説明

一酸化炭素除去剤

【課題】この発明は、注射や経口によって患者に簡単に投与できる一酸化炭素除去剤を提供する。
【解決手段】この発明の一酸化炭素除去剤は、下記の化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体が、水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一酸化炭素除去剤に関し、特にポルフィリン錯体を利用する一酸化炭素除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(以下、COと省略する。)は、炭素の不完全燃焼によって発生する有毒ガスであり、吸入すると酸素(以下、O2と省略する。)の代わりに血中のヘモグロビン(以下、Hbと省略する。)と強く結合して、Hb本来のO2運搬能力を奪って体中を酸欠状態に導く。その結果、頭痛、吐き気、嘔吐、体調不良、錯乱、意識消失、胸痛、息切れ、昏睡などのいわゆるCO中毒症状が起きる。
【0003】
さて、HbとO2及びCOとの結合は可逆的であり、COのHbに対する親和性はO2よりも約250倍も大きい。そのため、大気中にわずかな量でもCOが存在すると、Hbは速やかにO2結合型からCO結合型へと変換してしまう。
【0004】
現在のところ、CO結合型のHbをO2結合型に再変換して、CO中毒症状を治療するCO中毒治療薬は開発されていない。そのため、中毒を回復させる方法としては、フェースマスクを使用して高濃度の酸素を吸わせるか、CO中毒患者を高濃度のO2雰囲気下に置くかして、血中のHbをCO結合型からO2結合型へと徐々に平衡を片寄らせる方法しかなかった(非特許文献1を参照。)。
【0005】
しかし、この方法は一定の設備を必要とするため、大規模火災などのようにCO患者が同時、かつ大量に発生した場合には、患者を効率よく治療することができず、場合によっては患者を死亡させてしまうこともあった。また、これらの治療法では、Hbに結合したCOの大方は除去できるものの、体の細部に行き渡ったCOを除去することは難しく、CO中毒の後遺症は深刻な問題となっている。
【0006】
一方、発明者らは、従来から、シクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体について研究しており、この包接錯体がO2及びCOに対して高い親和性を有すること、COに対する親和性がHbの100倍以上大きいことを発見していた(特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−2077号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】北村諭ら著「各科に役立つ救急処置・処方マニュアル」pp.547-549医歯薬出版株式会社 2005年
【非特許文献2】K. Kano, et al, Angew. Chem. Int. Ed., 44, 435-438 (2005),
【非特許文献3】K. Kano, et al,Inorg. Chem. 45, 4448-4460 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、注射や経口によって患者に簡単に投与できる一酸化炭素除去剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、前記包接錯体には一酸化炭素除去剤として使用できる可能性があることに気がつき、この発明を完成させた。
【0011】
すなわち、この発明の請求項1に記載の一酸化炭素除去剤は、下記の化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体が、水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有するものである。
【化1】

(式中、mは1又は2の何れかの数字を表し、nは1、2又は3の何れかの数字を表す。)
【0012】
請求項2に記載の一酸化炭素除去剤は、請求項1に記載の一酸化炭素除去剤であって、m=1、かつn=2のものである。
【0013】
請求項3に記載の一酸化炭素除去剤は、請求項1又は2の何れかに記載の一酸化炭素除去剤であって、水溶性金属ポルフィリンが下記の化学式(2)又は(3)で示されるものである。
【化2】

【化3】

(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe2+、Mn2+、Co2+、Zn2+の何れかを表す。)
【0014】
請求項4に記載の一酸化炭素除去剤は、請求項3に記載の一酸化炭素除去剤であって、水溶性金属ポルフィリンが、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(II)鉄錯体のものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明の一酸化炭素除去剤が含有する包接錯体は、COに対してHbよりも高い親和性を有するため、患者の血液や末梢組織に含まれるCOをHbから奪い取る。そのため、この発明の一酸化炭素除去剤は、CO中毒を治療する能力が高い。したがって、この発明の一酸化炭素除去剤が臨床で利用されるようになれば、多くの中毒患者を治療してその生命を救うことができる。
【0016】
また、この発明の一酸化炭素除去剤が含有する包接錯体は、体内で発生したCOも吸収することができる。一方、COはヘモグロビンの分解反応によって発生し、遺伝子発現の調節因子として働くなどの生体反応に関係していることが既に知られている(例えば、S. Aono, Acc. Chem. Res., 36, 825-831 (2003)を参照。)。そのため、この発明の一酸化炭素除去剤は、CO中毒の治療だけではなく、前記生体反応の研究にも貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一酸化炭素除去剤と排出された尿の紫外可視吸収スペクトルを比較した図である。
【図2】FeTPPS又はTPPSを含む薬剤をラットに連続的に投与して排出された尿の420nmにおける吸光度の変化を示す図である。
【図3】TPPSを含む薬剤をラットに連続的に投与したのち、Py3CD溶液を投与し始めた際に排出された尿の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図4】FeTPPS溶液に一定量のRSA溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定し、変化が飽和に達し時点で、RSA溶液に代えてPy3CD溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定した結果を示す図である。なお、図4(a)は紫外可視吸収スペクトルの変化を示す図であり、図4(b)は滴定プロットである。
【図5】FeTPPS溶液に一定量のPy3CD溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定し、変化が飽和に達し時点で、Py3CD溶液に代えてRSA溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定した結果を示す図である。なお、図5(a)は紫外可視吸収スペクトルの変化を示す図であり、図5(b)は滴定プロットである。
【図6】限外ろ過膜を使用した腎臓モデルを使用して、血液から腎臓を介して尿に排泄されるメカニズムを調べた結果を示す図である。なお、図6(a)はろ液の紫外可視吸収スペクトルの変化を示す図であり、図6(b)はろ液量に対する420nmにおける吸光度変化をプロットした結果を示す図である。
【図7】一酸化炭素除去剤の体内での動態を調べるため、尿に排出されたhemoCDの濃度、CO-hemoCDのモル%及びCO量の経時変化について調べた結果を示す図である。なお、図7(a)は尿中のhemoCDの濃度、図7(b)はhemoCD中のCO-hemoCDのモル%、図7(c)は排出されたCO量の量を示している。
【図8】一酸化炭素除去剤中のoxy-hemoCDの濃度の違いが、尿に含まれるhemoCD中のCO-hemoCDのモル%、排出されるCO量に与える影響を調べた結果を示す図である。なお、図8(a)はoxy-hemoCD濃度に対してCO-hemoCDのモル%をプロットした図であり、図8(b)はoxy-hemoCD濃度に対してCO量をプロットした図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の一酸化炭素除去剤は、特定のシクロデキストリン二量体が水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有している。そこで、各成分について以下に詳説する。なお、この包接錯体は、シクロデキストリン二量体と、水溶性金属ポルフィリンとを水系溶媒中で混合することによって製造できる。
【0019】
1.シクロデキストリン二量体
シクロデキストリン二量体は、化学式(1)で示すように、全ての水酸基がメチル化した2つのシクロデキストリン分子が、リンカー分子である3,5-ジメルカプトメチルピリジンを介して結合したものである。
【0020】
このシクロデキストリン二量体は、例えば先行技術文献に記載されているように、シクロデキストリンをトシル化してエポキシ化したのち、このシクロデキストリンの水酸基をメチル化し、メチル化したシクロデキストリンとリンカー分子とを結合して製造する。なお、シクロデキストリンの水酸基を予めメチル化したのは、水酸基によって生じる水素結合によりシクロデキストリンの内孔が硬くなり、水溶性金属ポルフィリンがシクロデキストリン二量体の内孔に包接され難くなるのを防ぐためである。
【0021】
シクロデキストリン二量体の原料となるシクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン(m=1、かつn=2)又はγ−シクロデキストリンの何れかであり、中でも水溶性金属ポルフィリンを包接し易いためβ−シクロデキストリンを原料として利用するのが好ましい。
【0022】
2.水溶性金属ポルフィリン
水溶性金属ポルフィリンとは、中心に金属イオンを配位して水に溶けるポルフィリン系化合物のことであり、かつ、化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体で包接できるものであれば特に限定されない。
【0023】
中でも、O2を確実に吸脱着できる点から、前記の化学式(2)、化学式(3)の化合物、より具体的には5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(II)鉄錯体(以下、「FeTPPS」と省略する。)、5,15-ビス(3,5-ジカルボキシラトフェニル)-10,20-ジフェニルポルフィリン(II)鉄錯体(以下、「Fe-trans-2DC」と省略する。)などが挙げられる。なお、これらの化合物は、例えば公知の方法により合成することができ、市販品(例えば、Frontier scientific社、東京化成工業株式会社など)をそのまま使用することもできる。
【0024】
3.剤形等
この発明の一酸化炭素除去剤は、前記包接錯体単体で又は公知の製剤用担体とともに医薬用組成物を構成して、ヒト又はそれ以外の動物に投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜選択すればよい。具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤、塗布剤等の非経口剤が挙げられる。なお、医薬用組成物中の一酸化炭素除去剤の分量、患者への医薬用組成物の投与量は、剤形や患者の年齢、体重、疾患の程度に応じて自由に選択することができる。
【0025】
この発明の一酸化炭素除去剤を錠剤等の経口剤として製造する場合には、公知の賦型剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤等とともに、公知の製造方法により製造することができる。
【0026】
また、この発明の一酸化炭素除去剤は、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としてとしても経口投与することができる。この場合、矯味剤、矯臭剤、着色剤などを含有していてもよい。
【0027】
この発明の一酸化炭素除去剤を注射剤、点滴剤等の非経口剤として製造する場合には、注射用蒸留水、生理食塩水希釈剤、ブドウ糖水溶液等の希釈剤とともに、公知の方法によって製造することができる。なお、必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤に再調製することもできる。さらに、必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。
【0028】
この発明の一酸化炭素除去剤の非経口剤の他の例としては、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも公知の方法に従って製造できる。
【0029】
なお、この発明の一酸化炭素除去剤は公知のDDS技術、例えば、この発明の一酸化炭素除去剤をリポソームなどの運搬体に封入して、体内投与してもよい。この場合、標的部位の細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位にこの発明の一酸化炭素除去剤を効率よく運ぶことができる。
【0030】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されるものではない。
【実施例1】
【0031】
1.一酸化炭素除去能力の確認
この発明の一酸化炭素除去剤を調製して、そのCO除去能力を調べた。具体的には、次のようにして実験した。
【0032】
(1)試薬等
FeTPPS(Frontier Scientific社製)等の試薬は、市販品をそのまま使用した。Py3CDは前記特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3に従って、発明者らが合成したものを使用した。ラットは、Wister系雄性ラット(清水実験材料より入手)を使用した。また、紫外可視吸収スペクトルは、分光光度計(UV-2450及びMaltiSpec-1500、島津製作所製)で測定した。
【0033】
(2)一酸化炭素除去剤の調製
FeTPPS及びPy3CDをそれぞれのモル比が1/1.2となるようにそれぞれ電子天秤で秤量してビーカーに入れ、ビーカーにPBS緩衝液(pH7.0) 0.5mLを加えて溶解させた。つぎに、過剰量(10〜50mg)のNa2S2O4をビーカーに加えて、FeTPPSの中心鉄をFe(III)からFe(II)に還元した。
【0034】
ビーカー中の溶液をHiTrap Desaltingカラム(GE Healthcare社製)により脱塩(溶離液: PBS緩衝液)し、過剰のNa2S2O4を取り除いた。なお、この際に還元されたFeTPPS/Py3CD錯体(hemoCD)は、その中心鉄であるFe(II)が空気中のO2と結合するのでoxy-hemoCDとなる。カラム精製したoxy-hemoCD溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定して濃度を決定したのち、PBS緩衝液を使用して所定の濃度(0.2〜3.5mM)に調整し、一酸化炭素除去剤とした。
【0035】
(3)一酸化炭素除去剤の動物(ラット)への投与と尿の吸出
ラットをウレタン麻酔で眠らせたのち、その大腿部を剥離した。その後、大腿静脈からシリンジポンプを使用して一定の速度(1.0mL/h)で前記の一酸化炭素除去剤を投与した。投与開始から30分毎に膀胱部から尿を採取したのち、生理食塩水で膀胱内を洗浄して、尿と洗浄液を合わせ、これを尿として定量分析に使用した(以後同じ。)。
【0036】
(4)紫外可視吸収スペクトルの測定
(2)で調製した一酸化炭素除去剤、及び(3)で得られた尿の紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図1に示す。なお、図1の実線は一酸化炭素除去剤、点線は尿の紫外可視吸収スペクトルである。
【0037】
また、図1の紫外可視吸収スペクトルから、ポルフィリン環を有する化合物に特徴的な吸収スペクトルであるソーレ(Soret)吸収帯のピーク波長(nm)及び半値全幅(FWHM(nm))と、同じく特徴的な吸収スペクトルであるQ吸収帯のピーク波長(nm)とを決定・比較した。その結果を表1に記載する。
【0038】
【表1】

【0039】
(5)実験結果
図1から、投与する前の一酸化炭素除去剤と、尿とでは紫外可視吸収スペクトル、特にQ吸収帯のピークが変化していることが分かった(図1右側の×5の部分を参照。)。また、表1のQ吸収帯のピーク波長から、投与する前の一酸化炭素除去剤中のhemoCDはO2型(oxy-hemoCD)であり、尿のhemoCDはCO結合型(CO-hemoCD)であることが分かった。
【0040】
このことから、hemoCDは、投与されると全身を巡る過程で配位子を元のO2からより親和性の高いCOへと交換し、尿となって排出されたと考えられる。これは、hemoCDには一酸化炭素除去剤として利用できる可能性があることを示唆している。
【実施例2】
【0041】
2.シクロデキストリン二量体がポルフィリン類の尿排出に与える効果
シクロデキストリン二量体が、一酸化炭素除去剤の尿からの排出に与える影響を調べた。具体的には、ポルフィリン類単独でラットに投与し、投与したポルフィリン類が強い吸収帯を有する420nmの吸光光度を測定することによって、ポルフィリン類の尿への排出量を調べた。あわせて、ポルフィリン類を投与したのち、シクロデキストリン二量体を投与して、その影響果を調べた。具体的には、次のようにして実験した。
【0042】
(1)薬剤の調製等
市販品のFeTPPS(Frontier Scientific社製)と、FeTPPSから中心金属を除いたTPPS(東京化成工業株式会社社製)とを、それぞれの濃度が0.5mMとなるようにPBS緩衝液(pH7.4)に別々に溶解して、薬剤とした。また、Py3CDの濃度が0.6mMとなるようにPBS緩衝液(pH7.4)に溶解して、Py3CD溶液とした。さらに、紫外可視吸収スペクトルは、実施例1と同じ装置で測定した。
【0043】
(2)動物への投与と紫外可視吸収スペクトルの測定
FeTPPSを含む薬剤をラットにシリンジポンプ(1mL/min)により連続的に投与した。実施例1と同様の方法によって、投与開始から30分毎に尿を採取して420nmにおける吸光度の経時変化を調べた。また、薬剤の投与開始から120分後にFeTPPSを含む薬剤の投与を止めて、Py3CD溶液を180分間連続的にシリンジポンプ(1mL/min)により投与し、投与開始から30分毎に尿を採取して420nmにおける吸光度の経時変化を調べた。その結果を図2に示す。
【0044】
また、TPPSを含む薬剤を使用して同様の実験を行った。ただし、Py3CD溶液の投与開始時間は薬剤の投与開始から150分後であり、Py3CD溶液の投与時間も150分間であった。その結果も図2に示す。
【0045】
さらに、TPPSを含む薬剤を使用した実験で採取した尿のうち、Py3CD溶液の投与開始時の尿については、その紫外可視吸収スペクトルを、別途調製したTPPSを含む薬剤(2.5μM)、及びTPPS(2.5μM)/Py3CD(3.0μM)錯体を含む薬剤の紫外可視吸収スペクトルと、比較した。その結果を図3に示す。なお、図3(a)は390nmから450nmの紫外可視吸収スペクトルを示しており、図3(b)は450nmから700nmの紫外可視吸収スペクトルを示している。
【0046】
(3)実験結果
図2から、FeTPPSだけを含む薬剤、TPPSだけを含む薬剤を投与しても、尿からFeTPPS、TPPSは全く排出されないことが分かった。また、同図から、Py3CDを投与することによって、尿からFeTPPS、TPPSの排出が始まることが分かった。これらのことから、Py3CDの投与は、FeTPPS、TPPSの尿から排出を誘導することが確認できた。
【0047】
また、図3から、尿の紫外可視吸収スペクトルの形状が、TPPS/Py3CD錯体のものとよく一致していることが分かった。そのため、動物に投与したのはTPPSのみであるにもかかわらず、Py3CD投与後に排出されたTPPSはPy3CDに包接されていると考えられる。このことから、Py3CDは生体内でもin vitroの系と同様にTPPSを包接しており、包接錯体の形成が排出を誘導していることが確認できた。
【実施例3】
【0048】
3.尿排出誘導効果の比較
血清アルブミン(RSA)は、血中に最も多量に含まれるタンパク質成分であり、様々な疎水性分子を取り込む性質が知られている。FeTPPSも例外ではなく、血清アルブミンに強く結合することが知られている(例えば、V. E. Yushmanov, et al, Mag. Res. Imaging, 14, 255-261 (1996), T. T. Tominaga, et al, J. Inorg. Biochem., 65, 235-244 (1997)等を参照。)。そこで、Py3CDによるFeTPPSの尿排出誘導効果をRSAと比較した。具体的には、次のようにして実験した。
【0049】
(1)薬剤の調製等
FeTPPSをPBS緩衝液(pH7.4)に溶解して5μMの溶液を調製するとともに、Py3CDとRSA(SIGMA社製)を別々にPBS緩衝液(pH7.4)に溶解して、それぞれのストック溶液を調製した。なお、紫外可視吸収スペクトルは、実施例1と同じ装置で測定した。
【0050】
(2)紫外可視吸収スペクトルの測定
キュベットにFeTPPS溶液を入れ、キュベットに一定量のRSA溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定し、変化が飽和に達し時点で、RSA溶液に代えてPy3CD溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図4に示す。なお、図4(a)は紫外可視吸収スペクトルの変化を示す図であり、図4(b)は滴定プロットである。
を示す図である。
【0051】
反対に、キュベットにFeTPPS溶液を入れ、キュベットに一定量のPy3CD溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定し、変化が飽和に達し時点で、Py3CD溶液に代えてRSA溶液を添加しながら紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図5に示す。なお、図5(a)は紫外可視吸収スペクトルの変化を示す図であり、図5(b)は滴定プロットである。
【0052】
(3)実験結果
図4(a)から、RSAを添加するにつれて紫外可視吸収スペクトルが変化することが分かった。また、図4(b)から、FeTPPSの濃度(5x10-6M)に対して約1/3当量のRSAを添加した時点で、紫外可視吸収スペクトルの変化が飽和に達したことが分かった。これは、1つのRSAに対して3つ程度のFeTPPSが結合可能であることを示唆している。
【0053】
さらに、図4(b)から、RSA溶液により飽和した後にPy3CDを添加すると、紫外可視吸収スペクトルは再び段階的な変化を示し、FeTPPSに対して等量のPy3CDを加えた時点で変化が飽和することが分かった。加えて、最終的な紫外可視吸収スペクトルのピークが422nmであり、FeTPPS/Py3CD錯体のピークと一致したことが分かった。これらの結果は、FeTPPSはRSA結合型からPy3CD結合型へと変化したこと、FeTPPSに対する親和性がRSAよりもPy3CDのほうが高いことを示唆している。
【0054】
一方、図5(a)から、Py3CDを添加しても紫外可視吸収スペクトルが変化することが分かった。また、図5(b)から、Py3CDの添加によりFeTPPSを飽和させたのちにRSAを加えても、紫外可視吸収スペクトルは変化しないことが分かった。これは、RSAよりもPy3CDのほうが、FeTPPSに対する親和性が高いことを示唆している。
【実施例4】
【0055】
4.一酸化炭素除去剤の排出メカニズムの検討
この発明の一酸化炭素除去剤が、血液から腎臓を介して尿に排出されるメカニズムについて、限外ろ過膜を使用した腎臓モデルにより検討した。具体的には、次のようにして実験した。
【0056】
(1)薬剤の調製等
FeTPPS、RSA及びPy3CD(入手先は実施例3と同じ。)をPBS緩衝液(pH7.4)に溶解して0.22μMの溶液を調製した。また、紫外可視吸収スペクトルは実施例1と同じ装置を使用して測定した。限外ろ過膜は、分画分子量が30,000の限外ろ過膜が取り付けられている攪拌式セル(ミリポア社製 Model 8050)を使用した。
【0057】
(2)透析ろ過試験
FeTPPS溶液、RSA溶液を等量混合して当モル混合を調整し、当モル混合液を回収用ビーカーの上に設置した攪拌式セルに入れた。窒素ガスを用いて加圧しながら、一定量ごとにろ液を回収しその紫外可視吸収スペクトル分析した。
【0058】
ろ液を20ml回収した時点で、Py3CDのモル量が残液に含まれるFeTPPS及びRSAと同モル量になるように、Py3CD溶液を添加した。その後、窒素ガスを用いて加圧しながら、一定量ごとにろ液を回収しその紫外可視吸収スペクトル分析した。これらの結果を図6に示す。なお、図6(a)は紫外可視吸収スペクトルであり、図6(b)はろ液量に対する420nmにおける吸光度変化をプロットした結果を示している。
(3)実験結果
【0059】
図6(a)及び図6(b)から、Py3CD溶液を添加するまで紫外可視吸収スペクトルは殆ど変化しないこと、Py3CD溶液を添加してからはろ液量が増えるにつれて、紫外可視吸収スペクトル、特に波長420nmの吸光度が大きく変化していることが分かった。
【0060】
さて、RSAの分子量は68,000であり、Py3CDの分子量は約3,000である。そのため、前記の実験結果は、FeTPPSがRSAに取り込まれているうちは限外ろ過膜を通過できなかったものの、Py3CDの添加によって、FeTPPSがRSAから放出されてPy3CDに包接されると、限外ろ過膜を通過できるようになったこと、を示唆している。
【0061】
腎臓のろ過膜も、限外ろ過の原理と同様に分子サイズによるふるい分けをしており、血清アルブミンは尿から排出されない。これと上記の実験結果を考慮すると、Py3CDによるFeTPPSの排出誘導効果は分子サイズの変化に起因すると、と考えられる。
【実施例5】
【0062】
5.一酸化炭素除去剤の動態の検討
一酸化炭素除去剤の体内における動態を調べるため、尿に排出されたhemoCDの濃度、hemoCD中のCO-hemoCDのモル%、及びCO量の経時変化について調べた。具体的には、次のようにして実験した。
【0063】
(1)薬剤の調製等
実施例1に記載の方法でoxy-hemoCD溶液を調製し、一酸化炭素除去剤とした。また、実験動物(ラット)の入手、薬剤の投与、尿の採取や紫外可視吸収スペクトル分析は実施例1と同様にして行った。
【0064】
(2)尿中のhemoCD濃度、hemoCD中のCO-hemoCDのモル%、及びCO量の経時変化
薬剤を投与開始してから30分毎に尿を採取し、尿の紫外可視吸収スペクトルを測定し、尿中のhemoCD濃度、hemoCD中のCO-hemoCDのモル%、及び尿に排出されたCO量を算出した。その結果を図7に示す。なお、図7(a)はhemoCDの濃度、図7(b)はhemoCD中のCO-hemoCDのモル%、図7(c)は排出されたCO量の量を示している。また、尿中のhemoCD濃度、hemoCD中のCO-hemoCDのモル%、及び尿中のCO量は吸光度から次のようにして算出した。
【0065】
採取した尿中のhemoCDのモル濃度は、尿に適量のNa2S2O4及びCOガスを加え、尿中のhemoCDをすべてCO結合型に変換したのち、変換した尿の紫外可視吸収スペクトルを測定して、その極大吸収波長における吸光度を決定し、この吸光度と前記先行技術文献などに記載のCO-hemoCDのモル吸光係数とから算出した。
【0066】
採取した尿に含まれるhemoCD中のCO-hemoCDのモル%は、尿そのままの状態と、尿中の全てのhemoCDをCO結合型に変換したときとの紫外可視吸収スペクトルを測定して、その極大吸収波長における吸光度差から算出した。また、尿中のCO量は、尿に含まれるhemoCDのモル濃度、hemoCD中のCO-hemoCDのモル%、及び尿量から算出した。
【0067】
(3)実験結果
図7(a)から、投与開始の直後からhemoCDの排出が始まっていること、投与終了とほぼ同時に排出されるhemoCDの量が極端に減少してことが分かる。これらのことから、hemoCDの体内滞在時間はかなり短いことが示唆される。また、図7(b)から、hemoCDが大量に排出されているときにはCO-hemoCDのモル%が低いこと、hemoCDの排出量が少ないときにはCO-hemoCDのモル%が大きいこと、が分かった。そして、図7(c)から、排出されたCOのモル数に換算してプロットすると、十分なhemoCDが投与されている時間帯では、6〜10x10-8mol/30minの間でほぼ一定量のCOが排出されていることが分かった。
【実施例6】
【0068】
6.投与するhemoCD量の違いがCO排出量等に与える影響
投与する一酸化炭素除去剤中のoxy-hemoCDの濃度の違いが、尿に排出されるhemoCD中のCO-hemoCDのモル%、尿に排出されるCO量に与える影響を調べた。具体的には、以下のようにして行った。
【0069】
(1)実験方法
oxy-hemoCD濃度の異なる一酸化炭素除去剤を調製したのち、実施例5と同じ実験を行って、hemoCD中のCO-hemoCDのモル%、排出されたCO量を算出した。その結果を図8に示す。なお、図8(a)は一酸化炭素除去剤中のoxy-hemoCD濃度に対してhemoCD中のCO-hemoCDのモル%をプロットした結果を示しており、図8(b)は一酸化炭素除去剤中のoxy-hemoCD濃度に対して排出されたCO量をプロットした結果を示している。
【0070】
(2)実験結果
図8(a)から、投与するhemoCDの濃度を変化させると、投与濃度に応じてCO-hemoCDの占めるモル%が変化したことが分かった。しかし、図8(b)から、その結果から算出された単位時間あたりのCO排出量は変わらないことが分かった。すなわち、hemoCDによって体内からCOを除いている間は、体内で3〜10x10-8mol/30minのペースでCOが生産されており、体内のCO濃度を維持する方向へと働いていることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)で示されるシクロデキストリン二量体が、水溶性金属ポルフィリンを包接してなる包接錯体を有効成分として含有する一酸化炭素除去剤。
【化1】

(式中、mは1又は2の何れかの数字を表し、nは1、2又は3の何れかの数字を表す。)
【請求項2】
m=1、かつn=2である請求項1に記載の一酸化炭素除去剤。
【請求項3】
水溶性金属ポルフィリンが、下記の化学式(2)又は(3)で示される請求項1又は2の何れかに記載の一酸化炭素除去剤。
【化2】

【化3】

(式中、R1及びR2は、それぞれカルボキシル基、スルホニル基、水酸基の何れかを表し、MはFe2+、Mn2+、Co2+、Zn2+の何れかを表す。)
【請求項4】
水溶性金属ポルフィリンが、5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリン(II)鉄錯体である請求項3に記載の一酸化炭素除去剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−194475(P2010−194475A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43632(P2009−43632)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】