説明

三次元繊維構造体の製造方法

【課題】従来の三次元繊維構造体の製造方法は、製造に非常に多くの手間と時間がかかるという問題点があった。
【解決手段】繊維を三次元的に配向させた三次元繊維構造体を製造するに際し、繊維F1を樹脂で棒状に成形した多数の棒材Bを互いに平行に且つ所定間隔で配置してZ方向の繊維群FFを形成した後、Z方向の繊維群FFに対して直交するXY平面に沿って連続繊維F2,F3を編み付けるとともに同連続繊維F2,F3をZ方向に積層することにより、工数の削減及び製造時間の短縮や低コスト化を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を含む複合材料に用いられる三次元繊維構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の三次元繊維構造体としては、例えば特公昭62−3258号公報に記載されているものがあった。同公報に記載された構造体は、3つの系の線状物の3次編成によって作られた円筒形状の補強構造物であって、この構造体を製造するには、軸線を垂直方向とした多数の金属棒を互いに平行に且つ所定間隔で配置した後、これらの金属棒の間に水平方向の線状物を編み付けて同線状物を垂直方向に積層し、その後、金属棒と垂直方向の線状物を入れ替えるようにしていた。
【特許文献1】特公昭62−3258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記したような従来の三次元繊維構造体の製造方法では、多数の金属棒と線状物との入れ替えを行うことから、その作業に非常に多くの手間と時間がかかると共に、構造体の垂直方向の寸法が大きくなるほど入れ替え作業が難しくなるという問題点があり、製造の簡略化を図るうえでの改善が要望されていた。また、従来の製造方法では、挿入時の線状物に対して軸線方向に大きな負荷が加わり易いため、線状物として高弾性繊維を採用することが困難であるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、工数の削減、製造時間の短縮及び低コスト化などを実現することができる三次元繊維構造体の製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
本発明に係わる三次元繊維構造体の製造方法は、請求項1に記載しているように、繊維を三次元的に配向させた三次元繊維構造体を製造するに際し、繊維を樹脂で棒状に成形した多数の棒材を互いに平行に且つ所定間隔で配置してZ方向の繊維群を形成した後、Z方向の繊維群に対して直交するXY平面に沿って連続繊維を編み付けるとともに同連続繊維をZ方向に積層する構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0006】
また、本発明に係わる三次元繊維構造体の製造方法は、請求項2に記載しているように、構造体が軸線方向をZ方向とする円筒形状であって、多数の棒材により概略円筒形状を成すZ方向の繊維群を形成し、この繊維群に対して、XY平面に沿う方向である周方向及び半径方向に連続繊維を編み付けることを特徴とし、さらに、請求項3に記載しているように、多数の棒材が、断面円形及び断面角形のうちから選択された断面形状を有することを特徴とし、さらに、請求項4に記載しているように、棒材が、繊維及び樹脂に加えて、ピッチ及びカーボンブラックのうちの少なくとも一方を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に係わる三次元繊維構造体の製造方法によれば、繊維を樹脂で棒状に成形した多数の棒材から成るZ方向の繊維群を用いることから、XY平面に沿う連続繊維を編み付ける際の自動化が容易であると共に、この編み付けに用いる繊維群がそのままZ方向の繊維となるので、Z方向の寸法が大きい構造体であっても容易に製造することができ、また、Z方向の繊維群に対して軸線方向に大きな負荷が加わることもないので、Z方向に高弾性繊維を採用することができ、さらに、従来のような金属棒の除去作業が不要となって、工数の削減及び製造時間の短縮やこれに伴う低コスト化を実現することができる。
【0008】
そしてさらに、従来の製造方法では金属棒とZ方向の線状物とを入れ替える必要があるため、X及びY方向の繊維の投入量に一定の制限があり、これにより設定可能な繊維の緻密度に限界があったが、本発明の製造方法によれば、Z方向の寸法が大きい構造体であっても容易に製造し得るので、X及びY方向の繊維の投入量が制限されることもなく、従来のような繊維の緻密度の限界を解消することができる。
【0009】
また、本発明に係る三次元繊維構造体の製造方法により得た三次元繊維構造体は、後に樹脂の含浸や硬化処理を経て繊維強化プラスチック材料(FRP材料)となり、とくに炭素繊維を用いた場合には、ピッチの含浸と焼成を繰り返す等の複合化処理を経て炭素/炭素複合材料(C/C材料)になるものであって、これらの材料のプリフォームとして用いられると共に、これらの材料の製造において時間の短縮化や低コスト化に貢献し得るものとなる。
【0010】
本発明の請求項2に係わる三次元繊維構造体の製造方法によれば、円筒形状の構造体の製造において、製造時間の短縮や低コスト化を実現することができる。このような円筒形状の構造体は、例えばロケットノズルの素材のプリフォームとして用いることができ、この場合、ロケットノズルの製造において、時間の短縮化や低コスト化に貢献し得るものとなる。
【0011】
本発明の請求項3に係わる三次元繊維構造体の製造方法によれば、目的とする三次元構造体の形状等に応じて、Z方向となる棒材の断面形状を円形及び角形のうちから選択することにより、この棒材とX及びY方向の繊維との隙間の大きさ変えて繊維の投入量を調整することができる。
【0012】
本発明の請求項4に係わる三次元繊維構造体の製造方法によれば、繊維及び樹脂に加えてピッチ及びカーボンブラックのうちの少なくとも一方を含む棒材を用いることにより、後の複合化処理が容易で且つ確実なものとなる。すなわち、三次元構造体を例えば炭素/炭素複合材料にする場合、その構造体が大きなものであっても、構造体全体にピッチやカーボンブラックを均一に含有させておくことができるので、複合化処理において、ピッチやカーボンブラックを構造体に含浸する作業の簡略化を図ることができ、焼成の際には、全体的な緻密化を促進させることができる。
【実施例】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明に係る三次元繊維構造体の製造方法の一実施例を説明する。
【0014】
図2に示す三次元繊維構造体(以下、『構造体』とする)Aは、円筒形状を成すと共に、繊維を三次元的に配向したものであって、繊維F1を樹脂で棒状に成形した多数の棒材Bから成るZ方向(軸線方向L)の繊維群と、この繊維群に対して直交するXY平面に沿って編み付けるとともZ方向に積層した連続繊維すなわち半径方向R及び周方向Cの連続繊維F2,F3を備えている。各棒材Bは、例えば、炭素繊維の束を予め熱硬化性樹脂で棒状に硬化成形したものである。また、各連続繊維F2,F3は、繊維のみの束でも良いし、この繊維束に樹脂を含浸したものでも良い。
【0015】
ここで、棒材Bとしては、図3(a)に示すように断面円形を成すものや、図3(b)に示すように断面角形を成すものが挙げられる。この棒材Bは、目的とする構造体Aの形状等に応じて、断面円形及び断面角形のうちから選択することにより、当該棒材BとX及びY方向の連続繊維F2,F3との隙間の大きさが異なるものとなる。図3(a)に示す断面円形を選択すれば、平面上では棒材Bの四方に隙間Sが形成され、図3(b)に示す断面正方形を選択すれば、平面上では上記隙間が無いものとなる。
【0016】
すなわち、棒材Bは、断面形状を選択することで、上記隙間の大きさを変えて全体の繊維の投入量を調整することができる。なお、多数の棒材Bは、全てを同一断面形状にしても良いし、繊維群中の位置に応じて断面形状が異なるものを用いても良い。また、棒材Bは、断面円形のほかに断面楕円形とすることも可能であり、断面角形には、当然のことながら図示の正方形以外の角形が含まれる。
【0017】
さらに、棒材Bは、構造体Aの後の複合化処理に対応して、Z方向の繊維F1及び樹脂に加えて、ピッチ及びカーボンブラックのうちの少なくとも一方を含むものとすることができる。
【0018】
上記構造体Aの成形装置は、例えば、垂直軸回りに回転駆動される基板と、基板の上側で上下動可能なガイドプレートを備えており、各棒材Bの下端を基板に固定すると共に、各棒材Bをガイドプレートに貫通状態にする。このとき、各棒材Bは、ガイドプレートにより互いの位置関係が維持されており、構造体Aが成す円筒形状に対応して、軸線を垂直にして互いに平行に配置され、且つ半径方向及び周方向に規則的に配置されて、図1に示す如く概略円筒形状の繊維群FFを形成する。なお、図1は棒材Bの配列等を模式的に示すもので、実際には棒材Bをより密に配置する。
【0019】
また、成形装置は、ガイドプレートの上昇限に対応する位置に、Z方向(L方向)の繊維群FFに対して、半径方向Rの連続繊維F2を供給する第1ノズルNZ1と、周方向Cの連続繊維F3を供給する第2ノズルNZ2と、これらの連続繊維F2,F3を下方向に押圧する複数(図示の場合は4つ)のプレス治具Pを備えている。
【0020】
第1ノズルNZ1は、図外の繊維供給源から1本の連続繊維F2を連続的に供給するもので、繊維群FFの外周側と内周側との間で、同繊維群FFの半径方向に往復動する。第2ノズルNZ2は、図外の繊維供給源から複数本の連続繊維F3を連続的に供給するもので、半径方向の棒材B同士の間に対応して複数の供給部を備えている。また、プレス治具Pは、繊維群FFに対して半径方向に延出する楔状を成し、下降動作により編み付けた連続繊維F2,F3を加圧すると共に、繊維群FFの上方向あるいは所定の上昇位置から繊維群FFの外側方向に後退させることができる。
【0021】
上記の成形装置を用いて構造体Aを製造するには、繊維群FFをセットすると共に、ガイドプレートを上昇限に移動させた後、繊維群FFを回転させながら半径方向R及び周方向Cの連続繊維F2,F3を編み付ける。
【0022】
すなわち、第1ノズルNZ1を外周側から内周側に往動させて、各棒材Bの列間に半径方向Rの連続繊維F2を供給し、続いて、繊維群FFを各棒材列の1ピッチ分回転させた後、第1ノズルNZ1を内周側から外周側に復動させて隣の列間に連続繊維F2を供給する。このとき、半径方向Rの連続繊維F2は、開始端を予め繊維群FFに固定しておくことにより、第1ノズルNZ1の移動とともに同ノズルNZ1から導き出される。その後、繊維群FFの回転と第1ノズルNZ1の往復動を繰り返し行って、繊維群FFに半径方向Rの連続繊維F2を編み付ける。なお、繊維群FFの回転は、連続的又は間欠的のいずれでも良い。
【0023】
また、半径方向Rの連続繊維F2の上側には、第2ノズルNZ2の各供給部から各棒材Bの列間に周方向Cの連続繊維F3を供給する。このとき、連続繊維F3は、開始端を予め繊維群FFに固定しておくことにより、繊維群FFの回転とともに第2ノズルNZ2から導き出される。このように、繊維群FFの回転とともに半径方向Rの連続繊維F2と周方向Cの連続繊維F3の供給を行うことにより、これらの連続繊維F2,F3が軸線方向L(Z方向)に交互に積層されることとなる。
【0024】
さらに、成形装置は、上記の連続繊維F2,F3の積層に伴って、プレス治具Pを間欠的に駆動して、プレス治具Pとガイドプレートの間で連続繊維F2,F3を加圧すると共に、連続繊維F2,F3の供給位置が一定であるから、ガイドプレートを連続的又は間欠的に下降させる。つまり、上記した繊維群FFの回転に伴って、連続繊維F2,F3の積層とプレス治具Pによる加圧を交互に繰り返し、積層高さの増大に伴ってガイドプレートを下降させていくことにより、最終的に、繊維F1〜F3を三次元的に配向した所定の高さの構造体Aが完成する。
【0025】
上記した構造体Aの製造方法によれば、繊維F1を樹脂で棒状に成形した多数の棒材Bから成るZ方向の繊維群FFを採用し、この繊維群FFの上部が開放端となっているので、XY平面に沿った連続繊維すなわち半径方向R及び周方向Cの連続繊維F2,F3を編み付ける際の自動化が容易である。
【0026】
また、編み付けに用いる繊維群FFがそのままZ方向の繊維F1であるから、Z方向の寸法に左右されることがなく、Z方向の寸法が大きい構造体Aであってもその製造が容易であり、また、Z方向の繊維群FFに対して軸線方向に大きな負荷が加わることもないので、Z方向に高弾性繊維を採用することができる。そして、従来の如き金属棒の除去作業が不要になることから、従来に比べて工数を大幅に削減して製造時間を短縮し得ることとなり、これに伴って低コスト化等を実現することができる。
【0027】
さらに、上記実施例の構造体Aは、円筒形状であるとともに炭素繊維を用いており、例えばロケットノズル素材のプリフォームとして用いられる。つまり、構造体Aは、例えば、樹脂の含浸や硬化処理を経てFRP化され、焼成とピッチの含浸を繰り返す複合化処理を経て炭素/炭素複合材料(C/C材料)になり、さらに適宜の機械加工を施すことによりロケットノズルとなる。このため、当該製造方法は、ロケットノズルの製造時間の短縮化や低コスト化にも貢献し得るものとなる。
【0028】
ここで、上記のように複合化処理を行う場合、先述したように、Z方向の繊維F1及び樹脂に加えて、ピッチ及びカーボンブラックのうちの少なくとも一方を含む棒材Bを用いれば、複合化処理が容易で且つ確実なものとなる。
【0029】
すなわち、複合化処理では、構造体Aに対してピッチやカーボンブラックの含浸を行うが、この際、構造体Aが大型になるほどピッチやカーボンブラックが内部に行き渡り難くなる。そこで、ピッチやカーボンブラックを含む棒材Bを用いて構造体Aを形成すれば、その構造体Aが大きなものであっても、全体にピッチやカーボンブラックが均一に行き渡ったものとなるので、複合化処理において、ピッチやカーボンブラックを構造体Aに含浸する作業が簡単になり、また、焼成の際には全体的な緻密化が促進され、高品質の複合材料を得ることができる。
【0030】
なお、本発明に係る三次元繊維構造体の製造方法は、詳細な構成が上記実施例のみに限定されることは無く、例えば円筒形状以外の各種形状とすることも可能であり、使用する繊維や樹脂にあっても使用目的等に応じて適宜選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係わる三次元繊維構造体の製造方法の一実施例を説明する平面図である。
【図2】三次元繊維構造体を説明する斜視図である。
【図3】断面円形の棒材と連続繊維を示す平面図(a)、及び断面角形の棒材と連続繊維を示す平面図(b)である。
【符号の説明】
【0032】
A 三次元繊維構造体
B 棒材
F1 軸線方向L(Z方向)の繊維
F2 半径方向Rの連続繊維
F3 周方向Cの連続繊維
FF 繊維群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を三次元的に配向させた三次元繊維構造体を製造するに際し、繊維を樹脂で棒状に成形した多数の棒材を互いに平行に且つ所定間隔で配置してZ方向の繊維群を形成した後、Z方向の繊維群に対して直交するXY平面に沿って連続繊維を編み付けるとともに同連続繊維をZ方向に積層することを特徴とする三次元繊維構造体の製造方法。
【請求項2】
構造体が軸線方向をZ方向とする円筒形状であって、多数の棒材により概略円筒形状を成すZ方向の繊維群を形成し、この繊維群に対して周方向及び半径方向に連続繊維を編み付けることを特徴とする請求項1に記載の三次元繊維構造体の製造方法。
【請求項3】
多数の棒材が、断面円形及び断面角形のうちから選択された断面形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の三次元繊維構造体の製造方法。
【請求項4】
棒材が、繊維及び樹脂に加えて、ピッチ及びカーボンブラックのうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の三次元繊維構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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