説明

三座配位子ロジウム錯体、その製造方法、置換アセチレン重合開始剤及びそれを用いた置換ポリアセチレン誘導体の製造方法

【課題】らせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体も得ることができ、特に置換アセチレンの重合開始剤として有用な新規な三座配位子ロジウム錯体を提供する
【解決手段】下記一般式(1)で表わされることを特徴とする三座配位子ロジウム錯体。


(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示す。R及びRは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示し、但し、RとRで同一の基となることはない。Zは炭素数3〜6のアルキレン基を示す。XはNH又はOを示す。*は不斉炭素原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三座配位子ロジウム錯体、その製造方法、置換アセチレン重合開始剤及びそれを用いた置換ポリアセチレン誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
置換ポリアセチレンは、主鎖に特異的な共役ポリエチレン構造を有しており、主鎖の立体的構造や側鎖の置換基を制御することで、導電性、エレクトロルミネッセンス、らせん状構造の形成といったさまざまな特性や機能を発現することが知られている。
【0003】
らせん状構造を有するポリマーはキラルセンサー、光学分割剤等の用途に対して特に注目されている材料である(例えば、下記特許文献1〜3参照)。
【0004】
らせん構造を有する置換ポリアセチレンの製造方法として、例えばロジウム系の重合開始剤を用いる方法が提案されている(非特許文献1参照)。しかしながら、非特許文献1の方法によれば重合開始剤の他にキラルアミン系の助触媒を併用して用いらなければならず、また、この助触媒の添加量により微妙にらせんの巻く方向が変化し反応自体を制御することが難しいという問題がある。
【0005】
本発明者らは、先に下記一般式(A1)及び(A2)で表わされる三座配位子は一置換型のアセチレンモノマーの重合に対して高い触媒活性を示すことを知見し、これを報告した(非特許文献2参照)。
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−292538号公報
【特許文献2】特開2008−291207号公報
【特許文献3】特開2008−273898号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society, (2003),125(21),6346-6347
【非特許文献2】高分子学会予稿集(CD-ROM) Vol.60 No.1 Disk1 Page.ROMBUNNO.1PB034
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、更に新規な置換アセチレンの重合開始剤の検討を進める中で、特定の三座配位子ロジウム錯体を置換アセチレンの重合開始剤として用いると、助触媒と併用することなく、らせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
即ち、本発明の第1の目的は、らせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体も得ることができ、特に置換アセチレンの重合開始剤として有用な新規な三座配位子ロジウム錯体を提供すること。また、本発明の第2の目的は、該三座配位子ロジウム錯体を工業的に有利な方法で提供すること。また、本発明の第3の目的は、該三座配位子ロジウム錯体を用いた置換ポリアセチレン誘導体、特にらせん状構造を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が提供しようする第1の発明は、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする三座配位子ロジウム錯体である。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示す。R及びRは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示し、但し、RとRで同一の基となることはない。Zは炭素数3〜6のアルキレン基を示す。XはNH又はOを示す。*は不斉炭素原子を示す。)
【0011】
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、下記一般式(2)
【化3】

(式中、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示し、但し、RとRで同一の基となることはない。Zは炭素数3〜5のアルキレン基を示す。XはNH又はOを示す。*は不斉炭素原子を示す。)で表わされるノルボルナジエン化合物と、下記化学式(3)
【化4】

で表わされるクロロビス(エチレン)ロジウムダイマーとを反応させて、下記一般式(4)
【化5】

(式中、R、R、Z、X及び*は前記と同義。)で表わされるロジウム錯体を得た後、下記一般式(5)
【化6】

(式中、Rはアルキル基又はアリール基を示す。)で表わされるホウ酸化合物と反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化7】

(式中、R、R、R、Z、X及び*は前記と同義)で表わされる三座配位子ロジウム錯体の製造方法である。
【0012】
また、本発明が提供しようとする第3の発明は、前記第1の発明の三座配位子ロジウム錯体からなる置換アセチレンの重合開始剤である。
【0013】
また、本発明が提供しようとする第4の発明は、下記一般式(6)
【化8】

(式中、Aはアルコキシ基又はアルキル基を示す。n1は0〜3の整数、n2は0又は2を示す。)で表わされる置換アセチレンを、前記第3の発明の置換アセチレンの重合開始剤の存在下に重合反応させることを特徴とする下記一般式(7)
【化9】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、らせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体も得ることができ、特に置換アセチレンの重合開始剤として有用な新規な三座配位子ロジウム錯体を提供することができる。また、本発明によれば、該三座配位子ロジウム錯体を工業的に有利な方法で提供することができる。また、本発明の三座配位子ロジウム錯体を置換アセチレンの重合開始剤として用いることにより、助触媒を用いずにらせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体を製造することができ、また、らせんの巻き方向についても、適宜用いる重合開始剤の種類を選択することにより所望の巻き方向のらせん状構造のものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例3及び実施例4で得られた置換ポリアセチレン誘導体のCDスペクトル図(上段)及びUV−visスペクトル図(下段)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係る三座配位子ロジウム錯体は、下記一般式(1)で表されるものである。
【化10】

【0017】
前記一般式(1)の式中のRは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアリール基を示す。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基等が挙げられる。また、前記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。本発明において、式中のRは特にフェニル基が好ましい。
【0018】
前記一般式(1)の式中のR及びRは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基及びアリール基から選ばれる基である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基等が挙げられる。また、前記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
なお、前記RとRは、異なる基であり、同一の基となることはない。RとRのもっとも好ましい組み合わせは、RとRの何れかがメチル基であり、他方がフェニル基であることが好ましい。
【0019】
前記一般式(1)の式中のZは、炭素数3〜6の直鎖状のアルキレン基を示し、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられ、このうち炭素数4〜5、特に好ましくは炭素数4のアルキレン基が好ましい。
【0020】
前記一般式(1)の式中のXは、NH又はOを示す。また、式中の*は不斉炭素原子を示す。本発明の三座配位子ロジウム錯体の立体に関しては、S体又はR体の何れであってもよい。
本発明の三座配位子ロジウム錯体は、前記一般式(1)の式中のXがNHのときはキラルなアミン部位を持ち、式中のXがOのときはキラルなエーテル部位を持つようになる。
【0021】
次いで、本発明の前記一般式(1)で表される三座配位子ロジウム錯体の製造方法について説明する。
【0022】
本発明の三座配位子ロジウム錯体の製造方法は、前記一般式(2)で表されるノルボルナジエン化合物と、前記化学式(3)で表わされるクロロビス(エチレン)ロジウムダイマーとを反応させて前記一般式(4)で表わされるロジウム錯体を得る第1工程、次いで得られたロジウム錯体と前記一般式(5)で表わされるホウ酸化合物と反応させる第2工程を有するものである。
【0023】
第1工程に係る原料の前記一般式(2)で表されるノルボルナジエン化合物の式中のR、R、X及びZは、前記一般式(1)の式中のR、R、X及びZにそれぞれ相当する基である。具体的には、前記一般式(2)の式中のR及びRは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基及びアリール基から選ばれる基である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基等が挙げられる。また、前記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。前記RとRは、異なる基であり、同一の基となることはない。RとRのもっとも好ましい組み合わせは、前述したようにRとRの何れかがメチル基であり、他方がフェニル基である。前記一般式(2)の式中のZは、炭素数3〜6の直鎖状のアルキレン基を示し、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられ、このうち炭素数4〜5、特に好ましくは炭素数4のアルキレン基が好ましい。なお、前記一般式(2)の式中の*は前述したように不斉炭素原子を示す。
なお、本発明に係る前記一般式(2)で表されるノルボルナジエン化合物は、新規な化合物であり、配位子として有用である。
【0024】
前記一般式(2)で表されるノルボルナジエン化合物のうち、本発明で好ましい化合物であるRがメチル基であり、Rがフェニル基である化合物は、例えば、下記反応スキーム1 に従って製造することができる。
【化11】

(式中、Z及び*は前記と同義。)
【0025】
前記反応スキーム1において、ブロモノルボルナジエン化合物(a)と、キラルなアミン化合物(b1)とをアセトニトリル等の溶媒中で100〜150℃で、5時間以上、反応させることにより一般式(2a)で表されるノルボルナジエン化合物を得ることができる。
一方、ブロモノルボルナジエン化合物(a)と、キラルなアルコール化合物(b2)とを、NaH等の塩基の存在下にN,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒中で30〜100℃で、3時間以上、反応させることにより一般式(2b)で表されるノルボルナジエン化合物を得ることができる。
【0026】
なお、ブロモノルボルナジエン化合物(a)は、公知の化合物であり、例えば下記反応スキーム 2に従って、2,5−ノルボルナジエン(a’)と、ジブロモ化合物(a”)とを反応させることにより容易に製造することができる(J.Am.Chem.Soc.1995,117,10276−10291等参照)。
【化12】

(式中、Zは前記と同義。)
【0027】
第1工程に係る反応において、前記クロロビス(エチレン)ロジウムダイマーの添加量は、前記一般式(2)で表されるノルボルナジエン化合物に対するモル比で0.3〜0.7、好ましくは0.4〜0.6である。
【0028】
第1工程に係る前記一般式(2)で表されるノルボルナジエン化合物とクロロビス(エチレン)ロジウムダイマーの反応は、溶媒中で行われる。使用できる溶媒としては、原料を溶解することができ生成物に対して不活性な溶媒であれば特に制限なく用いることができる。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、エチルアルコール、メチルアルコール、ヘキサン、ジエチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、クロロホルム、クロロベンゼン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0029】
第1工程に係る反応条件は反応温度が50〜200℃、好ましくは100〜150℃で、反応時間が5時間以上、好ましくは5〜15時間である。
【0030】
反応終了後、例えば、反応液を減圧下に蒸留して溶媒を除去し、必要により再結晶等の精製等を行うことにより、目的とする前記一般式(4)で表わされるロジウム錯体を得ることができる。
【0031】
第2工程では、第1工程で得られた前記一般式(4)で表わされるロジウム錯体と前記一般式(5)で表わされるホウ酸化合物とを溶媒中で反応させる。
【0032】
第2工程に係る原料の一般式(5)で表わされるホウ酸化合物の式中のRは、前記一般式(1)の式中のRに相当する基である。具体的には、一般式(5)の式中のRは、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアリール基を示す。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基等が挙げられる。また、前記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。本発明のおいて、式中のRは特にフェニル基が好ましい。
【0033】
一般式(5)で表わされるホウ酸化合物の添加量は、前記一般式(4)で表わされるロジウム錯体に対するモル比で1〜2、好ましくは1〜1.2である。
【0034】
第2工程の反応で使用できる溶媒としては、原料を溶解することができ生成物に対して不活性な溶媒であれば特に制限なく用いることができる。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、エチルアルコール、メチルアルコール、ヘキサン、ジエチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、クロロホルム、クロロベンゼン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0035】
第2工程に係る反応条件は反応温度が0〜40℃、好ましくは20〜30℃で、反応時間が5時間以上、好ましくは10〜20時間である。
【0036】
反応終了後、例えば、反応液を減圧下に蒸留して溶媒を除去し、必要により再結晶等の精製等を行うことにより、目的とする前記一般式(1)で表わされる三座配位子ロジウム錯体を得ることができる。
【0037】
本発明に係る前記一般式(1)で表される三座配位子ロジウム錯体は、置換アセチレンの重合開始剤、特にらせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体を得るための重合開始剤として好適に用いることができる。
【0038】
本発明に係る置換ポリアセチレン誘導体の製造方法は、前記一般式(1)で表される三座配位子ロジウム錯体を置換アセチレンの重合開始剤(以下、「重合開始剤」と呼ぶ)として用い、該重合開始剤の存在下に、前記一般式(6)で表される置換アセチレンの重合反応を行って、前記一般式(7)で表される繰り返し単位を有する置換ポリアセチレンを得るものである。
【0039】
重合反応に用いる置換アセチレンは、下記一般式(6)で表される。
【化13】

一般式(6)の式中のAは、アルコキシ基、アルキル基である。前記アルコキシ基としては、好ましくは炭素数1〜16、特に炭素数8〜14のアルコキシ基が好ましい。前記アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜16、特に炭素数8〜14のアルキル基が好ましい。
また、一般式(6)の式中のn1は0〜3の整数を示し、式中のn2は0又は2の整数を示す。
【0040】
本発明において、一般式(6)で表される置換アセチレンは、下記一般式(6a)又は(6b)で表されるものが特に好ましく用いられる。
【化14】

【0041】
本発明において、前記一般式(6b)で表される置換アセチレンを用いて重合反応を行うと、不斉部位を有する重合開始剤より、不斉誘導を受け、アキラルなモノマーから、光学活性ならせん状構造を有する置換ポリアセチレン誘導体を製造することができる。
【0042】
本重合反応では、前述した本発明の重合開始剤が用いられる。
本重合反応における重合開始剤の添加量は、重合開始剤に対する置換アセチレンのモル比で10〜1000、好ましくは50〜100である。
【0043】
使用できる溶媒は、原料を溶解することができ生成物に対して不活性な溶媒であれば特に制限なく用いることができる。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、アセトニトリル、エチルアルコール、メチルアルコール、ヘキサン、ジエチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、クロロホルム、クロロベンゼン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0044】
重合反応の反応温度は、重合を行う置換アセチレンの種類により適宜好適な温度条件を選択することが好ましいが、多くの場合、0〜60℃、好ましくは20〜40℃である。また、反応時間は、重合を行う置換アセチレンの種類により異なるが、多くの場合5時間以上、好ましくは10〜30時間である。
【0045】
重合反応終了後、常法により、反応溶媒を除去し、必要により貧溶媒への沈殿化等の精製を行うことにより、目的とする下記一般式(7)
【化15】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体を得ることができる。
【0046】
本製造方法で得られる置換ポリアセチレン誘導体は、数平均分子量(Mn)が5000以上、好ましくは10000〜1000000である。また、重量平均分子量(Mw)が10000以下、好ましくは20000〜2000000が好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
{実施例1}
(ノルボルナジエン化合物(2a-1)の合成)
【化16】

アセトニトリル10mlにブロモノルボルナジエン化合物(a-1)(300mg、1.32mmol)を溶解し、これに(R)−1−フェニルエチルアミン(b1)(0.50ml、3.92mmol)を加えた。次に、攪拌下に110℃で10時間、還流下に反応を行った。
反応終了後、室温まで冷却し、反応液を減圧下に蒸留して溶媒を除去した。得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で有機層を洗浄した。有機層を分取し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、無水硫酸ナトリウムを除去し、減圧下に蒸留して溶媒を除去した。次いで得られた残渣をカラムクロマトグラフィーを用いて精製を行って油状のノルボルナジエン化合物(2a-1)を得た(収率89%)。
(ノルボルナジエン化合物(2a-1)の同定データ)
・元素分析 計算値(C1925N):C,85.34%;H,9.42%;N、5.24%測定値:C,85.46%;H,9.42%;N、5.02%
1H NMR (CDCl3) d: 7.27-7.15 (m, 5H), 6.66 (s, 2H), 6.02 (s, 1H), 3.68 (q, 1H, J = 6.8 Hz), 3.41 (s, 1H), 3.18 (s, 1H), 2.45 (m, 1H), 2.40 (m, 1H), 2.15 (m, 2H), 1.93 (m, 2H), 1.40 (m, 4H), 1.33 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 1.15 (brs, 1H).
13C NMR (CDCl3) d: 158.6, 145.8, 143.8, 142.3, 133.3, 128.3, 126.7, 126.5, 73.4, 58.3, 53.4, 50.0, 47.7, 31.3, 30.0, 25.0, 24.4.
・比旋光度[α]D=+36.8(クロロホルム中、室温で測定、c=0.10g/dL)
【0048】
(ロジウム錯体(4a-1)の合成)
【化17】

ジクロロメタン4.0mlにクロロビス(エチレン)ロジウムダイマー(3)(185mg、0.48mmol)を溶解し、これにノルボルナジエン化合物(2a-1)(280mg、1.09mmol)を溶解したジクロロメタン4.0mlを加え、アルゴン雰囲気中で15時間、室温(25℃)で反応を行った。
反応終了後、反応液を減圧下に蒸留して溶媒を除去し、残渣をジクロロメタン−ペンタン混合溶媒により再結晶して精製し、ロジウム錯体(4a-1)を得た(収率83%)。
(ロジウム錯体(4a-1)の同定データ)
・元素分析 計算値(C1925NClRh):C,56.24%;H,6.21%;N、3.45%測定値:C,56.31%;H,6.39%;N、3.35%
【0049】
(三座配位子ロジウム錯体(1a―1)の合成)
【化18】

シュレンクチューブに、ロジウム錯体(4a-1)(60mg、0148mmol)、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(5a-1)(55.8mg、0.163mmol)を仕込み、アルゴンガスで置換した。次いで、ジクロロメタン5.5mlを仕込み、室温(25℃)で一晩反応を行った。
反応終了後、ろ過してテトラフェニルホウ酸ナトリウム(5a-1)を除去後、ろ液を減圧下に蒸留して溶媒を除去した。残渣をジクロロメタン−ペンタン混合溶媒により再結晶して精製し、三座配位子ロジウム錯体試料(1a―1)を得た(収率89%)。
(三座配位子ロジウム錯体(1a―1)の同定データ)
・元素分析 計算値(C4345BNRh):C,74.9%;H,6.59%;N、2.03%測定値:C,74.60%;H,6.31%;N、1.94%
1H NMR (CDCl3) d: 7.37-7.00 (m, 20H), 6.60 (m, 2H), 6.38 (m, 1H), 6.25 (m, 1H), 5.84 (m, 1H), 3.80 (s, 1H), 3.71 (m, 1H), 3.66 (m, 1H), 3.46 (m, 1H), 3.31(m, 1H), 3.14 (m, 1H), 2.42 (brs, 1H), 2.31 (brs, 1H), 2.06 (m, 1H), 1.38-1.29 (m, 7H), 1.09-1.00 (m, 4H).
【0050】
{実施例2}
(ノルボルナジエン化合物(2a-2)の合成)
【化19】

N,N−ジメチルホルムアミド8mlにブロモノルボルナジエン化合物(a-1)(676.8mg、2.98mmol)を溶解し、これに(R)−1−フェニルエタノール(b2)(364mg、2.28mmol)を加えた。次に、NaH(含有量50%、184.7mg、5.54mmol)を加え、攪拌下に60で6時間、反応を行った。
反応終了後、室温まで冷却し、反応液に飽和炭酸ナトリウム水溶液を添加し、次いでジエチルエーテルで抽出した。有機層を分取し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、無水硫酸ナトリウムを除去し、減圧下に蒸留して溶媒を除去した。次いで得られた残渣をHPLCを用いて精製を行って油状のノルボルナジエン化合物(2a-2)を得た(収率38%)。
(ノルボルナジエン化合物(2a-2)の同定データ)
・元素分析 計算値(C1924O):C,83.03%;H,9.01%測定値:C,84.99%;H,8.72%
1H NMR (CDCl3) d: 7.33-7.30 (m, 5H), 6.73 (s, 2H), 6.09 (s, 1H), 4.38 (q, 1H, J = 6.4 Hz), 3.48 (s, 1H), 3.27 (m, 3H), 2.16 (m, 2H), 1.94 (m, 2H), 1.52 (m, 4H), 1.42 (d, 3H, J = 6.0 Hz).
13C NMR (CDCl3) d: 158.7, 144.3, 143.8, 142.4, 133.5, 128.4, 127.3, 126.1, 77.9, 73.4, 68.5, 53.4, 50.0, 31.2, 29.6, 24.2, 23.8.
・比旋光度[α]D=−66(クロロホルム中、室温で測定、c=0.10g/dL)
【0051】
(ロジウム錯体(4a-2)の合成)
【化20】

ジクロロメタン5.0mlにクロロビス(エチレン)ロジウムダイマー(3)(160mg、0.41mmol)を溶解し、これにノルボルナジエン化合物(2a-2)(243mg、0.91mmol)を溶解したジクロロメタン3.0mlを加え、大気雰囲気中で室温(25℃)で19時間反応を行った。
反応終了後、反応液を減圧下に蒸留して溶媒を除去し、残渣をジクロロメタン−ペンタン混合溶媒により−78℃で再結晶して精製し、ロジウム錯体(4a-2)を得た(収率66%)。
【0052】
(三座配位子ロジウム錯体(1a―2)の合成)
【化21】

シュレンクチューブに、ロジウム錯体(4a-2)(30mg、0.073mmol)、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(5a-1)(26.5mg、0.077mmol)を仕込み、アルゴンガスで置換した。次いで、ジクロロメタン2.0mlを仕込み、室温(25℃)で一晩反応を行った。
反応終了後、ろ過してテトラフェニルホウ酸ナトリウム(5a-1)を除去後、ろ液を減圧下に蒸留して溶媒を除去した。残渣をジクロロメタン−ペンタン混合溶媒により再結晶して精製し、三座配位子ロジウム錯体(1a―2)を得た(収率79%)。
(三座配位子ロジウム錯体(1a―2)の同定データ)
・元素分析 計算値(C4344BORh):C,74.79%;H,6.42%測定値:C,73.17%;H,6.16%
1H NMR (CDCl3) d: 7.41-7.03 (m, 20H), 6.67 (m, 1H), 6.50 (m, 1H), 6.43 (m, 1H), 6.20 (m, 1H), 5.79 (m, 1H), 4.35 (q, 1H, J = 6.8 Hz), 3.77 (brs, 1H), 3.63 (brs, 1H), 3.46 (brs, 1H), 3.33 (brs, 1H), 3.21 (m, 2H), 3.15 (brs, 1H), 2.07 (m, 2H), 1.43-1.01 (m, 9H).
【0053】
{実施例3〜4}
(らせん状構造を有する置換ポリアセチレン誘導体(7b)の合成)
【化22】

置換アセチレン(6b)を0.2Mになるようにテトラヒドロフランに溶解し、重合開始剤試料に対する置換アセチレンのモル比が100となるように重合開始剤試料を添加し、30℃で24時間重合反応を行った。反応終了後に重合溶液をメタノールに投入し、沈殿したポリマーを単離した。
(らせん状構造を有する置換ポリアセチレン誘導体(7b)の同定データ)
1H NMR (CD2Cl2) δ 0.81-1.80 (m, 23H), 3.87 (broad, 2H), 4.30 (broad, 2H), 4.37 (broad, 4H), 6.70-7.20 (broad, 3H).
【0054】
<らせん状構造を有する置換ポリアセチレン誘導体(7b)の物性評価>
(評価1);実施例3及び実施例4で得られた置換ポリアセチレン誘導体(7b)について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を求めた。また、平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)からPDI(Mw/Mn)を算出した。その結果を収率とともに表1に示した。
なお、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の評価は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;JASCO PU−980/RI−930クロマトグラフィー、ポリスチレン換算)により行った。
(評価2);実施例3及び実施例4で得られた置換ポリアセチレン(7b)についてCHCl中で比旋光度及びUV−visスペクトルを20℃で測定した。なお、CHCl中の置換ポリアセチレンのモノマー単位の濃度は0.10mMとした。
得られたCDスペクトルとUV−visスペクトルを図1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
図1の結果から、実施例3及び実施例4で得られた置換ポリアセチレン誘導体はCHCl溶解中で大きい比旋光度を示すこと、また、主鎖ポリアセチレンに基づくCDシグナル、UV−可視シグナルは文献値(Journal of the American Chemical Society, (2003),125(21),6346-6347)と一致し、300nm付近にピークを示したことから主鎖がらせん構造を形成していることが確認された。
また、生成した置換ポリアセチレン誘導体(7b)は、主鎖の吸収領域に明確なコットン効果を示し、巻き方向の偏ったらせん構造を形成していることが明らかになった。使用した重合開始剤のアミン部位、エーテル部位の立体配位はともに(R)であるが、得られた置換ポリアセチレン(7b)のコットン効果は正負が逆であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、らせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体も得ることができ、特に置換アセチレンの重合開始剤として有用な新規な三座配位子ロジウム錯体を提供することができる。また、本発明によれば、該三座配位子ロジウム錯体を工業的に有利な方法で提供することができる。また、本発明の三座配位子ロジウム錯体を置換アセチレンの重合開始剤として用いることにより、助触媒を用いずにらせん状構造の置換ポリアセチレン誘導体を製造することができ、また、らせんの巻き方向についても、適宜用いる重合開始剤の種類を選択することにより所望の巻き方向のらせん状構造のものを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされることを特徴とする三座配位子ロジウム錯体。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示す。R及びRは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示し、但し、RとRで同一の基となることはない。Zは炭素数3〜6のアルキレン基を示す。XはNH又はOを示す。*は不斉炭素原子を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)の式中のZが炭素数4のアルキレン基であることを特徴とする請求項1記載の三座配位子ロジウム錯体。
【請求項3】
前記一般式(1)の式中のRがフェニル基であることを特徴とする請求項1又は2記載の三座配位子ロジウム錯体。
【請求項4】
前記一般式(1)の式中のR及びRはメチル基及びフェニル基から選ばれる基であることを特徴とする請求項1乃至3記載の三座配位子ロジウム錯体。
【請求項5】
下記一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示し、但し、RとRで同一の基となることはない。Zは炭素数3〜5のアルキレン基を示す。XはNH又はOを示す。*は不斉炭素原子を示す。)で表わされるノルボルナジエン化合物と、下記化学式(3)
【化3】

で表わされるクロロビス(エチレン)ロジウムダイマーとを反応させて、下記一般式(4)
【化4】

(式中、R、R、Z、X及び*は前記と同義。)で表わされるロジウム錯体を得た後、下記一般式(5)
【化5】

(式中、Rはアルキル基又はアリール基を示す。)で表わされるホウ酸化合物と反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化6】

(式中、R、R、R、Z、X及び*は前記と同義)で表わされる三座配位子ロジウム錯体の製造方法。
【請求項6】
下記一般式(2)で表されることを特徴とするノルボルナジエン化合物。
【化7】

(式中、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、及びアリール基を示し、但し、RとRで同一の基となることはない。Zは炭素数3〜5のアルキレン基を示す。XはNH又はOを示す。*は不斉炭素原子を示す。)
【請求項7】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の三座配位子ロジウム錯体からなる置換アセチレンの重合開始剤。
【請求項8】
下記一般式(6)
【化8】

(式中、Aはアルコキシ基又はアルキル基を示す。n1は0〜3の整数、n2は0又は2を示す。)で表わされる置換アセチレンを、請求項7記載の置換アセチレンの重合開始剤の存在下に重合反応させることを特徴とする下記一般式(7)
【化9】

(式中、A、n1及びn2は前記と同義。)で表わされる繰り返し単位を有する置換ポリアセチレン誘導体の製造方法。
【請求項9】
製造される置換ポリアセチレン誘導体が、らせん状構造を有することを特徴とする請求項8記載の置換ポリアセチレン誘導体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−47198(P2013−47198A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186600(P2011−186600)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】