説明

上半身用衣類

【課題】腕の上げ下げを楽にすると共に、裾のずれ上がり及び捲れ上がりを防止してシルエットの崩れを抑制し、着用者の体形にフィットして着心地のよい上半身用衣類を提供すること。
【解決手段】前身頃1及び後身頃2の肩部4からバスト部5を含む上部領域6および前記上部領域6から下側の下部領域7を備えた上半身用衣類であって、前記上部領域6が弾性糸を含まない糸または前記下部領域7において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成されており、前記下部領域7が前記上部領域6において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸に切り替えて編成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上半身用衣類の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、婦人用アンダーシャツなどの上半身用衣類においては、ボディー各部にフィットして美しいシルエットを出せることが要望されている。
この要望に対して、従来、同一種類の糸を使用し、ボディー各部に応じて編組織を変えることによって異なる着圧(締付力)を付与して着用者の体形にフィットさせるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−59806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のものは、同一種類の糸を使用するものであるため、次のような問題点がある。
例えば、フィット性を付与するために弾性糸を含む糸によって編成した場合、着用状態で肩部やバスト部に強い着圧が作用することになり、この状態で腕を上げ下げした際、肩部やバスト部にさらに強い緊迫力が発生して動きを妨げる傾向があり、しかも、肩部及びバスト部に繋がる脇下部及び胴部の身頃生地を引き上げることにもなるため、身頃の裾のずれ上がりが生じ、これによってウエスト周辺やバスト下部付近に生地の弛みや皺よりが発生してシルエットが崩れるという不具合がある。
【0005】
また、弾性糸を含まない他の糸によって編成した場合、単に編組織を変化させただけでは、限界があるためバスト部を含む上部領域やバスト部より下方の胴部及びウエスト部並びにヒップ部などの下部領域に対して十分なフィット性が出せない不具合がある。
本発明は、従来のものの上記問題点に鑑みて開発されたものであって、その目的とするところは、腕の上げ下げを楽にすると共に、裾のずれ上がりを防止してシルエットの崩れを抑制し、着用者の体形にフィットして着心地のよい上半身用衣類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために本発明は、前身頃及び後身頃の肩部からバスト部を含む上部領域および前記上部領域から下側の下部領域を備えた上半身用衣類であって、前記上部領域が弾性糸を含まない糸または前記下部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成されており、前記下部領域が前記上部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸に切り替えて編成されていることを特徴としている。
【0007】
この構成によれば、上部領域が弾性糸を含まない糸または前記下部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成されているため、肩部やバスト部を含む上部領域への着圧を低くしてソフトにフィットさせることができ、これに対して、下部領域が前記上部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸で編成されているため、バスト部から下側の胴部やウエスト部及びヒップ部などの下部領域への着圧を高くしてフィット性を十分に付与させることができる。
【0008】
その結果、着用状態で肩部やバスト部を含む上部領域に対する圧迫感をなくして自然な着心地が得られると共に、腕を上げ下げした際、肩部やバスト部に強い緊迫力が働くことも防止でき、動きを妨げることが少なく楽に動かすことができる。しかも、腕を上げた際、肩部やバスト部に強い引き上げ力が作用することもないため、下部領域に強い引き上げ力が波及せず、裾部のずれ上がりを防止することができ、ウエスト周辺やバスト下部付近に生地の弛みや皺よりが発生することを回避でき、シルエットの崩れを抑制し、着用者の体形にフィットして着心地のよい上半身用衣類を提供することができる。
【0009】
前記上部領域と下部領域は、バージスラインの最下点付近を切替位置として、切り替えられていればよい。なお、バージスラインとは、乳房の下輪郭に相当するラインのことであって、本発明において、このラインより上には、バスト部が前方に膨出しているため、腕の上げ下げ時にバスト部も上下し、これによって、身頃生地の肩部及びバスト部には引き上げ力が作用するが、これらの部分を含む上部領域を弾性糸を含まない糸または下部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成して着圧を低くし、ソフトにフィットさせるようにしているため、これらの動きを妨げることが抑制され、しかも、下部領域に引き上げ力が波及することを緩和させることができる。そして、下部領域は上部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸で編成してフィット性を高めているため、裾部のずれ上がりを少なくし、シルエットの崩れを抑制することができる。
【0010】
また、前記下部領域となる下端は、裾部とされ、この裾部は、他の下部領域よりも繊度の大きい弾性糸で構成されているのが好ましい。これにより、裾部のずり上がりだけでなく、捲れ上がりを防止することができる。
さらに、前記上部領域及び下部領域で構成される身頃生地は円筒生地から裁断されており、前記円筒生地はフライス編機のガーメントレングス編機により編成されていてもよい。この構成によれば、量産化によるコストダウンが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腕の上げ下げを楽にすると共に、裾のずれ上がりを防止してシルエットの崩れを抑制し、着用者の体形にフィットして着心地のよい上半身用衣類を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る上半身用衣類の一実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る上半身用衣類の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、婦人用アンダーシャツに本発明を適用した実施形態を例示しており、前身頃1と後身頃2と袖部3とを備えている。
前身頃1と後身頃2は、肩部4からバスト部5を含む上部領域6が弾性糸を含まない糸、例えば、綿糸、絹糸、ポリエステル糸、その他、弾性糸以外の糸または下部領域7において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成されており、この上部領域6よりも下側の下部領域7が上部領域6において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸で編成されている。
【0014】
前記上部領域6と下部領域7の境目である糸の切替位置8は、この種、上半身衣類の標準体形の規格サイズにおけるバージスライン10の最下点付近に設定されているのが好ましく、この位置が、バージスライン10の最下点より上になると、バスト部5への着圧が強くなり、また、低くなると、バスト部より下側の胴部やウエスト部などの下部領域7に対するフィット性が低下するので好ましくないため、婦人用アンダーシャツの標準体形の規格サイズにおけるバストトップ部から所定寸法下方の位置、例えば、約2〜6cm下方の位置とされる。
【0015】
また、前記下部領域7となる下端は、裾部9とされ、この裾部9は、他の下部領域7よりも繊度の大きい弾性糸で構成されているのが好ましい。
そして、下部領域7に用いられている弾性糸は、ポリウレタン糸を芯糸とし、その周囲を別の糸(例えば、ナイロンフィラメント糸)で被覆したSCY(シングルカバリングヤーン)で構成されているのが好ましい。この弾性糸としては、例えば、10〜40デシテックスのポリウレタン糸に30〜90デシテックスのナイロンフィラメント糸をカバリングしたものが使用される。
【0016】
前身頃1及び後身頃2は、丸編機で筒状に編成され、その際、上部領域6が前記弾性糸以外の糸(例えば、綿糸)または下部領域7において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成され、下部領域7については、上部領域6において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸に切り替えて編成され、裾部9については、さらに繊度の大きい弾性糸に切り替えて編成される。なお、裾部9は、必ずしも繊度大きい弾性糸に切り替えて編成しなくても下部領域7と同じ繊度の弾性糸で編成してもよい。
【0017】
前身頃1及び後身頃2に対して、袖部3は、別に生地取り裁断されて脇刳り部に縫着などで取り付けられている。
前身頃1及び後身頃2の編組織は、特に制約がなく、例えば、平編み、フライス編み(1/1ゴム編み)、その他の編組織を適宜採用することができる。
前身頃1及び後身頃2を丸編機で編成すれば、両者の縫い合わせを省略することができると共に、上部領域6と下部領域7を一連に編成することができるため、これらの領域に対する縫製などの接合工程を省略することができ、段差の発生も回避できる。
【0018】
具体的には、前記上部領域6及び下部領域7で構成される身頃生地は円筒生地から裁断されており、前記円筒生地はフライス編機のガーメントレングス編機により編成されている。
以上説明したように、本発明に係る上半身用衣類の実施形態によれば、上部領域6が弾性糸を含まない糸または下部領域7において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成されているため、肩部4やバスト部5を含む上部領域6への着圧を低くしてソフトにフィットさせることができ、これに対して、下部領域7が上部領域6において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸で編成されているため、バスト部5から下側の胴部やウエスト部及びヒップ部などの下部領域7への着圧を高くしてフィット性を十分に付与させることができる。
【0019】
その結果、着用状態で肩部4やバスト部5を含む上部領域6に対する圧迫感をなくして自然な着心地が得られると共に、腕を上げ下げした際、肩部4やバスト部5に強い緊迫力が働くことも防止でき、動きを妨げることが少なく楽に動かすことができる。しかも、腕を上げた際、肩部4やバスト部5に強い引き上げ力が作用することもないため、下部領域7に強い引き上げ力が波及せず、裾部9のずれ上がりを防止することができ、ウエスト周辺やバスト下部付近に生地の弛みや皺よりが発生することを回避でき、シルエットの崩れを抑制し、着用者の体形にフィットして着心地のよい上半身用衣類を提供することができる。
【0020】
前記上部領域6と下部領域7の境目である糸の切替位置8は、バージスライン10の最下点付近に設定されていればよい。このバージスライン10の最下点より上には、バスト部5が前方に膨出しているため、腕の上げ下げ時にバスト部5も上下し、これによって、身頃生地の肩部4及びバスト部5には引き上げ力が作用するが、これらの部分を含む上部領域6を弾性糸を含まない糸または下部領域7において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成して着圧を低くし、ソフトにフィットさせるようにしているため、これらの動きを妨げることが抑制され、しかも、下部領域7に引き上げ力が波及することを緩和させることができる。そして、下部領域7は上部領域6において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸で編成してフィット性を高めているため、裾部9のずれ上がりを少なくし、シルエットの崩れを抑制することができる。
【0021】
また、前記下部領域7となる下端は、裾部9とされ、この裾部9は、他の下部領域7よりも繊度の大きい弾性糸で構成されているのが好ましい。これにより、裾部9のずり上がりだけでなく、捲れ上がりを一防止することができる。
さらに、前記弾性糸は、ポリウレタン糸を芯糸とし、その周囲を別の糸で被覆したSCYで構成されているのが好ましい。この糸は、芯糸の周囲を別の糸で被覆しているため、肌触りをソフトで良好なものとすることができる。例えば、30〜70デシテックスのポリウレタン糸に30〜90デシテックスのナイロンフィラメント糸をカバリングしたものが使用される。
【0022】
本発明の実施形態は、以上からなるが、本発明は、この実施形態にのみ制約されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で自由に変更して実施することができ、例えば、丸編機で編成された生地ではなく、平編機で編成された生地を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、婦人用アンダーシャツなどの上半身用インナーウエアに適用して好適であるが、Tシャツやタンクトップ、セーター類などのアウターウエアに適用してもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 前身頃
2 後身頃
3 袖部
4 肩部
5 バスト部
6 上部領域
7 下部領域
8 切替位置
9 裾部
10 バージスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃及び後身頃の肩部からバスト部を含む上部領域および前記上部領域から下側の下部領域を備えた上半身用衣類であって、前記上部領域が弾性糸を含まない糸または前記下部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の小さい弾性糸で編成されており、前記下部領域が前記上部領域において用いられる弾性糸よりも繊度の大きい弾性糸に切り替えて編成されていることを特徴とする上半身用衣類。
【請求項2】
前記上部領域と下部領域は、バージスラインの最下点付近を糸の切替位置とされていることを特徴とする請求項1に記載の上半身用衣類。
【請求項3】
前記下部領域となる下端は、裾部とされ、この裾部は、他の下部領域よりも繊度の大きい弾性糸で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の上半身用衣類。
【請求項4】
前記上部領域及び下部領域で構成される身頃生地は円筒生地から裁断されており、前記円筒生地はフライス編機のガーメントレングス編機により編成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の上半身用衣類。

【図1】
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【公開番号】特開2011−214189(P2011−214189A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83425(P2010−83425)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】