説明

三次元構造体及びそれを用いた人工藻場、人工漁礁

【課題】特に小規模の河川、池あるいは湖沼、海洋に適用すれば、簡易な構造で取扱い性がよく、藻場機能として優れた生物増殖機能を有する人工藻場や人工漁礁となる三次元構造体を提供する。
【解決手段】(1)表裏の地組織が連結糸で連結される織編物において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維を含む、空隙指数Kが0.4〜0.98で、厚さが2〜50mmである三次元構造体。(2)糸状物を不規則に絡ませてなる三次元構造体において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する熱可塑性樹脂の糸状物を含む、空隙指数Kが0.4〜0.98で、厚さが2〜50mmである三次元構造体。上記(1)又は(2)記載の三次元構造体で構成された人工藻場、人口漁礁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水環境浄化に寄与する人工藻場や人工漁礁、特に、比較的水深の浅い河川、池あるいは湖沼、海洋に設ける人工藻場や人工漁礁用として好適な三次元構造体及びそれを用いた人工藻場、人工漁礁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
藻場には、一般に多数の海草や藻が繁茂しており、これらには無数の微生物が定着し、この微生物を餌とする小生物が藻場に自然と集まる。さらに小生物を餌にする小魚が集まると、小魚を餌にする大型の魚が集まる。そして小生物や大小の魚類の死骸は微生物にとっての栄養分となる。この様に、藻場は生物連鎖の場を提供している。
【0003】
しかし、近年、種々の理由により藻場は減少する傾向にあり、生物連鎖上における重大な問題を提起している。そこでこれまでにも、人工的な藻場や漁礁を提供して、生物連鎖の適正化を図ろうとする試みが種々なされており、帯状に形成した木綿,麻,パルプ等の天然セルローズやレーヨン等の再生セルローズを浮遊体に取り付けた構造(例えば、特許文献1参照)、合成樹脂,合成繊維あるいは天然繊維を所定長さの紐状、糸状あるいは帯状に形成して、ロープやネット等の係止体に取付けた構造(例えば、特許文献2参照)、炭素繊維フィラメントを結束し圧縮し編んだり織ったりして成形した成形体によって構成した構造(例えば、特許文献3参照)等の人工藻場や人工漁礁が提案されている。
【0004】
しかし、従来の人工藻場や人工漁礁には、それぞれに次の問題がある。まず、天然繊維を用いたものは、腐敗しやすくて耐久性が悪いという問題がある。また、合成繊維を用いたものは生物親和性が低く、藻類等を繁殖させる効果の点で劣る。さらに、炭素繊維を用いたものは、この点の解決を狙ったものであると思われるが、炭素繊維は剛性が高く柔軟性に劣るので、天然繊維や合成繊維に比して織編や切断の加工が難しく、何より、炭素繊維は極めて高価である。
【特許文献1】特開昭57−125624号公報
【特許文献2】実開平2−105346号公報
【特許文献3】特許第3080567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来の問題を解決し、生物親和性に優れ、耐久性があり、かつ集魚効果に優れ、加工も容易で高価ではなく、人工藻場、人工漁礁用として好適な三次元構造体と、それを用いた人工藻場、人工漁礁を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維や熱可塑性樹脂の糸状物で特定の三次元構造体を形成すればよいことを知見して本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
【0008】
(1)表裏の地組織が連結糸で連結される織編物において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維を含む、式1で示す空隙指数Kが0.4〜0.98で、厚さが2〜50mmであることを特徴とする三次元構造体。
K=1−(W/(C・T)) ・・・ 式1
ただし、W:三次元構造体の目付(g/m2
C:繊維素材の平均密度(g/cm3
T:三次元構造体の体積(cm3/m2
(2)糸状物を不規則に絡ませてなる三次元構造体において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する熱可塑性樹脂の糸状物を含む、式1で示す空隙指数Kが0.4〜0.98で、厚さが2〜50mmであることを特徴とする三次元構造体。
(3)上記(1)又は(2)記載の三次元構造体で構成されていることを特徴とする人工藻場。
(4)上記(1)又は(2)記載の三次元構造体で構成されていることを特徴とする人工漁礁。
【発明の効果】
【0009】
本発明の三次元構造体は、少なくとも一部が熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維や熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する熱可塑性樹脂の糸状物で構成されているので、加工が容易で高価ではなく、耐久性もあり、また、変性ポリビニルアルコール樹脂の存在によって生物親和性が高く、これらの三次元構造体で人工藻場や人工漁礁を形成すれば、自然環境に合致して藻類等の微生物が付着、定着しやすく、集魚効果にも優れるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明において、第1の三次元構造体は、表裏の地組織が連結糸で連結される織編物において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維を含むものであり、また、第2の三次元構造体は、糸状物を不規則に絡ませてなる三次元構造体において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する熱可塑性樹脂の糸状物を含むものである。
【0012】
すなわち、本発明の2つの三次元構造体において、微生物付着担体を構成する合成繊維や糸状物は、いずれも変性ポリビニルアルコール樹脂を含有することが必要である。このような合成繊維や糸状物は、熱可塑性の繊維形成性ポリマーを主成分とし、変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する組成物から形成されるものである。
【0013】
本発明において、変性ポリビニルアルコール樹脂は、繊維形成性ポリマーとブレンドされて含有されていることが好ましい。すなわち、合成繊維や糸状物を形成する組成物中に変性ポリビニルアルコール樹脂からなる層が独立して存在するのではなく、繊維形成性ポリマーに対して略均一に変性ポリビニルアルコール樹脂が混合されていることが好ましく、そのようにブレンドされたものからなる組成物を紡糸して得られた合成繊維や糸状物を本発明に用いることが好ましい。これにより、変性ポリビニルアルコール樹脂が合成繊維や糸状物中から剥落、溶出することが防止される。
【0014】
そして、変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する合成繊維や糸状物における変性ポリビニルアルコール樹脂の含有量としては、当該合成繊維や糸状物の質量のうちの3〜50質量%、さらには5〜30質量%とすることが好ましい。変性ポリビニルアルコール樹脂の含有量が3質量%未満になると、微生物付着担体としての生物親和性が不足する傾向にあり、一方、50質量%を超えると、製糸性が劣ったり、強伸度等の物性値が低下しやすくなるので好ましくない。
【0015】
また、変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する合成繊維や糸状物としては、芯鞘型の複合繊維であってもよく、この場合、芯部又は鞘部のいずれかに変性ポリビニルアルコール樹脂を含有させ、他方の鞘部又は芯部には変性ポリビニルアルコール樹脂を含有させないものとすることができる。
【0016】
複合繊維の芯部又は鞘部にのみ変性ポリビニルアルコール樹脂を含有させる場合、芯部又は鞘部の質量中、3〜50質量%の変性ポリビニルアルコール樹脂を含有するものであることが好ましい。また、芯鞘複合比(質量比)としては、芯/鞘=80/20〜20/80であることが好ましい。芯部又は鞘部における変性ポリビニルアルコール樹脂含有量や芯鞘複合比を上記範囲内とすることにより、生物親和性に優れ、製糸性及び強伸度等の実用性も十分に兼ね備えた複合繊維とすることができる。
【0017】
本発明で用いられる変性ポリビニルアルコール樹脂としては、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールが好ましい。オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、具体的には、酢酸ビニルと、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルとを共重合し、次いでケン化することにより得ることができる。この場合、ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルの共重合割合(含有量)は0.1〜20モル%、中でも0.1〜5モル%とすることが好ましく、ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルにおけるポリオキシアルキレンの縮合度は1〜300、中でも3〜50とすることが好ましく、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール全体に占めるオキシアルキレン単位の割合が3〜40質量%であることが好ましい。このことは、共重合体におけるオキシアルキレン単位の局在−非局在の程度及びオキシアルキレン単位の長さに最適範囲があることを示している。
【0018】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールにおける酢酸ビニル単位のケン化度は50〜100モル%、さらには70〜99モル%が好ましく、ポリビニルアルコールの平均重合度は150〜1500、さらには200〜1000が好ましい。なお、共重合成分としてポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル以外の成分が本発明の目的を損なわない範囲で含有されていてもよく、例えばα−オレフィン(エチレン、プロピレン、長鎖α−オレフィン等)、エチレン性不飽和カルボン酸系モノマー、(アクリレート、メタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、ビニルエーテル等)等を30モル%以下程度であれば含有してもよい。
【0019】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを得るときの重合方法としては通常、溶液重合法が採用され、場合により懸濁重合法、エマルジョン重合法等を採用することもできる。ケン化反応としては、アルカリケン化法、酸ケン化法等が採用される。
【0020】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは上記のほか、酢酸ビニルと、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミド、ポリオキシプロピレンアリルアミド、ポリオキシエチレンビニルアミド、ポリオキシプロピレンビニルアミド等を共重合し、次いでケン化することによっても得ることができる。
【0021】
この他、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールに対するアルキレンオキシドの反応、あるいはポリオキシアルキレングリコールに対する酢酸ビニルの重合及びそれに引き続くケン化によっても得ることができる。
【0022】
このようにして得られたオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールには、さらに、(1)融点が50〜250℃のフェノール系化合物、(2)チオエーテル系化合物、(3)ホスファイト系化合物のうちの1種以上を、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールに対して0.01〜5.0質量%、中でも0.1〜0.5質量%添加することが好ましい。これにより、熱安定性を向上させることができる。これらの添加量が0.01質量%未満では熱安定性の向上が期待できず、5.0質量%を超える場合は親水性ひいては生物親和性の低下を招きやすい。
【0023】
上記(1)の融点が50〜250℃のフェノール系化合物としては、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4′−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス−[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン、オクタデシル−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4′−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、N,N′−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0024】
また、上記(2)のチオエーテル系化合物としては、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリルチオプロピオネート)、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィド等が挙げられる。
【0025】
次に、上記(3)のホスファイト系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(p−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイトやフェニルジイソオクチルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリステアリルホスファイト、その他のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスホナイト、ジ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0026】
さらには、本発明におけるオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールには、(4)炭素数が10以上の脂肪酸あるいはその塩、脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸エステル系化合物の少なくとも1種を、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールに対して0.01〜3.0質量%、中でも0.1〜0.5質量%添加することが好ましく、これにより熱安定性がさらに向上する。
【0027】
上記(4)の炭素数10以上の脂肪酸あるいはその塩としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、アラキジニン酸、ベヘニン酸、エルカ酸等の高級脂肪酸、又はヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシリシノール酸等のヒドロキシ脂肪酸、あるいはこれらのマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛等の金属塩等が挙げられ、中でもステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ベヘニン酸マグネシウムが実用的である。また、(4)の脂肪酸アミド系化合物としては、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミドあるいはメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレンビス脂肪酸アミドが挙げられる。さらに、脂肪酸エステル系化合物としては、ブチルステアレート、ブチルパルミチレート等の1価アルコールの脂肪酸エステル、エチレングリコールモノステアレート等の多価アルコールの脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0028】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールに上記(1)〜(4)の化合物を添加する方法としては、常用の方法、すなわち、撹拌機付き溶融缶、押出機、ロール混練機等を用いて溶融混合し、ペレット化することが好ましい。溶融混合温度は160〜250℃、中でも180〜230℃とすることが好ましい。
【0029】
また、変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する合成繊維や糸状物中には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、例えば酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク等の各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子等の粒子類のほか、従来公知の安定剤、酸化防止剤、抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、可塑剤等の種々の添加剤が配合されていてもよい。
【0030】
本発明において、合成繊維や糸状物を構成する主体となる熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、公知の繊維形成性ポリマーを用いることができるが、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等が好ましい。
【0031】
ポリアミドとしては、ポリイミノ−1−オキソテトラメチレン(ナイロン4)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウロラクタミド(ナイロン12)、ポリメタキシレンアジパミド、ポリパラキシリレンデカナミド、ポリビスシクロヘキシルメタンデカナミド等が挙げられる。そして、これらの共重合体やブレンド体であってもよい。中でも、安価で優れた強力と耐久性を有するナイロン6が好ましい。
【0032】
次に、ポリオレフィンとしては、炭素原子数2〜18の脂肪族α−モノオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1,3−メチルブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、ドデセン−1、オクタデセン−1からなるホモポリオレフィンが挙げられる。脂肪族α−モノオレフィンは、他のエチレン系不飽和モノマー、例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、スチレン、α−メチルスチレンのような類似のエチレン系不飽和モノマーが共重合されたポリオレフィンであってもよい。また、ポリエチレンの場合には、エチレンに対してプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1又は類似の高級α−オレフィンが10質量%以下共重合されたものであってもよく、ポリプロピレンの場合には、プロピレンに対してエチレン又は類似の高級α−オレフィンが10質量%以下共重合されたものであってもよい。
【0033】
さらに、ポリエステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン−2,6−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸あるいはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル類を酸成分とし、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等をジオール成分とするホモポリエステルあるいは共重合体が挙げられる。なお、これらのポリエステルには、パラオキシ安息香酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、ポリアルキレングリコール、ペンタエリススリトール、ビスフェノールA等が添加あるいは共重合されていてもよい。また、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性ポリエステルを用いてもよい。
【0034】
本発明の表裏の地組織が連結糸で連結された三次元構造体と、糸状物を不規則に絡ませてなる三次元構造体は、圧縮弾性や透水性等の機能を付与するために空隙指数Kが0.4〜0.98、好ましくは0.6〜0.97であることが必要である。空隙指数Kは、前記式1により算出され、単位面積当たりの見掛けの体積から三次元構造体を構成する糸条の体積を減ずることにより、三次元構造体の空隙量がどの程度あるかを示したものである。なお、繊維素材の平均密度Cは、三次元構造体を構成している繊維素材が全部同一種である場合はその密度であり、繊維素材が複数種である場合は、各繊維素材の密度の加重平均である。空隙指数Kが0.4未満の場合には、空隙量が少なくて好ましくない。また、0.98を超えると、空隙量が多くなりすぎ、三次元形状保持が困難となったり、圧縮抵抗が少なすぎて好ましくない。
【0035】
また、本発明の三次元構造体は、厚さが2〜50mm、特に2.5〜35mmであることが好ましい。この厚さが2mm未満の場合は、三次元の意味が薄れ、三次元構造体の価値が少ない。また、50mmを超えると、圧縮抵抗が少なくなり、使用時に立体形状を維持し難いものになる。
【0036】
本発明の三次元構造体は、少なくとも一部が熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維や熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する熱可塑性樹脂の糸状物で構成されているので、炭素繊維に比較して加工が容易で高価でもなく、耐久性も有している。また、変性ポリビニルアルコール樹脂の水酸基に由来する親水性により生物親和性がよく、藻類等の微生物が付着しやすくなっている。したがって、本発明の三次元構造体で形成した人工藻場や人工漁礁には、藻類等の微生物が付着しやすく、付着した微生物が小生物を、小生物が小魚を、小魚が大型の魚を呼び込むので集魚効果が高くなる。
【0037】
前記したように、本発明の三次元構造体は、少なくとも一部が熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維や熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する熱可塑性樹脂の糸状物で構成されたものであり、他の繊維や糸状物を混用して形成してもよいが、人工藻場や人工漁礁にしたときの集魚効果を高めるためには、熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維や糸状物が三次元構造体の50質量%以上を占めることが好ましく、熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維や糸状物のみで三次元構造体を形成するのが特に好ましい。
【0038】
次に、本発明の三次元構造体の製造法について説明する。まず、本発明の、表裏の地組織が連結糸で連結された三次元構造体は、ダブルラッセル編機あるいはモケット織機等により製編織されるものである。さらに詳しくは、表側地組織と裏側地組織に連結糸を用いて連結し、表裏の地組織を離反させた形で立体的に構築し、三次元的に布を形成するものである。
【0039】
表裏の地組織は、任意の組織を採用することができ、特徴的な組み合わせとしては、(1)表裏の地組織ともメッシュ状、(2)表裏地組織の一方がメッシュ状、他方が平坦、(3)表裏とも平坦の3つに大別される。もちろん、メッシュ状と平坦な地組織が表裏の一方あるいは両方に混在した場合も何ら制限されるものではない。
【0040】
本発明における連結糸の間隔、配置、配置方向等は、必要に応じ任意に決定し得る事項である。例えば、垂直方向に表裏の地組織を連結してもよく、襷掛けに配置、斜め方向に配置、ジクザクに配置、菱形に配置、ハニカムに配置、さらには、これらを任意に組み合わせて配置し連結してもよい。もちろん、連結糸の配列は部分的に歯抜け状にしてもよい。
【0041】
次に、本発明の糸状物を不規則に絡ませてなる三次元構造体のうち、空隙指数Kが0.9未満のものは、特に絡み点で熱融着していることが好ましい。また、機械的特性を考慮すると、空隙指数Kが0.9以上の三次元構造体でも絡み点で熱融着していることが好ましい。上記の構造を有する三次元構造体の製造法の一例としては、熱可塑性樹脂を溶融させる押出機、押出機の先端に多数の糸状物(ストランド)用のノズルが複数列に配列されたダイを装着し、熱可塑性樹脂をダイから押出し、複数本のストランドを不規則に絡ませて絡み点で熱融着によって固着させ、成形ローラによって一定の厚さとし、冷却溶媒中に配置した一対のプレスコンベア等を備えた、図1に概略を示す製造装置によって製造する方法を挙げることができる。
【0042】
図1において、押出機1は原料の熱可塑性樹脂を溶融させるものであり、ダイ2は溶融させた樹脂をストランドとして吐出し、成形ローラ3は複数本のストランドを絡ませて任意の箇所で接着させて、任意に絡みあったストランド5によって三次元構造体8の厚さを調節し、プレスコンベア6は任意に絡みあったストランドを冷却溶媒中に導き冷却する。
【0043】
押出機1は特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂を溶融可能なものであればよい。押出機1は、単独の押出機で溶融させて一個のダイ2に導く方式、複数の押出機で複数種類の樹脂を溶融させて一個のダイ2に導く方式のいずれでもよい。ダイ2は円形、T字型ダイのいずれであってもよく、複数列配列されたノズル列を有するT字型ダイの場合は、相互に隣接するノズル列が相互に反対側に数ミリ乃至十数ミリ往復移動可能にされている構造のものとし、相互に隣接するノズル列を相互に反対側に往復移動させながらストランド5を連続的に押出し可能とすると、ストランド5を任意に絡み合せることができるので好ましい。なお、ノズルの直径は0.2〜5mmの範囲で選ぶのが好ましい。
【0044】
成形ローラ3は、ダイ2の先端とプレスコンベア6との間に配置し、ダイ2のノズルから吐出されるストランド5を成形ローラ3の間に滞留させて、ストランド5が相互に付着し合う温度にある間に不規則に絡ませ、同時に三次元構造体8の厚さを所定の厚さに調節する。成形ローラ3は、金属製のものでその内部が冷却溶媒によって温度調節可能にされたものがよい。成形ローラ3の表面に複数個の棒状又は波型の突出部4を設けておくと、成形ローラ3の回転に応じて三次元構造体8の表面に食い込ませた凹みを形成することができる。
【0045】
プレスコンベア6は、成形ローラ3の下流に配置された図示していない冷却溶媒槽の冷却溶媒7の中に、対にして配置されたコンベアで、成形ローラ3の間隔で決められた厚さの三次元構造体8を挟み、冷却溶媒7の中を移送しつつ冷却する。このプレスコンベア6は、金網又は多数の穴が穿設された金属板で構成するのが好ましい。プレスコンベア6は、成形ローラ3の下流に垂直に配置してもよく、斜めに傾斜させて配置してもよく、湾曲させて配置してもよい。成形ローラ3を湾曲させて配置する場合には、複数対を適宜の長さにして配置するのが好ましい。
【0046】
ダイ2から押出された複数本のストランド5を不規則に絡ませるには、上記したように、複数列配列されたノズル列を有し、相互に隣接するノズル列が相互に反対側に数ミリから十数ミリ往復移動可能にされている構造としたT字型ダイを使用し、相互に隣接するノズル列を相互に反対側に往復移動させながらストランド5を連続的に押出す方法が好適である。そのほか、複数列に配列されたノズルから複数本のストランド5を押出し、一対の成形ローラ3の間に滞留させ、ストランド5が相互に付着し合う温度にある間に成形ローラ3で押圧すればよい。絡ませる程度は、ストランド5の吐出速度、ノズル列と成形ローラ3との間隔、一対の成形ローラ3の間隔、成形ローラ3間での滞留時間等によって調節することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例において、各種物性値の測定は、次の方法により実施した。
A.ポリアミドの相対粘度
96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。
B.水棲生物付着率(%)
作製した三次元構造体を30cm角に切断して試験片を作製した。亜酸化銅系防汚剤を塗布した鉄製の枠を用意し、前記の試験片をこの枠に固定して、海水中に6ヶ月間浸漬した。その後、試験片を引き上げて、試験片の面積のうち藻類・貝類が付着した部分の面積が占める割合を%で表した。水棲生物付着率が高いほど水棲生物の生育に優れているといえる。
(変性ポリビニルアルコール樹脂の製法)
オキシアルキレンの縮合度が平均20のポリオキシエチレンモノアリルエーテルと酢酸ビニルとをメタノール中でアゾビスイソブチロニトリルの存在下に共重合し、残存モノマーを追い出した後、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加えてケン化した。ケン化反応により生じたスラリーから共重合体をろ別し、ポリビニルアルコール樹脂の見かけ体積の5倍のメタノールで3回洗浄を行った。
【0048】
次いで、酢酸ナトリウムに対して1.5当量の酢酸を加えた後、再びポリビニルアルコール樹脂の見かけ体積5倍のメタノールで2回洗浄を行い、酢酸ナトリウム含有量を0.07質量%、酢酸含有量を0.026質量%(酢酸ナトリウム1モルに対して0.5モル)に調整した。その後、乾燥して、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「EO−PVA」と略記する。)を得た。
【0049】
このポリマーの平均重合度は270、ポリオキシエチレンモノアリルエーテル単位の共重合割合は1.0モル%であり、ポリマー全体に占めるオキシアルキレン単位の割合は16.1質量%、酢酸ビニル成分のケン化度は96モル%、酢酸ナトリウム含有量は0.07質量%、酢酸含有量は0.026質量%であった。
【0050】
得られたEO−PVA100質量部とペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.3質量部とをラウンドダイを備えた二軸押出機に供給し、温度210℃で押出してペレット状の変性ポリポリビニルアルコール樹脂を得た。
【0051】
実施例1
相対粘度が3.1であるナイロン6チップに、上記のように作成したペレット状の変性ポリビニルアルコール樹脂を含有量が全体の15質量%となるようにブレンドして、40mmの1軸エクストルダーに連続供給し、常法により、紡糸パックを通して紡糸温度255℃で円形断面糸用紡糸口金より紡出した。紡出したモノフィラメントを20℃の水槽で冷却した後、常法に従い合計5.0倍に延伸及び熱セットを行なってボビンに捲取り、単糸繊度が330dtexと2200dtexで、断面形状が円形のモノフィラメントを得た。
【0052】
次いで剛性のあるモノフィラメントを編立可能なニッティングエレメントを改良した6ゲージの2列針床を有する経編機を用い、表1のチェーンリンクによりL1、L2、L5、及びL6筋には上下細織を構成する330dtexのモノフィラメントを供給し、L3及びL4筋には連結糸となる2200dtexのモノフィラメントを供給して上下面が1辺4コースからなる六角形状の一体化されした三次元構造体を編成し、次に形態を整えるため上下面の六角形細織がほぼ正六角形になるように幅出しを150℃×2分で乾熱セットして三次元構造体を得た。
【0053】
得られた三次元構造体は目付が800g/m2、厚みが25mm、空隙指数Kが0.94であった。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例2
図1に示した装置を使用して、次のようにして立体構造体を製造した。L/Dが26で40mmの単軸押出機を使用し、その先端部に、ノズルの直径が1.1mm、一列のノズル数が50で、ノズル列が5列のT字型ダイを装着した。使用した樹脂は、実施例1と同様に相対粘度が3.1であるナイロン6チップに、ペレット状の変性ポリビニルアルコール樹脂を含有量が全体の15質量%となるようにブレンドしたものを用いた。
【0056】
押出機のシリンダー温度を250℃としてストランドを押出し、このストランドを、間隔を25mmとし表面温度を約50℃に調節した一対の成形ローラ3の上に若干滞留させ、成形ローラ3の上に滞留して任意に絡み合わせて、成形ローラ3によって押圧して任意の絡み点で接着させた。これを30℃の水を入れた冷却溶媒槽に導き、この冷却溶媒槽の中に配置した金網製のプレスコンベア6の間に挟んで移送しつつ冷却して任意の絡み点で接着させた三次元構造体を得た。
【0057】
得られた三次元構造体は目付が900g/m2、厚みが25mm、空隙指数Kが0.90であった。
【0058】
比較例1
用いる樹脂をナイロン6のみとした以外は実施例1と同様にして、三次元構造体を得た。
【0059】
比較例2
用いる樹脂をナイロン6のみとした以外は実施例2と同様にして、三次元構造体を得た。
【0060】
実施例1、2及び比較例1,2で得られた三次元構造体の水棲生物付着率(%)を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2から明らかなように、実施例1、2で得られた三次元構造体は水棲生物付着率が高く、人工藻場や人工漁礁用として好適なものであった。
【0063】
一方、比較例1,2で得られた三次元構造体は、いずれも水棲生物付着率が低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の糸状物を不規則に絡ませてなる三次元構造体を製造する装置の一実施態様を示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1 押出機
2 ダイ
3 成形ローラ
4 突出部
5 ストランド
6 プレスコンベア
7 冷却溶媒
8 三次元構造体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏の地組織が連結糸で連結される織編物において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する合成繊維を含む、式1で示す空隙指数Kが0.4〜0.98で、厚さが2〜50mmであることを特徴とする三次元構造体。
K=1−(W/(C・T)) ・・・ 式1
ただし、W:三次元構造体の目付(g/m2
C:繊維素材の平均密度(g/cm3
T:三次元構造体の体積(cm3/m2
【請求項2】
糸状物を不規則に絡ませてなる三次元構造体において、少なくとも一部に熱可塑性ポリビニルアルコール変性物を含有する熱可塑性樹脂の糸状物を含む、式1で示す空隙指数Kが0.4〜0.98で、厚さが2〜50mmであることを特徴とする三次元構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の三次元構造体で構成されていることを特徴とする人工藻場。
【請求項4】
請求項1又は2記載の三次元構造体で構成されていることを特徴とする人工漁礁。


【図1】
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【公開番号】特開2007−169835(P2007−169835A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369960(P2005−369960)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】