説明

三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造

【課題】 瞬低発生確率の低下と、設備コストの低減とを両立させ得る三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造の提供。
【解決手段】 同電圧階級併架鉄塔において、上方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付けると共に、下方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付ける三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造、及び異電圧階級併架鉄塔において、下方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付ける三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相四回線併架鉄塔における続流遮断機能を有する機器(以下、続流遮断機器と記す。)の適用構造に関する。
【背景技術】
【0002】
三相四回線併架鉄塔とは、図に示す様に、三相交流回線が縦横に並べて併架されている鉄塔を言う。この様な併架鉄塔においては、上下については上方送電線(上回線)又は下方送電線(下回線)と呼ばれ、左右については、L(1L)側又はR(2L)側と呼ばれている。
【0003】
三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造に関しては、従来、信頼度の定量的な把握がなされておらず、二回線鉄塔における続流遮断機器の適用構造が用いられていた(例えば、下記特許文献2参照。)。その後、片回線のみに避雷装置を取り付けた併架鉄塔が雷撃を受けた場合に、他の回線にどのような電圧変化が生じるかをシミュレーション解析した文献も開示され(例えば、下記特許文献1参照。)ている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−42464号公報
【特許文献2】特開2006−87196号公報
【0005】
上記文献には、当該シミュレーション解析の結果、上回線の1L側に取り付けた避雷装置が動作した場合、下回線の2L側の碍子連間電圧の上昇は、下回線の1L側の碍子連間電圧の上昇よりも大きく、これが、避雷装置が設置されていない反対側の回線、即ち、より近い位置にある上下の回線の閃絡事故発生頻度を大きくしている原因である事を究明したとされている。
【0006】
先の研究によって、回線毎の配置によって上記傾向が得られたものの、三相四回線併架鉄塔において続流遮断機器を同一鉄塔へ配置する数、位置、及び想定する雷撃電流波形により、続流遮断機器の鉄塔雷撃に伴う破損確率が異なるという観点からの定量的な把握や、設計はこれまで行なわれていない。
【0007】
三相四回線併架鉄塔における瞬時電圧低下(電力系統を構成する送電線等の電力設備で故障が発生した場合、故障箇所を系統から切離すまでの間、故障点を中心に電圧が低下する現象。ここでは、瞬低と記す。)による影響を軽減させるには、全ての回線に漏れなく続流遮断機器を取り付けるのが望ましいことは言うまでもないとされていたが、続流遮断機器の数量がコストに直接反映される実情に鑑みれば、上記影響を軽減する効果とそれに要するコストとを総合的に検討しより合理的な適用構造を選択することが要請される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、瞬低発生確率の低下と、設備コストの低減とを両立させ得る三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために為された本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造は、同電圧階級併架鉄塔において、上方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付けると共に、下方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付けることを特徴とする。
【0010】
異電圧階級併架鉄塔においては、下方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付ける三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造が有効であり、上方送電線の左右いずれかの片側回線の全ての相に続流遮断機器を取り付けた適用構造によって瞬時電圧低下のみならず、ルート遮断事故をも防止することができる。
【0011】
同電圧階級併架鉄塔と異電圧階級併架鉄塔のいずれにあっても、上方送電線及び下方送電線の各々における続流遮断機器の取り付けを省いた回線を、鉄塔の支柱を挟んで左右相反する側に配置することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、三相四回線併架鉄塔において、全ての相に続流遮断機器を取り付けることなく瞬低発生確率を低下させることができ、設備コストを低減させるのみならず、機器の破損を防止できることからランニングコストをも低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1乃至図3に示す三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(以下、適用構造と記す。)は、本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造の一例を示したものである。
【0014】
続流遮断機器とは、電力線と鉄塔アームを絶縁する碍子と電気的に並列に挿入されており、送電線への雷撃電流が流れた後に系統から流れ込む交流電流(続流)を遮断又は限流させて地絡事故を防止する機能を有する機器(直列ギャップを有するものを含む。)を言う(例えば、上記特許文献2参照。)。
【0015】
図1は、上方送電線(上記特許文献1の上回線)と下方送電線(上記特許文献1の下回線)とが同電圧階級である同電圧階級併架鉄塔の例を示したものである。
当該例において、続流遮断機器は、上方送電線L側(上記特許文献の1L側)の三相、上方送電線R側(上記特許文献の2L側)の上位二相、下方送電線L側(上記特許文献の1L側)の上位二相、及び下方送電線R側(上記特許文献の2L側)の三相に取り付けられている。
【0016】
当該構成は、主に各回線毎の続流遮断機器の取付数量の面から導いた図10に示す何れの最小雷撃電流域におけるデータに基づいても、瞬低発生確率の最低値を安定的に示し、且つその臨界前後における確率の激変に対してコスト変動は緩やかである(図5乃至図7参照。)。従って、この様な三相四回線併架鉄塔に生じ得るいかなる雷撃にあっても高い信頼度を持った配置構成であると定量的に認めることができる。
【0017】
また、これまでの研究結果に照らせば、続流遮断機器にかかる電圧は、鉄塔の電位上昇と架空送電線の電位上昇の差(以下、碍子連間電圧と記す。)で表され、その大きさが閃絡の原因となるところ、雷撃が鉄塔塔頂に落ちた場合、鉄塔自体のサージインピーダンス(抵抗値)によって鉄塔アームの電位は対地高に比例し、塔頂に近いほど電位上昇が大きくなるとされている。
【0018】
即ち、上位送電線と下位送電線とを比較すれば、上記碍子連間電圧が大きい上位送電線の方が地絡事故発生の可能性が高いことから、当該例についても、続流遮断機器の取り付ける相として上位送電線の方から優先的に選択する構成を採り効果を挙げている。破損状況の面から検討しても、送電線が下位になるほど架空地線との相互結合の低さにより電流が流れ易く機器が破損し易いので、続流遮断機器の取付相を選択する際には、下位の送電線への続流遮断機器の取付を極力回避する事が望ましい。
【0019】
また、十二相全てに続流遮断機器を取り付けた場合の瞬低発生確率が最低ではなかった結果は、従来の常識に照らせば(上記特許文献1参照)比較的興味深いところである。大電流雷撃を考えた場合、十二相全てに続流遮断機器を取り付けると、続流遮断機器で処理するエネルギーが十相に比べて増大する結果、破損に至る確率が高くなると考えられる。四回線鉄塔における各相の鉄塔アーム単位で続流遮断機器の配置を考察する本発明の目的に鑑みても、本発明に想到する行為が極めて有意義であったと言うことができる。
【0020】
因みに、前記特許文献1に示された構成は、先に記したデータに基づけば瞬低発生確率は比較的高い域にあり、発生確率の低下と言う点においては、本発明によって大幅に改善されたと認められる。
【0021】
図2及び図3に示す例は、上方送電線が高電圧階級であり、下方送電線が低電圧階級である異電圧階級併架鉄塔の例を示したものである。
図2に示す例において、続流遮断機器は、下方送電線L側の上位二相、及び下方送電線R側の三相にのみ取り付けられている。
【0022】
当該構成は、各回線毎の続流遮断機器の取付数量の面から導いた図11に示す何れの最小雷撃電流域におけるデータに基づいても、瞬低発生確率が低い値を安定的に示し、且つその臨界前後における確率の激変に対してコスト変動は緩やかである(図8及び図9参照。)。従って、この様な三相四回線併架鉄塔に生じ得るいかなる雷撃にあっても高い信頼度を持った配置構成であると定量的に認めることができる。
【0023】
また、一般的に前記異電圧階級併架鉄塔では、下方送電線の絶縁強度に対して上方送電線の絶縁強度は二倍弱と大きく異なっており、下方送電線の方が格段に地絡事故が発生し易い傾向にある。従って、上記シミュレーションにおいては、必然的に下方送電線へ優先的に続流遮断機器を取り付ける結果となった。
【0024】
上記配置構成は、前記異電圧階級併架鉄塔における上方送電線と下方送電線とを比較した地絡事故の発生確率に基いて導いたものであるが、いかに確率が低いと言え、上方送電線においても、ルート遮断事故(二回線共に地絡事故に至る事故)が発生するリスクがある。かかるルート遮断事故は、電力品質を保つ上で回避せよとの要請が極めて高いものである。
【0025】
上記ルート遮断事故を回避するには、上記例よりもコストが増加するものの、上方送電線についても、左右いずれかの回線すべてに続流遮断機器を取り付ける構成を採る事が望ましい。因みに、当該適用構造の瞬低発生確率及びコストの評価データは、図8及び図9並びに図11における8相(LA取付数)に相当し、コスト上は上記5相Lには劣るものの、瞬低発生確率は同等の域を示している。
【0026】
上記特許文献1にも記載されている通り、続流遮断機器による閃絡防止効果は、水平方向よりも上下方向に強く作用するので、続流遮断機器の取り付けが省かれた回線は、鉄塔の支柱を挟んで相反する側(千鳥状)に配置されていることが望ましい。
【0027】
尚、図1乃至図3において、続流遮断機器を取り付ける鉄塔アームには丸印を付して表し、図5乃至図11において、Rは右側取付を、Lは左側取付を表し(図4参照)、取付相数に続いて付されたU及びLについては、Uは上方送電線5相+下方送電線3相に取り付けられた構造を、Lは上方送電線3相+下方送電線5相に取り付けられた構造を表す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(同電圧階級併架鉄塔)の一例を示す説明図である。
【図2】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(異電圧階級併架鉄塔)の一例を示す説明図である。
【図3】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(異電圧階級併架鉄塔)の一例を示す説明図である。
【図4】本発明による三相四回線併架鉄塔における送電線位置の指示方法を示す説明図である。
【図5】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(同電圧階級併架鉄塔)の一例による続流遮断機器の取付数に対する瞬低発生確率の相対値及びコストの関係を示した相関図である。
【図6】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(同電圧階級併架鉄塔)の一例による続流遮断機器の取付数に対する瞬低発生確率の相対値及びコストの関係を示した相関図である。
【図7】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(同電圧階級併架鉄塔)の一例による続流遮断機器の取付数に対する瞬低発生確率の相対値及びコストの関係を示した相関図である。
【図8】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(異電圧階級併架鉄塔)の一例による続流遮断機器の取付数に対する瞬低発生確率の相対値及びコストの関係を示した相関図である。
【図9】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(異電圧階級併架鉄塔)の一例による続流遮断機器の取付数に対する瞬低発生確率の相対値及びコストの関係を示した相関図である。
【図10】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(同電圧階級併架鉄塔)の一例による続流遮断機器の取付数に対する瞬低発生確率の相対値及びコストの関係を示した表である。
【図11】本発明による三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造(異電圧階級併架鉄塔)の一例による続流遮断機器の取付数に対する瞬低発生確率の相対値及びコストの関係を示した表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同電圧階級併架鉄塔において、上方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付けると共に、下方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付ける三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造。
【請求項2】
異電圧階級併架鉄塔において、下方送電線の上位相から五相に続流遮断機器を取り付ける三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造。
【請求項3】
上方送電線の左右いずれかの片側回線の全ての相に続流遮断機器を取り付けた前記請求項2に記載の三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造。
【請求項4】
上方送電線及び下方送電線の各々における続流遮断機器の取り付けを省いた回線を、鉄塔の支柱を挟んで左右相反する側に配置した前記請求項1又は請求項3のいずれかに記載の三相四回線併架鉄塔における続流遮断機器の適用構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−303320(P2009−303320A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152662(P2008−152662)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【Fターム(参考)】