説明

三相変圧器用鉄心

【課題】素材鋼板から積鉄心にしたときの鉄損特性の劣化が小さい方向性電磁鋼板を開発し、もって、BFが小さく鉄損が低い三相変圧器用鉄心を提供する。
【解決手段】Siを1.5〜5.0mass%含有し、二次再結晶粒の平均粒径が30mm以上であり、二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角αの平均が3.70°以下、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βの平均が2.50°以下であり、板厚が0.1〜0.2mmである磁区細分化処理が施されてなる方向性電磁鋼板を積層した三相変圧器用鉄心。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相変圧器用鉄心に関し、具体的には、ビルディングファクター(BF)が小さく鉄損が低い三相変圧器の鉄心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Siを含有し、結晶方位が{110}<001>方位(Goss方位)に高度に集積した方向性電磁鋼板は、優れた軟磁気特性を有することから、商用周波数領域で使用される各種鉄心素材として広く用いられている。斯かる用途に用いられる方向性電磁鋼板の特性を表わす指標としては、一般に、50Hzの周波数で1.7Tに磁化させたときの損失である鉄損W17/50(W/kg)が重要視されている。その理由は、鉄損W17/50が低い素材を鉄心に用いることで、変圧器の鉄心の鉄損を大幅に低減できるからである。
【0003】
電磁鋼板の鉄損は、結晶方位や純度等に依存するヒステリシス損と、比抵抗や板厚、磁区の大きさ等に依存する渦電流損との和で表される。したがって、鉄損を低減する方法としては、結晶方位の集積度を高めて磁束密度を向上させる方法や、Siを添加して電気抵抗を高める方法、鋼板の板厚を低減する方法、二次再結晶粒を微細化したり、磁区を細分化したりする方法等が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、二次再結晶粒を大きくし、結晶方位のGoss方位への集積度を高めて磁束密度を向上させる方法が、特許文献2や特許文献3には、線状の溝を鋼板表面に形成して磁区細分化する方法、特許文献4には、二次再結晶組織の圧延面法線方向(ND)周りと圧延直角方向(TD)周りのずれ角を制御する方法等が知られている。
【0005】
変圧器の鉄損を評価する指標の1つとしてビルディングファクター(BF)がある。このBFは、変圧器の鉄損値を、鉄心素材(方向性電磁鋼板)の鉄損値で割った値であり、BF値が小さいほど、素材鋼板に対する変圧器の鉄損が低減することを示している。そこで、特許文献5には、方向性電磁鋼板表面に形成される絶縁被膜の張力を低減することで、BFを低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−100996号公報
【特許文献2】特開平08−225844号公報
【特許文献3】特開2008−057001号公報
【特許文献4】特開2007−314826号公報
【特許文献5】特開2005−317683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜4に開示された電磁鋼板は、いずれも、単板で測定したときの鉄損特性は優れているものの、積鉄心に組み立てて変圧器としたときの鉄損特性が大きく低下する、すなわち、BFが大きいという問題がある。また、特許文献5に開示された絶縁被膜を改良した鋼板は、被膜不良が発生し易く、歩留まりが低下するという別の問題がある。そのため、BFの小さい変圧器の積鉄心の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点を解決するべく開発されたものであり、その目的は、素材鋼板から積鉄心にしたときの鉄損特性の劣化が小さい方向性電磁鋼板を開発し、もって、BFが小さく鉄損が低い三相変圧器用鉄心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を解決するべく、三相変圧器の鉄心として好適な材料(方向性電磁鋼板)について種々の検討を行った。その結果、
(1)二次再結晶粒の平均粒径が30mm以上であること、
(2)二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角αの平均が3.70°以下、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βの平均が2.50°以下でること、
(3)鋼板板厚が0.10〜0.20mmであること、および、
(4)鋼板に磁区細分化処理が施されていること、
の4つの全てを満たす方向性電磁鋼板を鉄心に用いることで、BFが小さく、鉄損特性に優れる変圧器用鉄心が得られることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、Siを1.5〜5.0mass%含有し、二次再結晶粒の平均粒径が30mm以上であり、二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角αの平均が3.70°以下、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βの平均が2.50°以下であり、板厚が0.1〜0.2mmである磁区細分化処理が施されてなる方向性電磁鋼板を積層した三相変圧器用鉄心である。
【0011】
本発明の三相変圧器用鉄心に用いる上記方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒の圧延方向の平均径が30〜100mm、圧延直角方向の平均径が30mm以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の三相変圧器用鉄心に用いる方向性電磁鋼板は、鋼板表面に溝を形成する方法、鋼板表面に熱歪を付与する方法、鋼板表面に電子ビームを照射する方法、および、鋼板表面にレーザを照射する方法のいずれかの方法で磁区細分化処理が施されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼板の板厚、二次再結晶粒の大きさ、二次再結晶粒の理想方位からのずれ角を制限し、さらに、鋼板表面に磁区細分化処理を施した方向性電磁鋼板を積鉄心に用いることで、鉄損が低い三相変圧器用鉄心を得ることができるで、省エネルギー化に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】三相変圧器の構造(寸法、形状)の一例を説明する図である。
【図2】素材鋼板(単板)の鉄損W17/50と三相変圧器の鉄損W17/50とを対比したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明を開発するに至った実験について説明する。
地鉄中に、Si:3.4mass%、Mn:0.04mass%、S:0.0005mass%、Al:0.007mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚が0.20mmである、表1に示すNo.1〜10の10種の方向性電磁鋼板(製品コイル)から、素材の鉄損特性評価用の試料を採取し、素材鋼板の結晶粒径、磁束密度1.7Tにおける鉄損W17/50、磁化力800A/mにおける磁束密度Bを、単板磁気測定法で測定した。
また、上記素材鋼板について、X線による結晶方位測定を圧延方向に5mmピッチで250mmの長さに亘って行い、二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角α、および、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βを測定した。
なお、上記鋼板の一部には、冷間圧延後の鋼板にエッチング処理を施して線状の溝を形成して磁区細分化処理を施した。
また、上記10種の製品コイルの素材特性評価用試料の採取位置と同じ位置から、変圧器の鉄損特性評価用の試料を採取し、図1に示す形状、寸法を有する三相変圧器の鉄心を作製し、磁束密度1.7Tにおける変圧器の鉄損W17/50を測定した。
【0016】
【表1】

【0017】
上記測定の結果を表1に併記した。また、図2に、素材鋼板(単板)の鉄損W17/50と三相変圧器の鉄損W17/50とを対比して示した。
これらの結果から、素材鋼板の磁気特性はほぼ同程度であっても、鋼板板厚を0.20mm以下、二次再結晶粒の平均粒径を30mm以上、二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からのずれ角αの平均値を3.70°以下、および理想方位{110}<001>からのずれ角βの平均値を2.50°以下制限すると共に、磁区細分化処理を施した方向性電磁鋼板を用いて積鉄心を作製することで、BFが小さく、鉄損が0.9W/kg以下の低鉄損の三相変圧器が得られることがわかった。
本発明は、上記知見にさらに検討を加えて完成したものである。
【0018】
次に、本発明の三相変圧器用鉄心に用いる方向性電磁鋼板について説明する。
Si含有量:1.5〜5mass%
本発明の方向性電磁鋼板は、鋼の電気抵抗を高めて低鉄損を実現するため、少なくとも1.5mass%のSiを含有していることが必要である。しかし、Si含有量が多くなり過ぎると、硬質化し、圧延して製造すること難しくなるので、上限は5mass%とする。好ましくは、2.5〜4.5mass%である。
【0019】
本発明の方向性電磁鋼板は、上記Si以外には、方向性電磁鋼板の地鉄中に一般に含まれている成分を含有することができ、例えば、Mn:0.001〜0.1mass%、S:0.04mass%以下およびAl:0.02mass%以下の範囲内で含有していてもよい。なお、残部がFeおよび不可避的不純物である。
【0020】
板厚:0.10〜20mm
次に、本発明の方向性電磁鋼板は、板厚が0.10〜0.20mmのものであることが必要である。板厚を0.20mm以下とすることで、渦電流損の低減効果が得られる。また、板厚を低減した場合には、最終冷間圧延で強圧下圧延することが必要となり、一次再結晶焼鈍後の鋼板集合組織において、二次再結晶粒の核となるGoss方位粒が減少するため、二次再結晶粒を粗大化することができる。ただし、板厚が0.10mm未満となると、圧延して製造することが難しくなるので、下限は0.10mmとする。
【0021】
二次再結晶粒:平均粒径30mm以上
二次再結晶粒は、粒径が大きいほど粒界の面積が減少し、粒界における磁壁移動によるエネルギー損失が減少する。表1からわかるように、素材鋼板の鉄損が同じ程度であっても、平均粒径が30mm以上に大きくなるほど変圧器の鉄損が低減していることから、粒界での磁壁移動によるエネルギー損失が変圧器の鉄損に大きな影響を及ぼしているものと考えられる。そこで、本発明では、二次再結晶粒の平均粒径を30mm以上とする。
なお、二次再結晶粒の大きさは、冷間圧延の圧延方向および圧延直角方向における平均径をそれぞれ30mm以上とするのが好ましい。なお、より好ましくは、圧延方向の平均径は30mm以上100mm以下とするのが好ましい。圧延方向の平均径が100mm超えとなると、後述する二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βが大きくなり、磁束密度が低下するためである。
【0022】
二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角αの平均が3.70°以下、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βの平均が2.50°以下
二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角α、および、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βの平均値が、それぞれα≦3.70°、β≦2.50°を満たすときには、磁区細分化後の渦電流損が非常に小さくなる。そのため、上記条件を満たす方向性電磁鋼板を積鉄心に用いた場合には、BFが小さく、鉄損が低い三相変圧器の鉄心を得ることができる。
【0023】
なお、ずれ角αおよびずれ角βを上記範囲に制限することでBFが小さくなる理由について、発明者らは、トランスにおける磁束波形歪による渦電流損の増大が抑制されるためであると考えている。
【0024】
磁区細分化処理
本発明の三相変圧器の鉄心に用いる方向性電磁鋼板は、磁区細分化処理が施されていることが必要である。磁区細分化処理を施すことで渦電流損が低減されるため、BFが増加する原因である磁場の高調波成分による損失が減少し、BFが著しく低減されるからである。なお、磁区細分化する方法については、従来公知の方法であれば特に制限はなく、例えば、冷間圧延後の鋼板表面に溝を形成する方法、製品鋼板表面に熱歪を付与する方法、製品鋼板表面に電子ビームを照射する方法、および、製品鋼板表面にレーザを照射する方法等の方法を用いることができる。また、上記溝の形成や歪、照射の付与は、連続した線状に行ってもよいし、断続した破線状に行ってもよい。
【実施例1】
【0025】
地鉄中に、Si:3.0mass%、Mn:0.03mass%およびS:0.0005mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚が0.20mmである、表2に示すNo.1〜9の方向性電磁鋼板(製品コイル)から、素材の鉄損特性評価用の試料を採取し、素材鋼板の結晶粒径、磁束密度1.7Tにおける鉄損W17/50、磁化力800A/mにおける磁束密度Bを、単板磁気測定法で測定した。
また、上記素材鋼板について、X線による結晶方位測定を圧延方向に5mmピッチで250mmの長さに亘って行い、二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角α、および、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βを測定した。
なお、上記鋼板の一部には、冷間圧延後の鋼板表面にエッチングで溝を形成する、または、製品鋼板表面に電子ビームを照射して磁区細分化処理を施した。
また、上記製品コイルの素材特性評価用試料の採取位置と同じ位置から、変圧器の鉄損特性評価用の試料を採取し、図1に示す形状、寸法を有する三相変圧器の鉄心を作製し、磁束密度1.7Tにおける変圧器の鉄損W17/50を測定した。
【0026】
【表2】

【0027】
上記測定の結果を表2に併記した。表2から、本発明の条件を満たす素材鋼板を用いた三相変圧器の鉄心は、BFが小さく、鉄損特性に優れていることがわかる。
【実施例2】
【0028】
地鉄中に、Si:3.0mass%、Mn:0.007mass%およびS:0.001mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚が0.18mmである、表3に示すNo.1〜4の方向性電磁鋼板(製品コイル)を用いること、および、磁区細分化処理の方法を、冷延後鋼板表面にエッチングで溝を形成する方法(No.2)、製品鋼板表面に電子ビームを照射する方法(No.3)、および、製品鋼板表面にレーザを照射する方法(No.4)のいずれかの方法を用いて行ったこと(ただし、No.1は磁区細分化処理なし)以外は、実施例1と同様にして、素材鋼板と三相変圧器の評価を行い、その結果を表3に併記した。
表3から、上記いずれかの方法で磁区細分化処理を施した鋼板を積鉄心に用いることにより、BFが小さく、鉄損特性に優れた三相変圧器を得ることができることがわかる。
【0029】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを1.5〜5.0mass%含有し、二次再結晶粒の平均粒径が30mm以上であり、二次再結晶粒の理想方位{110}<001>からの圧延面法線方向(ND)周りのずれ角αの平均が3.70°以下、理想方位{110}<001>からの圧延直角方向(TD)周りのずれ角βの平均が2.50°以下であり、板厚が0.1〜0.2mmである磁区細分化処理が施されてなる方向性電磁鋼板を積層した三相変圧器用鉄心。
【請求項2】
上記方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒の圧延方向の平均径が30〜100mm、圧延直角方向の平均径が30mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の三相変圧器用鉄心。
【請求項3】
上記方向性電磁鋼板は、鋼板表面に溝を形成する方法、鋼板表面に熱歪を付与する方法、鋼板表面に電子ビームを照射する方法、および、鋼板表面にレーザを照射する方法のいずれかの方法で磁区細分化処理が施されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の三相変圧器用鉄心。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−108149(P2013−108149A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255912(P2011−255912)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】