説明

三連四重極型質量分析装置

【課題】三連四重極型質量分析装置においてMS/MS分析で高速の質量走査を実行する際にも、質量電荷軸のずれを抑えて質の高いマススペクトルを取得する。
【解決手段】解離操作を伴わないMS分析用と解離操作を伴うMS/MS分析用とで独立に、スキャン速度をパラメータとしm/zと質量偏差値との関係を示す質量較正テーブル22A1、22A2、22B1、22B1を用意する。MS/MS分析時にはプロダクトイオンスキャン測定やニュートラルロススキャン測定等の測定モードに応じて、選択するm/zが固定である四重極についてはテーブル中で最低スキャン速度S1に対応する質量偏差値を用い、質量走査が行われる四重極についてはテーブル中で指定されたスキャン速度に対応する質量偏差値を用い、それぞれ前段四重極と後段四重極の動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MS/MS分析が可能な三連四重極型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極型質量分析装置では、測定対象イオンの質量電荷比m/zに応じた電圧(直流電圧と高周波電圧とが加算された電圧)を四重極マスフィルタに印加することにより、上記測定対象イオンを選択的に四重極マスフィルタを通過させて検出器で検出する。四重極マスフィルタの機械的な誤差や電気回路の特性のばらつき、使用環境条件等のため、多くの場合、目的とする質量電荷比を持つイオンが選択的に四重極マスフィルタを通過するような制御がなされた状態において、その目的の質量電荷比と実際に検出されるイオンの質量電荷比とにはずれが生じる。そこで、この質量電荷比のずれを補正するために、通常、測定にあたって質量較正作業が実施される。
【0003】
質量較正作業においては、特許文献1に記載のように、まず質量電荷比の理論値が既知である成分を含む標準試料を測定し、そのときの質量電荷比の実測値と理論値とを比較することにより該質量電荷比における質量偏差を求め、これを較正値としてメモリに記憶しておく。そして、目的試料の測定に際して、制御部はメモリから目的とする質量電荷比に対応した較正値を読み出し、それを用いて質量偏差がゼロになるように四重極マスフィルタに印加する電圧を補正する。その結果、目的とする質量電荷比を有するイオンが四重極マスフィルタを選択的に通過し、検出器に到達して検出されるようになる。
【0004】
ところで、分子量が大きな物質の同定やその構造の解析を行うために、質量分析の1つの手法としてMS/MS分析と呼ばれる手法が広く用いられている。MS/MS分析を実施するための質量分析装置としては種々の構成のものがあるが、構造が比較的簡単で廉価であることから、三連四重極型質量分析装置が広く利用されている。
【0005】
特許文献2などに開示されているように、一般的な三連四重極型質量分析装置は、前段の四重極マスフィルタ(以下、「前段四重極」と称す)と後段の四重極マスフィルタ(以下、「後段四重極」と称す)との間に、イオンを衝突誘起解離(CID=Collision Induced Dissociation)により解離させるコリジョンセル(衝突室)を備える。このコリジョンセル内には、イオンを収束させつつ輸送するために四重極(又はそれ以上の多重極)型のイオンガイドが配設される。
【0006】
試料から生成された各種イオンが前段四重極に導入されると、該前段四重極は特定の質量電荷比を有するイオンのみをプリカーサイオンとして選択的に通過させる。コリジョンセル内にはアルゴンガスなどのCIDガスが導入され、コリジョンセル内に導入された上記プリカーサイオンはCIDガスと衝突し、解離して各種のプロダクトイオンが生成される。プリカーサイオンや各種のプロダクトイオンは四重極型イオンガイドにより形成される高周波電場の作用で収束される。CIDにより生成された各種プロダクトイオンが後段四重極に導入されると、該後段四重極は特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンのみを選択的に通過させ、後段四重極を通過し得たプロダクトイオンが検出器に到達して検出される。
【0007】
このような三連四重極型質量分析装置では、多重反応モニタリング(MRM=Multiple Reaction Monitoring)測定、プロダクトイオンスキャン測定、プリカーサイオンスキャン測定、ニュートラルロススキャン測定など、様々なモードのMS/MS分析が可能である。
【0008】
MRM測定では、前段四重極と後段四重極とを通過し得るイオンの質量電荷比をそれぞれ固定し、特定のプリカーサイオンに対する特定のプロダクトイオンの強度を測定する。
プロダクトイオンスキャン測定では、前段四重極を通過するイオンの質量電荷比を或る値に固定する一方、後段四重極を通過するイオンの質量電荷比を所定質量電荷比範囲で走査(スキャン)する。これにより、特定のプリカーサイオンに対するプロダクトイオンのマススペクトルを取得することができる。
【0009】
プリカーサイオンスキャン測定ではプロダクトイオンスキャン測定とは逆に、後段四重極を通過するイオンの質量電荷比を或る値に固定する一方、前段四重極を通過するイオンの質量電荷比を所定質量電荷比範囲で走査する。これにより、特定のプロダクトイオンを生成するプリカーサイオンのマススペクトルを取得することができる。
ニュートラルロススキャン測定では、前段四重極を通過するイオンの質量電荷比と後段四重極を通過するイオンの質量電荷比との差(つまりニュートラルロス)を一定に保ちつつ前段四重極及び後段四重極においてそれぞれ所定の質量電荷比範囲で質量走査を行う。これにより、特定のニュートラルロスを有するプリカーサイオン/プロダクトイオンのマススペクトルを取得することができる。
【0010】
当然のことながら、三連四重極型質量分析装置では、コリジョンセル内でイオンのCIDを行わずに通常のスキャン測定や選択イオンモニタリング(SIM=Selected Ion Monitoring)測定を行うことも可能である。この場合には、前段四重極又は後段四重極の一方では質量電荷比に応じたイオンの選択動作は行われず、全てのイオンがその四重極を通過する。
【0011】
上述したように三連四重極型質量分析装置は前段及び後段の2つの四重極マスフィルタを備えるため、プリカーサイオンの選択性やプロダクトイオンの選択性を高めるには、前段と後段とでそれぞれ独立に質量較正を行う必要がある。従来の三連四重極型質量分析装置では一般に、MS/MS分析のための質量較正情報は、標準試料を用いた或る低速のスキャン速度のMS分析による実測結果に基づいて前段四重極と後段四重極とで独立に作成されている。しかしながら、このようにして求められた質量較正情報に基づいて質量較正を行った場合、プリカーサイオンスキャンやニュートラルロススキャンなどの測定モードにおいてスキャン速度が速くなるに従いマススペクトルにおける質量電荷比軸のずれが大きくなるという問題がある。
【0012】
また、質量分解能についても質量較正と同様に標準試料を用いた或る低速のスキャン速度のMS分析による実測結果を利用した調整が行われているが、プリカーサイオンスキャンやニュートラルロススキャンなどの測定モードにおいてスキャン速度が速くなるに従い質量分解能が低下する(1つの成分に対するピークプロファイルのピーク幅が太くなる)か、或いは、質量分解能が低下しない場合でもイオンの通過量が減じて感度が大きく低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−183439号公報
【特許文献2】特開平7−201304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、測定対象物質はますます複雑化する一方、分析作業の効率アップや分析の質の向上も強く求められている。例えば、液体クロマトグラフ(LC)と三連四重極型質量分析装置とを組み合わせた装置では、試料に含まれる多種の成分の分子量測定と併せて構造情報を取得するために、MRM測定や通常のスキャン測定をトリガとしたプロダクトイオンスキャン測定が行われる場合がある。こうした場合、ピーク当たりのデータ点数を十分に確保するため、或いは、正負イオン両方でさらには複数のコリジョンエネルギ条件の下でプロダクトイオンスキャン測定を行うためには、スキャン速度を高速にしてより短い時間単位でスキャン測定を繰り返す必要がある。そうした要求を満たすために質量走査の高速化は必須であり、上述したような質量電荷比軸のずれや質量分解能の低下などの問題は一層顕著になる。
【0015】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、三連四重極型質量分析装置において高速スキャンを伴うMS/MS分析を行う場合でも、マススペクトルの質量電荷比軸のずれや質量分解能の低下を軽減して高質量精度、高質量分解能のマススペクトルを得ることを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために成された第1発明は、試料をイオン化するイオン源と、該イオン源で生成された各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別するための前段四重極と、該プリカーサイオンを解離させるコリジョンセルと、その解離により生成した各種プロダクトイオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンを選別するための後段四重極と、該後段四重極を通過したイオンを検出する検出器と、を具備する三連四重極型質量分析装置において、
a)コリジョンセルでの解離操作を伴わないMS分析及び該解離操作を伴うMS/MS分析の測定モード毎に、スキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報を記憶しておく較正情報記憶手段と、
b)実行される測定モード及び指定されたスキャン速度に応じた質量較正情報を前記較正情報記憶手段から読み出し、該情報を用いて前段四重極及び後段四重極をそれぞれ駆動することにより、前記検出器により検出されるイオンの質量電荷比を較正する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0017】
また上記課題を解決するために成された第2発明は、試料をイオン化するイオン源と、該イオン源で生成された各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別するための前段四重極と、該プリカーサイオンを解離させるコリジョンセルと、その解離により生成した各種プロダクトイオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンを選別するための後段四重極と、該後段四重極を通過したイオンを検出する検出器と、を具備する三連四重極型質量分析装置において、
a)コリジョンセルでの解離操作を伴わないMS分析において前段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報及び後段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報、並びに、コリジョンセルでの解離操作を伴うMS/MS分析において前段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報及び後段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報をそれぞれ記憶しておく較正情報記憶手段と、
b)実行されるMS分析又はMS/MS分析の測定モードに応じて、前記較正情報記憶手段に記憶されている質量較正情報の中で必要な組み合わせを選択するとともに、指定されたスキャン測定に応じた質量較正情報を読み出し、該情報を用いて前段四重極及び後段四重極をそれぞれ駆動することにより、前記検出器により検出されるイオンの質量電荷比を較正する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0018】
第1発明及び第2発明において、MS/MS分析の測定モードとは典型的には、MRM測定、プリカーサイオンスキャン測定、プロダクトイオンスキャン測定、及びニュートラルロススキャン測定である。また、MS分析の測定モードとは、前段四重極で質量走査を行う前段四重極スキャン測定、後段四重極で質量走査を行う後段四重極スキャン測定、前段四重極でSIMを行う前段四重極SIM測定、後段四重極でSIMを行う後段四重極SIM測定などである。
【0019】
なお、SIM測定やMRM測定など質量走査を行わない場合には、スキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報の中で、最も遅いスキャン速度に対応した質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報を利用すればよい。
【0020】
また、スキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報の具体例としては、行方向又は列方向の一方向に配列された複数のセルがそれぞれ異なる質量電荷比に対する較正値を設定するための欄であり、行方向又は列方向の他方向に配列された複数のセルがそれぞれ異なるスキャン速度に対する較正値を設定するための欄である、2次元的なテーブルとすることができる。
【0021】
第1発明及び第2発明に係る三連四重極型質量分析装置はいずれも、コリジョンセルでのイオンの解離操作が実施されないMS分析のための質量較正情報とは別に、MS/MS分析の際に用いられる質量較正情報を較正情報記憶手段に保持している。第1発明と第2発明との相違は、第1発明では上述したようなMS分析及びMS/MS分析の各測定モードに対応してそれぞれ質量較正情報を有しているのに対し、第2発明ではMS/MS分析の各測定モードに共通である前段四重極用の質量較正情報と後段四重極用の質量較正情報とを有しているという点である。
【0022】
したがって、第1発明に係る三連四重極型質量分析装置では例えば、プロダクトイオンスキャン測定とニュートラルロススキャン測定とでいずれも後段四重極の質量走査を実施するが、両測定モードで異なる質量較正情報を用いた後段四重極の質量較正を行うことが可能である。一方、第2発明に係る三連四重極型質量分析装置では例えば、プロダクトイオンスキャン測定とニュートラルロススキャン測定とで異なる質量較正情報を用いた後段四重極の質量較正を行うことはできないが、保持しておくべき質量較正情報の量が少なくて済むという利点がある。
【0023】
第1発明又は第2発明のいずれにおいても、制御手段は、実行されるMS分析又はMS/MS分析の測定モード及び指定されたスキャン測定に応じた質量較正情報を較正情報記憶手段から取得し、該情報を用いて前段四重極及び後段四重極をそれぞれ駆動する。例えばMS/MS分析のプロダクトイオンスキャン測定モードであれば、前段四重極においては、通過させるイオンの質量電荷比が固定されているため、SIM測定やMRM測定と同様に、その測定モードに対応した前段四重極の質量較正情報の中で最も遅いスキャン速度に対応した質量較正情報が用いられる。一方、後段四重極においては、その測定モードに対応し且つそのときに設定されているスキャン速度に対応した後段の質量較正情報が用いられる。
【発明の効果】
【0024】
このように第1発明又は第2発明に係る三連四重極型質量分析装置によれば、前段四重極、後段四重極の一方又は両方で質量走査を行うMS/MS分析の際に、スキャン速度を速くした場合でもそのスキャン速度に応じた適切な質量較正が行われるので、マススペクトル(MS/MSスペクトル)の質量電荷比軸のずれを抑えることができる。それにより、質量精度の高いマススペクトルを取得することができ、目的成分の定量精度や構造解析の精度を向上させることができる。
【0025】
また第1発明又は第2発明に係る三連四重極型質量分析装置において、上記較正値は質量電荷比の較正値のほか質量分解能を調整するための較正値も含み、前記制御手段は、前記検出器により検出されるイオンの質量電荷比の較正と同時に質量分解能の調整も実行する構成とすることができる。
【0026】
この構成によれば、前段四重極、後段四重極の一方又は両方で質量走査を行うMS/MS分析の際に、スキャン速度を速くした場合でもそのスキャン速度に応じた適切な質量較正のみならず質量分解能の調整も行われるので、マススペクトル(MS/MSスペクトル)の質量分解能の低下や感度の低下を抑えることができる。それにより、質の高いマススペクトルを取得することができ、目的成分の定量精度や構造解析の精度を一層向上させることができる。
【0027】
また従来のようにスキャン速度が高速になると質量電荷比軸のずれが大きくなったり質量分解能が低下したりする場合には、スキャン速度の相違に応じてユーザが質量電荷比軸ずれや質量分解能の調整を行う必要がある。これに対し、第1発明又は第2発明に係る三連四重極型質量分析装置では、低速のスキャン速度から高速のスキャン速度まで広いスキャン速度範囲に亘って質量電荷比軸のずれや質量分解能の低下が抑えられるため、上述したようなスキャン速度の相違に応じた再調整は不要である。そのため、例えばMRM測定のような低速の分析からプロダクトイオンスキャン測定或いはそのほかのスキャン測定を伴う測定のような高速の分析まで、多様な分析を適宜組み合わせて一斉に、つまり短時間で切り替えながら実行することができ、ユーザの負担を軽減しながら分析を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例である三連四重極型質量分析装置の概略構成図。
【図2】MS分析及びMS/MS分析における前段四重極(Q1)及び後段四重極(Q3)の駆動モードを示す図。
【図3】本実施例の三連四重極型質量分析装置における質量較正テーブルの内容を示す模式図。
【図4】MS/MS分析のための質量較正テーブルの具体例を示す図。
【図5】本実施例の三連四重極型質量分析装置による実測例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施例である三連四重極型質量分析装置について添付図面を参照して説明する。図1は本実施例の三連四重極型質量分析装置の概略構成図である。
【0030】
本実施例の三連四重極型質量分析装置は、図示しない真空ポンプにより真空排気される分析室11の内部に、測定対象である試料をイオン化するイオン源12と、それぞれ4本のロッド電極から成る前段四重極マスフィルタ(前段四重極)13及び後段四重極マスフィルタ(後段四重極)16と、内部に多重極型イオンガイド15が配設されたコリジョンセル14と、イオンを検出してイオン量に応じた検出信号を出力する検出器17と、を備える。流路切替部10は、例えば図示しない液体クロマトグラフやガスクロマトグラフから供給される測定対象である試料と較正・調整用の標準試料とを切り替えてイオン源12に供給する。標準試料としては、PEG(ポリエチレングリコール)、TFA(トリフルオロ酢酸)、PFTBA(パーフルオロトリブチルアミン)など、様々な化合物を用いることができる。試料が液体である場合にはイオン源12としてESI、APCI、APPIなどの大気圧イオン源が用いられ、試料が気体である場合にはイオン源12としてEI、CIなどが用いられる。
【0031】
入力部28や表示部29が接続された制御部20は、自動/手動調整制御部21、質量較正テーブル記憶部22、分解能調整テーブル記憶部23、などを含む。制御部20による制御の下で、前段四重極13にはQ1電源部24から、多重極型イオンガイド15にはq2電源部25から、後段四重極16にはQ3電源部26から、それぞれ所定の電圧が印加される。また、検出器17による検出信号(イオン強度信号)はデータ処理部27に入力され、データ処理部27では所定のデータ処理が実行されてマススペクトル等が作成される。なお、制御部20やデータ処理部27はパーソナルコンピュータをハードウエアとして、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより具現化される機能ブロックである。
【0032】
周知のように、制御部20による制御の下でQ1電源部24から前段四重極13に印加される電圧及びQ3電源部26から後段四重極16に印加される電圧はいずれも、直流電圧に高周波電圧が加算された電圧である。また、q2電源部25から多重極型イオンガイド15に印加される電圧はイオン収束用の高周波電圧である。ただし、一般には、四重極13、16、イオンガイド14にはさらに直流バイアス電圧も印加される。
【0033】
本実施例の三連四重極型質量分析装置では、コリジョンセル14でのイオンの解離操作を行わない通常のMS分析として、前段四重極SIM測定、前段四重極スキャン測定、後段四重極SIM測定、後段四重極スキャン測定の4つの測定モードが用意されている。また、コリジョンセル14でのイオンの解離操作を行うMS/MS分析として、MRM測定、プリカーサイオンスキャン測定、プロダクトイオンスキャン測定、ニュートラルロススキャン測定の4つの測定モードが用意されている。これら各測定モードにおいて、前段四重極(図では「Q1」と記す)13及び後段四重極(図では「Q3」と記す)16の駆動モードを示したのが図2である。
【0034】
図2において「SIM」とは、SIM測定と同様に、指定された特定の質量電荷比のイオンのみを通過させるように四重極を駆動することを意味する。また、「スキャン」とはスキャン測定と同様に、指定されたスキャン測定で指定された質量電荷比範囲の質量走査を行うように四重極を駆動することを意味する。図2から明らかなように、MS分析では、前段四重極13又は後段四重極16のいずれか一方が、SIM駆動モード又はスキャン駆動モードのいずれかに設定される。MS/MS分析では、前段四重極13及び後段四重極16はそれぞれSIM駆動モード又はスキャン駆動モードのいずれかに設定される。
【0035】
図3は質量較正テーブル記憶部22に格納されるテーブル内容を示す模式図である。図示するように、質量較正テーブル記憶部22に格納されるテーブルには、MS分析用質量較正テーブル群22AとMS/MS分析用質量較正テーブル群22Bとがあり、MS分析用質量較正テーブル群22AはQ1質量分析用質量較正テーブル22A1、Q3質量分析用質量較正テーブル22A2を含み、MS/MS分析用質量較正テーブル群22BはQ1スキャン用質量較正テーブル22B1、Q3スキャン用質量較正テーブル22B2を含む。即ち、質量較正テーブル記憶部22には4つの質量較正テーブルが保持される。
【0036】
1つの質量較正テーブルは、行方向に異なるスキャン速度(S1, S2, …)、列方向に異なる質量電荷比(M1, M2, M3,…)をそれぞれパラメータとした各セルに質量偏差値を記載した2次元テーブルである。このテーブルは、スキャン速度毎に質量電荷比と質量偏差との関係を示していると捉えることができる。
【0037】
図4はMS/MS分析用質量較正テーブル群22Bに含まれる2つの質量較正テーブルの実例である。例えば、Q1スキャン用質量較正テーブル22B1中の1行目の各セルは、左端から右方に向かって、スキャン速度が最低である125u/sの下での、m/z65.05、m/z168.10、m/z344.20、m/z652.40、m/z1004.80、m/z1312.80における質量偏差値を示している。
【0038】
本実施例の三連四重極型質量分析装置では、目的試料を測定するに先立つ適宜の時点で、標準試料を分析した結果に基づいて上述したような質量較正テーブルを予め作成しておく。質量較正テーブルの作成手法、つまり各質量電荷比に対応した質量偏差値の求め方には、自動調整による方法と手動調整による方法とがある。自動調整による場合には以下の手順で質量較正テーブルを作成する。
【0039】
自動調整が指示されると、自動/手動調整制御部21は標準試料がイオン源12に連続的に導入されるように流路切替部10を制御する。また、イオンが後段四重極16を素通りするように(質量電荷比による選別が実施されないように)Q3電源部26を制御する。この場合、Q3電源部26から後段四重極16に対してはイオン選択用の電圧が印加されないか、或いは後段四重極16が単なるイオンガイドとしてのみ機能するような電圧を印加する。また、コリジョンセル14にはCIDガスを供給しないか、又はCIDガスを供給する場合にはコリジョンエネルギが小さくなるように印加するバイアス電圧を調整し、コリジョンセル14でのイオンの解離作用を抑え、調整に利用する質量電荷比のピーク感度が十分に得られるような状態とする。この状態で自動/手動調整制御部21は、前段四重極13において複数段階のスキャン速度S1, S2, …で所定の質量電荷比範囲の質量走査がなされるようにQ1電源部24を制御する。このときに前段四重極13に印加される電圧は、例えば本装置がユーザに納入される段階で設定されているデフォルト値で決まるものとする。
【0040】
データ処理部27は、1回の質量走査毎に検出器17から得られる検出信号に基づいて、スキャン速度毎に所定質量電荷比範囲のピークプロファイルを求める。なお、通常、ピークプロファイルは同一スキャン速度で実行された複数回のスキャン測定で得られるデータを積算することにより作成される。このピークプロファイルは質量走査の際の連続的なイオンの質量電荷比と信号強度との関係を表したものであり、ピークプロファイル上には標準試料に含まれる標準成分に対応したピーク波形が観測される。
【0041】
標準成分の精密な質量電荷比(例えば理論値)は既知であり、仮に質量偏差がないとすると、ピークプロファイル上で観測される標準成分のピーク位置(例えばピーク波形の重心位置)から求まる質量電荷比の実測値と質量電荷比の理論値は一致する筈である。しかしながら、実際には様々な要因によって装置特有の又は同一装置でも時間経過や周囲環境によって変動する質量偏差が存在する。そこで自動/手動調整制御部21は、標準成分のピークが現れる質量電荷比毎に、実測値と理論値との差つまり質量偏差値を求める。これがQ1質量分析用質量較正テーブル22A1中に記載される質量偏差値となる。
【0042】
次いで自動/手動調整制御部21は、イオンが前段四重極13を素通りするように(質量電荷比による選別が実施されないように)Q1電源部24を制御する。この場合、Q1電源部24から前段四重極13に対してはイオン選択用の電圧が印加されないか、或いは前段四重極13が単なるイオンガイドとしてのみ機能するような電圧を印加する。この状態で自動/手動調整制御部21は、後段四重極16において複数段階のスキャン速度S1, S2, …で所定の質量電荷比範囲の走査がなされるようにQ3電源部26を制御する。このときに後段四重極16に印加される電圧も、例えば本装置がユーザに納入される段階で設定されているデフォルト値で決まるものとする。
【0043】
前段四重極13での質量走査時と同様に、データ処理部27は、1回の質量走査毎に検出器17から得られる検出信号に基づいて、スキャン速度毎に所定質量電荷比範囲のピークプロファイルを求める。そして自動/手動調整制御部21は、標準成分のピークが現れる質量電荷比毎に、質量電荷比の実測値と理論値との差つまり質量偏差値を求める。これがQ3質量分析用質量較正テーブル22A2中に記載される質量偏差値となる。
【0044】
上述したようにQ1質量分析用質量較正テーブル22A1及びQ3質量分析用質量較正テーブル22A2が得られたならば、自動/手動調整制御部21はQ1質量分析用質量較正テーブル22A1のデータをQ1スキャン用質量較正テーブル22B1にコピーし、Q3質量分析用質量較正テーブル22A2のデータをQ3スキャン用質量較正テーブル22B2にコピーする。これにより、図3に示した全ての質量較正テーブル22A1、22A2、22B1、22B2が完成する。
【0045】
標準試料の純度が比較的低いなどの要因のために実測のピークプロファイルの形状があまり良好でないような場合には、上述した自動調整では十分な較正精度が得られないことがある。また、分析目的などによっては、ユーザが特定の測定モードにおいて特定の成分についての分析を高精度で行いたいような場合もあり、自動調整による質量較正よりも高い精度が要求されることがある。こうした場合、ユーザ自身或いはサービス担当者による手動の質量較正が実施される。手動調整の実行が指示された場合には、自動/手動調整制御部21は、図4に示したような質量較正テーブル及び該テーブル中の任意のスキャン速度及び質量電荷比におけるピークプロファイルを表示部29の画面上に表示する。
【0046】
作業者は表示された質量較正テーブル中の任意のセルを選択してそのセルに対応した質量電荷比付近のピークプロファイルを表示させ、目的のセントロイドピークがピークプロファイル波形表示枠の横軸(質量電荷比軸)の中央に来るように、指定したセル内の質量偏差の値を適宜書き換える。これにより、その質量電荷比に対する較正値が決まる。作業者は自らの経験に基づいて、同様に、異なる質量電荷比及びスキャン速度に対するピークにおける較正値を1つずつ調整することで、質量較正テーブル中の全てのセルに対する較正値を決定することができる。このような手動調整では作業者がピーク波形の変形を目視で判断できるので、各ピーク毎に的確に質量偏差を求めることが可能である。なお、手動調整をより効率良く行うために、例えば本願出願人が特願2010−185790号で提案しているような方法を用いてもよい。
【0047】
次に、上述のように質量較正テーブル記憶部22に質量較正テーブルが保持されている状態で、目的試料に対する分析が実行される際の動作を説明する。ここでは一例として目的試料に対するプロダクトイオンスキャン測定を実行する場合について述べる。
【0048】
プロダクトイオンスキャン測定の場合には、後段四重極16での質量電荷比範囲とスキャン速度、プリカーサイオンの質量電荷比などの分析条件パラメータが入力部28により設定される。ただし、前述のように、MRM測定や通常のスキャン測定をトリガとしたプロダクトイオンスキャン測定が行われる場合には、MRM測定やスキャン測定の結果によりプリカーサイオンの質量電荷比などが自動的に決定される。ここでは、分析条件パラメータとして、スキャン速度:2000u/s、プリカーサイオンの質量電荷比:m/z1200、が設定された場合を例に挙げて説明する。
【0049】
制御部20は、質量較正テーブル記憶部22に保持されているQ1スキャン用質量較正テーブル22B1の中で最低のスキャン速度125u/sに対応する較正値を読み出す。即ち、図4中のQ1スキャン用質量較正テーブル22B1の1行目の較正値(-0.94, -0.84, …)である。そして、この各質量電荷比に対する較正値から例えば補間処理によって、目的とするプリカーサイオンの質量電荷比m/z1200に対する較正値を計算する。ここで、最低のスキャン速度125u/sに対応する較正値を用いるのは、図2中に示すように、プロダクトイオンスキャン測定では前段四重極13はSIM駆動モードで駆動されるためである。制御部20は、計算により求まる上記較正値を用いてQ1電源部24を制御し、質量電荷比m/z1200のイオンが前段四重極13を選択的に通過するようにする。
【0050】
また制御部20は、質量較正テーブル記憶部22に保持されているQ3スキャン用質量較正テーブル22B2の中で指定されたスキャン速度2000u/sに対応する較正値を読み出す。即ち、図4中のQ3スキャン用質量較正テーブル22B2の5行目の較正値、-0.79, -0.69, -0.48,…である。そして、制御部20は、読み出した較正値を用いてQ3電源部26を制御し、後段四重極16においてスキャン速度2000u/sで所定の質量電荷比範囲の質量走査が繰り返されるようにする。
【0051】
上述したように前段四重極13、後段四重極16がそれぞれ設定された状態で、目的試料がイオン源12に導入されると、試料中の成分がイオン源12でイオン化され、生成された各種イオンの中で質量電荷比m/z1200であるイオンのみが前段四重極13を選択的に通過し、プリカーサイオンとしてコリジョンセル14に導入される。コリジョンセル14内には連続的にCIDガスが導入されており、プリカーサイオンはCIDガスに接触して解離し、各種のプロダクトイオンが生成される。プロダクトイオンは多重極型イオンガイド15により形成される高周波電場により収束されつつ輸送され、後段四重極16に送り込まれる。後段四重極16は上述のように質量走査されるので、各種のプロダクトイオンの中で通過条件に適合した質量電荷比を持つプロダクトイオンのみが後段四重極16を通過し、検出器17に到達して検出される。データ処理部27は検出器17からの検出信号を受け、所定質量電荷比範囲のピークプロファイルを作成し、さらに各ピーク波形のセントロイドピークを求めることでマススペクトル(m/z1200のプリカーサイオンに対するMS/MSスペクトル)を作成する。
【0052】
なお、上記例では、質量較正テーブル上に登録されているスキャン速度の一つが分析条件パラメータとして設定されていたが、質量較正テーブル上に登録されていないスキャン速度(例えば図4の例では1750u/sなど)が設定されたときには、質量較正テーブル上の較正値から補間処理によって所望のスキャン速度に対する較正値を求めるようにすればよい。
【0053】
質量走査を伴わないMRM測定を行う場合には、前段四重極13、後段四重極16共にSIM駆動モードであるので、質量較正テーブル記憶部22に保持されているQ1スキャン用質量較正テーブル22B1で最低のスキャン速度125u/sに対応する較正値が前段四重極13の駆動に用いられ、Q3スキャン用質量較正テーブル22B2で最低のスキャン速度125u/sに対応する較正値が後段四重極16の駆動に用いられる。ここで、最低のスキャン速度125u/sに対応する較正値を用いているのは、これより遅いスキャン速度ではスキャン速度が125u/sであるときと校正値が同一であることが予め確認されているためである。したがって、それよりも速いスキャン速度でも校正値が同一であることが確認されている場合には、質量較正テーブル中で最低のスキャン速度に対応する較正値を選択せずに、より速いスキャン速度に対応する較正値を選択しても構わない。
【0054】
ニュートラルロススキャン測定を行う場合には、前段四重極13、後段四重極16共にスキャン駆動モードであるので、質量較正テーブル記憶部22に保持されているQ1スキャン用質量較正テーブル22B1の中で前段四重極13のスキャン速度として指定されているスキャン速度に対応する較正値が前段四重極13の駆動に用いられ、Q3スキャン用質量較正テーブル22B2の中で後段四重極16のスキャン速度として指定されているスキャン速度に対応する較正値が後段四重極16の駆動に用いられる。
【0055】
また、MS/MS分析ではなく解離操作を伴わないMS分析が行われる場合には、図2に記載したような測定モードに応じて、質量較正テーブル記憶部22に保持されているQ1質量分析用質量較正テーブル22A1又はQ3質量分析用質量較正テーブル22A2が選択され、指定されたスキャン速度に対応した較正値又は最低のスキャン速度125u/sに対応する較正値が読み出されて前段四重極13又は後段四重極16を駆動するために用いられる。
【0056】
上記説明では質量較正についてのみ述べたが、質量分解能についても同様に、MS分析用とMS/MS分析用とで独立に、且つ前段四重極13用と後段四重極16用とで独立に、スキャン速度をパラメータとした質量電荷比と分解能調整値との関係を示すテーブルが分解能調整テーブル記憶部23に格納され、このテーブル中に記載の分解能調整値を用いた制御が実行される。それにより、質量精度、質量分解能が共に良好なマススペクトルを取得することができる。
【0057】
図5はニュートラルロススキャン測定実行時に実測により得られる特定のピークプロファイル波形を示す図であり、(a)はスキャン速度が60u/s(低速)である場合、(b)はスキャン速度が2000u/s(高速)である場合の結果である。また図5(c)には、比較対照のために上述した質量較正を行わない場合におけるスキャン速度が2000u/s(高速)のときの結果を示す。図5(c)に示すように、質量較正がなされていない状態では、縦線で示すセントロイドピークがグラフ横軸上の中央から大幅にずれており、質量電荷比のずれが大きい状態であることが分かる。これに対し、上述した質量較正を行った場合には、図5(b)に示すように、高速のスキャン速度においてもセントロイドピークがグラフ横軸上のほぼ中央に位置しており、質量電荷比のずれが小さくなっていることが分かる。また、高速のスキャン速度においても低速のスキャン速度と同程度のピーク幅となっており、強度も十分に確保されていることから、質量分解能も適切に調整されていることが分かる。
【0058】
以上のように、本実施例の三連四重極型質量分析装置では、高速のスキャン速度においても質量電荷比軸のずれや質量分解能の低下を抑えることができる。また、それによって、低速のスキャン速度から高速のスキャン速度まで広いスキャン速度範囲に亘り、ユーザによる再調整の作業なしに、質量精度や質量分解能が高い状態に維持される。そのため、例えば低速の分析から高速の分析まで、多様な分析を適宜組み合わせて一度に実行することができる。
【0059】
また、上記実施例では、MS/MS分析のために前段四重極13における質量較正のためのテーブル(Q1スキャン用質量較正テーブル22B1)と後段四重極16における質量較正のためのテーブル(Q3スキャン用質量較正テーブル22B2)との2つのテーブルだけを備えており、いずれの測定モードでもそれら2つのテーブルを利用していた。そのため、質量較正テーブル記憶部22の記憶容量は節約できるものの、MS/MS分析の中で測定モード毎に異なる較正値を利用することはできない。そこで、変形例として、測定モード毎に質量較正テーブルを用意するようにしてもよい。その場合、自動調整時には異なる測定モードに対して同一の較正値を設定し、手動調整により測定モード毎に較正値を変更できるようにすればよい。
【0060】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎないから、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、追加、修正を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0061】
10…流路切替部
11…分析室
12…イオン源
13…前段四重極マスフィルタ
14…コリジョンセル
15…多重極型イオンガイド
16…後段四重極マスフィルタ
17…検出器
20…制御部
21…自動/手動調整制御部
22…質量較正テーブル記憶部
22A…MS分析用質量較正テーブル群
22B…MS/MS分析用質量較正テーブル群
22A1…Q1質量分析用質量較正テーブル
22A2…Q3質量分析用質量較正テーブル
22B1…Q1スキャン用質量較正テーブル
22B2…Q3スキャン用質量較正テーブル
23…分解能調整テーブル記憶部
24…Q1電源部
25…q2電源部
26…Q3電源部
27…データ処理部
28…入力部
29…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化するイオン源と、該イオン源で生成された各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別するための前段四重極と、該プリカーサイオンを解離させるコリジョンセルと、その解離により生成した各種プロダクトイオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンを選別するための後段四重極と、該後段四重極を通過したイオンを検出する検出器と、を具備する三連四重極型質量分析装置において、
a)コリジョンセルでの解離操作を伴わないMS分析及び該解離操作を伴うMS/MS分析の測定モード毎に、スキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報を記憶しておく較正情報記憶手段と、
b)実行される測定モード及び指定されたスキャン速度に応じた質量較正情報を前記較正情報記憶手段から読み出し、該情報を用いて前段四重極及び後段四重極をそれぞれ駆動することにより、前記検出器により検出されるイオンの質量電荷比を較正する制御手段と、
を備えることを特徴とする三連四重極型質量分析装置。
【請求項2】
試料をイオン化するイオン源と、該イオン源で生成された各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別するための前段四重極と、該プリカーサイオンを解離させるコリジョンセルと、その解離により生成した各種プロダクトイオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンを選別するための後段四重極と、該後段四重極を通過したイオンを検出する検出器と、を具備する三連四重極型質量分析装置において、
a)コリジョンセルでの解離操作を伴わないMS分析において前段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報及び後段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報、並びに、コリジョンセルでの解離操作を伴うMS/MS分析において前段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報及び後段四重極の質量走査を行う場合のスキャン速度をパラメータとした質量電荷比と較正値との関係を示す質量較正情報をそれぞれ記憶しておく較正情報記憶手段と、
b)実行されるMS分析又はMS/MS分析の測定モードに応じて、前記較正情報記憶手段に記憶されている質量較正情報の中で必要な組み合わせを選択するとともに、指定されたスキャン測定に応じた質量較正情報を読み出し、該情報を用いて前段四重極及び後段四重極をそれぞれ駆動することにより、前記検出器により検出されるイオンの質量電荷比を較正する制御手段と、
を備えることを特徴とする三連四重極型質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の三連四重極型質量分析装置であって、
前記較正値は質量電荷比の較正値のほか質量分解能を調整するための較正値も含み、前記制御手段は、前記検出器により検出されるイオンの質量電荷比の較正と同時に、質量分解能の調整も実行することを特徴とする三連四重極型質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−159336(P2012−159336A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17741(P2011−17741)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】