説明

三次元物体の製造方法

【課題】部材の機械特性を簡単、迅速、かつ正確に検出する三次元物体の製造方法の提供。
【解決手段】造形材料の固化により三次元物体を層状に造形する三次元物体の製造方法において、目的とする三次元物体3と共に、同じ造形空間内で試験片20が造形され、造形完了後、前記試験片は励振され、機械的振動を生じさせ、さらに、前記振動の固有振動数が測定される。前記固有振動数から、目的とする三次元物体の機械特性が推定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプレアンブルによる三次元物体の製造方法に関し、特に、部材のレーザー焼結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
選択的レーザー焼結は、プロトタイプや一組の小型部材の製造に利用されるのみならず、十分に動作可能な部材の連続生産にも利用されつつある。一般に、製造された部材は、特に機械特性の試験をするために品質試験を受ける必要がある。しかしながら現在のところ、必要な設備が複雑であるため、例えば弾性係数などの部材の機械特性は測定が困難である。
【0003】
試験片(test specimen)、例えば、棒状引張試験片(tensile bars)がレーザー焼結法により製造でき、例えば、製造される部材の弾性係数などの特性情報を得るために、その後機械で測定可能なことは出願人にとって既知である。また、試験片の特性は、レーザー焼結工程における製造条件及び材料に依存する場合がある。
【0004】
欧州特許出願第1486317号明細書によると、例えば、Z−引張アレイ(Z-Tensile arrays)、密度キューブ(density cubes)、次元ピラミッド(dimensional pyramids)、曲げ試料(flexural samples)、及びこれらの組み合わせを含む少なくとも一つの反復的改善用試験片(iterative improvement specimen)が、製造される部材ととも作成することが知られている。そして、上記反復的改善用試験片の破壊試験によって、生産部品を最適に製造するためのデータセットが反復法を用いて得られる。しかしながら、上記方法は極めて複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願第1486317号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、三次元物体の製造方法を提供することを目的とし、特に、部材の機械特性を簡単、迅速、かつ正確に検出するレーザー焼結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、請求項1による方法によって達成される。本発明の更なる発展形態は従属項に記載される。
【0008】
本発明の更なる特徴及び目的は、図面に基づく本発明の実施形態の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、三次元物体製造装置の実施例としてのレーザー焼結装置の概略図を示す。
【図2】図2は、製造工程の実施形態の実施例として、レーザー焼結装置用の造形台上の試験片の拡大概念図を示す。
【図3】図3は、試験片の振動を概略的に表す図2の拡大断面図を示す。
【図4】図4は、図3による試験片の1次固有振動数(周波数)の周波数ダイアグラムを示す。
【図5】図5は、第2の試験片の例示的な周波数ダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1では、形成による生産方法を用いて三次元物体を層状に製造する装置の実施例としてレーザー焼結装置が示されている。上記装置は、上部が開口したコンテナ1と、コンテナ1内に設置され垂直方向に移動可能な支持体2を備える。上記支持体2は、形成される物体を支持し、造形領域(building area)を画定・規定している。支持体2は、物体の固化される各層が作業面4内に位置するように垂直方向に調節される。更に、電磁放射により固化可能な粉末状の造形材料を塗布する塗布装置(application device)5が設けられている。電磁放射源として、レーザー6が設けられている。レーザー6から発生するレーザー光線7は、偏向装置8によって射出窓9の方に向けられ、射出窓9を通り抜けて造形室10の中に入り、作業面の所定位置に集光される。また、協働して製造工程を実行するために、装置の構成要素を制御する制御装置11が設けられる。上記制御は、特に、製造される物体のCADデータにより行われる。
【0011】
粉末状の造形材料として、レーザー焼結工程に適している全ての粉末及び粉末混合物をそれぞれ用いることができる。このような粉末は、例えば、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのプラスチック粉末、ステンレス鋼粉末などの金属粉末、又は特に合金、プラスチック被覆砂、若しくはセラミック粉末などの個々の目的に適した他の金属粉末を含む。レーザー焼結装置の操作は、塗布装置5が造形領域を移動し、粉体層を所定の厚さに塗布できるように行われる。続いて、物体3断面の各層は、レーザー光線により照射され、粉末が固化される。次に、支持体2は下方に移動し、新たな粉体層が塗布される。このように、物体3の製造は層状に行われる。物体は完成後取り除かれ、該当する場合には、仕上げ処理及び/又品質管理を受ける。
【0012】
本発明の第一実施形態による方法では、図1に概略的に図示されるように、製造される物体3を造形するときに試験片20が共に造形される。物体3の製造後、この試験片20は励振され、振動される。次に、振動する試験片20の固有振動数(固有周波数)が測定される。これらの測定結果から、製造された物体3の特性、例えば弾性係数が測定される。試験片の幾何学形状を含むCADデータは、物体データを含む同一データセット内に含まれても良いし、CADデータは、例えば、ライブラリーから選択されても良く、また、追加されても良い。
【0013】
試験片20は、コンテナ壁及び支持体により規定される造形空間内の適当な場所であればどこにおいても造形可能である。試験片20を支持体2及び/又は物体3に接続する必要はない。本方法の好ましい実施形態によると、試験片20は造形空間内で自由に造形されるのではなく、支持体2に取り外し可能に接続される基部30上に造形される。基部30には、製造される物体3及び試験片20が接続し、物体が完成した後、上記物体及び試験片とともに装置から取り出される。物体3は、例えば、所定の破壊点を有する支持構造(不図示)を介して、取り外し可能に固定された基部30に接続できる。その結果、基部30の除去後、物体は基部30上に残る試験片20から容易に分離できる。この手順は特に金属粉末の焼結に適している。
【0014】
続いて、試験片20は振動を起こすまでに機械的に励振される。試験片の励振は、例えば、所望の振動方向に手で振動を加えたり、自動試験装置内で行うことができる。試験片20の発生する固有振動は、次に、下記でさらに説明される音響法又は光学的方法により測定される。好ましい実施形態において、試験片20は基部に接続されるため、試験片を固定する必要がない。基部30の質量は、試験片の固有振動により影響されない。基準測定において、例えば、測定された振動数を基準試験片の振動数と比べる場合、例えば、温度などのほかの点については同一測定条件で行われる。
【0015】
試験片は、好ましくは単純な幾何学形状を有する部材であり、特に一又はいくつかの主要な固有振動数モードを有する。示される実施形態では、試験片は平棒(flat bar)又は梁(beam)として形成され、図2及び3に示されるように、高さz、厚さy、及び幅xを有する実質的に直交断面を含む。上記平棒は、厚さyを上回る幅xを有する。
【0016】
塗布装置は、造形領域をそれぞれ一方向及び反対方向に移動する際には、新たな層を順番に塗布する。図2では、造形領域を移動する際に塗布装置が粉末材料を塗布する方向Aが両矢印でマークされている。図3に示す主振動方向が、塗布平面における塗布方向に対して直交又は実質的に直交するように、基部30上の試験片20は、位置付けられている。図示された平棒は、その狭い側が塗布方向に向けられた状態で、試験片として造形されることが望ましい。
【0017】
固有振動数の音響測定では、試験片の振動により生成される音系列が記録されかつ解析される。例えば、音声データファイルはデジタル化されて記録され、従来のスペクトル解析により解析され得る。この場合、音声データファイルは、音響振動数解析で生成され、前記固有振動数を測定するためにフーリエ変換される。それにより、固有振動の周波数(振動数)が取得できる。図4及び5では、試験片20として平棒を用い、金属粉末のレーザー焼結の場合を例示的に示す周波数ダイアグラムの一部が示されている。固有周波数(振動数)は最大で5.000Hzの範囲まで及ぶ場合があるが、特に1.000Hz未満の範囲で良好な結果が得られる。同じ寸法の場合、これらはそれぞれ、例えば、密度や剛性などの材料特性の評価基準及び部材の寸法偏差の評価基準である。高剛性は高周波化(高振動化)につながり、密度又は寸法の増加は周波数(振動数)の減少につながる。理想的な弾性梁に関して、固有振動数は下記のように定義される。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、ρは梁の密度、zは高さ、yは厚さ、またEは弾性係数である。理想的な弾性梁について、固有振動数は基本的には幅xに依存しない。従って、試験片20が基本的に理想的な弾性梁として形成される場合、図2及び3に示すように、梁の幅xを比較的大きく選択できる。その結果、塗布装置が新たな層を塗布する場合、試験片は損傷を受けない。
【0020】
固有振動数の測定によって、特に試験片の複数の特性を導き出すことが可能であり、また一方、製造された物体の特性を同様に導き出すことが可能である。単純な幾何学形状の試験片に関して、使用される造形材料についての寸法、密度測定値、及び周波数測定結果から使用される造形材料の弾性係数Eを直接推測可能である。より複雑な試験片、例えば鐘形の試験片の場合、固有モードを解析するための有限要素プログラムを用いて特性を測定できる。材料の不均等性、材料劣化、偏心、亀裂、結合欠陥などの場合、あらかじめ測定された基準試験片と比較して振動数の偏差が同様に生じる。また、一又はいくつかの層において被覆欠陥が起こるということも想定される。
【0021】
本方法の第一実施形態によると、製造された物体の品質評価は、共に造形された単純形状の試験片における固有振動数の測定結果に基づいて実行される。上記結果は、その特性ひいてはその品質についての製造された物体の評価に役立ち、また、次の物体を造形する場合には、必要に応じて是正処置の実行に役立つ。
【0022】
第一実施形態の変形例によると、固有振動数の測定は、音響的ではなく光学的に行われる。この目的のために、例えば、非接触型速度測定装置を用いて試験片の振動が記録され、その後、固有振動数を得るために既知の方法を用いて解析される。
【0023】
更なる変形例では、特に造形材料として金属粉末材料を用いる場合、振動の記録は誘導的な方法により行ってもよい。
【0024】
更なる変形例によると、試験片は、基台及び製造される物体から分離して、造形室で制限なく共に造形される。続いて、試験片は取り除かれ、固定され、かつ励振・振動される。
【0025】
更なる変形例によると、試験片は製造される物体に又は物体上に設けられ、上記物体を造形する際、共に造形される。振動数の測定後、試験片は物体から取り除かれる。
【0026】
更なる変形例によると、いくつかの試験片は造形空間における様々な位置に共に造形される。これから、造形空間での影響から生じる不均等性を解明可能である。
【0027】
更なる実施形態によると、造形材料に関する結論を出すために固有振動数の測定が用いられる。これは、例えば、粉末状の造形材料と関連して合金の場合に役立つ。
【0028】
更なる実施形態によると、平棒又は梁に換えて、低固有振動スペクトルを示す他の試験片が造形される。そのような試験片としては、例えば、音叉、鐘などがある。
【0029】
本方法の第二実施形態として、所望の物体が製造される場合には、試験片は共に造形されないが、別個の造形工程において物体自体と分離して造形され、品質測定及びレーザー焼結装置の較正のために用いられる。この目的のために、一又はいくつかの試験片は一連の作業開始前に造形される。また、これらの固有振動数スペクトルは解析され、基準試験片のそれと比較される。続いて、レーザー焼結装置のパラメータはそれに応じて適合され、その結果、製造される物体は所望の特性を有する。一連の生産において試験片を共に造形することで検査を実行できる。
【0030】
上記方法はレーザー焼結工程に限定されない。この方法は、例えば、粉末材料に換えて液状の光硬化性樹脂を用いる光造形法(stereo-lithography)、例えば液滴粒子として粉末層上に塗工される粉末状の造形材料が結合剤を用いて物体に対応する位置で選択的に固化される三次元印刷(three-dimensional printing)、又は、レーザー光線に換えて、マスクと広範囲に及ぶ光源を用いる選択的マスク焼結(selective mask sintering)などの全ての層造形方法に適用できる。本発明による方法が適用可能な更なる層造形方法として、いわゆる熱溶解積層成形法(FDM (fused deposition modelling) -method)や、同様の方法を取り入れることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固化する造形材料から層状に造形される三次元物体の製造方法において、試験片(20)が造形され、前記造形後、前記試験片は励振され、機械的振動を生じさせ、さらに、前記振動の固有振動数が測定されることを特徴とする三次元物体の製造方法。
【請求項2】
前記固有振動数は、音響的、光学的、及び/又は誘導的な方法により測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試験片(20)は、一又はいくつかの主要固有振動モードを含む幾何学的形状を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記試験片(20)は、好ましくは矩形断面を有する棒状体(bar)であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記試験片(20)は、製造される前記物体(3)の造形工程とは異なる造形工程において造形されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記試験片(20)は、製造される前記物体(3)と同一の造形工程において造形されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試験片(20)の少なくとも一の測定された固有振動数は基準試験片の既知の固有振動数と比較されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
製造される前記構造部材(3)の材料特性は、前記試験片(20)の前記測定された固有振動数から測定されることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記造形工程及び/又は造形装置における前記試験片(20)の特性は、前記測定された固有振動数から測定されることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記試験片(20)は、完成後固定され、励振・振動されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試験片(20)は、取り外し可能な造形台(30)に又は製造される前記物体(3)に造形かつ接続され、完成後、前記造形台上又は前記物体上において、励振・振動されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記造形材料は一方向又は反対方向に塗布され、前記試験片は、塗布平面においてその主振動方向が塗布方向に対して実質的に直交する方向に造形されることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
音声データファイルは、音響振動数解析で生成され、前記固有振動数を測定するためにフーリエ変換が行われることを特徴とする請求項1乃至12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記試験片の前記振動は、例えば、高速距離計を用いて、光学振動数解析における非接触手段で記録されることを特徴とする請求項1乃至13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも2つの試験片(20)は、同時に又は時間的に間隔をおいて、造形空間における異なる場所に作成されることを特徴とする請求項1乃至14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記物体は、各層において前記物体に対応する場所に電磁放射又は粒子放射を用いて、造形材料を層状に固化することで製造されることを特徴とする請求項1乃至15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
粉末状の造形材料が用いられ、レーザー光線は電磁放射として用いられることを特徴とする請求項1乃至16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記三次元物体は、動作可能な連続生産部材であり、前記部材の前記品質試験は、各部材と共に造形された試験片の固有振動数の測定を用いて行われることを特徴とする請求項1乃至17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記固有振動数の前記測定は単一励振の後行われることを特徴とする請求項1乃至18の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−121364(P2011−121364A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−262551(P2010−262551)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(503267906)イーオーエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング イレクトロ オプティカル システムズ (50)
【Fターム(参考)】