説明

万年筆、筆記ユニットおよびケース

【課題】優れた意匠性を有する万年筆を提供する。
【解決手段】万年筆10は、筆記ユニット50と、筆記ユニットを取り出し可能に収容するケース15と、を有する。筆記ユニットは、ペン先56を有した筆記体55と、筆記体を取り出し可能且つ摺動可能に収容する収容体60と、収容体に動作可能に設けられた動作体70と、を有する。ケースは、ケース本体20と、ケース本体に取り外し可能に装着されるケース蓋体35と、ケース本体に動作可能に設けられた操作体40と、を有する。動作体は、筆記ユニットがケースに収容された状態において、操作体と係合して操作体のケース本体に対する動作にともなって動作可能である。動作体が動作すると、ペン先が突出して筆記可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、万年筆に係り、とりわけ、意匠性に優れた万年筆に関する。また本発明は、意匠性に優れた万年筆に用いられる筆記ユニットおよびケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記用具として万年筆が使用されてきた(例えば特許文献1)。万年筆は、インクを貯留可能な軸胴と、軸胴の先端に設けられたペン先と、を有しており、軸胴の内部にインクを補充することによって半永久的に使用され得る。多くの万年筆は、インクの乾燥やインクの飛散を防止する目的から、キャップを有している。また、インクの補充やメンテナンスを容易に行うことを可能にする等の目的から、一般的に、万年筆は軸方向に分割可能な構造を有しており、万年筆の軸胴には周状のつなぎ目が視認されるようになる。
【0003】
このように、従来の多くの万年筆は、万年筆特有の問題から、他の筆記具等と比較して構造を制約されてきた。結果として、従来の万年筆の外観デザインを大幅に変化させて、新たな優れた意匠性を付与することは行われ得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−176110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、優れた意匠性を有する万年筆を提供することを目的とする。また、本発明は、万年筆に優れた意匠性を付与することを可能にする万年筆用のケースおよび筆記ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による万年筆は、
ペン先を有した筆記体と、前記筆記体を取り出し可能且つ摺動可能に収容し、前記ペン先が出入する開口を形成された収容体と、前記収容体の前記開口を開閉可能に前記収容体に取り付けられ前記開口を閉鎖するように付勢された閉鎖蓋と、前記収容体に動作可能に設けられた動作体と、を有する、筆記ユニットと、
前記筆記ユニットを取り出し可能に収容するケースであって、前記筆記ユニットの前記開口から出た前記ペン先が通過する先端開口を形成されたケースと、を備え、
前記ケースは、軸方向に延びる側開口であって前記筆記ユニットの取り出しを可能にするための側開口を形成されたケース本体と、前記ケース本体に取り外し可能に装着されるケース蓋体と、前記ケース本体に動作可能に設けられた操作体と、を有し、
前記動作体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容された状態において、前記操作体と係合して前記操作体の前記ケース本体に対する動作にともなって動作可能であり、
前記操作体を介して前記動作体を動作させることによって、前記筆記体の前記ペン先が前記ケースの前記先端開口から延び出る使用状態と、前記筆記体の前記ペン先が前記筆記ユニット内に位置するとともに前記収容体の前記開口が前記閉鎖蓋によって閉鎖された不使用状態と、のいずれかに維持することが可能である。
【0007】
本発明による万年筆において、
前記ケース本体および前記ケース蓋体は、軸方向に延びる凸条をそれぞれ有し、前記ケース本体および前記ケース蓋体の前記凸条は、前記ケース本体および前記ケース蓋体が重ね合わされた状態で軸方向に相対移動することによって係合して、軸方向に直交する径方向への前記ケース本体および前記ケース蓋体の相対移動を規制し、
前記ケース本体および前記ケース蓋体のいずれか一方にくぼみが形成され、前記ケース本体および前記ケース蓋体の他方の前記くぼみに対面する位置に係止突起が設けられており、前記くぼみと前記係止突起は、前記ケース本体および前記ケース蓋体の前記凸条が互いに係合した状態で前記ケース本体および前記ケース蓋体が軸方向に相対移動することによって係合して、軸方向への前記ケース本体および前記ケース蓋体の相対移動を規制するようにしてもよい。
【0008】
本発明による万年筆において、
前記係止突起は前記ケース本体に一対設けられ、前記くぼみは前記ケース蓋体に一対設けられ、
前記ケース本体は、前記ケースの外表面をなす外材と、前記外材の内側に配置された内材と、前記外材の内面に沿って延びるU字状の金属片と、を含み、
前記金属片の両端が前記一対の係止突起を形成し、前記金属片の前記両端の間の部分は前記外材と前記内材とに挟まれるようにしてもよい。
【0009】
本発明による万年筆において、
前記筆記ユニットは、軸方向へ摺動可能に前記収容体に設けられた位置決め片と、前記収容体内に設けられ前記収容体の内壁と前記位置決め片との間で軸方向に圧縮された弾性部材と、を有し、
前記筆記ユニットが前記ケースに収容された際に、前記位置決め片は、前記弾性部材によって軸方向へ付勢されて前記ケースの内壁に当接するようにしてもよい。
【0010】
本発明による万年筆において、
前記筆記ユニットは、前記動作体上に設けられ前記動作体に対して摺動可能な摺動体と、前記摺動体を付勢する弾性部材と、をさらに有し、
前記摺動体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容された際に、前記弾性部材によって前記操作体に向けて付勢され、前記操作体と係合し且つ前記操作体の動作にともなって摺動し、
前記ケース本体は、前記摺動体の摺動を案内するガイドを有し、前記摺動体は、前記ガイドと係合する係合部を有し、
前記係合部は、前記ガイドに沿った移動可能な範囲内の一部の区間において、ガイドから離脱可能となっていてもよい。
【0011】
本発明による万年筆において、前記筆記ユニットが前記ケースに収容され且つ前記不使用状態にある場合において、前記摺動体が前記弾性部材の付勢に抗して前記操作体から最も離間する位置およびその近傍の位置に配置されると、前記摺動体の前記係合部が前記ケース本体の前記ガイドから離脱可能となっていてもよい。
【0012】
本発明による万年筆において、
前記操作体は、前記ケース本体の内壁に面する第1面と前記第1面の反対側面であって前記摺動体に面する第2面とを有する本体部と、前記第1面および前記第2面を結ぶ方向に前記本体部を貫通し前記本体部に対して摺動可能なピンと、を有し、
前記ピンは、前記第1面の側から突出するように前記第2面の側から前記第1面の側へ向けて付勢されており、
前記ケース本体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容され且つ前記不使用状態にある場合に前記操作体の前記ピンと対面する位置に、前記本体部の前記第1面から突出した前記ピンを受ける係止凹部を形成されていてもよい。
【0013】
本発明による万年筆において、前記摺動体は、前記操作体の前記ピンと対面する位置に、前記本体部の前記第2面から突出した前記ピンを受ける連結凹部を形成されていてもよい。
【0014】
本発明による万年筆において、
前記筆記ユニットは、前記収容体内に設けられ前記筆記体を前記開口から離間する方向へ付勢する主弾性部材と、前記収容体内における前記筆記体と前記動作体との間に設けられた中間部材と、をさらに有し、
前記収容体の内壁には、前記中間部材と係合可能な係合段が設けられ、
前記中間部材は、前記動作体の動作にともなって、前記係合段と係合し或いは前記係合段との係合を解除され、前記係合段と係合した場合に前記筆記体を前記使用状態の位置に配置する係止位置に係止され、前記係合段との係合を解除されると前記主弾性部材によって前記係止位置から前記動作体の側へ向けて弾発され、
前記動作体と前記中間部材との間に、前記主弾性部材の前記弾発力を吸収するための吸収機構が設けられていてもよい。
【0015】
本発明による万年筆において、前記ケース蓋体の裏面にクッション材が設けられていてもよい。
【0016】
本発明による万年筆において、
前記ケースは、前記ケース本体および前記ケース蓋体のいずれか一方に装着されたクリップをさらに有し、
前記クリップは、前記ケース本体および前記ケース蓋体のいずれか一方への装着位置から離間した位置において前記ケース本体またはケース蓋体に当接するようになる当接部を有し、
前記ケース本体またはケース蓋体は、前記ケースの外表面をなす金属製の外材を含み、当該外材の前記当接部に対面する位置に孔が形成されていてもよい。
【0017】
本発明による万年筆において、
前記ケース本体は、軸方向の端部に前記先端開口を画成する筒状部を有し、
前記ケース蓋体は、前記ケース本体に装着された際に前記ケース本体の前記筒状部内に挿入される引っ掛け突起を有し、
前記操作体の前記本体部には前記引っ掛け突起が挿入可能な大きさの受け溝が形成されていてもよい。
【0018】
本発明による筆記ユニットは、上述したいずれかの本発明による万年筆に組み込まれた筆記ユニットである。
【0019】
本発明によるケースは、上述したいずれかの本発明による万年筆に組み込まれたケースである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、万年筆の外観の意匠性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、不使用状態における万年筆を示す縦断面図である。
【図2】図2は、使用状態における万年筆を示す縦断面図である。
【図3】図3は、万年筆の筆記ユニットを示す縦断面図である。
【図4】図4は、万年筆のケースのケース本体を示す縦断面図である。
【図5】図5は、万年筆のケースのケース蓋体を示す縦断面図である。
【図6】図6は、万年筆のケースを示す横断面図であって、図4および図5におけるA−Aでのケースの断面を示している。
【図7】図7は、ケース本体からケース蓋体を取り外した状態を示す斜視図である。
【図8】図8は、ケースから筆記ユニットを取り出した状態を示す斜視図である。
【図9】図9は、ケースのケース本体と筆記ユニットの摺動体との係合を解除した状態を示す縦断面図である。
【図10】図10は、ケースのケース本体と筆記ユニットの摺動体との係合を解除する前の状態を示す縦断面図である。
【図11】図11は、筆記ユニットを示す縦断面図である。
【図12】図12は、筆記ユニットの中間部材と係合段との間での係合を説明するための模式図である。
【図13】図13は、図6に対応する図であって、ケースの一変形例を説明するための図である。
【図14】図14は、万年筆の部分縦断面図であって、ケースの操作体の一変形例を説明するための図である。
【図15】図15は、図14に示された操作体の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図12は、本発明の一実施の形態を説明するための図であり、図13〜図15は、図1〜図12に示された一実施の形態に対する変形例を説明するための図である。以下、図面を参照しながら、図示された本発明の一実施の形態に係る万年筆およびその変形例について説明する。
【0023】
図1〜図12に示すように、万年筆10は、筆記ユニット50と、筆記ユニット50を取り出し可能に収容するケース15と、を有している。筆記ユニット50は、インクを貯蔵するインク貯蔵部57およびインク貯蔵部57からインクを供給されるペン先56を有した筆記体55と、筆記体55を取り出し可能且つ摺動可能に収容し、ペン先56が出入する開口60aを形成された収容体60と、収容体60の開口60aを開閉可能に収容体60に取り付けられ開口60aを閉鎖するように付勢された閉鎖蓋68と、収容体60に動作可能に設けられた動作体(スライドカム)70と、を有している。一方、ケース15は、軸方向に延びる側開口20aを形成されたケース本体20と、ケース本体20に取り外し可能に装着されるケース蓋体(ドア)35と、ケース本体20に動作可能に設けられた操作体40と、を有する。万年筆10は長手方向を有しており、本明細書ではこの長手方向を軸方向と呼ぶ。また、軸方向におけるペン先56の側(方)を前側(前方)と呼び、軸方向におけるペン先56とは反対の側(方)を後側(後方)と呼ぶ。
【0024】
筆記ユニット50の動作体70は、筆記ユニット50がケース15に収容された状態において、ケース15の操作体40と係合して操作体40のケース本体20に対する動作にともなって動作可能となっている。そして、操作体40を介して動作体70を動作させることによって、筆記体55のペン先56がケース15の先端開口15aから延び出る使用状態(筆記状態)と、筆記体55のペン先56が収容体60内に位置するとともに収容体60の開口60aが閉鎖蓋68によって閉鎖された不使用状態(携帯状態)と、のいずれかに維持することが可能となっている。以下、万年筆10の構成および動作をより詳細に説明する。
【0025】
まず、万年筆10のケース15の構成を説明する。図4に示すように、ケース15のケース本体20は、筆記ユニット50の前方端部を周囲から包囲する筒状部27を有し、この筒状部27の前方端部に、先端開口15aが形成されている。また、図4に示すように、ケース本体20の側方には側開口20aが形成されている。側開口20aは、軸方向に後端まで延びており、ケース本体20上に装着される筆記ユニット50が通過可能な大きさとなっている。
【0026】
図6に示すように、ケース蓋体35は、ケース本体20の側開口20aを塞ぐようにして、ケース本体20に装着され得るようになっている。図4〜図7に示すように、ケース本体20およびケース蓋体35は、それぞれ、軸方向に延びる凸条28,36を有している。ケース本体20の凸条28およびケース蓋体35の凸条36は、ケース本体20およびケース蓋体35が重ね合わされた状態で軸方向に相対移動することによって係合するようになっている。この凸条28,36の係合によって、軸方向に直交する径方向へのケース本体20およびケース蓋体35の相対移動が規制されるようになる。
【0027】
また、図4〜図7に示すように、ケース本体20およびケース蓋体35のいずれか一方にくぼみ37が形成され、ケース本体20およびケース蓋体35の他方のくぼみ37に対面する位置に係止突起23aが設けられている。図示された例では、ケース本体20に係止突起23aが設けられ、ケース蓋体35にくぼみ37が形成されている。くぼみ37と係止突起23aは、ケース本体20およびケース蓋体35の凸条28,36が互いに係合するようにしてケース本体20およびケース蓋体35が軸方向に相対移動することによって係合することができる。そして、この係止突起23aとくぼみ37との係合によって、軸方向へのケース本体20およびケース蓋体35の相対移動が規制されるようになる。
【0028】
このように一対の凸条28,36による係合と、くぼみ37および係止突起23aによる係合と、によって、ケース本体20およびケース蓋体35の間での軸方向および径方向の両方向への相対移動が規制され、ケース本体20へのケース蓋体35の装着が安定して維持され得る。これにより、意図せずケース蓋体35がケース本体20から外れてしまうことをより効果的に抑制することができる。とりわけ、図示された例では、くぼみ37が凸条36の上面に形成されている。すなわち、くぼみ37および係止突起23aは、凸条28および凸条36の係合によって意図しない変形が効果的に抑制された部位にて、互いに係止されることになる。このため、意図しない外力が加えられたとしても、係止突起23aとくぼみ37との係合状態が安定して維持されるようになり、ケース蓋体35がケース本体20から意図せず外れてしまうことをより効果的に防止することができる。
【0029】
図4に示すように、ケース本体20は、ケース15の外表面をなす外材21と、外材21の内側に配置された内材22と、外材21の内面に沿って延びるU字状の金属片23と、を有している。そして、金属片23の端部が、ケース蓋体35のくぼみ37と係合する係止突起23aをなしている。図6および図7に示すように、金属片23は、係止突起23aの両端を除くその一部分を、好ましくは両端以外のすべての部分を、外材21と内材22とに挟まれている。このような構成によれば、金属片23の端部が、所望の弾性を長期にわたって維持することが可能となり、これにより、ケース蓋体35がケース本体20から意図せず外れてしまうことを安定して防止することができる。
【0030】
図5に示すように、ケース蓋体35も、ケース15の外表面をなす外材35aと、外材35aの内側に配置された内材35bと、を有している。ケース本体20およびケース蓋体35が、外材21,35aと内材22,35bとを有することから、ケース15に所望の剛性を付与し得るように内材22,35bを設計しながら、ケース15に優れた意匠性を付与し得るように外材21,35aを設計することができる。
【0031】
図4,図8および図9に示すように、ケース本体20は、操作体40を支持するためのガイド25を有している。ガイド25は、ケース本体20の内壁の互いに対向する位置に一対設けられ、軸方向に沿って直線状に延びている。各ガイド25は、一対のレール25a,25bから構成されており、図4に示すように、側開口20aよりのレール25aは欠損部25a1において途切れている。
【0032】
図9に示すように、ケース本体20上で動作可能な操作体40は、各ガイド25の一対のレール25a,25bに配置される一対のスライド係合条43を有している。スライド係合条43は、直線状に延びていて、ガイド25に対して摺動可能となっている。このスライド係合条43をガイド25に嵌め込むことによって、操作体40が、摺動可能にケース本体20に装着されている。
【0033】
図1および図2に示すように、操作体40は、スライド係合条43を設けられた本体部41と、ケース本体から突出したノブ42と、本体部41に内蔵されたピン45と、を有している。本体部41は、ケース本体20の内壁に面する第1面41aと、第1面41aの反対側面であって筆記ユニット50の後述する摺動体90に面する第2面41bと、を有している。ピン45は、第1面41aおよび第2面41bを結ぶ方向に延び、且つ、当該方向に摺動可能となっている。ピン45は、本体部41を貫通する長さを有しており、第1面41aおよび第2面41bのいずれかから突出している。ピン45は、バネ等の弾性部材(図示せず)によって、第1面41aの側から突出するように第2面41bの側から第1面41aの側へ向けて付勢されている。
【0034】
一方、ケース本体20には、本体部41の第1面41aから突出したピン45を受ける係止凹部20bが形成されている。図1に示すように、ピン45は、操作体40がケース本体20に対して摺動可能な範囲のうち軸方向において最も後方側によった位置に配置された際に、ケース本体20の係止凹部20bに対面して係止凹部20b内に進入することとなる。なお、筆記ユニット50がケース15に収容され且つ不使用状態にある場合に、操作体40がケース本体20に対して摺動可能な範囲のうち軸方向において最も後方側によった位置に配置され、ピン45が係止凹部20bに延び入るようになる。ピン45が係止凹部20と係合すると、操作体40はケース本体20に対して自由に動作することを規制される。
【0035】
ただし、ピン45の係止凹部20b側の先端は曲面状に形成されている。また、ピン45が係止凹部20bに係合した状態から操作体40を動作させる際に、ピン45が接触するようになる係止凹部20bの面は傾斜面となっている。このため、操作体40に対して軸方向前方に意図的に操作力を加えると、ピン45と係止凹部20bとの係合が解除され、操作体40をケース本体20に対して摺動させることができる。
【0036】
さらに、ケース15は、ケース本体20およびケース蓋体35のいずれか一方に装着されたクリップ30を有している。図示された例において、クリップ30は、ケース本体20に装着され、ケース本体20への装着位置から離間した位置においてケース本体20に当接するようになる当接部31aを有している。ケース本体20の外材21には、当接部31aに対面する位置に貫通孔33が形成されている。従来、クリップの当接部によって、金属からなる万年筆の外表面、とりわけ、梨地処理等の高級感を増すための表面処理がなされた万年筆の外表面に、傷がついてしまうことがあり、結果として、万年筆の高級感が大きく損ねられてしまっていた。このような問題に対し、当接部31aに対面するようになる外材21の部位に貫通孔33を設けた場合には、クリップ30に起因した傷の発生を防止することができ、結果として、万年筆の高級感を維持することができる。
【0037】
次に、筆記ユニット50について説明する。上述したように、筆記ユニット50は、開口60aを有した収容体60と、収容体60内に取り出し可能に収容された筆記体55と、収容体60に設けられた動作体70と、を有している。筆記体55は、インクを貯蔵するインク貯蔵部57と、インク貯蔵部57からインクを供給されるペン先56と、を有している。収容体60は、互いから分離可能に連結された前筒61および後筒62とから構成されている。前筒61には、筆記体55のペン先が通過する開口(前方開口)60aが形成されている。そして、開口60aを閉鎖するための開閉蓋68が、前筒61に揺動可能に設けられている。開閉蓋68は、例えば捻りバネからなる弾性部材(閉鎖弾性部材)69によって、開口60aを塞ぐ位置に向けて付勢されている。動作体70は、収容体60の後筒62の後端に形成された後方開口を介してその一部分が収容体60の外部に延び出ている。動作体70は、収容体60に対して軸方向に摺動可能となっている。
【0038】
図3に示すように、筆記ユニット50は、収容体60内に設けられ筆記体55を開口60aから離間する方向へ付勢する主弾性部材(例えば、バネ)51と、収容体60内における筆記体55と動作体70との間に設けられた中間部材80と、をさらに有している。主弾性部材(主バネ)51は、筆記体55、中間部材80および動作体70を軸方向に沿って後方に付勢している。また、収容体60の内壁には、中間部材80と係合可能な係合段64が設けられている。中間部材80がこの係合段64との係合することによって、閉鎖蓋68を押し開いて筆記体55のペン先56が収容体60の開口60aから突出した状態に維持されるようになっている。とりわけ、図示する例においては、動作体70によって中間部材80を操作することにより、筆記ユニット50が、閉鎖蓋68を押し開いて筆記体55のペン先56が収容体60の開口60aから突出した状態と、筆記体55が収容体60内に配置され閉鎖蓋68が開口60aを閉鎖した状態と、を交互に取るようになる。このような動作体70の操作によるペン先56の繰り出し(ノック式の繰り出し)は、一例として、図11および図12に示された構成によって実現され得る。以下、図11および図12を参照しながら、ペン先の繰り出し機構の一例について説明する。
【0039】
図12に示すように、収容体60の後筒62の内壁に、軸方向に延びる第1係合溝65aと、第1係合溝65aとは異なる深さの第2係合溝65bと、が形成されている。第1係合溝65aおよび第2係合溝65bは、収容体60の内壁に、周方向に沿って一定のピッチで交互に形成されている。一方、図11および図12に示すように、動作体70には、係合溝65a,65b内を軸方向に摺動可能な案内突起71が、周方向に、係合溝65a,65bと同一ピッチで形成されている。案内突起71と係合溝65a,65bとの係合によって、動作体70が収納体60に対して軸方向に摺動可能となっている。動作体70の軸方向における前方側の端面は、凹凸面として形成され、案内突起71から軸方向にずれた位置に凹凸面の凸部72が設けられている。動作体70は、スライドカムとして機能し、凸部72を介して中間部材80を動作させる。
【0040】
図11および図12に示すように、中間部材80は、凸部72と接触するカム突起81であって半径方向に突出したカム突起81を有している。カム突起81は、第1係合溝65aと同一ピッチ、言い換えると、第2係合溝65bと同一ピッチで周方向に設けられている。すなわち、カム突起81の周方向への配置ピッチは、動作体70の凸部72の周方向への配置ピッチの2倍となっている。カム突起81は、図12の左側図に示すように第2係合溝65b内を摺動し得るように構成され、その一方で、図12の右側図に示すように第2係合溝65bよりも浅い第1係合溝65a内には入り込めないように構成されている。動作体70の凸部72と接触するようになるカム突起81の接触面(軸方向の後側の面)82は、一定方向に傾斜した傾斜面として形成されている。また、収容体60の後筒62に形成された係合段64は、隣り合う二つの第2係合溝65bの間に設けられ、中間部材80のカム突起81の接触面82に軸方向後方から接触するようになる。係合段64は、鋸歯状に形成されて、カム突起81の接触面82と同じ側に傾斜した摺動面82aと、軸方向に延び二つの摺動面82aの間を接続する係止面82bと、を有している。
【0041】
このような構成によれば、中間部材80のカム突起81が収容体60の第2係合溝65bに対面する場合、主弾性部材51からの付勢力により、カム突起81が第2係合溝65b内を摺動して、中間部材80が収容体60に対して軸方向後方に摺動する(図12の左側図)。このとき、筆記体55も、主弾性部材51からの付勢力によって中間部材80とともに軸方向後方に摺動し、筆記体55が完全に収容体60内に配置され、開口60aが閉鎖蓋68によって閉鎖される。
【0042】
この状態から、動作体70を軸方向前方に摺動させていくと、中間部材80のカム突起81が収容体60の第2係合溝65bから軸方向前方に抜け出す。このとき、主弾性部材51の付勢力は、中間部材80のカム突起81の傾斜した接触面82が動作体(スライドカム)70の凹凸面の凸部72に対して摺動するよう、中間部材80を回転させる。図12の右側図に示すように、中間部材80の回転は、接触面82が係止段64の摺動面64a上をすべって、カム突起81が係止段64の係止面64bによって係止されるまで、継続される。図11および図2に示すように、カム突起81が係止段64の係止面64bによって係止された状態において、中間部材80は、筆記体55とともに、収容体60に対して軸方向前方に摺動している。そしてこのとき、筆記体55のペン先56は、閉鎖蓋68を押し開いて、収容体60の開口60aから延び出した状態に維持される。この状態のとき、図12の右側図に示すように、カム突起81は、第1係合溝65aに対面する位置に配置されている。
【0043】
図12の右側図の状態から、さらに動作体70を軸方向前方に摺動させると、中間部材80のカム突起81が係合段64の係止面64bを乗り越え、中間部材80が再び回転可能となる。図12の左側図に示すように、中間部材80の回転は、接触面82が係止段64の摺動面64a上をすべって、カム突起81が収容体60の第2係合溝65bに入り込むまで継続される。以上にようにして、動作体70を動作させることによって、回転カムとして機能する中間部材80と係合段64との係合、並びに、中間部材80と係合段64との係合解除が繰り返され、ペン先56が収容体60からの出没を繰り返すことになる。
【0044】
引き続き、筆記ユニット50の構成について説明する。図3に示すように、中間部材80は、軸方向後方に延び出る軸部分83を有している。一方、動作体70は、中間部材80の軸部分83を受ける中空部分73を有している。軸部分83は外径が拡大した拡径部83aを有し、中空部分73は内径が縮小した縮径部73aを有している。このため、図2に示すように、中間部材80の軸部分83は、動作体70の中空部分73から抜け出さないようになっている。また、中間部材80と動作体70との間には、軸方向に圧縮された弾性部材(例えば、バネ)79が設けられている。なお、中間部材80と動作体70との間の弾性部材(内部弾性部材)79の付勢力は、主弾性部材51の付勢力よりも小さい。このため、中間部材80は、動作体70の動作にともなって係合段64との係合を解除されると、主弾性部材51によって、係合段64に係止された係止位置から動作体70へ向けて弾発される。そして、このような弾発力を吸収するため、動作体70と中間部材80との間に、より詳しくは動作体70の中空部分73内に、主弾性部材51の弾発力を吸収するための吸収機構97が設けられている。吸収機構97は、例えば、図3に示されたバネ等の弾性部材と弾性部材に支持された受け部材との組み合わせ構造、バネ等の弾性部材、低反発材かなる部材等から構成され得る。
【0045】
また、図3および図8に示すように、筆記ユニット50は、動作体70上に設けられ動作体70に対して摺動可能な摺動体90と、摺動体90と動作体70との間に配置された弾性部材(例えば、バネ)89と、をさらに有している。摺動体90と動作体70との間の弾性部材(誘導弾性部材)89は、摺動体90を軸方向後方に付勢している。摺動体90は、動作体70上に設けられた筒状スライダー92と、筒状スライダー92に連結されたノブカバー91と、を有している。
【0046】
図1および図2に示すように、ノブカバー91は、筆記ユニット50がケース15に収容された際に、弾性部材89の付勢力によって操作体40の本体部41を第2面41bの側から覆う位置に配置される。そして、ノブカバー91は、操作体40のピン45と対面する位置に、操作体40の本体部41の第2面41bから突出したピン45を受ける連結凹部94を形成されている。したがって、操作体40を軸方向前方に摺動させると、ピン45が本体部41の第2面41bから突出して、ノブカバー91の連結凹部94に入り込む。このため、摺動体90は、筆記ユニット50がケース15に収容された状態において操作体40を操作する際に、操作体40と係合し且つ操作体40の動作にともなって摺動するようになる。
【0047】
また、図8〜図10に示すように、摺動体90は、ケース本体20に設けられた一対のガイド25とそれぞれ係合する一対の係合部(係合突出部)93を有している。各係合部93は、対応する側のガイド25をなす一対のレール25a,25bの間を軸方向に摺動することができる。そして、係合部93は、ガイド25に沿った移動可能な範囲内の一部の区間において、具体的には、下側レール25aに形成された欠損部(切欠部)25a1において、ガイド25から離脱可能となっている。このため、筆記ユニット50の摺動体90がケース本体20のガイド25と係合することによって、筆記ユニット50がケース本体20から意図せず外れてしまうことを効果的に防止することができる。また、操作体40と同様に摺動体90の動作もガイド25に案内されることになるので、操作体40および摺動体90の動作がスムースになる。
【0048】
とりわけ、図示された例では、筆記ユニット50がケース15に収容され且つ不使用状態にある場合において、すなわち、筆記ユニット50がケース15に収容され且つ中間部材80のカム突起81が収容体60の係合段64に係止されていない場合において、摺動体90が弾性部材89の付勢に抗して操作体40から最も離間する位置およびその近傍の位置に配置されると、摺動体90の係合部93がガイド25の欠損部25a1に対面しガイド25から離脱可能となる。言い換えると、筆記ユニット50がケース15に収容され且つ不使用状態にある場合において、万年筆10に外力が加えられていないとき、摺動体90は、弾性部材89からの付勢によって、係合部93がケース本体20のガイド25から離脱不可能となる位置に配置される。したがって、筆記ユニット50がケース本体20から意図せず外れてしまうことを効果的に防止することができる。その一方で、摺動体90を軸方向前方に押し切ったところで、筆記ユニット50の摺動体90がケース本体20のガイド25から離脱可能となるので、筆記ユニット50のケース本体20からの取り外しを容易に行うこともできる。
【0049】
さらに、図1,図2および図8に示すように、筆記ユニット50は、収容体60に軸方向へ摺動可能に設けられた位置決め片(位置決め部材)66と、収容体60内に設けられ収容体60の内壁と位置決め片66との間で軸方向に圧縮された弾性部材(例えば、バネ)67と、を有している。図8から理解され得るように、位置決め片66は、動作体70に貫通された筒状の部材として構成されている。筆記ユニット50がケース15に収容された際に、位置決め片66は、弾性部材(位置決め弾性部材)67によって軸方向後方へ付勢されてケース15の内壁、より詳しくは、ケース本体部20の位置決め段29(図4参照)に当接する。このような構成によって、ケース15内において筆記ユニット50を軸方向に位置決めすることができる。
【0050】
なお、筒状の位置決め片66を貫通する動作体70は、Oリング78を保持している。そして、図1に示すように、中間部材80のカム突起81が収容体60の係合段64に係止されていない場合、主弾性部材51に付勢された動作体70は、Oリング78を介して、位置決め片66を軸方向後方へ付勢する。つまり、不使用状態の際、位置決め片66は、位置決め片66と収容体60との間の弾性部材67からだけでなく、さらに主弾性部材51からも、ケース15の内壁に向けて押圧されるようになる。したがって、万年筆10を携帯する際等に、ケース15内で筆記ユニット50が動いてしまうことが効果的に抑制され、インクの飛散等を効果的に防止することができる。なお、Oリング78は、閉鎖蓋68と同様に、不使用状態時における収容体60内でのインクの乾きを抑制する。
【0051】
また、ケース15内における径方向への筆記ユニット50の位置決めを行うため、ケース15内にクッション材を設けるようにしてもよい。例えば、ケース15のケース蓋体35の内面や、ケース本体20の内面にクッション材を接着しておくようにしてもよい。さらに、ケース15内における周方向への筆記ユニット50の位置決めを行うため、筆記ユニット50およびケース15に凹凸等の係合構造を形成しておくようにしてもよい。
【0052】
次に、以上の構成からなる万年筆10の動作について説明する。まず、筆記ユニット50がケース15内に収容された状態において、図1の不使用状態から図2の使用状態、又は、使用状態から不使用状態に切り換える場合、操作体40のノブ42に指を置いて、操作体40を軸方向前方に押圧する。操作体40は、摺動体90ともに摺動し、動作体70に接触して動作体70を軸方向下方に動作させる。これにより、万年筆10を不使用状態から使用状態に切り換えることができる。使用状態において、筆記体55のペン先56が万年筆10の先端開口15a突出し、この万年筆10を用いた筆記が可能となる。筆記が終了した場合、操作体40を軸方向前方に再度押圧して動作体70を動作させることにより、万年筆10を使用状態から不使用状態に切り換えることができる。不使用状態において、収容体60の開口60aは閉鎖蓋68によって閉鎖され、また、主弾性部材51の付勢力を利用して収容体60の後方の隙間がOリング78で塞がれる。これにより、インクのドライアップが効果的に防止されるようになる。
【0053】
なお、操作体40を操作する際、操作体40は、ピン45を介して摺動体90と係合され且つ摺動体90とともにガイド25に動作を誘導される。したがって、動作体40を安定してスムースに動作させて、万年筆10を不使用状態から使用状態、並びに、使用状態から不使用状態へと安定して切り換えることができる。
【0054】
また、使用状態から不使用状態に切り換える際、中間部材80のカム突起81の収容体60の係合段64への係合が解除されると、主弾性部材51によって、筆記体55とともに中間部材80が動作体70へ向けて弾発されることになる。このとき、中間部材80が動作体70に高速で衝突することの不具合、例えば、衝突音の発生、さらには中間部材80や動作体70の破損が予想される。とりわけ、通常のノック式の筆記具では、ノック操作を行うためのノック体に主弾性部材の弾発力が加えられる際、使用者の指がノック体上に載っている。したがって、この指が、軸方向に加えられる主弾性部材の弾発力を、軸方向から受けることになり、衝突力や異音が指に吸収されることになる。その一方で、ここで説明する万年筆10では、デザイン性等を考慮すると、主弾性部材51からの弾発力が加えられる軸方向から使用者の指が動作体70を支持しにくくなることも想定される。またここで説明する万年筆10では、筆記ユニット50の開閉蓋68と開口60との間でペン先56が挟持されないように、主弾性部材51の弾発力が比較的強く設定されていることが好ましい。そのため、ここで説明した万年筆10では、動作体70と中間部材80との間に、主弾性部材51の弾発力を吸収するための吸収機構97が設けられている。この吸収機構97によって、中間部材80が動作体70に高速で衝突することの不具合を効果的に防止することができる。
【0055】
さらに、不使用状態において、操作体40は、弾性部材89によって、摺動体90とともに軸方向後方に付勢される。また、操作体40は、弾性部材89によって軸方向後方に付勢された場合に、ピン45が係止凹部20b内に入り、自由な移動を規制されるようになる。すなわち、不使用状態において、操作体40は所定の位置に保持されるようになる。これにより、万年筆10を携帯する際等に、操作体40が意図せずノックされて動作体70を介して筆記ユニット50の筆記体55が収容体60内で動いてしまうことを、効果的に防止することができる。
【0056】
次に、筆記ユニット50をケース15から取り外す際の動作を説明する。まず、ケース本体20からケース蓋体35を取り外す。ケース蓋体35が取り外されたとき、摺動体90は弾性部材89によって操作体40とともに軸方向後方に付勢されている。この状態から、図10に示すように、弾性部材89の付勢力に抗して操作体90を軸方向前方へ摺動させる。このとき、操作体40はピン45を介してケース本体20に係止されており、且つ、操作体40と摺動体90とは係合されていないので、操作体90のみを安定して容易に移動させることができる。したがって、操作体90を移動可能な範囲のうちの軸方向に沿った最前方の位置まで移動させ、操作体90の突出部93をケース本体20のガイドレール25の欠損部25a1に対面させることができる。このような簡単な操作を経て、操作体90のケース本体20への係合を解除して、ケース本体20から筆記ユニット50を取り外すことができる。なお、筆記体55は不使用状態において収容体60内に収容されているため、筆記ユニット50の外表面には飛散したインクが付着し辛くなっている。したがって、万年筆10の使用者は、以上の作業を極めて容易に行って筆記ユニット50をケース15から取り出すことができ、そしてその後、インクの補充やペン先の筆記体55のメンテナンス等を行うことができる。
【0057】
ところで、図5に示すように、ケース蓋体35は、ケース本体20に装着された際にケース本体20の筒状部27内に挿入される引っ掛け突起38を有している。一方、図8に示すように、操作体40の本体部41には、ケース蓋体35の引っ掛け突起38が挿入可能な大きさの受け溝(引っ掛け溝)44が形成されている。そこで、ケース蓋体35の引っ掛け突起38を、操作体40の本体部41の受け溝44に挿入して摺動体90のノブカバー91に引っ掛けることにより、ケース本体20から筆記ユニット50を容易に取り出すことができる。
【0058】
次に、筆記ユニット50をケース15に取り付ける場合の動作を説明する。まず、図9に示すように、筆記ユニット50の前方端部をケース本体20の筒状部27に挿入する。その後、摺動体90の突出部93がケース本体20のガイド25の欠損部25a1に対面するように、摺動体90を摺動させる。次に、欠損部25a1を介して一対のレール25a,25b間に突出部93を挿入させるようにして、筆記ユニット50をケース本体20上へ配置する。これにより、摺動体90がケース本体20のガイド25に係合した状態で、筆記ユニット50がケース本体20に収容される。またこのとき、弾性部材67によって付勢された位置決め片66がケース15の位置決め段29と係合し、筆記ユニット50がケース15内で自動的に位置決めされる。さらに、筆記ユニット50をケース本体20に装着している間、ケース本体20上の操作体40は、ピン45を介して所定の位置に係止されている。したがって、筆記ユニット50をケース本体20に容易に装着することができる。
【0059】
その後、ケース蓋体35をケース本体20上に重ね合わせ、ケース蓋体35とケース本体20とを軸方向に相対移動させる。これにより、一対の凸条28,36による係合と、くぼみ37および係止突起23aによる係合と、によって、ケース本体20およびケース蓋体35の間での軸方向および径方向への相対移動が規制され、ケース本体20へのケース蓋体35の装着が安定して維持され得る。また、ケース蓋体35がケース本体20に装着された際に、ケース蓋体35の引っ掛け突起38がケース本体20の筒状部27内に挿入される。このため、ケース本体20へのケース蓋体35の装着がさらに安定する。これらにより、意図せずケース蓋体35がケース本体20から外れてしまうことをより効果的に抑制することができる。また、筆記ユニット50は、ケース本体20に装着されると、摺動体90がケース本体20のガイド25と係合し、筆記ユニット50がケース本体20から意図せず外れてしまうことが防止される。このため、筆記ユニット50をケース本体20に収容した後、ケース蓋体35のケース本体20への取り付け作業を安定して容易に行うことができる。
【0060】
以上のような本実施の形態における万年筆10は、ペン先56が出入可能な筆記ユニット50と、筆記ユニット50を収容するケース15と、を有している。したがって、不使用状態における筆記体55からのインクの乾燥防止やインクの飛散防止等を、筆記ユニット50の構成によって実現することができる。このため、ケース15に対する構造上の制約が少なくなって、ケース15に対する設計の自由度が非常に高くなる。これにより、優れた外観上の意匠性を万年筆10に付与することができる。例えば、従来万年筆に存在していた周状のつなぎ目を万年筆10の外表面から省き、全く新しい外観上のデザインを万年筆10に付与することができる。
【0061】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いており、重複する説明を省略する。
【0062】
まず、図13に示すように、ケース本体20とケース蓋体35との係合方法を変更してもよい。図13に示された変形例では、一対の凸状28,36が省略され、ケース本体20およびケース蓋体35が、係止突起23aおよびくぼみ39のみによって互いに係止されるようになっている。図13に示された変形例において、係止突起23aは、上述した実施の形態と同様に、U字状の金属片の両端部によって形成されている。一方、くぼみ39は、ケース蓋体35の金属製の外材35aによって形成されている。ケース蓋体35の外材35aは、内材35bを三方から取り囲むように形成されている。そして、ケース本体20の係止突起23aがケース蓋体35のくぼみ39へ外方から係合した際に、ケース蓋体35の内材35bはくぼみ39をなす外材35aが内側に倒れ込むことを抑制する。また、係止突起23aおよびくぼみ39が、それ自体剛性の高い金属から構成されている。したがって、図13に示された変形例によれば、ケース蓋体35をケース本体20に対して径方向へ押し込むといった極めて簡単な操作により、ケース蓋体35をケース本体20に装着することができるとともに、ケース蓋体35をケース本体20によって安定して保持することができる。
【0063】
次に、図14および図15に示すように、操作体40を変形してもよい。図14および図15に示された変形例において、操作体40は、本体部41と、本体部41に設けられた可動ノブ部材48と、本体部41および可動ノブ部材48の間に配置された弾性部材(保持弾性部材)47と、を有している。本体部41は、上述した実施の形態と同様にスライド係合条(図示せず)を有し、ケース本体20に対して軸方向に摺動可能に装着されている。一方、上述した実施の形態とは異なり、本体部41には、固定ノブ42が設けられておらず、その代わりに可動ノブ部材48が設けられている。可動ノブ部材48は、ケース本体20に対面する基部48bと、基部48bの軸方向後端から延び出たノブ部48aと、を有している。弾性部材47は、一例として板バネとして構成され、可動ノブ部材48の基部48bをケース本体20に向けて付勢している。そして、ケース本体20は、筆記ユニット50がケース15に収容され且つ不使用状態にある場合に操作体40の可動ノブ部材48の基部48bと対面する位置に、基部48bを受ける係止凹部20cが形成されている。
【0064】
このような例においては、図14に示すように、上述した実施の形態と同様に、不使用状態において、操作体40は、弾性部材89によって摺動体90とともに軸方向後方に付勢される。そして、操作体40は、弾性部材89からの付勢力によって軸方向後方に移動させられると、弾性部材47によって付勢された可動ノブ部材48の基部48bが係止凹部20c内に入り、自由な移動を規制されるようになる。すなわち、不使用状態において、操作体40は所定の位置に保持されるようになる。
【0065】
ただし、可動ノブ部材48の基部48bが係止凹部20cに係合した状態から操作体40を動作させた際に接触を開始する基部48bおよび係止凹部20cの面は、それぞれ傾斜面として形成されている。このため、図15に示すように、操作体40に対して軸方向前方に意図的に操作力を加えると、可動ノブ部材48の基部48bと係止凹部20bとの係合が解除され、操作体40をケース本体20に対して摺動させることができる。
【0066】
加えて、図15に示すように、可動ノブ部材48が弾性部材47の付勢力に抗して本体部41に対して移動することにより、可動ノブ部材48のノブ部48aが、本体部41から突出して操作用のノブとして機能するようになる。これにより、操作体40の操作を容易に行うことが可能となる。その一方で、図14に示すように、操作体40を操作していない場合、操作体40から突出する部位が存在しなくなる。これにより、万年筆10に優れた意匠性を付与することができる。
【符号の説明】
【0067】
10 万年筆
15 ケース
15a 先端開口
20 ケース本体
20a 側開口
20b 係止凹部
21 外材
22 内材
23 金属片
23a 係止突起
25 ガイド
27 筒状部
28 凸条
30 クリップ
35 ケース蓋体、ドア
36 凸条
37 くぼみ
40 操作体
41 本体部
41a 第1面
41b 第2面
42 ノブ
45 ピン
50 筆記ユニット
51 主弾性部材、主バネ
55 筆記体
56 ペン先
60 収容体
60a 開口
64 係合段
66 位置決め片、位置決め部材
67 弾性部材(位置決め弾性部材)
68 閉鎖蓋
70 動作体、スライドカム
80 中間部材、回転カム
89 弾性部材(誘導弾性部材)
90 摺動体
93 係合部、係合突出部
94 連結凹部
97 クッション機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先を有した筆記体と、前記筆記体を取り出し可能且つ摺動可能に収容し、前記ペン先が出入する開口を形成された収容体と、前記収容体の前記開口を開閉可能に前記収容体に取り付けられ前記開口を閉鎖するように付勢された閉鎖蓋と、前記収容体に動作可能に設けられた動作体と、を有する、筆記ユニットと、
前記筆記ユニットを取り出し可能に収容するケースであって、前記筆記ユニットの前記開口から出た前記ペン先が通過する先端開口を形成されたケースと、を備え、
前記ケースは、軸方向に延びる側開口であって前記筆記ユニットの取り出しを可能にするための側開口を形成されたケース本体と、前記ケース本体に取り外し可能に装着されるケース蓋体と、前記ケース本体に動作可能に設けられた操作体と、を有し、
前記動作体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容された状態において、前記操作体と係合して前記操作体の前記ケース本体に対する動作にともなって動作可能であり、
前記操作体を介して前記動作体を動作させることによって、前記筆記体の前記ペン先が前記ケースの前記先端開口から延び出る使用状態と、前記筆記体の前記ペン先が前記筆記ユニット内に位置するとともに前記収容体の前記開口が前記閉鎖蓋によって閉鎖された不使用状態と、のいずれかに維持することが可能である、万年筆。
【請求項2】
前記ケース本体および前記ケース蓋体は、軸方向に延びる凸条をそれぞれ有し、前記ケース本体および前記ケース蓋体の前記凸条は、前記ケース本体および前記ケース蓋体が重ね合わされた状態で軸方向に相対移動することによって係合して、軸方向に直交する径方向への前記ケース本体および前記ケース蓋体の相対移動を規制し、
前記ケース本体および前記ケース蓋体のいずれか一方にくぼみが形成され、前記ケース本体および前記ケース蓋体の他方の前記くぼみに対面する位置に係止突起が設けられており、前記くぼみと前記係止突起は、前記ケース本体および前記ケース蓋体の前記凸条が互いに係合した状態で前記ケース本体および前記ケース蓋体が軸方向に相対移動することによって係合して、軸方向への前記ケース本体および前記ケース蓋体の相対移動を規制する、請求項1に記載の万年筆。
【請求項3】
前記係止突起は前記ケース本体に一対設けられ、前記くぼみは前記ケース蓋体に一対設けられ、
前記ケース本体は、前記ケースの外表面をなす外材と、前記外材の内側に配置された内材と、前記外材の内面に沿って延びるU字状の金属片と、を含み、
前記金属片の両端が前記一対の係止突起を形成し、前記金属片の前記両端の間の部分は前記外材と前記内材とに挟まれている、請求項2に記載の万年筆。
【請求項4】
前記筆記ユニットは、軸方向へ摺動可能に前記収容体に設けられた位置決め片と、前記収容体内に設けられ前記収容体の内壁と前記位置決め片との間で軸方向に圧縮された弾性部材と、を有し、
前記筆記ユニットが前記ケースに収容された際に、前記位置決め片は、前記弾性部材によって軸方向へ付勢されて前記ケースの内壁に当接する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の万年筆。
【請求項5】
前記筆記ユニットは、前記動作体上に設けられ前記動作体に対して摺動可能な摺動体と、前記摺動体を付勢する弾性部材と、をさらに有し、
前記摺動体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容された際に、前記弾性部材によって前記操作体に向けて付勢され、前記操作体と係合し且つ前記操作体の動作にともなって摺動し、
前記ケース本体は、前記摺動体の摺動を案内するガイドを有し、前記摺動体は、前記ガイドと係合する係合部を有し、
前記係合部は、前記ガイドに沿った移動可能な範囲内の一部の区間において、ガイドから離脱可能となっている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の万年筆。
【請求項6】
前記筆記ユニットが前記ケースに収容され且つ前記不使用状態にある場合において、前記摺動体が前記弾性部材の付勢に抗して前記操作体から最も離間する位置およびその近傍の位置に配置されると、前記摺動体の前記係合部が前記ケース本体の前記ガイドから離脱可能となる、請求項5に記載の万年筆。
【請求項7】
前記操作体は、前記ケース本体の内壁に面する第1面と前記第1面の反対側面であって前記摺動体に面する第2面とを有する本体部と、前記第1面および前記第2面を結ぶ方向に前記本体部を貫通し前記本体部に対して摺動可能なピンと、を有し、
前記ピンは、前記第1面の側から突出するように前記第2面の側から前記第1面の側へ向けて付勢されており、
前記ケース本体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容され且つ前記不使用状態にある場合に前記操作体の前記ピンと対面する位置に、前記本体部の前記第1面から突出した前記ピンを受ける係止凹部を形成されている、請求項5または6に記載の万年筆。
【請求項8】
前記摺動体は、前記操作体の前記ピンと対面する位置に、前記本体部の前記第2面から突出した前記ピンを受ける連結凹部を形成されている、請求項7に記載の万年筆。
【請求項9】
前記筆記ユニットは、前記収容体内に設けられ前記筆記体を前記開口から離間する方向へ付勢する主弾性部材と、前記収容体内における前記筆記体と前記動作体との間に設けられた中間部材と、をさらに有し、
前記収容体の内壁には、前記中間部材と係合可能な係合段が設けられ、
前記中間部材は、前記動作体の動作にともなって、前記係合段と係合し或いは前記係合段との係合を解除され、前記係合段と係合した場合に前記筆記体を前記使用状態の位置に配置する係止位置に係止され、前記係合段との係合を解除されると前記主弾性部材によって前記係止位置から前記動作体の側へ向けて弾発され、
前記動作体と前記中間部材との間に、前記主弾性部材の前記弾発力を吸収するための吸収機構が設けられている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の万年筆。
【請求項10】
ペン先を有した筆記体と、
前記筆記体を取り出し可能且つ摺動可能に収容し、前記ペン先が出入する開口を形成された収容体と、
前記収容体の前記開口を開閉可能に前記収容体に取り付けられ前記開口を閉鎖するように付勢された閉鎖蓋と、
前記収容体に動作可能に設けられた動作体と、を備える筆記ユニットであって、
筆記ユニットの前記開口から出た前記ペン先が通過する先端開口を形成されたケースの取り出し可能に収容されて万年筆をなし、
前記ケースは、軸方向に延びる側開口であって前記筆記ユニットの取り出しを可能にするための側開口を形成されたケース本体と、前記ケース本体に取り外し可能に装着されるケース蓋体と、前記ケース本体に動作可能に設けられた操作体と、を有しており、
前記動作体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容された状態において、前記操作体と係合して前記操作体の前記ケース本体に対する動作にともなって動作可能であり、
前記操作体を介して前記動作体を動作させることによって、前記筆記体の前記ペン先が前記ケースの前記先端開口から延び出る使用状態と、前記筆記体の前記ペン先が前記筆記ユニット内に位置するとともに前記収容体の前記開口が前記閉鎖蓋によって閉鎖された不使用状態と、のいずれかに維持することが可能である、筆記ユニット。
【請求項11】
ペン先を有した筆記体と、前記筆記体を取り出し可能且つ摺動可能に収容し、前記ペン先が出入する開口を形成された収容体と、前記収容体の前記開口を開閉可能に前記収容体に取り付けられ前記開口を閉鎖するように付勢された閉鎖蓋と、前記収容体に動作可能に設けられた動作体と、を有する筆記ユニットを取り出し可能に収容し、且つ、前記筆記ユニットの前記開口から出た前記ペン先が通過する先端開口を形成され、前記筆記ユニットともに万年筆をなすケースであって、
軸方向に延びる側開口であって前記筆記ユニットの取り出しを可能にするための側開口を形成されたケース本体と、
前記ケース本体に取り外し可能に装着されるケース蓋体と、
前記ケース本体に動作可能に設けられた操作体と、を備え、
前記動作体は、前記筆記ユニットが前記ケースに収容された状態において、前記操作体と係合して前記操作体の前記ケース本体に対する動作にともなって動作可能であり、
前記操作体を介して前記動作体を動作させることによって、前記筆記体の前記ペン先が前記ケースの前記先端開口から延び出る使用状態と、前記筆記体の前記ペン先が前記筆記ユニット内に位置するとともに前記収容体の前記開口が前記閉鎖蓋によって閉鎖された不使用状態と、のいずれかに維持することが可能である、ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−6281(P2013−6281A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138670(P2011−138670)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】