説明

三叉神経固有知覚枝刺激装置

【課題】脳を強いパルス磁場で直接刺激するような大掛かりな治療装置を用いなくても、上眼瞼の神経を極弱く刺激するだけで、全身を覚醒させたり、緊張させたり、それを維持したりできる簡便で小型の装置を提供する。
【解決手段】三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、ヒトの上眼瞼2上端を横走する三叉神経固有知覚枝6aを瞼2の表側で又は瞼2の内側で刺激する、直流電流を流す電極11a・11bと、電流を流して磁場を発生させるコイルとの少なくとも何れかの素子を、有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転時等に、瞼の内側の神経である三叉神経固有知覚枝を電気又は磁気で刺激して覚醒させたり興奮させたりする三叉神経固有知覚枝刺激装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車を長時間運転したり、単調な道路で運転し続けたりすると、緊張感が無くなって眠くなり易い。運転手は、居眠りを防止するのに、カフェインが含まれているコーヒーや紅茶を飲んだり、ガムを噛んだり、メントール等が含まれた清涼剤を舐めたりする。これらの方法は、神経を直接、刺激して眠気を醒ますのではなく、一時的な対処法に過ぎない。
【0003】
頭蓋を開頭せずに、精神疾患や脳損傷による機能不全等を治療するのに、電磁石コイルを頭皮に載せ、瞬間的に大電流をコイルに流して強力なパルス磁場を生じさせ、脳内に渦電流を誘起させ、それによって脳や脳神経を直接、刺激して治療する磁気刺激治療装置が、用いられている。例えば、特許文献1に、この治療装置に用いられるもので同一面上に二つ並置する磁気刺激コイルが、開示されている。このような治療装置は、大電流をコイルに流し厚い頭蓋を越えて安全に深部の脳にパルス磁場を生じさせるために精密で大掛かりな制御器を必要とする。
【0004】
本発明者は、上眼瞼上端を横走する末梢神経の三叉神経第一枝固有知覚枝を発見し、それが大脳皮質に到達していないにもかかわらず、電気や磁気で刺激されると、無意識的に、青班核を刺激して、覚醒させたり、緊張させたりすることを見出した。
【0005】
脳や脳神経を刺激する治療のための前記の磁気刺激治療装置を用いて、三叉神経第一枝固有知覚枝のような末梢神経を刺激するのは、磁力が強力過ぎ、この神経のみならず眼球を損傷する恐れがあり、危険である。まして大掛かりな治療装置を、眠気醒ましのような治療外の用途に簡便に用いることもできない。
【0006】
【特許文献1】特公平3−67423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、脳を強いパルス磁場で直接刺激するような大掛かりな治療装置を用いなくても、上眼瞼の神経を極弱く刺激するだけで、全身を覚醒させたり、緊張させたり、それを維持したりできる簡便で小型の装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、ヒトの上眼瞼上端を横走する三叉神経固有知覚枝を瞼の表側で又は瞼の内側で刺激する、直流電流を流す電極と、電流を流して磁場を発生させるコイルとの少なくとも何れかの素子を、有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項1に記載されたもので、前記素子が、前記瞼の表側に貼付されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項1に記載されたもので、前記ヒトの生体動態を検知するセンサーと、そのセンサーで検知した該生体動態の変化が平時でのその生体動態の変動域を超え眠気状態であることを弁別する弁別回路と、この回路に繋がり該弁別に応じてそこから発信される電流導通信号により前記電流を前記素子に流すスイッチ回路とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項3に記載されたもので、前記生体動態が、体温、血流量、血圧、脈拍、心電波形、筋電波形、脳波波形、呼吸数、発汗、瞳の動き、瞳孔の大きさ、瞬き数、瞬きの間隔、姿勢の傾き、姿勢のずれ、上体運動、及び肢体運動から選ばれる少なくとも何れかであり、前記センサーが、その生体動態の変化を検知する温度センサー、流量計、圧力計、電極、カウンター、水分計、時間計測タイマー、カメラ、傾斜計、及び/又は重量計であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項1に記載されたもので、タイマーにより又は手動で前記電流を前記素子に流すスイッチ回路を有することを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項1に記載されたもので、前記電極が、前記三叉神経固有知覚枝の末梢側で負電極、それの中枢側で正電極とすることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項1に記載されたもので、前記電極に、1〜50mAの前記直流電流を流すことを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項1に記載されたもので、前記コイルが、前記磁場を前記三叉神経固有知覚枝に向き前記磁場を発生させる単一又は複数であることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、請求項1に記載されたもので、前記コイルが、1mT〜3Tの前記磁場を発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、上眼瞼上端を横走する三叉神経第一枝固有知覚枝を、弱電流で電気刺激し、又は弱磁場で磁気刺激するものである。このような刺激をすると、三叉神経中脳路核を介し青斑核を刺激して、瞬時に、強く覚醒させたり、交感神経を緊張させたり、筋肉の不随意的収縮を増強させたりして、意識を高揚させたりして、肉体的にも精神的にも覚醒させたり興奮させたりする。
【0018】
この三叉神経固有知覚枝刺激装置は、眠気状態であることを弁別する弁別回路と連動させると、眠気状態になったときに、自動的に、電極で瞼に電流を流したり、コイルに電流を流して瞼内に磁場を発生させたりして、三叉神経固有知覚枝を刺激し、意識しなくとも、自然と覚醒させたり興奮させたりすることができるものである。
【0019】
この三叉神経固有知覚枝刺激装置は、簡便な構成であるから、小型とすることができ、しかも、携帯して何時でも何処でも、医師や看護師や自分自身が簡便に取り付けて、自由に使用できるものである。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0020】
以下、本発明の実施のための好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施の一形態を示す模式図である図1を参照しながら、三叉神経固有知覚枝刺激装置について説明する。
【0022】
三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、胸ポケットに収まる程度の大きさの回路ボックス20に内蔵され直流電流を流すための電源回路14から、リード線が延び、その先端に、金属製電極11a・11bを有するものである。瞼に密着して貼付するための高分子ゲルで被覆されたディスポーザブル電極パッド12a・12bの中央から夫々電極11a・11bが露出している。
【0023】
図2に、回路ボックス20の模式的なブロック回路図を示す。生体動態を検知するセンサー13が、回路ボックス20に繋がり、その中の生体動態検知回路15に接続されている。生体動態検知回路15は、タイマー16と、電源回路14とに接続されている。生体動態検知回路15は、眠気弁別回路17、フィルタ回路18、スイッチ回路19の順で、繋がっている。スイッチ回路19は、リード線を介して、電極11a・11bに接続されている。
【0024】
生体動態センサー13は、例えば親指先端の温度のような手の温度を検知する温度センサーである。温度センサーは、例えば金属酸化物や半導体であるサーミスタからなる熱型赤外線センサーであり、温度に応じてそれの電気抵抗が変化することを利用して手の温度を測定するというものである。タイマー16は、所定の時間毎に検温回路のような生体動態検知回路15を動作させるタイムスイッチである。生体動態検知回路15は、センサー13のサーミスタ電気抵抗の出力をアナログ−デジタル変換するA−D変換器である。眠気弁別回路17は、アナログ−デジタル変換されて得られた手の温度の値を順次記憶するメモリと、眠気をもよおしていない平時での手の温度を記憶したメモリと、両メモリから先程検知した最新の手の温度及び平時での手の温度の両値を読み出す読出器と、その平時での手の温度の値から最新の手の温度の値を減ずる減算回路と、得られた減算結果値および平時よりもやや高めとなる眠気状態での手の温度として予め設定した閾値の大小を比較するデジタル比較器と、その比較により手の温度が閾値を超えたときに電流導通信号を流すスイッチング素子とからなる。フィルタ回路18は、手の温度の変化が1日の変動域の範囲内であって手を擦った時のような一時的な場合に、その電流導通信号を除去するフィルタである。スイッチ回路19は、電流導通信号に応じて、コンデンサのような蓄電素子又は電源から、電極11a・11bに電流を流すものである。
【0025】
三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、以下のようにして使用される。
【0026】
先ず、図3のように、負電極11a・正電極11bと生体動態センサー13とが繋がっている三叉神経固有知覚枝刺激装置1の回路ボックス20を胸ポケットに挿入する。左眼窩上縁の瞼の上、例えば左眉毛下縁近傍で、負電極11aを三叉神経第一枝固有知覚枝6a(図1参照)の末梢側である顔中央側に、正電極11bをそれの中枢側である左目尻側に、貼付する。電極11a・11bから延びたリード線を、耳たぶに引っ掛け、余裕を持たせつつ、回路ボックス20に接続する。一方、生体動態センサー13であるサーミスタの温度センサーを支持している指輪状のホルダーに、左手親指を差し込む。生体動態センサー13から延びたリード線を、腕に巻き付かない程度に余裕を持たせつつ、回路ボックス20に接続する。
【0027】
タイマー16の指示に応じ所定の時間毎に、生体動態センサー13のサーミスタ電気抵抗値に応じた電流を測定し、そのアナログ信号を生体動態検知回路15へ出力し、親指先端温度である手の温度を検知する。
【0028】
手の温度は、一般に眠気をもよおしていない平時よりも眠気状態の方が幾分高い。気温や運動の有無や個人差等に応じ多少の変動域を有するが、平時での手の温度の変動域は、略同じである。
【0029】
このことに合わせて、眠気弁別回路17の閾値を例えば0.1℃に相当する値に設定しておく。生体動態検知回路15で手の温度が検知されると、眠気弁別回路17が次のように動作する。先ず、この手の温度が、メモリに順次記憶される。検知された手の温度の値と、平時での手の温度を記憶したメモリから読み出された平時での手の温度の値との差を演算する。この演算は、デジタル演算であってもよく、その値に比例する電流がオペアンプに差動入力されるものであってもよい。その差が、閾値を超えていれば、電流導通信号を流す。このようにして眠気弁別回路17が、手の温度上昇により眠気状態であることを弁別する。所定の時間が経過すると、タイマー16から次の指示が出て、同様に手の温度が検知される。
【0030】
手の温度の変化が、それの平時での変動域の範囲幅内である場合、電流導通信号を流さない。一方、この電流導通信号が流れ、フィルタ回路18を通過したら、それを受けたスイッチ回路19により、電流を一瞬乃至数分間、好ましくは数十秒流す。
【0031】
すると、図1に示すように電気が、電極11a・11bを介して、左上眼瞼2に流れる。すると上眼瞼2上端を横走する三叉神経第一枝固有知覚枝6aが、その電流で刺激される。
【0032】
刺激された三叉神経第一枝固有知覚枝6aは、末梢側で収縮し、左上眼瞼2を引き上げる眼瞼挙筋7から延びているミュラー筋4を連動して収縮させる結果、ミュラー筋4に繋がる瞼板3を引張り、目を見開かせる。
【0033】
また刺激された三叉神経第一枝固有知覚枝6aは中枢側6bで、骨の上眼窩裂8を貫いて脳内に至り、脳内の三叉神経中脳路核を介して青班核を刺激したり、顔面神経核を刺激したりする。
【0034】
この青班核が、視床から内分泌させて前頭前野を刺激したり、扁桃体を刺激して情動を起こしたりして、全身を覚醒させたり、緊張感を増大させて注意力を向上させたり、脳血流を増大させたり、筋肉の収縮を促進させたり、手のひら等での発汗を促進したりする。さらに青班核は、記憶をつかさどる海馬を刺激して記憶力を向上させたり、小脳のγ経路を刺激して筋緊張や同側全身性不随意的収縮を引き起したり、視床下部を介して交感神経を緊張させて、ミュラー筋4を収縮させさらに瞳孔の大きさを調節する虹彩に関る筋肉を収縮させて、散瞳を引き起して遠方に焦点を合わせたり、睡眠・覚醒のリズムに関与する縫線核を抑制したりする。
【0035】
この顔面神経核が、前頭後頭筋を収縮させて眉毛を引き上げて目を開かせ、また前頭眼野を介して動眼神経核を刺激し、随意的に眼瞼挙筋7を収縮させ、瞼板3へ付着した腱膜5やその裏側にあって瞼板3に繋がるミュラー筋4を収縮させて、目を見開かせる。
【0036】
また刺激された三叉神経第一枝固有知覚枝6aは、直接、動眼神経核を刺激し、不随意的に眼瞼挙筋7を収縮させる結果、前記と同様に目を見開かせる。
【0037】
これらの作用によって、三叉神経固有知覚枝刺激装置1を使用した者は、覚醒状態乃至は興奮状態となり、眠気から醒め、思考力や記憶力や集中力が向上し、その状態を暫く持続する。
【0038】
なお、生体動態の変化が、予め記憶した平時での生体動態の変動域を超えた時に眠気状態であると弁別する態様を示したが、生体動態の変化を平時での生体動態の変動域としてリアルタイムに順次記憶し、生体動態の変化が、その変動域を超えた時に眠気状態であると弁別してもよい。
【0039】
三叉神経固有知覚枝刺激装置として、電極で瞼の上から三叉神経第一枝固有知覚枝を刺激するものの例を示したが、瞼を切り開いて直接、三叉神経第一枝固有知覚枝を刺激してもよい。電極を瞼に埋め込んで、直接、三叉神経第一枝固有知覚枝を刺激してもよい。
【0040】
電極に流す電流は、開瞼を促進し、手掌発汗や覚醒度を増す程度のものであればよく、特に制限されないが、例えば1〜50mAが好ましく、前記範囲で、直流の一定電流であってもよく、直流のパルス電流であってもよい。電流を流す時間は、例えば、0.1ミリ秒〜連続であることが好ましい。電流はスイッチ回路中でオンオフ制御されるスイッチング素子(不図示)によって1〜100Hzの繰返し周波数によって放電されるパルス電流であってもよい。
【0041】
温度センサーは、サーミスタの代わりに赤外線検知センサー、熱電対又は測温抵抗体のような温度センサーを用いてもよい。体温として、手、特に親指先端の温度で生体動態の変化を温度センサーで検知する例を示したが、その他の部位例えば脇や鼓膜での温度を測定してもよい。
【0042】
生体動態検知センサーは、眠気検知装置として市販されているものを用いてもよい。
体温を温度センサーで検知するのに代えて、眠気状態で増加する末梢血管血流量や眠気状態で低下する脳血流量を、血流量計例えば近赤外線センサーで検知してもよい。眠気状態で低下する血圧、脈拍を感圧センサーのような圧力計で検知してもよい。脳波波形、例えば眠気状態で出現する覚醒波を電位測定用の電極で検知したり、心電波形や筋電波形を電位測定用の電極で検知したりしてもよい。眠気状態で深さや呼吸が不一定となる呼吸をCCD(固体撮像素子)カメラで撮影し画像処理したり、感圧センサーで測定したりして、単位時間当たりの呼吸数をカウンターで検知してもよい。眠気状態で徐々に増加する発汗を赤外線水分計で検知してもよい。眠気状態で虚ろとなる瞳の動きや瞳孔の大きさをCCDカメラで撮影し、その視線や眼球運動の画像処理によって検知してもよい。眠気状態で長くなる瞬きの間隔を、CCD(固体撮像素子)カメラで撮影し、縦幅の動きの画像処理によって検知してもよい。眠気状態で頭や上体を傾げるような姿勢の傾きや姿勢のずれを、傾斜計で検知したり、重量計で検知したりしてもよい。眠気状態で舟を漕ぐような上体運動を、CCDカメラで撮影し、その運動の画像処理によって検知したり、傾斜計で検知したりしてもよい。眠気状態で肢体が一瞬痙攣するのを、筋電の電位測定用の電極で検知したり、CCDカメラで撮影し、その運動の画像処理によって検知したりしてもよく、眠気状態で自動車のステアリング等を握る手の不自然な揺れをステアリングに取り付けた傾斜計で検知したりしてもよい。それらを複数組合わせた睡眠ポリグラフのようなものであってもよい。
【0043】
三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、図4に示すように、生体動態検知センサーを有していなくてもよく、自発的にスイッチを入れて電流を流すものであってもよい。例えば自動車の運転途中などに眠気をもよおしたときに、自発的に電極11a・11bを左眉毛下縁近傍に当ててスイッチを入れ、電流を流したり、強制的に覚醒させる際に、自発的に電極11a・11bを左眉毛下縁近傍に当てて電流を流したりする。
【0044】
また三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、この電極11a・11bに代えて、図5に示すように磁場を発生させるコイル21で刺激するものであってもよい。コイル21は、高分子ゲルで被覆されたディスポーザブルコイルパッド22の中央から露出したものであることが好ましい。三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、前記のような生体動態センサーを有していてもよい。図5に示すように直径約1〜3cmの単一のコイル21を有するものであってもよく、複数例えば二つのコイルを、内向しつつ、又は同一平面上に有するものであってもよい。
【0045】
コイル21は、前記の図2に示すブロック図の電極11a・11bに代えて、配置されるものである。
【0046】
単一のコイルを有する三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、以下のようにして使用される。
【0047】
左眼窩上縁の瞼の上、例えば左眉毛下縁近傍に、コイル21を貼付する。前記の電極を有する三叉神経固有知覚枝刺激装置1と同様に、眠気弁別回路17から、電流導通信号が流れると、それを受けたスイッチ回路19により、蓄電素子からコイル21に電流を流す(図2参照)。すると、コイル21が図5の二点破線で示すような磁場を生じさせる。この磁場が、眼瞼を越えて三叉神経第一枝固有知覚枝6a(図1参照)近傍で渦電流を誘導させる。三叉神経第一枝固有知覚枝6aがその電流で刺激される。その結果、前記と同様に青班核の刺激等による様々な作用を奏する。
【0048】
前記の強度の磁場は、開瞼を促進し、手掌発汗や覚醒度を増す程度であればよく、特に制限されないが、例えば1mT〜3Tが好ましい。そのような磁場を発生させるために、電流を流す時間は、例えば、0.1ミリ秒〜連続であることが好ましい。単回、磁場を生じさせる例を示したが、電源回路やパルス発生スイッチング制御回路(不図示)によって生じる直流のパルス電流をコイルに流して、パルス磁場を生じさせるものであってもよい。電流はスイッチ回路によって1〜100Hzの繰返し周波数によって放電されるパルス電流であってもよい。
【0049】
複数例えば二つのコイルを有すること以外は同様な構成である三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、以下のようにして使用される。コイルを内蔵する複数例えば二つであって互いに傾きながら内向しあうリングへ同時に、互いに逆向きのパルス電流を流すと、それらの丁度中央で生じた磁場によって、渦電流が強められつつ誘導され、三叉神経第一枝固有知覚枝6aを一層強く刺激する。
【0050】
コイルに流す電流は、直流であっても交流であってもよい。
【0051】
コイルを有する三叉神経固有知覚枝刺激装置を用いて刺激する場合の方が、電極を有する装置を用いて刺激する場合よりも、痛みを感じなくて済むので、一層好ましい。
【0052】
電極やコイルに、生体動態の変動域を超えた眠気状態の場合に電流を流す例を示したが、タイマーにより定時に又は一定時間毎に電流を流すスイッチ回路が接続されていてもよい。
【0053】
これらの三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、覚醒剤のような薬物と同様な覚醒作用を発現するから、運転中や勉強中に眠気をもよおさないように覚醒させるのに用いられるだけでなく、記憶力を向上させたり、痴呆患者の症状改善のために脳を刺激するのに用いられたり、注意が散漫になったときに集中力を高めたり、運動時、競技中、勤務中、論議中又は戦闘中に緊張感を高めたり、高揚させたり、視力が低下したときに視力を回復したりするのにも、用いられる。
【0054】
また、三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、手術中に、患者を覚醒させ安心させたり、脳血流を増加させたり、三叉神経第一枝固有知覚枝の損傷防止のために緊張させたりするのに、用いられる。
【0055】
さらに、三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、覚醒剤常用患者の矯正治療に用いることもできる。
【実施例】
【0056】
本発明の三叉神経固有知覚枝刺激装置1を試作し、その効能について検討した例を以下に示す。
【0057】
試作した三叉神経固有知覚枝刺激装置1は、生体動態検知センサーを有しないもので、直流電源14に、抵抗及びサイリスタが、順に接続され、スイッチ回路を介して電極11a・11bに繋がったものである。電極11a・11bは、高分子ゲルで被覆された電極パッド12a・12bから露出させたものである。右又は左の左眼窩上縁の瞼の上で眉毛下縁近傍で、負電極11aを三叉神経第一枝固有知覚枝6aの末梢側である顔中央側に、正電極11bをそれの中枢側である目尻側に、約2cm離して貼付した。
【0058】
20mAの電流を、電極11a・11bから、30秒間又は60秒間流した。
【0059】
脳波を測定しつつ三叉神経固有知覚枝刺激装置で電流を流した時の前頭前野のα波、β波、θ波の経時的な相対値の変化を、図6に示す。図6から明らかなように電流を流した時以降、持続して明瞭なβ波の脳波が増強され、覚醒状態となり、刺激を中断しても覚醒状態が暫く持続されていることが示された。
【0060】
右手及び左手からの発汗量を測定しつつ三叉神経固有知覚枝刺激装置で電流を流した時の、右手と左手との発汗量の経時的な変化を、図7に示す。図7から明らかなように電流を流した時以降、持続して明瞭な発汗が認められ、長時間、緊張状態が維持されていた。
【0061】
脳の血流を近赤外線光測定装置を用いて測定しつつ三叉神経固有知覚枝刺激装置で電流を流した時前頭前野の脳血流の変化を、酸素飽和度、全ヘモグロビン(Hb)値、酸化Hb値、還元Hb値を指標にして測定した経時的な変化を、図8に示す。同図は、酸化Hbの初期値を35としたときの相対値を示している。同図から明らかなように電流を流した時、持続して血流が増加しており、興奮状態となっていることが示された。
【0062】
なお、電極から電流を流した場合と同様に、コイルで磁場を発生させた場合も、同様な結果が得られる。生体動態検知センサーを有するものでも、同様な結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の三叉神経固有知覚枝刺激装置は、運転や勉強等の際の居眠りを防止して覚醒させたり、興奮させたり、痴呆患者の症状を改善したり、遠方に焦点が合い難い患者の視力を回復したり、覚醒剤常用患者を矯正したりするのに、用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置であって模式的に切り開いた瞼の内側の三叉神経固有知覚枝を、電極により電気刺激している途中を示す概要図である。
【図2】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置のブロック回路図である。
【図3】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置の使用途中を示す概要図である。
【図4】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置の別な態様を示す斜視図である。
【図5】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置の別な態様の一部であり、三叉神経固有知覚枝をコイルにより電気刺激している途中を示す概要図である。
【図6】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置で電流を流して電気刺激した時の脳波の変化を示す図である。
【図7】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置で電流を流して電気刺激した時の発汗の変化を示す図である。
【図8】本発明を適用する三叉神経固有知覚枝刺激装置で電流を流して電気刺激した時の脳血流の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1は三叉神経固有知覚枝刺激装置、2は上眼瞼、3は瞼板、4はミュラー筋、5は腱膜、6aは三叉神経第一枝固有知覚枝、6bは三叉神経第一枝固有知覚枝の中枢側、7は眼瞼挙筋、8は上眼窩裂、11a・11bは電極、12a・12bは電極パッド、13は生体動態センサー、14は電源回路、15は生体動態検知回路、16はタイマー、17は眠気弁別回路、18はフィルタ回路、19はスイッチ回路、20は回路ボックス、21はコイル、22はコイルパッドである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの上眼瞼上端を横走する三叉神経固有知覚枝を瞼の表側で又は瞼の内側で刺激する、直流電流を流す電極と、電流を流して磁場を発生させるコイルとの少なくとも何れかの素子を、有することを特徴とする三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項2】
前記素子が、前記瞼の表側に貼付されていることを特徴とする請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項3】
前記ヒトの生体動態を検知するセンサーと、そのセンサーで検知した該生体動態の変化が平時でのその生体動態の変動域を超え眠気状態であることを弁別する弁別回路と、この回路に繋がり該弁別に応じてそこから発信される電流導通信号により前記電流を前記素子に流すスイッチ回路とを有することを特徴とする請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項4】
前記生体動態が、体温、血流量、血圧、脈拍、心電波形、筋電波形、脳波波形、呼吸数、発汗、瞳の動き、瞳孔の大きさ、瞬き数、瞬きの間隔、姿勢の傾き、姿勢のずれ、上体運動、及び肢体運動から選ばれる少なくとも何れかであり、前記センサーが、その生体動態の変化を検知する温度センサー、流量計、圧力計、電極、カウンター、水分計、時間計測タイマー、カメラ、傾斜計、及び/又は重量計であることを特徴とする請求項3に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項5】
タイマーにより又は手動で前記電流を前記素子に流すスイッチ回路を有することを特徴とする請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項6】
前記電極が、前記三叉神経固有知覚枝の末梢側で負電極、それの中枢側で正電極とすることを特徴とする請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項7】
前記電極に、1〜50mAの前記直流電流を流すことを特徴とする請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項8】
前記コイルが、前記磁場を前記三叉神経固有知覚枝に向き前記磁場を発生させる単一又は複数であることを特徴とする請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。
【請求項9】
前記コイルが、1mT〜3Tの前記磁場を発生させることを特徴とする請求項1に記載の三叉神経固有知覚枝刺激装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−246040(P2008−246040A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92886(P2007−92886)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】