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下地調整材の塗布方法、及びセメント系基材の製造方法
説明

下地調整材の塗布方法、及びセメント系基材の製造方法

【課題】下地調整材の皮膜にひび割れを生じさせないようにして、セメント系基材の表面仕上げ後の外観を良好にする。
【解決手段】(A)(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、(A3)水と、が混合された高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)粒径5〜15μmのタルク、シリカ、炭酸カルシウム、硅砂のうちの少なくとも1種と、を混合することにより、下地調整材を生成する下地調整材生成工程を有する。想定されたひび割れの幅に基づいて、表面に残存させるべき下地調整材の単位面積当たりの固形分量を決定する固形分量決定工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製PCaパネル等のセメント系基材の表面を仕上げるべく該表面に下地調整材を塗布する方法、及び下地調整材が表面に塗布されたセメント系基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の構築においては、図1の断面図に示すように、外壁などを構成するセメント系基材10の表面仕上げとして、塗料30で塗装仕上げにすることがある。また、セメント系基材10の表面を、上記塗装仕上げに適した面にする目的で、塗装前に、同基材10の表面に下地調整材20を下塗りすることもある。
【0003】
かかる下地調整材20として、以前、本願出願人は、ポリエチレン樹脂等の有機ポリマーを有した高分子系の水性エマルジョンに、アクリルエマルジョンやタルク等を混合した材料を開発し、特許出願をしている(特許文献1)。そして、この下地調整材20によれば、その耐水性の高さに基づいて、セメント系基材10の含水率が高い状態での同セメント系基材10への下塗りを可能とし、結果、セメント系基材10の乾燥時間の短縮を通して大幅な工期短縮を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−149767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、セメント系基材10は、その打設成形後の乾燥収縮などにより表面にひび割れを生じ易く、かかるひび割れが、下地調整材20を介して塗装仕上げの塗膜30Fにまで伝播した場合には、塗膜30Fがひび割れてその外観は損なわれる。そのため、仮にセメント系基材10がひび割れても、下地調整材20の皮膜20Fでひび割れを食い止めるべく、乾燥後の皮膜20Fの表面においては、ひび割れの無い状態に維持可能な下地調整材20が要望されていた。
【0006】
この点につき、上述の下地調整材20は、有機ポリマーとして「ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体」を有し、当該有機ポリマーは、伸び弾性を有する弾性フィラーとして機能する。そのため、当該下地調整材20の乾燥後に皮膜20Fとして残る固形分20Fは、伸び変形能を有している。よって、仮にセメント系基材10にひび割れが生じても、そのひび割れの幅が、下地調整材20の皮膜20Fの伸び変形可能な範囲内であれば、同皮膜20Fはひび割れに追従して伸び変形をして同皮膜20Fにはひび割れは生じず、これにて、セメント系基材10の表面仕上げ後の外観を良好にすることが可能である。
【0007】
しかし、ひび割れの幅は、セメント系基材10の材種に応じて、或いは場所打ちコンクリートやPCa板などといった成形態様の種類に応じて異なり、従って、上記ひび割れが、下地調整材20の皮膜20Fの伸び変形で吸収される保証はない。
【0008】
本発明は、上記課題に基づいてなされたものであり、その目的は、上記の下地調整材の皮膜にひび割れを生じさせないようにして、セメント系基材の表面仕上げ後の外観(美観)を良好にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
成形されたセメント系基材の表面を仕上げるべく該表面に下地調整材を塗布する方法であって、
(A)
(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、
(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
(A3)水と、
が混合された高分子エマルジョンと、
(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
(C)粒径5〜15μmのタルク、シリカ、炭酸カルシウム、硅砂のうちの少なくとも1種と、
を混合することにより、前記下地調整材を生成する下地調整材生成工程と、
前記セメント系基材の前記表面に生じるひび割れの幅を想定するひび割れ幅想定工程と、
想定された前記ひび割れの幅に基づいて、前記表面に残存させるべき前記下地調整材の単位面積当たりの固形分量を決定する固形分量決定工程と、
決定された前記固形分量になるように前記下地調整材を前記表面に塗布する下地調整材塗布工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
上記請求項1に示す発明によれば、下地調整材は、伸び弾性を有する有機ポリマーとして、「平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体」を有している。よって、当該下地調整材の乾燥後に皮膜として残る固形分は、伸び弾性を有し、これにより、仮にセメント系基材にひび割れが生じても、下地調整材の固形分の伸び変形でひび割れに追従して、その結果、同固形分たる皮膜のひび割れの発生を防止できる。
また、セメント系基材に生じるひび割れの幅を想定し、この想定されるひび割れの幅に対応させて下地調整材の単位面積当たりの固形分量を決めるので、この下地調整材の乾燥後に皮膜として残る固形分の伸び変形を、セメント系基材のひび割れに確実に追従させることが可能となり、その結果、同固形分たる下地調整材の皮膜に、ひび割れが生じないようにすることができる。
【0011】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記固形分量決定工程では、前記ひび割れの幅と、前記単位面積当たりの固形分量との関係を予め規定してなるデータを参照して、前記想定されるひび割れの幅に対応する単位面積当たりの固形分量を取得し、
前記データには、前記ひび割れの幅が大きくなるに従って前記単位面積当たりの固形分量が大きくなるような関係が規定されていることを特徴とする。
【0012】
上記請求項2に示す発明によれば、固形分量決定工程で参照するデータには、ひび割れの幅が大きくなるに従って単位面積当たりの固形分量が大きくなるような関係が規定されている。よって、当該データを参照して決定した単位面積当たりの固形分量に基づいて下地調整材を塗布すれば、下地調整材の乾燥後に皮膜として残る固形分のひび割れをより確実に抑えることができる。
【0013】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記想定されるひび割れの幅が0.1mm未満の場合に、前記単位面積当たりの固形分量を、617g/m以上の値に決定することを特徴とする。
【0014】
上記請求項3に示す発明によれば、想定されるひび割れの幅が0.1mm未満の場合に、単位面積当たりの固形分量を617g/m以上の値に決定するので、下地調整材の乾燥後に皮膜として残る固形分のひび割れを確実に抑えることができる。
【0015】
請求項4に示す発明は、請求項1又は2に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記想定されるひび割れの幅が0.2mm以下の場合に、前記単位面積当たりの固形分量を、1117g/m以上の値に決定することを特徴とする。
【0016】
上記請求項4に示す発明によれば、想定されるひび割れの幅が0.2mm以下の場合に、単位面積当たりの固形分量を1117g/m以上の値に決定するので、下地調整材の乾燥後に皮膜として残る固形分のひび割れを確実に抑えることができる。
【0017】
請求項5に示す発明は、請求項1又は2に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記想定ひび割れ幅が0.3mm以下の場合に、前記単位面積当たりの固形分量を、1617g/m以上の値に決定することを特徴とする。
【0018】
上記請求項5に示す発明によれば、想定されるひび割れの幅が0.3mm以下の場合に、単位面積当たりの固形分量を1617g/m以上の値に決定するので、下地調整材の乾燥後に皮膜として残る固形分のひび割れを確実に抑えることができる。
【0019】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記下地調整材を前記セメント系基材の前記表面に塗布する際の、前記下地調整材の液状成分及び固形分の合計質量に対する前記固形分の質量の割合を、60±5%の範囲内にすることを特徴とする。
【0020】
上記請求項6に示す発明によれば、下地調整材を塗布する際の上記割合たる下地調整材の固形分率を60±5%に設定しているので、下地調整材の塗布時に、その液状成分中の有機ポリマー等の固形分を略均一な分散状態にすることができる。よって、下地調整材の乾燥後に固形分が残存してなる皮膜は、その全域に亘って概ね均一な成分系で構成され、結果、皮膜ののび変形能を略全域に亘って均等にすることができる。
【0021】
請求項7に示す発明は、下地調整材が表面に塗布されたセメント系基材の製造方法であって、
(A)
(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、
(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
(A3)水と、
が混合された高分子エマルジョンと、
(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
(C)粒径5〜15μmのタルク、シリカ、炭酸カルシウム、硅砂のうちの少なくとも1種と、
を混合することにより、前記下地調整材を生成する下地調整材生成工程と、
セメント系基材を成形するセメント系基材成形工程と、
前記セメント系基材の表面に生じるひび割れの幅を想定するひび割れ幅想定工程と、
想定された前記ひび割れの幅に基づいて、前記表面に残存させるべき前記下地調整材の単位面積当たりの固形分量を決定する固形分量決定工程と、
決定された前記固形分量になるように前記下地調整材を前記セメント系基材の前記表面に塗布する下地調整材塗布工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
上記請求項7に示す発明によれば、請求項1と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、下地調整材の皮膜にひび割れを生じさせないようにして、セメント系基材の表面仕上げ後の外観を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態に係る下地調整材20の説明図である。
【図2】表1は、セメント系基材10の想定ひび割れ幅の一覧表の一例であり、表2は、想定ひび割れ幅(mm)と、下地調整材20の皮膜20Fにひび割れが生じない固形分量(g/m)との対応関係を示す表の一例であり、表3は、表1と表2とを一つにまとめたものである。
【図3】表2の元となるグラフであって、セメント系基材10の想定ひび割れ幅(mm)と、セメント系基材10に塗布すべき下地調整材20の単位面積当たりの固形分量(g/m)との関係を示すグラフである。
【図4】図3のグラフを取得するための引っ張り試験に供される試験体55の側面図及び正面図である。
【図5】同試験時に試験体55に付与する変位パターンである。
【図6】試験結果である。
【図7】試験結果である。
【図8】図7の試験結果の最下辺の三つのプロット点に基づいて取得された、セメント系基材10の想定ひび割れ幅(mm)と、セメント系基材10に塗布すべき下地調整材20の単位面積当たりの固形分量(g/m)との関係を示すグラフである。
【図9】図8のグラフに基づいて規定された、想定ひび割れ幅(mm)と下地調整材20の固形分量(g/m)との対応関係の表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
===本実施の形態===
図1は、本実施の形態に係る下地調整材20の説明用の断面図である。
本実施の形態に係る下地調整材20の塗布方法は、例えば、建物の外壁などを構成するセメント系基材10(場所打ちコンクリートによる建物躯体10や、コンクリート製PCaパネル10等)に対して塗装仕上げを行う際に使用される。つまり、セメント系基材10の表面を塗膜30Fの形成に適した面にするために、塗装に先んじて、セメント系基材10の表面に下地調整材20を塗布(下塗り)するものである。但し、その際、本実施の形態の塗布方法にあっては、その後のセメント系基材10の乾燥収縮などによる表面のひび割れが、塗膜30Fに伝播しないように下地調整材20のところでひび割れを食い止めるための工夫をしている。つまり、下地調整材20が乾燥などして皮膜化した後にセメント系基材10がひび割れしても、当該ひび割れに追従して下地調整材20の皮膜20Fは伸び変形し、これにより、当該下地調整材20の皮膜20Fの表面にはひび割れが発生しないようにしている。
【0026】
かかる下地調整材20の塗布方法は、次の4つの工程を有する。
(a)下地調整材20を生成する下地調整材生成工程
(b)セメント系基材10の表面に生じるひび割れの幅を想定するひび割れ幅想定工程
(c)想定されたひび割れの幅に基づいて、セメント系基材10の表面に残存させるべき下地調整材20の単位面積当たりの固形分量を決定する下地調整材固形分量決定工程
(d)決定された固形分量になるように下地調整材20をセメント系基材10の表面に塗布する下地調整材塗布工程
以下、各工程について詳しく説明する。
【0027】
<<<下地調整材生成工程>>>
下地調整材20は、2段階の工程を経て生成される。2段階の工程は、下地調整材20の材料の1つである高分子エマルジョン(以下、分散液Aともいう)を調製する分散液A調製工程と、調製した分散液Aに対して更に添加物を加えて下地調整材20に調製する工程とからなる。
【0028】
まず、分散液A調製工程について説明する。
分散液Aの材料(構成成分)として、有機ポリマーと、水と、有機ポリマーを水に分散させるための分散剤とを用意する。
【0029】
有機ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル重合体、スチレン重合体、塩化ビニル重合体、ブチラール樹脂、及びエチレン酢酸ビニル重合体からなる群から選択された1種又は2種以上の有機ポリマーが用いられる。なお、本実施の形態では、有機ポリマーの材料として、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂が用いられることはない。有機ポリマーの数平均分子量は、3000以上100000以下の範囲内にあり、常温で固体である。有機ポリマーの数平均分子量が3000を下回ると、下地調整材20のセメント系基材10への付着性が低下すると共に、下地調整材20の耐水性や強度が低下する。一方、数平均分子量が100000を超えると、下地調整材20の粘度が高くなりすぎて下地調整材20をセメント系基材10の上に施しにくくなる。
【0030】
なお、かかる有機ポリマーは、伸び弾性を有する。よって、下地調整材20は、その乾燥後に固形分だけが残存してなる皮膜20Fの状態においては、セメント系基材10のひび割れに追従して伸び変形して、当該下地調整材20の皮膜20Fはひび割れを生じず、その結果、塗装仕上げ後のセメント系基材10の外観を良好にすることができる。これについては後述する。
【0031】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA:poly-vinyl alcohol)が用いられる。PVAは、ビニル基由来の親油基Oと、水酸基由来の親水基Wとを有し、これにより、乳化剤として機能する。PVAの数平均分子量は、500以上3000以下の範囲内にある。数平均分子量が500を下回ったり、3000を上回ったりすると、1分子中に含まれる親水基Wの数と親油基Oの数のバランスが崩れて、乳化剤としての機能が低下する。
【0032】
PVAとしては、複数の親水基Wの一部をケン化した部分ケン化PVAを用いることが好ましく、より好ましくは、そのケン化度が70%〜98%、特には80%〜97%の部分ケン化PVAである。PVAのケン化度が70%を下回ると、上記有機ポリマーの水に対する溶けやすさ(可溶性)が高すぎて下地調整材20の耐水性が低下する。一方、ケン化度が98%を上回ると、上記可溶性が低くなりすぎて下地調整材20が水性にならなくなる。
【0033】
かかる3つの材料(有機ポリマー、水、分散剤)は、所定の混合比率で混合され、これにより、有機ポリマーを主な固形分としたエマルジョン(以下、高分子エマルジョンともいう)になる。この混合の際、材料に対してせん断力を付与するために、混練機であるニーダー(kneading machine)を使用することが好ましく、より好ましくは、材料を加圧したり加熱したりすると良い。これらにより、材料を均一に混合することができる。
【0034】
また、上記混合によって、PVAの親油基Oは上記有機ポリマーと馴染み、親水基Wは水と馴染む。この結果、多数の親水基Wが有機ポリマーの表面に配置された状態の粒子が、水に分散されることになる。こうして、水中に親油基O側が向いて分散されたO/W(oil in water)型のエマルジョン、つまり水性の高分子エマルジョンが形成され、これにより、分散液Aが生成される。なお、分散液Aは、スラリー(slurry)状態又はペースト状態にある。
【0035】
ここで、混合比率について説明する。
分散剤は、有機ポリマーの質量を100%(1重量部)とすると、10質量%以上50質量%以下の割合で添加される。つまり、有機ポリマーと分散剤との質量比を示す混合比率(有機ポリマー:分散剤)は、1:0.1以上1:0.5以下である。分散剤の添加量が10質量%を下回ると、高分子エマルジョンの安定性が低下する。一方、添加量が50質量%を上回ると、下地調整材20の耐水性が低下する。
【0036】
水は、有機ポリマーの質量を100%(1重量部)とすると、100質量%以上150質量%以下の割合で添加される。つまり、水と有機ポリマーとの質量比を示す混合比率(水:有機ポリマー)は、1:0.67以上1:1以下である。かかる水は、少量ずつ添加することが好ましく、これにより、均一な混合物を得ることが容易となる。なお、かかる水の添加については、分散液Aにおける固形分率を目安にして行っても良い。固形分率とは、液状成分及び固形分の合計質量に対する固形分の質量の割合(質量%)のことであり、そして、その場合には、最終的な水の添加量は、分散液Aにおける固形分率が40%〜50%となるように調整される。
【0037】
ところで、上記分散液Aの調製にあたり、数平均分子量が500以上5000以下の石油樹脂を用意し、これを上記3つの材料とともに混合しても良い。石油樹脂としては、例えば、高級オレフィン系炭化水素を主原料とするものを用いることができる。このような石油樹脂は、下地調整材20の保存性を高める機能を有する。これは、石油樹脂が有機ポリマーや分散剤の親油基Wと馴染むためであると考えられる。石油樹脂の数平均分子量が500を下回ったり、5000を上回ったりすると、有機ポリマーや分散剤の親油基Wと馴染みにくくなり、下地調整材20の保存性を十分に高めることができなくなる。
【0038】
なお、上述の石油樹脂を分散液Aに混合する際には、分散液Aの質量を100%(1重量部)とすると、5質量%以上10質量%以下の割合で石油樹脂は添加される。つまり、分散液Aと石油樹脂の質量比を示す混合比率(分散液A:石油樹脂)は、1:0.05以上1:0.1以下である。
【0039】
続いて、調製した分散液Aに対して更に添加物を加えて下地調整材20を調製する工程について説明する。
まず、下地調整材20の材料(構成成分)として、上記分散液Aと、下記に説明するアクリルエマルジョンと、タルク(Talc)とを用意する。
【0040】
ここでいうアクリルエマルジョンとは、アクリル酸アルキルとスチレンとの共重合体を固形分とする水性のエマルジョン、又はアクリロニトリルとアクリル酸アルキルエステルの共重合体を固形分とする水性のエマルジョンをいう。そして、水と固形分との混合比率(水:固形分)は、質量比で1:0.67以上1:1.2以下であり、当該アクリルエマルジョンの一例としては、アクリル酸ブチル(アクリル酸アルキルの一例である)とスチレンとの共重合体を固形分率が50質量%となるように調製した水性分散液(市販品)等が挙げられる。
【0041】
タルク(滑石)とは、二酸化ケイ素(SiO2)と酸化マグネシウム(MgO)の混晶である含水ケイ酸マグネシウム[Mg3Si410(OH)2]のことをいい、その粒径は5〜15μmである。タルクは、二酸化ケイ素を約60質量%含み、酸化マグネシウムを約30質量%含み、且つ結晶水を約4.8質量%含んでいる。本実施の形態では、タルクは、下地調整材20をセメント系基材10の上に施した後の硬化性を高める硬化剤として機能する。また、タルクは、下地調整材20とセメント系基材10との親和結合力を高める機能を有する。
【0042】
なお、タルクに代えて、粒径5〜15μmのシリカ、同炭酸カルシウム、同硅砂の何れか1種を用いても良い。つまり、これらを用いても、タルクの場合と同様に、セメント系基材10への付着力を高める効果や硬化剤としての効果を奏し得る。また、上述のタルク、シリカ、炭酸カルシウム、硅砂を組み合わせて添加しても構わない。以下では、これらタルク、シリカ、炭酸カルシウム、及び硅砂を総称して「タルク類」とも言う。
【0043】
続いて、上記3つの材料(分散液A、アクリルエマルジョン、タルク類)を例えば常温で混合する。これにより、下地調整材20が生成される。このようにして得られた下地調整材20は、スラリー状態又はペースト状態にある。
【0044】
ここで、混合比率について説明する。
アクリルエマルジョンは、分散液Aの質量を100%(1重量部)とすると、20質量%以上50質量%以下の割合で添加される。つまり、分散液Aとアクリルエマルジョンの質量比を示す混合比率(分散液A:アクリルエマルジョン)は、2:1以上5:1以下である。本実施の形態では、アクリルエマルジョンは、下地調整材20の耐水性を高める機能を有している。アクリルエマルジョンの添加量が20質量%を下回ると、下地調整材20の耐水性を十分に高めることができなくなる。一方、添加量が50質量%を上回ると、下地調整材20におけるアクリルエマルジョンの割合が多くなりすぎて、本実施の形態による下地調整材20の機能や特性が十分に発現しなくなる。
【0045】
タルク類は、分散液Aの質量を100%(1重量部)とすると、40質量%以上60質量%以下の割合で添加される。つまり、分散液Aとタルク類の質量比を示す混合比率(分散液A:タルク類)は、1:0.4以上1:0.6以下である。
【0046】
なお、予め、分散液Aを調製しておくことにより、下地調整材20の調製が容易となる。このため、例えば、下地調整材20をセメント系基材10の上に施す施工現場とは離れた場所で、分散液Aの調整を行い、施工現場の近傍において下地調整材20の最終調製を行うことも可能である。
【0047】
このようにして得られる下地調整材20は、少なくとも、分散液Aの材料(有機ポリマー,分散剤,水)と、アクリルエマルジョンと、タルク類とを含有しており、また、必要に応じて石油樹脂をさらに含有していることになる。この下地調整材20は、分散剤等を用いることで、有機溶剤を用いることなく製造される。このため、製造時や、後述する塗装仕上げの際に、周囲の人物に危険が及ぶことがなく安全である。
【0048】
なお、望ましくは、かかる下地調整材20の最終的な固形分率を、60±5%の範囲内に収めると良く、この範囲に収めれば、有機ポリマー等の固形分の偏在が抑えられた略均一な分散状態を下地調整材20は維持可能となる。なお、ここで言う固形分率も、液状成分及び固形分の合計質量(つまり、下地調整材20の総質量)に対する固形分の質量の割合(質量%)のことである。なお、固形分の質量については、例えば、JISK5601−1−2の塗料成分試験方法に準じて計測することができる。すなわち、同試験方法における付属書B(規定)試験条件の「製品の級分け」のうちで、本実施の形態に係る下地調整材20は「自然乾燥塗料」に該当するので、当該固形分の質量は、下地調整材20を入れた平底皿を105℃の乾燥器内に移して1時間加熱後の残さの質量として計測される。なお、以下では、単位面積当たりの固形分の質量のことを、「単位面積当たりの固形分量(g/m)」又は単に「固形分量(g/m)」と言う。
【0049】
ここで、この下地調整材20の性質について説明する。
下地調整材20は、O/W型のエマルジョンであるので、水性である。また、下地調整材20は、セメント系基材10の上に施された後は、水分が徐々に除去されて乾燥して硬化し、高強度の皮膜20Fを形成する。なお、皮膜20Fは、前述したように、主に有機ポリマーの伸び弾性に基づいて伸び変形能を有する。これにより、セメント系基材10に乾燥収縮起因等でひび割れが生じても、その場合には、ひび割れに応じて伸び変形して追従し、下地調整材20の皮膜20Fへのひび割れの発生は抑制される。
【0050】
また、この下地調整材20は、水性であるにも関わらず、皮膜形成後の耐水性が高い。これは、下地調整材調製の際、分散液Aにアクリルエマルジョンを添加することや、下地調整材20の粘度の範囲を下記範囲とすることなどによって達成されるものと考えられる。さらに、この下地調整材20は、セメント系基材10への付着力が高い。これは、下地調整材調製の際、分散液Aにタルク類を添加することや、下地調整材20の粘度の範囲を下記範囲とすることなどによって達成されるものと考えられる。これらにより、セメント系基材10の含水率が高い状態であっても、下地調整材20をセメント系基材10の上に施すことが可能となる。
例えば、既存の下地調整材20’をセメント系基材10の含水率が高い状態で塗布すると、下地調整材20’の皮膜20F’が部分的に島状に膨れるという膨れ現象が生じる。この現象は、セメント系基材10の表面からの水分蒸発の蒸気圧によって、下地調整材20’の皮膜20F’がセメント系基材10の表面から部分的に剥離して起きる。この点につき、本実施の形態の下地調整材20によれば、セメント系基材10への付着力が高いことと、この付着力が塗布後の比較的早期に発現することから、当該付着力が、セメント系基材10の表面の蒸気圧に有効に対抗して同表面からの下地調整材20の皮膜20Fの剥離が抑制される。その結果、本実施の形態では、セメント系基材10を十分乾燥させる前に下地調整材20を塗布可能となるので、同下地調整材20を施すまでの期間を短縮できる。但し、一般論としては、セメント系基材10の含水率が低い方がより確実に膨れ現象を防止できるのは言うまでもないことであり、もって、膨れ現象防止の確度を十分に高めるという意味では、望ましくは、セメント系基材10の含水率が12%未満まで低下してから下地調整材20を塗布すると良く、つまり、そのようにすれば、下地調整材20の塗布後の皮膜20Fの膨れ現象をほぼ完全に防止可能となる。
【0051】
また、下地調整材20の粘度は、3000cps以上600000cps以下(SI単位換算で3Pa・s以上600Pa・s以下)である。このような粘度の範囲は、有機ポリマーの数平均分子量などを上述した範囲とし、アクリルエマルジョン及びタルク類を添加することなどによって達成される。下地調整材20の粘度が上記範囲内にあると、セメント系基材10の上に下地調整材20を施した後(硬化後)における下地調整材20の表面研磨の作業性が高まる。なお、下地調整材20の粘度が3000cpsを下回ると、セメント系基材10の上に施した際に垂れやすくなり、厚い皮膜20Fを形成しにくくなる。一方、下地調整材20の粘度が600000cpsを上回ると、粘度が高すぎて、セメント系基材10の上に施しにくくなるだけでなく、研磨作業性が悪化する。
【0052】
さらに、下地調整材20は、粒径5〜15μmのタルク類を含んでいる。そして、当該タルク類は、セメント系基材10の母材成分である骨材に似た性質を有する。したがって、これらを用いることで、下地調整材20の性質がセメント系基材10の性質に近づくことになる。その結果、下地調整材20とセメント系基材10との間で親和結合力が高まって、これにより、下地調整材20のセメント系基材10への付着力を高めることができる。また、当該タルク類は、硬化剤としても機能するので、下地調整材20の表面に大きな凹凸が発生しにくくなる。そして、これにより、下地調整材20の表面はセメント系基材10の表面よりも平滑度が高くなって、表面の研磨作業を行い易くなる。
【0053】
<<<ひび割れ幅想定工程>>>
前述したように、この工程では、塗装仕上げの対象たるセメント系基材10に係り、その表面に生じるひび割れの幅を想定する。ひび割れは、セメント系基材10の乾燥収縮等に基づいて主に表面に生じる。また、想定されるひび割れの幅(以下、想定ひび割れ幅とも言う)は、セメント系基材10の種類に応じて変わり得る。ここで、セメント系基材10の種類とは、例えば、セメント系基材10の材種(普通コンクリート、軽量コンクリート1種、高強度コンクリート等)と、セメント系基材10の成形態様の種類(場所打ちコンクリート、躯体PCa板(構造躯体用のプレキャストコンクリート板)、PCaCW(プレキャストコンクリート製カーテンウオール)等)との組み合わせで区分されたものであり、よって、当該区分に応じて、想定ひび割れ幅は変わり得る。
【0054】
かかる想定ひび割れ幅の具体的数値にあっては、各社の社内基準や建築基準法等にひび割れの許容範囲が別途規定されている場合には、その許容範囲が、上記想定ひび割れ幅として使用される。例えば社内基準で「高強度コンクリートを場所打ちする場合には、ひび割れの幅を0.2mm以下にすること」というように規定されている場合には、この「0.2mm以下」が、その区分(つまり、材種が「高強度コンクリート」で、成形態様が「場所打ちコンクリート」の区分)の想定ひび割れ幅となる。
【0055】
但し、セメント系基材10が特定の種類の場合に、物理的にひび割れの幅が0.1mm以上になり得ないという物理的事実が在るのであれば、その数値を、想定ひび割れ幅として採用しても良い。例えば、軽量コンクリート1種でPCaCWを製造する場合に、ひび割れの幅が0.1mm以上にはなり得ない場合には、それに対応する区分(つまり、材種が「軽量コンクリート1種」で、成形態様が「PCaCW」の区分」)の想定ひび割れ幅は「0.1mm未満」となる。
【0056】
図2の表1は、このようにして決められた想定ひび割れ幅の一覧表の一例である。そして、これから行う塗装仕上げ対象のセメント系基材10の種類をキーとして、この表1中の該当する区分を参照することにより、想定ひび割れ幅を取得し、これにより、ひび割れの幅の想定が終了する。例えば、塗装仕上げ対象のセメント系基材10が、「高強度コンクリートで場所打ちコンクリート」の場合には、表1の「高強度コンクリート」且つ「場所打ちコンクリート」の区分を参照し、想定されるひび割れ幅として「0.2mm以下」を取得する。
【0057】
ちなみに、表1中の材種区分に記載の「高強度コンクリート」や「軽量コンクリート1種」の定義については、それぞれ『建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事2009(日本建築学会編)』の17節の高強度コンクリートの欄や同14節の軽量コンクリートの欄にそれぞれ規定されている。例えば、同欄によれば、高強度コンクリートとは、設計基準強度が36N/mmを超えるコンクリートのことであり、また、軽量コンクリート1種とは、粗骨材として人工軽量粗骨材を用い、細骨材として砂、砕砂、再生細骨材H、各種スラグ細骨材を用い、設計基準強度の最大値が36N/mmであり、耐久設計基準強度が短期で18、標準で24、長期で30N/mmであり、気乾単位容積質量(比重)が、1.8〜2.1のコンクリートのことである。また、普通コンクリートとは、普通ポルトランドセメントと砂利・砂とからなる一般的なコンクリートのことである。
【0058】
なお、セメント系基材10の種類の区分は、何等上述の表1の区分に限るものではなく、例えば表1の各区分を更に別のパラメータで細分化しても良い。すなわち、高強度コンクリートの区分を、設計基準強度(N/mm)の範囲によって更に細分化しても良い。
【0059】
<<<下地調整材固形分量決定工程>>>
この工程では、上述のひび割れ幅想定工程で想定された想定ひび割れ幅(mm)に基づいて、セメント系基材10の表面に残存させるべき下地調整材20の単位面積当たりの固形分量(g/m)を決定する。
【0060】
この固形分量は、例えば図2の表2を参照して決定される。すなわち、この表2には、想定ひび割れ幅(mm)と、下地調整材20の皮膜20Fにひび割れが生じない固形分量(g/m)との対応関係が示されている。よって、この表2を参照して、想定ひび割れ幅に対応する固形分量の値を取得し、これを、上述の塗装仕上げ対象のセメント系基材10に対する下地調整材20の単位面積当たりの固形分量(g/m)として決定する。
【0061】
例えば、PCaCWの軽量コンクリート1種であれば、想定ひび割れ幅が0.1mm未満であるので、表2中の0.1mm未満の欄を参照して、対応する固形分量として「617g/m以上1117g/m以下」を取得し、この範囲内の任意値に決定される。また、場所打ちコンクリートで高強度コンクリートであれば、想定ひび割れ幅が0.2mm以下であるので、表2中の0.2mm以下の欄を参照して、対応する固形分量として「1117g/m以上1617g/m以下」を取得し、この範囲内の任意値に決定され、更に、場所打ちコンクリートで普通コンクリートであれば、想定ひび割れ幅が0.3mm以下であるので、表2中の0.3mm以下の欄を参照して、対応する固形分量として「1617g/m以上2000g/m以下」を取得し、この範囲内の任意値に決定される。
【0062】
このような対応関係を示す表2は、引っ張り試験等により予め求められた図3のグラフに基づいて作られている。なお、このグラフの元となる試験結果や試験方法については後述する。また、表2に代えて、図3のグラフを用いて、単位面積当たりの固形分量(g/m)を決定しても良く、つまり、図3のグラフから、想定ひび割れ幅に対応する固形分量(g/m)を読み取り、この読み取り値を、セメント系基材10の表面に残存させるべき固形分量(g/m)として決定しても良い。ちなみに、このグラフの直線は下式1で表され、この式1の取得過程については後述する。
固形分量(g/m)=5000×想定ひび割れ幅(mm)+117 … (1)
ところで、上述の表2や図3には、想定ひび割れ幅が大きくなるに従って単位面積当たりの固形分量(g/m)が大きくなるような関係が規定されているが、ここで、このような関係が規定されているがゆえに、本実施の形態の塗布方法によれば、セメント系基材10の想定ひび割れ幅の大小によらず、下地調整材20の皮膜20Fのひび割れの発生を確実に防止可能となっている。つまり、想定ひび割れ幅が小さい場合には、固形分量(g/m)を小さくし、想定ひび割れ幅が大きい場合には、固形分量(g/m)を大きくするので、想定ひび割れ幅の大小によらず、下地調整材20の皮膜20Fのひび割れの発生を確実に防止可能である。
【0063】
これは、基本的には、「単位面積当たりの固形分量(g/m)を増やせば、下地調整材20の皮膜20Fは、セメント系基材10の大きなひび割れに対してもひび割れすることなく追従して伸び変形をし得る」という考え方に則っている。
ここで、固形分量(g/m)を増やすことにより、下地調整材20の皮膜20Fが破断せずにひび割れに追従して伸びる能力が高くなる理由については、次のように考えることができる。先ず、単位面積当たりの固形分量(g/m)が増えれば、下地調整材20の皮膜20Fの厚さが厚くなるが、そうすると、セメント系基材10のひび割れによって皮膜20Fに作用する引っ張り力を受ける皮膜20Fの断面積も大きくなり、その結果、皮膜20Fに作用する引っ張り応力が低下して皮膜20Fの破断限界応力に至り難くなるためと考えられる。
【0064】
ちなみに、上述の固形分量(g/m)は、最終的に下地調整材20の皮膜20Fとしてセメント系基材10上に残存させる量である。よって、例えば、塗装仕上げに係る塗料30の塗布前に、下地調整材20の皮膜20Fを表面研磨して薄くする場合には、その研磨量(g/m)分だけ上述の表2の固形分量(g/m)に上乗せした値が、塗布時点の下地調整材20が含有すべき固形分量(g/m)になる。
【0065】
また、上述では、表1と表2とを互いに別の表に分けていたが、場合によっては、表2を表1に組み込むことで、図2の表3のように一つにまとめても良い。
【0066】
<<<下地調整材塗布工程>>>
この工程では、上述の下地調整材固形分量決定工程で決定された固形分量(g/m)になるように下地調整材20をセメント系基材10の表面に塗布する。
【0067】
下地調整材20の塗布対象となるセメント系基材10の成形(セメント系基材成形工程に相当)は、例えば下地調整材20の塗布の直前になされる。詳しくは、先ず、型枠内に流動状態のセメント系基材10を打設する。そして、打設してから1〜2週間の養生期間の経過後に、ほぼ硬化したセメント系基材10から型枠を外す。この脱型直後のセメント系基材10の含水率は、通常14%以上であり、例えば15%である。なお、含水率とは、含水状態にあるセメント系基材10の全質量を100%としたときの水の占める質量の割合(質量%)をいう。
【0068】
また、この時点でのセメント系基材10の表面には不陸やピンホール等が存在し、当該表面の平滑性は低い。そのため、上記脱型後に、セメント系基材10の含水率が12%未満まで低下したら、セメント系基材10の表面に上述の下地調整材20を塗布する。この塗布は、ローラーやこて、スプレー等を用いてなされ、これにより、下地調整材20の厚さは、セメント系基材10の表面の略全域に亘ってほぼ均等化される。
【0069】
ところで、この下地調整材20をセメント系基材10に塗布する際には、下地調整材20は固形分以外に水分等の液状成分も含有した状態にあり、つまり、当該下地調整材20は、固形分と液状成分との両者を含んだ量で計量されて塗布される。従って、下地調整材20を塗布する際には、下地調整材固形分量決定工程で決定された固形分量(g/m)に基づいて、当該固形分量に対応する下地調整材20の塗布量(g/m)を求めなければならないが、この計算は下式2によってなされる。
下地調整材20の単位面積当たりの塗布量(g/m)=単位面積当たりの固形分量(g/m)/調整直後の下地調整材20の固形分率(%) … (2)
ここで、上式2中の分母の「調整直後の下地調整材20の固形分率」とは、調整直後の下地調整材20の液状成分及び固形分の合計質量に対する固形分の質量の割合(質量%)のことであり、本実施の形態では、例えば、既述の望ましい範囲たる60±5%のなかから62%が選択されてこの値に設定されている。ちなみに、本実施の形態の場合は、固形分は、有機ポリマーと、PVA等の分散剤と、アクリルエマルジョンの固形分と、タルク類と、石油樹脂とに由来する。
【0070】
そして、上式2の塗布量(g/m)で下地調整材20をセメント系基材10の表面に塗装すれば、下地調整材20の乾燥後には、皮膜20Fとして上述の固形分量(g/m)の固形分がセメント系基材10の表面に残留することになる。これにより、この後にセメント系基材10の表面が、乾燥収縮等によってひび割れを生じても、上述の下地調整材20の皮膜20Fにはひび割れが生じることは無く、結果、この後に塗装仕上げとして塗布形成される塗膜30Fのひび割れも有効に防止される。
【0071】
また、既述のように、本実施の形態の下地調整材20によれば、その塗布時に望ましいセメント系基材10の含水率は12%未満であり、これは、既存の下地調整材20’の場合の10%未満という条件よりも大きい。ここで、調合にもよるが、12%から10%未満に下がるまでには約1ヵ月から6ヵ月を要する。よって、本実施の形態の下地調整材20によれば、既存の下地調整材20’に対して、上述の約1ヶ月から6ヶ月という期間を省略可能となり、結果、大幅な工期短縮を図れる。
【0072】
そうしたら、下地調整材20の乾燥後、その皮膜20Fの表面に塗装仕上げとして塗料30を塗布する。この塗料30は、用途などに応じて適宜選択される。例えば、この塗料30の一例としては、有機溶剤が用いられておらず且つ水性の塗料、例えばフッ素樹脂系塗料が使用されるが、これ以外には、例えば、アクリル樹脂系塗料、アクリルウレタン樹脂塗料、アクリルシリコン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などが塗装可能で、さらにひび割れ防止のために厚膜可能なものを塗っても良い。なお、塗布の際には、上記塗料30は、ほぼ均一な厚さとなるように、はけ、ローラー、スプレーなどを用いて下地調整材20の表面に塗布される。
【0073】
ちなみに、場合によっては、この塗料30の塗布の前に、略乾燥状態の下地調整材20の表面に対して表面研磨を施して、表面を平滑にしても良い。この表面研磨は、例えば研磨紙を用いてなされる。なお、この表面研磨の際には、下地調整材20の粘度範囲を上述の範囲にしているので、研磨紙に絡みが発生せず、研磨作業をスムーズに行うことができる。
【0074】
<<<想定ひび割れ幅と下地調整材20の固形分量との関係について>>>
表2の元となる図3の想定ひび割れ幅(mm)と下地調整材20の固形分量(g/m)との関係のグラフは、予め引っ張り試験等で取得される旨を前述したが、以下、この試験内容について説明する。
【0075】
始めに試験方法について説明する。
先ず、『JIS−A−6021「建築用塗膜防水材」(2011)6.12 耐疲労性能試験』を参考にして試験体55を作成する。すなわち、図4に試験体55の側面図及び正面図を示すが、先ず、8mm厚のスレ−ト板50上に所定の塗布量で下地調整材20を塗布後、20℃60%の恒温恒湿槽内で1ヶ月以上養生して下地調整材20を皮膜化し、しかる後に、スレート板50の長手方向の中央に2mmの厚さを残しつつ深さ6mmの切り込みを入れ、更にこの切り込みを起点として亀裂を入れてスレート板50を二分断し、これを1水準の試験体55とする。なお、二分断時にはスレート板50のみを分断し、下地調整材20の皮膜20Fについては分断しない。そして、かかる試験体55を、下地調整材20の単位面積当たりの固形分量(g/m)をパラメータとして振って、複数水準用意する。
【0076】
なお、この試験に供した下地調整材20の組成は、次の通りである。有機ポリマーはポリエチレン樹脂(分子量約50000)であり、分散剤はPVA(ケン化度88%)であり、有機ポリマーと分散剤との混合比率(有機ポリマー:分散剤)は、質量比で1:0.2であり、分散液Aに係る有機ポリマーと水との混合比率は質量比で1:1.5であり、有機ポリマーと石油樹脂(軟化点100℃)との混合比率は質量比で1:0.2である。また、アクリルエマルジョンは、アクリル酸ブチルとスチレンとの共重合体の水性分散液であり、同エマルジョンに係るアクリル酸ブチル及びスチレンと水との混合比率は質量比で1:1であり、分散液Aとアクリルエマルジョンとの混合比率は質量比で1:0.5であり、分散液Aとシリカ(平均粒径8ミクロン)との混合比率は質量比で1:0.5である。
【0077】
次に、図4に示すように試験体55の長手方向の両端部を、引っ張り試験機((株)島津製作所 オ−トグラフ AG-E型 AG-500E)の各ヘッドにセットする。
【0078】
そして、ヘッドをストローク制御で制御して、試験体55に図5のようなパターンで変位を付与する。すなわち、先ず0.6mm/分の変位速度で0mmから0.1mmまで伸ばして0.1mmから0mmに戻す操作を1サイクルとして、これを500サイクル繰り返し(以下、これを疲労ステップと言う)、しかる後、5mm/分の変位速度(引っ張り速度)で、0mmから試験体55を引っ張っていき、皮膜20Fの破断時の伸び量(mm)を、固形分量(g/m)と対応付けて記録する(以下、これを破断ステップと言う)。そして、これら疲労ステップ及び破断ステップとからなる引っ張り試験を、全ての固形分量(g/m)の水準に対して行う。
【0079】
ちなみに、破断ステップの前に、0〜0.1mmの疲労ステップを行う理由は、実際の施工状況を模擬してのことである。すなわち、実際の施工では、セメント系基材10の乾燥収縮の前に、同セメント系基材10は周囲の気温変化等によって膨張収縮を繰り返しており、このときには、ひび割れが0mm〜0.1mmの範囲で開閉を繰り返していて、かかる負荷を下地調整材20の皮膜20Fは被っていると考えられるからである。
【0080】
図6のグラフに試験結果をプロットして示す。グラフの横軸及び縦軸には、それぞれ固形分量(g/m)及び皮膜20Fの破断時の伸び量(mm)を取っている。
図6を参照すると、固形分量が大きい程、伸び量は大きくなることがわかる。このことから、想定ひび割れ幅の大きさに応じて固形分量を増やせば、下地調整材20の皮膜20Fにひび割れが入り難くなることが実証された。
【0081】
また、このグラフのプロット点を最小二乗法で直線近似すると、下式3が得られる。
伸び量=0.0002×固形分量+0.1157 … (3)
また、そのばらつきを示す標準誤差Seは、0.069584であった。
よって、95%信頼区間を考慮して2Se分だけ安全サイドで考えると、伸び量と固形分量との関係は、下式4となる。
伸び量=0.0002×固形分量+0.1157−2Se
=0.0002×固形分量−0.023468 … (4)
ここで、上式4の伸び量を「想定ひび割れ幅」に置き換え、また、同式4を固形分量で整理すると、下式5に変形され、更にこれを整理すると、式6が得られる。そして、この式6は、前述の「下地調整材固形分量決定工程」の式1に相当する。
固形分量=(想定ひび割れ幅+0.023468)/0.0002 … (5)
固形分量=5000×想定ひび割れ幅+117 … (6)
ちなみに、上述では、95%信頼区間を考慮して安全代を2Seとしていたが、何等これに限るものではない。例えば、より安全サイドにすべく式4に係る「2Se」を「3Se」に置き換えて上式6を求めても良く、そうすれば、信頼区間は99%となる。
【0082】
また、場合によっては、全てのプロット点(7つのプロット点)に基づいて求めた式6に代えて、図7の試験結果の最下辺の三つのプロット点に基づいて、想定ひび割れ幅と固形分量との対応関係の式を求めても良い。なお、この場合には、当該式は下式7で表される。
固形分量=3333.3×想定ひび割れ幅+27.647 … (7)
かかる式7も、上述の式6の場合と同様に、数式の変形で求められる。すなわち、先ず、図7の試験結果の最下辺の三つのプロット点を最小二乗法で直線近似すると、下式8が得られる。
伸び量=0.0003×固形分量+0.0088 … (8)
また、三つのプロット点の標準誤差Seは、0.008547であった。
よって、95%信頼区間を考慮して2Se分だけ安全サイドで考えると、伸び量と固形分量との関係は、下式9となる。
伸び量=0.0003×固形分量+0.0088−2Se
=0.0003×固形分量−0.008294 … (9)
ここで、上式9の伸び量を「想定ひび割れ幅」に置き換え、また、同式9を固形分量で整理すると、下式10に変形され、更にこれを整理すると、上述の式7となる。
固形分量=(想定ひび割れ幅+0.008294)/0.0003 … (10)
固形分量=3333.3×想定ひび割れ幅+27.647 … (7)
なお、この式7をグラフ化すると、前述の図3に対応するグラフとして、図8のグラフが得られ、また、前述の図2の表2に対応する表として、図9の表4が得られる。よって、場合によっては、表4や図8から、想定ひび割れ幅(mm)に対応する固形分量(g/m)を取得しても良い。
【0083】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0084】
上記実施の形態では、下地調整材20の分散剤としてPVAを用いたが、PVAに代えて、数平均分子量が500以上3000以下の、カルボキシメチルスチロール、ポリアクリル酸、又はポリアクリル酸アミドなどを用いてもよい。また、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの場合にも、有機ポリマーと分散剤の混合比率(有機ポリマー:分散剤)は、1:0.1以上1:0.5以下である。
【0085】
上記実施の形態では、下地調整材20の耐水性を高める材料として、アクリルエマルジョンを用いたが、合成ゴムエマルジョンを用いてもよい。この場合にも、分散液Aと合成ゴムエマルジョンの混合比率(分散液A:合成ゴムエマルジョン)は、2:1以上5:1以下である。ここで、合成ゴムエマルジョンとは、合成ゴムを固形分とする水性のエマルジョンをいう。合成ゴムとしては、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR:styrene butadiene rubber),イソプレンゴム(IR:isoprene rubber),ブタジエンゴム(BR:butadiene rubber),クロロプレンゴム(CP:chloroprene rubber,例えば、商品名「ネオプレン(登録商標)」),エチレンとプロピレンの2成分系の共重合体(EPR:ethylene-propylene rubber),エチレンとプロピレンとジエンモノマーの3成分系の3次元共重合体(EPTゴム:ethylene-propylene-diene terpolymer rubber)などが用いられる。
【0086】
上記実施の形態では、下地調整材20の塗布の直前に、セメント系基材10を成形していた。つまり、セメント系基材成形工程を、下地調整材20の塗布の直前に行っていたが、かかるセメント系基材成形工程の実施タイミングは何等これに限るものではなく、塗布タイミングよりもはるか前の時点で、セメント系基材10の成形が完了していても良い。例えば、既設又は既製のセメント系基材10に対して、下地調整材20を塗布しても良く、その場合には、当該セメント系基材10の表面を洗浄後に、当該表面に下地調整材20を塗布するのが望ましい。
【0087】
上記実施の形態では、表面仕上げとして塗装仕上げを例示した関係上、「下地調整材塗布工程」では、セメント系基材10に塗布された下地調整材20の表面に更に塗料30を塗布していたが、何等これに限るものではなく、塗料30の塗布を省略しても良い。なお、その場合には、下地調整材20の皮膜20Fの表面が最終仕上げ面となる。
【符号の説明】
【0088】
10 セメント系基材、
20 下地調整材、20F 皮膜、
30 塗料、30F 塗膜、
50 スレート板、55 試験体、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形されたセメント系基材の表面を仕上げるべく該表面に下地調整材を塗布する方法であって、
(A)
(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、
(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
(A3)水と、
が混合された高分子エマルジョンと、
(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
(C)粒径5〜15μmのタルク、シリカ、炭酸カルシウム、硅砂のうちの少なくとも1種と、
を混合することにより、前記下地調整材を生成する下地調整材生成工程と、
前記セメント系基材の前記表面に生じるひび割れの幅を想定するひび割れ幅想定工程と、
想定された前記ひび割れの幅に基づいて、前記表面に残存させるべき前記下地調整材の単位面積当たりの固形分量を決定する固形分量決定工程と、
決定された前記固形分量になるように前記下地調整材を前記表面に塗布する下地調整材塗布工程と、を有することを特徴とする下地調整材の塗布方法。
【請求項2】
請求項1に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記固形分量決定工程では、前記ひび割れの幅と、前記単位面積当たりの固形分量との関係を予め規定してなるデータを参照して、前記想定されるひび割れの幅に対応する単位面積当たりの固形分量を取得し、
前記データには、前記ひび割れの幅が大きくなるに従って前記単位面積当たりの固形分量が大きくなるような関係が規定されていることを特徴とする下地調整材の塗布方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記想定されるひび割れの幅が0.1mm未満の場合に、前記単位面積当たりの固形分量を、617g/m以上の値に決定することを特徴とする下地調整材の塗布方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記想定されるひび割れの幅が0.2mm以下の場合に、前記単位面積当たりの固形分量を、1117g/m以上の値に決定することを特徴とする下地調整材の塗布方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記想定ひび割れ幅が0.3mm以下の場合に、前記単位面積当たりの固形分量を、1617g/m以上の値に決定することを特徴とする下地調整材の塗布方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の下地調整材の塗布方法であって、
前記下地調整材を前記セメント系基材の前記表面に塗布する際の、前記下地調整材の液状成分及び固形分の合計質量に対する前記固形分の質量の割合を、60±5%の範囲内にすることを特徴とする下地調整材の塗布方法。
【請求項7】
下地調整材が表面に塗布されたセメント系基材の製造方法であって、
(A)
(A1)平均分子量が3000以上100000以下の、ポリエチレン又はポリプロピレン又は酢酸ビニル重合体又はスチレン重合体又は塩化ビニル重合体又はブチラール樹脂又はエチレン酢酸ビニル重合体と、
(A2)平均分子量が500以上3000以下の分散剤と、
(A3)水と、
が混合された高分子エマルジョンと、
(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、
(C)粒径5〜15μmのタルク、シリカ、炭酸カルシウム、硅砂のうちの少なくとも1種と、
を混合することにより、前記下地調整材を生成する下地調整材生成工程と、
セメント系基材を成形するセメント系基材成形工程と、
前記セメント系基材の表面に生じるひび割れの幅を想定するひび割れ幅想定工程と、
想定された前記ひび割れの幅に基づいて、前記表面に残存させるべき前記下地調整材の単位面積当たりの固形分量を決定する固形分量決定工程と、
決定された前記固形分量になるように前記下地調整材を前記セメント系基材の前記表面に塗布する下地調整材塗布工程と、を有することを特徴とするセメント系基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−13867(P2013−13867A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149335(P2011−149335)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(391051614)成瀬化学株式会社 (11)
【出願人】(000116954)AGCコーテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】