説明

一酸化窒素放出医療装置を作製するための乾質ジアゼニウムジオレート化方法

本開示の方法により、幅広い態様において、一酸化窒素放出医療装置を作成するための乾質ジアゼニウムジオレート化工程を提供する。また、これらの医療装置は、表面塗膜が乾質ジアゼニウムジオレート化前に塗布されて、表面塗膜を有する一酸化窒素放出医療装置を作製し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、様々な病気及び容態を治療するのに利用され得る一酸化窒素放出医療装置を作製するのに有用な乾質(dry)ジアゼニウムジオレート化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)は、細胞生理学において様々で複雑な役割を果たす単純な2原子分子である。25年程前、NOは、主に、空気と混合された化石燃料の燃焼中に形成されるスモッグ成分と見なされた。しかしながら、Ferid Muradらの先駆的作業の結果として、現在、NOは、内皮細胞、中性細胞及び大食細胞を含むほぼすべての組織に見出される、強力な信号発生成分であり、細胞毒性/細胞増殖抑制剤であることが知られている。哺乳類細胞は、L−アルギニンをN−ω−ヒドロキシ−L−アルギニンに酸化し、次に、前記N−ω−ヒドロキシ−L−アルギニンをL−シトルリン及び非荷電NO遊離基に変換する、2段階酵素プロセスを利用して、NOを合成する。3つの異なる一酸化窒素合成酵素が、NO生成を制御する。神経の一酸化窒素合成酵素(NOS1、又はnNOS)は、神経組織内に形成され、神経伝達に主要な役割を果たす。内皮の一酸化窒素合成酵素(NOS3又はeNOS)は、内皮細胞により分泌され、血管拡張を誘導する。誘導性一酸化窒素合成酵素(NOS2又はiNOS)は、主に、大食細胞、肝細胞及び軟骨細胞に見られ、免疫細胞毒性に関連する。
【0003】
神経のNOS及びeNOSは、短期間で速やかな少量のNOの放出を制御する構成酵素である。これらの僅かな量で、NOは、グアニル酸シクラーゼを活性化し、前記酵素は、環状グアノシン一燐酸(cGMP)濃度を上昇させ、次に、細胞内Ca2+レベルを増加させる。細胞内Ca2+レベルの増加により、筋肉の弛緩が滑らかになり、それは、NOの血管拡張効果を説明する。誘導性NOSは、大量のNOの持続的放出の原因であり、内毒素とサイトカインを含む細胞外因子により活性化される。これらの高いNOレベルは、細胞免疫性に主要な役割を果たす。
【0004】
医療研究は、血管手術及び介入性心臓病学の分野を含むNOの治療用途を急速に開拓している。経皮経管式冠動形成術(PTCA)(バルーン血管形成術)、並びに、アテローム切除術及び/又はステント配置等の閉塞された動脈を浄化するのに利用される手段は、バルーン膨張又はステント展開の部位で血管壁を損傷することになり得る。この損傷に応じて、再狭窄として知られている複雑で多重要因のプロセスが起こり得る。それにより、事前に穴あけされた血管内腔は、狭くなり、再閉塞されることになる。再狭窄は、栓球(血小板)が、障害部位に移動し、損傷した内皮内に放たれる際に始まる。栓球は、障害部位に凝集し、粘着し始め、栓球発生又は血餅形成が始まる。結果として、事前に開かれた内腔は、血栓として狭くなり始め、繊維質が、血管壁に集積する。より頻繁に直面する再狭窄の仕組みでは、血管壁に粘着した活性化栓球により分泌される分裂促進因子は、治癒プロセス中に血管平滑筋細胞の過剰な増殖を促し、損傷した血管の内腔を制限するか又は閉塞する。その結果得られる新生内膜肥厚は、ステント再狭窄の主な原因である。
【0005】
最近、NOが、栓球の凝集及び粘着を著しく低減させることが示されている。これは、NOの直接的な細胞毒性/細胞増殖抑制特性と組み合わせて、血管平滑細胞の増殖を著しく低減させ、再狭窄を防止するのを補助し得る。栓球凝集は、初期血管障害の後、数分で起こり、再狭窄をもたらす事象が段階的に始まると、修復不可能な損傷になり得る。更に、栓球発生と再狭窄の危険は、血管内腔を覆う内皮が修復されるまで続く。従って、NO又はいずれかの再狭窄防止剤が、損傷部位に即座に達することが必要である。
【0006】
傷害部位でのNO治療レベルを与えるための1つの取り組みは、予防的に全身性NOレベルを増加させることである。これは、内在性NO生成を刺激することにより、又は、外来性NO源を利用することにより達成され得る。外来性NO放出を調節する方法は、主に、過剰量のL−アルギニン等のNO前駆体を利用して合成経路を活性化させること、又は、遺伝子治療を利用して一酸化窒素合成(NOS)の発現を増加させることに集中している。米国特許(USPN)第5,945,452号、同第5,891,459号及び同5,428,070号は、経口投与されるL−アルギニン及び/又はL−リジンを利用して、NOを持続的に上昇させることを記載する。しかしながら、これらの方法は、再狭窄を防止するのに有効であると証明されていない。遺伝子治療技術を利用して外来的に発現するNOを調節することは、試験的な面が高いままであり、安全性及び効果がまだ証明されていない。米国特許第5,268,465号、同第5,468,630号及び同5,658,565号は、様々な遺伝子治療の取り組みを記載している。
【0007】
純粋NOガス等の外来性NO源は、毒性が高く、寿命が短く、生理液に比較的溶解しない。結果として、全身外来性NO伝達は、一般に、ニトログリセリン錠剤、静脈内投与懸濁液、噴霧及び経皮貼布等の有機硝酸塩プロドラッグを利用して達成される。人体は、ニトログリセリンをNOに速やかに変換する。しかしながら、プロドラッグを活性化するのに必要な酵素レベル及び補助因子は、速く枯渇し、退薬性になる。更に、全身NO投与は、高血圧と遊離基による細胞傷害とを含む副作用を引き起こし得る。従って、現時点では、全身性再狭窄防止治療血液レベルを維持するために有機硝酸塩プロドラッグを利用することはできない。
【0008】
従って、全身性予防法に関連する不利な点を改善するために、局所の又は部位固有のNO送達が、著しく注目を集めている。埋め込み可能な医療装置、及び/又は、NO放出成分又は標的細胞にNOS遺伝子を送達する媒介物で覆われる医療装置を含む局所遺伝子治療技術が、評価されている。それらの全身性対応物と同様に、局所的NO送達のための遺伝子治療技術は、安全性と有効性が証明されてない。部位固有NOS遺伝子送達が現実的になる前に克服されなければならない、大きな技術的障害及び懸念事項がまだある。
【0009】
しかしながら、局所外来性NO用途の分野は、進歩が著しい。再狭窄を防止するのに有効であるためには、NO等の抑制治療剤が、治療レベルで持続期間にわたり投与されなければならない。結果として、再狭窄を処置するのに利用されるあらゆるNO放出医療装置は、埋め込みに適していなければならない。候補となる理想的な装置は、血管ステントである。従って、正確な位置に治療に有効な量のNOを安全に与えるステントは、再狭窄治療及び予防の著しい進歩であり得る。
【0010】
生体内用途に適した一酸化窒素放出成分は、数多くの研究者により開発されている。1960年代初頭には、NOガスが、アミン類、例えば、ジエチルアミンと反応し、以下の一般式R−R’N−N(O)NOを有するNO放出陰イオンを形成し得ることが実証された。これらの成分の塩は、自発的に分解し、溶液中にNOを放出し得る。
【0011】
体温で十分な安定性を有し、治療に有用である一酸化窒素放出成分が、米国特許第4,954,526号、同第5,039,705号、同第5,155,137号、同第5,212,204号、同第5,250,550号、同第5,366,997号、同第5,405,919号、同第5,525,357号及び同第5,650,447号に記載されるように、Keeferらにより最終的に開発された。それらの全てが、本明細書に参照により組み込まれている。
【0012】
しかしながら、NOの生体内半減期は、限定されており、意図された領域にNOを送達することは難しい。従って、NO放出を延長し得るNO放出成分が必要とされる。この目的のために、例えば、NO供与アスピリン誘導体、亜硝酸アミル及び二硝酸イソソルビドを含む幾つかの模範的なNO放出成分が開発されている。加えて、NO付加物を有し、NOを制御して放出する生体融合性ポリマー(例えば、米国特許出願公開第2006/0008529号及び同第2004/0037836号を参照)が、報告されている。
【0013】
第二級アミンは、2モルのNOを結合し、それらを水環境内へ放出する能力を有する。2つのNO分子を結合し得る模範的第二級アミンの一般的構造は、化学式1に示され、以下に、ジアゼニウムジオレートと呼ばれる(式中、Mは、対イオンであり、適切な電荷又はプロトンを有する金属であり得る。R1及びR2は、有機及び無機化学基の一般的な表記である)。圧力下のNOガスを利用しつつ、第二級アミンを塩基条件に曝すことにより、ジアゼニウムジオレートが形成されることになる。
【0014】
【化1】

【0015】
ジアゼニウムジオレート官能基を有するポリマーは、生理条件下で一酸化窒素を自発的に放出し得る。ジアゼニウムジオレートは、一般に、強塩基条件下での溶解ジアゼニウムジオレート化プロセスにより形成される。一般に、ジアゼニウムジオレートポリマーは、有機溶媒への溶解性が乏しい。従って、ジアゼニウムジオレート化ポリマーで医療装置を覆うことは、課題である。ジアゼニウムジオレートは、被覆工程中に分解し得る。加えて、一酸化窒素放出後に、アルカリ性副産物が形成され得、生体融合性の問題が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、当該技術分野で未だ対処されておらず、上記の不都合な点のない、ジアゼニウムジオレート官能基を有するポリマーでの医療装置の良好な被覆を可能にする、医療装置被覆方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示は、ジアゼニウムジオレート官能基を有するポリマーで医療装置を覆う有効な方法への未解決の必要性に取り組む。そのようなポリマーで医療装置を覆うことは、前記ポリマーが有機溶媒中に溶解することを必要とする。優れた被覆と均質な被覆膜を得るためには、有機溶剤中への溶解性が必要とされる。これは、噴霧又は浸漬を含む様々な被覆方法について成り立つ。しかしながら、ジアゼニウムジオレートポリマーは、一般に、有機溶媒中への溶解性が乏しい。本方法は、ジアゼニウムジオレート官能基含有ポリマーでの医療装置上への優れた被覆を達成するための工程を提供する。
【0018】
一実施形態では、本開示は、医療装置を提供する工程と、第二級アミン官能化ポリマーで医療装置を覆う工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われた医療装置を乾燥する工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われ、乾燥した医療装置を、圧力下の一酸化窒素ガスに曝す工程を含む、乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法に関する。
【0019】
乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、第二級アミン官能化ポリマーは、化学式Iにより表されるポリマーである:
【0020】
【化2】

【0021】
式中、R1は、C1〜C18アルキル、2−ヒドロキシエチル、2−エトキシエチル、グリシジル、及びポリ(エチレングリコール)から成る群から選択され、
2は、C1〜C18アルキル又はC1〜C18多重(multiple)アミンであり、
式中、a及びbは、各々が独立して、1〜25,000の整数である。
【0022】
乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、圧力は、約0.1気圧〜約35気圧である。
【0023】
乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、医療装置は、金属製医療装置である。乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、金属製医療装置は、ステンレス鋼、ニチノール、タンタル、非磁性ニッケル・コバルト・クロム・モリブデン[MP35N]合金、白金、チタン、及び/又は、それらの組み合わせを含む。
【0024】
別の実施形態では、乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法は、少なくとも1つの生理活性剤で医療装置を覆うことを更に含む。乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、生理活性剤は、抗感受剤、抗腫瘍薬、抗増殖剤、抗血栓薬、抗凝固薬、抗血小板剤、抗生物質、抗炎症剤、ステロイド、遺伝子治療薬、治療物質、有機薬物、医薬化合物、組み換えDNA製品、組み換えRNA製品、コラーゲン、コラーゲン誘導体、蛋白質、蛋白質類似物、糖類、糖類誘導体、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、生理活性剤は、ゾタロリムスである。
【0025】
乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、医療装置は、血管ステント、ステント移植片、尿道ステント、胆道ステント、カテーテル、縫合糸、視覚装置、心臓弁、分路、ペースメーカー、骨ねじ、骨留め具、保護板及び人工器官から成る群から選択される。乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、医療装置は、血管ステントである。
【0026】
本開示は、また、表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法に関する。一実施形態では、表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法は、医療装置を提供する工程と、第二級アミン官能化ポリマーで医療装置を覆う工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われた医療装置を乾燥させる工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われ、乾燥された医療装置を、圧力下の一酸化窒素ガスに曝す工程とを含み、表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート官能化ポリマー被覆医療装置を形成する。
【0027】
表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、表面塗膜ポリマーは、メタクリレートポリマー、アクリレートポリマー、スチレンとイソブチレンの共重合体、及びフッ化ポリマーから成る群から選択される。
【0028】
表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、第二級アミン官能化ポリマーは、化学式Iにより表されるポリマーである:
【0029】
【化3】

【0030】
式中、R1は、C1〜C18アルキル、2−ヒドロキシエチル、2−エトキシエチル、グリシジル、及びポリ(エチレングリコール)から成る群から選択され、
2は、C1〜C18アルキル又はC1〜C18多重アミンであり、
a及びbは、各々が独立して、1〜25,000の整数である。
【0031】
表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、圧力は、約0.1気圧〜約35気圧である。
【0032】
表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、医療装置は、金属製医療装置である。表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、金属製医療装置は、ステンレス鋼、ニチノール、タンタル、非磁性ニッケル・コバルト・クロム・モリブデン[MP35N]合金、白金、チタン、及びそれらの組み合わせを含む。
【0033】
別の実施形態では、表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法は、少なくとも1つの生理活性剤で医療装置を覆うことを更に含む。表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、生理活性剤は、抗感受剤、抗腫瘍薬、抗増殖剤、抗血栓薬、抗凝固薬、抗血小板剤、抗生物質、抗炎症剤、ステロイド、遺伝子治療薬、治療物質、有機薬物、医薬化合物、組み換えDNA製品、組み換えRNA製品、コラーゲン、コラーゲン誘導体、蛋白質、蛋白質類似物、糖類、糖類誘導体、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本発明の方法の別の実施形態では、生理活性剤は、ラパマイシン又はその誘導体類である。
【0034】
表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、医療装置は、血管ステント、ステント移植片、尿道ステント、胆道ステント、カテーテル、縫合糸、視覚装置、心臓弁、分路、ペースメーカー、骨ねじ、骨留め具、保護板及び人工器官から成る群から選択される。表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する本方法の別の実施形態では、医療装置は、血管ステントである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
一実施形態では、本開示は、医療装置を提供する工程と、第二級アミン官能化ポリマーで医療装置を覆う工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われた医療装置を乾燥させる工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われ、乾燥された医療装置を、圧力下の一酸化窒素ガスに曝す工程とを含む、乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法に関する。
【0036】
本明細書で開示される被覆工程は、用途に応じて、当業者に周知のいずれかの方法で、医療装置表面に対して行われる。本開示に従って覆われる医療装置表面は、例えば、薬物により刺激され得るか、又は、そのままである。本開示に適した被膜塗布方法として、噴霧、浸漬、ブラシ塗り、及び真空蒸着が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
その上、一実施形態では、提供される医療装置は、金属製医療装置である。医療装置は、金属製の場合、以下の材料:ステンレス鋼、ニチノール、タンタル、非磁性ニッケル・コバルト・クロム・モリブデン[MP35N]合金、白金、チタンのうちの1つ以上を含み得る、又は、それらの組み合わせであり得る。
【0038】
第二級アミン官能化ポリマーが、本開示の範囲及び教示内容に従って被覆医療装置に利用される。前記ポリマーは、ジアゼニウムジオレート官能基を有し、ジアゼニウムジオレート化を可能にする。一実施形態では、第二級ポリマーアミン官能化ポリマーは、以下の化学式Iにより表記されるポリマーである:
【0039】
【化4】

【0040】
式中、R1は、C1〜C18アルキル、2−ヒドロキシエチル、2−エトキシエチル、グリシジル、及びポリ(エチレングリコール)から成る群から選択され、
2は、C1〜C18アルキル又はC1〜C18多重アミンであり、
a及びbは、各々が独立して、1〜25,000の整数である。
【0041】
本明細書で用いられる「多重アミン」は、以下の化合物:N−メチルエチレンジアミン、N−メチルプロピレンジアミン、N−メチルブチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−エチルプロピレンジアミン、N−エチルブチレンジアミン、N−ベンジルエチレンジアミン、N−ベンジルプロピレンジアミン、N−ベンジルブチレンジアミン、N−プロピルエチレンジアミン、N−プロピルプロピレンジアミン、及びN−プロピルブチレンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミンを有し、以下に示されるようなエポキシド基を開環することにより形成される。
【0042】
【化5】

【0043】
本開示による乾質ジアゼニウムジオレートポリマーの物理的特性は、ポリマーがそれらの意図された利用について最適に実行され得るように、微調整され得る。微調整され得る特性として、Tg、分子量(MnとMwの両方)、多分散度指数(PDI、Mw/Mnの商)、弾性度及び両親媒性度が、挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一実施形態では、ポリマー範囲のTgは、摂氏約−10度〜摂氏約85度の範囲である。本発明の更に別の実施形態では、ポリマーのPDIは、約1.35〜約4の範囲である。本発明の別の実施形態では、ポリマーのTgは、摂氏約0度〜摂氏約40度の範囲である。本発明の更に別の実施形態では、ポリマーのPDIは、約1.5〜約2の範囲である。
【0044】
どのようにポリマーが表面に粘着するかを説明する、又は、その理解に寄与することを試みる、多くの理論がある。最も重要な力として、静電結合と水素結合が挙げられる。しかしながら、湿潤性、吸収及び弾性を含む他の因子も、異なる表面にポリマーがどれ位良好に粘着するかを定める。従って、ポリマーを基盤とする被膜又はプライマは、利用されることが多く、本開示範囲及び教示内容に従って、より均質な被膜表面を作り出すのに利用され得る。
【0045】
本明細書で用いられる場合、より可溶な第二級アミン官能化ポリマーは、最初に医療装置上に覆われ、次に、乾燥され得る。次に、ジアゼニウムジオレート化は、その覆われた装置を圧力下の一酸化窒素ガスに付することにより成し遂げられる。更に、第二級アミン官能化ポリマー被覆層は、NOを放出しない層で表面塗膜され、加圧一酸化窒素条件下でジアゼニウムジオレート化され得る。
【0046】
本明細書で用いられる表面塗膜は、別の塗膜上に塗布される最も外側の被覆層を指す。NO放出を制御するために、表面塗膜は、任意選択で、拡散障壁として用いられ得る。一実施形態では、表面塗膜は、単に、血管ステント等の医療装置の表面に塗布され、前記医療装置を保護し、NO放出率への影響のない、生体融合性ポリマーであり得る。
【0047】
従って、本開示は、表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法にも関する。一実施形態では、表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法は、表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を形成するために、医療装置を提供する工程と、第二級アミン官能化ポリマーで医療装置を覆う工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われた医療装置を乾燥させる工程と、第二級アミン官能化ポリマーで覆われ、乾燥された装置を、表面塗膜ポリマーで塗膜する工程と、表面塗膜ポリマーで塗膜された医療装置を乾燥させる工程と、表面塗膜ポリマーで塗膜され、乾燥された医療装置を、圧力下の一酸化窒素ガスに曝す工程とを含む。
【0048】
1つ以上の表面塗膜ポリマーが塗布される本開示の実施形態では、表面塗膜塗布後に乾燥工程があってもよく、又は、なくてもよい。ジアゼニウムジオレート化工程は、一実施形態では、表面塗膜が塗布された後に起こる。NOは、表面塗膜を通じて拡散され、従って、乾質ジアゼニウムジオレート化を可能にし得る。NO拡散を可能にするいずれかの表面塗膜ポリマーが、利用され得る。そのようなポリマーの実施例として、メタクリレートポリマー、アクリレートポリマー、スチレンとイソブチレンのブロック共重合体、及びフッ化ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
本開示による乾質ジアゼニウムジオレート化工程は、第二級アミン官能化ポリマー膜を含む医療装置が加圧下のNOガスに曝される工程である。当業者は、乾質ジアゼニウムジオレート化を可能にする必要な圧力レベルを理解するであろう。一実施形態では、この圧力は、約0.1気圧〜約35気圧である。
【0050】
更に、本開示の範囲及び教示内容に従って、ジアゼニウムジオレート化ポリマー膜又は表面塗膜等の塗膜層は、均一であってもよく、又は、不均一であってもよい。不均一層は、帯形状又は点形状であってもよいが、これらに限定されない。
【0051】
本開示による乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマーは、薬剤又は生理活性剤の送達、及び、制御された又は制御されていない放出にも有用であり得る。本明細書で用いられる場合、「制御された放出」は、医療装置表面から生理活性物質が既定の速度で放出されることを指す。制御された放出は、生理活性物質が、医療装置表面から散発的に予期できずに剥げることなく、生体環境と接した後に装置から裂け落ちないことを意味する。(本明細書中で、1次の動力学とも呼ばれる)。しかしながら、用語「制御された放出」は、本明細書内で用いられる場合、展開に関連する「破裂現象」を排除していない。本発明の幾つかの実施形態では、薬物の初期破裂の後に、更なる段階的な放出が続くのが望ましい場合がある。放出速度は、定常状態(通常、「計時された放出」又は0次の動力学と呼ばれる)、つまり、薬物が(初期破裂段階をともなうか、又はともなわずに)既定の時間にわたり一定量で放出される状態であってもよく、又は、勾配放出であってもよい。勾配放出は、機器表面から放出される薬物の濃度が、時間にわたり変化することを意味する。放出に適した生理活性剤として、ゾタロリムス、ラパマイシン又はその誘導体類、抗感受剤、抗腫瘍薬、抗増殖剤、抗血栓薬、抗凝固薬、抗血小板剤、抗生物質、抗炎症剤、ステロイド、遺伝子治療薬、治療物質、有機薬物、医薬化合物、組み換えDNA製品、組み換えRNA製品、コラーゲン、コラーゲン誘導体、蛋白質、蛋白質類似物、糖類、糖類誘導体、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
別の実施形態では、制御されて又は制御されずに放出され得る生理活性剤として、FKBP−12結合剤を含むマクロライド系抗生物質が挙げられるが、これに限定されない。この部類の模範的な生理活性剤として、シロリムス(ラパマイシン)、タクロリムス(FK506)、エベロリムス(サーティカン又はRAD−001)、テムシロリムス(CCI−779又は、米国特許出願第10/930,487号に開示されるような、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸と非晶性ラパマイシン42のエステル)及びゾタロリムス(ABT−578;米国特許第6,015,815号及び第6,329,386号)が挙げられる。加えて、米国特許第5,362,718号に開示されるような他のラパマイシンヒドロキシエステルが、本発明のポリマーと組み合わせて利用され得る。全ての先行する特許及び特許出願の全ての内容は、FKBP−12結合化合物及びその誘導体類に関して前記内容が教示する全てのことについて、本明細書に参照により組み込まれている。
【0053】
本発明の教示内容に従って作製されるステント被膜ポリマーには、好ましくは有するべきであるが、必ずしも有する必要のない4つの特定の特質がある。本発明のポリマー組成物は、好ましくは、生体融合性であり、既定の速度で分解し、弾性/延性があり、既定の薬物放出特性を有するべきである。他の要求として、エチレンオキシド減菌法を含むが、これに限定されない、減菌法に対する不活性等の融合性処理が挙げられる。
【0054】
放出速度は、薬物ポリマー融合性に全て依存しているわけではない。被膜構成、ポリマー膨潤性、及び被膜厚さも役割を果たす。更に、本発明は、薬物溶出速度を制御する別の手段も提供する。本発明の生体分解性ポリマーを特定の速度で分解するように調節することにより、薬物溶出は、正確に制御され、ポリマーが完全に分解することで全て終了し得る。
【0055】
本発明の医療装置が脈管構造内で利用される場合、被膜寸法は、一般に、マイクロメータ(μm)で計測される。教示内容と合う被膜は、1μmのように薄くてもよく、1000μmのような厚くてもよい。本発明の範囲内では、少なくとも2つの区別される被膜構成がある。本発明の一実施形態では、薬物含有被膜が、装置表面に直接塗布されるか、又は、高分子プライマ上に塗布される。所望の溶解速度及び特性に応じて、薬物は、ポリマー基質内で全て溶解するか、又は、全体にわたり一様に分散される。ポリマー基質内に存在する薬物濃度は、0.1重量%〜80重量%の範囲である。どちらの事象でも、最も望ましいのは、被膜組成物が可能な限り均質であることである。この特定の構成は、一般に、薬物ポリマー基質と呼ばれる。
【0056】
最後に、被膜厚さに戻って、厚さは、一般に、全薬物放出速度及び特性を定めるのに影響の少ない因子であるが、それにも関わらず、被膜を調節するのに利用され得る付加的因子である。基本的に、全ての他の物理的及び化学的因子は、不変のままである場合、所与の薬物が所与の被膜を通って拡散する速度は、被膜厚さに直接比例する。つまり、被膜厚さが増すと、溶出速度が増し、逆も同様である。
【0057】
ここで、本発明の融合化された生体分解性制御放出被膜に寄与する別の因子を目指す。前に述べたように、血行動態環境内で展開される医療装置のための被膜は、優れた粘着特性を有するべきである。即ち、被膜は、医療装置表面への結合が安定していなければならない。これらの材料等の全ては、本発明の教示内容に従って作製される制御放出被膜と共に利用され得る。更に、本発明の生体分解性ポリマーを利用して、生理活性剤がポリマー全体にわたり分散され、装置が分解する際に放出されるように、医療装置全体を作製することができる。本発明のこの特徴は、特に、装置が身体の遠隔領域内に埋め込まれ、必要とされるべき後の除去が可能でないか、又は、複雑で危険の高い外科手術を含む場合に有用である。
【0058】
血管ステントは、特に医療装置被覆学者に特有の課題である。血管ステント(以下、「ステント」と呼ぶ)は、柔軟性があり、伸張可能であり、生体融合性であり。物理的に安定でなければならない。ステントを利用して、1つ以上の冠動脈閉塞により生じる冠動脈の病気に関連する症状を取り除く。冠動脈が閉塞されることにより、血流は、心筋への減少し、虚血誘導狭心症を起こし、重度の症例の場合、心筋梗塞及び死を引き起こす。ステントは、一般に、カテーテルの遠位短で膨張可能なバルーンにステントが取り付けられた、カテーテルを利用して展開される。カテーテルは、動脈内に挿入され、展開部位に誘導される。多くの場合、カテーテルは、足の大腿動脈内に、又は、頸動脈内に挿入され、ステントは、閉塞部位の冠動脈血管構造内に深く展開される。
【0059】
不安定プラークを安定化することは、覆われた薬物溶出血管ステントの別の用途である。不安定プラークは、アテローム性粥で構成される液状の核を覆う薄い繊維状の蓋で構成される。アテローム性動脈硬化巣の正確な組成は、かなり変化し、アテローム性動脈硬化巣の形成に影響を与える因子について理解は、不十分である。しかしながら、多くのアテローム性動脈硬化巣に関連する繊維状の蓋は、平滑筋細胞の結合組織基質、I型及びIII型のコラーゲン及び内皮細胞の単層から形成される。アテローム性動脈硬化巣は、内皮下細胞外空間で捕獲される血液由来リポ蛋白質で構成され、循環血液から捕捉された、低濃度脂質(LDL)で充たされた組織大食細胞が分解する。(G.パスターカンプ及びE.ファルク、2000年、アテローム性動脈硬化巣破裂:概要、臨床基礎心臓病学術誌、第3巻、81〜86頁)。アテローム性粥に対する繊維状表面材料の比は、プラークの安定性及び種類を定める。アテローム性動脈硬化巣は、不安定性のために破裂しやすい場合、「不安定」プラークと呼ばれる。破裂後に、アテローム性粥が、血流内に放出され、突発性冠動脈死をもたらす極めて大きな血栓形成応答を誘導する。最近、不安定プラークは、プラークにステントを留置することにより安定されると仮定されている。更に、ポリマー中に分散される、又は、ポリマーで覆われる(若しくは、それらの両方)基質金属イオン配座蛋白質分解酵素阻害剤で構成される薬物放出被膜を有する血管ステントは、プラークを更に安定し、最終的に、完全な治癒をもたらし得る。
【0060】
動脈瘤の治療は、薬物溶出ステントの別の用途である。動脈瘤は、アテローム性動脈硬化症により生じる血管の膨れ又は風船様拡大である。動脈瘤は、大動脈の腹腔部内で生じることが最も多い。少なくとも15,000人のアメリカ人が、毎年、破裂性腹腔動脈瘤で死亡する。背部及び腹部の痛み、腹部大動脈動脈瘤の両方の症状は、動脈瘤が破裂しようとし、通常致命的な容態になるまで、現れないことが多い。ステント移植は、最近、標準的な侵襲手術の代用として現れている。ステントを含む血管移植片(ステント移植)は、大動脈内の動脈瘤の部位に置かれ、血液と大動脈の衰弱した壁との間の障壁として働くことにより、大動脈上への圧力を下げる。侵襲性のあまりない、動脈瘤にステントを移植する取り組みにより、従来の動脈瘤修復で見られる罹患率は低下する。加えて、複数の医療上の併存性により従来の動脈瘤修復に対して著しく高い危険性に置かれる患者は、ステント移植の候補である。ステント移植は、関連する容態、外傷が動脈に損傷を起こす、急性鈍的大動脈損傷に対する新規の処置として現れている。
【0061】
ステント又は移植片は、処置部位に配置した後に展開される。一般的に、ステントは、バルーンカテーテルを利用して展開される。バルーンカテーテルは、ステントを拡げ、大動脈内腔に対してステントを緩やかに押し付けて、血管の閉塞を除去するか、又は、動脈瘤を安定にする。次に、カテーテルは、取り除かれ、ステントは、永久的に適所に留まる。大抵の患者は、適切な回復期間の後に通常の生活に戻り、ステント留置による閉塞に関連する冠動脈疾患の再発はない。しかしながら、幾つかの症例では、動脈壁内膜は、疾患プロセス自体により、又は、ステント展開の結果として損傷する。この損傷により、複雑な生態的応答が始まり、その結果、血管平滑筋細胞が過剰に増幅し、閉塞することになるか、又は、ステント部位で再狭窄することになる。
【0062】
最近では、再狭窄を防止するために、十分な努力が注がれている。密閉小線源治療、エキシマレーザを含む幾つかの技術及び医療技術が、開発されている。侵襲性の少なく最も有望な治療様式は、医薬面での取り組みである。好ましい医薬面での取り組みは、ステントが展開される領域への細胞増殖抑制又は細胞毒性薬物の部位特定送達を含む。部位特定送達は、幾つかの理由で、全身への送達よりも好ましい。第1に、多くの細胞増殖抑制及び細胞毒性薬剤は、毒性が高く、再狭窄を防止するのに必要な濃度で全身に投与することができない。更に、薬物の全身投与は、処置部位から遠い身体位置での意図されない副作用を有し得る。加えて、多くの薬物は、十分に可溶ではないか、又は、再狭窄を有効に防止するには、血流からあまりに速く取り除かれる。従って、処置領域への抗再狭窄物質の投与が、好まれる。
【0063】
滲出性バルーンカテーテル及び注入カテーテルを含む抗再狭窄物質を分配するために、幾つかの技術及び対応する装置が開発されている。滲出性バルーンカテーテルを利用して、圧力下で、細孔を通じて、カテーテルの遠位端での又はその近くの可膨張部分内に抗再狭窄組成物をゆっくりと加える。可膨張性部分を利用して、同様に、ステント又は分離部分を展開する。注入カテーテルは、加圧された液体噴出物を発することにより、又は、1つ以上の針状の付属肢で動脈壁に直接穴を開けることにより抗再狭窄組成物を投与する。最近、針カテーテルが、動脈の外膜内に薬物を注入するために開発されている。しかしながら、再狭窄を防止するために、滲出性カテーテル及び注入カテーテルを利用して抗再狭窄性組成物の投与は、実験的なままであり、多くは、成功していないままである。直接的抗再狭窄組成物投与は、幾つかの不都合な点がある。滲出性カテーテルを利用して、抗再狭窄組成物が動脈内腔に直接投与される場合、血流は、直ぐに、抗再狭窄組成物を下流に、処置部位から遠くに流す。内腔壁又は外膜内に注入される抗再狭窄組成物は、周囲の組織内に速やかに拡散され得る。その結果、抗再狭窄組成物は、処置部位に、再狭窄を防止するのに十分な濃度で存在し得ない。カテーテルを基盤とする局所薬物送達に関連する、これらの及び他の不都合な点の結果、研究者は、抗再狭窄組成物を局所的に送達するための改善された方法を探究し続ける。
【0064】
今までに開発された局所的に抗再狭窄組成物を送達するための最も成功した方法は、薬物溶出ステントである。多くの薬物溶出ステントの実施形態は、開発され、死検査されている。しかしながら、安全性と効き目の高い薬物送達ステントとを提供するために、著しい進歩が、まだ必要である。ステントを基盤とする抗再狭窄組成物送達に関連する主な試みのうちの1つは、薬物送達速度を制御することである。一般的に言えば、薬物送達速度は、2つの主要な動力学特性を有する。投与直後に血流又は組織に届く薬物は、1次の動力学に従う。1次の薬物放出動力学では、血液又は局所組織薬物レベル(最高レベル)が、即座に急上昇し、徐々に下がる(最低レベル)。多くの症例では、治療レベルは、2、3時間のみ維持される。血液又は組織濃度が一定のままである持続時間にわたりゆっくりと放出される薬物は、0次の動力学に従う。薬物送達方法及び組織/血液排除速度に応じて、0次の動力学により、治療レベルが、延長期間にわたり持続されることになる。薬物放出特性は、特定の用途に適合するように変更され得る。一般に、最も制御される放出組成物は、ほぼ0次の動力学を与えるように設定される。したがって、薬物の初期放出又は初回投与の後に、より緩慢な薬物放出が持続されること(ほぼ0次の動力学)が望まれる、用途があり得る。本発明の教示内容に従って作製される医療装置からの一酸化窒素放出は、一般に、1次のものである。
【0065】
用語「医療装置」は、本明細書で用いられる場合、それらを使用又は操作する間に組織、血液、若しくは、患者又は動物内に見出される、或いは、後に患者又は動物内で使用される他の体液に接触する表面を有する、いずれかの装置、製品、設備又は材料を指す。医療装置として、例えば、血液人工肺等の手術に利用される体外の装置、血液ポンプ、血液保存袋、採血管、濾過媒体を含む血液フィルタ、血液等を搬送するのに利用され、患者又は動物内に戻される血液と接触する配管が挙げられる。その上、医療装置として、血管又は心臓内に埋め込まれる、ステント(血管ステント等)、ペースメーカー、ペースメーカー配線、心臓弁、パルス発生器、心臓除細動器、電気除細動器、人体又は動物の体に埋め込まれる内部人工器官、脊椎刺激装置、脳及び神経刺激装置、挿入器、化学センサ等が挙げられる。その上、医療装置として、監視、修復又は治療のために血管、心臓、臓器又は組織内に配置されるカテーテル、誘導ワイヤ、羊水穿刺、生検針、カニューレ、排出管、分路、センサ、変換器、プローブ等のような、一時的に血管内で使用される装置が挙げられる。医療装置として、人工心臓と同様に、臀部又は膝等の人工器官も挙げられる。人工装置として、移植片、検鏡、潅注器、ノズル、測径両脚器、鉗子、開創器、ステント移植片、尿道ステント、胆道ステント、カテーテル、縫合糸、視覚装置、心臓弁、分路、ペースメーカー、骨ねじ、骨留め具、保護板、人工器官、血管移植片、個人用衛生品目、吸収性及び非吸収性縫合糸、創傷用包帯等も挙げられる。選択される医療装置は、本開示の範囲及び教示内容に従って、乾質ジアゼニウムジオレート化される能力を有し得る。
【実施例】
【0066】
実施例1
グリシジルメタクリレート/ヘキシルメタクリレート共重合体の合成
【0067】
【化6】

【0068】
グリシジルメタクリレート(9.02g)、n−ヘキシルメタクリレート(21.03g)、1,4−ジオキサン(59.98g)及びAIBN(240mg)を、120mLの瓶内で混合し、この瓶を、封止して、窒素で30分間浄化した。瓶を、60℃で3時間にわたり加熱し、油槽内で攪拌した。ポリマーを、メタノール中でジクロロメタン溶液から(3回)繰り返して沈殿することにより浄化した。45℃の真空炉内で一晩乾燥後、1H NMRにより、n−ヘキシルメタクリレート(56モル%)とグリシジルメタクリレート(44モル%)の共重合体を得た。そのポリマーは、平均分子量が、232240であり、GPC(THF、35C及びポリスチレン標準型)によれば、PDIが、2.02である。そのポリマーのガラス遷移温度は、DSCを用いて、第2加熱で20℃/分の加熱速度で計測する場合、28.8℃である。
【0069】
実施例2
側鎖中のエポキシ基の多重アミン基への変換
【0070】
【化7】

【0071】
実施例3からの2.0gの前駆体ポリマーを、8mLのTHF中で溶解した。別に、別の溶液を、2.39mLのジエチレントリアミンを12mLのTHFと混合することにより調製した。ポリマー溶液を、滴下して、攪拌下で、ジエチレントリアミン溶液に加えた。混合物を、油槽中50℃で、3日間加熱した。その結果得られたポリマーを、THF溶液から脱イオン水内への沈殿により浄化した。d4−メタノール中の1H NMRスペクトルは、エポキシ官能基が消え、NCH2基に対応する約2.7ppmで新たなピークが現れたことを示した。
【0072】
実施例3
実施例2からの200mgの第二級アミン官能化ポリマーを、20mLのメタノール中に溶解した。約400マイクログラムのポリマーを、溶液から、3×18mmのメドトロニックドライバ(Medtronic Driver)(商標)ステント上に噴霧塗布した。炉内で一晩乾燥させた後に、ステントを、ヘキシルメタクリレートと2−ヒドロシキエチルメタクリレート(30モル%)の約200マイクログラムの共重合体で、表面を噴霧塗布した。ステントを、アルゴンでパージし、室温で、180psiの一酸化窒素ガスで4日間加圧する反応において、乾質ジアゼニウムジオレート化した。ステントを、PBS(pH7.4)緩衝管中で恒温放置し、放出された一酸化窒素ガスが、一酸化窒素分析器(GE分析機器280i)で検出された。ポリマーは、478pモル/分/mgの初期放出速度を示し、94時間で、0.28マイクロモル/mgの一酸化窒素が放出された。
【0073】
特に指示のない限り、明細書及び請求項内で利用される全数の表記される量の成分、分子量等の特性、反応条件等は、用語「約」により、全ての場合において変更されるものとして、理解されるべきである。従って、相反することが示されなければ、明細書及び付属の請求項内に説明される数値パラメータは、本発明により得ようとする所望の特性に依存して変化する、概算である。最低限でも、請求項の範囲への均等論の応用を限定する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数に照らして、通常の丸め技法を用いることにより、解釈されるべきである。本発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは、概算であるにもかからわらず、特定例で説明される数値は、できる限り正確に報告されている。しかしながら、あらゆる値は、それぞれの試験測定において見出される通常の逸脱から必然的に生じる、一定の誤差を本質的に含んでいる。
【0074】
本発明を記載している文脈内で(特に、次の請求項の文脈内で)利用される用語「a」「an」「the」及び類似の参照対象は、本明細書内で特に指示のない限り、又は文脈により明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を扱うように解釈されるべきである。本明細書内の数値範囲の詳述は、単に、範囲内にある各個別の値を個別に指す簡潔な方法として用いられることを目的とする。本明細書内で特に指示のない限り、各個別値は、本明細書内で個別に述べられているように、本明細書内に組み込まれる。本明細書内に記載される全ての方法は、本明細書内で特に指示のない限り、又は文脈により明らかに矛盾しない限り、あらゆる適切な順序で実施され得る。本明細書内に与えられる任意の及び全ての例又は模範的言い回し(例えば、「等」)の利用は、単に、本発明をよりよく説明することを目的とし、本発明又は請求されるものの範囲を限定するものではない。明細書内の言い回しは、本発明の実施に不可欠な、あらゆる請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0075】
本明細書内で開示される本発明の代わりの要素又は実施形態の組分けは、限定するものとして解釈されるものではない。各組みの部材は、個別に又は、組みの他の部材か、若しくは本明細書に見出される他の要素との任意の組み合わせで、言及され、請求され得る。予期されるのは、組みの1つ以上の部材が、利便性及び/又は特許性のために組み内に含まれてもよく、若しくは、その組みから削除されてもよい。あらゆるそのような包含又は削除が発生するとき、本明細書は、変更に応じて、その組みを含むように見なされ、従って、付属の請求項内で利用されるマーカッシュ群の記載を満たす。
【0076】
本発明のある実施形態は、本明細書に記載され、本発明を実行するために発明者に周知の最良の形態を含んでいる。当然、これらの記載の実施形態の変更は、上の記載を読んだ後に、当業者に明らかになる。発明者は、そのような変更を適切なものとして用いるように当業者に期待し、本発明が、本明細書内に特定して記載されたもの別の方法で実行されるのを意図している。従って、本発明は、適用可能な法により許可に応じて、本明細書に付属の請求項内に述べられる内容の全ての変更と均等性を含む。更に、上記要素の全ての可能な変更内での、上記要素のあらゆる組み合わせは、本発明により、本明細書で特に指示のない限り、又は、文脈により明らかに矛盾しない限り、包含される。
【0077】
更に、本明細書を通じて、特許及び印刷された公報について、数多く参照した。個別の上記参照文献及び印刷公報は、個別に、参照によりそのまま本明細書内に組み込まれている。
【0078】
終わりに、本明細書で開示される本発明の実施形態は、本発明の原理を説明するためのものであることを理解するべきである。用いられてもよい他の変更は、本発明の範囲内にある。従って、限定されない例として、本発明の代わりの構成が、本明細書内の教示内容に従って利用されてもよい。従って、本発明は、正確に示され、記載されたものに限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法であって、
a)医療装置を提供する工程、
b)第二級アミン官能化ポリマーで前記医療装置を被覆する工程、
c)前記第二級アミン官能化ポリマーで被覆された医療機器を乾燥する工程、及び
d)前記第二級アミン官能化ポリマーで被覆され、乾燥した医療機器を、圧力下、一酸化窒素ガスに曝す工程、
を含む、乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する前記方法。
【請求項2】
前記第二級アミン官能化ポリマーが、化学式Iにより表記されるポリマーである、請求項1に記載の方法。
【化1】

(式中、R1は、C1〜C18アルキル、2−ヒドロキシエチル、2−エトキシエチル、グリシジル、及びポリ(エチレングリコール)から成る群から選択され、
2は、C1〜C18アルキル又はC1〜C18多重アミンであり、
a及びbは、各々が独立して、1〜25,000の整数である。)
【請求項3】
前記圧力が、約0.1気圧〜約35気圧である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記医療装置が金属製医療装置である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属製医療装置が、ステンレス鋼、ニチノール、タンタル、非磁性ニッケル・コバルト・クロム・モリブデン[MP35N]合金、白金、チタン、又はそれらの組み合わせから構成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの生理活性剤で前記医療装置を被覆することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生理活性剤が、抗感受剤、抗腫瘍薬、抗増殖剤、抗血栓薬、抗凝固薬、抗血小板剤、抗生物質、抗炎症剤、ステロイド、遺伝子治療薬、治療物質、有機薬物、医薬化合物、組み換えDNA製品、組み換えRNA製品、コラーゲン、コラーゲン誘導体、蛋白質、蛋白質類似物、糖類、糖類誘導体、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生理活性剤がゾタロリムスである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記医療装置が、血管ステント、ステント移植片、尿道ステント、胆道ステント、カテーテル、縫合糸、視覚装置、心臓弁、分路、ペースメーカー、骨ねじ、骨留め具、保護板及び人工器官から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記医療装置が血管ステントである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する方法であって、
a)医療装置を提供する工程、
b)第二級アミン官能化ポリマーで前記医療装置を覆う工程、
c)前記第二級アミン官能化ポリマーで覆われた医療機器を乾燥させる工程、
e)前記第二級アミン官能化ポリマーで覆われ、乾燥された医療機器を、表面塗膜ポリマーで塗膜する工程、
f)前記ポリマーで覆われ、表面が塗膜された医療機器を乾燥させる工程、
d)前記ポリマーで覆われ、表面が塗膜され、乾燥された医療機器を、圧力下の一酸化窒素ガスに曝す工程
を含む、前記表面塗膜乾質ジアゼニウムジオレート化ポリマー被覆医療装置を作製する前記方法。
【請求項12】
前記表面塗膜ポリマーが、メタクリレートポリマー、アクリレートポリマー、スチレンとイソブチレンのブロック共重合体、及びフッ化ポリマーから成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第二級アミン官能化ポリマーが、化学式Iにより表記されるポリマーである請求項11に記載の方法。
【化2】

(式中、R1は、C1〜C18アルキル、2−ヒドロキシエチル、2−エトキシエチル、グリシジル、及びポリ(エチレングリコール)から成る群から選択され、
2は、C1〜C18アルキル又はC1〜C18多重アミンであり、
式中、a及びbは、各々が独立して、1〜25,000の整数である。)
【請求項14】
前記圧力が、約0.1気圧〜約35気圧である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記医療機器が金属製医療装置である、請求項11の方法。
【請求項16】
前記金属製医療装置が、ステンレス鋼、ニチノール、タンタル、非磁性ニッケル・コバルト・クロム・モリブデン[MP35N]合金、白金、チタン、及びそれらの組み合わせを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの生理活性剤で前記医療装置を被覆することを更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記生理活性剤が、抗感受剤、抗腫瘍薬、抗増殖剤、抗血栓薬、抗凝固薬、抗血小板剤、抗生物質、抗炎症剤、ステロイド、遺伝子治療薬、治療物質、有機薬物、医薬化合物、組み換えDNA製品、組み換えRNA製品、コラーゲン、コラーゲン誘導体、蛋白質、蛋白質類似物、糖類、糖類誘導体、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生理活性剤が、ラパマイシン又はその誘導体である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記医療装置が、血管ステント、ステント移植片、尿道ステント、胆道ステント、カテーテル、縫合糸、視覚装置、心臓弁、分路、ペースメーカー、骨ねじ、骨留め具、保護板及び人工器官から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記医療装置が血管ステントである、請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2012−512700(P2012−512700A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542183(P2011−542183)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/065076
【国際公開番号】WO2010/080213
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511126109)メドトロニック ヴァスキュラー インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】