説明

三次元形状造形物の製造方法およびその製造装置

【課題】発生するヒュームの影響をできるだけ抑えた粉末焼結積層法を提供する。
【解決手段】(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射して前記所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および、(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、前記新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程をチャンバー50内において繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、チャンバーに設けられた光透過窓52の下方空間領域を包囲する筒部材80を設け、その筒部材の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガス90を供給することを特徴とする三次元形状造形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状造形物の製造方法およびその製造装置に関する。より詳細には、本発明は、粉末層の所定箇所に光ビームを照射して固化層を形成することを繰り返し実施することによって複数の固化層が積層一体化した三次元形状造形物を製造する方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、材料粉末に光ビームを照射して三次元形状造形物を製造する方法(一般的には「粉末焼結積層法」と称される)が知られている。かかる方法では、「(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射することよって、かかる所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成し、(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を敷いて同様に光ビームを照射して更に固化層を形成する」といったことを繰り返して三次元形状造形物を製造している(特許文献1または特許文献2参照)。材料粉末として金属粉末やセラミック粉末などの無機質の材料粉末を用いた場合では、得られた三次元形状造形物を金型として用いることができ、樹脂粉末やプラスチック粉末などの有機質の材料粉末を用いた場合では、得られた三次元形状造形物をモデルとして用いることができる。このような製造技術によれば、複雑な三次元形状造形物を短時間で製造することが可能である。
【0003】
材料粉末として金属粉末を用い、得られる三次元形状造形物を金型として用いる場合を例にとると、図1に示すように、まず、所定の厚みt1の粉末層22を基板21上に形成した後(図1(a)参照)、光ビームを粉末層22の所定箇所に照射して、造形プレート21上において固化層24を形成する。そして、形成された固化層24の上に新たな粉末層22を敷いて再度光ビームを照射して新たな固化層を形成する。このように固化層を繰り返し形成すると、複数の固化層24が積層一体化した三次元形状造形物を得ることができる(図1(b)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平1−502890号公報
【特許文献2】特開2000−73108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三次元形状造形物の製造は、造形物の酸化などを防止すべく所定の不活性雰囲気下に保たれたチャンバー内で行われることが多い。チャンバー内には「粉末層を形成する手段」、「粉末層および/または固化層が形成されることになる造形テーブル」などが設置されている一方、チャンバー外には光ビーム照射手段が設置されている。光ビーム照射手段から発せられた光ビームは、チャンバーの光透過窓を通じて粉末層の所定箇所へと照射される。例えば図2(a)および(b)を参照すると分かるように、チャンバー50には光透過窓52が設けられており、光ビームLが光透過窓52を通過してチャンバー50内に入射される。
【0006】
ここで、粉末層に光ビームを照射して粉末を焼結又は溶融固化させる際、図2(a)おおび(b)に示すように、“ヒューム”8と呼ばれる煙状の物質(例えば金属蒸気または樹脂蒸気)がビーム照射箇所から発生する。このヒュームは上昇してチャンバーの光透過窓に付着したり焼き付いたりするので(図3参照)、光透過窓が曇ってしまい光ビームの透過率や屈折率などが低下し得る。光ビームの透過率や屈折率などが低下すると、所望の固化層を得ることができず、当初意図した造形物の製造が妨げられることになる。特に、粉末層として金属粉末層を用いた場合では、「焼結が安定しない」とか「焼結密度を高くすることができない」等の理由によって三次元形状造形物の強度が低下してしまうことが懸念される。
【0007】
また、ヒュームは、チャンバー内に入射した光ビームに対して直接的に影響を及ぼし得る。具体的には、発生したヒュームは上昇し得るが、上昇するヒュームが光ビームの経路を遮る場合があり、光ビームの照射量(粉末層に対して照射される量)が低減し得る。つまり、ヒュームの遮りに起因して、粉末層に供される光ビームのエネルギー量が所定の値よりも低下してしまうことが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題は、発生するヒュームの影響をできるだけ抑えた粉末焼結積層法を提供することである。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、
(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射して当該所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、その新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程
をチャンバー内において繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、
チャンバーに設けられた光透過窓の下方空間領域を包囲する筒部材を設け、その筒部材の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給することを特徴とする、三次元形状造形物の製造方法が提供される。
【0010】
ある好適な態様では、「チャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガス」として、チャンバー内雰囲気の温度よりも低温のガスを筒部材の内部に供給し、その低温のガスとチャンバー内雰囲気との温度差に起因した自然対流によって“低温のガス”を下方へと移動させる。
【0011】
ある好適な態様では、「チャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガス」として、チャンバー内雰囲気のガスよりも軽いガスを筒部材の内部に仕込み、その軽いガスを筒部材の内部に存在させた状態で固化層の形成を行う。筒部材の内部に仕込む“軽いガス”としてはアルゴンまたはヘリウムを用いることが好ましい。また、このような態様では、“軽いガス”としてチャンバー内雰囲気ガスの温度よりも高温のガスを使用することも好ましい。
【0012】
ある好適な態様では、筒部材の下端部を起点にガスを流すことによって環状ガス流れを付加的に形成する。環状ガス流れの形成には環状ガス供給部材を使用してよい。例えば、筒部材の下端部に環状ガス供給部材を設け、その環状ガス供給部材からガスを下方へと供給することによって環状ガス流れを形成してよい。あるいは、環状ガス流れの形成にファンを用いてもよい。例えば、チャンバーの内部に設けたファンを駆動することによって環状ガス流れを形成してもよい。このような環状ガス流れの形成は、光ビームの照射時においてのみ行ってよい。
【0013】
本発明では、上述した製造方法を実施するための「三次元形状造形物の製造装置」も提供される。かかる三次元形状造形物の製造装置は、
粉末層を形成するための粉末層形成手段、
固化層が形成されるように粉末層に光ビームを照射するための光ビーム照射手段、
粉末層および/または固化層が形成されることになる造形テーブル、ならびに
粉末層形成手段および造形テーブルを内部に具備するチャンバー
を有して成り、
チャンバーに設けられた光透過窓の下方空間領域を包囲する筒部材、および、その筒部材の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給するための手段を更に有して成る。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、光ビームの照射によって発生するヒュームをチャンバーの光透過窓から離れるように移動させることができる。特に、上昇するヒュームを“筒部材の内部のガス”および/または“環状ガス流れ”によって押さえつけるようにして放射状に外側へと移動させることができる。これにより、チャンバー光透過窓の“曇り”を防止できると共に、“ヒュームによる光ビーム経路の遮り”をも防止できる。
【0015】
つまり、本発明では、チャンバー内へと入射される光ビームの透過率の低下や屈折率の変化を防ぐことができ、所望の固化層形成が達成される。より具体的に言えば、粉末層が金属粉末層であって固化層が焼結層となる場合、『焼結が安定しないとか、あるいは、焼結部分の密度を高くすることができない』といった不都合を回避することができ、三次元形状造形物の強度を実質的に均一に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光造形複合加工機の動作を模式的に示した断面図
【図2】光ビームの照射によってヒュームがチャンバー内に発生する態様を模式的に表した斜視図(図2(a):切削機構を備えた複合装置、図2(b):切削機構を備えていない装置)
【図3】チャンバー内におけるヒュームの流れを模式的に示した断面図
【図4】粉末焼結積層法が行われる態様を模式的に示した斜視図
【図5】粉末焼結積層法が実施される光造形複合加工機の構成を模式的に示した斜視図
【図6】光造形複合加工機の動作のフローチャート
【図7】光造形複合加工プロセスを経時的に表した模式図
【図8】本発明の概念を模式的に表した図
【図9】筒部材の内部に低温ガスを供給する態様を模式的に示した断面図(図9(a))およびそれに使用する部材の斜視図(図9(b))
【図10】「光透過窓の周囲」を説明するための模式図(図10(a):水平方向断面が円形状の光透過窓の場合、図10(b):水平方向断面が四角形状又は矩形状の場合)
【図11】筒部材の内部に軽ガスを供給する態様を模式的に示した断面図(図11(a))およびそれに使用する部材の斜視図(図11(b))
【図12】筒部材の内部に低温ガスを供給することに加えて、筒部材の下端部を起点にした下方環状ガス流れを付加的に形成する態様を模式的に示した断面図(図12(a))およびそれに使用する部材の斜視図(図12(b))
【図13】筒部材の内部に軽ガスを供給することに加えて、筒部材の下端部を起点にした下方環状ガス流れを付加的に形成する態様を模式的に示した断面図(図13(a))およびそれに使用する部材の斜視図(図13(b))
【図14】環状ガス供給部材の局所的な吐出開口部の態様を模式的に示した斜視図(図14(a))および環状ガス供給部材のスリット状吐出開口部の態様を模式的に示した斜視図(図14(b))
【図15】環状ガス流れの形成にファンを用いる態様を模式的に表した断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0018】
本明細書において「粉末層」とは、例えば「金属粉末から成る金属粉末層」または「樹脂粉末から成る樹脂粉末層」などを指している。また「粉末層の所定箇所」とは、製造される三次元形状造形物の領域を実質的に意味している。従って、かかる所定箇所に存在する粉末に対して光ビームを照射することによって、その粉末が焼結又は溶融固化して三次元形状造形物の形状を構成することになる。更に「固化層」とは、粉末層が金属粉末層である場合には「焼結層」を実質的に意味しており、粉末層が樹脂粉末層である場合には「硬化層」を実質的に意味している。
【0019】
[粉末焼結積層法]
まず、本発明の製造方法の前提となる粉末焼結積層法について説明する。説明の便宜上、材料粉末タンクから材料粉末を供給し、均し板を用いて材料粉末を均して粉末層を形成する態様を前提として粉末焼結積層法を説明する。また、粉末焼結積層法に際しては造形物の切削加工をも併せて行う複合加工の態様を例に挙げて説明する(つまり、図2(b)ではなく図2(a)に表す態様を前提とする)。図1,4および5には、粉末焼結積層法と切削加工とを実施できる光造形複合加工機の機能および構成が示されている。光造形複合加工機1は、「金属粉末および樹脂粉末などの粉末を所定の厚みで敷くことによって粉末層を形成する粉末層形成手段2」と「外周が壁27で囲まれた造形タンク29内において上下に昇降する造形テーブル20」と「造形テーブル20上に配され造形物の土台となる造形プレート21」と「光ビームLを任意の位置に照射する光ビーム照射手段3」と「造形物の周囲を削る切削手段4」とを主として備えている。粉末層形成手段2は、図1に示すように、「外周が壁26で囲まれた材料粉末タンク28内において上下に昇降する粉末テーブル25」と「造形プレート上に粉末層22を形成するための均し板23」とを主として有して成る。光ビーム照射手段3は、図4および図5に示すように、「光ビームLを発する光ビーム発振器30」と「光ビームLを粉末層22の上にスキャニング(走査)するガルバノミラー31(スキャン光学系)」とを主として有して成る。必要に応じて、光ビーム照射手段3には、光ビームスポットの形状を補正するビーム形状補正手段(例えば一対のシリンドリカルレンズと、かかるレンズを光ビームの軸線回りに回転させる回転駆動機構とを有して成る手段)やfθレンズなどが具備されている。切削手段4は、「造形物の周囲を削るミーリングヘッド40」と「ミーリングヘッド40を切削箇所へと移動させるXY駆動機構41(41a,41b)」とを主として有して成る(図4および図5参照)。
【0020】
光造形複合加工機1の動作を図1、図6および図7を参照して詳述する。図6は、光造形複合加工機の一般的な動作フローを示しており、図7は、光造形複合加工プロセスを模式的に簡易に示している。
【0021】
光造形複合加工機の動作は、粉末層22を形成する粉末層形成ステップ(S1)と、粉末層22に光ビームLを照射して固化層24を形成する固化層形成ステップ(S2)と、造形物の表面を切削する切削ステップ(S3)とから主に構成されている。粉末層形成ステップ(S1)では、最初に造形テーブル20をΔt1下げる(S11)。次いで、粉末テーブル25をΔt1上げた後、図1(a)に示すように、均し板23を、矢印A方向に移動させ、粉末テーブル25に配されていた粉末(例えば「平均粒径5μm〜100μm程度の鉄粉」または「平均粒径30μm〜100μm程度のナイロン、ポリプロピレン、ABS等の粉末」)を造形プレート21上へと移送させつつ(S12)、所定厚みΔt1に均して粉末層22を形成する(S13)。次に、固化層形成ステップ(S2)に移行し、光ビーム発振器30から光ビームL(例えば炭酸ガスレーザ(500W程度)、Nd:YAGレーザ(500W程度)、ファイバレーザ(500W程度)または紫外線など)を発し(S21)、光ビームLをガルバノミラー31によって粉末層22上の任意の位置にスキャニングし(S22)、粉末を溶融させ、固化させて造形プレート21と一体化した固化層24を形成する(S23)。光ビームは、空気中を伝達させることに限定されず、光ファイバーなどで伝送させてもよい。
【0022】
固化層24の厚みがミーリングヘッド40の工具長さ等から求めた所定厚みになるまで粉末層形成ステップ(S1)と固化層形成ステップ(S2)とを繰り返し、固化層24を積層する(図1(b)参照)。尚、新たに積層される固化層は、焼結又は溶融固化に際して、既に形成された下層を成す固化層と一体化することになる。
【0023】
積層した固化層24の厚みが所定の厚みになると、切削ステップ(S3)へと移行する。図1および図7に示すような態様ではミーリングヘッド40を駆動させることによって切削ステップの実施を開始している(S31)。例えば、ミーリングヘッド40の工具(ボールエンドミル)が直径1mm、有効刃長さ3mmである場合、深さ3mmの切削加工ができるので、Δt1が0.05mmであれば、60層の固化層を形成した時点でミーリングヘッド40を駆動させる。XY駆動機構41(41a,41b)によってミーリングヘッド40を矢印X及び矢印Y方向に移動させ、積層した固化層24から成る造形物の表面を切削加工する(S32)。そして、三次元形状造形物の製造が依然終了していない場合では、粉末層形成ステップ(S1)へ戻ることになる。以後、S1乃至S3を繰り返して更なる固化層24を積層することによって、三次元形状造形物の製造を行う(図7参照)。
【0024】
固化層形成ステップ(S2)における光ビームLの照射経路と、切削ステップ(S3)における切削加工経路とは、予め三次元CADデータから作成しておく。この時、等高線加工を適用して加工経路を決定する。例えば、固化層形成ステップ(S2)では、三次元CADモデルから生成したSTLデータを等ピッチ(例えばΔt1を0.05mmとした場合では0.05mmピッチ)でスライスした各断面の輪郭形状データを用いる。
【0025】
[本発明の製造方法]
本発明は、上述した粉末焼結積層法のなかでも、特に光ビーム照射時の処理に特徴を有している。具体的には、光ビームの照射によって発生するヒュームの流れを“筒部材の内部のガス”によって、光透過窓から離れる方向へ導くことを特徴とする(図8参照)。これにより、チャンバー光透過窓の“曇り”を防止できると共に、“ヒュームによる光ビーム経路の遮り”を防止できる。
【0026】
本明細書において「ヒューム」とは、三次元形状造形物の製造方法に際して、光ビームが照射される粉末層および/または固化層から発生する煙状の物質(例えば「金属粉末材料に起因した金属蒸気」または「樹脂粉末材料に起因した樹脂蒸気」)を指している。
【0027】
本発明では、図9(a)および(b)に示すように、光透過窓52の下方空間領域の少なくとも一部を包囲する筒部材80を使用する。筒部材80の内部にはチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給する。例えば、図示するように、チャンバー内雰囲気温度よりも低温のガス90を供給する。これによって、低温ガスに起因した自然対流によって低温ガス90を筒部材80の内部から下方へと移動させる。つまり、光透過窓52の下方領域にて下降気流を発生させ、それによって、ヒュームの上昇を押さえつける。その結果、押さえつけられたヒュームは水平方向外側へと移動し得ることになる。つまり、光透過窓および光ビーム経路から外れるようにヒュームが流れることになり、光透過窓の曇りや光ビームの減衰を効果的に防止できる。
【0028】
本発明では、図9(b)に示すように、温調機93およびポンプ(図示せず)が設けられたガス導入ライン94aならびに当該ラインに連通して成るガス吐出部94bを介して低温ガスを筒部材80の内側空間へと供給してよい。このような供給によって、筒部材80の内側に低温ガス90を一旦充填することができる。筒部材80の内側に一旦充填された低温ガス90は、チャンバー内雰囲気ガスとの温度差に起因して、自然に下向きに移動し得るので、光透過窓52の下方領域にて下降気流が発生する。
【0029】
筒部材の内側空間に供給される低温ガス90の温度は、チャンバー内雰囲気温度よりも低いものであれば特に制限はない。例えば、低温ガス90の温度は、チャンバー内雰囲気温度(例えば室温25℃)よりも2℃〜30℃低いことが好ましく、より好ましくは5℃〜20℃低いことが好ましい。
【0030】
筒部材の内側空間に供給される低温ガスの種類は、特に制限はなく、種々のガスを用いることができる。例えば、チャンバー内に仕込まれる雰囲気ガスと異なる種類のガスを用いてよいし、あるいは同じ種類のガスを用いてもよい。例示すると、コスト的な観点からは“空気”を使用することが好ましい。また、粉末層および造形物の酸化防止の観点からは窒素ガスなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0031】
筒部材80は、図8および図9に示されるように光透過窓52の下方空間領域を包囲するものであれば、その態様などにつき特に制限はない。図示されるように、光透過窓52の周縁部に筒部材80の上端部が位置するように筒部材80を設置してよい。筒部材80の材質自体は金属やプラスチックなどであってよい。筒部材80の寸法について例示しておくと、例えば図9(b)に示される高さ寸法Lおよび厚み寸法Wは以下の通りである:

高さ寸法L:5〜50mm(例えば10〜25mm)

厚み寸法W:1〜50mm(例えば5〜15mm)
【0032】
筒部材80の上端部が位置付られる箇所は光透過窓の周囲であることが好ましい。ここでいう「光透過窓の周囲」とは、光透過窓52の周縁エッジからの水平方向離隔距離(例えば図10に示すような“La”または“Lb”)が10cm以内の局所的領域、好ましくは5cm以内の局所的領域を指している。換言すれば、本発明にいう「光透過窓の周囲」は、図10で示されるような幅寸法LaまたはLbを有する斜線部領域に相当し得る。
【0033】
“低温ガス90”に代えて、筒部材80の内部にはチャンバー内雰囲気ガスよりも軽いガスを供給してもよい。例えば、図11に示すように、軽ガス96を筒部材80の内部に仕込み、それによって筒部材80の内部に軽ガス96を存在させた状態で固化層の形成を行ってよい。かかる場合、光透過窓52の下方に軽ガス96のシール層を形成することができ、それによって、ヒュームの上昇を阻止できる。阻止されたヒュームは水平方向外側へと移動し得るので、光透過窓の曇りや光ビームの減衰を防止できる。つまり、筒部材80の内部に軽ガス96を仕込んでおくと、光透過窓および光ビーム経路から外れるようにヒュームが流れることになり、光透過窓の曇りや光ビームの減衰を防止できる。
【0034】
図11(b)に示すように、軽ガス96は、温調機97およびポンプ(図示せず)が設けられたガス導入ライン98aならびに当該ラインに連通して成るガス吐出部98bを介して筒部材80の内側空間へと供給してよい。このような供給によって、軽ガス96を筒部材80の内側に充填することができる。軽ガス96は、その比重に起因して、下方に移動しにくい傾向を有するので筒部材の内側空間に留まることになり、その結果、光透過窓52の下方に軽ガス96のシール層を形成することができる。
【0035】
筒部材の内側空間に供給される軽ガスは、チャンバー内雰囲気ガスよりも軽いものであれば特に制限はない。つまり、軽ガスの比重がチャンバー内雰囲気ガスの比重よりも小さければよい。例えば、チャンバー内雰囲気ガスが窒素ガスの場合、低温ガスはアルゴンガスおよび/またはヘリウムガスなどであってよい。
【0036】
筒部材80の内側空間に仕込まれる軽ガス96の温度は、チャンバー内雰囲気ガスの温度よりも高いことが好ましい。これにより、チャンバー内雰囲気ガスとの温度差に起因して、軽ガス96が筒部材の内側空間により留まり易くなるので、軽ガス96のシール層が安定し得る。
【0037】
“低温ガス90”または“軽ガス96”を筒部材の内側空間に供給することに加えて、環状ガス流れを付加的に形成してもよい。より具体的には、図12および図13に示すように、筒部材80の下端部を起点にしてガスを下方へと流すことによって、環状ガス流れを形成してよい。これによって、筒部材の内部に供された“低温ガス90”または“軽ガス96”の効果と相俟って、ヒュームが水平方向外側へと更に移動し易くなる。つまり、光透過窓および光ビーム経路から外れるようにヒュームが更に流れ易くなり、光透過窓の曇りや光ビームの減衰をより効果的に防止できる。
【0038】
環状ガス流れは、筒部材80の下端部から鉛直方向下向きにガスを流すことによって形成することが好ましい。この場合、実質的に下向きとなった環状ガス流れが形成されればよく、ガス流れの向きは鉛直方向下向きの方向から±20°の範囲あるいは±10°の範囲(例えば±5°の範囲)に入っていればよい。
【0039】
環状ガス流れの形成には環状ガス供給部材70を使用してよい。例えば、環状ガス供給部材70(特にそのガス吐出部72)を筒部材80の下端部に設け、そのように設けられた環状ガス供給部材からガスを供給することによってガス流れの起点を筒部材の下端部にすることができる(図12および図13参照)。図12および図13に示されるように、環状ガス供給部材のガス導入ライン71は、筒部材80の胴部分を通過するように構成されていることが好ましい。
【0040】
環状ガス供給部材70は、好ましくは、ガス導入ライン71およびそれと連通して成る環状ガス吐出部72から構成されている。図示されるように、光透過窓52が円盤形状であれば、筒部材の断面がそれに対応して円形であることが好ましく、それゆえ、ガス吐出部72はリング形状を有することが好ましい。ガス吐出部72の形態は、“下向きの環状ガス流れ”が形成されるのであれば特に制限はなく、例えば図14(a)に示すようにガス吐出部72の開口部72aが局所的に複数設けられた態様であってよいし、あるいは、図14(b)に示すようにガス吐出部72の開口部72bがスリット形状となった態様であってもよい(尚、ガス吐出部72の断面形状は矩形に限らず、図示されるような円形であってもよい)。
【0041】
環状ガス供給部材70から供給されるガス流量(特にガス導入ライン71を流れるガス流量)は、好ましくは5〜80L/min程度、より好ましくは10〜60L/min程度、更に好ましくは15〜40L/min程度である(0℃、1atmの標準状態を基準にしたガス流量)。
【0042】
“環状ガス流れ”に使用されるガスの種類については、特に制限はなく、種々のガスを用いることができる。例えば、チャンバー内に仕込まれる雰囲気ガスと同じ種類のガスを用いてよい。例示すると、コスト的な観点からは“空気”を使用することが好ましい。また、粉末層および造形物の酸化防止の観点からは窒素ガスなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0043】
環状ガス流れの形成にはファンを用いてもよい。具体的には、図15に示すように、チャンバー50の内部に設けたファン99を駆動することによって環状ガス流れを形成してよい。例えば、図示するように、筒部材80の下端部に設けられた少なくとも2つのプロペラを回転させることによって下向きのガス流れを局所的に形成することができ、それによって、環状ガス流れを形成できる。かかるファン駆動の態様では、チャンバー系内の雰囲気ガスが局所的に移動する態様となっており、実質的に閉鎖系で操作され得る。図15に示す態様においてプロペラの回転数は、下向きの局所的なガス流れが形成できるのであれば特に制限はないが、例えば50〜300rpm程度であってよい。
【0044】
環状ガス流れは、光ビームの照射時においてのみ形成してよい。つまり、光ビームの照射時のみガス供給(図12,13の態様)やファン駆動(図15の態様)を行ってよい。これにより、ヒュームが発生する時に“環状ガス流れ”を同期的に形成することができ、ランニング・コスト(≒操作コスト)が低減され得る。かかる態様では、光ビーム発振器へと出力される“照射時間のデータ”をガス供給ポンプやファン駆動部にも同様に出力することによって、ヒューム発生と同期的なガス流れを形成できる。
【0045】
本発明では“筒部材の内部のガス”および/または“環状ガス流れ”に起因して、光透過窓から離れる方向へと放射状にヒュームが移動し得る(図9,図11,図12および図13など参照)。つまり、ヒュームの上昇流れが放射方向流れへと変化する。より具体的にいうと、図9,図11,図12および図13などに示されるように、“筒部材の内部のガス”および/または“環状ガス流れ”によって「上昇ヒューム」が光透過窓の水平位置を中心としてチャンバーの周縁領域に向かって流れるように変化する。別の見方をすれば、“筒部材の内部のガス”および/または“環状ガス流れ”によってヒュームの上昇が押さえつけられ、それによって、押さえつけられたヒュームが水平方向外側へと移動していく。つまり、このような流れ変化に起因して、光透過窓の曇りや光ビームの減衰を効果的に防止できる。
【0046】
[本発明の製造装置]
次に、本発明の製造方法の実施に好適な装置について説明する(粉末として金属粉末を用い、固化層が焼結層となる態様を例にとって説明する)。かかる装置は、図1、図2、図4および図5に示すように、
金属粉末層を形成するための粉末層形成手段2、
焼結層が形成されるように金属粉末層に光ビームを照射するための光ビーム照射手段3、
金属粉末層および/または焼結層が形成されることになる造形テーブル20、ならびに
金属粉末層形成手段および造形テーブルを内部に具備するチャンバー50
を有して成り、
チャンバーに設けられた光透過窓の下方空間領域を包囲する筒部材80、および、その筒部材80の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給するための手段を更に有して成る。
【0047】
かかる装置の動作も含めて、「粉末層形成手段2」、「造形テーブル20」、「光ビーム照射手段3」、「チャンバー50」および「筒部材80」等については、上述の[粉末焼結積層法]および[本発明の製造方法]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。尚、「筒部材80の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給するための手段」としては、例えば、図9または11に示すような「温調機93,97およびポンプが設けられたガス導入ライン94a,98aならびに当該ラインに連通して成るガス吐出部94b,98b」である。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態を中心に説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。例えば、以下のような変更態様が考えられる。
【0049】
チャンバー内にてヒュームが必要以上に蓄積されることを防止すべく、水平方向外側へと移動させたヒュームをチャンバー内から適宜排出してもよい。例示すると、ある程度の量のヒュームがガス流れに蓄積された時点でチャンバー排出口からヒュームを排出させてよい。かかるヒュームの排出は、例えば、閉鎖していたチャンバー排出口を単に開くことによって実施できる。
【0050】
(従来技術について)
最後に、本発明の技術的思想と本質的に異なるものであるが、特表平9−511693について付言しておく。特表平9−511693には「レーザー焼結を用いて物体を層状に製造するための装置」が開示されている。開示されている装置では、ビームを収束させるレンズに対して窒素を流している。特にレンズ表面全体に流れるように工夫を施しており、『筒部材の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給する』といった本発明の思想については開示も示唆もされていない点に留意されたい。
【符号の説明】
【0051】
1 光造形複合加工機
2 粉末層形成手段
3 光ビーム照射手段
4 切削手段
8 ヒューム
19 粉末/粉末層(例えば金属粉末/金属粉末層または樹脂粉末/樹脂粉末層)
20 造形テーブル
21 造形プレート
22 粉末層(例えば金属粉末層または樹脂粉末層)
23 スキージング用ブレード
24 固化層(例えば焼結層または樹脂層)またはそれから得られる造形物
25 粉末テーブル
26 粉末材料タンクの壁部分
27 造形タンクの壁部分
28 粉末材料タンク
29 造形タンク
30 光ビーム発振器
31 ガルバノミラー
40 ミーリングヘッド
41 XY駆動機構
50 チャンバー
50a チャンバー壁面
50b チャンバーの上側内壁
52 光透過窓またはレンズ
70 環状ガス供給部材
71 ガス導入ライン
72 ガス吐出部
80 筒部材
90 低温ガス
93 低温ガスのための温調機
94a 低温ガス導入ライン
94b 低温ガス吐出部
96 軽ガス
97 軽ガスのための温調機
98a 軽ガス導入ライン
98b 軽ガス吐出部
99 ファン
L 光ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射して前記所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、前記新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程
をチャンバー内において繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、
前記チャンバーに設けられた光透過窓の下方空間領域を包囲する筒部材を設け、該筒部材の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給することを特徴とする、三次元形状造形物の製造方法。
【請求項2】
前記チャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスとして、該チャンバー内雰囲気の温度よりも低温のガスを前記筒部材の内部に供給し、該低温のガスと該チャンバー内雰囲気との温度差に起因した自然対流によって該低温のガスを下方へと移動させることを特徴とする、請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項3】
前記チャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスとして、該チャンバー内雰囲気のガスよりも軽いガスを前記筒部材の内部に仕込み、該軽いガスを前記筒部材の内部に存在させた状態で前記固化層の形成を行うことを特徴とする、請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項4】
前記軽いガスとしてアルゴンまたはヘリウムを用いることを特徴とする、請求項3に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項5】
前記軽いガスとして前記チャンバー内雰囲気の温度よりも高温のガスを用いることを特徴とする、請求項3または4に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項6】
前記筒部材の下端部を起点にガスを流すことによって環状ガス流れを付加的に形成することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項7】
前記筒部材の前記下端部に環状ガス供給部材を設け、該環状ガス供給部材からガスを下方へと供給することによって前記環状ガス流れを形成することを特徴とする、請求項6に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項8】
前記チャンバーの内部に設けたファンを駆動することによって前記環状ガス流れを形成することを特徴とする、請求項6に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項9】
前記光ビームの照射時においてのみ前記環状ガス流れを形成することを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項10】
粉末層を形成するための粉末層形成手段、
固化層が形成されるように粉末層に光ビームを照射するための光ビーム照射手段、
粉末層および/または固化層が形成されることになる造形テーブル、ならびに
粉末層形成手段および造形テーブルを内部に具備するチャンバー
を有して成り、
前記チャンバーに設けられた光透過窓の下方空間領域を包囲する筒部材、および、該筒部材の内部にチャンバー内雰囲気とは異なる温度または種類のガスを供給するための手段を更に有して成ることを特徴とする、三次元形状造形物の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−224919(P2012−224919A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94218(P2011−94218)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】