。更に好ましくは、「Alk」は、線状若しくは分岐していない飽和C1-6 のアルキレン基であり、更に好ましくは、C1-5 のアルキレン基である。最も好ましくは、「Alk」は、線状の飽和C1-4 のアルキレン基である。
【0039】
Cpが、以下の配位子:
[化8]

を表しているとき、R2 置換基の数は、rによって与えられ、そしてそれは、1、2、3若しくは4を取り得る。rが1、2若しくは3のとき、R2 置換基の位置がR1 の位置に対して変化することにより、各種の立体異性体が存在する可能性がある。上記で与えられる構造表示は、以下の表に示される、それら可能な立体異性体の全てを包含している。
[化9]

【0040】
3 によって示される置換基は、また、インデニル若しくはフルオレニル配位子の芳香環に或いは環に、直接に付くことが出来る。インデニル配位子にとって、ここで用いられているように、以下の構造における表示(R3s は、フェニル若しくはアリール環に付いた1、2、3若しくは4個のR3 置換基を有するインデニル配位子を含んでいる。
[化10]

上記の構造的な表示は、R3 芳香環置換基の各々の可能な数に対する全ての可能な異性体を含んでいる。例えば、二つのR3 置換基が存在するときには、上記の構造式は、4,5、4,6、4,7、5,6、5,7及び6,7の異性体を含んでいる。
【0041】
同様に、標識(R3s 及び(R3t は、それぞれ、各々の芳香環のそれぞれに付いた1、2、3若しくは4個のR3 置換基を有するフルオレニル配位子を表している。以下の構造的な表示は、また、インデニル配位子について上記したように、全ての可能なR3 芳香環置換基異性体を包含している。
[化11]

【0042】
芳香環に置換される各R3 は、独立して、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、スルフヒドリル、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル、C6-20のアリールアシル、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、カルボン酸(−C(=O)OH)、エステル(−C(=O)OR5 )、アシロキシ(−OC(=O)R5 )、アミド(−C(=O)NR56)、アシルアミド(−NR5C(=O)R6)及びアミノ(−NR56)(但し、R5 及びR6 は、独立して、H、C1-7 のアルキル及びC6-20のアリールから選択される)から選択され得る。好ましくは、R3 は、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、及びアミノ(−NR56)から選択される。より好ましくは、R3 は、H、ハライド、C1-22のアルキル及びC6-25のアリールである。特に、R3 は、H、メチル、エチル若しくはフェニルである。更に、特に、R3 は、Hである。
【0043】
3 芳香環置換基の数は、Cp基の特性に依存して、1〜8まで変化し得る。好ましくは、1、2若しくは3個のR3 芳香環置換基が存在する。より好ましくは、全体で一つ又は二つのR3 芳香環置換基が存在するインデニル若しくはフルオレニル配位子である。
【0044】
二つ若しくはそれ以上の置換基(R1 、R2 又はR3 )は、遷移金属カルボニル錯体のCp基(シクロペンタジエニル、インデニル及びフルオレニル配位子)に付いたとき、その生じた有機金属カルボニル化合物は、キラル中心(chiral centre )を有している。他に特定されなければ、個々の化合物に対する参照は、(全体若しくは部分的な)ラセミ体やそれらの他の混合物を含む全ての異性体の形態を含んでいる。そのような異性体の調製(例えば、不斉合成や分離(例えば、分別晶出及びクロマトグラフィー手段))のための方法は、当該技術において知られており、或いはここで教示した方法、即ち公知の方法を、知られた手法において適用することによって、容易に手に入れられるものである。
【0045】
本発明の第一の態様の他の具体例においては、式(I)若しくは式(II)に示される化合物におけるCpは、以下のものであることが好ましい。
[化12]

シクロペンタジエニル環に付いた置換基が金属錯体に関して有している作用について、有機金属化学の分野において、多くの研究が為されて来ている。その結果として、この分野における科学文献が、置換されたシクロペンタジエニル環を調製するために、多くの合成上の方法論を含んでいる。シクロペンタジエニル環は、一つ若しくは四つのR2 置換基を含んでいること、即ち、r=1若しくは4であることが、好ましい。より好ましくは、r=1である。シクロペンタジエニル環が、r=1のときに、単一のR2 置換基を有しているならば、そのとき、R2 は、シクロペンタジエニル環上のR1 に関して、2位置若しくは3位置に存在することとなる。しばしば、環に付いた二つの置換基(即ち、1,2若しくは1,3置換基)を有するシクロペンタジエニル化合物は、クロマトグラフィーによって分離されなければならない。
【0046】
本発明の更に他の具体例においては、前記式(I)若しくは式(II)におけるCp配位子は、インデニル配位子であることが好ましい。このインデニル配位子は、フェニル環に対して、一方の側で縮合されたシクロペンタジエニル環を有している。未配位のインデニルアニオンは、シクロペンタジエニド(cyclopentadienide )アニオンの6電子芳香環に比較して、10電子芳香族系(10 electron aromatic system )である。インデニル配位子の電子的な特性におけるこの差異は、有機金属錯体の電子的な特性を微妙に変化させ、その配位が、次には、CO放出の速度に影響するかもしれない。この電子的作用に加えて、追加のアレーン(Arene )環は、立体的な障害を遮蔽乃至は提供する。それは、インデニル配位子を有するCORMの動力学的な安定性を増大せしめる可能性がある。また、当該技術においてよく知られているところであるが、インデニル配位子の結合の様式乃至はハプト数は、配位子のハプト数がη5 からη3 に変化することの出来る環のすべり(ring slippage )の如く、反応中に変化する可能性がある。結合様式における電荷は、生理学的環境におけるCORMの反応の速度を助け、それによって、CO放出の速度を変えるかもしれない。Cp基がインデニル配位子である具体例においては、R1 置換基は、インデニル配位子の5員環のシクロペンタジエニル型のリングに付くこととなる。R1 は、以下の図に示されるように、インデニル配位子の1、2若しくは3位置に付くことが出来る。
[化13]

【0047】
このインデニル環におけるR1 の位置は、配位子の調製のために用いられる特定の合成方法に支持される。例えば、R1 は、インダノンの如き出発物質を用いることによって、インデニル配位子の2位置に導入され得る。最大二つのR2 置換基が、インデニル系のシクロペンタジエニル部分に付けられ得る。好ましくは、rは、1である。
【0048】
Cpがシクロペンタジエニル若しくはインデニル配位子である具体例において、5員環若しくはシクロペンタジエニル部分は、一つの置換基(R1 及びR2 )よりも多く含むことが出来る。2番目の置換基は、配位子上に導入されて、CORM、CORM副生成物の溶解性を更に助け得るものであり、或いはCORM化合物によって、CO放出の速度調整を更に援助し得るものである。
【0049】
2番目の置換基R2 は、R1 に対するグループの何れかから独立して選択され得るものである。R2 がR1 に対する何れかのグループから選択されるとき、R2 はR1 に対して選択された基と同一となるように制限されるものではない。しかしながら、好ましくは、R2 がR1 のためのグループから独立して選択されるべきであるとするならば、R2 及びR1 は同一である。例えば、R1 が、−CH2 −O−C(O)−Meであるとき、R2 も、−CH2 −O−C(O)−Meとなる。もし、R2 が、R1 のために定義されたグループから選択されないならば、R2 は、H、C1-22のアルキル及びC9-25のアリールから選択されることが好ましい。より好ましくは、R2 は、H若しくはメチルであり、更に特に好ましくは、Hである。
【0050】
溶解度を増加させることに加えて、Cp基上の置換基としてのエステル若しくはアミド基の存在は、いくつかの生理学的環境におけるCO放出の速度を増大させ、或いは加速させ得るものと、本発明者等は信じている。エステラーゼの如き、それら環境酵素のいくつかは、本発明の化合物や薬剤組成物におけるエステル若しくはアミド基を加水分解することの出来るものである。エステル若しくはアミド基の加水分解は、カルボキシレート部分の如き求核性の種の形成を惹起することとなり、金属の中心を「攻撃」することが出来、そしてそれによって、CORM化合物からCOの放出のきっかけとなるものである。
【0051】
本発明者等は、また、R1 Cp置換基の長さは、CORM副生成物若しくは生成物に関して安定化作用を有していると考えている。本発明者等は、エステル若しくはアミド基のカルボニル−酸素原子が配位して、それによって、CO放出後に遷移金属の中心を安定化することが出来ると考えている。原則的には、配位は、他のすぐ近くの分子の金属の中心に対してであり(分子間の配位)、或いはその同じ分子の金属に対してであり得る(分子内の配位)。特に、エステル若しくはアミド基が、アルキレンスペーサ基によって、Cp単位に付いているときには、カルボニル−酸素原子は、丸く広がって("reach round" )、そして、全体としての配位がキレートを形成するように、分子内の形式において、金属に配位することが出来ると考えられている。
【0052】
カルボニル酸素原子の分子内配位によって提供され得る安定化作用の代わりに、R1 置換基の一部を形成するQ1 及び/又はQ2 基は、金属の中心に配位することの出来る原子若しくは基を含んでいる。この原子若しくは基は、結合(ligating)原子若しくは基であり得、また、カルボニル酸素原子に代わって、金属に優先的に配位し得るものである。結合原子若しくは基は、金属に対して配位子として配位することの出来る原子若しくは化学的な官能基である。一般的に、この結合原子若しくは基は、電子の非共有電子対を有しており、或いは負電荷を有し、金属に配位することを許容している。
【0053】
1 及び/又はQ2 の結合原子若しくは基の優先配位は、R1 の全体の長さが、カルボニル酸素原子にとって、金属の中心に到達して、分子内の形態で配位するには余りにも短過ぎるとき、或いはQ1 及び/又はQ2 基の結合部分が、カルボニル酸素原子よりも金属とより強い結合を形成するときに、惹起され得る。
【0054】
本発明に従う薬剤組成物及び化合物において、Q1 及びQ2 は、各々独立して、H、任意に置換されたC1-22のアルキル基及び任意に置換されたC6-25のアリール基から、選択される。
【0055】
本発明の一具体例において、Q1 及び/又はQ2 は、結合原子若しくは基を含んでおらず、そして、H、任意に置換されたC1-22のアルキル基及び任意に置換されたC6-25アリール基(但し、その任意の置換基は、C1-10のアルキル及びC6-14のアリールから選択される)から選択される。好ましくは、Q1 及び/又はQ2 は、H、任意に置換されたC1-10のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリールから選択される。より好ましくは、Q1 及び/又はQ2 は、H、C1-5 のアルキル基、C6-10のアリール基及びベンジル基から選択される。最も好ましいのは、Q1 及び/又はQ2 がH、C1-5 のアルキル、ベンジル及びフェニルから選択されるときである。
【0056】
他の具体例において、Q1 及び/又はQ2 は、結合原子若しくは基として作用することの出来る基を含有しており、或いは化合物の溶解度を更に増大せしめ得る極性官能基を含有している。Q1 及びQ2 は、各々独立して、H、任意に置換されたC1-22のアルキル及び任意に置換されたC6-25のアリール基から選択され、そこでは、該任意の置換基は、以下のリストで提供されるものから選択される。好ましくは、Q1 及び/又はQ2 は、H、任意に置換されたC1-10のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリールから選択される。より好ましくは、Q1 及び/又はQ2 は、H、C1-5 のアルキル及びC6-10のアリールから選択される。
【0057】
1 及び/又はQ2 が、任意に置換され得る基であるこの具体例において、その任意の置換基は、α−アミノ酸基、ヒドロキシ、エーテル、エステル、オキソ、アシロキシ、アミノ、アミド及びアシルアミドから選択されることが好ましい。より好ましくは、該任意の置換基は、α−アミノ酸基、ヒドロキシ、エステル及びC1-7 のアルキルアミノから選択される。最も好ましいのは、該任意の置換基がヒドロキシであるときである。
【0058】
1 が、−[Alk]n −O−C(O)−Qであり、且つn=1である具体例において、Q1 は、H、置換されたC1-22のアルキル及び任意に置換されたC6-25のアリール基から選択されることが望ましい。その好ましい置換基としては、先の具体例で挙げられたものと同じものである。より好ましくは、Q1 は、H、置換C6-22のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリール基から選択される。更に好ましくは、Q1 は、H及び任意に置換されたC6-10のアリール基から選択される。
【0059】
更に他の具体例において、R1 は、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、そして、nは、カルボニル基が直接にCp基のリングに付くように、0である。この具体例において、Q1 は、H、任意に置換されたC1-22のアルキル及び任意に置換されたC6-25のアリール基から選択される。好ましくは、Q1 は、H、C1-22のアルキル及びC6-25のアリールである。より好ましくは、Q1 は、H若しくはC1-5 のアルキルである。最も好ましいのは、Q1 がH又はメチルであるときである。
【0060】
本発明のこの態様の具体例は、上述せるように、本発明の第一の態様の他の具体例と組み合せられ得るものである。
【0061】
遷移金属の中心に直接に配位したニトロシル配位子を有する有機金属化合物及びそのような化合物を含む薬剤組成物は、本発明から除外される。
【0062】
本発明の薬剤組成物は、一般に、製薬的に受け入れられ得る賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤又は当業者に周知の他の材料を含有している。
【0063】
そのような材料は、非毒性であるべきものであり、また活性成分の効力を過度に阻害しないものである。担体若しくは他の材料の正確な機能は、投与の経路、例えば、経口の、静脈内の、経皮性の、皮下の、鼻の、吸入の、筋肉内の、腹腔内の若しくは座薬の経路に依存している。
【0064】
経口投与のための薬剤組成物は、錠剤、カプセル、粉末若しくは液体形態において存在し得る。錠剤は、ゼラチン若しくはアジュバント若しくは徐放性ポリマーの如き固形の担体を含むことが出来る。液状の薬剤組成物は、一般に、水、石油、動物若しくは植物油、鉱油又は合成油の如き液体キャリヤを含んでいる。生理食塩水、デキストロース若しくは他の糖類溶液、エチレングリコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールの如きグリコールが含有せしめられ得る。他の溶媒の製剤的に許容され得る量が、また、含有せしめられ得、特に、組成物中に含有せしめられた所定の金属カルボニル化合物を溶解するために要請されるものである。
【0065】
静脈、皮膚若しくは皮下注射或いは罹患部位での注射のために、活性成分が一般に発熱物質の存在しない、且つ適当なpH、等張性及び安定性を有する非経口的に受け入れられ得る溶液の形態において存在する。当該技術において適切な技能を有する人であれば、使用するに適切な溶液、例えば、塩化ナトリウム注射、リンゲル注射、乳酸加リンゲル注射の如き等張なビヒクルを調製することは、申し分なく可能である。防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤及び/又は他の添加剤が必要に応じて含有せしめられる。無針注射のための配達システムが知られており、そして、そのようなシステムでの使用のための組成物が、適宜に調製され得る。
【0066】
投与は、好ましくは、予防的に有効な量若しくは治療的に有効な量(予防は治療と考えられ得るかもしれないが、そのようなケースがあるかもしれない。)、個体にとって利益を示すに充分な量において行なわれる。投与される実際の量及び投与の割合並びに時間的経過は、処置されているものの性質や重症度に依存する。処置の処方箋、例えば、投薬に関する決定等は、一般の開業医や他の医者の職務の範囲内にあり、そして、一般に、処置されるべき疾病、個々の患者の状態、配達の部位、投与の方法及び開業医に知られている他の要因を考慮に入れることとなる。
【0067】
上述した技法及びプロトコルの例は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」16th edition, Osol, A. (ed), 1980において見出され得るものである。
【0068】
本発明に従って薬剤組成物を処方するとき、活性成分及び/又は溶媒の毒性が考慮されなければならない。
【0069】
医薬の利益と毒性との間のバランスが考慮されるべきである。組成物の投薬及び処方は、一般に、提供される医薬の利益が成分の毒性による何等かのリスクに勝るように決定されることとなる。
【0070】
本発明の第二の態様は、以下の式(III)にて表される化合物である:
[CpFe(CO)3+1(Y-q1/q ・・・ (III)
但し、Yは、対アニオンであり;qは、Yの電荷であって、1、2若しくは3から選択され;及びCpが、
[化14]

から選ばれ(そこで、r、s及びtは、1、2、3若しくは4から、各々独立して選択される);そして、
1 は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 、−[Alk]n −NR4 −C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−NQ12 の何れかであり(ここで、nは、0若しくは1であり;Alkは、C1-28のアルキレン基であり;Q1 及びQ2 は、H、任意に置換されたC1-22のアルキル基及び任意に置換されたC6-25のアリール基から、各々独立して選択される);
各R2 は、R1 、H、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ハライド、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル及びC6-20のアリールアシルから独立して選択され;
4 は、H、C1-22のアルキル、及びC5-25のアリールから選択され;
各R3 は、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、スルフヒドリル、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル、C6-20のアリールアシル、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、カルボン酸(−C(=O)OH)、エステル(−C(=O)OR5 )、アシロキシ(−OC(=O)R5)、アミド(−C(=O)NR56 )、アシルアミド(−NR5C(=O)R6)及びアミノ(−NR56)から独立して選択され;及び
5 及びR6 は、H、C1-7 のアルキル及びC6-20のアリールから、独立して選択される。
【0071】
この本発明の第二の態様において、Cp基が、インデニル若しくはフルオレニルであるとき、アリール環置換基R3 は、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ及びアミノ(−NR56)から選択されることが好ましい。より好ましくは、R3 は、H、ハライド、C1-22のアルキル及びC6-25のアリールである。特に、R3 は、H、メチル、エチル若しくはフェニルである。更に、特に、R3 は、Hである。
【0072】
3 がHでないとき、1、2若しくは3個のR3 アリール環置換基が存在することが好ましい。全体で1又は2個のR3 アリール環置換基が存在するインデニル若しくはフルオレニル配位子であることが、より好ましいのである。
【0073】
本発明の第二の態様に従う化合物は、好ましくは、シクロペンタジエニル配位子若しくはインデニル配位子であるCp基を有している:
[化15]

【0074】
より好ましくは、Cpは、上に示されるシクロペンタジエニル配位子である。Cpがシクロペンタジエニル配位子であるとき、環は、好ましくは、1若しくは4個のR2 置換基を含み、従って、r=1若しくは4となるが、より好ましくは、r=1である。
【0075】
この2番目の置換基R2 は、R1 のためのグループの何れかから、独立して選択され得るものである。好ましくは、R2 が、R1 のためのグループから、独立して選択されるべきものであるとき、そのようなR2 とR1 は同一である。もし、R2 がR1 のために定義されたグループから選択されないならば、好ましくは、かかるR2 は、H、C1-22のアルキル及びC9-25のアリールから選択される。最も好ましくは、R2 は、H若しくはメチルであり、更に、特に、Hである。
【0076】
本発明の、この態様において、R1 は、好ましくは、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 又は−[Alk]n −C(O)−O−Q1 である。最も好ましいのは、R1 が、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 である。
【0077】
一つの具体例において、R1 は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、特に、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、そして、nは0である。この具体例において、Q1 は、好ましくは、H、任意に置換されたC1-10のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリールから選択される。特に、この任意の置換基は、C1-10のアルキル、C6-14のアリール、α−アミノ酸基、ヒドロキシ、エーテル、エステル、オキソ、アシロキシ、アミノ、アミド及びアシルアミドから選択される。より好ましくは、該任意の置換基は、α−アミノ酸基、ヒドロキシ、エステル及びC1-7 のアルキルアミノから選択される。最も好ましいのは、該任意の置換基が、ヒドロキシであるときである。この具体例におけるQ1 に対する最も好ましい基は、C1-10のアルキル及びC1-10のヒドロキシアルキル、特に、メチル、エチル及びヒドロキシエチルである。
【0078】
この第二の態様の代わりの具体例においては、R1 は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、特に、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であって、且つnが1である。「Alk」は、好ましくは、線状の若しくは分岐した飽和C1-10のアルキレン基であって、それは、下位のアルケニレン、アルキニレン及びシクロアルキレンを除外する。更に好ましくは、「Alk」は、線状の乃至は分岐していない飽和C1-6 のアルキレン基であり、又はより好ましくは、C1-5 のアルキレン基である。最も好ましくは、「Alk」が、線状の飽和C1-4 のアルキレン基であるときであり、更に、特に、C1 若しくはC2 のアルキレンであるときである。好ましくは、Q1 は、H、任意に置換されたC1-10のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリールから選択される。より好ましくは、Q1 は、H、C1-5 のアルキル基、C6-10のアリール基及びベンジル基から選択される。最も好ましいのは、Q1 が、H、C1-5 のアルキル、ベンジル及びフェニルから選択されるときである。好ましい任意の置換基は、先の具体例についてリストされたものである。対アニオンYは、本発明の第一の態様のために、前記された対アニオンのリストから選択され得る。好ましくは、対アニオンYは、Yがハライド、ボレート若しくはヘキサフルオロホスフェートであるときのように、−1の電荷qを有している。最も好ましいのは、Yが、Cl- 、BF4- 若しくはPF6- であるときである。
【0079】
本発明の第三の態様は、本発明に従う薬剤組成物若しくは化合物を投与する工程を含む、COを哺乳動物に導入する方法である。このCOを導入する方法は、急性の肺性の及び慢性の高血圧の如き高血圧症、放射線障害、内毒素ショック、炎症、喘息やリウマチ様関節炎の如き炎症性関連疾病、高酸素症誘引障害、アポトーシス、癌、移植拒絶反応、動脈硬化、虚血後の器官障害、心筋梗塞症、アンギナ、出血性ショック、敗血症、陰茎勃起機能障害及び成人の呼吸困難症候群の処置のためのものである。
【0080】
ここに提供されたデータは、WO 02/092075及びWO 2004/045598において提示された仕事を拡張したものである。それらの文献に提示された仕事に基づいて、本発明の方法は、急性の、肺性の、且つ慢性の高血圧の如き高血圧症、内毒素ショック、炎症、喘息やリウマチ様関節炎の如き炎症性関連疾病、高酸素症誘引障害、癌、移植拒絶反応、動脈硬化、虚血後の器官障害、心筋梗塞症、アンギナ、出血性ショック、敗血症及び成人呼吸困難症候群の治療のためのものであることが望ましい。より好ましくは、高血圧症、内毒素ショック、炎症、喘息やリウマチ様関節炎の如き炎症関連疾病、虚血後の器官障害、心筋梗塞症及び敗血症の治療のための方法である。更により好ましいのは、高血圧症、虚血後の器官障害及び心筋梗塞症の治療のための方法である。
【0081】
また、本発明のかかる態様は、体外若しくは隔離された器官の処置方法を含むものであって、それは、本発明に従う薬剤組成物に、該器官を接触せしめることからなるものである。金属カルボニルは、役に立つ一酸化炭素(CO)を生じさせて、虚血後の障害を制限する。本発明の方法において処置される器官は、血液の供給から隔離された器官である。かかる器官は、ドナーの体外に取り出した供与される器官のように、体外に存在するものであり、或いはそれは、患者の体内に存在するという意味において、離隔され得るものであり、また外科手術の目的のために、血液の供給から離隔され得るものである。
【0082】
例えば、該器官は、循環器官、呼吸器官、泌尿器官、消化器官、生殖器官、神経器官、筋肉若しくは皮膚弁或いは生育可能な細胞を含む人工臓器であり得る。
【0083】
最も好ましくは、該器官は、心臓、肺、腎臓若しくは肝臓である。金属カルボニルを含む組成物との接触は、かかる器官を、組成物に、例えば浸漬したり或いはポンプで汲んだりして、晒す方法によって達成することが出来る。好ましくは、体に取り付けられた離隔された器官、即ち、バイパスされた器官は、組成物を用いて潅流される。体外に存在する器官は、好ましくは、組成物中に浸漬される。
【0084】
WO 02/092075やWO 2004/045598において、本発明者等の幾人かは、金属カルボニル化合物が、特定の疾病の処置において用いられ得ることを実証した。そして、それを更に展開することによって、本発明は、また、COを放出するための薬物の製造において、ここで記述されたような金属カルボニル化合物を生理学的ターゲット、特に、哺乳動物に対して用いることを提供して、生理学的作用、例えば、神経伝達若しくは血管拡張を刺激したり、或いは各種の処置のために提供される。その処置の対象としては、急性、肺性及び慢性の高血圧の如き高血圧症、放射線障害、内毒素ショック、炎症、喘息やリウマチ様関節炎の如き炎症性関連疾病、高酸素症誘引障害、アポトーシス、癌、移植拒絶反応、動脈硬化、虚血後の器官障害、心筋梗塞症、アンギナ、出血性ショック、敗血症、陰茎勃起機能障害及び成人の呼吸困難症候群である。そのような薬剤は、経口、静脈内、皮下、鼻、吸入、筋肉、腹腔若しくは座薬の経路によって投与するために適合される。好ましくは、本発明は、有機体に対して、皮膚若しくは粘膜を通じて金属カルボニル若しくはその分解生成物の供給を除外する。
【0085】
より好ましくは、ここに記述されるような金属カルボニル化合物の使用は、急性、肺性及び慢性の高血圧の如き高血圧症、内毒素ショック、炎症、喘息やリウマチ様関節炎の如き炎症性関連疾病、高酸素症誘引障害、癌、移植拒絶反応、動脈硬化、虚血後の器官障害、心筋梗塞症、アンギナ、出血性ショック、敗血症及び成人の呼吸困難症候群の処置のための薬剤の製造において存在する。更に好ましいのは、高血圧症、内毒素ショック、炎症、喘息やリウマチ様関節炎の如き炎症関連疾病、虚血後の器官障害、心筋梗塞症及び敗血症である。更に好ましいのは、高血圧症、虚血後の器官障害及び心筋梗塞症の治療のための薬剤である。
【0086】
さらに、本発明は、ここに記述した金属カルボニルを、移植手術のための器官の保存及び/又は輸送の間等、体外で生存している哺乳動物の器官の処置において、例えば、潅流による処置において用いることを提供する。この目的のため、金属カルボニルは、溶解せしめられた形態において存在し、好ましくは、水性溶液において存在する。この生存器官は、心臓、腎臓、肝臓、皮膚若しくは筋肉組織片等の如き、生きている細胞を含む組織であり得る。
【0087】
本発明の第四の態様は、薬剤溶液を製造するためのキットである。このキットは、個々に記述されている化合物と、製剤的に受け入れられ得る溶媒とからなっている。ここに記述された化合物のいくつかは、溶解時にCOを放出する。それ故に、そのようなCORMの溶液における貯蔵は、CORMが分解し、或いは不活性となったり、生理学的ターゲットに対してCOを放出することが出来なくなったりするために、実用的ではないのである。そのようなCORMは、人若しくは哺乳動物の患者に対して投与する前に、本発明に従うキットを用いて、直ちに調製されることが望ましいのである。
【0088】
定義
ここで用いられている「生理学的流体(physiological fluid )」なる語は、生理学的システムに対する薬剤投与に適した流体、例えば、水、或いは生理食塩水の如きもの、又は生理学的システムにおいて既に存在している流体、例えば血漿若しくは血液の如きものに、関係乃至は属する(pertain )。
【0089】
ここで用いられる「対アニオン(counteranion)」なる語は、有機金属カチオンの電荷にバランスするように存在する、形式上負の電荷を有する原子若しくは基に関係する。かかる語は、BF4- 、PF6- 等のような有機金属錯体のための対アニオンとして、当該技術内で適していると考えられるアニオンを含んでいる。かかる対アニオンは、強酸の共役塩基であり得る。強酸の強塩基である対アニオンの例としては、Cl- 、SO42- 、F- 、ClO4- 等がある。この対アニオンは、また、CH3COO- 等の如き弱酸若しくは有機酸の共役塩基であり得る。かかる対アニオンは、SO42- における如く、一つよりもより多くの電荷を持つことが出来る。
【0090】
対アニオンは、求核剤として、カチオン性の有機金属錯体に向かって作用するものでないことが好ましい。
【0091】
頭字語のOTs、OBs、OMs及びOTfは、当該技術において、通常知られているように、アニオンであるトシレート(tosylate)、ブロシレート(brosylate )、メシレート(mesylate)及びトリフレート(triflate)を表している。
【0092】
アルキレン(Alkylene)
アルキレン:ここで用いられる「アルキレン」なる語は、1〜20の炭素原子を有する炭化水素化合物(他に特定されない限り)の二つの水素原子を同一の炭素原子から両方を或いは二つの異なる炭素原子から一つずつ取り去ることによって得られた二座の成分に属している。炭化水素化合物は、脂肪族若しくは脂環式であり、そして、飽和、部分不飽和若しくは完全不飽和であり得る。従って、「アルキレン」の語は、下位分類のアルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン等を、以下で論じるように、含んでいる。
【0093】
これに関連して、接頭語(例えば、C1-4 、C1-7 、C1-20、C2-7 、C3-7 等)は、炭素原子の数若しくは炭素原子の数の範囲を意味している。例えば、ここで用いられている「C1-4 のアルキレン」の語は、1〜4の炭素数を有するアルキレン基に関係している。アルキレン基のグループの例としては、C1-4 のアルキレン(「低級アルキレン」)、C1-7 のアルキレン及びC1-20のアルキレンを含んでいる。
【0094】
線状の飽和C1-7 のアルキレン基の例は、これに限定されるものではないが、−(CH2n−(但し、nは1〜7の整数である)を含み、例えば、−CH2− (メチレン)、−CH2CH2−(エチレン)、−CH2CH2CH2− (プロピレン)、及び−CH2CH2CH2CH2−(ブチレン)を含んでいる。
【0095】
枝分かれした飽和C1-7 のアルキレン基の例としては、これに限定されるものではないが、−CH(CH3)−、−CH(CH3)CH2−、−CH(CH3)CH2CH2−、−CH(CH3)CH2CH2CH2−、−CH2CH(CH3)CH2−、 −CH2CH(CH3)CH2CH2−、−CH(CH2CH3)−、−CH(CH2CH3)CH2−、及び−CH2CH(CH2CH3)CH2−を含んでいる。
【0096】
線状の部分不飽和C1-7 のアルキレン基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−CH=CH−(ビニレン)、−CH=CH−CH2−、 −CH2−CH=CH2−、−CH=CH−CH2−CH2−、−CH=CH−CH2−CH2−CH2−、 −CH=CH−CH=CH−、−CH=CH−CH=CH−CH2−、 −CH=CH−CH=CH−CH2−CH2−、−CH=CH−CH2−CH=CH−、及び−CH=CH−CH2−CH2−CH=CH−を含んでいる。
【0097】
分岐した部分的不飽和のC1-7 のアルキレン基の例としては、これに限定されるものではないが、−C(CH3)=CH−、−C(CH3)=CH−CH2−、 及び−CH=CH−CH(CH3)−を含んでいる。
【0098】
脂環式飽和C1-7 のアルキレン基の例としては、これに限定されるものではないが、シクロペンチレン(例えば、シクロペント−1,3−イレン)及びシクロヘキシレン(例えば、シクロヘクス−1,4−イレン)を含んでいる。
【0099】
脂環式部分不飽和C1-7 のアルキレン基の例としては、これに限定されるものではないが、シクロペンテニレン(例えば、4−シクロペンテン−1,3−イレン)、シクロヘキセニレン(例えば、2−シクロヘキセン−1,4−イレン;3−シクロヘキセン−1,2−イレン;2,5−シクロヘキサジエン−1,4−イレン)を含んでいる。
【0100】
ここで用いる「飽和」なる語は、如何なる炭素−炭素二重結合若しくは炭素−炭素三重結合も有していない化合物及び/又は基に関係する。それら化合物及び/又は基は、部分的に不飽和若しくは完全に不飽和となっているものである。
【0101】
アルキル:ここで用いられる「アルキル」なる語は、1〜20の炭素原子を有する炭化水素化合物(他に特定されない限り)の炭素原子から一つの水素原子を取り除くことによって得られた一価の成分に関係する。かかる炭化水素化合物は、脂肪族若しくは脂環式のものであり、そして、飽和若しくは不飽和(例えば、部分的不飽和、完全不飽和)であるものである。それ故、「アルキル」の語は、下位分類のアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル等を、以下で論じるように、含んでいる。好ましくは、「アルキル」の語は、単に、下位分類のシクロアルキルのみを含むものである。より好ましくは、「アルキル」は、下位分類のアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル及びシクロアルキニルを含んでいない。
【0102】
アルキル基の関係において、接頭語(例えば、C1-4 、C1-7 、C1-20、C2-7 、C3-7 等は、炭素原子の数若しくは炭素原子の数の範囲を意味している。例えば、ここで用いた「C1-4 のアルキル」の語は、1〜4の炭素数を有するアルキル基に関係する。アルキル基のグループの例としては、C1-4 のアルキル、C1-7 のアルキル及びC1-20のアルキルを含んでいる。最初の接頭語は、他の限定に従って変化することに注意されたい;例えば、不飽和のアルキル基にとっては、最初の接頭語は、少なくとも2でなければならない;環状及び分岐したアルキル基にとっては、最初の接頭語は、少なくとも3でなければならない;等。
【0103】
(置換基のない)飽和アルキル基の例としては、これに限定されるものではないが、メチル(C1 )、エチル(C2 )、プロピル(C3 )、ブチル(C4 )、ペンチル(C5 )、ヘキシル(C6 )及びヘプチル(C7 )が含まれる。
【0104】
(置換基のない)飽和線状アルキル基の例としては、これに限定されるものではないが、メチル(C1 )、エチル(C2 )、n−プロピル(C3 )、n−ブチル(C4 )、n−ペンチル(アミル)(C5 )、n−ヘキシル(C6 )及びn−ヘプチル(C7 )が含まれる。
【0105】
(置換基のない)飽和分岐アルキル基の例としては、イソプロピル(C3 )、イソブチル(C4 )、sec−ブチル(C4 )、tert−ブチル(C4 )、イソペンチル(C5 )及びネオペンチル(C5 )が含まれる。
【0106】
アルケニル:ここで用いた「アルケニル」なる語は、一つ若しくはそれ以上の炭素−炭素二重結合を有するアルキル基に関係する。アルケニル基のグループの例としては、C2-4 アルケニル、C2-7 アルケニル、C2-20アルケニルを含んでいる。
【0107】
(置換基のない)不飽和アルケニル基の例としては、これに限定されるものではないが、エテニル(ビニル、−CH=CH2−)、1−プロペニル(−CH=CH−CH3)、2−プロペニル(アリル、−CH−CH=CH2)、イソプロペニル(1−メチルビニル、 −C(CH3)=CH2)、ブテニル(C4 )、ペンテニル(C5 )及びヘキセニル(C6 )を含んでいる。
【0108】
アルキニル:ここで用いられる「アルキニル」なる語は、一若しくはそれ以上の炭素−炭素三重結合を有するアルキル基に関係する。アルキニル基のグループの例としては、C2-4 アルキニル、C2-7 アルキニル、C2-20アルキニルを含んでいる。
【0109】
(置換基のない)不飽和アルキニル基の例としては、これに限定されるものではないが、エチニル(エチニル、−C≡CH)及び2−プロピニル(プロパルギル、 −CH2−C≡CH)を含んでいる。
【0110】
シクロアルキル:ここで用いられる「シクロアルキル」なる語は、また、サイクリル(cyclyl)基であるアルキル基に関係する;即ち、炭素環状化合物の炭素環状リングの脂環式リングの原子から、一つの水素原子を取り除くことによって得られた一価の成分であり、炭素環状リングは、飽和若しくは不飽和(例えば、部分飽和、完全飽和)であり得、前記成分は、3〜20の環原子を含む3〜20の炭素原子(他に特定がない限り)を有するものである。それ故、「シクロアルキル」の語は、下位分類のシクロアルケニル及びシクロアルキニルを含んでいる。好ましくは、各々の環は、3〜7の環原子を有している。シクロアルキル基のグループの例としては、C3-20のシクロアルキル、C3-15のシクロアルキル、C3-10のシクロアルキル、C3-7 のシクロアルキルを含んでいる。
【0111】
シクロアルキル基の例としては、これに限定されるものではないが、以下のものから誘導されたものを含んでいる:
飽和単環式炭化水素化合物:
シクロプロパン(C3 )、シクロブタン(C4 )、シクロペンタン(C5 )、シクロヘキサン(C6 )、シクロヘプタン(C7 )、メチルシクロプロパン(C4 )、ジメチルシクロプロパン(C5 );
不飽和単環式炭化水素化合物:
シクロプロペン(C3 )、シクロブテン(C4 )、シクロペンテン(C5 )、シクロヘキセン(C6 )、メチルシクロプロペン(C4 )、ジメチルシクロプロペン(C5 )、メチルシクロブテン(C5 );
飽和多環式炭化水素化合物:
ツジャン(C10)、カラン(C10)、ピナン(C10)、ボルナン(C10)、ノルカラン(C7 )、ノルピナン(C7 )、ノルボルナン(C7 );
不飽和多環式炭化水素化合物:
カンフェン(C10)、リモネン(C10)、ピネン(C10
【0112】
アリール:ここで用いられる「アリール(aryl)」なる語は、芳香族化合物の芳香環原子から一つの水素原子を取り除くことによって得られた一価の成分に属するものであり、かかる成分は、3〜20の環原子(他に特定されない限り)を有している。好ましくは、各々の環は、5〜7の環原子を有している。
【0113】
これに関連して、接頭語(例えば、C3-20、C5-7 、C5-6 等)は、環原子の数或いは環原子の数の範囲を炭素原子若しくはヘテロ原子の何れかにおいて意味している。例えば、ここで用いた「C5-6 アリール」の語は、5若しくは6の環原子を有するアリール基に関係する。アリール基のグループの例としては、C3-20のアリール、C5-20のアリール、C5-15のアリール、C5-12のアリール及びC5-10のアリールを含んでいる。
【0114】
環原子は、「炭素アリール基」のときには、全て炭素原子となるものである。炭素アリール(carboaryl) 基の例としては、C3-20炭素アリール、C5-20炭素アリール、C5-25炭素アリール、C5-12炭素アリール及びC5-10炭素アリールを含んでいる。
【0115】
この炭素アリール基の例としては、これに限定されるものではないが、ベンゼン(即ち、フェニル)(C6 )、ナフタレン(C10)、アズレン(C10)、アントラセン(C14)、フェナントレン(C14)、ナフタセン(C18)及びピレン(C16)から誘導されたものが含まれる。
【0116】
少なくとも一つが芳香環である融合環を有するアリール基の例としては、これに限定されるものではないが、インダン、例えば2,3−ジヒドロ−1H−インデン(C9 )、インデン(C9 )、イソインデン(C9 )、テトラリン(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(C10)、アセナフテン(C12)、フルオレン(C13)、フェナレン(C13)、アセフェナントレン(C15)及びアセアントレン(C16)から誘導されたグループが含まれる。
【0117】
任意の置換基(Optional Substituents)
ここで用いられた「任意に置換された」なる句は、置換されていない若しくは置換された親のグループ(parent group)に関係する。
【0118】
他に特定されない限り、ここで用いた「置換された」なる語は、一つ若しくはそれ以上の置換基を有する親グループに関係する。ここでは、「置換基」なる語は、従来からの意味において用いられており、そして、それは、親グループに共有結合で付いているか、或いは適切な時には、縮合した化学的成分に該当する。様々な置換基が良く知られており、各種の親グループにそれを形成したり、導入したりする方法は、また良く知られている。置換基のための定義は、以下のリストにおいて与えられている。
【0119】
上記の式(I)において、グループQ1 、Q2 及び/又はR3 は、以下に列挙された追加的な置換基から選択される1若しくはそれ以上の基で任意に置換され得る化学的な成分に関連する。
【0120】
α−アミノ酸基:ここで用いられた「α−アミノ酸基」なる語は、以下に示される構造を有する基に関係する:
[化16]

これは、次式:RCαH(NH2)COOHのα−アミノ酸に対応している。このα−アミノ酸基は、そのアミノ窒素原子によって、またそのカルボニル炭素原子によって(両者は上記の図に示されているように)、或いはそのカルボキシレート酸素原子によって、任意の置換基として共有結合的に結合している。カルボニル炭素原子若しくはアミノ窒素原子に対する残りの結合は、他のα−アミノ酸基に結合して、ペプチド鎖を形成している。好ましくは、かかるペプチド鎖は、5つのα−アミノ酸基を超えないような長さとされている。
【0121】
α−アミノ酸基は、カルボニル炭素原子若しくはカルボキシレート酸素原子によって結合されるならば、アミノ窒素原子に付いた基は、H、C1-22のアルキル、C6-14のアリール、C1-22のアルコキシカルボニル及びC6-14のアリールオキシカルボニルから選択され得る。或いはまた、α−アミノ酸基が、アミノ窒素原子によって結合されているならば、カルボニル炭素原子に結合した基は、H、C1-22のアルキル、C6-14のアリール、C1-22のアルコキシ及びC6-14のアリールオキシから選択される。
【0122】
α−アミノ酸の具体例には、天然のアミノ酸及び非天然のアミノ酸の両方が含まれる。天然のアミノ酸は、以下のものを含む:非極性(疎水性)のR基を備えたもの:アラニン、Ala、A;イソロイシン、Ile、I;ロイシン、Leu、L;メチオニン、Met、M;フェニルアラニン、Phe、F;プロリン、Pro、P;トリプトファン、Trp、W;及びバリン、Val、V;極性であるが電荷を持たないR基を有するもの:アスパラギン、Asn、N;システイン、Cys、C;グルタミン、Gln、Q;グリシン、Gly、G;セリン、Ser、S;スレオニン、Thr、T;及びチロシン、Tyr、Y;(潜在的に)正に帯電したR基を有するもの:アルギニン、Arg、R;ヒスチジン、His、H;及びリシン、Lys、K;及び(潜在的に)負に停電したR基を有するもの:アスパラギン酸、Asp、D;グルタミン酸、Glu、E。
【0123】
α−アミノ酸基の例としては、これに限定されるものではないが、−O−CO−CHMeNHC(O)OC(CH33 があり、それは、Bocで保護されたアラニン、α−アミノ酸基である。
【0124】
ハロ(Halo):−F、−Cl、−Br、及び−I
ヒドロキシ:−OH
ニトロ:−NO2
シアノ(ニトリル、カーボニトリル):−CN
エーテル:−OR、但し、Rは、エーテル置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基(また、以下で論じられるC1-7 のアルコキシ基として関連する)、又はC5-20のアリール基(また、C5-20のアリールオキシ基として関連させられる)である。好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
【0125】
アルコキシ:−OR、但し、Rは、アルキル基であり、例えば、C1-7 のアルキル基である。C1-7 のアルコキシ基の例としては、これに限定されるものではないが、−OMe(メトキシ)、−OEt(エトキシ)、−O(nPr)(n−プロポキシ)、−O(iPr)(イソプロポキシ)、−O(nBu)(n−ブトキシ)、−O(sBu)(sec−ブトキシ)、−O(iBu)(イソブトキシ)及び−O(tBu)(tert−ブトキシ)である。
オキソ(ケト、−オン):=O
チオン(Thione)(チオケトン):=S
イミノ(イミン):=NR5 、但し、R5 は、イミノ置換基であり、例えば、水素、C1-7 のアルキル基若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、水素若しくはC1-7 のアルキル基である。エステル基の例としては、これに限定されるものではないが、=NH、=NMe、=NEt、及び=NPhが含まれる。
【0126】
ホルミル(carbaldehyde、carboxaldehyde):−C(=O)H
アシル(ケト):−C(=O)R5 、但し、R5 は、アシル置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基(また、C1-7 アルキルアシル若しくはC1-7 のアルカノイルとして関連付けられる。)、又はC5-20のアリール基(また、C5-20のアリールアシルとして関連付けられる。)であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。アシル基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−C(=O)CH3 (アセチル)、−C(=O)CH2 CH3 (プロピオニル)、−C(=O)C(CH33 (t−ブチリル)及び−C(=O)Ph(ベンゾイル、フェノン)が含まれる。
カルボキシ(カルボン酸):−C(=O)OH
チオカルボキシ(チオカルボン酸):−C(=S)SH
チオールカルボキシ(チオールカルボン酸):−C(=O)SH
チオンカルボキシ(チオンカルボン酸):−C(=S)OH
イミド酸:−C(=NH)OH
ヒドロキサム酸:−C(=NOH)OH
エステル(カルボキシレート、カルボン酸エステル、オキシカルボニル):−C(=O)OR5 、但し、R5 は、エステル置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。エステル基の例としては、これに限定されるものではないが、−C(=O)OCH3、−C(=O)OCH2CH3、−C(=O)OC(CH33 、及び−C(=O)OPhが含まれる。
アシロキシ(逆エステル):−OC(=O)R5 、但し、R5 は、アシロキシ置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。アシロキシ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−OC(=O)CH3 (アセトキシ)、−OC(=O)CH2CH3、−OC(=O)C(CH33、−OC(=O)Ph及び−OC(=O)CH2Phが含まれる。
オキシカルボイルオキシ:−OC(=O)OR5 、但し、R5 は、エステル置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。エステル基の例としては、これに限定されるものではないが、−OC(=O)OCH3、−OC(=O)OCH2CH3、−OC(=O)OC(CH33 及び−OC(=O)OPhが含まれる。
【0127】
アミノ:−NR56 、但し、R5 及びR6 は、それぞれ、独立して、アミノ置換基であり、例えば、水素、C1-7 のアルキル基(また、C1-7 のアルキルアミノ若しくはジ−C1-7 のアルキルアミノとして関連付けられる。)、又は、C5-20のアリール基であり、好ましくは、H、若しくはC1-5 のアルキル基であり、或いは、「環状」アミノ基の場合において、R5 及びR6 は、窒素原子に共にくっ付いて、4〜8の環原子を有する複素環を形成する。アミノ基は第1級(−NH2)、第2級(−NHR5)若しくは第3級(−NHR56)であり得、そして、カチオン形態においては、第4級(−+NR567)となり得る。アミノ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−NH2 、−NHCH3 、−NHC(CH32 、−N(CH32 、−N(CH2CH32 及び−NHPhが含まれる。環状のアミノ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、アジリジノ、アゼチジノ、ピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノ、モルフォリノ及びチオモルフォリノが含まれる。
アミド(カルバモイル、カルバミル、アミノカルボニル、カルボキシアミド):−C(=O)NR56、但し、R5 及びR6 は、独立して、アミノ置換基であり、アミノ基として定義されている。アミノ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−C(=O)NH2 、−C(=O)NHCH3 、−C(=O)N(CH32 、 −C(=O)NHCH2CH3 及び−C(=O)N(CH2CH32 があり、同様に、アミド基におけるR5 及びR6 は、共に、窒素原子に結合して、複素環構造を形成し、例えば、ピペリジノカルボニル、モルフォリノカルボニル、チオモルフォリノカルボニル及びピペラジノカルボニルがある。
チオアミド(チオカルバミル):−C(=S)NR56、但し、R5 及びR6 は、アミノ基として定義されているように、独立して、アミノ置換基である。
アシルアミド(アシルアミノ):−NR5C(=O)R6、但し、R5 は、アミド置換基であり、例えば、H、C1-7 のアルキル基、又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、水素若しくはC1-7 のアルキル基であり、また、R6 は、アシル置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、C3-20の複素環基又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、水素若しくはC1-7 のアルキル基である。アシルアミド基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−NHC(=O)CH3 、−NHC(=O)CH2CH3 及び −NHC(=O)Phが含まれる。R5 及びR6 は、共に、環状構造を形成することも出来、例えば、以下に示されるように、スクシンイミジル、マレイミジル及びフタルイミジルがある。
[化17]

アミノカルボニルオキシ:−OC(=O)NR56、但し、R5 及びR6 は、アミノ基として定義されたように、独立して、アミノ置換基である。アミノカルボニルオキシ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−OC(=O)NH2 、−OC(=O)NHMe、−OC(=O)NMe2 、及び−OC(=O)NEt2 が含まれる。
アミノチオカルボニルチオール:−SC(=S)NR56、但し、R5 及びR6 は、アミノ基として定義されたように、独立して、アミノ置換基である。アミノカルボニルオキシ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−SC(=S)NH2 、−SC(=S)NHMe、及び−SC(=S)NMe2 が含まれる。
ウレイド:−N(R5 )CONR67、但し、R6 及びR7 は、アミノ基として定義されているように、独立して、アミノ置換基であり、そして、R5 はウレイド置換基であって、例えば、水素、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、水素、若しくはC1-7 のアルキル基である。
グアニジノ:−NH−C(=NH)NH2
イミノ:=NR、但し、Rは、イミノ置換基であり、例えば、水素、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、H若しくはC1-7 のアルキル基である。イミノ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、=NH、=NMe、及び=NEtが含まれる。
アミジン(アミジノ):−C(=NR)NR2 、但し、各Rは、アミジン置換基であり、例えば、水素、C1-7 のアルキル基、又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、H若しくはC1-7 のアルキル基である。
スルフヒドリル(チオール、メルカプト):−SH
チオエーテル(サルファイド):−SR、但し、Rは、チオエーテル置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基(また、C1-7 のアルキルチオ基として関連付けられる。)又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。C1-7 のアルキルチオ基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−SCH3 及び−SCH2CH3 が含まれる。
スルフィン(スルフィニル、スルホキシド):−S(=O)R、但し、Rは、スルフィン置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
スルホン(スルホニル):−S(=O)2 R、但し、Rは、スルホン置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。スルホン基の具体例としては、これに限定されるものではないが、−S(=O)2CH3(メタンスルホニル、メシル)、−S(=O)2CF3(トリフリル)、−S(=O)2CH2CH3 (エシル)、−S(=O)249 (ノナフリル)、−S(=O)2CH2CF3 (トレシル)、−S(=O)2CH2CH2NH2(タウリル)、−S(=O)2Ph(フェニルスルホニル、ベシル)、 4−メチルフェニルスルホニル(トシル)、4−ブロモフェニルスルホニル(ブロシル)及び4−ニトロフェニル(ノシル)が含まれる。
スルフィン酸(スルフィノ):−S(=O)OH、−SO2
スルホン酸(スルホ):−S(=O)2OH、−SO3
スルフィネート(スルフィン酸エステル):−S(=O)OR;但し、Rは、スルフィネート置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
スルホネート(スルホン酸エステル):−S(=O)2OR、 但し、Rは、スルホネート置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
スルフィニルオキシ:−OS(=O)R、但し、Rは、スルフィニルオキシ置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、又はC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
スルホニルオキシ:−OS(=O)2 R、但し、Rは、スルホニルオキシ置換基であり、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
サルフェート:−OS(=O)2 OR;但し、Rは、サルフェート置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
スルファミル(スルファモイル;スルフィン酸アミド;スルフィンアミド):−S(=O)NR56、但し、R5 及びR6 は、アミノ基として定義したように、独立して、アミノ置換基である。
スルホンアミド(スルフィナモイル;スルホン酸アミド;スルホンアミド):−S(=O)2 NR56、但し、R5 及びR6 は、アミノ基として定義したように、独立して、アミノ置換基である。
スルファミノ:−NR5S(=O)2OH、但し、R5 は、アミノ基として定義したように、アミノ置換基である。
スルホンアミノ:−NR5S(=O)2R、但し、R5 は、アミノ基として定義したように、アミノ置換基であり、そしてRは、スルホンアミノ置換基であって、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
スルフィンアミノ:−NR5S(=O)R、 但し、R5 は、アミノ基として定義したように、アミノ置換基であり、そして、Rは、スルフィンアミノ置換基であって、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
ホスホ:−P(=O)2
ホスフィニル(ホスフィンオキサイド):−P(=O)R2 、但し、Rは、ホスフィニル置換基であり、例えば、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基であり、好ましくは、C1-7 のアルキル基である。
ホスホン酸(ホスホノ):−P(=O)(OH)2
ホスホネート(ホスホノエステル):−P(=O)(OR)2 、但し、Rは、ホスホネート置換基であって、例えば、−H、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基である。
リン酸(ホスホノオキシ):−OP(=O)(OH)2
ホスフェート(ホスホノオキシエステル):−OP(=O)(OR)2 、但し、Rは、ホスフェート置換基であり、例えば、−H、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基である。
亜リン酸:−OPH(=O)(OH)
ホスファイト:−OP(OR)2 、但し、Rは、ホスファイト置換基であり、例えば、−H、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基である。
ホスホルアミダイト:−OP(OR5)−NR62 、但し、R5 及びR6 は、ホスホルアミダイトの置換基であり、例えば、−H、C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基である。
ホスホルアミデート:−OP(=O)(OR5)−NR62 、但し、R5 及びR6 は、ホスホルアミデート置換基であり、例えば、−H、 C1-7 のアルキル基、若しくはC5-20のアリール基である。
シロキシ(シリルエーテル):−OSiR3 、但し、SiR3 は、先に論じたように、シリル基である。
【0128】
異性体(Isomers)
一つ若しくはそれ以上の特定の幾何学的、光学的、鏡像異性体的、ジアステレオ異性体的、立体異性体的、若しくは互変異性体的形態において存在し得る化合物があり、それらは、ここでは、まとめて、「異性体」(乃至は「同質異性形態」)として、関連付けられる。互変異性形態について、以下に論じられるようなことを除いて、構造(乃至は構成)異性体(即ち、空間における原子の位置によるよりも、むしろ、原子間の結合において異なる異性体)は、ここで用いられる「異性体」の語から特に除外されることに、注意されたい。例えば、メトキシ基−OCH3 に対する参照は、その構造的異性体であるヒドロキシメチル基−CH2 OHに対する参照として、解釈されるべきではないのである。
【0129】
上記の除外は、互変異性形態のもの、例えば、ケト−、エノール−、及びエノレート−形態に対して、例えば、以下の互変異性の対:ケト/エノール(以下に図示される)、イミン/エナミン(enamine )、アミド/イミノアルコール、アミジン(amidine )/アミジン(amidine )、ニトロソ/オキシム、チオケトン/エネチオール(enethiol)、N−ニトロソ/ヒドロキシアゾ、及びニトロ/アシ−ニトロ(aci-nitro )におけるようなものには、関係しない。
[化18]

一つ又はそれ以上の同位体置換を有する化合物が、特に、「同位体」の語に含まれることに注意されたい。例えば、Hは、 1H、 2H(D)、及び 3H(T)を含む所定の同位体形態において、存在し得るものである。
【0130】
他に特定されない限り、特定の化合物への参照は、「全若しくは部分」ラセミ体及びそれの他の混合物を含むそのような異性体形態の全てを含んでいる。
【0131】
塩(Salts)
活性化合物の対応する塩、例えば、製薬的に受け入れられ得る塩を準備したり、精製したり、及び/又は取り扱ったりすることは、都合の良いことであり、或いは、望ましいことである。製薬的に受け入れられ得る塩の例としては、Berge et al., 1977,「Pharmaceutically Acceptable Salts, 」J. Pharm. Sci., Vol. 66, pp. 1-19 において議論されている。
【0132】
例えば、化合物が、アニオン性であったり、或いは酸性基(例えば、−COOHは、−COO- となる。)の如く、アニオン性となり得る官能基を有しているならば、塩は、適当なカチオンにて形成される。適当な無機のカチオンの例としては、これに限定されるものではないが、Na+ やK+ の如きアルカリ金属イオン、Ca2+ やMg2+ の如きアルカリ土類カチオン及びAl+3 の如き他のカチオンが含まれる。 適当な有機カチオンの例としては、これに限定されるものではないが、アンモニウムイオン(即ち、NH4+ ) 及び置換されたアンモニウムイオン (例えば、NH3+ 、NH22+ 、NHR3+ 、NR4+ )が含まれる。
【0133】
他に特定されない限り、特定の化合物に対する参照は、また、その塩形態のものを含んでいる。
【0134】
ソルベート(Solvates)
活性化合物の対応するソルベートを製造し、精製し、及び/又は取り扱うことが便利であり、或いは望ましいものであり得る。「ソルベート」の語は、ここでは、通常の意味において用いられ、溶質(例えば、活性化合物、活性化合物の塩)と溶媒との複合物として参照される。溶媒が水であるときには、ソルベートは、好都合には、水和物として参照され得る。他に特定されない限り、特定の化合物に対する参照は、また、そのソルベート形態のものを含んでいる。
【0135】
この出願を通じて、医療処置への参照は、人及び獣医学的処置の両方を含むことが意図され、従って、薬剤組成物に対する参照は、人若しくは獣医学的処置における使用のための組成物を含むことが意図されている。
【実施例】
【0136】
本発明の具体例及び実験データ
遷移金属カルボニル錯体から遊離したCOの検出
金属カルボニル錯体からのCOの遊離が、カルボモノオキシミオグロビン(MbCO)へのデオキシミオグロビン(deoxy−Mb)の転化を測定することによって、分光光度法的に評価された。MbCOは、500〜600nmの間に特徴のある吸収スペクトルを有しており、遊離したCOの量を定量するために、540nmでの変化が用いられる。ミオグロビン溶液が、公知の濃度及びpHで作られたホスフェート緩衝液に該タンパク質を公知の濃度で溶解せしめることによって、新たに調製された。亜ジチオン酸ナトリウム(0.1%)が添加されて、各々の読み取りに先立って、ミオグロビンがデオキシ−Mbに添加せしめられた。全てのスペクトルが、ヘリオス(Helios)α分光光度計を用いて、測定された。
【0137】
細胞毒性
細胞毒性は、10、50若しくは100μMの各化合物を用いて、24時間の間インキュベートされたRAW264.7マクロファージにおいて測定された。細胞生存能力におけるロスが、コントロールの百分率として、Alamar Blue 及びLDH放出アッセイを用いて測定された。表2(図2A、図2B)において、* は、100μMで検出された毒性を示し、**は、50μMで検出された毒性を示し、*** は、10μMで検出された毒性を示している;Vは、細胞が生きていることを示し、そして、何等の毒性も100μMで検出されないことを示している。
【0138】
抗炎症作用
抗炎症作用は、リポ多糖(LPS)(1μg/ml)の存在下若しくは不存在下において、各化合物の10、50若しくは100μMを用いて、24時間の間、インキュベートされたRAW264.7マクロファージにおいて測定された。ニトリルが炎症の指示薬として用いられた。表2(図2A、図2B)において、* は、100μMで検出された炎症の減少を示し、**は、50μMで検出された炎症の減少を示し、*** は、10μMで検出された炎症の減少を示している;「無」は、炎症に関して、化合物の何等の影響も存在しなかったことを示している。表2(図2A、図2B)において、N.D.は、測定されなかったことを示している。
【0139】
55COOMeの調製
LiCpの溶液が、アルゴン雰囲気下、−78℃で、乾燥THFの280mlにおける、20.65ml(0.25mol)の新たに分留されたシクロペンタジエンに対して、156.3ml(0.25mol)のn−BuLi(ヘキサン中、1.6M)を添加することにより、調製された。完全に添加した後、系が室温までゆっくり暖められるようにして、それから、更なる時間の間、攪拌された。この期間中に、多量の白色沈殿物が形成された。
【0140】
これに続いて、系は、再び−78℃(このポイントで沈殿物は再溶解を始める)に冷却され、そして、クロロギ酸メチルの19.3ml(0.25mol)が、一滴ずつ(滴状に)添加された。これにより、白色の沈殿物が完全に消失することとなり、後に、黄色/オレンジ色に着色された溶液が形成された。室温まで暖め、そして更なる時間撹拌した後、白色の沈殿物が生じた(LiCl)。
【0141】
500mlの水が添加され、そして2層に分離された。水層が、100mlのエーテルにて2回洗浄され、そしてそれから、その合わせた有機抽出物が、250mlの水の5回と飽和食塩水の1回で洗浄された。次いで、それは、乾燥され(MgSO4、0℃、45分)、そして溶媒が、ロータリ・エバポレータで取り除かれて、黄色のオイルを得た。この黄色のオイルは、更なる精製を施すことなく、用いられる。
【0142】
55COOMeとFe(CO)5 との反応(参考文献10)
上記の反応から得られた生成物が、20時間の間、アルゴン下で、ヘプタン/ジグリム(10:1)の110ml中の20ml(0.15mol)のFe(CO)5 と共に、還流せしめられた。これに続いて、系が、一晩中、−18℃に冷却され、そして生じた紫色の沈殿物が、焼結物(sinter)上に集められた。それは、冷ペンタンで2回洗浄された。
【0143】
沈殿物は、生成物[Fe(Cp−COOMe)(CO)22を与え、それは、シリカ上でのカラムクロマトグラフィーにより、ガソリンで溶出して、未反応のFe(CO)5 を除去し、そしてそれから、ガソリン/エーテル(1:1)で生成物を溶出することによって、精製され得る。約2.5〜3gの[Fe(Cp−COOMe)(CO)22が、かかる方法を用いて、得られた。
【0144】
それに代わり得るものとして、かかる未精製の[Fe(Cp−COOMe)(CO)22 生成物は、DCM/ヘキサンからの再結晶(高真空下での数時間におよぶ、溶媒及び未反応Fe(CO)5 の痕跡量の除去)によって、精製され得る。この方法は、より高い収率を与え、約4gの生成物が、この方法において得られた。
【0145】
55COOMeとFe2(CO)9との反応(参考文献11)
[Fe(Cp−COOMe)(CO)22の合成のための代わりの方法は、Fe2 (CO)9 との反応を含んでいる。
【0146】
上記の反応から調製されたC55COOMeは、24時間の間、アルゴン下で、脱酸素されたヘプタン(アルゴンパージ)の200ml中のFe2(CO)9の20g(55.0mmol)と共に、還流させられた。この還流の後、それは、一晩中、−18℃に冷却され、そして、紫色の結晶質の沈殿物が生じ、焼結体(sinter)上に集められて、ペンタンにて数回洗浄された。ヘプタンの上澄みが再循環されることにより、収率が増大せしめられ得る。収率は、一般に、4.5〜6g(Fe2(CO)9に基づき、17.4〜23.2%)の間で変化した。このルートの利点は、再結晶操作が、何等必要とされないことである。
【0147】
[Fe(Cp−COOMe)(CO)22についての分析データ
I.R.(CH2Cl2)νmax =2010.13,1973.15cm-1(末端CO)、1793.23cm-1(橋かけ(bridging)CO)、1718.26cm-1(C=O)。
1H−NMR(d6 −アセトン)δ=3.90(3H)、5.17(2H)、5.45(2H)。
【0148】
[Fe(Cp−CO2CH2CH2OH)(CO)22の調製
1.013g(2.16mmol)の[Fe(Cp−COOMe)(CO)22と15mg(0.375mmol)のNaH(鉱油中60%分散)が、アルゴン下で、一晩中、55℃で、18mlのエチレングリコール中において撹拌された。
【0149】
これに続いて、DCMと脱酸素水が添加され、そして、2つの層が分離された。水性層がDCMで洗浄され、そして合わせたDCM抽出物が、脱酸素水で3回及び飽和食塩水で1回洗浄された。それから、それは乾燥され(MgSO4 )、そして、ロータリ・エバポレータで、溶媒の除去が行なわれた。生じた固体は、エーテルで、数回洗浄された。
【0150】
1.001gの濃紫色の固体が、87.5%の収率で生じた。その試料が、DCM/ヘキサンから再結晶されると、収率は、約62%に低下する。
【0151】
[Fe(Cp−CO2CH2CH2OH)(CO)22についての分析データ
I.R.(CH2Cl2)νmax =2012.13,1975.15cm-1(末端CO)、1785.23cm-1(橋かけCO)、1718.26cm-1(C=O)。
1H−NMR(CD2Cl2)δ=3.97(2H)、4.45(2H)、5.03(2H)、5.35(DCMピークによって不鮮明化)(2H)。
【0152】
[Fe(Cp−CO2CH2CH2OH)(CO)3][PF6 ]{CORM−337}の調製(参考文献12)
500mg(0.943mmol)の[Fe(Cp−CO2CH2CH2OH)(CO)22 と、615mg(1.86mmol、0.985当量)のフェロシニウム・ヘキサフルオロホスフェートが、CO雰囲気下、シュレンクチューブ(Schlenk tube)内に配置された。CO飽和DCM/THF混合物(2:1)の70mlが添加され、そして、溶液中に断続的にCOのバブリングを行いながら、暗いところで、2.5〜3日間、系が撹拌された。
【0153】
この後、やや黄色の沈殿物が形成され始め、そして、沈殿は、エーテルの添加(150ml)によって完結された。10分間の撹拌の後、精製物は、焼結体上に集められ、エーテルで複数回洗浄され、更に真空下で乾燥せしめられた。
【0154】
淡い黄色の固体が、485mg得られた。収率は、59.7%であった。
【0155】
[Fe(Cp−CO2CH2CH2OH)(CO)3][PF6 ]についての分析データ
I.R.(固体)νmax =2134.4、2102.1、2077.6cm-1(CO)、1719.6cm-1(C=O)。
1H−NMR(d6 −アセトン)δ=3.89(2H)、4.40(2H)、6.20(2H)、6.77(2H)。
【0156】
ヨード酢酸メチル(Methyl Iodoacetate)の調製
[化19]

以下の手順は、修正された文献の方法(参考文献14)に基づくものである。ブロモ酢酸メチル(20.00g、12.40mL、130.74mmol)とヨウ化ナトリウム(25.10g、167.34mmol、1.28当量)の混合物が、室温で、15時間撹拌され、そしてそれから2時間、50℃に加熱された。そして、その反応混合物は、周囲温度にまで冷却され、濾過されて、臭化ナトリウムが除去され、そして固形物がジエチルエーテル(2×50mL)で洗浄された。ろ液が減圧下で濃縮され、ジエチルエーテル(100mL)で希釈され、そしてその有機層が、水(2×50mL)、食塩水(50mL)で洗浄され、乾燥され(無水硫酸ナトリウム)、そして蒸発させられることにより、ヨード酢酸メチル(18.69g、93.46mmol、72%)が、濃赤色のオイルとして得られた。
1H NMR(400MHz、CDCl3 )δ3.73(3H、s、OCH3 )、3.68(2H、s、ICH2 )。
【0157】
3−ヨードプロピオン酸メチルの調製
[化20]

上記の修正フィンケルスタイン(Finkelstein )手順(参考文献14)を用いて、3−ヨードプロピオン酸メチル(23.10g、107.94mmol、90%)が、3−ブロモプロピオン酸メチル(20.00g、119.75mmol)及びヨウ化ナトリウム(22.98g、153.28mmol、1.28当量)から、アセトン(80mL)中において製造され、オレンジ色のオイルとして得られた。
1H NMR(400MHz、CDCl3 )δ3.71(3H、s、OCH3 )、3.31(2H、s、J=7.2Hz、ICH2 )、2.97(2H、s、J=7.2Hz、CH2CO2)。
【0158】
メチル・シクロペンタ−1,3−ジエニルアセテート(Methyl Cyclopenta-1,3-dienylacetate)及びメチル・シクロペンタ−1,4−ジエニルアセテートの調製
[化21]

上記の化合物は、修正された文献方法(参考文献15、16)を用いて調製された。ヨード酢酸メチル(18.50g、92.51mmol)の無水テトラヒドロフラン(60mL)の溶液が、テトラヒドロフランにおけるソジウム・シクロペンタジエニド(sodium cyclopentadienide)の2.0M溶液(46.26mL、92.51mmol)に、窒素下で、−78℃にて、15分を超えて、1滴ずつ添加された。その生じた反応混合物は、更に3時間の間、−78℃で撹拌され、そしてそれから、室温まで暖められ、濾過され、そしてその生じた固体が、ジエチルエーテル(200mL)で洗浄された。合わされた有機質のものは、真空下で濃縮された。粗製オイルは、イソヘキサン中の10%の酢酸エチルを用いて、シリカ上でのフラッシュ・クロマトグラフィによって精製され、メチル3−シクロペンタ−1,3−ジエニルアセテート(1−アルキルCp)とメチル3−シクロペンタ−1,4−ジエニルアセテート(2−アルキルCp)(2.37g、17.31mmol、19%)を、黄色液体として、約1:1の割合において生じた。
【0159】
1H NMR(500MHz、CDCl3 )δ6.53(1H、m、シクロペンタジエンCH)、6.46(2H、m、シクロペンタジエンCH)、6.37(2H、m、シクロペンタジエンCH)、6.23(1H、m、シクロペンタジエンCH)、3.72(3H、s、OCH3 )、3.71(3H、s、OCH3 )、3.47(2H、m、アルキルCH2 )、3.44(2H、m、アルキルCH2 )、3.04(2H、m、シクロアルキルCH2 )、3.02(2H、m、シクロアルキルCH2 )。
【0160】
メチル3−シクロペンタ−1,3−ジエニルプロピオネート及びメチル3−シクロペンタ−1,4−ジエニルプロピオネートの調製
[化22]

上記の化合物は、修正された文献方法(参考文献16)を用いて、調製された。テトラヒドロフラン中のソジウム・シクロペンタジエニドの2.0M溶液(105.10mL、210.28mmol)が、窒素下に、−78℃で、無水ジエチルエーテル(280mL)と無水テトラヒドロフラン(200mL)中における3−ヨードプロピオン酸メチル(45.00g、210.28mmol)の撹拌された溶液に、15分以上、1滴ずつ添加された。生じた反応混合物は、−78℃で、2時間の間撹拌され、そして、さらに15時間の間、−20℃で保持された。生じた赤色の懸濁液が、1Mの塩化アンモニウム溶液(800mL)を用いて反応が停止せしめられ、そしてその有機相が、ジメチルエーテル(5×400mL)で抽出された。有機相の合わせた物が、1Mの塩化アンモニウム溶液(2×500mL)で洗浄され、そして乾燥され(無水硫酸ナトリウム)、濾過され、更に真空下で濃縮された。この粗製オイルは、イソヘキサン中の5%酢酸エチルを用いた、シリカ上でのフラッシュクロマトグラフィにて精製され、メチル3−シクロペンタ−1,3−ジエニルプロピオネート(1−アルキルCp)及びメチル3−シクロペンタ−1,4−ジエニルプロピオネート(2−アルキルCp)(14.72g、96.72mmol、46%)を、黄色の液体として、1.2:1の割合において生成した。
主たる異性体(1−アルキルCp): 1H NMR(400MHz、CDCl3 )δ6.40(1H、m、Cp−H3、xbと重なり合い)、6.25(1H、m、Cp−H4)、6.02(1H、m、Cp−H2)、3.66(3H、s、OCH3 )、2.93(2H、dd、J=3.7及び1.9Hz、Cp−H5)、2.71(2H、m、CH2 CO2 、xbとの重なり合い)、2.55(2H、m、CpCH2 、xbとの重なり合い);副の異性体(2−アルキルCp): 1H NMR(400MHz、CDCl3 )δ6.40(1H、m、Cp−H3、xaと重なり合い)、6.39(1H、m、Cp−H4、xaと重なり合い)、6.16(1H、m、Cp−H1)、3.66(3H、s、OCH3 )、2.88(2H、dd、J=2.9及び1.5Hz、Cp−H5)、2.71(2H、m、CH2CO2、xaと重なり合い)、2.55(2H、m、CpCH2 、xaと重なり合い)。
【0161】
[Fe(C54CH2CO2Me)(CO)22の調製
[化23]

脱ガスされたヘプタン(55mL)中のメチル3−シクロペンタ−1,3−ジエニルアセテート(1−アルキルCp)と、メチル3−シクロペンタ−1,4−ジエニルアセテート(2−アルキルCp)(2.00g、14.59mmol)の混合物が、窒素下、室温で二鉄ノナカルボニル(diiron nonacarbonyl :5.31g、14.59mmol)に添加された。生じた反応混合物は、加熱されて、110℃で還流され、そして18時間の間撹拌され、それから周囲温度に冷却された。その間、栗色様の結晶が沈殿するのが確認された。溶液は、更に、1時間の間、冷凍機内において冷却され、そして、その溶液は、焼結体漏斗を通じて濾過された。集められた結晶は、脱ガスされたヘキサン(4×50mL)にて充分に洗浄され、そしてその溶媒は、真空中で濃縮されて、栗色様の結晶として、鉄サンドイッチ錯体(2.67g、5.36mmol、30%)を生じた。
IR(固体)νmax cm-11979(s、末端CO)、1946(s、末端CO)、1759(s、橋かけC=O)、1737(s、エステルC=O); 1H NMR(500MHz、CD2Cl2、室温)δ4.76(4H、s、4×シクロペンタジエンCH)、4.69(4H、s、4×シクロペンタジエンCH)、3.74(6H、s、2×OCH3 )、3.56(4H、s、2×アルキルCH2 );13C NMR(126MHz、CD2Cl2、−30℃)δ272.5(2×橋かけC=O)、210.3(2×末端CO)、171.2(2×エステルC=O)、98.0(2×4級シクロペンタジエンC)、89.7(4×シクロペンタジエンCH)、89.4(4×シクロペンタジエンCH)、52.5(2×OCH3)、32.4(2×アルキルCH2)。
【0162】
[Fe(C54CH2CH2CO2Me)(CO)22の調製
[化24]

上記の鉄サンドイッチ化合物の手順を用いて、[Fe(C54CH2CH2CO2Me)(CO)22(12.75g、24.20mmol、50%)が、メチル3−シクロペンタ−1,3−ジエニルプロピオネート及びメチル3−シクロペンタ−1,4−ジエニルプロピオネート(1.2:1、14.50g、95.96mmol)の混合物と二鉄ノナカルボニル(34.90g、95.96mmol)とから、脱ガスされたヘプタン(350mL)中において、栗色様の結晶として調製された。
【0163】
IR(固体)νmax cm-11976(s、末端CO)、1937(s、末端CO)、1788(s、橋かけC=O)、1715(s、エステルC=O); 1H NMR(500MHz、CD2Cl2、室温)δ4.67(4H、s、4×シクロペンタジエンCH)、4.56(4H、s、4×シクロペンタジエンCH)、3.71(6H、s、2×OCH3 )、2.80(4H、s、2×アルキルCH2 )、2.66(4H、s、2×アルキルCH2 ); 1H NMR(500MHz、CD2Cl2、−30℃)δ4.67(4H、s、4×シクロペンタジエンCH)、4.57(4H、s、4×シクロペンタジエンCH)、3.67(6H、s、2×OCH3 )、2.76(4H、s、2×アルキルCH2 )、2.68(4H、s、2×アルキルCH2 ); 1H NMR(500MHz、CD2Cl2、−50℃)δ4.58(8H、s、8×シクロペンタジエンCH)、3.65(6H、s、2×OCH3 )、2.68(8H、s、4×アルキルCH2 );13C NMR(126MHz、CD2Cl2、室温)δ172.7(2×エステルC=O)、105.6(2×4級シクロペンタジエンC)、88.3(4×シクロペンタジエンCH)、87.4(4×シクロペンタジエンCH)、51.5(2×OCH3 )、34.3(2×アルキルCH2 )、22.5(2×アルキルCH2 );13C NMR(126MHz、CD2Cl2、−30℃)δ272.9(2×橋かけC=O)、210.8(2×末端CO)、173.1(2×エステルC=O)、105.2(2×4級シクロペンタジエンC)、87.9(4×シクロペンタジエンCH)、87.0(4×シクロペンタジエンCH)、52.1(2×OCH3 )、34.3(2×アルキルCH2 )、22.5(2×アルキルCH2 )。
【0164】
トリカルボニル[メチル−2−(シクロペンタジエニル)エタノエート]鉄テトラフルオロボレート[Fe(C54CH2CO2Me)(CO)3]BF4 CORM−351の調製
[化25]

以下の手順は、修正された文献方法(参考文献12)に基づくものである。フェロシニウム・テトラフルオロボレート(274mg、1.004mmol、2当量)が、窒素下において、鉄サンドイッチ化合物[Fe(C54CH2CO2Me)(CO)22(250mg、0.502mmol)に添加された。脱ガスされた二塩化メタン/テトラヒドロフラン(33mL;2:1)の無水混合物が添加され、そして、一酸化炭素が、それから15分間の間、生じた反応混合物中にバブリングされた。その反応混合物は、それから、一酸化炭素雰囲気下で撹拌され、また、かかる反応混合物を通じての一酸化炭素のバブリングが、18時間後及び24時間後に10分間、行なわれた。全体として、かかる反応混合物は、36時間の間、一酸化炭素雰囲気下で撹拌され、その後反応フラスコが、窒素でフラッシュされた。それから、反応混合物は、真空中で濃縮され、そして得られた黒色の固体が、脱ガスされたジエチルエーテル(5×20mL)で洗浄され、その後生成物が、脱ガスされた二塩化メタン(5×20mL)で抽出された。有機相を合わせたものが、真空中で濃縮されて、オレンジ色の固体を与え、それは、更に、脱ガスされた二塩化メタン(20mL)で洗浄された。得られた黄色の固体が、アセトン(20mL)に溶解され、濾過され、そして溶媒が真空中で除去されて、表題の化合物を、黄色固体(66.4mg、0.183mmol、36%)として生じた。
【0165】
IR(固体)νmax cm-12121(s、末端CO)、2065(s、末端CO)、1737(s、エステルCO); 1H NMR(500MHz、CD3COCD3、室温、低濃度試料)δ6.25(2H、t、2×シクロペンタジエンCH)、6.08(2H、t、2×シクロペンタジエンCH)、3.87(2H、s、アルキルCH2 )、3.77(3H、s、OCH3 ); 1H NMR(500MHz、CD3COCD3、室温、高濃度試料)δ6.22(2H、s、2×シクロペンタジエンCH)、6.06(2H、s、2×シクロペンタジエンCH)、3.86(2H、s、アルキルCH2 )、3.77(3H、s、OCH3 );13C NMR(126MHz、CD3COCD3、−30℃)δ204.7(3×末端CO)、170.9(エステルC=O)、106.4(4級シクロペンタジエンC)、92.9(2×シクロペンタジエンCH)、89.7(2×シクロペンタジエンCH)、53.4(OCH3)、32.1(アルキルCH2)。
【0166】
トリカルボニル[メチル−3−(シクロペンタジエニル)プロパノエート]鉄テトラフルオロボレート[Fe(C54CH2CH2CO2Me)(CO)3]BF4 CORM−352の調製
[化26]

フェロシニウム酸化手順(参考文献12)を用いて、[Fe(C54CH2CH2CO2 Me)(CO)3]BF4(95.0mg、0251mmol、15%)が、鉄サンドイッチ化合物[Fe(C54CH2CH2CO2Me)(CO)22 (900mg、1.71mmol)とフェロシニウム・テトラフルオロボレート(933mg、3.42mmol、2当量)とから、一酸化炭素雰囲気下、36時間で、黄色の固体として調製された。
【0167】
IR(固体)νmax cm-12059(s、末端CO)、2009(s、末端CO)、1735(s、エステルCO); 1H NMR(400MHz、CD3COCD3、室温、低濃度試料)δ6.15(2H、t、2×シクロペンタジエンCH)、6.07(2H、t、2×シクロペンタジエンCH)、3.67(3H、s、OCH3 )、2.94(2H、t、アルキルCH2 )、2.80(2H、t、アルキルCH2 、シグナルは CD3COCD3 NMR溶媒においてH2O シグナルと重なり合う); 1H NMR(500MHz、CD3COCD3、室温、高濃度試料)δ6.13(2H、s、2×シクロペンタジエンCH)、6.05(2H、s、2×シクロペンタジエンCH)、3.67(3H、s、OCH3 )、2.93(2H、t、アルキルCH2 )、2.82(2H、t、アルキルCH2 、シグナルはCD3COCD3 NMR溶媒におけるH2O シグナルと重なり合う);13C NMR(126MHz、CD3COCD3、−30℃)δ203.7(3×末端CO)、172.1(エステルC=O)、114.1(4級シクロペンタジエンC)、89.4(2×シクロペンタジエンCH)、88.8(2×シクロペンタジエンCH)、51.4(OCH3)、32.8(アルキルCH2)、22.2(アルキルCH2)。
【0168】
[Fe(C54CO2Me)(CO)3][FeCl4] CORM−357の調製
400mg(0.851mmol)の[Fe(C54−COOMe)(CO)22が、アルゴンの下で、20mlのベンゼンに溶解させられた。そして、SO2Cl2のベンゼン溶液が、撹拌しつつ、一滴ずつ添加された。これにより、黄色の沈殿物が、直ちに形成されることとなった。反応が、IR分光法によって追跡され、そして、二量体出発物質が最早存在しなくなったときに、添加が停止された。生じた沈殿物は、焼結体上に集められ、そしてそれから、ベンゼンと少量の冷二塩化メタン(DCM)で洗浄された。そして、それは、DCMから再結晶させられた(即ち、試料が沸騰DCMに溶解せしめられ、そして−18℃に一晩冷却された)。生じた黄色の結晶が分離され、ジエチルエーテルで洗浄され、そして真空下で乾燥せしめられた。
【0169】
101mg(0.219mmol)の生成物が得られた。Mr =460.66。収率26%。X線品質の結晶が、MeCN/ジエチルエーテル/ペンタンの希薄溶液から、−18℃で得られた。
【0170】
1H NMR(CD3CN ):δ(ppm)常磁性の対イオンによりv.broad
13C NMR(CD3CN ):δ(ppm)60.6(CH3 )、91.3(イプソ(ipso)Cp)、97.2(Cp)、99.8(Cp)、161.7(C=O)、202.7(CO)
17O NMR(CD3CN ):δ(ppm)399.2(CO)
IR(MeCN)ν(cm-1):2132(s)、2089(vs)、1745(m)
質量分析(m/z):263(M+ )、235(M+ −CO)、207(M+ −2CO)
元素分析:Fe21075Cl4 実測(found )(calc:計算)C:26.14(26.07)、H:1.62(1.53)、Cl:30.80(30.78)
【0171】
[{MeC53(COOH)}Mn(CO)3](二つの異性体の混合物)の調製
CORM−359は、二つの異性体の殆ど等しい量における混合物である:
[化27]

この公知の化合物は、参考文献19及び20に報告されている。[Mn(Cp−Me)(CO)3 ](1.50g、6.88mmol)の乾燥THF(15ml)溶液が、−78℃に冷却された。BuLiの1.5当量(6.45ml、10.32mmol、ヘキサンの1.6M溶液)が、それから、撹拌下に添加された。撹拌が、−78℃で、10分間続行され、それから反応が室温にまで暖められることで許容された。
【0172】
そして、溶液が、大過剰のドライアイス上に注がれて、何等の固体CO2 が残らなくなるまで、反応が許容された。次いで、ジエチルエーテルが添加され、そして、反応生成物が水中に注がれた。その洗浄水は捨てられ、そして有機相に対して、1M NaOH(aq)にて3回の抽出が行なわれた。それから、その塩基性の水性抽出物を合わせて、ジエチルエーテルで2回洗浄を行ない、そして、10%HCl(aq)で酸性化した。その後、ジエチルエーテルが添加されて、沈殿した生成物を溶解せしめ、そして2相が分離された。有機相が、それから、水にて2回の洗浄が行なわれ、そして、最終的に、飽和食塩水で洗浄された後、MgSO4 上で乾燥せしめられた。溶媒の除去により、黄色/褐色の固体が512mg(1.95mmol)生じた。粗収率28%。
【0173】
この試料が、ヘキサンから再結晶せしめられて、184mg(0.702mmol)の黄色の固体が生じた。Mr =262.10。再結晶収率10%(全ての試料が再結晶されたものではないが)。
【0174】
1H NMR(CD2Cl2):δ(ppm)2.05(s、3H Me、異性体1、相対強度1.35)2.29(s、3H Me、異性体2、相対強度1.0)、4.79(ブロード、Cp、3H)、5.38(ブロード、Cp、2H)、5.49(dJ=9.2Hz、Cp 1H)。
【0175】
ブロードスペクトルにより、制限された割当てのみ可能。Cpプロトンのための、異性体間で可能な分化なし。
13C NMR(CD2Cl2):δ(ppm)13.4(Me両異性体)、80.4、80.8(Cp C−CO2H 、2異性体)、81.8、84.1,84.7,87.2、87.7、88.2(Cp C−H、2異性体、異性体あたり3C)103.5、108.4(Cp C−Me、2異性体)、171.8(C=Oブロード、2異性体)、223.3(CO、2異性体)
17O NMR(CD2Cl2):δ(ppm)378.0(CO異性体1)、379.1(CO異性体2)
55Mn NMR(CD2Cl2):得ることが出来ない
IR(CH2Cl2)ν(cm-1):2031(s)、1948(vs)、1727(w )、1961(w)
質量分析(m/z):261(M- 即ち −H+
元素分析:MnC1075 実測(計算)C:47.31(45.83)、H:3.24(2.69)
【0176】
[Mo(C54CO2Me)(CO)3I] CORM−361の調製
この化合物[Mo(C54CO2Me)(CO)3I]は、文献方法(参考文献17)を用いて調製された。
【0177】
[Fe(C54−CO2Me)(CO)2(NO3)] CORM−380の調製
[Fe(C54−CO2Me)(CO)22 の300mg(0.638mmol)と、AgNO3 の228mg(1.34mmol)とが、アルゴン下、30℃で、15mlのアセトン中において、共に撹拌された。反応が、IR分光法によって監視され、そして、1.5時間の後、反応が完了したことを示した。その溶液が、セライトにより濾過され、そしてそれから、溶媒がロータリ・エバポレータで除去されることにより、赤色のオイル状の残渣を得た。シリカゲルカラムが、石油エーテル(40/60)において準備された。化合物が、僅かなDCMの溶液として導入された。石油エーテルを用いた溶出は、何等のバンド移動も惹起することはなかった。石油エーテル/ジエチルエーテル(1:1)を用いた溶出は、極めて少量の黄色のバンドを生じた。生成物は、ジエチルエーテルを用いて、明るい赤色バンドとして溶出された。ロータリ・エバポレータによる溶媒の除去、石油エーテルによる洗浄及び真空下での乾燥にて、目的とする固体生成物を与えた。
【0178】
78mgの明るい赤色の固体が得られた(0.263mmol)。Mr =297.00。収率21%。X線品質の結晶が、ジエチルエーテル溶液から、−18℃で得られた。
【0179】
1H NMR(CD2Cl2):δ(ppm)3.93(s、CH3 )、5.21(s、Cp 2H)、5.78(s、Cp 2H)
13C NMR(CD2Cl2):δ(ppm)53.0(Me)、82.7(Cp)、83.9(Cpイプソ)、91.5(Cp)、164.0(C=O)、209.0(CO)
17O NMR(CD2Cl2):δ(ppm)393.7(CO)
IR(CH2Cl2)ν(cm-1):2076(s)、2036(s)
質量分析(m/z):何等の関連するピークもEI+において見られなかった
元素分析:FeC97NO7 実測(計算)C:35.73(36.40)、H:2.44(2.38)、N:4.66(4.72)
【0180】
[Fe(C54−CO2Me)(CO)2 Br] CORM−382の調製
[Fe(C54−CO2Me)(CO)22 の400mg(0.851mmol)が、アルゴン下、DCMの20mlに溶解せしめられた。それから、5mlのDCM中におけるBr2 の150mg(0.936mmol)の溶液が、撹拌下に、一滴ずつ添加された。完全に添加された後、撹拌が、更に30分間続けられた。その時間の後、反応が、IR分光法によって完結していることが示された。
【0181】
反応溶液は、それから、分離漏斗に移され、そして、更なるDCMが添加された。次いで、脱酸素されたNa223 (aq)にて3回洗浄され、そして、脱酸素水で1回洗浄された。次いで、それは乾燥され(MgSO4 )、ろ過され、更に、溶媒がロータリ・エバポレータで除去されて、赤色−褐色の固体を生じた。シリカゲルカラムが、石油エーテル(40/60)において準備された。生成物は、僅かなDCM溶液として導入された。カラムは最初に石油エーテルで溶出されたが、これは、何等のバンドの移動も惹起させるものではなかった。極性が、ジエチルエーテルを用いることにより増大せしめられ、そして生成物は、最終的に、石油エーテル/ジエチルエーテル(2:3)を用いて、濃赤色バンドとして溶出された。溶媒の除去により、生成物は、濃赤色の固体として生じ、それは真空下で乾燥せしめられた。
【0182】
得られた生成物268mg(0.851mmol)。Mr =314.90。収率50%。X線品質結晶は、ジエチルエーテル溶液から、−18℃で成長させられた。
【0183】
1H NMR(CD2Cl2):δ(ppm)3.90(s、Me 3H)、5.19(s、Cp 2H)、5.70(s、Cp 2H)
13C NMR(CD2Cl2):δ(ppm)52.7(Me)、83.2(Cp)、84.0(Cpイプソ)、90.8(Cp)、164.3(C=O)、210.8(CO)
17O NMR(CD2Cl2):δ(ppm)385.7(CO)
IR(CH2Cl2)ν(cm-1):2060(s)、2018(s)
質量分析(m/z):314(M+)、286(M+ − CO)、258(M+ −2CO )
元素分析:FeC974Br 実測(計算)C:34.68(34.33)、H:2.14(2.24)、Br:25.16(25.37)
【0184】
[Fe(C54−CO2Me)(CO)2 Cl] CORM−384の調製
[Fe(C54−CO2Me)(CO)22 の500mg(1.06mmol)が、乾燥THFの14mlに、アルゴン下で溶解せしめられた。それから、5mlの乾燥THFにおけるSOCl2 の127mg(1.06mmol)の溶液が、撹拌しつつ、1滴ずつ添加された。完全に添加した後、撹拌が更に25分間続けられた。この後で、IRは、まだいくらかの出発物質が存在していることを示した。この故に、SOCl2 の希薄THF溶液が準備され、そしてその一部分が添加され、反応液が5分間撹拌され、そしてIRスペクトルが、反応が完結するするまで記録された。これに続いて、溶媒がロータリ・エバポレータで除去され、そして残渣がシリカゲルで処理された。最初に、石油エーテルで調製され、それからクロロホルムで溶出され、最終的に、生成物は、ジエチルエーテルを用いて赤色バンドとして溶出せしめられた。溶媒がロータリ・エバポレータで除去され、そしてそれから、生成物はジエチルエーテル/石油エーテルから再結晶せしめられた。赤色の結晶質の固体が252mg(0.932mmol)得られた。Mr =270.45。収率44%。X線品質結晶は、より希薄なジエチルエーテル溶液から、−18℃で成長せしめられた。
【0185】
1H NMR(CD2Cl2):δ(ppm)3.93(s、Me 3H)、5.18(s、Cp 2H)、5.70(s、Cp 2H)
13C NMR(CD2Cl2):δ(ppm)52.7(Me)、83.0(Cp)、84.5(Cpイプソ)、91.6(Cp)、164.4(C=O)、210.5(CO)
17O NMR(CD2Cl2):δ(ppm)386.4(CO)
IR(CH2Cl2)ν(cm-1):2064(s)、2022(s)
質量分析(m/z):270(M+)、242(M+ − CO)、214(M+ −2CO )
元素分析:FeC974Cl 実測(計算)C:39.77(39.97)、H:2.34(2.61)、Cl:12.94(13.11)
【0186】
[Fe(C54−CO2Me)(CO)2I] CORM−391の調製
[Fe(C54−CO2Me)(CO)22 の800mg(1.70mmol)が、アルゴン下、40mlのDCMに溶解せしめられた。それから、20mlのDCMにおける497mg(1.96mmol)のI2 の溶液が、撹拌しつつ、1滴ずつ添加された。完全に添加した後、撹拌が更に3時間の間続けられ、その後に、反応は、IR分光法によって完結したことが示された。その反応溶液は、それから分離漏斗に移され、更にDCMが添加された。次いで、それは、脱酸素Na223 (aq)の3回と、脱酸素水で1回、洗浄された。それから、乾燥され(MgSO4 )、ろ過され、そして溶媒がロータリ・エバポレータで除去されて、黒色の固体が生じた。これを真空下で乾燥した。得られた生成物1.03g。Mr =361.90。収率84%。X線品質の結晶が、ジエチルエーテル溶液から、−18℃で得られた。
【0187】
1H NMR(CD2Cl2):δ(ppm)3.90(s、Me 3H)、5.13(s、Cp 2H)、5.72(s、Cp 2H)
13C NMR(CD2Cl2):δ(ppm)52.6(Me)、83.7(Cp)、89.9(Cp)、164.2(C=O)、212.0(CO)
17O NMR(CD2Cl2):δ(ppm)384.9(CO)
IR(CH2Cl2)ν(cm-1):2050(s)、2010(s)
質量分析(m/z):362(M+)、334(M+ − CO)、306(M+ −2CO )
元素分析:FeC974I 実測(計算)C:29.86(29.87)、H:1.71(1.95)、I:35.06(35.07)
この化合物は、参考文献18に報告されている。
【0188】
[参考文献1]Piantadosi CA. Toxicity of carbon monoxide: hemoglobins vs. histotoxic mechanisms. In: Carbon monoxide. (Edited by Penney DG). 1996; Chapter 8.
[参考文献2]Sjostrand T. Endogenous formation of carbon monoxide in man under normal and pathological conditions. Scan J Clin Lab Invest1949 ; 1: 201-14.
[参考文献3]Coburn RF, Blakemore WS, Forster RE. Endogenous carbon monoxide production in man. J Clin Invest 1963 ; 42 : 1172-8.
[参考文献4]Coburn RF, Williams WJ, Forster RE. Effect of erythrocyte destruction on carbon monoxide production in man. J Clin Invest 1964; 43: 1098-103.
[参考文献5]Coburn RF, Williams WJ, Kahn SB. Endogenous carbon monoxide production in patients with hemolytic anemia. J Clin Invest 1966 ; 45: 460-8.
[参考文献6]Sjostrand T. The formation of carbon monoxide by in vitro decomposition of haemoglobin in bile pigments. Acta Physiol Scand 1952 ; 26: 328-33.
[参考文献7]Coburn RF, Williams WJ, White P, Kahn SB. The production of carbon monoxide from hemoglobin in vivo. J Clin Invest 1967 ; 46: 346-56.
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[参考文献20]M. Le Plouzennec, F. Le Moigne and R. Dabard, J. Organomet. Chem., 1977, 132, 409.
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】いくつかの実例化合物のためのCO放出データ及び溶解性データを提示する表であって、それら化合物は、WO 03/066067における生理学的システムに対して、CO放出物として好適であるとして提案されているものである。
【図2A】本発明に従ういくつかの化合物についての溶解性、CO放出、細胞毒性及び抗炎症性作用のデータを提示する表であり、そしてまた、二つの比較化合物(CORM−358及びCORM−360)のデータである。
【図2B】図2Aに示される表の続きである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)又は式(II)にて示される化合物を活性成分として含有する、CO供給のための薬剤組成物:
[CpM(CO)Xp+Z(Y-qz/q ・・・ (I)
但し、Mは、周期表の第6、7、8又は9族から選ばれた遷移金属であり;Yは、対アニオンであり;qは、Yの電荷であって、1、2又は3から選ばれたものであり;xは、2、3又は4であり;zは、0又は1であり、そしてx、z及びpは、次式:13−g=2x−z+p(ここで、gは、周期表におけるMの族番号であり、且つgが6のとき、pは0若しくは1であり;或いはgが7、8若しくは9のとき、pは0である)を満たし;Lは、H、ハライド、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ、C6-14のアリールオキシ、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、アシロキシ(−OC(=O)R5) 、アミド(−C(=O)NR56)、アシルアミド(−NR5C(=O)R6)、アミノカルボニルオキシ(−OC(=O)NR56)及びアミノチオカルボニルチオール(−SC(=S)NR56)から選ばれた配位子である;
[CpM'(CO)2L']+Z(Y-qz/q ・・・ (II)
但し、M’は、Fe又はRuであり;Yは、対アニオンであり;qは、Yの電荷であり且つ1、2若しくは3から選ばれたものであり;L’は、第1のグループ又は第2のグループの何れかから選ばれた配位子であって、
かかる第1のグループは、H、ハライド、−NO2 、−ONO、−ONO2 、−OH、−SCN、−NCS、−OCN、−NCO、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ、C6-14のアリールオキシ、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、アシロキシ(−OC(=O)R7)、アミド(−C(=O)NR78 )、アシルアミド(−NR7C(=O)R8)、アミノカルボニルオキシ(−OC(=O)NR78)、(SC(=O)R7)、−SC(S)R7、−SC(S)OR7 、−SC(O)NR78、−SC(O)OR7 、アミノチオカルボニルチオール(−SC(=S)NR78)、−OC(=S)R7、−N(C(=O)R72 、及び−C(O)(OR7);−O−PR789、−O−PR73-n(OR8n(但し、nは1、2若しくは3である)、−O−PR7(3-n)(NR89n (但し、nは1、2若しくは3である)から構成され;
また、前記第2のグループは、OR78、O=CR78、O=C(NR78)R9 、O=C(OR7)R8、O=SR78、O=S(O)R78、SR78、S(O)R78、S=CR78、S=C(NR78)R9、S=C(OR7)R8、NR789、NCR7、N*(但し、Nは、N*で示される芳香環における芳香族の窒素原子である)、PR789、PR7(3-n)(OR8n (但し、nは、1、2若しくは3である)、PR7(3-n)(NR89n(但し、nは、1、2若しくは3である)、O=PR789、O=PR7(3-n)(OR8n (但し、nは、1、2若しくは3である)、O=PR7(3-n)(NR89n (但し、nは、1、2若しくは3である)からなるものであり;
7 、R8 及びR9 は、水素、任意に置換されたC1-7 のアルキル、及び任意に置換されたC6-20のアリールから独立して選択されるが、R7 、R8 及びR9 の何れか二つは、同一のO、N若しくはS原子に結合して、そのような原子と共に、5、6若しくは7つの環原子を有する、任意に置換された複素環を形成することが出来るものであり;L’が、前記第1のグループからのものであるときには、zは0であり、またL’が、前記第2のグループからのものであるときには、zは1であり;
そして、前記式(I)及び式(II)において、Cpは、
[化1]

から選ばれ(そこで、r、s及びtは、1、2、3若しくは4から、各々独立して選択される);また、
1 は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 、−[Alk]n −NR4 −C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−NQ12 の何れかであり(ここで、nは、0若しくは1であり;Alkは、C1-28のアルキレン基であり;Q1 及びQ2 は、H、任意に置換されたC1-22のアルキル基及び任意に置換されたC6-25のアリール基から、各々独立して選択される);
各R2 は、R1 、H、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ハライド、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル及びC6-20のアリールアシルから独立して選択され;
4 は、H、C1-22のアルキル、及びC5-25のアリールから選択され;
各R3 は、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、スルフヒドリル、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル、C6-20のアリールアシル、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、カルボン酸(−C(=O)OH)、エステル(−C(=O)OR5 )、アシロキシ(−OC(=O)R5)、アミド(−C(=O)NR56)、 アシルアミド(−NR5C(=O)R6 )及びアミノ(−NR56)から独立して選択され;及び
5 及びR6 は、H、C1-7 のアルキル及びC6-20のアリールから、独立して選択される。
【請求項2】
M又はM’が、Feである請求項1に従う薬剤組成物。
【請求項3】
前記化合物が、前記式(I)にて示され、且つzが、1である請求項1に従う薬剤組成物。
【請求項4】
Yが、ハライド、スルホネート、ボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、パーハレート、サルフェート、フォスフェート、有機酸若しくはアミノ酸のカルボキシレートアニオンから選ばれる請求項1、2又は3に従う薬剤組成物。
【請求項5】
前記化合物が、式(I)にて示され、且つgが6であり、pが1である請求項1又は請求項2に従う薬剤組成物。
【請求項6】
Lが、H、ハライド、C1-7 のアルキル、C6-14のアリール、C1-7 のアルコキシ及びC6-14のアリールオキシから選択される請求項5に従う薬剤組成物。
【請求項7】
前記化合物が、式(II)にて示され、且つL’が、ハライド及び−ONO2 から選択される請求項1に従う薬剤組成物。
【請求項8】
Cpが、
[化2]

である請求項1乃至7の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項9】
rが、1若しくは4である請求項8に従う薬剤組成物。
【請求項10】
Cpが、
[化3]

である請求項1乃至7の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項11】
rが、1である請求項10に従う薬剤組成物。
【請求項12】
sが、1、2若しくは3である請求項10又は請求項11に従う薬剤組成物。
【請求項13】
3 が、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ及びアミノ(−NR56)から選択される請求項1、10、11又は12の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項14】
2 が、R1 と同一である先の請求項の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項15】
2 が、H、C1-22のアルキル及びC9-25のアリールから選択される請求項1乃至13の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項16】
1 が、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 単位であり、nが1である請求項1乃至15の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項17】
1 が、H、置換されたC1-22のアルキル及び任意に置換されたC6-25のアリール基から選択される請求項16に従う薬剤組成物。
【請求項18】
前記置換されたC1-22のアルキル及び前記任意に置換されたC6-25のアリール基における置換基が、α−アミノ酸、ヒドロキシ、エーテル、エステル、オキソ、アシロキシ、アミノ、アミド及びアシルアミドから選択される請求項17に従う薬剤組成物。
【請求項19】
1 が、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、nが1である請求項1乃至請求項15の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項20】
1 が、H、任意に置換されたC1-10のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリールから選択される請求項19に従う薬剤組成物。
【請求項21】
−[Alk]n −C(O)−O−Q1 及びnが0である請求項1乃至15の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項22】
1 が、H、任意に置換されたC1-22のアルキル基及び任意に置換されたC6-25のアリール基から選択される請求項21に従う薬剤組成物。
【請求項23】
経口の、静脈内の、経皮性の、皮下の、鼻の、吸入の、筋肉内の、腹腔内の、若しくは座薬のルートによる供給に適合せしめられた請求項1乃至22の何れか一つに従う薬剤組成物。
【請求項24】
以下の式(III)に従う化合物:
[CpFe(CO)3+1(Y-q1/q ・・・ (III)
但し、Yは、対アニオンであり;qは、Yの電荷であって、1、2若しくは3から選択され;及びCpが、
[化4]

から選ばれ(そこで、r、s及びtは、1、2、3若しくは4から、各々独立して選択される);そして、
1 は、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 、−[Alk]n −C(O)−O−Q1 、−[Alk]n −NR4 −C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−NQ12 の何れかであり(ここで、nは、0若しくは1であり;Alkは、C1-28のアルキレン基であり;Q1 及びQ2 は、H、任意に置換されたC1-22のアルキル基及び任意に置換されたC6-25のアリール基から、各々独立して選択される);
各R2 は、R1 、H、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ハライド、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル及びC6-20のアリールアシルから独立して選択され;
4 は、H、C1-22のアルキル、C5-25のアリールから選択され;
各R3 は、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、スルフヒドリル、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ、ホルミル、C1-7 のアルキルアシル、C6-20のアリールアシル、C1-7 のアルキルチオ、C5-10のアリールチオ、カルボン酸(−C(=O)OH)、エステル(−C(=O)OR5 )、アシロキシ(−OC(=O)R5)、アミド(−C(=O)NR56 )、アシルアミド(−NR5C(=O)R6)及びアミノ(−NR56)から独立して選択され;及び
5 及びR6 は、H、C1-7 のアルキル及びC6-20のアリールから、独立して選択される。
【請求項25】
3 が、H、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、ハライド、C1-22のアルキル、C6-25のアリール、C1-7 のアルコキシ、C5-10のアリールオキシ及びアミノ(−NR56)から選択される請求項24に従う化合物。
【請求項26】
Cpが、
[化5]

である請求項24又は請求項25に従う化合物。
【請求項27】
1 が、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 又は−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、そしてnが、0である請求項24乃至26の何れか一つに従う化合物。
【請求項28】
1 が、H、任意に置換されたC1-10のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリールから選択される請求項27に従う化合物。
【請求項29】
前記任意に置換されたC1-10のアルキル基及び前記任意に置換されたC6-14のアリール基における任意の置換基が、C1-10のアルキル、C6-14のアリール、α−アミノ酸基、ヒドロキシ、エーテル、エステル、オキソ、アシロキシ、アミノ、アミド及びアシルアミドから選択される請求項28に従う化合物。
【請求項30】
1 が、−[Alk]n −O−C(O)−Q1 若しくは−[Alk]n −C(O)−O−Q1 であり、そしてnが、1である請求項24乃至26の何れか一つに従う化合物。
【請求項31】
Alkが、線状の若しくは分岐した飽和C1-10のアルキレン基である請求項30に従う化合物。
【請求項32】
1 が、H、任意に置換されたC1-10のアルキル及び任意に置換されたC6-14のアリールから選択される請求項30又は31に従う化合物。
【請求項33】
Yが、ハライド、スルホネート、ボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、パーハレート、サルフェート、ホスフェート、有機酸若しくはアミノ酸のカルボキシレートアニオンから選択される請求項24乃至32の何れか一つに従う化合物。
【請求項34】
請求項1乃至23の何れか一つに従う薬剤組成物を投与する工程を含み、前記式(I)又は式(II)にて要求された化合物が、投与したときにCOを放出することの出来るものであることを特徴とする生理学的に有効な剤として哺乳動物にCOを導入する方法。
【請求項35】
神経伝達若しくは血管拡張を刺激するための、又は高血圧症、放射線障害、内毒素ショック、炎症、炎症関連疾病、高酸素症を引き起こす傷害、アポトーシス、癌、移植拒絶反応、動脈硬化、虚血後の器官傷害、心筋梗塞、アンギナ、出血性ショック、敗血症、陰茎勃起機能障害及び成人呼吸困難症候群の何れかの処置のための請求項34に従う方法。
【請求項36】
体外の若しくは離隔された器官の処置の方法にして、請求項1乃至23の何れか一つに従う薬剤組成物に、かかる器官を接触させることを含む方法。
【請求項37】
金属カルボニルが利用可能な一酸化炭素(CO)を作り出し、虚血後の傷害を制限する請求項36に従う方法。
【請求項38】
前記器官が、体外にある請求項37に従う方法。
【請求項39】
前記器官が、体内若しくは体についてはいるが、血液供給から分離されている請求項7に従う方法。
【請求項40】
前記接触工程が、前記器官を前記組成物と潅流することを含んでいる請求項36乃至39の何れか一つに従う方法。
【請求項41】
神経伝達又は血管拡張を刺激するために、又は高血圧症、放射線障害、内毒素ショック、炎症、炎症関連疾病、高酸素症を引き起こす傷害、アポトーシス、癌、移植の拒絶反応、動脈硬化、虚血後の器官傷害、心筋梗塞、アンギナ、出血性ショック、敗血症、陰茎勃起機能傷害及び成人の呼吸困難症候群の何れかの処置のために請求項24乃至33の何れかの一つに従う化合物の使用。
【請求項42】
体内若しくは体についた、しかし血液供給から分離された隔離器官において、虚血後の傷害を制限するように分離された器官を処置するための請求項44に従う化合物の使用。
【請求項43】
生理学的に有効な剤としてのCOによる神経伝達又は血管拡張の刺激のために、或いは高血圧症、放射線障害、内毒素ショック、炎症、炎症関連疾病、高酸素症を引き起こす傷害、アポトーシス、癌、移植拒絶反応、動脈硬化、虚血後の器官傷害、心筋梗塞、アンギナ、出血性ショック、敗血症、陰茎勃起機能障害及び成人呼吸困難症候群の何れかの処置のために、経口の、静脈内の、皮下の、鼻の、吸入の、筋肉内の、腹腔内の、若しくは座薬のルートによる投与のための薬物の製造において、請求項24乃至33の何れかの一つに従う化合物の使用。
【請求項44】
固体形態にある請求項24乃至33の何れかの一つに従う化合物と薬剤的に許容され得る溶媒とを含む、薬剤溶液を製造するためのキット。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2009−523841(P2009−523841A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551859(P2008−551859)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000198
【国際公開番号】WO2007/085806
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(505184609)ヘモコーム リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】HEMOCORM LIMITED
【Fターム(参考)】