説明

三次元計測治具及びこれを用いた三次元計測方法

【課題】計測点が平面にある場合や縁にある場合の計測精度の向上を実現したうえで、計測点が凹面にある場合であったとしても、この計測点の三次元座標を正確に計測することが可能である三次元計測治具及びこれを用いた三次元計測方法を提供する。
【解決手段】レーザ測定機LによってワークW上における計測点Pの三次元座標を得るのに用いられる球状のリフレクタRを保持する三次元計測治具1であって、リフレクタRをスライド可能に保持する計測溝4と、ワークW上における計測点Pに接する指示点31を備え、計測溝4は、計測点Pがある部位に対して接近離間する方向に形成され、少なくとも計測溝4の計測点Pから離れた遠端部41で保持するリフレクタRの中心Rpと、計測溝4の計測点P寄りの近端部42で保持するリフレクタRの中心Rpとを結ぶ線分dの延長線上に、指示点31が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ測定機によって、加工物や構造物等の計測対象物上における特徴のない計測点の三次元座標を得るのに用いられる三次元計測治具及びこれを用いた三次元計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した三次元計測治具としては、例えば、計測対象物上に置かれるベースプレートと、このベースプレートの一端部から垂直に立ち上がる立壁を備えたものがある。ベースプレートの中央には角孔が形成されている。一方、立壁には上下方向に並ぶ2個の丸孔が形成されている。この立壁における2個の丸孔は、レーザ光を反射する球状のリフレクタの保持孔として使用され、ベースプレートの角孔と立壁の2個の丸孔とは、2個の丸孔にはめ込んだリフレクタの各中心座標が得られれば、これら2点を結ぶベクトルから角孔の中心の三次元座標が求められる位置関係を成している。
【0003】
この三次元計測治具を用いて、計測対象物上における特徴のない計測点の三次元座標を計測する場合は、まず、立壁の2個の丸孔にリフレクタをそれぞれ嵌め込むと共に、上記計測対象物上の計測点にベースプレートの角孔中心を合わせるようにして三次元計測治具をセットする。
【0004】
この後、レーザ測定機から丸孔にはめ込んだリフレクタに対してレーザ光を照射し、リフレクタからの反射レーザ光をレーザ測定機で受光する。
次いで、このレーザ光の送受信に基づいて算出されるレーザ測定機からリフレクタ中心までの距離と、レーザ光照射角度とから、2個の丸孔にはめ込んだリフレクタの各中心座標を求め、これら2点を結ぶベクトルから角孔の中心の三次元座標を求めるようになっている。
この三次元計測治具に類するものが非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】BRUNSON社 Online Metrology Cataloghttp://www.brunsonkc.com/p/CatSMR.asp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した三次元計測治具では、立壁の2個の丸孔にはめ込んだリフレクタの各中心座標、すなわち、2点のみの座標を用いて計測対象物上における計測点の三次元座標を計測するようにしているので、計測精度が高いとは言えないという問題があった。
【0007】
また、上記した三次元計測治具では、計測対象物上における計測点に対して、ベースプレートの角孔を合わせるようにして計測対象物上にセットする都合上、計測対象物の凹面上に計測点がある場合には、ベースプレートの角孔と計測点との間に隙間ができてしまい、その結果、正確に計測することができないという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0008】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、計測点が平面にある場合や縁にある場合の計測精度の向上を実現したうえで、計測点が凹面にある場合であったとしても、この計測点の三次元座標を正確に計測することが可能である三次元計測治具及びこれを用いた三次元計測方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、レーザ測定機によって加工物や構造物等の計測対象物上における計測点の三次元座標を得るのに用いられる球状のリフレクタを保持する三次元計測治具であって、前記球状のリフレクタをスライド可能に保持する計測溝と、前記計測対象物上における計測点に接する尖端状の指示点を備え、前記計測溝は、前記計測対象物の計測点がある部位に対して接近離間する方向に形成され、少なくとも前記計測溝の計測点から離れた遠端部で保持する前記リフレクタの中心と、該計測溝の計測点寄りの近端部で保持する前記リフレクタの中心とを結ぶ線分の延長線上に、前記尖端状の指示点が配置されている構成としたことを特徴としており、この構成の三次元計測治具を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
ここで、計測溝で保持するリフレクタの中心に基づいて、指示点の三次元座標を得るためには、計測溝の近端部で保持するリフレクタの中心と、尖端状の指示点との距離をあらかじめ定めておく必要がある。
例えば、計測溝の遠端部及び近端部で各々保持するリフレクタの各中心同士を結ぶ線分の長さと、計測溝の近端部で保持するリフレクタの中心から尖端状の指示点までの距離との比が、1:1や2:1や1.5:1などといった関係となるように定めることができる。
【0011】
一方、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の三次元計測治具を用いて、計測対象物上における計測点の三次元座標を計測するに際して、前記計測対象物の計測点がある計測面に前記三次元計測治具を置いて、該三次元計測治具の尖端状の指示点を前記計測対象物の計測面上における計測点に合わせると共に該三次元計測治具の前記計測溝に前記球状のリフレクタを嵌め込んだ後、前記リフレクタを前記計測溝内でスライドさせる間に該リフレクタに対するレーザ光の送受信をレーザ測定機により行って、少なくとも前記計測溝の遠端部及び近端部に前記リフレクタが位置する際のレーザ光の送受信に基づいて前記リフレクタの各中心座標を算出し、前記リフレクタの各中心座標に基づいて、該リフレクタの各中心座標を結んで作成される線分の延長線上に位置する前記尖端状の指示点の三次元座標を求め、この指示点の三次元座標を前記計測対象物上における計測点の三次元座標とする構成としている。
【0012】
本発明に係る三次元計測治具及びこの三次元計測治具を用いた計測方法では、計測溝内でリフレクタをスライドさせ、このスライドの間にリフレクタに対してレーザ光の送受信をレーザ測定機により行い、計測溝の遠端部及び近端部を含む複数の部位でリフレクタの各中心座標を算出するように成せば、2点のみの中心座標を用いて計測対象物上における計測点の三次元座標を計測する場合と比較して、計測精度が高まることとなる。
【0013】
また、本発明に係る三次元計測治具及びこの三次元計測治具を用いた計測方法では、リフレクタの各中心を結ぶ線分の延長線上に配置されて、計測対象物上における計測点に接触する指示点が尖端状を成しているので、計測点が計測対象物の凹面上にあったとしても、尖端状の指示点と計測点との間に隙間が生じるのを回避でき、その結果、正確な計測を行い得ることとなる。
この際、例えば、2本の脚部を設け、これらの2本の脚部と尖端状の指示点との3点で三次元計測治具を支えるようにしてもよく、この構成を採用すると、計測対象物の計測点が凸面上にあるなどといった様々な状況に対応し得ることとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る三次元計測治具では、上記した構成としているので、計測点が平面にある場合や縁にある場合の計測精度を高めることができ、加えて、計測点が凹面にあったとしても、この計測点の三次元座標を正確に計測することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る三次元計測治具の一実施例を示す計測溝の遠端部でリフレクタを保持している状態の斜視説明図(a)及び計測溝の近端部でリフレクタを保持している状態の斜視説明図(b)である。
【図2】図1における三次元計測治具を用いて行う三次元計測中の状況説明図(a)及び図2(a)における三次元計測治具の白抜き矢印方向からの矢視説明図(b)である。
【図3】本発明の他の実施例に係る三次元計測治具を示す計測対象物の計測点が凸面上にある場合の側面方向からの配置状況説明図(a)及び背面方向からの配置状況説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明に係る三次元計測治具の一実施例を示している。
【0017】
図1(a)に示すように、この三次元計測治具1は、ワーク(計測対象物)Wの計測点Pがある計測面Ws上に置いて使用するものであって、計測面Wsと当接するベース面2と、このベース面2に対して傾斜する傾斜面3と、この傾斜面3に形成された計測溝4を備えている。
【0018】
傾斜面3には、ベース面2と交わる部位に位置してワークWの計測点Pに接する尖端状の指示点31が形成されている。計測溝4は、球状のリフレクタRをスライド可能に保持する溝であり、ワークWの計測点Pがある部位に対して接近離間する方向に形成されていて、計測点Pから離れた遠端部41及び計測点P寄りの近端部42を具備している。
【0019】
そして、図1(b)に示すように、少なくとも計測溝4の遠端部41で保持されるリフレクタRの中心Rpと、計測溝4の近端部42で保持されるリフレクタRの中心Rpとを結ぶ線分dの延長線上に、尖端状の指示点31が配置されている。
【0020】
この場合、計測溝4の遠端部41及び近端部42で各々保持するリフレクタRの各中心Rp,Rp同士を結ぶ線分dの長さと、計測溝4の近端部42で保持するリフレクタRの中心Rpから尖端状の指示点31までの距離との比を、1:1や2:1や1.5:1などといった関係となるように定めることができる。
この実施例において、上記線分dの長さと、計測溝4の近端部42で保持するリフレクタRの中心Rpから尖端状の指示点31までの距離との比は、1:1になっている。
なお、図1における符号RaはリフレクタRの受光窓であり、この受光窓Raを通してレーザ光の受信及び送信をすることで、リフレクタRの中心Rpの座標が得られるようになっている。
【0021】
上記三次元計測治具1を用いて、ワークW上における計測点Pの三次元座標を計測するに際しては、まず、図2(a)に示すように、ワークWの計測点Pがある計測面Wsにこの三次元計測治具1を置いて、その尖端状の指示点31をワークWの計測面Ws上における計測点Pに合わせると共に,計測溝4に球状のリフレクタRを嵌め込む。
【0022】
この後、リフレクタRを計測溝4の遠端部41から近端部42にスライドさせる間に、リフレクタRに対するレーザ光Lrの送受信を首振り機能付きのレーザ測定機Lにより行って、計測溝4の遠端部41及び近端部42を含む複数の部位においてリフレクタRの各中心Rpの座標を算出する。
【0023】
そして、リフレクタRの各中心Rpの座標に基づいて、上記線分d(リフレクタRの各中心Rpの座標を結んで作成される線分d)の延長線上に位置する尖端状の指示点31の三次元座標を求め、この指示点31の三次元座標をワークW上における計測点Pの三次元座標とする。
【0024】
このように、本実施例に係る三次元計測治具1及びこの三次元計測治具1を用いた計測方法では、計測溝4内でリフレクタRをスライドさせ、このスライドの間にリフレクタRに対してレーザ光Lrの送受信をレーザ測定機Lにより行い、計測溝4の遠端部41及び近端部42を含む複数の部位でリフレクタRの各中心Rpの座標を算出するようにしているので、2点のみの中心座標を用いてワーク上における計測点の三次元座標を計測する場合と比較して、計測精度が高まることとなる。
【0025】
また、上記した三次元計測治具1及びこの三次元計測治具1を用いた計測方法では、リフレクタRの各中心Rpを結ぶ線分dの延長線上に配置されて、ワークW上における計測点Pに接触する指示点31が尖端状に形成されているので、図2(b)に仮想線で示すように、計測点PがワークWの凹面Wc上にあったとしても、尖端状の指示点31と計測点Pとの間に隙間が生じるのを回避でき、その結果、正確な計測を行い得ることとなる。
【0026】
図3は、本発明に係る三次元計測治具の他の実施例を示しており、この実施例に係る三次元計測治具11が、先の実施例に係る三次元計測治具1と相違するところは、ベース面2の両側に位置する側面5,5に伸縮自在な脚部6をそれぞれ設け、これらの脚部6,6をいずれもピン7を介して回動可能に支持するようにした点にあり、他の構成は先の実施例の三次元計測治具1と同じである。
【0027】
この三次元計測治具1において、計測点PがワークWの凸面Wd上にある場合には、尖端状の指示点31を計測点Pに合わせつつ、2本の脚部6,6を凸面Wdに合わせて適宜回動させると共に適宜伸縮させて、指示点31及び脚部6,6の各脚先61,61の合計3点で三次元計測治具11を支えるようにすれば、指示点31と計測点Pとの間に隙間が生じるのを回避し得ることとなる。
つまり、ワークWの計測点Pが凸面Wd上にあるなどといった様々な状況にも対応し得ることとなる。
【0028】
本発明に係る三次元計測治具及びこれを用いた計測方法の構成は、上記した実施例の構成に限定されるものではなく、他の構成として、例えば、三次元計測治具1,11の計測面に対する据わりを良くするべく、ベース面2を磁石で形成したり、ベース面2に磁石や吸盤等の吸着手段を配置したりする構成を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1,11 三次元計測治具
4 計測溝
31 尖端状の指示点
41 計測溝の遠端部
42 計測溝の近端部
d 線分
L レーザ測定機
P 計測点
R リフレクタ
Rp リフレクタの中心
W ワーク(計測対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ測定機によって加工物や構造物等の計測対象物上における計測点の三次元座標を得るのに用いられる球状のリフレクタを保持する三次元計測治具であって、
前記球状のリフレクタをスライド可能に保持する計測溝と、
前記計測対象物上における計測点に接する尖端状の指示点を備え、
前記計測溝は、前記計測対象物の計測点がある部位に対して接近離間する方向に形成され、少なくとも前記計測溝の計測点から離れた遠端部で保持する前記リフレクタの中心と、該計測溝の計測点寄りの近端部で保持する前記リフレクタの中心とを結ぶ線分の延長線上に、前記尖端状の指示点が配置されている
ことを特徴とする三次元計測治具。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元計測治具を用いて、計測対象物上における計測点の三次元座標を計測するに際して、
前記計測対象物の計測点がある計測面に前記三次元計測治具を置いて、該三次元計測治具の尖端状の指示点を前記計測対象物の計測面上における計測点に合わせると共に該三次元計測治具の前記計測溝に前記球状のリフレクタを嵌め込んだ後、
前記リフレクタを前記計測溝内でスライドさせる間に該リフレクタに対するレーザ光の送受信をレーザ測定機により行って、少なくとも前記計測溝の遠端部及び近端部に前記リフレクタが位置する際のレーザ光の送受信に基づいて前記リフレクタの各中心座標を算出し、
前記リフレクタの各中心座標に基づいて、該リフレクタの各中心座標を結んで作成される線分の延長線上に位置する前記尖端状の指示点の三次元座標を求め、この指示点の三次元座標を前記計測対象物上における計測点の三次元座標とする
ことを特徴とする三次元計測治具を用いた計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−18125(P2012−18125A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156804(P2010−156804)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】