説明

上肢挙上作業用支援装置

【課題】上肢挙上作業における上肢の荷重分散をはかり、動作負担又は作業負担を軽減することにより、頸肩腕障害、肩関節周囲炎などの疾病の発生を予防する。
【解決手段】上肢挙上作業用支援装置Xが、背負子式に身体装着され、1対又は左右に分枝拡開した棒状アーム11の一端を、それぞれ両肩越しに両耳近傍まで延伸し、かつ、前面に臨ませて形設した体幹装具1と、棒状アーム11のそれぞれの先端に取り付けた1対の定荷重ばね2〔荷重調整手段〕と、左右の上腕部に巻回装着する1対の上腕保護部材3と、定荷重ばね2と上腕保護部材3との間に懸け渡した1対の懸吊部材4を具備する。そして、上腕保護部材3に左右の腕を通してそれぞれの上肢を身体の前方に挙上支援する。また、両肩部の装着ベルト12の左右胸部に1対のアームレスト部材51(5)を取着して、上肢を挙上保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上肢挙上動作を継続して又は頻回におこなう作業時に、挙上保持動作を支援するとともに、上肢の荷重を腰背部及び胸部に分散させて、動作負担又は作業負担を軽減する上作業用支援装置に係り、詳しくは、採果作業、天井工事や壁工事等の建築作業、配線作業、洗濯干し作業、溶接作業、インパクトレンチ作業などにおける頸肩腕障害、肩関節周囲炎などの疾病の発生を予防するための上肢挙上作業用支援装置に関する。
【0002】
ここで、上肢挙上動作(作業)は、作業者の肩より高い位置に、肘を外転させて又は外転させず前方に上肢を挙げる動作(作業)形態を指称するものである。なお、「負荷」と「負担」は互換的に使用する。
【0003】
したがって、本発明が属する技術分野は、産業分野を限定するのではなく、上肢挙上動作(作業)をおこなう利用分野を適用範囲とするものである。
【背景技術】
【0004】
従来より、整形外科用装具(リハビリテーション用具を含む)として、肩サポーターや肩甲胸部用装具が知られている。(例えば、特許文献1、2、3、4及び5を参照)。
【特許文献1】特開2005−245612号公報
【特許文献2】特開2003−265670号公報
【特許文献3】特開2002−177310号公報
【特許文献4】特表2002−521130号公報
【特許文献5】特表2001−522290号公報
【0005】
これらはいずれも医療装具であって、姿勢矯正、運動支援(モーションアシスト)その他の治療や訓練を目的効果として優先するものである。
【0006】
一般に、肩のサポーターは、表1(非特許文献1より引用)に示す良肢位に固定するのが通常である。
【非特許文献1】石井清一,平澤泰介監修:標準整形外科学,pp.86-87,医学書院(2002)
【0007】
【表1】

【0008】
ここで、良肢位とは、日常生活に便利な肢位の意味であり、各関節ごとに決まっている。関節強直(かんせつきょうちょく:関節内に生じた種々の病変で関節運動が強く制限された状態をいう)を起こした場合には、同じ強直でも機能上から見て便利な肢位での強直を良性肢位強直と呼ぶ。
【0009】
例えば、膝関節であれば、10〜15度の屈曲位が歩行、階段の昇降においてより便利である。しかし、自動車の運転などでは、もう少し屈曲した状態で強直したほうがブレーキ操作には都合がよい。
【0010】
肩関節では、外転20〜30度の屈曲・回旋は手が顔に届く角度である。肩のサポーターは、原則的に、この良肢位で固定する。すなわち、本発明に関する上肢挙上動作(後述の外転又は前方挙上角度70〜160度)の機能上の評価はされていないといえる。
【0011】
ところで、上肢挙上作業をおこなう作業者において、頸肩腕障害や肩関節周囲炎などの疾病が多発していることが問題視されている。発生原因は、作業者の上肢帯および肩甲帯の筋群に静的筋収縮による強い負担(過重負荷)が継続的又は頻回に生じる点にあると推認される。
【0012】
例えば、Chaffin は、上肢挙上作業の負担を調査して、肘の外転角度(外転挙上角度に同じ)が60度以上では、筋痛のための耐久時間が25分以下、90度以上では12分以下になり、上肢挙上作業の負担が極めて大きいことを指摘している(例えば、非特許文献2を参照)。
【非特許文献2】Chaffin,D.B.,"Localized Muscle Fatigue−Definition and Measurement",J.of Occupational Medicine,15(4),pp.346-354(1973)
【0013】
こうした知見とともに、上肢挙上作業の負担軽減対策は、産業現場における頸肩腕障害や肩関節周囲炎などの発生予防のために重要な課題となってきた。
【0014】
卑近な対策としては、作業台を設置して、その上に作業者が乗ることにより、作業位置を下げるなどが行われてきた。しかしながら、葡萄棚(採果作業)や天井(建築作業)のように、作業者の頭が棚や天井に閊(つか)える作業状態では、台の設置で作業位置を下げても、頭が閊えて邪魔になるため、頸部を極端に屈曲させるなどして、逆に頸部の負担が大きくなるため、有効な対策とはならない。ここで、作業高さは頭の高さとほぼ同等であり、肘を延ばした高さではない。
【0015】
また、広い作業場の場合は、作業台を頻繁に移動させなければならない等、作業性が悪い場合も多く、作業台のみでは問題解決が図れないということもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
発明が解決しようとする問題点は、上肢挙上動作時に上肢の荷重が上肢帯および肩甲帯に集中する点にあり、上記従来的な対策を見直して、予防医学的な見地から装具による作業負荷の軽減、解消を図ることが望まれる。
【0017】
技術的な解決課題は、上肢挙上動作時に上肢帯および肩甲帯に集中する上肢の荷重を腰背部及び胸部に広く分散させることが可能な装具を開発する点にある。具体的な装具構成としては、外転又は前方挙上角度が0〜160度(挙上動作に関し70〜160度)となる上肢の可動範囲で、上肢の荷重負担を解消可能なアームリフト手段とアームレストを組み合わせることが考慮される。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、上記課題を解消し、上肢挙上作業時に装着して動作負担又は作業負担を軽減することにより、頸肩腕障害、肩関節周囲炎などの疾病の発生に対する予防効果を発揮する上肢挙上作業用支援装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
課題を解決するために本発明は、上肢挙上動作を継続して又は頻回におこなう作業時に、挙上保持動作を支援するとともに、上肢の荷重を腰背部及び胸部に分散させて、動作負担又は作業負担を軽減することにより、頸肩腕障害、肩関節周囲炎その他の疾病の発生を予防するための上肢挙上作業用支援装置であって、
背負子式に身体装着され、1対又は左右に分枝拡開した棒状アームの一端を、それぞれ両肩越しに両耳近傍まで延伸し、かつ、前面に臨ませて形設した体幹装具と、
前記棒状アームのそれぞれの先端に取り付けた1対の荷重調整手段と、
左右の上腕部に巻回装着する1対の上腕保護部材と、
前記荷重調整手段と前記上腕保護部材との間に懸け渡した1対の懸吊部材を具備し、
前記上腕保護部材に左右の腕を通してそれぞれの上肢を身体の前方に挙上支援するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、長時間の継続作業や頻回作業を強いられる上肢挙上作業による筋群(上肢帯及び肩甲帯)への過重負荷を腰背部及び胸部に分散させて、作業負担を大幅に軽減することができる。
【0021】
少なくとも採果作業、天井工事や壁工事等の建築作業、配線作業、洗濯干し作業、溶接作業、インパクトレンチ作業など上肢挙上作業に適用可能であり、職業病ともいえる頸肩腕障害、肩関節周囲炎などの疾病の発生に対する予防効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の最良形態は、上記構成の上肢挙上作業用支援装置において、体幹装具が、少なくとも腰部と両肩部に装着ベルトを有して、棒状アームの体部を腰背部に装着固定するものであり、棒状アームが伸縮アームであって、装着時に先端の高さ位置を変更調整可能とするものであり、荷重調整手段が、挙上動作に応動して上肢を無荷重状態で可動保持するために牽引要素又はホイスト機構によりバランス調整するものである。
【0023】
荷重調整手段である牽引要素又はホイスト機構が、定荷重ばね、カウンターウエイト又はエアーバランサを用いるものである。
【0024】
ここで、装着時に、上肢の下垂位置を基準とする肩の外転又は前方挙上角度が0〜160度範囲であり、かつ、上肢を無荷重状態で可動保持するようにしている。
【0025】
また、両肩部の装着ベルトの左右胸部の上下所定範囲内に、それぞれ脱着可能で高さ調整可能に取着され、上腕又は肘を載せて上肢を挙上保持するための1対のアームレスト部材を有したものである。このアームレスト部材は、弾性ブロック体又は開閉固定可能なアングルプレートであるのが好ましい。
【実施例】
【0026】
本発明の一実施例である上肢挙上作業用支援装置(以下、実施例支援装置。)についてそれぞれ添付図面を参照して以下詳細説明する。
【0027】
図1は、実施例支援装置の構成を示す外観視説明図である。アームレスト部材の取着は選択的である。
【0028】
図2は、実施例支援装置の装着状態(使用状態)を示す背面視説明図である。
【0029】
図3は、実施例支援装置の装着状態(使用状態)を示す前面視説明図である。
【0030】
図示するように、実施例支援装置Xは、上肢挙上動作を継続して又は頻回におこなう作業時に、挙上保持動作を支援するとともに、上肢の荷重を腰背部及び胸部に分散させて、動作負担又は作業負担を軽減することにより、頸肩腕障害、肩関節周囲炎その他の疾病の発生を予防するための身体装具である。
【0031】
上肢挙上作業は、採果作業、天井工事や壁工事等の建築作業、配線作業、洗濯干し作業、溶接作業、インパクトレンチ作業などであり、作業時に装着使用し、職業病ともいえる頸肩腕障害、肩関節周囲炎などの疾病の発生予防を図る。
【0032】
特徴構成は、背負子式に身体装着され、1対又は左右に分枝拡開した棒状アーム11の一端を、それぞれ両肩越しに両耳近傍まで延伸し、かつ、前面に臨ませて形設した体幹装具1と、棒状アーム11のそれぞれの先端に取り付けた1対の定荷重ばね2と、左右の上腕部に巻回装着する1対の上腕保護部材3と、定荷重ばね2と上腕保護部材3との間に懸け渡した1対の懸吊部材4を具備するものとされ、上腕保護部材3に左右の腕を通してそれぞれの上肢を身体の前方に挙上支援するようにしている。
【0033】
もちろん、荷重調整手段として定荷重ばね2にこだわる必要はない。例えば、上肢の荷重とバランス(均衡)する錘を棒状アーム11のそれぞれの先端に取り付け、滑車を介して背部に吊り下げる仕組みのカウンターウエイト〔図示省略〕や、上肢の重さを自動検出してホイスト操作可能なエアーバランサ〔図示省略〕を用いることが考慮されてよい。
【0034】
具体的な態様では、体幹装具1は、図示のとおり左右に分枝拡開したY字型の棒状アーム11であり、少なくとも腰部と両肩部に装着ベルト12;13 を有して、棒状アーム11の体部を腰背部に装着固定するものとされる。
【0035】
なお、軽量パイプ等で構成した背負子(キャリングラック)を改変したものを考慮することができる〔図示省略〕。いずれもアームリフタの機枠要素と解して構わない。肩部と腰部の装着ベルト121;131 間の係止手段は、好適には面テープ121;131 であって、それぞれの部材の重合取着部の対向面に雌雄(パイルとフック)を切り換えたものである。
【0036】
また、棒状アーム11は伸縮アームであり、装着時に先端の高さ位置を変更調整可能とするものであり、定荷重ばね2が、挙上動作に応動して上肢を無荷重状態で可動保持するようにバランス調整される。なお、定荷重ばね2は市販品のなかから採用できる。
【0037】
そして、装着時に、上肢の下垂位置を基準とする肩の外転又は前方挙上角度αが0〜160度範囲であり、かつ、上肢を無荷重状態で可動保持するようにしている。
【0038】
さらに、両肩部の装着ベルト12の左右胸部の上下所定範囲内に、それぞれ脱着可能で高さ調整可能に取着され、上腕又は肘を載せて上肢を挙上保持するための1対のアームレスト部材5を有している。このアームレスト部材5は、弾性ブロック体51又は開閉固定可能なアングルプレート52(後述の図4)であるのが好ましい。
【0039】
両部材12;5(51,52) 間での係止手段は、好適には面テープ122;511(521)であって、それぞれの部材の重合取着部の対向面に雌雄(パイルとフック)を切り換えたものである。
【0040】
アングルプレート52の一例を図4に示す。ここで、アングルプレート52は2枚のプレート要素を交差し、ラチェット機構523 を設けて開閉固定可能(又は折り畳み固定可能)にヒンジ結合したものである。アングルプレート52の背面に係止手段(面テープ521)を設け、上腕又は肘を載置する上面には弾性被覆522 を施している。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例支援装置の構成を示す外観視説明図である。
【図2】実施例支援装置の装着状態(使用状態)を示す背面視説明図である。
【図3】実施例支援装置の装着状態(使用状態)を示す前面視説明図である。
【図4】アームレスト部材の他の構成例であるアングルプレートを示す斜視説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 体幹装具(アームリフタの機枠要素)
11 棒状アーム
12 肩部装着ベルト
121 面テープ(係止手段)
122 面テープ(係止手段)
13 腰部装着ベルト
131 面テープ(係止手段)
2 定荷重ばね〔荷重調整手段〕
3 上腕保護部材
4 懸吊部材
5 アームレスト部材
51 弾性ブロック体
511 面テープ(係止手段)
52 アングルプレート
521 面テープ(係止手段)
522 弾性被覆
523 ラチェット(機構)
α 外転又は前方挙上角度
X 実施例支援装置〔上肢挙上作業用支援装置〕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上肢挙上動作を継続して又は頻回におこなう作業時に、挙上保持動作を支援するとともに、上肢の荷重を腰背部及び胸部に分散させて、動作負担又は作業負担を軽減することにより、頸肩腕障害、肩関節周囲炎その他の疾病の発生を予防するための上肢挙上作業用支援装置であって、
背負子式に身体装着され、1対又は左右に分枝拡開した棒状アームの一端を、それぞれ両肩越しに両耳近傍まで延伸し、かつ、前面に臨ませて形設した体幹装具と、
前記棒状アームのそれぞれの先端に取り付けた1対の荷重調整手段と、
左右の上腕部に巻回装着する1対の上腕保護部材と、
前記荷重調整手段と前記上腕保護部材との間に懸け渡した1対の懸吊部材を具備し、
前記上腕保護部材に左右の腕を通してそれぞれの上肢を身体の前方に挙上支援するようにしたことを特徴とする上肢挙上作業用支援装置。
【請求項2】
体幹装具が、少なくとも腰部と両肩部に装着ベルトを有して、棒状アームの体部を腰背部に装着固定するものであり、
棒状アームが伸縮アームであって、装着時に先端の高さ位置を変更調整可能とするものであり、
荷重調整手段が、挙上動作に応動して上肢を無荷重状態で可動保持するための牽引要素又はホイスト機構である
請求項1記載の上肢挙上作業用支援装置。
【請求項3】
荷重調整手段である牽引要素又はホイスト機構が、定荷重ばね、カウンターウエイト又はエアーバランサを用いるものである請求項2記載の上肢挙上作業用支援装置。
【請求項4】
装着時に、上肢の下垂位置を基準とする肩の外転又は前方挙上角度が0〜160度範囲であり、かつ、上肢を無荷重状態で可動保持するようにしたものである請求項1乃至3のいずれか1項記載の上肢挙上作業用支援装置。
【請求項5】
両肩部の装着ベルトの左右胸部の上下所定範囲内に、それぞれ脱着可能で高さ調整可能に取着され、上腕又は肘を載せて上肢を挙上保持するための1対のアームレスト部材を有した請求項2記載の上肢挙上作業用支援装置。
【請求項6】
アームレスト部材が弾性ブロック体又は開閉固定可能なアングルプレートである請求項5記載の上肢挙上作業用支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−295696(P2008−295696A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144564(P2007−144564)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(591185179)
【Fターム(参考)】