説明

上皮組織損傷又は脱毛症の予防又は治療

本発明は、例えば炎症反応、加齢又は癌などによって引き起こされる上皮組織損傷を予防及び/又は治療するための方法、並びに/或いは脱毛症を予防及び/又は治療する方法に関する。詳細には、本発明は内因性CD1d機能を修飾、特に遮断する物質及び/又は組成物に関する。他の態様によると、本発明は本発明の方法及び組成物での使用に適当な化合物のスクリーニング方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば炎症反応、加齢又は癌などによって引き起こされる上皮組織損傷を予防及び/又は治療するための方法に関し、且つ/又は脱毛症を予防及び/又は治療する方法に関する。詳細には、本発明は内因性CD1d機能を修飾、特に阻止する物質及び/又は組成物に関する。他の態様によると、本発明は本発明の方法及び組成物での使用に適当な化合物についてスクリーニングするための方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
生物で最も目立つ上皮組織は皮膚であり、生物で最大の器官となっている。表皮、真皮及び角質層からなる皮膚外皮系は内臓のそれらと相関し、並行して環境と相互に作用する。皮膚は環境と生物それ自身の境界となっており、体外因子、更には生物の体内系の変数パラメーターによってかなり作用される。したがって皮膚の調整機構は、皮膚外皮の形態及び活動に関する通常の病理学的事象を維持するのに必要な全身の変化を誘導するために、常に活性でなければならない。皮膚の要求にしたがって増加した十分なエネルギー物質及び形成性物質の十分な消費を保証する多くの過程は、皮膚構造の形態学的及び機能上の安定性を保証するものとなる。それ故、皮膚外皮の状態は、健康な皮膚特性、例えば障壁機能、弾性、膨圧特性、保湿、色素沈着その他をもたらす皮膚細胞の活力及び活性に必要な代謝過程の実現を決定する。
【0003】
生物の生涯の間、老化に特徴的な異なる徴候が皮膚上に現れるが、主な臨床徴候は小じわと深いしわの出現であり、これらは年齢と共に増加するか目立つようになる。更に、皮膚の色つやは通常変化し、部分的にびまん性の炎症及び時折末梢血管拡張症が発生することもある。
【0004】
老化に伴うこれらの徴候は、外因性作用、例えばUV照射、汚染物質、フリーラジカル又は化学物質に対する皮膚の曝露によっても促進される。
【0005】
中程度のUV曝露は通常、紅斑として知られる炎症反応を伴う皮膚の発赤という公知の作用を起こす。この現象はしばしば「日焼け」とも称され、疼痛を伴い、一般に後に皮膚の剥離をもたらす。
【0006】
更に、皮膚の過剰なUV曝露は重い障害、例えば発癌をもたらすことがあり、最も普通に見られる腫瘍は基底細胞癌(BCC)であり、扁平上皮癌(SCC)がこれに続き、より稀には悪性黒色腫が見られる。DNAレベルでの傷害は別として、UV曝露に起因する免疫抑制も非メラノーマ及びメラノーマの癌の促進の要因となるようである。光誘導性免疫抑制は、誘発された腫瘍細胞による通常の免疫学的機構による認識及び拒絶反応の回避、並びに長期間の潜在、並びに結局は増殖して腫瘍に発達するのを許すことが、現在は認められている。この概念は、遺伝的(色素性乾皮症)であれ薬学的であれ免疫不全の患者、例えば、臓器移植患者は、免疫系が正しく機能している人々と比較して皮膚癌の発生率が高い知見と一致する。
【0007】
当技術分野では、上皮細胞、特に皮膚上皮細胞に対する環境因子の破壊的な作用を予防するために、いくつかの手段が提案されている。
【0008】
太陽光線に対する保護に関しては「日焼け防止剤(sunblock)」又は「日焼け止め(sunscreen)」が利用できるようになっているが、これらは日光曝露の前に皮膚に塗布される。一般的に、日焼け止め組成物は化学物質、例えばある種のベンゾフェノン、ジベンジルメタン又は置換されたパラアミノ安息香酸塩、即ち紫外線を吸収してそれが皮膚を透過することができないようにする化合物を含む。しかし、この目的のために使われる化合物の一部は十分な耐光性が不足し、しかも長期間の塗布により毒性化することがある。更に、これら化合物が有効となるには、曝露時に連続的に皮膚上に存在しなければならない。しかし、日焼け止めは簡単にこすり落とされ、発汗又は遊泳によって洗い落とされ、また、皮膚に浸透して失われる。
【0009】
皮膚劣化又は老化を予防する他の手段は、それぞれフリーラジカルを除去する化合物を提供することである。この点に関し、欧州特許第0 761 214号はアニリン誘導体及びジフルフリル誘導体を含む一重項酸素失活剤を開示しており、これらは皮膚に対する酸化性ストレスを低下させると報告されている。
【0010】
しかしこれらすべての手段及び方法は、我々の環境で増加している曝露の危険性から皮膚を守る能力が十分にあるというわけではない。これに寄与しているのが増加した大気汚染であり、更には社会的行動であり、つまり日焼けが健康、美及び健康状態と結び付けられている。結果として、そのような行動に伴う負の結果が公知となっているにもかかわらず、多くの人々は褐色の肌を得るために皮膚を太陽光線に曝す。地球を覆っているオゾン層が薄くなりUV照射による生物の曝露が多くなっているので、この問題はより顕著になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、皮膚を環境因子、例えばストレスや太陽光線からより良く保護する手段を当技術分野で提供する必要がある。
【0012】
したがって、本発明の目的は、環境で遭遇する好ましくない作用、特に酸化性若しくは化学薬品ストレス又は太陽光線から皮膚を保護するために、従来の技術の欠点を取り除き、そのような手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この問題は、上皮細胞内の内因性のCD1d機能を実質的に変更、特に遮断することのできる物質の提供によって解決された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、基本的に、いくつかの異なる細胞、特に上皮細胞によって発現される膜貫通タンパク質であるCD1dが、ストレスに対する細胞の様々な異なる反応を調整するという知見に基づく。以下の好ましい実施形態の詳述から明らかとなるように、前記膜分子を有する細胞で内因性のCD1d機能を本質的に修飾、特に遮断することは、例えば日焼けの結果起こる紫外線照射誘発皮膚傷害、表皮過形成、突然変異体p53蓄積、炎症、免疫抑制及び皮膚老化などのストレスの有害作用の予防を可能にする。更に驚くべき知見は、上皮細胞でCD1d機能を本質的に遮断する場合、前記細胞での癌の誘発、即ち基底細胞癌、扁平上皮癌、悪性黒色腫、大腸癌、乳癌、肝癌、前立腺癌、腎臓癌、膵臓癌その他の誘発を予防することができることである。更に、驚くべきことに、CD1d機能を修飾、特に遮断すると毛の成長及び/又は発達に作用することがわかった。
【0015】
CD1dそれ自体は、βマイクログロブリンと非共有結合で結合する1型膜貫通MHCクラス1様タンパク質である。CD1d分子は、免疫調節的及び作動的反応で役割を果たすナチュラルキラーT細胞(NKT)のT細胞受容体によって認識される。CD1dはNKT細胞に対してその活性化のために脂質を提供することが証明されたが、この考えは免疫系に脂質のような疎水性分子を提供するために必要な2つの非常に疎水性の溝を有すCd1dの結晶構造が裏付ける。
【0016】
本発明につながる研究において、驚くことにマウス皮膚のCD1d遺伝子転写が外部ストレス、例えばUV照射に応答することが指摘されているが、この知見はヒトケラチノサイトで確認された。更に、皮膚CD1dがCOX−2及びTNF−α遺伝子の転写を誘発し、更にUV誘発性アポトーシスを抑制することによって、UV誘発性皮膚損傷/炎症を媒介することが指摘された。
【0017】
いかなる理論にも縛られることを欲しないが、生物におけるCD1dの内因性の役割の1つは、正常上皮細胞のホメオスタシスを直接制御することであると現在仮定されている。正常な皮膚ホメオスタシスは、表皮細胞の表皮分化、アポトーシス、増殖及び抗アポトーシスの間のきわどく、繊細に調整されたバランスに依存している。皮膚では、これらのプロセスは脂質を通して、特にセラミド及びグルコシルセラミド(スフィンゴリピド)によって調節される。核をもつ細胞層がグルコシルセラミド(GlcCer)を生成する一方、Cerに対するGlcCerの割合は表皮分化の後期には低下し、Cer含量は表皮透過障壁の細胞外成分の働きをしている角質層で最大となる。その構造特性に加えて、セラミドは細胞増殖阻害、細胞分化誘発及びプログラム細胞死と関係している。対照的に、GlcCerは細胞増殖を誘発してプログラム細胞死を抑制する。
【0018】
本発明の知見に基づき、CD1dは前記脂質による生物学的な役割の成就を媒介する受容体の1つと考えられる。具体的には、CD1dはアポトーシスの負の制御をするようである。したがって、ストレス状況下の細胞では、例えばUV照射に曝露したときにはCD1dはたとえそれらの遺伝物質が傷害を受け且つ/又は突然変異した場合でも前記ストレス下の細胞の継続した生存を支えるが、障害細胞は誘発された炎症プロセスに寄与して結局は老化現象又は腫瘍発達の原因となる。
【0019】
内因性のCD1d機能の遮断及び/又は修飾においては、ストレス下の細胞の生残及び増殖の代わりにアポトーシスが促進され、ある程度の傷害、特にDNAレベルの障害細胞が増殖してある場合には体内に拡散する可能性がなくなるかもしれない。一旦死んだ細胞は体内で自然のプロセスによって消滅し、「健全な」上皮細胞によって置換される。同様に、CD1dの遮断又は修飾によってもNKTとの相互作用は実質的に阻止されるか、改変され、その場合、UV光線への曝露中の免疫抑制現象は本質的に減少するか、完全に阻止されよう。また、この状態は、生物の免疫系がUV照射で生じた障害細胞を根絶するのを促進すると考えられる。
【0020】
CD1d膜貫通分子の活性を遮断及び/又は修飾することができる物質は、CD1dの内因性生物学的機能と干渉するいかなる物質でよく、特にCD1dと内因性又は外因性脂質との結合を阻止するか減少させるいかなる物質でよい。このような物質は以下のステップを含む方法で得られる。即ち、(a)上皮細胞を関心のある物質に曝すステップ、(b)前記上皮細胞をストレス状況に置くステップ、(c)前記上皮細胞に対する前記ストレスの作用を以下の検定:(i)上皮過形成(H&E)、(ii)上皮増殖(BrUd、PCNA)、(iii)上皮アポトーシス、(iv)p53突然変異蓄積、(v)上皮脂質の定量的及び定性的評価、(vi)アポトーシス細胞及び非アポトーシス細胞の表面受容体の共クラスター形成パターン、(vii)炎症誘発性サイトカインの産生、(viii)免疫調節性サイトカインの産生、(ix)炎症マーカー、(x)抗アポトーシスの転写因子活性、及び(xi)老化マーカーの1つ又は複数でスクリーニングすることによって決定するステップ、並びに(d)得られた結果を対照と比較するステップである。このような対照は、例えば細胞は同じストレス状況に置かれるが、調査するべき物質が加えられない検定(陰性対照)でよい。同様に、対照はまた、公知の陽性の効果を有する物質を検定に含めて試験物質及び公知の物質(陽性対照)の効果の差を測定してもよい。
【0021】
ある物質が、前記いずれかの検定により詳述したようなストレスの負の作用を阻止した場合、この出願においては活性であるとみなされる。
【0022】
CD1d活性は、遺伝子レベル又はタンパク質レベルに作用する物質によって遮断及び/又は修飾されることが認められよう。
【0023】
遺伝子レベルで作用する物質はCD1d遺伝子の転写又は翻訳に作用する化合物、特にそれらを阻止する化合物、例えばCD1d遺伝子又はCD1d−mRNAの少なくとも一部にアンチセンスポリヌクレオチドなどである。
【0024】
本明細書で同じ意味で使われる用語オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、そのαアノマー型、ポリアミド核酸などを含む自然の又は修飾されたモノマー或いはリンケージの線形のオリゴマー/ポリマーを含み、これらはモノマー対モノマーの相互作用、例えばワトソン−クリック型の塩基対、フーグスティーン型若しくは逆フーグスティーン型塩基対などの規則的パターンを通して標的核酸と特異的に結合することができる。通常、モノマーはホスホジエステル結合又はその類似結合によって結合して少数のモノマー単位、例えば3〜5個から数百個、若しくは数千モノマー単位の大きさのオリゴヌクレオチドを形成する。
【0025】
(アンチ)センスのオリゴヌクレオチド/ポリヌクレオチドは、特異性、ヌクレアーゼ耐性、送達性又は他の効能関連特性を強化するために、ペンダントの基又は部分、例えばコレステロール分子、アクリジンなどの二重鎖インターカレーター、ポリ−L−リジン、ホスホロチオエートなどの1種又は複数のヌクレアーゼ耐性連結基による「末端キャッピング」を含んでもよい。対応するオリゴヌクレオチドは転写、RNAプロセシング及び/又はmRNAの翻訳の阻止ために使うことができ、したがって、このオリゴヌクレオチドはエクソンのほかに所望によりCD1d標的遺伝子のイントロン配列も含むことができる。
【0026】
ヒトCD1d遺伝子又はmRNAのヌクレオチド配列は、NCBI(受入番号:それぞれAP002532及びNM_001766)から入手できる。当業者はその一般知識及び技術に基づき、CD1d遺伝子のコード領域の少なくとも一部を選択して、CD1d遺伝子の転写及び/又は翻訳を阻止する適当なアンチセンスポリヌクレオチドを設計することができる。同様に、CD1d遺伝子の非コード領域の一部は、CD1d遺伝子の転写を阻止する因子又は転写産物の数量を減らす因子としての役目をすることができる。ここで特に、プロモーター領域の部分は、アンチセンスポリヌクレオチドを調製するための鋳型としての役目をするが、イントロンからエクソンへの移行領域、またその逆の移行領域も同様である。好ましい一実施形態では、そのような物質はDNA又はcRNA(RNA干渉)でよい。
【0027】
CD1d遺伝子が標的であることは別として、上皮のホメオスタシスを制御するいくつかの調節分子、例えばセラミド及び/又はグルコシルセラミドの活性も、CD1d分子に対する所望の作用をもつように修飾することができる。この目的のため、グルコシルセラミドシンターゼ遺伝子又はグルコシルセラミドシンターゼmRNAの少なくとも一部にアンチセンスポリヌクレオチドを、最終的には上皮細胞への増殖シグナルが遮断されるように設計することによって、グルコシルセラミドシンターゼ転写産物の数を減らすことができる。グルコシルセラミドシンターゼ遺伝子のヌクレオチド配列は、Ichikawa他、PNAS 93(1996)、4638〜4643頁で開示されており、該文書は本明細書で参照として組み込まれている。同様に、非コード領域はアンチセンスポリヌクレオチド、例えばプロモーター領域及び/又はイントロンからエクソン、またその逆の移行部のための鋳型としての役目をする。好ましい一実施形態では、そのような物質はDNA又はcRNA(RNA干渉)でよい。
【0028】
増殖シグナルを減らすことのほかに、CD1d分子を通して上皮細胞をアポトーシスさせるシグナルを強化することができる。この点に関し、対応する転写産物の数を増やすことができ、このことはスフィンゴミエリナーゼ若しくはセラミドシンターゼ遺伝子及び/又はスフィンゴミエリナーゼ若しくはセラミドシンターゼmRNAを含む配列をコードするポリヌクレオチドをより多く提供することによって成就することができる。
【0029】
遺伝子レベルは別として、CD1d分子の生物学的活性は、特に上皮細胞の上又は中のCD1d受容体と結合してその内因性の生物学的機能を阻止するいかなる物質によってもタンパク質レベルで修飾、特に遮断することができる。
【0030】
好ましい一実施形態によると、生物学的なCD1d機能を修飾、特に遮断することのできる物質はポリペプチド又はペプチドであり、特には疎水性ペプチド、より好ましくはCD1d受容体と結合してその生物学的機能、例えばNKTとの相互作用を遮断する抗体、若しくはその部分である。その部分としては、特にF部が欠けているミニ抗体が想定される。他の実施形態によると、生物学的なCD1d機能を遮断することのできる物質は可溶性Cd1d受容体、つまり、その領域が欠けそのポリペプチドを膜に固定するポリペプチドの一部でもよい。可溶性CD1d受容体はストレスを受けた細胞の生残を促進するin vivoリガンドを除去し、それによりアポトーシスを進める。更に、CD1dへのナチュラルキラー細胞のin vivo結合は減少し、このように、T細胞の活性化及びその結果としての炎症性且つ/又は免疫抑制性反応を阻止する。
【0031】
好ましい一実施形態によると、生物学的なCD1d機能を遮断及び/又は修飾することのできる物質は、ホスホリピド、ガングリオシド、スフィンゴリピド、グリコスフィンゴリピド、ホスファチジルイノシトールリン酸塩、ステロール、ポリフェノール、グリセリド若しくは脂肪酸を含む植物、微生物又は動物に由来する脂質である。これらの脂質は、CD1d分子と直接結合することによって、又はCD1d遺伝子発現に作用することによって間接的にCD1d機能に作用することができる。
【0032】
他の実施形態によると、生物学的なCD1d機能を遮断及び/又は修飾することのできる物質は、セラミド、例えばセラミド8若しくはスフィンゴシンホスホコリン、又はTNFスーパーファミリーに属している受容体、特にアポトーシスを誘発してCD1dの抗アポトーシス機能を妨げるCD95/APO−1/Fasのリガンドである。他の実施形態では、目的の物質は化学合成による有機化合物である。
【0033】
グルコシルセラミドシンターゼを介したセラミドのグリコシル化、及び以降のグルコシルセラミドの蓄積がストレス誘発性プログラム細胞死からの細胞の逃避を可能にし、乳癌、皮膚癌、大腸癌及び類上皮癌を含む様々な癌の細胞の細胞傷害性抗癌剤に対する抵抗性を付与することは、十分に確立されている。CD1dはグルコシルセラミドと結合して同じ多剤耐性癌細胞(例えば扁平上皮癌)によって過剰発現されるので、CD1dの抗アポトーシス活性は、おそらくタンパク質−グルコシルセラミド結合レベルで細胞毒に対する癌細胞の耐性を調節すると考えられる。かくして、原則として内因性CD1d機能を遮断及び/又は修飾する本発明の物質は、皮膚癌、腸癌及び乳癌を含む様々な癌の多剤耐性をかなり減少させる。
【0034】
原則として、本発明の物質は膜への及び膜からの双方向性のCD1dのトラフィッキングにも作用する。
【0035】
これらの物質は、個体にこれらの物質を投与するのに適するいかなる組成物、特に食物組成物、化粧組成物又は医薬組成物に含めることができる。
【0036】
本発明によるCD1d表面分子を遮断又は修飾することができる物質の最低1つを含む医薬組成物は、予防及び/又は治療処置のために投与することができる。治療用途では、本明細書で以下に記載するように、組成物は既に病気を患っている患者に対して、その病気の症状及びその合併症を治療するか最低でも部分的に抑止するのに十分な量で投与される。この達成に十分な量は「治療有効量」と定義される。このために有効な量は、病気の重症度並びに患者の体重及び一般状態によって決まる。
【0037】
予防的用途では、本発明によるCD1d表面分子を遮断又は修飾することができる物質の最低1つを含む組成物は、特定の病気に感受性の患者又はその危険がある患者に対して投与される。このような量は「予防有効量」と定義される。この用途では、正確な量は同じく患者の健康状態及び体重によって決まる。
【0038】
本発明の化合物は好ましくは薬剤として許容される担体と一緒に投与され、担体の性質は投与様式、例えば腸管外、静脈内、経口及び局所(眼を含む)の投与経路で異なる。
【0039】
所望の剤形は各種賦形剤、例えば医薬品用のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウムセルロース、炭酸マグネシウムなどを用いて作製できる。この組成物は、錠剤、カプセル、丸薬、溶液、懸濁液、シロップ、乾燥経口サプリメント、湿性経口サプリメント、乾式経管栄養、湿式経管栄養その他でよい。薬剤の放出を制御するためには徐放性剤形を用いることもできる。
【0040】
担体/賦形剤の種類及びその量は、物質の性質及び企図される薬物送達及び/又は投与の様式によって決まる。例えば、わずかに可溶なアンチセンスオリゴヌクレオチドを含んでいる剤形では、例えば溶解性を上げるためにTween 80などの非イオン界面活性剤を約0.04〜0.05%(w/v)の量で用いて、マイクロエマルションを使用することができる。他の構成成分としては抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、親水性ポリマー、例えば単糖、二糖及び他の炭水化物、例えばセルロース又はその誘導体、デキストリン、キレート剤、例えばEDTA、及び製薬学者に周知の類似成分が含まれる。利用されるこれらの様々な構成成分は、医薬品濃度調節、溶解性の調節、化学安定化、粘性の調節、吸収強化、pHの調節などを含む様々な機能を提供する。例えば、水溶性剤形では、好ましくは医薬組成物は好ましくは約7から8のpHの緩衝剤、例えばリン酸緩衝液又は他の有機酸塩を含む。
【0041】
当業者が自身の知識に基づき、注射、局所投与、鼻腔内投与、移植若しくは経皮による徐放システムなどでよい投与経路を考慮に入れて、活性化合物を関心のある組織、例えば大腸、胃、皮膚、腎臓又は肝臓に向けさせるために適切な構成成分及び生薬剤形を選択することは認められる。
【0042】
目的の物質は、化粧製品、例えばローション、シャンプー、クリーム、日焼け止め、日焼け手入れクリーム、日焼け防止剤、老化防止クリーム、軟膏及び/又は脱毛防止液で製剤化することもできる。このことは皮膚でCD1d機能を事実上遮断して太陽照射の有害作用、光線老化及びフリーラジカルによる皮膚の曝露を予防するために特に有利であることを証明する。かくして、例えばUV光線を吸収する通常の剤のほかに本明細書で記載の物質を含んでいる日焼け止めを提供することにより、公知のものをはるかに凌ぐ太陽に対する保護材を提供することができる。この特徴は、目的の物質が皮膚を浸透して標的分子に到着した後にその効果を及ぼすという事実に特に基づく。この効果は暫くの間継続するので、万一日焼け止めが、例えばスポーツなどの間にこすり落とされるか洗い落とされた場合でも太陽に対する保護は存在する。また、日焼け止めは別として、目的の物質は環境汚染、酸化ストレスその他を含む日常の環境の負の作用を予防するために、通常の日常クリーム、ローションその他に含まれてもよい。本化粧製品に当業者に公知の異なる成分の混合物を含ませて目的の物質の皮膚への速やかな浸透を可能にし、また貯蔵中のその分解を予防できるようにすることは認められる。
【0043】
本発明に従う他の非常に重要な組成物は食品材料である。現在社会では保存料、成分又は腸に有害な物質を含む多くの食品、例えばソーセージ、塩漬け肉又は焼肉その他が摂取される。例えば、焼肉は発癌性であることが公知の脂肪族及び芳香族化合物を含む。また、食品材料、例えばソーセージに含まれる微生物をDNAの操作により殺す保存料は、腸の細胞に対して類似した作用を及ぼす。実際、腸癌の数は我々の社会で着実に増加しているが、それは少なくとも一部は人間が摂取する食品の種類によるものと考えることができる。
【0044】
したがって、本発明はそのような腸障害の開始及び/又は発達を予防する食品組成物、例えば、少なくとも事実上CD1d機能を遮断及び/又は修飾することのできる物質を含む乳製品若しくは発酵乳製品、例えばヨーグルト、カード、チーズ、乳ベースの発酵製品、アイスクリーム、乳ベースの粉製品、乳児食、穀物製品及び発酵穀物ベースの製品、ミネラルウォーター、チョコレート又はペットフードからなる群から選択される組成物を提供する。目的の化合物は食品材料中にその本来の味覚に作用を及ぼさない量で含まれるので、消費者は製品のいかなる変化にも気付かないがその有益効果、つまり予防効果又は治療効果でさえ経験する。一旦食品材料が摂取されると目的の物質は標的細胞に到着するが、標的細胞は腸、即ち胃又は腸の上皮細胞でよく、そこでCD1d受容体と結合してその活性を及ぼす。結果として、既に障害細胞は好ましくは傷害を受けた状態で維持されることなくアポトーシスに向かう。
【0045】
CD1dをもつ上皮細胞はいくつかの器官、例えば肝臓、小腸、大腸、腎臓、前立腺、子宮、膵臓、乳房、皮膚及び結膜で見つかっているので、上で詳述した組成物の選択は概して標的組織によって決まる。理解されるように、皮膚に対しては化粧品が最も良い組成物であるかもしれないが、目的の物質を直接腸又は大腸に送達する場合には、食品が第一選択であるかもしれない。しかし、食品は目的の物質又は単に物質を他の器官、例えば腎臓若しくは肝臓に送達するためにも適し、それは体内での物質の安定性及び腸から体内へ吸収される能力に依存する。食品は毎日摂取される材料であるので、そのような製品は多種多様な異なる可能性を提供する。また目的の物質が腸での分解に感受性がある場合には医薬組成物を選択することができ、例えばカプセル化又は他の生薬剤形により目的の物質は標的の組織/細胞に送達される。
【0046】
本発明の概念は、現在使用されている薬物療法を助ける補助療法として同様に適用することができることが理解されよう。この点に関し、本発明の医薬組成物は、例えば、治療される腫瘍のその治療からの逃避を予防するために又は医薬投薬で捕えられなかった残存性の癌細胞の殺滅を助けるために、細胞増殖抑制剤と共に投与することができ、このような逃避はある種の腫瘍の長期間治療でしばしば起こる。本発明の物質は食品材料と共に簡単に投与することができるので、目的の物質を多く含む特別な臨床用食品を利用することができる。また、メラノーマは、メラノーマに対して本明細書で記載の医薬組成物又は化粧品と共に抗体投与で直接治療することができる。本明細書並びに付随する請求項を読んだ後には、当業者が本明細書に記載の特定の実施形態に対する様々な異なる代替手段を想定することは明らかとなる。
【0047】
原則として、本発明に従う物質はストレス状況、例えば化学的、生物学的若しくは物理的ストレス、例えばオキシダント若しくは発癌物質への曝露、細菌、ウイルス、真菌類、環境中の細胞及び/又は微生物に由来する脂質への曝露、又はUV照射への曝露によるストレス状況によって起こる上皮組織、例えば皮膚、腸、眼、肺臓、肝臓、前立腺、胸部、腎臓及び/又は子宮の上皮組織における傷害の治療及び/又は予防のために使用できる。同様に、この物質は脱毛症を予防及び/又は治療するために利用できる。
【0048】
したがって、本発明に従う物質及び/又は組成物は、皮膚の傷害、特に皮膚の光化学的傷害及び老化による傷害、例えば乾燥、日光性角化症、不規則な色素沈着(特に、染み、ほくろ、滴状のメラニン減少症及び永続性色素沈着過度を含む)、しわ(特に、表面の小じわ及び深い溝を含む)、星状の偽瘢痕、弾力線維症、弾力低下、末梢血管拡張症、静脈湖、紫斑病、にきび、脂腺の過形成、先端線維性軟ゆう、老年性血管腫、脂漏症角化上皮症、黒子、基底細胞癌及び扁平細胞癌腫、皮膚火傷及び/又は水ぶくれ、白内障形成、表皮過形成、炎症、免疫抑制並びに癌、例えば非メラノーマ及びメラノーマ皮膚癌の治療及び/又は予防のために利用できる。
【0049】
上記特性を有する他の物質を見つけるために、本発明はそのような物質についてスクリーニングするための方法も提供する。この方法では、一次培養の形態、つまり個体から直接導かれた状態又は細胞系の状態の上皮細胞が利用される。この方法を実行するためには細胞培養が特に好ましく、その理由は実験期間を通して上皮細胞を継続して供給することができるからである。使用される上皮細胞の細胞培養は、一次培養の細胞又は組織試料から直接得られる上皮細胞と同じ表現型形質を示すことに留意する必要がある。当業者は検定方法にしたがって出発物質を選択することが理解されよう。それ故に、第1回目の検定を実行するときは細胞培養が最も適当なようであり、更なる検定では、つまり潜在的な候補物質の活性を評価する場合は、組織又は動物モデルを用いた検定がより適当なようである。
【0050】
上皮細胞は、関心のある物質と細胞が確実に接触するのに十分な時間この物質に曝される。次のステップでは上皮細胞はストレス状況に曝され、このストレス状況は、例えば異なる線量のUV光線で細胞を照射するか、過酸化水素又は毒性化学物質を細胞培養に加えることによってもたらされる。しかし、細胞がチャレンジされ、通常、ストレス状況で開始されるプロセス、例えば炎症誘発性サイトカイン、例えばIFN−□、TNF−□、IL−1、IL−6、IL−8の産生、アポトーシス、脂質代謝の変化、p53の増産、細胞表面受容体の共クラスター形成パターンの変化の結果としての細胞シグナル伝達の変化、NF−кB活性化、AP1活性化、過増殖(抗アポトーシス)、障壁機能の変化などのプロセスを開始する限り、ストレスの種類は決定的ではない。第2回目以降の検定で有益であるとわかるかもしれない複数の物質、つまり1つ又は複数の物質の混合物を同時に試験することもできることが理解されよう。
【0051】
次のステップでは、上皮細胞に対する前記ストレスの作用を、以下の特徴の1つ又は複数を評価することによって決定する。例えば:上皮増殖(PCNA:Ouhtit他、American Journal of Pathology(2000)、(156:201〜207);BrUd:Lu Y−P他、Cancer Research(1999)、(59:4591〜4602);上皮アポトーシス(Tunel検定;Ouhtit他によって概説されたプロトコルの変更、American Journal of Pathology(2000)、156:201〜207);p53突然変異蓄積(対立遺伝子特異的PCR(AS−PCR)及び一本鎖コンフォメーション多型(SSCP)、Ananthaswamy他、Nature Medicine(1997)、3:510〜514);炎症誘発性及び免疫調節的なサイトカイン(例えばTNF−α、PGE−2、IL−1、IL−6、IL−8、IL−4、IL−10、血小板活性化因子、TGFβ)の生産;炎症マーカー(例えばCOX−2、iNos);及びTaqManリアルタイムRT−PCR、ELISA及び免疫組織化学による抗アポトーシスの転写因子(AP−1、NFκBを含む)活性;ホスホリピド、グリコスフィンゴリピド及びスフィンゴリピド含量の定性的及び定量的評価(電子スプレータンデム型質量分析);蛍光共鳴電子移動分析(FRET)による上皮細胞表面受容体分子、例えばサイトカイン受容体(例えばIL−6)、受容体TNFスーパーファミリーの分子(例えばCD95/APO−1/Fas)及び増殖調節受容体(例えばEGF、インスリン)の共クラスター形成パターンの解析;老化のマーカー、例えばエラスターゼ、コラゲナーゼ、メタロプロテイナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメリシン、テロメラーゼである。
【0052】
得られた結果は次に対照と比較するが、対照は単に検定でよく、同じ種類の細胞を同じストレス状態に曝すが、但しCD1dを遮断する能力について評価する化合物は用いない。動物モデルに関しては、陽性対照はCD1d−/−動物で表され、CD1d活性はまったくない。
【0053】
以下の実施例は更に詳細に本発明を例示するが、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0054】
CD1d突然変異体マウスの作製
マウスCD1dは2つの遺伝子、CD1d1及びCD1d2によってコードされ、これらは高いヌクレオチド配列同一性を共有する(Bradbury他、EMBO J.、7(1988)、3081〜3086)。CD1d1遺伝子の産物は記載されているすべての抗CD抗体によって認識され、CD1d2産物の表面発現はまだ証明されていない。更に、CD1d2遺伝子産物の予測されたα2領域は、発表されているすべての古典的及び非古典的MHCクラスI分子のα2領域に存在する領域内ジスルフィド結合を欠く(Bradbury、上記)。このジスルフィド結合は、抗原結合溝の折畳みのために重要であると考えられる。このように、CD1d2遺伝子は機能的抗原提示分子をコードすることができず、以前にマウスCDによるものと考えられていたすべての機能はCD1d1遺伝子産物によってもたらされる。この理由から、対象の突然変異をCD1d1遺伝子に導入して、CD1d2はそのままにすることを決定した。
【0055】
CD1d遺伝子は、系統129/Svファージライブラリーから、PCR法で作製したプローブで単離された。ターゲティング構築物は、CD1d遺伝子の5’領域を含む2.8kbのApal断片、CD1d遺伝子の3’領域を含む3.2kbのBamHI−Notl断片(この断片のNotI部位はファージDNAが最初にサブクローニングされたpBluescriptベクターに由来する)、ネオマイシン耐性遺伝子(neo)及びpBluescriptプラスミド(Stratagene)を用いて調製された。この構築物は、CD1d1のα2領域をコードするエクソンから約200bpの断片を削除するように設計されていた。系統129/Sv由来の胚性幹(ES)細胞系TL1は、NotI線形化ターゲティングベクターでトランスフェクションした。Van Kaer他、Cell 71(1992)、(1205〜1214)で記載されているように、G418耐性コロニーを選択して単離した。個々のクローンからのゲノムDNAをEcoRIで消化して、CD1d1遺伝子の5’末端に由来する2.3kbのCIaI−EcoRIプローブとハイブリダイズした。組換えは、KpnIによる消化及びCD1d1遺伝子の3’末端に由来する700bpのBamHI−EcoRIプローブとのハイブリダイゼーションで確認した。キメラマウスは生殖細胞系伝達を評価するためにC57BL/6マウスとかけ合わされ、異型接合突然変異体マウスを交雑させて(C57BL/6x129/Sv)F2同型接合突然変異体を得た。マウスは5’プローブによるゲノムサザンブロット法により、そのCD1d1状態で分類した。変異体マウスは健康で、正常に成育した。
【0056】
突然変異体動物を作製するのに用いたES細胞及びマウス系統はそのTL状態が異なる(129/SvはTL+系統で、C57BL/6はTL−系統)ので、この研究で使ったすべてのマウスはTLにつき遺伝子型を決定した。マウスのTL状態の分類のために、尾部DNAをBglIIで消化して系統129/Sv(TL+)及びC57BL/6(TL−)間の多型を検出するTL特異的なプローブとハイブリダイズした(Pontarotti他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83(1986)、1782〜1786)。このプローブは、公表された以下の配列(Pontarotti、上記)に基づいて設計された一組のプライマーを使ってPCR法で作製した:
5’−TATACAGAGCTCCGTAGGAC−3’;及び
5’−AGTTGTCTGCAGCCACGAAC−3’。
【0057】
CD1d1変異体及び野生型マウスは、American Association for Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)に公認されたSPF障壁動物施設で飼育された。実験開始時12〜16週齢の動物が使われた。動物は、12時間の明/暗周期で管理されたフィルター保護されたケージに収容され、オートクレーブしたNIHオープンフォーミュラマウス固形飼料及び水を随意に供給された。組織のAnimal Care and Use Committeeはすべての手順を承認した。各実験内で、すべてのマウスは年齢及び性別を揃えた。
【0058】
CD1d変異体マウスを作出するために他の遺伝的背景、例えばBalb/Cの遺伝的背景を使えることが強調される。
【実施例2】
【0059】
マウスのUV照射
フィリップス社製TL−40W/12太陽灯(フィリップス社、オランダ)5個一列を用いてマウスを照射した。これらのランプは、270から400nmのスペクトルを発する。照射の54%は太陽スペクトルのUVB範囲(280〜315nm)内であり、45%はUVA(315〜400nm)の領域、1%未満がUV−C(240〜280nm)の範囲内であった。5つの電球の放照射度は、UVB PMAリサーチ輻射計で測定すると平均で10W/mであった。
【0060】
マウスの背側の毛を電気クリッパーで取り除き、プレキシガラスデバイダーで個々の区画に分けられたプレキシガラスの箱にマウスを入れ、入射線量を14%カットする針金トップで覆った。各々のUV照射のために、電球の長辺方向のエネルギーの偏在を補償するために、各回ランプの下の同じ位置に箱を置いた。マウスは、フィリップス社製TL−40W/12太陽灯5個からの86mJ/cm UVBの入射線量に1度又は2度曝露させた。マウスは、第1の照射から96時間後にUVB光線の第2線量に曝露させた。すべてのマウスは、最後のUVB照射から24、48、72及び96時間後に、皮膚損傷の徴候につき分析した。
【0061】
肉眼検査では、裸にされた背のUVB照射の後に皮膚損傷程度の明らかな相違が野生型とCD1dノックアウトマウスの間で観察された。UV照射した野生型マウスは明瞭で顕著な皮膚傷害(火傷、皮膚損傷)を示したが、UV照射CD1dノックアウトマウスでは皮膚傷害の明らかな徴候を認めなかった。
【実施例3】
【0062】
表皮アポトーシスの測定
アポトーシスによる細胞死はDeadEnd(商標)Fluorometric TUNELシステム(Promega)を使って検出し、このシステムは酵素ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を使って3’−OH DNA末端でフルオロセインー12−dUTPを触媒により取り込むことによって、アポトーシス細胞の断片化DNAを測定する。TdTは、TUNEL検定の原理を使ってポリマー末端を形成する。つまり、スライド上のホルマリン固定パラフィン埋め込み組織切片を室温で5分間、新しいキシレンで2回脱パラフィンした。それらを100%エチルアルコールで5分間洗浄し、次に、切片を段階的(100%、95%、85%、70%、50%)エチルアルコール洗浄液に3分間浸すことによって逐次再水和した。その後、切片を0.85%NaClに5分間浸し、PBSで洗浄し、次に4%のパラホルムアルデヒドで15分間固定してPBSで2回洗浄した。残留液を軽くたたいて切片から取り除いた後、各組織切片を室温で8〜10分間、20μg/mlのプロテイナーゼK(シグマ社)で覆った。プロテイナーゼK処理の後、組織切片をPBSで洗浄し、次に、5分間4%のパラホルムアルデヒドに浸すことによって固定した。次にPBSで洗浄し、残留液をたたいて除去し、切片を平衡緩衝液(Promega)中で5〜10分間インキュベーションした。平衡化の後、加湿チャンバ内で切片をTdT酵素と共に37℃で1時間インキュベートした。切片は反応を終了するために停止緩衝液(SSC;Promega)に15分間浸漬し、次にPBSで3回洗浄した。洗浄後、使用前にPBSで1μg/mlに希釈したヨウ化プロピジウム溶液で切片を暗黒下15分間染色した。切片を次に脱イオン水で5分間、3回洗浄し、その後、細胞周囲の領域から余分な液を拭き取った。次に切片を蛍光顕微鏡下で直ちに検鏡した。
【0063】
UV照射から2、6、24、48、72及び96時間後(急性/慢性)、CD1d−/−マウス及び野生型マウスから採取した皮膚のTUNEL検定(Ouhtit他、American Journal of Pathology(2000)、156:201〜207によって概説されたプロトコルの変更)を行った。結果は、CD1d−/−マウスの皮膚内の表皮細胞では、野生型マウスと比較してアポトーシスが高度に進行していることを明らかにした。対照的に、野生型の皮膚においては、表皮細胞のアポトーシスの進行は有意に少なかった。
【実施例4】
【0064】
表皮過形成の測定
背側の皮膚生検材料を4%のパラホルムアルデヒドで一晩固定し、パラフィンに包埋した。切片をヘマトキシリン−エオジン(H&E)で染色して光学顕微鏡で検鏡した。
【0065】
UVB照射後、Cd1d−/−マウスは最後のUVB処理から48時間後に、UV照射野生型マウスと比較して有意に減少した表皮過形成を示した。
【実施例5】
【0066】
遺伝子プロファイリング
CD1d機能を解明するために、野生型及びCD1dノックアウトマウスの遺伝子発現を比較する遺伝子プロファイリング検定を行った。
【0067】
皮膚組織を5つの個々の野生型及びCD1dノックアウトマウスから抽出し、またいかなるゲノムDNA汚染を取り除くためにTrizolキット(Invitrogen AG、バーゼル、スイス)及びQiagen RNeasyミニキット(バーゼル、スイス)をメーカーの説明書に従って使い、DNase I処理により別々に抽出した。RNA試料をODで定量し、その後ダイナミックゲル電気泳動をAgilent Bioanalyserで行い、インタクトな28S及び18S rRNAについて分析した(すべての28/18比は、1.6と2.0の間であった)。試験試料は、GeneChipとのハイブリダイゼーションに十分な量の高品質RNAを含むと判断された。他の品質管理手段として、Affymetrix GeneChip(Affymetrix、Inc.、サンタクララ、CA)とのハイブリダイゼーションの前に、すべての試料が予め選択された遺伝子に対して強いシグナルを発すことをAffymetrix試験チップ(試験チップの5’/3’比は3.0未満であった)を用いて確認した。
【0068】
皮膚に関しては、すべてのマウス個体試料で総計10μgのRNAが出発物質であった。一般的に、全RNAはビオチン化cRNAに変換され、Affymetrixプローブアレイカートリッジでハイブリダイズされ、染色され、その後定量化された。第1鎖及び第2鎖のcDNA合成には、SuperScript Choiceシステム(Invitrogen社、バーゼル、スイス)をメーカー説明書に従って使用したが、T7 RNAポリメラーゼ結合部を含むオリゴdTプライマーを使った。標識されたcRNAは、RNA Transcript Labelingキット(Enzo Biochem Inc.、NY)で調製した。反応ではビオチン化CTP及びUTPは非標識のNTPと共に使い、取り込まれなかったヌクレオチドはNucleospinカラム(Macherey−Nagel、ドーレン、ドイツ)で取り除いた。
【0069】
cRNA(20μg)を、200mMのトリス酢酸塩pH8.1、500mMのKOAc、150mMのMgOAcを含む緩衝液中で94℃で35分間断片化した。ハイブリダイゼーションの前に、ハイブリダイゼーション混合液(100mMのMES、1MのNaCl、20mMのEDTA、0.01%Tween 20、0.5ng/μlのBSA、0.1ng/μlのニシン精液及びAffymetrix対照を含む緩衝液)中の断片化cRNAを95℃で5分間加熱してから45℃に冷却し、Affymetrixプローブアレイカートリッジに入れた。プローブアレイを45℃で16時間、一定の回転速度(60rpm)でインキュベートし、その後Affymetrixの洗浄及び染色プロトコルに従った。
【0070】
このプロトコルは、以下の操作を含んでいた:
・非ストリンジェント緩衝液(6× SSPE、0.01%Tween 20、0.005%の消泡剤)による1回の洗浄
・ストリンジェント緩衝液(100mMのMES、0.1MのNaCl、0.01%のTween 20)による1回の洗浄
・100mMのMES、1MのNaCl、0.05%のTween 20、4mg/mlのBSAを含む緩衝液中の0.01mg/mlのストレプトアビジン−フィコエリトリン結合体(Molecular Probes)による第1の染色。
・非ストリンジェント緩衝液(6× SSPE、0.01%Tween 20、0.005%の消泡剤)による1回の洗浄
・100mMのMES、1MのNaCl、0.05%のTween 20、4mg/mlのBSAを含む緩衝液中の3μg/mlのビオチン化抗ストレプトアビジン+0.2mg/mlのIgGによる第2の染色。
・100mMのMES、1MのNaCl、0.05%のTween 20、4mg/mlのBSAを含む緩衝液中の0.01mg/mlのストレプトアビジン−フィコエリトリン結合体(Molecular Probes)による第3の染色。
・非ストリンジェント緩衝液(6× SSPE、0.01%Tween 20、0.005%の消泡剤)による1回の洗浄
【0071】
差別的に調節された遺伝子の選択のために、数学的方法を開発し、GeneChipの生データに適用した。この方法は、絶対表現即ち絶対差強度(ADI)から標準偏差(SD)を考慮することによって、一様な倍率変化カットオフ(single fold change cut−off)の設定を超える方法である。
【0072】
この方法には以下のステップが含まれる。即ち、(A)市販の「MAS5」Affymetrixプログラム(サンタクララ、CA、米国)によるデータ処理及び再評価、(B)再評価されたデータの正規分布への対数変換、(C)複数の仮説(遺伝子につき1つの)分散分析(ANOVA)検定、(D)条件SD(方程式1)の範囲内、条件間の有意限度SD、いわゆるREGExpress機能を決定するための平均のADIレベルにより命じられる200個の遺伝子のビンの範囲内(Genome Biology 2001 2(12);リプリント0009.1から0009.31の方程式2)の頑健平均の決定、並びに(E)作用の重要性に焦点を当てるためのREGEXpress及びANOVAのp値による遺伝子のランク付けである。選択は複数仮説(遺伝子につき1つの)ANOVA検定からのp値及び/又はREGExpressからのp値で行う。
【0073】
プローブアレイは、アルゴンイオンレーザ(AffymetrixのためにAgilentによって作製された)を使って488nmで調べた。量的調査からの読取り値は、Affymetrix遺伝子発現分析ソフトウェアで分析した。
【0074】
知見は、下記の表I〜IIIにまとめる。増加(+)倍率又は減少(−)倍率は、野生型マウスで発現される同じ遺伝子と比較したときの、CD1dノックアウトマウスで発現される遺伝子の統計学的に有意の相対的な増加倍率又は減少倍率である。CD1dを遮断すると毛包発達を制御する遺伝子は上方調節され、炎症及び癌の発達に関係した遺伝子は下方調節されることは明白になる。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【実施例6】
【0078】
TPAの単回局所投与によって誘発された炎症反応の評価
Sigma Aldrich(L’Isle d’Abeau Chesnes BP701、38297 Saint Quentin Fallavier、フランス)によって提供されたホルボール−12−ミリスチン酸−13−酢酸塩(TPA)を0.01%(W/V)の量でアセトンに溶かし、急性の炎症反応を誘発するために溶液の20μlをCD1d−/−マウス又は野生型マウスの右耳の内部表面に局所的に塗布した。
【0079】
動物は動物飼育室の個々のケージへ入れ、標準ペレット食餌及び12時間の明暗周期で飼育した。設備には、22±2℃の温度、55±10%の相対湿度の濾過空気が供給される。
【0080】
炎症反応は、塗布後6時間、24時間及び48時間後にマイクロメーターを使って耳の水腫を測定することによって定量化される(Kroeplin Gmbh、Postfach 1255 D36372 Schluchlern、ドイツによって提供された<<oditest>>)。
【0081】
水腫は以下のように計算される。
(水腫=処理群耳厚み−アセトン群の耳厚み)。
CD1d−/−群の平均値は、スチューデントのt検定を使って野生型群の平均値と比較される。
【実施例7】
【0082】
アラキドン酸の単回局所投与によって誘発された炎症反応の評価
Sigma Aldrich(L’Isle d’Abeau Chesnes BP701、38297 Saint Quentin Fallavier、フランス)によって提供されたアラキドン酸(5−8−11−エイコサテトラエン酸)を140nMの濃度でアセトンに溶かし、急性の炎症反応を誘発するために溶液の25μlをCD1d−/−マウス又は野生型マウスの右耳の内部表面に局所的に塗布した。
【0083】
動物は動物飼育室の個々のケージへ入れ、標準ペレット食餌及び12時間の明暗周期で飼育した。設備には、22±2℃の温度、55±10%の相対湿度の濾過空気が供給された。
【0084】
炎症反応は、塗布後1時間、2時間及び4時間後にマイクロメーターを使って耳の水腫を測定することによって定量化される(Kroeplin Gmbh、Postfach 1255 D36372 Schluchlern、ドイツによって提供された<<oditest>>)。
【0085】
水腫は以下のように計算される。
(水腫=処理群耳厚み−アセトン群の耳厚み)。
CD1d−/−群の平均値は、スチューデントのt検定を使って野生型群の平均値と比較される。
【実施例8】
【0086】
オキサゾロンによって誘発されたDTH(遅延型過敏症)反応の評価
Sigma Aldrich(L’Isle d’Abeau Chesnes BP701、38297 Saint Quentin Fallavier、フランス)によって提供されたオキサゾロン(4−エトキシメチレン−2−フェニル−オキサゾール−5−オン)を1%(W/V)の濃度でアセトンに溶かし、溶液の50μlを毛剃りCD1d−/−マウス又は毛剃り野生型マウスの腹部皮膚に1日1回、4日間塗布する。
【0087】
4日後に、動物はアセトンに0.3%の用量で溶かしたオキサゾロンによる右耳の内部表面上への単回投与(20μl)によりチャレンジされる。チャレンジ後の反応は、塗布後24時間及び48時間後にマイクロメーターを使って耳の水腫を測定することによって定量化される(Kroeplin Gmbh、Postfach 1255 D36372 Schluchlern、ドイツによって提供された<<oditest>>)。
【0088】
水腫は以下のように計算される。
(水腫=処理群耳厚み−アセトン群の耳厚み)。
CD1d−/−群の平均値は、スチューデントのt検定を使って野生型群の平均値と比較される。
【実施例9】
【0089】
太陽シミュレーターを用いたUV照射によって誘発される皮膚損傷の評価
UVCフィルターを備えた太陽シミュレーター(Oriel 81050)を用いてCD1d−/−マウス又は野生型マウスを照射する。
【0090】
照射:UVB+UVA線量、正確にする
表皮への作用:SBC計数、表皮性過形成測定
真皮への作用:免疫組織化学的方法によるMMP1及びMMP3発現
【実施例10】
【0091】
UV照射によるCD1d遺伝子転写の調節並びにUV誘発COX−2及びTNF−α遺伝子転写の調節におけるCD1dの役割
マウス
SPF雄非近交系129/C57BL/6野生型及び129/C57BL/6 CD1dノックアウトマウスをL.Van Kaer、ヴァンダービルト大学医療センター(ナッシュビル、TN、米国)から入手した。動物は、現行のスイス規則及び基準に従って施設で維持された。動物はフィルターで保護されたケージに収容され、周囲の照明は12時間明/12時間暗の周期となるように調節された。オートクレーブされたオープンフォーミュラマウス固形飼料及び水は、無制限に供給された。組織のAnimal Care and Use Committeeはすべての動物処置を審査して承認した。各実験内で、すべてのマウスは年齢及び性別を揃えた。各実験の開始時、マウスは16週齢であった。
【0092】
UV光源
UVB光源はフィリップス社製TL−40W/12太陽灯(フィリップス社、オランダ)5個一列を用いた。これらのランプは、270から400nmのスペクトルを発する。照射の54%は太陽スペクトルのUVB範囲(280〜315nm)内であり、45%はUVA(315〜400nm)の領域、1%未満がUV−C(240〜280nm)の範囲内であった。5つの電球の放照射度は、UVB PMAリサーチ輻射計で測定すると平均で10W/mであった。太陽のシミュレーション光(UVA+UVB)は、WG−320大気減衰フィルター(厚さ1mm)、可視/赤外帯域通過遮断フィルター(UG−5;厚さ5mm)、並びに更に可視及び赤外線のエネルギーを減らすダイクロイックミラーを備えた1000WのエクソンUV太陽シミュレーター(Solar Light Company、PA、米国)によって作られた。
【0093】
マウスのUV照射
マウスの背側の毛は、電気クリッパーで取り除いた。UVB照射に曝されたマウスは、プレキシガラスデバイダーで個々の区画に分けられたプレキシガラスの箱に入れ、入射線量を14%カットする針金トップで覆った。各UVB照射のために、電球の長辺方向のエネルギーの偏在を補償するために、各回ランプの下の同じ位置に箱を置いた。太陽のUV光線(UVA+UVB)に曝すマウスについては、太陽シミュレーターの光線を照射する前にマウスに麻酔をかけて固定した。マウスは、フィリップス社製TL−40W/12太陽灯5個からの86、215又は430mJ/cm UVBの入射線量に1度曝露した。太陽光線(UVA+UVB)に曝すマウスは、1680(1分)、16,800(10分)又は33,600mJ/cm(20分)の太陽光入射線に1度曝された。
【0094】
ケラチノサイト細胞培養のUV照射
無菌の6穴プレート(Corning、オランダ)で培養したケラチノサイトの集密培養物を、太陽のUV照射に1回(5700mJ/cm)曝した。培地を取り除き無菌のHBSSで置換した後、プラスチックの蓋をしないで処理を行った。対照培養物は、照射しなかった。UV曝露の後、HBSSを取り除いて培地を培養物に戻した。細胞を37℃/5%COでインキュベートし、その後様々な時点でRNAのために収穫した。
【0095】
マウス組織の免疫染色
野生型マウス皮膚の生検材料をホルマリン固定してからパラフィンに包埋した。パラフィン包埋組織の切片(厚さ5μm)を作成し、弱く加熱してパラフィンを除き、脱水して以下の手順で再水和した。即ち、キシレン中で3分間を2回、エチルアルコール100%中で3分、エチルアルコール95%中で3分、エチルアルコール80%中で3分及びPBS 1×中で3分とした。新鮮な皮膚をTissue−Tek(4583、Sakura Finetek、Torrance、米国)にも包埋し、液体窒素で凍結させた。次に切片をPBS 1×中で数分間再水和した。切片は抗マウスCD1d 1H1一次mAbを使って染色し、マウスHistostain−plusキット(ZYMED Laboratories Inc.、サンフランシスコ、米国)を使って展開した。
【0096】
皮膚又は細胞溶解物からの総RNAの抽出
6穴プレートで培養したヒトケラチノサイトの処理培養物及び対照培養物を氷上に置き、4℃のPBS 1×を使って2回洗浄した。1%のβ−メルカプトエタノールを加えた350μlの細胞溶解緩衝液RLT(74104、Qiagen社、バーゼル、スイス)中で細胞をこすり、軽く撹拌して細胞溶解物を得た。13,000×gで2分間遠心にかけて細胞抽出物をホモジナイズするのにQIAshredderカラム(79656、Qiagen社、バーゼル、スイス)を用いた。次に、メーカーのプロトコルに従ってRNAeasyキット(74104、Qiagen社、バーゼル、スイス)を使って総RNAを調製した。ゲノムDNA混入物は、RNアーゼを含まないDNアーゼセット(79254、Qiagen社、バーゼル、スイス)を使い、オンカラムDNアーゼ消化で取り除いた。1cm×1cmの皮膚試料を細断し、ローターステーターホモジナイザー(Polytron、Kinematica、Luzern、スイス)を用いて1mlのTRIZOL試薬(15596−026、Invitrogen社、バーゼル、スイス)中でホモジナイズした。12,000×gでの遠心の後に得られた上清を新しい試験管に回収し、室温で5分間インキュベートした。0.2mlのクロロホルムを試験管に加え、それを15秒間激しく振盪し、室温で2〜3分間インキュベートした。試料を12,000×gで15分間、4℃で遠心分離した。上の水相を新しい試験管へ移し、総RNAを0.5mlのイソプロピルアルコールを使って室温で10分間沈殿させた。4℃における12,000×gで10分間の遠心によって得られたRNAペレットを1mlの75%EtOHで洗浄し、次に7,500×g5分間、4℃で遠心した。RNAペレットは最終的に室温で乾燥し、試料を55〜60℃で10分間インキュベートすることによってRNaseを含まない40μlの水に溶かした。可能なDNA汚染は、RNアーゼを含まないDNアーゼセットを使ってオンカラムDNアーゼ消化で取り除いた。
【0097】
半定量的なRT−PCR
A.逆転写PCR法及びPCR反応
RT−PCRのSuperscript First−Strand Synthesisシステム(11904−018、Invitrogen社、バーゼル、スイス)をメーカーの説明書に従って使い、オリゴdTプライミングにより5μgの総RNAを第1鎖cDNAに逆転写した。cDNAのPCRは、単一遺伝子(単一PCR)又は同義遺伝子(同義遺伝子PCR)の特異的発現を検出するために行われた。単一PCRについては、5μlのPCR緩衝液、3μlの25mM MgCl、1μlの10mM dNTP、50μMセンス及びアンチセンスのオリゴヌクレオチドを0.5μl、3μlのDMSO、34.5μlの水並びに0.5μlの5U/μl Taq DNAポリメラーゼを含む48μlのPCRマスターミックスを、2μlのcDNAに加えた。すべての試薬はInvitrogen(15558−026及び18427−013、バーゼル、スイス)から購入した。cDNA試料の増幅のために適用されたサイクル回数及びアニーリング温度は試験した各遺伝子に特有で、1サイクルは94℃で30秒、x℃で30秒、及び72℃で30秒からなり、各増幅の前には94℃で2分間処理され、72℃で3分間の処理で終了した。アポトーシス及び炎症に関係する遺伝子の同義遺伝子PCRのためのキットMP−70211(Maxim Biotechnologies、サンフランシスコ、米国)を説明書通りに用いた。各キットを使う前に、同義遺伝子を検出するために複数の逆方向プライマー及び順方向プライマーを同時に操作する条件を決定した。TNF−α及びCOX−2遺伝子を検出するためのプライマーを含んだキットMP−70211の使用条件は次の通りである。96℃で1分間及び60℃で4分間(2サイクル);94℃で1分間及び60℃で2分間(29サイクル);70℃で10分間(1サイクル)及び25℃で浸漬。1組の条件下で同義遺伝子を検出するためのMPCRキットで使用した逆方向プライマー及び順方向プライマーのDNA塩基配列は工業所有権があるので、この報告書では記載しない。
【0098】
プライマー配列及び増幅サイクル数
ヒト:
【表4】

【0099】
マウス:
【表5】

【0100】
B.mRNAレベルの相対的定量化
遺伝子の増幅は、2%のエチジウムブロマイドを含む1XTAE緩衝液中で150Vで30分間流した3%アガロースゲルに10μlのPCR産物をロードすることによって分析した。PCR産物はUV光下で蛍光バンドとして視覚化された。ゲルはKodac DC 120カメラを使って調べ、バンドの蛍光強度はソフトウェアScion Image β4.02 Win(Scion社、メリーランド、米国)を使って定量化した。
【0101】
ネズミの系におけるCD1dタンパク質の研究は腸管の上皮細胞及び肝細胞と同様に多くの種類の造血細胞における広範囲で構成的な発現を示唆するが、この分子が正常及び/又はUV照射のマウス皮膚細胞、特にケラチノサイトによって発現されるかどうかは分かっていない。この問題に対処するため、非照射及びUVB照射の野生型マウスからの皮膚をホルマリンで固定し、切片を作製し、抗マウスCD1d mAb(1H1)を使って染色してCD1dタンパク質を検出した。正常の非照射皮膚のCD1dタンパク質の検出は陰性であった(データは示されていない)。しかし、CD1dタンパク質は、UVBを照射したマウス皮膚の表皮及び真皮で検出された(茶色)(図5)。染色は主に皮膚のより分化した層(顆粒層及び角質層)に限定され、細胞レベルでは細胞質及び核膜に限局された。
【0102】
このように、UVB起因性マウス皮膚損傷/火傷は抗原提示細胞(局所的又は全身的)によってではなく、マウスケラチノサイトのレベルで直接制御される。
【0103】
CD1d遺伝子転写はUV照射によって調節される
UVB起因性皮膚損傷がCD1dによって調節され、CD1dタンパク質がマウス表皮細胞(ケラチノサイト)によって発現されることが証明され、次に重要なことは皮膚CD1d発現がUV照射によって調節されるかどうかの立証であった。皮膚CD1d発現がUV照射によって調節されることのいかなる指標は、皮膚内CD1dレベルの調整がUV誘発性皮膚損傷の調節を担う重要な因子であることを示唆するであろう。この問題に対処するために、野生型マウスの毛剃りをした背をUVB照射に単回(86mJ/cm)曝し、照射後様々な時間(6、24、48、72及び96時間後)に照射された皮膚を切除し、RNAを抽出して精製し、CD1d−mRNAレベルを半定量的RT−PCRで測定した。対照として、正常非照射マウス皮膚を切除し、RNAを抽出して精製し、CD1d−mRNAレベルを半定量的RT−PCRで測定した。
【0104】
図6で示すように、UVB照射から6時間後には早くも低下したマウス皮膚全体におけるCD1d−mRNAレベルは、照射後24時間には正常な非照射皮膚で検出されたレベルと比較して有意に低下していた。対照的に、UVB照射から48、72及び96時間後には、CD1d−mRNAレベルは正常な非照射の対照皮膚で検出されたレベルより高くなっていた。皮膚CD1d遺伝子転写に及ぼすUVB照射の作用に関する我々の研究を更に確認するために、我々は野生型マウスの剃った背を太陽のUV照射(UVB+UVA)の様々な線量(太陽UV光の1680mJ/cm(1分)、16,800mJ/cm(10分)又は33,600mJ/cm(20分))に露出させた。照射から6及び72時間後、照射皮膚を切除し、RNAを抽出して精製し、CD1d−mRNAレベルを半定量的RT−PCRで測定した(図7)。UVB照射と同様に、我々はUV線量を問わず太陽UV照射から6及び72時間後に類似したCD1d−mRNAレベルのそれぞれ低下及び上昇を観察し、UV照射への皮膚CD1d遺伝子転写の反応はUV曝露の有害な作用に対する皮膚の反応における重要な事象であることを示唆している。
【0105】
ヒトケラチノサイトCD1d遺伝子転写は、太陽UV光照射によって調節される
ヒトCD1d遺伝子転写がUV照射によって調節されるかどうか取り組む中で、培養ヒトケラチノサイトがUV照射に対して類似した遺伝子転写動態プロフィールを示すかどうか調査を行った。3反復のDK7細胞ケラチノサイト培養物を1回量5700mJ/cmの太陽UV光照射へ曝露してから異なる時間に細胞をRNAのために収穫し、CD1d−mRNAの相対レベルを決定するために半定量的RT−PCRを実行した(図8)。UV照射(UVB又は太陽光)マウス皮膚で観察されたように、正常な非照射対照と比較して、CD1d−mRNAレベルは照射後6時間に低下した。照射後10時間のCD1d−mRNAレベルの分析の結果、これらのレベルは正常な非照射細胞培養で検出されたレベルと比較して更に減少していたことが分かった。UV曝露から16時間及び48時間の間に、CD1d−mRNAのレベルは比例的に増加した。また、マウス皮膚におけるUV誘発性CD1d遺伝子転写はケラチノサイトのレベルで調節されている可能性を示唆するパターンも、UV照射を受けた野生型マウスの全皮膚で観察された。
【0106】
ヒトケラチノサイトCD1d遺伝子転写はUV照射に反応し、マウス皮膚CD1dと同様の方法で調節されるようであり、このことはa)皮膚CD1dはUV照射に対する皮膚反応の調節において重要な役割を担い、またb)皮膚のCD1dレベルの調整はUV誘発性皮膚炎症/損傷の調節を担う重要な因子であることを暗示している。
【0107】
皮膚炎症を調節する鍵遺伝子の遺伝子転写は、UVBを照射したCD1dノックアウトマウス皮膚では減少する
UVB誘発性皮膚炎症/損傷の調節を担う重要な分子としてのCD1dを更に確認するために、我々は次にCOX−2及びTNF−α遺伝子転写(UVB誘発性の皮膚炎症/損傷の調節を担う鍵遺伝子)はUV光を照射したCD1dノックアウトマウス皮膚では調節されないかどうかを調査した。CD1dノックアウトマウス皮膚においてCOX−2及びTNF−αのmRNAレベルがUV光照射から48及び72時間後に阻害されることが分かった(図9)。UV光誘発性皮膚損傷/炎症がUV光照射から48及び72時間後に野生型マウスで観察されることから、これらのデータは皮膚CD1dがCOX−2及びTNF−α遺伝子の転写を誘発することによってUV光誘発性皮膚炎症/損傷を媒介することを証明している。
【実施例11】
【0108】
CD1dノックアウトマウスのUV照射をした皮膚の炎症性サイトカイン合成は、野生型対照マウスと比較して減少する。
【0109】
マウスのUV照射
マウスは、200mJ/mのUVBの入射線量に1度曝露させた。3カ月齢の雌近交の129/C57BL/6 WT及び129/C57BL/6 CD1d KOマウスがこの研究に含まれた(n=4)。
【0110】
サイトカイン定量化
皮膚の8mmパンチ生検材を照射後0、24、48、72、96及び168時間後に収穫して直ちに液体窒素で凍結した。古典的ELISA法を用いて皮膚ホモジェネートのIL−6及びMIP1−αを定量した。
【0111】
WTマウスではUV−B照射は照射の48時間後に炎症性サイトカイン合成の高い上方調節を誘発するが、CD1d KOマウスではIL−6及びMIP1−αタンパク質の合成は有意に減少する。このことはUVB誘発性皮膚炎症におけるCD1dの主要な役割を示す。
【実施例12】
【0112】
ヒドロコルチゾンは、化学的ストレス誘発性CD1d遺伝子転写を抑制する。
【0113】
一次ヒトケラチノサイトを完全KGMで培養してから、ストレス因子としての300μMのHに曝露させた。接種の48時間後にKGM培地をヒドロコルチゾンを含まないKGMで置換し、培養物を300μMのHで処理した。処理後異なる時間で総RNAを抽出し、CD1d−mRNAをリアルタイムPCRによって定量化した。
【0114】
Taq Man検定については、Applied Biosystemsは1ウェルあたり10から100ngの初期のRNA量の使用を推奨している。したがって、第1鎖cDNAの合成は、メーカーの推奨(Superscript(商標)First−Strand Synthesis System for RT−PCR、11904−018、Invitrogen)に従って1μgの総RNA及び150μgのランダム六量体を使って20μlの体積で行った。得られたcDNA試料の1μlをリアルタイムPCRによる増幅のために使用した。
【0115】
CD1dのcDNAの検出のために使われたプライマー及びプローブのセットは、Applied BiosystemsからAssays on Demandとして提供された(それぞれHs00174321_ml及びHs00166289_ml)。ハウスキーピング遺伝子GAPDHのためのプライマー及びプローブはPDARS(4310884E、Applied Biosystems)として提供された。
【0116】
すべてのcDNA試料は3反復で試験した。PCR反応混合物はミクロ遠心管で氷上で調製した。1反復は、1.25μlの20×の標的又は対照の混合液、10.25μlの水及び12.5μlの2×のTaqMan Universal Master混合液を使って24μlのプレミックスを作製し、1μlのcDNAに加えた。PCR反応混合物を穏やかに且つ速く遠心分離し、96ウェルプレートに1ウェルにつき25μlを等分して入れた。プレートを密封し、2000rpmで30秒間遠心分離し、以下のPCRプログラムを用いた温度サイクル及び蛍光分析のための5700Sequence Detectionシステムに入れた:
− 50℃2分
− 95℃10分
− 95℃15秒及び60℃1分を40サイクル
【0117】
結果は、GeneAmp(登録商標)5700 SDSソフトウェアを使用して解析した。サイクル数の関数としての関心のあるcDNAの増幅を示す増幅グラフが得られた。
【0118】
対照条件と比較してこの試験条件で得られた遺伝子発現倍率の変化は、下記式を使って比較Ct法で測定された:
【数1】

【0119】
図11で示すように、細胞がHに曝されたときにCD1d遺伝子発現の調整が時間と共に観察される。ヒドロコルチゾンの存在下では、Hチャレンジ後に得られるCD1d遺伝子発現のパターンはヒドロコルチゾンがCD1d転写を抑制した点で異なった。
【0120】
このように、ヒドロコルチゾンはストレスを受けた細胞でCD1dの発現を抑制することができる。
【実施例13】
【0121】
リン脂質レベルは、野生型マウス皮膚と比較してCD1dノックアウトマウスの皮膚及び腸では調節されない。
【0122】
マウス:5カ月齢の雌近交のC57BL/6 CD1d−/−及び野生型C57BL/6マウスを屠殺してそれぞれの組織を切除した。各マウスからの皮膚/腸管組織の切片を液体窒素で急速冷凍した。それらを脂質含量について分析した。
【0123】
皮膚のCD1dによって調節された主な脂質ファミリーはリン脂質であった。
【0124】
【表6】

【0125】
スフィンゴミエリン
動物細胞膜の遍在構成成分であり、断然最も多く存在するスフィンゴ脂質である。実際、ある種の組織では脂質の50%を占めるが、通常ホスファチジルコリンよりは少ない。例えば、スフィンゴミエリンは脳脂質の約10%を占める。大部分の反すう動物の赤血球に単独で最も多く存在する脂質であり、そこでは完全にホスファチジルコリンを置換する。この場合、スフィンゴミエリンは分解しないがグリセロリン脂質を分解する非常に活性の高いホスホリパーゼAが存在することが知られている。ホスファチジルコリンと同様に、スフィンゴミエリンは原形質膜、特に細胞の外側の小葉に最も豊富となる傾向がある。
【0126】
今ではスフィンゴミエリン(及び他のスフィンゴ脂質)並びにコレステロールは、一緒に膜の特定のサブドメイン(「ラフト(raft)」又は「カベオラ(caveolae)」と呼ばれる関連した構造)に位置することが分かっている。長く、多くは飽和したアシル鎖を含んでいるので、スフィンゴ脂質は、膜グリセロリン脂質より互いに密に充填され、そのため融点もはるかに高い。このアシル鎖の密な充填はラフト脂質の組織化に必須であるが、その理由は、スフィンゴ脂質及びリン脂質の差別的充填機能が、膜内で相分離をもたらし、グリセロリン脂質の豊富な領域(「無秩序液」相)で囲まれたスフィンゴ脂質の豊富なラフト(「秩序液」相)を生じると考えられているからである。特定の細胞タンパク質とこれらラフトの脂質間の相互作用はシグナル伝達機構に重要と考えられており、細胞シグナル伝達の調節におけるスフィンゴミエリンの重要な役割を暗示している。
【0127】
スフィンゴミエリンは、アポトーシスに関係するシグナル伝達プロセスにおける鍵脂質である。
【0128】
また、スフィンゴミエリンはセラミド、長鎖塩基及び「スフィンゴミエリンサイクル」の一部としてスフィンゴシン−1−リン酸塩、並びに他の多くの重要なスフィンゴ脂質の前駆体の役目もする。(下記図を参照)。これらの一部は細胞内メッセンジャーの機能を有し、一部は必須の膜構成成分である。
【化1】

【0129】
リゾホスファチジルコリン
− 炎症誘発性のリン脂質
− 乾癬病変で上昇する
− 皮内注射は皮膚炎症を誘発する
− アラキドン酸の生産において律速段階であるホスホリパーゼA2の作用によって形成される。(CD1dによるCOX−2の調節との関連)。
【0130】
大腸では以下の結果が得られた:
【表7】

【0131】
小腸では以下の結果が得られた:
【表8】

【0132】
この上記データは、炎症プロセスを制御するリン脂質代謝の調節におけるCD1dの役割を裏付ける。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1A】UVB照射の単回投与(86mJ/m)後の皮膚傷害(火傷)を示す野生型マウスの図である。
【図1B】UVB照射の単回投与(86mJ/m)後の皮膚傷害(火傷)を示す野生型マウスの図である。(拡大図)
【図1C】UVB照射の単回投与(86mJ/m)後の皮膚傷害の明瞭な徴候を示さないCD1dノックアウトマウスの図である。
【図1D】UVB照射の単回投与(86mJ/m)後の皮膚傷害の明瞭な徴候を示さないCD1dノックアウトマウスの図である。(拡大図)
【図2】UVB照射(86mJ/m)を2回投与された野生型(右)及びCD1dノックアウト(左)マウス間のUVBによって誘発された皮膚傷害の程度の差を示す図である。
【図2A】UVB照射(86mJ/m)を2回投与された野生型マウスの傷害(病変)を受けた背面皮膚を示す図である。(拡大図)
【図2B】UVB照射(86mJ/m)を2回投与されたCD1dノックアウトマウスの無傷の背面皮膚を示す図である。
【図3】TUNELで測定した場合の、野生型マウスと比較して背面の表皮により多くの表皮アポトーシスを示すCD1dノックアウトマウスの図である。UV照射に曝されない野生型(A)及びCD1dノックアウト(B)マウスの皮膚。UVB照射(86mJ/m)に1回曝されてから48時間後の野生型(C)及びCD1dノックアウト(D)マウスの皮膚。
【図4a】マウス及びヒトの異なる組織におけるCD1dのおよその量を示すグラフである。
【図4b】マウス及びヒトの異なる組織におけるCD1dのおよその量を示すグラフである。
【図5】UVB照射の単回投与(430mJ/m)後72時間のマウス皮膚表皮に発現したCD1dタンパク質を示す図である。
【図6】UVB照射後に調節されたマウス皮膚CD1d遺伝子転写を示す図である。
【図7】模擬太陽光照射後に調節されたマウス皮膚CD1d遺伝子転写を示す図である。
【図8】太陽光のUV照射後に調節された、不死化(DK7)ヒトケラチノサイトのCD1d遺伝子転写を示す図である。
【図9】UVB照射CD1dノックアウトマウス皮膚においてCOX−2及びTNF−α mRNAレベルが下方調節されたことを示す図である。
【図10a】CD1d KOマウスにおいてUVB照射48時間後にマウス皮膚IL−6及びMIP1−αタンパク質レベルが顕著に低下したことを示す図である。
【図10b】CD1d KOマウスにおいてUVB照射48時間後にマウス皮膚IL−6及びMIP1−αタンパク質レベルが顕著に低下したことを示す図である。
【図11】ヒドロコルチゾンが化学的ストレスに曝された細胞でCD1d転写を抑制することを示す図である。
【図12】ヒト毛包で発現したCD1dを示す図である。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性CD1d機能を遮断又は修飾することのできる物質であって、
(a)上皮細胞を関心のある物質に曝すステップと、
(b)前記上皮細胞をストレス状況に置くステップと、
(c)前記上皮細胞に対する前記ストレスの作用を、以下の検定、
(i)上皮の過形成(H&E)、
(ii)上皮増殖(BrUd,PCNA)、
(iii)上皮アポトーシス(TUNEL)、
(iv)p53突然変異蓄積、
(v)上皮脂質の量的及び質的な評価、
(vi)アポトーシス細胞及び非アポトーシス細胞の表面受容体の共クラスター形成パターン、
(vii)炎症誘発性サイトカインの産生、
(viii)免疫調節性サイトカインの産生、
(ix)炎症のマーカー、
(x)抗アポトーシス転写因子、及び
(xi)老化のマーカー
の1つ又は複数についてスクリーニングすることによって決定するステップと、
(d)得られた結果を対照と比較するステップ
とを含む方法で得られる物質。
【請求項2】
上皮細胞に対するストレスの有害作用を予防及び/又は治療することのできる、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
脱毛症を予防又は治療することのできる、請求項1に記載の物質。
【請求項4】
CD1d遺伝子の転写及び/又は翻訳を減少させる化合物である、前記請求項のいずれかに記載の物質。
【請求項5】
CD1d遺伝子及び/又はCD1d−mRNAに含まれる配列にアンチセンスなポリヌクレオチドである、請求項4に記載の物質。
【請求項6】
グルコシルセラミドシンターゼ遺伝子及び/又はグルコシルセラミドシンターゼmRNAに含まれる配列にアンチセンスなポリヌクレオチドである、請求項1から4までのいずれかに記載の物質。
【請求項7】
スフィンゴミエリナーゼ若しくはセラミドシンターゼ遺伝子及び/又はスフィンゴミエリナーゼ若しくはセラミドシンターゼのmRNAに含まれる配列にセンスなポリヌクレオチドである、請求項1から4までのいずれかに記載の物質。
【請求項8】
CD1dと結合して本質的にCD1d機能を遮断又は修飾するポリペプチド又はペプチドである、請求項1から4までのいずれかに記載の物質。
【請求項9】
前記ポリペプチドが抗体又は抗体可変部である、請求項8に記載の物質。
【請求項10】
脂質である請求項1から4までのいずれかに記載の物質。
【請求項11】
前記脂質がスフィンゴ脂質、グリコスフィンゴ脂質、リン脂質、ガングリオシド、ステロール、脂肪酸、グリセリド又はホスファチジルイノシトールリン酸である、請求項10に記載の物質。
【請求項12】
植物、微生物又は動物に由来するか、或いは植物化学物質、特に天然若しくは合成のポリフェノール、又は緑茶成分、ギンコライド、ビタミン、アミノ酸又はカロテノイドである、請求項10及び11に記載の物質。
【請求項13】
セラミドであるか、又はTNFスーパーファミリー、特にCD95/APO−1/Fasに属する受容体のリガンドである、請求項8に記載の物質。
【請求項14】
上皮細胞に対するストレスの有害作用及び/又は脱毛症の予防及び/又は治療用の担体の調製のための、前記請求項のいずれかに記載の物質。
【請求項15】
少なくとも前記請求項のいずれかに記載の物質を含む組成物。
【請求項16】
食品組成物、化粧組成物又は医薬組成物である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
牛乳、ヨーグルト、カード、チーズ、発酵乳、乳ベースの発酵製品、アイスクリーム、乳ベースの粉製品、乳児食、穀物製品、発酵穀物ベースの製品、ミネラルウォーター、チョコレート又はペットフード、或いはローション、シャンプー、クリーム、日焼け止め、日焼け手入れクリーム、老化予防クリーム及び/又は軟膏若しくは錠剤、液剤、乾燥経口サプリメント、湿性経口サプリメント、乾燥若しくは湿性経管栄養、又は抗癌剤である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
ストレス状況によって起こる上皮組織の損傷の予防及び/又は治療、並びに/或いは脱毛症の予防及び/又は治療のための、請求項1から14までのいずれかに記載の物質又は請求項13から15までのいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項19】
前記ストレス状況が化学的ストレス、生物学的ストレス又は物理的ストレスである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記化学的ストレスがオキシダント又は発癌物質への曝露によって起こるか、或いは前記生物学的なストレスが細菌、ウイルス、真菌類、周辺細胞及び/若しくは微生物に由来する脂質への曝露によって起こるか、或いは前記物理的ストレスがUV光照射への曝露によって起こる、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記損傷が皮膚の火傷及び/又は水ぶくれ、白内障形成、表皮性の過形成、癌、炎症、免疫抑制、皮膚老化である、請求項18から20までのいずれかに記載の使用。
【請求項22】
前記上皮細胞が皮膚、腸、眼、肺、前立腺、肝臓、乳房、腎臓、及び/又は子宮に由来する、請求項18から21までのいずれかに記載の使用。
【請求項23】
前記癌が乳癌、大腸癌、前立腺癌、肝癌、膵臓癌、腎臓癌、非メラノーマ及びメラノーマ皮膚癌である、請求項21に記載の使用。
【請求項24】
CD1dを遮断又は修飾する物質を識別する方法であって、
(a)上皮細胞を関心のある物質に曝すステップと、
(b)前記上皮細胞をストレス状況に置くステップと、
(c)前記上皮細胞に対する前記ストレスの作用を、以下の検定、
(i)上皮の過形成(H&E)、
(ii)上皮増殖(BrUd,PCNA)、
(iii)上皮アポトーシス(TUNEL)、
(iv)p53突然変異蓄積、
(v)上皮脂質の量的及び質的な評価、
(vi)アポトーシス細胞及び非アポトーシス細胞の表面受容体の共クラスター形成パターン、
(vii)炎症誘発性サイトカインの産生、
(viii)免疫調節性サイトカインの産生、
(ix)炎症のマーカー、
(x)抗アポトーシス転写因子、及び
(xi)老化のマーカー
の1つ又は複数についてスクリーニングすることによって決定するステップと、
(d)得られた結果を対照と比較するステップ
とを含む方法。
【請求項25】
前記ストレス状況が化学的ストレス、生物学的ストレス又は物理的ストレスである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記化学的ストレスがオキシダント又は発癌物質への曝露によって起こるか、或いは前記生物学的なストレスが細菌、ウイルス、真菌類、周辺細胞及び/若しくは微生物に由来する脂質への曝露によって起こるか、或いは前記物理的ストレスがUV光照射への曝露によって起こる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記炎症誘発性サイトカインがIL−1、TNF−α、PGE−2、IL−6、IFN−γ又はIL−8からなる群から選択される、請求項24から26までのいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記免疫調節性サイトカインがPAF、IL−10、IL−4又はTGF−βからなる群から選択される、請求項24から26までのいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記脂質がリン酸脂質、スフィンゴ脂質及びグリコスフィンゴ脂質からなる群から選択される、請求項24から26までのいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記炎症マーカーがCOX−2及びiNosを含む、請求項24から26までのいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記抗アポトーシス転写因子がAP−1及びNFκBを含む、請求項24から26までのいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記老化マーカーがエラスターゼ、コラゲナーゼ、メタロプロテイナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメリシン及びテロメラーゼを含む、請求項24から26までのいずれかに記載の方法。
【請求項33】
癌の多剤耐性を減少させるための、請求項1から14までのいずれかに記載の物質又は請求項15から17までのいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項34】
前記癌が皮膚癌、腸癌又は乳癌である、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
CD1d機能を修飾及び/又は遮断する物質をスクリーニングするための検定において、CD1dを発現及び/又は過剰発現する細胞の使用。
【請求項36】
ストレス状況によって引き起こされる上皮組織の損傷及び/又は脱毛症に作用する物質の活性を決定するための、試験モデルとしてのCD1d−/−動物の使用。
【請求項37】
遺伝子治療における請求項1から14までのいずれかに記載の物質の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4B】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−511462(P2006−511462A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−532123(P2004−532123)
【出願日】平成15年8月27日(2003.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009496
【国際公開番号】WO2004/019900
【国際公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(590002013)ソシエテ デ プロデユイ ネツスル ソシエテ アノニム (31)
【Fターム(参考)】