説明

三次元形状造形物の製造方法

【課題】造形物の反り変形に好適な対処した新たな三次元形状造形物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(i)造形プレート21上に設けた粉末層の所定箇所に光ビームを照射して前記所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および、(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、前記新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程を繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、造形プレートが支持テーブル20上に固定された状態となっており、造形プレートを支持テーブルに固定するに際しては、(a)支持テーブル上に固定された対を成す固定手段60によって挟み込まれるように造形プレートを支持テーブル上に配置し、(b)造形プレートを熱処理して反りを発生させ、(c)反りによって変形した造形プレートと固定手段との相互の当接によって造形プレートを支持テーブルに固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状造形物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、粉末層の所定箇所に光ビームを照射して固化層を形成することを繰り返し実施することによって複数の固化層が積層一体化した三次元形状造形物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、粉末材料に光ビームを照射して三次元形状造形物を製造する方法(一般的には「粉末焼結積層法」と称される)が知られている。かかる方法では、「(i)粉末層の所定箇所に光ビームを照射することよって、かかる所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成し、(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を敷いて同様に光ビームを照射して更に固化層を形成する」といったことを繰り返して三次元形状造形物を製造している(特許文献1または特許文献2参照)。粉末材料として金属粉末やセラミック粉末などの無機質の粉末材料を用いた場合では、得られた三次元形状造形物を金型として用いることができ、樹脂粉末やプラスチック粉末などの有機質の粉末材料を用いた場合では、得られた三次元形状造形物をモデルとして用いることができる。このような製造技術によれば、複雑な三次元形状造形物を短時間で製造することが可能である。
【0003】
粉末焼結積層法では、一般に、造形プレート上において三次元形状造形物が形成される。具体的には、造形テーブル上に造形プレートが配されてボルト等で固定され、その造形プレート上において三次元形状造形物が形成される。粉末材料として金属粉末を用い、得られる三次元形状造形物を金型として用いる場合を例にとると、図1に示すように、まず、所定の厚みt1の粉末層22を造形プレート21上に形成した後(図1(a)参照)、光ビームを粉末層22の所定箇所に照射して、造形プレート21上において固化層24を形成する。そして、形成された固化層24の上に新たな粉末層22を敷いて再度光ビームを照射して新たな固化層を形成する。このように固化層を繰り返し形成すると、複数の固化層24が積層一体化した三次元形状造形物を得ることができる(図1(b)参照)。最下層に相当する固化層は造形プレート面に接着した状態で形成されるので、三次元形状造形物は造形プレートと一体化して得られることになる。そして、一体化した三次元形状造形物と造形プレートとは、そのまま金型として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平1−502890号公報
【特許文献2】特開2000−73108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
三次元形状造形物は光ビームの照射を通じて製造されるものであるため、三次元形状造形物およびその土台の造形プレートは光ビームによる熱の影響を少なからず受けてしまう。具体的には、粉末層の照射箇所が一旦溶けて溶融状態となり、その後固化することで固化層は形成されるが、その固化する際に収縮現象が生じ得る(図2(a)参照)。特定の理論に拘束されるわけではないが、この収縮現象は、溶融した粉末が冷却・固化する際に応力が発生することに起因している。一方、固化層(即ち、三次元形状造形物)と一体化する造形プレートは、鋼材などから成る剛体であって、ボルトなどで造形テーブルに固定されているので、固化層形成時に収縮しきれず、造形プレートに応力が残留し得る。それゆえ、造形プレートを固定しているボルトを外すと、残留応力の開放に起因してプレートごと造形物が反り返る現象が生じてしまう(図2(b)参照)。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題は、造形物の反り変形に好適な対処した新たな三次元形状造形物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、
(i)造形プレート上に設けた粉末層の所定箇所に光ビームを照射して前記所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、前記新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程
を繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、
造形プレートが支持テーブル上に固定された状態となっており、造形プレートを支持テーブルに固定するに際しては、(a)支持テーブル上に固定された対を成す固定手段によって造形プレートが挟み込まれるように造形プレートを支持テーブル上に配置し、(b)造形プレートに熱処理を施して造形プレートに反りを発生させ、(c)反りによって変形した造形プレートと固定手段との相互の当接によって造形プレートを支持テーブルに固定することを特徴とする三次元形状造形物の製造方法が提供される。
【0008】
ある好適な態様では、対を成す固定手段の各々が全体として屈曲した形態を有している。かかる場合、前記(c)においては、固定手段の屈曲により形成された固定手段内側面に対して造形プレートの一部が当接する。好ましくは、造形プレートの対向する両端部分の各々が固定手段内側面に当接する。
【0009】
ある好適な態様では、造形プレートは、その対向する周縁部分の厚みが“造形物形成領域となる中央部分”の厚みよりも小さくなった形態を有している。かかる場合、前記(c)においては、造形プレートの周縁部分が固定手段に当接することが好ましい。
【0010】
別のある好適な態様では、粉末層を均し板のスライド移動によって形成する。かかる場合、対を成す固定手段は、均し板のスライド方向と直交する方向に対向して設けられることが好ましい。
【0011】
別のある好適な態様では、造形プレートの移動を防止するためのピンAが対を成して支持テーブル上に設けられてよく、かかる対を成すピンAが均し板のスライド方向にて対向するように造形プレートの外側に設けられていることが好ましい。また、別の観点から“造形プレートの移動を防止するためのピンB”を支持テーブル上に設けてもよい。かかる場合、前記(a)において、“造形プレートの主面に設けられた凹部”がピンBに嵌り込むように造形プレートが支持テーブル上に配置されることが好ましい。
【0012】
更に別のある好適な態様では、支持テーブルが可撓性を有しており、前記(c)における“造形プレートと固定手段との相互の当接”に際して支持テーブルが撓むようになっている。
【0013】
更に別のある好適な態様では、固定手段が可撓性を有しており、前記(c)における“造形プレートと固定手段との相互の当接”に際して固定手段が撓むようになっている。
【0014】
ある好適な態様では、造形プレートが反り変形する前の状態において、造形プレートと固定手段とが相互に接触している。
【0015】
別のある好適な態様では、造形プレートが反り変形する前の状態において、造形プレートと固定手段との間にクリアランスが設けられている。かかる場合、クリアランスにバネ部材を設けてもよい。また、前記(c)において、造形プレートの両端部分にのみ局所的に熱処理を施し、その両端部分を変形させて両端部分の各々を固定手段に当接させてもよい。
【0016】
更に別のある好適な態様では、熱処理に用いる熱源として、造形物製造における工程(i)および工程(ii)の光ビーム照射源を用いる。かかる態様では、前記(b)において、造形プレート上に配された1層以上の粉末層および/または固化層に対して熱処理を施して造形プレートに反りを発生させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法に従えば、三次元形状造形物の製造に際して蓄積され得る残留応力を効果的に減じることができ、結果として、三次元形状造形物の反り変形を減じることができる。
【0018】
特に本発明においては、造形プレートに熱処理を施して収縮応力による反り変形を発生させ、その造形プレートの反り変形を積極的に利用して造形プレートを支持テーブル上に固定するので、造形物完了後の造形物においては応力が残留しにくいものとなっている。つまり、造形プレートの固定を解除した際に発生するプレート反り量は減じられることになり、“プレートごと造形物が反り返る現象”が好適に抑制される。
【0019】
“反り返り”を抑制できると、三次元形状造形物の形状精度を出すことが容易となる。この点、従来技術において、三次元形状造形物の形状精度を出すには、“反り返り現象”などの程度を予め想定した上で設計しておかなければならなかったものの、本発明では造形物を支える造形プレートに熱処理を予め施すことによって形状精度を出すことができる。つまり、本発明は、そのような具体的に予測困難な現象を視野に入れた設計を“簡易なプロセスの付加”によって省くことができる点で非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】光造形複合加工機の動作を模式的に示した断面図
【図2】造形プレートの反り変形を模式的に示した断面図
【図3】光造形(粉末焼結積層法)を実施するための装置を模式的に示した斜視図(図3(a):切削機構を備えた複合装置、図3(b):切削機構を備えていない装置)
【図4】粉末焼結積層法が行われる態様を模式的に示した斜視図
【図5】粉末焼結積層法を実施できる光造形複合加工機の構成を模式的に示した斜視図
【図6】光造形複合加工機の動作のフローチャート
【図7】光造形複合加工プロセスを経時的に示した模式図
【図8】本発明の概念を模式的に表した図
【図9】本発明の概念を模式的に表した図
【図10】固定手段の設置態様を模式的に表した断面図および上面図
【図11】対向する固定手段の態様を模式的に表した上面図
【図12】本発明の製造方法を模式的に示した断面図
【図13】造形プレートの移動防止措置の態様Aを模式的に示した断面図
【図14】造形プレートの移動防止措置の態様Bを模式的に示した断面図
【図15】造形プレートと固定手段との間のクリアランスに対してバネ部材(コイルバネ形態)を設ける態様を模式的に示した断面図
【図16】造形プレートと固定手段との間のクリアランスに対してバネ部材(板バネ形態)を設ける態様を模式的に示した断面図
【図17】可撓性固定手段の態様を模式的に示した断面図
【図18】局所的熱処理の態様を模式的に示した断面図
【図19】局所的熱処理の態様を模式的に示した上面図
【図20】クリアランス有りの態様(図20(a))およびクリアランス無し態様(図20(b))を模式的に示した断面図
【図21】造形プレートと固定手段との間においてクリアランスを設けない態様を模式的に示した断面図
【図22】可撓性造形テーブルの態様を模式的に示した断面図
【図23】可撓性造形テーブルの態様として、造形テーブルの上に「裏側に空間を有する台20’」を付加的に設けたテーブル態様を模式的に示した断面図
【図24】湾曲プレートが使用される態様を模式的に示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する(図面における寸法関係は、あくまでも例示であって、実際の寸法関係を反映するものではない)。
【0022】
本明細書において「粉末層」とは、例えば「金属粉末から成る金属粉末層」を実質的に指している。また「粉末層の所定箇所」とは、製造される三次元形状造形物の領域を実質的に意味している。従って、かかる所定箇所に存在する粉末に対して光ビームを照射することによって、その粉末が焼結又は溶融固化して三次元形状造形物の形状を構成することになる。尚、粉末層が金属粉末層となる場合、「固化層」は「焼結層」に相当し、「固化密度」は「焼結密度」に相当し得る。例えば本発明に用いる金属粉末は、鉄系粉末を主成分とした粉末であって、場合によってニッケル粉末、ニッケル系合金粉末、銅粉末、銅系合金粉末および黒鉛粉末などから成る群から選択される少なくとも1種類を更に含んで成る粉末であってよい(一例として、平均粒径20μm程度の鉄系粉末の配合量が60〜90重量%、ニッケル粉末及びニッケル系合金粉末の両方又はいずれか一方の配合量が5〜35重量%、銅粉末および/または銅系合金粉末の両方又はいずれか一方の配合量が5〜15重量%、ならびに、黒鉛粉末の配合量が0.2〜0.8重量%となった金属粉末を挙げることができる)。
【0023】
また、本明細書にいう「造形プレート」とは、製造される造形物の土台となる部材を実質的に意味している。特に好適な態様では「造形プレート」は支持テーブル上に配される板状の部材を指している。そして、かかる「支持テーブル」とは、製造される造形物の架台・支持台なるパーツを実質的に意味しており、好ましくは上記造形プレートの架台・支持台となるパーツに相当する。例えば、支持テーブルは以下の[粉末焼結積層法]で用いられる“造形テーブル”である。
【0024】
更に、本明細書にいう「反り」とは、造形プレートに対する熱処理によって生じ得る“造形プレートの変形”を実質的に意味している。従って、「反り」には、造形プレートの周縁部の形状が大きく変化する図2(b)に示すような典型的な変形のみならず、その他の種々の形状変化が含まれ得る。
【0025】
[粉末焼結積層法]
まず、本発明の製造方法の前提となる粉末焼結積層法について説明する。説明の便宜上、材料粉末タンクから材料粉末を供給し、均し板を用いて材料粉末を均して粉末層を形成する態様を前提として粉末焼結積層法を説明する。また、粉末焼結積層法に際しては造形物の切削加工をも併せて行う複合加工の態様を例に挙げて説明する(つまり、図3(b)ではなく図3(a)に表す態様を前提とする)。図1,4および5には、粉末焼結積層法と切削加工とを実施できる光造形複合加工機の機能および構成が示されている。光造形複合加工機1は、「金属粉末および樹脂粉末などの粉末を所定の厚みで敷くことによって粉末層を形成する粉末層形成手段2」と「外周が壁27で囲まれた造形タンク29内において上下に昇降する造形テーブル20」と「造形テーブル20上に配され造形物の土台となる造形プレート21」と「光ビームLを任意の位置に照射する光ビーム照射手段3」と「造形物の周囲を削る切削手段4」とを主として備えている。粉末層形成手段2は、図1に示すように、「外周が壁26で囲まれた材料粉末タンク28内において上下に昇降する粉末テーブル25」と「造形プレート上に粉末層22を形成するための均し板23」とを主として有して成る。光ビーム照射手段3は、図4および図5に示すように、「光ビームLを発する光ビーム発振器30」と「光ビームLを粉末層22の上にスキャニング(走査)するガルバノミラー31(スキャン光学系)」とを主として有して成る。必要に応じて、光ビーム照射手段3には、光ビームスポットの形状を補正するビーム形状補正手段(例えば一対のシリンドリカルレンズと、かかるレンズを光ビームの軸線回りに回転させる回転駆動機構とを有して成る手段)やfθレンズなどが具備されている。切削手段4は、「造形物の周囲を削るミーリングヘッド40」と「ミーリングヘッド40を切削箇所へと移動させるXY駆動機構41(41a,41b)」とを主として有して成る(図4および図5参照)。
【0026】
光造形複合加工機1の動作を図1、図6および図7を参照して詳述する。図6は、光造形複合加工機の一般的な動作フローを示しており、図7は、光造形複合加工プロセスを模式的に簡易に示している。
【0027】
光造形複合加工機の動作は、粉末層22を形成する粉末層形成ステップ(S1)と、粉末層22に光ビームLを照射して固化層24を形成する固化層形成ステップ(S2)と、造形物の表面を切削する切削ステップ(S3)とから主に構成されている。粉末層形成ステップ(S1)では、最初に造形テーブル20をΔt1下げる(S11)。次いで、粉末テーブル25をΔt1上げた後、図1(a)に示すように、均し板23を、矢印A方向に移動させ、粉末テーブル25に配されていた粉末(例えば「平均粒径5μm〜100μm程度の鉄粉」または「平均粒径30μm〜100μm程度のナイロン、ポリプロピレン、ABS等の粉末」)を造形プレート21上へと移送させつつ(S12)、所定厚みΔt1に均して粉末層22を形成する(S13)。次に、固化層形成ステップ(S2)に移行し、光ビーム発振器30から光ビームL(例えば炭酸ガスレーザ(500W程度)、Nd:YAGレーザ(500W程度)、ファイバレーザ(500W程度)または紫外線など)を発し(S21)、光ビームLをガルバノミラー31によって粉末層22上の任意の位置にスキャニングし(S22)、粉末を溶融させ、固化させて造形プレート21と一体化した固化層24を形成する(S23)。光ビームは、空気中を伝達させることに限定されず、光ファイバーなどで伝送させてもよい。
【0028】
固化層24の厚みがミーリングヘッド40の工具長さ等から求めた所定厚みになるまで粉末層形成ステップ(S1)と固化層形成ステップ(S2)とを繰り返し、固化層24を積層する(図1(b)参照)。かかる積層過程では、新たに積層される固化層が、焼結又は溶融固化に際して、既に形成された下層を成す固化層と一体化する。
【0029】
積層した固化層24の厚みが所定の厚みになると、切削ステップ(S3)へと移行する。図1および図7に示すような態様ではミーリングヘッド40を駆動させることによって切削ステップの実施を開始している(S31)。例えば、ミーリングヘッド40の工具(ボールエンドミル)が直径1mm、有効刃長さ3mmである場合、深さ3mmの切削加工ができるので、Δt1が0.05mmであれば、60層の固化層を形成した時点でミーリングヘッド40を駆動させる。XY駆動機構41(41a,41b)によってミーリングヘッド40を矢印X及び矢印Y方向に移動させ、積層した固化層24から成る造形物の表面を切削加工する(S32)。そして、三次元形状造形物の製造が依然終了していない場合では、粉末層形成ステップ(S1)へ戻ることになる。以後、S1乃至S3を繰り返して更なる固化層24を積層することによって、三次元形状造形物の製造を行う(図7参照)。
【0030】
固化層形成ステップ(S2)における光ビームLの照射経路と、切削ステップ(S3)における切削加工経路とは、予め三次元CADデータから作成しておく。この時、等高線加工を適用して加工経路を決定する。例えば、固化層形成ステップ(S2)では、三次元CADモデルから生成したSTLデータを等ピッチ(例えばΔt1を0.05mmとした場合では0.05mmピッチ)でスライスした各断面の輪郭形状データを用いる。
【0031】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、上述した粉末焼結積層法において、造形プレートに発生し得る応力を特に考慮したものである。具体的にいえば、図8および図9に示すように、造形プレート21に熱処理を施して反り変形を発生させ、その発生した反り変形を積極的に利用して造形プレート21を造形テーブル20に固定する。つまり、造形物の製造に先立って又はそれに際して、入熱処理による反り変形を造形プレート21に発生させて造形プレート21を造形テーブル20に固定するので、造形完了後の造形物には残留応力の蓄積が少ないものとなる。換言すれば、造形テーブル20に対する造形プレート21の固定を解除した際に発生し得る“反り返り”は減じられ、それゆえ、“その反り返りに起因した造形物の精度低下”を効果的に抑制することができる。
【0032】
本発明の特徴の1つは、固定手段60(60a,60b)と造形テーブル20との間で造形プレート21を挟持して造形プレートを造形テーブルに固定することである(図8(b)および図9(b)参照)。つまり、本発明は、螺子付けなどによって造形プレートを造形テーブルに固定するものではない。
【0033】
三次元形状造形物の製造方法においては、造形プレート上にて造形物が製造されるが、かかる造形プレートは造形テーブルに固定した状態で使用される。特に本発明では、かかる造形プレートの固定に際して、(a)造形テーブル上に固定された対を成す固定手段によって造形プレートが挟み込まれるように造形プレートを造形テーブル上に配置し、(b)造形プレートに熱処理を施して造形プレートに反りを発生させ、(c)その反りによって変形した造形プレートと固定手段との相互の当接によって造形プレートを造形テーブルに固定する。
【0034】
本発明で用いられる「対を成す固定手段60a,60b」は、図10または図8(a)および9(a)に示されるように、造形テーブル20に固定された状態で使用される。図示されるように、固定手段60a,60bはそれぞれ螺旋部材62などを用いて造形テーブル20に対して固定される。
【0035】
対を成す固定手段60は、図10の切欠拡大図にて示されるように、その各々が屈曲した形態を有していることが好ましい。より具体的には、固定手段60a,60bは、鉛直延在部(60a1,60b1)と水平延在部(60a2,60b2)とから構成される屈曲形状を有していることが好ましい。かかる場合、鉛直延在部(60a1,60b1)が造形テーブル20の主面に対して略垂直に延在すると共に水平延在部(60a2,60b2)が造形テーブル20の主面と略平行に延在することになるように、固定手段60a,60bが固定されることが好ましい。図示されるように、固定手段60の成す面(M面およびN面などの面)のうち“屈曲により形成されたM面(M1、M2)”が、造形プレートと直接向き合うことになり、内側面を構成し得る。つまり、本発明において「固定手段内側面」とは、“屈曲を成している面(M面およびN面)”のなかでも、より内側に位置する面、即ち、より造形プレート側に位置する面のことを実質的に意味している。
【0036】
固定手段60は、その剛性が高いものであってよいし、あるいはその逆で、その剛性が低いものであってもよい。それゆえ、固定手段60の材質自体は、造形プレートの固定に資するものであれば特に制限はない。例えば、固定手段60は、超硬金属材などの比較的ヤング率が高い材質から成るものであってよいし、あるいは、アルミ材、銅材またはプラスチック材などの比較的ヤング率が低い材質から成るものであってもよい。固定手段60が比較的高いヤング率の材質から成る場合(即ち、固定手段が高い剛性を有する場合)では、図8(b)に示すように、「反り変形した造形プレートと固定手段との相互の当接」に際して固定手段60自体が実質的に変形し得ない。一方、固定手段60が比較的低いヤング率の材質から成る場合(即ち、固定手段が低い剛性を有する場合)では、図9(b)に示すように、「反り変形した造形プレートと固定手段との相互の当接」に際して固定手段60が撓むことになる。ちなみに、本発明において低い剛性を有する固定手段の場合は、その固定手段が撓むことを意図しているので、剛性が低い固定手段は可撓性を有しているといえる。
【0037】
固定手段の設置態様について詳述する。図10または図8(a)および9(a)に示すように、固定手段60a,60bは、造形テーブル20上に配された造形プレート21を両側から挟み込むように設けられる。特に、対向する固定手段60aおよび60bのそれぞれが造形プレート21の一部分を部分的に覆うように設けられることが好ましい。つまり、造形プレート21の一部分の上側に固定手段60a,60bの一部分が位置付けられるように固定手段60a,60bが配置されることが好ましい。
【0038】
より具体的にいえば、固定手段60a,60bの水平延在部(60a2,60b2)が、造形プレート21の対向する両端部分21Aの上側に位置付けられることが好ましい(図10参照)。このように固定手段60が配置されることによって、“加熱処理に起因して反り変形させられた造形プレート21”が固定手段と好適に当接することができ、造形プレートの好適な固定につながる。つまり、図8(b)および図9(b)に示されるように、反り変形した造形プレートの対向する端部分が固定手段60a,60bの水平延在部(60a2,60b2)と当接することによって、造形プレート21が造形テーブル20に対して動かないように固定される。
【0039】
対を成す固定手段60a,60bは、造形プレート21を挟み込むべく相互に対向するように設けられることが好ましい。特に、かかる“対向する固定手段60a,60b”は、粉末層形成用の均し板23のスライド方向と直交する方向に対向していることが好ましい(図11参照)。なぜなら、均し板の幅寸法を好適に調整することによって、スライド移動する均し板23と固定手段60a,60bとの不必要な干渉が回避できるからである。
【0040】
このような固定手段と共に用いられる造形プレート21は、あくまでも造形物製造のための領域を供するものであるために、それに適した形態を有していることが好ましい。つまり、造形プレート21は、固定手段60に当接して固定されつつも、造形物形成領域を供すことができる形態を有していることが好ましい。例えば、造形プレート21は、対向する周縁部分21Aの厚みが“造形物形成領域となる中央部分21Bの厚み”よりも小さくなった形態を有していてよい(図10参照)。つまり、固定手段60との当接に供する両端部分21Aが肉薄になっており、そのように肉薄になった両端部分21Aが固定手段60a,60bの水平延在部(60a2,60b2)よりも下方に位置付けられることが好ましい。これによって、その肉薄になった両端部分21Aが固定手段の水平延在部(60a2,60b2)と当接することができ好適な固定を可能としつつ、その一方で中央部分21Bは造形物製造に適した領域を供すことができる。
【0041】
本発明では、造形プレートに熱処理を施して、その熱処理で変形した造形プレートを固定手段に対して押圧状態で当接させることで造形プレートを固定化する。かかる熱処理は、造形プレートに“反り変形”をもたらすものであれば、いずれの熱処理であってもかまわない。換言すれば、造形プレートに“反り応力”を発生させるものであれば、いずれの熱処理であってもかまわない。従って、加熱処理の態様としては、造形プレートに対して直接的に加熱を行う態様のみならず、造形プレートに対して間接的に加熱を行う態様が含まれ得る(例えば造形プレート上に配された粉末層および/または固化層に対して加熱を行ってもよい)。
【0042】
また、熱処理としては、例えば粉末焼結積層法で用いる光ビームを照射してよいし、あるいは、それとは異なる光ビームを照射してもよい(ここでいう「光ビーム」は、例えばレーザ光のような指向性エネルギービームである)。つまり、造形プレートの“反り変形”に用いる熱処理源としては、光造形に用いる光ビーム照射源を用いてよいし、それとは異なる光ビーム照射源を用いてもよい。前者の場合には、光造形(即ち、粉末焼結積層法)の装置を利用できるので設備コストの点でメリットがあるだけでなく、同じ装置を用いるために製造プロセス全体がスムーズとなり得る。一方、後者の場合では、複数の造形物を製造する際に並列的な作業を行うことができる点でメリットがある。つまり、複数の造形物の製造に際して“光造形”と“造形プレートの反り変形(+平坦化)”とを並列的に実施することができ、複数の造形物を製造する際にその製造時間を全体として短縮できる。
【0043】
光ビーム照射により造形プレートに熱処理を施す場合、照射する光ビームの出力エネルギーなどを調整すると、加熱に起因した“反り変形”を好適に引き起こすことができる。例えば、光ビームの出力エネルギーは約50W〜1kW程度であることが好ましい。尚、(a)光ビームの出力エネルギーを調整することの他に、(b)光ビームの走査速度を調整する、(c)光ビームの走査ピッチを調整する、(d)光ビームの集光径を調整する(例えば0.05mm〜5mm程度の集光径とする)ことよっても“反り変形”を好適に発生させることができる。上記(a)〜(d)は、単独で行ってもよいものの、それらを種々に組み合わせて行ってもよい。
【0044】
“反り変形”をより十分に発生させる点でいえば、造形プレートの上面(造形物形成領域が供される表側の主面)をできるだけ全体的に加熱することが好ましい。例えば光ビーム照射によって造形プレートを加熱する場合、光ビームを走査することによって、造形プレートの上面を全体的に加熱できる。
【0045】
造形プレートの熱処理の態様としては、光ビーム照射による加熱にのみ限定されず、アーク放電を用いた加熱、ガスバーナーを用いた加熱、加熱チャンバー投入による加熱などであってもよい。
【0046】
ここで、本発明の製造方法で用いる造形プレートについて詳述しておく。造形プレート21の形状は、原則的に造形物に土台なる面(即ち、主面)を供する限り、いずれの形状であってもよく、図示されるような直方体形状に限定されず、円板形状または多角柱形状などであってもよい。造形プレートの寸法についていえば、一般的には主面サイズ(即ち、“上面”または“下面”)が造形物底面よりも大きいことが求められ、例えば、造形物底面サイズの110〜200%程度であればよい。造形プレートの厚みは、主面サイズ・造形プレートの材質・固化層の材質などによって変わり得るものの、例えば、10〜70mm程度であってよい。
【0047】
造形プレートの材質は特に制限はない。例えば、造形プレートは鉄板であってよく、それゆえ、造形プレートの材質は炭素鋼やプレハードン鋼などであってよい。造形プレートの材質が、超硬合金、高速度工具鋼、合金工具鋼またはステンレス鋼などであってもよい。
【0048】
次に、図12を参照しながら、本発明の製造方法を経時的に例示する。
【0049】
まず、造形物の土台となる造形プレートを用意すると共に、対を成す固定手段を用意する。次いで、図12(a)に示すように、造形プレート21を造形テーブル20上に配置した後、造形テーブル20上に配された造形プレート21を両側から挟み込むように固定手段60a,60bを造形テーブル20上に設置する。固定手段60a,60bは、その水平延在部(60a2,60b2)が造形プレート21の対向する両端部分21Aの上側に位置付けられるように、造形テーブル20上に固定される。固定手段60a,60bの固定自体は螺旋部材62などを用いて行ってよい。
【0050】
図示される態様では、造形プレート21と固定手段60a,60bとの間にクリアランスが設けられている。より具体的には、固定手段の水平延在部(60a2,60b2)の下面と造形プレートの両端部分21Aの上面との間にクリアランスが設けられている。例えば、クリアランスの大きさ(図12(a)に示す“t”)は5μm〜500μm程度であってよい。
【0051】
次いで、造形プレート21の上面に対して光ビームLを照射するなどの処理を行うことによって、造形プレート21の熱処理を行う。これによって、造形プレート21に反り変形を生じさせ、その反り変形によって、造形プレート21を固定手段60a,60bに接触させる(図12(b)参照)。より具体的には、造形プレートの両端部分21Aが上側に引っ張られるような反り変形を造形プレート21に生じさせ、それによって、造形プレート21の両端部分21Aを固定手段60a,60bのそれぞれの内側面に接触させる。特に、造形プレート21の両端部分21Aが固定手段の水平延在部(60a2,60b2)を斜め上方へと押圧するように、両端部分21Aが水平延在部(60a2,60b2)の下面に接触することが好ましい。これによって、造形プレート21が、固定手段60a,60bと造形テーブル20との間で好適に保持され、その結果、造形プレート21が造形テーブル21へと固定されることになる。本発明においては、造形プレート21が造形テーブル20に固定されるものの、螺子付けで造形プレートの固定を行っているのではなく、固定手段60a,60bと造形テーブル20との間における挟持によって造形プレート21の固定化を行っている。
【0052】
造形プレートの固定後は、粉末焼結積層法が造形プレート上に実施されて造形物が製造される。つまり、図1(a)に示すように造形プレート21上に粉末層を均し板23のスライド移動により形成し、(i)形成された粉末層の所定箇所に光ビームを照射して前記所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する。そして、(ii)得られた固化層の上には新たな粉末層を形成し、その新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する(図1(b)参照)。このような(i)および(ii)の工程を繰り返して実施することによって、複数の固化層が積層一体化した三次元形状造形物を造形プレート上で得ることができる。
【0053】
三次元形状造形物の製造後においては、“造形プレートと一体化した造形物”を固定手段から取り外すことになる。ここで、本発明は、反り変形した造形プレートに対して造形物を製造するものであるので、螺子部材62を外して固定手段60a,60bを造形テーブル上から除去したとしても、その際に発生する造形物の反り返りは少なく、好ましくは反り返りは生じることがない。つまり、本発明では、“固定解除に際して造形物がプレートごと反り返る”といった現象が好適に回避されている。
【0054】
『造形プレートに熱処理を施して、その熱処理で変形した造形プレートを固定手段に対して押圧状態で当接させて造形プレートを固定化する』といった本発明の特徴的態様については、その他に種々の態様が考えられる。以下それについて説明する。
【0055】
(造形プレートの移動防止措置の態様A)
かかる態様は、造形プレートが位置ずれを起こさないように、その移動を防止するためのピンAを造形テーブル上に設ける態様である。具体的には、図13(a)および(b)に示すように、対を成す少なくとも2つのピンA(70)が造形プレート21の外側の造形テーブル20上に設置される。図示されるように、好ましくはピンA(70)が造形プレート21の周縁エッジに接した状態で造形テーブル上に設置される。ピンA(70)の造形テーブル20への設置は、造形テーブルの穴または凹部にピンA(70)を嵌め込むことによって行ってよい(図13(b)参照)。
【0056】
図13(a)に示すように、固定手段60a,60bが均し板23のスライド方向と直交する方向に対向して設けられる場合、対を成すピンA(70)は、均し板23のスライド方向に沿って対向するように設けられることが好ましい。なぜなら、均し板23のスライド移動に起因する“造形プレートの位置ずれ”を効果的に防止できるからである。
【0057】
ピンA(70)の形状は、特に制限されるものではなく、例えば円柱形状または四角柱形状などであってもよい。ピンA(70)の材質も、特に制限されるものではなく、例えば金属またはセラミックス等であってよい。また、ピンA(70)の個数は、その個々のサイズ、造形物プレートのサイズなどに依存し得るものの、例えば2〜20個であり、より好ましくは2〜10個である(但し、ピンAは対を成して設けられるものであるので、そのような個数範囲の中でも特に“偶数個”が選択される)。
【0058】
(造形プレートの移動防止措置の態様B)
かかる態様も、造形プレートが位置ずれを起こさないように、その移動を防止するためのピンを造形テーブル上に設ける態様である。特にかかる態様においては、造形プレートと造形テーブルとの間にピンBを挿入する態様である。
【0059】
具体的には、図14(a)および(b)に示すように、造形プレート21と造形テーブル20との間に介在するようにピンB(71)を造形テーブル20上に設置する。例えば、造形プレート21の裏側主面に設けられた凹部21DにピンB(71)が嵌り込むように造形プレート21を造形テーブル20上に配置する。図示されるように、ピンB(71)の設置場所は造形プレート21の中央部に相当する位置であることが好ましい。造形テーブル20への設置自体は、上述の態様と同様、造形テーブルの穴または凹部にピンB(71)を嵌め込むことによって行ってよい(図14(b)参照)。
【0060】
かかる態様では、造形プレート21の位置が規定され、造形プレート21の位置ずれが防止される(特に、均し板23のスライド移動に起因する“造形プレートの位置ずれ”を効果的に防止できる)。ピンB(71)の形状は、特に制限されるものではなく、例えば円柱形状または四角柱形状などであってもよい。しかしながら、ピンB(71)が図14に示すような角ピンの場合、造形プレートの回転移動を防止できるので、その点を重視すれば“四角柱形状”であることが好ましいといえる。ピンB(71)の材質は、上述の態様と同様、金属またはセラミックス等の材質であってよい。ピンB(71)の個数は、好ましくは1個〜5個程度、より好ましくは1個である。
【0061】
特に本態様では、造形プレートが反り変形すると、その反り変形に起因して、造形プレート21の凹部21Dが拡がることになるので(図14(c)参照)、造形物完成後に造形テーブルから造形プレートを容易に取り外すことができる。
【0062】
(バネ部材設置の態様)
かかる態様は、造形プレートが位置ずれを起こさないように、造形プレートと固定手段との間のクリアランスにバネ部材を設ける態様である。具体的には、図15(a)に示すように、固定手段の水平延在部(60a2,60b2)の下面と造形プレートの両端部分21Aの上面との間の隙間にバネ部材80を設ける。これよって、造形プレートが反り変形する前の状態において、造形プレート21−バネ部材80−固定手段60a,60bの間の接触抵抗によって造形プレート21の位置ずれが防止される(特に、均し板23のスライド移動に起因する“造形プレートの位置ずれ”を効果的に防止できる)。そして、造形プレートが熱処理されて反り変形した場合にあっては、バネ部材80は圧縮されて更に接触抵抗が大きくなるので(図15(b)参照)、位置ずれを防止しつつも、造形プレートがバネ部材を介して固定手段と造形テーブルとの間で挟持されて固定される。
【0063】
造形プレートと固定手段との間のクリアランスに設けられるバネ部材80は、図15に示すようなコイルバネ形態であってよいし、あるいは、図16(a)および(b)に示すような板バネ形態であってもよい。
【0064】
(可撓性固定手段の態様)
かかる態様は、固定手段が可撓性を有している態様である。つまり、固定手段が比較的ヤング率の低い材質から成る態様である。具体的には、固定手段60a,60bが造形プレート21よりも軟らかく、例えばアルミ材、銅材またはプラスチック材などの材質から成る態様である。
【0065】
このような態様では、熱処理で反り変形させた造形プレート21が固定手段60a,60bに対して押圧状態で当接する際、固定手段60a,60bが撓むことになる(図17参照)。特に図17(b)に示すように、反り変形した造形プレートの両端部分21Aが固定手段60a,60bを押圧することになるので、対を成す固定手段60a,60bは内側へと傾くように撓むことになる。その結果、造形プレートの両端部分21Aと固定手段60a,60bとの接触面積が大きくなり、造形プレート21が固定手段60a,60bと造形テーブル20との間でより安定的に挟持されることになる。
【0066】
(局所的熱処理の態様)
かかる態様は、造形プレートの両端部分にのみ局所的に熱処理を施す態様である。具体的には、図18および図19に示すように、造形プレート21の両端部分21Aにのみ局所的に熱処理を施し、その両端部分21Aを変形させる。これにより、造形プレートの両端部分21Aの各々を固定手段60a,60bに当接させることができ、造形プレート21の仮止め(造形プレートの位置ずれ防止)を図ることができる。より具体的には、造形プレートの全体的な熱処理に先立って、造形プレートの両端部にのみ局所的に熱処理を施して、造形プレートを固定手段に予め接触させておけば、以降の処理に際して造形プレート21が位置ずれを起こすことなく好適に保持され得る。
【0067】
対向する周縁部分21Aの厚みが“造形物形成領域となる中央部分21Bの厚み”よりも小さくなった形態を造形プレートが有している場合では、その周縁部分21Aに対してのみ局所的に熱処理を施して、その部分を変形させてよい(図19参照)。
【0068】
このような局所的な熱処理の態様は、上記の“可撓性固定手段の態様”と組み合わせて採用してよい。かかる場合、局所的な熱処理により造形プレートの仮止め(造形プレートの位置ずれ防止)を図った後で造形プレートの全体的な熱処理により造形プレートに大きな反り変形を生じさせたとしても、固定手段が内側へと傾いて撓むことができるので、造形プレートにおける応力蓄積が回避され得る。
【0069】
(クリアランス無し態様)
かかる態様は、造形プレートと固定手段との間にクリアランスを設けない態様である。つまり、図20(a)に示される態様ではなく、図20(b)に示される態様である。換言すれば、造形プレートの反り変形前において、造形プレート21と固定手段60a,60bとの間に空間が存在している態様(図20(a))ではなく、造形プレート21と固定手段60a,60bとが相互に接触している態様(図20(b))である。
【0070】
かかる態様では、固定手段60a,60bと造形プレート21との相互の接触に起因して造形プレート21の仮止め(造形プレートの位置ずれ防止)を図ることができる点で有利である。
【0071】
この“クリアランス無し態様”は、上記の“可撓性固定手段の態様”と組み合わせて採用することが好ましい。なぜなら、造形プレートの熱処理によって造形プレートに反り変形を生じさせた際、固定手段60a,60bが内側へと傾いて撓むことができるので、造形プレート21における応力蓄積を回避できるからである(図21参照)。
【0072】
(可撓性造形テーブルの態様)
かかる態様は、造形テーブルが可撓性を有している態様である。例えば、図22(a)に示すように造形テーブル20の厚さが薄くなっていたり(図示されるように、例えば造形テーブルの周縁部以外が肉薄となっていたり)、および/または、造形テーブル20が比較的ヤング率の低い材質(例えばアルミ材、銅材またはプラスチック材などの材質)から成っていたりする態様である。
【0073】
このような態様では、反り変形した造形プレート21が固定手段60a,60bと押圧状態で当接する際に造形テーブル20が撓むことになる(図22(b)参照)。具体的には、図22(b)に示されるように、反り変形した造形プレートの両端部分21Aが固定手段60a,60bを押圧することになるが、その押圧に起因して、造形テーブル20の端部が上方へと持ち上がるように撓むことになる。このような造形テーブルの撓みが生じると、造形テーブル20に固定されている固定手段60a,60bが内側へと傾くことになる。従って、反りによって変形した造形プレートと固定手段との当接に際しては固定手段60a,60bに掛かる過度な力が減じられることになり、造形物に最終的に残留する応力は少なくなる。
【0074】
「可撓性造形テーブルの態様」としては、図23に示されるような態様も可能である。つまり、造形テーブルとして、その上に「裏側に空間を有する台20’」を付加的に設けたテーブルを使用してよい。かかる場合、「裏側に空間を有する台20’」に対して造形プレート21および固定手段60a,60bを設置する。このような態様であっても、反り変形した造形プレート21が固定手段60a,60bと押圧状態で当接するに際しては「裏側に空間を有する台20’」が上記の態様(図22の態様)と同様に撓むことになる。即ち、図23(b)に示されるように、反り変形した造形プレートの両端部分21Aが固定手段60a,60bを押圧するに際して、台20’の端部が上方へと持ち上がるように撓むことになる。その結果、上記と同様、固定手段60a,60bに掛かる過度な力が減じられ、最終的に造形物に残留する応力は少なくなる。尚、「裏側に空間を有する台20’」は、上記と同様、比較的ヤング率の低い材質(例えばアルミ材、銅材またはプラスチック材などの材質)から成っていてもよい。
【0075】
(湾曲プレートの使用態様)
かかる態様は、造形プレートとして「湾曲した面を有するプレート」を用いる態様である。具体的には、図24(a)に示すように、造形プレート21の表側主面および裏側主面が弓形に湾曲している態様である。特には、プレート断面で見た場合、表側主面および裏側主面の中間部分が上方に変位するように弓形に湾曲している造形プレートを用いることが好ましい。
【0076】
このような態様では、反り変形した造形プレート21が固定手段60a,60bと押圧状態で当接して固定された際、造形プレート21の表側主面(造形物形成領域を有する面)が実質的にフラットとなり得る。従って、その表側主面上に精度良く所望の粉末層および/固化層を形成でき、ひいては、三次元形状造形物の形状精度をより容易に出すことが可能となる。
【0077】
(粉末層および/または固化層に対する熱処理)
かかる態様は、三次元形状造形物の製造に際して造形プレートの加熱処理を行う態様である。具体的には、『造形プレート上に配した1層以上の粉末層および/または固化層』に対して熱処理を施してよい。例えば、造形プレート上に敷かれた1層目の粉末層に対して光ビームを照射してよく、それによって、固化層形成に際して造形プレートに反り変形を生じさせる(粉末層・固化層の厚さは、例えば0.02mm〜0.08mm程度であってよい)。2層目も同様であって、第1層目の固化層の上に敷かれた粉末層に対して光ビームを照射すればよい。これにより、第2層固化層の形成に際して造形プレートの反り変形が更に生じることになり得る(それ以降の層に対する熱処理はこの“第2層目”の場合と同様である)。
【0078】
このような態様は、固化層形成に際して造形プレートを反り変形させて固定手段との当接を行う態様であり、それゆえ、三次元形状造形物の製造に伴って造形プレートの固定化を実施できる。
【0079】
ちなみに、造形プレートに対して直接的に行う加熱処理の場合では“熱応力”に主に起因した反り変形が造形プレートに生じ得るのに対して、造形プレート上に配された粉末層に対して行うような間接的な加熱処理の場合には“熱応力”に加えて又はそれとは別に“固化層形成時に生じ得る引張り応力”などにも起因した反り変形が造形プレートに生じ得ることになる。
【0080】
[三次元形状造形物]
最後に、上述の製造方法で得られる三次元形状造形物について触れておく。本発明の製造方法で得られる三次元形状造形物は、その底面に造形プレートが接合している。特に、三次元形状造形物は、上述の製造方法に起因して得られるものであるために、接合している造形プレートが反り変形した形態を有している。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0082】
例えば、反り変形した造形プレートが当接する“固定手段の内側面”をテーパー状にしてよく、それによって、造形プレートと固定手段との間の好適な“面接触”を実現できる。
【0083】
また、上記説明においては、固定手段の当接に供する両端部分が肉薄になった造形プレートを例示態様として用いて説明したが、本発明は必ずしもかかる態様に限定されない。例えば、造形プレートが最もシンプルな平板形状を有する態様であってもよく、その場合であっても、“反り変形”によって固定手段を介して造形テーブルに固定できるので本発明の効果の点では変わりはない。
【符号の説明】
【0084】
1 光造形複合加工機
2 粉末層形成手段
3 光ビーム照射手段
4 切削手段
19 粉末/粉末層(例えば金属粉末/金属粉末層または樹脂粉末/樹脂粉末層)
20 造形テーブル
20’ 裏側に空間を有する台
21 造形プレート
21A 造形プレートの周縁部分
21B 造形プレートの中央部分(造形物形成領域)
21D 造形プレートの裏側主面に設けられた凹部
22 粉末層(例えば金属粉末層または樹脂粉末層)
23 スキージング用ブレード
24 固化層(例えば焼結層または硬化層)またはそれから得られる三次元形状造形物
24’ 三次元形状造形物の底面領域
25 粉末テーブル
26 粉末材料タンクの壁部分
27 造形タンクの壁部分
28 粉末材料タンク
29 造形タンク
30 光ビーム発振器
31 ガルバノミラー
32 反射ミラー
33 集光レンズ
40 ミーリングヘッド
41 XY駆動機構
41a X軸駆動部
41b Y軸駆動部
42 ツールマガジン
50 チャンバー
52 光透過窓
60(60a,60b) 固定手段
60a1,60b1 固定手段の鉛直延在部
60a2,60b2 固定手段の水平延在部
62 螺旋部材
70 ピンA
71 ピンB
80 バネ部材
L 光ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)造形プレート上に設けた粉末層の所定箇所に光ビームを照射して前記所定箇所の粉末を焼結又は溶融固化させて固化層を形成する工程、および
(ii)得られた固化層の上に新たな粉末層を形成し、前記新たな粉末層の所定箇所に光ビームを照射して更なる固化層を形成する工程
を繰り返して行う三次元形状造形物の製造方法であって、
前記造形プレートが支持テーブル上に固定された状態となっており、該造形プレートを該支持テーブルに固定するに際しては、(a)前記支持テーブル上に固定された対を成す固定手段によって挟み込まれるように前記造形プレートを前記支持テーブル上に配置し、(b)前記造形プレートに熱処理を施して該造形プレートに反りを発生させ、(c)該反りによって変形した前記造形プレートと前記固定手段との相互の当接によって該造形プレートを前記支持テーブルに固定することを特徴とする、三次元形状造形物の製造方法。
【請求項2】
前記対を成す固定手段の各々が屈曲した形態を有しており、前記(c)においては、前記固定手段の前記屈曲により形成された固定手段内側面に対して前記造形プレートの一部が当接することを特徴とする、請求項1に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項3】
前記(c)においては、前記造形プレートの対向する両端部分の各々が前記固定手段内側面に当接することを特徴とする、請求項2に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項4】
前記造形プレートは、その対向する周縁部分の厚みが造形物形成領域となる中央部分の厚みよりも小さい形態を有しており、
前記(c)においては、前記造形プレートの前記周縁部分が前記固定手段に当接することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項5】
前記粉末層を均し板のスライド移動によって形成しており、
前記対を成す固定手段が、前記均し板のスライド方向と直交する方向において対向していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項6】
前記造形プレートの移動を防止するためのピンAが対を成して前記支持テーブル上に設けられており、
前記均し板の前記スライド方向において対向するように前記対を成す前記ピンAが前記造形プレートの外側に設けられていることを特徴とする、請求項5に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項7】
前記造形プレートの移動を防止するためのピンBが前記支持テーブル上に設けられており、
前記(a)においては、前記造形プレートの主面に設けられた凹部が前記ピンBに嵌り込むようにして該造形プレートが前記支持テーブル上に配置されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項8】
前記支持テーブルが可撓性を有しており、前記(c)における前記当接に際しては前記支持テーブルが撓むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項9】
前記固定手段が可撓性を有しており、前記(c)における前記当接に際しては前記固定手段が撓むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項10】
前記造形プレートが反り変形する前の状態において、前記造形プレートと前記固定手段とが相互に接触していることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項11】
前記造形プレートが反り変形する前の状態において、前記造形プレートと前記固定手段との間にクリアランスが設けられていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項12】
前記クリアランスにバネ部材を設けることを特徴とする、請求項11に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項13】
前記(c)においては、前記造形プレートの両端部分にのみ局所的に熱処理を施し、該両端部分を変形させて該両端部分の各々を前記固定手段に当接させることを特徴とする、請求項11に記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理に用いる熱源として、前記工程(i)および前記工程(ii)の光ビーム照射源を用いることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の三次元形状造形物の製造方法。
【請求項15】
前記(b)において、前記造形プレート上に配された1層以上の前記粉末層および/または前記固化層に対して熱処理を施して前記造形プレートに反りを発生させることを特徴とする、請求項14に記載の三次元形状造形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−224906(P2012−224906A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92919(P2011−92919)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】