説明

三重項状態への直接注入を利用するOLED

【課題】高発光効率の有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】発光層ホストおよび燐光ドーパントの各々HOMOと、隣接する正孔輸送層のHOMOとのエネルギー差は0.2eV以上ではない。また、発光層ホストおよび燐光ドーパントの各々LUMOと、隣接する電子輸送層のLUMOとのエネルギー差は0.2eV以上ではない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年5月6日に出願された米国特許出願第11/123155号の一部継続出願であり、参考としてその全体が組み込まれる。本出願は、2005年3月31日に出願された米国特許仮出願第60/666867号の利益を主張する。
【0002】
請求される発明は、大学企業のジョイント研究契約に対する以下当事者の1つ以上、すなわちプリンストン大学(Princeton University)、南カルフォルニア大学(University of Southern California)、およびユニバーサルディスプレイコーポレーション(Universal Display Corporation)によって、それらを代表して、および/または関連して行われる。契約は、請求された発明が行われた日付でおよび日付の前に効力があり、請求された発明は、契約の範囲内で行われた活動の結果として行われた。
【0003】
本発明は、有機発光デバイス(OLED)に関し、より詳細には三重項状態への直接注入を利用するOLEDに関する。
【背景技術】
【0004】
有機材料を使用する光電子デバイスは、多数の理由のためにますます望ましくなっている。そのようなデバイスを作るために使用される多くの材料は、比較的安価であり、そのような有機光電子デバイスは、無機デバイスに対して価格の利点の可能性を有する。さらに、それらの可撓性などの有機材料の固有の特性は、それらを可撓性基板上への製造などの特定の適用に良好に適させる。有機光電子デバイスの例は、有機発光デバイス(OLED)、有機フォトトランジスタ、有機光電池、および有機光検出器を含む。OLEDに関して、有機材料は、従来の材料に対する性能上の利点を有することができる。例えば、有機発光層が光を発光する波長は、一般に適切なドーパントで容易に調整されることができる。
【0005】
本明細書で使用されるとき、用語「有機」は、ポリマー材料、ならびに有機光電子デバイスを製造するために使用されることができる小分子有機材料を含む。「小分子」は、ポリマーではない任意の有機材料を参照し、「小分子」は、実際に極めて大きいことができる。小分子は、ある状況において繰り返しユニットを含むことができる。例えば、置換基として長鎖アルキル基を使用することは、「小分子」クラスから分子を取り除かない。小分子は、例えばポリマーバックボーン上のペンデント基として、またはバックボーンの一部として、ポリマーに組み込まれることもできる。小分子は、コア部分上に構築された一連の化学シェルからなるデンドリマーのコア部分としても作用することができる。デンドリマーのコア部分は、蛍光性または燐光性の小分子発光体であり得る。デンドリマーは、「小分子」であることができ、OLEDの分野で現在使用される全てのデンドリマーは小分子であると考えられる。一般的に、小分子は、単一の分子量を有する十分に定義された化学式を有し、一方、ポリマーは、分子毎に変わることがある化学式および分子量を有する。本明細書で使用されるとき、「有機」は、ヒドロカルボキシおよびヘテロ原子置換されたヒドロカルボキシ配位子の金属錯体を含む。
【0006】
OLEDは、電圧がデバイス両端に印加されるとき発光する薄い有機フィルムを使用する。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明、およびバックライトなどの応用で使用のためにますます関心にある技術になっている。いくつかのOLED材料および構成は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5844363号、米国特許第6303238号、および米国特許第5707745号に開示される。
【0007】
OLEDデバイスは、一般的に(常にではないが)少なくとも1つの電極を通して発光することが意図され、1つ以上の透明電極が、有機光電子デバイスにおいて有用であり得る。例えば、酸化インジウム錫(ITO)などの透明電極材料が、底部電極として使用されることができる。それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5703436号、および米国特許第5707745号に開示されるなどの透明頂部電極も、使用されることができる。底部電極を通してだけ発光することが意図されるデバイスに関して、頂部電極は、必ずしも透明である必要はなく、高い導電率を有する厚く反射性の金属層から構成されることができる。同様に、頂部電極を通してだけ発光することが意図されるデバイスに関して、底部電極は、不透明かつ/または反射性であり得る。電極が透明である必要がない場合に、より厚い層を使用することは、より良好な導電率を提供することができ、反射性電極を使用することは、光を透明電極に向かって戻して反射することによって、他の電極を通って発光される光の量を増大することができる。両方の電極が透明である場合に、完全に透明なデバイスが製造されることもできる。側方発光OLEDデバイスは、また製造されることができ、1つまたは両方の電極は、そのようなデバイスにおいて不透明または反射性であることができる。
【0008】
本明細書で使用されるとき、「頂部」は基板から最も離れることを意味し、一方、「底部」は基板に最も近いことを意味する。例えば、2つの電極を有するデバイスに関して、底部電極は、基板に最も近い電極であり、一般的に製造される第1の電極である。底部電極は、基板に最も近い底部表面と基板から最も離れた頂部表面との2つの表面を有する。第1の層は、第2の層の「上に配置される」として記載される場合、第1の層は、基板から最も離れて配置される。第1の層が、第2の層と「物理的に接触する」ことが特定されないなら、第1の層と第2の層との間に他の層が存在することがある。例えば、カソードは、間に様々な有機層が存在しても、アノードの「上に配置される」として記載されることができる。
【0009】
本明細書で使用されるとき、「溶液処理可能」は、溶液または懸濁形態のいずれかの液体媒体から溶解され、分散され、または輸送され、かつ/または堆積されることができることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願第11/123155号
【特許文献2】米国特許仮出願第60/666867号
【特許文献3】米国特許第5844363号
【特許文献4】米国特許第6303238号
【特許文献5】米国特許第5707745号
【特許文献6】米国特許第5703436号
【特許文献7】米国特許第4769292号
【特許文献8】米国特許第6310360号
【特許文献9】米国特許第6830828号
【特許文献10】米国特許第6835469号
【特許文献11】米国特許出願公開第2002−0182441号
【特許文献12】国際公開第02/074015号
【特許文献13】米国特許第6602540B2号
【特許文献14】米国特許出願公開第2003−0230980号
【特許文献15】米国特許第6548956B2号
【特許文献16】米国特許第6576134B2号
【特許文献17】米国特許第6097147号
【特許文献18】米国特許出願公開第09/931948号
【特許文献19】米国特許第5247190号
【特許文献20】米国特許第6091195号
【特許文献21】米国特許第5834893号
【特許文献22】米国特許第6013982号
【特許文献23】米国特許第6087196号
【特許文献24】米国特許第6337102号
【特許文献25】米国特許出願公開第10/233470号
【特許文献26】米国特許第6294398号
【特許文献27】米国特許第6468819号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Baldoら「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Device」、Nature、vol.395、151−154、1998
【非特許文献2】Baldoら「Very high−efficiency green organic light−emitting devices based on electroluminescence」、Appl.Phys.Lett.、vol.75、No.3、4−6(1999)
【非特許文献3】Adachiら「Nearly 100% Internal Phosphorescent Efficiency In An Organic Light Emitting Device」、J.Appl.Phys.、90、5048(2001)
【非特許文献4】Gary L.MiesslerおよびDonald A.Tarrによる「Inorganic Chemistry(2nd Edition)」、Prentice Hall(1998)
【非特許文献5】Loyら「Thermally Stable Hole−Transporting Materials Based upon a Fluorene Core」、Adv.Func.Mater.、12、NO.4、245−249,2002
【非特許文献6】D’Andradeら「Relationship between the ionization and oxidation potentials of molecular organic semiconductors」、Org. Elec.、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本明細書で使用されるとき、ならびに当業者によって一般的に理解されるように、第1のエネルギーレベルが真空エネルギーレベルにより近いなら、第1の「最高被占分子軌道」(HOMO)または「最低空分子軌道」(LUMO)エネルギーレベルは、第2のHOMOまたはLUMOエネルギーレベル「より大きい」または「より高い」。イオン化電位(IP)は、真空レベルに対する負のエネルギーとして測定されるので、より高いHOMOエネルギーレベルは、より小さい絶対値を有するIP(より少ない負であるIP)に対応する。同様に、より高いLUMOエネルギーレベルは、より小さい絶対値を有する電子親和力(EA)(より少ない負であるEA)に対応する。頂部に真空レベルを有する従来のエネルギーレベル図で、材料のLUMOエネルギーレベルは、同一の材料のHOMOエネルギーレベルより高い。「より高い」HOMOまたはLUMOエネルギーレベルは、「より低い」HOMOまたはLUMOエネルギーレベルよりそのような図の頂部により近く表れる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一実施形態において、本発明は、a)アノードと、b)カソードと、c)アノードとカソードとの間に配置された発光層であって、i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパント、およびii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストを備える、発光層と、d)発光層に隣接して配置される輸送層とを備える有機光電子デバイスを提供し、輸送層は、第1の材料HOMOエネルギーレベルおよび第1の材料LUMOエネルギーレベルを有する第1の材料を備え、電子正孔対は、燐光ドーパントの三重項エネルギーにほぼ等しいエネルギー差を越えて直接再結合する。
【0014】
好ましい実施形態において、有機光電子デバイスは、燐光ドーパントの三重項エネルギーに少なくともほぼ等しいエネルギー差を含む。エネルギーレベル分離は、発光層ホストLUMOと燐光ドーパントHOMOとの間、発光層ホストHOMOと燐光ドーパントLUMOとの間、電子輸送材料LUMOと燐光ドーパントHOMOとの間、正孔輸送材料HOMOと燐光ドーパントLUMOとの間、または電子輸送材料LUMOと正孔輸送材料HOMOとの間であり得る。好ましくは、エネルギー差は、燐光ドーパントの一重項エネルギーより低い少なくとも約0.2eVである。
【0015】
好ましい実施形態において、燐光ドーパントは、約500nmより低い発光スペクトルでのピークを有する。
【0016】
他の実施形態において、本発明は、a)アノードと、b)カソードと、c)アノードとカソードとの間に配置された発光層であって、i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパント、およびii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストを含む、発光層と、d)発光層に隣接して配置される輸送層とを備える有機光電子デバイスを提供し、輸送層は、それぞれHOMOエネルギーレベルおよびLUMOエネルギーレベルを有する複数の材料を備え、各複数の材料の少なくとも1つのエネルギーレベルは、発光層における少なくとも1つのエネルギーレベルに導く一連のエネルギーステップを共に形成し、一連のエネルギーステップにおける各ステップは、約0.2eV以下である。
【0017】
一連のエネルギーステップは、単一材料でドープされた副層(サブレイヤー)、材料の混合物でドープされた副層、ニート副層、またはそれらの組合せによって形成されることができる。
【0018】
本発明は、本発明のデバイスを作る方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】分離電子輸送層、正孔輸送層、および発光層、ならびに他の層を有する有機発光デバイスを示す図である。
【図2】分離電子輸送層を有さない反転有機発光デバイスを示す図である。
【図3】共振注入の可能なサイトであるΔE1−4を明示するエネルギーレベル図である。
【図4】ドーパントの三重項状態(T)および一重項状態(S)を示す図である。
【図5】第1の材料HOMOが、蛍光ドーパントHOMOと一致するエネルギーレベル図である。
【図6】第1の材料LUMOが、蛍光ドーパントLUMOと一致するエネルギーレベル図である。
【図7A】一連のエネルギーステップを形成する材料の混合物でドープされた正孔輸送層を示すエネルギーレベル図である。
【図7B】一連のエネルギーステップを形成する複数のニート層を備える正孔輸送層を示す図である。
【図8A】一連のエネルギーステップを形成する材料の混合物でドープされた電子輸送層を示すエネルギーレベル図である。
【図8B】一連のエネルギーステップを形成する複数のニート層を備える電子輸送層を示す図である。
【図9】電子が、三重項形成前にドーパントLUMOにあることができる場合に、三重項状態への直接注入が、一重項状態を通ることなく発生することができるエネルギーレベル図である。
【図10】正孔が、三重項形成前にドーパントHOMOにあることができる場合に、三重項状態への直接注入が、一重項状態を通ることなく発生することができるエネルギーレベル図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般的に、OLEDは、アノードとカソードとの間に配置され、かつアノードおよびカソードに電気接続される少なくとも1つの有機層を備える。電流が加えられると、アノードは、有機層に正孔を注入し、カソードは、有機層に電子を注入する。注入された正孔および電子はそれぞれ、反対に帯電された電極に向かって移動する。電子と正孔が、同一の分子上で局在すると、励起されたエネルギー状態を有する局在する電子正孔対である「励起子」が形成される。励起子が発光機構を介して緩和するとき、光が発光される。ある場合に、励起子は、エキシマまたはエキシプレックスに局在されることができる。熱緩和などの非放射機構も、生じることがあるが、一般に望ましくないと考えられる。
【0021】
初期OLEDは、例えば、その全体が参照によって組み込まれる米国特許第4769292号に開示されるような、それらの一重項状態から光(「蛍光」)を発光する発光分子を使用した。蛍光発光は、一般に10ナノ秒未満の時間フレームで生じる。
【0022】
より最近、三重項状態から光(「燐光」)を発光する発光材料を有するOLEDが示された。それらの全体が参照によって組み込まれる、Baldoら「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Device」,Nature,vol.395,151−154,1998,(「Baldo−I」)、およびBaldoら「Very high−efficiency green organic light−emitting devices based on electrophosphorescence」,Appl.Phys.Lett.,vol.75,No.3,4−6(1999),(「Baldo−II」)。遷移が、スピン状態における変化を必要とし、量子力学が、そのような遷移が有利ではないことを示すので、燐光は、「禁じられた」遷移とも呼ばれることができる。結果として燐光は、一般的には、少なくとも10ナノ秒を超え、典型的には100ナノ秒より大きい時間フレームで生じる。燐光の自然放射寿命が長すぎるなら、三重項は、光が発光しないように非放射機構によって崩壊することがある。有機燐光は、非常に低い温度で共有されていない電子対を有するヘテロ原子を含む分子でもしばしば観測される。2,2’−バイピリジンは、そのような分子である。液体窒素温度で燐光を示す有機材料が、典型的に室温で燐光を示さないように、非放射崩壊機構は、典型的に温度依存性である。しかし、Baldoによって示されたように、この問題は、室温で燐光を発する燐光化合物を選択することによって対処されることができる。代表的な発光層は、米国特許第6303238号、米国特許第6310360号、米国特許第6830828号、および米国特許第6835469号、ならびに米国特許出願公開第2002−0182441号、および国際公開第02/074015号に開示されるなどのドープされたまたはドープされていない燐光有機金属材料を含む。
【0023】
一般に、OLEDにおける励起は、約3:1の比率、すなわちほぼ75%の三重項と25%の一重項で作られると考えられる。その全体が参照によって組み込まれるAdachiら「Nearly 100% Internal Phosphorescent Efficiency In An Organic Light Emitting Device」,J.Appl.Phys.,90,5048(2001)を参照されたい。多くの場合、一重項励起は、「項間交差(intersystem crossing)」を介してそれらのエネルギーを三重項励起状態に容易に移行することができ、一方、三重項励起は、それらのエネルギーを一重項励起状態に容易に移行することができない。結果として、100%の内部量子効率は、燐光OLEDで理論的に可能である。蛍光デバイスにおいて、三重項励起のエネルギーは、一般的に、結果として非常に低い内部量子効率を生じる、デバイスを加熱する放射の無い崩壊プロセスで失われる。三重項励起状態から発光する燐光材料を使用するOLEDが、例えば、その全体が参照によって組み込まれる米国特許第6303238号に開示される。
【0024】
燐光は、三重項励起状態から、発光崩壊が生じる中間非三重項状態への遷移が先行することがある。例えば、ランタニド元素に配位された有機分子は、しばしばランタニド金属上に局在する励起状態から燐光を発する。しかしながら、そのような材料は、三重項励起状態から直接燐光を発さないが、代わりにランタニド金属イオンに中心合わせされた原子励起状態から発光する。ユウロピウムジケトネート錯体は、これらタイプの種の1つのグループを示す。
【0025】
三重項からの燐光は、高い原子数の原子に近く近接する有機分子を閉じ込めることによって、好ましくは結合によって蛍光より強化されることができる。重原子効果と呼ばれるこの現象は、スピン軌道結合として知られている機構によって作られる。そのような燐光遷移は、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)などの有機金属分子の励起された金属配位子電荷移動(MLCT)状態から観測されることができる。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「三重項エネルギー」は、所定の材料の燐光スペクトルにおける識別可能な最高のエネルギー特徴に対応するエネルギーを参照する。最高のエネルギー特徴は、燐光スペクトルにおける最大強度を有するピークである必要はなく、例えばそのようなピークの高いエネルギー側の明瞭な肩部の局所的な最大値であり得る。
【0027】
本明細書で使用されるとき用語「有機金属」は、一般に当業者によって理解され、例えばGary L.MiesslerおよびDonald A.Tarrによる「Inorganic Chemistry」(2nd Edition),Prentice Hall(1998)に与えられるものである。したがって、用語有機金属は、炭素金属結合を介して金属に結合された有機基を有する化合物を参照する。このクラスは、アミン、ハロゲン化合物、擬似ハロゲン化合物(CNなど)などの金属錯体などのヘテロ原子からのドナー結合だけを有する物質である、配位化合物自体を含まない。実際に有機金属化合物は、一般に、有機種への1つ以上の炭素金属結合に加えて、ヘテロ原子からの1つ以上のドナー結合を備える。有機種への炭素金属結合は、金属と、フェニル、アルキル、アルケニルなどの有機基の炭素原子との間の直接結合を意味するが、CNまたはCOの炭素などの「無機炭素」への金属結合を意味しない。
【0028】
図1は、有機発光デバイス100を示す。図は、必ずしも同一の縮尺で描かれる必要はない。デバイス100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子遮断層130、発光層135、正孔遮断層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、およびカソード160を含むことができる。カソード160は、第1の導電層162および第2の導電層164を有する化合物カソードである。デバイス100は、順番に記載される層を堆積することによって製造することができる。
【0029】
基板110は、所望の構造特性を与える任意の適切な基板であり得る。基板110は、可撓性または剛直であり得る。基板110は、透明、半透明、または不透明であり得る。プラスチックまたはガラスは、好ましい剛直な基板材料の例である。プラスチックまたは金属ホイルは、好ましい可撓性な基板材料の例である。基板110は、回路の製造を容易にするために、半導体材料であり得る。例えば、基板110は、シリコンウエハであることができ、その上に、基板上に以降に堆積されるOLEDを制御することができる回路が製造される。他の基板が使用されることができる。基板110の材料および厚みは、所望の構造および光学特性を得るために選択することができる。
【0030】
アノード115は、有機層に正孔を輸送するために十分に導電性である任意の適切なアノードであり得る。アノード115の材料は、好ましくは約4eVより高い仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料は、酸化インジウム錫(ITO)ならびに酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化アルミニウム亜鉛(AlZnO)、および金属などの導電酸化金属を含む。アノード115(基板110)は、底部発光デバイスを作るために十分に透明であり得る。好ましい透明基板およびアノードの組合せは、ガラスまたはプラスチック(基板)上に堆積された市販で入手可能なITO(アノード)である。可撓性で透明な基板アノードの組合せは、それらの全体が参照によって組み込まれる米国特許第5844363号および米国特許第6602540B2号に開示される。アノード115は、不透明および/または反射性であり得る。反射性アノード115は、デバイス頂部から発光される光の量を増大するために、ある頂部発光デバイスに関して好ましいことがある。アノード115の材料および厚みは、所望の導電および光学特性を得るために選択されることができる。アノード115が透明である場合、所望の導電性を与えるのに十分であるが、所望の程度の透明性を与えるのにまだ十分である厚みである、特定の材料に関する厚みの範囲が存在することができる。他のアノード材料および構造を使用することができる。
【0031】
正孔輸送層125は、正孔を輸送することができる材料を含み得る。正孔輸送層125は、真性(ドープされていない)またはドープされることができる。ドーピングは、導電性を増強するために使用されることができる。α−NPDおよびTPDは、真性正孔輸送層の例である。p−ドープされた正孔輸送層の例は、その全体が参照によって組み込まれる、Forrestらへの米国特許出願公開第2003−0230980号に開示されるような、50:1のモル比でF−TCNQでドープされたm−MTDATAである。他の正孔輸送層を使用することができる。
【0032】
発光層135は、電流がアノード115とカソード160との間を通過するとき、光を発光することができる有機材料を含むことができる。好ましくは、発光層135は、蛍光発光材料も使用されることができるが、燐光発光材料を含む。燐光材料は、そのような材料に関連するより高いルミネセンス効率のために好ましい。発光層135は、励起が、発光機構を介して発光材料から緩和するように、電子、正孔、および/または励起子をトラップすることができる発光材料でドープされた、電子および/または正孔を輸送することができるホスト材料を含むこともできる。発光層135は、輸送と発光特性とを組み合わせる単一の材料を含むことができる。発光材料が、ドーパントまたは主構成要素であるかどうかは、発光層135は、発光材料の発光を調整するドーパントなどの他の材料を含むことができる。発光層135は、組合せで、所望のスペクトルの光を発光することができる複数の発光材料を含むことができる。燐光発光材料の例は、Ir(ppy)を含む。蛍光発光材料の例は、DCMおよびDMQAを含む。ホスト材料の例は、Alq、CBP、およびmCPを含む。発光およびホスト材料の例は、その全体が参照によって組み込まれる、Thompsonらへの米国特許第6303238号に開示される。発光材料は、多数の方法で発光層135に含まれることができる。例えば、発光小分子は、ポリマーに組み込まれることができる。これは、いくつかの方法で達成されることができる。すなわち、分離したおよび別個の分子種のいずれかとしてポリマーに小分子をドープすることによって、またはコポリマーを形成するようにポリマーのバックボーン内に小分子を組み込むことによって、またはポリマーのペンダント基として小分子を結合することによる。他の発光層材料および構造が使用されることができる。例えば、小分子発光材料は、デンドリマーのコアとして存在することができる。
【0033】
多くの有用な発光材料は、金属中心への1つ以上の配位子結合を含む。配位子は、それが、有機金属発光材料の光活性特性に直接寄与するなら、「光活性」と呼ばれることができる。「光活性」配位子は、金属と関連して、光子が放出されるときに電子が移動して出るエネルギーレベルおよび電子が移動して入るエネルギーレベルを与えることができる。他の配位子は、「補助」と呼ばれることができる。補助配位子は、例えば光活性配位子のエネルギーレベルをシフトすることによって、分子の光活性特性を修正することができるが、補助配位子は、発光に含まれるエネルギーレベルを直接与えない。1つの分子における光活性である配位子は、他における補助であり得る。光活性および補助のこれらの規定は、限定しない理論であると意図される。
【0034】
電子輸送層145は、電子を輸送できる材料を含むことができる。電子輸送層145は、真性(ドープされていない)またはドープされることができる。ドーピングは、導電性を増強するために使用されることができる。Alqは、真性電子輸送層の例である。nドープされた電子輸送層の例は、その全体が参照によって組み込まれる、Forrestらへの米国特許出願公開第2003−0230980号に開示されるような、1:1のモル比でドープされたBPhenである。他の電子輸送層が使用されることができる。
【0035】
電子輸送層の電荷担持構成要素は、電子が、カソードから電子輸送層のLUMO(最低空分子軌道)エネルギーレベルに有効に注入されることができるように、選択されることができる。「電荷担持構成要素」は、実際に電子を輸送するLUMOエネルギーレベルを担う材料である。この構成要素は、ベース材料であることができ、またはそれは、ドーパントであり得る。有機金属のLUMOエネルギーレベルは、一般的にその材料の電子親和性によって特徴付けられることができ、カソードの相対電子注入効率は、一般にカソード材料の仕事関数に関して特徴付けられることができる。これは、電子輸送層および隣接するカソードの好ましい特性が、ETLの電荷担持構成要素の電子親和性およびカソード材料の仕事関数に関して特定されることができることを意味する。特に、高い電子注入効率を達成するように、カソード材料の仕事関数は、好ましくは、約0.75eVより高いだけ、電子輸送層の電荷担持構成要素の電子親和性以下であり、より好ましくは約0.5eVより未満である。同様の考慮が、電子が注入される任意の層に適用される。
【0036】
カソード160が、電子を導通しかつデバイス100の有機層に電子を注入することができるように、カソード160は、当技術で知られている任意の適切な材料または材料の組合せであり得る。カソード160は、透明または不透明であることができ、反射性であることができる。金属および酸化金属が、適切なカソード材料の例である。カソード160は、単一層であることができ、または化合物構造を有することができる。図1は、薄い金属層162およびより厚い導電酸化金属層164を有する化合物カソード160を示す。化合物カソードにおいて、より厚い層164に好ましい材料は、ITO、IZO、当技術で知られている他の材料を含む。それらの全体が参照によって組み込まれる、米国特許第5703436号、米国特許第5707745号、米国特許第6548956B2号、および米国特許第6576134B2号は、上に覆う透明で電気導電性のスパッタ堆積されたITO層を有するMg:Agなどの金属の薄層を有する化合物カソードを含むカソードの例を開示する。下の有機層と接触するカソード160の一部は、それが単一層カソード160であるとき、化合物カソードの薄い金属層162またはある他の部分は、好ましくは約4eV未満の仕事関数を有する材料で作られる(「低仕事関数材料」)。他のカソード材料および構造が使用されることができる。
【0037】
遮断層が、多数の電荷キャリア(電子または正孔)および/または発光層を出る励起子を低減するために使用されることができる。電子遮断層130は、電子が正孔輸送層125の方向へ発光層135から出ることを妨げるために、発光層135と正孔輸送層125との間に配置されることができる。同様に、正孔遮断層140が、正孔が電子輸送層145の方向へ発光層135から出ることを妨げるために、発光層135と電子輸送層145との間に配置されることができる。遮断層は、励起子が発光層に拡散することを妨げるために使用されることもできる。遮断層の理論および使用は、米国特許第6097147号およびForrestらへの米国特許出願公開第2003−0230980号により詳細に記載されており、これらの全体が参考として組み込まれている。
【0038】
本明細書で使用されるとき、および当業者によって理解されるように用語「遮断層」は、層が、必ず電荷キャリアおよび/または励起子を完全に遮断することを示唆することなく、層が、デバイスを通して電荷キャリアおよび/または励起子の輸送を著しく抑制する障壁を提供することを意味する。デバイスにおけるそのような遮断層の存在は、遮断層が無い同様のデバイスと比較すると、結果として実質的により高い効率を生じることができる。また、遮断層は、OLEDの所望の領域に発光を閉じ込めるために使用されることができる。
【0039】
一般に、注入層は、隣接する有機層への電極または有機層などの1つの層からの電荷キャリアの注入を改善することができる材料からなる。注入層は、電荷輸送機能を実行することもできる。デバイス100において、正孔注入層120は、アノード115から正孔輸送層125への正孔の注入を改善する任意の層であり得る。CuPcは、ITOアノード115および他のアノードからの正孔注入層として使用されることができる材料の例である。デバイス100において、電子注入層150は、電子輸送層145への電子の注入を改善する任意の層であり得る。LiF/Alは、隣接層から電子輸送層への電子注入層として使用されることができる材料の例である。他の材料および材料の組合せは、注入層のために使用されることができる。特定のデバイスの構成に応じて、注入層は、デバイス100で示される位置とは異なる位置に配置されることができる。注入層のさらなる例は、Luらへの米国特許出願公開第09/931948号に与えられおり、この全体が参考として組み込まれている。正孔注入層は、スピンコートされたポリマー、例えばPEDOT:PSSなどの溶液堆積される材料を含むことができ、それは、例えばCuPcまたはMTDATAなどの気相堆積される小分子材料であり得る。
【0040】
正孔注入層(HIL)は、アノードから正孔注入材料へ有効な正孔注入を与えるように、アノード表面を平坦化しまたは濡らすことはできる。正孔注入層は、HOMO(最高被占分子軌道)エネルギーレベルを有する電荷担持構成要素を有することもでき、HOMOエネルギーレベルは、好ましくは、本明細書で記載される相対イオン化電位(IP)エネルギーによって規定されるように、HILの一方側の隣接するアノード層およびHILの反対側の正孔輸送層で達する。「電荷担持構成要素」は、実際に正孔を輸送するHOMOエネルギーレベルを担う材料である。この構成要素は、HILのベース材料であることができ、またはそれはドーパントであり得る。ドープされたHILを使用することは、ドーパントが、その電気特性のために選択されることを可能にし、かつホストが、濡れ性、可撓性、頑強性などの形態学的特性に関して選択されることを可能にする。HIL材料に関する好ましい特性は、正孔が、アノードからHIL材料へ有効に注入されることができることである。特に、HILの電荷担持構成要素は、好ましくは、アノード材料のIPより大きいが約0.7eV以下であるIPを有する。より好ましくは、電荷担持構成要素は、アノード材料より大きいが約0.5eV以下であるIPを有する。同様の考慮が、正孔が注入される任意の層に適用される。HIL材料は、OLEDの正孔輸送層で典型的に使用される従来の正孔輸送材料からさらに識別され、そのようなHIL材料は、従来の正孔輸送材料の正孔導電率より実質的に小さい正孔導電率を有することができる。本発明のHILの厚みは、アノード層の表面を平坦化するまたは濡らすことを助長するのに十分な厚みであり得る。例えば、10nmほど薄いHIL厚みは、非常に平滑なアノード表面を許容可能であり得る。しかしながら、アノード表面は非常に粗い傾向があるので、50nmまでのHILに関する厚みは、いくつかの場合に望ましいことがある。
【0041】
保護層が、以降の製造プロセスの間に下の層を保護するために使用されることができる。例えば、金属または酸化金属頂部電極を製造するために使用されるプロセスは、有機層を損傷することがあり、保護層は、そのような損傷を低減または取り除くために使用されることができる。デバイス100において、保護層155は、カソード160の製造の間に下の有機層への損傷を低減することができる。好ましくは、保護層は、それが、デバイス100の動作電圧を著しく増大しないように、それが輸送する(デバイス100における電子)キャリアのタイプに関する高いキャリア移動度を有する。CuPc、BCP、および様々な金属フタロシアニンは、保護層で使用されることができる材料の例である。他の材料または材料の組合せが使用されることができる。保護層155の厚みは、好ましくは、有機保護層160が堆積された後に生じる製造プロセスのために、下の層への損傷がわずかであるまたは損傷が無いのに十分な厚みであるが、デバイス100の動作電圧を著しく増大するにはまだ厚くない。保護層155は、その導電率を増大するためにドープされることができる。例えば、CuPcまたはBCP保護層160は、Liでドープされることができる。保護層のより詳細な記載は、Luらへの米国特許出願公開第09/931948号に見出され、この全体が参考として組み込まれている。
【0042】
図2は、反転OLED200を示す。デバイスは、基板210、カソード215、発光層220、正孔輸送層225、およびカソード230を含む。デバイス200は、順番に記載される層を堆積することによって製造されることができる。最も一般的なOLED構成は、アノード上に配置されたカソードを有し、かつデバイス200は、アノード230の下に配置されたカソード215を有するので、デバイス200は、「反転」OLEDと呼ばれることがある。デバイス100に関して記載された材料と類似する材料は、デバイス200の対応する層で使用されることができる。図2は、どのようにいくつかの層が、デバイス100の構造から省略されることができるかの一例を与える。
【0043】
図1および図2に示される単純に層状にされた構造は、非限定例によって与えられ、本発明の実施形態は、広範な他の構造に関連して使用されることができることが理解される。記載される特定の材料および構造は、当然例示であり、他の材料および構造が使用されることができる。機能的OLEDは、異なる方法で記載された様々な層を組み合わせることによって達成されることができ、または層は、設計、性能、および価格要因に基づいて完全に省略されることができる。詳細に記載されない他の層も、含まれることができる。詳細に記載された材料以外の材料が、使用されることができる。本明細書で与えられる多くの例は、単一材料を含むとして様々な層を記載するが、ホストおよびドーパントの混合物、または一般的には混合物などの材料の組合せが、使用されることができることが理解される。また、層が、様々な副層を有することができる。本明細書で様々な層に与えられる名称は、厳密に制限するものであることは意図されない。例えば、デバイス200において、正孔輸送層225は、正孔を輸送し、かつ発光層220に正孔を注入し、正孔輸送層または正孔注入層として記載されることができる。一実施形態において、OLEDは、カソードとアノードとの間に配置された「有機層」を有するとして記載されることができる。この有機層は、単一の層を備えることができ、または、例えば図1および図2に関連して記載されるように異なる有機材料の複数の層をさらに備えることができる。
【0044】
その全体が参照によって組み込まれる、Friendらへの米国特許第5247190号に開示されるなどポリマー材料(PLED)からなるOLED(PLED)などの詳細には記載されていない構造および材料も、使用されることができる。さらなる例によって、単一の有機層を有するOLEDが使用されることができる。OLEDは、例えばForrestらへの米国特許第5707745号に記載されるように積層されることができ、この全体が参考として組み込まれている。OLED構造は、図1および図2に示される単純な層状構造とは異なることができる。例えば、基板は、Forrestらへの米国特許第6091195号に記載されるようなメサ構造、および/またはBulovicらへの米国特許第5834893号に記載されるようなピット構造など、アウトカップリングを改善するために角度が付けられた反射表面を含むことができ、これらの全体が参考として組み込まれている。
【0045】
他の方法で特定されなければ、様々な実施形態の任意の層は、任意の適切な方法によって堆積されることができる。有機層のための好ましい方法は、それらの全体が参照によって組み込まれる、米国特許第6013982号および米国特許第6087196号に記載されるなど熱蒸発インクジェット、その全体が参照によって組み込まれる、Forrestらへの米国特許第6337102号に記載されるなど有機気相堆積(OVPD)、およびその全体が参照によって組み込まれる、米国特許出願公開第10/233470号に記載されるなど有機蒸気ジェット印刷(OVJP)による堆積を含む。他の適切な堆積方法は、スピンコーティングおよび他の溶液ベースプロセスを含む。溶液ベースプロセスは、好ましくは、窒素または不活性雰囲気で実施される。他の層に関して、好ましい方法は、熱蒸着を含む。好ましいパターニング方法は、それらの全体が参照によって組み込まれる、米国特許第6294398号および米国特許第6468819号に記載されるなどマスク低温溶接を介する堆積、およびインクジェットおよびOVJPなどのいくつかの堆積方法に関連するパターニングを含む。他の方法も使用されることができる。堆積されるべき材料は、それらを特定の堆積方法と適合させるように修正されることができる。例えば、アルキルおよびアリル基、分岐されたまたは分岐されていない、および好ましくは少なくとも3つの炭素を含むなどの置換基が、溶液プロセスを受けるためにそれらの能力を強化するために小分子で使用されることができる。20個以上の炭素を有する置換基が使用されることができ、3−20個の炭素は好ましい範囲である。非対称構造を有する材料は、非対称材料が、再結晶するのにより低い傾向を有することができるので、対称構造を有する溶液処理性より良好な溶液処理性を有することができる。デンドリマー置換基は、溶液処理を受けるために小分子の能力を増大するために使用されることができる。
【0046】
本明細書に開示される分子は、本発明の範囲から逸脱することなく多数の様々な方法で置換されることができる。例えば、置換基は、置換基が添加された後、1つ以上の二配位の配位子が、例えば四配位または六配位の配位子を形成するために共に結合されるように、3つの二配位の配位子を有する化合物に添加されることができる。他のそのような結合が形成されることができる。このタイプの結合は、何が「キレート効果」として当技術で一般に理解されるために、結合の無い類似する化合物に対する安定性を増大することができることが考えられる。
【0047】
本発明の実施形態により製造されたデバイスは、フラットパネルディスプレイ、コンピュータモニタ、テレビジョン、広告板、室内または室外照明および/またはシグナリングのための光、ヘッドアップディスプレイ、完全に透明なディスプレイ、可撓性ディスプレイ、レーザプリンタ、電話、携帯電話、携帯電子機器(PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ビューファインダ、マイクロディスプレイ、自動車、大面積壁、劇場またはスタジアムスクリーン、またはサインを含む、広範な消費者製品に組み込まれることができる。様々な制御機構は、受動マトリクスおよび能動マトリクスを含む、本発明により製造されるデバイスを制御するために使用されることができる。多くのデバイスは、18℃から30℃、より好ましくは室温(20−25℃)でなど、人間に快適な温度範囲で使用することが意図される。
【0048】
本明細書に記載される材料および構造は、OLED以外のデバイスにおける適用を有することができる。例えば、有機太陽電池および有機光検出器などの他の光電子デバイスは、材料および構造を用いることができる。より一般的には、有機トランジスタなどの有機デバイスは、材料および構造を用いることができる。
【0049】
一実施形態において、本発明は、燐光ドーパントの三重項状態へ直接注入を利用するOLEDを提供する。本発明者らは、驚くべきことに、第1に一重項状態へ進むことなく、三重項状態へ電荷を直接注入するこが可能であることを見出した。三重項状態への直接アクセスは、以前には不可能であると考えられていた。知られている燐光機構は、一重項状態まで電子を励起するために過剰なエネルギーを添加することを必要とした。そのような過剰なエネルギーは、特に青色燐光の場合に、燐光ドーパントを劣化することがある。対照的に、本発明の実施形態は、三重項エネルギー状態を直接アクセスすることによって燐光を達成する。本発明の直接アクセス機構は、一重項状態に達するために過剰なエネルギーを必要とせず、したがって燐光を劣化することはほとんどない。
【0050】
一実施形態において、本発明は、a)アノードと、b)カソードと、c)アノードとカソードとの間に配置された発光層であって、i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパント、およびii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストを含む、発光層と、d)発光層に隣接して配置される輸送層とを備えるOLEDを提供し、輸送層は、第1の材料HOMOエネルギーレベルおよび第1の材料LUMOエネルギーレベルを有する第1の材料を備え、電子正孔対は、より高い存在する分子励起状態を生成することなく、燐光ドーパントの三重項エネルギーにほぼ等しいエネルギー差エネルギー差を越えて直接再結合する。
【0051】
燐光ドーパントは、HOMOおよびLUMO、ならびに励起状態エネルギーレベル、基底状態、三重項状態、およびより高い存在する分子励起状態を有する。より高い存在する分子励起状態は、例えば一重項状態であり得る。図3は、燐光ドーパントHOMOおよびLUMOを示し、一方、図4は、基底状態(S)、三重項状態(T)、および一重項状態(S)を示す。三重項エネルギー(Eg1)は、基底状態と三重項状態との間のエネルギー差である。一重項エネルギー(Eg2)は、基底状態とより高い存在する分子励起状態との間のエネルギー差である。
【0052】
輸送層は、第1の材料を含む。輸送層は、正孔輸送層すなわち発光層のアノード側上の輸送層、または電子輸送層すなわち発光層のカソード側上の輸送層であり得る。一実施形態において、本発明のOLEDは、発光層の両側のそのような輸送層を使用する。第1の材料は、輸送層ホストであることができ、またはそれは、輸送層ドーパントであることができる。第1の材料は、輸送層における材料だけであることができ、すなわち第1の材料は、ニート層として堆積されることができる。
【0053】
本明細書で使用されるとき、用語「隣接する」は、ある材料から他の材料に直接ジャンプするために電荷に十分に近いことを意味する。隣接する材料は、互いに直接物理的に接触されることは必ずしも必要ではない。
【0054】
第1の材料は、当業者に知られている様々な輸送材料から選択されることができる。例えば、TCTAなどの知られている材料は、第1の材料として使用されることができる。他の有用な材料は、Loyら「Thermally Stable Hole−Transporting Materials Based upon a Fluorene Core」Adv.Func.Mater.,12,NO.4,245−249,2002、およびD’Andradeら「Relationship between the ionization and oxidation potentials of molecular organic semiconductors」Org. Elec., 2005に開示される材料を含む。
【0055】
三重項状態へ直接アクセスするために、有機発光デバイスは、燐光ドーパントの三重項エネルギーに少なくともほぼ等しいエネルギー差を含む。エネルギーレベル分離は、発光層ホストLUMOと燐光ドーパントHOMOとの間、発光層ホストHOMOと燐光ドーパントLUMOとの間、電子輸送材料LUMOと燐光ドーパントHOMOとの間、正孔輸送材料HOMOと燐光ドーパントLUMOとの間、または電子輸送材料LUMOと正孔輸送材料HOMOとの間であり得る。三重項エネルギーに少なくともほぼ等しいエネルギー差を有することによって、再結合は、三重項エネルギーにほぼ等しいエネルギー差エネルギー差を越えて生じることができる。エネルギー差は、それが、三重項エネルギーとは異なる約0.1eV以下であるとき、三重項エネルギーにほぼ等しい。正孔および電子は、隣接する分子から再結合することができる。
【0056】
好ましい実施形態において、燐光ドーパントHOMOと発光層ホストLUMOとの間のエネルギー差は、燐光ドーパントの三重項エネルギーに少なくともほぼ等しい。他の好ましい実施形態において、電子輸送材料LUMOと正孔輸送材料HOMOとの間のエネルギー差は、燐光ドーパントの三重項エネルギーに少なくともほぼ等しい。
【0057】
燐光ドーパントのより高い存在する分子励起状態を避けるために、三重項エネルギーに少なくともほぼ等しいエネルギー差は、また好ましくは、燐光ドーパントの一重項エネルギーより少なくとも約0.2eV未満である。この実施形態で有用な燐光材料は、燐光ドーパントを含み、より高い存在する分子励起状態および三重項状態は、少なくとも約0.2eVだけ分離される。例えばカルベン分子は、本発明の所定の実施形態で有用である望ましい一重項三重項分離を例示する。
【0058】
他の実施形態において、三重項状態への直接アクセスは、共振注入によって製造される。本発明の目的のために、共振注入は、1つのエネルギーレベルから他のエネルギーレベルへの共振注入またはほぼ共振注入の両方を包含し、電荷が、熱移行によってエネルギー差を横断することができるように、エネルギーレベルが、位置付けられる。移行の実際の機構ではなくエネルギーレベルの位置は、本発明の実施形態において共振注入を特徴付ける。
【0059】
熱移行を可能にするために、エネルギーレベルは、互いの上または下に配置されることができる。正孔がより高いエネルギーレベルに移動する場合、または電子がより低いエネルギーレベルに移動する場合、熱移行は、エネルギー差が大きいことがあっても生じる。例えば、図5において、輸送層は正孔輸送層であり、第1の材料HOMOが、燐光ドーパントHOMOの下に配置される。「上方」への正孔の移行は、電荷がより低いエネルギー状態に移動するためエネルギー的に好ましい。正孔がより低いエネルギーレベルに移動する場合、または電子がより高いエネルギーレベルに移動する場合、熱移行はまだ生じるが、エネルギー差は小さくなければならない。したがって例えば、エネルギーレベルは、電荷が熱移送されることを可能にするのに十分に近い限り、第1の材料HOMOは、また燐光ドーパントHOMOの上であり得る。一般に、電荷がより高いエネルギー状態に移動しなければならないとき、電荷キャリア内のエネルギー分布は、有意な数の電荷キャリアが、障壁を乗り越えるために十分なエネルギーを有するようなものであり得る。例えば約0.1eV未満の障壁は、容易に乗り越えられることができる。
【0060】
電荷が、エネルギー的に好ましい方向に比較的大きなエネルギー差を横切って熱移行されることができても、エネルギーレベル間の距離は、受容体分子への損傷を低減するために好ましくは制限される。過剰なエネルギーを有する電荷が、分子に移行されるとき、過剰なエネルギーは、分子を損傷することがある。損傷は、電荷が、移行時にあまり多くの過剰なエネルギーを担持しないので、エネルギーレベル一致によって低減される。したがって、好ましい実施形態において、第1の材料のエネルギーレベルは、発光層への損傷を低減するために発光層におけるエネルギーレベルに十分に一致される。換言すれば、一致されたエネルギーレベル間のエネルギー差は、損傷閾値未満である。エネルギー差は、好ましくは約0.2eV未満であり、より好ましくは0.2eV以下である。
【0061】
一実施形態において、本発明は、a)アノードと、b)カソードと、c)アノードとカソードとの間に配置された発光層であって、i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパント、およびii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストを含む、発光層と、d)発光層に隣接して配置される輸送層とを備えるOLEDを提供し、輸送層は、第1の材料HOMOエネルギーレベルおよび第1の材料LUMOエネルギーレベルを有する第1の材料を含み、電荷は、少なくとも1つの第1の材料エネルギーレベルから発光層における少なくとも1つのエネルギーレベルに熱移行されることができる。
【0062】
図3は、ΔE1−4として共振注入の可能なサイトを特定するエネルギーレベル図を示す。ΔE1−4は、正孔が、HTL HOMOから下方に発光層へ移動する傾向があり、かつ電子が、ETL LUMOから上方に発光層へ移動する傾向があるように描かれるが、本発明は、電荷がいずれの方向にも移動するOLEDを包含する。すなわち、ΔE1−4は、また、正孔が、HTL HOMOから上方に発光層へ移動する傾向があり、かつ電子が、ETL LUMOから下方に発光層へ移動する傾向があるOLEDを包含する。図3−図8は、必ずしも同じ縮尺で描かれず、かつ本発明の理解を助長するためにだけエネルギーレベル位置を示す。
【0063】
一実施形態において、図3に示されるように、燐光ドーパントのエネルギーレベルは、発光層ホストエネルギーレベルに入れ子にされる。この構成は、非放出再結合を低減する。非放出再結合は、発光ドーパントの濃度が、高すぎて三重項三重項消滅を結果として生じるときに、OLEDで生じる。
【0064】
一実施形態において、移送層は、正孔移送層であり、正孔は、正孔移送層から発光層に共振注入される。一実施形態において、共振注入は、ΔE1で生じる。エネルギーレベルは、正孔が、第1の材料HOMOから発光層ホストHOMOへ熱移送されることができるように位置する。一実施形態において、共振注入は、ΔE2で生じる。正孔は、第1の材料HOMOから燐光ドーパントHOMOへ熱移送されることができる。この実施形態は、図5に示される。
【0065】
一実施形態において、第1の材料HOMOは、発光層ホストHOMOまたは燐光ドーパントHOMOと一致される。好ましくは、第1の材料HOMOは、発光層ホストHOMOまたは燐光ドーパントHOMOより約0eVから約0.2eV低い。そのような構成は、エネルギー的に好ましい方向にわずかなエネルギーステップを横切って、輸送層から発光層へ正孔が輸送されることを許容する。
【0066】
さらに他の実施形態において、輸送層は、第2の材料HOMOエネルギーレベルを有する第2の材料をさらに含み、第2の材料HOMOは、第1の材料HOMOより約0eVから約0.2eV低い。そのような構成は、2つのエネルギーステップを与える。輸送層は、さらに詳細に以下に記載されるように、そのような一連のエネルギーステップをさらに含むことができる。
【0067】
他の実施形態において、輸送層は、電子移送層であり、電子は、電子移送層から発光層に共振注入される。一実施形態において、共振注入は、ΔE4で生じる。電子が、第1の材料LUMOから発光層ホストLUMOへ熱移送されることができる。例えば図8を参照されたい。他の実施形態において、共振注入は、ΔE3で生じる。電子は、第1の材料LUMOから燐光ドーパントLUMOへ熱移送されることができる。この実施形態は、図6に示される。
【0068】
好ましい実施形態において、第1の材料LUMOは、発光層ホストLUMOまたは燐光ドーパントLUMOと一致される。好ましくは、第1の材料LUMOは、発光層ホストLUMOまたは燐光ドーパントLUMOより約0eVから約0.2eV高い。そのような構成は、エネルギー的に好ましい方向にわずかなエネルギーステップを横切って、輸送層から発光層へ電子が輸送されることを許容する。
【0069】
他の実施形態において、輸送層は、第2の材料LUMOエネルギーレベルを有する第2の材料をさらに含み、第2の材料LUMOは、第1の材料LUMOより約0eVから約0.2eV高い。そのような構成は、2つのエネルギーステップを与える。輸送層は、さらに詳細に以下に記載されるように、そのような一連のエネルギーステップをさらに含むことができる。
【0070】
他の実施形態において、電子および正孔の両方は、上述されたように発光層に共振注入される。
【0071】
一実施形態において、本発明は、青光を発光するデバイスを提供する。好ましい実施形態において、燐光化合物は、約500nm未満であり、好ましくは約450nm未満である発光スペクトルにおけるピークを有する。青発光を達成することは、それが、赤または緑に比べてより高いエネルギー放出を必要とするので特に挑戦的である。本発明の特定の実施形態において、青発光は、電子を直接三重項状態へ移行することによってより容易に達成される。この方法で、電子が発光層ホストLUMOに入るのに必要とされる追加のエネルギーを与えることは必要ではない。電子は、発光層ホストLUMOに入る必要はないので、広範なホスト材料が、本発明のこの実施形態を実施するために使用されることができる。
【0072】
本発明は、輸送層における一連のそのようなエネルギーステップを有するOLEDも提供する。この実施形態において、本発明は、a)アノードと、b)カソードと、c)アノードとカソードとの間に配置された発光層であって、発光層は、i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパント、およびii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストを含み、d)発光層に隣接して配置される輸送層とを備える有機光電子デバイスを提供し、輸送層は、それぞれHOMOエネルギーレベルおよびLUMOエネルギーレベルを有する複数の材料を備え、各複数の材料の少なくとも1つのエネルギーレベルは、発光層における少なくとも1つのエネルギーレベルに導く一連のエネルギーステップを共に形成し、一連のエネルギーステップにおける各ステップは、約0.2eV以下である。好ましくは、デバイスは、詳細に上述されたような三重項エネルギーにほぼ等しいエネルギー差も含む。
【0073】
一実施形態において、輸送層は、正孔輸送層であり、複数の材料のHOMOエネルギーレベルは、発光層ホストHOMOまたは燐光ドーパントHOMOに導く一連のエネルギーステップを形成し、一連のエネルギーステップにおける各ステップは、約0.2eV以下である。
【0074】
一実施形態において、輸送層は、電子輸送層であり、複数の材料のLUMOエネルギーレベルは、発光層ホストLUMOまたは燐光ドーパントLUMOに導く一連のエネルギーステップを形成し、一連のエネルギーステップにおける各ステップは、約0.2eV以下である。
【0075】
一実施形態において、輸送層は、発光層に隣接して配置される副層を備え、副層は、複数の材料の1つ以上の層の混合物でドープされた輸送層ホストを備える。例えば、図7Aおよび図8Aを参照されたい。一実施形態において、輸送層ホストは、好ましくはほぼ等しい比率で材料の全ての混合物でドープされる。一実施形態において、輸送層は、複数の隣接する副層を備え、各副層は、複数の材料の単一の材料でドープされた輸送層ホストを備える。各副層の輸送層は、同一または異なることができる。
【0076】
一実施形態において、輸送層全体は、複数の材料の1つ以上の材料でドープされる。代わりに、輸送層は、a)隣接して配置されたドープされていない副層と、b)隣接して配置され、複数の材料の1つ以上の材料を含むドープされた副層と、c)発光層とを備える。
【0077】
他の実施形態において、輸送層は、1つ以上のニート層を備える。好ましい実施形態において、輸送層は、それぞれ一連のエネルギーステップを形成するために複数の材料の1つの材料を含む、複数のニート層を備える。図7Aおよび図7Bを参照されたい。
【0078】
さらに他の実施形態において、本発明は、本発明のOLEDを作る方法を提供する。
【0079】
一実施形態において、本発明は、a)基板上にアノードを堆積する段階と、b)アノード上に発光層を堆積する段階であって、発光層は、i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパントと、ii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストとを備える、段階と、c)発光層上に電子輸送層を堆積する段階であって、電子輸送層は、電子輸送材料LUMOエネルギーレベルを有する電子輸送材料を含む、段階と、d)電子輸送層上にカソードを堆積する段階とを含み、i)電子輸送材料LUMOまたは発光層ホストLUMOと、ii)燐光ドーパントHOMOとの間のエネルギー差は、燐光ドーパントの三重項エネルギーに少なくともほぼ等しく、かつ燐光ドーパントの一重項エネルギーより少なくとも約0.2eV未満である。
【0080】
電子輸送層は、複数の材料をさらに含むことができ、複数の材料のLUMOエネルギーレベルは、発光層ホストLUMOまたは燐光ドーパントLUMOに導く一連のエネルギーステップを形成し、一連のエネルギーステップにおける各ステップは、約0.2eV以下である。
【0081】
他の実施形態において、本発明は、a)基板上にアノードを堆積する段階と、b)アノード上に正孔輸送層を堆積する段階であって、正孔輸送層は、正孔輸送HOMOエネルギーレベルを有する正孔輸送材料を含む段階と、c)正孔輸送層上に発光層を堆積する段階であって、発光層は、i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパントと、ii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストとを備える、段階と、d)発光層上にカソードを堆積する段階とを含み、i)正孔輸送HOMOまたは発光層ホストHOMOと、ii)燐光ドーパントLUMOとの間のエネルギー差は、燐光ドーパントの三重項エネルギーに少なくともほぼ等しく、かつ燐光ドーパントの一重項エネルギーより少なくとも約0.2eV未満である。
【0082】
正孔輸送層は、複数の材料をさらに含むことができ、複数の材料のHOMOエネルギーレベルは、発光層ホストHOMOまたは燐光ドーパントHOMOに導く一連のエネルギーステップを形成し、一連のエネルギーステップにおける各ステップは、約0.2eV以下である。
【0083】
図9および図10は、三重項励起状態への直接注入が、一重項状態を通ることなく発生することができるエネルギーレベル図の例を示す。様々な層における様々な材料の相対エネルギーレベルは、形成するためにドーパントに一重項励起状態に関するエネルギー的に好ましい方法が存在しないように選択される。
【0084】
図9は、三重項状態への直接注入が、一重項状態を通ることなく発生することができ、電子は、三重項形成前にドーパントLUMOにあることができるエネルギーレベル図を示す。ドーパントHOMOが、HTL HOMOより低いなら、ΔE2は、少なくとも0.2eVであり、かつホストHOMOが、HTL HOMOより高いか、または0.1eV以下であるがHTL HOMO未満であるなら、正孔が、ホストHOMOに注入され、かつ正孔が、ドーパントHOMOへ移動することはほとんどないことが考えられる。さらに、ホストLUMOが、ETL LUMOより高く、かつΔE4が、少なくとも0.2eVであるなら、電子がホストLUMOへ移動することがエネルギー的に好ましくなく、代わりにドーパントLUMOにトラップされ、かつ/またはドーパントLUMOに輸送されることが考えられる。結果として、ETLにおける電荷キャリアは、ドーパントLUMOおよびホストHOMOに主に存在する。最終的に、図9の構成における、EMLにおける電子と正孔との間のエネルギー差である、ホストHOMOとドーパントLUMOとの差であるΔE5は、0.1eV以下であるがドーパントの三重項エネルギー未満であり、かつΔE5は、ドーパントの一重項エネルギーより少なくとも0.2eV少ないなら、発光層における電子と正孔との間のエネルギー差は、電子と正孔との間のエネルギー差が、一重項を形成するために必要なエネルギーより非常に低すぎるため、ドーパントでの三重項が、形成されることができるが、形成するためにドーパント上の一重項に関してエネルギー的に好ましくないようなものである。これらの状況は、ドーパントHOMOおよびLUMOが、ホストHOMOおよびLUMOに「入れ子」されない場合だけ(必ずしも必要でない)一般に生じることに留意されたい。図9の例において、ドーパントHOMOが、ホストHOMOより低いので入れ子が存在しない。
【0085】
図10は、三重項状態への直接注入が、一重項状態を通ることなく発生することができ、正孔は、三重項形成前にドーパントHOMOにあることができるエネルギーレベル図を示す。ホストHOMOが、HTL HOMOより低いなら、ΔE1は、少なくとも0.2eVであり、かつドーパントHOMOが、HTL HOMOより高いか、または0.1eV以下であるがHTL HOMO未満であるなら、正孔が、ドーパントHOMOに注入され、かつ正孔が、ホストHOMOへ移動することはほとんどないことが考えられる。さらに、ドーパントLUMOが、ETL LUMOより高く、かつΔE3が、少なくとも0.2eVであるなら、電子がドーパントLUMOへ移動することがエネルギー的に好ましくなく、代わりにホストLUMOにトラップされ、かつ/またはホストLUMOに輸送されることが考えられる。結果として、ETLにおける電荷キャリアは、ホストLUMOおよびドーパントHOMOに主に存在する。最終的に、図10の構成における、EMLにおける電子と正孔との間のエネルギー差である、ホストLUMOとドーパントHOMOとの差であるΔE6は、0.1eV以下であるがドーパントの三重項エネルギー未満であり、かつΔE6は、ドーパントの一重項エネルギーより少なくとも0.2eV少ないなら、発光層における電子と正孔との間のエネルギー差は、電子と正孔との間のエネルギー差が、一重項を形成するために必要なエネルギーより非常に低すぎるため、ドーパントでの三重項が、形成されることができるが、形成するためにドーパント上の一重項に関してエネルギー的に好ましくないようなものである。これらの状況は、ドーパントHOMOおよびLUMOが、ホストHOMOおよびLUMOに「入れ子」されない場合だけ(必ずしも必要でない)一般に生じることに留意されたい。図10の例において、ドーパントLUMOが、ホストLUMOより高いので入れ子が存在しない。
【0086】
より一般的には、一重項がドーパントに形成されることがある構成を避けるために、電荷キャリアが、ドーパントHOMOおよびドーパントLUMOの両方に存在することができる構成を避けることが好ましい。これは、一重項が、ドーパントのLUMOの電子およびHOMOの正孔から形成することができるように、ドーパントの一重項エネルギーが、ドーパントのHOMOとLUMOとの間の差に関連するからである。ドーパントHOMOおよびLUMOが、ホストHOMOおよびLUMO内に入れ子にされる、入れ子にされたエネルギーレベル構成は、望ましくない。なぜなら、そのような構成において、ホストまたはドーパントのいずれかのLUMOに電子、およびホストまたはドーパントのいずれかのHOMOに正孔を有する任意の電子正孔対が、ドーパントに一重項を形成するのに十分なエネルギーレベル差を有することがあるからである。
【0087】
図9および図10は、三重項形成がEML全体で可能であるため、有意な三重項形成無しに、ドーパントの三重項励起状態への直接注入を達成するための最も好ましい方法を示す。他のエネルギーレベル構成は、使用可能であり得る。例えば、三重項励起状態への注入は、ホストまたはドーパントのいずれかに、ETLのLUMOの電子およびEMI内の正孔から生じることができる。そのような構成は、一重項励起状態を避けながら三重項形成を達成するように作用することができるが、そのような三重項形成は、EML/ETL界面でだけ生じるのであまり好ましくないことがある。同様に、三重項励起状態への注入は、HTLのHOMO上の正孔、およびEMI内のホストまたはドーパントのいずれかのLUMOの電子からのHTL/EML界面で生じることがある。
【0088】
本発明の方法において、複数の材料は、例えば単一のドープされた層で同時に共に堆積されることができる。材料は、均一に堆積されることができるが、必ずしも必要ではない。他の実施形態において、材料は、エネルギーレベルが高くなる順番で順次堆積される。それら材料は、一連のドープされた層として、または一連のニート層として順次堆積されることができる。
【0089】
本明細書に記載される様々な実施形態は、例示だけの目的であり、本発明の範囲を限定することを目的とはしないことは理解される。例えば、本明細書に記載される多くの材料および構造は、本発明の精神から逸脱することなく、他の材料および構造と置き換えられることができる。また、一実施形態に関連して記載される特徴は、特定の実施形態に制限される必要はない。本発明の実施形態は、本明細書に記載される任意の適合可能な特徴を使用することができる。なぜ本発明が作用するかについての様々な理論が、制限されることを意図されないことが理解される。例えば、電荷移動に関連する理論は、制限されることを意図されない。
【0090】
材料規定
本明細書で使用されるとき、略語は、以下のように材料を参照する。
CBP:4,4’−N,N−ジカルバゾールバイフェニル
m−MTDATA:4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン
Alq:8−トリス−ヒドロキシキノリンアルミニウム
Bphen:4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン
n−BPhen:nドープされたBPhen(リチウムでドープされた)
−TCNQ:テトラフルオロテトラシアノキノンジメチレン
p−MTDATA:pドープされたm−MTDATA(F−TCNQでドープされた)
Ir(ppy):トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム
Ir(ppz):トリス(1−フェニルピラゾロト,N,C(2’)イリジウム(III))
BCP:2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン
TAZ:3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニル−1,2,4−トリアゾール
CuPc−:銅フタロシアニン
ITO:酸化インジウム錫
NPD:N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(1−ナフチル)ベンジジン
TPD:N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−トリル)ベンジジン
BAlq:アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリネート)4−フェニルフェノレート
mCP:1,3−N,N’−ジカルボゾール−ベンゼン
DCM:4−(ジシアノエチレン)−6−(4−ジメチルアミノスチリル−2−メチル)−4H−パイラン
DMQA:N,N’−ジメチルキナクリドン
PEDOT−PSS:ポリスチレンサルフォネート(PSS)を有するポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の水性分散剤
TCTA:4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−yl)トリフェニルアミン
【0091】
本発明は、特定の例および好ましい実施形態に関して記載されたが、本発明は、これら例および実施形態に制限されないことは理解される。特許請求された本発明は、したがって、当業者に明らかなように、本明細書に記載される特定の例および好ましい実施形態からの変形を含む。
【符号の説明】
【0092】
100 有機発光デバイス
110、210 基板
115、230 アノード
120 正孔注入層
125、225 正孔輸送層
130 電子遮断層
135、220 発光層
140 正孔遮断層
145 電子輸送層
150 電子注入層
155 保護層
160、215 カソード
162 第1の導電層
164 第2の導電層
200 反転OLED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機光電子デバイスであって、
a)アノードと、
b)カソードと、
c)前記アノードと前記カソードとの間に配置された発光層であって、
i)燐光ドーパントHOMOエネルギーレベル、燐光ドーパントLUMOエネルギーレベル、三重項エネルギー、および一重項エネルギーを有する燐光ドーパントと、
ii)発光層ホストHOMOエネルギーレベルおよび発光層ホストLUMOエネルギーレベルを有する発光層ホストとを含む発光層と、
d)前記発光層に隣接して配置される輸送層とを備え、
前記輸送層は複数の材料を含み、各材料はHOMOエネルギーレベル及びLUMOエネルギーレベルを有し、前記複数の材料の各々の少なくとも一のエネルギーレベルは併せて、前記発
光層の少なくとも一のエネルギーレベルにつながる一群のエネルギーステップを形成し、
該一群のエネルギーステップの各ステップは0.2eV以上ではない有機光電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−48265(P2013−48265A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−224855(P2012−224855)
【出願日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【分割の表示】特願2008−504417(P2008−504417)の分割
【原出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(591003552)ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ (68)
【出願人】(592048844)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】