説明

上衣

【課題】着用して運動することにより上半身の筋肉を鍛え、また消費エネルギー量を増加させ、全身持久力や心肺能力の向上を図ることができる上衣を提供する。
【解決手段】伸縮性を有する生地11で着用者の体表面に密着して作られ、生地11の一部に他よりも緊締力に富む緊締部18を備える。緊締部18は、帯状であり着用者の胸と上腕部、背中の肩甲骨付近を通過して一周している。緊締部18は、生地11とは異なる構造又は異なる組織で設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上半身に密着して着用される上衣に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運動を行う際に着用する衣服には、伸縮性を有し身体に密着するものがある。また特許文献1には、身体に密着する衣服として、一部分に伸縮性が小さい高弾性部を設け、高弾性部を伸ばす筋肉に負荷を与えて、筋肉を鍛えるスパッツが開示されている。このスパッツは、大腿部を持ち上げた際に臀部及び大腿後部における皮膚の伸長量が大きい部位に対応する背面の所定領域に、該所定領域以外の背面の領域及び少なくとも腹部及び大腿前部に対応する前面の領域よりも高さ方向の弾性率が高い高弾性部が設けられている。高弾性部には、パワーネット等の弾性生地が重ね合わせて縫合される。
【0003】
このスパッツを着用して運動することにより、大腿部を持ち上げる動作を行う際に、大腰筋に負荷がかかり筋肉が強化されるものである。
【特許文献1】特開2006−89856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術の場合、大腰筋等、下半身の筋肉は強いため、スパッツに弾性生地を縫合して弾性率を高くする程度では十分な負荷がかからず、筋力強化の効果につながらないという問題がある。また、大腰筋等に十分な負荷が得られる程度に強くすると、逆に動きが小さくなり十分な運動量が得られず、また着用感が悪くなるものであった。
【0005】
この発明は、上記従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり、着用して運動することにより上半身の筋肉を鍛え、また消費エネルギー量を増やすことができる上衣を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、伸縮性を有する生地で着用者の体表面に密着して作られ、前記生地の一部に前記生地よりも緊締力に富む緊締部が設けられ、前記緊締部は帯状であり着用者の胸と上腕部、背中の肩甲骨付近を通過して一周する上衣である。この上衣を着用して運動すると、腕を振る動作の際に前記緊締部により腕や肩、胸の筋肉に負荷がかかり筋力の強化を図ることができる。また、負荷が加えられることで運動量が増え、消費エネルギーが増加するものである。
【0007】
また前記緊締部は、前記生地とは異なる素材構造又は異なる素材や組織で設けられ、高張力で緊締力に富み適度な伸縮性を持っている。例えば、編み方を異なるものにしてもよい。
【0008】
前記緊締部は、着用者の胸の中心から左右の上腕部に延出し上腕部を回って上腕部の後に達する前側緊締部と、背中の中心から左右の上腕部の後に延出し腕の後を腕の長手方向に沿って延出し着用者の肘よりも手先側に位置する袖口に達する後側緊締部が設けられ、前記後側緊締部の上腕部の後には前記前側緊締部の端部が連結され、前記前側緊締部と前記後側緊締部が環状となっている。
【0009】
前記緊締部は、着用者の胸の中心で交差する2本の斜めの直線で形成され各直線の上方の端部が左右の上腕部に延出し上腕部を回って上腕部の後に達し各直線の下方の端部が上腕部の下に延出して脇に達する前側緊締部と、背中の中心で交差する2本の斜めの直線で形成され各直線の上方の端部が上腕部の後に延出し腕の後を腕の長手方向に沿って延出し袖口に達し各直線の下方の端部が上腕部の下に延出して脇に達する後側緊締部が設けられ、前記後側緊締部の上腕部の後には前記前側緊締部の端部が連結され、前記後側緊締部の下方の端部には、前記前側緊締部の下方の端部が連結され、前記前側緊締部と前記後側緊締部は二重の環状となっている。
【0010】
前記緊締部は、着用者の胸の中心のやや首に近い位置を頂点として左右の上腕部に直線が延出して上に凸の山形となり各直線の端部が上腕部を回って上腕部の後に達する前側緊締部と、背中の中心を下の頂点として左右の上腕部に直線が延出して下に凸の山形となる後側緊締部が設けられ、前記後側緊締部の端部と前記前側緊締部の端部が連続して環状となっている。そして前記上腕部の緊締部は、上腕部の外側で肘に近いところに達し、ここで折り曲げられて肘から離れる方に延出し、上腕部の外側が下の頂点となる凸の山形に形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、着用した状態でウォーキング等の軽い運動をするだけで、腕や肩、胸等に負荷がかかり、エネルギー消費を増大させエアロビクスによる脂肪燃焼効果が得られ、さらには上半身の筋肉を簡単で手軽に鍛え強化することができる。また上半身に負荷がかかることから、緊締部が設けられていない上衣を着用した場合よりも運動量が増え、全身持久力の向上、心肺能力の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1、図2はこの発明の第一実施形態を示すもので、この実施形態の上衣10は、伸縮性を有するニット地の生地11で着用者の上半身の体表面に密着するように作られている。上衣10は、胴体の前側を覆う前身頃12と、胴体の後側を覆う後身頃14と、上腕部を覆う袖部16が設けられている。袖部16の袖口16aは、肘付近よりも長く、手首よりも短い位置に達し腕に密着している。
【0013】
上衣10には、前身頃12、後身頃14、袖部16が作られた伸縮性を有する生地11よりも緊締力に富むニット地による緊締部18が設けられている。緊締部18は、前身頃12、後身頃14、袖部16の生地11とは異なる構成で設けられている。緊締部18の作り方は、伸縮性を有する生地11をカットして緊締力に富む生地に切り替えてもよく、伸縮性を有する生地に緊締力の富む生地を重ねて縫合してもよい。さらに、異なる編み方により編組織を密にした生地を使用してもよい。
【0014】
緊締部18は、身体の前側に位置する前側緊締部18aと、身体の後側に位置する後側緊締部18bが設けられている。前側緊締部18aは、ほぼ一定幅の帯状に設けられ、前身頃12の胸の中心から左右の上腕部の前に延出して袖部16に連続し、上腕部を回って上腕部の後に延出している。そして後側緊締部18bは、ほぼ一定幅の帯状に設けられ、後身頃14の背中の中心から左右の上腕部の後に延出して袖部16に連続し、腕の後を腕の長手方向に沿って延出し、袖口16aに達している。後側緊締部18bの上腕部の後には、腕の前から連続する前側緊締部18aの端部が連結されている。これにより、前側緊締部18aと後側緊締部18bが環状となり、肩の周りを一周している。
【0015】
この実施形態の上衣10の使用方法は、上半身に着用してウォーキング等の軽い運動を行う。ウォーキングの際は、腕の振りを前後に大きくする。腕の振りを大きくすると、上衣10の緊締部18が高い緊締力を有することから、腕に抵抗を受けて適度な負荷がかかる。この負荷は、腕に掛かることから、脚と比較して筋肉量が少なく布地による緊締部18であっても十分な抵抗として腕に作用する。従って、身体に対して大きな負荷とし働き、効果的にエネルギー消費を増大させることができる。
【0016】
この実施形態の上衣10によれば、着用した状態でウォーキング等の軽い運動をするだけで、腕振り動作に軽い負荷をかけることができる。普段あまり使わない腕や肩、胸等の上半身の筋肉に負荷がかかり、刺激を与えて筋活動の活性化等を図り上半身の筋肉を簡単で手軽に鍛え強化することができる。また、上半身に負荷がかかることから、緊締部が設けられていない通常の上衣を着用した場合よりも運動量が増え、消費エネルギーが増大し全身持久力の向上、心肺能力の向上を図ることができる。消費エネルギーが増加することから、エアロビクスによる脂肪燃焼効果が得られ、ダイエットにも貢献する。
【0017】
次にこの発明の第二実施形態について図3、図4に基づいて説明する。なお、ここで、上記実施形態と同様の部材は同様の符号を付して説明を省略する。この実施形態の上衣20は、前身頃12、後身頃14、袖部16が、伸縮性を有する生地11で作られている。上衣20には、緊締力に富む緊締部22が設けられている。緊締部22は、身体の前側に位置する前側緊締部22aと、身体の後側に位置する後側緊締部22bが設けられている。
【0018】
前側緊締部22aは、前身頃12の胸の中心で交差する2本の斜めの直線で形成されている。一方の直線の上方の端部は右上腕部の前に延出して袖部16に連続し、右上腕部を回って右上腕部の後に延出している。この直線の反対側の下方の端部は、左上腕部の下に延出して脇12aに達している。他方の直線はこれと左右対称に設けられ、上方の端部は左上腕部の前に延出して袖部16に連続し、左上腕部を回って左上腕部の後に延出している。この直線の反対側の下方の端部は、右上腕部の下に延出して脇12aに達している。
【0019】
後側緊締部22bも同様に、後身頃14の背中の中心で交差する2本の斜めの直線で形成されている。一方の直線の上方の端部は右上腕部の後に延出して袖部16に連続し、右上腕部の後を腕の長手方向に沿って延出し、袖口16aに達している。この直線の右上腕部の途中には、腕の前から連続する前側緊締部22aの端部が連結されている。この直線の反対側の下方の端部は、左上腕部の下に延出して脇14aに達し、脇12aで対向する前側緊締部22aの下方の端部に連続している。他方の直線はこれと左右対称に設けられ、上方の端部は左上腕部の後に延出して袖部16に連続し、左上腕部の後を腕の長手方向に沿って延出し、袖口16aに達している。この直線の左上腕部の途中には、腕の前から連続する前側緊締部22aの端部が連結されている。この直線の反対側の下方の端部は、右上腕部の下に延出して脇14aに達し、脇12aで対向する前側緊締部22aの下方の端部に連続している。これにより、前側緊締部22aと後側緊締部22bは二重の環状となり、肩の周りを一周している。
【0020】
この実施形態の上衣20の使用方法は、上記実施の形態と同様であり、同様の効果を有するものである。緊締部22は、二重の環状となり緊締力が高く、確実に筋力の強化や全身持久力の向上、心肺能力の向上、筋活動の活性化を図ることができる。
【0021】
次にこの発明の第三実施形態について図5、図6に基づいて説明する。なお、ここで、上記実施形態と同様の部材は同様の符号を付して説明を省略する。この実施形態の上衣24は、前身頃12、後身頃14、袖部16が、伸縮性を有する生地11で作られている。上衣24には、緊締力に富む緊締部26が設けられている。緊締部26は、身体の前側に位置する前側緊締部26aと、身体の後側に位置する後側緊締部26bが設けられている。
【0022】
前側緊締部26aは、前身頃12の胸の中心のやや頸に近い位置を頂点として左右の上腕部に向かって斜め下方に直線が延出して、上方に凸の山形に設けられている。一対の直線の端部は、左右の上腕部の前に延出して袖部16に連続し、左右の上腕部の外側で肘に近いところに達し、ここで折り曲げられて肘から離れる方に延出して上腕部の後に達している。
【0023】
そして後側緊締部26bは、後身頃14の背中の中心を下の頂点として左右の上腕部に向かって斜め上方に直線が延出して、下方に凸の山形に設けられ、一対の直線の端部は袖部16に連続して前側緊締部26aの端部に連続している。
【0024】
この実施形態の上衣24の使用方法は、上記実施の形態と同様であり、同様の効果を有するものである。緊締部26の形状はシンプルであり、すっきりとしたデザインで、なおかつ十分なトレーニング効果を有するものである。また、前側緊締部26aは肘の近くに達する、下方に凸の山形に形成されて長いため、腕の振りに対して十分な負荷を得ることができる。
【0025】
なお、この発明の上衣は、上記各実施形態に限定されるものではなく、緊締部の形状は自由に変更可能であり、肩周りを一周して腕振り動作の際に適度に負荷がかかるものであれば異なるものでもよい。緊締部の設け方は、生地の編み方や素材を変えたり、合成樹脂をプリントする等、自由に設定することができる。上衣の形状も自由に変更可能であり、袖部の長さも、手首まで達する長袖でもよい。
【実施例1】
【0026】
次に、この発明の上衣を着用して所定時間、所定スピードのウォーキングを行い、酸素摂取量を測定した。比較のため、緊締部が設けられていない上衣を着用して同じ時間、同じスピードのウォーキングを行い、酸素摂取量を測定した。測定した酸素摂取量を体重当たり酸素摂取量(ml/kg/min)に換算し、図7のグラフに示す。
【0027】
この結果、体重あたり酸素摂取量は、緊締部が設けられていない上衣を着用した場合は約13.7ml/kg/minであったのに対し、本発明の緊締部が設けられている上衣を着用した場合は約14.3ml/kg/minであった。本発明の上衣を着用することにより、同じ運動を行っても体重あたり酸素摂取量が約5%増大した。これは、60分間のウォーキングを行った場合、300歩多く歩いたことに相当する。被験者によっては、約15%増大したケースもあり、この場合は約1000歩多く歩いたことになる。このことから、運動の際に本願の上衣を着用することにより、運動量が増え、全身持久力の向上、心肺能力の向上、筋活動の活性化等の効果が期待される。また、消費エネルギーが増加して、ダイエット効果も期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の第一実施形態の上衣の正面図である。
【図2】この実施形態の上衣の背面図である。
【図3】この発明の第二実施形態の上衣の正面図である。
【図4】この実施形態の上衣の背面図である。
【図5】この発明の第三実施形態の上衣の正面図である。
【図6】この実施形態の上衣の背面図である。
【図7】この発明の上衣を着用してウォーキングしたときの酸素摂取量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
10 上衣
11 生地
12 前身頃
14 後身頃
16 袖部
18 緊締部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する生地で着用者の体表面に密着して作られ、前記生地の一部に前記生地よりも緊締力に富む緊締部が設けられ、前記緊締部は帯状であり着用者の胸と上腕部、背中の肩甲骨付近を通過して一周し、腕を振る動作の際に前記緊締部により負荷がかかることを特徴とする上衣。
【請求項2】
前記緊締部は、前記生地とは異なる構造又は異なる組織で設けられていることを特徴とする請求項1記載の上衣。
【請求項3】
前記緊締部は、着用者の胸の中心から左右の上腕部に延出し上腕部を回って上腕部の後に達する前側緊締部と、背中の中心から左右の上腕部の後に延出し腕の後を腕の長手方向に沿って延出し着用者の肘よりも手先側に位置する袖口に達する後側緊締部が設けられ、前記後側緊締部の上腕部の後には前記前側緊締部の端部が連結され、前記前側緊締部と前記後側緊締部が環状となることを特徴とする請求項1記載の上衣。
【請求項4】
前記緊締部は、着用者の胸の中心で交差する2本の斜めの直線で形成され各直線の上方の端部が左右の上腕部に延出し上腕部を回って上腕部の後に達し各直線の下方の端部が上腕部の下に延出して脇に達する前側緊締部と、背中の中心で交差する2本の斜めの直線で形成され各直線の上方の端部が上腕部の後に延出し腕の後を腕の長手方向に沿って延出し袖口に達し各直線の下方の端部が上腕部の下に延出して脇に達する後側緊締部が設けられ、前記後側緊締部の上腕部の後には前記前側緊締部の端部が連結され、前記後側緊締部の下方の端部には、前記前側緊締部の下方の端部が連結され、前記前側緊締部と前記後側緊締部は二重の環状となることを特徴とする請求項1記載の上衣。
【請求項5】
前記緊締部は、着用者の胸の中心のやや首に近い位置を頂点として左右の上腕部に直線が延出して上に凸の山形となり各直線の端部が上腕部を回って上腕部の後に達する前側緊締部と、背中の中心を下の頂点として左右の上腕部に直線が延出して下に凸の山形となる後側緊締部が設けられ、前記後側緊締部の端部と前記前側緊締部の端部が連続して環状となり、前記上腕部の緊締部は上腕部の外側が下の頂点として下に凸の山形に形成されていることを特徴とする請求項1記載の上衣。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−75216(P2008−75216A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256690(P2006−256690)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(592019523)株式会社ゴールドウインテクニカルセンター (35)
【Fターム(参考)】