説明

一重項酸素消去剤、及びそれを用いた組成物

白金族金属のコロイド液からなる一重項酸素消去剤及びこれを有効成分として含有する組成物を提供する。該組成物は、一重項酸素が関与する、皮膚の老化、即時黒化、皮膚の損傷等の一因となる様々な反応を抑制するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な一重項酸素消去剤、それを有効成分として含有する組成物に関する。
【背景技術】
従来、広義の活性酸素種として、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素及び一重項酸素、ならびにこれらの金属や脂質との反応生成物が知られている。しかし、活性酸素種の中には、例えば、基底状態酸素とは電子の数が異なる、スーパーオキサイド、過酸化水素及びヒドロキシラジカル等の還元分子種もあれば、基底状態酸素と電子の数は同じであるが励起状態にある、励起分子種である一重項酸素もあり、その電子状態の違いに基づく、活性酸素種という枠組みでは捉えられない固有の特性をそれぞれ有する。また、従来、活性酸素種の検出には、電子スピン共鳴(ESR)が広く利用されている(例えば、特開2001−10954号公報の実施例9等)。ESRは、スーパーオキサイドやヒドロキシラジカル等のラジカル種の検出には有効であるが、ラジカル種でない一重項酸素を検出することはできない。また、一重項酸素の水中における寿命は約4μ秒と短く、感度、特異性を兼ね備えた検出方法は限られている(例えば、特開平7−159325号公報等)。従って、従来、広義に活性酸素種が関与している反応と報告されているものや、活性酸素種の捕獲に有効な剤と報告されているものも、その検出方法等を検討すると、一重項酸素については明確ではないものがほとんどである。
近年、活性酸素種それぞれの反応性が研究され、対象分子に対してそれぞれ特異な反応性を示すことがわかってきた。例えば、スーパーオキサイドやヒドロキシラジカルは、タンパク質と反応して容易にその断片化を引き起こす。一方、一重項酸素はタンパク質に架橋を形成し、タンパク質を重合させるという、スーパーオキサイド等とは全く異なる特異な反応性を示す(例えば、J.Soc.Cosmet.Chem.Japan.Vol.28,No.2 1994,p.163−171)。また、一重項酸素が、紫外線の照射により健康な皮膚表面に発生し、様々な皮膚トラブルの原因となる皮脂の過酸化を引き起していることも明らかとなった(例えば、日本香粧品科学会誌 vol.19 No.1 1995年、p.1−6)。この様な背景の下、従来、活性酸素種が関与しているといわれていた疾病や老化についても、一重項酸素の寄与が重要視されてきている。従って、一重項酸素を消去し得る剤があれば、これらの疾病や老化の防止に有効である。また、従来、一重項酸素消去剤として知られているものは、その物質自体の化学的安定性が悪いために経時保存中に劣化し、一重項酸素消去能が低下するものが多く、効果の持続性の点で改良が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、良好な一重項酸素消去能を長期的に維持する剤を提供することを課題とする。また、本発明は、一重項酸素によって引き起こされる様々な反応を抑制し得る一重項酸素消去剤及び組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、皮膚に適用することによって、一重項酸素が関与する反応が一因となって起こる、皮膚の老化、皮膚の黒化及び皮膚の損傷等を防止し得る、一重項酸素消去剤及び組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
本発明は前記課題を解決するため、白金族金属のコロイド液からなる一重項酸素消去剤を提供する。本発明の一態様として、一重項酸素消去定数が1.0×10−1−1以上である上記一重項酸素消去剤;前記白金族金属が、白金又はロジウムである上記一重項酸素消去剤;単一金属種のコロイド液である上記一重項酸素消去剤;白金コロイド液又はロジウムコロイド液である上記一重項酸素消去剤;前記白金族金属のコロイド液が、金属塩還元反応法により調製された白金族金属の粒子をコロイド粒子として含有する上記一重項酸素消去剤;白金族金属粒子の平均粒径が1〜6nmである上記一重項酸素消去剤;前記コロイド液が、水溶性高分子を含有する上記一重項酸素消去剤;前記白金族金属と前記水溶性高分子との質量比が1:40〜1:100である上記一重項酸素消去剤;及び前記水溶性高分子が、ポリ(1−ビニル−2−ピロリドン)である上記一重項酸素消去剤;が提供される。本発明の一重項酸素消去剤又はこれを有効成分として含有する組成物は、一重項酸素が関与する様々な反応を抑制するのに利用することができ、コラーゲン架橋形成抑制剤、即時黒化抑制剤、酵素失活抑制剤、脂質過酸化抑制剤、細胞老化抑制剤又は色素褪色抑制剤に利用することができる。
また、別の観点から、本発明によって、上記一重項酸素消去剤を有効成分として含有する組成物;上記一重項酸素消去剤を有効成分として含有する皮膚外用剤;上記一重項酸素消去剤又はこれを有効成分として含有する組成物を皮膚に適用することによって、コラーゲン架橋形成、即時黒化、酵素失活、脂質過酸化及び細胞老化のいずれかを抑制する方法;上記一重項酸素消去剤又はこれを有効成分として含有する組成物を皮膚に適用することによって、皮膚の老化を防止する方法;白金族金属のコロイド液を添加する工程を含む皮膚外用剤の調製方法;が提供される。
【発明の効果】
本発明によれば、良好な一重項酸素消去能を長期的に維持する一重項酸素消去剤を提供することができる。また、本発明によれば、一重項酸素によって引き起こされる様々な反応を抑制し得る一重項酸素消去剤及び組成物を提供することができる。また、本発明によれば、皮膚に適用することによって、一重項酸素が関与する反応が一因となって起こる、皮膚の老化、皮膚の黒化及び皮膚の損傷等を防止し得る、一重項酸素消去剤及び組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の一重項酸素消去剤は、白金族金属のコロイド液からなる。白金族金属とは、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、及び白金からなる遷移金属の総称をいう。中でも、ロジウム及び白金が好ましい。コロイド液とは、これら白金族金属の粒子が、液相に分散した状態のものをいう。白金族金属から選ばれる一種のコロイド液であってもよいし、二種以上の金属種のコロイド液であってもよい。中でも、単一金属種のコロイド液が好ましく、白金コロイド液又はロジウムコロイド液が好ましい。
白金族金属のコロイド液とは、白金族金属の粒子が液相に分散したものをいう。安定的なコロイド状態とするためには、白金族金属の粒子は、比表面積が大きく、表面反応性に優れたものが好ましい。白金族金属粒子の粒径については、特に限定されないが、50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、1〜6nm程度が特に好ましい。尚、コロイド粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡によって観察することにより求めることができる。
白金族金属の粒子を分散させる液相の主成分は水であるのが好ましい。コロイド状態を不安定化させない範囲で、有機溶媒を含有していてもよい。有機溶媒としては、メタノール、エチルアルコール等のアルコール類;グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類等が挙げられる。
金属粒子の製造方法は種々知られており(例えば、特公昭57−43125号公報、特公昭59−120249号公報、及び特開平9−225317号公報、特開平10−176207号公報、特開2001−79382号公報、特開2001−122723号公報など)、当業者はこれらの方法を参照することによって金属粒子を容易に調製することができる。例えば、金属粒子の製造方法として、沈殿法又は金属塩還元反応法と呼ばれる化学的方法、あるいは燃焼法と呼ばれる物理的方法などを利用できる。本発明の一重項酸素消去剤には、いずれの方法で調製された粒子を用いてもよいが、製造の容易性と品質面から金属塩還元反応法で調製された金属粒子を用いることが好ましい。
金属塩還元反応法では、例えば、水溶性若しくは有機溶媒可溶性の金属塩又は金属錯体の水溶液又は有機溶媒溶液を調製し、この溶液に水溶性高分子を加えた後、必要に応じpHを調整し、不活性雰囲気下で加熱還流することにより還元して金属粒子を得ることができる。金属の水溶性又は有機溶媒可溶性の塩の種類は特に限定されないが、例えば、酢酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、スルホン酸塩、又はリン酸塩などを用いることができ、これらの錯体を用いてもよい。
金属塩還元反応法に用いる水溶性高分子の種類は特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、シクロデキストリン、アミノペクチン、又はメチルセルロースなどを用いることができ、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくはポリビニルピロリドンを用いることができ、より好ましくはポリ(1−ビニル−2−ピロリドン)を用いることができる。白金族金属と水溶性高分子(好ましくはポリ(1−ビニル−2−ピロリドン))との単位化学式量としての濃度比は、1:40〜1:200であるのが好ましい。また、水溶性高分子に替えて、あるいは水溶性高分子とともに各種の界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性又は脂溶性等の界面活性剤を使用することも可能である。還元をアルコールを用いて行う際には、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、又はエチレングリコールなどが用いられる。これらの水溶性高分子及び界面活性剤は、液相中に金属粒子が生成した後は、保護コロイド剤として、コロイド状態の安定化に寄与する。もっとも、金属粒子の調製方法は上記に説明した方法に限定されることはない。
金属塩還元反応法により液相中に生成した金属粒子を、そのまま液相から分離することなく、一重項酸素消去剤の調製に用いてもよい。例えば、金属塩還元反応法により液相中に金属粒子を生成させ、所望により適当な精製工程(例えば、金属塩還元反応法の工程中に用いられた有機溶媒を減圧留去する工程)を経た後、任意の量の水を添加することによって、又は任意の量の水を除去することによって、安定なコロイド液からなる一重項酸素消去剤を調製することができる。所望によりコロイド状態の安定化に寄与する界面活性剤、分散剤等を添加してもよい。勿論、本発明の一重項酸素消去剤の調製方法はこれに限定されず、例えば、金属塩還元反応法により生成した金属粒子を一旦液相から分離した後、水を主成分とする液相中に改めて分散させて調製することもできる。
最終製品の調製に用いられる母液としてのコロイド液の白金族金属の濃度については、特に制限されるものではなく、コロイド状態の安定性を損なわない範囲であればよい。一般的には、1nmol/L〜1mmol/L程度であれば安定性を維持するが、コロイド状態の安定性はそれぞれの金属で異なるので、この範囲に制限されるものではない。最終製品としての組成物中における白金族金属の濃度の好ましい範囲については後述する。
本発明の一重項酸素消去剤は、一重項酸素消去定数が1.0×10−1−1以上であるのが好ましく、1.0×10−1−1以上であるのがより好ましく、1.0×1010−1−1以上であるのがさらに好ましい。本明細書において、「一重項酸素消去定数」とは、Stern−Vormerの式(Io/I=1+kq・τ・Cq)の反応速度定数(kq)をいう。具体的には、一重項酸素を恣意的に発生させ、一重項酸素の遷移に伴う発光が観測される系に、一重項酸素消去剤を種々の濃度(Cq)で添加し、その発光強度(I)を測定し、加えなかった時の発光強度(Io)との比(Io)/(I)を算出して、それぞれの濃度(Cq)に対してプロットすることにより、前記Stern−Vormer式から算出することができる。前記式において、τは一重項酸素の寿命であり系の溶媒によって異なる定数である。また、濃度Cqは金属の濃度であって、単位はmol/Lである。この一重項酸素消去定数の算出に用いられる実験系、及び発光の検出装置については、特許第3356517号公報に記載のものを利用することができる。
本発明の一重項酸素消去剤は、使用中に自己が酸化され、その効果を失うものではないので、一重項酸素消去能を長期的に維持できる。
本発明の一重項酸素消去剤は、一重項酸素が存在することによって引き起こされる又は促進される反応を抑制する用途に利用することができる。例えば、一重項酸素は、真皮構成成分であるコラーゲンを架橋させることが知られている(J.Soc.Cosmet.Chem.Japan.Vol.28,No.2 1994,p.163−171)。コラーゲンの架橋は、皮膚の弾力性及び柔軟性を低下させ、皮膚の老化の一因となる。本発明の一重項酸素消去剤を皮膚に適用することにより、コラーゲンの架橋が形成されるのを抑制することができ、皮膚の老化を防止し、若々しい皮膚を維持することができる。即ち、本発明の一重項酸素消去剤は、コラーゲン架橋抑制剤として利用することができる。
また、例えば、一重項酸素は、UV−Aの照射によって皮膚表面に多く発生し、ドーパの酸化により非酵素的に起こる即時黒化に関与していること、及び皮表脂質の過酸化に関与していることが知られている(日本香料品科学会誌 vol.19 No.1 1995年、p.1−6)。従って、本発明の一重項酸素消去剤を皮膚に適用することにより、皮膚の即時黒化や皮表脂質の過酸化を抑制する抑制剤として利用することができる。なお、本発明の一重項酸素消去剤を、即時黒化抑制剤として使用する場合は、一重項酸素消去剤の一重項酸素消去定数がドーパより大きい、即ち、6.8×10−1−1以上であるのがより好ましい。また、例えば、一重項酸素は、生体内反応を担っている数多くの酵素の失活を引き起こす又は促進することが知られている。従って、本発明の一重項酸素消去剤は、酵素失活抑制剤として利用することができる。なお、本発明の一重項酸素消去剤を、酵素の失活抑制剤として利用する場合は、一重項酸素消去剤の一重項酸素消去定数が、その酵素の一重項酸素消去定数より大きいことがより好ましい。
また、我々は、生体の老化現象を捉えるために細胞老化評価系を用い、細胞老化に一重項酸素が関与していることを報告している(J.Jpn.Cosmet.Sci.Soc.Vol.26,2002,p.79−85)。つまり、細胞を一重項酸素に曝露させると細胞寿命の短縮という特徴的な老化現象がみられたのである。そして、この現象は一重項酸素消去剤であるヒスチジンを細胞に与えることにより抑制された。すなわち、一重項酸素消去剤は、細胞老化を抑制し、その結果生体の老化を遅らせる効果があることを示唆している。即ち、本発明の一重項酸素消去剤を細胞老化抑制剤として利用することができる。
また、一重項酸素は、化粧料や食品等に配合されている植物エキス等の色素の褪色又は変色を引き起こす又は促進することが知られている。また、褪色及び変色を伴わない場合であっても、一重項酸素の存在によって皮膚用化粧料等に配合される薬効剤の分解を引き起す又は促進する場合がある。本発明の一重項酸素消去剤を配合すると、一重項酸素消去能及びこれに付随する上記効果が得られるのみならず、ともに配合されている他の剤の分解を抑制するという効果も得られる。即ち、本発明の一重項酸素消去剤は、色素褪色防止剤として利用することができ、また褪色のみならず他の薬効剤の保存剤として利用することもできる。
本発明の一重項酸素消去剤を有効成分として含有する組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品等の種々の目的に利用することができる。一重項酸素は、常に酸素に接触し、紫外線に暴露されている皮膚表面上に多く存在するので、本発明の一重項酸素消去剤を含有する組成物は、皮膚外用剤としてより有用である。また、一重項酸素の消去によって抑制される反応は、皮膚の老化、皮膚の黒化、皮膚の損傷の一因となる反応であるので、その様な反応を抑制できる本発明の一重項酸素消去剤及びこれを有効成分として含有する組成物は、皮膚の老化防止、美白、美肌を目的とする皮膚用化粧料として特に有用である。
本発明の一重項酸素消去剤を単独で、又は1種以上の公知の外用医薬用添加剤又は皮膚化粧料用添加剤とともに常法に従って配合することによって、皮膚用外用剤を調製することができる。本発明の一重項酸素消去剤の配合量は、外用剤の剤形、使用目的等の他、一重項酸素消去剤の一重項酸素消去能によっても異なるが、一般的には、白金族金属の濃度は最終組成物中に、好ましくは0.01nmol/L〜50μmol/L、より好ましくは1nmol/L〜1μmol/Lである。この範囲内であれば、コロイド液を安定に配合することができ、優れた薬効を発揮することができる。
本発明の一重項酸素消去剤は単独で皮膚外用剤として用いることができ、又は1種又は2種以上の添加剤と混合することによって皮膚外用剤を調製することもできる。必要に応じて添加される添加剤としては、皮膚用化粧料や外用医薬品の製剤に一般的に用いられる、水(精製水、温泉水、深層水等)、アルコール、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、本発明の一重項酸素消去剤以外の活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等が挙げられる。皮膚外用剤の調製は、常法に従って行うことができ、前記添加剤の配合量も本発明の効果を損なわない範囲で、常法に従って決定することができる。
前記皮膚用外用剤の形態については限定されず、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗顔料、メーキャップ化粧料等の皮膚用化粧料に属する形態;シャンプー、ヘアートリートメント、ヘアースタイリング剤、養毛剤、育毛剤等の頭髪化粧料に関する形態;及び分散液、軟膏、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤等の外用医薬品の形態;のいずれであってもよい。
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[例1]
アリール冷却管と三方コックを接続した100mL二口ナス型フラスコにポリ(1−ビニル−2−ピロリドン)(和光純薬株式会社製,0.147g)を入れ、蒸留水23mLで溶解した。この溶液を10分間撹拌した後、塩化白金酸(HPtCl・6HO、和光純薬株式会社製)を蒸留水に溶解した1.66×10−2 M溶液(2mL)を加えてさらに30分間撹拌した。反応系内を窒素置換し、特級エタノール25mLを加えて窒素雰囲気下を保ちながら100℃で2時間還流した。反応液のUVを測定し、白金イオンピークの消失と、金属固体特有の散乱によるピークの飽和を確認し、還元反応を終了した。有機溶媒を減圧留去して白金コロイド液(平均粒径2.4±0.7nm)を調製した。得られた白金コロイド液の白金の濃度は1mmol/Lであった。
[例2]
上記例1において、塩化白金酸の1.66×10−2 M溶液を、塩化ロジウム三水和物(和光純薬社株式会社製)1.66×10−2 M溶液に替えた以外は例1と同様にして、ロジウムコロイド液(平均粒径2.2±1.0nm)を調製した。得られたロジウムコロイド液のロジウム濃度は1mmol/Lであった。
[例3]
調製した白金コロイド液及びロジウムコロイド液の一重項酸素消去定数を、Stern−Vormerの式(Io/I=1+kq・τ・Cq)を用いる上述の方法により算出した。一重項酸素検出装置は、特許第3356517号公報に記載(詳細は同公報の第0026欄に記載)の装置を用いた。フローセル中には、ローズベンガルの200μMの水溶液を、20mL/分の速度で循環させた。このセルに、ローズベンガルの吸収波長である514.5nmの波長のレーザーを照射すると、一重項酸素の遷移に伴う発光が観察され、その発光ピークは波長1268nmであった。次に、白金コロイド液及びロジウムコロイド液をそれぞれ種々の濃度(白金及びロジウムそれぞれの濃度1〜10μmol/Lの範囲)で添加し、それぞれ発光強度(I)を測定して、無添加時の発光強度(I)との強度比(Io)/(I)を算出して、それぞれの濃度(Cq:白金及びロジウムそれぞれの濃度)に対してプロットした。前記Stern−Vormerの式から、一重項酸素消去定数(kq)を算出した。結果を以下に示す。
ロジウムコロイド液 : 2.4×1010−1−1
白金コロイド液 : 1.6×1010−1−1
従来、活性酸素種消去剤又は一重項酸素消去剤として知られている種々の化合物について同様に一重項酸素消去定数を算出したところ、βカロチンは7×10−1−1、アジ化ナトリウムは7.9×10−1−1、アスコルビン酸は8.3×10−1−1、ヒポタウリンは1×10−1−1、及びマンニトールは1×10−1−1であった。この結果より、ロジウムコロイド液及び白金コロイド液は、従来活性酸素種消去剤又は一重項酸素消去剤として知られている化合物と比較して、優れた一重項酸素消去能を示すことが実証された。また、ロジウムコロイド液及び白金コロイド液は、それ自体が保存中に酸化されることはないので、一重項酸素消去能力の失活がなく、長期的に一重項酸素消去能を維持し得る。
[例4:化粧水]
下記成分(3)、(4)、及び(8)〜(10)を混合溶解した溶液と、下記成分(1)、(2)、(5)〜(7)及び(11)を混合溶解した溶液とを混合して均一にし、化粧水を得た。
(成分) (%)
(1)グリセリン 5.0
(2)1,3−ブチレングリコール 6.5
(3)ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
モノラウリン酸エステル
(4)エチルアルコール 8.0
(5)白金コロイド液(白金濃度100nmol/L) 10.0
(6)乳酸 0.05
(7)乳酸ナトリウム 0.1
(8)パラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル 3.0
(9)防腐剤 適量
(10)香料 適量
(11)精製水 残量
[例5:乳液]
下記成分(8)〜(9)を成分(12)に添加し膨潤後、成分(10)を加えて混合し加熱して70℃に維持し水相を調製した。下記成分(1)〜(6)を70℃に加熱混合し、これを前記水相に添加して、乳化した。この乳化物を室温まで冷却し、下記成分(7)、(11)及び(13)を添加し、均一に混合して乳液を得た。
(成分) (%)
(1)ポリオキシエチレン(10E.O.)ソルビタン 1.0
モノステアレート
(2)ポリオキシエチレン(60E.O.)ソルビット 0.5
テトラオレエート
(3)グリセリルモノステアレート 1.0
(4)ステアリン酸 0.5
(5)ベヘニルアルコール 0.5
(6)スクワラン 8.0
(7)ロジウムコロイド液(ロジウム濃度1μmol/L) 5.0
(8)防腐剤 0.1
(9)カルボキシビニルポリマー 0.1
(10)水酸化ナトリウム 0.05
(11)エチルアルコール 5.0
(12)精製水 残量
(13)香料 適量
調製した化粧水及び乳液は、いずれも変色・変臭および沈殿物などがなく、安定であり、皮膚に適用可能であった。
産業上の利用分野
本発明の一重項酸素消去剤又はこれを有効成分として含有する組成物は、一重項酸素消去能を有するので、一重項酸素が関与する反応、特に、一重項酸素が関与する、皮膚の老化、即時黒化、皮膚の損傷等の一因となる様々な反応を抑制するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属のコロイド液からなる一重項酸素消去剤。
【請求項2】
一重項酸素消去定数が1.0×10−1−1以上である請求の範囲第1項に記載の一重項酸素消去剤。
【請求項3】
前記白金族金属が、白金又はロジウムである請求の範囲第1項又は第2項に記載の一重項酸素消去剤。
【請求項4】
単一金属種のコロイド液である請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の一重項酸素消去剤。
【請求項5】
コラーゲン架橋形成抑制剤、即時黒化抑制剤、酵素失活抑制剤、脂質過酸化抑制剤、細胞老化抑制剤又は色素褪色抑制剤として用いられる請求の範囲第1項〜第4項のいずれかの一重項酸素消去剤。
【請求項6】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の一重項酸素消去剤を有効成分として含有する組成物。

【国際公開番号】WO2005/018598
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513367(P2005−513367)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012315
【国際出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【出願人】(503304234)株式会社シーテック (6)
【Fターム(参考)】