説明

三重管構造を有するネブライザーとそれを用いた分析システム

【課題】 最も汎用性の高い同軸型ネブライザーの構造をそのまま利用するとともに、同軸型ネブライザーにおける、細管の振動による噴霧の不安定、困難な先端位置の制御、或いは細管の取替不可等の問題を解決したネブライザーを提供すること。
【解決手段】 二重管構造を有するネブライザーにキャピラリーを内挿した三重管構造とするとともに、好ましくは、前記キャピラリーの内挿位置を任意に制御できる機能及び/又は前記キャピラリーを任意に取り外しまたは交換可能な機能を持たせ、さらに好ましくは、補助気体を平行に導入しうる気化室を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量元素分析、生体試料分析等の分析化学、又は化学工学における粒体制御、噴霧乾燥などに用いられるネブライザー(噴霧器)、及び該ネブライザーを用いた分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ分光分析装置用の微少量試料導入ネブライザー(噴霧器)は同軸型ネブライザーが用いられており、該同軸型ネブライザーでは、試料送液管の内径を細くした試料送液キャピラリー管が最も一般的に利用されている。
試料流速数μL/min用同軸型ネブライザーとしては、図5に示すような、CETAC社製マイクロコンセントリックネブライザー(MCN)を母体としてキャピラリー電気泳動用に開発されたCEI−100型(特許文献1参照)、それの改良型で同軸型内側の試料送液キャピラリー内径を細くしているCEI―100改良型(非特許文献1)、同nDS−5(非特許文献1)、さらに、図6に示すような、試料送液キャピラリー内径を細くして先端をテーパー加工して試料流速nL/minに対応させているnDS―200(非特許文献2参照)がある。
しかしながら、試料送液速度がμL/min以下に対応する試料導入キャピラリーガラス管は、噴霧ガスによって細かく振動するためネブライザー先端位置を固定することが極めて難しい。同様に先端位置合わせも難しい。
【0003】
また、接続する微少量試料送液(分離)システム(自然吸い上げ、HPLC、CE、シリンジポンプ他)の使用流速によって、それぞれの送液キャピラリー管の異なるネブライザーを使い分けなければならない。具体的には、例えば、キャピラリー電気泳動であればCEI−100を使用し、ナノLCであればnDS―200などを使用する。
また、試料送液キャピラリー内径が非常に細いため目詰まり及び破損しやすいが、試料送液キャピラリーがネブライザーに固定されておりかつ先端位置調整が性能を大きく左右することからユーザー自身による交換ができない。また同様の理由で製造ロット間での性能差が大きい。
【0004】
一方、同軸型以外のネブライザーでは、図7に示すクロスフロー型(非特許文献3参照)や、図8に示すパラレルパス型(特許文献2、非特許文献4)が存在するが、これらは上述のCEI―100と同様、試料送液キャピラリーがネブライザーに固定されておりかつ先端位置調整が性能を大きく左右することからユーザー自身による交換ができない。また同様の理由で製造ロット間での性能差が大きい。
こうした問題を解決するために、特許文献3では、試料送液管とネブライザーガス配管とが直交するように配置されたクロスフロー型マイクロネブライザーにおいて、試料送液管及びネブライザーガス配管を、取替可能で位置調整可能とされた微小口径のキャピラリー管とすることにより、微量の溶液試料を高効率に噴霧できるようにしたICP質量分析用クロスフロー型マイクロネブライザーを提供するとしている。しかしながら、同軸型ネブライザーに関する記述はされていない。
【0005】
また、該クロスフロー型及び/またはパラレルパス型は、噴霧機構がネブライザー自体で試料液を吸い上げ(送液し)ないため、特に電気泳動(CE)と接続のように補助液を導入しなければならない場合、補助液導入に別途ポンプが必要である。また試料送液システム側(キャピラリー電気泳動側)へ背圧が掛からないよう補助液のポンプ送液圧力調整が必要となる。
【0006】
さらに、ネブライザーを用いて液体試料をプラズマに導入する場合、安定な信号強度を得るには噴霧試料を気化室にて気化させた後にプラズマに導入する必要があるが、補助ガスの導入口は、実際にはネブライザーと気化室の接続アダプタに設けられている。
補助ガス導入の利点としては、(1)気化室 内壁への衝突による噴霧試料ロスの抑制、(2)噴霧試料の気化の促進、(3)噴霧試料のプラズマへの輸送の補助(促進)、であり、通常はアルゴンを補助ガスとして利用するが、上記及びそれ以外の効果を得るため、アルゴン以外のガス(例えば酸素、窒素、水素、ヘリウムなど)を補助ガスとして導入できる。
こうした補助ガス導入口を持つ気化室に関しては、図9に示すような、全量導入型ネブライザー対応シースガス導入型スプレーチャンバー(特許文献4参照)があるが、これはCEI−100の気化室の出口付近に補助ガス導入口をつけたものであって、補助ガス効果としても期待できるのは(3)噴霧試料のプラズマへの輸送の補助(促進)のみである。
【特許文献1】独国特許公開第19841288号
【特許文献2】米国特許第6634572号明細書
【特許文献3】特開2003−43013号公報
【特許文献4】特開2006−242769号公報
【非特許文献1】Schaumloffel D, Encinar JR, Lobinski R, Development of a cheathless interface between reversed-phase capillary HPLC and ICPMS via a microflow total consumption nebulizer for selenopeptide mapping, ANALYTICAL CHEMISTRY 75 (24): 6837-6842 DEC 15 2003.
【非特許文献2】Pierre Giusti, Ryszard Lobinski, Joanna Szpunar, and Dirk Schaumlolffel Development of a Nebulizer for a Sheathless Interfacing of NanoHPLC and ICPMS, Analytical Chemistry, 78(3), 965-971, 2006.
【非特許文献3】Li JX, Umemura T, Odake T, et al. A high-efficiency cross-flow micronebulizer interface for capillary electrophoresis and inductively coupled plasma mass spectrometry. ANALYTICAL CHEMISTRY 73 (24): 5992-5999 DEC 15 2001.
【非特許文献4】Yanes EG, Miller-Ihli NJ、Use of a parallel path nebulizer for capillary-based microseparation techniques coupled with an inductively coupled plasma mass spectrometer for speciation measurements、SPECTROCHIMICA ACTA PART B-ATOMIC SPECTROSCOPY 59 (6): 883-890 JUN 18 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、最も汎用性の高い同軸型ネブライザーの構造をそのまま利用するとともに、同軸型ネブライザーにおける以下のような問題を解決したネブライザーを提供することを目的とするものである。また、接続する送液システムに応じて内挿するキャピラリーガラス管の内径及び外径を選ぶことで、同一のネブライザーボディを用いて接続する送液システムに最適なネブライザーを構築することを目的とするものである。
【0008】
すなわち、ネブライザー(噴霧器)内に細管を通して二重管構造を有するものは存在するが、細管の振動による噴霧の不安定さや、先端位置の制御が困難であり、細管を用いたより安定な噴霧装置機構が求められる。
また、従来型の同軸型ネブライザーでは、細管は固定されており、細管先端の位置決めは自由に変更することはできない。また、同様の理由から、装置ごとの噴霧効率には大きな差が生じるため、精密分析には向かない。したがって、これらの問題を解決するための細管位置調整機構が求められる。
さらに、従来型の同軸型ネブライザーでは、細管は固定されており、細管の変更が不可能であったため、ネブライザーに接続される分離装置の種類が限定されていた。更には細管の目詰まり、破損等が生じた場合は、噴霧装置が再利用不能の廃棄品となる。そこで、細管を自由に交換するための機構が求められる。
また、気化室がない装置では、噴霧試料の粒径が大きいためプラズマ及び得られる信号強度が不安定となる。また、気化室に補助ガス導入機能がない装置では、気化室での壁面衝突、試料のイオン化効率が上がらない。そこで、気化室および気化室への補助ガス導入口が求められる。
また、気化室、噴霧装置もしくは気化室とプラズマトーチの間に補助気体導入口がない場合、補助ガスが使用できないため、(1)気化室 内壁への衝突による噴霧試料ロスの抑制、(2)噴霧試料の気化の促進、(3)噴霧試料のプラズマへの輸送の補助(促進)ができない。そこで、気化室とプラズマトーチとの間に補助気体導入口が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の解決手段を採用することにより、上記の課題を解決しうるという知見を得た。
(ア)細管の振動による噴霧の不安定さや、先端位置の制御が困難であることから、二重管構造の噴霧装置内に細管を導入した三重管構造とする。
(イ)送液を要する液体クロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動装置との接続を可能とするためと、噴霧効率を調整するために、ネブライザー内のキャピラリー位置を自由に調整する機構を設ける。
(ウ)細管先端の位置決めが困難であることとから、目詰まりした細管を交換するために細管をネブライザーから取り外し、取り替え可能なものとし、容易な位置決めと目詰まり時の容易な交換を実現する。
(エ)噴霧装置内の細管の具体的な交換方法としては、伸縮性のある樹脂性キャップ及びスリーブを用いてキャピラリーガラス管(細管B)を同軸型ネブライザーに固定する手段を採用する。
(オ)試料のイオン化効率を上げるため、気化室を設ける。また気化室容積を最適化(5〜20ml)することにより、プラズマを安定化させ、高感度な分析を可能とする。
(カ)噴霧試料の動態制御を行うために、気化室および補助気体導入口を設ける。
(キ)補助気体の導入方法を任意に制御するために、補助気体導入口を噴霧装置と気化室を繋ぐ樹脂製コネクタ中に配置する。
(ク)気化室と噴霧器を接続する樹脂製コネクタに補助ガス導入口があり、噴霧するための補助ガス流量を任意に制御するほか、例えば以下のような補助ガス導入を可能とする。
(1)補助ガスが噴霧口の後方から平行に導入、(2)噴霧口への直接吹き付け、(3)噴霧口を過ぎた位置での補助ガス導入。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)二重管構造を有するネブライザーにキャピラリーを内挿した三重管構造を有することを特徴とするネブライザー。
(2)前記キャピラリーの内挿位置を任意に制御できる機能を有することを特徴とする(1)のネブライザー。
(3)前記キャピラリーを任意に取り外しまたは交換可能な機能を有する(1)又は(2)のネブライザー。
(4)前記キャピラリーと他のキャピラリーとを接続可能とするユニオンコネクタを有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかのネブライザーを用いた分析システム。
(5)前記他のキャピラリーが、キャピラリー電気泳動装置に接続するものであって、電荷を加える電極と導入補助用液体を導入可能なクロスコネクタを有する分析システム。
(6)(1)〜(3)のいずれかのネブライザーが、さらにICP装置との接続に用いる気化室を有することを特徴とする分析システム。
(7)前記気化室の容積が、5〜20mLであることを特徴とする(6)の分析システム。
(8)前記気化室と前記ネブライザーが、アダプターによって接続されていることを特徴とする(6)又は(7)の分析システム。
(9)前記アダプターが、前記ネブライザーの接続位置を任意に制御できる機能を有することを特徴とする(8)の分析システム。
(10)前記アダプターが、ネブライザーからの噴霧ガスと平行に補助気体を導入できる補助ガス導入口を有することを特徴とする(8)又は(9)の分析システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明のネブライザーは、以下のような利点を有するものである。
(1)少量の試料を希釈せずに吐出、噴霧できる。(2)極少量の試料を廃液なしに全量消費できる。(3)細管A内で気泡を発生させることなく電気泳動することが可能である。(4)ネブライザーと物質分離装置とを圧力損失無しに接続することが可能である。(5)細管Bの位置を任意に調整することができ、噴霧最適位置に調整可能である。(6)噴霧位置を調整できることで、補助液体、気体流量を少なくすることができる。(7)補助液体、気体流量を少なくすることができるため、検出結果のバックノイズを低減でき、検出感度の向上を可能とする。(8)細管Bが目詰まりした際に交換可能である。
(9)噴霧液の気化室容積を至適化しているため、質量分析計への導入量を増やせる。(10)気化室に補助気体を導入できるため、噴霧試料導入効率が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について詳しく説明するが、本発明は、該実施形態によって何ら限定されるものではない。
図1、2は、本発明のネブライザー及びそれを用いたインターフェース装置の一例を模式的に示すものであり、図1は断面図、図2は平面図である。
【0013】
図1、2に示すように、本発明のネブライザー(図中の「噴霧装置」)は、二重管構造を有する同軸型ネブライザーにおいて、細管(キャピラリー)Bを内挿した三重管構造を採用したことを特徴とする。
従来の同軸型ネブライザーにおける二重管構造の場合、試料送液流速数 μL/min以下に対応する試料導入キャピラリーガラス管(細管B)は、噴霧ガスによって細かく振動するためネブライザー先端位置を固定することが極めて難しい。同様に先端位置合わせも難しい。
本発明では、三重管構造をもつことで、中央の管、すなわち、従来の二重管構造における試料導入キャピラリーが、細管Bの振動を抑制し、正確にネブライザー先端中央にキャピラリー先端を導入するガイドとして有効に働くものである。
【0014】
また、本発明の好ましい実施形態においては、前記細管B(キャピラリー)の内挿位置を任意に制御できる機能及び/又は前記細管B(キャピラリー)を任意に取り外しまたは交換可能な機能を有する。
具体的な細管Bの内挿位置の制御及び/又は細管Bの取り外し交換方法としては、細管Bをスリーブに内挿し、さらに伸縮性のある樹脂製キャップへ内挿しているため、樹脂製キャップは該樹脂製キャップの伸縮性により、ネブライザー末端に密着して内挿できる。樹脂製キャップをネブライザーから取り外すことにより、スリーブ及び/又は細管Bへ掛けられていた圧力は解放され、位置制御及び/又は取り外し交換を可能とするものである。
【0015】
また、図1、2に示すように、本発明のネブライザーは、補助ガス(図中の「補助気体」)平行導入口を持つ気化室を有している点に、第2の特徴を有するものである。
すなわち、特許文献4に記載のものは、前述のCEI−100の全量投入型ネブライザーに対応した気化室を設けたものであるが、サンプルキャリアガスによって輸送された試料を、シースガス導入口から導入されたシースガスで更に積極的にICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)へ導入するように、図9に示すとおり、内径が細くなっていく傾斜部と内径が一定の平行部とを有する内管と、該内管と同様の傾斜部及び平行部を有している外管とからなっているものであるが、これに対して、本発明の気化室は、その径が細くなることなく、補助ガスを平行に導入するものである。
また、本発明の気化室とネブライザーとは、図1,2に示すように、樹脂製コネクタで接続されており、該樹脂製コネクタには補助気体導入口とネブライザー挿入口が設けられている。該ネブライザー導入口はネブライザー外径よりやや小さく設計されており、樹脂の伸縮性により、ネブライザーを密着して固定することが可能である。
加えて、本発明における気化室の容積は、5〜20mLが望ましい容積とする。これは、容積が5mLよりも少ないと(1)気化が不十分になるため、(2)壁面衝突ロスが大きくなるためである。また、同様に20mLよりも大きくなると、(1)CE等での分離能を損なうため、(2)気化試料の拡散及び沈着ロスが大きくなるためである。
【0016】
さらに、本発明の第3の特徴は、前記気化室は、ネブライザー(噴霧装置)の接続深さ(位置)を任意に制御できる機能を有する樹脂製コネクタが設けられており、該コネクタの伸縮性により、補助ガス導入位置を噴霧口より前から噴霧口後ろまで任意に調整でき、例えば以下のような補助ガス導入ができる特徴を有する。
(1)補助ガスが噴霧口の後方から平行に導入、(2)噴霧口への直接吹き付け、(3)噴霧口を過ぎた位置での補助ガス導入。
【0017】
次に、本発明のネブライザーに、キャピラリー電気泳動装置を接続した応用事例について説明する。
核酸やタンパク質を対象とした分析のように、微少量の生体由来試料をキャピラリー(細管)内の微小空間を利用して分離分析する技術が注目を集めている。特に、核酸配列を決定するためのキャピラリーシーケンサーは細管内での電気泳動による分離と検出を高速に行う技術として産業的にも用いられている。こうしたニーズの中で、生体分子に含まれる特定の元素を高感度に分析することのできるプラズマ分光分析装置との接合、利用が考案され、種々のインターフェースが開発されてきたが、細管からの吐出溶液を効率的に噴霧し、かつ細管内で電気泳動を実現するというものについては実用化された例は少ない。実用化されたものでも、噴霧先端で液溜まりが発生し、目詰まりを引き起こすことや、気泡の発生により電気泳動が中断するなど、実用上の問題が多く見られる。
【0018】
本発明の適用範囲のように、キャピラリー電気泳動装置とICP装置とを接続するインターフェースユニットは幾つか市販されているが、極少量を希釈せずに吐出、噴霧できるものはなかった。本発明に近いCEI−100についても、吐出の際に補助液の流量が大きくなり、希釈されることと目詰まりの際に細管Bが交換できないこと、細管Bの位置が固定であり、噴霧ノズルに合わせた最適位置への制御ができないこと、噴霧液の気化室が小さいために高濃度の試料を目的位置へ到達させられないなどの問題が生じている。本発明のネブライザーは、これらの問題点がすべて解決することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
〈図1、2の分析システムの作製例〉
本発明で得られる分析システムは、クロスコネクタ、ユニオンコネクタ、噴霧装置(ネブライザー)、気化室およびそれらを接合するチューブ類と電極から成る。クロスコネクタは細管Aを通し、補助液体導入用テフロンチューブ、電極(白金)が接合され、それぞれ締め込みを強めるためにスリーブまたはピーク管を使用している。クロスコネクタの内径は500μm、細管Aは外経375μm、内径50μmの溶融シリカキャピラリーで表面をポリイミド被膜で覆うものとした。
ユニオンコネクタは内径250μmのものを使用し、細管Aと細管Bを接合する。それぞれの細管には締め込みを強めるためにスリーブまたはピーク管を使用している。細管Bは内径50μm、外径150μmのものを使用し、フィッティングを通してガラス製噴霧装置へ導入する。噴霧装置はグラスエクスパンジョン社製のものを使用し、内径150μm〜300μmである。噴霧装置への補助気体としてArガスを導入し、テフロンフィッティングを通してガラス製気化室へ導入する。気化室容積は10mLとし、補助気体としてArガスを導入し、噴霧試料を質量分析装置へ導入する。
【0020】
〈ポンプ送液分析の例〉
上記により作製した三重管構造を有するネブライザーとそれを用いた分析システムを利用して、キャピラリー電気泳動装置に付属するポンプ機能を用いて分析を行った。
内径50μm、外径375μm、全長1mの細管Aを送液ポンプ(ベックマン・コールター社製P/ACE MDQ付属ポンプ)に接続し、クエン酸緩衝液pH3.3で満たした後、1ppmリン酸標準水溶液を1psiで10秒間注入し、続けてクエン酸緩衝液pH3.3を20psiで120秒間送液した。導入補助液体として0.1%硝酸/10%メタノール水溶液を導入し、気化室(10mL)をICP質量分析計(アジレント社製、agilent 7500a)へ接続した。その結果を図3に示す。
図に示すとおり、注入試料量に従って質量数31のシグナルを検出したため、検出したシグナルをリン元素と同定した。
【0021】
〈キャピラリー電気泳動分析の例〉
内径50μm、外径375μm、全長1mの細管Aをキャピラリー電気泳動装置(ベックマン・コールター社製P/ACE MDQ)に接続し、クロスコネクタへ白金電極を挿入し、グランドアースとした。細管Aをクエン酸緩衝液pH3.3で満たした後、1ppm核酸標準水溶液を1psiで10秒間注入し、15kVの電荷を印加して30分間電気泳動を行った。また、導入補助液体として0.1%硝酸/10%メタノール水溶液を導入し、気化室(10mL)をICP質量分析計(アジレント社製、agilent 7500a)へ接続した。その結果を図4に示す。
図に示すとおり、電気浸透流と電気泳動による物質分離現象により、25分程度の泳動で核酸由来のリン元素のシグナルを得た。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の三重管構造を有するネブライザーとそれをもちいた分析システムは、微量元素分析(窒素、リン、カリウムなどの環境中動態解析)、生体試料分析(核酸、アミノ酸、タンパク、糖、代謝物などの解析)、診断分析(DNA、RNA解析、タンパク解析、糖解析など)、品質管理(反応、製品中元素分析、創薬等における工程管理)、粒体制御(マイクロ・ナノ粒体反応、移動、加工)、噴霧乾燥(マイクロ・ナノ粒体製造加工)、或いは、キャピラリー電気泳動装置と結合誘導プラズマイオン化装置との接続、細管を利用した送液装置(シリンジポンプなど)と噴霧装置との接続、細管を利用した分析装置(HPLCなど)と噴霧装置との接続などへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のネブライザー及びそれを用いた分析システムの一例を模式的に示す断面図
【図2】本発明のネブライザー及びそれを用いた分析システムの一例を模式的に示す平面図
【図3】本発明の分析システムを用いたICP質量分析の結果を示す図
【図4】本発明の分析システムを用いたキャピラリー電気泳動の分析の結果を示す図
【図5】従来の同軸型ネブライザーの一例を示す図
【図6】従来の改良された同軸型ネブライザーの一例を示す図
【図7】従来のクロスフロー型ネブライザーの一例を示す図
【図8】従来のパラレルパス型ネブライザーの一例を示す図
【図9】従来の同軸型ネブライザー対応の気化室の一例を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重管構造を有するネブライザーにキャピラリーを内挿した三重管構造を有することを特徴とするネブライザー。
【請求項2】
前記キャピラリーの内挿位置を任意に制御できる機能を有することを特徴とする請求項1に記載のネブライザー。
【請求項3】
前記キャピラリーを任意に取り外しまたは交換可能な機能を有する請求項1又は2に記載のネブライザー。
【請求項4】
前記キャピラリーと他のキャピラリーとを接続可能とするユニオンコネクタを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のネブライザーを用いた分析システム。
【請求項5】
前記他のキャピラリーが、キャピラリー電気泳動装置に接続するものであって、電荷を加える電極と導入補助用液体を導入可能なクロスコネクタを有する分析システム。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のネブライザーが、さらにICP装置との接続に用いる気化室を有することを特徴とする分析システム。
【請求項7】
前記気化室の容積が、5〜20mLであることを特徴とする請求項6に記載の分析システム。
【請求項8】
前記気化室と前記ネブライザーが、アダプターによって接続されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の分析システム。
【請求項9】
前記アダプターが、前記ネブライザーの接続位置を任意に制御できる機能を有することを特徴とする請求項8記載の分析システム。
【請求項10】
前記アダプターが、ネブライザーからの噴霧ガスと平行に補助気体を導入できる補助ガス導入口を有することを特徴とする請求項8又は9に記載の分析システム。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−210435(P2009−210435A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53998(P2008−53998)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月5日 社団法人日本分析化学会発行の「日本分析化学会第56年会講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月28日 社団法人日本化学会発行の「International Symposium on Metallomics 2007」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】