説明

上水道一次水利用気化熱冷却システム

【課題】
ヒートアイランド現象の悪循環を断ち切り、都市で生活している人に省エネルギで快適な生活を与える上水道一次水利用気化熱冷却システムを提供する。
【解決手段】
上水道一次水または地下水を、建造物の外壁面または屋根材の全面に散水する上水道一次水利用気化熱冷却システムである。直射光が当たる外壁面または直射光が入る窓などに水を霧状に散水する。噴霧された水は、太陽からの直射日光を吸収するとともに、気化されて蒸発する。この結果、建造物の外壁面または窓への太陽光の照りつけを抑え、外壁面または室内の温度上昇を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は上水道一次水利用気化熱冷却システム、詳しくは建造物の環境対策を施す上水道一次水利用気化熱冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
夏の暑い時期、都市の中心部は郊外に比較して気温が高くなるヒートアイランド現象が生じる。ヒートランド現象が生ずる理由は、以下の点が挙げられる。
(1)アスファルトの道路は昼間の太陽の熱射で深層まで高温となり、夜間に蓄積された熱が放出される。
(2)樹木は大量の水を空気中に排出している。緑地面積が小さくなると、植物や地表からの水分の蒸発量が減少し、蒸発潜熱が減少する。
(3)都市への人口の集中により各種のエネルギの使用量が増え、排熱量が増加する。
(4)構想建物などの壁面で多重反射するため、都市の構造物が加熱されやすくなる。
【0003】
上記ヒートアイランド対策として、光触媒の方法によって、ビルなどの建造物を冷却するシステム(非特許文献1参照)が知られている。この方法は、まず、光によって親水性となる酸化チタンを屋根に施す(塗布する)。そこにわずかな水を流し、水は薄く表面をすき間無く覆う。そして、この水が気化熱を奪って蒸発し、建造物の温度を低下させる。
【0004】
【非特許文献1】中日新聞、”屋根を光触媒で覆い打ち水”、[online]、平成15年7月、中日新聞記事、[平成15年11月13日検索]、インターネット<URL:http://www.chunichi.co.jp/banpaku/topics/2003/0709-1.html>
【0005】
一方、冬の豪雪地帯では、商店街のアーケードや住宅の建造物の屋根に多量の雪が積もる。北海道や東北の地方では、一般的に数メートルの積雪が観測される。屋根に積もった雪を必要に応じて除去しないと結果的に建造物の損壊に至る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記光触媒による方法において、酸化チタンの受光体にゴミや異物が付着する場合が生じる。このゴミや異物がある状態では、太陽光の受光から乱反射する。これにより、水の蒸発効率が低下する。この受光体の内部(裏側)の温度、すなわち建造物の外壁面の温度などが上昇する。しかも、この受光体を設置するコストが高い。そして、耐用年数の問題もある。
また、特に都市部において、酸性雨が降ってくる場合がある。酸性雨とは、大気汚染物質の窒素酸化物や硫黄酸化物が溶け込んで降る雨である。外壁面を形成するコンクリートは、この酸性雨によって、ひび割れ、鉄筋など腐食を引きおこす。そして、結果的に外壁面の耐用年数を低下させる。
豪雪地帯の建造物の屋根に積もった雪を除去するには、人出で雪おろしを行っていた。雪下ろしは、多くの人出、時間、費用等が必要である。また、雪下ろしの屋根からの転落などの事故が起こりやすい。
【0007】
この発明は、建造物の外壁面の温度上昇および室内の気温上昇となる太陽光の照りつけを抑える上水道一次水利用気化熱冷却システムを提供することを目的とする。
また、この発明は、酸性雨が降った場合においても、建造物の外壁面などを保全する上水道一次水利用気化熱冷却システムを提供することを目的とする。
また、この発明は、商店街のアーケードまたは住宅の屋根の積雪を融雪する上水道一次水利用気化熱冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、上水道一次水または地下水を、建造物の外壁面、屋根材の全面、それらの周囲に向かって噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システムである。
上水道一次水は、飲み水に使用されている水である。地下水は井戸から汲み上げた水である。また、雨水をいったん貯留して使用してもよい。
建造物は、例えば商業施設、ビル、一戸建て住宅、集合住宅(アパートおよびマンション)などである、外壁面とは、建造物の壁材(壁面)、窓などが挙げられる。屋根材とは、ビルの屋上、庇などを含む。
建造物の外壁面または屋根材の全面に、水を通流するためのパイプが設けられる。パイプには、外壁面や窓の周囲またはこれらに直接水を噴霧する噴霧口が配設される。噴霧口は、直径が略1mmまたは略0.5mmの貫通孔で構成される。パイプの素材は限定されない。例えば、プラスチック(塩ビ)製のパイプであれば、コストもあまりかからない。
寒冷地では、水が凍結しないようにパイプに断熱材を巻いて使用するとよい。上流側のパイプ(高層階のパイプ)の径を大きく、下流側のパイプ(下層階のパイプ)の径を上流側よりも小さくする。上流側から下流側まで外壁面に対して略均等に散水を可能とするためである。また、噴霧口は、パイプに沿って微小な貫通孔を多数設けることで構成する。貫通孔の開口面積をこのように小さく形成することで、水が噴霧口から勢いよく霧状に噴出することとなる。水圧も水を噴霧できるように設定する。
そして、上記上水道一次水または地下水が噴霧される。噴霧量は、気候や気温により適宜選択される。気候や気温により、常時噴霧または複数回に分けて所定期間噴霧してもよい。噴霧を複数に分ける回数は限定されない。
【0009】
請求項1に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムにあっては、建造物の外壁面または屋根材の全面およびこれらの周囲に向かって水を噴霧して散水する。噴霧された水は、太陽光を吸収するとともに、気化されて蒸発する。また、噴霧された水は、外壁面などに付着し、太陽光により気化されて蒸発する。また、外壁面に付着された水は、外壁面の温度を奪って気化される。この結果、太陽光の照りつけによる外壁面の温度上昇を抑えることができる。
また、室内へ差し込む太陽光も抑えられ、室内の温度上昇を抑えることができる。これにより、エアコンの設定温度を低めに設定しなくてもよく、エアコンの電力消費量が低減することができる。この結果、エネルギの消費量が低減し、ヒートアイランドの悪循環を断ち切ることができる。
建造物の外壁面または屋根材への噴霧は、この建造物の外壁面また屋根材の洗浄(清掃)をも兼ねることができる。酸性雨が降った場合でも、水を噴霧することにより、外壁面に残った酸性雨を取り除くことができる。これにより、ビルの外壁面などの保全をすることができる。
ビル清掃の費用も削減することができる。さらに、建造物内で生活する人が窓への噴霧の状態を観察すると、清涼感を感じることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、建造物の屋内外には貯水槽が配設され、上記散水された水をこの貯水槽に貯水する請求項1に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムである。
貯水槽の位置は限定されない。屋上でもよいし、地下でもよい。また、屋外でもよいし、屋内でもよい。上水道一次水などの噴霧口は、建造物の外壁面または屋根材の最上部に設けられる。
【0011】
請求項2に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムにあっては、建造物の外壁面または屋根材の最上部には、これらの全面およびその周囲に噴霧する噴霧口が設けられる。また、建造物に噴霧した水を集めて貯水する貯水槽を配設する。そして、貯水槽からは上水道一次水や、使用後の水などを噴霧口に供給する。噴霧口から、上水道一次水などは、建造物の外壁面または屋根材の全面に噴霧される。噴霧した水は、地上に設けられた樋などにより集められる。そして、濾過されてきれいな水となりまた貯水槽に戻される。戻された水は、この貯水槽から再び噴霧口に供給される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、上記貯水槽に貯水された水をトイレ洗浄水タンクに導き、トイレ洗浄水の水として利用する請求項2に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムである。
上水道水をいったん噴霧した後これを集め、この使用後の水および雨水をビル内のトイレ用の水として利用する。貯水タンクからパイプでトイレへの給水管とを接続し、ポンプで揚水、配水する。
【0013】
請求項3に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムにあっては、渇水対策、地震などの災害時ライフラインの寸断により、水道水が断水する場合ある。このとき、学校、役所、病院などの公共施設においてトイレが使用できない場合が生じる。
そこで、上記貯水槽に貯水された水を、建造物内に存在する各トイレに配設されているトイレ洗浄水タンクに供給する。よって、上記建造物の冷却水をトイレ洗浄用の水として利用することができる。貯水槽とトイレ洗浄水タンクとを接続するのである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、上記建造物は雨水の貯水槽を有し、この貯水槽の雨水を上記建造物の外壁面または屋根材の全面に噴霧して散水する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムである。
建造物には、雨水を集めてこれを貯水する貯水槽が設けられる。雨水を集める手段は限定されない。例えば、屋根に雨樋を設け、これに流れてきた雨水を集めて貯水槽に貯水する。この貯水した雨水を散水するのである。これは水道水の散水系と別系統(パラレル)にて構成することができる。
【0015】
請求項4に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムにあっては、建造物に降ってきた雨を貯水する貯水槽を設ける。そして、この貯水槽に貯水された雨水を、建造物の外壁面または屋根材の全面に噴霧する水として利用する。またはトイレ洗浄水として利用する。これにより、上水道一次水を使用せず、資源の無駄使いが低減できる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、上水道一次水または地下水を、空調機の室外機の温風排出部の前に噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システムである。温風排出部まで貯水槽からパイプを引いてくるのである。
【0017】
請求項5に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムにあっては、エアコン(空調機)の室外機の温風排出部に水を噴霧する。これにより、空調機の室外機の温風排出部から排出される排気の温度を低下させる。よって、屋外の温度上昇を抑えることができ、ひいてはエアコンの電力消費も低減できる。そして、省エネルギ化が図れる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、上記上水道一次水または地下水を、アーケードの頂部または戸建て建物の屋根の頂部の散水口からこれらの屋根に噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システムである。頂部までは貯水槽からポンプで揚水する。
【0019】
請求項6に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムにあっては、アーケードの頂部または戸建て建物の屋根の頂部に上水道一次水などの散水口を設ける。そして、屋根に向かって噴霧口から上水道一次水を噴霧する。これにより、寒冷時には、屋根に積もった積雪を融雪することができる。また、夏の暑い時期または湿度の高い時期には、アーケードまたは戸建て建物の屋根の頂部の噴霧口から水を噴霧させることにより、アーケード内または戸建て建物内の温度上昇を抑えることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、上記上水道一次水または雨水を、道路に噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システムである。アスファルト路面の温度上昇を阻止する。貯水槽からパイプにより貯水を導き路面に散水する。
【0021】
請求項7に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システムにあっては、一般道路、都市高速道および高速道などの道路一面に噴霧して散水を施す。車道、歩道およびグリーンベルト上の街路樹などに対しても散水することができる。公園に設置したスプリンクラなどへの給水をこの貯水槽から行うことも可能である。この結果、太陽光の直射光の照りつけを抑え、道路などの温度上昇を抑えることができる。また、散水により道路に堆積して埃などを流して空気を清浄化することも可能である。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、建造物には、その建造物の外壁面または屋根材の全面およびこれらの周囲に向かって水を噴霧する噴霧口が設けられる。そして、建造物の外壁面または屋根材の全面およびその周囲に水を噴霧して散水する。噴霧された水は、太陽からの直射日光を吸収するとともに、気化されて蒸発する。これにより、建造物の外壁面または窓への太陽光の照りつけを抑え、外壁面または室内の温度上昇を抑えることができる。
また、室内への直射日光も抑えられ、室内の温度上昇を抑えることができる。しかも、エアコンの設定温度を低く設定しなくてもよく、エアコンの電力消費量を低減することができる。この結果、エネルギの消費量が低減し、ヒートアイランド現象の悪循環を断ち切ることができる。
さらに、建造物の外壁面または屋根材への噴霧は、この建造物の外壁面また屋根材の洗浄をも兼ねることができる。酸性雨が降った場合でも、水を壁面に噴霧することにより、外壁面に残った酸性雨を取り除くことができる。これにより、ビルの外壁面などを保全することができる。
さらに、豪雪地帯においては、アーケードの頂部または戸建て建物の屋根の頂部に上水道一次水の噴霧口を設ける。そして、屋根に向かって噴霧口から上水道一次水を噴出する。これにより、寒冷時、屋根に積もった積雪を融雪することができる。雪下ろしのための多くの人出、時間、費用等が不要である。
【実施例1】
【0023】
以下、この発明の一実施例を、図1から図9を参照して説明する。
図1に示すように、本実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムは、建造物であるビル10に以下の設備を備えて構成されている。すなわち、ビル10の屋上または地下に、例えば直方体形状の貯水槽11が配設されている。この貯水槽11には、図示しない上水道の水道管が連結されている。貯水槽11には、槽内の水の温度が上昇しないように図示しない断熱材で被覆されている。
または、ビル10の屋上の床面に雨樋15を形成し、この雨樋15を貯水槽11に連結してもよい。これにより、貯水槽11の槽内には、上水道一次水、地下水または雨水が貯水される。
上記屋上の貯水槽11に送水口17を設け、この送水口17から地上に向かって、直径が略20cmのメインの垂直なパイプ13aが配設される。そして、このメインのパイプ13aから各階にそれぞれ直径が略3〜5cmの水平に延びるパイプ13bが配設される。パイプ13bは、各階の外壁面14aまたは窓の最上部でこのビルを囲むように全面に沿って形成される。上流側のパイプは、径が大きく、下流側ほど小さい。メインのパイプ13aから径の小さいパイプ13bに通流するように接続される。パイプ13bには、略直径1〜0.5mmの図示しない噴霧口が、その長さ方向に沿ってその外壁面14aおよび窓14b面およびそれらの周囲に向かって多数形成されている。
ビル10の地上部分には、外壁面14aまたは窓14b面を伝って流出してきた水を集める雨樋15が配設されている。雨樋15は、ビル10の外壁面14aにこれを取り囲むように外面に沿って形成されている。また、雨樋15に集められた水を図示しないポンプによって、上記貯水槽11に戻す図示しないパイプも配設されている。これにより、貯水槽11を心臓部として、ビル10内の壁面や窓14bに沿ってパイプ13bが張り巡らされる。最上階のパイプの噴霧口の口径は、その下層階のパイプのそれより大きい。これは下層階の外壁面は上層階の水が流れ落ちてくるから、最上階の噴霧水量を最大としたものである。
また、これらの散水システムでは適宜ポンプおよびバルブを配設し、これらを例えば制御盤などで遠隔操作可能としている。また、散水状況についてはカメラなでモニタリングする構成とできる。さらに、温度センサ、水量センサなども配置することができる。天候などの気象状況に応じて散水を制御するものとできる。
【0024】
次に、建造物への水の噴霧方法について図1を参照して説明する。
まず、上水道の一次水などを貯水槽11に所定量だけ貯水する。上水道の一次水は水道管から供給する。同時に屋上に降った雨は、雨樋15により集められて貯水槽11に貯水される。雨水には、ゴミや不純物を含んでいるので、これを濾過して使用する。井戸水などの地下水を使用する場合は、地下に貯水槽11を設け、地下水を汲み上げてこれを貯水槽11に貯水する。そして、この貯水槽11から屋上までポンプなどにより水を汲み上げて、屋上の貯水槽11に貯水する。
次いで、図1に示すように、まず、例えばコンピュータ制御によりポンプを駆動して貯水槽の水を送水口17から送水する。送水された水は、メインの縦パイプ13aに通流される。そして、メインのパイプ13aから各階にそれぞれ設けられた横パイプ13bに送水される。水は、径の大きいパイプ13aから径の小さいパイプ13bに送水される。これにより、高圧水になり、外壁面を取り囲むパイプの噴霧口から勢いよく水が噴出される。噴霧口は、微小な貫通孔が多数設けられて構成されている。よって、水を霧状に噴出して散水できる。このようにして、図示しない噴霧口から、ビル10の外壁面14a、屋根材または窓14b面に直接またはこれらの周囲に向かって水が噴霧される。
噴霧された水は、太陽光の温度を吸収するとともに気化されて蒸発する。また、噴霧された水は、外壁面などに付着し気化されて蒸発する。これにより、太陽の直射光が抑えられ、建造物の壁面14aまたは窓ガラス14bの温度上昇が抑えられる。特に、太陽の直射光を受けやすい南、東、西側の外壁面または窓に、多量に水を噴霧すると効果的である。また、室内への直射光も抑えられ、室内の温度上昇を抑えることができる。この散水の結果外気温が低下して、室内エアコンの設定温度を必要以上に低く設定しなくても十分に室内温度を下げることができ、エアコンでの電力消費量を低減することができる。
この後、噴霧した水は、外壁面14aまたは窓14bに沿って地上へ向かって流れる。地上へ流れた水は雨樋15で集められ、その水は再び貯水槽11に戻される。これにより、水は、ビルの外壁面13bなどに噴霧されながら、貯水槽11を心臓部としてビル内外を循環することとなる。
また、ビル10の窓14bの上部にもパイプ13bが形成される。このパイプ13bには噴霧口を備えており、これから水が窓14bに向かって噴出される。これにより、窓14bの温度上昇を抑えるとともに、窓ガラス14bの洗浄も兼用することできる。このとき、窓ガラス14b全面にに水が流れることにより、ビル10内で生活している人に清涼感を与えることができる。
さらに、都市部は大気汚染などにより、酸性雨が降ってくる場合がある。ビルの外壁面を形成しているコンクリートは、この酸性雨によって、ひび割れ、鉄筋など腐食を引きおこす。そして、結果的に外壁面の耐用年数を低下させる。そこで、上記、ビルの外壁面に水を噴霧させて酸性雨の成分を流し落とす。
具体的には、屋上に図示しない酸性雨の感知器を設置する。この感知器が、pH3.6以下の酸性雨(強酸性雨)を検知する。すると、雨が止んだ後に、上記水の噴霧を外壁面などに施して、酸性雨を流し落とす。これにより、ビルの外壁面などを保全することができる。また、これらの耐用年数を延ばすことができる。なお、酸性雨については雨樋で集め、下水道に放流して、再使用は行わない。これは、システムのパイプおよび貯水槽に設けたバルブの操作などによる。
パイプ13bから流す水の量は、天候や気温によって適宜選択される。噴霧の時間・回数を複数に分けてもよい。寒冷時には、窓14bの霜取りのために水を噴霧してもよい。
また、水を流すことで水流音を発生させ、周辺からの騒音を遮音させてもよい。
貯水槽11の水は、ビルの温度低減用に限られず、ビル10内各階に設けたトイレの図示しない洗浄タンクの代わりに用いることもできる。渇水対策、地震などの災害時ライフラインの寸断により、水道水が断水する場合ある。この場合であっても、トイレが使用できる。このシステムは、学校、役所、病院などの公共施設に適用すると有効である。
さらには、貯水槽11の水は、火災時のスプリンクラーの水として使用してもよい。
【0025】
上記上水道一次水利用気化熱冷却システムをエアコンの室外機30の熱交換に応用した。次に、これについて図2(a)および図2(b)を参照して説明する。
図2(a)および図2(b)に示すように、エアコンには、縦置き型の室外機30が設けられる。この室外機に対して貯水槽の水を使用する。
室外機30の内部には、図示しない熱交換器が設けられている。この熱交換器は、エアコン内部の冷媒を取り込み、室外機30内の図示しないファンにより冷媒を凝縮して室内での空気と熱交換を行い室内を冷却する。このとき、ファンによる冷媒の冷却時に、室外機30の垂直面に開口した温風排出口35から外へ温風が水平方向に排出される。このため、室外機30は、屋外の開放された空間に配置される。
しかし、この温風の排出は、周囲の気温を上昇させる。気温がさらに上昇すると、エアコンの設定温度をより低めに設定し、エアコンの消費電力も大きくなる。また、温風の排出量も大きくなり、さらに気温が上昇するという悪循環を引き起こす。
そこで、室外機30から排出される温風の温度を低下させて上記問題を解決できるようにした。このため、エアコンの室外機30に、以下の装置を取り付けた。すなわち、室外機30は、外気を取り込みまたは外気へ温風を排出する温風排出口35を有している。この室外機30には、室内へ送風する室内送風用パイプ34が設けられる。そして、室外機30の温風排出部35の前面に沿って至近距離離れて袋状のネット32体が設けられる。
ネット体32の本体54の素材は、金属たわし状のステンレス金属線材と、銅スクラップとを混合して使用する。銅スクラップは、銅製品切削加工での削りかすを利用する。本体54の表裏面には、耐熱性カーボン繊維で形成されたメッシュネット50が配設される。メッシュネット50の網目の大きさは、略0.3mm〜0.5mmである。
ネット体32の上部には、ネット体32の全面に水を通流させるパイプ52が配設される。例えば上記貯水槽に接続されたパイプ52には、図示しない複数の噴霧口53が設けられている。ネット体32の下方には、箱形状の樋57が配設される。樋57には、この水(温水)を排水する排水管58が設けられる。
【0026】
次に、室外機30から温風の冷却方法について図2(a)および図2(b)を参照して説明する。
室内のエアコンが作動すると、室外機30内の図示しないファンが回転する。そして、室外機30の温風排出部35から温風が排出される。排出された温風は、室外機30の温風排出部35に設けられたネット体32を通過する。温風は、そのまま直進せず、ネット体32の本体54に当接されながらこのネット体32を通過する。
このとき、ネット体32の上部に設けられたパイプ52の噴霧口53から水が噴霧される。そして、ネット体32の全面に水が噴霧される。ネット体32に噴霧された水は、箱形状の樋57に集められ、そして排水管58から排水される。温風は、水に冷却されながらネット体32内を通過する。これにより、室外機30から排出される温風の温度を低減することができる。特に、飲食店など各店舗または集合住宅などに設けられたエアコンが密集している場合に、気温の上昇を抑えることができる。
ネット体32の銅スクラップ54は、空気中にさらされると酸化される。これに水が加わると、微量の銅イオンが水中に溶け出す。この銅イオンは、ネット体32内の細菌の繁殖を防止する。
【0027】
上記縦置きの室外機30からの温風の冷却方法は、ビルの屋上などに設置されている熱風を上方に噴出する室外機30にも適用することができる。すなわち、図3に示すように、ビルに設置される室外機30は、一般的に円筒形状を有し、この円筒形状の上部に温風排出部35が設けられる。そして、この温風排出部35の上方には、これを覆い、温風の吹き出し方向を変更するフード61が設けられる。フードは略90度屈曲している。このフードが配設されることにより、室外機を雨、雪などから保護して耐用年数を延ばすことができる。さらに、フード61先端には、温風を下方に吹き出すダクト62が設けられる。また、ダクト62の先端には、温風を外へ排出するファン67が設けられている。
そして、上記フード61の上部排出口には、ネット体32がフード61ない空間流通路の全面を覆うように配設される。ネット体は上述と同様に熱交換可能に金属スクラップなどを保持している。このネット体32には散水用の水が、ネット体32の上方に設けられたノズル35から供給される。散水用の水は、雨水を集水器65で集めて、これを雨水用貯水槽63に貯水し、そして、ポンプ66を用いて雨水用貯水槽63から供給するようにする。少雨の場合、散水用の水は、屋上に設けられた貯水槽11から供給するようにしてもよい。なお、雨水の雨水貯水槽63への貯水は、雨の降り始めから20分から30分後に貯水を開始するとよい。ネット体32に供給された水は、回収されて二次濾過装置64に供給される。そして、水はこの二次濾過装置64にて濾過されて、トイレ用の洗浄水などに二次利用される。
次に、室外機30の冷却方法について図3を参照して説明する。
冷房時には、室外機30の温風排出部35から温風が上方に排出する。温風はフード61を経由してネット体32を通過する。このとき、ネット体32には、屋上に設置された雨水貯水槽63または貯水槽11などより1次水が供給される。1次水は、貯水槽11または雨水用貯水槽63により通流管52を介して上方に揚水されて、ネット体32の上方に設けられたノズル53から噴霧される。よって、室外機30から排出された温風は、水が噴霧されたネット体32に当接されながら冷却される。この後、冷却された温風は、ダクト62のファン67を介して外へ排出される。これにより、室外機30からの温風の排出による気温上昇を抑えることができる。
【0028】
上記システムは、図4に示すように、戸建て建物20にも適用することができる。まず、貯水槽11を戸建て建物20の屋外または地下に設置する。この貯水槽11には、図示しない水道管が連結されている。
そして、この貯水槽11を中心に、この住宅の外壁面14aの上部または屋根21の頂部には、パイプ13bが配設される。また、窓14bや玄関にもパイプ13bが配設される。パイプ13bには、外壁面14aや窓14bに向かって水を噴出する図示しない散水口が設けられている。
貯水槽11からメインのパイプ13aに上水道一次水を送水する。メインのパイプ13a送水された水は、外壁面14aの最上部または屋根21の頂部に設けられたパイプ13bにそれぞれ送水される。そして、各パイプ13bの散水口から外壁面14aまたは屋根21に向かって水が噴霧される。これにより、夏期においては、外壁面14aまたは窓14bの全面に水が噴霧され、太陽光の直射光の照りつけを抑え、戸建て建物20の温度上昇を抑えることができる。
また、豪雪地帯においては、戸建て建物20の屋根21に多量に積雪する。屋根21から積雪を除去しないと、戸建て建物20の損壊に至る。そこで、屋根21のパイプ45に散水口を設け、この散水口から水を噴出させる。これにより、住宅の屋根21の積雪を融雪することができる。
寒冷地の水道管は、温暖地方より地下深く埋設されている。このため、温暖地方の水道管の水よりも水温が高い。また、水道管の水圧も高めに設定している。よって、融雪時に水が凍結することもない。
【0029】
次に、商店街のアーケードの上水道一次水利用気化熱冷却システムについて図5を参照して説明する。
図5に示すように、アーチ形アーケード40の屋根21の最頂部には、アーケード40の形成方向に沿って、直径が略3〜5cmのパイプ45が配設されている。このパイプ45には、アーケードの両側曲面に沿って、直径が略2.5cm〜3cmの図示しない散水口が多数設けられている。アーケード40内のある店舗44には貯水槽11が設けられている。貯水槽11には、図示しない水道管が連結されている。この貯水槽11からパイプ45に送水する送水管43が、アーケードの支柱46および屋根21の内面に沿って設けられる。アーケード40の屋根21の両端部には、雨樋15がアーケード40の形成方向に沿ってそれぞれ設けられる。
次に、アーケード40の屋根21の雪を融雪する方法について説明する。
ある店舗44に設けられた貯水槽11に、図示しない水道管から上水道一次水が貯水される。貯水された水は、送水管43に送水され、アーケード40の屋根の頂部のパイプ45に送水される。そして、アーケード40の形成方向に向かってパイプ45に水が送水される。パイプ45に送水された水は、このパイプ45の図示しない散水口から勢いよく屋根21に向かって散水される。これにより、屋根21に積もった雪は散水された水によって融雪される。そして、アーケード40の屋根21から雪が除去される。
上記散水は、降雪量の多少により、水量を調節して融雪することができる。雪は水で溶かされて除去されるので、除去した雪がアーケード40の通り道に落下し放置されることもなく、交通の妨げになることもない。
夏期には、このアーケード40の屋根21に水を噴霧して散水する。これにより、アーケード40内への太陽光の照りつけによる温度上昇を抑えることができる。また、アーケード40の屋根21の素材を断熱材で形成すると、上記噴霧による冷却と併用してアーケード40内の気温を低減できる。よって、各店舗44のエアコンの設定温度を低くする必要がなく、電力消費が低減できる。
アーケード40の屋根21に水が流れるのを見て、アーケード40の買い物客に清涼感を与えるようにしてもよい。清涼感を与えるためには、屋根21を透明にして、アーケード40内からこの屋根21に水が流れるのを観測できるようにする。水に色を付けて通流させると、アーケード40が華やかになる。
さらに、店舗44に設けられた貯水槽11の水を、店舗44に設置されたトイレ用の洗浄水として使用することができる。また、防火用の水としても使用することができる。
【0030】
次に、太陽エネルギを利用したソーラ式発電を建造物の屋上に設置した場合について説明する。このソーラーシステムと上記散水冷却システムを同時に備えることができる。
ソーラ式発電システムで使用される太陽光を取り込むモジュール71は、通常の建造物の屋上に設置される。そして、このモジュール71は、太陽光の向き、すなわち、日の出時には東向き、日の入り時には西向き、その翌日には西向きから東向きになるように設置される。そこで、図6に示すように、モジュール71を架台72に設置し、この架台72をビル10の屋上の床面から離して設置する。架台72は、太陽の向きによりモジュール71の受光角度を変えるように可動式(シーソー式)とする。これにより、ソーラ式発電システムを取り入れるとともに、気化熱冷却システムを建造物に同時に取り込むことができる。
【0031】
次に、道路に散水する上水道一次水利用気化熱冷却システムについて説明する。
図7および図8に示すように、上水道一次水または道路74上に降った雨水であって、従来、雨水専用排水溝75より河川などに流していた雨水を貯水する貯水槽11が測道側の歩道80の地下に設けられている。
この貯水槽11への貯水は、歩道80の地下に排水溝75およびU字溝76を配設し、道路74上に雨が降ると、雨水をこの排水溝75およびU字溝76を介して貯水槽11へ供給して行う。
一方、道路74の中央分離帯79には、散水管77が道路に沿って配設される。散水管77には、上記貯水槽11を介して、上記雨水が供給される。散水管77には、道路74上の一面に噴霧して散水を行う多数の散水口78が配設されている。
そして、晴天時には、貯水槽11から貯水した上水道一次水または雨水を散水管77に流す。これにより、散水口78から道路74の路面に散水される。なお、車道74、歩道80およびグリーンベルト上の街路樹などに対しても散水することができる。散水口を中央分離帯の高いところに設置し、中央分離帯より低い歩道や測道などに貯水槽11を設けるようにすれば、道路の一面に散水できることができる。この結果、太陽光の直射光の照りつけを抑え、路面74の温度上昇を抑えることができる。また、散水により路面74に堆積した埃などを流して空気を清浄化することも可能である。
寒冷地においては、貯水される上水道一次水または雨水の代わりに道路74に積もった雪から溶けた水を使用してもよい。寒冷地においては、上記システムを用いて、道路74上の積雪を溶かすようにしてもよい。
【0032】
上記道路上の散水システムは都市高速道などの高架上の道路にも適用することができる。
具体的には、高架の高速道路81の側壁84部分に、散水管82を道路に沿って配設する。散水管82には、高速道路の道路81に噴霧して散水する散水口83が多数設けられている。道路81の一面に水が流れるように、道路の中央帯を低くする。そして、この中央帯に排水溝を設ける。高架の下には、高架の高速道の路面81に噴霧して散水し、この水を上記排水溝を介して貯水する貯水槽11が設けられている。貯水槽11は、橋脚の前後にも設けることができる。そして、一度貯水槽11の貯水された上水道一次水または雨水は、再び高架の高速道の道路81一面に散水される。これにより、夏の晴天時などにおいて、高架の道路81の温度を低下させることができ、特に、都市高速道81を有する都市部のヒートアイランド現象を抑制することに効果的である。
以上の結果、ビルなど建造物の屋上、窓、直射光が当たる壁面と道路(歩道を含む)の散水システムおよび都市高速、高速道路の雨水利用の散水システムは、一時遊水池として歩道下に雨水を留めることにより、特に、大雨時の下水処理(合流式)に効果があり、処理されずに河川、海に流出するのを防止することができる。
また、合流式を分流式にするよりも安価で設置できる上に、夏期のヒートアイランド対策としても可能であることは上述の通りである。さらに、本発明は、冬期積雪時の歩道、車道の融雪対策にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムをビルに適用した斜視図である。
【図2】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムを空調機の室外機に応用したものであり、(a)は室外機の斜視図であり、(b)は室外機の側面図である。
【図3】この発明の一実施例に係る上方に温風排出部を有する室外機およびその周辺装置の構成を示す側面図である。
【図4】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムを戸建て建物に適用した斜視図である。
【図5】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムを商店街のアーケードに適用した正面図である。
【図6】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムをソーラ発電システムに適用した正面図である。
【図7】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムを一般の道路の散水に適用した正面図である。
【図8】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムを一般の道路の散水に適用した平面図である。
【図9】この発明の一実施例に係る上水道一次水利用気化熱冷却システムを高速道路の散水に適用した正面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 ビル(建造物)、
11 貯水槽、
13a、13b パイプ、
14a、14b 外壁面(窓)、
21 屋根、
30 室外機、
40 アーケード、
74 道路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上水道一次水または地下水を、建造物の外壁面、屋根材の全面、それらの周囲に向かって噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項2】
建造物の屋内外には貯水槽が配設され、上記散水された水をこの貯水槽に貯水する請求項1に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項3】
上記貯水槽に貯水された水をトイレ洗浄水タンクに導き、トイレ洗浄水の水として利用する請求項2に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項4】
上記建造物は雨水の貯水槽を有し、この貯水槽の雨水を上記建造物の外壁面または屋根材の全面に噴霧して散水する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項5】
上水道一次水または地下水を、空調機の室外機の温風排出部の前に噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項6】
上記室外機の温風排出部の前に、たわし状のステンレス金属と銅スクラップとを混合したものを袋体のなかに配設し、この袋体に水を散水する請求項5に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項7】
上向きの温風排出部を有する室外機の上部にフードを設け、このフードの先端の開口部に上記袋体が配設された請求項5および請求項6に記載の上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項8】
上記上水道一次水または地下水を、アーケードの頂部または戸建て建物の屋根の頂部の散水口からこれらの屋根に噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システム。
【請求項9】
上記上水道一次水または雨水を、道路に噴霧して散水する上水道一次水利用気化熱冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−138511(P2006−138511A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327086(P2004−327086)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(500541645)
【出願人】(502032611)
【出願人】(504416219)
【Fターム(参考)】